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特許7581285リチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20241105BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241105BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241105BHJP
   H01M 10/52 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M10/52
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022101947
(22)【出願日】2022-06-24
(65)【公開番号】P2024002626
(43)【公開日】2024-01-11
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】多賀 一矢
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/182665(WO,A1)
【文献】特開2017-212111(JP,A)
【文献】特開2004-220909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/00 -10/0587
H01G 11/00 -11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の正極板の正極合材層において、
正極活物質は、化学式LiNixCo MzO で表されるものであり、
Mが、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表すとき、
Li/Mの組成比が1.15以上、1.21以下であり、
前記正極活物質に対し炭酸リチウムの量が、0.31[wt%]以上、1.29[wt%]以下の前記正極活物質と、繊維状導電材と組み合わせるとともに、
前記繊維状導電材の前記正極活物質に対する組成比が0.5[wt%]以上、2.0[wt%]以下であり、
かつ、繊維状導電材の被覆率をb[%]とし、繊維状導電材の正極活物質に対する組成比をa[%]とし、正極活物質のD 50 の平均径[μm]をc[μm]としたとき、被覆率[%]を
b=-8.583+(a×11.63)+(c×2.07)≦11.0…(式1)
により求めたとき、
前記正極活物質に対する前記繊維状導電材の前記被覆率が、11.0[%]以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項2】
リチウムイオン二次電池の正極板の正極合材層において、
正極活物質は、化学式LiNi Co O2で表されるものであり、
Mを、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表すとしたとき、
x=1-y-z、
かつ、0<x≦0.5、
かつ、0.2≦y≦0.5、
かつ、y+z≧0.5、
かつ、y/x≧0.98であり、
前記正極活物質に対し炭酸リチウムの量が、0.31[wt%]以上、1.29[wt%]以下の前記正極活物質と、繊維状導電材と組み合わせるとともに、
前記繊維状導電材の前記正極活物質に対する組成比が0.5[wt%]以上、2.0[wt%]以下であり、
かつ、繊維状導電材の被覆率をb[%]とし、繊維状導電材の正極活物質に対する組成比をa[%]とし、正極活物質のD 50 の平均径[μm]をc[μm]としたとき、被覆率[%]を
b=-8.583+(a×11.63)+(c×2.07)≦11.0…(式1)
により求めたとき、
前記正極活物質に対する前記繊維状導電材の前記被覆率が、11.0[%]以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項3】
前記xが、x≦0.37であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項4】
前記繊維状導電材がカーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバからなることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項5】
前記繊維状導電材の長さが、100[nm]~1000[nm]であることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載されたリチウムイオン二次電池用正極板を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池に係り、詳しくは寿命特性が向上したリチウムイオン二次電池用電極板及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、容量が大きく高電圧であるため、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用に用いられている。また、家庭や工場における定置用の電池としても活用されている。このようなリチウムイオン二次電池においては、さらに高出力のものが要求されている。
