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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】白金ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20241105BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241105BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20241105BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241105BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20241105BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20241105BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241105BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241105BHJP
   H01G 9/20 20060101ALN20241105BHJP
   H01M 4/92 20060101ALN20241105BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F1/00 K
B82Y30/00
B82Y40/00
H01M4/88 K
B01J35/39
A61P31/04
A61P31/12
H01G9/20 115A
H01M4/92
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021060687
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156809
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】山本 博輝
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124826(JP,A)
【文献】特開2006-307084(JP,A)
【文献】特開2012-214373(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111141726(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0194242(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61P 31/04,31/12
B01J 35/45
B22F 1/00,1/02,1/054,1/16,
9/24
B82Y 30/00,40/00
C08L 83/16
H01G 9/20
H01M 4/88,4/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金ナノ粒子の製造方法であって、
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、又はアセトキシ基を示す。)
で表されるケイ素化合物と、
白金前駆体とを混合する工程を含む、
製造方法。
【請求項2】
前記白金前駆体は、ヘキサクロロ白金(IV)酸(H2PtCl6)、及びヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合する工程を、溶媒を用いて行い、
前記溶媒は、水を80質量%以上含む、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合する工程を、溶媒を用いて行い、
前記溶媒は、有機酸を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機酸は、酢酸である、
請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合する工程を、反応温度100℃以下で行う、
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合する工程を、チタニアナノ粒子を共存させて行う、
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記チタニアナノ粒子は、アナターゼ型チタニアナノ粒子である、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、
前記チタニアナノ粒子を、示差熱熱重量同時測定装置に依って、600℃まで昇温させた場合の200℃以上における重量減少が5質量%以上であり、
前記チタニアナノ粒子は、光触媒であり、
前記混合する工程を、前記光触媒を共存させて行う、
請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記チタニアナノ粒子は、平均粒子径が30nm以下であり、前記アシルオキシ基がアセトキシ基である、
請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記チタニアナノ粒子は、平均粒子径が1nm~6nmであり、比表面積が150m2/g~500m2/gである、
請求項710のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
光触媒であって、
白金ナノ粒子、チタニアナノ粒子、及び
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、又はアセトキシ基を示す。)
で表されるケイ素化合物を含有し、
比表面積が150m2/g~500m2/gである、
光触媒。
【請求項13】
抗菌材料又は、抗ウイルス材料であって、
白金ナノ粒子、チタニアナノ粒子、及び
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、又はアセトキシ基を示す。)
で表されるケイ素化合物を含有し、
比表面積が150m2/g~500m2/gであり、
可視光、又は暗所で抗菌活性を有する抗菌材料、又は、
可視光、又は暗所で、抗ウイルス活性を有する抗ウイルス材料。
【請求項14】
抗ウイルスコーティング液であって、
請求項13に記載の抗ウイルス材料、及び
水を含有する、
抗ウイルスコーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金ナノ粒子は、燃料電池、太陽電池、化学合成等、触媒として様々な用途に活用されている。白金の前駆体は、塩化白金酸(H2PtCl6)が用いられることが多く、加熱に依り、容易に白金(Pt)を得ることができる(非特許文献1~4)。
【0003】
チタニア(酸化チタン)は、光触媒として、有害物質、汚れ等を分解する事に利用されたり、親水化膜として利用されたりしている。チタニア(酸化チタン)は、他に、水素、酸素等の合成、防食、樹脂添加剤、色素増感太陽電池の負極、人工光合成、抗菌・抗ウイルス等、様々な応用が考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】神谷信行, 星野謙一, and 太田健一郎. "白金塩化物の熱分解と白金被覆電極への応用." 日本化学会誌 (化学と工業化学) 1987.2 (1987): 140-146.
【文献】Farrell, Brendan P., Igor V. Sevonkaev, and Dan V. Goia. "Preparation of dispersed spherical platinum particles with controlled size and internal structure." Platinum Metals Rev 57.3 (2013): 161-168.
【文献】Xiao, YaoMing, et al. "Low temperature fabrication of high performance and transparent Pt counter electrodes for use in flexible dye-sensitized solar cells." Chinese Science Bulletin 57.18 (2012): 2329-2334.
【文献】根岸雄一. "高活性触媒白金ナノ粒子の精密合成法の確立." ホソカワ粉体工学振興財団年報 23 (2015): 136-141.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来技術には次の課題が存在する。
【0006】
非特許文献1が開示する技術は、白金ナノ粒子の合成方法は、通常の熱還元による製法であり、530℃の加熱を必要とし、アルコール等により還元を補助した場合でも、400℃以上の加熱を必要とする。
【0007】
非特許文献2が開示する技術は、500℃以下で白金ナノ粒子の合成を試みているが、一般に、低温では結晶性が低く、高温では比表面積が激減する。
【0008】
非特許文献3が開示する技術は、白金ナノ粒子を、色素増感太陽電池の正極触媒用に、120℃で合成を試みているが、長時間の加熱と真空状態が必要である上に、製造出来た白金ナノ粒子は凝集している。
【0009】
近年、低温で活性の高い白金の超微粒子を合成する方法として、ポリオール還元法が使われている。しかし、ポリオール還元法は、有機物、水酸化ナトリウム等の添加を必要とし、有機物は、光触媒と組み合わせた場合、光触媒の活性を阻害し、ナトリウムは、加熱では除去できない。
【0010】
非特許文献4が開示する技術は、白金粒子を得る為の反応に、100℃以上の加熱を必要とし、溶媒は、沸点の高いエチレングリコールである。この為、エチレングリコールを除去する為に、高温加熱も必要とする。
【0011】
これまで、非常に小さい粒径で活性が高い白金ナノ粒子を、常温反応、且つ有機物等触媒活性を阻害する還元剤、金属塩等の除去し難い還元剤を使用せずに、簡易に合成する方法が知られていない。
【0012】
そこで、本発明は、白金ナノ粒子の製造方法として、非常に小さい粒径で、活性が高く、透明なコーティングも可能な白金ナノ粒子を、有機物や金属塩等の除去し難い還元剤を使用せずに、合成する事を目的とする。
【0013】
光触媒は、通常紫外線を照射しないと抗菌・抗ウイルス性が得られない。結晶性の高い光触媒は、屈折率が高い為、光の散乱が大きく透明性が得られ難い。
【0014】
そこで、本発明は、前記白金ナノ粒子と光触媒とを組み合わせて、透明性が高く、活性の高い抗菌・抗ウイルス材料を簡易に得る事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者等は、白金ナノ粒子の製造方法において、特定の構造を有するケイ素材料を使用し、水中で常温攪拌を行う事で、白金ナノ粒子を得る事が出来、上記課題を解決出来る事を見出した。
【0016】
そして、更に研究を重ね、本発明を完成させた。
【0017】
即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0018】
項1.
