(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】原子炉内出力分布推定装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
G21C17/00 210
G21C17/00 220
(21)【出願番号】P 2021135615
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中居 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 礼
(72)【発明者】
【氏名】和田 怜志
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-208366(JP,A)
【文献】特開2004-233363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0151274(US,A1)
【文献】特表2013-505454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0219101(US,A1)
【文献】特開2001-133580(JP,A)
【文献】Rei Kimura, Yuki Nakai and Satoshi Wada,Reactor Core Power Distribution Reconstruction Method by Ex-Core Detectors Based on the Correlation Effect Between Fuel Regions,Nuclear Science and Engineering,米国,American Nuclear Society,2021年05月10日
【文献】木村 礼、中居 勇樹、和田 怜志,燃料間出力相関を考慮した炉外計装による炉心出力分布再構成手法の開発(1):理論検討と解析による検証,日本原子力学会2021年春の年会予稿集,日本,日本原子力学会,2021年03月,3B05
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の内部で区画されている燃料領域のパワー出力と中性子検出器の検出値との応答関係を示す第1係数を、設計情報に基づいて算定する第1算定部と、
前記燃料領域の相互間の相関関係を示す第2係数を、前記設計情報に基づいて算定する第2算定部と、
予め設定された前記パワー出力、前記第1係数及び前記第2係数に基づいて各々の前記中性子検出器の検出値を演算する演算部と、
前記中性子検出器の実測検出値を受信する受信部と、
各々の前記中性子検出器について別々に前記実測検出値及び前記検出値の差分を取り合計した差分合計値を計算する計算部と、
前記差分合計値が所定レベルよりも大きく判定された場合、前記検出値の演算に適用する前記パワー出力の設定値を更新させる更新部と、
前記所定レベルよりも前記差分合計値が小さく判定された場合、前記検出値の演算に適用した前記パワー出力を推定値として出力する出力部と、を備える原子炉内出力分布推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉内出力分布推定装置において、
前記第2係数を要素に持つ行列をベキ乗処理し、処理済の第2係数に、ベキ乗指数に対応する中性子世代数を反映させる処理部を備える原子炉内出力分布推定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の原子炉内出力分布推定装置において、
前記第1係数及び前記第2係数を合成した合成係数を、前記実測検出値の受信に先立ち保存しておく保存部を備える原子炉内出力分布推定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の原子炉内出力分布推定装置において、
前記差分合計値における前記差分は、前記検出値の規格化値及び前記実測検出値の規格化値による原子炉内出力分布推定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の原子炉内出力分布推定装置において、
前記検出値及び前記実測検出値は、前記原子炉の内側のみ、外側のみ及びこれらの両側のいずれかに配置された前記中性子検出器に由来する原子炉内出力分布推定装置。
【請求項6】
原子炉の内部で区画されている燃料領域のパワー出力と中性子検出器の検出値との応答関係を示す第1係数を、設計情報に基づいて算定するステップと、
前記燃料領域の相互間の相関関係を示す第2係数を、前記設計情報に基づいて算定するステップと、
予め設定された前記パワー出力、前記第1係数及び前記第2係数に基づいて各々の前記中性子検出器の検出値を演算するステップと、
前記中性子検出器の実測検出値を受信するステップと、
各々の前記中性子検出器について別々に前記実測検出値及び前記検出値の差分を取り合計した差分合計値を計算するステップと、
前記差分合計値が所定レベルよりも大きく判定された場合、前記検出値の演算に適用する前記パワー出力の設定値を更新させるステップと、
