(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】異常検知装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
(21)【出願番号】P 2021150373
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 典太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】小野 利幸
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-051074(JP,A)
【文献】特開平08-270723(JP,A)
【文献】特開2012-138044(JP,A)
【文献】特開2020-191050(JP,A)
【文献】特開2005-251925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列信号である入力信号の再構成誤差を計算する再構成誤差計算部と、
前記再構成誤差を並べて生成したベクトルをフーリエ変換することにより生成される特徴量であり、前記再構成誤差の周期性を表す周期情報を計算する周期情報計算部と、
前記周期情報、または、前記周期情報と前記再構成誤差とに基づいて前記入力信号中の異常信号の有無を判定する判定部と、
を備える異常検知装置。
【請求項2】
前記周期情報計算部は、前記入力信号の周期と同期した参照信号を取得し、前記再構成誤差と前記参照信号との類似度を前記周期情報として計算する、
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記周期情報は、前記再構成誤差の大きさに基づいて選定された2つ以上の時刻のばらつき度合いである、
請求項1または2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
参照情報に基づいて前記入力信号を2つ以上の短時間信号に分割する信号分割部をさらに備え、
前記再構成誤差計算部は、前記短時間信号毎に前記再構成誤差を計算し、
前記周期情報計算部は、前記短時間信号のそれぞれにおいて選定された再構成誤差に関する、前記短時間信号中のタイミングのばらつき度合いを前記周期情報として計算する、
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記入力信号は、交流電圧の電圧値であり、
前記参照情報は、前記交流電圧の電圧値または前記交流電圧の位相数であり、
前記短時間信号は、前記交流電圧の1周期分の位相の入力信号を含み、
前記短時間信号中のタイミングは、前記
交流電圧の位相を示す、
請求項
4に記載の異常検知装置。
【請求項6】
前記再構成誤差計算部は、前記再構成誤差に基づいて平滑化後の信号を計算し、前記再構成誤差から前記平滑化後の信号を減算することにより前記再構成誤差を補正する、
請求項1から
5までのいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記周期情報に基づいて前記再構成誤差に重み付け処理を行い、前記周期情報と前記重み付け後の再構成誤差とに基づいて、前記異常信号の有無を判定する、
請求項1から
6までのいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項8】
時系列信号である入力信号の再構成誤差を計算することと、
前記再構成誤差を並べて生成したベクトルをフーリエ変換することにより生成される特徴量であり、前記再構成誤差の周期性を表す周期情報を計算することと、
前記周期情報、または、前記周期情報と前記再構成誤差とに基づいて前記入力信号中の異常信号の有無を判定することと、
を備える方法。
【請求項9】
コンピュータに、
時系列信号である入力信号の再構成誤差を計算する機能と、
前記再構成誤差を並べて生成したベクトルをフーリエ変換することにより生成される特徴量であり、前記再構成誤差の周期性を表す周期情報を計算する機能と、
前記周期情報、または、前記周期情報と前記再構成誤差とに基づいて前記入力信号中の異常信号の有無を判定する機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異常検知装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及によって、社会インフラや製造ラインなどの機器の状態を、センサを用いて監視することが容易になっている。そこで、センサから得られるセンサ信号を用いて機器の異常や故障を検知する技術が注目を集めている。
【0003】
