(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】掘削装置及び掘削方法
(51)【国際特許分類】
E21B 11/00 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
E21B11/00 A
(21)【出願番号】P 2021103172
(22)【出願日】2021-06-22
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521273879
【氏名又は名称】エムジェイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】岩月 章浩
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】乾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】宮内 良
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智之
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】村上 麻優子
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠介
(72)【発明者】
【氏名】恒成 勇貴
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-097936(JP,A)
【文献】特開2000-274175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドと前記ロッドの下部に取り付けられた掘削ヘッドとを含み、前記ロッドを当該ロッドの中心軸線回りに回転させつつ下降させることにより、地盤を上下方向に掘削して掘削孔を形成する掘削装置において、
前記掘削ヘッドは、
前記ロッドの外周面における下端側の所定長に亘る部分である下端側外周面を囲むように設けられる円筒状のケーシングと、
前記ケーシングを前記ロッドに固定する複数の板状部材であって、それぞれが前記上下方向について所定の板幅を有し且つ前記下端側外周面における下端側の部分から前記ケーシングの内周面における下端側の部分まで延在する、前記複数の板状部材と、
前記複数の板状部材のそれぞれの下端に設けられる複数の掘削ビットであって、それぞれのビット先端が前記ケーシングの下端より下方に位置する、前記複数の掘削ビットと、
前記複数の板状部材のうちのロッド周方向に互いに隣り合う板状部材の間の領域において互いに間隔をあけて設けられる弾性を有した複数の線状部材と、
を含む、
掘削装置。
【請求項2】
前記掘削孔内に安定液を供給し、前記地盤の掘削により生じた掘削土砂を安定液と一緒に前記掘削孔外に排出し、当該排出された安定液を再び前記掘削孔内に供給して循環させる循環ユニットを更に含み、
前記ロッドは、筒状に形成されており、
前記循環ユニットは、前記安定液を前記ロッドの上端に供給して前記ロッドの下端から吐出させる安定液供給ポンプと、前記掘削孔内の掘削土砂と安定液からなる泥水を前記掘削孔の孔口側から吸引する泥水吸引ポンプとを有する、請求項1に記載の掘削装置。
【請求項3】
前記複数の掘削ビットは、それぞれの前記ケーシングの下端からの突出長を互いに合わせて配置されている、請求項1又は2に記載の掘削装置。
【請求項4】
前記複数の線状部材は、前記領域において、前記上下方向について前記ビット先端側に寄せた位置に配置されている、請求項1~3のいずれか一つに記載の掘削装置。
【請求項5】
前記線状部材は、ワイヤーロープである、請求項1~4のいずれか一つに記載の掘削装置。
【請求項6】
前記掘削ヘッドは、前記ケーシングの内周面に接続される一端部と前記複数の線状部材のうちの少なくとも一本を下方から支持する他端部とを有し、且つ、弾性を有した線状の支持部材を含む、請求項1~5のいずれか一つに記載の掘削装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一つに記載の掘削装置を用いて地盤を掘削する掘削方法であって、
前記地盤の掘削中に前記地盤内の障害物を前記複数の線状部材の間にめり込ませることによって、前記障害物を前記ケーシングの内部に回収する、掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を上下方向に掘削して掘削孔を形成する掘削装置及び当該掘削装置を用いて地盤を掘削する掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の掘削装置は、ロッドと当該ロッドの下部に取り付けられた掘削ヘッドとを含み、ロッドをその中心軸線回りに回転させつつ下降させることにより、地盤を上下方向に掘削して掘削孔を形成する。
【0003】
