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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】フローセル
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20241105BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20241105BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6876 Z
C12M1/00 Z
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021537728
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 US2020043057
(87)【国際公開番号】W WO2021021515
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】62/881,597
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500358711
【氏名又は名称】イルミナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】ウー,イア-シュアン
(72)【発明者】
【氏名】クラナ,タルン クマール
(72)【発明者】
【氏名】ファルシュキ,ヤサマン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シー-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ハーシュバイン,バーナード
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/126040(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/208561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-1/70
C12M 1/00-1/42
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローセルであって、
基材と、
前記基材上のカチオン性ポリマーヒドロゲルであって、前記カチオン性ポリマーヒドロゲルが、i)初期ポリマーヒドロゲルのモノマー単位中に組み込まれたか、又はii)リンカーを介して前記初期ポリマーヒドロゲルの前記モノマー単位に付着した、カチオン性部分を含む、前記基材上のカチオン性ポリマーヒドロゲルと、
前記カチオン性ポリマーヒドロゲルに付着した増幅プライマーと
を含む、フローセル。
【請求項2】
前記モノマー単位が、N-(5-ブロモアセトアミジルペンチル)アクリルアミドであり、
前記カチオン性部分が、ホスホニウムカチオンであり、
前記ホスホニウムカチオンが、N-(5-ブロモアセトアミジルペンチル)アクリルアミドの臭素を置換する、請求項1に記載のフローセル。
【請求項3】
前記ホスホニウムカチオンが、トリス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムカチオン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスホニウムカチオン、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムカチオン、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスホニウムカチオンからなる群から選択される、請求項2に記載のフローセル。
【請求項4】
i)前記モノマー単位が、末端アジド基を含み、前記リンカーが、アルキン基を含むか、又は
ii)前記モノマー単位が、末端アルキン基を含み、前記リンカーが、アジド基を含む、請求項1に記載のフローセル。
【請求項5】
前記カチオン性部分が、プロトン化アミン基、スルホニウムイオン、第四級アンモニウムカチオン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項4に記載のフローセル。
【請求項6】
前記モノマー単位が、N-(5-アジドアセトアミジルペンチル)アクリルアミドであり、
前記カチオン性部分が、N,N,N-トリメチルエタノールアンモニウムカチオンである、請求項4に記載のフローセル。
【請求項7】
前記リンカーが、切断可能なジスルフィド結合、光切断可能な結合、切断可能なホスホジエステル結合、又はそれらの組み合わせを更に含む、請求項4に記載のフローセル。
【請求項8】
前記モノマー単位が、N-(5-アジドアセトアミジルペンチル)アクリルアミドであり、
前記リンカーが、末端アルキン基及び末端臭素を含み、
前記カチオン性部分が、前記末端臭素を置換するホスホニウムカチオンである、請求項1に記載のフローセル。
【請求項9】
前記基材が、介在領域によって分離された複数の凹部を含み、前記カチオン性ポリマーヒドロゲルが、前記凹部の各々の内部に配置されている、請求項1に記載のフローセル。
【請求項10】
前記基材が、複数のチャンバを更に含み、前記複数の凹部のサブセットが、前記複数のチャンバの各々の周囲内に位置している、請求項9に記載のフローセル。
【請求項11】
方法であって、
正帯電性部分を含む、流体を、
負帯電性原子、アジド基、及びアルキン基からなる群から選択される表面部分を有する初期ポリマーヒドロゲルと、
前記初期ポリマーヒドロゲルに付着した増幅プライマーと
を含む、フローセルに、導入することと、
前記初期ポリマーヒドロゲルを、ある温度で、ある時間にわたって、前記流体中でインキュベートし、それによってカチオン性部分を含むカチオン性ポリマーヒドロゲルを形成することと
を含む、方法。
【請求項12】
前記正帯電性部分が、前記初期ポリマーヒドロゲルの前記負帯電性原子を置換する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記表面部分が、前記負帯電性原子であり、
前記負帯電性原子が、臭素であり、
前記正帯電性部分が、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記流体が、6~12の範囲のpHを有する緩衝液を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記温度が、18℃~65℃の範囲であり、前記時間が、1.5分~5分の範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記表面部分が、前記アジド基又は前記アルキン基であり、
前記正帯電性部分が、リンカーを介して前記表面部分に共有結合的に付着する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記表面部分が、前記アジド基であり、
前記リンカーが、アルキン基であり、
前記カチオン性部分が、プロトン化アミン基、スルホニウムイオン、第四級アンモニウムカチオン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記表面部分が、前記アルキン基であり、
前記リンカーが、アジド基であり、
前記カチオン性部分が、プロトン化アミン基、スルホニウムイオン、第四級アンモニウムカチオン、又はそれらの組み合わせを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
化合物が、前記リンカーに付着した前記正帯電性部分を含み、前記化合物が、臭化プロパルギルコリンである、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記流体が、水を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記温度が、18℃~60℃の範囲であり、前記時間が、30分~12時間の範囲である、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
触媒、リガンド、及び還元剤を、前記流体を含む前記フローセルに添加することを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
基材と、
前記基材上に配置された初期ポリマーヒドロゲルであって、負帯電性原子、アジド基、及びアルキン基からなる群から選択される表面部分を有する、初期ポリマーヒドロゲルと、
前記初期ポリマーヒドロゲルに付着した増幅プライマーと、
前記表面部分と相互作用又は反応して、カチオン性部分を含むカチオン性ポリマーヒドロゲルを形成する正帯電性部分を含む、流体と
を含む、フローセル
を備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年8月1日に出願された米国仮出願第62/881,597号の利益を主張し、その内容は、参照にその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
二本鎖DNA(double-stranded DNA、dsDNA)標的分子から断片化及びタグ付けされたデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid、DNA)分子のライブラリーを生成することが望まれる様々な方法及び用途がある。しばしば、その目的は、DNA配列決定反応において鋳型として使用するために、より大きなdsDNA分子からより小さなDNA分子(例えば、DNA断片)を生成することである。鋳型は、短いリード長を得ることを可能にし得る。データ分析中に、重複する短い配列のリードを整列させて、より長い核酸配列を再構築することができる。場合によっては、データ分析を簡素化するために、事前配列決定ステップ(例えば、特定の核酸分子のバーコード化)を使用することができる。
【0003】
(序論)
本明細書で開示される第1の態様は、基材と、基材上のカチオン性ポリマーヒドロゲルであって、このカチオン性ポリマーヒドロゲルが、i)初期ポリマーヒドロゲルのモノマー単位中に組み込まれたか、又はii)リンカーを介して初期ポリマーヒドロゲルのモノマー単位に付着した、カチオン性部分を含む、基材上のカチオン性ポリマーヒドロゲルと、カチオン性ポリマーヒドロゲルに結合された増幅プライマーと、を含む、フローセルである。
【0004】
第1の態様の一例では、モノマー単位はN-(5-ブロモアセトアミジルペンチル)アクリルアミドであり、カチオン性部分はホスホニウムカチオンであり、ホスホニウムカチオンはN-(5-ブロモアセトアミジルペンチル)アクリルアミドの臭素を置換する。一例では、ホスホニウムカチオンは、トリス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムカチオン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスホニウムカチオン、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムカチオン、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスホニウムカチオンからなる群から選択される。
【0005】
第1の態様の別の例では、i)モノマー単位は末端アジド基を含み、リンカーはアルキン基を含むか、又はii)モノマー単位は末端アルキン基を含み、リンカーはアジド基を含む。一例では、カチオン性部分は、プロトン化アミン基、スルホニウムイオン、第四級アンモニウムカチオン、又はそれらの組み合わせを含む。別の例では、モノマー単位はN-(5-アジドアセトアミジルペンチル)アクリルアミドであり、カチオン性部分は、N,N,N-トリメチルエタノールアンモニウムカチオンである。更に別の例では、リンカーは、切断可能なジスルフィド結合、光切断可能な結合、切断可能なホスホジエステル結合、又はそれらの組み合わせを更に含む。
【0006】
第1の態様の更に別の例では、モノマー単位はN-(5-アジドアセトアミジルペンチル)アクリルアミドであり、リンカーは末端アルキン基及び末端臭素を含み、カチオン性部分は、末端臭素を置換するホスホニウムカチオンである。
【0007】
第1の態様の例では、基材は、介在領域によって分離された複数の凹部を含み、カチオン性ポリマーヒドロゲルは、凹部の各々の内部に配置されている。一例では、基材は複数のチャンバを更に含み、複数の凹部のサブセットは、複数のチャンバの各々の周囲内に位置している。
【0008】
本明細書で開示されるフローセルの任意の特徴を、任意の望ましい様式及び/又は構成で一緒に組み合わせて、例えば、ライブラリー断片を引き付けかつ空間的に閉じ込めるための正の電荷を含む本開示に記載される利点を達成し得る、ことを理解すべきである。
【0009】
本明細書で開示される第2の態様は、正帯電性部分を含む流体を、負帯電性原子、アジド基、及びアルキン基からなる群から選択される表面部分を有する初期ポリマーヒドロゲルと、その初期ポリマーヒドロゲルに付着した増幅プライマーと、を含む、フローセルに、導入することと、その初期ポリマーヒドロゲルを、ある温度で、ある時間にわたって、流体中でインキュベートし、それによってカチオン性部分を含むカチオン性ポリマーヒドロゲルを形成することと、を含む。
【0010】
第2の態様の一例では、正帯電性部分は、初期ポリマーヒドロゲルの負帯電性原子を置換する。一例では、表面部分は負帯電性原子であり、負帯電性原子は臭素であり、正帯電性部分は、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンからなる群から選択される。一例では、流体は、6~12の範囲のpHを有する緩衝液を更に含む。一例では、温度は約18℃~約65℃の範囲であり、時間は約1.5分~約5分の範囲である。
【0011】
第2の態様の別の例では、表面部分はアジド基又はアルキン基であり、正帯電性部分は、リンカーを介して表面部分に共有結合的に付着する。一例では、表面部分はアジド基であり、リンカーはアルキン基であり、カチオン性部分は、プロトン化アミン基、スルホニウムイオン、第四級アンモニウムカチオン、又はそれらの組み合わせを含む。一例では、表面部分はアルキン基であり、リンカーはアジド基であり、カチオン性部分は、プロトン化アミン基、スルホニウムイオン、第四級アンモニウムカチオン、又はそれらの組み合わせを含む。一例では、化合物はリンカーに付着した正帯電性部分を含み、その化合物は臭化プロパルギルコリンである。一例では、流体は水を含む。一例では、温度は約18℃~約60℃の範囲であり、時間は約30分~約12時間の範囲である。一例では、方法は、流体を含むフローセルに、触媒、リガンド、及び還元剤を添加することを更に含む。