センサ信号のような1次元信号を用いた異常検知技術の1つに、主成分分析を用いた手法がある。主成分分析を用いた手法では、入力信号に対して次元削減を行った後に再構成を実行する。このとき、入力信号の大半が正常信号またはノイズである場合、ノイズ成分だけが再構成され、異常信号成分は再構成されにくい。このため、再構成信号と入力信号との誤差である再構成誤差の大きさを利用して異常信号を検知することができる。
【0004】
入力信号に偶発的なノイズ成分が含まれる場合には、局所的に再構成誤差が大きくなることがある。主成分分析を用いた手法では、再構成誤差の大きさのみに着目して異常検知を行うため、偶発的なノイズ成分を異常信号として誤検出してしまうことがある。また、偶発的なノイズにより再構成誤差が局所的に大きくなった場合、異常信号が発生している時刻の再構成誤差が正常信号が発生している時刻の再構成誤差よりも小さくなり、異常信号が正常に検出されない場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】I. T. Jolliffe著、「Principal Component Analysis」、(米国)、第2版、Springer、2002年、P.37,232-268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、入力信号中の異常信号の有無を高精度に判定可能な異常検知装置、方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するため、実施形態の異常検知装置は、再構成誤差計算部と、周期情報計算部と、判定部と、を備える。再構成誤差計算部は、時系列信号である入力信号の再構成誤差を計算する。周期情報計算部は、前記再構成誤差の周期性を表す周期情報を計算する。判定部は、前記周期情報、または、前記周期情報と前記再構成誤差とに基づいて、前記入力信号中の異常信号の有無を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る異常検知装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る異常検知装置が取得する入力信号の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る異常検知装置により計算された再構成誤差の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る異常検知装置により計算された平滑化される前の再構成誤差の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、
図4の再構成誤差を平滑化した後の再構成誤差の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す平滑化される前の再構成誤差から
図5に示す平滑化した後の再構成誤差を減算した後の再構成誤差の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、
図3に示す再構成誤差から所定の閾値以上の再構成誤差を選定した様子を示す図である。
【
図8】
図8は、
図3に示す再構成誤差から大きい順に再構成誤差を選定した様子を示す図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態に係る異常検知装置において機械学習モデルとして用いられる分類器の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、
図3に示す再構成誤差を用いて重み付け後の再構成誤差を計算する方法の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、第1の実施形態に係る異常検知装置による異常検知処理の処理手順を例示するフローチャートである。
【
図13】
図13は、第2の実施形態に係る異常検知装置の構成の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、第2の実施形態に係る異常検知装置が取得する入力信号の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、第2の実施形態に係る異常検知装置により生成された短時間信号の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、第2の実施形態に係る異常検知装置により短時間信号毎に計算された再構成誤差を示す図である。
【
図17】
図17は、第2の実施形態に係る異常検知装置により短時間信号毎に選定された代表値を示す図である。
【
図18】
図18は、第2の実施形態に係る異常検知装置による異常検知処理の処理手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、異常検知装置、方法およびプログラムの実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0010】
