(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】新規キャッピングおよび捕捉試薬の使用によるHPLC不要のペプチド精製
(51)【国際特許分類】
C07K 1/06 20060101AFI20241105BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20241105BHJP
C07D 317/30 20060101ALI20241105BHJP
C07C 59/125 20060101ALN20241105BHJP
【FI】
C07K1/06 ZNA
C07K1/14
C07D317/30
C07C59/125 A
(21)【出願番号】P 2021539416
(86)(22)【出願日】2020-01-03
(86)【国際出願番号】 EP2020050080
(87)【国際公開番号】W WO2020144111
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-23
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】ベルクマン,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ポンプルン,ゼーバスティアン・ヨハネス
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/017930(WO,A2)
【文献】JOURNAL OF PEPTIDE SIENCE,2009年05月,VOL:15, NR:5,PAGE(S):369-376
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相ペプチド合成における、キャッピング部分および捕捉部分を含むキャッピングおよび捕捉(cap-capt)試薬の使用であって、
前記キャッピング部分がカルボン酸または活性化したカルボン酸であり、前記捕捉部分が保護されたカルボニル基であり、
前記キャッピングおよび捕捉試薬が、
【化1】
から選択される、キャッピングおよび捕捉試薬の使用。
【請求項2】
固相ペプチド合成(SPPS)のための方法であって、ここで個々のアミノ酸がFmoc-化学反応を介して互いにカップリングし、
ここで少なくとも1つのカップリング工程の後、キャッピングおよび捕捉試薬が不良ペプチド配列をキャッピングするために使用され、該キャッピングおよび捕捉試薬が、
【化2】
から選択される、前記方法。
【請求項3】
キャッピングおよび捕捉試薬のキャッピング部分がカルボン酸であり、キャッピング部分を、活性化剤を用いて活性化し、よって活性化したカルボン酸を調製する工程をさらに含み、活性化剤がFmoc-化学反応の活性化剤に相当する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
完全長合成ペプチドの精製のための方法であって、
-請求項2または3に記載の固相ペプチド合成のための方法を実施する工程、
-
前記工程で合成した
ペプチドを固相から切断する工程、
-捕捉部分を脱保護する工程、および
-脱保護した捕捉部分を固体樹脂支持体に結合し、これにより少なくとも1つの
不良ペプチドを固体樹脂支持体に結合する工程、および
-
前記不良ペプチドを含む固体樹脂支持体から完全長合成ペプチドを分離する工程
を含む、方法。
【請求項5】
固体樹脂支持体がアミノオキシ樹脂、またはヒドラジン樹脂である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
不良ペプチドを含む固体樹脂支持体からの完全長
合成ペプチドの分離が、遠心分離または濾過により行われる、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種のキャッピングおよび捕捉試薬ならびに少なくとも1種のアミノオキシ樹脂、またはヒドラジン樹脂を含むキットであって、ここで該キャッピングおよび捕捉試薬が、
【化3】
から選択される、前記キット。
【請求項8】
固体支持体上に合成した
ペプチドの精製のための、請求項7に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相ペプチド合成におけるキャッピングおよび捕捉試薬の使用に関する。本発明は、固相ペプチド合成の方法であって、本発明によるキャッピングおよび捕捉試薬が使用される方法にさらに関する。本発明は、ペプチド合成中に本発明によるキャッピングおよび捕捉試薬が(完全長)合成ペプチドのその後の精製を促進するために使用される固相ペプチド合成のための方法にさらに関する。本発明はまた、本発明によるキャッピングおよび捕捉試薬ならびにアミノオキシ樹脂またはヒドラジン樹脂を含むキット、ならびに前記キットの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
固相ペプチド合成(SPPS)は、短い長さから中間の長さのペプチド合成のための主力な方法である(Merrifield,R.B.、Solid Phase Peptide Synthesis.I.The Synthesis of a Tetrapeptide.Journal of the American Chemical Society、1963年、85巻(14号)、2149~2154頁)。特にFmocベースの戦略は、主に使用されている方法論として普及している(W.C.Chan P.D.WhiteEds.、Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis、A Practical Approach.Oxford University Press:2000年)。普通カップリング効率が高くても、段階的合成の間に少量の未反応アミノ基が蓄積する。異なる位置に1つまたは複数の残基が欠損した欠失配列の無制御な蓄積を回避するため、各カップリング工程後、大量の過剰なキャッピング試薬を樹脂に加えて、すべての残留する遊離アミンが完全に失活することを確実にする。普通無水酢酸はこの目的のために使用される。SPPSの最も単調で、時間を消費する態様は、依然として分取HPLCによる粗ペプチドの精製である。キャッピング戦略にもかかわらず、一部の短縮型配列は完全長産物と共に共溶出し、分離することが困難となり得る。精製問題の決着を促進するため、不完全な配列をタグ化して、これらのHPLC溶出プロファイルまたはこれらの溶解度を改変するための様々な試薬が開発されてきた(Shogren-Knaak,M.A.;McDonnell、K.A.;Imperiali,B.