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  • 特許-細胞外小胞の洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】細胞外小胞の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20241105BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241105BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20241105BHJP
【FI】
C12N5/07
G01N33/53 S
C07K16/28
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021520800
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2020019808
(87)【国際公開番号】W WO2020235566
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019095213
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517448489
【氏名又は名称】合同会社H.U.グループ中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】顧 然
(72)【発明者】
【氏名】淺井 芙美
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 達俊
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/068772(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062263(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/207932(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0117792(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
G01N 33/00
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外小胞を、下記式(I):
【化1】
〔式中、xが、15~100であり;
yが、0以上の整数であり;
zが、0以上の整数であり;
y≧zであり;
y+zが、5~30である。〕で表される非イオン性界面活性剤で洗浄することを含む、細胞外小胞の洗浄方法。
【請求項2】
yおよびzがそれぞれ、1以上の整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞外小胞膜結合物質による細胞外小胞の沈降後に、細胞外小胞が前記非イオン性界面活性剤で洗浄される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤が、HLB15以上または炭素鎖の炭素原子数が16以下のアルコールエトキシレートである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、以下:
(1)細胞外小胞を細胞外小胞膜結合物質で処理して、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を形成させること;および
(2)前記複合体を前記非イオン性界面活性剤で洗浄すること
を含む方法である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(1)細胞外小胞を細胞外小胞膜結合物質で処理して、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を形成させることが、細胞外小胞膜結合物質と結合した固相を用いる沈降法により、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体の形成およびその沈降を生じさせることにより行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
細胞外小胞が、0.001~10.0w/v%の前記非イオン性界面活性剤で処理される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
細胞外小胞が、エクソソームである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
細胞外小胞膜結合物質が、テトラスパニン膜タンパク質に対する抗体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
以下を含む、細胞外小胞精製物の製造方法:
(1)細胞外小胞を、下記式(I):
【化2】
〔式中、xが、15~100であり;
yが、0以上の整数であり;
zが、0以上の整数であり;
y≧zであり;
y+zが、5~30である。〕で表される非イオン性界面活性剤で洗浄すること;および
(2)洗浄された細胞外小胞を分離すること。
【請求項11】
細胞外小胞膜結合物質による細胞外小胞の沈降後に、細胞外小胞が前記非イオン性界面活性剤で洗浄される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
以下を含む工程により行なわれる、請求項10または11に記載の方法:
(1’)細胞外小胞を細胞外小胞膜結合物質で処理して、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を形成させること;
(2’)前記複合体を前記非イオン性界面活性剤で洗浄すること;および
(3’)前記複合体を分離すること。
【請求項13】
(1’)細胞外小胞を細胞外小胞膜結合物質で処理して、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を形成させることが、細胞外小胞膜結合物質と結合した固相を用いる沈降法により、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体の形成およびその沈降を生じさせることにより行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(A)(1)請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により洗浄された細胞外小胞を得ること、または(2)請求項10~13のいずれか一項に記載の方法により細胞外小胞精製物を得ること;および
(B)(A)により得られた、洗浄された細胞外小胞、または細胞外小胞精製物を分析することを含む、細胞外小胞の分析方法。
【請求項15】
分析が、細胞外小胞内部マーカーの検出により行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞外小胞内部マーカーが、癌胎児性抗原(CEA)またはCA125である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
以下を含む工程により行われる、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法:
(1)請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により洗浄された細胞外小胞、または請求項10~13のいずれか一項に記載の方法により製造された細胞外小胞精製物を、破壊すること;および
(2)破壊された細胞外小胞の細胞外小胞内部マーカーを検出すること。
【請求項18】
以下:
(1)下記式(I):
【化3】
〔式中、xが、15~100であり;
yが、0以上の整数であり;
zが、0以上の整数であり;
y≧zであり;
y+zが、5~30である。〕で表される非イオン性界面活性剤を含む洗浄液;および
(2)細胞外小胞膜結合物質
を含み、
さらに固相を含んでいてもよい、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞の洗浄方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞(extracellular vesicles:EV)は、さまざまな種類の細胞から分泌される、膜構造を有する微小な小胞であり、血液などの体液中あるいは細胞培養液中に存在する。細胞外に分泌される細胞外小胞には、エクソソーム(exosome)、エクトソーム(ectosome)、アポトーシス胞(apoptotic bleb)が含まれる。細胞外小胞は、細胞間の情報伝達等の機能を担う種々の物質を含む多様な集団であることから、診断、創薬等の目的のために解析されている。よって、このような解析に有用な細胞外小胞の洗浄方法の開発が求められている。例えば、特許文献1には、免疫沈降時および/または洗浄時に非イオン性界面活性剤を添加することで、固相担体同士の凝集を低減させる、EVの分離方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/068772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
