(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】出力帰還制御回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
H02M3/155 H
(21)【出願番号】P 2021565460
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045080
(87)【国際公開番号】W WO2021124910
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019227311
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田古部 勲
(72)【発明者】
【氏名】永里 政嗣
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-009548(JP,A)
【文献】特開2003-060934(JP,A)
【文献】米国特許第04980651(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0107857(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0097902(US,A1)
【文献】米国特許第07002409(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0244262(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110098737(CN,A)
【文献】特開平09-064663(JP,A)
【文献】特開2019-083686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電圧又はこれに応じた帰還電圧と所定の基準電圧との誤差信号を生成する手段として、第1経路を形成する第1信号処理部と、第2経路を形成する第2信号処理部を有し、
前記第1信号処理部は、前記第2信号処理部よりも高精度であり、
前記第2信号処理部は、前記第1信号処理部よりも高速であ
り、
前記第1信号処理部は、第1アンプを含み、
前記第2信号処理部は、第2アンプを含み、
前記第1アンプの入力端には、入力誤差を補正するデジタル較正部が接続されており、
前記デジタル較正部は、前記帰還電圧と前記基準電圧とを比較して生成される入力誤差検出信号に基づき生成されるデジタル較正信号によって前記第1アンプの前記入力誤差を補正する、出力帰還制御回路。
【請求項2】
前記入力誤差検出信号を受けて前記第1アンプの入力誤差が小さくなるように前記デジタル較正信号を生成する制御回路をさらに有する、請求項1に記載の出力帰還制御回路。
【請求項3】
前記第1アンプの出力端には、寄生素子以外のキャパシタが接続されている、
請求項
1又は2に記載の出力帰還制御回路。
【請求項4】
前記第2アンプの出力端には、寄生素子以外のキャパシタが接続されていない、
請求項
1~3のいずれか一項に記載の出力帰還制御回路。
【請求項5】
前記第2アンプの出力端には、抵抗が接続されている、
請求項
1~4のいずれか一項に記載の出力帰還制御回路。
【請求項6】
前記第1アンプは、第1トランスコンダクタンスを持ち、
前記第2アンプは、前記第1トランスコンダクタンスとは異なる第2トランスコンダクタンスを持つ、
請求項
1~5のいずれか一項に記載の出力帰還制御回路。
【請求項7】
前記第1アンプを用いて低域ゲインを決定し、
前記第2アンプを用いて高域ゲインを決定する、
請求項
1~6のいずれか一項に記載の出力帰還制御回路。
【請求項8】
前記第1アンプ及び前記第2アンプは、それぞれ、前記出力電圧または前記帰還電圧と前記基準電圧との差分に応じた第1誤差信号及び第2誤差信号を生成する、
請求項
1~7のいずれか一項に記載の出力帰還制御回路。
【請求項9】
前記第1誤差信号と前記第2誤差信号との加減算により前記誤差信号を生成する演算器をさらに有する、
請求項
8に記載の出力帰還制御回路。
【請求項10】
前記第1アンプの出力端と前記演算器との間に設けられたバッファをさらに有する、
請求項
9に記載の出力帰還制御回路。
【請求項11】
前記第1アンプは、前記出力電圧または前記帰還電圧と前記基準電圧との差分に応じた第1誤差信号を生成し、
前記第2アンプは、前記出力電圧または前記帰還電圧若しくは前記基準電圧と前記第1誤差信号との差分に応じた第2誤差信号を前記誤差信号として出力する、
請求項
1~7のいずれか一項に記載の出力帰還制御回路。
【請求項12】
入力電圧から出力電圧を生成するスイッチング出力回路と、
前記出力電圧またはこれに応じた帰還電圧の入力を受け付けて前記スイッチング出力回路の出力帰還制御を行う請求項1~
11のいずれか一項に記載の出力帰還制御回路と、
を有する、スイッチング電源。
【請求項13】
前記出力帰還制御回路は、前記誤差信号が小さくなるように周波数固定方式で前記スイッチング出力回路を駆動する、
請求項
12に記載のスイッチング電源。
【請求項14】
前記出力帰還制御回路は、前記誤差信号が小さくなるようにオン時間固定方式で前記スイッチング出力回路を駆動する、
請求項
12に記載のスイッチング電源。
【請求項15】
前記出力帰還制御回路は、
前記スイッチング出力回路の下側スイッチに流れるインダクタ電流を検出して下側電流帰還情報を取得する下側電流検出部と、
電圧帰還情報である前記誤差信号に前記下側電流帰還情報を合成して合成帰還情報を生成する情報合成部と、
を含み、
前記合成帰還情報に基づいて前記スイッチング出力回路を駆動する、
請求項
12~14のいずれか一項に記載のスイッチング電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に開示されている発明は、出力帰還制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スイッチング電源やサーボ機構などには、出力電圧が所定の基準電圧と一致するように出力帰還制御を行う出力帰還制御回路が組み込まれている。
【0003】
なお、上記に関連する従来技術の一例としては、特許文献1を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の出力帰還制御回路では、高速化と高精度化の両立について、更なる検討の余地があった。
【0006】
本明細書中に開示されている発明は、本願の発明者らが見出した上記の課題に鑑み、高速化と高精度化を両立することのできる出力帰還制御回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書中に開示されている出力帰還制御回路は、出力電圧又はこれに応じた帰還電圧と所定の基準電圧との誤差信号を生成する手段として、第1経路を形成する第1信号処理部と、第2経路を形成する第2信号処理部を有し、前記第1信号処理部は、前記第2信号処理部よりも高精度であり、前記第2信号処理部は、前記第1信号処理部よりも高速である構成(第1の構成)とされている。
