(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20241105BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20241105BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/54
G03F7/20 503
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2021054851
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】中川 真徳
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-257824(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0090084(US,A1)
【文献】特開2011-187746(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031863(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/021235(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上の多層反射膜と、該多層反射膜上の保護膜と、該保護膜上の吸収体膜とを備える反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜は、バッファ層と、バッファ層の上に設けられた吸収層とを有し、
前記基板の中心から前記保護膜の外周端までの距離をLcap、前記基板の中心から前記バッファ層の外周端までの距離をLbufとしたとき、Lcap≦Lbufであり、
前記基板の側面から前記基板の中心に向かって0.5mm以内の範囲において、前記保護膜及び前記バッファ層の合計膜厚が4.5nm以上である箇所が少なくとも1つ存在することを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記バッファ層は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及びイットリウム(Y)から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記基板の中心における前記保護膜及び前記バッファ層の合計膜厚が4.5nm以上35nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記基板の中心から前記吸収層の外周端までの距離をLabsとした場合、Lcap≦Labsであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記保護膜は、ルテニウム(Ru)を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記吸収体膜の上にレジスト膜を備え、前記基板の中心から前記レジスト膜の外周端までの距離をLresとした場合、Lres<Lcap≦Lbufであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の反射型マスクブランクにおける前記吸収層がパターニングされた吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項8】
前記吸収体膜における前記吸収層に基準マークが形成されていることを特徴とする請求項7に記載の反射型マスク。
【請求項9】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の反射型マスクブランクの前記吸収層をパターニングして吸収体パターンを形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項10】
EUV光を発する露光光源を有する露光装置に、請求項7又は8に記載の反射型マスクをセットし、被転写基板上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における超LSIデバイスの高密度化、高精度化の更なる要求に伴い、極紫外(Extreme Ultra Violet、以下、EUVと称す)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。EUV光とは軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。
【0003】
反射型マスクは、基板の上に形成された露光光を反射するための多層反射膜と、多層反射膜の上に形成され、露光光を吸収するためのパターン状の吸収体膜である吸収体パターンとを有する。半導体基板上にパターン転写を行うための露光機に搭載された反射型マスクに入射した光は、吸収体パターンのある部分では吸収され、吸収体パターンのない部分では多層反射膜により反射される。多層反射膜により反射された光像が、反射光学系を通してシリコンウエハ等の半導体基板上に転写される。
【0004】
多層反射膜としては、一般的に、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層膜が用いられる。例えば、波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜としては、Mo膜とSi膜を交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。
【0005】
特許文献1には、基板上に、EUV光を反射する多層反射膜、該多層反射膜を保護するための保護膜、EUV光を吸収する吸収体膜、およびレジスト膜が順に形成された反射型マスクブランクであって、前記基板の中心から前記多層反射膜の外周端までの距離をL(ML)、前記基板の中心から前記保護膜の外周端までの距離をL(Cap)、前記基板の中心から前記吸収体膜の外周端までの距離をL(Abs)、前記基板の中心から前記レジスト膜の外周端までの距離をL(Res)としたとき、L(Abs)>L(Res)>L(Cap)≧L(ML)であって、且つ、前記レジスト膜の外周端は前記基板の外周端よりも内側に存在することを特徴とする反射型マスクブランクが記載されている。
【0006】
特許文献2には、基板と、該基板上に順次形成された露光光を反射する多層反射膜と露光光を吸収する吸収膜を備え、前記多層反射膜は屈折率が異なる重元素材料膜と軽元素材料膜とを交互に積層してなる露光用反射型マスクブランクであって、前記多層反射膜の中の少なくとも重元素材料膜の周縁端部を保護する保護層を有することを特徴とする露光用反射型マスクブランクが記載されている。また、特許文献2には、多層反射膜の成膜領域より大となる成膜領域に吸収膜を成膜することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/021235号
【文献】特開2003-257824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
反射型マスクブランクは、一般に、基板の一方の主表面に露光光(EUV光)を反射する多層反射膜が形成され、この多層反射膜上に露光光(EUV光)を吸収する吸収体膜が形成された構造を有する。反射型マスクブランクを用いて反射型マスクを製造する場合、まず反射型マスクブランクの表面に電子線描画用のレジスト膜を形成する。次に、このレジスト膜に対し所望のパターンを電子線で描画し、パターンの現像を行ってレジストパターンを形成する。次いで、このレジストパターンをマスクとして、吸収体膜をドライエッチングして吸収体パターン(転写パターン)を形成する。これにより、多層反射膜上に吸収体パターンが形成された反射型マスクを製造することができる。
【0009】
図14は、従来の反射型マスクブランク200の外周端部の拡大断面図である。