前記所定レベルよりも前記差分合計値が小さく判定された場合、前記検出値の演算に適用した前記パワー出力を推定値として出力するステップと、を含む原子炉内出力分布推定方法。
【請求項7】
コンピュータに、
原子炉の内部で区画されている燃料領域のパワー出力と中性子検出器の検出値との応答関係を示す第1係数を、設計情報に基づいて算定するステップ、
前記燃料領域の相互間の相関関係を示す第2係数を、前記設計情報に基づいて算定するステップ、
予め設定された前記パワー出力、前記第1係数及び前記第2係数に基づいて各々の前記中性子検出器の検出値を演算するステップ、
前記中性子検出器の実測検出値を受信するステップ、
各々の前記中性子検出器について別々に前記実測検出値及び前記検出値の差分を取り合計した差分合計値を計算するステップ、
前記差分合計値が所定レベルよりも大きく判定された場合、前記検出値の演算に適用する前記パワー出力の設定値を更新させるステップ、
前記所定レベルよりも前記差分合計値が小さく判定された場合、前記検出値の演算に適用した前記パワー出力を推定値として出力するステップ、を実行させる原子炉内出力分布推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉内の出力分布の推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉内の出力分布を推定する為、核分裂反応によるエネルギー出力と同時に放出される中性子の検出が行われている。中性子の検出値と原子炉のパワー出力との間に正の相関関係にあるため、中性子の検出値の情報に基づいて、原子炉の出力分布が推定される(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
この中性子の検出器は、原子炉の内部に配置されたりその外部に配置されたりする。特に、検出器が原子炉の外部に配置される場合、原子炉の中心部にある燃料領域から放出される中性子は、隔たりにより検出感度が低下する。このような不都合を解消し、さらに原子炉内の出力分布を推定する方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2096594号公報
【文献】特許第5443901号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Rei Kimura, et al., “Reactor Core Power Distribution Reconstruction Method by Ex-Core Detectors Based on the Correlation Effect Between Fuel Regions”, Nuclear Science and Engineering, publish online, 2021, DOI: 10.1080/00295639.2021.1908081
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した原子炉内の出力分布の推定方法の提案は、数式を交えた抽象的な原理説明にとどまり、実現に向けた具体的構成まで十分検討されていなかった。また、中性子第1世代のみを考慮して核分裂の連鎖反応をシミュレートしているため、原子炉内の出力分布の推定値の信頼性が十分とは言えない課題があった。
【0007】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、より信頼性の高い原子炉内の出力分布の推定技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置において、原子炉の内部で区画されている燃料領域のパワー出力と中性子検出器の検出値との応答関係を示す第1係数を設計情報に基づいて算定する第1算定部と、前記燃料領域の相互間の相関関係を示す第2係数を前記設計情報に基づいて算定する第2算定部と、予め設定された前記パワー出力、前記第1係数及び前記第2係数に基づいて各々の前記中性子検出器の検出値を演算する演算部と、前記中性子検出器の実測検出値を受信する受信部と、各々の前記中性子検出器について別々に前記実測検出値及び前記検出値の差分を取り合計した差分合計値を計算する計算部と、前記差分合計値が所定レベルよりも大きく判定された場合に前記検出値の演算に適用する前記パワー出力の設定値を更新させる更新部と、前記所定レベルよりも前記差分合計値が小さく判定された場合に前記検出値の演算に適用した前記パワー出力を推定値として出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態により、より信頼性の高い原子炉内の出力分布の推定技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置の構成図。
【
図2】実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置が適用される原子炉の水平断面図。
【
図3】燃料領域と中性子検出器との応答関係及び燃料領域の相互間の相関関係を説明する模式図。
【
図4】原子炉内出力分布推定装置の構成要素の機能を説明する数式。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置の構成図。
