(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/47 20060101AFI20241105BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20241105BHJP
G02B 26/12 20060101ALI20241105BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B41J2/47 101M
G03G21/00 510
G02B26/12
G02B26/10 F
(21)【出願番号】P 2021030077
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】田中 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】松下 直樹
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-224270(JP,A)
【文献】特開2005-012392(JP,A)
【文献】特開2001-083451(JP,A)
【文献】特開2001-268975(JP,A)
【文献】特開2014-002202(JP,A)
【文献】特開2005-059449(JP,A)
【文献】特開昭49-129813(JP,A)
【文献】特開2006-017917(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0046997(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/47
G03G 21/00
G02B 26/12
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光体と、
レーザビームを反射する回転鏡と、前記回転鏡を回転させるモータであって潤滑油が充填された軸受を有する前記モータと、を備え、レーザビームを偏向する偏向ユニット、を有し、前記感光体を画像情報に応じたレーザビームで走査する光学走査ユニットと、
を有し、記録材に画像を形成する画像形成装置において、
環境温度を検知する温度検知部と、
前記偏向ユニットの起動時間の閾値を記憶する起動時間記憶部と、
前記偏向ユニットが起動開始してから、定格回転数又は前記定格回転数に対して所定の割合に達するまでの起動時間を取得する起動時間取得部と、
前記偏向ユニット又は前記光学走査ユニットの寿命を検知する寿命検知部と、
を有し、
前記寿命検知部は、前記起動時間記憶部に記憶されている閾値と前記温度検知部が検知した環境温度を用いて起動時間閾値を取得し、前記起動時間取得部が取得した起動時間が、前記起動時間閾値より短い場合、前記偏向ユニット又は前記光学走査ユニットの寿命と交換の少なくとも一方を報知することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記温度検知部は前記偏向ユニットに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記起動時間閾値は、前記偏向ユニットが新品の場合の起動時間に対して10~20%短い時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
感光体と、
レーザビームを反射する回転鏡と、前記回転鏡を回転させるモータであって潤滑油が充填された軸受を有する前記モータと、を備え、レーザビームを偏向する偏向ユニット、を有し、前記感光体を画像情報に応じたレーザビームで走査する光学走査ユニットと、
を有し、記録材に画像を形成する画像形成装置において、
環境温度を検知する温度検知部と、
前記偏向ユニットに流れる電流の閾値を記憶する電流値記憶部と、
前記偏向ユニットに供給される電流値を取得する電流値取得部と、
前記偏向ユニット又は前記光学走査ユニットの寿命を検知する寿命検知部と、
を有し、
前記寿命検知部は、前記電流値記憶部に記憶されている閾値と前記温度検知部が検知した環境温度を用いて電流値閾値を取得し、前記電流値取得部が取得した電流値が、前記電流値閾値より低い場合、前記偏向ユニット又は前記光学走査ユニットの寿命と交換の少なくとも一方を報知することを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