【0003】
そこで、繊維状導電材であるカーボンナノチューブ(CNT)や、カーボンナノファイバ(CNF)は、少量でも正極活物質の粒子間の導電ネットワークが形成でき、その結果正極合材層の正極活物質の比率を上げることができるような発明が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、正極活物質および負極活物質の粒子表面に微細炭素繊維が網目状に付着し、その全部または一部が親水性基で修飾されているリチウムイオン二次電池が開示されている。また、特許文献2では、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料からなる表面活性剤は、導電性材料の表面に固着して、導電性材料の二次凝集を防止し、結合剤を捕獲し、それにより、導電性材料が、正電極材料および負電極材料と凝集することを防止する。特許文献1や特許文献2に開示されたような正極合材層中に、カーボンナノチューブ等の繊維状導電材を含有するものがある。このような構成を採用することで、その繊維状導電材が導電経路を形成する。そして、これにより、優れた電池性能を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-272041号公報
【文献】特開2015-519699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようにカーボンナノチューブなどにより、電池容量を高め、また、形成された導電経路により、反応面積の増加により反応抵抗が低減し、入出力を向上させることができる。
【0007】
しかしながら、正極活物質と非水電解液の接触面が増えるため、通電や保存による高温環境などにおいては電解液分解時にカウンターとして正極活物質であるNiOが還元分解されてNiOが生じてしまうことがある。NiOが生じると電池の劣化が進行してしまい寿命特性が低下するという問題があった。
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池が解決しようとする課題は、リチウムイオン二次電池の寿命特性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のリチウムイオン二次電池用正極板では、リチウムイオン二次電池の正極板の正極合材層において、正極活物質に対し炭酸リチウムの量が、0.31[wt%]以上、1.29[wt%]以下の前記正極活物質と、繊維状導電材と組み合わせるとともに、前記繊維状導電材の正極活物質に対する組成比が0.5[wt%]以上、2.0[wt%]以下であり、かつ正極活物質に対する前記繊維状導電材の被覆率が、11.0[%]以下であることを特徴とする。
【0010】
前記正極活物質は、化学式LiNiCoで表されるものであり、Mが、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表すとき、Li/Mの組成比が1.15以上、1.21以下とすることが好ましい。
【0011】
また、Mを、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表すとしたとき、前記正極活物質は、化学式LiNiCoで表されるものであり、x=1-y-z、かつ、0<x≦0.5、かつ、0.2≦y≦0.5、かつ、y+z≧0.5、かつ、y/x≧0.98とすることも好ましい。
【0012】
また、この場合前記xが、x≦0.37であることが好ましい。
前記繊維状導電材をカーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバからなるものとしてもよい。この場合、前記繊維状導電材の長さが、100[nm]~1000[nm]であることが好ましい。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用正極板を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1用正極板及びリチウムイオン二次電池が解決しようとする課題は、リチウムイオン二次電池の寿命特性を向上させることにある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成の概略を示す斜視図である。
図2】本実施形態の捲回される電極体の構成を示す模式図である。
図3】炭酸リチウムが少ない正極を示す模式図である。
図4】炭酸リチウムが少ない正極の劣化の状態を示す模式図である。
図5】十分な量の炭酸リチウムが存在する正極を示す模式図である。
図6】十分な量の炭酸リチウムが存在する正極で劣化が抑制される状態の模式図である。
図7】トータルカーボン量TC[wt%]と耐久特性[%]との関係を示す実験例の表である。
図8】トータルカーボン量TC[wt%]と耐久特性[%]との関係を示すグラフである。
図9】CNT被覆率[%]と出力特性[%]との関係を示す実験例の表である。
図10】CNT被覆率[%]と出力特性[%]との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極板及びリチウムイオン二次電池を一実施形態により図1~10を参照して説明する。
(本実施形態の概要)
<繊維状導電材32b>