前記掘削ヘッドの一例としては、特許文献1に記載された掘削ヘッドが知られている。この特許文献1に記載された掘削ヘッドは、孔壁安定化用の安定液と掘削土砂を逆循環流によりリバース管を通じて地上に排出するトップドライブリバース工法(TBH工法)に用いられ、掘削対象地盤に多少の礫が存在していても掘削を継続して行い得る礫対応型掘削ヘッドである。この掘削ヘッドは、リバース管の先端に連結される接続管を上部に備えたケーシング管と、ケーシング管の先端部(下端部)に固定されるとともに複数のビットをそれぞれ有する3枚の掘削翼と、ケーシング管内に設けられる複数の弾性線状部材と、を含む。各弾性線状部材の基端部はケーシング管の内壁側に支持されている。そして、各弾性線状部材は、ケーシング管の径方向内側に向かって突出しており、掘削中に礫に遭遇した場合に礫をケーシング管内に保持し得るように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された掘削ヘッドでは、複数の弾性線状部材が3枚の掘削翼の上方に位置している。そのため、ビットの衝突によって地盤から飛び出た礫等の障害物が複数の弾性線状部材の上方の領域まで移動してケーシング管内に保持されるためには、障害物は、互いに隣り合う掘削翼の間の領域を通過した後に、さらに各弾性線状部材の間の隙間を通過して掘削翼の上方の各弾性線状部材を超える高さ位置まで移動(上昇)しなければならない。つまり、障害物がケーシング管内に保持されて取り込まれるためには、障害物は掘削翼の上端端よりも上方の弾性線状部材を超える高さ位置まで上昇しなければならない。そのため、障害物が十分に上昇せずにケーシング管内へ取り込まれない場合があり、その工夫が求められ得る。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑み、地盤内に存在し得る礫等の障害物をケーシング内に効果的に取り込みつつ地盤を掘削することができる掘削装置及び掘削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対して、本発明の一側面によると、ロッドと前記ロッドの下部に取り付けられた掘削ヘッドとを含み、前記ロッドを当該ロッドの中心軸線回りに回転させつつ下降させることにより、地盤を上下方向に掘削して掘削孔を形成する掘削装置が提供される。この掘削装置の前記掘削ヘッドは、円筒状のケーシングと、前記ケーシングを前記ロッドに固定する複数の板状部材と、前記複数の板状部材のそれぞれの下端に設けられる複数の掘削ビットと、弾性を有した複数の線状部材と、を含む。前記ケーシングは、前記ロッドの外周面における下端側の所定長に亘る部分である下端側外周面を囲むように設けられる。前記複数の板状部材は、それぞれが前記上下方向について所定の板幅を有し且つ前記下端側外周面における下端側の部分から前記ケーシングの内周面における下端側の部分まで延在する。前記複数の掘削ビットは、それぞれのビット先端が前記ケーシングの下端より下方に位置する。前記複数の線状部材は、前記複数の板状部材のうちのロッド周方向に互いに隣り合う板状部材の間の領域において互いに間隔をあけて設けられる。
【0008】
本発明の他の側面によると、前記一側面による前記掘削装置を用いて地盤を掘削する掘削方法が提供される。この掘削方法は、前記地盤の掘削中に前記地盤内の障害物を前記複数の線状部材の間にめり込ませることによって、前記障害物を前記ケーシングの内部に回収する。
【発明の効果】
【0009】
前記一側面による掘削装置によれば、ロッドの下端側外周面を囲むように設けられる円筒状のケーシングをロッドに固定する複数の板状部材のそれぞれは上下方向について所定の板幅を有し且つ前記下端側外周面における下端側の部分から前記ケーシングの内周面における下端側の部分まで延在しており、複数の板状部材のそれぞれの下端に設けられる複数の掘削ビットのそれぞれのビット先端はケーシングの下端より下方に位置している。これにより、各板状部材の下端の複数の掘削ビットによる掘削により生じた掘削土砂は、複数の板状部材のうちのロッド周方向に互いに隣り合う板状部材の間の領域を通じて、ケーシング内における複数の板状部材よりも上方の領域に導かれることになる。そして、弾性を有した複数の線状部材は互いに隣り合う板状部材の間の領域において互いに間隔をあけて設けられる。そのため、掘削ビットの衝突によって地盤から飛び出た礫等の障害物が複数の線状部材の上方の領域まで移動してケーシング内に保持されるためには、障害物は、互いに隣り合う板状部材の間の領域において各線状部材の間の隙間を通過して線状部材を超える高さ位置まで移動(上昇)すればよい。つまり、障害物がケーシング内に取り込まれるために必要な障害物の上昇高さは従来よりも低くなり得るように構成されている。そのため、障害物が上昇し難い場合であっても、障害物がケーシング内へ容易に取り込まれ得るようになる。
【0010】
前記他の側面による掘削方法によれば、前記一側面による前記掘削装置を用いて地盤を掘削する掘削方法が提供され、地盤の掘削中に地盤内の障害物を複数の線状部材の間にめり込ませることによって、障害物をケーシングの内部に回収する。これにより、障害物が上昇し難い場合であっても、障害物がケーシング内へ容易に取り込まれ得るようになる。
【0011】
このようにして、地盤内に存在し得る礫等の障害物をケーシング内に効果的に取り込みつつ地盤を掘削することができる掘削装置及び掘削方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る掘削装置の概略の構成を示す図であり、掘削孔形成予定領域を含む地盤の断面図でもある。
【
図2】前記掘削装置により形成された掘削孔の用途を説明するための図である。
【
図4】前記掘削装置の掘削ヘッドの内部構造を説明するための概略断面図である。
【
図6】前記掘削装置を用いた掘削方法を含む杭構築方法を説明するための概念図である。
【
図7】前記杭構築方法を説明するための別の概念図である。
【
図8】掘削孔の孔底のスライム層について説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る掘削装置及びこれを用いて地盤を掘削する掘削方法の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る掘削装置100の概略構成を示す図であり、掘削孔形成予定領域を含む地盤の断面図でもある。
図2は掘削装置100により形成された掘削孔の用途を説明するための図であり、
図3は
図2に示すA-A線断面図である。
【0014】
