(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
E02F9/22 A
(21)【出願番号】P 2021120850
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長尾 昂平
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐史
(72)【発明者】
【氏名】濱本 亮太
(72)【発明者】
【氏名】倉智 浩平
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002992(JP,A)
【文献】特開2021-025273(JP,A)
【文献】特開2002-178949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20- 9/22
E02F 9/00
F15B 11/00-11/22
F15B 21/14
F16H 61/14
F16H 61/38-61/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体に設けられた原動機と、
前記機体の左側に設けられた左走行装置と、
前記機体の右側に設けられた右走行装置と、
前記左走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な左走行モータと、
前記右走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な右走行モータと、
正転時に作動油を吐出する第1ポート及び逆転時に作動油を吐出する第2ポートを有する左走行ポンプと、
正転時に作動油を吐出する第3ポート及び逆転時に作動油を吐出する第4ポートを有する右走行ポンプと、
前記左走行ポンプの前記第1ポート及び前記第2ポートに接続され且つ、前記左走行モータに接続される第1循環油路と、
前記右走行ポンプの前記第3ポート及び前記第4ポートに接続され且つ、前記右走行モータに接続される第2循環油路と、
前記左走行モータ及び前記右走行モータの制動を行う制動装置と、
前記第1循環油路及び第2循環油路の作動油の圧力を測定する圧力測定装置と、
前記制動装置による制動が行われ且つ、前記左走行モータ及び前記右走行モータが第2速度になっているときに、前記圧力測定装置が測定した前記第1循環油路及び第2循環油路の作動油の圧力を取得する制御装置と、を備える作業機。
【請求項2】
第1位置及び第2位置に切換え可能で、前記第1位置であるときに前記左走行モータ及び前記右走行モータを前記第1速度に設定し、前記第2位置であるときに前記左走行モータ及び前記右走行モータを前記第2速度に切り換える走行切換
弁を備え、
前記制御装置は、
前記走行切換弁及び前記制動装置を制御し、
前記作動油の圧力を取得する取得モードを実行しているときは、前記走行切換弁を前記第2位置に切換え且つ、前記制動装置の制動を行う請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記取得モードを実行していないときは、前記走行切換弁を前記第1位置又は前記第2位置に切換え可能であり、前記制動装置に対する制動又は制動の解除を実行可能である請求項2に記載の作業機。
【請求項4】
走行操作部材を操作したときに、前記左走行ポンプ及び前記右走行ポンプのいずれかに作動油を作用させる走行操作装置と、
前記走行操作装置と前記左走行ポンプ及び前記右走行ポンプとを接続し且つ前記作動油が流れる走行油路と、
前記走行油路へ供給する作動油を制御する作動弁と、を備え、
前記制御装置は、前記制動装置による制動を実行し且つ、前記左走行モータ及び前記右走行モータを第2速度に切り換えた後に、前記作動弁を制御して前記走行油路への作動油の供給を行う請求項1~3のいずれかに記載の作業機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記
作動油の圧力を取得する取得モードを実行していないときは、前記第1循環油路及び第2循環油路のいずれかの作動油の圧力に基づいて、前記第2速度から第1速度への切換えを行う請求項1~4のいずれかに記載の作業機。
【請求項6】
機体と、
前記機体の左側に設けられた左走行装置と、
前記機体の右側に設けられた右走行装置と、
前記左走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な左走行モータと、
前記右走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な右走行モータと、
正転時に作動油を吐出する第1ポート及び逆転時に作動油を吐出する第2ポートを有すると共に、圧力が作用する第1受圧部を有し、前記第1受圧部に作用する圧力に応じて前記作動油を前記第1ポート又は前記第2ポートから吐出する左走行ポンプと、
正転時に作動油を吐出する第3ポート及び逆転時に作動油を吐出する第4ポートを有すると共に、圧力が作用する第2受圧部を有し、前記第2受圧部に作用する圧力に応じて前記作動油を前記第3ポート又は前記第4ポートから吐出する右走行ポンプと、
前記左走行モータ及び前記右走行モータの制動を行う制動装置と、
前記左走行ポンプの前記第1受圧部と前記右走行ポンプの前記第2受圧部に接続し且つ前記作動油が流れる走行油路と、
前記走行油路へ供給する作動油を制御する作動弁と、
前記制動装置による制動を実行している状態で、前記走行油路へ作動油を供給するべく前記作動弁を動作させるときに、前記作動弁を動作させる前に、前記左走行モータ及び前記右
走行モータの少なくとも一方を前記第2速度へ切り換える制御装置と、を備える作業機。
【請求項7】
機体と、
前記機体の左側に設けられた左走行装置と、
前記機体の右側に設けられた右走行装置と、
前記左走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な左走行モータと、
前記右走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な右走行モータと、
正転時に作動油を吐出する第1ポート及び逆転時に作動油を吐出する第2ポートを有すると共に、圧力が作用する第1受圧部を有し、前記第1受圧部に作用する圧力に応じて前記作動油を前記第1ポート又は前記第2ポートから吐出する左走行ポンプと、
正転時に作動油を吐出する第3ポート及び逆転時に作動油を吐出する第4ポートを有すると共に、圧力が作用する第2受圧部を有し、前記第2受圧部に作用する圧力に応じて前記作動油を前記第3ポート又は前記第4ポートから吐出する右走行ポンプと、
前記左走行モータ及び前記右走行モータの制動を行う制動装置と、
前記左走行ポンプの前記第1受圧部と前記右走行ポンプの前記第2受圧部に接続し且つ前記作動油が流れる走行油路と、
前記走行油路へ供給する作動油を制御する作動弁と、
前記制動装置による制動を実行している状態で前記左走行モータ及び前記右
走行モータが前記第1速度であるときは、前記作動弁の動作を禁止する制御装置と、を備える作業機。
【請求項8】
前記制御装置は、前記制動装置による制動を実行し、且つ前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方が前記第2速度へ切り換えられた状態で、前記走行油路へ供給する作動油を増加又は減少させるべく前記作動弁を動作させる請求項6又は7に記載の作業機。
【請求項9】
原動機を備え、
前記制御装置は、前記制動装置による制動を実行し、前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方が前記第2速度へ切り換えられ、且つ前記作動弁によって前記走行油路へ作動油が供給されている状態で、前記原動機の回転数を上昇又は下降させる請求項6~8のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項10】
前記制御装置は、前記走行油路へ供給された作動油の圧力を取得する取得モードを実行しているときに、前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方を前記第2速度へ切り換え、前記制動装置による制動を実行する請求項6又は7に記載の作業機。
【請求項11】
前記左走行ポンプの前記第1ポート及び前記第2ポートに接続され且つ、前記左走行モータに接続される第1循環油路と、
前記右走行ポンプの前記第3ポート及び前記第4ポートに接続され且つ、前記右走行モータに接続される第2循環油路と、
前記第1循環油路及び第2循環油路の作動油の圧力を測定する圧力測定装置と、を備え、
前記制御装置は、前記圧力測定装置が測定した作動油の圧力を取得する請求項6~10のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項12】
原動機を備え、
前記原動機の実回転数を取得する原動機回転数検出装置を備える請求項6~11のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項13】
前記制御装置は、前記取得モードが解除されると、前記第2速度にある前記左走行モータ及び/又は前記右走行モータを前記第1速度へ切り換え、前記制動装置による制動を解除する請求項10に記載の作業機。
【請求項14】
前記制御装置は、前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方が第2速度であるときに所定の条件が満たされると、前記第2速度にある前記左走行モータ及び/又は前記右走行モータを前記第2速度から前記第1速度に自動的に切り換える自動減速制御を実行する自動減速部を有し、
前記制御装置は、前記取得モードを実行しているときは、前記自動減速制御を実行しない請求項10に記載の作業機。
【請求項15】
前記作動弁は、複数の作動弁から構成され、
前記制御装置は、前記取得モードを実行しているときに、前記複数の作動弁のうち少なくとも1つの作動弁の動作によって前記走行油路へ供給された作動油の圧力を取得した後に、残りの作動弁のうち少なくとも1つの作動弁の動作によって前記走行油路へ供給された作動油の圧力を取得する請求項10に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スキッドステアローダ、コンパクトトラックローダ、バックホー等の作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業機の走行状態に応じた減速を実現する技術として、特許文献1に示されるものが知られている。特許文献1の作業機は、機体に設けられた原動機と、機体に設けられた走行装置と、走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と第2速度とに切換可能な走行モータと、正転時に作動油を吐出するポート及び逆転時に作動油を吐出する別のポートを有する走行ポンプと、走行ポンプの両ポートに接続され且つ、走行モータに接続される第1~第2循環油路と、第1~第2循環油路であって上述のポート側の油路に接続された第1~第4リリーフ弁と、走行モータが第2速度である場合に第2速度から第1速度に自動的に減速する自動減速を行う制御装置と、を備えている。制御装置は、第1リリーフ弁の第1走行リリーフ圧、第2リリーフ弁の第2走行リリーフ圧、第3リリーフ弁の第3走行リリーフ圧、第4リリーフ弁の第4走行リリーフ圧に基づいて自動減速を行うか否かの判断を行う減速閾値を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術は、作業機ごとの走行リリーフ圧(つまり、HSTポンプのリリーフ圧)が既知であるという前提に立つものである。従って、特許文献1には、作業機の個体ごとの走行リリーフ圧を測定する方法が開示されていない。
