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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】光学機器および撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20241105BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022097571
(22)【出願日】2022-06-16
(65)【公開番号】P2023183823
(43)【公開日】2023-12-28
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】杉山 成
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 誠
(72)【発明者】
【氏名】久保山 俊介
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/119663(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159678(WO,A1)
【文献】特開2017-001380(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0046612(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02 - 7/105
7/12 - 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙を挟んで、互いに対向する部分を有する第1操作リングおよび第2操作リングと、レンズとを備えた光学機器であって、
前記間隙の幅は、毛細管現象を発現する幅であり、
互いに対向する前記部分の少なくとも一方に、前記間隙に水の浸入を抑制するための凹凸構造が設けられており、
前記レンズの光軸を回転軸として前記第2操作リングを回転させる際に、前記レンズが保持される前記第1操作リングと前記第2操作リングとの間の前記間隙の幅を維持した状態で互いに摺動するように保持されていることを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記間隙の幅は、0.05mm以上2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記凹凸構造の凸部のピッチ、または前記凹凸構造の凹部のピッチは、70μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学機器。
【請求項4】
前記凸部の高さ、または前記凹部の深さは1μm以上であり、前記凸部の幅、または前記凹部の幅は100μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の光学機器。
【請求項5】
前記凹凸構造の凸部のピッチ、または前記凹凸構造の凹部のピッチは、70μm以下であり、
前記凸部の高さ、または前記凹部の深さは1μm以上であり、
前記凸部の幅、または前記凹部の幅は100μm以下であり、
前記間隙の幅は、0.05mm以上2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項6】
前記光学機器の光軸方向に関する断面における、前記間隙の形状はクランク形状であることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項7】
前記第1操作リングと前記第2操作リングとは、同一の凹凸構造が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項8】
前記凹凸構造の凸部または凹部は、ハニカム状に配置されることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項9】
前記凹凸構造の凸部または凹部は、円柱形状、円錐形状または円錐台形状であることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項10】
樹脂を含む材料から形成されたことを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項11】
前記樹脂は、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびポリプロピレンの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項10に記載の光学機器。