、α-Chloroacetyl capping of peptides:an N-terminal capping strategy suitable for Edman sequencing.Tetrahedron Letters、2000年、41巻(6号)、827~829頁;Canne,L.E.;Winston,R.L.;Ken,S.B.H.、Synthesis of a versatile purification handle for use with Boc chemistry solid phase peptide synthesis.Tetrahedron Letters、1997年、38巻(19号)、3361~3364頁;Montanari,V.;Kumar、K.、Just Add Water:A New Fluorous Capping Reagent for Facile Purification of Peptides Synthesized on the Solid Phase.Journal of the American Chemical Society、2004年、126巻(31号)、9528~9529頁;Montanari,V.;Kumar,K.、A Fluorous Capping Strategy for Fmoc‐Based Automated and Manual Solid‐Phase Peptide Synthesis。European Journal of Organic Chemistry、2006年、2006巻(4号)、874~877頁)。代わりに、最後の工程において、完全長ペプチドを、この所望の生成物の選択的単離を可能にする部分で修飾する(Villain,M.;Vizzavona,J.;Rose,K.、Covalent capture:a new tool for the purification of synthetic and recombinant polypeptides.Chemistry & Biology、2001年、8巻(7号)、673~679頁;Toshiaki,H.;Akira,T.;Ken’ichiroh,N.;Takeshi,S.;Toru、K.;Saburo,A.、Peptide purification by affinity chromatography based on α‐ketoacyl group chemistry.Journal of Peptide Science、2009年、15巻(5号)、369~376頁;Toshiaki,H.;Akira,T.;Toru,K.;Saburo,A.;Michio,M.、Peptide purification using the chemoselective reaction between N‐(methoxy)glycine and isothiocyanato‐functionalized resin.Journal of Peptide Science、2016年、22巻(6号)、379~382頁;Loibl,S.F.;Harpaz,Z.;Zitterbart,R.;Seitz,O.、Total chemical synthesis of proteins without HPLC purification.Chemical Science、2016年、7巻(11号)、6753~6759頁)。
【0003】
各カップリング工程に対して、効率的なキャッピングが確実に行われるよう大量の過剰なカップリング試薬を樹脂に加えなければいけないので、高価な、または複雑な合成が要求される試薬は常套的用途に対して有用ではない。高いコストを回避しながらの、完全長ペプチドの末端修飾は別の問題を提起する:精製後の最終生成物は精製ハンドルもしくはその部分を依然として含有する、または、例えばペプチドの生体活性が問題にされている場合、トレースレスで切断可能なリンカーの使用が必要となる。文献にはいくつかのトレースレスリンカーが記載されている、しかし最終生成物溶液を汚染しないよう、およびペプチドに無害なように、切断条件を慎重に制御しなければならない。
【0004】
固体支持体上で合成した化合物の精製を促進する試薬が、例えばWO03/017930A2において開示されている。
【0005】
固相上で合成したペプチドの容易な精製のためのフルオラスキャッピング試薬が、例えば、Montanari,V.;Kumar、K.、Just add water:a new fluorous capping reagent for facile purification of peptides synthesized on the solid phase.Journal of American Chemical Society、2004年、126巻、9528~9529頁において開示されている。
【0006】
活性化されたカルボン酸および保護されたカルボニル基を含む窒素含有複素環式化合物が、例えば、WO2010/032437A1において開示されている。
【0007】
発明者らは、比較的安価な出発物質から開始して、キャッピングおよび捕捉試薬を調製することができることを示すことができた。固相ペプチド合成における効率的なキャッピングのため、多くの場合大量の過剰なキャッピング試薬をすべての合成サイクルで加えなければならない。安価で、簡単に入手可能な試薬のみが常套的使用に対して実用的である。
【発明の概要】
【0008】
固相ペプチド合成に本発明のキャッピングおよび捕捉試薬を使用すれば、精製の並列化の可能性により、分取HPLC精製と比較して著しく時間が節約される。さらに、従来の分取HPLCと比較して、溶媒が最大約200倍節約される。HPLC上で所望の生成物と共に共溶出する終端配列を、容易に分離することができる。本発明によるキャッピングおよび捕捉試薬を使用すれば、全長ペプチドの捕捉を用いたリンカー戦略と比較して、所望の生成物上に残留部分が存在しない。よって、最終生成物を得るための最終切断工程が必要とされない(すなわち、切断による、または厳しい切断条件により引き起こされる副生物による汚染がない)。
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、固相ペプチド合成における、キャッピング部分および捕捉部分を含むキャッピングおよび捕捉(cap-capt)試薬の使用であって、前記キャッピング部分がカルボン酸または活性化されたカルボン酸であり、前記捕捉部分が保護されたカルボニル基である、キャッピングおよび捕捉試薬の使用に関する。
【0010】
