(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
B62D 11/08 20060101AFI20241105BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B62D11/08 C
B62D11/08 M
A01B69/00 303K
(21)【出願番号】P 2021110822
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山中 之史
(72)【発明者】
【氏名】西田 圭佑
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-104224(JP,A)
【文献】特許第3883484(JP,B2)
【文献】特開平09-039826(JP,A)
【文献】特開平09-104356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
B62D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の左側で当該機体を走行可能に支持する第1走行装置と、
前記機体の右側で当該機体を走行可能に支持する第2走行装置と、
前記機体の走行及び操舵を操作するための操作部材と、を含んだ操向装置であって、前記操作部材の操作状態に応じて前記第1走行装置と前記第2走行装置とをそれぞれ駆動して、前記機体を直進させたり旋回させたりする操向装置と、
前記機体が安定状態にあるか否かを判定する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記操作部材が左右のいずれかに最大量操作され、且つ前記機体が安定状態にあると判断した場合、前記操向装置により前記第1走行装置と前記第2走行装置とを異なる方向に同一の駆動速度で駆動して、又は前記第1走行装置の駆動速度と前記第2走行装置の駆動速度との差の絶対値が所定の閾値以下になるように前記第1走行装置と前記第2走行装置とを異なる方向に駆動して、ゼロに近似した極小の旋回半径で前記機体を旋回させるゼロターンを許可し、
前記操作部材が左右のいずれかに最大量より少ない量だけ操作された場合又は前記機体が安定状態にないと判断した場合、前記ゼロターンを禁止
し、
前記操作部材が左右のいずれかに最大量操作され、且つ前記機体が安定状態にないと判断した場合、前記操作部材の操作状態に基づいて、前記第1走行装置と前記第2走行装置のうち、前記機体の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置を前記操向装置により駆動し、前記機体の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置を前記旋回外側走行装置の駆動速度よりも遅い駆動速度で、前記旋回外側走行装置とは反対の駆動方向に前記操向装置により駆動する作業機。
【請求項2】
前記操作部材の操作状態を検出する操作検出部を備え、
前記操向装置は、前記機体に設けられた原動機から出力された動力を、前記操作部材の操作状態に応じて前記第1走行装置と前記第2走行装置の少なくともいずれか一方に伝動して、当該走行装置を駆動し、
前記制御装置は、前記ゼロターンを許可すると、前記操作部材の操作状態に基づいて前記操向装置を制御して、前記ゼロターンを実行する請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記操作部材が左右のいずれかに最大量より少ない量だけ操作された場合、前記操作部材の操作状態に基づいて、前記第1走行装置と前記第2走行装置のうち、前記機体の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置を前記操向装置により駆動し、前記機体の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置を、前記旋回外側走行装置の駆動速度に対して所定比率遅い駆動速度で、前記旋回外側走行装置とは反対の駆動方向に前記操向装置により駆動する請求項1
又は2に記載の作業機。
【請求項4】
前記第1走行装置と前記第2走行装置のうち、前記機体の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置の駆動速度が0になるように、又は前記機体の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置の駆動速度より遅くなるように、少なくとも一方の前記走行装置を前記操向装置により駆動して、前記ゼロターンでの旋回半径より大きな旋回半径で前記機体を旋回させる別のターンが実行可能な第1ターンモードと、前記ゼロターンが実行可能な第2ターンモードとのうち、いずれかのターンモードを選択可能なモード選択部を備え、
前記制御装置は、
前記モード選択部により前記第1ターンモードが選択された場合、前記操作部材の操作状態に基づいて前記操向装置を制御して、前記別のターンを実行し、
前記モード選択部により前記第2ターンモードが選択され、且つ前記操作部材が左右のいずれかに最大量操作され、且つ前記機体が安定状態にあると判断した場合に、前記ゼロターンを許可し、前記操作部材の操作状態に基づいて前記操向装置を制御して、前記ゼロターンを実行する請求項1~
3のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記モード選択部により前記第1ターンモードが選択された場合、前記操作部材の操作状態に基づいて前記操向装置を制御して、前記別のターンを実行する請求項
4に記載の作業機。
【請求項6】
前記第1ターンモードとして、前記機体の超信地旋回が実行可能な超信地旋回モード、前記機体の信地旋回が実行可能な信地旋回モード、又は前記機体の緩旋回が実行可能な緩旋回モードが、前記モード選択部により選択可能である請求項
4又は
5に記載の作業機。
【請求項7】
前記機体の速度を検出する速度検出部を備え、
前記制御装置は、前記機体の速度が所定速度以下であれば、前記機体が安定状態にあると判断し、前記機体の速度が前記所定速度より速ければ、前記機体が安定状態にないと判断する請求項1~
6のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項8】
前記第1走行装置と前記第2走行装置とは、それぞれ履帯式走行装置から構成され、
前記操向装置は、前記第1走行装置の駆動速度と前記第2走行装置の駆動速度とをそれぞれ無段階で変速する無段変速装置を含み、
前記制御装置は、前記無段変速装置の変速を制御することにより、前記第1走行装置と前記第2走行装置の駆動速度と駆動方向とをそれぞれ変更する請求項1~
7のいずれか1項に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体の左右に設けられた走行装置をそれぞれ駆動して左右に旋回する作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
機体の左右に設けられた走行装置をそれぞれ駆動して左右に旋回する作業機として、例えば特許文献1、2に開示されているような作業機が知られている。
特許文献1、2に開示された作業機では、ステアリングレバーとモード切替スイッチなどの操作部材の操作に応じて、左右の履帯式の走行装置をそれぞれ駆動して、機体を左右に旋回させる。また、左右の走行装置の駆動速度と駆動方向とを切り換えることにより、機体の旋回半径が異なる複数種類のターンを実行可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-74883号公報
【文献】特許第3883484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業機が作業をしたり走行したりする場所などによって、極小の旋回半径で作業機を旋回させたい場合がある。この場合、例えば左右の走行装置のうち、旋回中心から遠くに位置する旋回外側の走行装置の駆動方向に対して、旋回中心から近くに位置する旋回内側の走行装置を逆方向に駆動させ、旋回内側の走行装置の駆動速度を旋回外側の走行装置の駆動速度以下にする。旋回内側の走行装置の駆動速度が旋回外側の走行装置の駆動速度に近づくに連れて、作業機の旋回半径は小さくなる。
【0005】
しかし、そのように左右の走行装置を駆動して、作業機を極小の旋回半径で旋回させているときに、走行装置と路面との摩擦力が大きくなることで、機体が揺さぶられ、機体が揺さぶられることで、走行装置と路面との摩擦力が解放されるという現象が繰り返される。このため、旋回前に機体が安定な状態になければ、極小の旋回半径での作業機の旋回中に、機体の揺れと振動が増幅されて、機体が不安定になり、作業機に搭乗している運転者に不快感を与えたり、機体が操作不能になったりするおそれがあった。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、旋回の安定性と利便性を向上させることができる作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
