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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】水素充填装置、および水素充填方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/02 20060101AFI20241105BHJP
   F17C 5/06 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
F17C13/02 301Z
F17C5/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021210452
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023094883
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】判田 圭
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-153681(JP,A)
【文献】特開2003-130295(JP,A)
【文献】特開2009-257353(JP,A)
【文献】特開2016-223584(JP,A)
【文献】特表2013-527390(JP,A)
【文献】特開2019-102288(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196668(WO,A1)
【文献】特開2019-002515(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0227864(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
要求車両の水素タンク内の初期圧に応じた水素の充填速度を示す充填制御マップに基づいて、前記水素タンクに水素を充填する水素充填装置であって、
前記水素タンク内の初期圧を取得する初期圧取得部と、
前記要求車両の充填履歴を取得する履歴取得部と、
前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度で水素充填することで前記水素タンクがオーバヒートするか否かを、前記要求車両の充填履歴に基づいて判定する判定部と、
前記水素タンクがオーバヒートすると前記判定部が判定した場合に、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度で前記水素タンクに水素を充填する充填制御部と、
を備える、水素充填装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素充填装置であって、
前記充填履歴は、前記要求車両の前回の水素充填の終了時刻を含み、
前記判定部は、前記終了時刻から所定期間が経過する前に前記水素タンクへの水素充填が要求された場合、前記水素タンクがオーバヒートすると判定する、水素充填装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水素充填装置であって、
前記充填履歴は、前記要求車両の前回の水素充填における充填速度を含み、
前記水素充填装置は、前記要求車両の前回の水素充填における充填速度と、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度と、前記水素タンクに充填可能な最大充填圧とに基づいて前記所定期間の長さを決定する期間決定部をさらに備える、水素充填装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の水素充填装置であって、
前記充填履歴は、前回の水素充填終了時における前記水素タンク内の前回終了充填圧を含み、
前記充填制御部は、前記前回終了充填圧と、前記水素タンク内の初期圧との差分が所定範囲を逸脱する場合、前記判定部の判定結果に関わらず、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度で前記水素タンクに水素を充填する、水素充填装置。
【請求項5】
請求項1に記載の水素充填装置であって、
前記要求車両の識別情報を取得する識別情報取得部をさらに備え、
前記履歴取得部は、複数の車両の充填履歴を記憶した記憶部を、前記識別情報に基づいて参照することで、前記要求車両の充填履歴を取得する、水素充填装置。
【請求項6】
請求項5に記載の水素充填装置であって、
前記識別情報取得部は、前記要求車両が写された画像情報を解析することで、前記識別情報を取得する、水素充填装置。
【請求項7】
要求車両の水素タンク内の初期圧に応じた水素の充填速度を示す充填制御マップに基づいて、前記水素タンクに水素を充填する水素充填方法であって、
前記水素タンク内の初期圧を取得する初期圧取得ステップと、