本発明によると、cap-capt試薬は固相ペプチド合成(SPPS)において使用される。固相ペプチド合成は、固体支持体上でのアミノ酸誘導体の連続的反応によりペプチド鎖の高速合成による合成を可能にする。固体支持体は、出現するペプチド鎖に連結する、反応性基で官能化した小さなポリマー樹脂ビーズからなってよい(例えば、アミンまたはヒドロキシル基)。ペプチド鎖N末端にカップリングすることになる各アミノ酸は、それがカルボキシ、ヒドロキシルまたはアミノ基などの反応性官能基を含有する場合、そのN末端および側鎖上で保護されなければならない。このような保護は、使用されている側鎖および保護戦略に応じて、N末端アミノ基に対しては適当な保護基、例えば、Boc(酸に不安定)またはFmoc(フルオレニルメチルオキシカルボニル)(塩基に不安定)を使用し、側鎖に対しては直交保護基、例えば、tert-ブチル、ベンジル、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)、2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル(Pbf)、トリチル、モノメトキシトリチル(Mtr)、ベンジルオキシカルボニル(Z)、1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキサ-1-イリデン)-3-メチルブチル(ivDde)などを使用して達成することができる。一般的なSPPSの手順は、N末端脱保護とカップリング反応とが交互するサイクルの繰返しである方法である。樹脂は各工程と工程との間に洗浄することができる。最初に、保護されたアミノ酸をDIC/OxymaまたはHBTUなどのカップリングまたは活性化試薬、およびDIPEAなどの塩基を使用して樹脂にカップリングする。キャッピング工程は、無水酢酸などのキャッピング試薬を使用して、次のカップリング工程におけるさらなる反応から未反応のアミノ基をブロックするためにその後適用されてもよい。続いて、アミンを脱保護し、次いで次のアミノ酸の遊離酸とカップリングする。所望の配列が合成されるまでこのサイクルを繰り返す。合成の終わりに、トリフルオロ酢酸(TFA)などの試薬強酸または求核種を使用してすべての保護基を同時に除去しながら、粗ペプチドを固体支持体から切断する。水、チオール、硫化物またはシランなどの捕捉剤をTFAに加えてもよい。粗ペプチドをジエチルエーテルなどの非極性溶媒から沈殿させて、可溶型有機副産物を除去することができる。
【0011】
SPPSの間に、所望の配列/組成物の完全長合成ペプチドを得ることができる。しかし、各カップリング工程の高い効率にもかかわらず、成長するペプチド鎖上の少量のアミノ酸は連続的なアミノ酸に反応しないことがあり、短縮したまたは不良のペプチド配列をもたらす。不良ペプチド配列はSPPSにおいて形成される主要副産物を表す。主要(完全長)合成ペプチドと比較して、不良ペプチド配列の画分は、選択したペプチドの長さおよび複雑性が増加するにつれて増加する。不良ペプチドは、所望の完全長合成ペプチドから分離することが困難または不可能なこともある。本明細書に記載されているキャッピング工程、すなわち本開示に記載されているキャッピングおよび捕捉試薬に基づくキャッピング工程は、不良ペプチド配列の末端アミノ基をブロックし、よって、それがさらなるカップリング工程で反応することおよびアミノ酸欠失を有するペプチド配列を形成することを阻止する。したがって、このcap-capt試薬は完全長合成ペプチドの精製のための手段も提供する。
【0012】
「不良のペプチド」または「不良ペプチド配列」とは本開示によると、SPPSサイクル完了後、最後から2番目のアミノ酸上に非保護のアミノ基を有するペプチドである。当業者であれば、このような短縮したペプチドは、不完全なカップリング反応の結果であることを理解している。その後のカップリング工程において不良のペプチドがさらにカップリングされることを阻止するため、この不良ペプチドをキャッピングすることができ、これは常套的に無水酢酸で行われる。また他には、この不良ペプチドを活性化させることもでき、これを次の合成サイクルで反応させ、よって「n-1」-ペプチド、すなわち完全長合成ペプチドに非常に似ているが、1個のアミノ酸だけ短いペプチドをもたらすこともできる。
【0013】
本明細書で開示されているキャッピングおよび捕捉(cap-capt)試薬は、ペプチド合成中に不良のペプチド配列をキャッピングし、固相ペプチド合成後に不良のペプチド配列を除去することを可能にする。キャッピング部分は、SPPSの副産物上に位置する第1の反応性基、例えば、不良のペプチドと反応して、不良のペプチド配列がさらに反応するのを阻止する。キャッピングおよび捕捉試薬の一部である捕捉部分は、捕捉部分をさらなる反応性基と化学選択的に反応させることによって、それら不良のペプチド配列の除去を可能にする。捕捉部分は、完全長合成ペプチド上には存在せず、キャッピングした不良ペプチド配列上のみに存在するので、あらゆる不良ペプチドは、所望の完全長合成ペプチドから簡単に分離することができる。
【0014】
反応性基とは、結合を形成することが可能な、好ましくは別の反応性基と共有結合を形成することが可能な化学基である。
【0015】
本発明の場合、第1の反応性基はアミノ基、特に不良ペプチド上の末端アミノ基である。この末端アミノ基は、本明細書で開示されているcap-capt試薬のキャッピング部分と反応する。
【0016】
さらなるまたは第2の反応性基は、cap-capt試薬の捕捉部分と反応する反応性基である。第2の反応性基は固体支持体上に位置する。
【0017】
適切な第2の反応性基はアミノオキシ基またはヒドラジン基である。
【0018】
本発明に開示された使用、方法およびキットによると、cap-capt試薬はキャッピング部分および捕捉部分を含み、キャッピング部分はカルボン酸または活性化したカルボン酸である。
【0019】
本発明によると捕捉部分は保護されたカルボニル基である。一実施形態では保護されたカルボニル基はアセタールまたはケタールである。
【0020】
カルボン酸はカルボキシル基-C(O)OHを含む有機化合物である。
【0021】
本発明の一実施形態では、cap-capt試薬のキャッピング部分はカルボン酸基である。
【0022】
そのカルボン酸形態でのcap-capt試薬の活性化はカップリング試薬を用いた処理により行うことができる。活性化は、cap-capt試薬を不良ペプチド配列に添加する前に実施することができる。代わりに、cap-capt試薬の活性化は、不良ペプチド配列とすでに接触させながら行ってもよい。後者の場合、活性化は、固相ペプチド合成に対しても使用している少なくとも1種の試薬を用いて行うことができる。例えばカップリング試薬がcap-capt試薬の活性化のために使用される場合、カップリング試薬は、保護されたアミノ酸をカップリングして、ペプチド配列を作り上げるために使用されるカップリング試薬と同じものであってもよい。