掘削装置100は、地盤を上下方向(具体的には、鉛直方向)に掘削して、地盤に鉛直方向に延伸する掘削孔Hを形成するボーリングマシンである。
【0015】
図1に示すように、本実施形態では、掘削装置100は、地中に設けられた既設構造物T(例えば、地中に埋設された鉄道車両の通行のためのトンネル構造体)の直下において既設構造物Tを横切るように設けられた導坑D内に設置され、この導坑Dの床部から鉛直方向に地盤内を掘削して掘削孔Hを形成する場合を一例に挙げて、以下説明する。
【0016】
本実施形態では、掘削装置100により形成された掘削孔Hは、既設構造物Tを下方から支持する仮設杭P1(
図2及び
図3参照)を構築するための孔として用いられる。本実施形態に係る掘削装置100を用いて地盤を掘削する掘削方法は、仮設杭P1を構築する杭構築方法における掘削工程に適用されるものとする。
【0017】
既設構造物Tは、例えば、地中において概ね水平方向に延伸している。仮設杭P1は、例えば、既設構造物Tの一部の区間の直下に地下空間を構築する際に、既設構造物Tを下方から支持する仮設の下受杭として用いられる。導坑Dは既設構造物Tの延伸方向に隣接するように順次設けられ、仮設杭P1は各導坑Dの延伸方向に間隔をあけた複数の箇所(図では2箇所)に構築される。そのため、掘削孔Hは、仮設杭P1の構築予定箇所毎に形成される。つまり、本実施形態では、掘削孔H及び杭の施工場所の上方には、既設構造物Tが存在している。
【0018】
また、本実施形態では、掘削孔形成予定領域を含む地盤は、地表側に位置する上層G1と、上層G1の下方に位置する中間層G2と、中間層G2の下方に位置する支持層G3とを含む。上層G1は砂質土や粘性土を含み、中間層G2は礫や玉石を多量に含んだ層であり、支持層G3は適切な強度を有するものとする。また、本実施形態では、掘削孔Hは、その孔底が支持層G3に到達するように形成されるものとする。
【0019】
まず、掘削装置100の構成について、
図1、
図4及び
図5を参照して、以下に説明する。
図4は掘削装置100の後述する掘削ヘッド30の内部構造を説明するための概略の断面図であり、
図5は掘削ヘッド30の下面図である。なお、
図4は
図5に示すB-B’線に沿った概略の断面図である。
【0020】
図1に示すように、掘削装置100は、ロッド20を当該ロッド20の中心軸線X回りに回転させつつ下降させることにより、地盤を上下方向(ここでは鉛直方向)に掘削して掘削孔Hを形成するように構成された、いわゆる単軸穿孔機であり、装置本体10と、ロッド20と、ロッド20の下部に取り付けられた掘削ヘッド30と、を含む。
【0021】
本実施形態では、掘削装置100は、掘削孔H内に安定液を供給し、地盤の掘削により生じた掘削土砂を安定液と一緒に掘削孔H外に排出し、当該排出された安定液を再び掘削孔H内に供給して循環させる循環ユニット40を更に含む。安定液は、孔壁の安定化(孔壁の崩壊の防止)のために掘削中に掘削孔H内に供給されるものであり、その比重や粘性が適宜に調製されている。安定液の循環方式としては、一般的に、いわゆる正循環式と逆循環式があり、本実施形態では、正循環式が採用されている。
【0022】
具体的には、掘削装置100は、安定液を正循環させつつ地盤を掘削するロータリーボーリング工法(BH工法)により掘削孔Hを形成するように構成されている。この正循環式のBH工法では、ロッド20の下端から安定液を吐出させることによってロッド20と掘削孔Hとの間の空間に上昇流を発生させ、この上昇流により掘削土砂と安定液からなる泥水を孔口に向かって上昇させて掘削孔H外に排出する。そして、BH工法では、掘削孔H外に排出した泥水に対して掘削土砂と安定液への分離処理を行い、分離後の安定液を再びロッド20に供給してロッド20の下端から吐出させ、これにより安定液を掘削孔H内と掘削孔H外との間で循環させている。
【0023】
装置本体10は、ロッド20をその中心軸線X回りに回転させると共に中心軸線Xに沿って昇降可能に把持するロッド駆動機11を有する。装置本体10は、ここでは、既設構造物Tの直下に設けられた導坑D内に設置される。
【0024】
ロッド20は、鉛直方向に延伸する姿勢でロッド駆動機11に把持される。ロッド20は、BH工法の安定液を掘削孔Hに供給するための供給管としての機能も有しており、筒状に形成されている。
【0025】
ロッド20は、円筒状の先端ロッド管21と、この先端ロッド管21の先端部(下端部)に設けられる中心掘削ビット22と、先端ロッド管21の基端部側(上端部側)に順次継ぎ足される適宜本数の円筒状の延長ロッド管23とから成る。
【0026】
ロッド20の上端側の部分は地面(ここでは、導坑Dの床部)から突出してロッド駆動機11によって把持されている。先端ロッド管21と延長ロッド管23との間、及び、各延長ロッド管23,23間は適宜継手を介して接続される。延長ロッド管23のうち最後に継ぎ足されるものの上端部開口部には、スイベル24が接続される。
【0027】
先端ロッド管21の下端部における周方向の所定の位置には、中心板25(
図4及び
図5参照)が取り付けられている。中心板25は、先端ロッド管21の管壁を貫通するようにロッド径方向に延伸している。中心板25の下端部は、先端ロッド管21の下端面より下方に突出しており、この中心板25の下端部に、複数(図では3個)の中心掘削ビット22が取り付けられる。中心掘削ビット22の刃先はケーシング31(ロッド20)の回転方向Rに向けられており、各中心掘削ビット22は掘削孔Hの径方向中央に対応する地盤部分の掘削に用いられる。
【0028】
掘削ヘッド30は、円筒状のケーシング31と、ケーシング31をロッド20に固定する複数の板状部材32と、複数の主掘削ビット33と、を含む。本実施形態において、複数の主掘削ビット33が本発明に係る「複数の掘削ビット」に相当する。
【0029】