【
図6】反映した中性子世代数に対する原子炉内出力分布の推定値の誤差量を示すグラフ。
【
図7】実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法の手順、並びに原子炉内出力分布推定プログラムのアルゴリズムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置10A(10)(以下、単に「装置10A」という)の構成図である。
図2は実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置10が適用される原子炉40の水平断面図である。
図3は燃料領域42
m[m=1~M]と中性子検出器41
n[n=1~N]との応答関係及び燃料領域42
m[m=1~M]の相互間の相関関係を説明する模式図である。
【0012】
図1に示すように装置10A(10)は、原子炉40の内部で区画されている燃料領域42
m[m=1~M]のパワー出力R
m[m=1~M]と中性子検出器41
n[n=1~N]の検出値D
n[n=1~N]との応答関係を示す第1係数C
n,iを設計情報15に基づいて算定する第1算定部11と、燃料領域42
m[m=1~M]の相互間の相関関係を示す第2係数F
i,mを設計情報15に基づいて算定する第2算定部12と、を備えている。
【0013】
さらに装置10A(10)は、予め設定されたパワー出力Rm[m=1~M]、第1係数Cn,i及び第2係数Fi,mに基づいて各々の中性子検出器41n[n=1~N]の検出値Dn[n=1~N]を演算する演算部17と、中性子検出器41n[n=1~N]の実測検出値Dn
*[n=1~N]を受信する受信部18と、各々の中性子検出器41n[n=1~N]について別々に実測検出値Dn
*[n=1~N]及び検出値Dn[n=1~N]の差分を取り合計した差分合計値23を計算する計算部21と、を備えている。
【0014】
さらに装置10A(10)は、差分合計値23が所定レベルよりも大きく判定された場合に検出値Dn[n=1~N]の演算に適用するパワー出力Rm[m=1~M]の設定値28を更新させる更新部25と、この所定レベルよりも差分合計値23が小さく判定された場合に検出値Dn[n=1~N]の演算に適用したパワー出力Rm[m=1~M]を推定値29として出力する出力部26と、を備えている。
【0015】
図2に示す原子炉40は、小型モジュラー炉(SMRSmall Modular Reactor)が例示され、圧力容器46の内部に、燃料集合体である燃料領域42
m[m=1~M(=66)]と水素化カルシウムで構成される減速材45とが収容され、その外部に中性子検出器41
n[n=1~N(=8)]が配置されている。
【0016】
ここで、燃料領域42m[m=1~M(=66)]は、収容される核分裂性物質が中性子を吸収することで核分裂反応を起こすと同時に、新たな中性子を放出し、さらに別の核分裂性物質の核分裂反応を引き起こすといった、核分裂の連鎖反応を持続させている。そして、燃料領域42m[m=1~M]の各々における核分裂反応により、パワー出力Rm[m=1~M]のエネルギーがそれぞれ放出される。
【0017】
なお実施形態において、中性子検出器41n[n=1~N]の全ては、原子炉40の外側のみに配置されているものを例示しているが、これに限定されず、原子炉40の内側のみ、又は両側に配置される場合もある。
【0018】
第1算定部11は、モンテカルロ法、characteristics法(MOC:Method of Characteristics)による輸送計算等を用い、設計情報15に基づいて、第1係数C
n,iを算定する。
図3に示すように、中性子検出器41
nの検出値D
nのうち、燃料領域42
iのパワー出力R
iの影響は、寄与分d
iを占めるものとする。ここで、
図4の数式(1)に示すように、第1係数C
n,iを、パワー出力R
iと検出値D
iの寄与分d
iとの比で表す。なおこの第1係数C
n,iは、対応する燃料領域42
i[i=1~M]と中性子検出器41
n[n=1~N]の組み合わせによりM×N行列の成分となる。
【0019】
第2算定部12(
図1)は、モンテカルロ法、characteristics法(MOC:Method of Characteristics)による輸送計算等を用い、設計情報15に基づいて、第2係数F
i,mを算定する。
図3に示すように、パワー出力R
mを持つ燃料領域42
mが、燃料領域42
iに対し、中性子発生数ν
iの核分裂反応に関与したとする。そこで、
図4の数式(2)に示すように、第2係数F
i,mを、燃料領域42
iから一つ当りの中性子を放出させる燃料領域42
mの寄与を表すものとして、パワー出力R
mと中性子発生数ν
iとの割合で表す。
【0020】
この第2係数F
i,mは、対応する燃料領域42
i[i=1~M]と燃料領域42
m[m=1~M]の組み合わせによりM×M行列の成分となる。そして
図4の数式(3)に示すように、燃料領域42
iのパワー出力R
iは、他の燃料領域42
m[m=1~M]に第2係数F
i,mを乗算させたものの総和で表される。
【0021】
設定部16(