【0023】
一実施形態ではキャッピング部分は活性化したカルボン酸である。当業者は活性化したカルボン酸という用語に精通している。活性化したカルボン酸は、求核攻撃を極めて受けやすいカルボン酸誘導体である。一実施形態では活性化したカルボン酸は、アミノ基と反応性のあるカルボン酸の誘導体である。1つの例では、不良ペプチド上のアミノ基は活性化したカルボン酸と反応して、アミド結合(またはペプチド結合)を形成する。
【0024】
活性化したカルボン酸の例は、ハロゲン化アシル、無水物、ペンタフルオロフェニルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはN-ヒドロキシベンゾトリアゾールエステルなどである。
【0025】
本発明の一実施形態では、キャップ-捕捉試薬は、1つのキャッピング部分と1つの捕捉部分とを含む。
【0026】
さらなる実施形態では、cap-capt試薬は、式(I):
【化1】
[式中、
R1は、水素または置換されていてもよいアルキルであり、
R2は、OR5またはハロゲンであり、
各R3およびR4は、独立して、置換されていてもよいアルキルであるか、またはこれらが結合している酸素原子と一緒になって、置換されていてもよい5員もしくは6員環を形成し、
R5は、H、スクシンイミド、ペンタフルオロフェニル、ベンゾトリアゾール、無水物および
【化2】
から選択され、
nは、独立して、0、1、2、3または4である]を有する。
【0027】
「アルキル」は本明細書で使用される場合、好ましくは1~5個の炭素原子を有する、一般式CnH2n+1の飽和した分枝または直鎖の化学基である。「置換されていてもよいアルキル」とは、一般式CnH2n+1の飽和した分枝または直鎖の化学基であり、水素原子の少なくとも1個が異なる基または原子、すなわち置換基により置き換えられている。置換基の例は、ハロゲン、-CN、-NO2、-C(O)N(R11)2、-COO(R11)、-O(R11)、-N(R11)2であり、R11は、独立して、HまたはC1~C3アルキルである。
【0028】
これらが結合している酸素原子と共に各R3およびR4により形成されてもよい5員または6員環における任意選択の置換基は、例えば、メチルまたはエチルなどのアルキルである。
【0029】
一実施形態では活性化したカルボン酸は、当技術分野で公知の適切なカップリング試薬の誘導体と共に形成されるエステル結合を含む。残基R2またはOR5のある特定の実施形態はそれぞれ、カルボン酸と、カルボジイミド、例えば、DCC(N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)、EDAC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)またはWSC(水溶性カルボジイミド)とを、任意選択で添加剤、例えば、HOBt(ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOAt(1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール)、HOOBt、(3-ヒドロキシ-1,2,3-ベンゾトリアジン-4-オン)、HOSu、(N-ヒドロキシスクシンイミド)、OxymaPure(2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)アセテート)もしくはDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)と組み合わせて、ホスホニウム試薬、例えば、BOP(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、PyBOP(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、PyBrOP、(3-ヒドロキシ-1,2,3-ベンゾトリアジン-4-オン)、PyAOP((7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、PyOxim([エチルシアノ(ヒドロキシイミノ)アセタト-O2]トリ-1-ピロリジニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)もしくはDEPBT(3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン)と組み合わせて、アミニウム/ウラン-イモニウム試薬、例えば、TBTU、HBTU((2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、HCTU(O-(1H-6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、HDMC(N-[(5-クロロ-3-オキシド-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-4-モルホリニルメチレン]-N-メチルメタンアミニウムヘキサフルオロホスフェート)、TATU(O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HATU(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート)、COMU((1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチルイデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロホスフェート)、TOTT(2-(1-オキシ-ピリジン-2-イル)-1,1,3,3-テトラメチルイソチオウロニウムテトラフルオロボレート)もしくはTFFH(テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスフェート)と組み合わせて、または他のカップリング試薬、例えば、EEDQ(N-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリン)、T3P(ホスホン酸プロピル無水物)、DMTMM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチル-モルホリニウムクロリド)、BTC(ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸)もしくはCDI(1,1’-カルボニルジイミダゾール)(例えば、Aldrich、ChemFiles、2007年、7巻、No.2、Peptide Synthesisを参照されたい)と組み合わせて反応させることにより形成されるものである。
