(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】富化藻類バイオマスの生産のための改善されたプロセス
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20241105BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12P1/00
C12N1/12 B
C12N1/12 C
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022182096
(22)【出願日】2022-11-14
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】202121052370
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】518386656
【氏名又は名称】インディアン オイル コーポレイション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INDIAN OIL CORPORATION LIMITED
(73)【特許権者】
【識別番号】598021878
【氏名又は名称】デパートメント、オブ、バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】DEPARTMENT OF BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】マートゥル、アンシュ シャンカル
(72)【発明者】
【氏名】メータ、プリーティ
(72)【発明者】
【氏名】ラニ、レーカ
(72)【発明者】
【氏名】カンドパル、アンキター
(72)【発明者】
【氏名】グプタ、ラヴィ プラカシュ
(72)【発明者】
【氏名】プリー、スレーシュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】ラマクマール、サンカラ スリ ベンカタ
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-538642(JP,A)
【文献】特表2018-512135(JP,A)
【文献】特開2016-202189(JP,A)
【文献】特開2016-152798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12P 1/00-41/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高脂質生産性を有する富化藻類バイオマスの生産のための改善されたプロセスであって、
i.微細藻類株の活性スターター培養物を準備すること、
ii.10%v/vのステップ(i)の微細藻類株を、発酵槽内のK/N:Mg/N:Cu/Nの比が0.349:0.109:0.023である栄養培地に基質と共に植菌すること
であり、前記栄養培地は、5~150mMの範囲内のカリウム(K
+
)イオン、4~10mMの範囲内のマグネシウム(Mg
2+
)、0.4~0.9mMの範囲内の銅(Cu)イオン、0.3mM~0.9mMの範囲内のカルシウム(Ca
2+
)イオン、5.6~15mMの範囲内の硫酸塩(SO
4
)、14mM~40mMの範囲内の尿素、FeCl
3
、CoCl
2
、H
3
BO
3
、Na
2
MoO
4
、ZnCl
2
、Na
2
WO
4
からなる群より選択された微量元素、およびビオチン、葉酸、ピリドキシン.HCl、チアミン.HCl、リボフラビン、ニコチン酸、B12、チオクト酸からなる群より選択されたビタミンからなること、
iii.長期連続運転を通して、ステップ(ii)の前記培地を20~37℃の範囲内の温度、0.75~1v/v/分の通気および溶存酸素を20%に維持するために150から900rpmの範囲内に調節した撹拌で発酵させること、
iv.ステップ(iii)の前記培地のpH値を6.5~9.5の範囲内に、および発酵槽内の残留基質の濃度を4~15g/Lの範囲内に維持すること、
v.定常状態の連続運転で前記培養物を対数期で成長させること、および
vi.前記発酵槽からオメガ-3含有脂質で富化された藻類バイオマスの高生産性を得ること、
を含むプロセス。
【請求項2】
前記微細藻類株はシゾキトリウム(Schizochytrium)MTCC5
890である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記基質はアセテートである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アセテートは30g~40g/Lの濃度で使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記栄養培地は改変最