図14に示すように、反射型マスクブランク200は、基板210と、基板210の上に形成された多層反射膜212と、多層反射膜212の上に形成された保護膜214と、保護膜214の上に形成された吸収体膜216と、吸収体膜216の上に形成されたエッチングマスク膜218と、エッチングマスク膜218の上に形成されたレジスト膜220とを有する。保護膜214は、反射型マスクの製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から多層反射膜212を保護する機能を有する。エッチングマスク膜218は、吸収体膜216をドライエッチングして吸収体パターン(転写パターン)を形成するための膜である。レジスト膜220は、エッチングマスク膜218にパターンを形成するための膜である。なお、エッチングマスク膜218を設けない場合には、レジスト膜220にレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、吸収体膜216をドライエッチングして吸収体パターン(転写パターン)を形成する。
【0010】
レジスト膜220は反射型マスクブランク200の全面に形成されるが、基板210の周縁部においてレジスト膜220が剥離して発塵することを抑制するため、通常、マスクパターンが形成されない基板周縁部のレジスト膜220を除去すること(エッジリンス)が行われる。このエッジリンスは、例えば、基板210の周縁部に沿って、1~1.5mm程度の幅のレジスト膜220をレジスト剥離液によって除去することで行われる。
図14に示すように、エッジリンスによってレジスト膜220が除去された領域Rでは、レジスト膜220の下にあるエッチングマスク膜218が露出している。
【0011】
露光光としてEUV光を使用する反射型マスクにおいては、多層反射膜上に存在する欠陥の位置を正確に管理することが重要である。なぜなら、多層反射膜上に存在する欠陥は、修正がほとんど不可能である上に、転写パターン上で重大な位相欠陥となり得るためである。このため、反射型マスクブランク200において、多層反射膜212上の欠陥の位置を管理するための基準となるマークが形成されることがある。この基準マークは、フィデュシャルマークと呼ばれることもある。
【0012】
図15は、基準マークFMが形成された反射型マスクブランク200の外周端部の拡大断面図である。
図15に示すように、基準マークFMは、吸収体膜216にパターンが形成される領域PAよりも外側の領域に形成される。基準マークFMを形成する際には、まず、レジスト膜220に電子線描画によって基準マークFMを形成する為のレジストパターン220aを形成し、このレジストパターン220aをマスクとして、エッチングマスク膜218及び吸収体膜216をドライエッチングによってエッチングすることで基準マークFMを形成する。
【0013】
前述したように、エッジリンスによってレジスト膜220が除去された領域Rでは、レジスト膜220の下にあるエッチングマスク膜218が露出している。このため、基準マークFMを形成する際のドライエッチングによって、レジスト膜220が除去された領域Rにあるエッチングマスク膜218及び吸収体膜216が除去されるため、吸収体膜216の下にある保護膜214が露出する。このとき、露出した保護膜214がエッチングによってダメージを受けることによって、
図16に示すように、孤島状の保護膜214aが形成されることがある。この孤島状の保護膜214aは、周囲から切り離された部分であり、基板210の中心側の保護膜214bとはつながっていない部分である。
【0014】
孤島状の保護膜214aが形成された場合、吸収体膜216にパターンを形成するための電子線描画の際に、この孤島状の保護膜214aが帯電する。孤島状の保護膜214aが帯電した場合、孤島状の保護膜214aには電荷を逃がすための手段(例えば導通ピン)が設けられていないため、孤島状の保護膜214aから電荷が一気に放出されることで静電破壊が生じることがある。静電破壊によって反射型マスクブランク200がダメージを受けた場合、その反射型マスクブランク200は製品として使いものにならなくなるため、問題となっていた。
【0015】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、基板周縁部に静電破壊が生じることを防止することのできる反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0017】
(構成1)基板と、該基板上の多層反射膜と、該多層反射膜上の保護膜と、該保護膜上の吸収体膜とを備える反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜は、バッファ層と、バッファ層の上に設けられた吸収層とを有し、
前記基板の中心から前記保護膜の外周端までの距離をLcap、前記基板の中心から前記バッファ層の外周端までの距離をLbufとしたとき、Lcap≦Lbufであり、
前記基板の側面から前記基板の中心に向かって0.5mm以内の範囲において、前記保護膜及び前記バッファ層の合計膜厚が4.5nm以上である箇所が少なくとも1つ存在することを特徴とする反射型マスクブランク。
【0018】
(構成2)前記バッファ層は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及びイットリウム(Y)から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする構成1に記載の反射型マスクブランク。
【0019】
(構成3) 前記基板の中心における前記保護膜及び前記バッファ層の合計膜厚が4.5nm以上35nm以下であることを特徴とする構成1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【0020】
(構成4)前記基板の中心から前記吸収層の外周端までの距離をLabsとした場合、Lcap≦Labsであることを特徴とする構成1乃至3の何れかに記載の反射型マスクブランク。
【0021】
(構成5)前記保護膜は、ルテニウム(Ru)を含むことを特徴とする構成1乃至4の何れかに記載の反射型マスクブランク。
【0022】
(構成6)前記吸収体膜の上にレジスト膜を備え、前記基板の中心から前記レジスト膜の外周端までの距離をLresとした場合、Lres<Lcap≦Lbufであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【0023】
(構成7)
構成1乃至6の何れかに記載の反射型マスクブランクにおける前記吸収層がパターニングされた吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【0024】
(構成8)前記吸収体膜における前記吸収層に基準マークが形成されていることを特徴とする構成7に記載の反射型マスク。
【0025】
(構成9)構成1乃至6の何れかに記載の反射型マスクブランクの前記吸収層をパターニングして吸収体パターンを形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【0026】
(構成10)
EUV光を発する露光光源を有する露光装置に、構成7又は8に記載の反射型マスクをセットし、被転写基板上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、基板周縁部に静電破壊が生じることを防止することのできる反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態の反射型マスクブランクの一例を示す断面模式図であり、基板の外周端部を拡大した図である。
【
図2】本実施形態の反射型マスクブランクの別の例を示す断面模式図であり、基板の外周端部を拡大した図である。
【
図3】基準マークが形成された反射型マスクブランクの外周端部の拡大断面図である。
【
図4】保護膜、バッファ層、吸収層、エッチングマスク膜、及びレジスト膜の大小関係を説明するための模式図である。
【
図5】保護膜、バッファ層、吸収層、エッチングマスク膜、及びレジスト膜の大小関係を説明するための模式図である。
【
図6】保護膜、バッファ層、吸収層、エッチングマスク膜、及びレジスト膜の大小関係を説明するための模式図である。
【
図7】保護膜、バッファ層、吸収層、エッチングマスク膜、及びレジスト膜の大小関係を説明するための模式図である。
【
