(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】スパーク浸食切断のためのワイヤ電極および該ワイヤ電極を生産する方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/08 20060101AFI20241105BHJP
B23H 1/06 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
B23H7/08
B23H1/06
(21)【出願番号】P 2021566215
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(86)【国際出願番号】 EP2020062930
(87)【国際公開番号】W WO2020229365
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-19
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511082159
【氏名又は名称】ベルケンホフ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リンク, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】バルテル, ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ネッテ, トビアス
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-510378(JP,A)
【文献】国際公開第2018/071284(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/08
B23H 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパーク浸食切断のためのワイヤ電極であって、前記ワイヤ電極は、
金属または金属合金を含むコア(2)と、
前記コア(2)を包囲している被覆材(3、4、6)と
を有し、
前記被覆材(3、4、6)は、1つ以上の被覆材層(3、4、6)を備え、
前記1つ以上の被覆材層(3、4、6)のうちの1つ
は、複数の領域(3)を備え、
前記複数の領域(3)の形態
は、複数の塊状粒子に対応し、前記
複数の塊状粒子は
、それらの円周の一部に
少なくともわたって、互いに、これらの領域を備えている前記層の材料から、1つ以上のさらなる層の材料から、および/または、前記コア材料から
、複数の亀裂によって空間的に分離され
ており、
前記ワイヤ縦軸
に垂直
なまたは平行なワイヤ断面において視認されると
、塊状粒子の形態を
有する領域の表面積の50%超の部分が、38
重量%~49重量%の亜鉛濃度を
有する銅-亜鉛合金を含むことを特徴とする、ワイヤ電極。
【請求項2】
0.05
μm~2μmの厚さ
の50重量%超の範囲の酸化亜鉛から成る薄い上層が
前記複数の塊状粒子上に存在し、この上層は、前記
複数の塊状粒子内に含まれ
ている前記銅-亜鉛合金
が通り抜けた
複数の領域を
前記ワイヤ電極の表面上に有する、請求項1に記載のワイヤ電極。
【請求項3】
前記金属は、銅であり、前記金属合金は、銅-亜鉛合金である、請求項1または請求項2に記載のワイヤ電極。
【請求項4】
1つまたはさらなる被覆材層の
前記材料および/または前記
コア材料は、前記
複数の塊状粒子の形態を
有する複数の領域
の間
に前記ワイヤ円周に沿って出現する、請求項1
~3のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項5】
前記ワイヤ軸
に垂直
なまたは平行なワイヤ断面において視認されると、前記
複数の塊状粒子の形態を
有する前記
複数の領域の50%超の前記部分は、40
重量%~48重量%の亜鉛濃度を
有する銅-亜鉛合金を含む、請求項1
~4のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項6】
前記ワイヤ軸
に垂直
なまたは平行なワイヤ断面において視認されると、前記
複数の塊状粒子の形態を
有する前記
複数の領域の50%未満
の部分は、49
重量%~68重量%超の亜鉛濃度を
有する銅-亜鉛合金を含む、請求項1
~5のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項7】
前記
複数の塊状粒子の形態を
有する前記
複数の領域は、これらの領域内の前記合金材料に対して0.01
重量%~1重量%の総割合を伴って、Mg、Al、Si、Mn、Fe、Snの群からの1つ以上の金属を含む、請求項
1~6のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項8】
前記
複数の塊状粒子の形態を
有する前記
複数の領域は、不可避
の不純物を除き、銅および亜鉛のみから成る、請求項1
~6のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項9】
前記
複数の塊状粒子の形態を
有する前記
複数の領域の範囲は、ワイヤ断面の半径方向において測定されると、1
μm~30μm、特に、2
μm~15μmである、請求項1
~8のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項10】
前記ワイヤ電極の前記被覆材(3、4)は、内側被覆材層領域(4)を備え、
前記内側被覆材層領域(4)は、38
重量%~58重量%の亜鉛割合を
有する銅-亜鉛合金を含む、請求項1
~9のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項11】
前記ワイヤ電極の前記被覆材(3、4)は、内側被覆材層領域(4)を備え、
前記内側被覆材層領域(4)は、38
重量%~51重量%の亜鉛割合を
有する銅-亜鉛合金を含む、請求項1
~10のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項12】
前記ワイヤ軸
に垂直なワイヤ断面において視認されると、その形態が
複数の塊状粒子に対応する前記
複数の領域(3)を備えている前記層(3、4)の
前記内側被覆材層領域(4)と、前記コア(2)との間の境界、または、前記内側被覆材層領域(4)と、前記コアと前記層(3、4)との間に配置され
ている1つ以上のさらなる層との間の境界は、不規則的
な形状を有し、特に、ほぼ波状の形状を有する、請求項
10~11のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項13】
前記被覆材層(3、4)も、前記内側領域内に、前記コア材料または下に位置しているさらなる被覆材層が前記
ワイヤ断面の
半径方向に通り抜けている切れ目を有する、請求項
10~12のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項14】
前記ワイヤ電極の前記被覆材(3、4)は、外側被覆材層(6)を有し、前記外側被覆材層(6)は、少なくとも50重量%の範囲の亜鉛、亜鉛合金、または
、酸化亜鉛から成る、請求項1
~13のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項15】
前記
複数の塊状粒子の形態を
有する前記
複数の領域は、それらの円周の一部にわたって、互いに、これらの領域を備えている前記層の材料から、1つ以上のさらなる層の材料から、および/または、前記コア材料から
、それらを空間的に分離する前記
複数の亀裂(7)に沿って、酸化亜鉛を含む、請求項1
~14のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項16】
前記
複数の塊状粒子の形態を
有する前記
複数の領域(3)は、
複数の内部亀裂(7‘)を有する、請求項1
~15のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項17】
酸化亜鉛が、前記
複数の内部亀裂(7‘)に沿って存在する、請求項
16に記載のワイヤ電極。
【請求項18】
前記コア(2)は、
銅から形成されている、または、前記コア(2)は、2
重量%~40重量%の亜鉛含有量
を有する銅-亜鉛合金から形成され
ている、請求項1
~17のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項19】
前記ワイヤ電極の前記表面の走査電子顕微鏡検査(SEM)写真が、(1)ラメラが50重量%超の範囲の酸化亜鉛から成る前記上層から形成されている白色に見える複数の領域と、(2)ラメラが前記複数の塊状粒子の材料から形成されている灰色に見える複数の領域とを示す、請求項2
~18のいずれか
一項に記載のワイヤ電極。
【請求項20】
前記
複数の塊状粒子の材料から形成され
ている前記ラメラの幅は、5μm未満
であり、好ましくは、3μm未満である、請求項
19に記載のワイヤ電極。
【請求項21】
請求項1
~20のいずれか
一項に記載のワイヤ電極
を生産する方法であって、銅または真鍮を含むコア(2)が、第1の直径において亜鉛でコーティングされ、主としてγ真鍮から成る脆く硬い被覆材層を
有するワイヤが、第1の拡散アニーリングを通して形成され、このワイヤは、第2の直径まで延伸され、その結果として、γ真鍮の層が、分裂し、
複数の領域(3)が、
複数の塊形状粒子に対応する形態を