【0008】
上記第1の構成から成る出力帰還制御回路において、前記第1信号処理部は、第1アンプを含み、前記第2信号処理部は、第2アンプを含む構成(第2の構成)にしてもよい。
【0009】
また、上記第2の構成から成る出力帰還制御回路において、前記第1アンプの出力端には、寄生素子以外のキャパシタが接続されている構成(第3の構成)にしてもよい。
【0010】
また、上記第2又は第3の構成から成る出力帰還制御回路において、前記第1アンプの入力端には、入力誤差を補正するデジタル較正部が接続されている構成(第4の構成)にしてもよい。
【0011】
また、上記第2~第4いずれかの構成から成る出力帰還制御回路において、前記第2アンプの出力端には、寄生素子以外のキャパシタが接続されていない構成(第5の構成)にしてもよい。
【0012】
また、上記第2~第5いずれかの構成から成る出力帰還制御回路において、前記第2アンプの出力端には、抵抗が接続されている構成(第6の構成)にしてもよい。
【0013】
また、第2~第6いずれかの構成から成る出力帰還制御回路において、前記第1アンプは、第1トランスコンダクタンスを持ち、前記第2アンプは、前記第1トランスコンダクタンスとは異なる第2トランスコンダクタンスを持つ構成(第7の構成)にしてもよい。
【0014】
また、上記第2~第7いずれかの構成から成る出力帰還制御回路は、前記第1アンプを用いて低域ゲインを決定し、前記第2アンプを用いて高域ゲインを決定する構成(第8の構成)にしてもよい。
【0015】
また、上記第2~第8いずれかの構成から成る出力帰還制御回路において、前記第1アンプと前記第2アンプは、それぞれ、前記出力電圧又は前記帰還電圧と前記基準電圧との差分に応じた第1誤差信号と第2誤差信号を生成する構成(第9の構成)にしてもよい。
【0016】
また、上記第9の構成から成る出力帰還制御回路は、前記第1誤差信号と前記第2誤差信号との加減算により前記誤差信号を生成する演算器を更に有する構成(第10の構成)にしてもよい。
【0017】
また、上記第10の構成から成る出力帰還制御回路は、前記第1アンプの出力端と前記演算器との間に設けられたバッファをさらに有する構成(第11の構成)にしてもよい。
【0018】
また、上記第2~第8いずれかの構成から成る出力帰還制御回路において、前記第1アンプは、前記出力電圧または前記帰還電圧と前記基準電圧との差分に応じた第1誤差信号を生成し、前記第2アンプは、前記出力電圧または前記帰還電圧若しくは前記基準電圧と前記第1誤差信号との差分に応じた第2誤差信号を生成して前記誤差信号として出力する構成(第12の構成)にしてもよい。
【0019】
また、本明細書中に開示されているスイッチング電源は、入力電圧から出力電圧を生成するスイッチング出力回路と、上記第1~第12いずれかの構成から成り前記出力電圧またはこれに応じた帰還電圧の入力を受け付けて前記スイッチング出力回路の出力帰還制御を行う出力帰還制御回路と、を有する構成(第13の構成)とされている。
【0020】
なお、第13の構成から成るスイッチング電源において、前記出力帰還制御回路は、前記誤差信号が小さくなるように周波数固定方式で前記スイッチング出力回路を駆動する構成(第14の構成)にしてもよい。
【0021】
また、第13の構成から成るスイッチング電源において、前記出力帰還制御回路は、前記誤差信号が小さくなるようにオン時間固定方式で前記スイッチング出力回路を駆動する構成(第15の構成)にしてもよい。
【0022】
また、上記第13~第15いずれかの構成から成るスイッチング電源において、前記出力帰還制御回路は、前記スイッチング出力回路の下側スイッチに流れるインダクタ電流を検出して下側電流帰還情報を取得する下側電流検出部と、電圧帰還情報である前記誤差信号に前記下側電流帰還情報を合成して合成帰還情報を生成する情報合成部と、を含み、前記合成帰還情報に基づいて前記スイッチング出力回路を駆動する構成(第16の構成)にしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本明細書中に開示されている発明によれば、高速化と高精度化を両立することのできる出力帰還制御回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図7】単一のアンプで高速化と高精度化の両立が難しい理由を説明するための図
【
図9】第6実施形態における周波数-ゲイン特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
<スイッチング電源(基本構成)>
図1は、スイッチング電源の基本構成を示す図である。本構成例のスイッチング電源100は、入力電圧PVDDから出力電圧VOUTを生成して不図示の負荷に供給するPWM[pulse width modulation]駆動方式のDC/DCコンバータであり、スイッチング出力回路110と、帰還電圧生成回路120と、基準電圧生成回路130と、エラーアンプ140と、ランプ信号生成回路150と、オシレータ160と、PWMコンパレータ170と、制御回路180と、スイッチ駆動回路190と、を有する。
【0026】
上記の構成要素は、スイッチング出力回路110に含まれる一部の構成要素(本図ではインダクタ113とキャパシタ114)を除き、スイッチング電源100の制御主体となる半導体集積回路装置200(いわゆる電源制御IC)に集積化するとよい。なお、半導体集積回路装置200には、上記以外にも任意の構成要素(各種保護回路など)を適宜組み込むことが可能である。
【0027】
また、半導体集積回路装置200は、装置外部との電気的な接続を確立するための手段として、複数の外部端子(本図では、電源端子T1、出力端子T2、接地端子T3、並びに、帰還端子T4の4本を例示)を備えている。
【0028】
スイッチング出力回路110は、ハーフブリッジを形成するように接続された上側スイッチと下側スイッチをオン/オフすることにより、インダクタ電流ILを駆動して入力電圧PVDDから出力電圧VOUTを生成する降圧型のスイッチング出力段であり、出力トランジスタ111と、同期整流トランジスタ112と、インダクタ113と、キャパシタ114と、を含む。
【0029】
出力トランジスタ111は、スイッチング出力段の上側スイッチとして機能するPMOSFET[P channel type metal oxide semiconductor field effect transistor]である。半導体集積回路装置200の内部において、出力トランジスタ111のソースは、電源端子T1(=入力電圧PVDDの印加端)に接続されている。出力トランジスタ111のドレインは、出力端子T2(=スイッチ電圧SWの印加端)に接続されている。出力トランジスタ111のゲートは、上側ゲート信号G1の印加端に接続されている。出力トランジスタ111は、上側ゲート信号G1がハイレベルであるときにオフし、上側ゲート信号G1がローレベルであるときにオンする。