小培地である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記培地のpH値は硫酸を添加することによって維持される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
得られた前記バイオマスおよび脂質生産性は80~90g/L/日および20~30g/L/日の範囲内である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
藻類バイオマスおよび脂質の生産性を高めるための栄養培地であって、
30~40g/Lの範囲内の基質としてのアセテート
を含み、5~150mMの範囲内のカリウム(K
+)イオン、4~10mMの範囲内のマグネシウム(Mg
2+)、0.4~0.9mMの範囲内の銅(Cu)イオン、0.3mM~0.9mMの範囲内のカルシウム(Ca
2+)イオン、5.6~15mMの範囲内のスルフェート(SO
4)、14mM~40mMの範囲内の尿素、FeCl
3、CoCl
2、H
3BO
3、Na
2MoO
4、ZnCl
2、Na
2WO
4から
なる群より選択された微量元素、およびビオチン、葉酸、ピリドキシン.HCl、チアミン.HCl、リボフラビン、ニコチン酸、B12、チオクト酸から
なる群より選択されたビタミン
からなる、
栄養培地。
【請求項9】
前記培地は改変最
小培地である、請求項8に記載の栄養培地。
【請求項10】
前記培地中のK/N:Mg/N:Cu/Nの比は0.349:0.109:0.02である、請求項8に記載の栄養培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高脂質生産性を有する富化された藻類バイオマスを生産するプロセスに関する。より具体的には、本発明は、定常状態の連続発酵で、固有の培地組成および基質残留バンドにおいて微細藻類株を使用することによって、オメガ-3脂肪酸で富化されたバイオマスを得るためのプロセスを提供する。本発明のプロセスは、高バイオマスおよび脂質生産性をもたらす。
【背景技術】
【0002】
微生物バイオマス由来のバイオ燃料は、従来のバイオエネルギー作物に基づく問題に対処する最有力候補として浮上している。バイオディーゼル用途のための油性微生物の培養は、商業的かつ持続可能な、油料作物に対する優位性を提供する。バイオディーゼル生産のための油性有機体の商業的成功は、従来の燃料と比較してプロセスを費用効率の良いものにするために、安価な原材料および副産物控除(co-products credits)を使用する、高バイオマスおよび脂質生産性のようなさまざまな要因に依存している。そのため、スラウストキトリド(Thraustochytrids)は、長鎖多価不飽和脂肪酸、換言すればオメガ-3-脂肪酸、のような高付加価値副産物の同時生産とともに、バイオに基づくエネルギーの需要を満たす潜在的に持続可能な選択肢を提示する。これらの有機体は、トリグリセリドとともに広範囲の廃棄物基質をバイオディーゼル用高付加価値脂質に変換し、藻類バイオ燃料生産を、コスト効率の良い、かつ環境的に持続可能なものにすることができる。スラウストキトリドは、多価不飽和オメガ-3脂肪酸、カロテノイド、ステロール、エキソ多糖類および酵素を含む、いくつかの栄養補助食品および機能性食品化合物を産出することが商業的に認識されている。オメガ-3脂肪酸および特にドコサヘキサエン酸(DHA)は、眼、脳および心臓の組織および筋肉の発達および維持に関連する複数の健康上の利益を有する必須脂肪酸である。これらの脂肪酸は、炎症、アテローム性動脈硬化症、高コレステロール、高血圧などを軽減すると報告されている。オメガ-3の健康上の利益について消費者の意識が高まることは、オメガ-3市場の成長に大きく貢献している。オメガ-3市場は、2019年の40.7億米ドルから13.1%の年平均成長率(CAGR)で成長し、2025年までに85.2億米ドルに達すると予想されている(非特許文献1)。このような油性微生物の培養は、食品、飼料用に商業的に行われ、栄養補助食品は実績のある技術であるが、商業的実行可能性のためにさらに削減する必要があるプロセスコストに関連するさまざまな障害が依然として存在する。そのため、革新的な発酵槽の設計、産業廃棄物流れの利用、適切な栄養培地、丈夫な菌株などのいくつかの戦略を実施して、プロセス全体の生産性と実行可能性を改善することができる(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。全体の生産性、すなわちバイオマスおよび脂質生産、を最大化するための戦略は、微細藻類に基づく産業の経済性を改善するために極めて重要である。
【0003】