以下の実施形態の異常検知装置は、機器から得られるセンサ信号を取得し、取得したセンサ信号中の異常信号の有無を判定し、判定結果に基づいて機器の異常、故障、状態などを診断する診断装置である。このような診断装置としては、例えば、センサ信号を解析して高圧電源設備の故障を診断する装置や、コイルなどに用いられる回転体などの回転音を解析して異常を検知する装置が挙げられる。異常検知装置は、信号処理装置と呼ばれてもよい。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る異常検知装置100の構成を示す図である。異常検知装置100は、ネットワーク等を介して高圧電源設備に接続されている。
【0012】
異常検知装置100は、高圧電源設備やコイルの異常を検知するためのセンサ信号を検知する。センサとしては、例えば、高圧電源設備に取り付けられる一般的なAEセンサが用いられる。異常検知装置100は、センサ信号における異常を示す信号(以下、異常信号と呼ぶ)の有無を判定し、判定結果に基づいて異常を検知する。センサ信号のサイズが大きい場合、異常検知装置100は常時監視を行い、異常と判定されたデータのみ解析してもよい。
【0013】
ネットワークは、例えば、LAN(Local Area Network)である。なお、ネットワークへの接続は、有線接続、及び無線接続を問わない。また、ネットワークはLANに限定されず、インターネットや公衆の通信回線等であっても構わない。
【0014】
異常検知装置100は、異常検知装置100全体を制御する処理回路と、記憶媒体(メモリ)と、を備える。処理回路は、記憶媒体内のプログラムを呼び出し実行することにより、再構成誤差計算部101、周期情報計算部102および判定部103の機能を実行するプロセッサである。処理回路は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等を含む集積回路から形成される。プロセッサは、1つの集積回路から形成されてもよく、複数の集積回路から形成されてもよい。
【0015】
記憶媒体には、プロセッサで用いられる処理プログラム、及び、プロセッサでの演算で用いられるパラメータ及びテーブル等が記憶される。記憶媒体は、種々の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、集積回路等の記憶装置である。また、記憶装置は、HDDやSSD等以外にも、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体であってもよく、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。
【0016】
なお、再構成誤差計算部101、周期情報計算部102および判定部103が有する各機能は、単一の処理回路にて実現されてもよく、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能を実現するものとしても構わない。また、再構成誤差計算部101、周期情報計算部102および判定部103が有する各機能は、個別のハードウェア回路として実装してもよい。
【0017】
再構成誤差計算部101は、高圧電源設備やコイルに取り付けられたセンサから入力信号を取得する。入力信号は、センサから取得した電圧値である。
図2は、入力信号の一例を示す図である。
図2の横軸は、時刻を示す。
図2の縦軸は、電圧値を示す。
【0018】
入力信号は、周辺機器などから生じたノイズを含む時系列信号である。ノイズは、定常的なノイズと、非定常的なノイズを含む。入力信号のうち、定常的なノイズに起因して定常的に生じている信号を正常信号と呼び、非定常的なノイズに起因して非定常的に生じた信号をノイズと呼ぶこととする。また、高圧電源設備やコイルに異常が生じた際には、
図2に示すように、入力信号は、正常信号及びノイズに異常信号が混在した信号となる。異常信号は、発生タイミングに周期性を有する。
図2の領域S1は、正常信号及び異常信号の合計値を示し、
図2の領域S2は、異常信号の値を示す。
【0019】
再構成誤差計算部101は、取得した入力信号に基づいて、所定の計算方法により再構成誤差を計算する。再構成誤差の計算方法としては、例えば、主成分分析、カーネル主成分分析、Auto Encoder、Variational AutoEncoder(VAE)、Generative Adversarial Network(GAN)等が挙げられる。
【0020】