前記温度検知部は前記偏向ユニットに設けられていることを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記電流値閾値は、前記偏向ユニットが新品の場合の電流値に対して10~20%低い値であることを特徴とする請求項4又は5に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームプリンタや複写機のような、画像情報に応じたレーザビームで感光体を走査し画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザプリンタ等の画像形成装置に搭載されている光学走査ユニットは、レーザビームを反射する回転鏡を有する偏向ユニットを搭載している。回転鏡を回転させるモータの軸受けとして、流体軸受方式がある。流体軸受方式のモータは、長期に亘る使用によるオイルの減少や、繰り返される起動停止による摩耗、等によって劣化し、最終的には回転しなくなる。特許文献1には、モータの異常や制御回路の異常等によるモータの異常を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータが正常に回転しなくなった場合、偏向ユニット或いは光学走査ユニットを交換する必要がある。
【0005】
しかしながら上記従来例は、回転鏡の回転数を電圧に変換し、その電圧値が所定の範囲内であるか否かをモニタして駆動基板の回転異常を検知するものである。このような検知方法の場合、電圧値(回転数)の範囲を駆動基板の設置環境、使用状況といった変動要因を考慮して大きく設定する必要があり、高精度な交換タイミングを報知しにくい。
【0006】
偏向ユニットの使用可能な期間をあらかじめ把握しておき、その期間に到達すると交換する手法も考えられる。
【0007】
しかしながら、偏向ユニットの寿命には個体差があり、また、プリンタの過去の使用状況によって交換に適したタイミングは異なる。そのため、あらかじめ決まった期間に達したタイミングで交換してしまうと使用可能な偏向ユニットまで交換してしまう可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、偏向ユニット又は光学走査ユニットの交換時期を適切に報知する画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するための本発明は、感光体と、レーザビームを反射する回転鏡と、前記回転鏡を回転させるモータであって潤滑油が充填された軸受を有する前記モータと、を備え、レーザビームを偏向する偏向ユニット、を有し、前記感光体を画像情報に応じたレーザビームで走査する光学走査ユニットと、を有し、記録材に画像を形成する画像形成装置において、環境温度を検知する温度検知部と、前記偏向ユニットの起動時間の閾値を記憶する起動時間記憶部と、前記偏向ユニットが起動開始してから、定格回転数又は前記定格回転数に対して所定の割合に達するまでの起動時間を取得する起動時間取得部と、前記偏向ユニット又は前記光学走査ユニットの寿命を検知する寿命検知部と、を有し、前記寿命検知部は、前記起動時間記憶部に記憶されている閾値と前記温度検知部が検知した環境温度を用いて起動時間閾値を取得し、前記起動時間取得部が取得した起動時間が、前記起動時間閾値より短い場合、前記偏向ユニット又は前記光学走査ユニットの寿命と交換の少なくとも一方を報知することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、感光体と、レーザビームを反射する回転鏡と、前記回転鏡を回転させるモータであって潤滑油が充填された軸受を有する前記モータと、を備え、レーザビームを偏向する偏向ユニット、を有し、前記感光体を画像情報に応じたレーザビームで走査する光学走査ユニットと、を有し、記録材に画像を形成する画像形成装置において、環境温度を検知する温度検知部と、前記偏向ユニットに流れる電流の閾値を記憶する電流値記憶部と、前記偏向ユニットに供給される電流値を取得する電流値取得部と、前記偏向ユニット又は前記光学走査ユニットの寿命を検知する寿命検知部と、を有し、前記寿命検知部は、前記電流値記憶部に記憶されている閾値と前記温度検知部が検知した環境温度を用いて電流値閾値を取得し、前記電流値取得部が取得した電流値が、前記電流値閾値より低い場合、前記偏向ユニット又は前記光学走査ユニットの寿命と交換の少なくとも一方を報知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、偏向ユニット又は光学走査ユニットの交換時期を適切に報知する画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】環境温度の変化に応じた起動時間の変化を示す図である。
【
図6】実施例1の寿命検知・報知システムのブロック図である。
【
図7】実施例1の寿命検知および報知方法を示すフロー図である。