本発明の一態様の作業機は、機体の左側で当該機体を走行可能に支持する第1走行装置と、前記機体の右側で当該機体を走行可能に支持する第2走行装置と、前記機体の走行及
び操舵を操作するための操作部材と、を含んだ操向装置であって、前記操作部材の操作状態に応じて前記第1走行装置と前記第2走行装置とをそれぞれ駆動して、前記機体を直進させたり旋回させたりする操向装置と、前記機体が安定状態にあるか否かを判定する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記操作部材が左右のいずれかに最大量操作され、且つ前記機体が安定状態にあると判断した場合、前記操向装置により前記第1走行装置と前記第2走行装置とを異なる方向に同一の駆動速度で駆動して、又は前記第1走行装置の駆動速度と前記第2走行装置の駆動速度との差の絶対値が所定の閾値以下になるように前記第1走行装置と前記第2走行装置とを異なる方向に駆動して、ゼロに近似した極小の旋回半径で前記機体を旋回させるゼロターンを許可し、前記操作部材が左右のいずれかに最大量操作されず、又は前記機体が安定状態にないと判断した場合、前記ゼロターンを禁止し、前記操作部材が左右のいずれかに最大量操作され、且つ前記機体が安定状態にないと判断した場合、前記操作部材の操作状態に基づいて、前記第1走行装置と前記第2走行装置のうち、前記機体の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置を前記操向装置により駆動し、前記機体の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置を前記旋回外側走行装置の駆動速度よりも遅い駆動速度で、前記旋回外側走行装置とは反対の駆動方向に前記操向装置により駆動する。
【0008】
また、本発明の一態様では、前記作業機は、前記操作部材の操作状態を検出する操作検出部を備え、前記操向装置は、前記機体に設けられた原動機から出力された動力を、前記操作部材の操作状態に応じて前記第1走行装置と前記第2走行装置の少なくともいずれか
一方に伝動して、当該走行装置を駆動し、前記制御装置は、前記ゼロターンを許可すると、前記操作部材の操作状態に基づいて前記操向装置を制御して、前記ゼロターンを実行する。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記制御装置は、前記操作部材が左右のいずれかに最大量より少ない量だけ操作された場合、前記操作部材の操作状態に基づいて、前記第1走行装置と前記第2走行装置のうち、前記機体の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置を前記操向装置により駆動し、前記機体の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置を、前記旋回外側走行装置の駆動速度に対して所定比率遅い駆動速度で、前記旋回外側走行装置とは反対の駆動方向に前記操向装置により駆動する。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記第1走行装置と前記第2走行装置のうち、前記機体の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置の駆動速度が0になるように、又は前記機体の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置の駆動速度より遅くなるように、少なくとも一方の前記走行装置を前記操向装置により駆動して、前記ゼロターンでの旋回半径より大きな旋回半径で前記機体を旋回させる別のターンが実行可能な第1ターンモードと、前記ゼロターンが実行可能な第2ターンモードとのうち、いずれかのターンモードを選択可能なモード選択部を備え、前記制御装置は、前記モード選択部により前記第1ターンモードが選択された場合、前記操作部材の操作状態に基づいて前記操向装置を制御して、前記別のターンを実行し、前記モード選択部により前記第2ターンモードが選択され、且つ前記操作部材が左右のいずれかに最大量操作され、且つ前記機体が安定状態にあると判断した場合に、前記ゼロターンを許可し、前記操作部材の操作状態に基づいて前記操向装置を制御して、前記ゼロターンを実行する。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記制御装置は、前記モード選択部により前記第1ターンモードが選択された場合、前記操作部材の操作状態に基づいて前記操向装置を制御して、前記別のターンを実行する。
また、本発明の一態様では、前記第1ターンモードとして、前記機体の超信地旋回が実行可能な超信地旋回モード、前記機体の信地旋回が実行可能な信地旋回モード、又は前記機体の緩旋回が実行可能な緩旋回モードが、前記モード選択部により選択可能である。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記作業機は、前記機体の速度を検出する速度検出部を備え、前記制御装置は、前記機体の速度が所定速度以下であれば、前記機体が安定状態にあると判断し、前記機体の速度が前記所定速度より速ければ、前記機体が安定状態にないと判断する。
さらに、本発明の一態様では、前記第1走行装置と前記第2走行装置とは、それぞれ履帯式走行装置から構成され、前記操向装置は、前記第1走行装置の駆動速度と前記第2走行装置の駆動速度とをそれぞれ無段階で変速する無段変速装置を含み、前記制御装置は、前記無段変速装置の変速を制御することにより、前記第1走行装置と前記第2走行装置の駆動速度と駆動方向とをそれぞれ変更する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、旋回の安定性と利便性とを向上させた作業機を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】作業機に備わる動力伝達構造を示す図である。
【
図3】作業機で実行されるターンモードの特性線図である。
【
図4】作業機の旋回動作を示したフローチャートである。
【
図5】
図4のゼロターンモード処理の詳細を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図6は、作業機100の側面図である。
本実施形態では、作業機100は自脱型のコンバインである。なお、本発明に係る作業機は、コンバインに限定されず、例えばトラクタ、トラックローダ、又はバックホーなどのような他の作業機から構成されてもよい。
【0017】
図6に示すように、作業機100は、機体2と、機体2を走行可能に支持する走行装置1とを備えている。走行装置1は、機体2の左側の下方に設けられた履帯式の第1走行装置1Lと、機体2の右側の下方に設けられた履帯式の第2走行装置1Rとから成る(
図1参照)。第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとは、機体2を走行可能に支持する。
機体2の前部には、刈取り作業装置3が上下に昇降可能に連結されている。刈取り作業装置3は、多条刈り仕様の刈取り作業装置から成る。機体2の右前部には、運転者が乗車する運転席4が設けられている。運転席4と刈取り作業装置3との間には、操縦台6が設けられている。操縦台6には、運転席4に着座した運転者が操作可能な複数の操作部材(
図6では符号省略)が設けられている。
【0018】
機体2の内部には、作業機100の駆動源である原動機5が設けられている。原動機5はエンジンから成る。他の例として、電動モータなどの他の原動機を用いてもよい。機体2の左後部には、脱穀作業装置7が搭載されている。脱穀作業装置7の右側には、スクリュー式のアンローダ8を含んだ穀粒回収タンク9が搭載されている。
刈取り作業装置3は、引起し装置11、バリカン型の刈取り機12、フレーム13、及び穀稈搬送装置(図示省略)などを有している。フレーム13は、機体2の前部に上下揺動自在に支持されている。穀稈搬送装置は、刈取り穀稈を脱穀装置7のフィードチェーン(図示省略)に向けて搬送する。機体2の下部には、油圧シリンダ15が設けられている。油圧シリンダ15は、刈取り作業装置3全体を昇降させる。
【0019】
図1は、作業機100に備わる動力伝達構造を示す図である。
