(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】垂直共振器型発光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20241105BHJP
H01S 5/323 20060101ALI20241105BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/323 610
H01S5/343 610
(21)【出願番号】P 2021569805
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047403
(87)【国際公開番号】W WO2021140871
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2020001533
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/037679(WO,A1)
【文献】米国特許第09929536(US,B1)
【文献】特開2019-135748(JP,A)
【文献】特開2004-128351(JP,A)
【文献】特開2017-098328(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020791(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194244(WO,A1)
【文献】特開2008-270432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム系半導体基板と、
前記基板上に形成された窒化物半導体よりなる第1の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する窒化物半導体よりなる第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された窒化物半導体よりなる活性層、及び前記活性層上に形成されかつ前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する窒化物半導体よりなる第2の半導体層を含む半導体構造層と、
前記半導体構造層の前記第1の半導体層に電気的に接触している第1の電極層と、
前記半導体構造層の上面に形成され前記上面の1の領域において前記半導体構造層の前記第2の半導体層に電気的に接触している第2の電極層と、
前記電極層上に前記1の領域を覆うように形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、
前記半導体構造層は、前記1の領域を囲繞する領域に前記上面から前記活性層を貫通する1または複数の凹部を含む1の凹構造を有
し、
前記半導体構造層の前記上面の前記1の領域は、環状の領域であり、前記1の領域の内側に前記上面から前記活性層を貫通する1または複数の凹部を含む他の凹構造を有することを特徴とする垂直共振器型発光素子。
【請求項2】
窒化ガリウム系半導体基板と、
前記基板上に形成された窒化物半導体よりなる第1の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する窒化物半導体よりなる第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された窒化物半導体よりなる活性層、及び前記活性層上に形成されかつ前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する窒化物半導体よりなる第2の半導体層を含む半導体構造層と、
前記半導体構造層の前記第1の半導体層に電気的に接触している第1の電極層と、
前記半導体構造層の上面に形成され前記上面の1の領域において前記半導体構造層の前記第2の半導体層に電気的に接触している第2の電極層と、
前記電極層上に前記1の領域を覆うように形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、
前記半導体構造層は、前記1の領域を囲繞する領域に前記上面から前記活性層を貫通する1または複数の凹部を含む1の凹構造を有
し、
前記窒化ガリウム系半導体基板は第1の導電型を備え、
前記第1の電極層は、前記基板の前記半導体構造層とは反対側の面であって、かつ、前記基板の法線方向から見て前記1の領域に対応する領域を除く箇所に配置されており、
前記第1の電極層は、前記基板の法線方向から見て前記1の領域に対応する領域に開口を備えた形状を有し、
前記窒化ガリウム系半導体基板は、前記開口から前記基板の一部が突出している突出部を有することを特徴とする垂直共振器型発光素子。
【請求項3】
前記1または複数の凹部は、前記半導体構造層の面内方向に対して垂直な方向からみて回転対称に設けられていることを特徴とする請求項1
または2に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項4】
前記1または複数の凹部は、前記半導体構造層の面内方向に対して垂直な方向からみて環状に設けられている溝であることを特徴とする請求項1
乃至3のいずれかに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項5】
前記凹構造は、前記半導体構造層の面内方向に対して垂直な方向からみて、前記第2の多層膜反射鏡と重なるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項6】
前記凹構造は、前記半導体構造層の面内方向に対して垂直な方向からみて、前記第2の多層膜反射鏡の周囲に形成されていることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項7】
前記半導体構造層の前記上面の前記1の領域の外側の領域及び前記1または複数の凹部の内面は、絶縁層で覆われていることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項8】
前記第1の半導体層はメサ形状の構造を含み、前記メサ形状の構造は前記活性層および前記第2の半導体層を含み、
前記メサ形状の構造の周囲に存在する前記第1の半導体層の上面に前記第1の電極層が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項9】
前記第1の多層膜反射鏡は、前記窒化ガリウム系半導体基板のC面上またはC面から0.5°以内にオフした面上に形成されている請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項10】
前記凹構造は、前記1の領域を囲繞する断続的に形成された複数の溝部からなる環状構造であることを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項11】
窒化ガリウム系半導体基板と、
前記基板上に形成された窒化物半導体よりなる第1の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する窒化物半導体よりなる第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された窒化物半導体よりなる活性層、及び前記活性層上に形成されかつ前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する窒化物半導体よりなる第2の半導体層を含む半導体構造層と、
前記半導体構造層の前記第1の半導体層に電気的に接触している第1の電極層と、
前記半導体構造層の上面に形成され前記上面の1の領域において前記半導体構造層の前記第2の半導体層に電気的に接触している第2の電極層と、