従来技術で述べたように繊維状導電材32bとしてカーボンナノチューブなどを用いたため、電池容量を高め、また、形成された導電経路により、反応面積の増加により反応抵抗が低減し、入出力を向上させることができる。
【0017】
<NiOの生成>
しかしながら、通電や保存における高温環境などにおいては電解液分解時にNiOが生じてしまうことがある。NiOが生じると電池の劣化が進行してしまうという問題があった。
【0018】
本発明者らは、その原因について鋭意解析をした。その結果、図4に示すように正極活物質32aとの非水電解液13の接触面が増えるため、通電や保存における温度上昇に起因して電解液が分解され、カウンターとして正極活物質32aが還元分解されやすくなる。このとき、NiO→NiO+0.5Oという反応により主反応に寄与しないNiOが生成されてしまう。
【0019】
NiOが生成されると、いわゆる層状に形成された岩塩構造の正極活物質32aにNiOを起因とする構造が形成される。このため、主反応に用いられるリチウムイオン(L)のインターカレーションを妨げ、主反応に用いられる電子量が減少してしまうという問題点を見出した。
【0020】
そこで、本発明者らは、当業者において本来正極活物質の生成時の不純物として排除すべきものと認識されていた炭酸リチウム32c(LiCO)に着目した。図6に示すように、炭酸リチウム32cが一定量存在することで、いわゆるカウンターとして、ROCOR’+LiCO→ROLi+R’OLi+2CO(R、R’は置換基)という反応を生じ、NiOの生成を抑制することができることを見出した。
【0021】
<炭酸リチウムについて>
炭酸リチウムは、従来当業者においては正極活物質の不純物で電池容量を低下させる物質であると認識され、正極活物質の焼成段階において高温下で除去すべき成分であるとの認識があった。
【0022】
ところで、このような認識の中、従来技術においても、正極活物質に炭酸リチウムが含まれている非水二次電池の発明が開示されている。
例えば、特開2002-313340号公報には、以下の発明が開示されている。正極活物質に炭酸リチウムが含まれる構成であって、万が一電池が過充電された場合には、正極活物質に含まれる炭酸リチウムが電気化学的に分解され、炭酸ガスを発生させる。これにより確実に電流遮断機構を作動させることで、充電電流を遮断して電池の急速な温度上昇を防止することができる。このため、電池の安全性を確保することができる。しかしながら、この発明では、炭酸リチウムは炭酸ガスを発生させるものであり、NiOの生成を抑制するという認識はなかった。
【0023】
また、特開2018-172255号公報には、以下の発明が開示されている。高出力化を目的としてLi/Me比が1.00~1.20、硫酸根+炭酸リチウムの残留物を0.3[wt%]以下とする正極活物質を使用している。その量は残留物が全て炭酸Liの場合でLiCO≦0.3[wt%]である。
【0024】
正極活物質は化学式LiNi(1-y-z-w)CoMnで表される。また、その条件は0<y≦0.5、0<z≦0.8、0≦w≦0.1、y+z+w<1.0である。
【0025】
しかしながら、この発明では、正極活物質の比率の増加により電解液と接触する活性面が増加すると活物質自身が還元反応を受け保存や通電により劣化しやすいことが懸念される。そのため、むしろ炭酸リチウムの量を制限し、本実施形態の炭酸リチウムの含有量と比較して極めて少ない量となっており、炭酸リチウムによりNiOの生成を抑制するという認識はなかった。
【0026】
<本実施形態の第1の条件>
本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3の正極合材層32における正極活物質32aは、正極活物質32aに対し炭酸リチウム32cの量が、0.31[wt%]以上、1.29[wt%]以下に設定されている。
【0027】
炭酸リチウム32cを一定量存在させることで電解液分解時に正極活物質32aの代わりにカウンター(ROCOR’+LiCO→ROLi+R’OLi+2COなど)になる。
【0028】
ここで、本実施形態の非水電解液13は、例えばエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などが挙げられる。また、側鎖-R、-R’としては、-CH、-C、-CO、-C、-SOCHなどが挙げられる。
【0029】
炭酸リチウム32cの量は、カーボン換算した量(以下「トータルカーボン量TC」という。)で0.05[wt%]以上、0.21[wt%]とすることで、正極活物質32aに対し炭酸リチウムの量を、0.31[wt%]以上、1.29[wt%]以下に設定することができる。
【0030】
ここで、必要な炭酸リチウムの量は、トータルカーボン量TCから、下記の式で換算することができる。
炭酸リチウム量=トータルカーボン量TC×(炭酸リチウムの分子量/炭素の原子量)
=トータルカーボン量TC×(73.893/12.011)
≒トータルカーボン量TC×6.152
<導電材について>
前述のように、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)などのような繊維状導電材32bは、少ない質量でも効率的な導電ネットワークを形成することができる。このため、電池容量を高め、また、形成された導電経路により、反応面積の増加によって反応抵抗が低減し、入出力を向上させることができる。
【0031】