白金ナノ粒子の製造方法であって、
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又は-O-Si結合を示す。)
で表されるケイ素化合物と、
白金前駆体とを混合する工程を含む、
製造方法。
【0019】
前記アシルオキシ基(RCOO-)は、例えば、アセトキシ基(CH3COO-)である。
【0020】
項2.
前記白金前駆体は、ヘキサクロロ白金(IV)酸(H2PtCl6)、及びヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)である、
前記項1に記載の製造方法。
【0021】
項3.
前記混合する工程を、溶媒を用いて行い、
前記溶媒は、水を80質量%以上含む、
前記項1又は2に記載の製造方法。
【0022】
項4.
前記混合する工程を、溶媒を用いて行い、
前記溶媒は、有機酸を含む、
前記項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0023】
項5.
前記有機酸は、酢酸である、
前記項4に記載の製造方法。
【0024】
項6.
前記混合する工程を、反応温度100℃以下で行う、
前記項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【0025】
項7.
前記一般式(1)で表されるケイ素化合物において、前記R1、前記R2、及び前記R3は、同一又は異なって、炭素数1~4のアルコキシ基、又は炭素数1~4のアシルオキシ基である、
前記項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【0026】
項8.
前記一般式(1)で表されるケイ素化合物において、前記R1、前記R2、及び前記R3は、同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、又はアセトキシ基である、
前記項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【0027】
項9.
前記混合する工程を、チタニアナノ粒子を共存させて行う、
前記項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【0028】
項10.
前記チタニアナノ粒子は、アナターゼ型チタニアナノ粒子である、
前記項9に記載の製造方法。
【0029】
項11.
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、
前記チタニアナノ粒子を、示差熱熱重量同時測定装置に依って、600℃まで昇温させた場合の200℃以上における重量減少が5質量%以上であり、
前記チタニアナノ粒子は、光触媒であり、
前記混合する工程を、前記光触媒を共存させて行う、
前記項9又は10に記載の製造方法。
【0030】
項12.
前記チタニアナノ粒子は、平均粒子径が30nm以下であり、前記アシルオキシ基がアセトキシ基である、
前記項11に記載の製造方法。
【0031】
項13.
前記チタニアナノ粒子は、平均粒子径が1nm~6nmであり、比表面積が150m2/g~500m2/gである、
前記項9~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【0032】
項14.
光触媒であって、
白金ナノ粒子、チタニアナノ粒子、及び
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又は-O-Si結合を示す。)
で表されるケイ素化合物を含有し、
比表面積が150m2/g~500m2/gである、
光触媒。
【0033】
項15.
抗菌、及び/又は、抗ウイルス材料であって、
白金ナノ粒子、チタニアナノ粒子、及び
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又は-O-Si結合を示す。)
で表されるケイ素化合物を含有し、
比表面積が150m2/g~500m2/gであり、
可視光、又は暗所で抗菌、及び/又は、抗ウイルス活性を有する、
抗菌、及び/又は、抗ウイルス材料。
【0034】
項16.