有するように生じ、前記
複数の領域(3)は
、それらの円周の一部に
少なくともわたって、互いに、これらの領域を備えている前記層の材料から、1つ以上のさらなる層の材料から、および/または、前記コア材料から、
複数の亀裂によって空間的に分離され、前記ワイヤは、次いで、第2の拡散アニーリングを受け、その結果として、主要部分、すなわち、前記
複数の塊状粒子の形態を
有する前記
複数の領域の50%超の主要部分が、38
重量%~49重量%の亜鉛含有量を有することを特徴とする、方法。
【請求項22】
前記ワイヤは、酸素の存在下で、前記第2の拡散アニーリングを受け、50重量%超の範囲の酸化亜鉛を含む上層が、前記
複数の塊状粒子上に生じ、次いで、前記ワイヤは、随意に、マルチステップ延伸プロセスを受け
、酸化亜鉛の
前記上層は、分裂し、前記
複数の塊状粒子の材料は、
前記マルチステップ延伸プロセスによって生じる複数の孔内に出現する、請求項
21に記載
の方法。
【請求項23】
前記第1の拡散アニーリングは、180
℃~300℃のアニーリング温度において、2
時間~8時間にわたって、少なくとも80℃/時の平均加熱率および少なくとも60℃/時の平均冷却率を伴ってもたらされ、前記第2の拡散アニーリングは、300
℃~520℃のアニーリング温度において、4
時間~24時間にわたって、少なくとも100℃/時の平均加熱率および少なくとも80℃/時の冷却率を伴ってもたらされる、請求項
21に記載
の方法。
【請求項24】
60
%~85%の範囲内の前記ワイヤの総断面低減が、前記第2の拡散アニーリング後、前記延伸プロセスを通してもたらされ、マルチステップ延伸プロセスが実施された場合、8
%~12%の範囲内の断面低減が、各延伸ステップにおいてもたらされる、請求項
22に記載
の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパーク浸食(spark-erosion)切断のためのワイヤ電極およびその生産のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパーク浸食法(電気放電機械加工(EDM))は、導電性ワークピースを分離するために使用され、EDMは、ワークピースとツールとの間のスパーク放電を用いた材料の除去に基づく。この目的のために、例えば、脱イオン水または油等の誘電液体中において、制御されたスパーク放電が、それぞれのワークピースとツールとの間に生産され、ツールは、ワークピースから短距離に配置され、電圧パルスの印加を通して、電極としての機能を果たす。このように、例えば、金属、導電性セラミック、または複合材料等から成るワークピースが、その硬度に関係なく、実質的に機械加工されることができる。スパーク放電のための電気エネルギーは、浸食機械のパルス発生器によって提供される。
【0003】
ツールが、約0.02~0.4mmの範囲内の典型的直径を有する緊張された細ワイヤによって構成される特殊スパーク浸食法は、スパーク浸食切断またはワイヤ浸食である。ワイヤが材料の除去の結果として浸食プロセス中に摩耗するので、ワイヤは、切断または機械加工ゾーンを通して持続的に延伸される必要があり、1回のみ使用されることができ、すなわち、ワイヤは、持続的に消費される。所望の切断輪郭は、最初に、比較的に高放電エネルギーを用いた、いわゆる主切断を通して遂行される。ワークピースの輪郭精度および表面粗度を改良するために、主切断後、連続的に低減させられた放電エネルギーを用いた1回以上のいわゆるトリミング切断が続くことができる。これらのトリミング切断中、ワイヤ電極は、その円周の一部のみと係合される。
【0004】
実践では、コーティングされたワイヤ電極およびコーティングされていないワイヤ電極の両方が使用され、それらは、最近は、通常、真鍮または銅に基づいて生産される。裸ワイヤとも称されるコーティングされていないワイヤ電極は、均質材料から成る一方、コーティングされたワイヤ電極は、被覆またはコーティングされたコアを有する。最新技術では、コーティングされたワイヤ電極は、通常、1つの被覆材層または重なり合って配置されるいくつかの被覆材層から成り得る外被または被覆材が実際の浸食プロセスに関与する一方、ワイヤ電極のコアが、例えば、ワイヤの貫通およびワイヤ予緊張のために必要な引張強度と必要電気および熱伝導率とを授けるように構築される。
【0005】
裸ワイヤは、典型的に、35~40重量%の亜鉛割合を伴う真鍮から成る一方、大部分のコーティングされたワイヤは、銅または真鍮のコアと、亜鉛または銅-亜鉛合金の1つ以上の被覆材層とを有する。実際の浸食プロセスに関わる材料として、亜鉛の存在に起因するその低水蒸気化温度を伴う亜鉛および真鍮は、比較的に高除去率および浸食プロセスの効率と、ワークピース表面の微細な仕上げのための非常に小パルスエネルギーの伝達、すなわち、可能な限り小さい表面粗度を発生させる機械加工の可能性との利点をもたらす。この背景に反して、微細な仕上げの目的のために、主として、または排他的に、亜鉛から成る被覆材層を有するワイヤ電極が、多くの場合、使用される。
【0006】
裸ワイヤと比較して、除去率または切断性能が、純亜鉛または主として純亜鉛のコーティングを具備するワイヤを使用することによって、増加させられ得ることが公知である。さらに、例えば、酸化亜鉛または酸化カドミウムの薄い上層は、ワイヤ電極の切断性能のために有利であることが公知である(第US4,977,303号参照)。さらに、βまたはβ’相を含む真鍮のコーティングを伴うワイヤが、次に、βまたはβ’真鍮合金内の亜鉛結合が、純亜鉛と比較してよりゆっくりと水蒸気化し、したがって、ワイヤが切断または機械加工ゾーンを通過する間、十分に長い時間にわたって除去を促進するために利用可能であるので、前述の亜鉛コーティングされたワイヤより高い切断性能を達成することが公知である。さらに、被覆材の亜鉛含有量は、真鍮のγ相および/またはε相のコーティングを有するワイヤを使用して、さらに増加させられることができ、原理上、同じまたはより高い切断性能が、βまたはβ’真鍮のコーティングを伴う前述のワイヤと比較して達成されることができる。
【0007】
高切断性能を達成するために、例えば、拡散を通して、最終直径より大きい直径において、脆性合金(γ相における真鍮等)からコーティングを生産し、次いで、冷間成形によって、それを最終寸法まで延伸させることが有利であることが証明されている。結果として、脆く硬い層は、破砕して開放し、その結果として、くぼみおよび持続亀裂が、その中に形成され、その真下に位置する材料が、出てくる(第US5,945,010号、第US6,303,523号参照)。亀裂およびくぼみは、ワイヤの表面積を増加させる。後者は、それによって、周囲誘電体によってより良好に冷却され、間隙から除去された粒子の除去も、促進される。それは別として、放電が、好ましくは、電場の過剰な増加に起因して、亀裂によって生産される縁に形成される。これは、ワイヤ電極の点火性、したがって、切断性能を促進する。
【0008】
切断性能を増加させるためのこの発展およびさらなる発展は、被覆材構築多層において、随意に、さらなる層を伴う挙げられた被覆材層の異なるものの組み合わせにも基づく。往々にして、時として、対応する生産プロセス中に生じる拡散プロセスに必然的に起因して、例えば、αおよびβ相、またはβおよびγ相の相混合物を伴う真鍮被覆材層を有する外被も、ここで提案されている。
【0009】
第US7,723,635号では、コアと、約37~49.5重量%亜鉛を伴う真鍮合金の第1の被覆材層とを有するワイヤ電極が、提案されており、均一に分散されたいわゆる粒塊(互いに間隔を置かれ、約49.5~58重量%亜鉛の亜鉛割合を伴う真鍮合金を含む)が、被覆材層内に埋め込まれて存在する。そのようなワイヤ電極を用いることで、浸食特性は、改良された導電性および強度に基づいて、向上させられることになる。
【0010】
第EP-A-2193876号によると、いくつかの被覆材層のうちの少なくとも1つは、主として、βおよびγ真鍮の微細な粒塊状混合物を有する。β真鍮の基質内へのγ真鍮の組み込みを通して、γ真鍮は、浸食プロセス中、それほど迅速に摩耗しないであろうが、除去の観点から、効果的様式において、少量ずつ浸食間隙の中に放出されるであろう。
【0011】
第EP-A-1846189号では、ワイヤ電極が、提案されており、それは、β真鍮の第1の層およびγ真鍮の分裂層を含み、その孔内において、β真鍮の層が出現する。
【0012】
第EP-A-2517817号は、拡散によって形成された2つの合金層を伴うワイヤ電極を説明している。コアワイヤ材料が、第2の合金層内の亀裂に沿って出現し、その結果として、複数の粒塊状構造が、表面上に形成される。
【0013】
しかしながら、γ相のような脆い相のコーティングに関連して、一方では、層厚の増加が、必ずしも、性能のさらなる増加につながらず(第EP-A-1295664号参照)、他方で、限界が、経済的生産性に関して、より厚い層の成形性に関して設定される(第US5,945,010号参照)ことが示されている。さらに、γ真鍮コーティングは、β真鍮コーティングを上回るスパーク浸食摩耗を有し、その結果として、実践では、切断性能は、再び、頻繁に減少する。
【0014】
非常に高切断性能が、主として(第EP-A-1295664号参照)、または完全に(第EP-A-1455981号参照)β真鍮から成る、例えば、ワイヤ直径の10~30%の比較的に厚い層厚を伴うコーティングされたワイヤ電極を使用して達成され得るが、これは、発生器側での高性能設定と組み合わせてのみである。しかしながら、原則として、これは、機械加工された構成要素上の輪郭精度の損失につながる。