本実施形態では、再構成誤差を計算する方法として主成分分析を用いる場合について説明する。主成分分析では、入力信号を複数の短時間のフレームに分割する。その後、分割後の各フレームに対して次元削減を行った後に再構成を実行する。再構成を行う際には、異常信号の成分は再構成されにくい。このため、再構成された信号は、入力信号のうち正常信号とノイズの成分だけが正常に反映された信号となる。そして、分割後のフレーム毎に再構成された信号と入力信号との差分を計算することにより、異常信号の大きさが反映された再構成誤差が計算される。
図3は、再構成誤差の一例を示す図である。
図3の横軸は、フレームを示す。
図3の縦軸は、再構成誤差(Reconstruction error)の値を示す。
【0021】
また、再構成誤差計算部101は、再構成誤差を計算した後、再構成誤差のバイアス(うねり)を補正する。この際、再構成誤差計算部101は、例えば、算出した再構成誤差に平滑化処理を行い、平滑化される前の再構成誤差から平滑化された後の再構成誤差を減算することにより、再構成誤差の変動を補正する。
図4は、平滑化される前の再構成誤差の一例を示す図である。
図5は、
図4に示す再構成誤差を平滑化した後の再構成誤差の一例を示す図である。
図6は、
図4に示す平滑化される前の再構成誤差から
図5に示す平滑化した後の再構成誤差を減算した後の再構成誤差の一例を示す図である。
図4乃至
図6では、横軸はフレームを示し、縦軸は再構成誤差の値を示す。平滑化処理としては、例えば、移動平均フィルタによる畳み込み処理、任意の関数への近似処理等が挙げられる。
【0022】
周期情報計算部102は、再構成誤差の周期性を表す周期情報を計算する。周期情報は、再構成誤差の周期性を表す特徴量である。周期情報は、例えば、再構成誤差をフーリエ変換して得られる係数、スペクトル、スペクトログラム等である。
【0023】
また、周期情報は、値の大きさに基づいて選定された2つ以上の再構成誤差の時刻のばらつき度合いを示す指標であってもよい。例えば、周期情報として、再構成誤差が所定の閾値以上となる時刻間の距離に関するパラメータが用いられる。この場合、周期情報計算部102は、例えば、再構成誤差が所定の閾値以上となる時刻をt=(t1,t2,…tN)として選定し、選定した時刻間の差異d
i(=|t
i-t
j|,i≠j,1≦i,j≦N)を周期情報として計算する。閾値としては、例えば、再構成誤差の平均値や標準偏差が用いられる。
図7は、
図3に示す再構成誤差から所定の閾値以上の再構成誤差を選定した様子を示す図である。
【0024】
また、周期情報は、大きい順に選定された2つ以上の再構成誤差の時刻間の距離に関するパラメータが用いられてもよい。この場合、周期情報計算部102は、例えば、再構成誤差が大きい順に複数の時刻をt=(t1,t2,…tN)として選定し、選定した時刻間の差異d
i(=|t
i-t
j|,i≠j,1≦i,j≦N)を周期情報として計算する。
図8は、
図3に示す再構成誤差から大きい順に5つの再構成誤差を選定した様子を示す図である。
【0025】
なお、差異diの代わりに、差異diの統計量が周期情報として用いられてもよい。統計量としては、例えば、平均、標準偏差、最大値、最小値等が用いられる。また、差異diに加えて、差異diの統計量が周期情報として用いられてもよい。
【0026】
また、周期情報は、入力信号の周期と同期した参照信号と再構成誤差との類似度であってもよい。この場合、周期情報計算部102は、例えば、入力信号の取得時に印加した交流電圧信号やトリガー信号等を参照信号として取得し、再構成誤差と参照信号とのベクトル間距離を周期情報として計算する。
【0027】
判定部103は、周期情報、または、周期情報及び再構成誤差に基づいて、入力信号中の異常信号の有無を判定する。そして、判定部103は、異常信号の有無の判定結果を表示装置等の外部機器へ出力する。
【0028】
入力信号中の異常信号の有無を判定する方法として、例えば、周期情報と再構成誤差の重み付け和を異常度として計算し、異常度が事前に設定した閾値より大きいか否かを判定する方法が挙げられる。この方法では、異常度が閾値より大きい時刻について、判定部103は、入力信号中に異常信号が存在すると判定する。また、異常度が閾値以下である時刻について、判定部103は、入力信号中に異常信号がないと判定する。
【0029】
または、入力信号中の異常信号の有無を判定する方法として、周期情報と再構成誤差から生成されたベクトルを特徴ベクトルとして取得し、取得した特徴ベクトルに機械学習モデルを用いた識別方法を適用する方法が挙げられる。この場合、判定部103は、再構成誤差が異常クラスに帰属する確率が事前に設定した閾値より大きいか否かを判定することにより、入力信号中の異常信号の有無を判定する。機械学習モデルを用いた識別方法としては、例えば、ニューラルネットワーク、LightGBM(Light Gradient Boosting Machine)、SVM(Support Vector Machine)、線形回帰、ランダムフォレストなどの識別系の方法、または、CSVM(One Class SVM)、MT(Maharanobis-Taguchi)法、LOF(Local Outlier Factor)法などの外れ値検知系の方法が挙げられる。