【0030】
同期整流トランジスタ112は、スイッチング出力段の下側スイッチとして機能するNMOSFET[N channel type MOSFET]である。半導体集積回路装置200の内部において、同期整流トランジスタ112のソースは、接地端子T3(=接地電圧PVSSの印加端)に接続されている。同期整流トランジスタ112のドレインは、出力端子T2に接続されている。同期整流トランジスタ112のゲートは、下側ゲート信号G2の印加端に接続されている。同期整流トランジスタ112は、下側ゲート信号G2がハイレベルであるときにオンし、下側ゲート信号G2がローレベルであるときにオフする。
【0031】
インダクタ113とキャパシタ114は、半導体集積回路装置200に外付けされるディスクリート部品であり、スイッチ電圧SWを整流及び平滑して出力電圧VOUTを生成するLCフィルタを形成する。半導体集積回路装置200の外部において、インダクタ113の第1端は、半導体集積回路装置200の出力端子T2に接続されている。インダクタ113の第2端とキャパシタ114の第1端は、出力電圧VOUTの印加端と帰還端子T4に接続されている。キャパシタ114の第2端は、接地端に接続されている。
【0032】
出力トランジスタ111と同期整流トランジスタ112は、上側ゲート信号G1と下側ゲート信号G2に応じて相補的にオン/オフされる。このようなオン/オフ動作により、インダクタ113の第1端には、入力電圧PVDDと接地電圧GNDとの間でパルス駆動される矩形波状のスイッチ電圧SWが生成される。上記した「相補的」という文言は、出力トランジスタ111と同期整流トランジスタ112のオン/オフ状態が完全に逆転している場合だけでなく、両トランジスタの同時オフ期間(デッドタイム)が設けられている場合も含む。
【0033】
なお、スイッチング出力回路110の出力形式については、上記の降圧型に限らず、昇圧型、昇降圧型、並びに、反転型のいずれであっても構わない。また、スイッチング出力回路110の整流方式についても、上記の同期整流方式に限らず、下側スイッチとして整流ダイオードを用いたダイオード整流方式を採用してもよい。
【0034】
また、出力トランジスタ111をNMOSFETに置換することもできる。ただし、その場合には、上側ゲート信号G1のハイレベルを入力電圧PVDDよりも高い電圧値まで引き上げるために、ブートストラップ回路やチャージポンプ回路が必要となる。
【0035】
また、出力トランジスタ111及び同期整流トランジスタ112を半導体集積回路装置200に外付けすることも可能である。その場合には、出力端子T2に代えて、上側ゲート信号G1と下側ゲート信号G2をそれぞれ外部出力するための端子が必要となる。
【0036】
特に、スイッチング出力回路110に対して高電圧が印加される場合には、出力トランジスタ111や同期整流トランジスタ112として、それぞれ、パワーMOSFET、IGBT[insulated gate bipolar transistor]、若しくは、SiCトランジスタ又はGaNトランジスタなどの高耐圧素子を用いるとよい。
【0037】
帰還電圧生成回路120は、帰還端子T4(=出力電圧VOUTの印加端)と接地端との間に直列接続された抵抗121及び122を含み、両抵抗間の接続ノードから出力電圧VOUTに応じた帰還電圧FB(=出力電圧VOUTの分圧電圧)を出力する。
【0038】
なお、出力電圧VOUTがエラーアンプ140の入力ダイナミックレンジ内に収まっている場合には、帰還電圧生成回路120を省略して出力電圧VOUTをエラーアンプ140に直接入力しても構わない。また、抵抗121と並列にキャパシタを接続してもよい。
【0039】
また、抵抗121及び122を半導体集積回路装置200に外付けすることもできる。その場合、抵抗121及び122相互間の接続ノードを帰還端子T4に接続すればよい。
【0040】
基準電圧生成回路130は、所定の基準電圧REF(=出力電圧VOUTの目標設定値に相当)を生成する。なお、基準電圧生成回路130としては、デジタルの基準電圧設定信号をアナログの基準電圧REFに変換するDAC[digital-to-analog converter]を用いるとよい。このような構成であれば、上記の基準電圧設定信号を用いて、起動時のソフトスタート動作を実現したり、出力電圧VOUTを調整したりすることが可能となる。
【0041】
エラーアンプ140は、反転入力端(-)に印加される帰還電圧FBと、非反転入力端(+)に印加される基準電圧REFとの差分に応じた誤差信号ERRを生成する。誤差信号ERRは、帰還電圧FBが基準電圧REFよりも低いときに上昇し、帰還電圧FBが基準電圧REFよりも高いときに低下する。
【0042】
ランプ信号生成回路150は、出力トランジスタ111のオン期間Tonに上昇する三角波状、鋸波状、若しくは、n次スロープ波状(例えばn=2)のランプ信号RAMPを生成する。なお、ランプ信号RAMPは、例えば、出力トランジスタ111のオンタイミングでゼロ値から上昇を開始し、出力トランジスタ111のオフタイミングでゼロ値にリセットされる。
【0043】
オシレータ160は、所定のスイッチング周波数fsw(=1/Tsw)でパルス駆動されるオン信号ON(=クロック信号)を生成する。
【0044】
PWMコンパレータ170は、非反転入力端(+)に印加される誤差信号ERRと、反転入力端(-)に印加されるランプ信号RAMPを比較してオフ信号OFFを生成する。なお、オフ信号OFFは、ランプ信号RAMPが誤差信号ERRよりも低いときにハイレベルとなり、ランプ信号RAMPが誤差信号ERRよりも高いときにローレベルとなる。すなわち、オフ信号OFFのパルス生成タイミングは、誤差信号ERRが高いほど遅くなり、誤差信号ERRが低いほど早くなる。
【0045】
制御回路180は、オン信号ONとオフ信号OFFに応じて上側制御信号S1と下側制御信号S2を生成する。具体的に述べると、制御回路180は、オン信号ONにパルスが生成されたときに、上側制御信号S1と下側制御信号S2をいずれもローレベル(=スイッチ電圧SWをハイレベルとするときの論理レベル)に立ち下げる一方、オフ信号OFFにパルスが生成されたときに、上側制御信号S1と下側制御信号S2をいずれもハイレベル(=スイッチ電圧SWをローレベルとするときの論理レベル)に立ち上げる。
【0046】
従って、出力トランジスタ111のオン期間Ton(=スイッチ電圧SWのハイレベル期間)は、オフ信号OFFのパルス生成タイミングが遅いほど長くなり、逆に、オフ信号OFFのパルス生成タイミングが早いほど短くなる。すなわち、出力トランジスタ111のオンデューティD(=Ton/Tsw)は、誤差信号ERRが高いほど大きくなり、誤差信号ERRが低いほど小さくなる。
【0047】
スイッチ駆動回路190は、上側制御信号S1の入力を受け付けて上側ゲート信号G1を生成する上側ドライバ191と、下側制御信号S2の入力を受け付けて下側ゲート信号G2を生成する下側ドライバ192を含む。上側ドライバ191及び192としては、それぞれ、バッファやインバータを用いることができる。