体液などの検体中のEV内に含まれる物質を検出する場合、当該物質が検体中のEV外にも多く存在することがある。一般的に、EV中に含まれる対象物質の量は、検体中のEV外に存在する同じ物質の量に比べて微量である。そのため検体から回収されたEV中の対象物質を検出または測定する際に、体液中のEV外に多く存在する当該物質が夾雑物として混入してしまい、バックグラウンドとなるため、EV中の対象物質を検出または測定することが難しい。例えば、EV中の癌マーカーであるCEAを測定することで診断性能が上がることが報告されているが、血液検体由来のEV中のCEAを検出または測定する場合、CEAは血液検体中にEVに比べて非常に多く含まれるので、EV外のCEAが夾雑物としてEV表面や容器表面に吸着していると、対象物質であるEV内CEAを正確に検出または測定することができない。
【0005】
したがって、本発明の目的は、細胞外小胞を操作する系において夾雑物の混入を低減できる方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、EVを所定の非イオン性界面活性剤を含む洗浄液を用いて洗浄することにより、EV外に含まれる同じ対象物質等の夾雑物(例、検出または測定の対象物質と同じ物質)の混入量を低減することができること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕細胞外小胞を、-O-(-CH-CH-O-)-H〔式中、xが、1~300である〕で表される構造を含む鎖状化合物である、非イオン性界面活性剤で洗浄することを含む、細胞外小胞の洗浄方法。
〔2〕前記非イオン性界面活性剤が、アルコールエトキシレートである、〔1〕の方法。
〔3〕アルコールエトキシレートが、式(I)で表される化合物である、〔2〕の方法:
【化1】
式中、xが、15~100であり;
yが、0以上の整数であり;
zが、0以上の整数であり;
y≧zであり;
y+zが、5~30である。
〔4〕アルコールエトキシレートが、HLB15以上または炭素鎖の炭素原子数が16以下のアルコールエトキシレートである、〔2〕または〔3〕の方法。
〔5〕前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体である、〔1〕の方法。
〔6〕ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体が、式(III)で表されるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体である、〔5〕の方法:
【化2】
式中、x2が1以上の整数であり;
y2が、10~100であり;
z2が、1以上の整数であり;
x2+z2が、20~300である。
〔7〕細胞外小胞が、0.001~10.0w/v%の前記非イオン性界面活性剤で処理される、〔1〕~〔6〕のいずれかの方法。
〔8〕細胞外小胞が、エクソソームである、〔1〕~〔7〕のいずれかの方法。
〔9〕細胞外小胞を前記非イオン性界面活性剤で洗浄することが、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を前記非イオン性界面活性剤で洗浄することである、〔1〕~〔8〕のいずれかの方法。
〔10〕細胞外小胞膜結合物質が、テトラスパニン膜タンパク質に対する抗体である、〔1〕~〔9〕のいずれかの方法。
〔11〕以下を含む、細胞外小胞精製物の製造方法:
(1)細胞外小胞を、-O-(-CH-CH-O-)-H〔式中、xが、1~300である〕で表される構造を含む鎖状化合物である、非イオン性界面活性剤で洗浄すること;および
(2)洗浄された細胞外小胞を分離すること。
〔12〕前記非イオン性界面活性剤がアルコールエトキシレートまたはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体である、〔11〕の方法。
〔13〕以下を含む工程により行なわれる、〔11〕または〔12〕の方法:
(1’)細胞外小胞を細胞外小胞膜結合物質で処理して、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を形成させること;
(2’)前記複合体を前記非イオン性界面活性剤で洗浄すること;および
(3’)前記複合体を分離すること。
〔14〕〔1〕~〔10〕のいずれかの方法により洗浄された細胞外小胞、または〔11〕~13〕のいずれかの方法により製造された細胞外小胞精製物を分析することを含む、細胞外小胞の分析方法。
〔15〕分析が、細胞外小胞内部マーカーの検出により行われる、〔14〕の方法。
〔16〕細胞外小胞内部マーカーが、癌胎児性抗原(CEA)またはCA125である、〔15〕の方法。
〔17〕以下を含む工程により行われる、〔14〕~〔16〕のいずれかの方法:
(1)〔1〕~〔10〕のいずれかの方法により洗浄された細胞外小胞、または〔11〕~〔13〕のいずれかの方法により製造された細胞外小胞精製物を、破壊すること;および
(2)破壊された細胞外小胞の細胞外小胞内部マーカーを検出すること。
〔18〕以下を含む、キット:
(1)-O-(-CH-CH-O-)-H〔式中、xが、1~300である〕で表される構造を含む鎖状化合物である、非イオン性界面活性剤;および
(2)細胞外小胞膜結合物質。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、細胞外小胞を所定の非イオン性界面活性剤で洗浄することにより、夾雑物の混入を低減することができる。夾雑物混入の低減により、細胞外小胞マーカーの検出または測定におけるバックグラウンド等の障害が低減され、検出または測定の精度が向上する。したがって、本発明は、細胞外小胞マーカーを指標とした際の高精度な分析または診断に有用である。また、本発明は、高精度な分析または診断のための試料となる細胞外小胞の回収に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例6における残留総タンパク質を指標としたTergitol15-s-30とPluronicF68のEV回収における洗浄効果の濃度依存的比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.界面活性剤の分類
本発明では、1以上の目的(例、EVの洗浄、EVの破壊)に応じて、複数種類の界面活性剤が用いられ得る。そこで、各目的に適した界面活性剤の選択の前提とするため、界面活性剤を、化学的特性(親水性部分のイオン特性)および機能的特性(EVに対する特性/用途)に基づいて分類する。
【0011】
1-1.親水性部分のイオン特性に基づく界面活性剤の分類
界面活性剤は、親水性部分のイオン特性に基づいて、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、および両イオン性界面活性剤に分類することができる。以下、各界面活性剤を例示する。
【0012】
1-1-1.非イオン性界面活性剤
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルコール構造含有非イオン性界面活性剤(例、アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、TWEEN(登録商標)シリーズ(例、TWEEN20、TWEEN40、TWEEN80))、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(例えば、TRITON(登録商標)シリーズ(例、Triton X-100、Triton X-114、Triton X-305、Triton X-405、Triton X-705))、N-D-グルコ-N-メチルアルカンアミド(例えば、MEGAシリーズ(例、MEGA 8、MEGA 10)が挙げられる。
【0013】
「ポリオキシエチレンアルコール構造含有非イオン性界面活性剤」は、-O-(-CH-CH-O-)-H〔式中、xが、1以上の整数である〕で表される構造(以下、「ポリオキシエチレンアルコール構造」と呼ぶ)を含む鎖状化合物(環状構造を含まない化合物)である。このような化合物は、直鎖状化合物または分岐鎖状化合物のいずれであってもよい。このような化合物は、単結合からなってもよく、または多重結合を含んでもよい。このような化合物は、ポリオキシエチレンアルコール構造を1個または複数個(例、2、3、4個)含んでもよい。このような化合物におけるポリオキシエチレンアルコール構造以外の構造としては、例えば、アルキレン構造(直鎖または分岐鎖)、ポリオキシアルキレン構造(直鎖または分岐鎖)が挙げられる。このような化合物は、炭素原子、水素原子、および酸素原子からなっていてもよい。このような化合物としては、例えば、アルコールエトキシレートおよびポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体(例、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体)が挙げられる。
【0014】
「アルコールエトキシレート」とは、下記の式(I)で表される一群の化合物をいう。
【0015】
【化3】
【0016】
式中、xが、1以上の整数であり;
yが、0以上の整数であり;
zが、0以上の整数であり;
y≧zである。
【0017】
式(I)において、「H-(-CH-)-CH-(-CH-)-H」で表される部分を「疎水部側鎖」、「炭素鎖」、または「アルキル鎖」等と呼ぶことがある。式(I)において、疎水部側鎖の炭素原子数は、y+z+1に該当する。式(I)において、「-(-CH-CH-O-)-H」で表される部分を「親水部側鎖」または「エトキシレート鎖」等と呼ぶことがある。
【0018】
アルコールエトキシレートとしては、例えば、分岐鎖アルコールエトキシレートおよび直鎖アルコールエトキシレートが挙げられる。
【0019】