【請求項12】
前記凹凸構造の水に対する接触角は、100°より大きいことを特徴とする請求項11に記載の光学機器。
【請求項13】
前記第1操作リングは、固定筒の外周を覆うように前記固定筒に固定されており、
前記第2操作リングは、前記第1操作リングと異なる位置で前記固定筒の外周を覆うように設けられ、
前記間隙は、前記固定筒の外周に位置し、
前記レンズは、前記固定筒に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項14】
前記光学機器は、撮像装置に着脱可能なレンズユニットであることを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項15】
請求項1に記載の光学機器を備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に用いられている製品の多くは複数の部材で構成されており、複数の部材はそれぞれねじ止めや接着によって互いに固定されている。しかし可動部材の場合は、スムーズに動作できるように隣り合う部材との間に間隙を設けることがあり、可動部材でなくても、それぞれの部材間に間隙ができてしまうことがある。
【0003】
そういった間隙に水滴が入ってしまうと、製品に悪影響を及ぼすことがあった。そこで間隙にゴムやスポンジなどのパッキンを設けることがある。また、特許文献1には、撥水性を有するオイルバリアによって水の浸み込みを少なくする形態が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平5-64811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし間隙に撥水性を有する物質を塗布した場合、部材の使用を続けるうちに撥水性を有する物質が剥がれることで、撥水性が低下する虞があった。
【0006】
そこで本発明は、撥水性の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の手段は、間隙を挟んで、互いに対向する部分を有する第1操作リングおよび第2操作リングと、レンズとを備えた光学機器であって、前記間隙の幅は、毛細管現象を発現する幅であり、互いに対向する前記部分の少なくとも一方に、前記間隙に水の浸入を抑制するための凹凸構造が設けられており、前記レンズの光軸を回転軸として前記第2操作リングを回転させる際に、前記レンズが保持される前記第1操作リングと前記第2操作リングとの間の前記間隙の幅を維持した状態で互いに摺動するように保持されていることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するための第4の手段は、第1部品と、前記第1部品に対向する第2部品を備え、前記第1部品と前記第2部品との間に間隙を設けた物品であって、前記間隙の幅は、毛細管現象を発現する幅であり、前記第1部品のうち前記第2部品に対向する面に、ロータス効果を有する凹凸構造が設けられていることを特徴とする物品。
【発明の効果】
【0011】
撥水性の低下を抑制する上で有利な技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は部品同士が近接している状態を示した図であり、(b)は部品同士が離隔している状態を示した図である。
図2図1(a)の円Aで囲まれた範囲の拡大図である。
図3】凸部の形状を示す斜視図である。
図4】凹凸構造の配置パターンを示す図である。
図5】間隙に水が浸入する模式図である。
図6】様々な凹凸構造を示した図である。
図7】接触角と配置ピッチの関係を示したグラフである。
図8】凹凸構造の斜視図である。
図9】金型の製造方法を示した図である。
図10】加工時の金型表面を示した図である。
図11】(a)はレーザー加工後の金型の表面を電子顕微鏡で観察した図面代用写真であり、(b)は樹脂成形品の表面を電子顕微鏡で観察した図面代用写真である。
図12】射出成形の工程を示した図である。
図13】本発明を適用可能な撮像装置の図である。
図14図13のレンズ鏡筒の断面図である。
図15図14の円Bで囲まれた範囲の拡大図である。
図16】第1実施形態の凹凸構造を容器に適用した図である。
図17】第2実施形態に係る物品の模式図である。
図18】物品に大きな水滴が衝突した際の模式図である。
図19】物品に小さな水滴が衝突した際の模式図である。