【0012】
この方法の任意の特徴は、任意の望ましい様式で一緒に組み合わせ得ることを理解すべきである。更に、この方法の特徴及び/若しくはフローセルの特徴の任意の組み合わせを、一緒に使用して、かつ/又は本明細書で開示される例のいずれかと組み合わせて、例えば、ライブラリー断片を引き付けかつ空間的に閉じ込めるための正の電荷を含む本開示で記載される利点を達成し得ることを理解すべきである。
【0013】
本明細書で開示される第3の態様は、基材と、基材上に配置された初期ポリマーヒドロゲルであって、負帯電性原子、アジド基、及びアルキン基からなる群から選択される表面部分を有する、初期ポリマーヒドロゲルと、その初期ポリマーヒドロゲルに付着した増幅プライマーと、表面部分と相互作用又は反応して、カチオン性部分を含むカチオン性ポリマーヒドロゲルを形成する正帯電性部分を含む、流体と、を含む、フローセル、を備えるキットである。
【0014】
そのキットの任意の特徴を任意の望ましい様式で組み合わせ得ることを理解すべきである。更に、キット及び/若しくは方法のいずれかの特徴、及び/又はフローセルの特徴の組み合わせを、一緒に使用して、かつ/又は本明細書で開示される例のいずれかと組み合わせて、例えば、ライブラリー断片を引き付けかつ空間的に閉じ込めるための正の電荷を含む本開示に記載される利点を達成し得ることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本開示の例の特徴は、以下の詳細な説明及び図面を参照することにより明らかになろう。図面において、同様の参照番号は、類似なものではあるが、おそらく同一ではない成分に対応している。簡潔にするために、前述の機能を有する参照番号又は特徴は、それらが現れる他の図面と関連させて記載してもよく、記載しなくてもよい。
【0016】
図1】本明細書で開示される方法の一例を示すフロー図である。
【0017】
図2A図1の方法を一緒に例示する半概略斜視図であり、初期ポリマーヒドロゲルを含むフローセルの一部を示す。
図2B図1の方法を一緒に例示する半概略斜視図であり、正に帯電した(カチオン性)ポリマーヒドロゲルの高分子ヒドロゲルを含むフローセルの一部を示す。
【0018】
図3】カチオン性ポリマーヒドロゲルの一例の形成を例示している化学式である。
【0019】
図4】カチオン性ポリマーヒドロゲルの別の例の形成を例示している化学式である。
【0020】
図5A】カチオン性ポリマーヒドロゲルの更に別の例の形成を例示している化学式を一緒に表す。
図5B】カチオン性ポリマーヒドロゲルの更に別の例の形成を例示している化学式を一緒に表す。
【0021】
図6】本明細書で開示されるフローセルの別の例の一部に関する半概略斜視図である。
【0022】
図7】本明細書で開示されるフローセルの更に別の例の一部に関する半概略斜視図である。
【0023】
図8A】本明細書で開示される複合体の異なる例の概略図である。
図8B】本明細書で開示される複合体の異なる例の概略図である。
図8C】本明細書で開示される複合体の異なる例の概略図である。
【0024】
図9A】ガラス基材の単一レーン中に未処理のヒドロゲルを含む比較フローセル上の放出DNAライブラリー断片に関する倒立顕微鏡写真画像(画像の元の暗い部分が白に反転され、画像の元の明るい部分が黒に反転されている)である。
【0025】
図9B図9Aの比較フローセルの放出DNAライブラリー断片と未処理のヒドロゲルとの相互作用の概略図である。
【0026】
図10A】ガラス基材の単一レーン中にトリス(ヒドロキシプロピル)-ホスフィンで処理されたヒドロゲルを含む例示的なフローセル上における放出DNAライブラリー断片の倒立顕微鏡写真画像(画像の元の暗い部分が白に反転され、画像の元の明るい部分が黒に反転されている)である。
【0027】
図10B図10Aの例示的なフローセルの放出DNAライブラリー断片と処理ヒドロゲルとの相互作用の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書で開示されるフローセルの例は、ポリマーヒドロゲルの表面に正電荷及び増幅プライマーを含む。ポリマーヒドロゲル表面の正電荷は、その後フローセルに導入される担体から放出されるライブラリー断片を引き付け、空間的に閉じ込めるのに役立つ。
【0029】
ライブラリー断片は、より大きな核酸サンプルの一本鎖で同様のサイズ(例えば、<1000bp)のデオキシリボ核酸(DNA)片、又はより大きな核酸サンプルのリボ核酸(ribonucleic acid、RNA)片から生じた相補的デオキシリボ核酸(complementary deoxyribonucleic acid、cDNA)片であり、その断片は、それぞれの末端に付着したアダプターを有する。正に帯電したヒドロゲル表面は、個々の担体から放出される負に帯電したライブラリー断片を引き付ける。これにより、フローセル表面全体にわたるライブラリー断片のランダムな結合が減少し、ライブラリー断片がフローセルの側壁において播種するのを低減又は防止する。したがって、ライブラリー播種効率が向上する。
【0030】
播種効率の向上は、多くの利点及び利益を有し得る。例えば、播種効率が向上すると、ライブラリーの入力要件を少なくすることができる。別の例では、播種効率の向上により、少なくとも実質的に均質化されたクラスター密度を得ることができる。配列決定中に、ヌクレオチドがクラスターのそれぞれの鋳型鎖に組み込まれると、個々のクラスターは、蛍光シグナルの「空間クラウド(spatial cloud)」を生成する。クラスターの閉じ込めは、少なくとも空間クラウドのクロストーク及び/又はオーバーラップを減らすことができ、空間クラウドの識別を改善することもできる。なお更に、任意の個々のクラスターから得られたリードは同じサンプルから生成される可能性があるため、それらのリードを使用して、短いリードを一緒にバイオインフォマティクス的につなぎ合わせることによって、サンプルを再構築することができる。
【0031】
本明細書で開示される方法の例は、表面の配列決定適合性を維持しながら、初期ポリマーヒドロゲルの表面に正電荷を導入する。
【0032】
定義
【0033】
本明細書で使用される用語は、別段の指定がない限り、関連技術の通常の意味をとるものと理解されるであろう。本明細書で使用されるいくつかの用語及びそれらの意味は、以下に記載される。
【0034】
本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明確に別段の指示がない限り、単数形並びに複数形の両方を指す。本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、「包含する」、「含有する」又は「特徴とする」と同義であり、包括的又は非限定的であり、更なる列挙されていない要素又は方法工程を除外しない。
【0035】
「一例」、「別の例」、「例」などへの本明細書全体を通じての言及は、例に関連して記載されている特定の要素(例えば、特徴、構造、組成、構成、及び/又は特性)が、本明細書に記載されている少なくとも1つの例に含まれており、他の例に存在していても、存在していなくともよいことを意味している。更に、文脈上明確に別段の指示がない限り、任意の例に関する記載の要素は、様々な例において任意の好適な様式で組み合わせ得ることを理解すべきである。
【0036】
特許請求の範囲を含む本開示全体で使用される「実質的に」及び「約」という用語は、処理における変動などに起因するような小さな変動を記載及び説明するために使用される。例えば、これらの用語は、表示値から±5%以下を指すことができ、例えば、表示値から±2%以下、記載値から±1%以下、表示値から±0.5%以下、表示値から±0.2%以下、表示値から±0.1%以下、表示値から±0.05%以下を指すことができる。
【0037】
アダプター:例えば、ライゲーション又はタグメンテーションによって核酸分子に融合され得る直鎖状オリゴヌクレオチド配列。いくつかの例では、アダプターは、フローセルに導入された任意の標的配列の3’末端又は5’末端に対して少なくとも実質的に非相補的である。好適なアダプターの長さは、約10ヌクレオチド~約100ヌクレオチド、又は約12ヌクレオチド~約60ヌクレオチド、又は約15ヌクレオチド~約50ヌクレオチドの範囲であり得る。アダプターは、ヌクレオチド及び/又は核酸の任意の組み合わせを含み得る。いくつかの例では、アダプターは、1つ以上の位置に1つ以上の切断可能な基を含む。いくつかの例では、アダプターは、プライマー、例えば、ユニバーサルヌクレオチド配列(例えば、P5又はP7配列)を含むプライマーの少なくとも一部に相補的な配列を含むことができる。いくつかの例では、アダプターは、下流のエラー訂正、識別、又は配列決定を支援するインデックス又はバーコード配列を含むことができる。インデックスは、核酸分子(例えば、フラグメント)のサンプル又はソースに固有であり得る。いくつかの例では、アダプターは、配列決定プライマー配列又は配列決定結合部位を含むことができる。異なるアダプターの組み合わせを、DNA断片などの核酸分子に組み込むことができる。
【0038】
捕捉部位:物理的修飾、及び/又は複合体又はサンプルのいずれかの局在化を可能にする化学的特性で修飾されたフローセル表面の一部。一例では、捕捉部位は化学的捕捉剤を含むことができる。
【0039】
担体:その中に含有された配列決定ライブラリーを有することができるヒドロゲル支持体、又はその表面に付着した配列決定可能な核酸断片を有することができる固体支持体。
【0040】
化学的捕捉剤:標的分子(例えば、複合体又はサンプル)に付着、保持、又は結合することができる材料、分子、又は部分。化学的捕捉剤の一例としては、標的核酸の少なくとも一部に相補的であるか、又は標的分子に付着される捕捉核酸(例えば、捕捉オリゴヌクレオチド)が挙げられる。化学的捕捉剤の別の例は、連結分子である。天然のDNA又はRNAサンプルの場合、連結分子は、電荷又は疎水性相互作用を介して結合するインターカレーターなどの核酸結合部分を一端に含み得る。細胞サンプルの場合、連結分子は、細胞膜結合部分(例えば、表面タンパク質に対する抗原)又は膜貫通部分(例えば、一端にリン脂質)を含み得る。更に別の化学的捕捉剤の例としては、標的分子に(又は標的分子に結合した連結部分に)結合することができる受容体-リガンド結合ペアのメンバー(例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、レクチン、炭水化物、核酸結合タンパク質、エピトープ、抗体など)が挙げられる。化学的捕捉剤の更に別の例としては、標的分子と静電相互作用、水素結合、又は共有結合(例えば、チオール-ジスルフィド交換、クリックケミストリー、ディールス-アルダーなど)を形成することができる化学試薬が挙げられる。
【0041】
複合体:ヒドロゲル支持体又は固体支持体などの担体、及び担体に付着した、又は担体内に含有される配列決定可能な核酸断片。担体はまた、他のメンバーが捕捉部位の一部である結合ペアの一方のメンバーを含むこともできる。
【0042】
外部固定剤:フローセルレーン(複数を含む)又はチャンバに導入された複合体又はサンプルと混和しない気体、液体、又は粘性の媒体。気体外部固定剤を使用して、複合体又はサンプルの周りに液滴を作り出すことができる。気体外部固定剤の一例は、好適な流量でフローセルを通し誘導される空気である。例えば、空気を使用して、フローセルからの複合体又はサンプルを含有する流体を吸引することができ、その複合体又はサンプルは液滴を形成する。形成された液滴は、拡散バリアとして機能する。液体又は粘性の媒体は、フローセル表面のチャンバ内で、複合体から放出されるか、又は形成される配列決定ライブラリーの拡散を防止するために使用される。配列決定ライブラリー又は任意の他のポリヌクレオチドが外部固定剤中にほとんど又は全く溶媒和しないため、外部固定剤は拡散バリアを形成することができる。液体形態の外部固定剤の例としては、鉱油、シリコーン油、過フッ素化油、フッ素化炭素油(例えば、3MのFLUORINERT(商標)Electronic Liquid FC40)、又はそれらの組み合わせなどの疎水性油が挙げられる。粘性媒体形態の外部固定剤の例としては、ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなど)、デキストラン、スクロース、グリセロールなどを含有する緩衝液が挙げられる。いくつかの例では、粘性媒体は温度応答性ゲルである。温度応答性ゲルは、非播種温度では非粘性であり、播種温度では粘性媒体に変わる。温度応答性ゲルの例としては、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)及びポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシド(PEO-PPO-PEO)/ラポナイトナノ粒子複合材料が挙げられる。
【0043】
断片:遺伝物質の一部又は断片(例えば、DNA、RNAなど)。
【0044】
ヒドロゲル又はヒドロゲルマトリックス:液体及び気体に対して透過性である半硬質ポリマー材料。ヒドロゲルを形成するポリマー材料は、線状であってもよく、又は共有結合、イオン結合、若しくは水素結合を介して軽く架橋されていてもよい。一例では、ヒドロゲルは、約60%~約90%の水などの流体と、約10%~約30%のポリマーとを含む。ヒドロゲルは、多孔性、すなわち、オープンスペース/ボイドスペースを含むものであり得る。多孔度は、ヒドロゲルの体積分率(無次元)であり、すなわち、材料中のボイドスペースを測定し、0~100%のパーセンテージ(又は0~1の割合)として、全体積に対するボイド体積の割合である。一例では、ヒドロゲルの多孔度は、約50%(0.5)~約99%(0.99)の範囲であり得る。その多孔度は、試薬(例えば、酵素、化学薬品、及びより小さいサイズのオリゴヌクレオチド(50塩基対未満、例えば、プライマー)の拡散を可能にするのに十分であり得るが、より大きいサイズの核酸分子(例えば、サンプル、断片など)の拡散は妨げる。
【0045】
本明細書で使用される「カチオン性ポリマーヒドロゲル」という用語は、i)モノマー単位のうちの1つに組み込まれた、又はii)リンカーを介してモノマー単位のうちの1つに付着したカチオン性部分を有する初期重合ヒドロゲルを指している。本明細書で使用される「初期ポリマーヒドロゲル」という用語は、カチオン性部分を導入するための任意の反応/相互作用の前の重合ヒドロゲルを指している。カチオン性ポリマーヒドロゲルは、本明細書では、正に帯電したヒドロゲルとも称し得る。
【0046】
ヒドロゲル支持体:少なくとも実質的に球形の形状を有するヒドロゲル(例えば、ヒドロゲルビーズ)で、その中に配列決定ライブラリーを含有することができる。
【0047】