分岐鎖アルコールエトキシレートは、上記の式(I)で表される化合物において、yが1以上の整数であり、zが1以上の整数である化合物に該当する。分岐鎖アルコールエトキシレートとしては、例えば、ポリオキシエチレン(3)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(7)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(9)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(12)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(15)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(20)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(30)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(40)sec-トリデシルエーテルが挙げられる。分岐鎖アルコールエトキシレートとしては、例えば、市販品として、Tergitol15-S-3、Tergitol15-S-5、Tergitol15-S-7、Tergitol15-S-9、Tergitol15-S-12、Tergitol15-S-15、Tergitol15-S-20、Tergitol15-S-30、Tergitol15-S-40等のTERGITOL(登録商標)シリーズの化合物が挙げられる。TERGITOL15-Sシリーズは、アルキル鎖の炭素原子数(y+z+1)が11~15(平均13)であり、その系統名において「S」の後の数字はエトキシレート鎖のエチレンオキサイドのユニット数(x)を表わす。
【0020】
直鎖アルコールエトキシレートは、上記の式(I)で表される化合物において、zが0である化合物に該当する。直鎖アルコールエトキシレートとしては、例えば、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルが挙げられる。直鎖アルコールエトキシレートの市販品として、例えば、Brij30、Brij35、Brij58、Brij78等のBRIJ(登録商標)シリーズの化合物が挙げられる。直鎖アルコールエトキシレートは、下記の式(II)としても表すことができる。
【0021】
【化4】
【0022】
式中、xが、1以上の整数であり;
nが、1以上の整数である。
【0023】
「ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体」とは、ポリオキシエチレンブロックおよびポリオキシアルキレンブロックを含むブロック共重合体をいう。ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体としては、例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体が挙げられる。
【0024】
「ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体」とは、下記の式(III)で表される一群の化合物をいう。
【0025】
【化5】
【0026】
式中、x2、y2、z2が、1以上の整数である。
【0027】
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体としては、例えば、ポロキサマー182、ポロキサマー108、ポロキサマー188、ポロキサマー217、ポロキサマー237、ポロキサマー238、ポロキサマー288、ポロキサマー388、ポロキサマー407等が挙げられる。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体の市販品として、例えば、Pluronic L62、Pluronic F38、Pluronic F68、Pluronic F77、Pluronic F87、Pluronic F88、Pluronic F98、Pluronic F108、Pluronic F127等のPLURONIC(登録商標)シリーズの化合物が挙げられる。
【0028】
1-1-2.陽イオン性界面活性剤
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩が挙げられる。塩としては、例えばハロゲン(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)との塩が挙げられる。第四級アンモニウム塩としては、例えば、Cnアルキルトリメチルアンモニウムブロミド(CnTAB)、Cnアルキルトリメチルアンモニウムクロリド(CnTAC)が挙げられる。CnTABとしては、例えば、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド(C8TAB)、ノニルトリメチルアンモニウムブロミド(C9TAB)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(C12TAB)、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(C14TAB)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(C16TAB)が挙げられる。CnTACとしては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C12TAC)、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C14TAC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C16TAC)、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C18TAC)が挙げられる。
【0029】
1-1-3.陰イオン性界面活性剤
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸型界面活性剤(例、N-デカノイルサルコシンナトリウム(NDS)、N-ラウロイルサルコシンナトリウム水和物(NLS))、スルホン酸型界面活性剤(例、1-ノナンスルホン酸ナトリウム(NSS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS))、カルボン酸型-スルホン酸型界面活性剤(例、コンドロイチン硫酸ナトリウム(CSSS))、硫酸エステル型界面活性剤(例、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))が挙げられる。
【0030】
1-1-4.両イオン性界面活性剤
両イオン性界面活性剤としては、例えば、第四級アンモニウム-スルホン酸型界面活性剤が挙げられる。第四級アンモニウム-スルホン酸型界面活性剤としては、例えば、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS)、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホナート(CHAPSO)、3-(N,N-ジメチルオクチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C8APS)、3-(デシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C10APS)、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホナート(C12APS)、3-(N,N-ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C14APS)、3-(N,N-ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C16APS)、ジメチルエチルアンモニウムプロパンスルホナート(NDSB-195)、3-[ジメチル-(2-ヒドロキシエチル)アンモニオ]-1-プロパンスルホナート(NDSB-211)、3-(ベンゼンジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート(NDSB-256)が挙げられる。
【0031】
1-1-5.界面活性剤の物性値
界面活性剤の親水性および親油性を表す物性値として、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値を用いることができる。HLB値は、0に近いほど親油性が高いことを示す。市販品化合物のHLB値は、製造元のデータシートに記載の値を用いてもよい。製造元のデータシートに記載のHLB値は、20を超えることがある。また、アルコールエトキシレートのHLB値は、例えば、簡易的に、グリフィン法により求めてもよい。
【0032】
1-1-6.イオン特性に基づく界面活性剤の分類のまとめ
親水性部分のイオン特性に基づく界面活性剤の分類をまとめると、下記の表のとおりとなる。
【0033】
【表1-1】
【0034】
【表1-2】
【0035】
1-2.EVに対する特性および用途に基づく界面活性剤の分類
界面活性剤は、EVを破壊する性質の程度に基づいて、「EV難破壊性界面活性剤」および「EV破壊性界面活性剤」に分類することができる。「EV難破壊性界面活性剤」のうち洗浄効果を有するものを、「EV洗浄性界面活性剤」としてさらに分類することができる。EV洗浄性界面活性剤をEV難破壊性界面活性剤から選択することで、EVの破壊によるEV内部マーカーのEV外への放出を防止しつつEVおよびEV操作系を洗浄することができる。「EV洗浄性界面活性剤」のうち非イオン性界面活性剤に該当するものを、「EV洗浄性非イオン性界面活性剤」と呼ぶ。上記分類は、例えば、本明細書の実施例に記載の方法に基づいて行なうことができる。