前記電極層上に前記1の領域を覆うように形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、
前記半導体構造層は、前記1の領域を囲繞する領域に前記上面から前記活性層を貫通する1または複数の凹部を含む1の凹構造を有し、
前記窒化ガリウム系半導体基板の前記第1の多層膜反射鏡が形成されている面は、c面からm面及びa面のうちの1の結晶面にオフセットした面であり、前記1または複数の
凹部は、半導体構造層の上面において、前記1の領域から見て前記1の結晶面に垂直な1の軸に沿った方向にある領域に延在しており、前記1の軸に沿った方向と垂直な方向にある領域に形成されていないことを特徴とす
る垂直共振器型発光素子。
【請求項12】
前記1の結晶面はm面であることを特徴とする請求項
11に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項13】
前記1または複数の
凹部は、前記1の領域の外縁に沿った形状であることを特徴とする請求項
11または12に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項14】
前記1の領域を囲繞する領域は、前記1の領域の外縁からの距離が50μm以下の領域であり、かつ前記垂直共振器型発光素子を上方から見た際の前記活性層の発光強度が、前記活性層の発光強度のピークの1.8%以下になる領域であることを特徴とする請求項
11乃至13のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:vertical cavity surface emitting laser)などの垂直共振器型発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体レーザの1つとして、電圧の印加によって光を放出する半導体層と、当該半導体層を挟んで互いに対向する多層膜反射鏡と、を有する垂直共振器型の半導体面発光レーザ(以下、単に面発光レーザとも称する)が知られている。例えば、特許文献1には、n型半導体層及びp型半導体層にそれぞれ接続されたn電極及びp電極を有する垂直共振器型の半導体レーザが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子には、対向する反射鏡によって光共振器が形成されている。例えば、面発光レーザ内においては、電極を介して半導体層に電圧が印加されることで、当該半導体層から放出された光が当該光共振器内で共振し、レーザ光が生成される。
【0005】
しかし、垂直共振器型の半導体レーザ素子には、例えば、活性層を含む半導体層の面内方向に共振器を有する水平共振器型の半導体レーザに比べ発光効率が低いということが課題の一例として挙げられる。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、高い発光効率を有する垂直共振器型発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による垂直共振器型発光素子は、基板と、前記基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、前記第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された発光層、及び前記発光層上に形成されかつ前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層と、前記半導体構造層の上面に形成され前記上面の1の領域において前記半導体構造層の前記第2の半導体層に電気的に接触している電極層と、前記電極層上に前記1の領域を覆うように形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、前記半導体構造層は、前記1の領域を囲繞する領域に前記上面から前記発光層を貫通する1または複数の凹部を含む1の凹構造を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。以下の説明においては、半導体面発光レーザ素子を例に説明する(半導体レーザ)が、本発明は、面発光レーザのみならず、垂直共振器型発光ダイオードなど、種々の垂直共振器型発光素子に適用することができる。
【実施例1】
【0010】
図1は、実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以下、単に面発光レーザとも称する)10の斜視図である。
【0011】
基板11は、窒化ガリウム系半導体基板、例えばGaN基板である。基板11は、例えば、上面形状が矩形の基板である。基板11の上には、基板11の上に成長させられた半導体層からなる第1の多層膜反射鏡13が形成されている。
【0012】
第1の多層膜反射鏡13は、AlInNの組成を有する低屈折率半導体膜と、GaN組成を有し低屈折率半導体膜よりも屈折率が高い高屈折率半導体膜とが交互に積層された半導体多層膜反射鏡である。言い換えれば、第1の多層膜反射鏡13は、半導体材料からなる分布フラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)である。例えば、基板11の上面には、GaN組成を有するバッファ層が設けられ、当該バッファ層上に上記高屈折率半導体膜と低屈折半導体膜とを交互に成膜されることで第1の多層膜反射鏡13が形成される。
【0013】
なお、基板11の上面、すなわちGaN組成を有するバッファ層が設けられている面はC面またはC面から0.5°以内にオフした面であることが好ましい。後述する半導体構造層15の結晶性などが良好となるためである。
【0014】
半導体構造層15は、第1の多層膜反射鏡13上に形成された複数の半導体層からなる積層構造体である。半導体構造層15は、第1の多層膜反射鏡13上に形成されたn型半導体層(第1の半導体層)17と、n型半導体層17上に形成された発光層(または活性層)19と、活性層19上に形成されたp型半導体層(第2の半導体層)21と、を有する。
【0015】
n型半導体層17は、第1の多層膜反射鏡13上に形成された半導体層である。n型半導体層17は、GaN組成を有し、n型不純物としてSiがドーピングされている半導体層である。n型半導体層17は、角柱状の下部17Aとその上に配された円柱状の上部17Bとを有する。具体的には、例えば、n型半導体層17は、角柱状の下部17Aの上面17Sから突出した円柱状の上部17Bを有している。言い換えれば、n型半導体層17は、上部17Bを含むメサ形状の構造を有する。
【0016】
活性層19は、n型半導体層17の上部17B上に形成されており、InGaN組成を有する井戸層及びGaN組成を有する障壁層を含む量子井戸構造を有する層である。面発光レーザ10においては、活性層19において光が発生する。
【0017】
p型半導体層21は、活性層19上に形成されたGaN組成を有する半導体層である。p型半導体層21には、p型の不純物としてMgがドーピングされている。
【0018】
n電極23は、n型半導体層17の下部17Aの上面17Sに設けられ、n型半導体層17と電気的に接続されている金属電極である。n電極23は、n型半導体層17の上部17Bを囲繞するように環状に形成されている。
【0019】
絶縁層25は、p型半導体層21上に形成されている絶縁体からなる層である。絶縁層25は、例えばSiO2等のp型半導体層21を形成する材料よりも低い屈折率を有する物質によって形成されている。絶縁層25は、p型半導体層21上において環状に形成されており、中央部分にp型半導体層21を露出する開口部(図示せず)を有している。
【0020】
p電極27は、絶縁層25上に形成された金属電極である。p電極27は、絶縁層25の上記開口部から露出したp型半導体層21の上面に、ITO又はIZOなどの金属酸化膜からなる透明電極(図示せず)介して電気的に接続されている。
【0021】