【0048】
なお、上記構成要素のうち、少なくとも、エラーアンプ140、ランプ信号生成回路150、オシレータ160、PWMコンパレータ170、制御回路180、及び、スイッチ駆動回路190は、帰還電圧FB(延いては出力電圧VOUT)が所定の基準電圧REFと一致するように出力帰還制御を行う出力帰還制御回路として理解することができる。
【0049】
特に、上記の出力帰還制御回路では、誤差信号ERRが小さくなるように周波数固定方式でスイッチング出力回路110が駆動されることになる。
【0050】
<第1実施形態>
図2は、スイッチング電源100の第1実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、電流モード制御方式の出力帰還制御を実現するための手段として、先出の構成要素(本図では、スイッチング出力回路110、エラーアンプ140、ランプ信号生成回路150、オシレータ160、PWMコンパレータ170、及び、制御回路180を明示)に加えて、下側電流検出部210と、情報合成部220と、情報保持部230をさらに有する。
【0051】
なお、本実施形態のスイッチング電源100では、出力電圧VOUT(延いては帰還電圧FB)に応じた電圧帰還情報Vinfoを取得するエラーアンプ140として、差動電流信号IP及びINを出力する電流出力型アンプが用いられている。差動電流信号IP及びINは、互いに逆向きに流れる電流であり、帰還電圧FBと基準電圧REFとの差分に応じて増減する。
【0052】
より具体的に述べると、差動電流信号IPは、REF>FBであるときには、両者の差分が大きいほど正方向(=エラーアンプ140から流れ出る方向)に大きくなり、REF<FBであるときには、両者の差分が大きいほど負方向(=エラーアンプ140に流れ込む方向)に大きくなる。
【0053】
これに対して、差動電流信号INは、差動電流信号IPとは逆に、REF>FBであるときには、両者の差分が大きいほど負方向に大きくなり、REF<FBであるときには、両者の差分が大きいほど正方向に大きくなる。
【0054】
下側電流検出部210は、スイッチ211と抵抗212を含み、同期整流トランジスタ112に流れるインダクタ電流IL(以下では下側インダクタ電流ILLと呼ぶ)を検出して電流帰還情報Iinfoを取得する。
【0055】
スイッチ211の第1端は、同期整流トランジスタ112のドレイン(=スイッチ電圧SWの印加端)に接続されている。スイッチ211の第2端は、抵抗212の第1端に接続されている。抵抗212の第2端は、同期整流トランジスタ112のソース(=接地電圧PVSSの印加端)に接続されている。
【0056】
なお、スイッチ211は、下側ゲート信号G2に応じて同期整流トランジスタ112と共にオン/オフされる。より具体的に述べると、スイッチ211は、同期整流トランジスタ112のオン期間にオンし、同期整流トランジスタ112のオフ期間にオフする。
【0057】
従って、同期整流トランジスタ112のオン期間には、先述の電流帰還情報Iinfoとして、下側インダクタ電流ILLに応じた下側センス信号SNSL(=SW-PVSS=-ILL×RonL、ただし、RonLは同期整流トランジスタ112のオン抵抗)が情報加算部220に伝達される。一方、同期整流トランジスタ112のオフ期間には、下側センス信号SNSLが抵抗212を介してゼロ値に固定されるので、スイッチ電圧SWのハイレベル(≒PVDD)が情報合成部220に伝達されることはない。
【0058】
なお、下側インダクタ電流ILLの検出手法については、同期整流トランジスタ112のドレイン・ソース間電圧を検出する手法のほかにも、任意の手法を採用することが可能である。例えば、同期整流トランジスタ112に直列接続されたセンス抵抗の両端間電圧を検出してもよいし、或いは、同期整流トランジスタ112に並列接続された電流検出用トランジスタのドレイン・ソース間電圧を検出してもよい。
【0059】
情報合成部220は、抵抗221及び222(いずれも抵抗値R)を含み、エラーアンプ140で取得された電圧帰還情報Vinfoに下側電流検出部210で取得された電流帰還情報Iinfoを合成して合成帰還情報VIinfoを生成する。
【0060】
抵抗221の第1端は、エラーアンプ140の第1出力端(=差動電流信号IPの出力端)に接続されている。抵抗221の第2端は、下側電流検出部210の第1出力端(=下側センス信号SNSLの出力端)に接続されている。
【0061】
抵抗222の第1端は、エラーアンプ140の第2出力端(=電流信号INの出力端)に接続されている。抵抗222の第2端は、下側電流検出部210の第2出力端(=世知電圧PVSSの印加端)に接続されている。
【0062】
なお、抵抗221の第1端から出力される正側の差動誤差信号(電圧信号)は、ERRP=IP×R+SWと表すことができる。また、抵抗222の第1端から出力される負側の差動誤差信号(電圧信号)は、ERRN=IN×R+PVSS(ただしIN=-IP)と表すことができる。
【0063】
従って、差動誤差信号ERRP及びERRNの差分信号は、ERRP-ERRN=2IP×R-ILL×RonLと表される。ここで、右辺第1項(2IP×R)は、エラーアンプ140で取得された電圧帰還情報Vinfoとして理解することができる。また、右辺第2項(-ILL×RonL)は、下側電流検出部210で取得された電流帰還情報Iinfoとして理解することができる。従って、上記の差分信号(ERRP-ERRN)は、電圧帰還情報Vinfoに電流帰還情報Iinfoを合成した合成帰還情報VIinfoとして理解することができる。
【0064】
情報保持部230は、合成帰還情報VIinfoの差動入力を受け付けており、同期整流トランジスタ112のオン期間にインダクタ電流ILの下側ピーク値をサンプリングするとともに、出力トランジスタ111のオン期間に差動保持信号HLDP及びHLDNをホールド出力するために、一対のサンプル/ホールド回路231及び232を含む。
【0065】
サンプル/ホールド回路231は、制御回路180からのサンプル/ホールド制御信号HOLDに応じて、同期整流トランジスタ112のオン期間に差動誤差信号ERRPをサンプリングする一方、出力トランジスタ111のオン期間に差動保持信号HLDPをホールド出力する。
【0066】
サンプル/ホールド回路232は、制御回路180からのサンプル/ホールド制御信号HOLDに応じて、同期整流トランジスタ112のオン期間に差動誤差信号ERRNをサンプリングする一方、出力トランジスタ111のオン期間に差動保持信号HLDNをホールド出力する。
【0067】
PWMコンパレータ170は、出力トランジスタ111のオン期間において、反転入力端(-)に入力されるランプ信号RAMP(より正確には、ランプ信号RAMPが足し合わされた差動保持信号HLDN)と、非反転入力端(+)に入力される差動保持信号HLDPとを比較してオフ信号OFFを生成することにより、出力トランジスタ111のオフタイミングを決定する。