【0030】
さらなる実施形態では、キャッピングおよび捕捉試薬は、
【化3】
[式中、
R6、R7、R8およびR9は、それぞれ独立して、水素およびアルキルから選択され、
R10は置換されていてもよいアルキルである]からなる群から選択される。
【0031】
一実施形態では、R6、R7、R8およびR9のそれぞれは、独立して、水素およびC1~C3アルキルから選択される。
【0032】
R6、R7、R8およびR9のそれぞれは水素であってよい。
【0033】
R10は、メチルまたはエチルであってよい。
【0034】
R1は、独立して、水素、メチルまたはエチルであってよい。
【0035】
キャッピング部分の一部である残基R2は、独立して、F、ClおよびBr、O-スクシンイミド、O-ペンタフルオロフェニル、O-ベンゾトリアゾール、無水物および
【化4】
からなる群から選択されてもよい。
【0036】
cap-capt試薬は、
【化5】
から選択されてもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、cap-capt試薬は、
【化6】
である。
【0038】
本発明のさらなる態様は、固相ペプチド合成(SPPS)のための方法であって、個々のアミノ酸が、Fmoc-化学反応を介して互いにカップリングしており、少なくとも1つのカップリング工程後、本発明によるキャッピングおよび捕捉試薬が不良ペプチド配列のキャッピングのために使用される方法に関する。
【0039】
Fmocは、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル、すなわち有機化学合成における保護基を表す。
【0040】
固相ペプチド合成を表すFmoc化学反応において、ペプチド鎖は、不溶性(樹脂)支持体に結合しながら、1回に1個のアミノ酸ずつ段階的に組み立てられる。アミノ酸はFmoc基によりこれらのアミノ末端において保護され、これらのカルボン酸末端の活性化後、成長鎖にカップリングする。このアミノ酸の活性化したカルボン酸は、成長するペプチド鎖の末端アミノ基と反応する。次いで、Fmoc基は塩基による処理により除去され、このプロセスは繰り返される。ペプチドが組み立てられた後、これは、例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)による処理で不溶性樹脂支持体から除去される。同時に、アミノ酸側鎖上の保護基もまた除去されて、粗直鎖ペプチドを生成する。
【0041】
さらに詳細には、段階的固相Fmoc-化学反応を使用したペプチド合成のための常套的プロセスは以下を含む:(a)双極性非プロトン溶媒中でペプチド合成に適合した樹脂を膨潤させる工程;(b)存在する場合、双極性非プロトン溶媒中のピペリジン溶液を使用して、樹脂上のFmoc基を脱保護する工程;(c)Fmoc脱保護後、双極性非プロトン溶媒で樹脂を洗浄する工程;(d)脱保護した樹脂にカップリングさせるために、双極性非プロトン溶媒中にFmoc-アミノ酸、カップリング試薬(複数可)(例えば(2-(6-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスフェート)(HCTU)または2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)/1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)とDIPEA)を溶解することによって、Fmoc-アミノ酸を活性化する工程;(e)活性化したFmoc-アミノ酸溶液を反応器内の樹脂に充填する工程;(f)活性化したFmoc-アミノ酸を樹脂上のN末端アミノ基にカップリングさせる工程;(g)各Fmoc-アミノ酸のカップリング後、樹脂を洗浄する工程;(h)任意選択で未反応アミノ基をキャッピングする、例えば、樹脂上の不良ペプチド配列をキャッピング試薬(例えば、無水酢酸)でキャッピングする工程;(i)完全長合成ペプチドが形成されるまで工程(b)~(h)を繰り返す工程;(j)アミノ酸側鎖を同時に脱保護しながら、切断カクテルを使用して所望のペプチドを樹脂から切断する工程;(j)切断混合物を樹脂から濾過する工程;ならびに(k)濾液を蒸発および/または沈殿させ、有機溶媒を用いて粗生成物を濃縮溶液から部分的に精製して、部分的に精製されたペプチドを生成する工程。
【0042】
上記の標準的Fmoc合成の一般的概要に示されている通り(工程(hを参照)、無水酢酸を用いたキャッピング工程は、未反応のアミノ基、特に所望のペプチド配列の最後から2番目の未反応アミノ酸上のアミノ基をキャッピングするために使用することができる。しかし、無水酢酸が使用される場合、短縮したペプチドから完全長ペプチドを分離するのは困難となり得、普通高度なHPLC方法が必要とされる。
【0043】
本明細書で開示されている使用および手順に従い、不良ペプチドは、工程(h)において、上記に概説されているように、本開示によるキャッピングおよび捕捉試薬でキャッピングする。前記キャッピング中に、キャッピング部分と非保護のアミノ基(不良ペプチド配列の上)との間にアミド結合が形成される。こうして、cap-capt試薬のキャッピング部分と反応し、それぞれ固相に結合した、保護された捕捉部分および完全長合成ペプチドを含む少なくとも1つの「不良ペプチド配列」が得られる。本発明によるSPPS方法では、不良ペプチド配列は、キャッピング工程を介して結合したcap-capt試薬を含む。
【0044】
さらなる態様では、本発明は、(完全長)合成ペプチドの精製のための方法であって、
-本発明による固相ペプチド合成を実施する工程、
-こうして合成した化合物を固相から切断する工程、
-捕捉部分を脱保護する工程、および
-脱保護した捕捉部分を固体樹脂支持体に結合し、これにより少なくとも1つの不良ペプチド配列を固体樹脂支持体に結合する工程、および
-不良ペプチドを含む固体樹脂支持体から完全長合成ペプチドを分離する工程
を含む、方法に関する。
【0045】
好ましい実施形態では、固体樹脂支持体はアミノオキシ樹脂、またはヒドラジン樹脂である。
【0046】
(完全長)合成ペプチドの精製のための方法の個々の工程は以下に例示されている。
【0047】