個体ごとの走行リリーフ圧を測定する方法として、HSTポンプ単体での出荷前にHSTポンプのリリーフ圧を測定することが考えられる。しかし、エンジン負荷による影響等を考慮すると、作業機に組み込んで測定したときのHSTポンプのリリーフ圧が、HSTポンプ単体で測定したときのリリーフ圧とは異なってしまう可能性が高い。また、自動減速制御で使用する走行圧センサにも誤差が生じるため、実際にはこの誤差も含んでリリーフ圧を測定する必要がある。
【0005】
一方で、HSTポンプを作業機に組み込んで走行リリーフ圧を測定する場合には、走行系に負荷をかける手段としてダイナモやパーキングブレーキを用いることが知られている。しかし、ダイナモは大掛かりな設備であり、かつダイナモが設置されている場所でしか作業機の走行系に負荷をかけることはできない。つまり、作業機をダイナモのある場所へ移動させなければ走行リリーフ圧を測定することができない。
また、パーキングブレーキは、作業機を停止状態から動かないように制動することを目的とする装置であるが、パーキングブレーキが発揮する制動力は作業機の自重に抗する程度の大きさである。つまり、リリーフ圧付近の負荷をHSTポンプにかけると、走行系の駆動力がパーキングブレーキの制動力を超えて、作業機が動き出す可能性がある。
【0006】
特に、一度市場に流通した作業機において、HSTポンプや自動減速制御で使用する走行圧センサを交換すると、リリーフ圧に基づく制御を正しく行うために、交換した部品によるリリーフ圧を測定して、それぞれの部品の誤差を補正しなくてはならない。
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、作業機の個体ごとのリリーフ圧を特殊な設備を導入することなく測定することができる作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
技術的課題を解決するために本発明が講じた技術的手段は、以下の通りである。
本発明の一態様による作業機は、機体と、前記機体に設けられた原動機と、前記機体の左側に設けられた左走行装置と、前記機体の右側に設けられた右走行装置と、前記左走行
装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な左走行モータと、前記右走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な右走行モータと、正転時に作動油を吐出する第1ポート及び逆転時に作動油を吐出する第2ポートを有する左走行ポンプと、正転時に作動油を吐出する第3ポート及び逆転時に作動油を吐出する第4ポートを有する右走行ポンプと、前記左走行ポンプの前記第1ポート及び前記第2ポートに接続され且つ、前記左走行モータに接続される第1循環油路と、前記右走行ポンプの前記第3ポート及び前記第4ポートに接続され且つ、前記右走行モータに接続される第2循環油路と、前記左走行モータ及び前記右走行モータの制動を行う制動装置と、前記第1循環油路及び第2循環油路の作動油の圧力を測定する圧力測定装置と、前記制動装置による制動が行われ且つ、前記左走行モータ及び前記右走行モータが第2速度になっているときに、前記圧力測定装置が測定した前記第1循環油路及び第2循環油路の作動油の圧力を取得する制御装置と、を備える。
【0008】
上述の作業機は、第1位置及び第2位置に切換え可能で、前記第1位置であるときに前記左走行モータ及び前記右走行モータを前記第1速度に設定し、前記第2位置であるときに前記左走行モータ及び前記右走行モータを前記第2速度に切り換える走行切換弁を備え、前記制御装置は、前記走行切換弁及び前記制動装置を制御し、前記作動油の圧力を取得する取得モードを実行しているときは、前記走行切換弁を前記第2位置に切換え且つ、前記制動装置の制動を行う。
前記制御装置は、前記取得モードを実行していないときは、前記走行切換弁を前記第1位置又は前記第2位置に切換え可能であり、前記制動装置に対する制動又は制動の解除を実行可能である。
【0009】
上述の作業機は、走行操作部材を操作したときに、前記左走行ポンプ及び前記右走行ポンプのいずれかに作動油を作用させる走行操作装置と、前記走行操作装置と前記左走行ポンプ及び前記右走行ポンプとを接続し且つ前記作動油が流れる走行油路と、前記走行油路へ供給する作動油を制御する作動弁と、を備える。前記制御装置は、前記制動装置による制動を実行し且つ、前記左走行モータ及び前記右走行モータを第2速度に切り換えた後に、前記作動弁を制御して前記走行油路への作動油の供給を行う。
前記制御装置は、前記取得モードを実行していないときは、前記第1循環油路及び第2循環油路のいずれかの作動油の圧力に基づいて、前記第2速度から第1速度への切換えを行う。
【0010】
本発明の別の態様による作業機は、機体と、前記機体の左側に設けられた左走行装置と、前記機体の右側に設けられた右走行装置と、前記左走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な左走行モータと、前記右走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な右走行モータと、第1斜板を有し、前記第1斜板の正転時に作動油を吐出する第1ポート及び前記第1斜板の逆転時に作動油を吐出する第2ポートを有する左走行ポンプと、第2斜板を有し、前記第2斜板の正転時に作動油を吐出する第3ポート及び前記第2斜板の逆転時に作動油を吐出する第4ポートを有する右走行ポンプと、前記左走行モータ及び前記右走行モータの制動を行う制動装置と、前記左走行ポンプの前記第1斜板と前記右走行ポンプの前記第2斜板に接続し且つ前記作動油が流れる走行油路と、前記走行油路へ供給する作動油を制御する作動弁と、前記制動装置による制動を実行している状態で、前記走行油路へ作動油を供給するべく前記作動弁を動作させるときに、前記作動弁を動作させる前に、前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方を前記第2速度へ切り換える制御装置と、を備える。
【0011】
本発明のさらに別の態様による作業機は、機体と、前記機体の左側に設けられた左走行装置と、前記機体の右側に設けられた右走行装置と、前記左走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な左走行モータと、前記右走行装置に動力を伝達可能で且つ第1速度と前記第1速度よりも速い第2速度とに切換可能な右走行モータと、第1斜板を有し、前記第1斜板の正転時に作動油を吐出する第1ポート及び前記第1斜板の逆転時に作動油を吐出する第2ポートを有する左走行ポンプと、第2斜板を有し、前記第2斜板の正転時に作動油を吐出する第3ポート及び前記第2斜板の逆転時に作動油を吐出する第4ポートを有する右走行ポンプと、前記左走行モータ及び前記右走行モータの制動を行う制動装置と、前記左走行ポンプの前記第1斜板と前記右走行ポンプの前記第2斜板に接続し且つ前記作動油が流れる走行油路と、前記走行油路へ供給する作動油を制御する作動弁と、前記制動装置による制動を実行している状態で前記左走行モータ及び前記右走行モータが前記第1速度であるときは、前記作動弁の動作を禁止する制御装置と、を備える。
【0012】
前記制御装置は、前記制動装置による制動を実行し、且つ前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方が前記第2速度へ切り換えられた状態で、前記走行油路へ供給する作動油を増加又は減少させるべく前記作動弁を動作させる。
上述の作業機は、原動機を備える。前記制御装置は、前記制動装置による制動を実行し、前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方が前記第2速度へ切り換えられ、且つ前記作動弁によって前記走行油路へ作動油が供給されている状態で、前記原動機の回転数を上昇又は下降させる。
【0013】
前記制御装置は、前記走行油路へ供給された作動油の圧力を取得する取得モードを実行しているときに、前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方を前記第2速度へ切り換え、前記制動装置による制動を実行する。
上述の作業機は、前記左走行ポンプの前記第1ポート及び前記第2ポートに接続され且つ、前記左走行モータに接続される第1循環油路と、前記右走行ポンプの前記第3ポート及び前記第4ポートに接続され且つ、前記右走行モータに接続される第2循環油路と、前記第1循環油路及び第2循環油路の作動油の圧力を測定する圧力測定装置と、を備える。前記制御装置は、前記圧力測定装置が測定した作動油の圧力を取得する。
【0014】
上述の作業機は、前記原動機の実回転数を取得する原動機回転数検出装置を備える。
前記制御装置は、前記取得モードが解除されると、前記第2速度にある前記左走行モータ及び/又は前記右走行モータを前記第1速度へ切り換え、前記制動装置による制動を解除する。
前記制御装置は、前記左走行モータ及び前記右走行モータの少なくとも一方が第2速度であるときに所定の条件が満たされると、前記第2速度にある前記左走行モータ及び/又は前記右走行モータを前記第2速度から前記第1速度に自動的に切り換える自動減速制御を実行する自動減速部を有し、前記制御装置は、前記取得モードを実行しているときは、前記自動減速制御を実行しない。
【0015】
前記作動弁は、複数の作動弁から構成される。前記制御装置は、前記取得モードを実行しているときに、前記複数の作動弁のうち少なくとも1つの作動弁の動作によって前記走行油路へ供給された作動油の圧力を取得した後に、残りの作動弁のうち少なくとも1つの作動弁の動作によって前記走行油路へ供給された作動油の圧力を取得する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、作業機の個体ごとのリリーフ圧を、特殊な設備を導入することなく当該作業機で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態による作業機の油圧システム(油圧回路)を示す図である。
【
図2】本実施形態による走行操作部材の操作方向等を示す図である。
【
図3】本実施形態による原動機回転数に対応する第1走行リリーフ圧、第2走行リリーフ圧、第3走行リリーフ圧、及び第4走行リリーフ圧の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態による取得モードにおける処理の流れを表すフローチャートを示す図である。
【
図5】本実施形態の変形例による第2取得モードにおける処理の流れを表すフローチャートを示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態による作業機の油圧システム(油圧回路)の一部を示す図である。
【
図7】本発明の第3実施形態による作業機の油圧システム(油圧回路)の一部を示す図である。
【