抗ウイルスコーティング液であって、
前記項15に記載の抗菌、及び/又は、抗ウイルス材料、及び
水を含有する、
抗ウイルスコーティング液。
【発明の効果】
【0035】
本発明に依れば、白金ナノ粒子の製造方法として、非常に小さい粒子径で、活性が高く、透明なコーティングも可能な白金ナノ粒子を、有機物や金属塩等の除去し難い還元剤を使用せずに、合成する事が出来る。
【0036】
本発明に依れば、白金ナノ粒子の製造方法において、特定の構造を有するケイ素材料を使用し、安価、且つ除去が容易な水中で常温攪拌を行う事で、短時間で、白金ナノ粒子を得る事が出来る。
【0037】
本発明に依れば、前記反応(水中での常温攪拌)を、チタニアナノ粒子と共存しながら反応を行う事に依り、白金とチタニアとの複合体を分散性の高い状態で得る事が出来る。
【0038】
本発明に依れば、前記白金ナノ粒子とチタニアとの複合体を含む材料は、透明で、且つ高活性な抗菌・抗ウイルス材料として、用いる事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施態様の結果を表す図である。図1は、実施例5のTEM画像を示す。3nm~5nmのチタニア1次粒子の中に、約5nmのPt粒子(中央黒色粒子)が生成している事がわかる。
図2】本発明の実施態様の結果を表す図である。図2は、実施例5のTEM画像を示す。約3nmのPt粒子(中央黒色粒子)が生成している事がわかる。
図3】本発明の実施態様の結果を表す図である。図3は、実施例5のTEM画像を示す。約4nmの粒子AはPtナノ粒子であり、重なり合っている粒子BはTiO2ナノ粒子である。
図4】本発明の実施態様の結果を表す図である。図4は、図3における粒子AのTEM-EDSスペクトルである。一部、Tiが検出されているが、主に、Ptが検出されている。
図5】本発明の実施態様の結果を表す図である。図5は、図3における粒子Bのピークである。僅かに、Ptが検出されているが、主に、TiとOとが検出されている。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0041】
本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上、B以下を示す。
【0042】
本明細書において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、二酸化チタン(TiO2)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti2O3);一酸化チタン(TiO);Ti4O7、Ti5O9等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含む。
【0043】
本明細書において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、末端Ti-OH基、TiOCH3基、TiOCH2CH3基、TiOCH2CH2CH3基、TiOCH(CH3)CH3基、TiOCH2CH2CH2CH3基、TiOCOCH3等に代表される様に、一部、酸化チタンの合成に起因するTi-O-Ti以外の基を含んでいてもよい。
【0044】
本明細書において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、末端OH基に有機酸等が結合したものも含まれる。
【0045】
1.白金ナノ粒子の製造方法
本発明の白金ナノ粒子の製造方法は、
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又は-O-Si結合を示す。)
で表されるケイ素化合物と、
白金前駆体とを混合する工程を含む。
【0046】
(1)白金ナノ粒子、及び白金前駆体
本発明の白金前駆体(白金源となる白金化合物)は、好ましくは、塩化白金(VI)酸(テトラクロロ白金酸)、塩化白金(VI)酸ナトリウム、塩化白金(VI)酸カリウム、塩化白金(VI)酸アンモニウム、臭化白金(VI)酸アンモニウム、臭化白金(VI)酸(テトラクロロ白金酸)、臭化白金(VI)酸ナトリウム、臭化白金(VI)酸カリウム、臭化白金(VI)酸アンモニウム、塩化白金(II)酸(テトラクロリド白金酸)、塩化白金(II)酸ナトリウム塩、塩化白金(II)酸カリウム、塩化白金(II)酸アンモニウム、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)、塩化白金(II)、塩化白金(IV)、臭化白金(II)、臭化白金(IV)、よう化白金(II)、よう化白金(IV)、酸化白金(VI)、硝酸テトラアンミン白金(II)、テトラシアノ白金(II)酸カリウム、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)白金(II)、ジヨード(1,5-シクロオクタジエン)白金(II)、ジメチル(1,5-シクロオクタジエン)白金(II)、(トリメチル)シクロペンタジエニル白金(IV)、テトラアミン白金(II)、テトラクロロ白金(II)酸、ヨードトリメチル白金(IV)、ジクロロビス(ピリジン)白金(II)、水酸化テトラアミン白金(II)、亜硫酸白金、ヘキサフルオロアセチルアセトン酸白金(II)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸ナトリウム、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸カリウム、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸アンモニウム、炭酸水素テトラアンミン白金(II)、りん酸水素テトラアンミン白金(II)溶液等である。
【0047】
その中で水溶性、且つ白金以外の金属元素を含まないものが好ましい。
【0048】
より好ましいのは、塩化白金(VI)酸、塩化白金(VI)酸アンモニウムである。
【0049】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記白金前駆体は、ヘキサクロロ白金(IV)酸(H2PtCl6)、及びヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)である。
【0050】
これらの白金前駆体(白金源)を還元して白金ナノ粒子を得る。
【0051】
(2)ケイ素化合物(還元剤)
本発明において、還元剤として、SiH基を有する化合物を用いる。
【0052】
SiH基を有する化合物は、一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、アルキル基、アシルオキシ基、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又は-O-Si結合を示す。)
で表されるケイ素化合物である。
【0053】
溶媒中懸濁して用いる事も出来る為、必ずしも溶媒に溶解する必要はない。
【0054】