第2の多層膜反射鏡29は、Al2O3からなる低屈折率誘電体膜と、Ta2O5からなり低屈折率誘電体膜よりも屈折率が高い高屈折率誘電体膜とが交互に積層された誘電体多層膜反射鏡である。言い換えれば、第2の多層膜反射鏡29は、誘電体材料からなる分布フラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)である。
【0022】
図2は、面発光レーザ10の上面図である。上述したように、面発光レーザ10は、矩形の上面形状を有する基板11上に形成されたn型半導体層17、上面形状が円形の活性層19及びp型半導体層21を含む半導体構造層15を有している(
図1参照)。p型半導体層21上には、絶縁層25及びp電極27が形成されている。p電極27上には、第2の多層膜反射鏡29が形成されている。
【0023】
絶縁層25は、上述した絶縁層25のp型半導体層21を露出する円形の開口部である開口部25Hを有している。
図2に示すように、開口部25Hは、面発光レーザ10の上方からみて絶縁層25の中央部に形成されており、面発光レーザ10の上方からみて第2の多層膜反射鏡29に覆われている。言い換えれば、開口部25Hは、p型半導体層21の上面において第2の多層膜反射鏡29に覆われている。さらに言い換えれば、開口部25Hは、絶縁層25の多層膜反射鏡29の下面と対向する領域に形成されている。
【0024】
p電極27は、面発光レーザ10の上方からみて絶縁層25の中央部に形成されており、開口部25Hを囲む開口部27Hを有している。すなわち、開口部27Hは、開口部25Hよりも大きい開口である。例えば、開口部27Hの形状は、開口部25Hの形状と同心円の円形形状である。
【0025】
図2に破線で示すように、p型半導体層21の上面、すなわち半導体構造層15の上面には、円環状の溝15Gが形成されている。溝15Gは、開口部25H及び開口部27Hの外側の領域に形成されている。すなわち、溝15Gは、半導体構造層15の面内方向に対して垂直な方向から見て環状に設けられている溝である。
【0026】
本実施例においては、溝15Gは、p型半導体層21の上面において第2の多層膜反射鏡29によって覆われるように形成されている。すなわち、本実施例においては、溝15Gは、第2の多層膜反射鏡29の下面と対向する位置に形成されている。
【0027】
図3は、面発光レーザ10の
図2の3-3線に沿った断面図である。上述のように、面発光レーザ10は、GaN基板である基板11を有し、基板11上に第1の多層膜反射鏡13が形成されている。なお、基板11の下面には、ARコートが施されていてもよい。
【0028】
第1の多層膜反射鏡13上には、半導体構造層15が形成されている。半導体構造層15は、n型半導体層17、活性層19及びp型半導体層21がこの順に形成されてなる積層体である。
【0029】
半導体構造層15に形成されている溝15Gは、p型半導体層21の上面の中央部において突出している突出部21Pを囲むように形成されており、p型半導体層21の上面から活性層19を貫通してn型半導体層17に至っている。
【0030】
このように、実施例1の面発光レーザ10においては、溝15Gが活性層19を貫通するように形成されている。言い換えれば、溝15Gによって活性層19に隙間が形成されている。
【0031】
絶縁層25は、p型半導体層21の上面及び溝15Gの内面を覆うように形成されている。絶縁層25は、上述のようにp型半導体層21よりも低い屈折率を有している材料からなっている。絶縁層25は、突出部21Pを露出せしめる開口部25Hを有している。例えば、
図2に示すように開口部25Hは円形である。例えば、開口部25Hと突出部21Pとは同様の形状を有しており、開口部25Hの内側面と突出部21Pの外側面は接している。
【0032】
透光電極層31は、絶縁層25及び絶縁層25の開口部25Hから露出している突出部21Pを覆うように形成された透光性を有する導電体からなる層である。すなわち、透光電極層31は、p型半導体層21の上面の開口部25Hによって露出している領域において、p型半導体層21と電気的に接触している。透光電極層31は、例えば、ITOまたはIZO等の活性層19からの出射光に対して透光性を有する金属酸化物によって形成されている。
【0033】
p電極27は、上述したように金属電極であり、透光電極層31を覆うように形成されている。すなわち、p電極27は、透光電極層31と電気的に接触している。従って、p電極27は、p型半導体層21の上面の開口部25Hによって露出している領域において、透光電極層31を介してp型半導体層21と電気的に接触または接続している。p電極27は、中央部において、透光電極層31を露出する開口部27Hを有する。開口部27Hは、開口部25Hよりも幅が大きい開口である。
【0034】
第2の多層膜反射鏡29は、開口部27H及び溝15Gを覆うように形成されている。第2の多層膜反射鏡29は、開口部27Hによって形成される空間を埋めて、透光電極層31に接するように形成されている。また、第2の多層膜反射鏡29は、溝15Gによって形成される空間を埋めるように形成されている。
【0035】
面発光レーザ10において、第1の多層膜反射鏡13は、第2の多層膜反射鏡29よりもわずかに低い反射率を有する。従って、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間で共振した光は、その一部が第1の多層膜反射鏡13及び基板11を透過し、外部に取り出される。
【0036】
上述のように、実施例1の面発光レーザ10においては、溝15Gが活性層19を貫通するように形成されている。言い換えれば、溝15Gによって活性層19に隙間が形成されている。この溝15Gは、半導体構造層15が形成された後に形成される。その後、絶縁層25が、透光電極層31、p電極27及び第2の多層膜反射鏡29が形成される前に形成される。
【0037】
従って、半導体構造層15が形成された後に、活性層19に至る溝15Gが形成されることで、活性層19の面内に沿った方向において空間または隙間が形成される。この隙間によって、活性層19の形成時に活性層19の層内方向または半導体構造層15の層面方向において発生した歪みが緩和される。
【0038】
具体的に言えば、活性層19はその形成時に量子井戸構造を形成するInGaNとGaNの格子定数の差によって結晶構造が歪んで圧電分極が生じて、ピエゾ電界が生ずる。このピエゾ電界の発生により、発光層に注入される電子と正孔との再結合確率が低下し、これが内部量子効率が低くなる一因となる。
【0039】
面発光レーザ10においては、半導体構造層15に活性層19に至る溝15Gが形成される。この溝による間隙により、活性層19の成長時において活性層19の層内方向に生じた歪みが緩和され、活性層19における内部量子効率が向上すると考えられる。
【0040】
ここで、面発光レーザ10の動作について説明する。面発光レーザ10において、n電極23及びp電極27との間に電圧が印加されると、図中太線一点鎖線に示す様に、半導体構造層15内に電流が流れ、活性層19から光が放出される。活性層19から放出された光は、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間において反射を繰り返し、共振状態に至る(レーザ発振する)。
【0041】
面発光レーザ10においては、p型半導体層21には、開口部25Hによって露出している部分のみから電流が注入される。また、p型半導体層21は非常に薄いため、p型半導体層21内では面内方向、すなわち半導体構造層15の面内に沿った方向には電流は拡散しない。従って、面発光レーザ10においては、活性層19のうち、開口部25Hの直下の領域にのみ電流が供給されて、当該領域からのみ光が放出される。すなわち、面発光レーザ10において、開口部25Hが活性層19における電流の供給範囲を制限する電流狭窄構造となっている。
【0042】