このためには、本実施形態では、繊維状導電材32bの長さは、100[nm]以上、1000[nm]以下に設定している。
ところで、いくら導電性を高めても、基本的にリチウムイオン二次電池1の正極板3の主反応は主に正極活物質32aの表面で起きる。そのため、過剰な繊維状導電材32bの存在は正極活物質32aの表面を被覆し過ぎ、却って正極活物質32aの主反応を制限してしまうことになる。
【0032】
ここで、繊維状導電材32bであるカーボンナノチューブ(CNT)が、正極活物質32aの表面を覆う面積の割合をCNT被覆率θ[%](あるいは「被覆率θ[%]」)と定義する。本実施形態の被覆率θ[%]は、理論的に導かれる。
【0033】
<本実施形態の第2の条件>
そこで本実施形態では、まず繊維状導電材32bの量を正極活物質32aに対する組成比が0.5[wt%]以上、2.0[wt%]以下に設定した。まず、前提として繊維状導電材32bを必要かつ十分な量とするためである。
【0034】
<本実施形態の第3の条件>
また、具体的には正極活物質32aに対する繊維状導電材32bである被覆率θ[%]が、11.0[%]以下となるように設定する。被覆率θ[%]が、11.0[%]を超えると、過剰な繊維状導電材32bの存在が正極活物質32aの表面を被覆し過ぎ、却って正極活物質32aの主反応を制限してしまう。
【0035】
<正極活物質32aについての条件1>
本実施形態の正極活物質32aの一例は、化学式LiNiCoで表されるものである。ここで、「M」は、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。Li/Mの組成比が1.15以上、1.21以下に設定される。
【0036】
Li/Mの組成比を1.15以上に設定した理由は、リチウムイオンを十分な量とするためである。1.21以下としたのは、電池の安定性を高めるためである。
<正極活物質32aについての条件2>
また、本実施形態では、化学式LiNiCoにおいて
(a)x=1-y-z、つまり、Ni、Co、Mの合計を100[mol%]とする。
【0037】
(b)0<x≦0.5、つまりNiが50[mol%]以下である。
(c)0.2≦y≦0.5、つまりCoが20~50[mol%]である。
(d)y+z≧0.5、すなわち上記(a)、(b)からもわかるようにCo、Mの合計は、50[mol%]以上となる。
【0038】
(e)y/x≧0.98、つまり、CoはNiの98[mol%]より多く含まれる。
なお、特に好ましくは、(b’)xが、x≦0.37である。
この理由としては、Niの組成比が高いと、カチオンミキシングにより、正極活物質32aにおいて本来Liが配列されるべき位置にNiが入り込み、Liの量が減少してしまうというNi由来の劣化を引き起こす。
【0039】
また、NiOが大量に生成されると、いわゆる層状に形成された岩塩構造の正極活物質32aにNiOを起因とする構造が形成される。このため、主反応に用いられるリチウムイオン(L)のインターカレーションを妨げ、主反応に用いられる電子量が減少してしまうというNi由来の劣化を引き起こす。
【0040】
なお、x(Ni)の割合が低く、y(Co)の割合が高い場合にはトータルカーボン量TCは、0.04以下になるのが一般的である。その理由は、Liとの反応速度がNiは低く、Coは高いためLiを結晶内に取り込みやすくなるためである。このため、Coが20~50[mol%]となるように設定する。
【0041】
(本実施形態の構成)
以上のような特徴を有するリチウムイオン二次電池1の全体の構成を簡単に説明する。
<リチウムイオン二次電池1の構成>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。次に本実施形態のリチウムイオン二次電池1についてその構成を説明する。
【0042】
図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から非水電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は、図1に示されるものに限定されない。
【0043】
<電極体12>
図2は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、多数の負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが扁平に捲回されて形成されている。負極板2は、基材となる負極集電体21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層22が形成されておらず負極集電体21が露出した負極接続部23が設けられている。
【0044】
<電極体12の積層構造>
図3は、リチウムイオン二次電池1の電極体12の積層の構成を示す模式的な部分断面図である。図2に示したとおり、リチウムイオン二次電池1の電極体12の基本構成は、負極板2と正極板3とセパレータ4を備える。
【0045】
負極板2は、負極基材となる負極集電体21の両面に負極合材層22を備える。負極集電体21の一端部は、金属が露出する負極接続部23となっている。
正極板3は、正極基材となる正極集電体31の両面に正極合材層32を備える。正極集電体31の他端部は、金属が露出する正極接続部33となっている。
【0046】