ケーシング31は、ロッド20(先端ロッド管21)の外周面における下端側の所定長に亘る部分である下端側外周面20aを囲むように設けられる。ケーシング31の下端面のロッド20の延伸方向についての位置は、ここでは、ロッド20の下端面に対応する位置に合わせられている。つまり、ケーシング31の下端面の上下方向の位置は側面視(
図4参照)でロッド20の下端面の上下方向の位置と一致しており、ケーシング31及びロッド20は、それぞれの下端面の上下方向の位置を互いに揃えるように配置されている。ケーシング31の下端面には、複数(図では6個)の外側掘削ビット34が設けられている。複数の外側掘削ビット34は互いにケーシング31の周方向に離隔しており、それぞれの刃先はケーシング31(ロッド20)の回転方向Rに向けられている。また、ケーシング31は、ここでは、適宜の厚み(例えば、数mm~30mm程度)の鋼管材からなる。ケーシング31の外径は、形成する掘削孔Hの孔径に応じて適宜に設定される。ケーシング31の上端開口は、ロッド20(先端ロッド管21)が貫通する孔を有した円板状のカバー35によって閉止されている。ケーシング31の上端側の部分は、カバー35を介してロッド20に固定されている。
【0030】
複数の板状部材32は、それぞれが上下方向(鉛直方向)について所定の板幅を有し且つ下端側外周面20aにおける下端側の部分からケーシング31の内周面31aにおける下端側の部分まで延在する。
【0031】
具体的には、複数(ここでは、3枚)の板状部材32は、先端ロッド管21とケーシング31との間の領域において先端ロッド管21を中心とした放射状に配置されている。つまり、各板状部材32は下端側外周面20aからケーシング31の内周面31aに向かって延伸しており、ロッド20の外周面(下端側外周面20a)に接続される一端部と、ケーシング31の内周面31aに接続される他端部とを有する。そして、複数の板状部材32は、ロッド周方向に等間隔に設けられている。各板状部材32は、概ね矩形状に形成され、所定の板厚を有している。各板状部材32は、矩形の二つの長辺部のうちの一方が概ね下方に向いており、各板状部材32の矩形の一方の短辺部がロッド20の外周面に接続され、矩形の他方の短辺部がケーシング31の内周面31aに接続されている。そして、各板状部材32は、その短辺部が中心軸線Xに対して所定の角度(例えば、20~30度程度)だけ傾いた状態でロッド20に接続されている。
【0032】
複数の主掘削ビット33は、複数の板状部材32のそれぞれの下端に設けられ、それぞれのビット先端がケーシング31の下端より下方に位置する。
【0033】
具体的には、複数(ここでは、3個)の主掘削ビット33は各板状部材32における下側の長辺部(つまり、下端面)に設けられている。複数の主掘削ビット33は、下端面において互いに離隔しており、それぞれの刃先はケーシング31(ロッド20)の回転方向Rに向けられている。
【0034】
図1に戻って、循環ユニット40は、安定液タンク41と、安定液供給ポンプ42と、泥水吸引ポンプ43と、を有し、装置本体10の周辺に設置される。
【0035】
安定液タンク41は、水より大きい密度を有する適宜の安定液を貯留するものである。安定液としては、例えば、水、ベントナイト、CMC及び分散剤を適宜に配合したものが用いられる。なお、以下では、安定液は水より大きい密度を有する場合を一例として挙げて説明するが、これに限らず、安定液として水を使用してもよい場合もある。
【0036】
安定液供給ポンプ42は、安定液タンク41内に設けられ、安定液供給管L1を介して安定液を掘削孔H内に供給するものであり、安定液をロッド20の上端に供給してロッド20の下端から吐出させる。
【0037】
泥水吸引ポンプ43は、掘削孔H内において安定液と掘削土砂とからなる泥水を掘削孔Hから泥水排出管L2を介して排出するものであり、泥水を掘削孔Hの孔口側から吸引する。掘削孔形成予定領域(仮設杭P1の構築予定箇所)には、予め口元管44及び排泥ピット45が設けられる。口元管44は、鋼管からなり、掘削孔Hの形成予定領域における地面(ここでは、導坑Dの床部)から地盤に建て込まれる。口元管44は掘削孔Hの孔径よりも大きい直径(例えば、掘削孔Hの孔径が650mmの場合、口元管44の直径は800mm程度)を有し、口元管44の長さは例えば1m程度である。排泥ピット45は口元管44の近傍に設けられている。口元管44の内部及び排泥ピット45は例えば人力で掘削され、排泥ピット45は口元管44の上端部の切り欠きを通じて口元管44の内側の空間と連通している。そして、泥水吸引ポンプ43は排泥ピット45に設置され、泥水(排泥)をポンプアップできるようになっている。
【0038】
掘削装置100を作動させて掘削孔Hを形成するときには、まず、掘削孔形成予定領域の上方に掘削ヘッド30が位置する状態にて、ロッド駆動機11を駆動させて、ロッド20を回転させつつ下降させる。このロッド20の回転及び下降に応じて、各ビット(22,33,34)により地盤の掘削が行われて、掘削孔Hが形成され始める。そして、延長ロッド管23が順次継ぎ足され、ロッド20は、各ビット(22,33,34)が支持層G3を貫入するまで下降される。これにより、
図1に示すように、導坑Dの床部から支持層G3に達する掘削孔Hが形成される。
【0039】
掘削装置100は、地盤の掘削に並行して、安定液を安定液供給ポンプ42により安定液供給管L1、スイベル24及びロッド20を経由してロッド20の下端から掘削孔H内に供給する。スイベル24は、ロッド駆動機11により回転駆動されるロッド20の上端開口部から継続して安定液をロッド20内に導けるように、ロッド20の上端に接続可能に構成されている。そして、ロッド20の下端から安定液が吐出することにより、ロッド20と掘削孔Hとの間の円環状の空間には、上昇流が発生している。掘削孔H内の掘削土砂と安定液からなる泥水は、前記上昇流により、孔口に向かって上昇して口元管44、排泥ピット45、泥水吸引ポンプ43、泥水排出管L2を介して、安定液タンク41の上方に設けられる1次スクリーンS1に導かれることで、掘削孔H外に排出される。