バイオマスおよび脂質生産の増強についての先行研究は、遺伝子工学を用いて、脂質合成経路への代謝フラックス中の基質の取り込みおよび改変を改善し、それによって栄養制限条件下での脂質生産性を改善し、プロセス固有のFAプロファイルを調整しようとした(非特許文献8、非特許文献9)。既知の先行技術のいくつかは、脂質の生産性を改善するために、相同的組換えまたはランダム挿入突然変異、微細藻類の遺伝子の分子修飾、CRISPR関連置換技術を示唆した(非特許文献4)。しかしながら、効率的な遺伝子編集方法はなく、機能注解の欠如、および全油性株のプロテオミクス・データがないことは、ほとんどの種で依然として課題となっている(非特許文献10)。さらに、遺伝子操作は、環境および農業用途に使用される場合、生態系に悪影響を及ぼし得る、種の遺伝性変化をもたらす。
【0004】
様々な成長促進剤、植物ホルモンおよび微量栄養素を使用したバイオマスおよび/または脂質の増大もまた報告された(特許文献1)。しかしながら、先行特許は、細胞成長の停止および脂質生産性の全体的低下をもたらすN-ストレスが導入された、成長の後期段階における全脂質の含有量を改善する方法を開示した。先行研究は主に、ガス発酵および好気性発酵中に生成される有機酸からの膜に基づく2段階脂質生成プロセスを含む発酵戦略の改善(非特許文献3、非特許文献11)または酸素制御法、すなわち窒素の非存在下での脂質生産段階においてはより低い溶存酸素かつバイオマス密度増加段階においてはより高い溶存酸素、などの発酵戦略の開発(特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5)に焦点を当てていた。高溶存酸素を維持するための激しい混合および曝気は、深刻な発泡および細胞剪断を容易に引き起こし得る。しかしながら、これらのバイオプロセスの工業規模での拡張性は、より多くのコストとエネルギーを必要とする。これらの技術は、微細藻類の脂質およびバイオマスの生産性が、発酵の最適化のみを使用してさらに改善することができないところまできた。したがって、より安価な培養培地および微量栄養素の探索、基質利用およびバイオマス生産性を改善するためのスターター培養物の調節方法を含む培養技術の広範な開発が不可欠である。
【0005】
スラウストキトリドは専ら海洋微生物であり、海水または海塩を有する培地で培養される。最適な成長培地組成を特定することおよび設計することは、商業プロセスの開発において重要な役割を果たす。炭素、窒素および多量栄養素は、培地中で最も重要な要素と見なされている。スラウストキトリドの生産物収量および体積生産性を改善するための従来のアプローチは、主に、栄養(例えば、窒素、リンおよび海塩)および環境(例えば、温度、pHおよび塩分など)因子の操作を含む(特許文献6)。技術開発の戦略として、海塩または海水を塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムに置き換えることが研究されている(非特許文献12、非特許文献3)。しかしながら、海水、海塩、塩化ナトリウム、および硫酸ナトリウムの添加は、長期運転において商業規模のリアクターを腐食させると報告されている。そして、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸などのさまざまなイオンの添加物を含み、海塩、塩化ナトリウム、および硫酸ナトリウムを含まない培地処方に関するさまざまな報告がある(非特許文献13)。バイオマスおよび脂質の増大についての先行研究は、炭素対窒素比(C:N)を用いて試みられ、バイオマス形成に加えて脂質収量はC:N比によって影響を受けた(非特許文献14)。一方、カリウムおよびマグネシウムなどの主要イオンの窒素に対する特定の比(すなわちK/N、Mg/Nなど)を最適化することにより、基質利用効率を高めてバイオマスの生産性をより積極的に高める効果について検討した報告はなく、追加された主要なイオンの窒素に対する比のバランスがバイオマスおよび脂質組成物に及ぼす効果を調査した報告さえない。
【0006】
さらに、先行技術において、ほとんどの従来研究は、バイオマス生産性を高めるために行われ、菌株の選択、遺伝子修飾、栄養(特に炭素の窒素に対する比)因子の操作、さまざまな発酵戦略の最適化、成長促進物質、植物ホルモンおよび微量栄養素の補充などに焦点を当ててきた。しかしながら、これまで、カリウムおよびマグネシウムなどの主要なイオンおよび窒素および基質をバランスの良い比で、規定された濃度に、添加および維持することにより、基質利用効率および連続発酵における希釈を増加させることでバイオマスの生産性をより積極的に高める効果を調査した報告はなかった。
【0007】
特許文献7は、バイオマスの少なくとも約20%を脂質として生産することができる真核微生物からポリエン脂肪酸を含有する脂質を生産するプロセスであって、前記微生物を含む発酵培地に非アルコール炭素源および制限栄養源を、前記発酵培地のバイオマス濃度を少なくとも約100g/Lまで増加させるのに十分な速度で添加することを含むプロセスを開示している。
【0008】