図8】保護膜、バッファ層、吸収層、エッチングマスク膜、及びレジスト膜の大小関係を説明するための模式図である。
【
図9】保護膜、バッファ層、吸収層、エッチングマスク膜、及びレジスト膜の大小関係を説明するための模式図である。
【
図10】保護膜、バッファ層、吸収層、エッチングマスク膜、及びレジスト膜の大小関係を説明するための模式図である。
【
図11】保護膜、バッファ層、吸収層、エッチングマスク膜、及びレジスト膜の大小関係を説明するための模式図である。
【
図12】反射型マスクの製造方法の一例を示す模式図である。
【
図13】EUV露光装置の概略構成を示す図である。
【
図14】従来の反射型マスクブランクの外周端部の拡大断面図である。
【
図15】基準マークFMが形成された、従来の反射型マスクブランクの外周端部の拡大断面図である。
【
図16】孤島状の保護膜が形成された、従来の反射型マスクブランクの外周端部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体的に説明するための形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0030】
図1は、本実施形態の反射型マスクブランク100の一例を示す断面模式図であり、基板10の外周端部を拡大した図である。
図1に示す反射型マスクブランク100は、基板10と、基板10の上に形成された多層反射膜12と、多層反射膜12の上に形成された保護膜14と、保護膜14の上に形成された吸収体膜16とを有する。吸収体膜16は2層構造となっており、保護膜14に接するように形成されたバッファ層18と、バッファ層18の上に形成された吸収層20とを含む。基板10の裏面(多層反射膜12が形成された側と反対側の面)には、静電チャック用の裏面導電膜22が形成されてもよい。
【0031】
なお、本明細書において、基板や膜の「上に」とは、その基板や膜の上面に接触する場合だけでなく、その基板や膜の上面に接触しない場合も含む。すなわち、基板や膜の「上に」とは、その基板や膜の上方に新たな膜が形成される場合や、その基板や膜との間に他の膜が介在している場合等を含む。また、「上に」とは、必ずしも鉛直方向における上側を意味するものではない。「上に」とは、基板や膜などの相対的な位置関係を示しているに過ぎない。
【0032】
<基板>
基板10は、EUV光による露光時の熱による転写パターンの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0033】
基板10の転写パターン(後述の吸収体パターン)が形成される側の主表面は、平坦度を高めるために加工されることが好ましい。基板10の主表面の平坦度を高めることによって、パターンの位置精度や転写精度を高めることができる。例えば、EUV露光の場合、基板10の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の主表面(裏面)は、露光装置に静電チャックによって固定される面であって、その142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、本明細書において平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値で、基板表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0034】
EUV露光の場合、基板10の転写パターンが形成される側の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.1nm以下であることが好ましい。なお表面粗さは、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0035】
基板10は、その上に形成される膜(多層反射膜12など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0036】
<多層反射膜>
多層反射膜12は、屈折率の異なる元素を主成分とする複数の層が周期的に積層された構成を有している。一般的に、多層反射膜12は、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40~60周期程度積層された多層膜からなる。
多層反射膜12を形成するために、基板10側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に複数周期積層してもよい。この場合、1つの(高屈折率層/低屈折率層)の積層構造が、1周期となる。
【0037】
なお、多層反射膜12の最上層、すなわち多層反射膜12の基板10と反対側の表面層は、高屈折率層であることが好ましい。基板10側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。しかし、低屈折率層が多層反射膜12の表面である場合、低屈折率層が容易に酸化されることで多層反射膜の表面の反射率が減少してしまうので、その低屈折率層の上に高屈折率層を形成することが好ましい。一方、基板10側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。その場合は、最上層の高屈折率層が、多層反射膜12の表面となる。
【0038】
多層反射膜12に含まれる高屈折率層は、Siを含む材料からなる層である。高屈折率層は、Si単体を含んでもよく、Si化合物を含んでもよい。Si化合物は、Siと、B、C、N、O及びHからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含んでもよい。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れた多層反射膜が得られる。
【0039】
多層反射膜12に含まれる低屈折率層は、遷移金属を含む材料からなる層である。低屈折率層に含まれる遷移金属は、Mo、Ru、Rh、及びPtからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属であることが好ましい。低屈折率層は、Moを含む材料からなる層であることがより好ましい。
【0040】
例えば、波長13~14nmのEUV光のための多層反射膜12としては、好ましくは、Mo膜とSi膜を交互に40~60周期程度積層したMo/Si多層膜を用いることができる。
【0041】
このような多層反射膜12の単独での反射率は、例えば65%以上である。多層反射膜12の反射率の上限は、例えば73%である。なお、多層反射膜12に含まれる層の厚み及び周期は、ブラッグの法則を満たすように選択することができる。
【0042】
多層反射膜12は、公知の方法によって形成できる。多層反射膜12は、例えば、イオンビームスパッタ法により形成できる。
【0043】
例えば、多層反射膜12がMo/Si多層膜である場合、イオンビームスパッタ法により、Moターゲットを用いて、厚さ3nm程度のMo膜を基板10の上に形成する。次に、Siターゲットを用いて、厚さ4nm程度のSi膜を形成する。このような操作を繰り返すことによって、Mo/Si膜が40~60周期積層した多層反射膜12を形成することができる。このとき、多層反射膜12の基板10と反対側の表面層は、Siを含む層(Si膜)である。1周期のMo/Si膜の厚みは、7nmとなる。
【0044】
<保護膜>
本実施形態の反射型マスクブランク100は、多層反射膜12の上に形成された保護膜14を有する。保護膜14は、後述する反射型マスク110の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から多層反射膜12を保護する機能を有する。また、保護膜14は、電子線(EB)を用いた転写パターンの黒欠陥修正の際に、多層反射膜12を保護する機能も有している。多層反射膜12の上に保護膜14を形成することによって、反射型マスク110を製造する際の多層反射膜12の表面へのダメージを抑制することができる。その結果、多層反射膜12のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0045】