核酸分子:任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態であり、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、それらの類似体、又はそれらの混合物を含み得る。その用語は、一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドを指す場合がある。
【0048】
「標的」又は「鋳型」核酸分子とは、分析対象となる配列を指すことができる。
【0049】
核酸分子中のヌクレオチドには、天然に存在する核酸及びそれらの機能性類似体が含まれ得る。機能性類似体の例は、配列特異的な形式で核酸にハイブリダイズすることができるか、又は特定のヌクレオチド配列の複製のための鋳型として使用され得る。天然に存在するヌクレオチドは、一般には、ホスホジエステル結合を含有する骨格を有する。類似体構造は、当技術分野で知られている様々なもののいずれかを含む代替骨格結合を有することができる。天然に存在するヌクレオチドは、一般に、デオキシリボース糖(例えば、DNAに見出される)又はリボース糖(例えば、RNAに見出される)を有する。類似体構造は、当技術分野で知られている様々なもののいずれかを含む代替糖部分を有することができる。ヌクレオチドは、天然又は非天然の塩基を含むことができる。天然のDNAは、アデニン、チミン、シトシン、及び/又はグアニンの1つ以上を含むことができ、天然のRNAは、アデニン、ウラシル、シトシン、及び/又はグアニンの1つ以上を含むことができる。ロックド核酸(locked nucleic acid、LNA)及び架橋された核酸(bridged nucleic acid、BNA)などの任意の非天然塩基が使用され得る。
【0050】
正帯電性部分:正帯電性部分は、正の電荷を運ぶ、又は運ぶことができる任意の官能基であり得る。一例では、正電荷は、置換反応により帯電性部分に導入され得る。他の例では、正帯電性部分は、特定のpH(例えば、生理学的pH)で正の電荷を運ぶ。
【0051】
プライマー:目的の標的配列にハイブリダイズすることができる核酸分子。一例では、プライマーは、基材として機能し、その上に、ヌクレオチドは、ポリメラーゼによって重合され得る。例えば、増幅又は捕捉プライマーは、鋳型増幅及びクラスター生成のための開始点として機能することができる。別の例では、合成された核酸鎖は、合成された核酸鎖に相補的である新しい鎖の合成を開始するためにプライマー(例えば、配列決定プライマー)がハイブリダイズできる部位を含み得る。任意のプライマーは、ヌクレオチド又はそれらの類似体の任意の組み合わせを含むことができる。いくつかの例では、プライマーは、一本鎖のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドである。プライマーの長さは、任意の数の塩基の長さであることができ、様々な非天然ヌクレオチドを含むことができる。一例では、配列決定プライマーは、10~60塩基、又は20~40塩基の範囲の短鎖である。
【0052】
サンプル:細胞、マイクロバイオーム、核酸などの遺伝物質の任意のソース。いくつかの例では、細胞は、原核細胞又は真核細胞を含む単細胞である。いくつかの例では、細胞は、哺乳動物細胞、ヒト細胞、又は細菌細胞である。いくつかの例では、核酸は、ウイルス核酸、細菌核酸、又は哺乳動物核酸を含む長いDNA分子である。いくつかの例では、サンプルは、固体支持体(例えば、ビーズ)の表面に結合したトランスポゾンの挿入を介して(断片として)結合される。
【0053】
配列決定可能な核酸断片:3’及び5’末端にアダプターを有する遺伝物質の一部(断片)。配列決定可能な核酸断片において、各アダプターは、既知のユニバーサル配列(例えば、フローセル上のプライマーの少なくとも一部に相補的である)及び配列決定プライマー配列を含む。両方のアダプターは、インデックス(バーコード又はタグ)配列を含むこともできる。一例では、一方の側(例えば、P5側)は、ビーズ(又は他の固体支持体)インデックスを含有することができ、他方の側(例えば、P7側)は、サンプルインデックスを含有することができる。配列決定可能な核酸断片は、トランスポゾンの挿入を介して固体支持体(例えば、ビーズ)の表面に結合され得るか、又は結合ペア若しくは他の切断可能なリンカーを介して直接固定され得る。配列決定可能な核酸断片はまた、ヒドロゲル支持体内に含有され得る。
【0054】
播種:本明細書で開示されるフローセルの一例のヒドロゲル上での適合断片(例えば、配列決定可能な核酸断片)の固定化。
【0055】
配列決定ライブラリー:1つ以下の標的核酸分子の核酸断片のコレクション、又はその断片のアンプリコンのコレクション。いくつかの例では、断片は、それらの3’及び5’末端で1つ以上のアダプターに連結される。いくつかの例では、配列決定ライブラリーは、1つ以上の標的核酸分子から調製され、複合体の一部である。
【0056】
固体支持体:例えば、球、卵形、微小球、又は規則的若しくは不規則な寸法を有するかどうかにかかわらず他の認識された粒子形状として特徴付けられる形状を有する、硬質又は半硬質の材料で作製された小体。固体支持体は、それに対して付着した配列決定ライブラリーを有することができる。固体支持体に有用な材料の例としては、ガラス;プラスチック、例えば、アクリル、ポリスチレン、又はスチレンと別の材料とのコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン又はポリテトラフルオロエチレン(The Chemours Co.からのTEFLON(登録商標));多糖類又は架橋多糖類、例えば、アガロース又はセファロース;ナイロン;ニトロセルロース;樹脂;ケイ素及び変性ケイ素を含むシリカ又はシリカ系材料;炭素繊維、金属;無機ガラス;光ファイバーバンドル、又は様々な他のポリマーが挙げられるが、それらに限定されない。固体支持体の例としては、制御された細孔ガラスビーズ、常磁性ビーズ、トリアソール(thoria sol)、Sepharoseビーズ、ナノ結晶及び例えば、Bangs Laboratories(Fishers Ind)からのMicrosphere Detection Guideに記載されている当技術分野において既知の他のものが挙げられる。
【0057】
タグメンテーション:核酸分子を断片化し、そのフラグメントの5’及び3’末端にアダプターを単一ステップでライゲートするためのトランスポソームによる核酸分子(例えば、DNA又はRNAサンプル)の修飾。タグメンテーション反応を使用して、配列決定ライブラリー、特に、固体支持体を含む複合体を調製することができる。タグメンテーション反応では、ランダムサンプル断片化とアダプターライゲーションとを組み合わせて単一ステップとし、それにより、配列決定ライブラリー調製プロセスの効率を上げる。
【0058】
トランスポソーム:組み込み酵素(例えば、インテグラーゼ又はトランスポザーゼ)及び組み込み認識部位(例えば、トランスポザーゼ認識部位)を含む核酸。
【0059】
ユニバーサルヌクレオチド配列:互いに異なる領域も有する2つ以上の核酸分子に共通の配列の領域。分子のコレクションの異なるメンバーに存在するユニバーサル配列は、ユニバーサル捕捉核酸の集団(すなわち、プライマーの少なくとも一部に相補的である配列を有するアダプター)を使用して、いくつかの異なる核酸の捕捉を可能にする。同様に、分子のコレクションの異なるメンバーに存在するユニバーサル配列は、ユニバーサル配列決定結合部位(配列決定プライマー配列)の集団を使用して、いくつかの異なる核酸の増幅又は複製を可能にする。
【0060】
正に帯電したフローセル表面を作製するための方法
【0061】
フローセルの一例を形成するための方法100の例を図1に示す。示してあるように、方法100の一例は、正帯電性部分を含む流体を、負帯電性原子、アジド基、及びアルキン基からなる群から選択される表面部分を有する初期ポリマーヒドロゲルと、その初期ポリマーヒドロゲルに付着した増幅プライマーと、を含む、フローセルに、導入することと(参照番号102)、その初期ポリマーヒドロゲルを、ある温度で、ある時間にわたって、流体中でインキュベートし、それによってカチオン性部分を含むカチオン性ポリマーヒドロゲルを形成することと(参照番号104)、を含む。
【0062】
方法100はまた、図2A及び図2Bに概略的に示してある。
【0063】
図2Aに示すように、方法100の開始時に、フローセル10図2Bに示したフローセル10に対する前駆体である)は、基材12、基材12上の初期ポリマーヒドロゲル14’、及び初期ポリマーヒドロゲル14’に付着した増幅プライマー18を含む。
【0064】
基材12は、一般に硬質であり、水性液体に不溶性である。好適な基材12の例としては、エポキシシロキサン、多面体オリゴマーシルセスキオキサン(polyhedral oligomeric silsequioxanes、POSS)又はその誘導体、ガラス、変性ガラス、プラスチック、ナイロン、セラミック/セラミック酸化物、シリカ(酸化ケイ素(SiO))、溶融シリカ、シリカ系材料、ケイ酸アルミニウム、ケイ素、変性ケイ素(例えば、ホウ素ドープトp+ケイ素)、窒化ケイ素(Si)、五酸化タンタル(TaO)、又は他の酸化タンタル(複数可)(TaO)、ハフニウム酸化物(HfO)、無機ガラスなどが挙げられる。POSSの例は、Kehagias et al.,Microelectronic Engineering 86(2009),pp.776-778に記載されているものであることができ、参照により本明細書に完全に組み込まれる。基材12に好適なプラスチックのいくつかの例としては、アクリル、ポリスチレン、スチレンと他の材料とのコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、The Chemours Co.からのTEFLON(登録商標))、環状オレフィン/シクロオレフィンポリマー(cyclo-olefin polymers、COP)(例えば、ZeonからのZEONOR(登録商標))、ポリイミドなどが挙げられる。基材12はまた、酸化タンタル又は別のセラミック酸化物のコーティング層を表面に有するガラス又はケイ素又はPOSSであってもよい。好適な基材12の別の例は、ケイ素-オン-インシュレータ基材である。
【0065】
基材12の形態は、ウェハ、パネル、矩形シート、ダイ、又は任意の他の好適な構成であり得る。一例では、基材12は、約2mm~約300mmの範囲の直径を有する円形ウェハ又はパネルであり得る。より具体的な例として、基材12は、約200mm~約300mmの範囲の直径を有するウェハである。別の例では、基材12は、最大約10フィート(約3メートル)の最大寸法を有する矩形シート又はパネルであり得る。具体的な例として、基材12は、約0.1mm~約10mmの範囲の幅を有するダイである。例示的な寸法を示しているが、任意の好適な寸法を有する基材12を使用してもよいことを理解すべきである。
【0066】
図2Aに示した基材12は、その中に画定されたレーン20を有する。レーン20は、基材12の材料(複数可)に部分的に左右される任意の好適な技術を使用して、基材12において画定され得る。一例では、レーン20はガラス基材12中にエッチングされる。別の例では、レーン20は、フォトリソグラフィ、ナノインプリントリソグラフィなどを使用して、樹脂基材12にパターン形成することができる。更に別の例では、分離材料(図示せず)がレーン20の壁を画定し、かつ基材12がレーン20の底部を画定するように、分離材料を基材12に適用することができる。
【0067】
一例では、レーン20は直線の構成を有する。レーン20の長さ及び幅は、それぞれ、基材12の長さ及び幅よりも小さくてもよく、その結果、レーン20を取り囲む基材表面22の部分は、蓋(図示せず)に結合するために利用可能である。場合によっては、各レーン20の幅は、少なくとも約1mm、少なくとも約2.5mm、少なくとも約5mm、少なくとも約7mmμm、少なくとも約10mm、又はそれを超えることができる。場合によっては、各レーン20の長さは、少なくとも約少なくとも約10mm、少なくとも約25mm、少なくとも約50mm、少なくとも約100mm、又はそれを超えることができる。各レーン20の幅及び/又は長さは、上で指定した値よりも大きい値、それらの値よりも小さい値、又はそれらの値の間の値であり得る。一例では、レーン20は正方形(例えば、10mm×10mm)である。
【0068】
各レーン20の深さは、マイクロコンタクト、エアゾール、又はインクジェット印刷が、レーン壁を画定する分離材料を堆積させるために使用されるとき、単層の厚さであることができる。他の例では、各レーン20の深さは、約1μm、約10μm、約50μm、又はそれを超えることができる。一例では、深さは、約10μm~約30μmの範囲であってもよい。放出されたライブラリー断片を引き付ける正に帯電したポリマーヒドロゲルに加えて、この深さは、例えば、複数のレーン20が使用されるときに、隣接するレーン20間における、放出されたライブラリー断片の横方向の拡散を阻止するのに役立つことができる。別の例では、深さは約5μm以下である。各レーン20の深さは、上で指定した値よりも大きいか、それよりも小さいか、又はそれらの値の間であることを理解するべきである。
【0069】
単一のレーン20が図2Aに示されているが、基材12は、互いに流体工学的に分離されている複数のレーン(例えば、2、3、4、8など)を含んでいてもよいことを理解すべきである。
【0070】
図2Aに示した例では、レーン20は、その中に初期ポリマーヒドロゲル14’を有する。カチオン性部分16の組み込み前又は付着前は(図2B)、ヒドロゲルは、初期ポリマーヒドロゲル14’と称することができる(図2Aを参照)。カチオン性部分16の組み込み後又は付着後は、ヒドロゲルは、カチオン性ポリマーヒドロゲル14と称することができる(図2Bを参照)。
【0071】
初期ポリマーヒドロゲル14’は、少なくとも2つの異なるモノマー単位のコポリマーであり得る。初期ポリマーヒドロゲル14’は、(M1)(M2)によって表すことができ、式中、M1は第1のモノマー単位であり、M2は第2のモノマー単位であり、nは1~50,000の範囲の整数であり、mは1~100,000の範囲の整数である。カチオン性ポリマーヒドロゲル14において、M1は、M1’(図3を参照して記載)又はM1’’(図4を参照して記載)で置換され得るが、M2、n、及びmは、初期ポリマーヒドロゲル14’について記載したものと同じである。ここで、モノマー単位M1、M2の各々の例を、より詳細に説明する。
【0072】
モノマー単位M1の1つは、負帯電性原子、アジド基、及びアルキン基からなる群から選択される表面部分を含む。負帯電性原子は、容易に置換される任意の基であることができ、例えば、比較的弱い求核試薬であることができる。負帯電性原子のいくつかの具体例としては、臭素、ヨウ素などのハロゲンが挙げられる。
【0073】