【0068】
本実施形態のスイッチング電源100であれば、電流モード制御方式の出力帰還制御を実現することができるので、出力電圧VOUTの負荷応答性を高めることが可能となる。
【0069】
特に、出力トランジスタ111に流れるインダクタ電流IL(以下では上側インダクタ電流ILHと呼ぶ)ではなく、同期整流トランジスタ112に流れる下側インダクタ電流ILLを検出する構成であれば、出力トランジスタ111のオン期間が短くなる場合(例えば高電圧入力時や低電圧出力時)であっても、電流モード制御方式の出力帰還制御を支障なく実施することが可能となる。
【0070】
なお、下側インダクタ電流ILLに応じた電流帰還情報Iinfoを用いて電流モード制御方式の出力帰還制御を行うためには、同期整流トランジスタ112のオン期間(=出力トランジスタ111のオフ期間)に取得された電流帰還情報Iinfoを保持しておくための情報保持部230(サンプル/ホールド回路231及び232)が必須となる。
【0071】
ここで、情報保持部230は、情報加算部220とPWMコンパレータ170との間に設けられており、電圧帰還情報Vinfoに電流帰還情報Iinfoを合成して得られた合成帰還情報VIinfoを保持する。
【0072】
このような構成であれば、情報保持部230のホールド出力期間において、情報保持部230の前段にノイズが重畳しても、PWMコンパレータ170での信号比較処理には、何ら影響が及ばない。従って、安定したデューティ制御を実現することが可能となる。
【0073】
また、電圧帰還情報Vinfoと電流帰還情報Iinfoを加算後にサンプル/ホールドすることにより、電圧帰還情報Vinfoと電流帰還情報Iinfoとの間の時間的な齟齬を防止し、スイッチング電源100の性能を向上することが可能となる。
【0074】
<第2実施形態>
図3は、スイッチング電源100の第2実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、先出の基本構成(
図1)または第1実施形態(
図2)を基本としつつ、積分要素(寄生素子を除く)を持たないエラーアンプ140の入力誤差Vofs(=FB-REF)を検出してエラーアンプ140の入力信号(=帰還電圧FBと基準電圧REFの少なくとも一方)を補正する誤差補正部240をさらに有する。なお、誤差補正部240は、コンパレータ241とデジタル較正部242を含む。
【0075】
コンパレータ241は、エラーアンプ140の入力誤差Vofs(=FB-REF)を検出する手段であり、非反転入力端(+)に入力される帰還電圧FBと反転入力端(-)に入力される基準電圧REFとを比較して入力誤差検出信号S11を生成する。なお、入力誤差検出信号S11は、FB>REF(すなわちVofs>0)であるときにハイレベルとなり、FB<REF(すなわちVofs<0)であるときにローレベルとなる。
【0076】
制御回路180は、入力誤差検出信号S11に基づいて、入力誤差Vofsが小さくなるように、デジタル較正信号S12を生成する。例えば、入力誤差検出信号S11がハイレベルであるときには、帰還電圧FBを引き下げるか、基準電圧REFを引き上げるか、若しくは、その両方を行うように、デジタル較正信号S12を生成すればよい。逆に、入力誤差検出信号S11がローレベルであるときには、帰還電圧FBを引き上げるか、基準電圧REFを引き下げるか、若しくは、その両方を行うように、デジタル較正信号S12を生成すればよい。
【0077】
デジタル較正部242は、デジタル較正信号S12に応じて、帰還電圧FB及び基準電圧REFの少なくとも一方を補正する。なお、デジタル較正部242としては、DACなどが好適に用いられる。また、入力誤差検出信号S11をデジタル較正部242に直接入力し、その内部でデジタル較正信号S12を生成する構成としてもよい。その場合には、制御回路180を要することなく、誤差補正部240だけで入力誤差Vofsの補正処理を完結することができる。
【0078】
次に、誤差補正部240の導入意義について詳細に説明する。
【0079】
一般的なエラーアンプは、積分要素となる位相補償用のキャパシタ(例えば数十pF)を持ち、その充放電を行うことで誤差信号を生成する。そのため、発振を生じ難い反面、信号帯域に制限が掛かるので、電圧帰還制御ループの高速化には不向きである。一方、エラーアンプから積分要素を排除すると、電圧帰還制御ループの高速化を実現できるが、背反として、エラーアンプの入力誤差をキャンセルし難くなる。
【0080】
そこで、本実施形態のスイッチング電源100では、積分要素を持たないエラーアンプ140を用いて電圧帰還制御ループの高速化(数十kHz→数MHz)を図る一方、エラーアンプ140とは別に、エラーアンプ140の入力誤差Vofsを補正するための誤差補正部240が導入されている。
【0081】
このように、高速電圧帰還と誤差補正を並列化することにより、それぞれの設計パラメータを分離することができるので、電圧帰還制御ループの高速化と高精度化を両立することが可能となる。また、一般的なエラーアンプと異なり、位相補償用のキャパシタを必要としないので、チップ面積の縮小やピン数の削減を図ることも可能となる。
【0082】
<第3実施形態>
図4は、スイッチング電源100の第3実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、先出の第2実施形態(
図3)と同じく、誤差補正部240を備えているが、その回路構成が異なっている。
【0083】
より具体的に述べると、本実施形態の誤差補正部240は、先出のコンパレータ241と共に、デジタル較正部246と誤差補正アンプ247を含み、エラーアンプ140の入力誤差Vofsを検出してエラーアンプ140の出力信号(=誤差信号ERRP及びERRN)を補正する。
【0084】
デジタル較正部246(例えばDAC)は、デジタル較正信号S12に応じて、基準電圧REFから誤差補正アンプ247への差動入力信号を生成する。
【0085】
誤差補正アンプ247は、デジタル較正部246からの差動入力信号に応じた補正電流IadjP及びIadjNを生成し、これをエラーアンプ140の差動電流信号IP及びINに足し合わせる。
【0086】
なお、エラーアンプ140は、出力電圧VOUTの変化を高速に伝達するACパス(高速パス)としての役割を持つ。そのため、エラーアンプ140は、コンデンサレスかつスピード重視で設計されている。より端的に述べると、エラーアンプ140は、誤差補正アンプ247よりも高速であると言える。
【0087】
一方、デジタル較正部246と誤差補正アンプ247は、出力電圧VOUTの精度を決定するDCパス(低速パス)としての役割を持つ。そのため、誤差補正アンプ247は、前段のデジタル較正部246と共に、省電力かつ精度重視で設計されている。より端的に述べると、誤差補正アンプ247は、エラーアンプ140よりも高精度であると言える。
【0088】