前記要求車両の充填履歴を取得する履歴取得ステップと、
前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度で水素充填することで前記水素タンクがオーバヒートするか否かを、前記要求車両の充填履歴に基づいて判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて前記水素タンクがオーバヒートすると判定された場合に、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度で前記水素タンクに水素を充填する充填制御ステップと、
を含む、水素充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の水素タンクに水素を充填する水素充填装置と、その水素充填装置により実行可能な水素充填方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
水素充填装置は、FCV(Fuel Cell Vehicle)の水素タンクに水素を充填する装置である。水素タンク内の温度(タンク温度)は、水素タンクに充填された水素の圧縮熱等の影響を受けて、水素充填時において一時的に上昇する。
【0003】
タンク温度に関しては、許容温度を示す閾値が決められている。この閾値をタンク温度が超えると水素タンクはオーバヒートする。したがって、水素充填装置には、水素タンクがオーバヒートしないように水素タンクに水素を充填することが要求される。これに関して、特許文献1の水素充填装置は、水素充填開始時点における水素タンク内の水素の残圧(初期圧)と、外気温と、に基づいて水素の昇圧率(充填速度)を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-2515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水素充填装置は、同一の水素タンクへの水素充填を短い期間の間に2回(2回以上)行う場合がある。この場合、1回目の水素充填において加熱された水素タンクが、2回目の水素充填においてさらに加熱される。
【0006】
特許文献1に係る水素充填装置は、1回目の水素充填において水素タンクが加熱されたことを考慮せずに、2回目の水素充填の充填速度を決定する。したがって、特許文献1の水素充填装置は、2回目の水素充填において、水素タンクをオーバヒートさせるおそれがある。
【0007】
なお、FCVから水素充填装置にタンク温度を送信するプロトコルが既知である。したがって、FCVから送信されるタンク温度に基づいて充填速度を決定する方法も考えられる。しかし、この方法では、FCVから送信されるタンク温度が正しくない場合に、水素タンクがオーバヒートするおそれがある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、要求車両の水素タンク内の初期圧に応じた水素の充填速度を示す充填制御マップに基づいて、前記水素タンクに水素を充填する水素充填装置であって、前記水素タンク内の初期圧を取得する初期圧取得部と、前記要求車両の充填履歴を取得する履歴取得部と、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度で水素充填することで前記水素タンクがオーバヒートするか否かを、前記要求車両の充填履歴に基づいて判定する判定部と、前記水素タンクがオーバヒートすると前記判定部が判定した場合に、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度で前記水素タンクに水素を充填する充填制御部と、を備える。
【0010】
本発明の第2の態様は、要求車両の水素タンク内の初期圧に応じた水素の充填速度を示す充填制御マップに基づいて、前記水素タンクに水素を充填する水素充填方法であって、前記水素タンク内の初期圧を取得する初期圧取得ステップと、前記要求車両の充填履歴を取得する履歴取得ステップと、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度で水素充填することで前記水素タンクがオーバヒートするか否かを、前記要求車両の充填履歴に基づいて判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて前記水素タンクがオーバヒートすると判定された場合に、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度で前記水素タンクに水素を充填する充填制御ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、同一の水素タンクに水素充填が連続で行われることに起因して、その水素タンクがオーバヒートするおそれがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る水素充填装置の概略構成図である。