【0036】
2.細胞外小胞の洗浄方法
本発明は、細胞外小胞の洗浄方法を提供する。
【0037】
細胞外小胞は、さまざまな種類の細胞から分泌される、膜構造を有する微小な小胞である。細胞外小胞としては、例えば、エクソソーム、エクトソーム、およびアポトーシス胞が挙げられる。好ましくは、細胞外小胞は、エクソソームである。細胞外小胞はまた、そのサイズにより規定することができる。細胞外小胞のサイズは、例えば、30~1000nmであり、好ましくは50~300nm、より好ましくは80~200nmである。細胞外小胞のサイズの測定は、例えば、細胞外小胞のブラウン運動に基づく方法、光散乱法、および電気抵抗法などにより行うことができる。好ましくは、細胞外小胞のサイズの測定は、NanoSight(Malvern Instruments社製)により行われる。
【0038】
本発明の洗浄方法は、細胞外小胞を、「EV洗浄性非イオン性界面活性剤」で洗浄することを含む。本発明の洗浄方法で用いる「EV洗浄性非イオン性界面活性剤」は、ポリオキシエチレンアルコール構造含有非イオン性界面活性剤である。
【0039】
本発明の洗浄方法でEV洗浄性非イオン性界面活性剤として用いるポリオキシエチレンアルコール構造含有非イオン性界面活性剤は、-O-(-CH-CH-O-)-Hで表される構造(ポリオキシエチレンアルコール構造)を含む鎖状化合物(環状構造を含まない化合物)である。xは、1以上の整数であり、例えば、1~300であってもよい。このような化合物は、直鎖状化合物または分岐鎖状化合物のいずれであってもよい。このような化合物は、単結合からなってもよく、または多重結合を含んでもよいが、単結合からなることが好ましい。このような化合物は、ポリオキシエチレンアルコール構造を1個または複数個(例、2、3、4個)含んでもよい。このような化合物におけるポリオキシエチレンアルコール構造以外の構造としては、例えば、アルキル構造(直鎖または分岐鎖)、ポリオキシアルキレン構造(直鎖または分岐鎖)が挙げられる。アルキル構造は、例えば、C6~31アルキル構造であってもよく、C6~31直鎖アルキル構造が好ましい。ポリオキシアルキレン構造におけるアルキレンは、例えば、C1~6アルキレン基であってもよい。C1~6アルキレン基としては、例えば、Cアルキレン基(メチレン基)、Cアルキレン基(エチレン基、エチリデン基)、Cアルキレン基(プロピリデン基、プロピレン基、トリメチレン基、イソプロピリデン基)、Cアルキレン基(例、テトラメチレン基)、Cアルキレン基(例、ペンタメチレン基)、Cアルキレン基(例、ヘキサメチレン基)が挙げられる。このような化合物は、炭素原子、水素原子、および酸素原子からなっていてもよい。このような化合物としては、例えば、アルコールエトキシレートおよびポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体(例、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体)が挙げられる。
【0040】
「アルコールエトキシレート」は、下記の式(I)で表される化合物である。
【0041】
【化6】
【0042】
式中、xが、1以上の整数であり;
yが、0以上の整数であり;
zが、0以上の整数であり;
y≧zである。
【0043】
本発明の洗浄方法でEV洗浄性非イオン性界面活性剤として用いるアルコールエトキシレートは、分岐鎖アルコールエトキシレートまたは直鎖アルコールエトキシレートのいずれであってもよい。
【0044】
このような分岐鎖アルコールエトキシレートは、上記の式(I)で表される化合物において、yが1以上の整数であり、zが1以上の整数である化合物に該当する。このような分岐鎖アルコールエトキシレートとしては、例えば、ポリオキシエチレン(7)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(9)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(15)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(20)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(30)sec-トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(40)sec-トリデシルエーテルが挙げられる。このような分岐鎖アルコールエトキシレートとしては、例えば、市販品として、Tergitol15-S-7、Tergitol15-S-9、Tergitol15-S-15、Tergitol15-S-20、Tergitol15-S-30、Tergitol15-S-40等のTERGITOL(登録商標)シリーズの化合物が挙げられる。
【0045】
このような直鎖アルコールエトキシレートは、上記の式(I)で表される化合物において、zが0である化合物に該当する。このような直鎖アルコールエトキシレートとしては、例えば、市販品として、Brij35、Brij58、Brij78等のBRIJ(登録商標)シリーズの化合物が挙げられる。直鎖アルコールエトキシレートは、下記の式(II)としても表すことができる。
【0046】
【化7】
【0047】
式中、xが、1以上の整数であり;
nが、1以上の整数である。
【0048】
本発明の洗浄方法でEV洗浄性非イオン性界面活性剤として用いるアルコールエトキシレートは、式(I)で表される化合物であって、
xが、15~100であり;
yが、0以上の整数であり;
zが、0以上の整数であり;
y≧zであり;
y+zが、5~30である
化合物が好ましい。
【0049】
本発明の洗浄方法でEV洗浄性非イオン性界面活性剤として用いるアルコールエトキシレートは、HLB15以上または炭素鎖の炭素原子数が16以下のアルコールエトキシレートがより好ましい。本発明の洗浄方法で用いるアルコールエトキシレートは、HLB15以上のアルコールエトキシレートがさらにより好ましい。本発明の洗浄方法で用いるアルコールエトキシレートの好ましい例としては、Tergitol15-S-15、Tergitol15-S-20、Tergitol15-S-30、Tergitol15-S-40、Brij35、Brij58、Brij78、が挙げられる。本発明の洗浄方法で用いるアルコールエトキシレートのより好ましい例としては、Tergitol15-S-30、Tergitol15-S-40、Brij35、Brij58が挙げられる。
【0050】
「ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体」は、ポリオキシエチレンブロックおよびポリオキシアルキレンブロックを含むブロック共重合体である。ポリオキシアルキレンブロックにおけるアルキレンは、例えば、C1~6アルキレン基であってもよく、例えば、Cアルキレン基(メチレン基)、Cアルキレン基(エチレン基、エチリデン基)、Cアルキレン基(プロピリデン基、プロピレン基、トリメチレン基、イソプロピリデン基)、Cアルキレン基(例、テトラメチレン基)、Cアルキレン基(例、ペンタメチレン基)、Cアルキレン基(例、ヘキサメチレン基)が挙げられる。ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体としては、例えば、HO-[ポリオキシエチレンブロック]-[ポリオキシアルキレンブロック]-[ポリオキシエチレンブロック]-Hの構造を有するブロック共重合体が挙げられる。ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体は、好ましくは、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体であってもよい。
【0051】
「ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体」は、下記の式(III)で表される一群の化合物である。
【0052】
【化8】
【0053】
式中、x2、y2、z2が、1以上の整数である。
【0054】
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体としては、例えば、ポロキサマー188、ポロキサマー407等が挙げられる。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体の市販品として、例えば、Pluronic F68、Pluronic F127等のPLURONIC(登録商標)シリーズの化合物が挙げられる。
【0055】
本発明の洗浄方法でEV洗浄性非イオン性界面活性剤として用いるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体は、式(III)で表される化合物であって、
x2が、1以上の整数であり;
y2が、10~100であり;
z2が、1以上の整数であり;
x2+z2が、20~300である
化合物が好ましい。
【0056】