【0015】
第KR-A-10-2007-0075516号は、とりわけ、所定の厚さの拡散層を伴うワイヤ電極を生産する方法を開示する。高温浸漬による、銅、銅合金、または銅鍍金鋼鉄ワイヤのコアワイヤのコーティング中、ワイヤは、伸展されることを防止されることになり、したがって、拡散層形成の厚さは、制御不能になることを防止されることになる。第1のステップでは、銅、銅合金、または鋼鉄のコアワイヤが、第1の金属でコーティングされ、それは、銅より低い水蒸気化温度を有する。コーティング中のワイヤの伸展を防止するために、2~4mmの寸法が、好ましくは、例えば、0.90mmのコアワイヤの寸法の代わりに選定される。第2のステップでは、コーティングされたコアワイヤが、拡散に起因して合金層を生産するために、熱処理される。拡散層を生産するための熱処理は、代替として、コーティングの過程においてもたらされることができる。第3のステップでは、ワイヤが、延伸される。第4のステップでは、ワイヤが、再び、拡散を継続し、再晶析をもたらすために、熱処理される。第5のステップでは、ワイヤが、第2の金属でコーティングされ、それは、銅より低い水蒸気化温度を有する。第6のステップでは、第2の金属でコーティングされたワイヤが、延伸され、第7のステップでは、ワイヤが、熱処理され、それを安定にする。
【0016】
(本発明の目的)
本発明の目的は、切断性能および浸食抵抗をさらに増加させることによって、ワイヤ浸食技法の経済的実行性を増加させることである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、増加させられた切断性能にもかかわらず、裸真鍮ワイヤと比較して、スパーク浸食によって機械加工されたワークピースの輪郭精度および表面品質に悪影響を及ぼさないこと、またはそれらを改良さえすることである。
【0018】
加えて、本発明の目的は、真っすぐで可能な限り大きい曲げ剛性を伴い、自動スレッディングプロセスが困難な条件下(例えば、高さのあるワークピース等)でも浸食機械上で妨害されずに進められるという結果を伴う高切断性能を達成するためのコーティングされたワイヤ電極を提供することである。
【0019】
さらに、本発明の目的は、本発明によるワイヤ電極を用いて実施される浸食プロセスが、ワイヤ摩耗残骸の堆積物に起因する任意の途絶または減損を被らないために、可能な限り耐摩耗性のコーティングを提供することである。
【0020】
最後に、本発明の目的は、高切断性能を伴うワイヤ電極と比較しても、浸食機械のワイヤガイドおよび電気接点のより長い寿命を有する高切断性能を達成するためのワイヤ電極を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】米国特許第7,723,635号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2193876号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1846189号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2517817号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1295664号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1455981号明細書
【文献】韓国公開特許第10-2007-0075516号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本目的を達成するために、請求項1に記載の特徴を伴うワイヤ電極が、使用される。本発明によるワイヤ電極を生産するために、請求項23に記載の特徴を伴う方法が、使用される。ワイヤ電極の有利な実施形態は、それぞれの従属請求項の主題である。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
スパーク浸食切断のためのワイヤ電極であって、前記ワイヤ電極は、
金属または金属合金を含むコア(2)と、
前記コア(2)を包囲している被覆材(3、4、6)と
を有し、
前記被覆材(3、4、6)は、1つ以上の被覆材層(3、4、6)を備え、それらのうちの1つが、領域(3)を備え、その形態が、塊状粒子に対応し、前記領域(3)は、少なくともそれらの円周の一部にわたって、互いに、これらの領域を備えている前記層の材料から、1つ以上のさらなる層の材料から、および/または、前記コア材料から亀裂によって空間的に分離され、
前記ワイヤ縦軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、前記塊状粒子の形態を伴う領域の表面積の50%超の部分が、38~49重量%の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金を含むことを特徴とする、ワイヤ電極。
(項目2)
前記塊状粒子上に、0.05~2μmの厚さにおける50重量%超の範囲の酸化亜鉛から成る薄い上層が存在し、この上層は、前記塊状粒子内に含まれた前記銅-亜鉛合金が前記表面上に通り抜けた領域を有する、項目1に記載のワイヤ電極。
(項目3)
前記金属は、銅であり、前記金属合金は、銅-亜鉛合金である、項目1または項目2に記載のワイヤ電極。
(項目4)
前記1つまたはさらなる被覆材層の材料および/または前記コアの材料は、前記塊状粒子の形態を伴う領域間において、前記ワイヤ円周に沿って出現する、項目1-3のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目5)
前記ワイヤ軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、38~49重量%の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金を含む前記塊状粒子の形態を伴う前記領域の50%超の前記部分は、前記コアに半径方向に面する前記塊状粒子の形態を伴う前記領域の部分内にある、項目1-4のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目6)
前記ワイヤ軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、前記塊状粒子の形態を伴う前記領域の50%超の前記部分は、40~48重量%の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金を含む、項目1-5のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目7)
前記ワイヤ軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、前記塊状粒子の形態を伴う前記領域の50%未満の前記部分は、49~68重量%超の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金を含む、項目1-6のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目8)
前記ワイヤ軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、前記コアに半径方向に面する前記塊状粒子の形態を伴う前記領域の前記部分は、60%を上回る、特に、80%を上回る、項目5-7のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目9)
前記塊状粒子の形態を伴う前記領域は、これらの領域内の前記合金材料に対して0.01~1重量%の総割合を伴って、Mg、Al、Si、Mn、Fe、Snの群からの1つ以上の金属を含む、項目1-8のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目10)
前記塊状粒子の形態を伴う前記領域は、不可避不純物を除き、銅および亜鉛のみから成る、項目1-8のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目11)
前記塊状粒子の形態を伴う前記領域の範囲は、ワイヤ断面の半径方向において測定されると、1~30μm、特に、2~15μmである、項目1-10のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目12)
前記被覆材(3、4)は、内側被覆材層領域(4)を備え、それは、38~58重量%の亜鉛割合を伴う銅-亜鉛合金を含む、項目1-11のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目13)
前記被覆材(3、4)は、内側被覆材層領域(4)を備え、それは、38~51重量%の亜鉛割合を伴う銅-亜鉛合金を含む、項目1-12のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目14)
前記ワイヤ軸と垂直なワイヤ断面において視認されると、その形態が塊状粒子に対応する前記領域(3)を備えている前記層(3、4)の内側被覆材層領域(4)と、前記コア(2)との間の境界、または、前記内側被覆材層領域(4)と、前記コアと前記層(3、4)との間に配置された1つ以上のさらなる層との間の境界は、不規則的、特に、ほぼ波状の形状を有する、項目12-13のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目15)
