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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】振動制御システム及び振動制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20241105BHJP
   F16M 13/00 20060101ALI20241105BHJP
   E04H 9/00 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16M13/00 T
F16F15/02 Z
E04H9/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022025620
(22)【出願日】2022-02-22
(65)【公開番号】P2023122142
(43)【公開日】2023-09-01
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 あずさ
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-027208(JP,A)
【文献】特開2010-189968(JP,A)
【文献】特開2021-076144(JP,A)
【文献】特開2014-152592(JP,A)
【文献】特表2014-502682(JP,A)
【文献】実開昭64-024268(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0090269(US,A1)
【文献】米国特許第04429496(US,A)
【文献】中国特許出願公開第110106921(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110097980(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110081123(CN,A)
【文献】中国実用新案第201649113(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16M 13/00
E04H 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震による振動、及び飛来物が構築物に衝突した際の衝撃振動が、前記構築物に設置された対象物に伝播することを抑制する振動制御システムにおいて、
前記対象物を直交する複数方向から支持する支持部を備えると共に、前記構築物の任意の位置に設置され、前記支持部の剛性が変更可能に構成された支持装置と、
前記飛来物の前記構築物への接近情報を含む飛来物情報を受信する飛来物情報受信部と、
前記地震による振動の場合と前記衝撃振動の場合とで前記支持装置の前記支持部の剛性を変更するよう制御して、前記対象物への振動の伝播を抑制させる剛性制御部とを有し、
前記剛性制御部は、前記飛来物情報受信部が前記飛来物の前記構築物への前記接近情報を受信したときに、前記飛来物の前記構築物への衝突前に、前記支持部の剛性を前記衝撃振動に対応した剛性に変更させるよう制御することを特徴とする振動制御システム。
【請求項2】
前記飛来物情報に基づいて飛来物が構築物に衝突する衝突予測時間を算出する信号処理部を更に有し、
剛性制御部は、前記衝突予測時間よりも所定時間前に、支持装置の支持部の剛性を衝突振動に対応した剛性に変更するよう制御することを特徴とする請求項1に記載の振動制御システム。
【請求項3】
前記飛来物情報は、構築物の外部から得られる緊急情報、航空機監視レーダによる情報、及び目視による情報の少なくとも1つの飛来物外部情報を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の振動制御システム。
【請求項4】
前記飛来物情報は、構築物に設置されたレーダ装置により飛来物の前記構築物への接近を検知するレーダ飛来物検知信号を含み、
前記レーダ装置はアンテナ及びレーダ送受信部を備え、前記レーダ飛来物検知信号は、前記レーダ送受信部が前記アンテナを介して電波を送信し、前記アンテナを介して前記飛来物からの反射波を受信して前記飛来物の接近を検知する信号であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動制御システム。
【請求項5】
前記飛来物情報は、構築物の周辺に設置されたカメラからの撮影画像について画像処理装置が所定の処理を施して得られるカメラ飛来物検知信号を含み、
このカメラ飛来物検知信号は、前記カメラにて撮影された飛来物が前記構築物に衝突した際にこの構築物に加速度を発生させる恐れがある飛来物であることを表す信号であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振動制御システム。
【請求項6】
前記支持装置には、飛来物の衝突予測時間経過後の一定時間内に前記支持装置に作用する加速度を測定する加速度計が設けられ、