図1)は、後段の演算処理で逆算されることになるパワー出力R
m[m=1~M]を予め疑似的に設定しておくものである。受信部18において実測検出値D
n
*[n=1~N]の受信を開始する初期状態では、設定部16に初期値27が設定される。そして、実測検出値D
n
*[n=1~N]の受信の開始後は、更新部25によって、疑似的に設定されたパワー出力R
m[m=1~M]が、最適値に更新されていく。このように最適値に更新されたパワー出力R
m[m=1~M]は、後述するように原子炉40の内部の出力分布の推定値29として、出力部26から出力される。
【0022】
演算部17は、設定部16で設定されたパワー出力R
m[m=1~M]、第1算定部11で算定された第1係数C
n,i及び第2算定部12で算定された第2係数F
i,mを入力する。そして演算部17は、
図4の数式(4)に基づいて、各々の中性子検出器41
n[n=1~N]の検出値D
n[n=1~N]を演算する。
【0023】
この数式(4)に示すように、検出値Dnは、影響を受ける全ての燃料領域42i[i=1~M]の寄与分diの総和で表され、さらに数式(1)(3)の結果が代入される。さらに数式(5)に示すように、パワー出力Rm、第1係数Cn,i及び第2係数Fi,mの乗算値に対し、i,mについて1からMまで二重和をとることで、検出値Dnを得る。
【0024】
図1に戻って説明を続ける。演算部17で演算された検出値D
n[n=1~N]と、受信部18で受信された実測検出値D
n
*[n=1~N]とは、計算部21に入力される。この計算部21では、検出値D
n[n=1~N]及び実測検出値D
n
*[n=1~N]の各々の差分を取り合計した差分合計値23(
図4の数式(8a))を計算する。このような差分合計値23が小さい程、検出値D
n[n=1~N]は、実測検出値D
n
*[n=1~N]に対し、正確にシミュレートされたことになる。
【0025】
判定部22は、差分合計値23に基づいて、演算部17によるシミュレーション結果の正確/不正確を判定する。そこで、差分合計値23が所定レベルよりも大きく判定された場合、更新部25は、設定部16におけるパワー出力Rm[m=1~M]の設定値28を更新させる。そして、差分合計値23が所定レベルよりも小さく判定された場合、出力部26からパワー出力Rm[m=1~M]を、原子炉内出力分布の推定値29として出力する。
【0026】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係る原子炉内出力分布推定装置10B(10)(以下、単に「装置10B」という)の構成図である。なお、
図5において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0027】
第2実施形態の装置10Bは、第1実施形態の装置10Aと同様に、第1係数Cn,iの第1算定部11と、第2係数Fi,mの第2算定部12と、検出値Dn[n=1~N]の演算部17と、中性子検出器41n[n=1~N]からの実測検出値Dn
*[n=1~N]の受信部18と、差分合計値23の計算部21と、差分合計値23が所定レベルよりも大きく判定された場合における設定値28の更新部25と、この所定レベルよりも差分合計値23が小さく判定された場合における推定値29の出力部26と、を備えている。
【0028】
そして第2実施形態の装置10Bは、第2係数Fi,mを要素に持つ行列をベキ乗処理する処理部30を、さらに備えている。このようなベキ乗処理済の第2係数FG
i,mには、ベキ乗指数Gに対応する中性子世代数Gが反映されることになる。なお、この処理部30を実行しない第1実施形態の装置10Aで適用される第2係数Fi,mは、G=1の第1世代の中性子のみが反映されていることになる。
【0029】
図6は、反映した中性子世代数Gに対する原子炉内出力分布の推定値29の誤差量を示すグラフである。この誤差量は、説明を省略するシミュレーション結果と推定値29との差分である。このように、反映した中性子世代数Gが多くなる程、誤差量が減少し、精度が向上するのが判る。
【0030】
さらに第2実施形態の装置10B(
図5)は、第1係数C
n,i及び第2係数F
i,mを合成して合成係数φ
n,mにする合成部31と、この合成係数φ
n,mを、受信部18における実測検出値D
n
*[n=1~N]の受信に先立って保存しておく保存部32を備えている。
【0031】
図4の数式(5)を二重和の公式に基づいて変形し、数式(7a)のように第1係数C
n,i及び第2係数F
i,mの乗算和を合成係数φ
n,mとして、数式(6a)のように演算式を簡略化できる。そして、この合成係数φ
n,mは、実測検出値D
n
*[n=1~N]の受信に先立って予め求めておき、保存部32に保存しておくことができる。
【0032】
また、数式(6b)(7b)に示すように、中性子世代数Gを反映した演算を行う場合も、同様に処理することができる。この場合、出力部26からパワー出力Rm[m=1~M]の推定値29を出力しながら、途中で、反映する中性子世代数Gを変更することが容易に可能になる。
【0033】
さらに第2実施形態の装置10Bは、検出値D
n[n=1~N]の規格化値を出力する規格化部35a(35)及び実測検出値D