前記被覆材層(3、4)も、前記内側領域内に、前記コア材料または下に位置しているさらなる被覆材層が前記外側ワイヤ領域の方向に通り抜けている切れ目を有する、項目12-14のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目16)
前記被覆材(3、4)は、外側被覆材層(6)を有し、前記外側被覆材層(6)は、少なくとも50重量%の範囲の亜鉛、亜鉛合金、または酸化亜鉛から成る、項目1-15のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目17)
前記塊状粒子の形態を伴う前記領域は、それらの円周の一部にわたって、互いに、これらの領域を備えている前記層の材料から、1つ以上のさらなる層の材料から、および/または、前記コア材料からそれらを空間的に分離する前記亀裂(7)に沿って、酸化亜鉛を含む、項目1-16のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目18)
前記塊状粒子の形態を伴う前記領域(3)は、内部亀裂(7‘)を有する、項目1-17のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目19)
酸化亜鉛が、前記亀裂(7‘)に沿って存在する、項目18に記載のワイヤ電極。
(項目20)
前記コア(2)は、2~40重量%の亜鉛含有量を伴う銅または銅-亜鉛合金から形成される、項目1-19のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目21)
前記塊状粒子は、前記ワイヤ表面と垂直に視認されると、層状構造を伴う領域を有し、50重量%超の範囲の酸化亜鉛から成る前記上層から形成されるラメラと、前記塊状粒子の材料から形成されるラメラとが、交互様式において、互いに続いて配置されている、項目2-20のいずれか1項に記載のワイヤ電極。
(項目22)
前記塊状粒子の材料から形成された前記ラメラの幅は、5μm未満、好ましくは、3μm未満である、項目21に記載のワイヤ電極。
(項目23)
項目1-22のいずれか1項に記載のワイヤ電極(1)を生産する方法であって、銅または真鍮を含むコア(2)が、第1の直径において亜鉛でコーティングされ、主としてγ真鍮から成る脆く硬い被覆材層を伴うワイヤが、第1の拡散アニーリングを通して形成
され、このワイヤは、第2の直径まで延伸され、その結果として、γ真鍮の層が、分裂し、領域(3)が、塊形状粒子に対応する形態を伴って生じ、前記領域(3)は、少なくともそれらの円周の一部にわたって、互いに、これらの領域を備えている前記層の材料から、1つ以上のさらなる層の材料から、および/または、前記コア材料から、亀裂によって空間的に分離され、前記ワイヤは、次いで、第2の拡散アニーリングを受け、その結果として、主要部分、すなわち、前記塊状粒子の形態を伴う前記領域の50%超の主要部分が、38~49重量%の亜鉛含有量を有することを特徴とする、方法。
(項目24)
前記ワイヤは、酸素の存在下で、前記第2の拡散アニーリングを受け、50重量%超の範囲の酸化亜鉛を含む上層が、前記塊状粒子上に生じ、次いで、前記ワイヤは、随意に、マルチステップ延伸プロセスを受け、前記酸化亜鉛の上部層は、分裂し、前記塊状粒子の材料は、前記孔内に出現する、項目23に記載のワイヤ電極(1)を生産する方法。
(項目25)
前記第1の拡散アニーリングは、180~300℃のアニーリング温度において、2~8時間にわたって、少なくとも80℃/時の平均加熱率および少なくとも60℃/時の平均冷却率を伴ってもたらされ、前記第2の拡散アニーリングは、300~520℃のアニーリング温度において、4~24時間にわたって、少なくとも100℃/時の平均加熱率および少なくとも80℃/時の冷却率を伴ってもたらされる、項目23に記載のワイヤ電極(1)を生産する方法。
(項目26)
60~85%の範囲内の前記ワイヤの総断面低減が、前記第2の拡散アニーリング後、前記延伸プロセスを通してもたらされ、マルチステップ延伸プロセスが実施された場合、8~12%の範囲内の断面低減が、各延伸ステップにおいてもたらされる、項目24に記載のワイヤ電極(1)を生産する方法。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、図式的に、正確な縮尺で描かれていない、本発明による、ワイヤ電極の第1の実施形態の(縦軸と垂直な)断面を示す。
【
図2】
図2は、
図1に従う、本発明による、ワイヤ電極1の第1の実施形態の断面の詳細な切り取り図を示す。
【
図3】
図3は、本発明による、ワイヤ電極の第2の実施形態の(縦軸と垂直な)断面の詳細な切り取り図を示す。
【
図4】
図4は、本発明による、ワイヤ電極の第3の実施形態の(縦軸と垂直な)断面の詳細な切り取り図を示す。
【
図5】
図5は、本発明による、ワイヤ電極の第1の実施形態の表面の走査電子顕微鏡検査(SEM)写真を示す。
【
図6】
図6は、本発明による、ワイヤ電極の第4の実施形態の(縦軸と垂直な)断面の詳細な切り取り図を示す。
【
図7】
図7は、ワイヤの縦軸と垂直な断面における本発明による、ワイヤ電極の外周の切り取り部のSEM写真(後方散乱電子20kV)を示す。
【
図8】
図8は、300の拡大率を伴う本発明による、ワイヤ電極のさらなる実施形態の表面のSEM写真(後方散乱電子20kV)を示す。
【
図9】
図9は、1,000の拡大率を伴う本発明による、ワイヤ電極のさらなる実施形態の表面のSEM写真(後方散乱電子5kV)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明によると、スパーク浸食切断のためのワイヤ電極が金属または金属合金を含むコアを有することを前提とする。コアは、50重量%超の範囲、より好ましくは、完全または実質的に完全に1つ以上の金属および/または1つ以上の金属合金から成ることが好ましい。特に、コアは、したがって、完全に、1つの金属または1つの金属合金から形成されることができる。コアは、均質に形成されるか、または、例えば、重なり合って配置される異なる組成物のいくつかの個々の金属または金属合金層の形態において形成され、半径方向に変動する性質を有することができる。本明細書で使用される場合、「実質的に」は、本発明によるワイヤ、またはその層またはそのコアが、それぞれ、開示される組成物から成り、および/または、開示される性質を有し、生産および測定公差が、例えば、専門家に熟知される不可避不純物の存在が考慮されることになることを意味する。
【0025】
金属は、特に、銅であり、金属合金は、特に、銅-亜鉛合金である。
【0026】
コアを包囲して、例えばコーティングの形態において、外被(以下では、「被覆材」とも呼ばれる)が、提供され、外被は、1つ以上の被覆材層を備えている。被覆材は、ワイヤ浸食プロセス中、摩耗し、浸食特性に影響を及ぼすように提供される。いくつかの被覆材層の場合、いくつかの被覆材層は、半径方向に重なり合って配置され、各被覆材は、好ましくは、コアの周囲に伸びる。
【0027】
本発明による、ワイヤ電極の被覆材層のうちの1つは、粒子状外観(形態)を有する領域を備え、粒子状外観は、特に、(ワイヤ縦軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると)時として、2μm未満の角半径を伴う鋭角および理想的直線から2μm未満外れた真直度を伴う線を含む不規則的輪郭によって特徴付けられる。これらの領域は、したがって、その形態が、塊状または塊形状粒子に対応する、領域として説明される。これらの領域は、以下では、「塊状形態を伴う領域」、または略して、「塊状粒子」(または「塊形状粒子」)とも呼ばれる。隣接する層の材料および/または隣接するまたは半径方向にさらに内向きにあるコア材料が、塊状粒子間に通り抜け得る。塊状粒子は、加えて、少なくともそれらの円周の一部にわたって亀裂によって、互いに、これらの領域を備えている、層の材料から、隣接する層の材料から、および/またはコア材料から、空間的に分離される。塊状粒子自体が、亀裂を含むこともできる。
【0028】
亀裂は、概して、走査電子顕微鏡検査を用いて、通常の条件下、例えば、後方散乱電子(20kV)に基づいて測定された画像の分析によって決定され得るような最大約2μm、主として、約1μmの幅を有する。より大きい亀裂幅が、短距離(例えば、1~2μm)にわたって、亀裂の過程に沿って現れる場合、この構造も、同様に、本発明の意味内における亀裂と見なされる。比較として、塊状粒子間のより広い空間(通常、ワイヤの外面から半径方向内向きに形成される)は、くぼみまたは間隙と呼ばれる。
【0029】
亀裂に沿って、くぼみおよび間隙にも沿って、酸化亜鉛が、本発明によるワイヤの生産の様式に応じて形成されることができ、酸化亜鉛は、亀裂の幅を低減させること、または時として、その体積を完全に充填することができる。しかしながら、これは、同様に、好適な走査電子顕微鏡検査記録技法を用いて表されることができ、亀裂形成によって決定された塊形状粒子の形態も、この場合、認識されることができるというその結果を伴う。
【0030】