前記剛性制御部は、前記加速度計により加速度が測定されなかった場合に、前記支持装置の支持部の剛性を地震による振動に対応した剛性に変更するよう制御することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の振動制御システム。
【請求項7】
前記信号処理部は、飛来物情報から得られた飛来物の飛行速度が所定閾値を上回ると判断した場合に、前記飛来物が構築物を攻撃することを目的とする飛来物であると判断して前記飛来物の衝突予測時間を算出せず、
剛性制御部は直ちに、支持装置の支持部の剛性を衝撃振動に対応した剛性に変更するよう制御することを特徴とする請求項2乃至請求項2を引用する請求項3-6のいずれか1項に記載の振動制御システム。
【請求項8】
前記支持装置の支持部は、磁場の印加により弾粘性が変化することで剛性が変更可能な材料にて構成されたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動制御システム。
【請求項9】
前記支持装置の支持部は、温度の変化により形状が変形する材料にて構成され、対象物との間の隙間の有無により前記対象物に対する剛性が変更可能に構成されたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動制御システム。
【請求項10】
前記支持装置の支持部の剛性を停電発生時においても制御するために、剛性制御部に給電を行う非常用電源を備えたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の振動制御システム。
【請求項11】
地震による振動、及び飛来物が構築物に衝突した際の衝撃振動が、前記構築物に設置された対象物に伝播することを抑制する振動制御方法において、
前記対象物を直交する複数方向から支持する支持部を備えると共に、前記構築物の任意の位置に設置され、前記支持部の剛性が変更可能に構成された支持装置と、前記飛来物の前記構築物への接近情報を含む飛来物情報を受信する飛来物情報受信部とを準備し、
前記支持装置の支持部の剛性を変更させる剛性制御部は、通常時には、前記支持部の剛性を地震による振動に対応した剛性に制御し、
前記飛来物情報受信部が前記飛来物の前記構築物への前記接近情報を受信したときには、前記飛来物の前記構築物への衝突前に、前記支持部の剛性を前記衝撃振動に対応した剛性に変更させるよう制御することを特徴とする振動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、構築物に設置された対象物に対する振動を抑制する振動制御システム及び振動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の建屋は、地震などの自然災害に耐えることができるように鉄筋コンクリートなどを用いて強固に建設される。更に近年では、航空機等の衝突に対する一層の安全強化も求められている。航空機などの飛来物が建屋に衝突した際には、衝突によって発生した衝撃振動が建屋の屋根または壁から床に伝播し、建屋内部に設置された機器または配管等を振動させる。この衝撃振動は高振動数帯域の加速度を含み、機器または配管等に機能喪失を及ぼす恐れがある。
【0003】
従って、原子力発電所に設置される機器または配管等に対する振動制御システムは、耐震性の確保及び衝撃振動の抑制のために、高振動数及び低振動数のいずれの振動に対しても抑制することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019―27208号公報
【文献】特開2021―76144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような機器または配管等に生じる振動を抑制する装置として、建屋の床に生じる高周波振動及び低周波振動を抑制できるようにした防振支持構造及び防振システムを提供する技術が特許文献1に開示されている。この特許文献1に記載の技術は、建屋の床のうち壁近傍の所定領域に対向して立設された複数の支持部と、各支持部により床の上に支持される支持構造物と、支持構造物を床に対して固定する固定装置とを備える。固定装置は、解除指令の受信により支持構造物の床に対する固定を解除する。
【0006】
この特許文献1の技術によれば、支持構造物は、支持部及び固定装置により床上に支持されるため、支持構造物は、建物全体が変形する低周波振動に対して建物と一緒に変位し、支持構造物と建物との相対変位を抑制できる。固定装置が解除指令を受信して支持構造物の床に対する固定が解除されると、支持構造物は、床のうち壁近傍の所定領域に配置された各支持部により支持される。壁付近では床の変位が少ないため、床が局所的に高周波数で振動した場合でも、その高周波振動が支持構造物に伝播することを抑制できる。
【0007】