負極板2と、正極板3は、セパレータ4を介して重ねて積層体が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、扁平に整形されてなる捲回型の電極体12を構成する。
【0047】
<非水電解液13>
図1に示すように非水電解液13は、電池ケース11により構成される電槽内に充填されている。リチウムイオン二次電池1の非水電解液13は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート(F.PC)等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン(TFH)、2‐メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。非水電解液として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。非水電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0048】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である負極板2、正極板3、セパレータ4について説明する。
【0049】
なお、本実施形態では、「平均径」は、特に断りがない限り体積基準の粒度分布における累積50%に相当するメジアン径(D50:50%体積平均粒径)を意味する。平均粒径がおおよそ1μm以上の範囲については、レーザ回折・光散乱法により求めることができる。また、平均粒径がおおよそ1μm以下の範囲については、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)法により求めることができる。DLS法に基づく平均粒径は、JISZ8828:2013に準じて測定することができる。
【0050】
<負極板2>
負極基材である負極集電体21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極集電体21は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。本実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0051】
負極板2は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダ)とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極集電体21に塗工して乾燥することで作製される。
<正極板3>
正極板3は、正極集電体31と、ここに塗工された正極合材層32とから構成される。
【0052】
<正極集電体31>
正極基材である正極集電体31の両面に正極合材層32が形成されて正極板3が構成されている。正極集電体31は、実施形態ではAl箔から構成されている。正極集電体31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0053】
まず、正極集電体31を構成する正極基材は、Al箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができる。正極集電体31の構成はこれに限られるものではない。
【0054】
<正極合材層32>
正極合材層32は、正極合材ペーストを正極集電体31に塗工、乾燥して形成される。正極合材層32は、正極活物質32aのほか、繊維状導電材32b、結着材32d、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0055】
<正極活物質32aの組成>
上記実施形態で例示したものに限定されず、正極活物質32aの一次粒子は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0056】
正極活物質32aは、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
【0057】
<繊維状導電材32b>
繊維状導電材32bは、正極合材層32中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層32に適量の導電体を混合することにより、正極内部の導電性を高めて、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。本実施形態の導電体としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)などの炭素材料からなる繊維状導電材32bを用いることができる。また、径に対する長さのアスペクト比が30以上のひも状のものを用いることが望ましい。長さは、100[nm]以上、1000[nm]であることが好ましい。100[nm]未満であると、十分な導電ネットワークが形成できない。1000[nm]を超えると分散させにくくなる。
【0058】
<結着材32d>
結着材32dには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0059】
(本実施形態の作用)
次に、このように構成された本実施形態のリチウムイオン二次電池1の作用について図3~6を参照して説明する。
【0060】