【0030】
図9は、機械学習モデルを用いた識別方法において機械学習モデルとして用いられる分類器の一例を示す図である。分類器は、再構成誤差と周期情報とを入力として受け付け、入力された再構成誤差の正常確率及び異常確率を出力するように訓練されている。具体的には、正常確率は、入力信号に異常信号が含まれない確率である。また、異常確率は、入力信号に異常信号が含まれる確率である。
【0031】
図10は、
図9に示す分類器の学習方法の一例を示す図である。
図10に示すように、分類器の学習時には、学習データと、学習データに対応付けられた正解ラベルが用いられる。学習データは、入力信号に異常信号を含まない正常データと、入力信号に異常信号を含む異常データとを含む。これらの学習データを順次分類器に入力することにより、正常確率と異常確率とを推定結果として分類器に出力させる。その後、推定結果と正解ラベルとを比較し、推定結果が正解であるか否かを判定する。そして、推定結果の正解率が高くなるように、分類器をさらに学習させる。
【0032】
また、入力信号中の異常信号の有無を判定する方法として、周期情報に基づいて再構成誤差に重み付け処理を行い、重み付け後の再構成誤差に基づいて異常信号の有無を判定する方法が挙げられる。ここで、重み付け後の再構成誤差を計算する方法の一例を説明する。
図11は、
図3に示す再構成誤差を用いて重み付け後の再構成誤差を計算する方法の一例を示す図である。周期情報として時刻間の差異d
iを用いる場合に重み付け後の再構成誤差を計算する方法の一例を説明する。この方法では、以下の式(1)を用いて、重み付け対象の再構成誤差r
iの近傍における差異d
iと差異d
iの平均値d
aveとの差の絶対値を用いて再構成誤差r
iを重み付けすることにより、重み付け後の再構成誤差r
iwを計算する。
【0033】
【0034】
上記方法では、再構成誤差の大きさだけでなく、入力信号の周期も考慮することにより、周期性を有する異常信号の検出精度を高めることができる。一方、ノイズの信号値が大きい場合は、再構成誤差から信号の特性を捉えることが難しい。このため、ノイズの信号値が大きい場合は、周期情報のみを参照して異常信号の有無を判定することも好ましい。この場合、例えば、取得した周期情報の値に対して閾値処理を行うことにより、入力信号中の異常信号の有無を判定する。あるいは、入力信号の周期情報を入力することにより入力信号の異常確率を出力する機械学習モデルを用いて、入力信号中の異常信号の有無を判定してもよい。
【0035】
次に、異常検知装置100により実行される処理の動作について説明する。
図12は、異常検知処理の手順の一例を示すフローチャートである。異常検知処理は、高圧電源設備やコイル等の機器から得られる信号に基づいて機器の異常を検知する処理である。なお、以下で説明する各処理における処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り適宜変更可能である。また、以下で説明する処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0036】
(異常検知処理)
(ステップS101)
再構成誤差計算部101は、まず、入力信号を取得し、取得した入力信号に基づいて再構成誤差を計算する。その後、再構成誤差計算部101は、計算した再構成誤差を周期情報計算部102及び判定部103へ出力する。
【0037】
(ステップS102)
次に、再構成誤差計算部101は、ステップS101で計算した再構成誤差の補正を行うか否かを判定する。この際、再構成誤差計算部101は、例えば、予め記憶された設定やユーザの入力に応じて、再構成誤差の補正処理を実行するか否かを判定する。再構成誤差の補正を行う場合(ステップS102-Yes)、処理はステップS103へ進む。再構成誤差の補正を行わない場合(ステップS102-No)、処理はステップS104へ進む。
【0038】
(ステップS103)
再構成誤差計算部101は、所定の平滑化処理を行うことにより再構成誤差を平滑化する。その後、再構成誤差計算部101は、平滑化前の再構成誤差から平滑化後の再構成誤差を減算することにより再構成誤差を補正する。その後、処理はステップS104へ進む。
【0039】
(ステップS104)
周期情報計算部102は、再構成誤差に基づいて周期情報を計算し、計算した周期情報を判定部103へ出力する。
【0040】
(ステップS105)