また、特許文献2には、地震と航空機衝突のように、振動成分が相違する荷重に対しても、配管の振動応答を抑制し、配管の健全性を担保する配管制振装置を提供する技術が開示されている。この特許文献2の技術は、土台に設置される2つの架台を有し、各架台は、架台に形成される横穴に設置されて配管を固定する配管固定部と、架台に形成される縦穴に設置されて配管固定部を固定するかんぬきと、かんぬきを動作させる動作部と、を有する。動作部は、架台が低振動数で振動した場合に動作せず、高振動数で振動した場合に動作する。
【0008】
前述の特許文献1の技術においては、例えば、航空機の衝突などの異変を検知すると、警報発生装置から支持構造物の固定装置に解除指令が出力され、高周波振動が機器または配管等の対象物へ伝播することが抑制される。ところが、対象物を支持する支持構造物が各支持部及び固定装置により床上に設けられているため、例えば、壁面に機器または配管等の対象物が設置される場合や、床面に対し直交する方向の振動が大きな例えば床中央位置に対象物が設置される場合には適用が困難である。また、特許文献1の技術は、床が局所的に高周波数で振動した場合に、その高周波振動を対象物へ伝播することを抑制できるが、高周波振動そのものを抑制するものではない。
【0009】
また、特許文献2の技術においては、配管の健全性を担保する配管制振装置であるため、振動成分が相違する荷重に対する振動応答抑制を実現できる。ところが、水平面に設置される土台と、土台に設置される2つの架台と、架台に設置される配管固定部を備えるため、配管以外の機器への適用が困難である。更に、架台が高振動数で振動した後に動作部が動作して、かんぬきの固定が解除され、かんぬきが縦穴の下部に落下して配管固定部の固定が解除される。このため、高振動数の振動を受ける以前に配管固定部の固定を解除して、高振動数帯域を含む加速度の入力を防ぐことが困難である。
【0010】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、地震による振動及び飛来物による衝撃振動に対して、対象物の設置位置及び形状に拘らず対象物の振動応答を抑制できると共に、上記衝撃振動に含まれる高振動数帯域の加速度の対象物への入力を確実に防止できる振動制御システム及び振動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態における振動制御システムは、地震による振動、及び飛来物が構築物に衝突した際の衝撃振動が、前記構築物に設置された対象物に伝播することを抑制する振動制御システムにおいて、前記対象物を直交する複数方向から支持する支持部を備えると共に、前記構築物の任意の位置に設置され、前記支持部の剛性が変更可能に構成された支持装置と、前記飛来物の前記構築物への接近情報を含む飛来物情報を受信する飛来物情報受信部と、前記地震による振動の場合と前記衝撃振動の場合とで前記支持装置の前記支持部の剛性を変更するよう制御して、前記対象物への振動の伝播を抑制させる剛性制御部とを有し、前記剛性制御部は、前記飛来物情報受信部が前記飛来物の前記構築物への前記接近情報を受信したときに、前記飛来物の前記構築物への衝突前に、前記支持部の剛性を前記衝撃振動に対応した剛性に変更させるよう制御することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の実施形態における振動制御方法は、地震による振動、及び飛来物が構築物に衝突した際の衝撃振動が、前記構築物に設置された対象物に伝播することを抑制する振動制御方法において、前記対象物を直交する複数方向から支持する支持部を備えると共に、前記構築物の任意の位置に設置され、前記支持部の剛性が変更可能に構成された支持装置と、前記飛来物の前記構築物への接近情報を含む飛来物情報を受信する飛来物情報受信部とを準備し、前記支持装置の支持部の剛性を変更させる剛性制御部は、通常時には、前記支持部の剛性を地震による振動に対応した剛性に制御し、前記飛来物情報受信部が前記飛来物の前記構築物への前記接近情報を受信したときには、前記飛来物の前記構築物への衝突前に、前記支持部の剛性を前記衝撃振動に対応した剛性に変更させるよう制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、地震による振動及び飛来物による衝撃振動に対して、対象物の設置位置及び形状に拘らず対象物の振動応答を抑制できると共に、上記衝撃振動に含まれる高振動数帯域の加速度の対象物への入力を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る振動制御システムの構成を示すブロック図。
図2図1の主に支持装置を概略して示す説明図。
図3図2の支持装置の構成を示す断面図。
図4図1の振動制御システムの処理手順を示すフローチャート。
図5】第2実施形態に係る振動制御システムの構成を示すブロック図。
図6図5の振動制御システムの処理手順を示すフローチャート。
図7】第3実施形態に係る振動制御システムの支持装置の構成を示す断面図。
図8図7の支持装置における温度上昇時の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図4