上述のように、本実施例においては、第1の多層膜反射鏡13は、第2の多層膜反射鏡29よりもわずかに低い反射率を有する。従って、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間で共振した光は、その一部が第1の多層膜反射鏡13及び基板11を透過し、外部に取り出される。このようにして、面発光レーザ10は、基板11の下面から、基板11の下面及び半導体構造層15の各層の面内方向に対して垂直な方向に光を出射する。
【0043】
なお、半導体構造層15のp型半導体層21の突出部21P及び絶縁層25の開口部25Hは、活性層19における発光領域の中心である発光中心を画定し、共振器OCの中心軸(発光中心軸)AXを画定する。共振器OCの中心軸AXは、p型半導体層21の突出部21Pの中心を通り、半導体構造層15の面内方向に対して垂直な方向に沿って延びる。
【0044】
なお、活性層19の発光領域とは、例えば、活性層19内における所定の強度以上の光が放出される所定の幅を有する領域であり、その中心が発光中心である。また、例えば、活性層19の発光領域とは、活性層19内において所定の密度以上の電流が注入される領域であり、その中心が発光中心である。また、当該発光中心を通る基板11の上面または半導体構造層15の各層の面内方向に対して垂直な直線が中心軸AXである。発光中心軸AXは、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29とによって構成される共振器OCの共振器長方向に沿って延びる直線である。また、中心軸AXは、面発光レーザ10から出射されるレーザ光の光軸に対応する。
【0045】
ここで、面発光レーザ10における第1の多層膜反射鏡13、半導体構造層15及び第2の多層膜反射鏡29各層の例示的な構成及び溝15Gの例示的な寸法について説明する。本実施例においては、第1の多層膜反射鏡13は、基板11の上面に形成された1μmのGaN下地層、及び42ペアのn-GaN層及びAlInN層からなる。
【0046】
n型半導体層17は、1580nmの層厚のn-GaN層である。活性層19は、4nmのGaInN層及び5nmのGaN層が4ペア積層された多重量子井戸構造の活性層からなる。活性層19上には、MgドープされたAlGaNの電子障壁層が形成され、その上に50nmのp-GaN層からなるp型半導体層21が形成されている。第2の多層膜反射鏡29は、Nb2O5及びSiO2を10.5ペア積層したものである。この場合の共振波長は、440nmであった。
【0047】
半導体構造層15に形成される溝部15Gは、8μmの外径を有し、深さが120nm、幅2μmである。なお、半導体構造層15上に形成される透光電極層31は、20nmのITOからなる層であり、透光電極層31及びp電極27の上に40nmのNbO5のスペーサー層を挟んで第2の多層膜反射鏡29が形成されている。
【0048】
また、基板11の裏面は、研磨面となっており、当該研磨面にNb2O5及びSiO2の二層のARコートが形成されている。
【0049】
また、p型半導体層21は、突出部21Pにおいて50nmの層厚を有し、それ以外の領域において30nmの層厚を有することとしてもよい。すなわち、p型半導体層21は、突出部21Pとそれ以外の部分で層厚が異なっていてもよい。また、絶縁層25の上面は、p型半導体層21の突出部21Pの上面と同一の高さ位置に配置されるように構成されている。なお、これらは一例に過ぎない。
【0050】
以下、面発光レーザ10内部の光学的な特性について説明する。上述のように、面発光レーザ10において、絶縁層25は、p型半導体層21よりも低い屈折率を有する。また、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間における他の層の層厚は、面内のいずれの箇所においても同じ層内であれば同一である。
【0051】
従って、面発光レーザ10の第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間で形成される共振器OC内における等価的な屈折率(第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間の光学的距離であり、共振波長に対応する)は、p型半導体層21と絶縁層25との屈折率の差によって、上面形状が開口部25Hによって画定される円柱状の中央領域CAとその周りの筒状の周辺領域PAとで異なる。
【0052】
具体的には、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間において、周辺領域PAの等価屈折率は中央領域の等価屈折率よりも低い、すなわち、中央領域CAにおける等価的な共振波長は、周辺領域PA等価的な共振波長よりも小さい。なお、上述のように、活性層19において光が放出されるのは、開口部25Hの直下の領域である。すなわち、活性層19において光が放出される発光領域は、活性層19のうち中央領域CAと重なる部分、言い換えれば上面視において絶縁層25の開口部25H内となる領域である。
【0053】
このように、面発光レーザ10においては、活性層19の発光領域を含む中央領域CAと、中央領域CAを囲繞しかつ中央領域CAよりも屈折率が低い周辺領域PAとが形成されている。これによって、中央領域CA内の定在波が周辺領域PAに発散(放射)することによる光損失が抑制される。すなわち、中央領域CAに多くの光が留まり、またその状態でレーザ光LBが外部に取り出される。従って、多くの光が共振器OCの発光中心軸AXの周辺の中央領域CAに集中し、高出力かつ高密度なレーザ光を生成及び出射することができる。
【0054】
上述のように、本実施例の面発光レーザ10では、半導体構造層15にp型半導体層21の上面から活性層19に至る溝15Gが形成されている。この溝15Gによって、活性層19において、活性層19の層内方向に生じた歪みが緩和され、活性層19における内部量子効率が改善し、発光効率を向上が実現可能となる。
[製造方法]
以下に、面発光レーザ10の製造方法の一例について説明する。まず、基板11として、c面n-GaN基板を用意し、当該基板上に、有機金属気相成長法(MOVPE)により、下地層としてn-GaN(層厚1μm)層を形成する。その後、当該下地層上にn-GaN/AlInNの層を42ペア成膜し、第1の多層膜反射鏡13を形成する。
【0055】
次に、第1の多層膜反射鏡13上に、Siドープn-GaN(層厚1580nm)を形成してn型半導体層17を形成し、その上に、GaInN(層厚4nm)及びGaN(層厚5nm)からなる層を4ペア積層することで、活性層19を形成する。
【0056】
次に、活性層19上に、MgドープAlGaNからなる電子障壁層を形成し(図示せず)、当該電子障壁層上にp-GaN層(層厚50nm)を成膜してp型半導体層21を形成する。
【0057】
次に、p型半導体層21、活性層19及びn型半導体層17の周囲の部分をエッチングして、当該周囲の部分においてn型半導体層17の上面17Sが露出するようなメサ形状を形成する。言い換えれば、この工程で、
図1のn型半導体層17、活性層19及びp型半導体層21からなる円柱上の部分を有する半導体構造層15が完成する。
【0058】
次に、p型半導体層21の上面から活性層19を貫通する溝15Gをエッチングで形成する。その後、半導体構造層15上に、SiO2を成膜して、その一部を除去して開口部25Hを形成することで絶縁層25を形成する。
【0059】
次に、絶縁層25上にITOを20nm成膜して透光電極層31を形成し、透光電極層31上及びn型半導体層17の上面17SにそれぞれAuを成膜してp電極27及びn電極23を形成する。
【0060】
次に、p電極27及び透光電極層31上にNb2O5を40nm、スペーサー層(図示せず)として成膜し、当該スペーサー層上に、1ペアがNb2O5/SiO2からなる層を10.5ペア成膜して、第2の多層膜反射鏡29を形成する。
【0061】