判定部103は、再構成誤差の重み付けを行うか否かを判定する。この際、判定部103は、例えば、予め記憶された設定やユーザの入力に応じて、再構成誤差の重み付け処理を実行するか否かを判定する。再構成誤差の重み付けを行う場合(ステップS105-Yes)、処理はステップS106へ進む。再構成誤差の重み付けを行わない場合(ステップS105-No)、処理はステップS107へ進む。
【0041】
(ステップS106)
判定部103は、周期情報に基づいて、再構成誤差の重み付け処理を実行する。この際、判定部103は、例えば上述の式(1)を用いて重み付け後の再構成誤差を計算する。再構成誤差に重み付け処理を実行した後、処理はステップS107へ進む。
【0042】
(ステップS107)
判定部103は、周期情報と再構成誤差とに基づいて、入力信号中の異常信号の有無を判定し、判定結果を出力する。例えば、判定部103は、周期情報と再構成誤差の重み付け和を異常度として計算し、異常度が事前に設定した閾値より大きいか否かを判定することにより、入力信号中の異常信号の有無を判定する。
【0043】
以下、本実施形態に係る異常検知装置100の効果について説明する。
【0044】
主成分分析を用いて入力信号から再構成誤差を計算する際に、入力信号に偶発的なノイズ成分が含まれる場合には、局所的に再構成誤差が大きくなることがある。主成分分析を用いた手法では再構成誤差の大きさのみに着目して異常検知を行うため、偶発的なノイズ成分を異常信号として誤検出してしまうことがある。また、偶発的なノイズにより再構成誤差が局所的に大きくなった場合、異常信号が発生している時刻の再構成誤差が正常信号が発生している時刻の再構成誤差よりも小さくなり、異常信号が正常に検出されない場合がある。
【0045】
本実施形態に係る異常検知装置100は、時系列信号である入力信号の再構成誤差を計算し、再構成誤差の周期性を表す周期情報を計算し、周期情報、または、周期情報と再構成誤差とに基づいて、入力信号中の異常信号の有無を判定することができる。
【0046】
周期情報は、再構成誤差の周期性を表す特徴量であり、例えば、再構成誤差をフーリエ変換して得られる係数、スペクトル、スペクトログラム、値の大きさに基づいて選定された複数の再構成誤差の時刻のばらつき度合い等である。または、周期情報は、再構成誤差の大きさに基づいて選定された2つ以上の時刻のばらつき度合いである。
【0047】
異常信号の有無を判定する際、例えば、周期情報と再構成誤差の重み付け和を異常度として計算し、異常度が事前に設定した閾値より大きいか否かを判定する。または、周期情報と再構成誤差から生成されたベクトルを特徴ベクトルとして取得し、取得した特徴ベクトルに機械学習を用いた所定の識別方法を適用することにより、異常信号の有無を判定する。
【0048】
周期性を持つ異常信号が入力信号の中に含まれている場合、異常信号は、入力信号及び再構成誤差の周期性に影響を及ぼす。このため、本実施形態に係る異常検知装置100によれば、再構成誤差の周期性を表す周期情報を生成し、生成した周期情報を用いて入力信号中の異常信号の有無を判定することにより、再構成誤差が周期性を有する異常信号に起因するものであるのか、あるいは、選定された再構成誤差が周期性を有さないノイズに起因するものであるかを判定することができる。これにより、周期性を持つ異常信号に対する異常検知性能を改善することができる。
【0049】
また、周期情報は、入力信号の周期と同期した参照信号であってもよい。この場合、異常検知装置100は、入力信号の周期と同期した参照信号を取得し、再構成誤差と参照信号との類似度を周期情報として計算することができる。この構成により、周期性を持つ異常信号に対する異常検知性能をさらに改善させることができる。
【0050】
また、本実施形態に係る異常検知装置100は、再構成誤差に基づいて平滑化後の信号を計算し、再構成誤差から平滑化後の信号を減算することにより再構成誤差を補正することができる。この構成により、本実施形態に係る異常検知装置100によれば、平滑化処理を用いて再構成誤差を補正し、補正した再構成誤差を用いて異常信号の有無を判定することにより、異常信号に対する異常検知性能をさらに改善させることができる。
【0051】
また、本実施形態に係る異常検知装置100は、周期情報に基づいて再構成誤差に重み付け処理を行い、周期情報と重み付け後の再構成誤差とに基づいて、異常信号の有無を判定する。この構成により、本実施形態に係る異常検知装置100によれば、周期情報に基づいて重み付けされた再構成誤差を用いて異常信号の有無を判定することにより、異常信号に対する異常検知性能をさらに改善させることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態の構成を以下の通りに変形したものである。第1の実施形態と同様の構成、動作、及び効果については、説明を省略する。
【0053】