n
*[n=1~N]の規格化値を出力する規格化部35b(35)を備えている。そして、計算部21は、規格化部35a,35bから出力される各々の規格化値の差分を取り合計し差分合計値23(
図4の数式(8a))を計算する。
【0034】
規格化部35aは、検出値D
n[n=1~N]の総和に対する各々の検出値D
nを比率で表した規格化値を出力する。規格化部35bも同様に、実測検出値D
n
*[n=1~N]の総和に対する各々の実測検出値D
n
*を比率で表した規格化値を出力する。このような規格化値の差分合計値23(
図4の数式(8a))によれば、検出値D
nや実測検出値D
n
*の大きさに依存しなくなり、判定部22において一つの閾値で正確/不正確を判定できる。
【0035】
図7のフローチャートに基づいて(適宜、
図1,
図5参照)、実施形態に係る原子炉内出力分布推定方法の手順、並びに原子炉内出力分布推定プログラムのアルゴリズムを説明する。まず、原子炉40の設計情報15が登録される(S11)。この設計情報15に基づいて、パワー出力R
m[m=1~M]と検出値D
n[n=1~N]との応答関係を示す第1係数C
n,iを算定する(S12)。
【0036】
さらに設計情報15に基づいて、燃料領域42m[m=1~M]の相互間の相関関係を示す第2係数Fi,mを算定する(S13)。なお、必要に応じて第2係数Fi,mを要素に持つ行列をベキ乗指数Gで処理して、中性子世代数Gを反映させた第2係数FG
i,mを採用する。そして、必要に応じて第1係数Cn,i及び第2係数Fi,mを合成して合成係数φn,mとし、この合成係数φn,mを保存部32に保存しておく。
【0037】
次に、演算に用いるパワー出力Rm[m=1~M]の初期値27を登録する(S14)。そして、予め設定されたパワー出力Rm[m=1~M]、第1係数Cn,i及び第2係数Fi,mに基づいて検出値Dn[n=1~N]を演算する(S15)。
【0038】
次に、中性子検出器41n[n=1~N]の実測検出値Dn
*[n=1~N]を受信する(S16)。そして、各々の中性子検出器41n[n=1~N]について別々に実測検出値Dn
*[n=1~N]及び検出値Dn[n=1~N]の差分を取り合計した差分合計値23を計算する(S17)。なお必要に応じて、検出値Dn[n=1~N]及び実測検出値Dn
*[n=1~N]は規格化される。
【0039】
そして、差分合計値23が所定レベルよりも大きく判定された場合は(S18 No)、パワー出力Rm[m=1~M]の設定値28を更新したうえで、検出値Dn[n=1~N]を再演算させる(S15~S17)。そして、所定レベルよりも差分合計値23が小さく判定されたところで(S18 Yes)、演算に用いたパワー出力Rm[m=1~M]を推定値29として出力する(S19)。
【0040】
これにより、中性子検出器41n[n=1~N]の実測検出値Dn
*[n=1~N]に基づいて、燃料領域42m[m=1~M]のパワー出力Rm[m=1~M]を逆算したことになる。そして、この(S15)~(S19)のフローが、実測検出値Dn
*[n=1~N]の受信が停止するまで続けられる(S20 No Yes END)。
【0041】
以上述べた少なくともひとつの実施形態によれば、中性子検出器の検出値の演算値と実値との差分が最小になるように燃料領域のパワー出力を逆算することで、原子炉内の出力分布を高い信頼性で推定することが可能となる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0043】
以上説明した原子炉内出力分布推定装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のまたは量子コンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため原子炉内出力分布推定装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、原子炉内出力分布推定プログラムにより動作させることが可能である
【0044】
また原子炉内出力分布推定プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態に係る原子炉内出力分布推定プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、原子炉内出力分布推定装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0046】
10(10A,10B)…原子炉内出力分布推定装置、11…第1算定部、12…第2算定部、15…設計情報、16…設定部、17…演算部、18…受信部、21…計算部、22…判定部、23…差分合計値、25…更新部、26…出力部、27…初期値、28…設定値、29…推定値、30…処理部、31…合成部、32…保存部、35(35a,35b)…規格化部、40…原子炉、41n[n=1~N]…中性子検出器、42m[m=1~M]…燃料領域、45…減速材、46…圧力容器、Dn[n=1~N]…検出値、Dn
*[n=1~N]…実測検出値、Rm[m=1~M]…パワー出力、Cn,i…第1係数、Fi,m…第2係数。