白金ナノ粒子や光触媒の活性を損なわないという観点では、ケイ素化合物は、還元剤として働いた後、酸化、加水分解等に依り、シリカに近い物質に成る事が好ましく、HSiCl3、H2SiCl2、ポリシラザン類、若しくはシクロシラザン類-(H2Si-NH)n-、SiH基を有するアルコキシシラン類SiH(OR)3もしくはSiH2(OR)2、SiH基を有するカルボキシシラン類、SiH(OCOR)3、若しくは、SiH2(OCOR)2が好ましい。
【0055】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記一般式(1)で表されるケイ素化合物において、前記R1、前記R2、及び前記R3は、同一又は異なって、炭素数1~4のアルコキシ基、又は炭素数1~4のアシルオキシ基である。
【0056】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記一般式(1)で表されるケイ素化合物において、前記R1、前記R2、及び前記R3は、同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、又はアセトキシ基である。
【0057】
特に水溶性である、若しくは有機酸との接触で水溶化させる事が出来る、SiH(OR)3、SiH2(OR)2、SiH(OCOCH3)3、若しくは、SiH2(OCOCH3)2が好ましい。
【0058】
SiH(OR)3、SiH2(OR)2は、酢酸等の有機酸との接触で、アルコキシ基の全部、若しくは、一部がアシルオキシ基と成り、親水性が強く成り、水に溶解、若しくは、分散し、反応に寄与し易く成る。
【0059】
ケイ素化合物は(還元剤)は、白金前駆体(白金源)に対して少な過ぎると、反応が起こり難く、多過ぎると、固形分であるシリカが生じ易く成る。
【0060】
反応時は、上記物質に加えて他の還元剤を加えて良い。
【0061】
他の還元剤は、好ましくは、ヒドラジン、シュウ酸、ギ酸、没食子酸、没食子酸エステル、ヒドロキノン、メトキノン、水素化アルミニウムリチウム、鉄(II)イオン、水素化ホウ素ナトリウム、スズ(II)イオン、ポリフェノール類、タンニン酸、次亜硫酸、次亜硫酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムなどが例示される。
【0062】
チタニアナノ粒子を共存して反応を行う場合は、紫外線照射による光触媒の還元反応を併用してよい。
【0063】
(3)チタニアナノ粒子
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記混合する工程を、チタニアナノ粒子を共存させて行う。
【0064】
本発明は、チタニアナノ粒子を共存させて反応させて良い。
【0065】
チタニアナノ粒子を共存させることにより、1)光触媒の還元反応を併用出来る、2)親水性のチタニアが生成した白金ナノ粒子の分散に寄与する、3)抗菌・抗ウイルス性等の光触媒と白金の相乗効果が期待出来る、4)白金表面の汚染を光触媒で分解出来る等のメリットが期待出来る。
【0066】
但し、チタニアナノ粒子の共存は必須ではなく、チタニアナノ粒子の添加が無くても、白金の生成は起こる。
【0067】
チタニアナノ粒子を共存させる場合は、比表面積が大きく、水への分散性が高いものが好ましい。
【0068】
チタニアナノ粒子の比表面積は、10m2/g~500m2/gが好ましく、45m2/g~400m2/gがより好ましく、90m2/g~350m2/gが更に好ましい。
【0069】
チタニアナノ粒子の直径は、1nm~150nmが好ましく、1nm~30nmがより好ましく、1nm~16nmが更に好ましく、最も好ましいのは1nm~6nmである。
【0070】
特に、本発明のチタニアナノ粒子は、水に均一分散するものが好ましく、例えば、下記の製法で製造出来る。
【0071】
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を5分以上攪拌する工程、及び
(C)前記工程(B)で得られた分散液を70℃以上で1時間以上加熱する工程
を備え、且つ、
前記工程(A)において、チタンを含む物質と有機酸との混合比率は、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、有機酸中のアシルオキシ基が0.4モル以上である方法により得られる。
【0072】
酢酸の場合、2モル以上が好ましいが、乳酸やクエン酸の場合、0.5モルかそれ以下でも透明性の高いチタニアナノ粒子が得られる。
【0073】
<工程(A)>
工程(A)では、特定量のチタンを含む物質、特定量の有機酸及び水を混合して分散液を得る。
【0074】
使用するチタンを含む物質としては、加熱により酸化チタンとなる物質であれば特に制限はない。チタンを含む物質としては、酸化チタン、及び/又は、酸化チタン前駆体が好ましく、具体的には、酸化チタン;水酸化チタン;チタンアルコキシド;三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの);金属チタン等が挙げられる。また、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
これらの中でも、得られるチタニアの分散性の観点から、チタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタン、特に、塩基で中和したものが好ましく、特に純度及び分散性の観点からチタンアルコキシドがより好ましい。
【0076】
チタンアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、チタンテトラn-プロポキシド、チタンテトラエトキシド等が挙げられ、コスト及び副生成物の水溶性の観点から、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0077】
チタンアルコキシドと有機酸との組合せによっては、得られるチタニアを触媒として水に溶け難いエステル化合物が遊離する事が有るが、チタニア自身には問題はない。例えば、チタンテトラn-ブトキシドと酢酸の組合せにおいて、混合し加熱した段階で酢酸ブチルが生じ遊離する。
【0078】
均一な分散液を得る観点からは、水溶性に優れる有機酸アルコキシドが得られる有機酸とチタンアルコキシドとの組合せを採用することが好ましい。
【0079】
ハロゲン化チタン(四塩化チタン、三塩化チタン等)については、不純物(ハロゲン)、量産時の反応器の腐食、及び結晶性制御の観点から、塩基で中和し、沈殿物の洗浄を行ってから用いる事が好ましい。その場合、得られるチタニアの分散性の観点から、乾燥を行わずに用いる事が好ましい。
【0080】
酸化チタン、金属チタン等の固体を用いる場合は、平均粒子径は100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。下限値は特に設定されないが、通常1nm程度である。粒径が大きい場合は、遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式又は湿式で粉砕して用いてもよい。平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM、又はTEM)観察等に依り、測定する事が出来る。