モノマー単位M1のこれらの表面部分の各々は、増幅プライマー18によって置換され得るか、又は増幅プライマー18に共有結合的に付着することができる。例えば、臭素は、プライマー18の5’末端上のホスホ-チオエート基によって置換され得る。別の例では、アジド基は、プライマー18の5’末端のアルキン基に共有結合的に連結することができる。更に別の例では、アルキン基は、プライマー18の5’末端のアジド基に共有結合することができる。
【0074】
モノマー単位M1のこれらの表面部分の各々はまた、初期ポリマーヒドロゲル14’へのカチオン性部分16の付着を可能にして、カチオン性ポリマーヒドロゲル14を生成させることもできる。
【0075】
いくつかの例では、モノマー単位M1の表面部分は、カチオン性部分16によって置換され、したがって、カチオン性部分16は、モノマー単位M1に組み込まれる。換言すれば、カチオン性部分16は、表面部分が付着していたのと同じ位置でモノマー単位M1に付着する。例えば、表面部分は、カチオン性部分16より弱いレドックス種であり、表面部分がカチオン性部分16と交換される置換反応が起こり得る。置換可能な表面部分の例は、臭素などの負帯電性原子である。
【0076】
他の例では、表面部分がリンカーと反応して、カチオン性部分16をモノマー単位M1に付着させる。例えば、アジド基は、リンカーの末端アルキン基に共有結合的に連結することができる。更に別の例として、アルキン基はリンカーの末端アド基に共有結合することができる。
【0077】
モノマー単位M1の表面部分の多官能価のために、モノマー単位M1の表面部分のいくつかは、増幅プライマー18に付着し、表面部分のいくつかは、カチオン性部分16によって置換され、又はチオン性部分16に対して付着することを理解すべきである。場合によっては、付着される増幅プライマー18の量は、付着されるカチオン性部分16の量の約10倍~約50倍の範囲である。
【0078】
本明細書で開示される表面部分を含み、かつ他のモノマー単位(複数可)M2と共重合することができる任意のモノマー単位M1を使用して、初期ポリマーヒドロゲル14’を形成することができる。一例では、モノマー単位M1(表面部分を含む)はまた、アクリルアミド単位:
【化1】
も含む。アクリルアミド単位のバリエーションもまた使用してもよく、例えば、アルケン中の炭素を、任意選択で置換することができ、又はNを任意選択で置換することができる。他のアクリルアミド単位の例としては、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、エチルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0079】
アクリルアミド単位及び負帯電性原子として臭素の両方を含むモノマー単位M1の1つの具体例は、以下のN-(5-ブロモアセトアミジルペンチル)アクリルアミド(N-(5-bromoacetamidylpentyl)acrylamide、brapa)である。
【化2】
N-(5-ブロモアセトアミジルペンチル)アクリルアミドのバリエーションもまた使用してもよく、例えば、アルキル鎖-(CH)-が1~50の範囲であってもよく、及び/又は-(CH)-の各々を任意選択で置換することができる。
【0080】
アクリルアミド単位及びアジド基の両方を含むモノマー単位M1の一具体例は、以下のN-(5-アジドアセトアミジルペンチル)アクリルアミドである。
【化3】
N-(5-アジドアセトアミジルペンチル)アクリルアミドのバリエーションもまた使用してもよく、例えば、アルキル鎖-(CH)-が1~50の範囲であってもよく、及び/又は-(CH)-の各々を任意選択で置換することができる。アクリルアミド単位及びアジド基の両方を含むモノマー単位M1の別の例は、以下によって表され、
【化4】
式中、Rは、H又はC1~C4アルキルであり、Rは、H又はC1~C4アルキルであり、Lは、炭素、酸素、及び窒素からなる群から選択される2~20個の原子を有する線状鎖と、その線状鎖中の炭素原子及び任意の窒素原子上に任意の置換基と、を含む連結基であり、Eは、炭素、酸素、及び窒素からなる群から選択される1~4個の原子を含む線状鎖であり、その線状鎖中の炭素原子及び任意の窒素原子上に任意選択の置換基を含み、Aは、Nに付着したH又はC1~C4アルキルを有するN置換アミドであり、Zは窒素含有複素環である。Zの例は、単環構造又は縮合構造として存在する5~10の環メンバーを含む。アクリルアミド単位及びアジド基の両方を含むモノマー単位M1の更に別の例は、以下によって表され、
【化5】
式中、R3aは、水素、任意選択で置換されたアルキル、任意選択で置換されたフェニル、又は任意選択で置換されたC7~C14アラルキルから選択され、R3bは、水素、任意選択で置換されたアルキル又は任意選択で置換されたフェニルから選択され、Lは、任意選択で置換されたアルキレン連結基又は任意選択で置換されたヘテロアルキレン連結基から選択される。
【0081】
アクリルアミド単位及びアルキン基の両方を含むモノマー単位M1の1つの具体例は、以下のN-プロパルギルアクリルアミドである。
【化6】
【0082】
他のモノマー単位M1が本明細書で開示される表面部分のうちの1つで官能化される限り、初期ポリマーヒドロゲル14’を形成するために、他のモノマー単位M1が使用され得ることを理解すべきである。
【0083】
初期ポリマーヒドロゲル14’を形成するために、モノマー単位M1のいずれかを、第2のモノマー単位M2と共重合させることができる。第2のモノマー単位M2の例としては、アクリルアミド単位、N,N-ジメチルアクリルアミド単位:
【化7】
が挙げられ、式中、R4aは、水素、任意選択で置換されたアルキル、任意選択で置換されたフェニル、又は任意選択で置換されたC7~C14アラルキルから選択され、R4bは、水素、任意選択で置換されたアルキル又は任意選択で置換されたフェニルから選択され、Lは、任意選択で置換されたアルキレン連結基又は任意選択で置換されたヘテロアルキレン連結基から選択される。第2のモノマー単位M2は、第1のモノマー単位M1の表面部分(例えば、負帯電性原子、アジド基、又はアルキン基)を含まない。
【0084】
更に他の例では、モノマー単位M1は、アクリルアミド単位(例えば、モノマー単位M2)及びN,N-ジメチルアクリルアミド(例えば、モノマー単位M3)の両方と共重合して、初期ポリマーヒドロゲル14’を形成することができる。これらの実施例では、初期ポリマーヒドロゲル14’は、(M1)(M2)(M3)によって表すことができ、式中、nは1~50,000の整数であり、mは1~100,000の範囲の整数であり、qは1~100,000の範囲の整数である。対応するカチオン性ポリマーヒドロゲル14において、M1は、M1’(図3を参照して記載)又はM1’’(図4を参照して記載)で置換され得るが、M2、M3、n、m、及びqは、初期ポリマーヒドロゲル14’について記載したものと同じである。
【0085】
いくつかの実施例では、初期ポリマーヒドロゲル14’((M1)(M2)又は(M1)(M2)(M3)のいずれか)(及び対応するカチオン性ポリマーヒドロゲル14)は、直鎖状コポリマー又は軽度に架橋されたコポリマーであり得る。初期ポリマーヒドロゲル14’の分子量は、約10kDa~約1500kDaの範囲であることができ、又は特定の実施例では、約312kDa若しくは約500kDaであることができる。カチオン性ポリマーヒドロゲル14の分子量は、その中に組み込まれるカチオン性部分16、又はそれに付着されるカチオン性部分16及びリンカーに応じて、対応する初期ポリマーヒドロゲル14’よりも大きくてもよい。
【0086】
当業者であれば、繰り返し「n」及び「m」又は「n」、「m」、及び「q」の配列が代表的であり、モノマーサブユニットは、初期ポリマーヒドロゲル14’/カチオン性ポリマーヒドロゲル14構造中に任意の順序(例えば、ランダム、ブロック、パターン化、又はそれらの組み合わせ)で存在し得ることを認識するであろう。
【0087】
初期ポリマーヒドロゲル14’をレーン20に導入するために、コポリマー((M1)(M2)又は(M1)(M2)(M3)のいずれか)の混合物を、生成させ、次いで基材12に適用することができる。一例では、コポリマーは、混合物状態で(例えば、水又はエタノールと水と一緒に)存在し得る。次いで、コポリマー混合物は、スピンコーティング、又は浸漬若しくはディップコーティング、又は陽圧若しくは陰圧下での材料の流れ、又は別の好適な技術を使用して、基材表面(複数可)22に適用することができる。
【0088】
いくつかの実施例では、基材表面22(レーン20に露出される部分を含む)を活性化してもよく、次いで、コポリマー混合物をそれに適用してもよい。一例では、シラン又はシラン誘導体(例えば、ノルボルネンシラン)を、蒸着、スピンコーティング、又は他の堆積方法を使用して、基材表面22上に堆積させることができる。別の例では、基材表面22をプラズマ灰化に曝露して、コポリマーに付着することができる表面活性化剤(複数可)(例えば、-OH基)を生成させることができる。更に他の例では、プラズマ灰化、続いてシラン化を用いて、基材表面22を活性化することができる。
【0089】
コポリマーに応じて、適用した混合物を、硬化プロセスにさらして、表面22全体に初期(共有結合した)ポリマーヒドロゲル14’を形成することができる。一例では、硬化は、室温(例えば、約25℃)~約95℃の範囲の温度で、約1ミリ秒~約数日の範囲の時間にわたって行うことができる。次いで、基材12の周囲の表面22から初期ポリマーヒドロゲル14’を除去するために研磨を実施することができ、一方、レーン20の表面22上に初期ポリマーヒドロゲル14’を少なくとも実質的に無傷のまま残す。
【0090】
フローセル10はまた、増幅プライマー18も含む。
【0091】
グラフトプロセスを実施して、レーン20中の初期ポリマーヒドロゲル14’に増幅プライマー18をグラフトさせることができる。一例では、増幅プライマー18は、プライマー18の5’末端又はその近傍における単一点共有結合性付着によって、初期ポリマーヒドロゲル14’に固定され得る。この付着により、i)プライマー18のアダプター特異的部分は、その同族の配列決定可能な核酸断片にアニールするように自由になり、ii)3’ヒドロキシル基は、プライマー伸長のために自由になる。この目的のために、任意の好適な共有付着を使用することができる。使用され得る末端プライマーの例としては、アルキン末端プライマー(例えば、初期ポリマーヒドロゲル14’のアジド表面部分に付着し得る)、ホスホ-チオエート末端プライマー(例えば、初期ポリマーヒドロゲル14’の臭素表面部分に付着し得る)、又はアジド末端プライマー(例えば、初期ポリマーヒドロゲル14’のアルキン表面部分に付着し得る)が挙げられる。好適なプライマー18の具体例としては、HiSeq(商標)、HiSeqX(商標)、MiSeq(商標)、MiSeqDX(商標)、MiNISeq(商標)、NextSeq(商標)、NextSeqDX(商標)、NovaSeq(商標)、Genome Analyzer(商標)、ISEQ(商標)、及び他の装置プラットフォームでの配列決定のためにILLUMIna INC.により販売されている市販のフローセルの表面上で使用される、P5及びP7プライマーが挙げられる。
【0092】
一例では、グラフト化は、フロースルー堆積(例えば、一時的に結合された又は永久的に結合された蓋を使用)、ダンクコーティング、スプレーコーティング、パドル分配(puddle dispensing)、又はプライマー(複数可)18をレーン20中の初期ポリマーヒドロゲル14’に付着させる別の好適な方法を含み得る。これらの例示的な技術の各々は、プライマー溶液又は混合物を利用することができ、プライマー溶液又は混合物は、プライマー(複数可)、水、緩衝液、及び触媒を含み得る。グラフト法のいずれかによって、プライマー18は、レーン20中の初期ポリマーヒドロゲル14’の反応性基(例えば、モノマー単位M1の表面部分)と反応し、周囲基材12に対して親和性を有さない。したがって、プライマー20は、レーン20中の初期ポリマーヒドロゲル14’に選択的にグラフトする。
【0093】
プライマー溶液又は混合物中のプライマー18の濃度は、初期ポリマーヒドロゲル14’のモノマー単位M1の表面部分のいくつかが、カチオン性部分16を導入するための相互作用又は反応のために利用可能な状態を維持するような濃度であり得る(図2B)。
【0094】
図2Aに示すように、正帯電性部分26を含む流体24がフローセル10に導入される。初期ポリマーヒドロゲル14’は、カチオン性部分16(図2Bに示した)を含むカチオン性ポリマーヒドロゲル14を形成するのに十分な温度で、十分な時間にわたって、流体24の中でインキュベートすることができる。
【0095】
使用される流体24及び正帯電性部分26は、初期ポリマーヒドロゲル14’に、特に、初期ポリマーヒドロゲル14’中のモノマー単位M1の表面部分に依存し得る。インキュベーション温度及び時間は、正帯電性部分26及び初期ポリマーヒドロゲル14’にも依存し得る。
【0096】
正帯電性部分26のいくつかの例は、それ自体を初期ポリマーヒドロゲル14’のモノマー単位M1に組み込んで、カチオン性部分16を含むカチオン性ポリマーヒドロゲル14を形成する。カチオン性部分16が「初期ポリマーヒドロゲルのモノマー単位に組み込まれる」とき、それは、カチオン性部分16が初期ポリマーヒドロゲル14’のモノマー単位M1の表面部分を置換したことを意味する。この例では、表面部分は、負帯電性原子であり、正帯電性部分26は、負帯電性原子よりも強いレドックス種である。例として、モノマー単位M1の負帯電性原子は、臭素であり、正帯電性部分は、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンからなる群から選択される。これらのホスフィンの正帯電性部分の任意のものは、初期ポリマーヒドロゲル14’のモノマー単位M1の臭素原子を置換することができ、その結果として、対応するホスホニウムカチオンは、カチオン性ポリマーヒドロゲル14のモノマー単位M1’の一部になる(図3を参照)。表1は、臭素の置換反応に使用される正帯電性部分26、及びカチオン性ポリマーヒドロゲル14のモノマー単位M1’に組み込まれる対応カチオンを例示している。これらの例の各々において、対イオンは臭化物(Br-)である。
【表1】
【0097】
置換反応の一例を図3に示す。この例では、初期ポリマーヒドロゲル14’は、第1のモノマー単位M1としてN-(5-ブロモアセトアミジルペンチル)アクリルアミド、及び第2のモノマー単位M2としてアクリルアミドを含む、シランを含まないアクリルアミドである。正帯電性部分26(この例では、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィンである)を含む流体24に曝露されると、正帯電性部分26は、初期ポリマーヒドロゲル14’の負帯電性原子を置換する。置換反応の結果として、カチオン性ポリマーヒドロゲル14が得られ、それは、モノマー単位M1’に付着したカチオン性部分16(この例では、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスホニウムカチオンである)を含み、臭素はモノマー単位M1に付着していた。