図8】本実施形態による作業機の一例であるトラックローダを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る作業機の油圧システム及びこの油圧システムを備えた作業機の好適な実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図6は、本発明の第1実施形態による作業機の側面図である。
図6では、作業機の一例として、コンパクトトラックローダを示している。但し、本実施形態による作業機はコンパクトトラックローダに限定されず、例えば、スキッドステアローダ等の他の種類のローダ作業機であってもよい。また、ローダ作業機以外の作業機であってもよい。
【0019】
図6に示すように、作業機1は、機体2と、キャビン3と、作業装置4と、一対の走行装置5L、5Rとを備えている。本実施形態において、作業機1の運転席8に着座した運転者の前側(
図4の左側)を前方、運転者の後側(
図4の右側)を後方、運転者の左側(
図4の手前側)を左方、運転者の右側(
図4の奥側)を右方として説明する。また、前後の方向に直交する方向である水平方向を機体幅方向として説明する。
【0020】
機体2の中央部から右部或いは左部へ向かう方向を機体外方として説明する。言い換えれば、機体外方とは、機体幅方向であって、機体2から離れる方向である。機体外方とは反対の方向を、機体内方として説明する。言い換えれば、機体内方とは、機体幅方向であって、機体2に近づく方向である。
キャビン3は、機体2に搭載されている。キャビン3には運転席8が設けられている。作業装置4は機体2に装着されている。一対の走行装置5L、5Rは、機体2の外側に設けられている。機体2内の後部には、原動機32が搭載されている。
作業装置4は、一対のブーム10と、作業具11と、一対のリフトリンク12と、一対の制御リンク13と、一対のブームシリンダ14と、一対のバケットシリンダ15とを有している。
【0021】
一対のブーム10は、それぞれキャビン3の右側及び左側に上下揺動自在に設けられている。作業具11は、例えば、バケットであって、バケット11は、一対のブーム10の先端部(前端部)に上下揺動自在に設けられている。一対のリフトリンク12及び一対の制御リンク13は、一対のブーム10が上下揺動自在となるように、対応するブーム10の基部(後部)を支持している。一対のブームシリンダ14は、伸縮することにより対応するブーム10を昇降させる。一対のバケットシリンダ15は、伸縮することによりバケット11を揺動させる。
【0022】
左側及び右側に設けられた各ブーム10の前部同士は、異形の連結パイプで連結されている。各ブーム10の基部(後部)同士は、円形の連結パイプで連結されている。
一対のリフトリンク12、一対の制御リンク13及び一対のブームシリンダ14は、左側と右側に設けられた各ブーム10に対応して、機体2の左側と右側にそれぞれ設けられている。
【0023】
一対のリフトリンク12は、対応するブーム10の基部の後部に、縦向きに設けられている。一対のリフトリンク12の上部(一端側)は、対応するブーム10の基部の後部寄りに枢支軸16(第1枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。また、一対のリフトリンク12の下部(他端側)は、機体2の後部寄りに枢支軸17(第2枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第2枢支軸17は、第1枢支軸16の下方に設けられている。
【0024】
一対のブームシリンダ14の上部は、枢支軸18(第3枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第3枢支軸18は、対応するブーム10の基部であって、当該基部の前部に設けられている。一対のブームシリンダ14の下部は、枢支軸19(第4枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第4枢支軸19は、機体2の後部の下部寄りであって第3枢支軸18の下方に設けられている。
【0025】
一対の制御リンク13は、対応するリフトリンク12の前方に設けられている。一対の
制御リンク13の一端は、それぞれ枢支軸20(第5枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第5枢支軸20は、機体2であって、対応するリフトリンク12の前方に設けられている。一対の制御リンク13の他端は、それぞれ枢支軸21(第6枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。第6枢支軸21は、対応するブーム10において、第2枢支軸17の前方で且つ第2枢支軸17の上方に設けられている。
【0026】
一対のブームシリンダ14を伸縮することにより、一対のリフトリンク12及び一対の制御リンク13によって対応するブーム10の基部が支持されながら、一対のブーム10が第1枢支軸16回りに上下揺動し、当該ブーム10の先端部が昇降する。一対の制御リンク13は、対応するブーム10の上下揺動に伴って第5枢支軸20回りに上下揺動する。一対のリフトリンク12は、対応する制御リンク13の上下揺動に伴って第2枢支軸17回りに前後揺動する。
【0027】
一対のブーム10の前部には、バケット11の代わりに別の作業具を装着することができる。別の作業具としては、例えば、油圧圧砕機、油圧ブレーカ、アングルブルーム、アースオーガ、パレットフォーク、スイーパー、モア、スノウブロア等のアタッチメント(予備アタッチメント)がある。
左側のブーム10の前部には、接続部材50が設けられている。接続部材50は、予備アタッチメントに装備された油圧機器と、ブーム10に設けられたパイプ等の第1管材とを接続する装置である。具体的には、接続部材50の一端には、第1管材が接続可能で、他端には、予備アタッチメントの油圧機器に接続された第2管材が接続可能である。これにより、第1管材を流れる作動油は、第2管材を通過して油圧機器に供給される。
【0028】
一対のバケットシリンダ15は、対応するブーム10の前部寄りにそれぞれ配置されている。一対のバケットシリンダ15を伸縮することで、バケット11が揺動される。
一対の走行装置5L、5Rのうち、走行装置5Lは機体2の左側に設けられ、走行装置5Rは機体2の右側に設けられている。一対の走行装置5L、5Rは、本実施形態ではクローラ型(セミクローラ型を含む)の走行装置である。なお、一対の走行装置5L、5Rは、前輪及び後輪を有する車輪型の走行装置であってもよい。以下、説明の便宜上、走行装置5Lのことを左走行装置5L、走行装置5Rのことを右走行装置5Rということがある。
【0029】
原動機32は、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の内燃機関、電動モータ等である。本実施形態では、原動機32は、ディーゼルエンジンであるが、これに限定はされない。
次に、
図1を参照しながら、本実施形態による作業機の油圧システムについて説明する。
【0030】
図1に示すように、作業機の油圧システムは、第1油圧ポンプP1と、第2油圧ポンプP2とを備えている。第1油圧ポンプP1は、原動機32の動力によって駆動する油圧ポンプであって、定容量型のギヤポンプによって構成されている。第1油圧ポンプP1は、タンク22に貯留された作動油を吐出可能である。特に、第1油圧ポンプP1は、主に制御に用いる作動油を吐出する。説明の便宜上、作動油を貯留するタンク22のことを作動油タンクということがある。また、第1油圧ポンプP1から吐出した作動油のうち、制御用として用いられる作動油のことをパイロット油、パイロット油の圧力のことをパイロット圧ということがある。
【0031】
第2油圧ポンプP2は、原動機32の動力によって駆動する油圧ポンプであって、定容量型のギヤポンプによって構成されている。第2油圧ポンプP2は、タンク22に貯留された作動油を吐出可能であって、例えば、作業系の油路に作動油を供給する。例えば、第2油圧ポンプP2は、一対のブーム10を作動させる一対のブームシリンダ14、バケットを作動させる一対のバケットシリンダ15、予備油圧アクチュエータを作動させる予備油圧アクチュエータを制御する制御弁(流量制御弁)に作動油を供給する。
【0032】
また、作業機の油圧システムは、一対の走行モータ36L、36Rと、一対の走行ポンプ53L、53Rと、を備えている。一対の走行モータ36L、36Rは、一対の走行装置5L、5Rに動力を伝達するモータである。一対の走行モータ36L、36Rのうち、
走行モータ36Lは、走行装置(左走行装置)5Lに回転動力を伝達し、走行モータ36Rは、走行装置(右走行装置)5Rに回転動力を伝達する。
【0033】
一対の走行ポンプ53L、53Rは、原動機32の動力によって駆動するポンプであって、例えば、斜板形可変容量アキシャルポンプである。一対の走行ポンプ53L、53Rは、駆動することによって、一対の走行モータ36L、36Rのそれぞれに作動油を供給する。一対の走行ポンプ53L、53Rのうち、走行ポンプ53Lは、走行ポンプ53Lに作動油を供給し、走行ポンプ53Rは、走行ポンプ53Rに作動油を供給する。
【0034】
以下、説明の便宜上、走行ポンプ53Lのことを左走行ポンプ53L、走行ポンプ53Rのことを右走行ポンプ53R、走行モータ36Lのことを左走行モータ36L、走行モータ36Rのことを右走行モータ36Rということがある。
左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rは、第1油圧ポンプP1からの作動油(パイロット油)の圧力(パイロット圧)が作用する受圧部53aと受圧部53bとを有している。受圧部53a、53bに作用するパイロット圧によって斜板(第1斜板,第2斜板)の角度が変更される。斜板(第1斜板,第2斜板)の角度を変更することによって、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの出力(作動油の吐出量)や作動油の吐出方向を変えることができる。
【0035】
ここで、左走行ポンプ53Lの受圧部53a及び受圧部53bを、まとめて第1受圧部という。また、右走行ポンプ53Rの受圧部53a及び受圧部53bを、まとめて第2受圧部という。
左走行ポンプ53Lは、第1斜板の正転時に作動油を吐出する第1ポート82aと、第1斜板の逆転時に作動油を吐出する第2ポート82bとを有している。右走行ポンプ53Rは、第2斜板の正転時に作動油を吐出する第3ポート82cと、第2斜板の逆転時に作動油を吐出する第4ポート82dとを有している。
【0036】
左走行ポンプ53Lの第1ポート82a及び第2ポート82bと、左走行モータ36Lとは、接続油路(第1循環油路)57hによって接続され、左走行ポンプ53Lが吐出した作動油が左走行モータ36Lに供給される。右走行ポンプ53Rの第3ポート82c及び第4ポート82dと、右走行モータ36Rとは、接続油路(第2循環油路)57iによって接続され、右走行ポンプ53Rが吐出した作動油が右走行モータ36Rに供給される。
【0037】
接続油路57hであって左走行ポンプ53Lの第1ポート82a側の油路には、第1リリーフ弁81aが接続され、左走行ポンプ53Lの第2ポート82b側の油路には、第2リリーフ弁81bが接続されている。例えば、第1リリーフ弁81aは、左走行ポンプ53Lの正転によって接続油路57hに作用する圧力が大きくなった場合に作動しやすく、第2リリーフ弁81bは、左走行ポンプ53Lの逆転によって接続油路57hに作用する圧力が大きくなった場合に作動しやすい。