本発明の洗浄方法でEV洗浄性非イオン性界面活性剤として用いるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体は、HLB15以上のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体がより好ましい。本発明の洗浄方法で用いるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体の好ましい例としては、ポロキサマー188(例、Pluronic F68)、ポロキサマー108(例、Pluronic F38)、ポロキサマー217(例、Pluronic F77)、ポロキサマー237(例、Pluronic F87)、ポロキサマー238(例、Pluronic F88)、ポロキサマー288(例、Pluronic F98)、ポロキサマー388(例、Pluronic F108)、ポロキサマー407(例、Pluronic F127)が挙げられる。本発明の洗浄方法で用いるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体のより好ましい例としては、ポロキサマー188(例、Pluronic F68)、ポロキサマー407(例、Pluronic F127)が挙げられる。
【0057】
本発明の洗浄方法でEV洗浄性非イオン性界面活性剤として用いる非イオン性界面活性剤は、好ましくはアルコールエトキシレートである。
【0058】
細胞外小胞の洗浄におけるEV洗浄性非イオン性界面活性剤の濃度は、細胞外小胞および細胞外小胞を操作する系への夾雑物の吸着を抑制でき、かつ細胞外小胞の破壊を抑制できる濃度である限り特に限定されない。このような濃度は、EV洗浄性非イオン性界面活性剤の種類によっても異なるが、例えば、0.001~10.0w/v%である。好ましくは、EV洗浄性非イオン性界面活性剤の濃度は、0.002w/v%以上、0.005w/v%以上、または0.01w/v%以上であってもよい。このような濃度はまた、EV洗浄性非イオン性界面活性剤の種類によっても異なるが、7.5w/v%以下、5.0w/v%以下、または2.0w/v%以下であってもよい。より好ましくは、EV洗浄性非イオン性界面活性剤の濃度は、0.002~7.5w/v%、0.005~5.0w/v%、または0.01~2.0w/v%であってもよい。
【0059】
本発明の洗浄方法で用いるEV洗浄性非イオン性界面活性剤は、水溶液であってもよい。水溶液としては、例えば、水(例、蒸留水、滅菌水、滅菌蒸留水、および純水)、ならびに緩衝液が挙げられるが、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、酒石酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン緩衝液、炭酸緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)緩衝液、ホウ酸緩衝液、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)緩衝液、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)緩衝液、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)1-ピペラジニルエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液が挙げられる。緩衝液のpHは中性が好ましい。より具体的には、このようなpHは、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上、さらにより好ましくは6.0以上であってもよい。pHはまた、好ましくは9.0以下、より好ましくは8.5以下、さらにより好ましくは8.0以下であってもよい。pHの測定は、当該分野における公知の方法を用いて行うことができる。好ましくは、pHは、ガラス電極を有するpH計を用いて25℃で測定された値を採用することができる。
【0060】
細胞外小胞の洗浄における温度は、例えば、4~45℃であり、好ましくは、15~40℃であってもよい。洗浄における時間は、細胞外小胞への夾雑物の吸着を抑制するために十分な時間である限り特に限定されず、例えば、1秒以上、5秒以上、10秒以上、または20秒以上であってもよい。このような時間はまた、4分以下、2分以下、または1分以下であってもよい。細胞外小胞の洗浄では、細胞外小胞とEV洗浄性非イオン性界面活性剤との混合後に、混合液が放置されてもよし、ボルテックスミキサー等により撹拌されてもよいし、ピペッティング操作によりさらに混合されてもよい。
【0061】
本発明において、「細胞外小胞の洗浄」とは、細胞外小胞の表面および細胞外小胞を操作する系(例、溶液、容器)において、夾雑物の量を低減させることをいう。夾雑物としては、例えば、タンパク質、核酸(例、RNA、DNA)、糖、脂質、アミノ酸、ビタミン類、ポリアミン、およびペプチドが挙げられる。夾雑物とは、特に、細胞外小胞の分析を妨害する混入物質をいい、例えば、検出バックグラウンドを増強させる夾雑物(例、検出対象と同一または類似の物質)、検出シグナルを減弱させる夾雑物(例、検出対象の検出を阻害する物質)が挙げられる。細胞外小胞の洗浄は、検出対象と同一または類似の物質の量が低減されることが好ましく、検出対象と同一のカテゴリーに属する物質の総量(例えば、検出対象がタンパク質である場合、総タンパク質量)が低減されることがより好ましい。細胞外小胞の操作としては、例えば、細胞外小胞の洗浄、細胞外小胞精製物の製造(すなわち、細胞外小胞の回収)、細胞外小胞の分析が挙げられる。細胞外小胞を操作する容器としては、例えばプラスチック(例、ポリプロピレン)、ガラス等の材質から構成される容器が挙げられ、プラスチックから構成される容器が好ましい。
【0062】
本発明の洗浄方法で洗浄された細胞外小胞は、分析に用いることができる。細胞外小胞の分析は、例えば、細胞外小胞中に含まれる成分(EVマーカー)の分析であってもよい。EVマーカーとしては、例えば、EV内部マーカーおよびEV表面マーカーが挙げられる。EV内部マーカーとしては、例えば、癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen、CEA)、CA125、CA15-3、アクチンファミリー、TSG101、ALIX、Charged multivesicular body protein(CHMP)ファミリー、Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)、poly(ADP―ribose)polymerase(PARP)ファミリー、AFP、CA19-9、Flotillin-I、Flotillin-II、Rabタンパク質、programmed cell death(PDCD)6、phospholipid scramblase(PLSCR)ファミリー、シトクロムCオキシダーゼ(COX)ファミリー、ラミンファミリー、増殖細胞核抗原(PCNA)、チューブリンファミリー、TATA 結合タンパク質(TBP)、電位依存性アニオンチャネルタンパク質(VDAC)、アミロイドベータ、タウタンパク質が挙げられる。EV表面マーカーとしては、例えば、テトラスパニン膜タンパク質(細胞外小胞膜特異的4回貫通膜タンパク質、例、CD9、CD63、CD81)、細胞外マトリクスメタロプロテアーゼ誘導物質(例、CD147)、熱ショックタンパク質(HSP)70、HSP90、主要組織適合性複合体(MHC)I、リソソーム関連膜タンパク質(LAMP)1、細胞間接着分子(ICAM)-1、インテグリン、セラミド、コレステロール、ホスファチジルセリン、Annexins、Caveolin-I、EpCAMが挙げられる。
【0063】
本発明の洗浄方法は、細胞外小胞膜結合物質を用いた沈降法(例、免疫沈降法)と組み合わせて行なってもよい。この場合、沈降法により細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質(例、抗体)との複合体(例、免疫沈降複合体)を形成させた後で、その複合体をEV洗浄性非イオン性界面活性剤で洗浄してもよい。すなわち、細胞外小胞をEV洗浄性非イオン性界面活性剤で洗浄することは、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体をEV洗浄性非イオン性界面活性剤で洗浄することであってもよい。
【0064】
本発明で用いられる細胞外小胞膜結合物質は、上述したEV表面マーカーに親和性を有する物質である。細胞外小胞膜結合物質としては、例えば、上述したEV表面マーカーに対する抗体(例、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)およびその抗原結合性断片、アプタマー、ホスファチジルセリン結合タンパク質、セラミド結合タンパク質が挙げられる。抗原結合性断片は、対象とするEV表面マーカーに対する結合性を維持している抗体断片であればよく、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv等が挙げられる。細胞外小胞膜結合物質は、好ましくは抗体またはその抗原結合性断片であり、より好ましくはモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である。また、本発明で用いられる細胞外小胞膜結合物質は、一つでも複数を組み合わせてもよい。
【0065】
細胞外小胞膜結合物質は、細胞外小胞の分離を容易にするための固相と結合していてもよい。固相としては、例えば、セファロースビーズ、アガロースビーズ、磁性ビーズ(磁性粒子)、またはプラスチックプレートを用いることができる。固相への細胞外小胞膜結合物質の固定化は当業者に周知の常法によって行うことができる。
【0066】
3.細胞外小胞精製物の製造方法
本発明はまた、細胞外小胞精製物の製造方法を提供する。
【0067】
本発明の製造方法は、以下の工程を含む:
(1)細胞外小胞を「EV洗浄性非イオン性界面活性剤」で洗浄すること;および