【0098】
図3に示した例では、流体24は、6~12の範囲のpHを有する緩衝液を含み得る。例として、緩衝液は、トリス緩衝液又はエタノールアミン緩衝液であり得る。流体24中の正帯電性部分26の濃度は、約1mM~約500mMの範囲であり得る。一例では、流体24中の正帯電性部分26の濃度は、約50mM~約400mMの範囲であり得る。別の例では、流体24におけるホスフィン正帯電性部分26の任意のものの濃度は、約100mMであり得る。
【0099】
この例では、インキュベーション温度は約18℃~約65℃の範囲であり、インキュベーション時間は約1.5分~約5分の範囲である。
【0100】
図3に示した例示的な反応は、置換反応の一例であり、他のモノマー単位M1(例えば、別の置換可能な表面部分を含む)、M2及び/又は他の正帯電性部分26を使用してもよいことを理解すべきである。
【0101】
正帯電性部分26の他の例は、リンカー28を介して初期ポリマーヒドロゲル14’のモノマー単位M1に付着して(図4)、カチオン性部分16を含むカチオン性ポリマーヒドロゲル14を形成する。カチオン性部分16が「ポリマーヒドロゲルのモノマー単位にリンカーを介して付着している」とは、カチオン性部分16を付着させるために、初期ポリマーヒドロゲル14’のモノマー単位M1の表面部分をリンカー28と反応させることを意味している。
【0102】
この例では、表面部分はアジド基又はアルキン基であり、正帯電性部分26は、リンカー28を介して表面部分に共有結合的に付着する。一例では、(モノマー単位M1の)表面部分は末端アジド基を含み、リンカー28はアルキン基を含む。別の例では、(モノマー単位M1の)表面部分は末端アルキン基を含み、リンカー28はアジド基を含む。
【0103】
アジド基又はアルキン基に加えて、リンカー28はまた、単一の-CH-単位であってもよい鎖も含むこともでき、いくつかの-CH-単位いくつかのCHCHO-単位、オリゴヌクレオチド鎖、又は別のポリマー鎖を含むことができる。一例では、リンカー28は、二官能性DNAオリゴである。「二官能性」とは、DNAオリゴリンカーの一端が、初期ポリマーヒドロゲル14’に付着することができる1つの末端基と、カチオン性部分16に付着することができる別の末端基とを有することを意味している。
【0104】
リンカー28の任意の例は、切断可能でもあり得る。「切断可能」とは、リンカー28が切断可能な結合を含み、したがって、カチオン性部分16がフローセル表面から除去され得ることを意味している。例として、リンカー28は、切断可能なジスルフィド結合、光切断可能な結合、切断可能なホスホジエステル結合、又はそれらの組み合わせを含む。一例として、DNAオリゴのホスホジエステル結合は、酵素的切断を介して切断され得る。他の例として、リンカー28は、切断可能なジスルフィド結合(S-S)又は光切断可能な結合、例えば、光切断可能なスペーサー:
【化8】
(Integrated DNA Technologiesから入手可能)などのニトロベンジル基を含むリンカーを含み得る。一例では、切断可能な結合は、末端アジド基又はアルキン基と正帯電性部分26との間に配置されている。例えば、ライブラリー断片が播種された後、DNAが溶解物から抽出された後など、カチオン性部分16がカチオン性ポリマーヒドロゲル14から除去され得るように、リンカー28において切断可能な結合が望ましい場合がある。カチオン性部分16の切断は、正電荷を除去し、フローセル表面は、その初期帯電状態(例えば、カチオン性部分16の導入前の電荷)に戻る。
【0105】
この実施例では、正帯電性部分26は、正電荷を担持する、又は担持することができ、かつリンカー28に付着することができる任意の基であり得る。例として、正帯電性部分26は、生理学的pHで正電荷を担持することができるポリリシン、ポリアミドアミンなどのアミン基であってもよく(カチオン性部分16としてプロトン化アミン基:R-NH をもたらす)、又は最大pHで正電荷を担持することができる第四級アンモニウム塩であってもよく(カチオン性部分16として第四級アンモニウムカチオン:
【化9】
をもたらす)、又はスルホニウムイオン:
【化10】
であってもよい。いくつかの実施例では、初期ポリマーヒドロゲル14’は、異なる正帯電性部分26の組み合わせを含み得る。
【0106】
いくつかの実施例では、正帯電性部分26は、リンカー28に付着され、その得られた化合物30(図4)は、フローセル10に導入されてカチオン性ポリマーヒドロゲル14を生成する流体24に組み込まれる。これらの化合物30は、市販のものでもよく、又は合成されてもよい。好適な化合物30の例として、アジド含有又はアルキル含有リンカー28は、アミン基、第四級アンモニウム基、又はスルホニウムイオンのR基のいずれか1つに付着され得る。化合物30の一例は、以下の臭化プロパルギルコリンであり、
【化11】
これは、N,N,N-トリメチルエタノールアンモニウムカチオン(第四級アンモニウムカチオンのコリン類である)に付着したアルキンリンカー28を含む。化合物30の他の例としては、アジドエチル-SS-エチルアミン:
【化12】
(これは、(プロトン化アミンを形成することができる)アミン基に付着したアジド含有リンカー28を含む)、又はプロパルギル-SS-エチルアミン:
【化13】
(これは、(プロトン化アミンを形成することができる)アミン基に付着したアルキル含有リンカー28を含む)が挙げられる。これらの2つの特定のリンカー28は、アジド基(N)又はアルキン基(C≡C)、並びにアルキル鎖中に切断可能なジスルフィド結合(S-S)を含む。
【0107】
正帯電性部分26を初期ポリマーヒドロゲル14’に付着させるためにリンカー28を利用する例を図4に示す。この実施例では、初期ポリマーヒドロゲル14’は、第1のモノマー単位M1としてN-(5-アジドアセトアミジルペンチル)アクリルアミド及び第2のモノマー単位M2としてアクリルアミドを含む。正帯電性部分26(この例では、臭化プロパルギルコリンである)を含む流体24に曝露されると、第1のモノマー単位M1のアジド基及び化合物30のアルキン基は、銅触媒アジド-アルキンシクロ付加(copper-catalyzed azide-alkyne cycloaddition、CuAAC)反応を受ける。CuAAC反応の結果は、モノマー単位M1’のトリアゾール(triazole)に付着したカチオン性部分16(この例では、N,N,N-トリメチルエタノールアンモニウムカチオンである)を含むカチオン性ポリマーヒドロゲル14である。
【0108】
図4に示した例では、流体24は水を含み得る。流体24中の化合物30の濃度は、約100nM~約100μMの範囲であり得る。連結反応はCuAAC反応であるため、流体24はまた、触媒及びリガンド、又は触媒、リガンド、及び還元剤も含み得る。これらの成分は、それらがフローセル10に導入されるように、流体24に添加してもよい。例えばCuSOなどの銅(II)イオンを生成する任意の銅触媒を使用してもよい。N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(N,N,N’,N’’,N’’-pentamethyldiethylenetriamine、PMDTA)などの任意のリガンドを使用してもよい。アスコルビン酸ナトリウムなどの任意の還元剤を使用してもよい。一例では、流体24は、約0.25mol%~約2mol%の銅触媒と、約5mol%~約10mol%の還元剤とを含む。
【0109】
この例では、インキュベーション温度は約18℃~約60℃の範囲であり、インキュベーション時間は約30分~約12時間の範囲である。別の例では、CuAAC反応のためのインキュベーション温度は約18℃~約22℃の範囲であり、時間は約60分(1時間)~約6時間又は約6時間~約12時間の範囲である。
【0110】
図4に示した例示的な反応は、付着反応の一例であり、他のモノマー単位M1、M2、他のリンカー28、及び/又は他の正帯電性部分26を使用してもよいことを理解すべきである。
【0111】
更に他の例では、図3及び図4に示した方法の組み合わせを使用して、カチオン性部分16を含むカチオン性ポリマーヒドロゲル14を生成することができる。一例を図5A及び図5Bに示す。
【0112】
この例では、一方の末端に末端アジド又はアルキンと、もう一方の末端に末端負帯電性原子(例えば、臭素、ヨウ素、又は別の弱い求核剤)とを含むリンカー28’は、初期ポリマーヒドロゲル14’のモノマー単位M1の表面部分に付着される。リンカー28’が末端アジドを含むとき、モノマー単位M1の表面部分はアルキンであり、リンカー28’が末端アルキンを含むとき、モノマー単位M1の表面部分はアジドである。連結反応は、図4を参照して説明したのと同様の様式で実施することができる。これにより、図5Aに示したように、変性ポリマーヒドロゲル14’’が得られる。
【0113】
次いで、改質ポリマーヒドロゲル14’’は、図3を参照して説明したように、置換反応に曝され得る。修飾されたポリマーヒドロゲル14’’の負帯電性原子(例えば、臭素)よりも強い正帯電性部分26を含む流体24は、フローセル10に導入され得る。図3を参照して説明したように、正帯電性部分26は、負帯電性原子を置換及び置き換えて、カチオン性ポリマーヒドロゲル14の別の例を形成する。
【0114】
インキュベーションが温度及び好適な時間で行われるとき、カチオン性ポリマーヒドロゲル14が(図5Bに示したように)形成され、それは、カチオン性部分16及び増幅プライマー(複数可)18の両方を、その表面に含む。
【0115】
図5A及び5Bに示した例示的な反応は、置換反応及び付着反応の一例であり、また、他のモノマー単位M1(例えば、別の置換可能な表面部分を含む)、M2、他のリンカー28、及び/又は他の正帯電性部分26が使用され得る、ことを理解すべきである。
【0116】
正に帯電した(カチオン性)ポリマーヒドロゲル14を有するフローセル10を図2Bに示す。図2Bに示したフローセル10は、基材12と、基材12上のカチオン性ポリマーヒドロゲル14と、i)カチオン性ポリマーヒドロゲル14のモノマー単位M1’中に組み込まれた、又はii)リンカー28、28’を介してポリマーヒドロゲル14のモノマー単位M1’に付着した、カチオン性部分16と、カチオン性ポリマーヒドロゲル14に付着した増幅プライマー18と、を含む。
【0117】
正に帯電したポリマーヒドロゲル14は、フローセル10に導入された負に帯電した複合体又はサンプルを引き付けることができ、したがって、追加の捕捉部位を利用しなくてもよい。
【0118】
追加のフローセルアーキテクチャ
【0119】
フローセルアーキテクチャの一例を図2Bに示しているが、他のフローセルアーキテクチャを使用してもよいことを理解すべきである。
【0120】
フローセル10’の別の例を図6に示す。この例は、基材12が、介在領域34によって分離された複数の凹部32と、カチオン性ポリマーヒドロゲル14(カチオン性部分16を含む)とを含み、また増幅プライマー(複数可)18が各凹部32内部に配置されていることを除いて、図2Bに示した例と同様である。図6に示した例では、凹部32は、レーン20中に画定される。
【0121】
この例では、凹部32は、基材12中にパターン化され得る。パターニングは、凹部32を基材12中にエッチングすること、及び/又はインプリントリソグラフィを使用することを含み得る。次いで、凹部32は、本明細書に記載されるように、カチオン性ポリマーヒドロゲル14(カチオン性部分16を含む)及び増幅プライマー(複数可)18によって官能化され得る。凹部32の間の介在領域34は、その上にカチオン性ポリマーヒドロゲル14(カチオン性部分16を含む)又は増幅プライマー18(複数可)を有さない。これは、初期ポリマーヒドロゲル14’が介在領域34から研磨されているためであり得る。凹部32の官能化後、追加の材料36(例えば、疎水性材料)を、(例えば、周辺において)基材12に付着(結合、接着など)させて、凹部32の周囲にレーン20の壁を画定することができる。
【0122】
凹部32は、任意の好適なパターン又はレイアウトでフローセル10’にわたって分布させることができる。フローセル10’が複数のレーン20を含むとき、凹部32のパターンは同じであってもよく、又は凹部32の異なるパターンを、異なるレーン20で使用してもよい。凹部32の多くの異なるパターン/レイアウトを、想定することができ、規則的、反復的、及び規則的でないパターンを含む。一例では、凹部32は、密なパッキング及び改善された密度のために六角形グリッド中に配置されている。他のレイアウトとしては、例えば、平行四辺形レイアウト(すなわち、矩形、正方形など)、三角形レイアウト、円形レイアウトなどを挙げることができる。
【0123】
各凹部32は、円(図6に示したような)、楕円形、多角形(例えば、三角形、四辺形、五角形など)などの任意の好適な形状(及び対応する三次元形状)を有し得る。
【0124】
各凹部32のサイズは、その開口面積、直径、及び/又は長さ並びに幅によって特徴付けられ得る。
【0125】
各凹部開口部によって占有される領域は、複合体が凹部32に入り込まないように、選択することができる。一例では、各凹部開口部の領域は、少なくとも約1×10-4μm、少なくとも1×10-3μm、少なくとも約1×10-2μm、少なくとも約0.1μm、少なくとも約0.5μm、少なくとも約1μm、又は少なくとも約4μmであることができる。各凹部開口部によって占有される領域は、上で指定した値よりも小さい値であることができ、又はそれらの値の間であることができる。
【0126】
場合によっては、各凹部32の直径又は長さ及び幅は、少なくとも約1nm、少なくとも約50nm、少なくとも約100nm、少なくとも約500nm、又はそれを超えることができるが、その寸法は、レーンの直径又は長さ及び幅よりも小さい。凹部直径の例は、約1nm~約500nmの範囲である。凹部直径の別の例は、約300nm~約2μmの範囲である。
【0127】
凹部32はまた、深さを有することもできる。例として、各凹部32の深さは、少なくとも約10nm、少なくとも約50nm、少なくとも約1μm、最大約2μmであることができる。各凹部32の深さは、上で指定した値よりも大きい値、それらの値よりも小さい値、又はそれらの値の間の値であり得る、ことを理解すべきである。
【0128】
一例では、凹部32のアスペクト比(直径:深さ)は、約1:1~約1:2、又は約1:1.25~約1:1.75の範囲であり得る。
【0129】