【0040】
1次スクリーンS1は、比較的に粗いスクリーンであり、泥水吸引ポンプ43から泥水排出管L2を介して送られてきた泥水から、比較的に粒径の大きい土砂を抽出する。1次スクリーンS1を通って粒径の大きい土砂が取り除かれた泥水は、安定液タンク41内に落ちる。一方、1次スクリーンS1によって捕らえられた粒径の大きい土砂は、残土タンク46内に収容される。
【0041】
2次スクリーンS2は、比較的に細かいスクリーンであり、1次スクリーンの上方に配置されている。2次スクリーンは、2次スクリーン管L3及び図示を省略したポンプを介して送られてきた安定液タンク41内の泥水から、比較的に粒径の小さい土砂を抽出する。2次スクリーンを通って比較的に粒径の小さい土砂が取り除かれた泥水は、さらに1次スクリーンS1を通って、安定液タンク41内に落ちる。2次スクリーンS2によってとらえられた比較的に粒径の小さい土砂は、残土タンク46内に収容される。
【0042】
サイクロンスクリーンS3は、遠心分離方式により、2次スクリーンS2より粒径の小さい土砂を抽出可能に構成されたものである。サイクロンスクリーンS3は、サイクロンスクリーン管L4及び図示を省略したポンプを介して送られてきた安定液タンク41内の泥水から、さらに粒径の小さい土砂を抽出する。サイクロンスクリーンS3を通って前記さらに粒径の小さい土砂が取り除かれた泥水は、さらに2次スクリーンS2と1次スクリーンS1とを通って、安定液タンク41内に落ちる。一方、サイクロンスクリーンS3によって抽出された土砂は、残土タンク46内に収容される。このように、循環ユニット40は、安定液と掘削土砂とからなる泥水から安定液を回収することができるようになっている。そして、回収された安定液は、再び掘削孔H内に供給され、以降、安定液タンク41と掘削孔Hとの間で循環される。
【0043】
このようにして、掘削装置100は、掘削孔Hの形成時に、掘削孔H内に安定液を供給し、地盤の掘削により生じた掘削土砂を安定液と一緒に掘削孔H外に排出し、この排出された安定液を再び掘削孔H内に供給して循環させるように構成されている。
【0044】
ここで、本実施形態のように掘削孔形成予定領域を含む地盤に、礫や玉石を多量に含む礫層(中間層G2)が存在する場合がある。そのため、掘削装置100は、掘削中に礫層に遭遇した場合に、掘削を効率的に行い得るように、掘削ヘッド30において以下の構造を備えている。
【0045】
図4及び
図5に示すように、掘削ヘッド30は、複数の板状部材32のうちのロッド周方向に互いに隣り合う板状部材32の間の領域Sにおいて互いに間隔をあけて設けられる弾性を有した複数の線状部材36を含んで構成されている。
【0046】
互いに隣り合う板状部材32の間の領域Sは、隣り合う二枚の板状部材32とケーシング31とにより囲まれた扇状断面を有した空間として設けられている。本実施形態では、掘削ヘッド30は、3枚の板状部材32を有しているため、3つの領域Sが設けられており、概ねこれらの領域S毎に複数の線状部材36が設けられている。特に限定されるものではないが、図では、4本の線状部材36が領域S毎に設けられており、掘削ヘッド30は、合計で12本の線状部材36を有している。なお、線状部材36の本数は、形成予定の掘削孔Hの径(削孔径)に応じて設定され、4本に限らず、適宜に増減され得る。
【0047】
具体的には、複数の線状部材36は、各領域Sにおいて、ロッド20の中心軸線Xと概ね直交する方向(略水平方向)に延伸した姿勢で、互いに略水平方向に間隔をあけて並列するように配置されている。隣り合う線状部材36同士の間隔は、予測され得る礫や玉石等の径に応じて設定され、特に限定されるものではないが、ここでは、50mm程度であるものとする。
【0048】
ここでは、領域S毎の4本の線状部材36は、ロッド径方向について中心側に位置する2本の第1線状部材36aと第1線状部材36aよりもロッド径方向について外側に位置する2本の第2線状部材36bとに区分される。各領域Sにおいて、第1線状部材36aの一端部はケーシング31の内周面31aのうちの当該領域Sを構成する部分に接続され、第1線状部材36aの他端部は当該領域Sを構成する2枚の板状部材32のうちの一方の板状部材32の側面に接続されている。そして、各領域Sにおいて、第1線状部材36aの前記一端部と同方向に位置する第2線状部材36bの一端部はケーシング31の内周面31aのうちの当該領域Sを構成する部分に接続され、第2線状部材36bの他端部は前記一方の板状部材32を貫通するとともにケーシング31の内周面31aのうちの当該領域Sに隣接する別の領域Sを構成する部分に接続されている。このように複数の線状部材36が設けられることによって、掘削ヘッド30内の下端側の領域に障害物回収用ネットNが構築されている。
【0049】
本実施形態では、複数の線状部材36は、領域Sにおいて、上下方向(鉛直方向)についてビット先端側に寄せた位置に配置されている。つまり、複数の線状部材36を含む障害物回収用ネットNは、領域S内において主掘削ビット33の下端部の近傍に配置されている。
【0050】
本実施形態では、各線状部材36はワイヤーロープである。具体的には、各線状部材36は、心綱の回りに複数本のスランドがより合わされてなるワイヤーロープであり、10mm~40mm程度の所定の外径(外接円の直径)を有している。前記スランドは複数本の素線(鋼線)をより合わせてなるものである。
【0051】