ワイヤの縦軸(本明細書では、「ワイヤ縦軸」、または略して、単に、「ワイヤ軸」とも呼ばれる)と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、主要部分、すなわち、塊状粒子の表面積の50%超になる主要部分は、38~49重量%の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金を含む。CuZn系に関する相図によると、合金は、部分的に、または主として、βおよび/またはβ’相として、表面積のこの部分内に存在する。50%未満の塊状粒子の表面積の部分は、49~68重量%超の亜鉛濃度を伴う銅(-亜鉛)合金を含む。CuZn系に関する相図によると、合金は、β+γ相として、および/またはγ相として、表面積のこの部分内に存在する。
【0031】
塊状粒子が、亀裂によって、その周囲から完全に分離されていない場合、粒子の組成物を決定するために使用される表面積は、限界として、(部分的に)粒子を周囲から分離する亀裂の端部間の最短直線接続線を採用することによって画定され、半径方向におけるワイヤ中心(したがって、半径方向に最内部)に最も近い端部が、選定される。これは、ここでは、この定義の枠組内で参照される
図6および7に例として示される。
【0032】
粒子が、亀裂によってだけではなく、(また)くぼみ(間隙)によっても、その周囲から分離される場合、亀裂端部と、1つの亀裂端部から見られる最近傍くぼみ(間隙)の半径方向に最内にある点との間の接続線が、選定される。これは、同様に、
図7に例として示され、ここでは、この定義の枠組内で参照される。
【0033】
好ましくは、本発明による、塊状粒子の少なくとも一部は、(上記で定義されるような)ワイヤの縦軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、亀裂によって、周囲から、すなわち、互いに、これらの粒子を備えている層の材料から、1つ以上の層の材料から、および/またはコア材料から、完全に分離される。
【0034】
β/β‘相の存在に関連して、β’相は、ある温度を下回ると安定しており、銅および亜鉛に関する画定された格子部位を伴う秩序付けられた格子を有し、この温度を超える場合、秩序付けられていないβ相に遷移すること(原子は、体心立方格子の格子部位上に統計的に分散される)に留意されたい。有力な意見によると、β相とβ’相との間の変換は、抑制されることができず、その機械的および電気的特性にわずかな影響しか及ぼさないので、β相の一般的言及は、常時、区別が明示的に行われない限り、本願の枠組内のβ’相も意味する。
【0035】
さらに、塊状粒子が、冶金学的意味において、複数の粒塊を有し得ることが指摘されるべきである。
【0036】
塊状粒子は、それらの円周の一部にわたって、互いに、これらの粒子を備えている層の材料から、隣接する層の材料から、および/または(隣接する)コア材料から、それらを空間的に分離する亀裂および間隙に沿って、および塊状粒子自体が含む亀裂に沿って、酸化亜鉛を含むことができる。
【0037】
塊状粒子を含む銅-亜鉛合金は、銅および亜鉛に加え、0.01~1重量%の総割合を伴うMg、Al、Si、Mn、Fe、Snの群からの1つ以上の金属を含むことができる。
【0038】
塊状粒子の厚さは、ワイヤ断面の半径方向において測定されると、好ましくは、1~30μmである。
【0039】
ワイヤ電極は、加えて、薄い上層を有することができ、それは、主として、例えば、約0.05~1μmの厚さにおけるZn、Zn合金、またはZnOから成る。
【0040】
本発明のさらなる実施形態によると、加えて、薄い上層が存在することができ、それは、塊状粒子上に、例えば、約0.05~2μmの厚さにおいて、主として、すなわち、50重量%超の範囲の酸化亜鉛を含む。この上層は、その中に塊状粒子の材料、すなわち、塊状粒子内に含まれた銅-亜鉛合金のうちの1つが、出現する領域(「孔」)を有する。
【0041】
ワイヤ表面に対して垂直に(半径方向に)視認されると、これらの領域は、主として、酸化亜鉛を含む上層から形成されるラメラ(lamellae)と、塊状粒子の材料から形成されるラメラとが、交互様式において、互いに続いて配置されるように、層状構造を有する。そのような領域は、
図8および9に例として表される。
【0042】
ラメラとは、通常、小板またはラメラによって特徴付けられる構造を意味し、それらは、このタイプの均質に配置される平行または半径方向構造要素(小板/ラメラ)の構造において位置する。本発明による、ワイヤ電極の本実施形態では、層状構造領域は、厳密に平行に配置されるわけではなく、個々のラメラ間の距離も、変動し得る。それにもかかわらず、この分野における専門家に関して、層状が意味する内容は、明白である。この点において、公知の層状黒鉛との比較が行われることができる。層状黒鉛は、黒鉛が薄い不規則的に成形されるラメラの形態において存在する最も一般的タイプの鋳鉄を説明する。
【0043】
図8および9における白っぽいより明るい領域として現れる層状構造要素は、塊状粒子の材料から成る。灰色っぽいより暗い領域として現れる層状領域は、(主として)酸化亜鉛の上層から成る。
【0044】
層状構造(以下では、略して、「ラメラ」とも呼ばれる)の寸法は、以下のようなものである。
【0045】
塊状粒子の材料から形成されるラメラの幅は、5μm未満、好ましくは、3μm未満、さらにより好ましくは、2μm未満である。ラメラの長さは、最大50μmであることができる。ラメラの幅は、その長さにわたって変動し得る。これらの仕様は、塊状粒子の材料から形成され、
図8および9における白っぽいより明るい領域として現れるラメラに関連する。
【0046】
塊状粒子の材料から形成されるラメラは、部分的に、細長片によって、互いに接続されることができ、その結果として、塊状粒子の材料から作製される網状構造が、ワイヤ表面上に形成される。
【0047】
その縦軸に沿ったワイヤ上の上面図における(すなわち、
図8および9に示されるような図における)SEM写真(後方散乱電子20kV)内の50×50μm
2の単位エリアに対して、塊状粒子の材料から形成されるラメラは、最大50%の割合を占め得る。
【0048】
コアおよびコーティング内に含まれる金属は、不可避不純物を有し得る。
【0049】
最新技術によると、主として、β相から成る同等のトポグラフィを伴う層と比較して、より高い亜鉛濃度に起因して、主としてγ相から成る破砕して開放された層を伴うワイヤ電極は、より高い切断性能につながるであろうことが予期されていた。しかしながら、驚くべきことに、本発明によるワイヤ電極を用いることで、以前に公知のワイヤと比較して、切断性能と耐浸食摩耗性とが、同時に、実質的に増加させられ得ることが証明された。
【0050】
少なくともそれらの円周の一部にわたって、互いに、これらの粒子を含む層の材料から、隣接する層の材料から、および/または(隣接する)コア材料から、塊状粒子を空間的に分離する亀裂、および塊状粒子自体が含み得る亀裂は、電場の大幅な増加、したがって、電極の点火性を促進する。その主要部分における38~49重量%の亜鉛含有量に起因する高耐スパーク浸食摩耗性を通して、塊状粒子は、より長い持続時間にわたって、より高い点火性に寄与することができる。この効果は、特に、本発明によるワイヤ電極が最初の2回のトリミング切断において使用されるとき、明確に顕著となる。何故なら、塊状粒子が、主切断と比較して連続的に低減させられる放電エネルギーに起因して、さらにより長い時間にわたって、除去の観点から効果的であるからである。
【0051】
ワイヤ電極の冷却も、概して、亀裂を生じさせられた層に起因する増加させられた表面積に起因して、改良される。
【0052】
それらの円周の一部にわたって、互いに、これらの粒子を含む層の材料から、隣接する層の材料から、および/または(隣接する)コア材料から、塊状粒子を空間的に分離する亀裂およびくぼみ(間隙)によって形成される表面上の酸化亜鉛と、塊状粒子自体が含む亀裂によって形成される表面上の酸化亜鉛とは、切断性能のさらなる増加につながる。
【0053】
加えて、切断性能は、塊状粒子の材料が出現する孔を有する酸化亜鉛の上層によっても増加させられる。特に、主として酸化亜鉛を含む上層から形成されるラメラと、塊状粒子の材料から形成されるラメラとが、交互様式において、互いに隣接して配置される上記に定義されるような層状表面構造は、切断性能に有利な効果を及ぼす。
【0054】
塊状粒子の厚さは、縦軸と垂直なワイヤ断面の半径方向において測定されると、有利なこととして、1~30μmの範囲内にある。より厚い粒子の場合、全体的粒子が、隣接するワイヤコアまたは隣接する被覆材層への不十分な結合に起因して、破砕するであろう危険が存在する。これは、短絡回路、したがって、浸食される構成要素の輪郭精度および表面品質の減損につながり得る。1μm未満の厚さの場合、点火性および冷却作用のプラスの効果は、もはや十分に与えられない。塊状粒子の厚さは、ワイヤ断面の半径方向において測定されると、より好ましくは、2~15μm、さらにより好ましくは、3~10μmである。
【0055】
被覆材層は、例えば、随意に、熱処理方法と組み合わせて、好適なコーティング法を使用して、コアに適用されることができる。被覆材層の適用は、例えば、物理的または電気化学的にもたらされることができ、随意に、ワイヤ直径を低減させるためのステップがそれに続くことができる。したがって、例えば、1.20mmの直径を伴う例えば、Cu、CuZn20、またはCuZn37(20または37重量%亜鉛を伴う真鍮)のワイヤ(例えば、電着によって、または高温浸漬によってZnでコーティングされる)の形態における初期材料から進められることが可能である。Znでコーティングされたワイヤは、次いで、拡散アニーリングを受け、被覆材層が、生産され、被覆材層は、少なくとも部分的に、特に、γ真鍮の連続的かつ均質な部分的層を有する。被覆材層のこの部分における亜鉛含有量は、故に、58~68重量%である。次のステップでは、ワイヤは、好ましくは、冷間成形によって、中間寸法または最終寸法にテーパ状にされる。ここでは、γ相における真鍮の脆く硬い層は、分裂し、その結果として、塊状粒子が形成される。塊状粒子は、互いに空間的に分離され、その結果として、隣接する層の材料および/または(隣接する)コア材料は、塊状粒子間に出現し得る。塊状粒子自体が、亀裂を含むこともできる。