【0038】
接続油路57iであって右走行ポンプ53Rの第3ポート82c側の油路には、第3リリーフ弁81cが接続され、右走行ポンプ53Rの第4ポート82d側の油路には、第4リリーフ弁81dが接続されている。例えば、第3リリーフ弁81cは、右走行ポンプ53Rの正転によって接続油路57iに作用する圧力が大きくなった場合に作動しやすく、第4リリーフ弁81dは、右走行ポンプ53Rの逆転によって接続油路57iに作用する圧力が大きくなった場合に作動しやすい。
【0039】
左走行モータ36Lは、左走行ポンプ53Lから吐出した作動油により回転が可能であり、作動油の流量によって、回転速度(回転数)を変更することができる。左走行モータ36Lには、斜板切換シリンダ37Lが接続され、当該斜板切換シリンダ37Lを一方側或いは他方側に伸縮させることによっても左走行モータ36Lの回転速度(回転数)を変更することができる。即ち、斜板切換シリンダ37Lを収縮した場合には、左走行モータ36Lの回転数は低速(第1速度)に設定され、斜板切換シリンダ37Lを伸長した場合には、左走行モータ36Lの回転数は高速(第2速度)に設定される。つまり、左走行モータ36Lの回転数は、低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに変更が可能である。
【0040】
右走行モータ36Rは、右走行ポンプ53Rから吐出した作動油により回転が可能であり、作動油の流量によって、回転速度(回転数)を変更することができる。右走行モータ36Rには、斜板切換シリンダ37Rが接続され、当該斜板切換シリンダ37Rを一方側或いは他方側に伸縮させることによっても右走行モータ36Rの回転速度(回転数)を変更することができる。即ち、斜板切換シリンダ37Rを収縮した場合には、右走行モータ36Rの回転数は低速(第1速度)に設定され、斜板切換シリンダ37Rを伸長した場合には、右走行モータ36Rの回転数は高速(第2速度)に設定される。つまり、右走行モータ36Rの回転数は、低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに変更が可能である。
【0041】
図1に示すように、本実施形態による作業機の油圧システムは、走行切換弁34を備えている。走行切換弁34は、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度段(回転数段)を第1速度段にする第1位置と、第2速度段にする第2位置とに切換可能である。走行切換弁34は、第1切換弁71L、71Rと、第2切換弁72と、を有している。
【0042】
第1切換弁71Lは、左走行モータ36Lの斜板切換シリンダ37Lに油路を介して接続されていて、第1位置71L1及び第2位置71L2に切り換わる二位置切換弁である。第1切換弁71Lは、第1位置71L1である場合、斜板切換シリンダ37Lを収縮し、第2位置71L2である場合、斜板切換シリンダ37Lを伸長する。
第1切換弁71Rは、右走行モータ36Rの斜板切換シリンダ37Rに油路を介して接続されていて、第1位置71R1及び第2位置71R2に切り換わる二位置切換弁である。第1切換弁71Rは、第1位置71R1である場合、斜板切換シリンダ37Rを収縮し、第2位置71R2である場合、斜板切換シリンダ37Rを伸長する。
【0043】
第2切換弁72は、第1切換弁71L及び第1切換弁71Rを切り換える電磁弁であって、励磁により第1位置72aと第2位置72bとに切り換え可能な二位置切換弁である。第2切換弁72、第1切換弁71L及び第1切換弁71Rは、油路41により接続されている。第2切換弁72は、第1位置72aである場合に第1切換弁71L及び第1切換弁71Rをそれぞれ第1位置71L1、71R1に切り換え、第2位置72bである場合に第1切換弁71L及び第1切換弁71Rをそれぞれ第2位置71L2、71R2に切り換える。
【0044】
つまり、走行切換弁34が第1位置になれば、第2切換弁72が第1位置72a、第1切換弁71Lが第1位置71L1、第1切換弁71Rが第1位置71R1となり、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度段が第1速度段となる。また、走行切換弁34が第2状態になれば、第2切換弁72が第2位置72b、第1切換弁71Lが第2位置71L2、第1切換弁71Rが第2位置71R2となり、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度段が第2速度段となる。
【0045】
このような構成によって、走行切換弁34によって、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに切り換えることができる。
図1に示すように、本実施形態による作業機の油圧システムは、ブレーキ機構(制動装置)30R,30Lを有している。ブレーキ機構30Rは、右側の走行装置5Rの制動、即ち、HSTモータである右走行モータ36Rの回転又はHSTモータ36Rの回転に伴って回転する出力軸の回転を停止可能である。ブレーキ機構30Rは、第1油圧ポンプP1から吐出されたパイロット油(作動油)によって、右走行モータ36Rを制動する制動状態や、当該制動を解除する解除状態に変化する。
【0046】
例えば、ブレーキ機構30Rは、右走行モータ36Rの出力軸に設けられた第1ディスクと、移動可能な第2ディスクと、第2ディスクを第1ディスクと接触する側へ付勢するバネと、を備えている。また、ブレーキ機構30は、第1ディスク、第2ディスク及びバネを収容する収容部(収容ケース)59を備えている。この収容部59であって、第2ディスクが納められている部分と、ブレーキ切換弁80aとは、後述するように油路を介して接続されている。
【0047】
ブレーキ切換弁80aは、ブレーキ機構30Rにおける制動及び制動の解除(制動解除)を行う電磁弁であって、第1位置83a1と第2位置83a2とに切り換え可能な二位置切換弁である。ブレーキ切換弁80aは、第1位置83a1である場合、ブレーキ機構30Rに作用させる作動油の圧力(収容部59に作用する圧力)をブレーキ機構30Rが制動を実行するための圧力に設定する。また、ブレーキ切換弁80aは、第2位置83a2である場合、作動油の圧力を制動解除する圧力に設定する。
【0048】
なお、ブレーキ切換弁80aの切換は、制御装置60の制御により行う。例えば、制御装置60は、ブレーキ切換弁80aのソレノイドを消磁する制御信号を出力して、ブレーキ切換弁80aを第1位置83a1にする。また、制御装置60は、ブレーキ切換弁80aのソレノイドを励磁する制御信号を出力して当該ブレーキ切換弁80aを第2位置83a2にする。また、制御装置60がブレーキ切換弁80aへの制御信号を出力するトリガーには、作業機1に設けられたスイッチを用いてもよい。オペレーターが当該スイッチを手動で操作すれば、制御装置60がスイッチの操作を検出して制御信号を出力行うことができる。また、制御装置90が作業機の運転状況を判断して自動的に制御信号を出力してもよい。
【0049】
したがって、ブレーキ切換弁80aが第1位置83a1をとる場合、収容部59の格納部のパイロット油が排出され、第2ディスクが制動の方向に動き、ブレーキ機構30における制動を行うことができる。また、ブレーキ切換弁80aが第2位置83a2をとる場合、収容部59の格納部にパイロット油が供給され、第2ディスクが制動とは反対側(バネの付勢方向とは反対側)に動き、ブレーキ機構30における制動を解除することができる。
【0050】
なお、ブレーキ機構30Lの構成は、ブレーキ機構30Rと同様の構成である。従って、上述したブレーキ機構30R及び関連の構成を、ブレーキ機構30L及び関連の構成に読み替えればよいため、ブレーキ機構30Lの構成の説明を省略する。
操作装置(走行操作装置)54は、走行操作部材59を操作したときに、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の受圧部53a、53bに作動油を作用させる装置であり、走行ポンプの斜板の角度(斜板角度)を変更可能である。操作装置54は、走行操作部材59と、複数の操作弁55(作動弁55ともいう)とを含んでいる。複数の操作弁55は、操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C及び操作弁55Dである。
【0051】
走行操作部材59は、複数の操作弁(作動弁)55に支持され、左右方向(機体幅方向)又は前後方向に揺動する操作レバーである。即ち、走行操作部材59は、中立位置Nを基準とすると、中立位置Nから右方及び左方に操作可能であると共に、中立位置Nから前方及び後方に操作可能である。言い換えれば、走行操作部材59は、中立位置Nを基準に少なくとも4方向に揺動することが可能である。尚、説明の便宜上、前方及び後方の双方向、即ち、前後方向のことを第1方向という。また、右方及び左方の双方向、即ち、左右方向(機体幅方向)のことを第2方向ということがある。
【0052】
また、複数の操作弁55は、共通、即ち、1本の走行操作部材59によって操作される。複数の操作弁55は、走行操作部材59の揺動に基づいて作動する。複数の操作弁55には、吐出油路40が接続され、吐出油路40を介して、第1油圧ポンプP1からの作動油(パイロット油)が供給可能である。
操作弁55Aは、前後方向(第1方向)のうち、走行操作部材59を前方(一方)に揺動した場合(前方操作した場合)に、前方操作の操作量(操作)に応じて、出力する作動油の圧力を変化させる。操作弁55Bは、前後方向(第1方向)のうち、走行操作部材59を後方(他方)に揺動した場合(後方操作した場合)に、後方操作の操作量(操作)に応じて、出力する作動油の圧力を変化させる。
【0053】
操作弁55Cは、左右方向(第2方向)のうち、走行操作部材59を右方(一方)に揺動した場合(右方操作した場合)に、右方操作の操作量(操作)に応じて、出力する作動油の圧力を変化させる。操作弁55Dは、左右方向(第2方向)のうち、走行操作部材59を、左方(他方)に揺動した場合(左方操作した場合)に、左方操作の操作量(操作)に応じて、出力する作動油の圧力を変化させる。
【0054】
複数の操作弁55と、走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)の斜板(第1斜板,第2斜板)とは、走行油路45によって接続されている。言い換えれば、走行ポンプ(左走行ポンプ53L,右走行ポンプ53R)は、操作弁55(操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C、操作弁55D)から出力した作動油によって斜板(第1斜板,第2斜板)の作動が可能な油圧機器である。
【0055】
走行油路45は、第1走行油路45a、第2走行油路45b、第3走行油路45c、第4走行油路45dと、第5走行油路45eとを有している。第1走行油路45aは、左走行ポンプ53Lの受圧部(第1受圧部)53aに接続された油路であり、走行操作部材59を操作したときに受圧部(第1受圧部)53aに作用する作動油を通過させる油路である。第2走行油路45bは、左走行ポンプ53Lの受圧部(第2受圧部)53bに接続された油路であり、走行操作部材59を操作したときに受圧部(第2受圧部)53bに作用する作動油を通過させる油路である。