図20】実施例の凹凸構造の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。ただし、以下に説明する形態は、発明の1つの実施形態であって、これに限定されるものではない。そして、共通する構成を複数の図面を相互に参照して説明し、共通の符号を付した構成については適宜説明を省略する。同じ名称で別々の事項については、それぞれ、第一の事項、第二の事項というように、「第〇」を付けて区別することができる。
【0014】
<第1実施形態>
図1図2を用いて、本実施形態にかかる物品100を説明する。物品100は、部品1と部品2からなり、部品1と部品2との間には間隙3が設けられている。部品1と部品2との間には、少なくとも間隙3が設けられていればよく、間隙3以外の部分で接触、固定していても良い。図1(a)は部品1と部品2が近接している状態を示した図であり、図1(b)は部品1と部品2が離隔している状態を示した図である。部品1および部品2の材質は樹脂であることが好ましいが、金属やセラミック等の種々の材料を用いることができる。本実施形態においては、部品1及び部品2はそれぞれポリカーボネートから形成されている。部品1は、表面110側から面7、面8、面9を有し、それぞれ部品2の面4、面5、面6に対向するように、部品1と部品2が近接する。たとえば部品1および部品2は少なくとも一方が可動部材となっており、互いに摺動する構成となっていても良い。
【0015】
図2は、図1(a)の円Aで囲まれた範囲の拡大図である。図2では面4~面9に凹凸構造10が設けられている。しかし、面4と面7のみに凹凸構造10が設けられていても良いし、面6と面9のみに凹凸構造10が設けられていても良く、対向する面の少なくとも一方に凹凸構造10が設けられていればよい。対向する面の双方に凹凸構造10を設ける場合、凹凸構造10は同一の凹凸構造であることが好ましい。図2に示す間隙3のように、間隙3は屈曲構造であることが、水滴の侵入を抑制するために好ましく、面4と面5、および面7と面8が互いに非平行であることが好ましい。また図2に示すように、間隙3の断面がクランク形状であれば、水滴の浸入を抑制する効果が高まるため、より好ましい。
【0016】
次に図3を用いて凹凸構造10の凸部101の形状について説明する。凸部101はベース面11に設けられ、図3(a)に示すような円柱形状、図3(b)に示すような円錐形状、図3(c)に示すような円錐台形状等の任意の形状を選択できるが、撥水機能を有していれば良い。また、ベース面11から突出した凸部101を設けるのではなく、凹凸構造10として、ベース面11から陥没する複数の凹部を設けても良い。
【0017】
図4で凸部101を詳細に説明する。図4は741、凹凸構造10を付与したベース面11の法線方向から見て(図3参照)、配列の一部を抽出して表示したものである。図4(a)は凸部101を格子状に配置したパターンを示す図であり、図4(b)は凸部101をハニカム状に配置したパターンを示す図である。凹凸構造10における凸部101の配置はランダムであっても良いが、図4(a)および(b)に示す様に均一な周期的パターンで配置されることが好ましい。さらには凸部101をより密に配置するためには、図4(b)のハニカム配置がより好ましい。図4では、隣り合う凸部101の間に平面(図3に示すベース面11)を有する構成を説明した。しかしながら、凸部101が図3(b)または(c)のような円錐形状または円錐台形状である場合、凸部101の傾斜面同士が線状の境界(谷部)を挟んで互いに隣接する配置としても良い。この場合に、図3に示すベース面11は、面内に連続する谷部を含む仮想面となる。以上説明した配置に関しては、ベース面11から陥没する複数の凹部を設けた凹凸構造10を採用した場合にも同様に、様々な配置を適用することが可能である。
【0018】
次に凹凸構造10によって間隙3へ水が浸入することを抑制する効果について説明する。まず、図5(a)を用いて凹凸構造10が無い場合に間隙3に水が滴下された際の水の浸入状況について説明する。間隙3に水12が滴下されると、水12の表面張力により発生する接触角θは一般的な樹脂で構成された部品の場合、90°より小さくなることが多い。そのため、間隙3で発生する毛細管現象による力13が水12を浸入させる向き(図5(a)では下向き)に発生するため、水12の浸入を許してしまう。
【0019】
次に図5(b)を用いて、本実施形態の物品100が凹凸構造10によって間隙3へ水が浸入することを抑制する効果を説明する。間隙3に水12が滴下されると、凹凸構造10により水12と部品1および部品2の接触面積が減少する。図5(b)に示すように本実施形態のポリカーボネートで構成された物品100の場合は、接触面積が減少することで接触角θが90°より大きくなる。接触角が90°より大きくなると間隙3で発生する力13が水12の浸入を抑制する向き(図5(b)では上向き)に発生するため、パッキンなどの物品を用いることなく間隙3へ水12が浸入することを抑制することができる。