この例では、隣接する凹部32は、所与のレーン20内の介在領域34によって分離され得る。平均凹部のピッチは、1つの凹部32の中心から隣接する凹部32の中心までの間隔(中心間間隔)、又は1つの凹部32の右端から隣接する凹部32の左端までの間隔(端から端までの間隔)を表す。凹部32のレイアウト又はパターンは、ほぼ平均ピッチの変動係数が小さいように規則的であることができ、又はレイアウト又はパターンは不規則であることができ、その場合、変動係数は比較的大きくなる場合がある。いずれの場合も、平均ピッチは、例えば、レーン20の寸法に応じて、例えば、少なくとも約10nm、少なくとも約0.1μm、少なくとも約0.5μm、又はそれを超えることができる。代替的に又は追加的に、平均ピッチは、例えば、最大で約0.5μm、最大で約0.1μm、又はそれ未満であることができる。凹部32の特定のパターンの平均ピッチは、より低い値のうちの1つと、上の範囲から選択される上の値のうちの1つとの間であることができる。
【0130】
フローセル10’’の別の例を図7に示す。この例は、基材12が、複数のチャンバ38、38’を更に含み、かつ複数の凹部32のサブセットが複数のチャンバ38、38’の各々の周囲内に位置していることを除いて、図6に示した例と同様である。図6と同様に、カチオン性ポリマーヒドロゲル14(カチオン性部分16を含む)及び増幅プライマー(複数可)18は、凹部32のそれぞれの内部に配置されている。
【0131】
この例では、凹部32は、基材12中にパターン化され得る。パターニングは、凹部32を基材12中にエッチングすること、及び/又はインプリントリソグラフィを使用することを含み得る。次いで、凹部32は、本明細書に記載されるように、カチオン性ポリマーヒドロゲル14(カチオン性部分16を含む)及び増幅プライマー(複数可)18によって官能化され得る。凹部32の間の介在領域34は、その上にカチオン性ポリマーヒドロゲル14(カチオン性部分16を含む)又は増幅プライマー18(複数可)を有さない。凹部32の官能化後、追加の材料36(例えば、疎水性材料)を、(例えば、周辺において)基材12に付着(結合、接着など)させて、凹部32のサブセットの周囲にチャンバ38、38’の壁を画定することができる。
【0132】
チャンバ38、38’は、任意の好適なパターン又はレイアウトで基材12にわたって分布させることができる。チャンバ38、38’の多くの異なるパターン/レイアウトを、想定することができ、規則的、反復的、及び不規則なパターンを含む。一例では、チャンバ38、38’は、密なパッキング及び改善された密度のために六角形グリッド中に配置されている。他のレイアウトとしては、例えば、平行四辺形レイアウト(すなわち、矩形、正方形など)、三角形レイアウト、円形レイアウトなどを挙げることができる。いくつかの例では、レイアウト又はパターンは、行及び列をなしているチャンバ38、38’のx-yフォーマットであることができる。
【0133】
チャンバ38、38’は、正方形、円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、五角形など)などの任意の好適な形状を有し得る。
【0134】
各チャンバ38、38’のサイズは、その開口面積、直径、及び/又は長さ並びに幅によって特徴付けられ得る。図7に示したように、フローセル10’’は、チャンバ38、38’の各々の内部に位置した複数の凹部32を有する。したがって、チャンバ38、38’のサイズは、各凹部32のサイズよりも大きい。換言すれば、チャンバ38、38’の寸法(複数可)は、各凹部32の寸法(複数可)よりも大きい。この例では、「寸法」は、各チャンバ開口部若しくは凹部開口部によって占有された領域、及び/又はチャンバ38、38’若しくは凹部32の直径、及び/又は各チャンバ38、38’若しくは凹部32の長さ及び幅を指している。図7に示した例では、チャンバ38、38’の各々の開口部面積及び直径は、凹部32の各々の開口部面積及び直径よりも大きい。各チャンバ38、38’の開口部面積、並びに直径又は長さ及び幅は、チャンバ38、38’内に位置されるべき凹部32の数に左右される。
【0135】
各チャンバ開口部によって占有される面積は、複合体(その例は図8A図8Cに示してある)がチャンバ38、38’に入るように選択することができる。一例では、各チャンバ開口部の面積は、少なくとも約1μm、少なくとも約10μm、少なくとも約100μm、又はそれを超え得る。各チャンバ開口部によって占有される領域は、上で指定した値よりも大きい値、又はそれらの値の間の値であることができる。
【0136】
場合によっては、各チャンバ38、38’の直径又は長さ及び幅は、少なくとも約1μm、少なくとも約10μm、少なくとも約20μm、少なくとも約30μm、少なくとも約40μm、少なくとも約50μm、少なくとも約100μm、又はそれを超え得る。チャンバ直径の例は、約1μm~約1000μmの範囲である。チャンバ直径の別の例は、約10μm~約50μmの範囲である。チャンバ38、38’が長さ及び幅を有するとき、長さ及び幅は同じであってもよく又は異なっていてもよいことを理解すべきである。
【0137】
チャンバ38、38’は、チャンバ38、38’を形成するために使用される技術に左右される深さも有し得る。例えば、各チャンバ38、38’の深さは、マイクロコンタクト、エアゾール、又はインクジェット印刷が、チャンバ38、38’を画定する追加の材料36を堆積させるために使用されるとき、単層の厚さであることができる。他の例では、各チャンバ38、38’の深さは、約1μm、約10μm、約50μm、又はそれを超えることができる。別の例では、深さは、チャンバ38、38’中に導入される複合体の平均直径の少なくとも約50%である。一例では、この深さは、約10μm~約30μmの範囲であり得る。放出されたライブラリー断片を引き付ける正に帯電したポリマーヒドロゲル14に加えて、チャンバ38、38’の深さは、隣接するチャンバ38、38’間における放出されたライブラリー断片の横方向の拡散を阻止するのを助けることができる。したがって、放出されたライブラリー断片は、任意の外部固定化剤なしで、チャンバ38、38’内に保持され得る。別の例では、深さは約5μm以下である。各チャンバ38、38’の深さは、上で指定した値よりも大きい値、それらの値より小さい値、又はそれらの値の間の値であり得る、ことを理解すべきである。
【0138】
隣接するチャンバ38、38’は、追加材料36の表面によって分離され得る。平均チャンバのピッチは、1つのチャンバ38、38’の中心から隣接するチャンバ38、38’の中心までの間隔(中心間間隔)、又は1つのチャンバ38、38’の右端から隣接するチャンバ38、38’の左端までの間隔(端から端までの間隔)を表す。チャンバ38、38’のレイアウト又はパターンは、ほぼ平均ピッチの変動係数が小さいように規則的であることができ、又はレイアウト又はパターンは不規則であることができ、その場合、変動係数は比較的大きくなる場合がある。いずれの場合でも、平均ピッチは、例えば、少なくとも約1μm、少なくとも約5μm、少なくとも約10μm、少なくとも約100μm、又はそれらを超えることができる。一例では、平均ピッチは、チャンバ14の直径の2倍である。チャンバ38、38’の特定のパターンの平均ピッチは、より低い値のうちの1つと、上の範囲から選択される上の値のうちの1つとの間であることができる。例示的な平均チャンバピッチ値を提供してきたが、他の平均チャンバピッチ値を使用してもよいことを理解すべきである。
【0139】
凹部32の各サブセットは、複数のチャンバ38、38’の各々の周囲内に位置する。
【0140】
図6又は図7には示していないが、フローセル10’のレーン20又はフローセル10’’の各チャンバ38、38’は、フローセル10’又は10’’に導入された複合体又はサンプルを引き付けることができる捕捉部位を含み得る。より具体的には、レーン20又はチャンバ38、38’内の介在領域34の少なくとも一部は、捕捉部位を含み得る。
【0141】
捕捉部位(複数可)は、レーン20又はチャンバ38、38’内の基板12(例えば、介在領域34)上に複合体又はサンプルを、物理的及び/又は化学的に固定化することができる。
【0142】
捕捉部位(複数可)は、任意の好適な場所に位置され得る。基材12全体の捕捉部位(複数可)の位置は、均一であっても不均一であってもよい。捕捉部位は、任意の好適な形状、ジオメトリ、及び寸法を有することができ、それらは、捕捉部位(例えば、パッチ、ウェル、突出部など)の構成と、捕捉部位(複数可)によって捕捉されるべき複合体又はサンプルのタイプとに少なくとも部分的に左右され得る。
【0143】
いくつかの例では、捕捉部位(複数可)は、介在領域34の一部に適用される化学捕捉剤である。本明細書で開示される化学捕捉剤の任意の例を使用することができる。一例では、それぞれの化学捕捉剤は、マイクロコンタクト印刷、又は別の好適な技術を使用して、所望の位置に堆積され得る。
【0144】
他の例では、捕捉部位(複数可)は、基材12の表面において画定されるウェルを含む。ウェルは、使用される基材12に応じてエッチング又はインプリンティングを使用して形成され得る。ウェルは、凹部32について本明細書で記載されているような任意の好適な形状及びジオメトリを有し得る。いくつかの例では、ウェルは、それに添加される追加の化学捕捉剤を有さない。これらの例では、開口寸法により、複合体又はサンプルが、対応するウェルへと(例えば、形状に基づいて)自己集合することを可能にする。他の例では、ウェルは、それに添加される化学捕捉剤を有する。
【0145】
捕捉部位の他の例としては、ウェル、及び表面上に化学捕捉剤を有する捕捉ビーズが挙げられる。捕捉ビーズは、ウェルに嵌合するようにサイズ決めることができる。いくつかの例では、捕捉ビーズは、隣接する介在領域34と同一平面上にあるか、又はわずかに上方に延びていてもよく、それにより、最終的にそれに付着する複合体又はサンプルは、ウェル内に閉じ込められない。一例では、捕捉ビーズは、二酸化ケイ素、超常磁性材料、ポリスチレン、及びアクリレートからなる群から選択される。本明細書で開示される化学捕捉剤の任意の例は、捕捉ビーズの表面上で使用してもよく、ウェル中に導入する前に捕捉ビーズ上にコーティングしてもよい。
【0146】
捕捉部位の深さは、化学捕捉剤がそこに導入されるべきかどうか、及び捕捉ビーズがそこに導入されるべきかどうかに応じて、変化し得る。深さは、少なくともこれらの材料を収容するように選択され得る(すなわち、材料はウェル内に収容される)。一例では、ウェルの深さは、約1nm~約5ミクロンの範囲である。
【0147】
別の例として、捕捉部位は、基材12中に画定される突出部を含む。突出部は、隣接する表面から外側(上方)に延びる三次元構造である。突出部は、エッチング、フォトリソグラフィ、インプリンティングなどによって生成させることができる。任意の好適な三次元ジオメトリが突出部捕捉部位のために使用され得るが、少なくとも実質的に平坦な上面を有するジオメトリが望ましい場合がある。突出部のジオメトリの例としては、球体、円筒、立方体、多角柱(例えば、直方柱、六方柱など)などが挙げられる。
【0148】
異なる化学捕捉剤は、それぞれの突出部捕捉部位の上面に適用され得る。本明細書で開示される化学捕捉剤の任意の例を使用することができ、任意の堆積技術を使用して、化学捕捉剤を突出部の上面に適用することができる。
【0149】
捕捉部位のタイプの任意の組み合わせを、フローセル10’、10’’上で一緒に使用し得る(例えば、捕捉剤及びウェル)ことを理解すべきである。
【0150】
フローセル10、10’、10’’もまた、基材12に結合された蓋なしで示される。フローセル10、10’、10’’のいくつかの例は、例えば表面22において基材12の少なくとも一部分に結合された蓋を有し得ることを理解すべきである。蓋は、単一の流路20又は複数の流体工学的に分離されたフローレーン20、又は流体工学的に分離され得る、又は分離され得ない複数のチャンバ38、38’を画定するように、蓋は表面22上に配置され得る。
【0151】
蓋は、基材12に向けられる励起光に対して透明である任意の材料であり得る。例として、蓋は、ガラス(例えば、ホウケイ酸、溶融シリカなど)、プラスチックなどであり得る。好適なホウケイ酸ガラスの市販の例は、Schott North America,Inc.から入手可能なD 263(登録商標)である。好適なプラスチック材料、すなわち、シクロオレフィンポリマーの市販の例は、Zeon Chemicals L.P.から入手可能なZEONOR(登録商標)製品である。
【0152】
蓋は、レーザー結合、拡散接合、陽極接合、共晶結合、プラズマ活性化結合、ガラスフリット結合、又は当技術分野において既知の他の方法などの任意の好適な技術を使用して、基材表面22に結合され得る。一例では、スペーサー層は、蓋を基材表面22に結合するために使用され得る。スペーサー層は、基材12の少なくとも一部と、蓋とを一緒にシールする任意の材料であり得る。
【0153】
他の例では、フローセル10、10’、10’’は蓋を含まないが、むしろ一緒に結合された2つの基材12を含む。これらの実施例では、基材12の反応性表面(例えば、ポリマーヒドロゲル14、プライマー18)は互いに対向している。基材12は、蓋及び基材12について記載した同様の技術及び材料を使用して、一緒に結合され得る。
【0154】
キット
【0155】
フローセル10は、初期ポリマーヒドロゲル14’に正電荷を導入するために使用することができるキットの一部であり得る。一例では、キットは、i)基板12と、基板12上に配置され、かつ負帯電性原子、アジド基、及びアルキン基からなる群から選択される表面部分を有する、初期ポリマーヒドロゲル14’と、初期ポリマーヒドロゲル14’に付着した増幅プライマー18と、を含むフローセル10、及びii)表面部分と相互作用又は反応して、カチオン性部分16を含むカチオン性ポリマーヒドロゲル14を形成する正帯電性部分26を含む、流体24、を含む。
【0156】
フローセル10、10’、10’’のためのアーキテクチャを含む、本明細書で開示されるフローセルアーキテクチャの任意の例を、キットのフローセル10において使用することができる。更に、基材12の任意の例が、初期ポリマーヒドロゲル14’、及び増幅プライマー18を使用することができる。なお更に、正帯電性部分26を含む流体24の任意の例をキットにおいて使用することができる。
【0157】
キットは、本明細書記載の方法100を実施するために使用され得る。
【0158】
フローセルで使用するための複合体
【0159】
フローセル10、10’、10’’の例は、本明細書で開示される複合体の例と一緒の使用に特に好適であり得る。複合体は、担体(例えば、ヒドロゲル支持体又は固体支持体)と、担体に付着した又は担体内に含有された配列決定可能な核酸断片とを含む。好適な複合体の例を、図8A図8Cに示す。複合体を作製するためのいくつかの例示的な方法を記載しているが、担体に付着した又は担体内に含有された配列決定可能な核酸断片である限り、他の方法を使用してもよいことを理解すべきである。
【0160】
図8Aは、固体支持体42と、その固体支持体42に付着した配列決定可能な核酸断片44とを含む複合体40Aを例示している。
【0161】