図1に示すミッションケース20の一側面には、油圧式の無段変速装置(HST)21、22、23が設けられている。第1無段変速装置21は第1走行装置1Lを駆動し、第2無段変速装置22は第2走行装置1Rを駆動し、第3無段変速装置23は刈取り作業装置3を駆動する。即ち、無段変速装置21、22は走行用の変速装置であり、無段変速装置23は作業用の変速装置である。なお、
図1では、便宜上、第1走行装置1Lを第2走行装置1Rより右側に示している。
【0020】
各無段変速装置21、22、23は、アキシャルプランジャ式の可変容量型の油圧ポンプ(以下「可変容量ポンプ」という。)P1、P2、P3と、定容量型の油圧モータ(以下「定容量モータ」という。)M1、M2、M3と、油圧制御用のポートブロック21c、22c、23cなどを有している。
ミッションケース20のほぼ中央には、入力軸24が設けられている。ミッションケース20から無段変速装置21~23と反対側に突出した入力軸24の一端部には、ベルトを介して原動機5からの動力が伝達される。
【0021】
原動機5からベルトを介して入力軸24に入力された動力は、カウンタギヤG1からギヤG2、G3を介して無段変速装置21、22のポンプ軸21a、22aに伝達される。また、原動機5から入力軸24に入力された動力は、カウンタギヤG1からギヤG4を介して無段変速装置23のポンプ軸23aに伝達される。即ち、可変容量ポンプP1、P2、P3は、原動機5の動力で駆動する。
【0022】
可変容量ポンプP1、P2、P3に備わる斜板の角度をそれぞれ変更することで、可変容量ポンプP1、P2、P3からの作動油の吐出方向と吐出量とを変更することが可能である。可変容量ポンプP1、P2、P3からそれぞれ吐出された作動油により、対応する定容量モータM1、M2、M3が回転駆動する。可変容量ポンプP1、P2、P3からの作動油の吐出方向と吐出量とをそれぞれ変更することで、対応する定容量モータM1、M
2、M3のモータ軸21b、22b、23bの回転方向の切り換えと速度0(ゼロ)からの無段変速とが可能である。
【0023】
第1無段変速装置21のモータ軸21bからの変速出力が、ギヤ式の第1副変速機構25、第1中間軸26、第2中間軸27、ギヤ減速機構28、及び車軸29に伝達されて、車軸29が回転することで、第1走行装置1Lが駆動される。また、第2無段変速装置22のモータ軸22bからの変速出力が、ギヤ式の第2副変速機構30、第1中間軸31、第2中間軸27、ギヤ減速機構32、及び車軸33に伝達されて、車軸33が回転することで、第2走行装置1Rが駆動される。このような機械的な各部21、22、24~33、1L、1Rを含んだ操向装置10が、作業機100には備わっている。
【0024】
各副変速機構25、30は、中立状態から、低速段と高速段の2段に変速可能に構成されている。第1無段変速装置21で変速された動力は、第1副変速機構25により高速段と低速段の2段に切り換えられる。第2無段変速装置22で変速された動力は、第2副変速機構により高速段と低速段の2段に切り換えられる。
ギヤ減速機構28、32は、第2中間軸27に遊嵌支持されている。第1中間軸26は、ミッションケース20の左右側壁に支持され、第1中間軸31は第1中間軸26に遊嵌支持されている。このような第1中間軸26と第1中間軸31との間には、油圧操作される多板式の直進クラッチ34が設けられている。直進クラッチ34は、作動油の油圧により入り切りされる。
【0025】
機体2を直進走行させる際には、第1無段変速装置21と第2無段変速装置22とが、同一駆動状態(可変容量ポンプP1、P2の斜板の角度、可変容量ポンプP1、P2の吐出量、定容量モータM1、M2の回転方向と回転速度が同一又は略同一)で駆動され、直進クラッチ34が入り操作(接続状態)される。これにより、第1中間軸26と第1中間軸31とが一体化され、車軸29、33が同一方向に同一速度で回転し、左右の走行装置1L、1Rも同一方向に同一速度で回転して、機体2が直進する。
【0026】
機体2を左右に旋回させる際には、直進クラッチ34が切り操作(切断状態)され、第1無段変速装置21と第2無段変速装置22とが異なる駆動状態で駆動されたり、第1無段変速装置21と第2無段変速装置22のうちの少なくとも一方が駆動されたりする。
第1中間軸26には、内拡式のブレーキ35が装着されている。例えば作業機100(機体2)を駐車しておく場合などに、原動機5が停止されて、ブレーキ35がかけられる。
【0027】
直進クラッチ34が入り切り操作されていないときは、直進クラッチ34に作動油を供給するための油路(図示省略)に圧が立っていない状態にある。このとき、直進クラッチ34の内部に設けられたばねにより摩擦板(図示省略)が弾性的に押圧されて、直進クラッチ34が軽くつながった状態になる。このため、直進クラッチ34が入り切り操作されていないときに、ブレーキ35がかけられると、第1中間軸26だけでなく、第1中間軸31にも制動作用が及んで、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとが制動される。
【0028】
第3無段変速装置23のモータ軸23bからの変速出力は、ギヤG12、13、PTO軸36、刈取りクラッチ(図示省略)、及びベルト(図示省略)などを介して、刈取り作業装置3に伝達される。これにより刈取り作業装置3が駆動する。
図2は、作業機100の走行系の制御ブロック図である。
なお、作業機100には、刈取り作業装置3と脱穀作業装置7などを制御するための作業系の電気的構成も備わっているが、当該構成は公知の構成と同様であるため、本実施形態では図示及び説明を省略する。
【0029】
作業機100には、制御装置50が備わっている。制御装置50は、CPUとメモリなどを含んだ電子制御装置(ECU)から構成されている。
図2に示す制御装置50と検出部62~65以外の構成は、操向装置10に含まれている。
作業機100及び操向装置10には、操作部材として、主変速レバー37、副変速レバー38、操舵レバー39、モード選択スイッチ(モード選択部)40、及びアクセルレバー41が設けられている。これらの操作部材37~41は、操作台6(
図6)などに設置されている。
【0030】
主変速レバー37は、中立位置から前方である前進方向と後方である後進方向とに揺動操作可能である。主変速レバー37は、未操作状態では中立位置で静止するように、ばねなどの弾性部材によって付勢されている。主変速レバー37の操作状態(操作の有無と操作方向と操作量)は、ポテンションメータ42により検出される。
副変速レバー38は、中立位置から前方である高速方向と後方である低速方向とに揺動操作可能である。副変速レバー38は、未操作状態で中立位置に静止するように、ばねなどの弾性部材によって付勢されている。副変速レバー38の操作状態(操作の有無と操作方向)は、スイッチ機構43により検出される。スイッチ機構43は、例えば電気的な複数の固定接点と可動接点とを有していて、副変速レバー38の操作状態に応じて可動接点が可動して、可動接点と固定接点との接触状態が切り換わることで、当該接触状態に応じた電気信号がスイッチ機構43から出力される。
【0031】
操舵レバー39は、中立位置である直進位置から左方である左旋回方向と右方である右旋回方向とに揺動操作可能である。操舵レバー39は、未操作状態で直進位置に静止するように、ばねなどの弾性部材によって付勢されている。操舵レバー39の操作状態(操作の有無と操作方向と操作量)は、ポテンションメータ44により検出される。
モード選択スイッチ40は、作業機100を旋回させるターンモードを選択するために操作されるスイッチである。モード選択スイッチ40の操作ノブ(符号省略)は揺動操作されることにより、4つの位置に切り換え可能である。モード選択スイッチ40の切り換え位置は、スイッチ機構45により検出される。スイッチ機構45の構成は、例えば固定接点の数以外はスイッチ機構43と同様である。
【0032】
モード選択スイッチ40を第1位置P1に切り換えることで、緩旋回モードを選択することができる。モード選択スイッチ40を第2位置P2に切り換えることで、信地旋回モードを選択することができる。モード選択スイッチ40を第3位置P3に切り換えることで、超信地旋回モードを選択することができる。モード選択スイッチ40を第4位置P4に切り換えることで、ゼロターンモードを選択することができる。
【0033】
緩旋回モード、信地旋回モード、超信地旋回モード、及びゼロターンモードの4つのターンモードが作業機100で実行されることにより、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rのうちの少なくとも一方が駆動して、機体2が旋回する。緩旋回モード、信地旋回モード、超信地旋回モード、及びゼロターンモードの順で、機体2の旋回半径が小さくなる。ゼロターンモードが作業機100で実行されると、機体2がゼロに近似した(ゼロを含む)極小の旋回半径で旋回する。ゼロターンモードは、極小旋回モード或いは高速スピン旋回モードとも呼ばれる。