図2図2は、数式(1)を説明するためのグラフである。
図3図3は、実施形態に係る水素充填方法の流れを例示するフローチャートである。
図4図4は、変形例1に係る水素充填方法の流れを例示するフローチャートである。
図5図5は、変形例2に係る水素充填装置の概略構成図である。
図6図6は、変形例2に係る水素充填方法の流れを例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る水素充填装置10の概略構成図である。
【0014】
図1には、水素充填装置10のみならず、水素充填の対象となる車両(要求車両)12も図示される。要求車両12はFCVである。要求車両12は水素タンク14を備える。
【0015】
水素充填装置10は、水素タンク14に水素を充填する装置である。水素充填装置10は、例えば水素ステーションに設置される。なお、水素ステーションは、水素充填装置10のみならず、水素タンク14に充填される前の水素を圧縮または予冷する設備(蓄圧器、プレクーラ等)をも含む。ただし、その設備の図示は省略した。
【0016】
水素充填装置10は、ノズル16と、制御装置18とを備える。水素充填装置10は、複数のノズル16を備えてもよい。
【0017】
ノズル16は、水素タンク14に接続可能である。水素充填装置10は、予冷された水素を、ノズル16を介して水素タンク14に充填する。
【0018】
制御装置18は、水素の充填速度を調整する電子装置(コンピュータ)である。制御装置18は、記憶部20と、演算部22とを備える。
【0019】
記憶部20は、1以上のメモリを有する。記憶部20は、制御プログラム24と、充填制御マップ26とを記憶する。
【0020】
制御プログラム24は、本実施形態に係る水素充填方法を水素充填装置10に行わせるためのプログラムである。
【0021】
充填制御マップ26は、外気温と、水素タンク14内の初期圧PIと、水素の充填速度との対応関係を示す。充填制御マップ26は、外気温と初期圧PIとの組み合わせに応じた複数の充填速度を示す。
【0022】
記憶部20は、充填履歴28をさらに記憶する。充填履歴28は、前回終了時刻TEと、前回充填速度RRPと、前回終了充填圧PPとを含む。前回終了時刻TEは、車両の前回の水素充填の終了時刻を示す。前回充填速度RRPは、車両の前回の水素充填における充填速度を示す。前回終了充填圧PPは、前回の水素充填終了時における車両の水素タンク14内の充填圧を示す。
【0023】
記憶部20は、複数の充填履歴28を記憶してもよい。複数の充填履歴28は、互いに異なる車両に関する情報を示す。
【0024】
演算部22は、処理回路を有する。処理回路は、例えば1以上のプロセッサを含む。演算部22は、外気温取得部30と、初期圧取得部32と、履歴取得部34と、車両識別部36と、期間決定部38と、判定部40と、充填制御部42と、履歴更新部44とを有する。外気温取得部30と、初期圧取得部32と、履歴取得部34と、車両識別部36と、期間決定部38と、判定部40と、充填制御部42と、履歴更新部44とは、演算部22が制御プログラム24を実行することで実現される。
【0025】
外気温取得部30は、外気温を取得する。外気温取得部30は、例えば水素ステーション内に設置された気温センサから外気温を取得する。外気温は、水素充填に応じて水素タンク14が加熱されてから、その熱が十分に放熱される前までの時間帯を除けば、タンク温度を実質的に示す。
【0026】
記憶部20は、外気温取得部30が取得した外気温を記憶してもよい。
【0027】
初期圧取得部32は、水素タンク14内の初期圧PIを取得する。初期圧PIは、例えば圧力センサによって検出される。この圧力センサは、例えば水素充填装置10(ノズル16に繋がれた配管16a)に備わる。圧力センサは、水素タンク14と連通した配管16a内の圧力を検出することで、初期圧PIを検出する。
【0028】
記憶部20は、初期圧取得部32が取得した初期圧PIを記憶してもよい。
【0029】
履歴取得部34は、記憶部20を参照することで、充填履歴28を取得する。履歴取得部34は、水素充填装置10が前回行った水素充填の対象車両(前回車両)に関する充填履歴28を取得する。
【0030】
車両識別部36は、前回終了充填圧PPと、初期圧PIとの差分に基づいて、前回車両と要求車両12とが同一車両であるか否かを判定する。ここで、車両識別部36は、履歴取得部34が取得した充填履歴28を必要に応じて参照する。
【0031】
前回終了充填圧PPと初期圧PIとに大差がない場合(PP≒PI)、前回車両と要求車両12とが同一車両である可能性が高い。これを踏まえ、前回終了充填圧PPと初期圧PIとの差分が所定範囲に収まる場合、車両識別部36は、前回車両と要求車両12とが同一車両であると判定する。その一方で、前回終了充填圧PPと初期圧PIとの差分が所定範囲を逸脱する場合、車両識別部36は、前回車両と要求車両12とが互いに別車両であると判定する。
【0032】