本実施形態では、複数の主掘削ビット33は、それぞれのケーシング31の下端からの突出長d1を互いに合わせて配置されている。つまり、各主掘削ビット33の下端とケーシング31の下端との間の上下方向の距離(突出長d1)がそれぞれ同じ距離(突出長)になるように設定されている。このように、掘削孔Hの孔底を形成する主なビットである各主掘削ビット33の突出長d1が揃えられているため、掘削孔Hの孔底はケーシング31の下端面と平行な平坦な面(換言すると、回転中心線Xと直交する面又は水平な面)として形成される。
【0052】
このように突出長d1を揃えて配列された主掘削ビット33との関係では、複数の線状部材36を含む障害物回収用ネットNは、主掘削ビット33の下端から上方に所定距離Lの範囲内(例えば、概ね50mm以内)に配置されている。
【0053】
本実施形態では、ケーシング31の下端面に設けられる複数の外側掘削ビット34についてのケーシング31の下端(下端面)からの突出長d2は互いに合わせられ、且つ、主掘削ビット33の突出長d1と一致している。そして、中心掘削ビット22の下端は主掘削ビット33及び外側掘削ビット34の下端よりも下方に位置している。したがって、中心掘削ビット22は、掘削の際に、最初に地盤に食い込み、掘削孔Hの掘削の際のセンタリング機能を有している。また、中心掘削ビット22は安定液の噴出口であるロッド20の下端開口の下方に位置しているため、中心掘削ビット22は噴射口の閉鎖防止機能も有している。
【0054】
本実施形態では、掘削ヘッド30(換言すると、障害物回収用ネットN)は、障害物回収後の線状部材36のたわみ抑制用の線状の支持部材37(
図5参照)を更に含む。線状の支持部材37は、ケーシング31の内周面31aに接続される一端部と複数の線状部材36のうちの少なくとも一本を下方から支持する他端部とを有し、且つ、弾性を有した線状の部材である。支持部材37は、側面視で、例えば、線状部材36の下方で且つケーシング31の下端面の上方に位置している。そして、支持部材37は、例えば、線状部材36と同様に、ワイヤーロープである。特に限定されるものではないが、
図5では、各領域Sにおいて、1本の支持部材37が設けられている。
図5において、支持部材37は2本の線状部材6(第2線状部材36b)を横切るように設けられている。
【0055】
本実施形態では、2本の第2線状部材36bのうちの第1線状部材36a側の第2線状部材36bの前記他端部側の部分は、2本の第1線状部材36aの下方を横切るように延長されており、第1線状部材36aを下方から支持している。したがって、ここでは、第2線状部材36bの一部は、第1線状部材36aのたわみ抑制用の支持部材としての機能を有している。
【0056】
次に、掘削装置100における複数の線状部材36の作用について説明する。
【0057】
掘削ヘッド30がロッド20を介して回転されつつ下降されると、各ビット(22、33、34)によって地盤が削孔されはじめる。この削孔(掘削)により形成された掘削孔Hの平坦な孔底の直上には、複数の線状部材36を含む障害物回収用ネットNが相対しており、この削孔(掘削)により生じた掘削土砂は複数の板状部材32のうちのロッド周方向に互いに隣り合う板状部材32の間の領域Sを通じてケーシング31内における複数の板状部材32(障害物回収用ネットN)よりも上方の領域に導かれる。掘削ヘッド30が礫や玉石等の障害物を多量に含む層(ここでは、中間層G2)に到達すると、礫や玉石は各ビット(22、33、34)から加えられる衝撃力によって孔底(地盤)から飛び出しはじめる。このとき、掘削ヘッド30は回転しつつ下降しているため、孔底から飛び出た礫や玉石は板状部材32の下端部や板状部材32の側面に衝突して不規則に飛翔又は転動する。そして、この状態で、孔底の直上近傍には、複数の線状部材36を含む障害物回収用ネットNが位置していることに加えて、障害物回収用ネットN自体が下降している。そのため、飛翔又は転動した礫や玉石は、孔底から飛び出た直後に複数の線状部材36に衝突して線状部材36を弾性変形させ、その後、互いに隣り合う線状部材36の間にめり込み始める。そして、互いに隣り合う線状部材36の間にめり込んだ礫や玉石は、自身の移動の慣性力により又は別の礫や玉石等による上向きの押圧力によって、互いに隣り合う線状部材36の間の隙間を通過して線状部材36(障害物回収用ネットN)を超える高さ位置まで移動(上昇)する。その後、互いに隣り合う線状部材36の間の間隔は概ね元の間隔に復元する。これにより、孔底から飛び出した礫や玉石が、次々に、ケーシング31におけるカバー35と複数の線状部材36を含む障害物回収用ネットNとの間の空間に取り込まれる。
【0058】
以上のように、掘削装置100は、地盤の掘削中に地盤内の礫や玉石等の障害物を複数の線状部材36の間にめり込ませることによって、礫や玉石等の障害物をケーシング31の内部に回収するように構成されている。なお、ケーシング31の内部に取り込まれた障害物の自重による線状部材36のたわみは、支持部材37によって抑制されている。
【0059】
次に、本実施形態に係る掘削方法を含む杭構築方法について、
図1、
図6及び
図7等を参照して説明する。
【0060】
前記杭構築方法による仮設杭P1の構築予定領域は、
図6(a)に示す既設構造物Tの直下の領域である。ここで、前記杭構築方法による工事に先立って、土留壁設置(
図6(b))、掘削、構造物新設及び覆工(
図6(c))、導坑形成(
図7(d)及び
図7(e))が行われる。具体的には、
図6(b)に示すように、既設構造物Tを間に挟む2枚の土留壁Wが地表から支持層G3まで構築される。その後、
図6(c)に示すように、土留壁Wの間の地盤のうちの既設構造物Tの直下の領域を除く部分の地盤が導坑D(