【0081】
分散液中のチタンを含む物質の濃度は、生産性と反応液の粘度の観点から、0.01mol/L~5mol/Lが好ましく、0.05mol/L~3mol/Lがより好ましい。
【0082】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記混合する工程を、溶媒を用いて行い、前記溶媒は、有機酸を含む。
【0083】
反応に使用する酸は、有機酸であり、化学式CnH2n+1COOH(n=0~11)で示されるモノカルボン酸、HOOCCmH2mCOOH(m=0~8)で示されるジカルボン酸、炭素数1~6のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0084】
モノカルボン酸においては、水に対する溶解性(特に、n=4以下が水に溶解し易い)と臭気(特に、n=2~4が悪臭が強い)の観点から、n=1の酢酸が望ましい。
【0085】
ジカルボン酸については、水への溶解性の観点からm=0~2が好ましいが、チタニアへの分散性も考慮すると、m=1、又は2がより好ましい。
【0086】
ヒドロキシカルボン酸については、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
【0087】
有機酸は、これらの中でも、後で揮発による除去が出来るという観点で、特に、酢酸、乳酸が好ましい。
【0088】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記有機酸は、酢酸である。
【0089】
これらの有機酸は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
有機酸の使用量は、分散性とコストの観点から、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、COOH基を0.4モル以上、好ましくは0.5モル~10モル含む様に調整する事が好ましい。有機酸を多く用いる程、分散性が向上する。
【0091】
分散液中の有機酸の濃度は、分散性とコストの観点から、0.005mol/L~10mol/Lが好ましく、0.02mol/L~7mol/Lがより好ましい。
【0092】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記混合する工程を、溶媒を用いて行い、前記溶媒は、水を80質量%以上含む。
【0093】
反応溶媒としては、水等の水性溶媒を主成分(具体的には、例えば50重量%以上)として用いる事が好ましいが、反応時にアルコール類又はエステル類を含んでいても良い。
【0094】
例えば、チタンテトライソプロポキシドを原料として用いた場合、有機酸との反応によりイソプロパノールが生じる。また、加熱により有機酸のイソプロピルエステルが生じることもある。
【0095】
工程(A)により得られる分散液中には、アルコール類又はエステル類を投入しても良いし、系中で発生していても良い。このアルコール類又はエステル類については、100℃以下の開放系における加熱により除去しても良いし、反応液中に残留していても良い。
【0096】
分散液中にアルコール類が含まれる場合には粒径が小さくなる傾向に有り、粒径を制御する為に、意図的にアルコール類を添加しても良い。
【0097】
本発明においては、通常チタニアナノ粒子の水熱合成反応に用いる事が多い硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸(特に、無機強酸)を用いても良い。
【0098】
得られるチタニアナノ粒子の基材への密着性が低い事に加えて、装置の腐食、不純物、排水等の観点から、カルボン酸の方が好ましい。
【0099】
無機酸、及び有機酸は、原料の分散性、均一性等を高め、取扱いを容易にする場合には、効果を損なわない範囲で、例えば、0.01mol/L以下の範囲で補助的に使用する事も出来る。この場合、分散液中のN、Cl及びS元素の濃度が、いずれも0.01mol/Lと成る。
【0100】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記チタニアナノ粒子は、アナターゼ型チタニアナノ粒子である。
【0101】
無機酸、及び有機酸は、この中でも透明性が高いアナターゼ型のチタニアが生成し易く、除去し易い硝酸が好ましい。
【0102】
工程(A)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、及び分散性の観点から、pH1.5以上、pH6未満が好ましく、pH2~pH5がより好ましい。
【0103】
工程(A)において、分散液の作製方法は特に制限は無く、チタンを含む物質、有機酸及び水(溶媒)を同時に混合しても良いし、逐次混合しても良い。
【0104】
特に、凝集して大きな塊を形成し難く、攪拌を継続できる観点から、有機酸及び水(溶媒)を混合した後に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入する事が好ましい。チタンを含む物質及び有機酸を混合した後に水を滴下すると、反対に凝集し易い。
【0105】
<工程(B)>
工程(B)においては、工程(A)で得られた分散液を5分以上攪拌する。
【0106】
攪拌の方法は特に制限は無く、常法に従えば良い。また、攪拌時間は、チタンを含む物質と有機酸と水を十分に反応する観点から、5分以上、好ましくは15分以上である。攪拌時間の上限値は特に制限されないが、通常240時間程度である。
【0107】
<工程(C)>
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記混合する工程を、反応温度100℃以下で行う。
【0108】
工程(C)においては、工程(B)で得られた分散液を70℃以上で1時間以上加熱する。
【0109】
工程(C)は、常圧下に行っても良いし、密閉容器内で加圧下に行っても良い。
【0110】
加圧下に行う場合は、超臨界条件下に行っても良い。より具体的には、加熱時の圧力は粒径を大きくする観点から、0.45MPa以上が好ましく、1MPa~30MPaがより好ましい。ただし、粒径が小さくてよい場合は、常圧下で行う方が簡易である。
【0111】
加熱温度は、50℃以上、好ましくは70℃~450℃、より好ましくは150℃~400℃である。加熱温度が50℃未満では、活性の高いチタニアナノ粒子が得られない。
【0112】
反応を常圧下に行う場合は、より平均粒子径の小さいチタニアナノ粒子が得られる観点から、50℃~120℃が好ましく、70℃~110℃がより好ましい。
【0113】
反応を加圧下(超臨界ではない)に行う場合は、常圧下よりも平均粒子径の大きいチタニアナノ粒子が得られる観点から、120℃~370℃が好ましく、150℃~300℃がより好ましい。この場合、先ず低温(例えば50℃~120℃)で加熱してから、高温(例えば、120℃~370℃)に加熱しても良い。