【0034】
アクセルレバー41は、ホーム位置から前方である加速方向と、ホーム位置への復帰方向(加速方向と反対)とに揺動操作可能である。アクセルレバー41は、未操作状態でホーム位置に静止するように、ばねなどの弾性部材によって付勢されている。アクセルレバー41の操作状態(操作の有無と操作量)は、ポテンションメータ46により検出される。
【0035】
制御装置50は、ポテンションメータ42、44、46及びスイッチ機構43、45から出力される電気信号に基づいて、主変速レバー37、副変速レバー38、操舵レバー39、モード選択スイッチ40、及びアクセルレバー41の操作状態を検出する。
第1バルブユニット51と第1サーボシリンダ55とは、第1走行装置1Lに対応する第1無段変速装置21の変速状態を制御するための構成である。第2バルブユニット52と第2サーボシリンダ58とは、第2走行装置1Rに対応する無段変速装置22の変速状態を制御するための構成である。バルブユニット51、52には、一対の常閉型の電磁開閉弁(図示省略)と一対の常開型の電磁開閉弁(図示省略)とがそれぞれ含まれている。
【0036】
第1サーボシリンダ55は、第1バルブユニット51から供給される作動油の油圧により作動して、第1無段変速装置21に含まれる可変容量ポンプP1の斜板の角度を変更する。第2サーボシリンダ58は、第2バルブユニット52から供給される作動油の油圧により作動して、第2無段変速装置22に含まれる可変容量ポンプP2の斜板の角度を変更する。可変容量ポンプP1の斜板の角度は、ポテンションメータ56により検出される。
可変容量ポンプP2の斜板の角度は、ポテンションメータ59により検出される。バルブユニット51、52とサーボシリンダ55、58の構成は、例えば引用文献1に開示されているような、公知のバルブユニットとサーボシリンダの構成と同様である。
【0037】
定容量モータM1は、可変容量ポンプP1から吐出された作動油により回転駆動する。定容量モータM2は、可変容量ポンプP2から吐出された作動油により回転駆動する。定容量モータM1の回転数と回転方向とは、回転検出部57により検出される。定容量モータM2の回転数と回転方向とは、回転検出部60により検出される。これらのポンプP1、P2とモータM1、M2を含む無段変速装置21、22の構成は、例えば引用文献1に開示されているような、公知の無段変速装置の構成と同様である。
【0038】
第3バルブユニット53と副変速シリンダ61とは、副変速機構25、30の変速状態を制御するための構成である。第3バルブユニット53には、一対の電磁開閉弁(図示省略)が含まれている。副変速シリンダ61は、第3バルブユニット53から供給される作動油の油圧により作動して、シフト軸(図示省略)を介して副変速機構25、30を高速段、低速段、又は中立状態に切り換える。第3バルブユニット53と副変速シリンダ61の構成は、例えば引用文献1に開示されているような、公知のバルブユニットと変速操作シリンダの構成と同様である。
【0039】
制御装置50は、スイッチ機構43により検出された副変速レバー38の操作状態(操作位置と操作方向)に基づいて、第3バルブユニット53の電磁開閉弁の開閉状態を制御することにより、副変速シリンダ61を作動させて、副変速機構25、30の変速状態を切り換える。
第4バルブユニット54は、直進クラッチ34の入り切り状態を制御するための構成である。第4バルブユニット54には、一対の電磁開閉弁(図示省略)が含まれている。直進クラッチ34は、第4バルブユニット54から供給される作動油の油圧により、入り操作(接続状態)されたり、切り操作(切断状態)されたり、中立状態に切り換えられたりする。第4バルブユニット54と直進クラッチ34の構成は、例えば引用文献1に開示されているような、公知のバルブユニットと直進クラッチの構成と同様である。
【0040】
制御装置50は、ポテンションメータ44により検出された操舵レバー39の操作状態(操作方向と操作量)に基づいて、第4バルブユニット54の電磁開閉弁の開閉状態を制御することにより、直進クラッチ34を入り状態、切り状態、又は中立状態に切り換える。
また、制御装置50は、ポテンションメータ42により検出された主変速レバー37の操作状態(操作方向と操作量)、ポテンションメータ44により検出された操舵レバー39の操作状態(操作方向と操作量)、スイッチ機構43により検出された副変速レバー38の操作状態(操作位置と操作方向)、及びポテンションメータ56、59により検出された可変容量ポンプP1、P2の斜板の角度に基づいて、バルブユニット51、52の電磁開閉弁の開閉状態をフィードバック制御する。
【0041】
これにより、サーボシリンダ55、58が作動して、無段変速装置21、22の可変容量ポンプP1、P2の斜板の角度を変更する。またそれに応じて、可変容量ポンプP1、P2から吐出される作動油の吐出方向と吐出量とが変更されて、定容量モータM1、M2の駆動状態(回転方向と回転数)も変更される。即ち、制御装置50は、主変速レバー37、副変速レバー38、操舵レバー39、又はモード選択スイッチ40など(アクセルレバー41が含まれていてもよい。)の操作状態に基づいて、無段変速装置21、22の変速を行う。
【0042】
具体的には、例えば、操舵レバー39が中立位置にある状態で、主変速レバー71が中立位置から前進方向或いは後進方向へ揺動操作され、且つ副変速レバー38が中立位置から高速方向或いは低速方向へ揺動操作される。この場合、制御装置50は、主変速レバー71の操作方向と操作量と、副変速レバー38の操作位置などに基づいて、無段変速装置21、22の目標変速位置(可変容量ポンプP1、P2の斜板の目標角度)として同一値を決定する。そして、制御装置50は、上述したようにバルブユニット51、52をフィードバック制御することにより、サーボシリンダ53、54を作動させて、可変容量ポンプP1、P2の斜板の角度を変更し、当該斜板の角度を目標変速位置(目標角度)と一致させて、当該一致状態を保持する。
【0043】
上記により、アクセルレバー41の操作に応じて、定容量モータM1、M2が同一方向に同一速度で回転駆動し、無段変速装置21、22の前進用変速或いは後進用変速が行われる。また、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとが同一方向に同一速度で駆動し、機体2が旋回することなく前進或いは後進する。なお、制御装置50は、ポテンションメータ46により検出されたアクセルレバー41の操作状態(操作方向と操作量)に基づいて、原動機5の駆動を制御する。
【0044】
また、例えば機体2の前進中或いは後進中に、操舵レバー39が中立位置から左旋回方向(或いは右旋回方向)に揺動操作される。この場合、制御装置50は、操舵レバー39の操作量に基づいて、操舵レバー39の操作方向に対応する第1無段変速装置21(或いは第2無段変速装置22)の目標変速位置を修正する。
詳しくは、制御装置50は、操舵レバー39の操作量が多くなるに連れて、操舵レバー39の操作方向に対応する第1無段変速装置21の定容量モータM1(或いは第2無段変速装置22の定容量モータM2)の回転速度を減速させる方向に、第1無段変速装置21の可変容量ポンプP1(或いは第2無段変速装置22の可変容量ポンプP2)の目標変速位置を修正する。
【0045】
そして、制御装置50は、上述したようにバルブユニット51、52をフィードバック制御することにより、サーボシリンダ55、58を作動させ、第1無段変速装置21の可変容量ポンプP1の斜板の角度を修正後の目標変速位置と一致させて、当該一致状態を保持し、且つ第2無段変速装置22の可変容量ポンプP2の斜板の角度が目標変速位置と一致した状態を保持する。これにより、定容量モータM1の駆動速度が減速されて、定容量モータM2の駆動速度より遅くなり、無段変速装置21、22の左旋回用変速が行われる。また、第1走行装置1Lの駆動速度が減速されて、第2走行装置1Rの駆動速度より遅くなり、機体2が左方へ旋回する。
【0046】
速度検出部62は、機体2の速度と走行装置1(1L、1R)の駆動速度とを検出する。傾き検出部63は、ジャイロセンサなどから成り、機体2の傾き角度及び姿勢を検出する。昇降位置検出部64は、刈取り作業装置3(
図6)の昇降高さを検出する。対象物検出部65は、ライダー、超音波センサ、又は撮像装置(カメラ)から成り、機体2の周囲にある対象物を検出する。対象物としては、例えば路面、構造物、人、及び障害物などがある。制御装置50は、上記検出部62~65、57、60のうちの少なくとも1つの検出結果に基づいて、機体2が安定状態にあるか否かを判定する。
【0047】
図3は、作業機100で実行されるターンモードの特性線図である。