期間決定部38は、所定期間TLの長さを決定する。本実施形態の期間決定部38は、前回車両と要求車両12とが同一車両であると判定された場合に、所定期間TLの長さを決定する。所定期間TLは、前回の水素充填によって加熱された水素タンク14が十分に放熱するために要する期間である。期間決定部38は、数式(1)を満たす所定期間TLを算出する(数1参照)。
【数1】
【0033】
数式(1)中の各文字が示す値は次の通りである。TLは所定期間である。PFは最大充填圧である。最大充填圧PFは、水素タンク14に充填可能な水素の充填圧を示す。なお、最大充填圧PFを検出する方法は、本技術分野において既知である。RRPは前回充填速度である。期間決定部38は、前回車両(=要求車両12)の充填履歴28に基づいて前回充填速度RRPを取得する。PIは水素タンク14内の初期圧である。RRAは初期圧PIに応じた充填速度(第1の充填速度)である。期間決定部38は、充填制御マップ26と、外気温と、初期圧PIとに基づいて、第1の充填速度RRAを取得する。
【0034】
図2は、数式(1)を説明するためのグラフである。
【0035】
図2のグラフは、水素タンク14内の水素の充填残圧(P)を示す縦軸と、時間(T)の経過を示す横軸(時間軸)とを有する。図2のTSは、要求された今回の水素充填の開始時点を示す。図2の0は、前回の水素充填における水素タンク14の初期圧を示す。ただし、前回の水素充填における初期圧は、0に限定されない。
【0036】
図2のグラフは、数式(1)を満たす所定期間TLを例示する。すなわち、図2において、前回終了時刻TEと開始時点TSとの間に数式(1)を満たす所定期間TLが空いている。この場合、前回終了時刻TEと、要求された今回の水素充填の終了時点(予想終了時点)との間における平均充填速度が、前回充填速度RRP以下になる。なお、要求された今回の水素充填の終了時点は、水素タンク14内の充填残圧が最大充填圧PFに到達する時点である。
【0037】
記憶部20は、期間決定部38が算出した所定期間TLを記憶してもよい。
【0038】
判定部40は、第1の充填速度RRAで水素タンク14に水素を充填することが水素タンク14をオーバヒートさせるか否かを、充填履歴28に基づいて判定する。
【0039】
より具体的に、判定部40は、前回終了時刻TEと水素タンク14への水素充填が要求された時刻(現在時刻)との時間差TDが、所定期間TLに到達(TD≧TL)しているか否かを比較する。
【0040】
時間差TDが所定期間TLに到達している場合、水素タンク14は、第1の充填速度RRAで水素充填が行われてもオーバヒートしない程度に放熱している。これを踏まえ、前回終了時刻TEから所定期間TLが経過した後に水素タンク14への水素充填が要求されていた場合、判定部40は、第1の充填速度RRAで水素タンク14に水素を充填しても水素タンク14はオーバヒートしないと判定する。
【0041】
時間差TDが所定期間TLに到達していない場合、水素タンク14は、前回の水素充填において加えられた熱を未だ放出し切れていない状態である。この状態の水素タンク14に外気温と初期圧PIとに応じた第1の充填速度RRAで水素が充填されると、水素タンク14がオーバヒートするおそれが大きい。これを踏まえ、前回終了時刻TEから所定期間TLが経過する前に水素タンク14への水素充填が要求されていた場合、判定部40は、第1の充填速度RRAで水素タンク14に水素を充填すると水素タンク14がオーバヒートすると判定する。
【0042】
充填制御部42は、第1の充填速度RRAで水素タンク14に水素を充填しても水素タンク14はオーバヒートしないと判定部40が判定した場合、第1の充填速度RRAで水素タンク14に水素を充填する。また、充填制御部42は、要求車両12が前回車両と同一車両でないと識別された場合においても、第1の充填速度RRAで水素タンク14に水素を充填する。
【0043】
その一方で、第1の充填速度RRAで水素タンク14に水素を充填すると水素タンク14がオーバヒートすると判定部40が判定した場合、充填制御部42は、第2の充填速度RRBで水素タンク14に水素を充填する。ここで、第2の充填速度RRBは、取得された外気温と初期圧PIとに応じた第1の充填速度RRAよりも遅い充填速度である(RRB<RRA)。
【0044】
第2の充填速度RRBは、第1の充填速度RRAに応じて予め決められる。例えば、充填制御マップ26に含まれる複数の充填速度の中から、第1の充填速度RRAよりも所定量だけ遅い充填速度が第2の充填速度RRBとして決められる。
【0045】
水素充填中のタンク温度は、充填速度が遅いほど、上昇しにくい。したがって、水素充填装置10は、第1の充填速度RRAで水素充填すると水素タンク14がオーバヒートするおそれがある場合において第2の充填速度RRBで水素充填することで、水素タンク14のオーバヒートを防止する。
【0046】
また、水素充填装置10は、第2の充填速度RRBで水素充填することで、第1の充填速度RRAで水素充填が行われる場合よりも消費電力を低減させる。