【0056】
次いで、ワイヤは、さらなる拡散アニーリングを受け、その結果として、主要部分、すなわち、塊状粒子の50%超になる主要部分は、38~49重量%の亜鉛含有量を有する。組成物の決定は、ワイヤ軸と垂直または平行に視認されるワイヤ断面に関連して実施される。視認される粒子表面積は、したがって、上記に定義されるようなものである。
【0057】
本発明による組成物を伴う塊状粒子の部分は、好ましくは、コアに半径方向に面する塊状粒子の領域内にある。50%未満の塊状粒子の部分は、49~68重量%超の亜鉛濃度を伴う銅合金を含む。塊状粒子から隣接する材料の中への亜鉛の拡散に起因して、38~58重量%の亜鉛含有量を伴う拡散層が、形成される。38~49重量%の亜鉛含有量を有する塊状粒子の部分のサイズは、アニーリングの強度、すなわち、温度および持続時間を介して、影響され得る。
【0058】
2回の拡散アニーリングが、静止様式において、例えば、フード型炉内で、および、連続的プロセスにおいて、例えば、抵抗加熱によって実施されることができる。第1の拡散アニーリングは、例えば、フード型炉内で、周囲大気または保護ガス下で、好ましくは、180~300℃の範囲内で、4~12時間にわたって実施されることができ、平均加熱率は、好ましくは、少なくとも80℃/時であり、平均冷却率は、好ましくは、少なくとも60℃/時である。それは、代替として、例えば、抵抗加熱によって、周囲大気または保護ガス下の持続的通過においてもたらされることができ、平均加熱率は、好ましくは、少なくとも10℃/秒であり、最大ワイヤ温度は、好ましくは、600~800℃であり、アニーリング時間は、好ましくは、10~200秒の範囲内であり、平均冷却率は、好ましくは、少なくとも10℃/秒である。上記のアニーリング時間は、室温から離れたときから、再び、室温に到達したときまでの期間に関連する。第2の拡散アニーリングは、例えば、フード型炉内で、周囲大気または保護ガス下で、好ましくは、300~520℃の範囲内で、4~24時間にわたって実施されることができ、平均加熱率は、好ましくは、少なくとも100℃/時であり、平均冷却率は、好ましくは、少なくとも80℃/時である。代替として、例えば、抵抗加熱によって、周囲大気または保護ガス下での持続的通過においてもたらされることができ、平均加熱率は、好ましくは、少なくとも10℃/秒であり、最大ワイヤ温度は、好ましくは、350~600℃であり、アニーリング時間は、好ましくは、10~200秒の範囲内であり、平均冷却率は、少なくとも10℃/秒である。上記のアニーリング時間は、室温から離れたときから、再び、室温に到達したときまでの期間に関連する。周囲大気下または酸素の存在下でのアニーリングに起因して、0.05~2μmの厚さを伴う上記に定義されるような、主として、酸化亜鉛の薄い上層が、ワイヤ表面上および亀裂および間隙によって形成される表面上に生産されることができる。
【0059】
随意に、亜鉛でのコーティングの別の1つ以上のさらなるステップおよび/または1つ以上のさらなる拡散アニーリングプロセスが、ここで、ワイヤがその最終寸法に延伸される前に、続くことができる。ワイヤは、上記の冷却プロセスのうちの1つの前、間、または後に、延伸されることが可能である。ワイヤは、好ましくは、冷間延伸によって、所望の最終寸法に変換される。結果として、さらなる亀裂が、塊状粒子および周囲被覆材層内に生じることができる。
【0060】
最終寸法へのワイヤの通常のマルチステップ冷間延伸中の総断面低減の適切な選択肢を通して、および各延伸ステップにおける断面低減の適切な選択肢を通して、層状または網状表面構造の形成が、達成されることができ、主として、酸化亜鉛を含む上層から形成されるラメラと塊状粒子の材料から形成されるラメラとが、交互様式において、互いに隣接して配置される。そのような表面構造の形成は、60~85%の総断面低減によって促進される。さらに、そのような表面構造の形成は、各延伸ステップにおける8~12%の断面低減によっても促進される。
【0061】
冷間延伸後、随意に、ワイヤの真直度、引張強度、および伸展に確実に影響を及ぼすために、いわゆる応力緩和アニーリングが続くことができる。応力緩和アニーリングは、例えば、抵抗加熱によって、誘導的に、または熱放射によって、もたらされることができる。
【0062】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの被覆材層が、形成され、それは、本発明による、塊状粒子を備え、それらは、少なくともそれらの円周の一部にわたって、互いに、隣接する被覆材層の材料から、および/または(隣接する)コア材料から、空間的に分離される。ワイヤの縦軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、主要部分、すなわち、塊状粒子の(上記に定義されるような)表面積の約50%超になる主要部分は、好ましくは、38~49重量%、より好ましくは、40~48重量%の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金を含み、表面積のこの部分は、特に、コアに半径方向に面する塊状粒子の領域内にある。
【0063】
好ましくは、この表面積の部分は、約60%を上回り、より好ましくは、約80%を上回り、さらにより好ましくは、約100%である。
【0064】
さらに好ましい実施形態では、塊状粒子の少なくとも一部の量は、亀裂によって、(本明細書に定義されるように、ワイヤ断面において視認されると)互いに、これらの粒子を備えている、層の材料から、1つ以上のさらなる層の材料から、および/またはコア材料から、完全に空間的に分離される。
【0065】
塊状粒子を含む銅-亜鉛合金は、好ましくは、CuおよびZnに加え、0.01~1重量%の総割合を伴うMg、Al、Si、Mn、Fe、Snの群からの1つ以上の金属を含む。より好ましくは、塊状粒子を含む銅-亜鉛合金は、銅および亜鉛および不可避不純物のみから成る。
【0066】
さらなる好ましい実施形態では、外側被覆材層は、塊状粒子を備え、それらは、少なくともそれらの円周の一部にわたって、互いに、隣接する被覆材層の材料から、および/または(隣接する)コア材料から、空間的に分離される。ワイヤの縦軸と垂直または平行なワイヤ断面において視認されると、本実施形態の主要部分、すなわち、50%超になる塊状粒子の(上記に定義されるような)表面積の部分は、38~49重量%の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金を含み、表面積のこの部分は、特に、コアに半径方向に面する塊状粒子の領域内にある。CuZn系に関する相図によると、合金は、部分的に、または主として、βおよび/またはβ’相として、表面積のこの部分内に存在する。50%未満の塊状粒子の表面積の部分は、49~68重量%超の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金を含む。CuZn系に関する相図によると、合金は、β+γ相として、および/またはγ相として、表面積のこの部分内に存在する。隣接する内側被覆材層は、好ましくは、38~58重量%の亜鉛割合を伴う銅合金を含む。CuZn系に関する相図によると、合金は、部分的に、または主として、β相として、またはβ+γ相として、この部分内に存在する。より好ましくは、内側被覆材層は、38~51重量%の亜鉛割合を伴う銅-亜鉛合金を含む。隣り合った層は、外側被覆材層、および、コアまたはその真下に位置するさらなる被覆材層に対するその境界が、ほぼ波状の形状を有するという点で、そのトポグラフィを通して外側被覆材層と異なる。隣り合った内側被覆材層は、好ましくは、連続的である。しかしながら、また、切れ目を有することもでき、その中にコア材料またはその真下に位置するさらなる被覆材層が、通り抜ける。
【0067】
さらなる好ましい実施形態では、好ましくは、0.1~40重量%の亜鉛濃度を有する銅-亜鉛合金のさらなる被覆材層が、前述の内側被覆材層下に配置される。
【0068】
さらなる多層設計では、被覆材は、例えば、好ましくは、被覆材層の外面の一部または外面全体を形成する上層の形態における外側被覆材層を有することができ、外側被覆材層は、少なくとも50重量%の範囲の好ましくは、完全または実質的に完全に、亜鉛、亜鉛合金、もしく酸化亜鉛から形成される。この上層の厚さは、0.05~1μmであることができる。そのような外側被覆材層は、そして、亜鉛がより迅速に利用可能であるので、低放電エネルギーを伴う切断性能のために、および微細な仕上げプロセスの枠組において、有利である。
【0069】
より大きい断面にわたって連続的である酸化亜鉛の上層と比較して、上記の層状または網状構造は、特に、切断性能を増加させるために好適であることが分かっている。
【0070】
酸化亜鉛の薄い上層は、好ましくは、第2の拡散アニーリングを通して、例えば、周囲大気下で、それらの円周の一部にわたって、互いに、隣接する層の材料から、および/または(隣接する)コア材料から、塊状粒子を空間的に分離する亀裂を通して形成される表面上に、および、塊状粒子自体が含む亀裂によって形成される表面上に形成される。したがって、酸化亜鉛の公知の上層に加え、さらなる酸化亜鉛が、除去を増加させるために、浸食プロセスに利用可能である。