図3の特性線図では、操舵レバー39の操作量を横軸に示し、左右の走行装置1L、1Rのうち、機体2の旋回時に旋回中心から遠くに位置する旋回外側の走行装置の駆動速度(出力回転速度)に対する、旋回中心から近くに位置する旋回内側の走行装置の駆動速度(出力回転速度)の比率(内外速度比)を、縦軸に示している。
図3に示す各ラインL1~L4を表す制御データ(テーブルデータ或いは関数データ)は、予め制御装置50の内部メモリに記憶されている。
【0048】
操舵レバー39が左旋回方向或いは右旋回方向に揺動操作され且つ、アクセルレバー41が加速方向に揺動操作されて、作業機100(機体2)が左旋回或いは右旋回する際に、左右の走行装置1L、1Rのうち、旋回内側の走行装置は旋回外側の走行装置に対して操向装置10により減速される。
モード選択スイッチ40(
図2)が操作されることにより、緩旋回モード、信地旋回モード、超信地旋回モード、及びゼロターンモードのいずれかのターンモードが選択されると、制御装置50は選択されたターンモードを実行する。
【0049】
いずれかのターンモードの実行中に、例えば操舵レバー39が左旋回方向或いは右旋回方向に揺動操作されると、制御装置50は、ポテンションメータ42、44とスイッチ機構43により、操舵レバー39の操作方向と操作量、主変速レバー37の操作方向と操作量、及び副変速レバー38の操作位置を検出する。また、アクセルレバー41が加速方向
に揺動操作されると、制御装置50は、アクセルレバー41の操作量を検出する。
【0050】
そして、制御装置50は、検出した上記操作部材37~40の操作状態に基づいて、操舵レバー39の操作方向に対応しない旋回外側の走行装置(操舵レバー39の操作方向と反対方向に位置する走行装置)の駆動方向と駆動速度と、当該走行装置に対応する無段変速装置(第1無段変速装置21と第2無段変速装置22のうちのいずれか一方)の目標変速位置とを決定する。
【0051】
次に、制御装置50は、実行中の旋回モード、操舵レバー39の操作量、及び
図3のラインL1~L4の制御データに基づいて、旋回内側の走行装置(操舵レバー39の操作方向に位置する走行装置)の駆動速度Viと、旋回外側の走行装置の駆動速度Voとの内外速度比を決定する(内外速度比=Vi/Vo)。そして、制御装置50は、決定した内外速度比と旋回外側の走行装置の駆動速度とを乗算して、旋回内側の走行装置の駆動速度と駆動方向とを決定する。
【0052】
例えば緩旋回モードの実行中の場合、制御装置50は、操舵レバー39の操作量と、
図3のラインL1の制御データとに基づいて、内外速度比を決定する。ラインL1で示すように、緩旋回モードでは、操舵レバー39の操作量が多くなるに連れて、内外速度比が小さくなり、操舵レバー39が最大量操作されると(操作量MAX)、内外速度比は0.3になる(
図3のL1)。即ち、緩旋回モードでは、内外速度比が0.3以上で且つ1より小さい値になる。また、旋回内側の走行装置の駆動速度Viが、旋回外側の走行装置の駆動速度Voの0.3倍以上で且つ当該駆動速度Vo(詳しくは、駆動速度Voの1倍)より小さい値まで減速される(0.3Vo≦Vi<Vo)。
【0053】
また、信地旋回モードの実行中の場合、制御装置50は、操舵レバー39の操作量と、
図3のラインL2の制御データとに基づいて、内外速度比を決定する。ラインL2で示すように、信地旋回モードでは、操舵レバー39の操作量が多くなるに連れて、内外速度比が小さくなり、操舵レバー39が最大量操作されると、内外速度比は0になる(
図3のL2)。即ち、信地旋回モードでは、内外速度比が0以上で且つ1より小さい値になる。また、旋回内側の走行装置の駆動速度Viが0以上で且つ、旋回外側の走行装置の駆動速度Voより小さい値まで減速される(0≦Vi<Vo)。なお、旋回内側の走行装置の駆動速度が0のときは、当該走行装置は停止状態にある。
【0054】
また、超信地旋回モードの実行中の場合、制御装置50は、操舵レバー39の操作量と、
図3のラインL3の制御データとに基づいて、内外速度比を決定する。ラインL3で示すように、超信地旋回モードでは、操舵レバー39の操作量が多くなるに連れて、内外速度比が小さくなり、操舵レバー39が最大量操作されると、内外速度比は-0.3になる(
図3のL3)。即ち、超信地旋回モードでは、内外速度比が-0.3以上で且つ1より小さい値になる。また、旋回内側の走行装置の駆動速度Viが旋回外側の走行装置の駆動速度Voの-0.3倍以上で且つ当該駆動速度Voより小さい値まで減速される(-0.3Vo≦Vi<Vo)。なお、内外速度比がマイナス値(負の値)に決定されたときは、旋回内側の走行装置が旋回外側の走行装置とは反対方向に駆動(逆転駆動)する。
【0055】
また、ゼロターンモードの実行中の場合、制御装置50は、操舵レバー39の操作量と、
図3のラインL4の制御データとに基づいて、内外速度比を決定する。ラインL4で示すように、ゼロターンモードでは、操舵レバー39の操作量が多くなるに連れて、内外速度比が小さくなり、操舵レバー39が最大量操作されると、内外速度比は-1になる(
図3のL4)。即ち、ゼロターンモードでは、内外速度比が-1以上で且つ1より小さい値になる。また、旋回内側の走行装置の駆動速度Viが旋回外側の走行装置の駆動速度Voの-1倍以上で且つ当該駆動速度Voより小さい値まで減速される(-Vo≦Vi<Vo)。
【0056】
上述したように、制御装置50は、走行装置1L、1Rの駆動速度と駆動方向とを決定すると、予め記憶された演算データ(演算式又はテーブルなどの制御データ)に基づいて、走行装置1L、1Rにそれぞれ対応する無段変速装置21、22の目標変速位置を決定する。そして、制御装置50は、前述したようにバルブユニット51、52をフィードバック制御して、サーボシリンダ55、58を作動させ、可変容量ポンプP1、P2の斜板
の角度を変更して、当該斜板の角度を対応する目標変速位置と一致させて、当該一致状態を保持する。これにより、可変容量ポンプP1、P2から作動油が目標変速位置に応じた流量及び圧力で吐出され、当該作動油が定容量モータM1、M2に供給される。
【0057】
そして、例えば緩旋回モードの実行中の場合、定容量モータM1、M2が同一方向に異なる速度で駆動する。また、左右の走行装置1L、1Rのうち、旋回内側の走行装置が旋回外側の走行装置と同一方向に旋回外側の走行装置より遅い駆動速度で駆動する。このため、機体2が左方又は右方へ緩旋回する。
また、信地旋回モードの実行中の場合、定容量モータM1、M2が同一方向に異なる速度で駆動したり、旋回内側の走行装置に対応するいずれかの定容量モータが停止したりする。また、左右の走行装置1L、1Rも同一方向に異なる速度で駆動したり、旋回内側の走行装置が停止したりする。
【0058】
この際、操舵レバー39の操作量が最大であれば、制御装置50は、内外速度比を0に決定し、旋回内側の走行装置の駆動速度を0に決定する。また、前述したように制御装置50は、旋回外側の走行装置の駆動方向を操舵レバー39の操作方向に応じて決定し、旋回外側の走行装置の駆動速度を操舵レバー39の操作量とアクセルレバー41の操作量などに応じて決定する。さらに、制御装置50は、無段変速装置21、22の目標変速位置をそれぞれ決定し、無段変速装置21、22の変速を行う。
【0059】
これにより、旋回外側の走行装置が操舵レバー39の操作方向とレバー39、41の操作量とに応じた方向と速度で駆動するのに対して、旋回内側の走行装置が停止する。また、定容量モータM1、M2のうち、旋回外側の走行装置に対応する一方の定容量モータが、操舵レバー39の操作方向とレバー39、41の操作量とに応じた方向と速度で回転駆動するのに対して、旋回内側の走行装置に対応する他方の定容量モータが停止する。このため、機体2が左方又は右方へ信地旋回する。
【0060】
なお、信地旋回モードの実行中であっても、操舵レバー39の操作量が最大量でなく、当該操作量が0でもなければ、制御装置50は、左右の走行装置1L、1Rの内外速度比を0より大きくて1より小さいプラス値に決定する。また、前述したように制御装置50は、旋回内側の走行装置と旋回外側の走行装置の駆動方向と駆動速度とをそれぞれ決定し、無段変速装置21、22の目標変速位置をそれぞれ決定して、無段変速装置21、22の変速を行う。これにより、定容量モータM1、M2が同一方向に異なる速度で駆動し、左右の走行装置1L、1Rも同一方向に異なる速度で駆動して、機体2が左方又は右方へ準信地旋回する。準信地旋回とは、機体2の旋回半径が緩旋回よりも大きく且つ信地旋回よりも小さい旋回のことである。
【0061】
また、超信地旋回モードの実行中の場合、定容量モータM1、M2が異なる方向に異なる速度で駆動する。また、左右の走行装置1L、1Rも異なる方向に異なる速度で駆動する。