【0047】
しかも、前述の通り、水素充填が第2の充填速度RRBで行われる場合のタンク温度は上昇しにくい。したがって、水素の予冷温度を上げる余地が生じる。すなわち、水素充填装置10は、プレクーラの消費電力を低減させることができる。
【0048】
履歴更新部44は、充填制御部42が行った水素充填に基づいて、要求車両12の充填履歴28を更新する。
【0049】
水素充填装置10の説明は以上である。
【0050】
図3は、実施形態に係る水素充填方法の流れを例示するフローチャートである。
【0051】
水素充填装置10は、図3の水素充填方法を実行可能である。図3の水素充填方法は、外気温取得ステップS1と、初期圧取得ステップS2と、履歴取得ステップS3と、車両識別ステップS4と、期間決定ステップS5と、判定ステップS6と、充填制御ステップS7と、履歴更新ステップS8とを含む。なお、外気温取得ステップS1と、初期圧取得ステップS2と、履歴取得ステップS3とは、互いに順不同である。
【0052】
外気温取得ステップS1では、外気温取得部30が外気温を取得する。
【0053】
初期圧取得ステップS2では、初期圧取得部32が水素タンク14内の初期圧PIを取得する。
【0054】
履歴取得ステップS3では、履歴取得部34が前回車両の充填履歴28を取得する。
【0055】
車両識別ステップS4では、前回車両と要求車両12とが同一車両であるか否かを車両識別部36が判定する。前回車両と要求車両12とが同一車両である場合、水素充填装置10は、期間決定ステップS5と、判定ステップS6とをこの順番で実行する。前回車両と要求車両12とが互いに別車両である場合、水素充填装置10は、第1の充填制御ステップS71(後述)を実行する。
【0056】
期間決定ステップS5では、期間決定部38が所定期間TLの長さを決定する。期間決定部38は、数式(1)に基づいて所定期間TLの長さを決定する。
【0057】
判定ステップS6では、第1の充填速度RRAで水素充填することが水素タンク14をオーバヒートさせるか否かを判定部40が判定する。判定部40は、要求車両12の充填履歴28と、所定期間TLとに基づいて、第1の充填速度RRAで水素充填することが水素タンク14をオーバヒートさせるか否かを判定する。なお、前回車両と要求車両12とが互いに別車両である場合、判定部40は、所定期間TLに関わらず、第1の充填速度RRAで水素充填しても水素タンク14はオーバヒートしないと判定する。
【0058】
充填制御ステップS7では、充填制御部42が水素充填装置10を制御することで、水素タンク14に水素を充填する。充填制御ステップS7は、第1の充填制御ステップS71と、第2の充填制御ステップS72とを有する。
【0059】
水素充填装置10は、水素タンク14がオーバヒートしないと判定ステップS6において判定された場合、または前回車両と要求車両12とが互いに別車両である場合、第1の充填制御ステップS71を実行する。第1の充填制御ステップS71では、水素充填装置10が第1の充填速度RRAに基づいて水素タンク14に水素を充填する。
【0060】
水素充填装置10は、水素タンク14がオーバヒートすると判定ステップS6において判定された場合、第2の充填制御ステップS72を実行する。第2の充填制御ステップS72では、水素充填装置10が第2の充填速度RRBに基づいて水素タンク14に水素を充填する。これにより、水素タンク14に水素充填が連続で行われた場合であっても、水素タンク14がオーバヒートするおそれはなくなる。
【0061】
履歴更新ステップS8では、履歴更新部44が、要求車両12の充填履歴28を更新する。
【0062】
水素充填方法の説明は以上である。
【0063】
[変形例]
以下には、上記実施形態に係る変形例が記載される。ただし、上記実施形態と重複する説明は、以下の説明では可能な限り省略される。上記実施形態で説明済の構成要素の参照符号は、特に断らない限り、上記実施形態から流用される。
【0064】
(変形例1)
図4は、変形例1に係る水素充填方法の流れを例示するフローチャートである。
【0065】
水素充填装置10は、図4の水素充填方法を実行してもよい。この場合、水素充填装置10は、履歴取得ステップS3の次に、期間決定ステップS5を実行する。なお、本変形例において、外気温取得ステップS1~履歴取得ステップS3の説明は省略される。
【0066】
期間決定ステップS5において、期間決定部38は、前回車両に関する充填履歴28と、数式(1)とに基づいて所定期間TLの長さを決定する。
【0067】
水素充填装置10は、期間決定ステップS5の次に判定ステップS6を実行する(図4参照)。ここで、水素充填装置10は、時間差TDが所定期間TLに到達していた場合、第1の充填制御ステップS71を実行する。時間差TDが所定期間TLに到達していなかった場合、水素充填装置10は車両識別ステップS4を実行する。
【0068】