【
図8】偏向ユニットに流れる電流値の変化を示す図である。
【
図10】環境温度の変化に応じた定常電流値の変化を示す図である。
【
図11】実施例2の寿命検知・報知システムのブロック図である。
【
図12】実施例2の寿命検知および報知方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施例1〕
(画像形成装置)
図13は画像形成装置1の断面図である。記録材Pに画像を形成する画像形成装置(電子写真プリンタ)1は、感光体161と、感光体161を画像情報に応じたレーザビームで走査する光学走査ユニット11を有する。レーザビームで走査された感光体161上には静電潜像が形成される。静電潜像は、プロセスカートリッジ16に設けられた現像器から供給されるトナーよって現像され、これにより感光体161上にトナー像が形成される。
【0014】
一方、記録材積載板12上に積載された記録材Pは、給送ローラ13によって1枚ずつ分離されながら給送され、次に中間ローラ18によって、さらに下流側に搬送される。搬送された記録材P上には、感光体161上に形成されたトナー像が転写ローラ14によって転写される。トナー像を記録材Pに転写した後に感光体161上に残ったトナーはクリーナ163によって回収される。未定着のトナー像が形成された記録材Pは、内部に熱源を有する定着器15により加熱され、これによりトナー像が記録材Pに定着される。その後、記録材Pは、排出ローラ17によって機外に排出される。
【0015】
(光学走査ユニット)
次に、
図1を用いて光学走査ユニット11について説明する。111はレーザビームLを出射する半導体レーザユニットである。112はコリメータレンズ及びシリンドリカルレンズを一体にしたアナモフィックコリメータレンズと、同期信号検知用レンズ(BDレンズ)と、を一体に成形した複合アナモフィックコリメータレンズである。114は開口絞り、1131は回転鏡(回転多面鏡)、1132は回転鏡を回転させるモータを搭載した駆動基板、116は同期信号検知センサ(BDセンサ)、115は走査レンズ、117は光学箱である。偏向ユニット113は、回転鏡1131と駆動基板1132を有している。
【0016】
半導体レーザユニット111から出射したレーザビームLは、複合アナモフィックコリメータレンズ112によって、主走査方向では略平行光または収束光とされ、副走査方向では収束光とされる。次にレーザビームLは、開口絞り114を通ってビーム幅が制限されて、回転鏡1131の反射面上において主走査方向に長く伸びる焦線状に結像する。そして、4つの反射面を持つ回転鏡1131を回転させることによってレーザビームLは偏向走査され、複合アナモフィックコリメータレンズ112のBDレンズに入射する。BDレンズを通過したレーザビームLは、同期信号検知センサ116に入射する。このとき、同期信号検知センサ116で同期信号(BD信号)を検知し、このタイミングを主走査方向の書き出し位置の同期検知タイミングとする。
【0017】
次にレーザビームLは、走査レンズ115に入射する。走査レンズ115は、レーザビームを感光体161上にスポットを形成するように集光させ、かつスポットの走査速度が等速に保たれるように設計されている。このような走査レンズ115の特性を得るために、走査レンズ115は非球面レンズで形成されている。走査レンズ115を通過したレーザビームLは、光学箱117の出射口から出射し、感光体161上に結像走査される。回転鏡1131の回転によってレーザビームLを偏向走査し、感光体161上でレーザビームLによる主走査(主走査方向Mへの走査)が行われる。また、感光体161がその円筒の軸線まわりに回転駆動することによって副走査(副走査方向Vへの走査)が行われる。このようにして感光体161の表面には静電潜像が形成される。
【0018】
(偏向ユニット)
次に、
図1及び
図2を用い偏向ユニット113について説明する。偏向ユニット113の駆動基板1132には、ロータ301およびステータ302により構成されるモータ300が搭載されている。ステータ302は光学箱117に固定されており、ロータ302は電磁力によりステータ302に対して回転する。
【0019】
図2は偏向ユニット113の部分断面図である。ロータ301は、回転軸30、ロータボス31、ロータフレーム32、ロータマグネット33、を有し、このロータ301に固定具34によって回転鏡1131が取り付けられている。ステータ302は、駆動基板1132に設けられた回路基板38、回路基板38上に半田付けされたホール素子(磁気センサ)39、軸受35、ステータコア36、ステータコイル37を有する。回路基板38上には、回路に電流が流れすぎて損傷するのを防ぐための素子138も設置されている。回転鏡1131の材質はアルミニウム等の金属もしくはプラスチックである。