ペプチド合成の完了後、合成されたペプチド鎖は固相から切断する。この切断工程は適当な試薬の添加により実施される。普通、TFA(トリフルオロ酢酸)などの強酸、捕捉剤(求核剤)と組み合わせたTFA、例えば、添加剤、例えば、水、シラン、例えば、TES(トリエチルシラン)またはTIS(トリイソプロピルシラン)、チオール、例えば、メルカプトエタノール、ジチオエリスリトール(DTE)、エタンジチオール(EDT)またはジオキサ-1,8-オクタン-ジチオール(DODT)、硫化物、例えば、チオアニソールまたはエチルメチルスルフィドまたはエーテル、例えば、アニソールなどとのTFA混合物が使用される。
【0048】
不良ペプチドにおける保護された捕捉部分を脱保護することなく、合成した完全長合成ペプチドを固相から切断することは可能であり得るが、固体支持体からの合成ペプチドの切断と、捕捉部分の脱保護との両方を遂行する条件が普通選択される。よって、不良ペプチドに結合しているcap-capt試薬の捕捉部分(および依然として存在するあらゆるcap-capt試薬の捕捉部分)を脱保護する。好ましい実施形態では、捕捉部分の脱保護工程は、樹脂からペプチドを切断する切断工程と同時に実施して、側鎖アミノ酸保護基を脱保護し、よって同じ試薬を使用する。
【0049】
一実施形態では、固相は混合物から濾過する。本実施形態では、濾液は好ましくは、全長合成ペプチドと、不良ペプチドに結合しているcap-capt試薬を含む不良ペプチドとの混合物を含む。
【0050】
一実施形態では、不良ペプチドに結合したcap-capt試薬の脱保護した捕捉部分はアミノ基を含む樹脂に結合する。好ましい実施形態では、脱保護した捕捉部分はアミノオキシ樹脂、またはヒドラジン樹脂に結合する。結合は、それぞれのアミノオキシ樹脂、またはヒドラジン樹脂を脱保護した捕捉部分に添加することにより達成される。結合工程を用いて、不良ペプチド配列(cap-capt試薬を介してキャッピング)はアミノオキシ樹脂またはヒドラジン樹脂に結合する。脱保護した捕捉基とアミノオキシ樹脂またはヒドラジン樹脂との間の結合は、オキシムまたはヒドラゾン結合を介して一般的に達成される。
【0051】
アミノオキシ樹脂ならびにヒドラジン樹脂は固体支持体を含む。固体支持体は一般的に当技術分野で周知であり、ビーズ、カラム、アレイ、マルチウェルプレート、フィルターまたは他の表面基質を含む。一実施形態ではアミノオキシ樹脂またはヒドラジン樹脂はそれぞれビーズ、カラムまたはフィルターの形態である。一実施形態ではアミノオキシ樹脂またはヒドラジン樹脂はそれぞれビーズまたはフィルターの形態である。
【0052】
その後の工程において、完全長合成ペプチドは、これに結合している(cap-capt試薬を介して)不良ペプチド配列を有する固体樹脂支持体、例えば、アミノオキシ樹脂またはヒドラジン樹脂から分離される。分離は、例えば、濾過、沈降、または遠心分離により達成することができる。
【0053】
記述されている分離を用いれば、合成した合成ペプチドの効率的なおよび対費用効果の高い精製が可能である。このような精製は、労働集約的な、値段の高いおよび時間を消費するHPLC工程を必要としない。むしろ本明細書で開示されている手順に従い合成した数個から多くのペプチドが、経済的におよび並行して精製され得る。
【0054】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載されているcap-capt試薬および少なくとも1種のアミノオキシ樹脂またはヒドラジン樹脂を含むキットを対象とする。
【0055】
さらなる態様では、本発明は、不良ペプチド配列からの完全長ペプチドの分離のための、本明細書に記載されているcap-capt試薬と、少なくとも1種のアミノオキシ樹脂またはヒドラジン樹脂とを含むキットの使用を対象とする。
【0056】
好ましい実施形態では、キットは、固相ペプチド合成で得たペプチドの精製に使用される。
【0057】
本発明による使用は、本発明の方法に対して特定されたようにさらに定義することができる。特に、本開示のさらなる態様に使用されている用語に関しては、本開示の第1の態様において使用されている用語、実施例および特定の実施形態を指すが、これらは、本開示のさらなる態様にもまた適用可能である。
【0058】
一般的に、本開示は、本明細書に記載されている特定の方法論、プロトコル、および試薬に限定されない。理由はこれらが変動し得るからである。さらに、本明細書で使用されている用語は、特定の実施形態のみについて記載する目的のためのものであり、本開示の範囲を限定することを意図しない。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が他を明確に指さない限り、複数についての言及を含む。同様に、単語「含む」、「含有する」および「包含する」は、端を含めないというよりもむしろ、端を含めると解釈される。
【0059】
他に定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術的および科学的用語および任意の頭字語は、本開示の分野の当業者により共通して理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似のまたは同等の任意の方法および材料を本明細書で提示された実施において使用することができるが、特定の方法、および材料が本明細書に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本開示は以下の図および実施例によりさらに例示されるが、ただし、他に具体的に示されていない限り、図および実施例は、例示目的のためのみに含まれ、本開示の範囲を限定することを意図しないと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】それぞれキャッピングおよび捕捉試薬1、または(1’)、および2ならびにアミノ-オキシPEGA樹脂3の合成に対する一般的な反応スキームを図示している。エチル2,2-ジエトキシアセテートおよびエチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-2-アセテート(フラクトン)が、キャッピング部分を含有する、アルデヒドおよびケトンの合成に対して出発点として選択された。エステルをNaOHで加水分解し(工程a)、続いてジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)で処理して対応する対称的な無水物へと変換した(工程b)。
【