【0056】
第3走行油路45cは、右走行ポンプ53Rの受圧部(第3受圧部)53aに接続された油路であり、走行操作部材59を操作したときに受圧部(第3受圧部)53aに作用する作動油を通過させる油路である。第4走行油路45dは、右走行ポンプ53Rの受圧部(第4受圧部)53bに接続された油路であり、走行操作部材59を操作したときに受圧部(第4受圧部)53bに作用する作動油を通過させる油路である。第5走行油路45eは、操作弁55、第1走行油路45a、第2走行油路45b、第3走行油路45c、第4走行油路45dを接続する油路である。
【0057】
走行操作部材59を前方(
図1、
図2では矢印A1方向)に揺動すると、操作弁55Aが操作されて、操作弁55Aからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第1走行油路45aを介して左走行ポンプ53Lの受圧部53aに作用すると共に、第3走行油路45cを介して右走行ポンプ53Rの受圧部53aに作用する。これにより、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、左走行モータ36L及び右走行モータ36Rが正転(前進回転)し、作業機1が前方に直進する。
【0058】
また、走行操作部材59を後方(
図1、
図2では矢示A2方向)に揺動すると、操作弁55Bが操作されて該操作弁55Bからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第2走行油路45bを介して左走行ポンプ53Lの受圧部53bに作用すると共に、第4走行油路45dを介して右走行ポンプ53Rの受圧部53bに作用する。これにより、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、左走行モータ36L及び右走行モータ36Rが逆転(後進回転)し、作業機1が後方に直進する。
【0059】
また、走行操作部材59を右方(
図1、
図2では矢示A3方向)に揺動すると、操作弁55Cが操作されて該操作弁55Cからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第1走行油路45aを介して左走行ポンプ53Lの受圧部53aに作用すると共に、第4走行油路45dを介して右走行ポンプ53Rの受圧部53bに作用する。これにより、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、左走行モータ36Lが正転し且つ右走行モータ36Rが逆転し、作業機1が右側にスピンターン(超信地旋回)する。
【0060】
また、走行操作部材59を左方(
図1、
図2では矢示A4方向)に揺動すると、操作弁55Dが操作されて該操作弁55Dからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第3走行油路45cを介して右走行ポンプ53Rの受圧部53aに作用すると共に、第2走行油路45bを介して左走行ポンプ53Lの受圧部53bに作用する。これにより、左走行ポンプ53L及び右走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、左走行モータ36Lが逆転し且つ右走行モータ36Rが正転し、作業機1が左側にスピンターン(超信地旋回)する。
【0061】
また、走行操作部材59を斜め方向(
図2では矢示A5方向)に揺動すると、受圧部53aと受圧部53bとに作用するパイロット圧の差圧によって、左走行モータ36L及び右走行モータ36Rの回転方向及び回転速度段が決定され、作業機1が前進又は後進しながら右へ信地旋回又は左へ信地旋回する。
すなわち、走行操作部材59を左斜め前方に揺動操作すると、走行操作部材59の揺動
角度に対応した速度で作業機1が前進しながら左旋回する。走行操作部材59を右斜め前方に揺動操作すると、走行操作部材59の揺動角度に対応した速度で作業機1が前進しながら右旋回する。走行操作部材59を左斜め後方に揺動操作すると、走行操作部材59の揺動角度に対応した速度で作業機1が後進しながら左旋回する。走行操作部材59を右斜め後方に揺動操作すると、走行操作部材59の揺動角度に対応した速度で作業機1が後進しながら右旋回する。
【0062】
図1に示すように、作業機1は、制御装置60を備えている。制御装置60は、作業機1の様々な制御を行うもので、CPU、MPU等の半導体、電気電子回路等から構成されている。制御装置60には、記憶装置63と、アクセル65と、モードスイッチ66と、速度切換スイッチ67、回転数検出装置(原動機回転数検出装置)68と、測定装置(圧力測定装置)69と、設定スイッチ73とが接続されている。
【0063】
モードスイッチ66は、自動減速を有効又は無効に切り換えるスイッチである。例えば、モードスイッチ66は、ON/OFFに切り換え可能なスイッチであり、ONである場合に自動減速を有効に切り換え、OFFである場合には自動減速を無効に切り換える。
速度切換スイッチ67は、運転席8の近傍に設けられ、運転者(オペレータ)によって操作可能なスイッチである。速度切換スイッチ67は、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第1速度及び第2速度のいずれかに手動で切り換えることができるスイッチである。例えば、速度切換スイッチ67は、第1速度に対応する位置と第2速度に対応する位置とに切り換え可能なシーソスイッチである。速度切換スイッチ67は、第1速度から第2速度へ切り換える増速操作と、第2速度から第1速度へ切り換える減速操作の指示(トリガー)を出力することができる。
【0064】
回転数検出装置68は、回転数を検出するセンサ等で構成されていて、原動機32の回転数である原動機回転数を検出することができる。
測定装置69は、第1リリーフ弁81a、第2リリーフ弁81b、第3リリーフ弁81c、第4リリーフ弁81dのそれぞれの圧力を検出するセンサである。
設定スイッチ73は、制御装置60が実行する制御モードのうち、少なくとも後述する取得モードを設定(選択)するスイッチである。
【0065】
また、制御装置60は、原動機32の停止を防止する制御、即ち、エンジンストールを防止する制御(つまり、アンチストール制御)を行う。本実施形態においてアンチストール制御とは、回転数検出装置68で検出した実回転数との差(ドロップ回転数という)が閾値以上であるときに、2つの走行ポンプ(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)の出力を低下させることである。例えば、アンチストール制御において、制御装置60は、原動機32のドロップ回転数が閾値以上であるときに、第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rの出力を低下させることによって、エンジンストールを防止する。
【0066】
以下、本実施形態によるアンチストール制御について詳しく説明する。
図1に示すように、作業機の油圧システムは、作動弁67を備えている。作動弁67は、2つの走行ポンプ(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)を作動させるパイロット油のパイロット圧を変更可能な弁である。作動弁67は、パイロット油が流れる吐出油路40に設けられ、開度を変更することによって、2つの走行ポンプ(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)を作動させるパイロット油のパイロット圧(つまり、受圧部53a、53bに作用する作動パイロット圧)を変更する。例えば、作動弁67は、制御装置60の制御信号(例えば、電圧、電流)に基づいて開度が変更可能な電磁比例弁である。
【0067】
つまり、制御装置60は、作動弁67のソレノイド67aを励磁することによって、作動弁67から操作装置54へ向かうパイロット圧(走行一次圧)を変更し、2つの走行ポンプ(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)を作動させるパイロット圧(作動パイロット圧)を変更する。
制御装置60は、自動減速部61を備えている。自動減速部61は、制御装置60に設けられた電気電子回路等、制御装置60に格納されたプログラム等である。
自動減速部61は、走行モードで且つ自動減速が有効である場合には自動減速制御を行
い、走行モードで且つ自動減速が無効である場合には自動減速制御を行わない。また、自動減速部61は、取得モードでは自動減速制御を行わない。
【0068】
自動減速制御において、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)が第2速度であるときに所定の条件(自動減速条件)が満たされると、制御装置60は、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第2速度から第1速度に自動的に切り換える。自動減速制御において、少なくとも走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)が第2速度であるときに自動減速条件が満たされると、制御装置60は、第2切換弁72のソレノイドを消磁することで、第2切換弁72を第2位置72bから第1位置72aに切り換える。これにより、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)が第2速度から第1速度に減速する。つまり、自動減速制御において、制御装置60は、左走行モータ36Lと右走行モータ36Rとの両方を第2速度から第1速度に減速することで自動減速を行う。
【0069】
なお、自動減速部61は、自動減速を行った後、復帰条件を満たすと、第2切換弁72のソレノイドを励磁することで、第2切換弁72を第1位置72aから第2位置72bに切り換える。これにより、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第1速度から第2速度に増速する、即ち、走行モータの速度を復帰させる。つまり、制御装置60は、自動減速後に第1速度から第2速度に復帰する場合は、左走行モータ36Lと右走行モータ36Rとの両方を第1速度から第2速度に増速する。
【0070】
制御装置60は、自動減速が無効である場合に、速度切換スイッチ67の操作に応じて、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第1速度及び第2速度のいずれかに切り換える手動切換制御を行う。
手動切換制御において、制御装置60は、速度切換スイッチ67が第1速度に対応する位置へ切り換えられると、第2切換弁72のソレノイドを消磁することで第2切換弁72を第1位置72aに切り換え、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第1速度にする。また、手動切換制御において、制御装置60は、速度切換スイッチ67が第2速度に対応する位置へ切り換えられると、第2切換弁72のソレノイドを励磁することで第2切換弁72を第2位置72bに切り換え、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)を第2速度にする。
【0071】