水素充填装置10は、車両識別ステップS4において、要求車両12と前回車両とが同一車両であるか否かを判定する。ここで、要求車両12と前回車両とが互いに別車両であった場合、水素充填装置10は、第1の充填制御ステップS71を実行する。その一方で、要求車両12と前回車両とが同一車両であった場合、水素充填装置10は、第2の充填制御ステップS72を実行する。これにより、水素充填装置10は、実施形態と同様に、水素タンク14がオーバヒートするおそれがなくなる。
【0069】
(変形例2)
図5は、変形例2に係る水素充填装置101の概略構成図である。
【0070】
水素充填装置101は、識別情報取得部46を備える。識別情報取得部46は、例えば演算部22が制御プログラム24を実行することで実現される。
【0071】
識別情報取得部46は、例えば要求車両12と通信することで、識別情報を取得する。識別情報は、例えば自動車登録番号である。ただし、要求車両12と他車両とを区別できる限りにおいて、識別情報は自動車登録番号に限定されない。
【0072】
識別情報取得部46は、要求車両12が撮像された画像情報48を解析することで、識別情報を取得してもよい。例えば、識別情報取得部46は、画像情報48を解析することで、要求車両12のナンバープレートに表示された自動車登録番号を認識してもよい。画像情報48は、例えば水素ステーションに設置される撮像装置50によって取得される。
【0073】
履歴取得部34は、要求車両12の識別情報に基づいて記憶部20を参照する。これにより、履歴取得部34は、要求車両12の充填履歴28を取得する。
【0074】
図6は、変形例2に係る水素充填方法の流れを例示するフローチャートである。
【0075】
水素充填装置101は、例えば図6の水素充填方法を実行可能である。図6の水素充填方法は、外気温取得ステップS1と、初期圧取得ステップS2と、識別情報取得ステップS9と、履歴取得ステップS3と、期間決定ステップS5と、判定ステップS6と、充填制御ステップS7と、履歴更新ステップS8とを含む。なお、外気温取得ステップS1と、初期圧取得ステップS2と、識別情報取得ステップS9とは互いに順不同である。
【0076】
水素充填装置101は、履歴取得ステップS3よりも前に識別情報取得ステップS9を実行する。識別情報取得ステップS9では、識別情報取得部46が要求車両12の識別情報を取得する。これにより、履歴取得部34は、履歴取得ステップS3において要求車両12の充填履歴28を識別情報に基づき取得できる。
【0077】
水素充填装置101は、履歴取得ステップS3の次に、期間決定ステップS5と、判定ステップS6と、充填制御ステップS7と、履歴更新ステップS8とをこの順序で実行する。期間決定ステップS5において、期間決定部38は、識別情報に基づいて取得された充填履歴28に基づいて所定期間TLの長さを決定する。判定ステップS6と、充填制御ステップS7と、履歴更新ステップS8との説明は割愛する(実施形態参照)。
【0078】
本変形例によれば、水素充填装置101は、車両識別部36(図1参照)を備えなくてもよい。また、水素充填方法は、車両識別ステップS4(図3参照)を含まなくてもよい。
【0079】
(変形例3)
所定期間TLは、予め決められた期間でもよい。この場合、記憶部20は、予め決められた所定期間TLを記憶してもよい。所定期間TLは、例えば車両の車種、水素タンク14の種類、または水素タンク14の容量に応じて予め決められてもよい。
【0080】
記憶部20は、予め決められた複数の所定期間TLを記憶してもよい。この場合、複数の所定期間TLは、テーブル化されてもよい。例えば、最大充填圧PFと、前回充填速度RRPと、初期圧PIと、第1の充填速度RRAとに応じた複数の所定期間TLがテーブル化されてもよい。この場合、判定部40は、テーブルを参照することで、最大充填圧PFと、前回充填速度RRPと、初期圧PIと、第1の充填速度RRAとに応じた所定期間TLを取得してもよい。
【0081】
本変形例によれば、水素充填装置10は、期間決定部38を備えなくてもよい。
【0082】
(変形例4)
水素充填装置10とは離れた場所に外部記憶装置(外部の記憶部)が設置されてもよい。この外部記憶装置は、例えばサーバ装置である。また、この外部記憶装置は、例えば水素充填装置10とは別の水素充填装置(10)の記憶部(20)でもよい。
【0083】
外部記憶装置は、例えば複数の車両の充填履歴28を記憶してもよい。履歴取得部34は、外部記憶装置にアクセスすることで、充填履歴28を取得してもよい。
【0084】
なお、本発明は、上述した実施形態、および変形例に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【0085】
[実施形態から得られる発明]
上記実施形態および変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0086】
<第1の発明>