このように、エラーアンプ140の入力信号を補正するのではなく、エラーアンプ140の出力信号を補正する構成であっても、電圧帰還制御ループの高速化と高精度化を両立することが可能である。
【0089】
<第4実施形態>
図5は、スイッチング電源100の第4実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、先の第2実施形態(
図3)や第3実施形態(
図4)と同じく、誤差補正部240を備えているが、その回路構成が異なっている。
【0090】
より具体的に述べると、本実施形態の誤差補正部240は、誤差補正アンプ243と、キャパシタ244と、抵抗245を含み、エラーアンプ140の入力誤差Vofsを検出して補正電流Iadj(=第1誤差信号に相当)を生成し、これを用いてエラーアンプ140から出力される誤差信号ERR0(=第2誤差信号に相当)を補正する。
【0091】
なお、本実施形態では、説明を簡単とするために、エラーアンプ140をシングル出力型としているが、先の第2実施形態(
図3)や第3実施形態(
図4)に倣い、エラーアンプ140を差動出力型としても構わない。
【0092】
誤差補正アンプ243は、反転入力端(-)に印加される帰還電圧FBと非反転入力端(+)に印加される基準電圧REFとの差分(=入力誤差Vofs)に応じた補正電流Iadjを生成する。なお、FB<REF(すなわちVofs>0)であるときには、両者の差分が大きいほど補正電流Iadjが正方向(=誤差補正アンプ243の出力端から抵抗245を介してエラーアンプ140の出力端に向かう方向)に大きくなる。一方、FB>REF(すなわちVofs<0)であるときには、両者の差分が大きいほど補正電流Iadjが負方向(=エラーアンプ140の出力端から抵抗245を介して誤差補正アンプ243の出力端に向かう方向)に大きくなる。
【0093】
ただし、誤差補正アンプ243は、あくまで、入力誤差Vofsの補正手段としてエラーアンプ140に並列接続されており、その電流能力は、エラーアンプ140の電流能力よりも十分に小さく抑えられている(例えば数μA)。また、誤差補正アンプ243の出力端には、小容量(例えば数pF)のキャパシタ244が接続されている。すなわち、誤差補正アンプ243は、積分要素を持ち、エラーアンプ140よりも低速かつ高精度な電流出力型アンプであると言える。
【0094】
抵抗245(抵抗値:Radj)は、エラーアンプ140の出力端と誤差補正アンプ243の出力端との間に接続されており、その両端間電圧を補正電圧Vadj(=Iadj×Radj)として誤差信号ERRに足し合わせることにより、補正済みの誤差信号ERR(=ERR0+Vadj)を生成するための加算器として機能する。
【0095】
例えば、FB<REFであるときには、正方向の補正電流Iadjが流れるので、誤差信号ERR0が補正電圧Vadjだけ引き上げられる。その結果、補正済みの誤差信号ERRが上昇した分だけ、出力トランジスタ111のオフタイミングが遅れるので、出力電圧VOUT(延いては帰還電圧FB)が上昇し、入力誤差Vofsが減少する。
【0096】
一方、FB>REFであるときには、負方向の補正電流Iadjが流れるので、誤差信号ERR0が補正電圧Vadjだけ引き下げられる。その結果、補正済みの誤差信号ERRが低下した分だけ、出力トランジスタ111のオフタイミングが早まるので、出力電圧VOUT(延いては帰還電圧FB)が低下し、入力誤差Vofsが減少する。
【0097】
このように、エラーアンプ140に対して低速かつ高精度な誤差補正アンプ243を並列に接続することにより、先の第2実施形態や第3実施形態と同じく、電圧帰還制御ループの高速化と高精度化を両立することが可能となる。
【0098】
<第5実施形態>
図6は、スイッチング電源100の第5実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、先の第2実施形態(
図3)、第3実施形態(
図4)、第4実施形態(
図5)と同じく、誤差補正部240を備えているが、その回路構成が異なっている。
【0099】
より具体的に述べると、本実施形態の誤差補正部240は、先の第3実施形態(
図4)を基本としつつ、コンパレータ241及びデジタル較正部246に代えて、第4実施形態(
図5)の誤差補正アンプ243及びキャパシタ244を含む。
【0100】
誤差補正アンプ243は、その出力端に小容量(例えば数pF)のキャパシタ244が接続された電流出力型アンプである。なお、キャパシタ244に充電された誤差電圧Vcは、FB<REF(すなわちVofs>0)であるときに上昇し、FB>REF(すなわちVofs<0)であるときに低下する。このように、誤差補正アンプ243及びキャパシタ244は、入力誤差Vofsを積分して誤差電圧Vcを生成する積分器に相当する。
【0101】
誤差補正アンプ247は、非反転入力端(+)に入力される誤差電圧Vcと、反転入力端(-)に入力される基準電圧REFとの差分値に応じた補正電流IadjP及びIadjNを生成し、これをエラーアンプ140の差動電流信号IP及びINに足し合わせる。
【0102】
なお、エラーアンプ140は、先にも述べたように、出力電圧VOUTの変化を高速に伝達するACパス(高速パス)としての役割を持つ。そのため、エラーアンプ140は、コンデンサレスかつスピード重視で設計されている。より端的に述べると、エラーアンプ140は、誤差補正アンプ247よりも高速であると言える。
【0103】
一方、誤差補正アンプ247とその前段に接続される積分器(=誤差補正アンプ243及びキャパシタ244)は、出力電圧VOUTの精度を決定するDCパス(低速パス)としての役割を持つ。そのため、誤差補正アンプ247は、その前段の積分器と共に、省電力かつ精度重視で設計されている。より端的に述べると、誤差補正アンプ247は、エラーアンプ140よりも高精度であると言える。
【0104】
本構成を採用することにより、先の第2実施形態、第3実施形態、ないしは、第4実施形態と同じく、電圧帰還制御ループの高速化と高精度化を両立することが可能となる。
【0105】
特に、スイッチング電源100に軽負荷モード(=軽負荷時にスイッチング動作を一時停止して消費電力を低減する省電力モード)が実装される場合には、積分要素を持たないエラーアンプ140を用いて高速な出力帰還制御を実現することにより、軽負荷モードからの復帰時における過渡応答特性を高めておくことが重要となる。
【0106】
ただし、本実施形態のスイッチング電源100では、スイッチング動作が一時停止される軽負荷モードにおいて、上記の積分器で誤差電圧Vcを保持しておくことができない。そのため、軽負荷モードからの復帰時に誤差補正アンプ247が誤動作を生じ得る。
【0107】
このような不具合を回避するためには、例えば、軽負荷モードでも誤差電圧Vcが所定の下限値を下回らないように制限するクランパ(不図示)を積分器の後段に設けておくとよい。また、もちろん、先出の第2実施形態(
図3)や第3実施形態(
図4)を採用し、デジタル較正部246を用いて電圧情報を保持してもよい。