図3は、炭酸リチウム32cが少ない正極を示す模式図である。具体的には、炭酸リチウム32cの指標であるトータルカーボン量TCが0.05[wt%]であり、正極活物質32aに対する繊維状導電材32bの被覆率θ[%]が、11.0[%]以下となるように設定されている。
【0061】
図4は、炭酸リチウム32cが少ない正極の劣化の状態を示す模式図である。リチウムイオン二次電池1の非水電解液13は充放電や微小短絡、環境温度から電気分解を生じる高温となると、本来ROCOR’が分解して、ROLi+R’OLi+2COとなる。ところが、高温下ではNiO→NiO+0.5Oという反応を生じて、NiOを生じてしまう。このNiOは、前述のとおり劣化の原因となる。すなわち、正極活物質32aにおけるLi量が低下して電池容量が低下する。また、NiOにより内部抵抗(CD-R)が大きくなってしまう。
【0062】
図5は、十分な量の炭酸リチウム32cが存在する正極を示す模式図である。図3と比較すると、図5において炭酸リチウム32cが多数白丸で模式的に表示される。実際に炭酸リチウム32cの指標であるトータルカーボン量TCが、0.05[wt%]≦TC≦0.21[wt%]と多くなるように設定されている。また、正極活物質32aに対する繊維状導電材32bの被覆率θ[%]は、図3と同様、11.0[%]以下となるように設定されている。
【0063】
図6は、十分な量の炭酸リチウム32cが存在する正極で劣化が抑制される状態の模式図である。図4と同様に、リチウムイオン二次電池1の非水電解液13が充放電や微小短絡、環境温度から電気分解を生じる高温となると、ROCOR’が分解する。このとき、炭酸リチウム32c(LiCO)がカンターとなり、LiCO→2Li+0.5O+COという反応を生じて、NiO→NiO+0.5Oという反応を抑制する。つまり、活物質であるNiOの代わりにLiCOが、還元分解反応に寄与する。このように、炭酸リチウム32cの指標であるトータルカーボン量TCを所定の量とすることで、CNTからなる繊維状導電材32bによる容量の向上、入出力を向上させる。これとともに非水電解液13の酸化分解時正極活物質32aであるNiOがNiOに劣化することを抑制することができる。
【0064】
(本実施形態の実験例)
<実験1:TC[wt%]と耐久特性[%]>
図7は、トータルカーボン量TC[wt%]と耐久特性[%]との関係を示す実験例の表である。ここで、「トータルカーボン量TC」は、カーボン(C)は主に、炭酸リチウム32c(LiCO)に由来するため、本実施形態では炭酸リチウム32cの量は、カーボン換算した量を指標としてコントロールする。前記第1の条件では、トータルカーボン量TCを、0.05[wt%]以上、0.21[wt%]とすることで、正極活物質32aに対し炭酸リチウム32cの量を、0.31[wt%]以上、1.29[wt%]以下に設定することができる。
【0065】
・実施例1:トータルカーボン量TCは0.08[wt%]で第1の条件を満たしている。Niを35.3[mol%]、Coを35.0[mol%]、Mnを29.7[mol%]、活物質D50を4.2[wt%]とした。極板CNT量は0.8[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θは9.4[%]で前記第3の条件を満たしている。このときの耐久特性を100[%]とする。「耐久特性」は、設定した閾値の電池容量となるまでの充放電量[Wh]による。
【0066】
・実施例2:トータルカーボン量TCは0.14[wt%]で第1の条件を満たしている。Niを35.2[mol%]、Coを35.0[mol%]、Mnを29.8[mol%]、活物質D50を3.9[wt%]とした。極板CNT量は0.8[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θは8.8[%]で前記第3の条件を満たしている。このときの耐久特性は95.8[%]となった。
【0067】
・実施例3:トータルカーボン量TCは0.21[wt%]で第1の条件を満たしている。Niを35.2[mol%]、Coを35.0[mol%]、Mnを29.8[mol%]、活物質D50を3.9[wt%]とした。極板CNT量は0.8[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θは8.8[%]で前記第3の条件を満たしている。このときの耐久特性は91.4[%]となった。
【0068】
・比較例1:トータルカーボン量TCは0.04[wt%]で第1の条件を満たしていない。Niを35.1[mol%]、Coを35.0[mol%]、Mnを29.9[mol%]、活物質D50を3.9[wt%]とした。極板CNT量は0.8[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θは8.8[%]で前記第3の条件を満たしている。このときの耐久特性は84.5[%]となった。
【0069】
・参考例1:トータルカーボン量TCを0.03[wt%]で第1の条件を満たしていない。Niを37.8[mol%]、Coを32.3[mol%]、Mnを29.8[mol%]、活物質D50を5[wt%]とした。極板CNT量は1[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θは13.4[%]で前記第3の条件を満たしていない。このときの耐久特性は70.2[%]となった。
【0070】