第1の発明は、要求車両(12)の水素タンク(14)内の初期圧(PI)に応じた水素の充填速度を示す充填制御マップ(26)に基づいて、前記水素タンクに水素を充填する水素充填装置(10、101)であって、前記水素タンク内の初期圧を取得する初期圧取得部(32)と、前記要求車両の充填履歴(28)を取得する履歴取得部(34)と、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度(RRA)で水素充填することで前記水素タンクがオーバヒートするか否かを、前記要求車両の充填履歴に基づいて判定する判定部(40)と、前記水素タンクがオーバヒートすると前記判定部が判定した場合に、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度(RRB)で前記水素タンクに水素を充填する充填制御部(42)と、を備える。
【0087】
これにより、同一の水素タンクに水素充填が連続で行われることに起因して、その水素タンクがオーバヒートするおそれがなくなる。
【0088】
前記充填履歴は、前記要求車両の前回の水素充填の終了時刻(TE)を含み、前記判定部は、前記終了時刻から所定期間(TL)が経過する前に前記水素タンクへの水素充填が要求された場合、前記水素タンクがオーバヒートすると判定してもよい。これにより、水素充填装置は、水素タンクが十分に放熱していない場合において、水素タンク内の初期圧に応じた充填速度で水素充填することを回避できる。
【0089】
前記充填履歴は、前記要求車両の前回の水素充填における充填速度(RRP)を含み、前記水素充填装置は、前記要求車両の前回の水素充填における充填速度と、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度と、前記水素タンクに充填可能な最大充填圧(PF)とに基づいて前記所定期間の長さを決定する期間決定部(38)をさらに備えてもよい。これにより、水素充填装置は、水素タンクが十分に放熱するために要する所定期間を導出できる。
【0090】
前記充填履歴は、前回の水素充填終了時における前記水素タンク内の前回終了充填圧(PP)を含み、前記充填制御部は、前記前回終了充填圧と、前記水素タンク内の初期圧との差分が所定範囲を逸脱する場合、前記判定部の判定結果に関わらず、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度で前記水素タンクに水素を充填してもよい。これにより、水素充填装置は、前回車両とは別の要求車両に、水素タンク内の初期圧に応じた充填速度で水素を充填できる。
【0091】
前記水素充填装置(101)は、前記要求車両の識別情報を取得する識別情報取得部(46)をさらに備え、前記履歴取得部は、複数の車両の充填履歴を記憶した記憶部(20)を、前記識別情報に基づいて参照することで、前記要求車両の充填履歴を取得してもよい。これにより、水素充填装置は、要求車両と別車両とを識別できる。
【0092】
前記識別情報取得部は、前記要求車両が写された画像情報(48)を解析することで、前記識別情報を取得してもよい。これにより、水素充填装置は、要求車両と別車両とを識別できる。
【0093】
<第2の発明>
第2の発明は、要求車両(12)の水素タンク(14)内の初期圧(PI)に応じた水素の充填速度を示す充填制御マップ(26)に基づいて、前記水素タンクに水素を充填する水素充填方法であって、前記水素タンク内の初期圧を取得する初期圧取得ステップ(S2)と、前記要求車両の充填履歴(28)を取得する履歴取得ステップ(S3)と、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度(RRA)で水素充填することで前記水素タンクがオーバヒートするか否かを、前記要求車両の充填履歴に基づいて判定する判定ステップ(S6)と、前記判定ステップにおいて前記水素タンクがオーバヒートすると判定された場合に、前記水素タンク内の初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度(RRB)で前記水素タンクに水素を充填する充填制御ステップ(S7)と、を含む。
【0094】
これにより、同一の水素タンクに水素充填が連続で行われることに起因して、その水素タンクがオーバヒートするおそれがなくなる。
【符号の説明】
【0095】
10、101…水素充填装置 12…要求車両
14…水素タンク 20…記憶部
26…充填制御マップ 28…充填履歴
32…初期圧取得部 34…履歴取得部
38…期間決定部 40…判定部
42…充填制御部 46…識別情報取得部
48…画像情報 PF…最大充填圧
PI…水素タンク内の初期圧 PP…前回終了充填圧
RRA…水素タンク内の初期圧に応じた充填速度(第1の充填速度)
RRB…水素タンク内の初期圧に応じた充填速度よりも遅い充填速度(第2の充填速度)
RRP…前回の水素充填における充填速度(前回充填速度)
TE…前回の水素充填の終了時刻(前回終了時刻)
TL…所定期間
図1
図2
図3
図4
図5
図6