図13は、第2の実施形態に係る異常検知装置200の構成を示す図である。第2の実施形態に係る異常検知装置200は、入力信号の分割単位を決定するために用いられる参照情報を取得可能な状況で用いられる。異常検知装置200は、入力信号と、取得した参照情報とに基づいて入力信号の分割を行い、分割後の入力信号に基づいて異常信号の検知を行う。
【0054】
本実施形態に係る異常検知装置200では、処理回路は、記憶媒体内のプログラムを呼び出し実行することにより、再構成誤差計算部101、周期情報計算部102および判定部103の機能に加えて、信号分割部201の機能をさらに実行する。
【0055】
信号分割部201は、入力信号と参照情報を取得する。参照情報は、入力信号の分割単位を決定するために用いられる情報である。参照情報としては、例えば、高圧電源設備に印可される交流電圧の電圧値や交流電圧の位相数が用いられる。または、参照情報として、入力信号計測時に用いたトリガー信号の数、異常信号の発生源の機器に含まれる回転体の回転数や個数が用いてもよい。
【0056】
信号分割部201は、参照情報を用いて入力信号を2つ以上の短い信号(以下、短時間信号と呼ぶ)に分割する。信号分割部201は、生成された複数の短時間信号を、入力信号として再構成誤差計算部101へ出力する。
【0057】
信号分割部201は、例えば、入力信号における交流電圧の電圧値または交流電圧の位相数を参照情報として用いて、電圧位相の1周期を分割単位として、入力信号を複数の短時間信号に分割する。交流電圧の電圧値を参照情報として取得した場合、信号分割部201は、交流電圧の電圧値を用いて交流電圧の1周期分の位相の長さを計算し、計算結果に基づいて入力信号を分割する。また、入力信号に含まれる交流電圧の位相数を参照情報として取得した場合、信号分割部201は、入力信号を位相数と同数の短時間信号に分割する。これにより、入力信号は、交流電圧の1周期分の位相の入力信号を含む短時間信号に分割される。
【0058】
また、参照情報として、入力信号計測時に用いたトリガー信号の数、異常信号の発生源の機器に含まれる回転体の回転数や個数が用いられる場合、信号分割部201は、参照情報の数と同数に入力信号を等分し、参照情報の数と同数の短時間信号を生成する。
【0059】
図14は、入力信号の一例を示す図である。
図14の横軸は、時刻を示す。
図14の縦軸は、入力信号の電圧値を示す。
図14に示す入力信号は、交流電圧の5周期分に相当する信号を含んでいる。
図14に示す入力信号を分割する場合、信号分割部201は、参照情報として、例えば周期数「5」を取得し、入力信号を5つの短時間信号に分割する。
図15は、
図14に示す入力信号を分割することにより生成された5つの短時間信号を示す図である。
図15の横軸は、短時間信号におけるタイミングを示すラベル(以下、インデックスと呼ぶ)の値を示す。
図15の縦軸は、電圧値を示す。インデックスは、1周期分の交流電圧における位相に対応する。
【0060】
再構成誤差計算部101は、信号分割部201において生成された複数の短時間信号を入力信号として取得する。再構成誤差計算部101は、短時間信号毎に、取得した短時間信号に対して所定の計算方法を用いることにより再構成誤差を計算する。再構成誤差の計算方法は、第1の実施形態で説明した方法と同様の方法を用いることができる。
【0061】
図16は、短時間信号毎に計算された再構成誤差の一例を5つの短時間信号毎に示す図である。
図16に示す5つのグラフのそれぞれは、交流電圧の1周期分に相当する信号に基づいて計算された再構成誤差を含んでいる。
図16の横軸は、インデックスの値を示す。
図16の縦軸は、再構成誤差の値を示す。
【0062】
周期情報計算部102は、短時間信号のそれぞれについて計算された再構成誤差の大きさに基づいて、周期情報を計算する。周期情報は、例えば、各短時間信号において選定された再構成誤差に対応するタイミング(インデックス)の、短時間信号間のばらつき度合いに関する情報である。短時間信号中のタイミングは、例えば、短時間信号における時刻や、交流電圧の位相の値が用いられる。この場合、短時間信号毎に選定された再構成誤差に関する位相のばらつき度合いが、周期情報として用いられる。
【0063】
ここで、
図16及び
図17を参照して、周期情報を計算する方法の一例を説明する。
図16に示す5つの再構成誤差を用いて周期情報を計算する場合、周期情報計算部102は、まず、短時間信号毎に計算された再構成誤差のそれぞれにおいて、最大の再構成誤差を代表値として選定する。
図17は、選定された代表値のみを示す図である。
図17の横軸は、インデックスを示す。
図17の縦軸は、再構成誤差を示す。
【0064】