図1は、第1実施形態に係る振動制御システムの構成を示すブロック図である。この図1に示す振動制御システム10は、地震による振動と、飛来物が発電所等の構築物に衝突した際の衝撃振動とが、構築物に設置された機器または配管等の対象物1(図2)に伝播することを抑制するものであり、支持装置11、飛来物情報受信部12、レーダ装置部13、信号処理部14、剛性制御部15、加速度計16及び非常用電源17を有して構成される。
【0016】
支持装置11は、図2に示すように、機器または配管等の対象物1を支持するものであり、図3に示すように、ハウジング18、支持部19及び磁場制御装置20を備える。ハウジング18は、有底の角筒または円筒形状に形成され、構築物の床または壁2の任意の位置に設置される。
【0017】
支持部19は、ハウジング18の内側に配置されて、対象物1を直交する複数方向(例えば2方向)から支持するものであり、例えば水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bを有してなる。水平荷重支持部19Aは、対象物1を水平方向荷重に対して支持し、鉛直荷重支持部19Bは、対象物1を鉛直方向荷重に対して支持する。この水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bは、第1実施形態では、外部からの磁場の印加により弾粘性が変化することで剛性が変更可能な磁気応答性材料にて構成される。
【0018】
磁場制御装置20はハウジング18に設けられ、剛性制御部15からの指令信号により、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに印加する磁場を制御するものである。この磁場制御装置20による磁場の制御は、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、地震による振動に対応した高い剛性に設定するためには所定値よりも強い磁場に制御される。また、磁場制御装置20による磁場の制御は、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bを、飛来物の構築物への衝突による衝撃振動に対応した低い剛性に設定するためには、上記所定値よりも弱い磁場に制御される。
【0019】
飛来物情報受信部12は、飛来物の構築物への接近情報を含む飛来物情報を受信する。この飛来物情報は、構築物の外部から得られる緊急情報、航空機監視レーダによる情報、及び目視による情報の少なくとも1つの飛来物外部情報、更に、構築物に設置されたレーダ装置部13により飛来物の構築物への接近が検知されたレーダ飛来物検知信号を含む。上記飛来物外部情報には、飛来物と構築物との距離、及び飛来物の飛行速度が含まれる情報も存在する。
【0020】
上記レーダ装置部13は、アンテナ21、レーダ送受信部22、及びレーダ送受信部22を制御するレーダ制御部23を備える。レーダ送受信部22がアンテナ21を介して電波を送信し、飛来物からの反射波をレーダ送受信部22がアンテナ21を介して受信して、飛来物の接近を検知するレーダ飛来物検知信号がレーダ制御部23から出力される。
【0021】
つまり、アンテナ21は、構築物の例えば屋根等に設置される。このアンテナ21は指向性が高く、電波を狭いビームとしてエネルギを集中させて出力する。このため、アンテナ21は、例えばモータ等により全方位に回転可能になるように機械的に駆動される。また、レーダ送受信部22から出力される電波は、構築物から半径100km圏内の飛来物を検知可能な周波数が使用され、周期及び振幅が一定のパルス波としてアンテナ21を介して送信される。構築物から半径100km圏内に飛来物が存在する場合、レーダ装置部13は、レーダ送受信部22がアンテナ21を介して飛来物からの反射波を受信し、レーダ制御部23が飛来物の接近を検知するレーダ飛来物検知信号を出力する。
【0022】
信号処理部14は、飛来物情報に基づいて飛来物が構築物に衝突する衝突予測時間を算出する。つまり、飛来物外部情報に、飛来物と構築物との距離及び飛来物の飛行速度が含まれる場合には、信号処理部14は、これらの距離及び飛行速度に基づいて飛来物の衝突予測時間を算出する。また、飛来物外部情報に、飛来物と構築物との距離及び飛来物の飛行速度が含まれていない場合、または飛来物情報受信部12が飛来物外部情報を受信していない場合には、信号処理部14は、レーダ装置部13からのレーダ飛来物検知信号に基づいて、飛来物と構築物との距離、飛来物の飛行速度、及び飛来物の衝突予測時間を算出する。
【0023】
すなわち、信号処理部14は、レーダ飛来物検知信号における電波の反射波の受信により、電波を送信してから反射波を受信するまでの時間に基づいて、飛来物と構築物との距離を算出する。また、上記電波は周期及び振幅が一定のパルス波として送信されるため、信号処理部14は、飛来物から反射波を繰り返し受信することで飛来物の飛行速度を算出する。これらの算出された距離及び飛行速度に基づいて、信号処理部14は飛来物の構築物への衝突予測時間を算出する。