【0020】
また潤滑油等の撥水剤を用いる場合に比べ、経年的な使用による凹凸構造10の劣化は少ないため、撥水機能の低下を抑制することができる。このように、凹凸構造によって部品の表面自由エネルギーを調整し、撥水機能を生じさせる作用は、ロータス効果と呼ばれている。撥水機能が必要となる間隙3の幅Dは毛細管現象を発現する程度の幅であり、0.05mm以上2mm以下である。ただ、間隙3の幅が0.1mm以上1mm以下である場合に、より本実施形態の構成を用いるのに適している。ここで幅Dは、ベース面11と、ベース面11に対向する面との距離である。しかし間隙3の幅Dは特に限定されるものではなく、毛細管現象を発現する幅であれば本実施形態の構成を用いることができる。
【0021】
次に図6図8を用いて凹凸構造10の形状について説明する。図6(a)に示すように良好な撥水状態は、凹凸構造10と空気が水12を支持し、水の表面張力により発生する見かけの接触角θを大きくすることで実現出来る。まず凹凸構造10の配置ピッチについて図6(b)を用いて説明する。
【0022】
配置ピッチが過剰に大きい場合は凹凸構造10が水12を支持することが出来ずにベース面に接触してしまうため、接触角θが小さくなり撥水状態にすることが出来ない。図7図8に示す様なポリカーボネート樹脂から成る部品の面に、幅R40μm、高さH30μmの凸部101を形成した凹凸構造10における、凸部101の配置ピッチPと接触角θの関係を実験で取得したグラフである。配置に関してはハニカム配置と格子配置の2種類について測定を行った。配置ピッチPが大きくなると接触角θが小さくなり、配置ピッチPが90μmを超えると平坦面と接触角が変わらないことがわかる。なお、図7においては、便宜的に凸部101を設けない平坦面の場合の接触角を、配置ピッチPが0の点に示した。
【0023】
凹凸構造10の配置ピッチPは10μm以上80μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。70μm以下であれば、図7に示すように、接触角θを100°以上にすることができる。ここで配置ピッチPは、或る凸部の中心と或る凸部に隣接する凸部の中心との距離である。凹部におけるピッチも凸部と同様に定義することができる。
【0024】
本実施形態の物品100において間隙3への水の浸入を抑制する効果を得るためには、接触角θが90°以上が好ましく100°以上がより好ましい。しかし、凹凸構造10の形状は特に限定されるものではなく、ロータス効果を有する凹凸構造10であればよい。
【0025】
次に格子配置とハニカム配置を比較する。図7において、接触角θが120°、ピッチPが50μm付近のデータに注目するとハニカム配置の方がより大きなピッチPでもより大きな接触角を維持できる傾向にあることがわかる。図4(a)に示すように格子配置における凹凸構造10の間隔は対角方向に大きいことがわかる。このことから、格子配置の場合は対角方向のピッチが大きいことが起因して、図6(b)に示すように水がベース面に接触し、接触角が小さくなり、撥水効果がハニカム配置に比べて小さい。一方、図4(b)に示すようにハニカム配置における凹凸構造10の間隔はどの場所でも一定であることがわかる。ハニカム配置の場合は、格子配置と比較して撥水効果が大きいため、配置パターンはハニカム配置にすることが好ましい。しかし、格子配置とハニカム配置のみならず、凹凸構造10をランダムに配置することも可能である。
【0026】
次に凹凸構造10の凸部101の高さHについて図6を用いて説明する。図6(a)に示すように凸部101の高さHが十分大きい場合は、凸部101と凸部101の間の空気が水を支持することができるため、水の表面張力により発生する見かけの接触角を大きくすることが出来る。一方、図6(c)に示すように凸部101の高さHが小さい場合は水がベース面に接触してしまうため、接触角が小さくなり撥水状態にすることが難しい。撥水状態にするためには凸部101の高さHは1μm以上あることが好ましく、10μm以上であればより好ましい。高さHの上限値は間隙の幅Dの半値より小さいことが好ましい。高さHは、たとえば150μm以下であれば好ましく、100μm以下であればより好ましい。仮にベース面11に凹部を設けた場合の凹部の深さは、ベース面11からの深さであり、凸部の高さと同様の範囲であれば好ましい。
【0027】