(2)洗浄された細胞外小胞を分離すること。
【0068】
工程(2)における細胞外小胞の分離は、例えば、細胞外小胞膜結合物質を用いた沈降法、または超遠心法により行なうことができる。沈降法または超遠心法により細胞外小胞を沈殿させ、次いで、沈殿物を回収することにより、または上清を廃棄することにより、細胞外小胞を回収することができる。沈殿物の回収は、当該分野において公知である任意の方法(例、磁性粒子の集磁、セファロースビーズの遠心分離)により行なうことができる。分離は、好ましくは、単離または精製である。
【0069】
工程(2)における細胞外小胞の分離を沈降法により行なう場合、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体の形成は、工程(2)の前に行なってもよい。すなわち、この場合における本発明の製造方法は、以下を含む工程により行なわれてもよい:
(1’)細胞外小胞を細胞外小胞膜結合物質で処理して、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を形成させること;
(2’)細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を「EV洗浄性非イオン性界面活性剤」で洗浄すること;および
(3’)細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体を分離すること。
【0070】
本発明の製造方法において、細胞外小胞精製物は、細胞外小胞と細胞外小胞膜結合物質との複合体の形態で得てもよく、遊離の細胞外小胞の形態で得てもよい。細胞外小胞精製物を遊離の形態で得るために、本発明の製造方法は、細胞外小胞を複合体から解離させる工程を含んでもよい。細胞外小胞の複合体からの解離は、当該分野において公知である任意の方法により行なってもよい。
【0071】
本発明の製造方法に用いられる「EV洗浄性非イオン性界面活性剤」の種類、「EV洗浄性非イオン性界面活性剤」での処理における各条件、および細胞外小胞膜結合物質は、本発明の洗浄方法で定義したとおりである。
【0072】
本発明の製造方法は、細胞外小胞の回収、単離、または精製方法として利用することができる。
【0073】
本発明の製造方法により製造された細胞外小胞精製物は、夾雑物の混入量が低減されているので、例えば、分析対象として分析に用いてもよく、EV標品として用いてもよい。
【0074】
4.細胞外小胞の分析方法
本発明はまた、細胞外小胞の分析方法を提供する。
【0075】
本発明の分析方法は、本発明の洗浄方法により洗浄された細胞外小胞、または本発明の製造方法により製造された細胞外小胞精製物(以下、これらを「本発明で得られた細胞外小胞」と呼ぶ)を分析することを含む。
【0076】
細胞外小胞の分析は、細胞外小胞中に含まれる成分(例、EV内部マーカー、EV表面マーカー)の分析であってもよく、細胞外小胞自体の粒子の分析であってもよい。細胞外小胞の分析は、細胞外小胞中に含まれる成分の分析が好ましく、EV内部マーカーの分析がより好ましい。本発明で得られた細胞外小胞は、夾雑物の混入量が低減されているので、細胞外小胞中に含まれる成分(例、EV内部マーカー)の分析に好適に用いることができる。
【0077】
細胞外小胞中に含まれる成分が分析される場合、分析は、成分の検出または定量である。このような分析はまた、一成分または複数成分の分析である。分析される成分としては、例えば、タンパク質、核酸(例、RNA、DNA)、糖、脂質、アミノ酸、ビタミン類、ポリアミン、およびペプチドが挙げられる。
【0078】
成分の分析は、当該分野において公知である任意の方法により行うことができる。
分析される成分がタンパク質である場合、分析方法としては、例えば、イムノアッセイ、質量分析法が挙げられる。イムノアッセイとしては、例えば、直接競合法、間接競合法、およびサンドイッチ法が挙げられる。また、このようなイムノアッセイとしては、化学発光イムノアッセイ(CLIA)〔例、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)〕、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、およびサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、イムノクロマトグラフィー法、ウエスタンブロッティング、免疫染色、および蛍光活性化細胞選別(fluorescence activated cell sorting、FACS)が挙げられる。複数成分が分析される場合、プロテオーム分析が行われてもよい。
分析される成分が核酸である場合、分析方法としては、例えば、プローブを用いるハイブリダイゼーション法、逆転写酵素を用いる逆転写(RT)反応、プライマー(例、2、3、または4個のプライマー)を用いる核酸増幅法(例、定量PCR、RT-PCR等のPCR法)、シークエンシング、質量分析法が挙げられる。
分析される成分がタンパク質および核酸以外の成分である場合、分析方法としては、例えば、イムノアッセイ、質量分析法が挙げられる。複数成分が分析される場合、メタボローム分析が行われてもよい。
【0079】
本発明の分析方法は、細胞外小胞に含まれるマーカーの検出に用いることができる。細胞外小胞に含まれるマーカーとしては、上述したEVマーカー(例、EV内部マーカーおよびEV表面マーカー)が挙げられる。
【0080】
細胞外小胞自体(粒子)の分析は、例えば、粒子分析機器、電子顕微鏡、フローサイトメーター等の機器により行うことができる。この場合、細胞外小胞の粒子数、粒子の大きさおよび形状、並びにそれらの分布を分析することができる。
【0081】
本発明の分析方法は、例えばEV内部マーカーを分析する場合、本発明で得られた細胞外小胞を破壊することをさらに含んでもよい。このような場合、本発明の分析方法は、以下を含む工程により行われる:
(1)本発明で得られた細胞外小胞を破壊すること;および
(2)破壊された細胞外小胞の細胞外小胞内部マーカーを検出すること。
【0082】
細胞外小胞の破壊は、例えば、化学物質での処理による破壊、物理的動作での処理による破壊、またはこれらの併用が挙げられる。化学物質としては、例えば、細胞外小胞破壊性物質が挙げられる。細胞外小胞破壊性物質としては、例えば、上述したEV破壊性界面活性剤を用いることができる。細胞外小胞の破壊に用いるEV破壊性界面活性剤としては、上述したEV洗浄性非イオン性界面活性剤(例、アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体)以外の界面活性剤が好ましく、HLB15未満の非イオン性界面活性剤または炭素鎖の炭素原子数11以上のイオン性界面活性剤がより好ましい。物理的動作としては、例えば、加圧が挙げられる。
【0083】
5.キット
本発明はまた、以下を含むキットを提供する:
(1)EV洗浄性非イオン性界面活性剤;および
(2)細胞外小胞膜結合物質。
【0084】
本発明のキットは、(3)細胞外小胞内部マーカー結合物質をさらに含んでもよい。また、本発明のキットは、(4)EV破壊性界面活性剤をさらに含んでもよい。
【0085】
本発明のキットに含まれるEV洗浄性非イオン性界面活性剤、細胞外小胞膜結合物質、細胞外小胞内部マーカー結合物質、およびEV破壊性界面活性剤は上述したとおりである。本発明のキットは、例えば、本発明の洗浄方法、本発明の回収方法、本発明の製造方法、および本発明の分析方法の簡便な実施に有用である。
【実施例
【0086】
以下、実施例を参照して本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1:固相抗体および標識抗体の調製、ならびにEV表面マーカーの測定方法)
(1)抗体固相化粒子(固相抗体)の調製
10mM MES緩衝液(pH5.0)中で磁性粒子0.01g/mLに、細胞外小胞(EV)表面マーカーであるCD9、CD63およびCD81をそれぞれ認識するマウス抗CD9モノクローナル抗体(富士レビオ社)、マウス抗CD63モノクローナル抗体(富士レビオ社)またはマウス抗CD81モノクローナル抗体(富士レビオ社)0.2mg/mLを添加し、25℃で1時間ゆるやかに攪拌しながらインキュベートした。反応後、磁性粒子を集磁し、粒子を洗浄液(50mM Tris緩衝液、150mM NaCl、2.0%BSA、pH7.2)にて洗浄し、抗CD9抗体固相化粒子、抗CD63抗体固相化粒子および抗CD81抗体固相化粒子を得た。各抗体固相化粒子を粒子希釈液(50mM Tris緩衝液、1mM EDTA・2Na、0.1%NaN、2.0%BSA、pH7.2)に懸濁し、各抗体固相化粒子溶液を得た。
【0088】
(2)アルカリホスファターゼ標識抗体の調製
脱塩したアルカリホスファターゼ(ALP)とN-(4-マレイミドブチリロキシ)-スクシンイミド(GMBS)(終濃度0.3mg/mL)を混合し、30℃で1時間静置してマレイミド化を行った。次いで、カップリング用反応液(100mM リン酸緩衝液、1mM EDTA・2Na、pH6.3)中で、Fab’化したマウス抗CD9モノクローナル抗体、マウス抗CD63モノクローナル抗体またはマウス抗CD81モノクローナル抗体と、マレイミド化ALPを1:1のモル比で混合し、25℃で1時間反応させた。反応液を、Superdex200カラムクロマトグラフィー(General Electric社)を用いて精製し、ALP標識抗CD9抗体、ALP標識抗CD63抗体およびALP標識抗CD81抗体を得た。各ALP標識抗体を標識体希釈液(50mM MES緩衝液、150mM NaCl、0.3mM ZnCl、1mM MgCl、0.1%NaN、2.0%BSA、pH6.8)に懸濁し、各標識抗体溶液を得た。