図2】試薬1および2を用いたキャッピングおよび脱保護を図示している。短いペプチド(WEGSKYA)を標準的なFmocベースのSPPSで合成した。5のカップリング後、一部の樹脂を容器から取り出し、試薬1または試薬2で処理した(化学量論的量のルチジンを有するDMF中)。脱保護し、これらのペプチドを樹脂から切断するため、TFA、5%アニソール、5%チオアニソールおよび5%水を含有する切断カクテルを使用した。これは、トリイソプロピルシランの使用は、アルデヒドのアルコールへの還元を引き起こすと記載されているからである。切断カクテルで2時間処理した後、ペプチドを冷たいジイソプロピルエーテルで沈殿させ、LCMSで分析した。これにより、両方の試薬によるキャッピングは定量的に生じたが、試薬2が順調に脱保護されてケト-キャッピングしたペプチド5を生成したのに対し、試薬1はアセタールとして依然として定量的に保護されていたことが明らかとなった。粗混合物を再度TFA中に再び溶解し、24時間後、室温での脱保護を最終的に観察した。
【
図3】本発明によるcap-capt試薬を用いたペプチド配列のキャッピングを図示している。
【
図4】2つのHPLCクロマトグラムを図示している。
図4aは、WEGSKYA(配列番号1)6とケト-キャッピングしたGSKYA(配列番号2)5の混合物のHPLCクロマトグラムを図示している。
図4bは、アミノ-オキシ樹脂3との2時間のインキュベーション後のHPLCクロマトグラムを図示している。
【
図5】2つのHPLCクロマトグラムを図示している。
図5aは、アンジオテンシンIの粗混合物の214nmにおけるHPLCクロマトグラムおよびSPPS後の終止配列を図示している。
図5bは、アミノ-オキシ樹脂3とのインキュベーション後のアンジオテンシンIの214nmでのHPLCクロマトグラムを図示している。モデルシステムとして、生物学的10merアンジオテンシンI(DRVYIHPFHL)(配列番号3)を合成した。条件にストレスをかけるため、1工程当たり1当量のみのアミノ酸との単一カップリングを行った。粗物質のLCMS分析は、プロリン後の主要な終止およびバリンおよびチロシン後のさらなる終止を明らかにした。これらのすべてを、試薬2で定量的にキャッピングした(M+84)(
図5a)。混合物をpH=4.5でアセテートバッファーに溶解し、アミノオキシ樹脂3上で2時間インキュベートして、良好な純度で完全長アンジオテンシンI(
図5b)を得た。注目すべきはケト-キャッピングした短縮型Cap-PFHL(配列番号4)の完全な除去であり、これは主要産物と共溶出している。
【
図6】4つのHPLCクロマトグラムを図示している。モデルペプチドとして、28mer des-オクタノイルグレリン(GSSFLSPEHQRVQQRKESKKPPAKLQPR)(配列番号5)を20μmolスケールで合成した。SPPS後、粗製のdes-オクタノイルグレリンを純度72%で得た。粗生成物をアセテートバッファー(pH=4.5、0.1M)に溶解し、HPLC-MSで分析した(
図6a)。粗生成物を2つの等しいアリコートに分割した。第1のアリコートは分取HPLCで精製し(
図6b)、第2のアリコートはアミノ-オキシ樹脂3上で2時間インキュベートした(
図6c)。HPLC精製により、純度99%および収率(最初の樹脂充填量それぞれに対して)25%を得た。cap-capt試薬を用いた戦略により純度92%および収率48%を得た(
図6c)。
図6dは、生成物が分取HPLCの対象下におかれた場合のHPLCクロマトグラムを図示している。
【
図7】HPLC不要のペプチド精製に対するキャッピングおよび捕捉試薬の使用の略図である。酸の切断およびペプチドの脱保護の間、アセタールを含有するキャッピング部分はケトンに変換し、このケトンは、アミノ-オキシ樹脂により化学選択的に捕捉することができる。全長ペプチドは溶液中に純粋な生成物として残留する。
【実施例】
【0062】
実施例1
エステル加水分解に対する一般的手順(
図1も参照されたい)(Tartaggia,S.;Fogal,S.;Motterle,R.;Ferrari,C.;Pontini,M.;Aureli,R.;De Lucchi,O.、Chemoenzymatic Synthesis of δ-Keto β-Hydroxy Esters as Useful Intermediates for Preparing Statins.European Journal of Organic Chemistry、2016年、2016巻(19号)、3162~3165頁を参照):メチル2,2-ジメトキシアセテート、エチル2,2-ジエトキシアセテート、またはフラクトン(75mmol)のEtOH(100mL)中溶液のそれぞれに、NaOH(2M水溶液、50mL)を加えた。反応物を室温で4時間撹拌後、EtOHを減圧下で除去した。次いで、水相をジイソプロピルエーテル(2×20mL)で洗浄し、2M HClで酸性化し、EtOAc(3×100mL)で抽出した。合わせた有機画分をNa
2SO
4で乾燥させ、溶媒を減圧下で除去して、わずかに黄色の油状物質として所望の生成物を生成した(2,2-ジメトキシ酢酸(1a’);2,2-ジエトキシ酢酸(1a):85%;2a:79%それぞれ)。すなわち、化合物1を収率85%で得て、化合物2を収率79%で得た。これは、キャッピング試薬を好収率および好純度で得るためには、クロマトグラフィー精製は必要なく、第1工程における抽出および第2の工程における濾過のみが必要であることを意味する。単一の合成作動において無水物100gまでのスケールは簡単に可能であった。捕捉樹脂のベースとして、有機溶媒と水性溶媒の両方と作用するのに適しているPEGベースのポリマー(AminoPEGA(登録商標)樹脂)を使用した。Boc-アミノ-オキシ-酢酸を樹脂(工程c)上に組み込み、TFA(工程d)で脱保護した(
図1も参照されたい)。
【0063】
生成物は、さらに精製せずに次の工程で使用した。
【0064】
無水物合成に対する一般的手順(
図1も参照されたい):2,2-ジメトキシ酢酸(1a’)、2,2-ジエトキシ酢酸(1a)または2-(2-メチル-1,3-ジオキソラン-2-イル)酢酸(2a)(20mmol)のCH
2Cl
2中溶液に、0℃でN、N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(10mmol)をゆっくりと加えた。激しい撹拌下で、反応物を室温まで温めた。3時間後、反応物を濾過し、固体を除去し、濾液の溶媒を減圧下で除去して、2種の無水物をそれぞれ定量的収率で、わずかに黄色の樹脂として生成し、これらをさらに精製せずに使用した。
【0065】
2,2-ジメトキシ無水酢酸(1’):
1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d) δ ppm 3.45 (s, 12 H) 4.93 (s, 2 H)
2,2-ジエトキシ無水酢酸(1):