次に凹凸構造10の凸部101の幅Rについて図6を用いて説明する。図6(d)に示すように、凸部101の幅Rが大きい場合は凸部101の表面積が増加する。そのため、空気で水を支持する割合が小さくなり、表面張力により発生する見かけの接触角が小さくなる。撥水状態にするためには、凸部101の幅Rは100μm以下であることが好ましく60μm以下であればより好ましい。凸部101の幅Rは、10μm以上であれば好ましく、30μm以上であればより好ましい。凹部における幅も凸部101と同様の範囲であれば好ましい。図3(b)、図3(c)における幅Rは、或る凸部の中で最も大きい部分の幅であり、凹部における幅も同様に或る凹部の中で最も大きい部分における幅である。
【0028】
次に本実施形態の物品100を製造するための製造方法について説明する。ここでは金型を用いた射出成形によるものを説明するが、射出成形に限定されるものではない。まず金型16の製造方法について説明する。金型16の製造方法には、切削加工によって形成した窪みを樹脂に転写させて凹凸構造が付与された成形品を製造する方法やレーザー加工によって形成した窪みを樹脂に転写させて凹凸構造が付与された成形品を製造する方法などがある。本実施形態においては、レーザー加工によって形成した窪みを樹脂に転写させて成形品を製造する方法について説明する。
【0029】
図9は金型16の加工を行う装置として、レーザー加工機の構成例を示したものである。この例ではレーザー加工機14は、レーザーヘッド15が直線軸X、直線軸Y、直線軸Zの3軸に移動可能に構成されている。また、レーザーヘッド15には、図示しないガルバノミラーが内蔵されている。レーザー加工機によっては、レーザーヘッド15をさらに多くの方向に移動可能に構成されているものもあり、その様なレーザー加工機を使用しても構わない。レーザーヘッド15はNCデータ17に記載された各軸の移動量に従って、不図示の駆動手段によって移動される。一方、レーザーヘッド15は、NCデータ17に従って、レーザー光を出射させ、またガルバノミラーを使って金型16に対してレーザー光を走査する。この様にして金型16に対して、レーザーヘッド15により任意の形状を加工することができる。
【0030】
図10はレーザー加工機によって金型16の表面に対して行われる加工の様子を、拡大図で表したものである。同図は金型16の表面を断面方向から見たものである。金型16は、成形品の形状に対応して、平面であったり複雑な曲面であったり様々な形状をとり得る。そのため断面方向から見たベース面は直線であるとは限らないが、図10では一例として直線である場合を示す。レーザーヘッド15からレーザー光18を出射して1パルス毎に加工穴19を形成する。レーザー光の波長は例えば1064nmの赤外光を用い、パルス幅はフェムト秒のレーザーを用いることができるが、その他のレーザーであっても構わない。
【0031】
図10に示すように凹凸構造のピッチPの分だけガルバノミラーによってレーザー光を繰り返し移動させながら、金型16にレーザー光を照射して複数の加工穴19を形成する。図11(a)はレーザー加工後の金型16の表面を電子顕微鏡で観察した図面代用写真である。加工穴19の配置パターンがハニカム配置で形成されていることが確認できる。この様な工程を経て、成形用の金型16を得ることができる。
【0032】
次に射出成形工程について説明する。図12は本実施形態の物品100を製造するための射出成形の工程を模式的に示したものである。射出成形機としては一般的な射出成形機を用いることが可能である。図12(a)に示す金型16、金型20が構成する空間には、筒状のシリンダー21によって樹脂が注入される。一方、ホッパー22はシリンダー21の内部へ樹脂材料を投入する。樹脂材料としてはポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどの熱可塑性の材料を用いることができる。また樹脂材料はあらかじめ顔料などの着色剤を混入させて着色したものを使用してもよい。シリンダー21の内部には不図示のスクリューがあり、不図示のモーターで回転させることでホッパー22内部の樹脂材料がシリンダー21の先端へと送られる機構となっている。またシリンダー21には不図示のヒーターが備えられており、ホッパー22より投入された樹脂材料はシリンダー内部を先端へ送られる過程で樹脂材料のガラス転移温度以上に加熱され、液体状に溶融される。そしてシリンダー21の先端部の空間に溜められる。
【0033】
図12(b)の工程は型締め工程と呼ばれ、金型16、20が不図示の機構によって合わせられる。また金型16、20は不図示のヒーターによって加熱される。この工程での型の加熱温度を型温度と呼ぶ。
【0034】