さて、制御装置60は、循環油路57h、57iの圧力に基づいて自動減速を行う。循環油路57h、57iには、複数の圧力検出装置80が接続されている。複数の圧力検出装置80は、第1圧力検出装置80a、第2圧力検出装置80b、第3圧力検出装置80c、第4圧力検出装置80dを含んでいる。
第1圧力検出装置80aは、循環油路57hにおいて、左走行モータ36Lの第1ポートP11側に設けられ、第1ポートP11側の圧力を第1走行圧LF(t)として検出する。第2圧力検出装置80bは、循環油路57hにおいて、左走行モータ36Lの第2ポートP12側に設けられ、第2ポートP12側の圧力を第2走行圧LB(t)として検出する。
【0072】
第3圧力検出装置80cは、循環油路57iにおいて、右走行モータ36Rの第3ポートP13側に設けられ、第3ポートP13側の圧力を第3走行圧RF(t)として検出する。第4圧力検出装置80dは、循環油路57iにおいて、右走行モータ36Rの第4ポートP14側に設けられ、第4ポートP14側の圧力を第4走行圧RB(t)として検出する。
【0073】
制御装置60(自動減速部61)は、第1圧力検出装置80aが検出した第1走行圧LF(t,rpm)、第2圧力検出装置80bが検出した第2走行圧LB(t,rpm)、第3圧力検出装置80cが検出した第3走行圧RF(t,rpm)、第4圧力検出装置80dが検出した第4走行圧RB(t,rpm)に基づいて、自動減速を行う。なお、第1走行圧LF(t,rpm)、第2走行圧LB(t,rpm)、第3走行圧RF(t,rpm)、第4走行圧RB(t,rpm)で示された(t,rpm)は、ある時間tでの原動機の実回転数と紐づいた値であることを示している。
【0074】
具体的には、自動減速部61は、式(1)に示すように、第1走行圧LF(t,rpm)、第2走行圧LB(t,rpm)、第3走行圧RF(t,rpm)、第4走行圧RB(t,rpm)が原動機の回転
数に応じて定められた減速閾値ST(rpm)以上になった場合に、自動減速を行う。
【0075】
【0076】
さて、制御装置60(自動減速部61)は、第1リリーフ弁81aの第1走行リリーフ圧w1、第2リリーフ弁81bの第2走行リリーフ圧w2、第3リリーフ弁81cの第3走行リリーフ圧w3、第4リリーフ弁81dの第4走行リリーフ圧w4に基づいて、減速閾値ST(rpm)を設定する。例えば、制御装置60(自動減速部61)は、第1走行リリーフ圧w1、第2走行リリーフ圧w2、第3走行リリーフ圧w3、第4走行リリーフ圧w4のそれぞれと補正係数η1により、減速閾値ST(rpm)を設定する。
【0077】
説明の便宜上、原動機回転数に対応して定められた第1走行リリーフ圧w1のことを第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2のことを第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3のことを第3走行リリーフ圧w3(rpm)、第4走行リリーフ圧w4のことを第4走行リリーフ圧w4(rpm)で表す。
【0078】
また、第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)によって設定された減速閾値STのことを減速閾値ST(rpm)で表す。減速閾値ST(rpm)の設定にあたって、制御装置60(自動減速部61)は、式(2)に示すように、第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、第4走行リリーフ圧w4(rpm)を参照する。また、式(2)のη1は、補正係数である。式(2)に示すように、制御装置60(自動減速部61)は、第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、第4走行リリーフ圧w4(rpm)のそれぞれに補正係数η1を乗算することにより、減速閾値ST(rpm)を設定する。
【0079】
【0080】
このとき、減速閾値ST(rpm)を用いて正確な自動減速を行うためには、正確な第1走行リリーフ圧w1、第2走行リリーフ圧w2、第3走行リリーフ圧w3、及び第4走行リリーフ圧w4を取得する必要がある。そこで、制御装置60は、上述したように、第1走行リリーフ圧w1、第2走行リリーフ圧w2、第3走行リリーフ圧w3、及び第4走行リリーフ圧w4を取得するための制御である取得モードを有している。
【0081】
以下、制御装置60(自動減速部61)が実行する取得モードについて説明する。制御装置60(自動減速部61)は、取得モードを実行すると、まず、原動機回転数を異なる原動機回転数に変更しながら、各原動機回転数ごとに第1走行リリーフ圧w1、第2走行リリーフ圧w2、第3走行リリーフ圧w3、第4走行リリーフ圧w4を取得する。即ち、制御装置60(自動減速部61)は、原動機回転数に対応して定められた走行リリーフ圧(第1走行リリーフ圧w1、第2走行リリーフ圧w2、第3走行リリーフ圧w3、第4走行リリーフ圧w4)を取得する。そして、制御装置60(自動減速部61)は、原動機回
転数に対応して定められた走行リリーフ圧に応じて、減速閾値ST(rpm)の設定を行う。なお、走行リリーフ圧とは、第1リリーフ弁81a、第2リリーフ弁81b、第3リリーフ弁81c、第4リリーフ弁81dが開き始めたときの作動油の圧力、又は、第1リリーフ弁81a、第2リリーフ弁81b、第3リリーフ弁81c、第4リリーフ弁81dが開き始めた後、走行ポンプ53L、53Rからの吐出流量が安定したときの作動油の圧力である。
【0082】
より詳しくは、取得モードでは、制御装置60(自動減速部61)は、原動機回転数を所定回転数に設定する。測定装置69(
図1参照)は、原動機回転数が所定回転数であるときの第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)を測定する。
なお、取得モードにおいて制御装置60(自動減速部61)は、原動機回転数を少なくともアイドリングに対応する回転数から上限の回転数までの範囲で変更し、変更された原動機回転数毎に第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)を測定する。
【0083】
図3に示すように、記憶装置63は、取得モードにおいて、異なる原動機回転数に対応する第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)の組を複数記憶する。即ち、記憶装置63は、1つの原動機回転数に対して、第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)の一つの組を対応付けて記憶する。
【0084】
図4を参照しながら、取得モードにおける制御装置60の動作、つまり作業機1の動作について、さらに詳細に説明する。
図4は、取得モードにおける処理の流れを示すフローチャートである。
取得モードは、作業機1が平坦な地面上に駐機していて、原動機32が稼働していて、かつアイドリング回転数にある状態(アイドリング状態)で開始可能な制御である。このアイドリング状態では、ブレーキ切換弁80aは第1位置83a1にあって、ブレーキ機構30L,30Rの制動が解除されている。加えて、走行切換弁34の第2切換弁72が第1位置72aにあるため、第1切換弁71Lが第1位置71L1、第1切換弁71Rが第1位置71R1にあり、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度段が第1速度段となっている。
【0085】
原動機32がアイドリング状態にあるときに、設定スイッチ73によって取得モードが選択されると(ステップS1)、制御装置60(自動減速部61)は、取得モードによる制御を開始する(ステップS2)。
取得モードにおいて、制御装置60(自動減速部61)は、まず、ブレーキ切換弁80aへ制御信号を出力して、ブレーキ切換弁80aのソレノイドを励磁する。この励磁によって、ブレーキ切換弁80aは第1位置83a1へ切り換わり、ブレーキ機構30L,30Rにおける制動が実行される。つまり、ブレーキ機構30L,30Rが走行モータ36L,36Rを制動(パーキングロック)する(ステップS3)。
【0086】
ステップS3の後、制御装置60(自動減速部61)は、走行切換弁34の第2切換弁72へ制御信号を出力して、第2切換弁72のソレノイドを励磁する。この励磁によって、第2切換弁72は第2位置72bへ切り換わり、第1切換弁71Lが第2位置71L2へ、第1切換弁71Rが第2位置71R2へ切り換わる。つまり、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度段が第2速度段となる(ステップS4)。
【0087】
ステップS4の後、制御装置60は、原動機32のエンジンストールを防止するためのアンチストール制御を開始する(ステップS5)。アンチストール制御とは、アンチストール比例弁やアンロード弁を制御することで原動機32のエンジンストールを防止する技術である。
ステップS5の後、制御装置60は、原動機32の回転速度を所定の回転速度(例えば、700rpm)へ上昇させる(ステップS6)。
【0088】
ステップS6の後、制御装置60は、原動機32の回転速度が所定の回転速度で安定す
ると、操作弁55(操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C、操作弁55D)から出力される作動油の圧力(パイロット圧)を制御して、当該回転速度における上限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させる(ステップS7)。
【0089】
これによって、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)から走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)へ規定流量の作動油が供給される。
ステップS7の後、制御装置60に接続された測定装置69は、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)の測定を開始する(ステップS8)。
【0090】
ステップS8の後、測定装置69は、第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)が生じ始めた後、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)からの作動油の吐出流量が安定すると、吐出流量が安定した状態での第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)を取得する(ステップS9)。
【0091】
ステップS9の後、制御装置60に接続された記憶装置63は、取得された第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)の組を、当該走行リリーフ圧を測定したときの原動機回転数に対応付けて記憶する(ステップS10)。
ステップS10の処理によって、記憶装置63は、
図3に示すような、原動機回転数に対応する第1走行リリーフ圧、第2走行リリーフ圧、第3走行リリーフ圧、及び第4走行リリーフ圧の組を記憶する。
【0092】