保護膜14は、公知の方法を用いて成膜することが可能である。保護膜14の成膜方法として、例えば、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、反応性スパッタリング法、気相成長法(CVD)、及び真空蒸着法が挙げられる。保護膜14は、多層反射膜12の成膜後に、イオンビームスパッタリング法によって連続的に成膜してもよい。
【0046】
保護膜14は、バッファ層18とエッチング選択性が異なる材料によって形成することができる。保護膜14の材料としては、例えば、Ru、Ru-(Nb,Rh, Zr,Y,B,Ti,La,Mo),Si-(Ru,Rh,Cr,B),Si,Zr,Nb,La,B等の材料を使用することができる。これらのうち、ルテニウム(Ru)を含む材料を適用すると、多層反射膜12の反射率特性がより良好となる。具体的には、Ru、Ru-(Nb,Rh, Zr,Y,B,Ti,La,Mo)であることが好ましい。このような保護膜14は、特に、塩素系ガス又はフッ素系のドライエッチングでバッファ層18をパターニングする場合に有効である。
【0047】
<吸収体膜>
前述したように、吸収体膜16は、保護膜14に接するように形成されたバッファ層18と、バッファ層18の上に形成された吸収層20とを含む。
吸収体膜16(吸収層20及びバッファ層18を含む)の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。吸収体膜16は、EUV光の吸収を目的とした吸収体膜16であってもよいし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有する吸収体膜16であってもよい。位相シフト機能を有する吸収体膜16とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有する吸収体膜16がパターニングされた反射型マスクにおいて、吸収体膜16が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、吸収体膜16が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、保護膜14を介して多層反射膜12で反射される。そのため、位相シフト機能を有する吸収体膜16からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差が生ずる。位相シフト機能を有する吸収体膜16は、吸収体膜16からの反射光と、多層反射膜12からの反射光との位相差が170度から190度となるように形成されることが好ましい。180度近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上に伴って解像度が上がり、露光量裕度、及び焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0048】
吸収体膜16における吸収層20は、上述の吸収体膜16の機能を主に有する膜であり、単層の膜であってもよいし、複数の膜からなる多層膜であっても良い。単層膜の場合は、マスクブランク製造時の工程数を削減できて生産効率が向上する。多層膜の場合には、上層の吸収層が、光を用いたマスクパターン欠陥検査時の反射防止膜になるように、その光学定数と膜厚を適当に設定することができる。このことにより、光を用いたマスクパターン欠陥検査時の検査感度が向上する。また、上層の吸収層に酸化耐性が向上する酸素(O)及び窒素(N)等が添加された膜を用いると、経時安定性が向上する。このように、吸収層20を多層膜にすることによって、吸収層20に様々な機能を付加することが可能となる。吸収層20が位相シフト機能を有する場合には、多層膜にすることによって、光学面での調整の範囲を大きくすることができるので、所望の反射率を得ることが容易になる。
【0049】
吸収層20の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)系ガス及び/又はフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)であり、バッファ層18に対してエッチング選択比が高い材料である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(Si)から選ばれる少なくとも1つの金属、又はこれらの化合物を好ましく用いることができる。
【0050】
吸収層20は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。例えば、タンタル化合物等の吸収層20は、タンタル及びホウ素を含むターゲットを用い、酸素又は窒素を添加したアルゴンガスを用いた反応性スパッタリング法により成膜することができる。
【0051】
吸収層20を形成するためのタンタル化合物は、Taと上述の金属との合金を含む。吸収層20がTaの合金の場合、平滑性及び平坦性の点から、吸収層20の結晶状態は、アモルファス状又は微結晶の構造であることが好ましい。吸収層20の表面が平滑あるいは平坦でない場合、後述する吸収体パターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。吸収層20の好ましい表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で、0.5nm以下であり、より好ましくは0.4nm以下、さらに好ましくは0.3nm以下である。
【0052】
吸収層20を形成するためのタンタル化合物の例として、TaとBとを含む化合物、TaとNとを含む化合物、TaとOとNとを含む化合物、TaとBとを含み、さらにOとNの少なくともいずれかを含む化合物、TaとSiとを含む化合物、TaとSiとNとを含む化合物、TaとGeとを含む化合物、及びTaとGeとNとを含む化合物、等を挙げることができる。
【0053】
Taは、EUV光の吸収係数が大きく、また、塩素系ガス又はフッ素系ガスで容易にドライエッチングすることが可能な材料である。そのため、Taは、加工性に優れた吸収層20の材料であるといえる。さらにTaにB、Si及び/又はGe等を加えることにより、アモルファス状の材料を容易に得ることができる。この結果、吸収層20の平滑性を向上させることができる。また、TaにN及び/又はOを加えれば、吸収層20の酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができる。
【0054】
<エッチングマスク膜>
図2は、本実施形態の反射型マスクブランク100の別の例を示す断面模式図であり、基板10の外周端部を拡大した図である。
図2に示すように、反射型マスクブランク100は、吸収体膜16の上に、レジスト膜26などの他の薄膜をさらに有することができる。また、反射型マスクブランク100は、吸収層20とレジスト膜26の間に、エッチングマスク膜24をさらに有してもよい。
エッチングマスク膜24の材料としては、エッチングマスク膜24に対する吸収層20のエッチング選択比が高い材料を用いることが好ましい。エッチングマスク膜24に対する吸収層20のエッチング選択比は、1.5以上が好ましく、3以上が更に好ましい。
【0055】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、吸収層20の上に、クロム(Cr)を含むエッチングマスク膜24を有することが好ましい。吸収層20をフッ素系ガスでエッチングする場合には、エッチングマスク膜24の材料として、クロム又はクロム化合物を使用することが好ましい。クロム化合物の例としては、Crと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。エッチングマスク膜24は、CrN、CrO、CrC、CrON、CrOC、CrCN又はCrOCNを含むことがより好ましく、CrとN及び/又はOとを含有する材料を用いることが特に好ましい。このような材料の具体例としては、CrN、CrO及びCrON等が挙げられる。
【0056】