一例では、この複合体40Aを形成するために、アダプター配列52、52’は、結合対の1つの部材46を介して固体支持体42に結合される。一例では、このアダプター配列52、52’は、第1の配列決定プライマー配列(例えば、リード1配列決定プライマー配列)と、フローセル10、10’、10’’上の増幅プライマー18(例えば、P5)のうちの1つの少なくとも一部に相補的である第1の配列(例えば、ウラシル修飾P5配列)と、を含む。このアダプター配列52、52’は、結合対(例えば、ビオチン)の1つのメンバー46に結合し、その結果、結合対の(他のメンバー(例えば、アビジン、ストレプトアビジンなど)を含む固体支持体42の表面に結合することができる。このアダプター配列は、インデックス配列も含み得る。
【0162】
Yアダプターは、トランスポザーゼ酵素(例えば、2つのTn5分子)と混合されて、トランスポソームを形成することができる。Yアダプターは、互いにハイブリダイズされる2つのモザイク末端配列を含み得る。モザイク末端配列の1つは、別のアダプター48、48’に付着され得、それは、第2の配列決定プライマー配列(例えば、リード2配列決定プライマー配列)と、フローセル10、10’、10’’上の増幅プライマー18(例えば、P7)の別の1つの少なくとも一部に相補的である第2の配列(例えば、ウラシル修飾P7配列)と、任意選択でインデックス/バーコード配列と、を含む。
【0163】
次いで、タグメンテーションプロセスを実施することができる。サンプル(例えば、DNA)を含む流体(例えば、タグメンテーション緩衝液)を、トランスポソームに添加することができ、そしてアダプター配列52、52’が結合された固体支持体42に添加することができる。サンプルがトランスポソームに接触すると、DNAはタグ化され(断片化され、固体支持体42上のアダプター52、52’とタグ付けされる)、Yアダプターに(例えば、遊離モザイク末端配列のライゲーションによって)結合される。サンプルの連続的なタグメンテーションにより、トランスポソーム間に複数の架橋分子が得られる。その架橋分子は、固体支持体42の周囲を包み込む。トランスポソームは架橋分子の連結性を維持する。配列決定可能な断片44を完成させるために、更なる伸長及びライゲーションを行って、サンプル断片50、50’が配列48及び48’に確実に付着させる。
【0164】
次いで、トランスポザーゼ酵素を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)処理又は熱若しくはプロテイナーゼK消化によって除去することができる。トランスポザーゼ酵素の除去により、固体支持体42に付着した配列決定可能な核酸断片44が残る。
【0165】
得られた複合体40Aを図8Aに示す。架橋分子は、配列決定可能な核酸断片42であり、その各々が、断片50、50’、及びどちらかの端に付着したアダプター配列48及び52又は48’及び50’を含む。アダプター配列52、52’は、固体支持体42に最初に結合した配列であり、第1の配列決定プライマー配列と、フローセルプライマーに対して相補的な第1の配列とを含む。アダプター配列52、52’は、結合複合体/対の1つのメンバー46に付着される。アダプター配列48、48’は、Yアダプターからであり、別のフローセルプライマーに相補的な第2の配列と、第2の配列決定プライマー配列とを含む。各配列決定可能な核酸断片44は、増幅(例えば、ブリッジ増幅)及び配列決定のための好適なアダプターを含むため、PCR増幅は実施されない。たがって、これらの断片44は配列決定可能である。更に、ライブラリー断片44は、同じサンプル由来であるため、断片44は、連結されたロングリード用途にとって好適であり得る。
【0166】
図8Bは、固体支持体42と、その固体支持体42に付着した配列決定可能な核酸断片44’とを含む別の複合体40Bを例示している。一例では、PCRを含まないヌクレオチドライブラリーをチューブ中に作り出し、次いで、そのライブラリーをチューブ中の固体支持体42にハイブリダイズさせる。図8Bに示した例では、結合対の1つのメンバー46を有するプライマー(例えば、アダプター52’’、48’’)は、チューブ中のライブラリー断片50’’に添加され、次いで、配列決定可能な核酸断片44’は、固体支持体42に結合される。別の例では、固体支持体42は、結合対(例えば、支持体42上のアビジン及びプライマーに付着したビオチン)を介して付着したプライマーを有し得る。これらのプライマーは、ライブラリー断片50’’に付着したアダプター52’’にハイブリダイズする(したがって、プライマー及び結合対メンバーは、断片の一方の末端にあり、もう一方にはない)。別の例では、伸長は、鎖置換酵素を使用して実施され得る。これにより、完全に二本鎖のライブラリー(例えば、図8Bに示したようなフォーク又はY-アダプターはない)が得られる。配列決定可能な核酸断片44’は、変性を介してフローセル上で放出され得る。
【0167】
図8Cは、ヒドロゲル支持体54と、ヒドロゲル支持体54内に含有された配列決定可能な核酸断片44’’とを含む複合体40Cの例を示している。
【0168】
この複合体40Cを形成するために、ヒドロゲルモノマー(複数可)及び/又はポリマー(複数可)並びに架橋剤(複数可)を含有する流体を、サンプル(例えば、遺伝物質)の存在下で混合する。この流体を、鉱油又は別の好適な疎水性流体中に充填し、乳化して、液滴を生成させることができる。ラジカル開始剤を添加して、ヒドロゲルモノマー(複数可)及び/又はポリマー(複数可)を重合及び/又は架橋し、ヒドロゲル支持体54を形成することができる。
【0169】
複合体40Cを形成するとき、流体は水であってもよく、モノマーは、アクリルアミド、N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン、ビスアクリルアミド、ジアクリレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジビニルスルホン、エチレングリコールジアリルエーテル、エチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシル化トリメチロールジアクリレート、エトキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、コラーゲンモノマー、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ、及び/又はポリマーは、ポリエチレングリコール-チオール、ポリエチレングリコール-アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(例えば、約100~約200,000の範囲の重量平均分子量を有する)、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリカプロラクトン、ポリ(ビニルスルホン酸)、ポリ(L-アスパラギン酸)、ポリ(L-グルタミン酸)、ポリリジン、寒天、アガロース、アルギネート、ヘパリン、アルギネートスルフェート、デキストランスルフェート、ヒアルロナン、ペクチン、カラギーナン、ゼラチン、キトサン、セルロース、コラーゲンポリマー、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。架橋剤は、ヒドロゲル支持体54のポリマー中において結合、例えばジスルフィド結合を形成する。架橋剤は、曝露される化学物質に応じて架橋及び非架橋が可能であるという点で可逆的であり得る。例えば、可逆性架橋剤は、ジスルフィド結合を含有するビスアクリルアミド架橋剤であり、ジスルフィド結合は、ジチオスレイトール(dithiothreitol、DTT)、トリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィン(tris-(2-carboxyethyl)phosphine、TCEP)、又はトリス-(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(tris-(3-hydroxypropyl)phosphine、THP)などの還元剤で分解することができる。一例では、架橋剤は、アクリルアミド、N,N’-ビス(アクリロイル)システミン、ビスアクリルアミド、1,4-ジアクロイルピペラジン、N-N’-ジアリルL-タータルジアミド、及びN-N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)-ビス-アクリルアミドからなる群から選択される。一例では、ラジカル開始剤は光開始剤であってもよい。光開始剤の例としては、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、エオシン-5-イソチオシアネートが挙げられる。このタイプのラジカル開始剤は、適切な波長の光に曝露されるまで架橋を開始しないため、使用することができる。別の例では、ラジカル開始剤は、ラジカル源に曝露されたときに架橋を開始し得る。このタイプのラジカル開始剤の例は、テトラメチルエチレンジアミン(tetramethylethylenediamine、TEMED)である。
【0170】
サンプルは、ヒドロゲル支持体54の細孔を通過できないほどの大きさであるため、ヒドロゲル支持体54内に閉じ込められる。いくつかの例では、サンプルはDNA又はRNAであり、長さが少なくとも約100ヌクレオチド(例えば、1,000ヌクレオチド以上、10,000ヌクレオチド以上、500,000ヌクレオチド以上など)である。いくつかの例では、ヒドロゲル支持体54の「細孔径」という用語は、複数の細孔の測定に基づく、細孔の断面の平均直径又は平均有効直径を指す。円形ではない断面の有効直径は、非円形断面と同じ断面積を有する円形断面の直径に等しい。一例では、細孔径は、約10nm~約100nmの範囲である。
【0171】
次いで、ライブラリーの調製は、ヒドロゲル支持体54内で行うことができる。複数の試薬交換は、ヒドロゲル支持体54の細孔を介して行うことができる。サンプル及びそれから生成される任意のライブラリー断片は、ヒドロゲルマトリックス内に維持される。ライブラリー調製は、サンプルを断片化すること、及び配列決定可能な断片44’’をもたらすアダプターを添加することを含み得る。
【0172】
一例では、ライブラリー調製は、ヒドロゲル支持体54内で行われるタグメンテーションを介して実施され得る。得られた複合体40Cを図8Cに示す。アダプター配列は、増幅及び配列決定のための好適なアダプターを含み、したがって得られる断片44’’は配列決定可能である。別の例では、ライブラリー調製は、ポリメラーゼ伸長を使用して実施することができ、それは二本鎖ライブラリーをもたらす。この例示のライブラリーは、ヒドロゲル支持体54から放出及び播種する前に変性される必要がある。
【0173】
複合体を含む方法
【0174】
本明細書で開示される方法のいくつかの例では、本明細書で開示されるフローセル10、10’、10’’、並びに複合体40A、40B、又は40Cのいずれか1つを利用する。上記のように、複合体40A、40B、又は40Cの各々は、遺伝物質の同じサンプルから得られる配列決定可能な断片を含む。複合体のうちの1つ又はいくつかが、レーン20又はチャンバ38、38’内で単離されると、同じサンプルからのライブラリーの空間的共存が達成される。
【0175】
例示的な方法では、複合体40A、40B、又は40Cは、例えば、1つ以上の入力口を通じて、フローセル10、10’、10’’に導入される。複合体40A、40B、又は40Cは、Tris-HCl緩衝液又は0.5×のクエン酸ナトリウム食塩水(SSC)緩衝液などの流体中に導入され得る。流体からの少なくともいくつかの複合体40A、40B、又は40Cは、レーン(複数可)20及び/又はチャンバ38、38’の少なくともいくつかに沈降する。フローセル10が使用される際には、複合体40A、40B、又は40Cの負に帯電した配列決定可能な断片44、44’、44’は、レーン20内の正に帯電したポリマーヒドロゲル14に引き付けられ得る。フローセル10’又は10’’が使用されるとき、正に帯電したポリマーヒドロゲル14は凹部32内に閉じ込められる。これらの例のいくつかでは、複合体40A、40B、又は40Cは、レーン20又はチャンバ38、38’の深さにより、部分的にレーン20又はチャンバ38、38’中に沈降し残留し得る。これらの例のうちのいくつかの他の例では、レーン20又はチャンバ38、38’は、複合体40A、40B、又は40Cが接着する捕捉部位を含み得る。
【0176】
いくつかの複合体40A、40B、又は40Cは沈降しない場合があり、これらの錯体40A、40B、又は40Cは、更なるプロセスの前にフローセル10、10’、10’’から除去されることを理解すべきである。いくつかのレーン20又はチャンバ38、38’は、複合体40A、40B、又は40Cのうちの1つ以上を受容し得る一方で、レーン20又はチャンバ38、38’の他のものは、複合体40A、40B、又は40Cを受容しない場合もあることも理解すべきである。複合体40A、40B、又は40Cの分布は、捕捉部位が含まれていないときにはランダムであり得、又は捕捉部位が含まれているときにはより制御されている状態であり得る。
【0177】
次いで、この例示的方法は、フローセル10、10’、10’’から、トラップされていない複合体40A、40B、又は40Cを洗浄することを含む。洗浄は、流体を、フローセル10、10’、10’’に導入することを含み得る。フローは、フローセル10、10’、10’’の出口から外へ、沈降しなかった任意の複合体40A、40B、又は40Cを押し流すことができる。
【0178】
方法のこの例は、次いで、トラップされた複合体40A、40B、又は40Cの担体(例えば、固体支持体42又はヒドロゲル支持体54)に、配列決定可能な核酸断片44、44’、又は44’’を、レーン20又はチャンバ38、38’(各複合体40A、40B、又は40Cがトラップされている)それぞれの中へと放出させることを含む。
【0179】
担体(すなわち、支持体42又は54)に、配列決定可能な核酸断片44、44’、又は44’’を放出させることは、使用される複合体40A、40B、又は40Cに応じて、変化させることができる。一例では、担体は固体支持体42であり、それを誘発させるには、フローセル10、10’、10’’に切断剤を導入することが必要である。切断剤は、固体支持体42からの配列決定可能な核酸断片44、44’の化学的、酵素的、又は光化学的放出を開始させ得る。これらの例では、熱又は光などの別の刺激は、切断剤を作動させて、固体支持体42からライブラリー断片44又は44’を放出させることができる。一例として、遊離ビオチンを切断剤として導入することができ、そして約92℃まで加熱して、固体支持体42からのビオチン-オリゴ放出を誘導することができる。
【0180】