【0108】
<高速化と高精度化の両立>
図7は、単一のエラーアンプ140を用いて高速化と高精度化を両立することが難しい理由を説明するための図である。なお、以下では、エラーアンプ140のトランスコンダクタンスがgmであるものとして説明する。
【0109】
本図で示したように、エラーアンプ140の出力端には、一般に、位相補償用の抵抗Rc及びCcが接続されているほか、寄生素子として抵抗RoやキャパシタCpが付随している。そのため、例えば、エラーアンプ140の伝達関数が2つの極(第1ポールと第2ポール)と1つのゼロ点を含む場合には、第1ポールがgm、Ro及びCcに応じて決まり、第2ポールがgm、Rc及びCpに応じて決まり、ゼロ点がgm、Rc及びCcに応じて決まる。
【0110】
このように、2つの極と1つのゼロ点は、それぞれの関係が独立していない。また、半導体集積回路装置200では、内部パラメータ(gm、Rc、Ccなど)の設定値に制約がある。そのため、単一のエラーアンプ140を用いて2つの極と1つのゼロ点を狙い通りに設定することは困難である。
【0111】
例えば、エラーアンプ140の精度を高めるために、エラーアンプ140の素子サイズを大型化すると、寄生のキャパシタCpも大きくなるので、エラーアンプ140の応答速度が低下してしまう。一方、エラーアンプ140の応答速度を高めるためには、できるだけ寄生のキャパシタCpが付随しないように、エラーアンプ140の素子サイズを小型化しなければならないので、エラーアンプ140の精度が犠牲となる。
【0112】
以下では、上記の考察に鑑み、高速化と高精度化を両立することのできる出力帰還制御回路について提案する。
【0113】
<第6実施形態>
図8は、スイッチング電源100の第6実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、出力帰還制御回路の構成要素として、単一のエラーアンプ140ではなく、第1経路(DCパス/低速パス)を形成する第1信号処理部(例えばエラーアンプ140a)と、第2経路(ACパス/高速パス)を形成する第2信号処理部(例えばエラーアンプ140b)と、を有する。すなわち、本実施形態のスイッチング電源100では、先出のエラーアンプ140が2つに分離されている。なお、以下では、エラーアンプ140a及び140bそれぞれのトランスコンダクタンスがgm1及びgm2(ただしgm1≠gm2)であるものとして説明する。
【0114】
エラーアンプ140aは、出力電圧VOUTの精度を決定するDCパス(低速パス)としての役割を持つ。そのため、エラーアンプ140aは、省電力かつ精度重視(高ゲインかつ低オフセット重視)で設計されている。より端的に述べると、エラーアンプ140aは、エラーアンプ140bよりも高精度であると言える。
【0115】
なお、エラーアンプ140aの出力端には、位相補償用のキャパシタCcが接続されている。従って、Cc>>Cpであれば、寄生のキャパシタCpを無視することができる。また、エラーアンプ140aの出力端には、寄生素子として抵抗Roが付随している。その結果、第1ポールがgm1、Ro及びCcに応じて決まる。
【0116】
これに対して、エラーアンプ140bは、出力電圧VOUTの変化を高速に伝達するACパス(高速パス)としての役割を持つ。そのため、エラーアンプ140bは、コンデンサレスかつスピード重視で設計されている。より端的に述べると、エラーアンプ140bは、エラーアンプ140aよりも高速であると言える。
【0117】
なお、エラーアンプ140bの出力端には、位相補償用の抵抗Rcが接続されている。従って、Rc<<Roであれば、寄生の抵抗Roを無視することができる。また、エラーアンプ140bの出力端には、寄生素子としてキャパシタCpが付随している。逆に言うと、エラーアンプ140bの出力端には、寄生素子以外のキャパシタ(例えば、位相補償用のキャパシタCc)が接続されていない。すなわち、エラーアンプ140bは、積分要素を持たない。従って、第2ポールがgm2、Rc及びCpに応じて決まる。
【0118】
このように、低速パスを形成するエラーアンプ140aと、高速パスを形成するエラーアンプ140bを個別に用意することにより、それぞれのトランスコンダクタンスgm1及びgm2を互いに独立して任意に設定することができる。その結果、伝達関数の調整範囲が広がるので、電圧帰還制御ループの高速化と高精度化を両立することが可能となる。
【0119】
図9は、第6実施形態における周波数-ゲイン特性を示す図である。本図で示したように、低域ゲインは、低速パスを形成するエラーアンプ140aを用いて決定することができる。例えば、低域ゲインを引き上げるためには、トランスコンダクタンスgm1を小さくしたり、キャパシタCcの容量値を大きくしたりすればよい。
【0120】
一方、高域ゲインは、高速パスを形成するエラーアンプ140bを用いて決定することができる。例えば、高域ゲインを引き上げるためには、トランスコンダクタンスgm2を大きくしたり、抵抗Rcの抵抗値を高くしたりすればよい。
【0121】
<第7実施形態>
図10は、スイッチング電源100の第7実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、先出の第6実施形態(
図8)を基本としつつ、エラーアンプ140a及び140b、並びに、位相補償用の抵抗Rc及びキャパシタCcに加えて、バッファ141と演算器142(本図の例では加算器)を含む。
【0122】
エラーアンプ140aは、反転入力端(-)に入力される帰還電圧FBと、非反転入力端(+)に入力される基準電圧REFとの差分に応じた誤差信号ERR1を出力する。なお、先出の第3実施形態(
図4)に倣い、エラーアンプ140aの入力端には、入力誤差Vofsを補正するデジタル較正部246を接続してもよい。その場合、キャパシタCcは省略することも可能である。
【0123】
エラーアンプ140bは、反転入力端(-)に入力される帰還電圧FBと、非反転入力端(+)に入力される基準電圧REFとの差分に応じた誤差信号ERR2を出力する。
【0124】
バッファ141は、エラーアンプ140aの出力端と演算器142との間に設けられており、エラーアンプ140aで生成された誤差信号ERR1を演算器142に出力する。
【0125】
演算器142は、誤差信号ERR1及びERR2を足し合わせて誤差信号ERRを生成し、これを後段のPWMコンパレータ170(不図示)に出力する。
【0126】
このように、低速パスを形成するエラーアンプ140aと、高速パスを形成するエラーアンプ140bを個別に用意し、双方で生成される誤差信号ERR1及びERR2の加減算を行うことにより、電圧帰還制御ループの高速化と高精度化を両立することができる。
【0127】
<第8実施形態>
図11は、スイッチング電源100の第8実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、先出の第6実施形態(
図8)を基本としつつ、エラーアンプ140a及び140b相互間の接続関係に工夫が凝らされている。