吸収層20を実質的に酸素を含まない塩素系ガスでエッチングする場合又は塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスでエッチングする場合には、エッチングマスク膜24の材料として、ケイ素又はケイ素化合物を使用することが好ましい。ケイ素化合物の例として、Siと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料、並びにケイ素及びケイ素化合物に金属を含む金属ケイ素(金属シリサイド)、及び金属ケイ素化合物(金属シリサイド化合物)などが挙げられる。金属ケイ素化合物の例としては、金属と、Siと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。これらの中でも、エッチングマスク膜の材料として、SiとN及び/又はOとを含有する材料を用いることが特に好ましい。このような材料の具体例としては、SiN及びSiO等が挙げられる。
吸収層20を実質的に酸素を含まない塩素系ガスでエッチングする場合又は塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスでエッチングする場合には、タンタル(Ta)を含むエッチングマスク膜24を用いることができる。Taを含む材料として、Taに、O、N、C、B及びHから選らばれる1以上の元素を含有する材料を挙げることができる。これらの中でも、エッチングマスク膜の材料として、Ta及びOを含有する材料を用いることが特に好ましい。このような材料の具体例としては、TaO、TaON、TaBO及びTaBON等が挙げられる。
また、エッチングマスク膜の材料として、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及びイットリウム(Y)から選ばれる少なくとも1つの金属、又はこれらの化合物を用いてもよい。
【0057】
エッチングマスク膜24の膜厚は、パターンを精度よく吸収層20に形成するために、3nm以上であることが好ましい。また、エッチングマスク膜24の膜厚は、レジスト膜26の膜厚を薄くするために、15nm以下であることが好ましい。
【0058】
<裏面導電膜>
基板10の裏面(多層反射膜12が形成された側と反対側の面)の上に、静電チャック用の裏面導電膜22を形成してもよい。静電チャック用として、裏面導電膜22に求められるシート抵抗は、通常100Ω/□(Ω/square)以下である。裏面導電膜22は、例えば、クロム又はタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用したマグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法によって形成することができる。裏面導電膜22の材料は、クロム(Cr)又はタンタル(Ta)を含む材料であることが好ましい。例えば、裏面導電膜22の材料は、Crに、ホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択される少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。また、裏面導電膜22の材料は、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、及び炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物であることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。
【0059】
裏面導電膜22の膜厚は、静電チャック用の膜として機能する限り特に限定されないが、例えば10nmから200nmである。
【0060】
以下、上述したバッファ層18について詳しく説明する。
図2に示すように、レジスト膜26は反射型マスクブランク100の全面に形成されるが、基板10の周縁部においてレジスト膜26が剥離して発塵することを抑制するため、通常、マスクパターンが形成されない基板周縁部のレジスト膜26を除去すること(エッジリンス)が行われる。エッジリンスによってレジスト膜26が除去された領域Rでは、レジスト膜26の下にあるエッチングマスク膜24が露出している。なお、エッチングマスク膜24がない反射型マスクブランク100の場合には、吸収層20が露出する。
【0061】
露光光としてEUV光を使用する反射型マスクにおいては、多層反射膜12上に存在する欠陥の位置を正確に管理することが重要である。なぜなら、多層反射膜12上に存在する欠陥は、修正がほとんど不可能である上に、転写パターン上で重大な位相欠陥となり得るためである。このため、反射型マスクブランク100において、多層反射膜12上の欠陥の位置を管理するための基準となるマークが形成されることがある。この基準マークは、フィデュシャルマークと呼ばれることもある。
【0062】
図3は、基準マークFMが形成された反射型マスクブランク100の外周端部の拡大断面図である。
図3に示すように、基準マークFMは、吸収層20にパターンが形成される領域PAよりも外側の領域に形成される。基準マークFMを形成する際には、まず、レジスト膜26に電子線描画によって基準マークFMを形成する為のレジストパターン26aを形成し、このレジストパターン26aをマスクとして、エッチングマスク膜24及び吸収層20をドライエッチングによってエッチングすることで基準マークFMを形成する。
【0063】
前述したように、エッジリンスによってレジスト膜26が除去された領域Rでは、レジスト膜26の下にあるエッチングマスク膜24(又は吸収層20)が露出している。このため、吸収層20に基準マークFMを形成する際のドライエッチングによって、レジスト膜26が除去された領域Rにあるエッチングマスク膜24及び吸収層20が除去される。
【0064】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、吸収体膜16は、保護膜14に接するように形成されたバッファ層18と、バッファ層18の上に形成された吸収層20とを含む。バッファ層18は、吸収層20に対してエッチング耐性を有する層であると共に、孤島状の保護膜が形成されることを防止するための層である。
このため、レジスト膜26がエッジリンスによって除去された領域Rにおいて、エッチングマスク膜24及び吸収層20が基準マークFMを形成する際のドライエッチングによって除去された場合であっても、保護膜14の上にはバッファ層18が残存しているため、保護膜14がエッチングによってダメージを受けることを防止することが可能である。
【0065】
バッファ層18は、公知の成膜方法で形成することができる。バッファ層18は、例えば、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。
【0066】
バッファ層18の材料は、特に限定するものではないが、吸収層20に基準マークFMを形成する際のドライエッチングに用いられるエッチャントに対して耐性を有する材料であることが好ましい。バッファ層18は、例えば、上述したエッチングマスク膜24と同じ材料で形成することができる。バッファ層18は、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及びイットリウム(Y)から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。また、エッチングマスク膜24を有する反射型マスクブランク100の場合には、バッファ層18は、エッチングマスク膜24と同じ材料で形成することが好ましい。
【0067】
本実施形態の反射型マスクブランク100によれば、保護膜14の上にはバッファ層18が残存しているため、基準マークFMを形成する際のドライエッチングによって保護膜14がダメージを受けることを防止することが可能である。このため、基準マークFMを形成する際に従来生じていた「孤島状の保護膜」が発生することを防止することが可能であり、孤島状の保護膜が帯電することによって静電破壊が発生することを防止することが可能である。
【0068】
本実施形態の反射型マスクブランク100において、基板10の中心から保護膜14の外周端までの距離をLcap、基板10の中心からバッファ層18の外周端までの距離をLbufとしたとき、Lcap≦Lbufである。保護膜14及びバッファ層18がこのような条件を満たす場合、レジスト膜26がエッジリンスによって除去された領域Rにおいて、保護膜14の上にはバッファ層18が残存する。保護膜14の上にはバッファ層18が残存しているため、レジスト膜26がエッジリンスによって除去された領域Rにおいて、孤島状の保護膜14が発生することを防止することが可能である。