他の例では、複合体40Cが使用され、したがって担体は、ヒドロゲル支持体54である。これらの他の例では、ライブラリー放出を誘発させるには、フローセル10、10’、10’’を加熱して、フローセル10、10’、10’’又はそれらの組み合わせに切断剤を導入することを要し得る。ヒドロゲル支持体54からライブラリー断片44’’を放出するための加熱は、約90℃の温度に加熱することを要し得る。フローセル10、10’、10’’全体を加熱してもよく、複合体40Cが熱くなると、ヒドロゲル支持体54は分解して断片44’’を放出し得る。いくつかの例では、切断剤は、ヒドロゲル支持体54を脱重合し、それから配列決定可能な断片44’’を放出させ得る1つ以上の成分を含み得る。例として、切断剤としては、ジチオスレイトール(DTT)、トリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、又はトリス-(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィン(THP)が挙げられる。他の例では、切断剤は光である。これらの例では、ヒドロゲル支持体54を形成するために使用される架橋剤は、光切断性部分を含むことができ、複合体40Cの適切な波長の光への曝露は、この部分を切断し、ヒドロゲル支持体54を分解することができる。
【0181】
配列決定可能な核酸断片44、44’、又は44’’の輸送及び播種は、カチオン性ポリマーヒドロゲル14の正電荷によって部分的に制御される。配列決定可能な核酸断片44、44’、44’’は負に帯電しており、したがって正に帯電したポリマーヒドロゲル14に引き付けられる。したがって、任意の特定の複合体40A、40B、又は40Cの断片44、44’、又は44’’は、特定の複合体40A、40B、又は40Cが閉じ込められるレーン20又はチャンバ38、38’に閉じ込められる。
【0182】
カチオン性ポリマーヒドロゲル14の引力に加えて、レーン20又はチャンバ38、38’の深さもまた、配列決定可能な核酸断片44、44’、又は44’’の輸送及び播種を制限し得るため、外部固定化剤を、フローセル10、10’、10’’に導入しない場合がある。
【0183】
本明細書で開示されるフローセル10、10’、10’’により、カチオン性ポリマーヒドロゲル14は、配列決定可能な核酸断片44、44’、又は44’’を、それらの放出直後に引き付けることができ、それにより、増幅プライマー18は、比較的閉じ込められた様式で、放出された配列決定可能な核酸断片44、44’、又は44’’を播種することができる。一例では、播種は、断片44、44’、又は44’’の第1又は第2の配列と、プライマー18の相補的な配列との間のハイブリダイゼーションによって達成される。播種は、断片44、44’、又は44’’及びプライマー(複数可)18に関する好適なハイブリダイゼーション温度で実施され得る。
【0184】
次いで、播種された配列決定ライブラリーは、クラスター生成などの任意の好適な方法を使用して増幅させることができる。
【0185】
クラスター生成の一例では、配列決定可能な核酸断片44、44’、又は44’’は、高性能再現性DNAポリメラーゼ(high-fidelity DNA polymerase)を使用する3’伸長によって、ハイブリダイズされたプライマー18からコピーされる。元の配列決定可能な核酸断片44、44’、又は44’’は変性され、レーン20又は凹部32内に固定化されたコピーを残す。等温ブリッジ増幅を使用して、固定化されたコピーを増幅し得る。例えば、コピーされた鋳型は、ループオーバーして、隣接する相補的プライマー18にハイブリダイズし、ポリメラーゼは、コピーされた鋳型をコピーして二本鎖架橋を形成し、それは変性されて、2つの一本鎖を形成する。これらの2つの鎖が、ループオーバーし、隣接する相補的プライマー18にハイブリダイズし、再度伸長して、2つの新たな二本鎖ループを形成する。そのプロセスを、等温変性及び増幅のサイクルによって各鋳型コピーについて繰り返して、密集したクローンクラスターを作り出す。二本鎖架橋の各クラスターは変性される。一例では、逆方向鎖は、特定の塩基切断によって除去され、順方向鋳型ポリヌクレオチド鎖を残す。クラスター化により、各レーン20又は凹部32において、いくつかの鋳型配列決定可能な核酸断片が形成されることを理解すべきである。
【0186】
クラスター生成後、カチオン性部分16は、カチオン性ポリマーヒドロゲル14から切断され得る。したがって、フローセル表面の電荷は、可逆性であると考えることができる。カチオン性部分16の切断は、カチオン性部分16が、切断可能であるか、又は切断可能なリンカー28、28’(例えば、切断可能なジスルフィド結合、又は光切断可能な結合、又は切断可能なヌクレオチド結合を含む)を介して付着されるときに、行われ得る。カチオン性部分16の切断は、光切断によって、酸性条件への曝露によって(例えば、リンカーが酸に不安定である場合)、又は酵素的切断によって(例えば、二官能性DNAオリゴをリンカー28、28’として使用して、カチオン性部分16を付着させる場合)、達成され得る。カチオン性部分16の切断は、フローセル表面の電荷を逆転させることができ、それは、ポリマーヒドロゲル14に対して付着した鋳型配列決定可能な核酸断片が負に帯電していることが一因となっている。
【0187】
クラスター生成後(及び場合によってはカチオン性部分16の切断後)に、配列決定を行ってもよい。本明細書で開示されるフローセル10、10’、10’’の任意の例は、合成による配列決定(SBS)、環状アレイ配列決定、ライゲーションによる配列決定、パイロ配列決定などとしばしば称される技術を含む、様々な配列決定アプローチ又は技術において使用され得る。
【0188】
一例として、合成反応による配列決定(SBS)は、ILLUMINa(SAN DIEGO,CA)からのHISEQ(商標)、HISEQX(商標)、MISEQ(商標)、MISEQDX(商標)、MINISEQ(商標)、NOVASEQ(商標)、NEXTSEQDX(商標)、ISEQ(商標)、NEXTSEQ(商標)、又は他のシーケンサーシステムなどのシステムで実行され得る。SBSでは、鋳型中のヌクレオチドの配列を決定するために、鋳型配列決定可能な核酸断片に沿った配列決定プライマーの伸長がモニターされる。鋳型の3’末端及び任意のフローセル結合プライマー18(コピーに付着しない)は、配列決定反応との干渉を防止するために、特に、望ましくないプライミングを防止するために、ブロックされ得る。基礎となる化学プロセスは、重合(例えば、ポリメラーゼ酵素により触媒される)又はライゲーション(例えば、リガーゼ酵素により触媒される)であることができる。特定のポリメラーゼベースのSBSプロセスにおいて、配列決定プライマーに添加したヌクレオチドの順序及びタイプの検出を使用して鋳型の配列を決定することができるように、蛍光標識されたヌクレオチドを、鋳型依存形式で、配列決定プライマーに添加する。例えば、第1のSBSサイクルを開始するために、1つ以上の標識されたヌクレオチド、DNAポリメラーゼなどを、フローセル10などの中に/中を通して送達することができ、配列決定プライマーの伸長によって、標識ヌクレオチドが組み込まれる。この組み込みは、画像化(imaging event)によって検出することができる。画像化中、照明システム(図示せず)は、フローセル10、10’、10’’に励起光を提供してもよい。
【0189】
いくつかの例では、蛍光標識されたヌクレオチドは、ヌクレオチドが鋳型に添加されると更なるプライマー伸長を終結させる可逆的停止特性(reversible termination property)を更に含むことができる。例えば、可逆的ターミネーター部分を有するヌクレオチド類似体は、その部分を除去するためにデブロッキング剤が送達されるまで、その後の伸長が起こり得ないように、鋳型に添加され得る。したがって、可逆的停止を使用する例では、デブロッキング試薬を、フローセルなどに送達することができる(検出が行われた後)。
【0190】
洗浄(複数可)は、様々な流体送達ステップの間で行ってもよい。次いで、SBSサイクルをn回繰り返して鋳型をn個のヌクレオチドだけ伸長させ、それにより、長さnの配列を検出することができる。
【0191】
SBSについて詳細に説明してきたが、本明細書に記載されるフローセル10、10’、10’’は、遺伝子型決定のため、又は他の化学的及び/又は生物学的用途で利用され得ることを理解されたい。
【0192】
他のフローセル用途
【0193】
配列決定について詳細に説明したが、本明細書に記載のフローセル10、10’、10’’は、正に帯電した表面が望ましい他の用途に利用され得ることを理解すべきである。一例として、正に帯電したポリマーヒドロゲル14は、フローセル10、10’、10’’に導入された溶解物からDNAを抽出するのに好適であり得る。例えば、細胞は、レーン(複数可)20又はチャンバ38、38’中に導入され得、次いで溶解緩衝液が導入され得る。細胞から放出されたDNAは、正に帯電した表面に引き付けられ得る。外部固定化剤(例えば、油、空気)は、抽出されたDNAを含有するのを更に助けるために使用されても、使用されなくてもよい。
【0194】
別の例として、正に帯電したポリマーヒドロゲル14を使用して、ある特定のpH条件下でタンパク質を反発させることができ、それにより、表面における望ましくないタンパク質結合が防止され得る。これらの例では、正に帯電したポリマーヒドロゲル14は、それに付着した増幅プライマー18を有していても、又は有していなくてもよい。
【0195】
本明細書に記載のフローセル10、10’、10’’は、可逆的に帯電した表面が望ましい他の用途において利用され得る。可逆的に帯電した表面は、カチオン性部分16が付着しているとき正に帯電され得、カチオン性部分16がそこから切断されると負に帯電され得る。正に帯電した表面は、DNAを引き付けるのに役立ち得、負に帯電した表面は、溶出を助けることができる。負に帯電した表面は、正に帯電した細胞(例えば、細菌)をフローセル表面に引き付けるためにも望ましいことであり得る。
【0196】
本開示を更に説明するために、実施例を本明細書に提供する。この実施例は例示目的のために提供され、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解すべきである。
非限定的な作業例
【0197】
2つのレーンを有するガラス基材を使用して、例示的なフローセルレーン及び比較の例示的なフローセルレーンを調製した。両方のレーンをシラン処理し、PAZAMをその上に堆積させた。次いで、P5及びP7プライマーをレーン中のPAZAMにグラフトさせた。UV硬化性接着剤を用いて蓋を基材に結合させて、2つのレーンを流体的に分離した。
【0198】
トリス(ヒドロプロピル)-ホスフィン(50mMのTris-HCl緩衝液(pH9)中100mMのTHP)を60℃で約2分間、実施例のレーンに導入した。他の(比較)レーンは、混合物で処理されなかった。
【0199】
本実施例で使用される複合体は、固体支持体と、アビジン-ビオチンリンカーを介して、その固体支持体に付着した配列決定可能な核酸断片とを含んでいた。複合体のライブラリー断片は、図8Bに示したものと類似していた。TRUSEQ(商標)プラットフォーム(Illumina,Inc.)プロトコルに従って、PCRを含まないライブラリーをチューブにおいて調製した。ライブラリーは、ビオチンを介してビーズに付着されたP7プライマーに対するハイブリダイゼーションによってビーズに結合された。ライブラリーをSytoxグリーンで染色した。
【0200】
複合体を、複合体を含有するハイブリダイゼーション緩衝液(ハイブリダイゼーション緩衝液中200μL)をレーンの各々に通して流すことによって、複合体を実施例及び比較例のフローセルレーンに導入した。播種は、ライブラリー断片を複合体から放出することによって開始した。P7プライマーの融点温度を超えてフローセルを加熱することによって、ライブラリー放出を開始した。断片をハイブリダイズさせ、第1の鎖伸長を実施した。固体支持体及び非ハイブリダイズ断片を、0.2MのNaOH溶液で除去した。次いで、ブリッジ増幅を用いてクラスター化を行った。
【0201】
クラスター化の後、実施例及び比較例のレーンに関して顕微鏡写真を撮り、明確にするために元の染色を反転させた。図9Aに示したように、トリス(ヒドロプロピル)-ホスフィンで処理されなかった比較レーンは、表面全体にわたって比較的均一にライブラリーは播種された。それは、反転した顕微鏡写真中の拡散したより暗いスポットによって明示される。図9Bは、比較フローセルレーン上の複合体からのライブラリー放出の概略図である。図は、レーンの幅を示しており、スケールバーは、2Dフローセル内面に関する視野の実寸法を表している。図9Bの図に示したように、ライブラリー断片輸送及び播種は制限されない。
【0202】
対照的に、図10Aに示したように、実施例のレーン(トリス(ヒドラプロピル)-ホスフィンで処理した)には、DNAライブラリーの濃縮領域があった。その領域は、反転した顕微鏡写真における濃縮された暗色スポットによって明示される。図10Bは、例示的なフローセルレーン上の複合体からのライブラリー放出の概略図である。図は、レーンの幅を示しており、スケールバーは、2Dフローセル内面に関する視野の実寸法を表している。図10Bに示されているように、負に帯電したライブラリー断片は、正に帯電したフローセル表面に引き付けられるため、ライブラリー断片輸送及び播種が制限される。これらの結果は、トリス(ヒドロキシプロピル)-ホスフィンで処理された表面は、正に帯電しており、したがって、複合体からのDNAライブラリー断片の放出時に、DNAライブラリー断片を引き付けることができた、ことを示している。
【0203】
追記事項
【0204】
更に、本明細書で提供される範囲は、明示的に列挙されているかのように、表示範囲及び表示範囲内の任意の値又は部分範囲を含むことを理解すべきである。例えば、約2mm~約300mmによって表される範囲は、約2mm~約300mmの明示的に記載された限界だけでなく、約15mm、22.5mm、245mmなどの個々の値、及び約20mm~約225mmなどの部分範囲も含むと解釈するべきである。
【0205】
前述の概念及び更なる概念の全ての組み合わせが、以下でより詳細に考察される(かかる概念が相互に矛盾しないことを提供する)は、本明細書に開示される発明の主題の一部であると考えられることを理解されたい。具体的には、本開示の終わりに現れる特許請求される主題の全ての組み合わせは、本明細書に開示される発明の主題の一部であると考えられる。本明細書で明示的に用いられ、また参照により組み込まれる任意の開示においても出現し得る用語は、本明細書で開示される特定の概念と最も一致する意味が与えられるべきであることも理解すべきである。
【0206】
いくつかの実施例を詳細に説明してきたが、開示された例は修正され得ることを理解すべきである。したがって、これまでの説明は非限定的なものであると考えるべきである。
図1
図2A-2B】
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B