続いて図12(c)の工程は射出工程と呼ばれ、シリンダー21が金型20に設けられた注入孔部分に押し付けられる。さらに油圧シリンダー部23が動作し、不図示のスクリューをシリンダー21の先端方向へ押し出すことで、溶融した樹脂24が合わさった金型16、20の内部の空間へと注入される。この工程における溶融した樹脂24の温度を樹脂温度と呼ぶ。
【0035】
図12(d)は保圧工程および冷却工程と呼ばれる工程を示す。保圧工程ではシリンダー21内の圧力を制御することで、金型16、20内部の溶融した樹脂24の圧力を所望の圧力に保つ。この圧力は保圧と呼ばれる。保圧は樹脂24が金型16、20の内部の空間の隅々にまで行き渡る様な圧力が選択される。保圧工程に続く冷却工程では図12(d)における金型16、20を不図示の冷却機構によって冷却する。これにより、金型16、20内部の樹脂24をガラス転移温度以下の温度に冷却し、樹脂成形品240を形成する。冷却機構は例えば金型16の周囲に冷却用の冷却水を巡らす様な手段がとられる。
【0036】
続いて図12(e)は型開き工程および離型工程と呼ばれる工程を示す。金型16、20は不図示の機構によって開かれる。続いて不図示の離型機構によって樹脂成形品24が型16、20から取り出される。一般に金型16、20を開いた段階では樹脂成形品240は金型16、20の表面に張り付いた状態となっている。離型機構は金型を貫通させたイジェクタピンと呼ばれる棒によって金型表面に張り付いた樹脂成形品240を金型16、20から押し出す操作を行う。図11(b)は取り出した樹脂成形品240の表面を電子顕微鏡で観察した図面代用写真である。図11(b)において、図11(a)の金型形状を転写したハニカム配置の微細形状が樹脂成形品240に形成されていることが確認できる。この様な工程を経て、樹脂成形品240を得ることができる。
【0037】
次に本実施形態における凹凸構造10を撮像装置200に適用した場合について説明する。しかし本実施形態は撮像装置200への適用に限定されるわけではなく、プリンタやスピーカー等の様々な成形品に適用することができる。
【0038】
図13は本実施形態を適用可能な撮像装置200の一例であるデジタルカメラの模式図である。撮像装置200は、本体部25と、本体部25に着脱可能なレンズ鏡筒26からなる。レンズ鏡筒26は複数の部品によって構成され、それらは互いにネジ止めや接着、嵌合といった方法により一体化され形成されている。そしてレンズ鏡筒26の表面には部品間の合わせ目や間隙が存在することが多い。そこでレンズ鏡筒26に本実施形態を適用した場合について説明する。
【0039】
図14は、図13のレンズ鏡筒26の断面図である。レンズ鏡筒26はレンズ33を有した光学機器であり、レンズマウント27は、レンズ鏡筒26を本体部25に着脱可能に保持する。固定筒28は、レンズ鏡筒26の操作部材(操作リング)を保持する。レンズマウント27は、固定筒28にビスなどを用いて一体的に保持される。外装環29は、レンズ鏡筒26の外観部品であるとともに、レンズ鏡筒26の内部の機構を覆って保護する。外装環29は、操作リング32および固定筒28にビスなどを用いて一体的に保持される。
【0040】
操作リング32の外周には、ユーザが操作リング32を回転させ易いように、図示しないローレット溝(凹凸部)が形成されている。操作リング31は、係合部31aで固定筒28の係合部と嵌合する。フロントリング30は、固定筒28と接着などにより固定される。
【0041】
図15は、図14の円Bで囲まれた範囲の拡大図であり、操作リング31と操作リング32との間に間隙3が設けられている。操作リング31のうち操作リング32側、操作リング32のうち操作リング31側には凹凸構造10が形成されている。図15で示すように、レンズ鏡筒26に凹凸構造10を設けることで、撮像装置200の内部に水が浸入することを抑制することができる。
【0042】
図16を用いて、本実施形態の凹凸構造10を容器40に適用した場合について説明する。容器40は、本体部41と蓋42を有し、本体部41と蓋42は蝶番43によって結合されており、開閉動作が容易に行える様にされている。
【0043】
図16(b)は、図16(a)の容器40の蓋42を閉じたときの、円Cで囲まれた範囲の拡大図である。容器40は、本体部41と蓋42の間に間隙3を有している。一方、本体部41のうち蓋42側、および蓋42のうち本体部41側に凹凸構造10が設けられている。これにより、蓋42を閉じたときに容器40の内部に水が浸入することを抑制することができる。容器40はたとえば化粧品、医薬品、紙類などの水分との接触を回避することが好ましい製品の保管容器として適している。
【0044】