【0069】
本実施形態の反射型マスクブランク100において、基板10の側面から基板10の中心に向かって0.5mm以内の範囲において、保護膜14及びバッファ層18の合計膜厚Tが4.5nm以上である箇所が少なくとも1つ存在する。保護膜14及びバッファ層18がこのような条件を満たす場合、レジスト膜26がエッジリンスによって除去された領域R(領域Rは、通常、基板10の側面から基板10の中心に向かって1~1.5mm程度の幅の領域である。)において、保護膜14の上にはバッファ層18が残存しており、かつ、保護膜14及びバッファ層18の合計膜厚Tが4.5nm以上である箇所が少なくとも1つ存在することとなる。その結果、レジスト膜26がエッジリンスによって除去された領域Rにおいて、保護膜14及びバッファ層18の合計膜厚Tを十分大きく確保することが可能となるため、孤島状の保護膜14が発生することをより確実に防止することが可能となる。なお、基板10の側面から基板10の中心に向かって0.5mm以内の範囲において、保護膜14及びバッファ層18の合計膜厚Tは、好ましくは5.0nm以上であり、より好ましくは5.5nm以上である。また、合計膜厚Tは、好ましくは35nm以下であり、より好ましくは30nm以下である。
【0070】
本実施形態の反射型マスクブランク100において、基板10の中心における保護膜14及びバッファ層18の合計膜厚は、4.5nm以上であることが好ましく、5.5nm以上であることがより好ましい。また、合計膜厚は、35nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。保護膜14及びバッファ層18がこのような条件を満たす場合、レジスト膜26がエッジリンスによって除去された領域Rにおいても、保護膜14及びバッファ層18の合計膜厚Tを十分大きく確保することが可能となるため、孤島状の保護膜14が発生することをより確実に防止することが可能となる。
【0071】
なお、本明細書において、基板10の中心とは、矩形状(例えば正方形)の基板10においてはその重心の位置(重心の位置に対応する基板10の主表面10a上の点の位置)を意味する。また、基板10の側面10bは、基板10の2つの主表面に略垂直な面であり、「T面」と呼ばれることがある。膜又は層の外周端とは、基板10の中心から最も離れた位置にある膜又は層の端部を意味する。
また、基板10の外周端部における保護膜14、バッファ層18、吸収層20及びエッチングマスク膜24の成膜領域(基板の中心から外周端までの距離)及び傾斜断面形状(勾配プロファイル)等は、PVDシールドの開口寸法、開口部のテーパー形状、シールドと基板との間隔等により適宜調整が可能である。
【0072】
図4~
図11は、本実施形態の反射型マスクブランク100における保護膜14、バッファ層18、吸収層20、エッチングマスク膜24、及びレジスト膜26の大小関係を説明するための模式図である。なお、
図4~
図11では、図面の簡略化のために、各層の厚みはその外周端に向かってほぼ一定となっている。
【0073】
ここで、基板10の中心から各層の外周端までの距離を、以下のように定義する。
Lcap:基板10の中心から保護膜14の外周端までの距離
Lbuf:基板10の中心からバッファ層18の外周端までの距離
Labs:基板10の中心から吸収層20の外周端までの距離
Letc:基板10の中心からエッチングマスク膜24の外周端までの距離
Lres:基板10の中心からレジスト膜26の外周端までの距離
【0074】
図4では、Lres<Lcap<Lbuf<Labs<Letcとなっている。
基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、レジスト膜26によって覆われていないエッチングマスク膜24及び吸収層20がエッチングによって除去されるため、
図4中の点線で囲んだ領域が除去されることとなる。この場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することを防止することができる。
【0075】
図5では、Lres<Lcap<Labs<Lbuf<Letcとなっている。
基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、レジスト膜26によって覆われていないエッチングマスク膜24がドライエッチングによって除去される。エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一のエッチャントによってエッチングされる場合(例えば、エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一の材料である場合)、吸収層20によって覆われていないバッファ層18が、エッチングマスク膜24と同一のエッチャントによってエッチングされる(つまり、バッファ層18とエッチングマスク膜24は、同時にエッチングされる)。その後、レジスト膜26によって覆われていない吸収層20がドライエッチングによってエッチングされるため、
図5中の点線で囲んだ領域が除去されることとなる。この場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することを防止することができる。
【0076】
図6では、Lres<Lcap<Lbuf<Letc<Labsとなっている。
基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、レジスト膜26によって覆われていないエッチングマスク膜24及び吸収層20がエッチングによって除去されるため、
図6中の点線で囲んだ領域が除去されることとなる。この場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することを防止することができる。
【0077】
図7では、Lres<Lcap<Labs<Letc<Lbufとなっている。
基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、レジスト膜26によって覆われていないエッチングマスク膜24がドライエッチングによって除去される。エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一のエッチャントによってエッチングされる場合(例えば、エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一の材料である場合)、吸収層20によって覆われていないバッファ層18が、エッチングマスク膜24と同一のエッチャントによってエッチングされる(つまり、バッファ層18とエッチングマスク膜24は、同時にエッチングされる)。その後、レジスト膜26によって覆われていない吸収層20がドライエッチングによってエッチングされるため、
図7中の点線で囲んだ領域が除去されることとなる。この場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することを防止することができる。
【0078】
図8では、Lres<Lcap<Letc<Lbuf<Labsとなっている。
基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、レジスト膜26によって覆われていないエッチングマスク膜24及び吸収層20がエッチングによって除去されるため、
図8中の点線で囲んだ領域が除去されることとなる。この場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することを防止することができる。
【0079】
図9では、Lres<Lcap<Letc<Labs<Lbufとなっている。