図7(e))の床部に相当する深度まで掘削されるとともに、既設構造物Tの周囲に構造物としての下部スラブSL1及び上部スラブSL2が新設される。下部スラブSL1は地表側から適宜の工法により構築される本設杭P2よって支持される。そして、地表側の開口は覆工部材Zにより覆工され、覆工部材Zは適宜の仮設支持部材P3によって支持される。続いて、
図7(d)に示すように、既設構造物Tの直下の導坑Dの形成予定領域の地盤を図示省略の小型の油圧ショベル等により掘削しつつ、
図7(d)及び
図7(e)に示すように、例えば、鋼製部材からなる複数の門型枠Fが配置され、各門型枠Fの間に板材が設けられることにより、既設構造物Tの直下における仮設杭P1の構築予定領域に対応する部分に導坑Dが形成される。
【0061】
前記杭構築方法は、仮設杭P1が構築される孔(掘削孔H)を形成する掘削工程と、スライム処理工程と、掘削孔H内に芯材Pmを建て込む建て込み工程と、打設工程とを含む。
【0062】
前記掘削工程では、掘削装置100を用いて地盤を掘削する掘削方法が適用される。この掘削工程(掘削方法)では、まず、導坑D内において、口元管44及び排泥ピット45を設けるとともに、掘削装置100を導坑Dの床部に設置する。そして、掘削装置100を作動させて支持層G3に貫入する所定深度まで地盤を掘削しつつ、安定液を正循環方式で安定液タンク41と掘削孔Hとの間で循環させる。そして、この掘削工程(掘削方法)は、地盤の掘削中に地盤内の礫や玉石等の障害物を複数の線状部材36の間にめり込ませることによって、礫は玉石等の障害物をケーシング31の内部に回収する。
【0063】
前記スライム処理工程は、地盤の掘削により生じて掘削孔H内に浮遊するスライムの量を低減させるための処理を行う工程である。具体的には、掘削孔H内に空気を供給することによって、掘削孔H内のスライムを孔口側に上昇させて掘削孔H外に排出するエアリフト、及び、循環ユニット40を作動させて安定液を循環させることによって、掘削孔H内の液体を良液に置換する良液置換の少なくとも一方が行われる。
【0064】
前記スライム処理工程が実行されることにより、掘削孔H内のスライムの量は低減するが、スライムを完全に除去することは困難である場合が多い。その結果、掘削孔H内に残存して浮遊しているスライムは、その後、沈殿し、掘削孔Hの孔底に残留する。特に、本実施形態のように、安定液をロッド20の下端から吐出させる正循環方式のBH工法の場合には、掘削孔Hの孔壁とロッド20との間の空間に生じた上昇流を用いて、スライムを含む泥水を孔口側に導く方式であるため、BH工法における掘削孔H内のスライム残留量は、ロッド20の下端からスライムを含む泥水を強制的に吸い上げる逆循環方式のTBH工法の場合のスライム残留量よりも多くなる傾向にある。
【0065】
掘削工法としては、本実施形態のようなBH工法の他にTBH工法等があるが、掘削工法は施工場所のスペース、施工コスト及び実績等を考慮して選択され、BH工法を選択せざるを得ない場合もある。
【0066】
図8は掘削孔Hの孔底に沈殿したスライムからなるスライム層m1について説明するための概念図であり、
図8(a)には、本実施形態による掘削装置100により形成された掘削孔Hの平坦な孔底に沈殿したスライム層m1とその上方の良液層m2が示されている。
図8(b)には、比較例の場合の掘削孔Hの孔底の形状とスライム層m1及び良液層m2が示されている。この比較例では、BH工法による掘削装置100の掘削ヘッド30における複数の主掘削ビットは、断面視で概ねV字の配列に配列されているものとする(詳しくは、掘削ヘッド30はいわゆるウイングビット形式のものに変更されている)。つまり、比較例では主掘削ビットの配列のみが本実施形態と異なるだけであり、本実施形態及び比較例のいずれにおいても、掘削工法として同じBH工法が採用されており、スライム処理工程後の掘削孔H内のスライム残留量(容量)は両者とも同じである。したがって、同じBH工法を採用したとしても、本実施形態のように孔底が平坦な場合におけるスライム層m1の厚みt1(
図8(a)参照)は、比較例のように孔底がV字断面を有した場合におけるスライム層m1の厚みt2(
図8(b)参照)よりも小さくなる。
【0067】
前記建て込み工程では、仮設杭P1の芯材Pmを掘削孔H内に建て込む。芯材Pmは、長手方向に複数の部材に分割されており、各部材は適宜の接続部材Cによって接続される。この建て込み工程において、掘削孔H内には、
図8(a)に示すように、安定液(良液層m2)がそのまま満たされている。なお、芯材Pmは、その下端と掘削孔Hの削孔下端である孔底との間に所定の隙間(例えば、500mm程度)が空いた状態で、その頂部(上端部)が導坑D内において仮固定される。つまり、芯材Pmの下端が沈下抑制のため良液層m2内に位置しスライム層m1を避けるように、芯材Pmの上端部が仮固定されている。
【0068】
前記打設工程では、例えば、掘削孔H内に安定液が満たされた状態で、掘削孔H内に注入管(トレミ管)をその下端部が掘削孔Hの孔底の手前に位置するように建て込む。そして、本実施形態では、この注入管の下端部開口からモルタルを掘削孔H内に供給することにより、モルタルを孔底から孔口側に向かって打ち上げつつ、モルタルの打ち上がりに合わせて、注入管を図示省略の小型クレーン等によって引き揚げる。この時、注入管はその下端部開口(筒先)がモルタル内に入った状態で、引き揚げられる。このモルタルの打ち上がり(打設)に伴って孔口からあふれて排泥ピット45に溜まった泥水は、泥水吸引ポンプ43によって吸引されて掘削孔H外に排出される。そして、
図1に示すように、掘削孔H内全体にモルタルが打設される。これにより、既設構造物Tの直下に、下受杭としての仮設杭P1が構築される。その後、導坑D内の残りの仮設杭P1についての前述の各工程を繰り返して実行することにより、同じ導坑D内の仮設杭P1の構築が完了する。そして、以上の工程を導坑D毎に実行することにより、既設構造物Tの直下の複数の導坑Dに亘る領域における複数の仮設杭P1の構築が完了する。