【0089】
(3)EV表面マーカー(CD9、CD63およびCD81)の測定方法
以下の実施例におけるEV表面マーカー(CD9、CD63およびCD81)の測定方法は、次のとおりである。
測定用サンプル20μLを反応槽に分注し、抗CD9抗体固相化粒子溶液、抗CD63抗体固相化粒子溶液、または抗CD81抗体固相化粒子溶液50μLを分注し、攪拌した。その後、37℃で8分間インキュベーションし、B/F分離・洗浄を行った。固相化抗体に対応するALP標識抗体50μLを反応槽に分注し、攪拌後37℃で8分間インキュベーションし、B/F分離・洗浄を行った。その後、化学発光基質である3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)を含むルミパルス(登録商標)基質液(富士レビオ社)200μLを反応槽に分注し、攪拌後37℃で4分間インキュベーションした後、発光量をルミノメーターで測定した。実際の測定は全自動化学発光酵素免疫測定システム(ルミパルスL2400(富士レビオ社))にて行った。
【0090】
磁性粒子に固相化した抗体とALP標識抗体は、同一エピトープを認識する抗体を使用した。一つの細胞外小胞上には、複数のCD9、CD63またはCD81が存在するため、固相化抗体と同一エピトープを認識する抗体をALP標識抗体として用いたサンドイッチイムノアッセイにより、細胞外小胞およびそのマーカーを測定することが可能である。
【0091】
(実施例2:EV表面マーカー測定に基づくEV難破壊性界面活性剤およびEV破壊性界面活性剤のスクリーニング)
EV表面マーカーを指標とした細胞外小胞に対する各種界面活性剤の影響を測定して、EV難破壊性界面活性剤およびEV破壊性界面活性剤のスクリーニングを行った。
500μLのヒト血清検体に、250μLの0.1w/v%の各界面活性剤を含む、EDTAおよびEGTA含有PBS(EDTA/EGTA/PBS)を添加した(血清検体と混合後のEDTAおよびEGTAの終濃度はそれぞれ50mM,pH7.4)。混合液を、37℃で30分、回転反応させて、測定用サンプルとして用いた。その後、測定用サンプルにおけるCD9、CD63またはCD81の反応性(EV表面マーカー測定量)を実施例1(3)の測定方法に従って測定した。コントロールとして、界面活性剤を含まないEDTA/EGTA/PBSを用いた。得られたカウント値から、コントロールのカウント値に対する、各界面活性剤を添加した場合のカウント値の比率(影響率%)を求めた。
【0092】
結果を表2に示す。コントロールと比較して、反応性が20%以上低下している(影響率が80%より低い)場合は、細胞外小胞が壊れていると判断し、用いた界面活性剤がEV破壊性界面活性剤であると判断した。反応性が20%以上低下しない(影響率が80%以上である)場合は、用いた界面活性剤が細胞外小胞に影響を与えない界面活性剤(EV難破壊性界面活性剤)であると判断した。
【0093】
【表2-1】
【0094】
【表2-2】
【0095】
この結果より、HLB15以上の非イオン性界面活性剤および炭素鎖の炭素原子数が10以下の直鎖イオン性界面活性剤は細胞外小胞を破壊しない界面活性剤(EV難破壊性界面活性剤)となる傾向があることが分かった。これらの界面活性剤は、細胞外小胞洗浄用界面活性剤の候補となり得る。一方、HLB15未満の非イオン性界面活性剤や炭素鎖の炭素原子数11以上のイオン性界面活性剤は効率よくEVを破壊する界面活性剤(EV破壊性界面活性剤)となる傾向があることが分かった。これらの界面活性剤は、細胞外小胞の破壊に使用可能である。
【0096】
(実施例3:EV内部マーカー測定に基づく界面活性剤の濃度依存的EV破壊性およびEV難破壊性の検討)
EV内部マーカーを指標としたEVに対する破壊性および難破壊性についての各種界面活性剤の濃度依存的影響を測定した。
3日間無血清培地で培養したヒト結腸腺癌細胞DU-145の培養上清を、2,000×g、4℃で5分間遠心し、上清を0.22μmフィルター(ミリポア社)で濾過した後、Amicon Ultra-15(ミリポア社)を用いて濃縮した。濃縮したサンプルを20,000×g、4℃で15分間遠心した。次に、その上清を、100,000×g、4℃で1時間遠心した。上清を捨て、PBS(pH7.4)または50mM EDTA/50mM EGTA/PBS(50mM EDTAおよび50mM EGTAを含有するPBS,pH7.4)を加えて、沈殿物を再懸濁させた。再懸濁させた後、150,000×g、4℃で1時間遠心した。上清を捨て、新たにPBSまたは50mM EDTA/50mM EGTA/PBSを加えて、沈殿物を再懸濁させてEV(DU-145)を得た。EV(DU-145)の濃度は、Qubit Protein Assay(Thermo Fisher Scientific社)により行った。63μg/mLのEV(DU-145)10μLと界面活性剤溶液(濃度は表中参照)10μLを混合した。室温で30分、反応させた後に、ルミパルス検体希釈液(富士レビオ社)を190μL添加した。このサンプルに含まれるEV内部マーカー(CEAおよびCA125)をルミパルスプレストCEA試薬(富士レビオ社)およびルミパルスプレストCA125-II試薬(富士レビオ社)を用いて、添付のプロトコルに従い、ルミパルスL2400(富士レビオ社)にて測定した。
【0097】
結果を表3に示す。界面活性剤未添加と比較して、反応性(EV表面マーカー測定量)が20%以上上昇しているものは、EV(DU-145)の膜が破壊されて、EV内部抗原(CEA、CA125)が流出していると判断し、用いた界面活性剤がEV破壊性界面活性剤であると判断した。
【0098】
【表3】
【0099】
この結果より、HLB15以上の非イオン性界面活性剤のうち、Tergitol類およびPluronic類、炭素鎖の炭素原子数が10以下の直鎖イオン性界面活性剤であるC8TABは、EV(DU-145)を破壊せず、EV中の抗原が流出しない界面活性剤(EV難破壊性界面活性剤)であることが分かった。一方、HLB15以上の非イオン性界面活性剤でもTween(登録商標)20やTween80はEV(DU-145)を破壊する効果(EV破壊性)があることが明らかとなった。
【0100】
(実施例4:EV操作系における非イオン性界面活性剤による検体成分の容器吸着抑制効果の検討)
残留総タンパク質量を指標として、EV操作系における非イオン性界面活性剤による検体成分の容器吸着抑制効果を検討した。
ポリプロピレン製1.5mLチューブ(QSP製)(以下、「反応チューブ」と呼ぶ)中で、500μLのヒト血清検体に、250μLの1.5w/v%の各非イオン性界面活性剤を含むEDTA/EGTA/PBSを添加した。使用した界面活性剤は、Tween20、Triton-X100、Tergitol15-s-30 、Brij35、Brij58、PluronicF68、C8TAB、NSS、C8APS、NDSB-195、NDSB-256であった。反応液を、反応チューブ中で37℃で30分、回転反応させた後に、反応液を反応チューブから除去した。反応液を除去した反応チューブを、PBSを洗浄液として5回洗浄した。各洗浄後の洗浄液をそれぞれ個別の新しいチューブに移し、これらを「洗浄フラクション1~5」とした。5回洗浄後の空の反応チューブを、「反応後容器」とした。反応後容器および洗浄フラクションはBCAアッセイ(Thermo Fisher Scientific社)に用いた。反応後容器にはBCA溶液を1mL添加し、37℃で30分間反応させた。洗浄フラクション1~5は、20μLにBCA溶液を200μL添加し、37℃で30分間反応させた。反応後、562nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(TECAN社製)で測定して総タンパク質量を測定した。
【0101】
結果を表4に示す。評価した非イオン性界面活性剤は何れも、添加することで、洗浄フラクション中に溶出される総タンパク質量が低下し、容器に残っている総タンパク質量は減少した。
【0102】
【表4】
【0103】
この結果から、非イオン性界面活性剤を反応液中に添加することは取得EVサンプル中への夾雑物の混入を低減できることが示された。
【0104】
(実施例5:免疫沈降によるEV回収における非イオン性界面活性剤による検体成分の容器吸着抑制効果の検討)
残留総タンパク質量を指標として、免疫沈降によるEV回収における非イオン性界面活性剤による検体成分の洗浄効果を検討した。
ポリプロピレン製1.5mLチューブ(QSP製)(以下、「反応チューブ」と呼ぶ)中で、500μLのヒト血清検体に、250μLのEDTA/EGTA/PBSを添加し、抗CD9抗体固相化粒子を0.15w/v%となるように添加した。反応液を、反応チューブ中で37℃で30分、回転反応させた後に、集磁し、上清した。反応後の磁性粒子を、0.05w/v%の各界面活性剤を含むPBSを洗浄液として5回洗浄した。使用した界面活性剤は実施例4と同様であった。各洗浄後の洗浄液をそれぞれ個別の新しいチューブに移し、これらを「洗浄フラクション1~5」とした。洗浄後の磁性粒子を別の新しいチューブに移した。反応チューブを各条件の洗浄液で1回洗浄し、「免沈後容器」とした。免沈後容器および洗浄フラクション1~5はBCAアッセイ(Thermo Fisher Scientific社)に用いた。免沈後容器にはBCA溶液を1mL添加し、37℃で30分で反応させた。洗浄フラクションには、20μLにBCA溶液を200μL添加し、37℃で30分間反応させた。反応後、562nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(TECAN社製)で測定して総タンパク質量を測定した。
【0105】