ステップS9の後、異なる原動機回転数での第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)を測定する必要がある場合(ステップS11)、制御装置60は、処理をステップS6へ戻し、測定の必要がない場合は、取得モードを終了する。
上述のステップS1~S10からなる取得モードは、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)が原動機32によって駆動される作業機1において実行される。
尚、ステップS7において、制御装置60が、操作弁55(操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C、操作弁55D)から出力される作動油の圧力(パイロット圧)を制御すると説明した。このとき、制御装置60は、操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C、操作弁55Dを順番に操作する。
【0093】
操作弁55Aが操作されれば、操作弁55Aが操作されたときに出力される作動油の圧力(パイロット圧)によって、当該回転速度における上限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させることができる。操作弁55Bが操作されれば、操作弁55Bが操作されたときに出力される作動油の圧力(パイロット圧)によって、当該回転速度における上限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させることができる。操作弁55Cが操作されれば、操作弁55Cが操作されたときに出力される作動油の圧力(パイロット圧)によって、当該回転速度における上限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させることができる。また、操作弁55Dが操作されれば、操作弁55Dが操作されたときに出力される作動油の圧力(パイロット圧)によって、当該回転速度における上限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させることができる。
【0094】
さらに、操作弁55A,55Cが操作されれば、操作弁55A,55Cが操作されたときに出力される作動油の圧力(パイロット圧)によって、当該回転速度における上限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させることができる。操作弁55A,55Dが操作されれば、操作弁55A,55Dが操作されたときに出力される作動油の圧力(パイロット圧)によって、当該回転速度における上
限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させることができる。操作弁55B,55Cが操作されれば、操作弁55B,55Cが操作されたときに出力される作動油の圧力(パイロット圧)によって、当該回転速度における上限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させることができる。また、操作弁55B,55Dが操作されれば、操作弁55B,55Dが操作されたときに出力される作動油の圧力(パイロット圧)によって、当該回転速度における上限のパイロット圧で走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させることができる。
【0095】
このように、ステップS7では、操作弁55(操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C、操作弁55D)の1つ又は2つを操作して作動油を出力するが、これら操作弁55は、走行操作部材59の揺動によって操作される。従って、制御装置60は、操作すべき1つ又は2つの操作弁55を操作するために、走行操作部材59の揺動方向を、運転席8の周辺に設けられたモニター(表示装置)などに表示する。このモニターを視認したオペレーターが、走行操作部材59を、モニターの表示に従って揺動する。
【0096】
以上の動作を経て、1つ又は2つの操作弁55の各組み合わせにおいて、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)から走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)へ規定流量の作動油が供給される。
続くステップS8において、制御装置60に接続された測定装置69は、第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)の測定を開始する。
【0097】
例えば、制御装置60は、
図4に示すフローチャートのステップS7において、操作弁55Aを操作するための走行操作部材59の揺動方向を、モニター(表示装置)に表示する。その後、走行操作部材59の揺動によって操作弁55Aが操作されると、制御装置60は、ステップS8~ステップS10を経て第1~4走行リリーフ圧w1~w4(rpm)を取得し記憶する。ステップS11において、操作弁55Aとは異なる操作弁55が操作されたときの走行リリーフ圧を測定する必要がある場合は、制御装置60は、処理をステップS7に戻す。
【0098】
ステップS7に戻ると、制御装置60は、例えば操作弁55Aとは異なる操作弁55Bを操作するための走行操作部材59の揺動方向を、モニター(表示装置)に表示し、上述の動作を繰り返す。このように、制御装置60は、ステップS7~S11を繰り返すことで、上述した1つ又は2つの操作弁55を操作したときの第1~4走行リリーフ圧w1~w4(rpm)を取得し記憶する。
【0099】
(変形例)
作業機1の走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)が電気HSTで構成される場合の取得モード(以下、第2取得モードという)について、以下に説明する。ここでは、第1油圧ポンプP1も第2油圧ポンプP2も電動油圧ポンプで構成されている。
図5を参照しながら、第2取得モードにおける制御装置60の動作、つまり作業機1の動作について、さらに詳細に説明する。
図5は、第2取得モードにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【0100】
第2取得モードは、作業機1が稼働可能な状態で平坦な地面上に駐機していることを条件として開始可能な制御である。このとき、ブレーキ切換弁80aは第1位置83a1にあって、ブレーキ機構30L,30Rの制動が解除されている。加えて、走行切換弁34の第2切換弁72が第1位置72aにあるため、第1切換弁71Lが第1位置71L1、第1切換弁71Rが第1位置71R1にあり、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度段が第1速度段となっている。
【0101】
設定スイッチ73によって取得モードが選択されると(ステップS20)、制御装置60(自動減速部61)は、取得モードによる制御を開始する(ステップS21)。
取得モードにおいて、制御装置60(自動減速部61)は、まず、ブレーキ切換弁80aへ制御信号を出力して、ブレーキ切換弁80aのソレノイドを励磁する。この励磁によ
って、ブレーキ切換弁80aは第1位置83a1へ切り換わり、ブレーキ機構30L,30Rにおける制動が実行される。つまり、ブレーキ機構30L,30Rが走行モータ36L,36Rを制動(パーキングロックという)する(ステップS22)。
【0102】
ステップS22の後、制御装置60(自動減速部61)は、走行切換弁34の第2切換弁72へ制御信号を出力して、第2切換弁72のソレノイドを励磁する。この励磁によって、第2切換弁72は第2位置72bへ切り換わり、第1切換弁71Lが第2位置71L2へ、第1切換弁71Rが第2位置71R2へ切り換わる。つまり、走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度段が第2速度段となる(ステップS23)。
ステップS23の後、制御装置60は、電気HSTポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の回転速度を所定の回転速度(例えば、700rpm)へ上昇させる(ステップS24)。
【0103】
ステップS24の後、制御装置60は、電気HSTポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の回転速度が所定の回転速度で安定すると、操作弁55(操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C、操作弁55D)から出力から出力される作動油の圧力(パイロット圧)を制御して、当該回転速度における上限のパイロット圧で電気HSTポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の斜板を傾転させる(ステップS25)。
これによって、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)から走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)へ規定流量の作動油が供給される。
【0104】
ステップS25の後、制御装置60に接続された測定装置69は、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)の測定を開始する(ステップS26)。
ステップS26の後、測定装置69は、第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)が生じ始めた後、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)からの作動油の吐出流量が安定すると、吐出流量が安定した状態での第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)を取得する(ステップS27)。
【0105】
ステップS27の後、制御装置60に接続された記憶装置63は、測定された第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)の組を、当該走行リリーフ圧を測定したときの原動機回転数に対応付けて記憶する(ステップS28)。
ステップS28の処理によって、記憶装置63は、走行ポンプ(左走行ポンプ53L、右走行ポンプ53R)の回転数に対応する第1走行リリーフ圧、第2走行リリーフ圧、第3走行リリーフ圧、及び第4走行リリーフ圧の組を記憶し、
図3と同様の情報を得る。
【0106】
ステップS27の後、異なる原動機回転数での第1走行リリーフ圧w1(rpm)、第2走行リリーフ圧w2(rpm)、第3走行リリーフ圧w3(rpm)、及び第4走行リリーフ圧w4(rpm)を測定する必要がある場合(ステップS29)、制御装置60は、処理をステップS24へ戻し、測定の必要がない場合は、取得モードを終了する。
上述の実施形態及び実施例によれば、取得モードにおけるステップS3及びステップS22で走行モータ36L,36Rを制動(パーキングロック)するが、ステップS4及びステップS23で走行モータ(左走行モータ36L、右走行モータ36R)の回転速度段を第2速度段に切り換えるため、走行モータの回転速度段が第1速度段である場合と比較して、作動油による同一の負荷圧に対する、走行モータの回転トルクを減少させることができる。この回転トルクの減少は、ブレーキ機構30L,30Rに加わる負荷を低減する。