<実験1のまとめ>
図8は、図7に示すトータルカーボン量TC[wt%]と耐久特性[%]との関係をプロットして示すグラフである。プロット点P1は、参考例1のトータルカーボン量TC[wt%]と耐久特性[%]をプロットした点である。同様にプロット点P2は比較例1を、プロット点P3は実施例1を、プロット点P4は実施例2を、プロット点P5は実施例3に対応する。グラフL1は、例示したプロット点P1~P5以外のプロット点を含め、これらに基づき求めたグラフである。
【0071】
本実施形態では、参考例1のプロット点P1は第1の条件を満たさず、耐久特性[%]も70.2[%]と低くなっている。また比較例1のプロット点P2は、やはり第1の条件を満たしておらず、耐久特性[%]は84.5[%]と、本実施形態で設定した値より小さい。実施例1のプロット点P3は、第1の条件を満たしており、耐久特性[%]もほぼピーク値であり、100[%]である。実施例2のプロット点P4は、第1の条件を満たし、耐久特性[%]は、95.4[%]と、実施例1に近い値を示す。実施例3のプロット点P5も第1の条件を満たすもので、耐久特性[%]は、91.4[%]と、ほぼ製品として満足できる値であった。
【0072】
このような実験結果から、グラフL1を重回帰分析によりグラフL1を導き出した。このグラフL1より、耐久特性[%]において概ね90[%]が期待できるトータルカーボン量TC[wt%]が、0.05[%]以上、0.21[%]以下となり、これを第1の条件として設定した。
【0073】
<実験2:CNT被覆率θ[%]と出力特性[%]>
図9は、CNT被覆率θ[%]と出力特性[%]との関係を示す実験例の表である。前記第3の条件では、正極活物質32aに対する繊維状導電材32bの被覆率θ[%]が、11.0[%]以下となるように設定する。実験2では、この被覆率θ[%]に対する出力特性[%]を測定した。出力特性は、電池容量[Wh]による。
【0074】
・実施例4:トータルカーボン量TCは0.08[wt%]で第1の条件を満たしている。Niを35.0[mol%]、Coを35.0[mol%]、Mnを30.0[mol%]、活物質D50を3.6[wt%]とした。極板CNT量は0.8[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θ[%]は8.2[%]で前記第3の条件を満たしている。このときの出力特性を100[%]とする。
【0075】
・実施例5:トータルカーボン量TCは0.08[wt%]で第1の条件を満たしている。Niを35.3[mol%]、Coを35.0[mol%]、Mnを29.7[mol%]、活物質D50を4.2[wt%]とした。極板CNT量は0.8[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θ[%]は9.4[%]で前記第3の条件を満たしている。このときの出力特性は98.8[%]となった。
【0076】
・実施例6:トータルカーボン量TCは0.04[wt%]でわずかに第1の条件を満たしていない。Niを35.1[mol%]、Coを35.0[mol%]、Mnを29.9[mol%]、活物質D50を3.9[wt%]とした。極板CNT量は1[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θ[%]は11.1[%]でわずかに前記第3の条件を満たしていない。このときの出力特性は94.6[%]となった。
【0077】
・比較例2:トータルカーボン量TCは0.07[wt%]で第1の条件を満たしている。Niを35.1[mol%]、Coを32.0[mol%]、Mnを33.0[mol%]、活物質D50を4.5[wt%]とした。極板CNT量は1[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θは12.4[%]で前記第3の条件を満たしていない。このときの出力特性は74.1[%]となった。
【0078】
・参考例2:トータルカーボン量TCを0.03[wt%]で第1の条件を満たしていない。Niを37.8[mol%]、Coを32.3[mol%]、Mnを29.8[mol%]、活物質D50を5[wt%]とした。極板CNT量は1[wt%]で前記第2の条件を満たしている。CNT被覆率θ[%]は13.4[%]で前記第3の条件を満たしていない。このときの出力特性は55.4[%]となった。
【0079】
<実験2のまとめ>
図10は、図9に示すCNT被覆率θ[%]と出力特性[%]との関係をプロットして示すグラフである。プロット点P6は実施例4のCNT被覆率θ[%]と出力特性[%]をプロットした点である。同様にプロット点P7は実施例5を、プロット点P8は実施例6を、プロット点P9は比較例2を、プロット点P10は参考例2に対応する。グラフL2は、例示したプロット点P6~P10以外のプロット点を含め、これらに基づき重回帰分析で求めたグラフである。
【0080】
グラフL2からわかるように、CNT被覆率θ[%]が8.2[%]の実施例4を出力特性[%]の基準とする。このとき、CNT被覆率θ[%]が11.0[%]のときに、出力特性[%]が、概ね95[%]となり、この範囲が、本実施形態では製品としての設定した基準として許容できる。そこで、本実施形態では前記第3の条件として、正極活物質32aに対する繊維状導電材32bの被覆率θ[%]が、11.0[%]以下となるように設定する。