【0069】
なお、本実施形態では、各仮設杭P1の上方には、例えば、下受桁Kが下部スラブSL1から仮設杭P1の上方に張り出すように構築されており、この下受桁Kと既設構造物Tの下面との間には、油圧ジャッキからなるジャッキJが設置されている。これらにより、仮設杭P1への先行載荷試験を実行できるように構成されている。この先行載荷では、ジャッキJを作動させることによって、仮設杭P1に所定の下向き荷重を付加して仮設杭P1を予め沈下させる。これにより、掘削孔Hの孔底に残留した僅かなスライム層m1が予め押し押し潰され、杭の沈下リスクを効果的に低減させている。
【0070】
かかる本実施形態による掘削装置100によれば、弾性を有した複数の線状部材36は互いに隣り合う板状部材32の間の領域Sにおいて互いに間隔をあけて設けられる。そのため、各板状部材32の下端に設けられる主掘削ビット33の衝突によって地盤から飛び出た礫等の障害物が複数の線状部材36の上方の領域まで移動してケーシング31内に保持されるためには、障害物は、互いに隣り合う板状部材32の間の領域Sにおいて各線状部材36の間の隙間を通過して線状部材36を超える高さ位置まで移動(上昇)すればよい。つまり、障害物がケーシング31内に取り込まれるために必要な障害物の上昇高さは先行技術文献1よりも低くなり得るように構成されている。そのため、障害物が上昇し難い場合であっても、障害物がケーシング31内へ容易に取り込まれ得るようになる。
【0071】
そして、本実施形態による掘削方法によれば、掘削装置100を用いて地盤を掘削する掘削方法が提供され、地盤の掘削中に地盤内の障害物を複数の線状部材36の間にめり込ませることによって、障害物をケーシング31の内部に回収する。これにより、障害物が上昇し難い場合であっても、障害物がケーシング31内へ容易に取り込まれ得るようになる。
【0072】
このようにして、地盤内に存在し得る礫等の障害物をケーシング31内に効果的に取り込みつつ地盤を掘削することができる掘削装置100及び掘削方法を提供することができる。
【0073】
本実施形態では、掘削装置100は、安定液を循環供給する循環ユニット40を備えている。これにより、掘削孔Hの孔壁の安定化を図りつつ掘削孔Hを形成することができる。一般的に、安定液を正循環させつつ地盤を掘削するBH工法は、安定液を逆循環させつつ地盤を掘削するTBH工法と比較すると、狭い施工スペースでの施工性に優れ、低コストで施工することができる。そして、本実施形態では、掘削装置100は、BH工法により掘削孔Hを形成するように構成されているため、既設構造物Tの直下のような狭小の施工スペースでの施工性に優れ、施工コストの点においても優れている。
【0074】
本実施形態では、複数の主掘削ビット33は、それぞれのケーシング31の下端からの突出長d1を互いに合わせて配置されている。これにより、平坦な孔底の掘削孔Hを形成することができるため、スライム層m1の厚みt1の低減を図ることができる。その結果、本実施形態のようにBH工法を採用する場合であっても、杭(仮設杭P1)の沈下リスクを効率的に低減することができる。さらに、本実施形態のように先行載荷試験を実行する場合には、スライム層m1の厚みt1が低減されたことにより、載荷の荷重が低減し且つジャッキJのストロークも小さくすることができる。
【0075】
本実施形態では、複数の線状部材36は、複数の板状部材32のうちのロッド周方向に互いに隣り合う板状部材32の間の領域Sにおいて、上下方向についてビット先端側に寄せた位置に配置されている。これにより、複数の板状部材32によって礫や玉石等の障害物を効果的にケーシング31内に取り込むことができる。
【0076】
本実施形態では、掘削ヘッド30は、線状の支持部材37を含む。これにより、ケーシング31内に礫や玉石等の障害物が回収された状態における線状部材36のたわみを抑制することができるため、障害物をケーシング31内に確実に保持することができる。
【0077】
なお、本実施形態では、線状部材36はワイヤーロープであるものとしたが、これに限らない。線状部材36は、弾性を有した線状の部材により形成されていればよい。
【0078】
また、掘削孔Hには仮設杭P1が構築されるものとしたが、これに限らず、掘削孔Hに本設杭が構築されてもよい。また、掘削孔H内への打設材料としては、モルタルに限らず、コンクリートやセメントペーストであってもよい。また、杭(仮設杭又は本設杭)は、掘削孔Hに芯材Pmを建て込むとともに打設材料(本実施形態ではモルタル)を打設することにより構築されるいわゆる場所打ち杭であるものとしたが、杭の種類については、これに限らない。例えば、掘削孔H内に、予め分割して形成されたコンクリート杭又は鋼管杭を順次継ぎ足して建て込み、その後、掘削孔Hの孔壁と建て込まれたコンクリート杭又は鋼管杭との間に、コンクリート、モルタル及びセメントペーストのいずれか1つを充填して、掘削孔H内に杭を構築してもよい。
【0079】
また、本実施形態では、掘削孔H及び杭(P1)の施工場所は、既設構造物Tの直下であり、施工場所の上方に既設構造物Tが存在しているが、これに限らない。掘削孔H及び杭の施工場所は、既設構造物が上方に無い場所であってもよい。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
20…ロッド、
20a…下端側外周面、
30…掘削ヘッド、
31…ケーシング、
31a…内周面、
32…板状部材、
33…主掘削ビット(掘削ビット)、
36…線状部材、
37…支持部材、
40…循環ユニット、
42…安定液供給ポンプ、
43…泥水吸引ポンプ、
100…掘削装置、
d1…突出長、
H…掘削孔、
S…互いに隣り合う板状部材の間の領域、
X…中心軸線