凹凸構造10を設けた表面に撥水剤等を塗布することもでき、より撥水効果の高い物品100を提供することができる。
【0045】
<第2実施形態>
図17図18および図19を用いて、第2実施形態に係る物品100について説明する。図17は本実施形態に係る物品100の模式図であり、図18は物品100に大きな水滴12Aが衝突した際の模式図であり、図19は物品100に小さな水滴12Aが衝突した際の模式図である。
【0046】
本実施形態の物品100は、面4、面6、面7および面9に凹凸構造10が設けられておらず、面4、面6、面7および面9と非平行な面5と面8に凹凸構造10が設けられている点で、第1実施形態の物品100と異なる。ここで、凹凸構造10が設けられていない面は、凹凸構造10が設けられた面より平坦であればよく、完全に平坦な面である必要はない。面7および面9がたとえば、部品1の第1部分であり、面8がたとえば第2部分である。一方、面4および面6が例えば部品2の第1部分であり、たとえば、面5が部品2の第2部分である。
【0047】
図18および図19を用いて、本実施形態の物品100の利点を説明する。図18の水滴12Aは、物品100に衝突する前の水滴であり、水滴12Bは、物品100に衝突した後の水滴である。水滴12Aは、矢印35の方向に運動エネルギーを有しており、運動エネルギーを有した状態で物品100に衝突する。仮に面4または面7に凹凸構造10が設けられていたとしても、運動エネルギーに耐えられず、撥水が難しい。しかし、物品100との衝突により運動エネルギーを損失した水滴12Bは、矢印35の方向に非平行な方向に対しては大きな運動エネルギーを有していない。そのため、面5または面8にのみ凹凸構造10を設けるだけでも、水滴12Bの浸入を効果的に抑制することができる。
【0048】
図19では、比較的小さな水滴が物品100に衝突した場合について説明する。物品100の間隙3に水滴12が浸入した場合、面5または面8に凹凸構造10が設けられていれば、水滴12Cのように凹凸構造10の表面に溜めることができる。水滴12Cが溜まることによって、水滴12Cが他の水滴のストッパーの役割を果たし、それ以上の水滴の浸入を抑制することができる。
【0049】
また、部品1および部品2を射出成形で作製する場合、全ての面4~面9に凹凸構造10を設けようとすると、非平行な面の一方は型抜きが難しく、凹凸構造10をうまく転写することができない。特に図14に示すように、凹凸構造10をレンズ鏡筒26に適用した場合、型抜きを行なう方向は光軸に垂直な方向であるため、図2における面5または面8に凹凸構造10を設けることが好ましい。
【0050】
以上のことから、少なくとも面5または面8に凹凸構造10を設けることで、十分な撥水効果を発現することができ、全ての面4~面9に凹凸構造10を設ける場合に比べてコストを低減することも可能である。
【0051】
<実施例>
図20を用いて、本発明の実施例を説明する。図20(a)は第1実施形態で説明した凹凸構造10の拡大図である。一方、図20(b)は図13及び図14で説明した撮像装置200の操作リング31と操作リング32に凹凸構造10を形成した例を示す部分断面図である。本実施例では、ピッチPを50μm、高さHを30μm、幅Rを40μm、間隙Dを0.2mmとし、凸部101の形状は円錐台形状で、ハニカム状に配置した。操作リング31および操作リング32はポリカーボネートなどの樹脂で構成し、凹凸構造10は射出成形で形成した。
【0052】
本実施例の撮像装置200の表面に水滴12が付着した場合について図20(b)を用いて説明する。間隙3に水滴12が滴下しても、凹凸構造10により前述のように接触角が90°より大きいため、間隙3で発生する力13が水滴12の浸入を抑制する向きに発生する。そのため、パッキンなどの物品を用いることなく凹凸構造10で防滴することができる。
【0053】
以下に本発明の開示内容を示す。
【0054】
(構成1)間隙を挟んで、互いに対向する部分を備えた物品であって、前記間隙の幅は、毛細管現象を発現する幅であり、互いに対向する前記部分の少なくとも一方に、ロータス効果を有する凹凸構造が設けられていることを特徴とする物品。
【0055】
(構成2)前記間隙の幅は、0.05mm以上2mm以下であることを特徴とする構成1に記載の物品。
【0056】
(構成3)前記凹凸構造の凸部のピッチ、または前記凹凸構造の凹部のピッチは、70μm以下であることを特徴とする構成1または2に記載の物品。
【0057】
(構成4)前記凸部の高さ、または前記凹部の深さは1μm以上であり、前記凸部の幅、または前記凹部の幅は100μm以下であることを特徴とする構成3に記載の物品。
【0058】