【0081】
なお、好ましい正極活物質32aへの繊維状導電材32bの被覆率θ[%]は例えば下記(式1)から理論的に導くことができる。ここで、「a[%]」を繊維状導電材32bの正極活物質32aに対する組成比で、望ましくは0.5[wt%]以上、2.0[wt%]以下である。「b[%]」を繊維状導電材32bの被覆率θ[%]とする。「c[μm]」を正極活物質32aのD50の平均径[μm]とし、望ましくは2.5[μm]以上、5.5[μm]とする。
【0082】
b=-8.583+(a×11.63)+(c×2.07)≦11.0…(式1)
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1用の正極板3によれば、リチウムイオン二次電池1の耐久特性を向上させることができるという効果がある。
【0083】
(2)正極活物質32aに対し炭酸リチウム32cの量が、0.31[wt%]以上、1.29[wt%]以下の正極活物質32aと、繊維状導電材32bと組み合わせている。このため、炭酸リチウム32cにより、NiOの生成を抑制できるという効果がある。また、繊維状導電材32bにより、少量でも効果的な導電ネットワークを構築できるという効果がある。
【0084】
(3)繊維状導電材32bの正極活物質32aに対する組成比が0.5[wt%]以上とした。このため、繊維状導電材32bが導電ネットワークを構築するのに十分な量を確保できるという効果がある。
【0085】
(4)繊維状導電材32bがカーボンナノチューブ(CNT)又はカーボンナノファイバ(CNF)とした。また、その長さを100[nm]~1000[nm]とした。このため、さらに繊維状導電材32bが有効な導電ネットワークを構築することができるという効果がある。
【0086】
(5)繊維状導電材32bの正極活物質32aに対する組成比を2.0[wt%]以下とするとともに、正極活物質32aに対する前記繊維状導電材の被覆率θが、11.0[%]以下とした。このため、繊維状導電材32b自体が正極活物質32aの主反応の妨げにならないという効果がある。
【0087】
(6)正極活物質32aは、化学式LiNiCoで表されるものである。ここで、Mは、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。このとき、Li/Mの組成比が1.15以上、1.21以下とした。このため、十分なリチウムの量を確保するとともに、電池の性能を安定させることができる。
【0088】
(7)正極活物質32aは、化学式LiNiCoにおいて、x=1-y-z、かつ、0<x≦0.5、かつ、0.2≦y≦0.5、かつ、y+z≧0.5、かつ、y/x≧0.98とした。特に好ましくは、x≦0.37とした。このため、Niの量を抑制し、Coの量を確保することで、正極におけるリチウムイオンの容量を増加させて、カチオンミキシング、岩塩構造の形成などNi由来の劣化を有効に抑制することができるという効果がある。
【0089】
(8)本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、このようなリチウムイオン二次電池1用の正極板3を用いることで、耐久特性が高く、出力特性に優れた電池性能を得ることができるという効果がある。
【0090】
(別例)
本実施形態は、本発明の実施の一例であり、本発明は、実施形態の記載に限定されるものではなく、以下のように実施することができる。
【0091】
〇本実施形態の炭酸リチウム32cでは、正極活物質32aの原料由来のものを例示しているが、正極活物質32aに事後的に添加したようなものでもよい。
○本実施形態で挙げた数値等は、例示であり特許請求の範囲を逸脱しない限り、当業者により最適化ができる。
【0092】
○図面は、明細書の理解のために模式的に表現したものであり、実際の繊維状導電材32bや正極活物質32aの粒子の大きさや形状を示すものではない。
○本実施形態では、車載用のセル電池が組み合わされた電池パックを例示しているが、本発明は、その用途などは限定されるものではない。
【0093】
○また、電池は、形状や大きさが限定されない。
○電極体12は断面競技トラック形状の捲回型を例示したが、円柱形のものでよい。さらに、平面状の電極板を積層した積層型の電極体であってもよい。
【0094】
〇その他本発明は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で、当業者によりその構成を付加し削除し又は変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0095】
W…幅方向(捲回軸方向)
θ[%]…(CNT)被覆率
P1~P10…プロット点
L1、L2…グラフ
TC[wt%]…トータルカーボン量
1…リチウムイオン二次電池
11…電池ケース
12…電極体
13…非水電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
2…負極板
21…負極集電体
22…負極合材層
23…負極接続部
3…正極板
31…正極集電体
32…正極合材層
32a…正極活物質
32b…繊維状導電材
32c…炭酸リチウム(LiCO
32d…結着材
33…正極接続部
4…セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10