1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d) δ ppm 1.10 (t, 12 H) 3.50 (q, 8 H) 4.93 (s, 2 H)
2-(2-メチル-1,3-ジオキソラン-2-イル)無水酢酸(2):
1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d) δ ppm 1.50 (s, 6 H) 2.82 (s, 4 H) 3.98 (s, 8 H)
【0066】
アミノ-オキシPEGA樹脂(3)の合成(
図1も参照されたい):アミノ-PEGA-樹脂(Novabiochem、1.00g、充填量0.37mmol/g)をDMF(5×10mL)で洗浄した。Boc-アミノ-オキシ-酢酸(212mg、1.11mmol)、HATU(380mg、1.00mmol)およびDIPEA(383μL、2.2mmol)をDMF(10mL)中で混合し、樹脂に加えた。室温で30分の振盪後、樹脂をDMFで洗浄し、Kaiser試験で残留するアミノ基がないことを確認した。TFA+2%H
2Oで樹脂を1時間処理し、その後、アセテートバッファー(0.1M、pH=4.5)で洗浄して、所望のアミノオキシ樹脂を生成した。
【0067】
実施例2
ペプチド合成:Syro IシンセサイザーおよびRink-AmideTentagel樹脂(充填量0.19mmol/g)を使用して、自動化されたFmocベースの固相ペプチド合成を実施した。樹脂をDMF中20%ピペリジンで、2x5分間処理することにより、Fmoc脱保護を実施した。連続的なFmoc-保護されたアミノ酸(NMP中0.25M+HOAt0.25M)を、HCTU(0.8M)およびN-メチルモルホリン(NMM、DMF中3M)を使用して、樹脂上で、室温で15分間カップリングした。他に述べられていない場合、各カップリングに対して、5当量のアミノ酸(それぞれ樹脂充填量に対して)を使用し、カップリングを2回繰り返した。樹脂を2-(2-メチル-1,3-ジオキソラン-2-イル)無水酢酸(2)およびルチジン(両方ともDMF中0.5M;20当量、それぞれ樹脂充填量に対する)で処理することにより、遊離残留アミノ官能基のキャッピングを実施した。TFA/チオアニソール/アニソール/H2O(85:5:5:5)を使用して、樹脂からの切断を実施した。このカクテルを用いて樹脂を30分間インキュベートし、次いで切断溶液を室温で1~2時間保持した。窒素流下で溶液の容量を減少させた後、ジイソプロピルエーテルを用いた沈殿および遠心分離により粗ペプチドを得た。
【0068】
実施例3
上記に記載されている標準的な方法に従い(ただし、キャッピングに対して、2の代わりに無水酢酸を使用)、ペプチド配列H-SKSYS-樹脂(配列番号6)(10μmol)を合成した。樹脂を2等分(各5μmol)に分割した。第1のアリコートを2(DMF中0.5M、0.5mL)およびNMM(N-メチルモルホリン)(DMF中3M、100μL)の溶液で15分間処理した。第2のアリコート(アリコート2)を2a(DMF中0.5M、0.5mL)、NMM(DMF中3M、100μL)およびHCTU(2-(6-クロル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウム-ヘキサフルオロホスフェート(hexafluorophosphat))(DMF中0.8M、250μL)の溶液で15分間処理した。TFA/チオアニソール/アニソール/H
2O(85:5:5:5)を使用して、樹脂からの切断を実施した。両方のキャッピング方法は、末端アミノ基の完全なキャッピングを示した(
図3)。
MS(ESI):654.28[M+H]
+
【0069】
実施例4
上記に記載されている標準的方法(ただし、キャッピングに対して、2の代わりに無水酢酸を使用する)に従い、ペプチド配列H-GSKYA-樹脂(配列番号7)(15μmol)を合成した。
図2に例示されているように、樹脂を3等分(各5μmol)に分割した。第1のアリコート(アリコート1)を1(50μmol)および2,6-ルチジン(50μmol)のDMF(1mL)中溶液で15分間処理した。第2のアリコート(アリコート2)を2(50μmol)および2,6-ルチジン(50μmol)のDMF(1mL)中溶液で15分間処理した。TFA/チオアニソール/アニソール/H
2O(85:5:5:5)を使用して、樹脂からの切断を実施した。アリコート1もアリコート2も末端アミノ基の完全なキャッピングを示した。アリコート2のアセタールを完全に脱保護して、対応するケトンを生成した一方で、アリコート1のアセタール保護は切断手順後も依然として無傷のままであった。残留するアリコート(アリコート3)を2つのさらなる固相合成工程の対象下におき、樹脂からの切断後、ペプチドH-WEGSKYAを生成した。
【0070】
実施例5
ケトキャッピングしたGSKYA(配列番号2)(5)(1μmol)およびH-WEGSKYA(配列番号1)(6)(1μmol)をアセテートバッファー(0.1M、pH=4.5)に溶解し、HPLC-MSで分析した(
図4a)。アミノ-オキシPEGA樹脂(3)を混合物に加え、2時間後、上澄み液をHPLC-MSで分析すると、6のみが溶液中に残されていることを示した(
図4b)。
【0071】
実施例6
カップリングに対して使用されるアミノ酸の量を変えて、上記に記載されている手順に従い、アンジオテンシンIを合成した:2×5当量Fmoc-アミノ酸の代わりに、1当量のアミノ酸との単一カップリングを実施した。粗生成物をアセテートバッファー(0.1M、pH=4.5)に溶解し、HPLC-MSで分析した(
図5a)。アミノ-オキシPEGA樹脂(3)を混合物に加え、2時間後、上澄み液をHPLC-MSで分析すると、大部分の不純物がうまく除去されたことを示した(
図5b)。
【0072】
実施例7
上記に記載されている一般的なペプチド合成手順に従い、Des-オクタノイルグレリン(GSSFLSPEHQRVQQRKESKKPPAKLQPR)(配列番号5)(20μmol)を合成した。粗生成物をアセテートバッファー(0.1M、pH=4.5)に溶解し、HPLC-MSで分析し(
図6a)、72%の所望の生成物を含有するという結果となった。混合物を2つのアリコートに分割した。第1のアリコートは分取HPLCで精製し、純度99%および収率25%で所望の生成物を生成した(
図6b)。第2のアリコートはアミノ-オキシPEGA樹脂(3)と共に2時間インキュベートした。所望の生成物を純度92%および収率48%で単離した(
図6c)。この生成物を分取HPLCクロマトグラフィーの対象とすることで、生成物は、最終純度99%および全収率30%で単離することができた(
図6d)。
【表1】
【配列表】