(構成5)間隙を介して、互いに対向する部分を備えた物品であって、互いに対向する前記部分の少なくとも一方に、凹凸構造が設けられ、前記凹凸構造の凸部のピッチ、または前記凹凸構造の凹部のピッチは、70μm以下であり、前記凸部の高さ、または前記凹部の深さは1μm以上であり、前記凸部の幅、または前記凹部の幅は100μm以下であり、前記間隙の幅は、0.05mm以上2mm以下であることを特徴とする物品。
【0059】
(構成6)前記物品は、第1部品と前記第1部品に対向する第2部品を含み、互いに対向する前記部分の一方は、前記第1部品のうち前記第2部品に対向する面に設けられ、互いに対向する前記部分の他方は、前記第2部品のうち前記第1部品に対向する面、に設けられることを特徴とする構成1乃至5のいずれか1項に記載の物品。
【0060】
(構成7)第1部品と、前記第1部品に対向する第2部品を備え、前記第1部品と前記第2部品との間に間隙を設けた物品であって、
前記第1部品のうち前記第2部品に対向する面に、凹凸構造が設けられ、
前記凹凸構造の凸部のピッチ、または前記凹凸構造の凹部のピッチは、70μm以下であり、
前記凸部の高さ、または前記凹部の深さは1μm以上であり、
前記凸部の幅、または前記凹部の幅は100μm以下であり、
前記間隙の幅は、0.05mm以上2mm以下であることを特徴とする物品。
【0061】
(構成8)第1部品と、前記第1部品に対向する第2部品を備え、前記第1部品と前記第2部品との間に間隙を設けた物品であって、前記間隙の幅は、毛細管現象を発現する幅であり、前記第1部品のうち前記第2部品に対向する面に、ロータス効果を有する凹凸構造が設けられていることを特徴とする物品。
【0062】
(構成9)前記第1部品のうち前記第2部品に対向する前記面は、第1部分と第2部分とを有し、前記第1部分は、前記第2部分に対して非平行であり、前記第1部分は前記凹凸構造が設けられておらず、前記第2部分は前記凹凸構造が設けられていることを特徴とする構成6乃至8のいずれか1項に記載の物品。
【0063】
(構成10)前記第1部分は、前記第2部分より前記物品の表面の側にあることを特徴とする構成9に記載の物品。
【0064】
(構成11)前記第2部品のうち前記第1部品に対向する面に、前記第1部品に設けた凹凸構造と同一の凹凸構造を設けたことを特徴とする構成6乃至10のいずれか1項に記載の物品。
【0065】
(構成12)前記凹凸構造の凸部または凹部は、ハニカム状に配置されることを特徴とする構成1乃至11のいずれか1項に記載の物品。
【0066】
(構成13)前記凸部または前記凹部は、円柱形状、円錐形状または円錐台形状であることを特徴とする構成12に記載の物品。
【0067】
(構成14)樹脂を含む材料から形成されたことを特徴とする構成1乃至13のいずれか1項に記載の物品。
【0068】
(構成15)前記樹脂は、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびポリプロピレンの少なくとも一つを含むことを特徴とする構成14に記載の物品。
【0069】
(構成16)前記凹凸構造の接触角は、100°より大きいことを特徴とする構成1乃至15のいずれか1項に記載の物品。
【0070】
(装置1)構成1乃至16のいずれか1項に記載の物品と、レンズとを備えることを特徴とする光学機器。
【0071】
以上、説明した実施形態は、技術思想を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。たとえば複数の実施形態を組み合わせることができる。また、少なくとも1つの実施形態の一部の事項の削除あるいは置換を行うことができる。
【0072】
また、少なくとも1つの実施形態に新たな事項の追加を行うことができる。なお、本明細書の開示内容は、本明細書に明示的に記載したことのみならず、本明細書および本明細書に添付した図面から把握可能な全ての事項を含む。
【0073】
また本明細書の開示内容は、本明細書に記載した個別の概念の補集合を含んでいる。すなわち、本明細書に例えば「AはBよりも大きい」旨の記載があれば、たとえ「AはBよりも大きくない」旨の記載を省略していたとしても、本明細書は「AはBよりも大きくない」旨を開示していると云える。なぜなら、「AはBよりも大きい」旨を記載している場合には、「AはBよりも大きくない」場合を考慮していることが前提だからである。
【符号の説明】
【0074】
3 間隙
5、8 互いに対向する部分
10 凹凸構造
100 物品
D 間隙の幅
図1
図2
図3
図4
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