次に、基板11の裏面を研磨し、当該研磨面に、Nb2O5/SiO2からなるARコートを形成することで、面発光レーザ10が完成する。
【実施例2】
【0062】
以下、本発明の実施例2である面発光レーザ40について説明する。面発光レーザ40は、半導体構造層15の溝15Gが、上面視においては第2の多層膜反射鏡29の外側に形成されている点において、面発光レーザ10とは異なる。
【0063】
図4に実施例2の面発光レーザ40の斜視図を示す。また、
図5に、面発光レーザ40を、上記実施例1に示したのと同様の断面で切断した断面図を示す。
図4及び
図5に示すように、面発光レーザ40においては、半導体構造層15の溝15Gが、p型半導体層21の上面において、第2の多層膜反射鏡29の外側に形成されている。すなわち、p型半導体層21の上面において、溝15Gが第2の形成領域から露出している。
【0064】
p型半導体層21上に絶縁層25を介して形成されたp電極27の上面には、溝15Gの形状が引き継がれて形成された溝構造27Gが形成されている。すなわち、溝構造27Gは、溝15G上に溝15Gとほぼ同一の形で形成されている。
【0065】
図5に示すように、面発光レーザ40においても、面発光レーザ10と同様に、半導体構造層15にp型半導体層21の上面から活性層19に至る溝15Gが形成されている。この溝15Gによって、活性層19において、活性層19の層内方向に生じた歪みが緩和され、活性層19における内部量子効率が改善し、発光効率を向上が実現可能となる。なお、面発光レーザ10においては、第2の多層膜反射鏡29をp電極27上に形成しなくともよい。すなわち、段差を跨いで、第2の多層膜反射鏡29を形成しなくとも良いので、第2の多層膜反射鏡29の形成の精度をより高めることが可能である。
【実施例3】
【0066】
以下、本発明の実施例3である面発光レーザ50について説明する。面発光レーザ50は、n型半導体層17に接続された電極が基板11の裏面にある点等において面発光レーザ10とは異なる。
【0067】
図6は、面発光レーザ50の斜視図である。基板51は、例えば、上面形状が矩形の基板である。基板51は、n-GaN等の導電性の材料からなる基板である。基板51の裏面には、金属からなるn電極52が形成されている。
【0068】
基板11の上には、基板51の上に成長させられた半導体層からなる第1の多層膜反射鏡53が形成されている。第1の多層膜反射鏡53は、AlInNの組成を有する低屈折率半導体膜と、n-GaN組成を有し低屈折率半導体膜よりも屈折率が高い高屈折率半導体膜とが交互に積層された導電性を有する半導体多層膜反射鏡である。言い換えれば、第1の多層膜反射鏡53は、半導体材料からなる分布フラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)である。例えば、基板51の上面には、n-GaN組成を有するバッファ層が設けられ、当該バッファ層上に上記高屈折率半導体膜と低屈折半導体膜とを交互に成膜されることで第1の多層膜反射鏡53が形成される。
【0069】
半導体構造層15は、第1の多層膜反射鏡53上に形成された複数の半導体層からなる積層構造体である。半導体構造層15は、第1の多層膜反射鏡53上に形成されたn型半導体層(第1の半導体層)17と、n型半導体層17上に形成された発光層(または活性層)19と、活性層19上に形成されたp型半導体層(第2の半導体層)21と、を有する。
【0070】
n型半導体層17は、第1の多層膜反射鏡53上に形成された半導体層である。n型半導体層17は、GaN組成を有し、n型不純物としてSiがドーピングされている半導体層である。
【0071】
活性層19は、n型半導体層17上に形成されており、InGaN組成を有する井戸層及びGaN組成を有する障壁層を含む量子井戸構造を有する層である。面発光レーザ50においては、活性層19において光が発生する。
【0072】
p型半導体層21は、活性層19上に形成されたGaN組成を有する半導体層である。p型半導体層21には、p型の不純物としてMgがドーピングされている。
【0073】
絶縁層25は、p型半導体層21上に形成されている絶縁体からなる層である。絶縁層25は、例えばSiO2等のp型半導体層21を形成する材料よりも低い屈折率を有する物質によって形成されている。絶縁層25は、p型半導体層21上において環状に形成されており、中央部分にp型半導体層21を露出する開口部(図示せず)を有している。
【0074】
p電極27は、絶縁層25上に形成された金属電極である。p電極27は、絶縁層25の上記開口部から露出したp型半導体層21の上面に、ITO又はIZOなどの金属酸化膜からなる透明電極(図示せず)介して電気的に接続されている。
【0075】
第2の多層膜反射鏡29は、Al2O3からなる低屈折率誘電体膜と、Ta2O5からなり低屈折率誘電体膜よりも屈折率が高い高屈折率誘電体膜とが交互に積層された誘電体多層膜反射鏡である。言い換えれば、第2の多層膜反射鏡29は、誘電体材料からなる分布フラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)である。
【0076】
図7は、面発光レーザ50の上面図である。上述したように、面発光レーザ10は、矩形の上面形状を有する基板11上に形成されたn型半導体層17、活性層19及びp型半導体層21を含む半導体構造層15を有している(
図6参照)。p型半導体層21上には、絶縁層25及びp電極27が形成されている。p電極27上には、第2の多層膜反射鏡29が形成されている。
【0077】
絶縁層25は、上述した絶縁層25のp型半導体層21を露出する円形の開口部である開口部25Hを有している。
図2に示すように、開口部25Hは、面発光レーザ10の上面からみて絶縁層25の中央部に形成されており、面発光レーザ10の上面からみて第2の多層膜反射鏡29に覆われている。言い換えれば、開口部25Hは、p型半導体層21の上面において第2の多層膜反射鏡29に覆われている。さらに言い換えれば、開口部25Hは、p型半導体層21の上面の多層膜反射鏡29の下面と対向する領域に配されている。
【0078】
p電極27は、面発光レーザ10の上面からみて絶縁層25の中央部に形成されておりかつ開口部25Hを囲む開口部27Hを有している。すなわち、開口部27Hは、開口部25Hよりも大きい開口である。例えば、開口部27Hの形状は、開口部25Hの形状と同心円の円形形状である。
【0079】
図7に破線で示すように、p型半導体層21の上面、すなわち半導体構造層15の上面には、円環状の溝15Gが形成されている。溝15Gは、開口部25H及び開口部27Hの外側の領域に形成されている。本実施例においては、溝15Gは、p型半導体層21の上面において第2の多層膜反射鏡29によって覆われるように形成されている。すなわち、本実施例においては、溝15Gは、第2の多層膜反射鏡29の下面と対向する位置に形成されている。
【0080】
図8は、面発光レーザ50の
図7の8-8線に沿った断面図である。上述のように、面発光レーザ50は、n-GaN基板である基板51を有し、基板51上に第1の多層膜反射鏡53が形成されている。
【0081】
基板51の裏面51Aには、突出部51Pが形成されている。突出部51Pは、基板51の法線方向から見て、突出部21Pに対応する領域に形成されている。この突出部51Pは、裏面51Aが研磨された後に、突出部51Pの周囲がドライエッチングによって除去されたために残った凸部である。よって、突出部51Pの頂面は研磨面となっており、基板51の裏面51Aの突出部51Pの周囲の領域は、研磨面がドライエッチングされた表面になっている。n電極52は、基板51の裏面51Aの突出部51Pの周囲の領域、すなわち突出部51Pを除く領域に形成されている。突出部51Pは、その頂面が出射する光が外部に放出される開口となり、n電極52によって出射光を遮らないためである。すなわち、n電極52の開口から突出部51Pが突出した構造となっている。