この際、操舵レバー39の操作量がある程度多ければ、制御装置50は、操舵レバー39の操作量に基づいて、内外速度比を0より小さく且つ-0.3以上のマイナス値(負の値)に決定する。また、前述したように制御装置50は、旋回外側の走行装置と旋回内側の走行装置の駆動方向と駆動速度をそれぞれ決定し、無段変速装置21、22の目標変速位置をそれぞれ決定して、無段変速装置21、22の変速を行う。
【0062】
これにより、旋回外側の走行装置が操舵レバー39の操作方向に応じた方向に駆動するのに対して、旋回内側の走行装置が旋回外側の走行装置とは反対方向に旋回外側の走行装置より遅い駆動速度で駆動する。また、定容量モータM1、M2のうち、旋回外側の走行装置に対応する一方の定容量モータが、操舵レバー39の操作方向に応じた方向に回転駆動するのに対して、旋回内側の走行装置に対応する他方の定容量モータが、一方の定容量モータとは反対方向に一方の定容量モータより遅い駆動速度で駆動する。このため、機体2が左方又は右方へ超信地旋回する。
【0063】
なお、超信地旋回モードの実行中であっても、操舵レバー39の操作量が少なくて、当該操作量が0でなければ、制御装置50は、内外速度比を0以上で且つ1未満のプラス値に決定する。また、前述したように制御装置50は、旋回内側の走行装置と旋回外側の走
行装置の駆動方向と駆動速度とをそれぞれ決定し、無段変速装置21、22の目標変速位置をそれぞれ決定して、無段変速装置21、22の変速を行う。
【0064】
これにより、定容量モータM1、M2が同一方向に異なる速度で駆動したり、定容量モータM1、M2のいずれかが停止したりする。また、左右の走行装置1L、1Rも同一方向に異なる速度で駆動したり、左右の走行装置1L、1Rのいずれかが停止したりする。このため、機体2が左方若しくは右方へ緩旋回、準信地旋回、又は信地旋回する。
また、ゼロターンモードの実行中の場合、定容量モータM1、M2が異なる方向に異なる速度或いは同一速度で駆動する。また、左右の走行装置1L、1Rも異なる方向に異なる速度或いは同一速度で駆動する。
【0065】
この際、操舵レバー39の操作量が最大であれば、制御装置50は、内外速度比を-1に決定する。また、前述したように制御装置50は、旋回内側の走行装置と旋回外側の走行装置の駆動方向と駆動速度とをそれぞれ決定し、無段変速装置21、22の目標変速位置をそれぞれ決定し、無段変速装置21、22の変速を行う。これにより、定容量モータM1、M2が異なる方向に同一速度で駆動し、左右の走行装置1L、1Rも異なる方向に同一速度で駆動して、機体2が左方又は右方へ0に近似した極小の旋回半径で旋回するゼロターンが行われる。
【0066】
なお、ゼロターンモードの実行中であっても、操舵レバー39の操作量が最大量でなく、当該操作量が0でもなければ、制御装置50は、内外速度比を-1より大きくて1より小さい値に決定する。また、前述したように制御装置50は、旋回内側の走行装置と旋回外側の走行装置の駆動方向と駆動速度とをそれぞれ決定し、無段変速装置21、22の目標変速位置をそれぞれ決定し、無段変速装置21、22の変速を行う。
【0067】
これにより、定容量モータM1、M2が異なる方向に異なる速度で駆動したり、同一方向に異なる速度で駆動したり、定容量モータM1、M2のいずれかが停止したりする。また、左右の走行装置1L、1Rも異なる方向に異なる速度で駆動したり、同一方向に異なる速度で駆動したり、左右の走行装置1L、1Rのいずれかが停止したりする。このため、機体2が緩旋回、準信地旋回、信地旋回、超信地旋回、又は準ゼロターンで左方若しくは右方へ旋回する。準ゼロターンとは、機体2の旋回半径が超信地旋回よりも大きくてゼロターンよりも小さい旋回のことである。
【0068】
ゼロターンを実行する際に、前述したように制御装置50は、操向装置10により第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとを異なる方向に同一の駆動速度で駆動するが、第1走行装置1Lの駆動速度と第2走行装置1Rの駆動速度とに若干差があってもよい。この場合、制御装置50は、回転検出部57、60により検出された第1行装置1Lの実際の駆動速度と第2走行装置1Rの実際の駆動速度との差の絶対値が、0に近似した所定の閾値以下になるように、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとを異なる方向に駆動して、ゼロターンを実行する。
【0069】
また、信地旋回を実行する際に、前述したように制御装置50は、走行装置1L、1Rのうち、旋回外側の走行装置を決定した方向と速度で駆動して、旋回内側の走行装置の駆動速度を0にするが、旋回内側の走行装置の駆動速度を0より若干速くしたり遅くしたりしてもよい。この場合、制御装置50は、回転検出部57、60により検出された旋回内側の走行装置の実際の駆動速度の絶対値が、0に近似した所定の閾値以下になるように、操向装置10により旋回内側の走行装置の駆動を制御して、信地旋回を実行する。
【0070】
また、作業装置1の旋回の際に、制御装置50は、回転検出部57、60により走行装置1L、1Rの実際の駆動速度を検出し、当該実際の駆動速度が走行装置1L、1Rの決定した駆動速度(目標速度)と一致するように、PI制御などを行って、操向装置10を作動させてもよい。
図4は、作業機100の旋回動作を示したフローチャートである。
【0071】
制御装置50は、モード選択スイッチ40が操作されたことを検出すると(S1:Yes)、ターンモード選定処理を実行する(S2)。ターンモード選定処理では、制御装置50は、スイッチ機構45からの出力信号に基づいて、モード選択スイッチ40の操作後の位置を検出し、さらに当該操作後の位置に対応するターンモードを検出して、当該ター
ンモードが選択されたと判断する。
【0072】
ゼロターンモードが選択されていないときは(S3:No)、操舵レバー39が操作されると(S6:Yes)、制御装置50は、ゼロターンモード以外の選択されたターンモード処理(緩旋回モード、信地旋回モード、又は超信地旋回モード)を実行する(S7)。
この際、制御装置50は、前述したように操舵レバー39、主変速レバー37、及び副変速レバー38などの操作状態に基づいて、走行装置1L、1Rの駆動方向と駆動速度、無段変速装置21、22の目標変速位置、及び内外速度比を決定する。そして、制御装置50は、バルブユニット51、52とサーボシリンダ55、58などにより無段変速装置21、22の変速を行う。アクセルレバー41が加速方向に揺動操作されると、制御装置50は、無段変速装置21、22を制御して、走行装置1L、1Rの実際の駆動方向及び駆動速度を、走行装置1L、1Rの決定された駆動方向及び駆動速度(目標速度)にそれぞれ一致又は略一致させて、機体2を緩旋回、準信地旋回、信地旋回、又は超信地旋回で左方又は右方へ旋回させる。
【0073】
一方、ゼロターンモードが選択されているときは(S3:Yes)、操舵レバー39が操作されると(S4:Yes)、制御装置50は、ゼロターンモード処理を実行する(S5)。
図5は、ゼロターンモード処理の詳細を示したフローチャートである。
まず制御装置50は、機体状態判定処理を実行する(S8)。機体状態判定処理では、制御装置50は、例えば速度検出部62(
図2)により検出された機体2の速度と、予め記憶された所定速度とを比較する。所定速度は、0又は0に近似した極低速度に設定されている。
【0074】
機体2の速度が所定速度より速ければ、制御装置50は、機体2が不安定状態にあると判断して(S9:No)、ゼロターンを禁止し、当該結果を内部メモリに記録する(
図5のS10)。
対して、機体2の速度が所定速度以下であれば、機体2が停止状態又は略停止状態にあるため、制御装置50は、機体2が安定状態にあると判断する(S9:Yes)。そして、制御装置50は操舵レバー39の操作量を確認する。
【0075】
前述した
図4の処理S4の直前に、操舵レバー39が左旋回方向或いは右旋回方向に最大量より少ない操作量で揺動操作されていれば、制御装置50は、操舵レバー39の操作量が最大でないことを確認し(
図5のS11:No)、ゼロターンを禁止して、当該結果を内部メモリに記録する(S13)。
対して、
図4の処理S4の直前に、操舵レバー39が左旋回方向或いは右旋回方向に最大量揺動操作されていれば、制御装置50は、操舵レバー39の操作量が最大であることを確認し(
図5のS11:Yes)、ゼロターンを許可して、内部メモリの所定の記憶領域に設けたゼロターンフラグをオンする(S12)。
【0076】
そして、アクセルレバー41が加速方向に揺動操作されると(S14:Yes)、制御装置50は、ゼロターンフラグがオンになっているか否かを確認する。ゼロターンフラグがオンになっていれば(S15:Yes)、制御装置50はゼロターンを実行する(S16)。