次に、周期情報計算部102は、選定された5つの代表値の中で、再構成誤差が最も大きい代表値を最大値として抽出する。周期情報計算部102は、最大値以外の代表値のそれぞれについて、最大値との間のインデックスに基づく距離を計算する。この際、最大値以外の4つの代表値のそれぞれに対するインデックスと、最大値に対するインデックスとの差が、最大値とのインデックスに基づく距離として計算される。そして、周期情報計算部102は、計算した4つの距離を、周期情報として出力する。
【0065】
なお、周期情報として、上記パラメータの代わりにまたは上記パラメータに加えて、代表値の中で再構成誤差が大きい上位2つの代表値間のインデックスに基づく距離、2つの代表値間の距離のうち最小のインデックスに基づく距離、2つの代表値間の距離のうち最大のインデックスに基づく距離、再構成誤差が大きい上位3つの代表値間の距離のうち最小のインデックスに基づく距離、及び、代表値のインデックスの標準偏差のうちの1つ以上を用いてもよい。
【0066】
判定部103は、各短時間信号において選定した再構成誤差のインデックスの値の標準偏差を周期情報として取得し、取得した標準偏差に対して閾値判定を行うことにより、選定した再構成誤差が異常信号に起因するものであるか否かを判定する。その後、判定部103は、異常信号の有無の判定結果を表示装置等の外部機器へ出力する。
【0067】
次に、異常検知装置200により実行される処理の動作について説明する。
図18は、異常検知処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下で説明する各処理における処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り適宜変更可能である。また、以下で説明する処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0068】
(異常検知処理)
(ステップS201)
信号分割部201は、まず、入力信号と参照情報を取得する。参照情報は、入力信号の交流電圧の位相数を含む。信号分割部201は、交流電圧の位相数に基づいて、電圧位相の1周期を分割単位として、入力信号を位相数と同数の短時間信号に分割する。信号分割部201は、短時間信号を入力信号として再構成誤差計算部101へ出力する。
【0069】
(ステップS202)
再構成誤差計算部101は、短時間信号毎に再構成誤差を計算する。再構成誤差計算部101は、短時間信号毎に算出した再構成誤差を周期情報計算部102及び判定部103へ出力する。
【0070】
(ステップS203)
周期情報計算部102は、算出された再構成誤差に基づいて、短時間信号毎に周期情報を計算し、計算した周期情報を判定部103へ出力する。具体的には、周期情報計算部102は、短時間信号毎に選定された再構成誤差に関する位相の標準偏差を、周期情報として計算する。
【0071】
(ステップS204)
判定部103は、短時間信号のそれぞれにおいて、周期情報、または、周期情報と再構成誤差とに基づいて、入力信号中の異常信号の有無を判定する。例えば、判定部103は、各短時間信号において選定した再構成誤差のインデックスの値の標準偏差を周期情報として取得し、取得した標準偏差に対して閾値判定を行うことにより、選定した再構成誤差が異常信号に起因するものであるか否かを判定する。その後、判定部103は、判定結果を外部機器へ出力する。
【0072】
以下、本実施形態に係る異常検知装置200の効果について説明する。
【0073】
本実施形態に係る異常検知装置200は、参照情報に基づいて入力信号を2つ以上の短時間信号に分割し、短時間信号毎に再構成誤差を計算し、短時間信号のそれぞれにおいて選定された再構成誤差に関する、短時間信号中のタイミングのばらつき度合いを周期情報として計算することができる。
【0074】
入力信号は、例えば、交流電圧の電圧値である。参照情報は、例えば、交流電圧の電圧値または交流電圧の位相数である。短時間信号は、例えば、交流電圧の1周期分の位相の入力信号を含む。短時間信号中のタイミングは、例えば、交流電流の位相を示す。
【0075】
上記構成により、本実施形態に係る異常検知装置200によれば、例えば入力信号を位相の1周期分の短時間信号に分割し、短時間信号毎に選定された再構成誤差の短時間信号中のタイミングのばらつき度合いを用いることにより、再構成誤差の周期性をさらに精度よく判定することができる。これにより、周期性を持つ異常信号に対する異常検知性能をさらに改善することができる。
【0076】
かくして、前述のいずれかの実施形態によれば、入力信号中の異常信号の有無を高精度に判定することができる異常検知装置を提供することができる異常検知装置、方法およびプログラムを提供することができる。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0078】
100、200…異常検知装置、101…再構成誤差計算部、102…周期情報計算部、103…判定部、201…信号分割部。