【0071】
コアは、主として、好ましくは、完全または実質的に完全に、2~40重量%の亜鉛含有量を伴う銅または銅-亜鉛合金から形成されることが好ましい。そのようなコアは、有利なこととして、容易に冷間成形可能である。
【0072】
本発明による、ワイヤ電極の構造および組成物は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を伴う走査電子顕微鏡検査(SEM)調査を用いて決定されることができる。このために、ワイヤ電極の表面および断面研磨が、調査される。ワイヤ断面研磨の生産は、例えば、いわゆるイオンビーム斜め切断法によってもたらされることができ、ワイヤは、スクリーンによって覆われ、Ar+イオンで照射され、材料が、イオンによってスクリーンを越えて突出するワイヤの部分から除去される。この方法を通して、サンプルが、機械的変形なく、調製されることができる。本発明による、ワイヤ電極の被覆材層の構造は、したがって、そのような調製を通して保持される。本発明による、ワイヤ電極の被覆材層の構造は、したがって、SEM画像によって表されることができる。点、線、および表面EDX分析を用いて、本発明による、ワイヤ電極の組成物が、決定されることができる。
【0073】
本発明は、以下の図面を参照してさらに詳細に解説される。
【0074】
図1における断面に示されるワイヤ電極1は、ワイヤコア2を有し、それは、ワイヤ電極1の外側に形成される被覆材3、4によって完全に包囲される。表される例示的実施形態では、コア2は、完全または実質的に完全に、好ましくは、2~40重量%の亜鉛含有量を伴う銅または銅-亜鉛合金から均質に形成される。外側被覆材層3、4は、塊状粒子を備え、それらは、互いに、または材料4から、空間的に分離される(例えば、亀裂によって(図示せず))。塊状粒子の表面積の観点から、主要な部分は、38~49重量%の亜鉛濃度を伴う銅合金を含む。CuZn系に関する相図によると、合金は、部分的に、または主として、βおよび/またはβ’相として、この部分内に存在する。
【0075】
隣り合った内側被覆材層領域4は、38~51重量%の亜鉛割合を有する銅合金から成る。CuZn系に関する相図によると、合金は、部分的に、または主として、β相として、この部分内に存在する。この隣り合った層領域は、コアまたはさらなる被覆材層(図示せず)に対して境界を有することができ、それは、ほぼ波状の形状を有する。隣り合った内側被覆材層領域は、本実施形態では、円周にわたって連続的に形成される。
【0076】
図2は、
図1に従う、本発明による、ワイヤ電極1の第1の実施形態の断面の詳細な切り取り図を示し、ワイヤコア2と、外側被覆材層3、4とを伴う。塊状または塊形状粒子のより精密な形状、それらが、それらの円周の一部にわたって、またはその円周全体にわたって(本断面において視認されると)、互いに、または被覆材層の隣り合った材料4から、亀裂によって分離されるという事実、およびコア2に対する被覆材層の内側領域4の略波状境界が、認識可能である。
【0077】
図3は、本発明による、ワイヤ電極の第2の実施形態の断面の詳細な切り取り図を示し、ワイヤコア2と、外側被覆材層3、4とを伴う。
図2に従う、第1の実施形態と異なり、内側被覆材層領域4は、いくつかの点において断続され、それによって、コアワイヤは、ワイヤ電極の表面上のこれらの点において通り抜ける。
【0078】
図4は、本発明による、ワイヤ電極の第3の実施形態の断面の詳細な切り取り図を示し、ワイヤコア2と、外側被覆材層3、4、5とを伴う。塊状粒子の表面積の観点から、主要な部分は、38~49重量%の亜鉛濃度を伴う銅-亜鉛合金から成り、この部分は、本実施形態では、コアに半径方向に面する塊状粒子の領域内にある。CuZn系に関する相図によると、合金は、部分的に、または主として、βとして、および/またはβ’相として、この部分内に存在する。塊状粒子の外側領域5は、49~68重量%超の亜鉛含有量を有する。CuZn系に関する相図によると、合金は、β+γ相として、および/またはγ相として、この部分内に存在する。
【0079】
図5は、本発明による、ワイヤ電極の第1の実施形態の表面の走査電子顕微鏡検査写真を示す。外側被覆材層の塊状粒子および亀裂およびくぼみ(間隙)が、認識可能である。
【0080】
図1-5に表される実施形態の全ては、薄い上層を塊状粒子上に有することができ(
図6参照)、それは、被覆材層6の外面の一部または全体を形成する。この層は、少なくとも50重量%以上の範囲の亜鉛、亜鉛合金、および酸化亜鉛から形成されるか、または酸化亜鉛から成る。この上層の厚さは、最大0.05~1μmまたは最大2μmである。上層は、その中に塊状粒子の材料が出現する孔を有することができる。
【0081】
図6に描写されるように、塊状粒子は、少なくともそれらの円周の一部にわたって、隣接する層の材料から、および/または隣接するコア材料から、それらを空間的に分離する亀裂および間隙(7)に沿って、および、塊状粒子自体が含む亀裂(7‘)に沿って、酸化亜鉛を含むことができる。走査電子顕微鏡検査分析に基づいて、ワイヤの縦軸に平行または横方向の断面において、塊状粒子が、塊状粒子の表面積を画定するために、亀裂によって、隣接する層の材料またはコア材料から、完全に区切られていない場合、それを包囲する亀裂(7)の半径方向におけるワイヤ中心の最も近くに位置する端点(a、b)間の最短直線接続によって区切られる必要がある(
図6参照)。
【0082】
図7は、ワイヤの縦軸と垂直な断面における本発明によるワイヤ電極の外周の切り取り部のSEM写真(後方散乱電子20kV)である。亀裂によって、少なくともそれらの円周の一部にわたって、互いに分離された塊形状粒子が、認識可能である。直線接続線a-bおよびa‘-b‘の各々は、これらの場合では、50%超の範囲の38~49重量%の亜鉛濃度を伴う銅合金を含む粒子の表面積が決定される方法を図示する。
【0083】
粒子が、その周囲から、亀裂によって完全に分離されていない場合、表面積は、境界として、粒子を周囲から分離する亀裂のワイヤ中心に向かって半径方向に最内にある端部間の最短直線接続線を選定することによって決定される。
図7の左側に見られ得る粒子に関して、それは、
図6を参照し、すでに解説された決定方法によると、接続線a-bである。1つの亀裂端部から「隣接する」(最も近い)亀裂端部までの直線接続が、したがって、選定される。
【0084】
写真内の右側の粒子は、くぼみによって、右に向かってその周囲から分離される。この場合、亀裂端部と最も近いくぼみ(間隙)の半径方向に最内にある点との間の接続線が、選定される。
【0085】
図8および
図9は、それぞれ、300および1,000の拡大率を伴う本発明によるワイヤ電極のさらなる実施形態の表面のSEM写真(それぞれ、後方散乱電子20kVおよび5kV)を示す。カラーコントラストを用いて、層状構造(8)を伴う領域が、認識可能である。塊状粒子の材料から形成されるラメラは、白色のより明るい領域として現れる。対照的に、主として、酸化亜鉛を含む上層から形成されるラメラは、灰色のより暗い領域として現れる。黒色領域は、亀裂およびくぼみを表す。
【0086】
(実施例)
本発明による、ワイヤ電極の利点が、最新技術による異なるワイヤ電極と比較して、2つの実施形態例を参照して以下で解説される。ワイヤサンプルの生産が、以下に表されるシーケンスに従ってもたらされた。
【0087】
比較サンプルV1:
-初期ワイヤ:CuZn37、d=1.20mm
-d=0.25mmまでの延伸および応力緩和アニーリング
【0088】
比較サンプルV2:
-初期ワイヤ:CuZn37、d=1.20mm
-10μmを伴う亜鉛の電着
-d=0.50mmまでの延伸
-フード型炉内における周囲大気下で、400℃で、12時間の拡散アニーリング
-d=0.25mmまでの延伸および応力緩和アニーリング
【0089】
比較サンプルV3:
-初期ワイヤ:CuZn37、d=1.20mm
-10μmを伴う亜鉛の電着
-d=0.50mmまでの延伸
-フード型炉内における周囲大気下で、180℃で、6時間の拡散アニーリング
-d=0.25mmまでの延伸および応力緩和アニーリング
【0090】
比較サンプルV4:
-初期ワイヤ:CuZn20、d=1.20mm
-40μmを伴う亜鉛の電着
-d=0.60mmまでの延伸
-フード型炉内における周囲大気下で、180℃で、6時間の第1の拡散アニーリング
-持続的通過における周囲大気下で、加熱率>10℃/秒、最大ワイヤ温度680℃、アニーリング時間15秒、冷却率>10℃/秒の第2の拡散アニーリング
-d=0.25mmまでの延伸および応力緩和アニーリング
【0091】
本発明によるサンプルE1:
-初期ワイヤ:CuZn37、d=1.20mm
-10μmを伴う亜鉛の電着
-フード型炉内における周囲大気下で、180℃で、6時間、平均加熱率:100℃/時、平均冷却率:80℃/時の第1の拡散アニーリング
-d=0.50mmまでの延伸
-フード型炉内における周囲大気下で、400℃で、12時間、平均加熱率:160℃/時、平均冷却率:140℃/時の第2の拡散アニーリング
-d=0.25mmまでの延伸および応力緩和アニーリング
【0092】
本発明によるサンプルE2:
-初期ワイヤ:CuZn37、d=1.20mm
-10μmを伴う亜鉛の電着
-フード型炉内における周囲大気下で、180℃で、6時間、平均加熱率:100℃/時、平均冷却率:80℃/時の第1の拡散アニーリング