このとき、制御装置50は、操舵レバー39の操作方向と操作量などに基づいて、左右の走行装置1L、1Rのうち、旋回外側の走行装置の駆動方向と駆動速度とを決定する。また、制御装置50は、内外速度比を-1に決定し、当該内外速度比と旋回外側の走行装置の駆動速度とを乗算して、旋回内側の走行装置の駆動速度を決定する。また、制御装置50は、旋回外側の走行装置の駆動方向と反対の方向を、旋回内側の走行装置の駆動方向として決定する。そして、制御装置50は、決定した駆動方向と駆動速度で旋回外側の走行装置と旋回内側の走行装置とを操向装置10により駆動して、機体2の左方或いは右方へのゼロターンを実行する。ゼロターンが完了すると、制御装置50は、ゼロターンフラグをオフする(S17)。
【0077】
一方、ゼロターンフラグがオンになっていなければ(S15:No)、制御装置50は
、ゼロターン以外のその他のターンを実行する(S18)。
このとき、制御装置50は、操舵レバー39の操作方向と操作量などに基づいて、左右の走行装置1L、1Rのうち、旋回外側の走行装置の駆動方向と駆動速度とを決定する。また、制御装置50は、内外速度比を-1よりある程度大きい値に決定する。また、制御装置50は、内外速度比と旋回外側の走行装置の駆動速度とを乗算して、旋回内側の走行装置の駆動速度を決定する。また、制御装置50は、旋回外側の走行装置の駆動方向と反対の方向を、旋回内側の走行装置の駆動方向として決定する。そして、制御装置50は、決定した駆動方向と駆動速度で旋回外側の走行装置と旋回内側の走行装置とを操向装置10により駆動して、機体2をゼロターン以外のターン(準ゼロターン、超信地旋回、信地旋回、準信地旋回、或いは緩旋回)で左旋回或いは右旋回させる。
【0078】
より詳しくは、例えばこのとき制御装置50は、操舵レバー39の操作状態(操作方向と操作量)に基づいて、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rのうち、旋回外側の走行装置を操向装置10により駆動し、且つ旋回内側の走行装置を旋回外側の走行装置の駆動速度よりも遅い駆動速度で、旋回外側の走行装置とは反対の駆動方向に操向装置10により駆動して、準ゼロターン或いは超信地旋回を実行する。
【0079】
或いは、制御装置50は、操舵レバー39の操作状態に基づいて、旋回外側の走行装置を操向装置10により駆動し、且つ旋回内側の走行装置を旋回外側の走行装置の駆動速度に対して所定比率遅い駆動速度で、旋回外側の走行装置とは反対の駆動方向に操向装置10により駆動して、準ゼロターン或いは超信地旋回を実行する。
また、制御装置50は、上記の場合における準ゼロターン実行時或いは超信地旋回実行時の、旋回外側の走行装置の駆動速度と旋回内側の走行装置の駆動速度との差(旋回外側の走行装置の駆動速度に対して旋回内側の走行装置の駆動速度を遅らせる量)を、ゼロターン実行時の旋回外側の走行装置の駆動速度と旋回内側の走行装置の駆動速度との差を抑制する閾値より大きくする。
【0080】
他の例として、処理S3の機体状態判定処理において、制御装置50は、傾き検出部63(
図2)により検出された機体2の傾き角度と所定角度とを比較し、機体2の傾き角度が所定角度以下であれば、機体2が安定状態にあると判断し(
図5のS9:Yes)、機体2の傾き角度が所定角度より大きければ、機体2が不安定状態にあると判断(S9:No)してもよい。
【0081】
また、制御装置50は、例えば昇降位置検出部64(
図2)により検出された刈取り作業装置3(
図6)の地面からの昇降高さと所定高さとを比較し、刈取り作業装置3の昇降高さが所定高さ未満であれば、作業機100の重心位置が低いので、機体2が安定状態にあると判断し(
図5のS9:Yes)、刈取り作業装置3の昇降高さが所定高さ以上であれば、作業機100の重心位置が高いので、機体2が不安定状態にあると判断(S9:No)してもよい。
【0082】
また、例えば作業機100のゼロターンを行うことで、作業機100の各部が接触するような障害物が周囲に在ることを対象物検出部65(
図2)により検出すると、制御装置50は、機体2が不安定状態にあると判断し(
図5のS9:No)、当該障害物が対象物検出部65により検出されなければ、制御装置50は、機体2が安定状態にあると判断(S9:Yes)してもよい。
【0083】
また、制御装置50は、上記以外の安定条件に基づいて、機体2の安定状態の当否を判断してもよい。さらに、制御装置50は、上記のような安定条件のうちの2つ以上の当否に基づいて、機体2の安定状態の当否を判断してもよい。
また、制御装置50は、上記のような安定条件に基づいて、機体2の安定度を複数段階で評価し、当該評価結果に基づいて、処理S17でゼロターンの代わりに実行するターンを決定してもよい。この場合、例えば制御装置50は、機体2の安定度が低くなるに連れて、内外速度比を大きくして、機体2の旋回半径を大きくしてもよい。また、例えば機体2の安定度が低すぎる場合には、制御装置50は、操向装置10による機体2の旋回を実行しないようにしてもよい。
【0084】
上述した実施形態では、操作ノブを揺動操作して4つの位置に切り換えて、緩旋回モー
ド、信地旋回モード、超信地旋回モード、及びゼロターンモードのいずれかが選択可能なモード選択スイッチ40を用いたが、これに代えて、例えば押しボタンタイプ、ダイヤルタイプ、レバータイプ、又はタッチパネルに表示されるソフトキーなどから成る他のタイプ操作部をモード選択部として用いてもよい。また、ゼロターンモード以外の実行可能なターンモードを、上記3つに限らず、1つ、2つ、或いは4つ以上設けてもよい。
【0085】
また、主変速レバー37、副変速レバー38、操舵レバー39、又はアクセルレバー41に代えて、押しボタンタイプ、ダイヤルタイプ、ハンドルタイプ、又はソフトキーが表示可能なタッチパネルなどの他のタイプの操作部材を用いてもよい。また、操舵レバーとアクセルレバーとを兼用するジョイスティックなどの操作部材を用いてもよい。
上述した実施形態では、機体1の左側にある第1走行装置1Lの駆動速度と右側にある第2走行装置1Rの駆動速度とを第1無段変速装置21と第2無段変速装置22とで別々に変速したが、この構成に限定しない。
【0086】
他の例として、単一の無段変速装置と、各ターンに対応する複数のクラッチと、各走行装置に対応する複数のブレーキ機構と、複数のアクチュエータと、複数の電磁弁などを設けてもよい。この場合、単一の無段変速装置の変速と各クラッチの入り切りと各ブレーキ機構の制動と制動解除とを電磁弁とアクチュエータを介して制御することで、第1走行装置の駆動速度と第2走行装置の駆動速度をそれぞれ変速して、ゼロターンを含む複数のターンを実現するようにしてもよい。
【0087】
或いは、走行用の無段変速装置と、旋回用の無段変速装置と、旋回用の複数のクラッチと、複数のアクチュエータと、電磁弁などを設けて、各無段変速装置の変速と各クラッチの入り切りと電磁弁とアクチュエータを介して制御することで、第1走行装置の駆動速度と第2走行装置の駆動速度をそれぞれ変速して、ゼロターンを含む複数のターンを実現するようにしてもよい。
上述した実施形態では、同一の制御装置50がゼロターンの許可・禁止と走行装置1L、1Rの制御とを行ったが、これに代えてゼロターンの許可・禁止と走行装置1L、1Rの制御とを別々の制御装置で行うように構成してもよい。
【0088】
上述した実施形態では、速度検出部62により機体2の速度を検出したが、これに代えて、例えば制御装置50が、回転検出部57、60により検出された定容量モータM1、M2の回転数に基づいて、機体2の速度を算出してもよい。又は、走行装置1L、1Rの実際の駆動速度をそれぞれ検出する駆動速度検出部を設け、制御装置50が駆動速度検出部により検出された走行装置1L、1Rの駆動速度に基づいて、機体2の速度を算出してもよい。
上述した実施形態では、履帯式の走行装置1L、1Rを用いたが、これに代えて、装輪式の走行装置を用いてもよいし、又は車輪とクローラとを組み合わせた走行装置を用いてもよい。
【0089】
以上説明した本実施形態の作業機100は、以下の構成を備え、効果を奏する。
本実施形態の作業機100は、機体2の左側で当該機体2を走行可能に支持する第1走行装置1Lと、機体2の右側で当該機体2を走行可能に支持する第2走行装置1Rと、機体2の走行及び操舵を操作するための操作部材37、38、39、41(主変速レバー37、副変速レバー38、操舵レバー39、アクセルレバー41)と、を含んだ操向装置10であって、操作部材37、38、39、41の操作状態に応じて第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとをそれぞれ駆動して、機体2を直進させたり旋回させたりする操向装置10と、機体2が安定状態にあるか否かを判定する制御装置50と、を備え、制御装置50は、操作部材39(操舵レバー39)が左右のいずれかに最大量操作され、且つ機体2が安定状態にあると判断した場合、操向装置10により第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとを異なる方向に同一の駆動速度で駆動して、又は第1走行装置1Lの駆動速度と第2走行装置1Rの駆動速度との差の絶対値が所定の閾値以下になるように第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとを異なる方向に駆動して、ゼロに近似した極小の旋回半径で機体2を旋回させるゼロターンを許可し、操作部材39が左右のいずれかに最大量より少ない量だけ操作された場合又は機体2が安定状態にないと判断した場合、ゼロターンを禁止す