【0114】
加圧下の中でも、超臨界条件下に行う場合は、工程(B)で得られた分散液を、例えば、流通式反応器内で超臨界水と混合する事に依り、極めて短時間で粒子径の揃ったチタニアナノ粒子、及び分散性が極めて高いチタニア分散液を合成する事が出来る。この場合、50℃以下の工程(B)で得られた分散液を、374℃以上の超臨界水と混合し、300℃以上(特に375℃~450℃)で1秒以上(特に5秒~600秒)保持する事が好ましい。超臨界水と接触させる場合には、反応を極めて短時間で終了させる事が出来る。
【0115】
この様にして得られる本発明のチタニアナノ粒子は、従来のチタニアナノ粒子と比較し、分散性を大きく改善したものである。
【0116】
本発明のチタニアナノ粒子は、平均粒子径が3nm~50nm程度、特に、4nm~40nm程度のものが得られる。
【0117】
チタニアナノ粒子の平均粒子径をこの範囲とすることにより、金属ナノ粒子を適度且つより強固に担持させる事ができ、可視光触媒活性がより高く、且つ透明性のより高い膜が形成できる。
【0118】
通常平均粒子径が小さい場合、加熱時の収縮が大きい為、クラックや基板からの剥離が起こり易いが、本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子は平均粒子径が小さいチタニアナノ粒子を使用しているにも関わらず塗布性に優れる材料である。
【0119】
本発明において、チタニアナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0120】
本発明のチタニアナノ粒子は、比表面積が30m2/g~500m2/g、特に、40m2/g~350m2/gのものが得られる。
【0121】
チタニアナノ粒子の比表面積をこの範囲とする事に依り、金属ナノ粒子を適度、且つより強固に担持させる事が出来、可視光触媒活性を高くし易い。
【0122】
チタニアナノ粒子の比表面積は、BET法に依り、測定する。
【0123】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記チタニアナノ粒子は、平均粒子径が1nm~6nmであり、比表面積が150m2/g~500m2/gである。
【0124】
本発明のチタニアナノ粒子は、N、Cl、及びS元素の濃度が、いずれも0~5,000ppm、特に0~1,000ppmのものが得られる。
【0125】
チタニアナノ粒子のN、Cl、及びS元素の濃度をこの範囲とする事に依り、基材の腐食等を抑え易い。この条件は、TiCl4、TiOSO4等の酸性チタニア前駆体由来の不純物が存在しないか、又はごく少量である事を意味している。
【0126】
チタニアナノ粒子のN、Cl、及びS元素の濃度は、WDX(蛍光X線)に依り、測定する。
【0127】
チタニアナノ粒子の結晶形は、アナターゼ型が好ましい。アナターゼ型を採用する事に依り、可視光触媒活性を特に向上させる事が出来る。
【0128】
アナターゼ型以外の結晶形は存在せず、アナターゼ型100%である事が好ましい。
【0129】
この後、常法により、本発明のチタニアナノ粒子を沈殿及び遠心分離する事等に依り、本発明のチタニアナノ粒子を回収する事が出来る。
【0130】
この様に、本発明のチタニアナノ粒子は、平均粒子径及び比表面積を調整する事が出来、また、分散性に優れる為、光触媒用(超親水、有機物/無機物分解、水素製造等)だけでなく、色素増感太陽電池用、透明導電膜用、触媒担体用、耐熱コーティング用、高屈折コーティング用、遮熱コーティング用等、種々様々な用途に使用する事が出来る。
【0131】
本発明のチタニア分散液は、上記工程(A)~(C)を経た反応液を用い、超音波分散等の分散工程を加える事に依り、均一な分散液を作製できる。
【0132】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基(RCOO-)が結合しており、前記チタニアナノ粒子を、示差熱熱重量同時測定装置に依って、600℃まで昇温させた場合の200℃以上における重量減少が5質量%以上であり、前記チタニアナノ粒子は、光触媒であり、前記混合する工程を、前記光触媒を共存させて行う。
【0133】
本発明の白金ナノ粒子の製造方法において、好ましくは、前記チタニアナノ粒子は、平均粒子径が30nm以下であり、前記アシルオキシ基がアセトキシ基である。
【0134】
本発明において、好ましくは、金属ナノ粒子(白金ナノ粒子)担持チタニアナノ粒子の形態を採り、好ましくは、チタニアナノ粒子の表面に金属ナノ粒子が担持された金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子である。
【0135】
本発明において、好ましくは、前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、チタニアナノ粒子中の酸化チタンに対して90質量%以下の担持量で金属ナノ粒子が表面に担持されている。
【0136】
本発明において、好ましくは、示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上である。
【0137】
本発明の金属ナノ粒子(白金ナノ粒子)担持チタニアナノ粒子は、チタニアナノ粒子及び金属ナノ粒子のいずれも、平均粒子径及び比表面積を調整する事が可能であり、チタニアナノ粒子及び金属ナノ粒子が強固に密着しており、また、分散性に優れ凝集し難い為、別途分散剤等の添加剤を使用せずとも、塗布性及び透明性に優れる。
【0138】
本発明の金属ナノ粒子(白金ナノ粒子)担持チタニアナノ粒子及び光触媒は、別途分散剤を使用せずとも十分な塗布性、及び透明性を有している事から、分散剤等の添加剤により可視光触媒活性を損なう事が無く、優れた可視光触媒活性を有することが出来る。
【0139】
本発明の金属ナノ粒子(白金ナノ粒子)担持チタニアナノ粒子は、光触媒(特に、可視光応答型光触媒)として有用である。
【0140】
通常、水、無機酸、遊離した有機酸等は200℃以下でほとんど揮発する。
【0141】
本発明の金属ナノ粒子(白金ナノ粒子)担持チタニアナノ粒子を構成するチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合していることから、200℃~600℃の範囲で徐々に脱離する。例えば、アセトキシ基の場合は、約260℃をピークとして200℃~600℃の範囲で徐々に脱離する。
【0142】
本発明の金属ナノ粒子(白金ナノ粒子)担持チタニアナノ粒子を構成するチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合している事から、乾燥、又は焼成時にチタニアナノ粒子同士の凝集を抑制出来るためクラック、剥がれ等が起こり難く、塗布性、及び透明性に特に優れると共に、クラック、剥がれ等を抑制する事が出来、更には後述の金属ナノ粒子を強固に担持させ易い結果、可視光触媒活性にも優れる。