-d=0.60mmまでの延伸
-フード型炉内における周囲大気下で、400℃で、12時間、平均加熱率:160℃/時、平均冷却率:140℃/時の第2の拡散アニーリング
-d=0.25mmまでの延伸および応力緩和アニーリング
【0093】
本発明によるサンプルE3:
-初期ワイヤ:CuZn37、d=1.20mm
-10μmを伴う亜鉛の電着
-フード型炉内における周囲大気下で、180℃で、6時間、平均加熱率:100℃/時、平均冷却率:80℃/時の第1の拡散アニーリング
-d=0.70mmまでの延伸
-フード型炉内における周囲大気下で、410℃で、12時間、平均加熱率:160℃/時、平均冷却率:140℃/時の第2の拡散アニーリング
-各延伸ステップにおいて18%の断面低減を伴うd=0.25mmまでの延伸および後続応力緩和アニーリング
【0094】
本発明によるサンプルE4:
-初期ワイヤ:CuZn37、d=1.20mm
-10μmを伴う亜鉛の電着
-フード型炉内における周囲大気下で、180℃で、6時間、平均加熱率:100℃/時、平均冷却率:80℃/時の第1の拡散アニーリング
-d=0.40mmまでの延伸
-フード型炉内における周囲大気下で、410℃で、12時間、平均加熱率:160℃/時、平均冷却率:140℃/時の第2の拡散アニーリング
-各延伸ステップにおいて10%の断面低減を伴うd=0.25mmまでの延伸および後続応力緩和アニーリング
【0095】
主切断におけるスパーク浸食機械加工の場合と、主切断および3回のトリミング切断を伴う機械加工の場合とにおける各ワイヤ電極を用いて達成される相対的切断性能が、表1に示される。スパーク浸食機械加工は、脱イオン水を誘電体として用いて、市販のワイヤ浸食システム上でもたらされた。X155CrVMo12-1タイプの硬化された冷間加工鋼鉄の50mmの高さのワークピースが、機械加工された。15mmの縁長を伴う正方形が、切断輪郭として選定された。組成物CuZn37を伴う裸真鍮ワイヤのための機械側上に存在する技術が、機械加工技術として選定された。
【表1】
【0096】
主切断と主切断および3回のトリミング切断とにおいて、比較サンプルV1を用いて達成される切断性能が、各場合において、100%に設定された。比較サンプルV2は、β真鍮の連続的に閉鎖された被覆材層を有する。比較サンプルV1と比較して、切断性能は、それぞれ、8%、10%増加させられている。比較サンプルV3は、塊状粒子から成る被覆材層を有する。塊状粒子は、主として、γ真鍮から成る。この比較サンプルでは、切断性能は、比較サンプルV1と比較して、それぞれ、10%、12%増加させられている。比較サンプルV4は、β真鍮の内側被覆材層と、β真鍮とγ真鍮の微細な粒塊状相混合物の外側被覆材層とを有する。比較サンプル4の初期ワイヤ上の亜鉛層の厚さは、比較サンプルV2およびV3および本発明によるサンプルE1およびE2の開始ワイヤ上の亜鉛層の厚さより4倍大きい。比較サンプルV4では、切断性能は、比較サンプル1と比較して、それぞれ、19%、24%増加させられている。
【0097】
本発明によるサンプルE1は、39~43重量%の亜鉛含有量を伴う真鍮の内側連続領域を伴う被覆材層と、少なくともそれらの円周の一部にわたって、互いに、または被覆材層の材料から、亀裂およびくぼみ(間隙)によって、空間的に分離される外向きの塊状粒子とを有し、これらの粒子は、43~48重量%の亜鉛含有量を有する。塊状粒子の厚さは、ワイヤ断面上で半径方向に測定されると、5~11μmである。被覆材層の一部は、上層によって包囲され、それは、実質的に完全に、酸化亜鉛から成る。この上層の厚さは、0.05~0.5μmである。さらに、サンプルは、くぼみ(間隙)および亀裂によって形成される表面に沿って、および塊状粒子自体が含む亀裂によって形成される表面上に、酸化亜鉛を含む。本発明によるサンプルE1では、切断性能は、比較サンプル1と比較して、それぞれ、43%、26%増加させられている。同じ亜鉛層厚にもかかわらず、開始材料上への電着コーティング後、このサンプルの場合の切断性能の増加は、比較サンプルV2およびV3の場合をはるかに上回る。切断性能は、その亜鉛層の厚さが、本発明によるサンプルE1の4倍である比較サンプルV4の場合よりさらに高い。
【0098】
本発明によるサンプルE2は、39~43重量%の亜鉛含有量を伴う真鍮の内側の連続領域を伴う被覆材層と、部分的または完全に、互いに、または被覆材層の隣り合った材料から、亀裂およびくぼみ(間隙)によって、空間的に分離される外向きの塊状粒子とを有し、これらの粒子は、43~48重量%の亜鉛含有量を有する。被覆材層の外面の一部は、上層によって包囲され、それは、実質的に完全に、酸化亜鉛から形成される。この上層の厚さは、0.05~0.5μmである。さらに、サンプルは、間隙および亀裂によって形成される表面に沿って、および塊状粒子自体が含む亀裂によって形成される表面上に、酸化亜鉛を含む。本発明によるサンプルE1と比較してより大きい、中間寸法(d=0.60mm)に起因して、主としてγ真鍮の第1の生産される被覆材層は、あまり著しく分裂されておらず、および亀裂を生じさせられていない。γ真鍮は、第2の拡散アニーリングプロセスにおいてβ真鍮に変換されるので、塊状粒子の脆性は、低下させられ、その結果として、本発明によるサンプルE2の表面構造は、第2の延伸プロセスにおけるより大きい変形にもかかわらず、殆ど亀裂を生じさせられておらず、塊状粒子の厚さは、より均一である。塊状粒子の厚さは、ワイヤ断面上で半径方向に測定されると、9~11μmである。本発明によるサンプルE2では、切断性能は、比較サンプルV1と比較して、それぞれ、40%、28%増加させられる。
【0099】
本発明によるサンプルE3は、39~43重量%の亜鉛含有量を伴う真鍮の内側の連続領域を伴う被覆材層と、少なくともそれらの円周の一部にわたって、互いに、または被覆材層の材料から、亀裂およびくぼみ(間隙)によって、空間的に分離される外向きの塊状粒子とを有し、これらの粒子は、43~48重量%の亜鉛含有量を有する。塊状粒子の厚さは、ワイヤ断面上で半径方向に測定されると、5~11μmである。被覆材層の一部は、上層によって包囲され、それは、主として、酸化亜鉛から成る。この上層の厚さは、0.05~2μmである。さらに、サンプルは、くぼみ(間隙)および亀裂によって形成される表面に沿って、および塊状粒子自体が含む亀裂によって形成される表面上に酸化亜鉛を含む。本発明によるサンプルE3では、切断性能は、比較サンプル1と比較して、それぞれ、37%、24%増加させられる。
【0100】
本発明によるサンプルE4は、39~43重量%の亜鉛含有量を伴う真鍮の内側の連続領域を伴う被覆材層と、部分的または完全に、または被覆材層の隣り合った材料から、亀裂およびくぼみ(間隙)によって、互いに空間的に分離される外向きの塊状粒子とを有し、これらの粒子は、43~48重量%の亜鉛含有量を有する。被覆材層の外面の一部は、上層によって包囲され、それは、実質的に完全に、酸化亜鉛から形成される。この上層の厚さは、0.05~2μmである。
【0101】
最終延伸プロセス中のサンプルE3と比較してより小さい断面低減に起因して、サンプルE4は、主として、酸化亜鉛を含む上層から形成されるラメラと、銅-亜鉛合金を含む塊状粒子の材料から形成されるラメラとが、交互様式において、互いに隣接して配置されるように、層状構造を伴う領域を表面上に有する。
【0102】
さらに、サンプルE4は、間隙および亀裂によって形成される表面に沿って、および塊状粒子自体が含む亀裂によって形成される表面上に酸化亜鉛を含む。塊状粒子の厚さは、ワイヤ断面上で半径方向に測定されると、9~11μmである。本発明によるサンプルE4では、切断性能は、比較サンプルV1と比較して、それぞれ、42%、28%増加させられる。
【0103】
塊状粒子のより均一表面構造および厚さに起因して、サンプルE1およびE4と比較して、より優れた表面粗度が、本発明によるサンプルE2およびE3を用いて達成される(表2参照)。R
a値は、裸真鍮ワイヤ(V1)の場合よりさらに小さい。
【表2】
【0104】
本発明によるサンプルE1-E4は、サンプルV4よりはるかに小さい被覆材層の総厚を有する。これは、ワイヤ電極の真直度および曲げ剛性を促進し、その結果として、自動スレッディングプロセスが、例えば、高さのあるワークピース等の困難な条件下でも、浸食機械上で妨害されずに進められる。
【0105】
全体として、本発明によるサンプルE1-E4の被覆材層は、γ真鍮からβ真鍮への主要または完全な変換に起因して、比較サンプルV3およびV4より延性かつより軟質であり、したがって、ワイヤ浸食システム上で進められる間、より耐摩耗性的に挙動し、その結果として、プロセスは、ワイヤ摩耗残骸の堆積物に起因して、途絶または減損をあまり受けにくい。
【0106】
さらに、浸食機械のワイヤガイドおよび電気接点のより長い寿命が、比較サンプルV3およびV4と比較して全体としてより延性かつより軟質である、被覆材層を通して達成される。
【0107】
(参照番号)
1: ワイヤ電極
2: ワイヤコア
3: 塊状粒子
4: 隣り合った被覆材層
5: 塊状粒子の外側領域
6: 上層
7: 塊状粒子を包囲する亀裂
7‘: 塊状粒子の内部の亀裂
8: ワイヤ表面上の層状構造を伴う領域
【0108】
(引用文書)
第US4,977,303号
第US5,945,010号
第US6,303,523号
第US7,723,635号
第EP-A2193876号
第EP-A1846189号
第EP-A2517817号
第EP-A1295664号
第EP-A1455981号
第KR-A10-2007-0075516号