基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、レジスト膜26によって覆われていないエッチングマスク膜24がドライエッチングによって除去される。エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一のエッチャントによってエッチングされる場合(例えば、エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一の材料である場合)、吸収層20によって覆われていないバッファ層18が、エッチングマスク膜24と同一のエッチャントによってエッチングされる(つまり、バッファ層18とエッチングマスク膜24は、同時にエッチングされる)。その後、レジスト膜26によって覆われていない吸収層20がドライエッチングによってエッチングされるため、
図9中の点線で囲んだ領域が除去されることとなる。この場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することを防止することができる。
【0080】
図10では、Lres<Letc<Lcap<Lbuf<Labsとなっている。
基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、レジスト膜26によって覆われていないエッチングマスク膜24及び吸収層20がエッチングによって除去されるため、
図10中の点線で囲んだ領域が除去されることとなる。この場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することを防止することができる。
【0081】
図11では、Lres<Letc<Lcap<Labs<Lbufとなっている。
基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、レジスト膜26によって覆われていないエッチングマスク膜24がドライエッチングによって除去される。エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一のエッチャントによってエッチングされる場合(例えば、エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一の材料である場合)、吸収層20によって覆われていないバッファ層18が、エッチングマスク膜24と同一のエッチャントによってエッチングされる(つまり、バッファ層18とエッチングマスク膜24は、同時にエッチングされる)。その後、レジスト膜26によって覆われていない吸収層20がドライエッチングによってエッチングされるため、
図11中の点線で囲んだ領域が除去されることとなる。この場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することを防止することができる。
【0082】
本実施形態の反射型マスクブランク100において、Lcap≦Labsであることが好ましい。Lcap≦Labsである場合には、エッチングマスク膜24とバッファ層18が同一のエッチャントによってエッチングされる場合であっても、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することをより確実に防止することができる。
【0083】
本実施形態の反射型マスクブランク100において、Lres<Lcap≦Lbufであることが好ましい。エッジリンスによって基板10の周縁部のレジスト膜26が除去された場合、Lres<Lcapとなる場合が多い。この場合であっても、基準マークFMを形成するためのドライエッチングの際には、保護膜14の全面がバッファ層18によって覆われた状態が維持されるため、保護膜14がエッチングによるダメージを受けることによって「孤島状の保護膜」が発生することをより確実に防止することができる。
【0084】
<反射型マスクの製造方法>
本実施形態の反射型マスクブランク100を使用して、本実施形態の反射型マスク110を製造することができる。以下、反射型マスクの製造方法の例について説明する。
【0085】
図12は、反射型マスク110の製造方法の一例を示す模式図である。
図12に示すように、まず、基板10と、基板10の表面上に形成された多層反射膜12と、多層反射膜12の上に形成された保護膜14と、保護膜14の上に形成された吸収体膜16(バッファ層18及び吸収層20)と、基板10の裏面に形成された裏面導電膜22とを有する反射型マスクブランク100を準備する(
図12(a))。つぎに、吸収体膜16の上に、レジスト膜26を形成する(
図12(b))。基板周縁部27のレジスト膜26の剥離による発塵を抑制するため、基板周縁部27のレジスト膜26を、レジスト膜26が溶解する溶媒により除去する(エッジリンス)(
図12(c))。レジスト膜26に、電子線描画装置によってパターンを描画し、さらに現像・リンス工程を経ることによって、レジストパターン26aを形成する(
図12(d))。
【0086】
レジストパターン26aをマスクとして、吸収体膜16の吸収層20をドライエッチングする。これにより、吸収層20のレジストパターン26aによって被覆されていない部分がエッチングされ、吸収層20にパターンが形成される(
図12(e))。
【0087】
吸収層20のエッチングガスとしては、例えば、フッ素系ガス及び/又は塩素系ガスを用いることができる。フッ素系ガスとしては、CF4、CHF3、C2F6、C3F6、C4F6、C4F8、CH2F2、CH3F、C3F8、SF6、及びF2等を用いることができる。塩素系ガスとしては、Cl2、SiCl4、CHCl3、CCl4、及びBCl3等を用いることができる。また、フッ素系ガス及び/又は塩素系ガスと、O2とを所定の割合で含む混合ガスを用いることができる。これらのエッチングガスは、必要に応じて、更に、He及び/又はArなどの不活性ガスを含むことができる。
【0088】
吸収層20にパターンが形成された後、ドライエッチングにより、バッファ層18をパターニングすることにより、吸収体パターン16aを形成する。レジスト剥離液によりレジストパターン26aを除去する。レジストパターン26aを除去した後、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄工程を経ることによって、本実施形態の反射型マスク110が得られる(
図12(f))。
【0089】
なお、吸収体膜16の上にエッチングマスク膜24が形成された反射型マスクブランク100を用いた場合には、レジストパターン26aをマスクとして用いてエッチングマスク膜24にパターン(エッチングマスクパターン)を形成した後、エッチングマスクパターンをマスクとして用いて吸収層20にパターンを形成する工程が追加される。
【0090】
このようにして得られた反射型マスク110は、基板10の上に、多層反射膜12、保護膜14、及び吸収体パターン16aが積層された構成を有している。
【0091】
多層反射膜12(保護膜14を含む)が露出している領域30は、EUV光を反射する機能を有している。多層反射膜12(保護膜14を含む)が吸収体パターン16aによって覆われている領域32は、EUV光を吸収する機能を有している。
【0092】
<半導体装置の製造方法>
本実施形態の反射型マスク110を使用したリソグラフィにより、半導体基板上に転写パターンを形成することができる。この転写パターンは、反射型マスク110のパターンが転写された形状を有している。半導体基板上に反射型マスク110によって転写パターンを形成することによって、半導体装置を製造することができる。
【0093】
図13は、半導体基板60上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写するための装置であるEUV露光装置50の概略構成を示している。EUV露光装置50は、EUV光生成部51、照射光学系56、レチクルステージ58、投影光学系57及びウェハステージ59が、EUV光の光路軸に沿って精密に配置されている。EUV露光装置50の容器内には、水素ガスが充填されている。
【0094】
EUV光生成部51は、レーザ光源52、錫液滴生成部53、捕捉部54、コレクタ55を有している。錫液滴生成部53から放出された錫液滴に、レーザ光源52からのハイパワーの炭酸ガスレーザが照射されると、液滴状態の錫がプラズマ化しEUV光が生成される。生成されたEUV光は、コレクタ55で集光され、照射光学系56を経てレチクルステージ58に設定された反射型マスク110に入射される。EUV光生成部51は、例えば、13.53nm波長のEUV光を生成する。