【0128】
エラーアンプ140aは、反転入力端(-)に入力される帰還電圧FBと、非反転入力端(+)に入力される基準電圧REFとの差分に応じた誤差信号ERR1を出力する。なお、先出の第3実施形態(
図4)に倣い、エラーアンプ140aの入力端には、入力誤差Vofsを補正するデジタル較正部246を接続してもよい。その場合、キャパシタCcは省略することも可能である。
【0129】
エラーアンプ140bは、反転入力端(-)に入力される帰還電圧FBと、非反転入力端(+)に入力される誤差信号ERR1との差分に応じた誤差信号ERR2を生成して、これを誤差信号ERRとして後段のPWMコンパレータ170(不図示)に出力する。
【0130】
本実施形態のスイッチング電源100であれば、先出の第7実施形態(
図10)と異なり、バッファ141や演算器142を要することなく、電圧帰還制御ループの高速化と高精度化を両立することができる。
【0131】
なお、改めて図示はしないが、帰還電圧FB及び基準電圧REFそれぞれの入力端を互いに入れ替えるとともに、エラーアンプ140bの入力極性を正負反転させても、上記と同様の作用効果を享受することが可能である。
【0132】
<第9実施形態>
図12は、スイッチング電源100の第9実施形態を示す図である。本実施形態のスイッチング電源100は、先出の第8実施形態(
図11)を基本としつつ、エラーアンプ140bの後段に続く構成要素として、スイッチング出力回路110、PWMコンパレータ170、制御回路180、下側電流検出部210、情報合成部220、及び、オン時間設定部250が描写されている。なお、既出の構成要素については、基本的に、
図1、
図2及び
図11と同一の符号を付すことで重複した説明を省略し、以下では、本実施形態の特徴部分について重点的に詳述する。
【0133】
下側電流検出部210は、同期整流トランジスタ112に流れる下側インダクタ電流ILLを検出して電流帰還情報Iinfoを取得する。
【0134】
情報合成部220は、エラーアンプ140bから出力される電圧帰還情報Vinfoに下側電流検出部210で取得された電流帰還情報Iinfoを合成して合成帰還情報VIinfo(=正側誤差信号ERRP及び負側誤差信号ERRN)を生成する。
【0135】
PWMコンパレータ170は、非反転入力端(+)に入力される正側誤差信号ERRPと、反転入力端(-)に入力される負側誤差信号ERRNとを比較することにより、セット信号SETを生成する。
【0136】
オン時間設定部250は、セット信号SETのパルス生成タイミングから所定のオン時間が経過した時点で、リセット信号RSTにパルスを生成する。
【0137】
制御回路180は、セット信号SETのパルス生成タイミングでスイッチ電圧SWをハイレベルにセットし、リセット信号RSTのパルス生成タイミングでスイッチ電圧SWをローレベルにリセットするように、上側制御信号S1と下側制御信号S2を生成する。
【0138】
本実施形態のスイッチング電源100であれば、エラーアンプ140a及び140bを含む出力帰還制御回路を用いて、誤差信号ERR(=ERRP-ERRN)が小さくなるように、オン時間固定方式でスイッチング出力回路110を駆動することができる。
【0139】
特に、電圧帰還情報Vinfoだけでなく、電流帰還情報Iinfoを加味した出力帰還制御を行うことにより、帰還電圧FBに重畳するリップル成分が小さい場合(例えば、キャパシタ114として低ESR[equivalent series resistance]のセラミックキャパシタを用いる場合)であっても、安定した出力帰還制御を実現することが可能となる。
【0140】
<実施形態の組み合わせ>
なお、これまでに説明してきた種々の実施形態は、矛盾のない限り、任意に組み合わせることが可能である。
【0141】
例えば、第2実施形態(
図3)、第3実施形態(
図4)、第4実施形態(
図5)、第5実施形態(
図6)、第6実施形態(
図8)、又は、第7実施形態(
図10)で生成される誤差信号ERRを用いて、第9実施形態(
図12)で例示したオン時間固定方式の出力帰還制御を行うことも可能である。
【0142】
<アプリケーション>
また、これまでに説明してきたスイッチング電源100は、様々なアプリケーションの電源手段として利用することができる。なお、アプリケーションの一例としては、
図13のテレビX、
図14のパソコンY、及び、
図15のスマートフォンZを挙げることができる。もちろん、ここに挙げた以外のアプリケーションにもスイッチング電源100を適用し得ることは言うまでもない。
【0143】
<その他の変形例>
なお、本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0144】
例えば、出力帰還制御回路が組み込まれるスイッチング電源は、スイッチング周波数fswが固定である構成(
図1など)としてもよいし、スイッチング周波数fswが可変である構成(
図12など)としてもよい。また、電流モード制御方式であるか電圧モード制御方式であるかも不問である。
【0145】
また、エラーアンプの出力形式は、シングルまたは差動のいずれであっても構わない。
【0146】
また、出力帰還制御回路の適用対象は、何らスイッチング電源に限らず、他形式の電源であってもよいし、電源以外のサーボ機構などであってもよい。
【0147】
このように、本明細書中に開示されている種々の実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本明細書中に開示されている出力帰還制御回路は、出力電圧またはこれに応じた帰還電圧が所定の基準電圧と一致するように出力帰還制御を行う必要のあるスイッチング電源やサーボ機構などに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0149】
100 スイッチング電源
110 スイッチング出力回路
111 出力トランジスタ(PMOSFET)
112 同期整流トランジスタ(NMOSFET)
113 インダクタ
114 キャパシタ
120 帰還電圧生成回路
121、122 抵抗
130 基準電圧生成回路
140、140a、140b エラーアンプ
141 バッファ
142 演算器
150 ランプ信号生成回路
160 オシレータ
170 PWMコンパレータ
180 制御回路
190 スイッチ駆動回路
191、192 ドライバ
200 半導体集積回路装置(電源制御装置)
210 下側電流検出部
211 スイッチ
212 抵抗
220 情報合成部
221、222 抵抗
230 情報保持部
231、232 サンプル/ホールド回路
240 誤差補正部
241 コンパレータ
242 デジタル較正部
243 誤差補正アンプ
244 キャパシタ
245 抵抗
246 デジタル較正部
247 誤差補正アンプ
250 オン時間設定部
Cc、Cp キャパシタ
Rc、Ro 抵抗
T1、T2、T3、T4 外部端子
X テレビ
Y パソコン
Z スマートフォン