【0024】
剛性制御部15は、地震による振動の場合と飛来物による衝突振動の場合とで、支持装置11の図3に示す支持部19(水平荷重支持部19A、鉛直荷重支持部19B)の剛性を変更するように制御して、対象物1への振動の伝播を抑制させる。支持部19(水平荷重支持部19A、鉛直荷重支持部19B)が磁気応答性材料にて構成される場合、剛性制御部15は、支持装置11の磁場制御装置20へ指令信号を出力して水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに印加される磁場を制御させ、この水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を制御する。
【0025】
剛性制御部15は、通常、支持装置11の支持部(水平荷重支持部19A、鉛直荷重支持部19B)に磁場制御装置20を介して所定値よりも強い磁場を印加させて、この水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、地震による振動に対応した高い剛性に制御し、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに支持される対象物1の頑健性を確保する。
【0026】
また、飛来物情報受信部12が飛来物情報における飛来物の構築物への接近情報を受信したときに、剛性制御部15は、飛来物が構築物に衝突する前、即ち信号処理部14からの飛来物の衝突予測時間よりも所定時間(例えば10秒)前に、支持部19の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに印加される磁場を所定値よりも弱くする制御を行って、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、飛来物による衝撃振動に対応した低い剛性に変更して制御する。これにより、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに支持される対象物1への衝撃振動の伝播が抑制される。
【0027】
加速度計16は、図1及び図2に示すように、支持装置11の例えばハウジング18に設置される。この加速度計16は、信号処理部14にて算出された飛来物の構築物への衝突予測時間経過後の一定時間内に、支持装置11に作用する加速度を測定する。従って、この一定時間内に加速度計16により加速度が測定されなかった場合、剛性制御部15は、構築物に飛来物が衝突しなかったと判断して、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、衝撃振動に対応した弱い剛性から地震による振動に対応した高い剛性に変更するように、支持装置11の磁場制御装置20を介して、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに印加される磁場を制御する。
【0028】
非常用電源17は、構築物に停電が発生した際に、振動制御システム10の各構成要素(支持装置11、飛来物情報受信部12、レーダ装置部13、信号処理部14、剛性制御部15及び加速度計16)に給電を行う。これにより、飛来物情報が発生した際に、剛性制御部15は、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を衝撃振動に対応した剛性に変更すべく、支持装置11の磁場制御装置20を介して、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに印加される磁場を制御することが可能になる。
【0029】
次に、振動制御システム10の処理手順を、主に図4を参照して説明する。
剛性制御部15は、通常、支持装置11の磁場制御装置20に指令信号を出力して、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに印加する磁場を所定値よりも強い磁場に制御し、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、地震による振動に対応した高い剛性に制御して維持する(S1)。これにより、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに支持される機器または配管等の対象物1の頑健性が確保される。
【0030】
この状態で、飛来物情報受信部12は、飛来物外部情報とレーダ装置部13からのレーダ飛来物検知信号との少なくとも一方に基づき、飛来物を検知したか否か、即ち飛来物の検知の有無を判断する(S2)。飛来物が検知されていない状態では、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bは、地震による振動に対応した高い剛性に維持される。
【0031】
レーダ装置部13からのレーダ飛来物検知信号と飛来物外部情報との少なくとも一方が発生した場合、飛来物情報受信部12は、これらの信号、情報から飛来物の接近情報を取得する(S3)。
【0032】