【0082】
反射防止層55は、基板51の裏面51Aにおいて突出部51Pを覆うように形成されている。反射防止層55は、例えば、誘電体多層膜からなり、例えば、Ta2O5層及びSiO2層が複数回交互に積層された構造を有する。反射防止層55は、活性層19から放出された光が基板51の突出部51Pの頂面で反射することを抑制するいわゆるARコートである。
【0083】
第1の多層膜反射鏡53上には、半導体構造層15が形成されている。半導体構造層15は、n型半導体層17、活性層19及びp型半導体層21がこの順に形成されてなる積層構造体である。
【0084】
p型半導体層21は、その上面中央部において、円柱状に上方に突出する突出部21Pを有している。半導体構造層15に形成されている溝15Gは、p型半導体層21の上面において突出部21Pを囲むように形成されており、p型半導体層21の上面から活性層19を貫通してn型半導体層17に至っている。
【0085】
このように、実施例3の面発光レーザ50においては、上述の実施例における面発光レーザ10及び40と同様に、溝15Gが活性層19を貫通するように形成されている。言い換えれば、溝15Gによって活性層19に隙間が形成されている。
【0086】
絶縁層25は、p型半導体層21の上面及び溝15Gの内面を覆うように形成されている。絶縁層25は、上述のようにp型半導体層21よりも低い屈折率を有している材料からなっている。絶縁層25は、突出部21Pを露出せしめる開口部25Hを有している。例えば、
図7に示すように開口部25Hは円形である。例えば、開口部25Hと突出部21Pとは同様の形状を有しており、開口部25Hの内側面と突出部21Pの外側面は接している。
【0087】
透光電極層31は、絶縁層25及び絶縁層25の開口部25Hから露出している突出部21Pを覆うように形成された透光性を有する導電体からなる層である。透光電極層31は、例えば、ITOまたはIZO等の活性層19からの出射光に対して透光性を有する金属酸化物によって形成されている。
【0088】
p電極27は、上述したように金属電極であり、透光電極層31を覆うように形成されている。p電極27は、中央部において、透光電極層31を露出する開口部27Hを有する。開口部27Hは、開口部25Hよりも幅が大きい開口である。
【0089】
第2の多層膜反射鏡29は、開口部27H及び溝15Gを覆うように形成されている。第2の多層膜反射鏡29は、開口部27Hによって形成する空間を埋めて、透光電極層31に接するように形成されている。また、第2の多層膜反射鏡29は、溝15Gによって形成される空間を埋めるように形成されている。
【0090】
面発光レーザ50において、第1の多層膜反射鏡53は、第2の多層膜反射鏡29よりもわずかに低い反射率を有する。従って、第1の多層膜反射鏡53と第2の多層膜反射鏡29との間で共振した光は、その一部が第1の多層膜反射鏡53及び基板51を透過し、外部に取り出される。
【0091】
上述のように、実施例3の面発光レーザ50においては、溝15Gが活性層19を貫通するように形成されている。言い換えれば、溝15Gによって活性層19に隙間が形成されている。この溝15Gは、半導体構造層15が形成された後に形成される。その後、絶縁層25が、透光電極層31、p電極27及び第2の多層膜反射鏡29が形成される前に形成される。
【0092】
従って、半導体構造層15が形成された後に、活性層19に至る溝15Gが形成されることで、活性層19の面内方向に沿った方向において隙間が形成される。この隙間によって、活性層19の形成時に活性層19の層内方向または半導体構造層15の面内方向において発生した歪みが緩和される。
【0093】
具体的に言えば、上述したように、活性層19はその形成時に量子井戸構造を形成するInGaNとGaNの格子定数の差によって結晶構造が歪んで圧電分極が生じて、ピエゾ電界が生ずる。このピエゾ電界によって、発光層に注入される電子と成功との再結合確率が低下し、内部量子効率が低くなる。
【0094】
面発光レーザ50においては、半導体構造層15に活性層19に至る溝15Gが形成される。この溝による間隙により、活性層19の成長時において活性層19の層内方向に生じた歪みが緩和され、活性層19における内部量子効率が向上すると考えられる。
【0095】
ここで、面発光レーザ50の動作について説明する。面発光レーザ50において、n電極52及びp電極27との間に電圧が印加されると、図中太線一点鎖線に示す様に、半導体構造層15内に電流が流れ、活性層19から光が放出される。活性層19から放出された光は、第1の多層膜反射鏡53と第2の多層膜反射鏡29との間において反射を繰り返し、共振状態に至る(レーザ発振する)。
【0096】
面発光レーザ50においては、面発光レーザ10における場合と同様に、p型半導体層21には、開口部25Hによって露出している部分のみから電流が注入される。また、p型半導体層21は非常に薄いため、p型半導体層21内では面内方向、すなわち半導体構造層15の面内に沿った方向には電流は拡散しない。従って、面発光レーザ10においては、活性層19のうち、開口部25Hの直下の領域にのみ電流が供給されて、当該領域からのみ光が放出される。すなわち、面発光レーザ50において、開口部25Hが活性層19における電流の供給範囲を制限する電流狭窄構造となっている。
【0097】
上述のように、本実施例においては、第1の多層膜反射鏡53は、第2の多層膜反射鏡29よりもわずかに低い反射率を有する。従って、第1の多層膜反射鏡53と第2の多層膜反射鏡29との間で共振した光は、その一部が第1の多層膜反射鏡53及び基板51を透過し、突出部51Pから外部に取り出される。このようにして、面発光レーザ10は、基板51の下面及び半導体構造層15の各層の面内方向に対して垂直な方向に光を出射する。
【0098】
発光中心軸AX等の説明については、実施例1の面発光レーザ10と同様となるので省略する。
【0099】
面発光レーザ50における第1の多層膜反射鏡53、半導体構造層15及び第2の多層膜反射鏡29各層の例示的な構成及び溝15Gの例示的な寸法について説明する。本実施例においては、第1の多層膜反射鏡53は、基板51の上面に形成された1μmのn-GaN下地層、及び42ペアのn-GaN層及びAlInN層からなる。
【0100】
n型半導体層17は、Siドープされた1580nmの層厚のn-GaN層である。活性層19は、4nmのGaInN層及び5nmのGaN層が4ペア積層された多重量子井戸構造の活性層からなる。活性層19上には、MgドープされたAlGaNの電子障壁層が形成され、その上に50nmのp-GaN層からなるp型半導体層21が形成されている。第2の多層膜反射鏡29は、Nb2O5及びSiO2を10.5ペア積層したものである。
【0101】
半導体構造層15に形成される溝部15Gは、20μmの外径を有し、深さが120nm、幅1μmである。なお、半導体構造層15上に形成される透光電極層31は、20nmのITOからなる層であり、透光電極層31及びp電極27の上に40nmのNbO5のスペーサー層を挟んで第2の多層膜反射鏡29が形成されている。
【0102】
また、p型半導体層21は、突出部21Pにおいて50nmの層厚を有し、それ以外の領域において30nmの層厚を有することとしてもよい。すなわち、p型半導体層21は、突出部21Pとそれ以外の部分で層厚が異なっていてもよい。また、絶縁層25の上面は、p型半導体層21の突出部21Pの上面と同一の高さ位置に配置されるように構成されている。なお、これらは一例に過ぎない。
【0103】
面発光レーザ50内部の光学的な特性については、面発光レーザ10の特性と同様であるので説明を省略する。
【0104】
上述のように、本実施例の面発光レーザ50では、実施例1の面発光レーザ10と同様に、半導体構造層15にp型半導体層21の上面から活性層19に至る溝15Gが形成されている。この溝15Gによって、活性層19において、活性層19の層内方向に生じた歪みが緩和され、活性層19における内部量子効率が改善し、発光効率を向上が実現可能となる。