【0020】
上述の構成において、ステータコイル37に電流が供給されるとロータマグネット33との間で電磁力が発生し、軸受35に軸支されている回転軸30と共にロータ301が回転する。ホール素子39はステータコイル37に電流を流すタイミング(整流タイミング)を決めるための磁気センサであり、ロータマグネット33の下に配置されている。ホール素子39は、ロータマグネット33の磁極(N、S)を検知している。回転軸30と軸受35の間には、潤滑油が充填されている。潤滑油は偏向ユニット113が稼働するにつれ、蒸発もしくはオイルミストとして飛散してしまい、減少する。
【0021】
(偏向ユニット寿命検知システム)
偏向ユニット113の起動時間値変化を用いた偏向ユニット寿命検知システムについて説明する。
図3は偏向ユニット113が起動した際の偏向ユニット113の回転数変化を示す図である。本検知システムで使用する起動時間とは、偏向ユニット113が起動開始してから、定格回転数又は定格回転数に対して所定の割合に達するまでの時間である。所定の割合は例えば98%から100%程度である。偏向ユニット113は起動時間経過後、加減速制御により定格回転数に収束する。偏向ユニット113は、定格回転数付近まで起動すると定格回転数に収束するまでに加減速を繰り返す。
【0022】
図4は偏向ユニット113が起動/停止を繰り返したサイクル回数と起動時間値の変化をグラフ化した図である。ここで、起動時間変化率は、偏向ユニット113が新品の状態の時の起動時間と、所定のサイクル数の起動/停止を繰り返した後の起動時間と、の割合である。起動/停止を繰り返すと、
図2に示した軸受35のオイルの減少により、軸受抵抗が小さくなり、起動時間が短くなる。この起動時間の変化が所定の閾値を超えたら偏向ユニット113を交換するタイミングである。
図4からわかるように、偏向ユニット113のサンプル毎に起動時間変化率は異なる。サンプル1は、サイクル数が増加すると起動時間変化率が閾値よりも小さくなり交換時期に達している。これに対し、サンプル2と3の起動時間変化率は、サンプル1の起動時間変化率が閾値より小さくなるタイミングでも依然として閾値の範囲内であり、交換時期に達していない。このようなケースでは、サンプル1のみ交換すればよく、サンプル2と3の偏向ユニット113は引き続き使用することができる。なお、本実施例では偏向ユニット113を交換対象としているが、偏向ユニット113を搭載している光学走査ユニット11を交換してもよい。
【0023】
図5は画像形成装置1が設置された環境の温度(環境温度)と偏向ユニット113の起動時間との関係を示す図である。軸受35と軸30の間に充填されている潤滑油は、温度により粘度が変化するので、軸の回転抵抗も変化し起動時間も変化する。温度が高いほど、潤滑油の粘度は低下して回転抵抗が小さくなり起動時間は短くなる。従って、正確に交換時期を検知するためには、偏向ユニット113が設置されている空間の環境温度を検知し、起動時間の閾値を温度毎に設定することが好ましい。なお、環境温度として採用する温度は、画像形成装置1の内部の温度でもよいし、画像形成装置1の外部の温度でもよい。
【0024】
次に、温度毎の起動時間閾値の取得方法について説明する。画像形成装置1を製造する段階で、複数の偏向ユニット113において、環境温度の変化に対する起動時間の変化を実測し、環境温度と起動時間の関係の近似式を求める。そして、その近似式から閾値曲線を取得する。例えば2次の多項式で近似した場合、
T=a t2+bt+c (式1)
Tc=(1±α)T (式2)
T: 起動時間
Tc: 起動時間閾値
t: 環境温度
a,b,c: 係数
α: 閾値係数
となる。
【0025】
偏向ユニット113の起動時間の個体差が大きい場合、光学走査ユニット11を製造する工程で、各偏向ユニット113の起動時間を測定し、閾値曲線に補正値を加えてもよい。
【0026】
T’=T+c’ (式3)
c’: 補正値
上記のようにして求められた近似式から、各環境温度における起動時間閾値を求めることができる。
【0027】
本実施例の偏向ユニット113では、潤滑油が減少することによって起動時間が偏向ユニット113の新品時よりも15%以上短くなると、回転軸30と軸受35の摩擦により、軸受35が摩耗して摩耗粉が軸受35内に蓄積する。そして軸損失が増大し最終的には回転軸30が回転しなくなってしまうリスクが大きくなる。従って、起動時間が偏向ユニット113の新品時よりも15%以上短くなったタイミングで、偏向ユニット113の交換を確実に報知するように閾値を設定するのが好ましい。なお、起動時間閾値は、偏向ユニット113が新品の場合の起動時間に対して10~20%短い時間に設定するのが好ましい。