【0107】
上述の実施形態及び変形例説明では、自動減速部61が取得モードを実行した。しかし、自動減速部61に代えて、制御装置60が、自動減速とは関係なく独立して取得モードを実行するコンピュータプログラムや電子回路を有していてもよい。
制御装置60が、自動減速とは関係なく独立して取得モードを実行できる構成を有していれば、例えば、ディーラー等でHSTポンプや足回りの部品を交換した場合でも、特殊な設備を導入せずに作業機1の個体ごとに走行リリーフ圧を測定することができる。
【0108】
(第2実施形態)
以下、
図6を参照しつつ、本発明の第2実施形態について説明する。
図6は、本発明の第2実施形態による作業機の油圧システム(油圧回路)の一部を示す図である。本実施形態において、第1実施形態で説明した構成要素と同様の構成要素については、同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0109】
図示しないが、第1実施形態による
図1と同様、左走行ポンプ53Lは接続油路(第1循環油路)57hに接続され、右走行ポンプ53Rは接続油路(第2循環油路)57iに接続されている。さらに、接続油路57hには、第1,2リリーフ弁81a,81bが設けられ、接続油路57iには、第3,4リリーフ弁81c,81dが設けられている。
第1実施形態では、操作装置54は、操作レバー59と操作弁55によって走行ポンプ(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)に作用するパイロット圧を変更する油圧式であった。
【0110】
図6に示すように、第2実施形態では、電気的に作動するジョイスティックで構成される操作レバー59と後述する制御装置60を採用し、電磁比例弁で構成された操作弁(作動弁)55(操作弁55a、55b、55c、55d)を採用する。操作レバー59は、左右方向(機体幅方向)又は前後方向に揺動する操作レバーである。操作レバー59は、操作量(揺動量)及び操作方向(揺動方向)を検出するセンサ(操作検出センサ)を有する。この操作検出センサは、制御装置60に接続されている。
制御装置60は、操作検出センサが出力した操作レバー59の操作量及び操作方向に応じて、操作弁(作動弁)55(操作弁55a、55b、55c、55d)へ制御信号を出力する。操作弁55(操作弁55a、55b、55c、55d)は、それぞれ操作レバー59の操作方向(
図2に示すA1方向~A4方向)に割り当てられる。
【0111】
本実施形態では、操作レバー59と制御装置60によって操作弁55(操作弁55a、55b、55c、55d)を操作することで、第1実施形態による操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)が行う動作を実現する。
本実施形態による上述の構成で走行リリーフ圧を測定する技術及び構成は、
図1~4を用いた第1実施形態で説明した技術及び構成と同様である。操作弁55(操作弁55A、55B、55C、55D)を操作弁55(操作弁55a、55b、55c、55d)に置き換えることで、第1実施形態と同様に走行リリーフ圧を測定することができる。
【0112】
(第3実施形態)
以下、
図6,7を参照しつつ、本発明の第3実施形態について説明する。
図7は、本発明の第3実施形態による作業機の油圧システム(油圧回路)の一部を示す図である。本実施形態において、第1実施形態及び第2実施形態で説明した構成要素と同様の構成要素については、同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0113】
図7において図示しないが
図6と同様に、第3実施形態では、電気的に作動するジョイスティックで構成される操作レバー59と制御装置60を採用する。本実施形態では、
図6に示す操作弁55(操作弁55a、55b、55c、55d)に代えて、
図7に示す電磁比例弁で構成される操作弁(作動弁)155L、155R及び油圧レギュレータ156L、156Rを採用する。
【0114】
第2実施形態と同様に、操作レバー59は、左右方向(機体幅方向)又は前後方向に揺動する操作レバーである。操作レバー59は、操作量(揺動量)及び操作方向(揺動方向)を検出するセンサ(操作検出センサ)を有する。この操作検出センサは、制御装置60に接続されている。
電磁比例弁で構成される操作弁(作動弁)155L、155Rは、制御装置60に電気的に接続されている。第2実施形態による操作弁55(操作弁55a、55b、55c、55d)と同様に、操作弁155L、155Rにおいても、操作レバー59の操作に応じ
た制御装置60からの制御信号によって、各弁の切換位置及び開度が制御される。
【0115】
図7に示すように、油圧レギュレータ156L、156Rは、それぞれ走行ポンプ(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)の斜板に接続されている。油圧レギュレータ156L、156Rの各々は、走行ポンプ53L,53R(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)の斜板の角度(斜板角度)を変更可能であって、作動油が供給される供給室157と、供給室157に設けられたピストンロッド158とを含んでいる。ピストンロッド158は斜板に連結されていて、ピストンロッド158の移動(つまり、伸縮)によって斜板が揺動し、斜板角度を変更することができる。
【0116】
ここで、左走行ポンプ53Lの斜板に接続する油圧レギュレータ156Lの供給室157を第1受圧部という。また、右走行ポンプ53Rの斜板に接続する油圧レギュレータ156Rの供給室157を第2受圧部という。
操作弁155Lは、油圧レギュレータ156Lを操作する弁であり、油圧レギュレータ156Lを操作することで走行ポンプ53Lが出力する作動油の量を制御する弁である。操作弁155Lは、ソレノイド160Lを有する電磁比例弁で構成されており、制御装置60からソレノイド160Lに出力された制御信号に基づいて、操作弁155Lのスプールが移動する。このスプールの移動によって、操作弁155Lの開度が変更される。操作弁155Lは、第1位置159aと第2位置159bと中立位置159cとを有し、いずれかの位置に切り換え可能である。
【0117】
操作弁155Lの第1ポートと油圧レギュレータ156Lの供給室157とは、第1走行油路45aにより接続されている。操作弁155Lの第2ポートと油圧レギュレータ156Lの供給室157とは、第2走行油路45bにより接続されている。
操作弁155Rは、油圧レギュレータ156Rを操作する弁であり、油圧レギュレータ156Rを操作することで走行ポンプ53Rが出力する作動油の量を制御する弁である。操作弁155Rは、ソレノイド160Rを有する電磁比例弁で構成されており、制御装置60からソレノイド160Rに付与された制御信号に基づいて、操作弁155Rのスプールが移動する。このスプールの移動によって、操作弁155Rの開度が変更される。操作弁155Rは、第1位置159aと第2位置159bと中立位置159cとを有し、いずれかの位置に切り換え可能である。
【0118】
操作弁155Rの第1ポートと油圧レギュレータ156Rの供給室157とは、第3走行油路45cにより接続されている。操作弁155Rの第2ポートと油圧レギュレータ156Rの供給室157とは、第4走行油路45dにより接続されている。
操作弁155L及び操作弁155Rを第1位置159aに切り換えれば、油圧レギュレータ156L、156Rが作動して走行ポンプ53L,53Rの斜板が揺動し、走行ポンプは正転する。操作弁155L及び操作弁155Rを第2位置159bに切り換えれば、油圧レギュレータ156L、156Rが作動して走行ポンプ53L,53Rの斜板が揺動し、走行ポンプは逆転する。
【0119】
操作弁155Lを第1位置159aに切り換え且つ操作弁155Rを第2位置159bに切り換えれば、第1走行ポンプ53Lは正転し、第2走行ポンプ53Rは逆転する。操作弁155Lを第2位置159bに切り換え且つ操作弁155Rを第1位置159aに切り換えれば、第1走行ポンプ53Lは逆転し、第2走行ポンプ53Rは正転する。
本実施形態では、操作レバー59と制御装置60によって、操作弁155L及び操作弁155Rを操作することで油圧レギュレータ156L、156Rを動作させて、第2実施形態と同様に走行ポンプ53L,53Rの斜板を揺動させる。
【0120】
従って、本実施形態による上述の構成で走行リリーフ圧を測定する技術及び構成は、
図6を用いた第2実施形態で説明した技術及び構成と同様である。操作弁55(操作弁55a、55b)を操作弁155Lと油圧レギュレータ156Lに置き換え、操作弁55(操作弁55c、55d)を操作弁155Rと油圧レギュレータ156Rに置き換えることで、第2実施形態と同様に走行リリーフ圧を測定することができる。
【0121】
上述の第1~第3実施形態において、制御装置60は、ブレーキ機構(制動装置)30R,30Lによる制動を実行し、左走行モータ36L及び右走行モータ36Rの少なくと
も一方が第2速度へ切り換えられ、且つ操作弁55又は155によって走行油路45a~45dへ作動油が供給されている状態で、原動機32の回転数を上昇又は下降させる。原動機32の回転数を上昇又は下降によって、操作弁55又は155から走行油路45a~45dへ供給される作動油の圧力を変更することができる。その結果、制御装置60は、リリーフ弁81a~81dが開き始める原動機32の実回転数を、原動機回転数検出装置68によって検出することができる。
【0122】
このとき、制御装置60は、操作弁55又は155へ出力する制御信号の電流値と、負荷により低下した原動機回転数とを対応付けて記憶する。
また、制御装置60は、取得モードが解除されると、第2速度にある左走行モータ36L及び/又は右走行モータ36Rを第1速度へ切り換え、ブレーキ機構(制動装置)30R,30Lによる制動を解除する。これによって、作業機1は、新たなリリーフ圧に基づいた通常の運転を行うことができる。
【0123】
上述の第1実施形態~第3実施形態では、走行モータの速度段が第1速度と第1速度よりも高速である第2速度の2段階である構成を例示した。しかし、走行モータの速度段は3段階以上の複数段であってもよい。本発明及び上述の各実施形態の趣旨は、第1速度よりも高い速度段を用いて走行リリーフ圧を測定することである。従って、第2速度よりも高速の第3速度や、第3速度よりも高速の第4速度などの速度段を有する作業機においても、上述の各実施形態における第2速度の代わりに、第3速度や第4速度を適用することで、同様の制御を実行して走行リリーフ圧を測定することができる。
【0124】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0125】
1 作業機
2 機体
5L 左走行装置
5R 右走行装置
36L 左走行モータ
36R 右走行モータ
57h 第1循環油路(接続油路)
57i 第2循環油路(接続油路)
60 制御装置
80a 第1圧力検出装置
80b 第2圧力検出装置
80c 第3圧力検出装置
80d 第4圧力検出装置
81a 第1リリーフ弁
81b 第2リリーフ弁
81c 第4リリーフ弁
81d 第4リリーフ弁
83a ブレーキ切換弁