信号処理部14は、飛来物外部情報に飛来物と構築物との距離及び飛来物の飛行速度が含まれている場合にはこれらを取得し、含まれていない場合には、レーダ装置部13からのレーダ飛来物検知信号に基づいて、飛来物と構築物との距離及び飛来物の飛行速度を算出する(S4)。更に、信号処理部14は、上述の飛来物と構築物との距離及び飛来物の飛行速度に基づいて、飛来物が構築物に衝突する衝突予測時間を算出する(S5)。
【0033】
剛性制御部15は、信号処理部14にて算出された飛来物の衝突予測時間よりも所定時間(例えば10秒)前に、支持装置11の磁場制御装置20へ指令信号を出力して、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bに印加される磁場を所定値よりも弱く制御し、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、飛来物の衝撃振動に対応した低い剛性に変更させるように制御する(S6)。
【0034】
飛来物の衝突予測時間経過後の一定時間内に加速度計16により支持装置11の加速度が測定されるが、剛性制御部15は、加速度計16による加速度の測定の有無により飛来物の構築物への衝突の有無を判断する(S7)。
【0035】
つまり、剛性制御部15は、ステップS7において加速度計16による加速度の測定がなかったときには、飛来物が構築物に衝突しなかったと判断して、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、地震による振動に対応した高い剛性に変更して制御する(S1)。ステップS7において加速度計16による加速度の測定があったときには、飛来物が構築物に衝突したと判断し、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性は、衝撃荷重に対応した低い剛性に維持される。
【0036】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)対象物1を支持する支持装置11の支持部19(水平荷重支持部19A、鉛直荷重支持部19B)の剛性を変更させる剛性制御部15は、飛来物情報受信部12が飛来物の構築物への接近情報を受信したとき、飛来物の構築物への衝突前に、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、飛来物による衝撃振動に対応した剛性に変更させるよう制御する。この結果、飛来物が構築物に衝突した場合にも対象物1への衝撃振動の伝播が抑制されるので、衝撃振動に含まれる高振動数帯域の加速度が対象物1に入力して、対象物1を機能喪失させることを確実に防止することができる。
【0037】
(2)対象物を支持する支持装置11が構築物の任意の位置に設置されることで、対象物1が構築物の床または壁2等のいずれの位置に設置された場合でも、支持装置11を有する振動制御システム10によって、地震による振動及び飛来物よる衝撃振動に対し対象物1の振動応答を抑制することができる。また、支持装置11が水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bにより対象物を直交する2方向から支持することで、対象物1の形状に拘わらず、支持装置11を有する振動制御システム10によって、地震による振動及び飛来物による衝撃振動に対し、対象物1の振動応答を抑制することができる。
【0038】
[B]第2実施形態(図5図6
図5は、第2実施形態に係る振動制御システムの構成を示すブロック図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0039】
本第2実施形態の振動制御システム25が第1実施形態と異なる点は、カメラ27、カメラ制御部28及び画像解析装置29を備えたカメラ検知部26を有し、このカメラ検知部26から、飛来物情報に含まれるカメラ飛来物検知信号が出力される点である。なお、図5では、加速度計16は省略されているが、第1実施形態と同様に支持装置11に設けられてもよい。
【0040】
上記カメラ飛来物検知信号は、カメラ27からの撮影画像について画像解析装置29が所定の処理を施して得られる信号である。即ち、カメラ飛来物検知信号は、カメラ27にて撮影された飛来物が構築物に衝突した際にこの構築物に加速度を発生させる恐れがあることを表す信号である。
【0041】
カメラ27は、構築物の周囲、例えば構築物に接近する飛来物を撮影しやすい構築物の敷地の境界等に設置される。また、カメラ制御部28は、カメラ27の起動及び撮影の制御、撮影した画像の処理を行なう。
【0042】
画像解析装置29は、構築物に衝突すると構築物に加速度を発生させる恐れがある航空機等の飛来物の画像データを、予め深層学習等の機械学習により学習しておく。画像解析装置29は、この学習データに基づき、カメラ27にて撮影された飛来物の画像を解析し、飛来物の飛行速度も考慮して、飛来物が構築物に衝突すると構築物に加速度を発生させる恐れがある飛来物であるかを確認する画像解析を行なう。画像解析装置29は、構築物に衝突すると構築物に加速度を発生させる恐れがある飛来物と、それ以外の飛来物とを分類し、恐れがある飛来物が検知されたときに信号処理部14にカメラ飛来物検知信号を出力する。