【実施例4】
【0105】
以下、本発明の実施例4である面発光レーザ60について説明する。面発光レーザ60は、半導体構造層15の溝15Gが、上面視においては第2の多層膜反射鏡29の外側に形成されている点において、面発光レーザ50とは異なる。
【0106】
図9に実施例4の面発光レーザ60の斜視図を示す。また、
図10に、面発光レーザ60を、上記実施例3に示したのと同様の断面で切断した断面図を示す。
図9及び
図10に示すように、面発光レーザ60においては、半導体構造層15の溝15Gが、p型半導体層21の上面において、第2の多層膜反射鏡29の外側に形成されている。すなわち、p型半導体層21の上面において、溝15Gが第2の多層膜反射鏡の外側に露出している。
【0107】
p型半導体層21上に絶縁層25を介して形成されたp電極27の上面には、溝15Gの形状が引き継がれて形成された溝構造27Gが形成されている。すなわち、溝構造27Gは、溝15G上に溝15Gとほぼ同一の形で形成されている。
図10に示すように、面発光レーザ40においても、面発光レーザ10と同様に、半導体構造層15にp型半導体層21の上面からn型半導体層17に至る溝15Gが形成されている。この溝15Gによって、活性層19において、活性層19の層内方向に生じた歪みが緩和され、活性層19における内部量子効率、例えばスロープ効率が改善し、発光効率を向上が実現可能となる。なお、面発光レーザ10においては、第2の多層膜反射鏡29をp電極27上に形成しなくともよい。すなわち、段差を跨いで、第2の多層膜反射鏡29を形成しなくとも良いので、第2の多層膜反射鏡29の形成の精度をより高めることが可能である。
[半導体構造層の変形例]
上述の実施例においては、半導体構造層15に形成される溝15Gの形状が円環状である場合を例に説明した。しかし、溝15Gの形状は他の形状であってもよい。
【0108】
例えば、
図11に示すように、溝15Gは、環状領域CR(図中一点鎖線で囲まれた領域)において、完全な環状ではなく断続的に形成された凹部GV(または溝GV)を含む溝構造でもよい。すなわち、溝15Gは、複数の凹部を含む凹構造であっても良い。言い換えれば、溝15Gは、断続的に形成された環状構造であってもよい。例えば、溝15Gは、p型半導体層21の上面の開口部25Hによって露出している領域を囲繞する、断続的に形成された環状構造であってもよい。
【0109】
なお、溝15Gを複数個の凹部によって形成する場合、活性層19における歪みを均等に緩和するために、上述した発光中心軸AXから見て2方向以上に形成されているのが望ましい。すなわち、溝15Gを複数の凹部によって形成する場合、面発光レーザ10の上面視において、発光中心軸AXを含む発光領域から見て2方向以上に凹部を形成し、発光領域を凹部によって挟む構造にするのが好ましい。活性層19における歪みを均等に緩和するために、溝15Gを形成する凹部は、発光中心軸AXに対して回転対称に配置するのがさらに好ましい。言い換えれば、溝15Gを形成する凹部は、半導体構造層15の面内方向に対して垂直な方向から見て回転対称に設けられているのが好ましい。
【0110】
なお、上述のように、溝15Gを複数の凹部で形成する等、溝15Gの形状を変化させることで、活性層19の歪みの緩和の度合いに異方性を持たせ上述の実施例の面発光レーザから出射される光の偏光の制御を行うことも可能である。例えば、
図11に示す面発光レーザの場合、開口部25Hからみて、すなわち中央領域CAからみて溝15Gを形成する凹部GVが存在する方向において、活性層19の歪みはより緩和される。これにより、開口部25Hからみて溝15Gを形成する凹部GVが存在する方向(図中左右方向)において光学的な利得が大きくなり、当該方向に沿った偏光方向を有する光を多く得ることが可能となる。
【0111】
上述の活性層19の歪みの緩和を行うために、また上記した歪みの緩和の度合いに異方性を持たせて面発光レーザから出射される光の偏光を制御するためには、溝15Gは発光中心軸AXの近くに形成することが好ましい。従って、例えば、実施例1の面発光レーザ10や実施例3の面発光レーザ50のように、第2の多層膜反射鏡29の下に溝15Gを形成するのが好ましい。なお、活性層19の歪みを緩和するためには、溝15Gまたは複数の溝GVは、例えば、発光領域の外縁から50μm以内の距離に形成するのが好ましい。すなわち、溝15Gを形成する環状領域CRは、発光領域または中央領域CAの外縁から50μm以内の距離に設けられることが好ましい。
【0112】
上述の実施例においては、面発光レーザから円状のレーザ光を出射する場合を例に説明したが、環状のレーザ光を出射する構成としてもよい。すなわち、上述の実施例の面発光レーザの上方から見て、絶縁層25の開口部25Hの中央に円形の絶縁層が形成されていてもよい。さらに言い換えれば、絶縁層25が円環状の孔部を有し、当該円環状の孔部を介して、p型半導体層21の上面が露出し、透光電極層31とp型半導体層21が電気的に接触していてもよい。
【0113】
その場合には、半導体構造層15の溝15Gの内側にさらに内側凹部IGを形成することとしてもよい。この凹部IGも溝15Gと同様にp型半導体層21の上面から活性層19を貫通する。
【0114】
図12は、実施例1の面発光レーザ10に円柱状の内側凹部IGを形成した変形例の上面図である。また、
図13は、実施例1の面発光レーザ10に円筒状の内側凹部IGを形成した変形例の上面図である。このように、内側凹部IGを形成することで、活性層19の歪みをさらに緩和することが可能である。
【実施例5】
【0115】
以下に、本発明の実施例5である面発光レーザ70について説明する。本実施例の面発光レーザ70は、基板11としてc面からm面(1-100)方向に傾斜(オフセット)したC面GaN基板を用いる点、溝15Gの態様が異なる点で実施例1の面発光レーザ10と異なる。なお、面発光レーザ70は、実施例1の面発光レーザ10と同様の製法で形成可能である。
【0116】
図14は、面発光レーザ70の前方斜め上から見た斜視図である。また、
図15は、面発光レーザ70の上面図である。上述したように、面発光レーザ70は、基板11の上面がGaNの結晶面のc面からm面にオフセットした面になっている。
【0117】
具体的には、基板11の上面がc面からm面方向に0.4°傾いた面になっている。言い換えれば、基板11は、c面からm面に0.4°オフセットした主面を有するGaN基板である。なお、
図15において、軸AX1が、基板11のm面に垂直なm軸方向に沿いかつ基板11の上面を含む面内にある軸であり、軸AX2が軸AX1に垂直でありかつ基板11の上面を含む面内にある軸である。
【0118】
面発光レーザ70においては、溝15Gが、軸AX2に沿って互いに平行に伸張する2本の溝GVからなっている。言い換えれば、溝15Gは、軸AX2を挟んで伸張する2本の溝GVからなっている。すなわち、溝15Gが、軸AX1に沿った方向において、活性層19の発光領域と重なる絶縁層25の開口部25Hを挟むように配されている。
【0119】
また、当該溝GVの各々は、p型半導体層21の上面において、第2の多層膜反射鏡29の直下の領域から第2の多層膜反射鏡29の外側にまで延在している。言い換えれば、溝GVの各々の両端部は、第2の多層膜反射鏡29の外側に配されている。従って、溝15Gと同様の形状を有する溝構造27Gも、第2の多層膜反射鏡29の直下の領域から第2の多層膜反射鏡29の外側にまで延在している。
【0120】
面発光レーザ70において、開口部25Hから見て軸AX2に沿った方向にある領域には溝GVが形成されていない。すなわち、面発光レーザ70においては、開口部25Hから見て、軸AX1に沿った方向にある領域にのみに溝GVが形成されている。
【0121】