【0095】
反射型マスク110で反射されたEUV光は、投影光学系57により通常1/4程度にパターン像光に縮小されて半導体基板60(被転写基板)上に投影される。これにより、半導体基板60上のレジスト膜に所与の回路パターンが転写される。
【0096】
露光されたレジスト膜を現像することによって、半導体基板60上にレジストパターンを形成することができる。レジストパターンをマスクとして半導体基板60をエッチングすることにより、半導体基板上に集積回路パターンを形成することができる。このような工程及びその他の必要な工程を経ることによって、半導体装置を製造することができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例1~3、及び、比較例1について説明する。
【0098】
まず、主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の基板10を準備した。この基板10は、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2系ガラス)からなる基板である。基板10の主表面は、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程によって研磨した。
【0099】
次に、基板10の主表面上に、多層反射膜12を形成した。基板10上に形成される多層反射膜12は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜12とするために、MoとSiからなる周期多層反射膜12とした。多層反射膜12は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、プロセスガスとしてクリプトン(Kr)を用いたイオンビームスパッタリング法により、基板10上にMo膜及びSi膜を交互に積層して形成した。先ず、Si膜を4.2nmの厚みで成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの厚みで成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層した後、最後にSi膜を4.0nmの厚みで成膜した。
【0100】
次に、多層反射膜12の上に、RuNbからなる保護膜14を形成した。保護膜14は、RuNbターゲットを使用し、Arガス雰囲気中で、マグネトロンスパッタリング法によって形成した。保護膜14の膜厚(基板10の中心における膜厚)は3.5nmであった。
【0101】
次に、保護膜14の上に、バッファ層18を形成した。バッファ層18の組成及び膜厚(基板10の中心における膜厚)を、以下の表1に示す。実施例1、3及び比較例1のバッファ層18は、Crターゲットを使用し、Arガス、O2ガス及びN2ガスの混合ガス雰囲気中で、マグネトロンスパッタリング法によって形成した。実施例2のバッファ層18は、TaBターゲットを使用し、Arガス及びO2ガスの混合ガス雰囲気中で、マグネトロンスパッタリング法によって形成した。
【0102】
次に、バッファ層18の上に、吸収層20を形成した。吸収層20の組成及び膜厚を、以下の表1に示す。実施例1、3及び比較例1の吸収層20は、TaBターゲットを使用し、Arガス及びN2ガスの混合ガス雰囲気中で、マグネトロンスパッタリング法によって形成した。実施例2の吸収層20は、RuCrターゲットを使用し、Arガス雰囲気中で、マグネトロンスパッタリング法によって形成した。
【0103】
実施例3では、吸収層20の上に、さらにバッファ層18と同じCrONからなるエッチングマスク膜24を形成した。エッチングマスク膜24の膜厚は6nmであった。
【0104】
実施例1、2では、Lml<Lcap≦Lbuf≦Labsとなるように各層の成膜を行った。実施例3では、Lml<Lcap≦Lbuf<Labs=Letcとなるように各層の成膜を行った。比較例1では、Lml<Lbuf<Lcapとなるように各層の成膜を行った。各記号の意味は、上記で定義した意味と同様である。Lmlは、基板10の中心から多層反射膜12の外周端までの距離を意味する。なお、各層の成膜範囲の調整は、国際公開第2014/021235号に開示されたような遮蔽部材を用いた方法によって行った。
【0105】
実施例1~3では、基板10の側面から基板10の中心に向かって0.5mm以内の範囲において、表1に示すように、保護膜14及びバッファ層18の合計膜厚が4.5nm以上である箇所が少なくとも1つ存在するように保護膜14及びバッファ層18の成膜を行った。比較例1では、基板10の側面から基板10の中心に向かって0.5mm以内の範囲において、保護膜14及びバッファ層18の合計膜厚が4.5nm以上である箇所が存在しないように、保護膜14及びバッファ層18の成膜を行った。なお、外周端部の各層の膜厚は、マグネトロンスパッタリング法によるPVDシールドの開口寸法によって調整した。
【0106】
【0107】
次に、上記で準備した反射型マスクブランク100を用いて、反射型マスク110を作製した。
具体的には、まず、吸収層20又はエッチングマスク膜24の上に、レジスト膜26を形成した。レジスト膜26を形成した後、基板周縁部のレジスト膜26をレジスト剥離液によって除去した(エッジリンス)。エッジリンスを行った後、レジスト膜26に電子線描画装置によってパターンを描画してレジストパターン26aを形成した。レジストパターン26aをマスクとして、吸収層20をドライエッチングして、基準マークFMを形成した。なお、実施例1、3及び比較例1の吸収層20は、Cl2ガスを用いてドライエッチングを行い、実施例2の吸収層20は、Cl2ガス及びO2ガスの混合ガスを用いてドライエッチングを行った。また、実施例3では、レジストパターン26aをマスクとして、エッチングマスク膜24をCl2ガス及びO2ガスの混合ガスを用いてドライエッチングしてエッチングマスクパターンを形成した後、このエッチングマスクパターンをマスクとして、吸収層20をドライエッチングして、基準マークFMを形成した。
【0108】
吸収層20に基準マークFMを形成した後、吸収層20又はエッチングマスク膜24の上のレジストパターン26aをレジスト剥離液によって除去した。その後、吸収層20又はエッチングマスク膜24の上に、吸収体パターン16aを形成するためのレジスト膜を形成した。このレジスト膜に電子線描画装置によってパターンを描画してレジストパターンを形成した後、このレジストパターンをマスクとして、吸収層20及びバッファ層18をドライエッチングして吸収体パターン16aを形成した。なお、実施例1、3及び比較例1の吸収層20はCl2ガス、バッファ層18はCl2ガス及びO2ガスの混合ガスを用いて各々ドライエッチングを行った。また、実施例2の吸収層20はCl2ガス及びO2ガスの混合ガス、バッファ層18はCl2ガスを用いて各々ドライエッチングを行った。また、実施例3では、レジストパターンをマスクとして、エッチングマスク膜24をドライエッチングしてエッチングマスクパターンを形成した後、このエッチングマスクパターンをマスクとして、吸収層20をドライエッチングし、バッファ層18のドライエッチングと同時にエッチングマスクパターンを除去して吸収体パターン16aを形成した。
【0109】
このようにして得られた反射型マスク110の最外周部の上面をTEMで観察した。その結果、実施例1~3の反射型マスクでは、基板周縁部の領域Rにおいて、孤島状の保護膜は確認されなかった。また、孤島状の保護膜に起因する静電破壊の痕跡も確認されなかった。
【0110】
一方、比較例1の反射型マスクでは、基板周縁部の領域Rにおいて、孤島状の保護膜が発生していた。また、孤島状の保護膜に起因する静電破壊の痕跡が確認された。
【符号の説明】
【0111】
10 基板
12 多層反射膜
14 保護膜
16 吸収体膜
18 バッファ層
20 吸収層
16a 吸収体パターン
22 裏面導電膜
24 エッチングマスク膜
26a レジストパターン
26 レジスト膜
50 EUV露光装置
100 反射型マスクブランク
110 反射型マスク