【0028】
図6は本実施例における寿命検知システムのブロック図である。エンジンコントローラ200は画像形成装置1の動作を制御する。このエンジンコントローラ200に含まれる加減速制御部201は、偏向ユニット113の駆動を制御する。具体的には
図1における同期信号検知センサ116の信号を用いて、回転鏡1131が定格回転数で高精度に回転するように、偏向ユニット駆動信号を偏向ユニット113に送る。更にエンジンコントローラ200は、起動時間取得部202を有している。起動時間取得部202は、偏向ユニット駆動信号およびBD信号を用いて起動時間を取得する。
【0029】
光学走査ユニット11は、起動時間記憶部119を有している。光学走査ユニット11の製造工程において、起動時間閾値を起動時間記憶部119に記憶する。
【0030】
光学走査ユニット11は、温度検知部118を有している。温度検知部118は環境温度を測定する。温度検知部118は、偏向ユニット113の近くに設置するのが好ましく、例えば、駆動基板1132に設けてもよい。
【0031】
寿命検知部203には、起動時間閾値と環境温度との関係式がプログラムされており、各環境温度における閾値を取得する。寿命検知部203は、起動時間取得部202で取得した起動時間、光学走査ユニット製造工程において起動時間記憶部119に記憶させた起動時間閾値、温度検知部118で検知した環境温度、を用いて偏向ユニット113が寿命に達しているか否かを検知する。具体的には、寿命検知手部203は、起動時間記憶部119に記憶されている閾値と温度検知部118が検知した環境温度を用いて起動時間閾値を取得する。そして、起動時間取得部202が取得した起動時間が、起動時間閾値より短い場合、偏向ユニット113又は光学走査ユニット11の寿命と、交換と、の少なくとも一方を報知する。偏向ユニット113のモータ300に流れる電流が正常は範囲内であるにも拘わらず、起動時間が起動時間閾値より短い場合、潤滑油が少なくなったことが要因の起動時間短縮であり、交換が必要なタイミングであると判断している。
【0032】
図7を用いて、本実施例の寿命検知方法を説明する。画像形成装置1の画像形成が開始されると、エンジンコントローラ200は寿命検知を実行可能かどうか判断する。画像形成装置1でプリントを行うと、偏向ユニット113の稼働に伴い軸受35の温度が上昇して軸支持部に充填された潤滑油の粘性が変化する。潤滑油の粘性が変化すると、偏向ユニット113の起動時間も変化する。例えば、前回のプリントが終了してからの経過時間が短く、軸受35の潤滑油の粘度が低い状態で本検知を開始すると、潤滑油の温度と環境温度の乖離が大きく、寿命検知を正確に判断できない可能性がある。そこで、偏向ユニット113の状況を確認し、寿命検知実行の可否を判断している。寿命検知は、偏向ユニット113が1時間から数時間稼働していない状況で行うことが好ましい。
【0033】
寿命検知が実行可能である判断した場合、温度検知部118は環境温度を測定する。そして、寿命検知部203は、検知した環境温度に対応する起動時間閾値を取得し、起動時間取得部202で取得した起動時間が閾値内であるかどうかを確認する。そして偏向ユニット113の交換要否を判定する。交換が必要な場合、寿命報知部204は、偏向ユニット113の交換時期であることをユーザーに報知して偏向ユニット113の交換を促す。
【0034】
寿命検知部203は、偏向ユニット113が寿命を迎えたことを検知すると、寿命報知部204に寿命検知信号を送る。寿命報知部204による報知の手段は、画像形成装置1に設けられた画面への表示、報知ランプの点灯、ユーザーが所有するデバイスへの電子メール送信、メッセージの送信等、のいずれでも構わない。
【0035】
上述した本実施例によれば、偏向ユニット113又は光学走査ユニット11の交換時期を適切に報知する画像形成装置1を提供できる。
【0036】
〔実施例2〕
(定常電流値による偏向ユニット寿命検知システム)
本実施例の寿命検知システムについて説明する。本実施例は、実施例1で説明した起動時間を用いる手法ではなく、定常電流値を用いて偏向ユニット113の寿命を検知するものである。
図8は偏向ユニット113が起動する際に供給される電流値の変化を示す図である。定常電流値とは、偏向ユニット113が定格回転数に収束した際に偏向ユニット113に供給される電流値であり、定常電流値測定時間における電流値の平均値を定常電流値とする。
【0037】
図9は偏向ユニット113が起動/停止を繰り返したサイクル回数と定常電流値の変化をグラフ化した図である。起動/停止を繰り返すと、