【0043】
また、第2実施形態における振動制御システム25の信号処理部14は、飛来物情報から得られた飛来物の飛行速度(即ち、レーダ装置部13からのレーダ飛来物検知信号に基づき算出した飛来物の飛行速度、または飛来物外部情報から得られた飛来物の飛行速度)と所定閾値とを比較する。信号処理部14は、上記飛来物の飛行速度が所定閾値を上回ると判断したときには、この飛来物が攻撃を目的としたもので、構築物への衝突により構築物に加速度を発生させる恐れが非常に高いと判断して、飛来物の構築物への衝突予測時間の算出を省略する。この場合には、剛性制御部15は直ちに、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、衝撃振動に対応した低い剛性に制御する。
【0044】
次に、振動制御システム25の処理手順を、主に図6を参照して説明する。
ステップS11~S14のそれぞれは、第1実施形態のステップS1~S4のそれぞれと同様である。信号処理部14は、算出または取得した飛来物の飛行速度が所定閾値を上回るか否かを判断し(S15)、上回る場合には、構築物への衝突により構築物に加速度を発生させる恐れが非常に高いと判断して、飛来物の構築物への衝突予測時間の算出を省略する。
【0045】
このステップS15の後直ちに、剛性制御部15は、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、衝撃振動に対応した低い剛性に制御する(S16)。支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bは、剛性が低い状態で構築物に飛来物が衝突したとき、支持した対象物1に衝撃荷重が伝播することを抑制する(S17)。
【0046】
ステップS15において飛来物の飛行速度が所定閾値を下回る場合には、飛来物が構築物に衝突したときに構築物に加速度を発生させる衝突危険性があるか否かを確認するため、カメラ検知部26のカメラ制御部28は、カメラ27に飛来物を撮影させる(S18)。このカメラ27により撮影された画像について、画像解析装置29が画像解析を行う(S19)。画像解析装置29は、この画像解析において学習データに基づき、撮影された飛来物が構築物への衝突により構築物に加速度を発生させる恐れがある飛来物であるか否かを判断する(S20)。
【0047】
信号処理部14は、飛来物が構築物に衝突した際に構築物に加速度を発生させる恐れがある飛来物である旨のカメラ飛来物検知信号を画像解析装置29から受信したときに、ステップS14にて算出または取得した飛来物と構築物との距離及び飛来物の飛行速度に基づいて、飛来物が構築物に衝突する衝突予測時間を算出する(S21)。剛性制御部15は、信号処理部14からの飛来物の衝突予測時間よりも所定時間(例えば10秒)前に、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、衝撃振動に対応した低い剛性に制御する(S22)。
【0048】
ステップS20において、撮影された飛来物が構築物への衝突により構築物に加速度を発生させる恐れがない飛来物(例えば鳥類など)である場合には、ステップS21における飛来物の衝突予測時間の算出、及びステップS22における水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性の低下制御が実施されず、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性は、地震による振動に対応した高い剛性に維持される(S11)。
【0049】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)を奏する。
【0050】
(3)対象物1を支持する支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を変更させる剛性制御部15は、飛来物情報受信部12が飛来物の構築物への接近情報を受信し、且つカメラ検知部26におけるカメラ27が撮影した飛来物が、構築物への衝突より構築物に加速度を発生させる恐れがある飛来物であると画像解析装置29により判断されたとき、飛来物の構築物への衝突前に、水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、衝撃振動に対応した低い剛性に変更させるよう制御する。
【0051】
この結果、衝突により構築物に加速度を発生させる恐れがない飛来物に対しては、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性を、地震による振動に対応した高い剛性に保持して、対象物1の頑健性を継続して確保することができる。
【0052】