結果を表5に示す。評価した非イオン性界面活性剤はいずれも洗浄液に添加することで、洗浄フラクション中に溶出される総タンパク質量が上昇する傾向があり、容器に残っている総タンパク質量は減少した。特に、Tween20、TritonX-100、Tertitol15-S-30、Brij35、Brij58が高い洗浄効果を示した。
【0106】
【表5】
【0107】
この結果から、非イオン性界面活性剤を添加した洗浄は取得EVサンプル中への夾雑物の混入を低減させることを見出した。
【0108】
(実施例6:免疫沈降によるEV回収における非イオン性界面活性剤による洗浄効果の濃度依存性の検討)
残留総タンパク質量を指標として、免疫沈降によるEV回収における非イオン性界面活性剤による洗浄効果の濃度依存性の評価をした。
ポリプロピレン製1.5mLチューブ(QSP製)(以下、「反応チューブ」と呼ぶ)中で、500μLのヒト血清検体に、250μLのEDTA/EGTA/PBSを添加し、そこに抗CD9抗体固相化粒子を0.15w/v%となるように添加した。反応液を、反応チューブ中で37℃で30分、回転反応させた後に、集磁し、上清を別の新しいチューブに移した。反応後の磁性粒子を、各濃度(0w/v%、0.01w/v%、0.05w/v%、0.1w/v%、0.25w/v%、0.5w/v%、1.0w/v%)でTergitol15-s-30またはPluronicF68を含むPBSを洗浄液として5回洗浄した。洗浄後の磁性粒子を別の新しいチューブに移した。反応チューブを各条件の洗浄液で1回洗浄し、「免沈後容器」とした。免沈後容器はBCAアッセイ(Thermo Fisher Scientific社)に用いた。免沈後容器にBCA溶液を1mL添加し、37℃で30分間反応させた。反応後、562nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(TECAN社製)で測定して総タンパク質量を測定した。
【0109】
結果を表6および図1に示す。洗浄液中にTergitol15-s-30またはpluronicF68を0.01%以上で添加することで、容器に吸着している検体成分(残留総タンパク質)の量が低下し、洗浄効果を示した。特に、Tergitol15-s-30の方が高い洗浄効果を示した。
【0110】
【表6】
【0111】
この結果から、Tergitol15-s-30を添加した洗浄は、取得EVサンプル中への夾雑物の混入をより低減させることを見出した。
【0112】
(実施例7:検体からのEVの回収における洗浄効果の検討)
検体からのEVの回収における洗浄効果の検討をした。
ポリプロピレン製1.5mLチューブ(QSP製)(以下、「反応チューブ」と呼ぶ)中で、500μLのヒト血清検体に、250μLのEDTA/EGTA/PBSを添加し、そこに抗CD9抗体固相化粒子を0.15w/v%となるように添加した。反応液を、反応チューブ中で37℃で30分、回転反応させた後に、集磁し、上清を別の新しいチューブに移した。得られた上清を「SUPサンプル」とした。反応後の磁性粒子を、PBS(pH7.4)またはTergitol15-s-30含有PBS(0.05w/v% Tergitol15-s-30、pH7.4)を洗浄液として5回洗浄した。各洗浄後の洗浄液をそれぞれ個別の新しいチューブに移し、これらを「洗浄フラクション1~5」とした。洗浄後の磁性粒子を別の新しいチューブに移し、「免沈後粒子」とした。反応チューブを各条件の洗浄液で1回洗浄し、「免沈後容器」とした。免沈後粒子、免沈後容器および洗浄フラクションはBCAアッセイ(Thermo Fisher Scientific社)に用いた。免沈後粒子および免沈後容器にはBCA溶液を1mL添加し、37℃で30分間反応させた。洗浄フラクション1~5には、20μLにBCA溶液を200μL添加し、37℃で30分間反応させた。反応後、562nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(TECAN社)で測定して総タンパク質量を測定した。SUPサンプルおよび洗浄フラクションについては、ルミパルスプレスト CEA試薬(富士レビオ社)を用いて、ルミパルスL2400(富士レビオ社)にてCEA量を測定した。
【0113】
BCAアッセイによる総タンパク質量測定の結果を表7に、CEA量測定の結果を表8に示す。洗浄液中にTergitol15-s-30を添加することで、無添加の場合と比べて、洗浄フラクション中に溶出される総タンパク質量が上昇し、さらに免疫後容器に残っている総タンパク質量は62.3%にまで減少した。また、洗浄液中にTergitol15-s-30を添加することで、洗浄フラクション中に溶出されるCEA量が上昇し、容器に残っているCEA量は減少した。
【0114】
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
これらの結果から、Tergitol15-s-30を添加した洗浄は取得EVサンプル中への夾雑物の混入を低減させることを見出した。
【0117】
(実施例8:EVマーカー測定による洗浄効果の確認)
検体からEVを回収し、破砕してEV中のマーカーを測定した。
ポリプロピレン製1.5mLチューブ(QSP製)(以下、「反応チューブ」と呼ぶ)中で、500μLのヒト血清検体に、250μLのEDTA/EGTA/PBSを添加したものを「原液サンプル」とした。原液サンプルに、抗CD9抗体固定化粒子、抗CD63抗体固定化粒子、抗CD81抗体固定化粒子、またはこれらの混合物を0.15w/v%となるように添加した。反応液を、反応チューブ中で37℃で30分、回転反応させた後に、集磁し、上清を別の新しいチューブに移した。これらを「SUPサンプル」とした。反応後の磁性粒子を0.05%のTergitol15-S-30を含むPBSを洗浄液として5回洗浄した。各洗浄後の洗浄液をそれぞれ個別の新しいチューブに移し、これらを「洗浄フラクション1~5」とした。洗浄後の磁性粒子を含む容器(反応チューブ)にLysisバッファー(D-PBS(-)、150mM NaCl,1.0% N-ラウロイルサルコシンナトリウム、2.0% N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホナート、pH7.4)を20μL添加した。室温で5分、反応させて、細胞外小胞を溶解した。その後、集磁し、上清を180μLのルミパルス検体希釈液(富士レビオ社)に希釈し「Lysisサンプル」を得た。
【0118】
まず、EV表面マーカー(CD9、CD63およびCD81)に特異的に結合する抗体を用いた免疫沈降法によって、原液サンプル中の細胞外小胞が回収されていることを確認するために、原液サンプル及びSUPサンプル中のEV表面マーカーを実施例1の測定方法で測定した。ブランクとして、ルミパルス検体希釈液(富士レビオ社)を同様に測定した。得られたカウント値から、EV回収率(=(1-(SUPサンプル-ブランク)/(原液サンプル-ブランク))×100(%))を求めた。
【0119】
結果を表9に示す。その結果、抗CD9抗体、抗CD63抗体および抗CD81抗体をそれぞれ用いた免疫沈降法によって回収されたEVの回収率が、いずれも90%を超えていることから、血清検体中のEVを免疫沈降により回収できることが確認された。また全自動化学発光酵素免疫測定システムによってEVの回収効率を評価できることが分かった。
【0120】
【表9】
【0121】
次に、原液サンプル、SUPサンプルおよびLysisサンプルのCEAの反応性を実施例3と同様に測定した。この測定では、抗CD9抗体固定化粒子、抗CD63抗体固定化粒子および抗CD81抗体固定化粒子の混合物を用いた免疫沈降法によって得られたサンプルを、SUPサンプル及びLysisサンプルとして用いた。またLysisサンプルのCEAの反応性がCEAに特異的な反応であることを確認するため、抑制試験を行った。具体的には、ルミパルスプレストCEA試薬で用いられている抗CEA抗体のエピトープ領域と同じ領域を認識する抗体をCEA試薬に添加して、実施例3と同様にしてCEAを測定した(抑制カウント)。
【0122】
結果を表10に示す。CEAを測定した結果、原液サンプルおよびSUPサンプルの発光強度は、2000000カウント前後であったことから、血清検体中には多くのCEAが含まれることが分かった。一方でLysisサンプルの発光強度は、2025カウントであり、血清検体中に含まれるCEAに比べて、EV由来のCEA量は非常に少ないこと、本発明の方法によって、EV由来のCEAを測定することが可能であることが示された。再度CEAを測定したところ、Lysisサンプルのカウント値は1950カウントとなり再現性が確認された。
【0123】
【表10】
【0124】
抑制試験の結果、Lysisサンプルの発光強度は890カウントとなった。抑制率(=((1-(抑制カウント-ブランクカウント)/(Lysisサンプルのカウント-ブランクカウント))×100(%))が90%以上であることから、LysisサンプルのCEAの反応性がCEAに特異的な反応であることが確認された。再度同様の実験を行い、Lysisの反応性は1589カウントとなり、抑制試験では837カウントとなり、抑制率が90%以上となり再現性が確認された。
【0125】
さらに、抗体が結合していない磁性粒子(未感作粒子)を用いて、同様の試験を行ったところ、Lysisサンプルの発光強度は824カウントとなり、CEAに対する反応性を示さなかった。従って、所定の非イオン性界面活性剤を洗浄液に添加することによって、検体中に含まれるCEAの磁性粒子への非特異的な吸着も抑制できることが分かった。
【0126】
これらの結果から、所定の非イオン性界面活性剤を洗浄液に添加することによって、ヒト検体から細胞外小胞を特異的に抽出し、細胞外小胞中のCEAを特異的に検出できることが明らかとなった。
図1