【0143】
通常、表面にアシルオキシ基を有していると可視光触媒活性は低下するのが技術常識である。
【0144】
本発明では、乾燥、又は焼成時にチタニアナノ粒子同士の凝集を抑制出来る為、クラック、剥がれ等の抑制効果が、特に優れると共に、金属ナノ粒子(白金ナノ粒子)を強固に担持させ易いい為、アシルオキシ基を有しているにもかかわらず、可視光触媒活性も向上させる事が出来る。
【0145】
チタニアナノ粒子は、表面に存在するチタン原子にアシルオキシ基が大量に結合している事が好ましい。表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が存在している場合は、200℃~600℃の範囲で徐々に離脱する事から、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に、200℃以上での質量減少が大きい。
【0146】
本発明において、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に、200℃以上での質量減少は、表面に存在するチタン原子にアセトキシ基が結合している数の指標を意味している。
【0147】
示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上、好ましくは7質量%~20質量%である。示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)の詳細な条件は、雰囲気:空気、昇温速度:3℃/分である。
【0148】
チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しているものであるが、このアシルオキシ基は、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合している事が好ましい。このアシルオキシ基は、炭素数1~4のモノカルボン酸、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等の有機酸由来のアシルオキシ基である事が好ましい。
【0149】
前記Rにおいて、アルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられる。
【0150】
前記Rにおいて、ヒドロキシアルキル基は、好ましくは、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
【0151】
モノカルボン酸は、好ましくは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられ、
ヒドロキシカルボン酸は、好ましくは、グリコール酸、乳酸等が挙げられる。
【0152】
揮発性、有害性及び分解性の観点から、Rは、水素原子、又はメチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等が好ましく、水溶性、及び臭気の観点からメチル基が好ましい。
【0153】
揮発性、有害性及び分解性の観点から、モノカルボン酸は、ギ酸、酢酸等が好ましく、ヒドロキシカルボン酸は、グリコール酸、乳酸等が好ましい。
【0154】
水溶性、及び臭気の観点から酢酸が特に好ましい。
【0155】
有機酸は、単独で用いる事も出来、2種以上を組合せて用いる事も出来る。
【0156】
従来のチタニア分散液においては分散剤を使用しなければ均一な分散液を得る事が出来なかった事から、本発明においても、分散剤を加えても良いが、分散剤を加えなくても通常のチタニアナノ粒子より遥かに分散性の良い分散液が得られる。
【0157】
分散性が良い結果、コーティングの耐クラック性にも優れる。また、分散剤を加えなくても良い結果、緻密なチタニアのコーティングが可能になる。
【0158】
本発明のチタニア分散液においては、溶媒である水の含有量をコーティングの容易さ、およびコーティングの膜性の観点から、60重量%以上、特に、75重量%以上とする事が好ましい。
【0159】
チタニアナノ粒子を反応液から取り出し、溶媒を変更する事も可能である。反応液から遠心分離やろ過膜等により水分を除去し、有機溶媒に置換しても良い。その際、チタニアナノ粒子を乾燥させない事が、分散性、透明性等の観点から好ましい。
【0160】
分散液に使用する有機溶媒としては、アルコール類等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1~6の脂肪族アルコール類の他、α-テルピネオール等の非脂肪族アルコール類;ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ヘキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶媒、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール類等が挙げられる。
【0161】
分散液に使用する有機溶媒は、OH基を有さなくても、チタニア及び他の溶媒(水、アルコール等)との親和性があればよく、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。なかでも、沸点等の観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が好ましい。
【0162】
(4)その他添加剤
本発明の白金ナノ粒子は、合成時の均一性を向上させるため、若しくは使用時に用途に応じて粘度を調整し、例えば、スピンコート、ディップコート、スプレー等に用いる場合は低粘度、刷毛塗り、スキージ法等に用いる場合はそれより粘度を高く調整し、スクリーン印刷に用いる場合は、更に粘度を高く調製し、流動性を抑制することが好ましい。
【0163】
例えば、触媒性を阻害し難いという観点では、シリカやチタニア以外の金属酸化物、もしくは水溶性のセルロース誘導体が挙げられる。
【0164】
水溶性のセルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、メチルセルロース等が例示される。
【0165】
2.光触媒、抗菌材料、抗ウイルス材料、及び抗ウイルスコーティング液
本発明の光触媒は、
白金ナノ粒子、チタニアナノ粒子、及び
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又は-O-Si結合を示す。)
で表されるケイ素化合物を含有し、
比表面積が150m2/g~500m2/gである。
【0166】
本発明の抗菌、及び/又は、抗ウイルス材料は、
白金ナノ粒子、チタニアナノ粒子、及び
一般式(1):
HSi(R1)(R2)(R3) (1)
(式中、R1、R2、及びR3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、水酸基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又は-O-Si結合を示す。)