る。
【0090】
上記によると、作業機100において、機体2が安定状態にあるときにだけ、操作部材39(操舵レバー39)が最大量操作されると、極小の旋回半径で機体2を旋回させるゼロターンが許可されるので、ゼロターンの実行中における安全性を向上させ、且つ旋回の利便性を向上させることができる。
本実施形態では、作業機100は、操作部材37、38、39、41の操作状態を検出する操作検出部42、43、44、46(ポテンションメータ42、44、46、スイッチ機構43)を備え、操向装置10は、機体2に設けられた原動機5から出力された動力を、操作部材37、38、39、41の操作状態に応じて第1走行装置1Lと第2走行装置1Rの少なくともいずれか一方に伝動して、当該走行装置を駆動し、制御装置50は、ゼロターンを許可すると、操作部材37、38、39、41の操作状態に基づいて操向装置10を制御して、ゼロターンを実行する。これにより、機体2が安定状態にあるときにだけ、操作部材39(操舵レバー39)が最大量操作されると、制御装置50がゼロターンを許可して、ゼロターンを実行することができる。
【0091】
本実施形態では、制御装置50は、操作部材39(操舵レバー39)が左右のいずれかに最大量操作され、且つ機体2が安定状態にないと判断した場合、操作部材37、38、39、41の操作状態に基づいて、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rのうち、機体2の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置を操向装置10により駆動し、機体2の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置を旋回外側走行装置の駆動速度よりも遅い駆動速度で、旋回外側走行装置とは反対の駆動方向に操向装置10により駆動する。これにより、機体2が安定状態にないときには、操作部材39が最大量操作されると、ゼロターンよりも大きな旋回半径で機体2が旋回されるので、当該旋回時の機体2の揺れと振動を低減して、作業機100における旋回の安全性と利便性とを向上させることができる。
【0092】
本実施形態では、制御装置50は、操作部材39(操舵レバー39)が左右のいずれかに最大量より少ない量だけ操作された場合、操作部材37、38、39、41の操作状態に基づいて、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rのうち、機体2の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置を操向装置10により駆動し、機体2の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置を、旋回外側走行装置の駆動速度に対して所定比率(内外速度比)遅い駆動速度で、旋回外側走行装置とは反対の駆動方向に操向装置10により駆動する。これにより、操作部材39(操舵レバー39)が最大量より少ない量だけ操作されたときには、ゼロターンよりも大きな旋回半径で機体2が旋回されるので、当該旋回時の機体2の揺れと振動を低減して、作業機100における旋回の安全性と利便性とを向上させることができる。
【0093】
本実施形態では、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rのうち、機体2の旋回中心から近くに位置する旋回内側走行装置の駆動速度が0になるように、又は機体2の旋回中心から遠くに位置する旋回外側走行装置の駆動速度より遅くなるように、少なくとも一方の走行装置を操向装置10により駆動して、ゼロターンでの旋回半径より大きな旋回半径で機体2を旋回させる別のターン(準ゼロターン、超信地旋回、信地旋回、準信地旋回、緩旋回)が実行可能な第1ターンモード(超信地旋回モード、信地旋回モード、又は緩旋回モード)と、ゼロターンが実行可能な第2ターンモード(ゼロターンモード)とのうち、いずれかのターンモードを選択可能なモード選択部40(モード選択スイッチ40)を備え、制御装置50は、モード選択部40により第1ターンモードが選択された場合、操作部材37、38、39、41の操作状態に基づいて操向装置10を制御して、前記別のターンを実行し、モード選択部40により第2ターンモードが選択され、且つ操作部材39(操舵レバー39)が左右のいずれかに最大量操作され、且つ機体2が安定状態にあると判断した場合に、ゼロターンを許可し、操作部材37、38、39、41の操作状態に基づいて操向装置10を制御して、ゼロターンを実行する。
【0094】
上記により、モード選択部40(モード選択スイッチ40)で第2ターンモード(ゼロターンモード)が選択されて、機体2が安定状態にあるときにだけ、操作部材39(操舵レバー39)が最大量操作されると、ゼロターンが許可される。このため、ユーザの意図
に応じてゼロターンを安定に実行することができ、作業機1における旋回の安全性と利便性とをより向上させることが可能となる。
【0095】
本実施形態では、制御装置50は、モード選択部40(モード選択スイッチ40)により第1ターンモードが選択された場合、操作部材37、38、39、41の操作状態に基づいて操向装置10を制御して、別のターン(準ゼロターン、超信地旋回、信地旋回、準信地旋回、緩旋回)を実行する。これにより、作業機100において、ユーザの意図に応じてゼロターンとは別のターンを実行することができ、旋回の利便性をより向上させることが可能となる。
【0096】
本実施形態では、第1ターンモードとして、機体2の超信地旋回が実行可能な超信地旋回モード、機体2の信地旋回が実行可能な信地旋回モード、又は機体2の緩旋回が実行可能な緩旋回モードが、モード選択部40(モード選択スイッチ40)により選択可能である。これにより、ユーザがモード選択部40により緩旋回モード、信地旋回モード、超信地旋回モード、及び第2ターンモード(ゼロターンモード)のいずれかを選択して、作業機100において緩旋回、信地旋回、超信地旋回、及びゼロターンなどを実行することができ、旋回の利便性を一層向上させることが可能となる。
【0097】
本実施形態では、作業機100は、機体2の速度を検出する速度検出部62を備え、制御装置50は、機体2の速度が所定速度以下であれば、機体2が安定状態にあると判断し、機体2の速度が所定速度より速ければ、機体2が安定状態にないと判断する。これにより、機体2が停止しているとき又は機体2の速度が遅いときに、操作部材39(操舵レバー39)が最大量操作されると、ゼロターンが許可されるので、ゼロターンの実行中に、各走行装置1L、1Rと路面との摩擦力を均等に漸増させて、機体2の揺れと振動を低減し、安全性をより向上させることができる。
【0098】
本実施形態では、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rとは、それぞれ履帯式走行装置から構成され、操向装置10は、第1走行装置1Lの駆動速度と第2走行装置1Rの駆動速度とをそれぞれ無段階で変速する無段変速装置21、22を含み、制御装置50は、無段変速装置21、22の変速を制御することにより、第1走行装置1Lと第2走行装置1Rの駆動速度と駆動方向とをそれぞれ変更する。これにより、第1走行装置1Lの駆動速度と第2走行装置1Rの駆動速度とを精度良く制御して、作業機100の緩旋回、信地旋回、超信地旋回、及びゼロターンを確実に実行することができる。
【0099】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均などの意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1 走行装置
1L 第1走行車体
1R 第2走行装置
2 機体
5 原動機
10 操向装置
21 第1無段変速装置(無段変速装置)
22 第2無段変速装置(無段変速装置)
37 主変速レバー(操作部材)
39 操舵レバー(操作部材)
40 モード選択スイッチ(モード選択部)
41 アクセルレバー(操作部材)
42、44、46 ポテンションメータ(操作検出部)
43 スイッチ機構(操作兼検出部)
50 制御装置
62 速度検出部
100 作業機