図2に示した軸受35の摩耗、軸受オイルの減少により電流値が小さくなる。この電流値の変化が所定の閾値を超えたら偏向ユニット113を交換するタイミングである。
【0038】
図10は偏向ユニット113の設置環境の温度と定常電流値との関係を示す図である。偏向ユニット113は、
図2に示した軸受35と軸30の軸支持部に潤滑油を充填している。この潤滑油は温度により粘度が変化して、軸の回転抵抗が変化するため、定常電流値も変化する。温度が高いほど、潤滑油の粘度は低下して回転抵抗が小さくなり定常電流値は低くなる。従って、偏向ユニット113が設置されている空間の環境温度を検知し、定常電流値の閾値を環境温度毎に設定することが好ましい。
【0039】
環境温度毎の定常電流閾値の取得方法について説明する。画像形成装置1を製造する段階で、複数の偏向ユニット113において、環境温度の変化に対する定常電流値の変化を実測し、環境温度と定常電流値の関係の近似式を求める。そして、その近似式から閾値(±3~15%)の閾値曲線を取得する。例えば2次の多項式で近似した場合、
I=a t2+bt+c (式1)
Ic=(1±α)I (式2)
I: 定常電流値
Ic: 定常電流閾値
t: 環境温度
a,b,c: 係数
α: 閾値係数
となる。
【0040】
偏向ユニット113の定常電流値の個体差が大きい場合、光学走査ユニット11を製造する工程で各偏向ユニット113の定常電流値を測定し、閾値曲線に補正値を加えてもよい。
【0041】
I’=I+c’ (式3)
c’: 補正値
上記のようにして求められた近似式から、各環境温度における定常電流閾値を求めることができる。
【0042】
本実施例の偏向ユニット113では、潤滑油が減少することによって定常電流値が偏向ユニット113の新品時よりも15%以上小さくなると、回転軸30と軸受35の摩擦により軸受35が摩耗して摩耗粉が軸受35内に蓄積する。そして軸損失が増大し、最終的には回転軸30が回転しなくなってしまうリスクが大きくなる。従って、定常電流閾値は、偏向ユニット113が新品の場合の定常電流値に対して10~20%低い値に設定するのが好ましい。
【0043】
図11は本実施例における寿命検知システムのブロック図である。本実施形態のエンジンコントローラ200は、定常電流値取得部(電流値取得部)205を有している。定常電流値取得部205は、偏向ユニット113の駆動に伴うモータ供給電流検知部120が検知する電流値を用いて定常電流値(電流値)を取得する。
【0044】
光学走査ユニット11は、定常電流値記憶部121を有している。定常電流値記憶部121は、光学走査ユニット11の製造工程において、定常電流値閾値(電流値閾値)を記憶する。
【0045】
光学走査ユニット11は、温度検知部118を有している。温度検知部118は設置されている環境温度を測定する。温度検知部118は、偏向ユニット113の近くに設定されていることが好ましく、例えば、駆動基板1132に設けてもよい。
【0046】
寿命検知部203には、定常電流値閾値と環境温度との関係式がプログラムされており、各環境温度における閾値を取得する。寿命検知部203は、定常電流値取得部205で取得した定常電流値、光学走査ユニット製造工程において定常電流値記憶部121に記憶させた定常電流値閾値、温度検知部118で検知した環境温度、を用いて偏向ユニット113が寿命に達しているか否かを検知する。具体的には、寿命検知部203は、電流値記憶部121に記憶されている閾値と温度検知部118が検知した環境温度を用いて電流値閾値を取得する。そして、電流値取得部205が取得した電流値が、電流値閾値より低い場合、偏向ユニット113又は光学走査ユニット11の寿命と交換の少なくとも一方を報知する。
【0047】
図12を用いて、本実施例の寿命検知方法を説明する。まず、実施例1と同様の理由で、寿命検知を実行可能かどうか判断する。寿命検知実行可能と判断した場合、温度検知部118は環境温度を測定する。そして、寿命検知部203は、環境温度に対応する定常電流閾値を取得し、定常電流値取得部205で取得した定常電流値が閾値内であるかどうかを確認して偏向ユニットの交換要否を判定する。交換が必要な場合、寿命報知部204は、偏向ユニット113の交換時期であることをユーザーに報知して偏向ユニットの交換を促す。
【0048】
本実施例によっても偏向ユニット113又は光学走査ユニット11の交換時期を適切に報知する画像形成装置1を提供できる。
【符号の説明】
【0049】
11 光学走査ユニット
113 偏向ユニット
30 回転軸
35 軸受
118 温度検知部
119 起動時間記憶部
121 定常電流値記憶部
202 起動時間取得部
203 寿命検知部
204 寿命報知部