以下に、面発光レーザ70における出射光の偏光方向について説明する。本実施例の面発光レーザ70のように、基板11のm面にオフセットした成長面に半導体層を成長させた場合、m軸方向に偏向を有する光学利得が他の方向よりも大きくなるため、m軸方向に偏光方向を有するレーザ光が発振しやすい。そのため、面発光レーザ70の中央領域CAから出射される光は、m軸方向に偏光方向を有する光が多くなる。
【0122】
また、さらに、上述のように、面発光レーザ70は、開口部25Hから見てm軸方向に沿った軸AX1に沿った方向にある領域にのみ溝GVが形成されている溝構造15Gを有している。そのため、開口部25H、すなわち発光領域となる中央領域CAから見て溝GVが形成されている方向、すなわちAX1に沿った方向において活性層19の歪みの緩和が強くおこる。
【0123】
これにより、面発光レーザ70によれば、m軸方向に沿った軸AX1に沿った方向を中心に利得が増大するので、上記オフセットによる効果と合わせて、m軸方向に沿った方向に偏光方向を持ったレーザ光を多く得ることができる。なお、上記オフセット効果を得るに当たっては、基板11の上面がc面からm面に向けて0.1~0.5°の範囲で傾いていることが好ましい。
【0124】
また、面発光レーザ70は、上記実施例1の面発光レーザ10と同様の方法で半導体構造層15を成長させることで形成されるが、溝15Gを形成した後に熱処理をすることで、m軸方向に沿った方向に偏光方向を持ったレーザ光をさらに多く得ることができる面発光レーザとすることができる。
【0125】
具体的には、溝15Gを形成した後、絶縁層25を形成する前に、例えば500℃の温度で熱処理を行うことで、m軸方向に沿った方向に偏光方向を持ったレーザ光をさらに多く得ることができる面発光レーザを形成することができる。これは、熱処理によって、p型半導体層21において、活性層19への電流経路のうち、軸AX1に沿った方向の電流経路における導電性が高まる故であると考えられる。
【0126】
この軸AX1に沿った方向の電流経路における導電性の高まりは、溝15Gにおいて露出しているp型半導体層21を形成しているp-GaNから水素が脱離し、溝15Gから露出している部分の周辺のp型半導体層21の導電性が高まることによる。
【0127】
上述した、軸AX1における活性層19の歪みの緩和及び基板11の成長面のオフセットによって軸AX方向に沿った偏光方向のレーザ光が増加するのに加え、上記熱処理を行うことによって、面発光レーザ70においてさらに軸AX方向に沿った偏光方向のレーザ光を増加させることが可能になる。
【0128】
なお、溝15Gを形成した後、絶縁層25を形成する前に行う熱処理は、p型半導体層21を形成するp-GaNからの水素の脱離が発生する温度であればよい。具体的には、例えば、p-GaNからの水素の脱離を発生させるために、当該熱処理は400℃以上で行われるのが好ましい。
【0129】
また、上記した軸AX1に沿った方向の偏光方向を有する光を増加させる効果を高めるために、溝15Gは軸AX2に対して対称に形成されていることが好ましい。また、溝15Gは、発光領域の外縁に沿った形状を有していることが好ましい。従って、面発光レーザ70においても、
図16に示すように、
図11に示したような円弧に沿った形状を有する溝15Gが形成されるのが好ましい。
【0130】
また、上述の実施例においては、活性層19の歪みを緩和するためには、溝15Gが発光領域の外縁から50μm以下の円形領域の中に形成されることが好ましいとした。上記レーザ光の偏光方向の制御のためには、さらに、溝15Gを、面発光レーザを上方から見た際の前記活性層の発光強度が、前記活性層の発光ピークの1.8%以下になる領域に形成することが好ましい。
【0131】
言い換えれば、溝15Gを形成する領域、例えば
図16の環状領域CRは、発光領域の外縁から50μm以下の距離にありかつ、面発光レーザを上方から見た際の前記活性層の発光強度が、前記活性層の発光ピークの1.8%以下になる領域であるのが好ましい。
【0132】
これは、活性層19から出射される光を溝15Gの形成領域の内側に閉じ込める、溝15Gによる閉じ込め効果を発生させないためである。この閉じ込め効果が発生すると、発生しない場合に比べて偏光方向が軸AX1の沿った方向以外にばらついてしまう故に、閉じ込め効果を発生させないことが好ましい。
【0133】
なお、溝15Gは、軸AX2に沿った方向において開口部25Hと重ならないように形成されるのが好ましい。このようにすることで、軸AX2に沿った方向における活性層19の歪みの緩和の発生が抑制され、軸AX2に沿った方向の偏光方向を有する光の発生が抑えられる。
【0134】
言い換えれば、活性層19の軸AX1に沿った方向と軸AX2に沿った方向における歪みの緩和の差を大きくし、歪みの緩和の異方性を高めることで、面発光レーザ70から発せられる光のうち、軸AX1に沿った方向の偏光方向を有する光の割合を大きくすることが可能となる。
【0135】
なお、実施例5においては、基板11の上面がc面から非極性面であるm面にオフセットしている場合を説明したが、基板11の上面はc面から他の非極性面であるa面にオフセットしていてもよい。その場合、実施例5における面発光レーザ70において、軸AX1がa軸に沿った軸となり、開口部25Hから見て軸AX1に沿った方向にある領域に溝GVが形成されることとなる。
【0136】
上述したように、実施例5の面発光レーザによれば、特定の方向に偏光方向を有する直線偏光を多く含む光、すなわち偏光方向が揃った光を得ることが可能となる。このように実施例5の面発光レーザ70からの出射光自体が、偏光方向の揃った光であることにより、液晶や偏光素子のような光学系を使用することによる光の損失を最小限に抑えて、特定の偏光方向を有する光を容易に得ることが可能となる。
【0137】
例えば、偏光方向が揃った光が必要とされるセンサ光、例えばライファイ用等の通信用の光を得る際に、実施例5の面発光レーザ70のような面発光レーザが有用である。
【0138】
上述の実施例においては、絶縁領域を形成して電流狭窄を生じさせかつ屈折率が低い領域を形成するために、絶縁層25を設けることとしたが、絶縁層25を設ける代わりに他の方法で電流狭窄を生じさせかつ屈折率の低い領域を生じさせてもよい。例えば、上記実施例で絶縁層25が設けられている半導体構造層15の表面をエッチングすることによって、絶縁領域及び屈折率の低い領域を形成してもよい。また、絶縁層25が設けられている半導体構造層15の表面に、イオン注入をすることによって、絶縁領域及び屈折率の低い領域を形成して、上記実施例における絶縁層25を形成したのと同様の効果を生じさせることとしてもよい。イオン注入をする場合、例えば、半導体構造層15に、Bイオン、Alイオン、又は酸素イオンを注入する。
【0139】
また、上述のような面発光レーザ素子において、n型半導体層17上にp-GaN層、上記実施例と同様の活性層、n-GaN層をこの順に積層させて半導体構造層15を形成することとしてもよい。この場合、p-GaN層のn型半導体層17に接する領域の、上面視において上記実施例の中央領域CA重なる部分に、n+-GaN層及びp+-GaNからなるトンネル接合層を形成することとしてもよい。
【0140】
この構成を有する半導体構造層において、p-GaN層からn型半導体層17には、トンネル接合層の部分のみから電流が流入する。そのため、上記した絶縁層25を形成したのと同様な電流狭窄を生じさせることが可能となる。
【0141】
上述した実施例における種々の数値、寸法、材料等は、例示に過ぎず、用途及び製造される面発光レーザに応じて、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0142】
10、40、50、60、70 面発光レーザ
11、51 基板
13、53 第1の多層膜反射鏡
15 半導体構造層
17 n型半導体層
19 活性層
21 p型半導体層
23、52 n電極
25 絶縁層
27 p電極
29 第2の多層膜反射鏡
31 透光電極層