また、衝突により構築物に加速度を発生させる恐れがある飛来物に対しては、剛性制御部15により、支持装置11の水平荷重支持部19A及び鉛直荷重支持部19Bの剛性が、衝撃振動に対応した低い剛性に制御されることで、飛来物の構築物への衝突時に対象物1への衝撃振動の伝播が抑制される。これにより、衝撃振動に含まれる高振動数帯域の加速度が対象物1に入力して、対象物1を機能喪失させることを確実に防止することができる。
【0053】
[C]第3実施形態(図7図8
図7は、第3実施形態に係る振動制御システムの支持装置の構成を示す断面図である。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0054】
本第3実施形態の振動制御システム30が第1実施形態と異なる点は、支持装置31の支持部32(水平荷重支持部32A、鉛直荷重支持部32B)が、温度の変化により形状または寸法が変化する材料(例えば形状記憶合金)にて構成され、対象物1との間の隙間t(図8)の有無により対象物1に対する剛性が変更可能に構成された点である。なお、図7及び図8中の符号1Aは対象物1の脚部である。
【0055】
支持部32(水平荷重支持部32A、鉛直荷重支持部32B)の温度変化は、ハウジング18に設けられた温度制御装置33が、剛性制御部15からの指令信号により支持装置31内の温度を制御することによりなされる。温度制御装置33により支持装置31内が常温に制御されたときには、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bと対象物1との間に隙間tが発生せず、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bは対象物1を強固に支持して、地震による振動に対応する高い剛性に設定される。
【0056】
また、温度制御装置33により支持装置31内の温度が常温以上の設定温度に上昇したときには、図8に示すように、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bと対象物1との間に隙間tが生じて、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bは衝撃振動に対応した低い剛性に設定される。
【0057】
剛性制御部15は、上述のように支持装置31の温度制御装置33に指令信号を出力することで、支持装置31内の温度を制御して、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bの剛性を制御する。つまり、剛性制御部15は、通常時には温度制御装置33を介して支持装置31内を常温に制御させ、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bの剛性を、地震による振動に対応した高い剛性に制御して、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bに支持される対象物1の頑健性を確保する。
【0058】
また、剛性制御部15は、飛来物情報受信部12が飛来物情報(レーダ装置部13からのレーダ飛来物検知信号、飛来物外部情報)を受信したときには、信号処理部14により算出された飛来物の構築物への衝突予測時間よりも所定時間(例えば10秒)前に温度制御装置33に指令信号を出力して、支持装置31内の温度を設定温度以上に上昇させる。これにより、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bは形状または寸法が変化して、対象物1との間に隙間tを生じさせ、剛性が衝撃振動に対応した低い剛性に制御される。このため、飛来物の構築物への衝突時における衝撃振動が、水平荷重支持部32A及び鉛直荷重支持部32Bに支持された対象物1に伝播することが抑制される。
【0059】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態においても、第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏する。
【0060】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合わせは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1…対象物、2…床または壁、10…振動制御システム、11…支持装置、12…飛来物情報受信部、13…レーダ装置部、14…信号処理部、15…剛性制御部、16…加速度計、17…非常用電源、19…支持部、19A…水平荷重支持部、19B…鉛直荷重支持部、20…磁場制御装置、21…アンテナ、22…レーダ送受信部、25…振動制御システム、26…カメラ検知部、27…カメラ、29…画像解析装置、30…振動制御システム、31…支持装置、32…支持部、32A…水平荷重支持部、32B…鉛直荷重支持部、33…温度制御装置、t…隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8