で表されるケイ素化合物を含有し、
比表面積が150m2/g~500m2/gであり、
可視光、又は暗所で抗菌、及び/又は、抗ウイルス活性を有する。
【0167】
本発明の抗ウイルスコーティング液は、前記抗菌、及び/又は、抗ウイルス材料、及び水を含有する。
【0168】
本発明の抗ウイルスコーティング液は、用途に応じて粘度を調整し、例えば、スピンコート、ディップコート、スプレー等に用いる場合は低粘度に調整する。
【0169】
本発明の抗ウイルスコーティング液は、刷毛塗り、スキージ法等に用いる場合はそれより粘度を高く調整する。
【0170】
本発明の抗ウイルスコーティング液は、スクリーン印刷に用いる場合は、更に粘度を高く調製し、流動性を抑制する事が好ましい。
【0171】
本発明の塗膜は、緻密なコーティングである。
【実施例
【0172】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0173】
本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0174】
[実施例1]
塩化白金(VI)酸六水和物2.655gに水を加え100gとした(100g中Pt原子が1g溶解)。
【0175】
この溶液5gとヒドロキシプロピルセルロース10重量%溶液5gと水35.75gと酢酸3gを、室温(25℃)で混合した処、淡黄色の溶液が得られた。
【0176】
この溶液にHSi(OEt)3を1.25g加え攪拌した処、30分以内に液が濃褐色に変色し白金ナノ粒子の生成が認められた為、攪拌を止めた。
【0177】
[実施例2]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え15分撹拌し、水を550g加えた。この分散液のpHは2.5であった。
【0178】
半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行った処、60℃で沈殿が全て溶解した。
【0179】
その後、常圧(0.1MPa)で、80℃で、5時間撹拌した後、反応液に水を加え、合計800gに調製した。
【0180】
超音波をかけた処、無機強酸を使用せずとも、半透明の均一なチタニア分散液が得られた。
【0181】
前記チタニア分散液500gに水500gを加え、1,000gとした。
【0182】
塩化白金(VI)酸六水和物2.655gに水を加え100gとし(100g中Pt原子が1g溶解)、チタニア分散液1,000gに対して75g加えた。
【0183】
更に、HSi(OEt)3を60g加え攪拌した処、直ぐに液が濃灰色となり白金ナノ粒子とチタニアの複合体が生成した。
【0184】
[実施例3]
HSi(OEt)3を6.0g加える以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0185】
20分後に液が濃灰色となり、白金ナノ粒子とチタニアの複合体が生成した。
【0186】
[実施例4]
塩化白金(VI)酸六水和物溶液を50g、HSi(OEt)3を4.0g加える以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0187】
30分後に濃灰色となり、白金ナノ粒子とチタニアの複合体が生成した。
【0188】
[実施例5]
塩化白金(VI)酸六水和物溶液を25g、HSi(OEt)3を2.0g加える以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0189】
30分後に濃灰色となり、白金ナノ粒子とチタニアの複合体が生成した。
【0190】
図1~5
図1は、実施例5のTEM画像を示す。3nm~5nmのチタニア1次粒子の中に、約5nmのPt粒子(中央黒色粒子)が生成している事がわかる。
【0191】
図2は、実施例5のTEM画像を示す。約3nmのPt粒子(中央黒色粒子)が生成している事がわかる。
【0192】
図3は、実施例5のTEM画像を示す。約4nmの粒子AはPtナノ粒子であり、重なり合っている粒子BはTiO2ナノ粒子である。
【0193】
図4は、図3における粒子AのTEM-EDSスペクトルである。一部、Tiが検出されているが、主に、Ptが検出されている。
【0194】
図5は、図3における粒子Bのピークである。僅かに、Ptが検出されているが、主に、TiとOとが検出されている。
【0195】
[実施例6]
塩化白金(VI)酸六水和物溶液を12.5g、HSi(OEt)3を1.0g加える以外は、実施例2と同様に実験を行った。
【0196】
60分後に濃灰色となり、白金ナノ粒子とチタニアの複合体が生成した。
【0197】
実施例3~6で得られた液を50mm角のガラス基板に1,000rpm×60秒の条件で3回スピンコートした処、透明な塗膜が得られた。
【0198】
この試験片に対して、JIS R 1756に準ずる方法で抗ウイルス性を評価した(条件:可視光照度2,000Lx×7時間)。
【0199】
その結果、抗ウイルス活性値は5.3以上(99.9995%以上不活性化)であり、高い抗ウイルス性が確認できた。
【0200】
また、同様に暗所においても抗ウイルス性を評価した処、抗ウイルス活性値は5.0以上(99.999%以上不活性化)であり、高い抗ウイルス性が確認できた。
【0201】
[比較例1]
HSi(OEt)3を加えない以外は、実施例6と同様に実験を行った。
【0202】
24時間攪拌しても液に変化は見られず、淡黄色のままで、白金ナノ粒子は生成しなかった。
【0203】
[比較例2]
HSi(OEt)3を加えずに80℃加熱する以外は、実施例6と同様に実験を行った。
【0204】
10時間攪拌しても液に変化は見られず、淡黄色のままで、白金ナノ粒子は生成しなかった。
【0205】
[比較例3]
HSi(OEt)3の代わりにギ酸8gを加える以外は、実施例6と同様に実験を行った。
【0206】
24時間攪拌しても液に変化は見られず、淡黄色のままで、白金ナノ粒子は生成しなかった。
【0207】
その後、80℃に加熱しても変化はなかった。
【0208】
[比較例4]
HSi(OEt)3の代わりにアセトアルデヒド8gを加える以外は、実施例6と同様に実験を行った。
【0209】
24時間攪拌しても液に変化は見られず、淡黄色のままで、白金ナノ粒子は生成しなかった。
【0210】
その後、80℃に加熱しても変化はなかった。
【0211】
[比較例5]
HSi(OEt)3の代わりにヒドロキノン0.4gを加える以外は、実施例6と同様に実験を行った。
【0212】
24時間攪拌しても液に変化は見られず、淡黄色のままで、白金ナノ粒子は生成しなかった。
【0213】
その後、80℃に加熱しても変化はなかった。
【0214】
[比較例6]
HSi(OEt)3の代わりにタンニン酸0.4gを加える以外は、実施例6と同様に実験を行った。
【0215】
24時間攪拌しても液に変化は見られず、タンニン酸由来のオレンジ色のままで、白金ナノ粒子は生成しなかった。
【0216】
その後、80℃に加熱しても変化はなかった。
図1
図2
図3
図4
図5