特許文献8は、培養培地の改変された組成物を使用している、スラウストキトリアレス(Thraustochytriales)の微小植物に属する微生物によるオメガ-3脂肪酸の改善された生産方法に関する。さらに、この文献は、ウルケニア(Ulkenia)、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)および/またはシゾキトリウム(Schizochytrium)の菌株などの微小植物を発酵槽で培養することによるオメガ-3脂肪酸の生産方法であって、ナトリウムイオンが減少し、カリウムイオンが増加した環境でスラウストキトリアレス微小植物を培養する工程が含まれるプロセスについて説明している。
【0009】
特許文献9は、バイオ燃料を生産することができる新しいミクラクチニウム・インナームム(Micractinium inermum)NLP-F014 KCTC 12491BP微細藻類およびそれらの使用に関する。さらに、これは、微小空洞ミクラクチニウム・インナームムNLP-F014 KCTC 12491BP微細藻類またはその培養物を含むバイオマス燃料を提供する。
【0010】
特許文献10は、ガス発酵プラントの排出物からの栄養素の隔離、および高価値のオメガ-3脂肪酸および脂質などのバイオディーゼル用付加価値生成物へのその生体内変換の連続プロセスにおいて廃液を処理するためのスラウストキトリッド(thraustochytrid)に基づくプロセスを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2011/0091945号明細書
【文献】米国特許第9,848.623号明細書
【文献】米国特許第010351814号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0298149号明細書
【文献】米国特許第8,124,384号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0091945号明細書
【文献】国際公開第2001/054510号
【文献】国際公開第2008/049512号
【文献】国際公開第2015/068896号
【文献】米国特許出願公開第2016/0244789号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/omega-3-omega-6-227.html
【文献】Awad 2019
【文献】Mathur et al.,2018
【文献】Shahid et al.,2019
【文献】Meo et al.,2017
【文献】Caulier et al.,2016
【文献】Higashiyama et al.,2008
【文献】Mlickova et al.,2004
【文献】Sharma et al.,2018
【文献】Naduthodi et al.,2018
【文献】Simpson et al.,2020
【文献】Chen et al.,2016
【文献】Higashiyama et al.,2004
【文献】Awad et al.,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、入手可能な文献は、藻類バイオマスを増強するためのいくつかの方法を提供するが、これらの方法のいずれも、脂質含有量を減少させずにバイオマスを増大するために窒素に関してイオンを追加する方法を提供していない。したがって、本発明は、上記の問題に対処し、細胞集団を、微細藻類株の体積生産性および栄養素隔離能力を増加させることができる固有の割合の化合物と接触させることによって、バイオマスおよび脂質の生産性または細胞集団を増加させるための新規な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様では、高脂質生産性を有する富化藻類バイオマスの生産のための改善されたプロセスが提供され、前記プロセスは、
i.微細藻類株の活性スターター培養物を準備すること、
ii.10%v/vのステップ(i)の微細藻類株を、発酵槽内のK/N:Mg/N:Cu/Nの比が0.349:0.109:0.023である栄養培地に基質と共に植菌すること、
iii.長期連続運転を通して、ステップ(ii)の前記培地を20~37℃の範囲内の温度、0.75~1v/v/分の通気および溶存酸素を20%に維持するために150から900rpmの範囲内に調節した撹拌で発酵させること、
iv.ステップ(iii)の前記培地のpH値を6.5~9.5の範囲内に、および発酵槽内の残留基質の濃度を4~15g/Lの範囲内に維持すること、
v.定常状態の連続運転で前記培養物を対数期で成長させること、および
vi.前記発酵槽からオメガ-3含有脂質で富化された藻類バイオマスの高生産性を得ること、
を含む。
【0015】
本発明の一実施形態では、前記微細藻類株はシゾキトリウム(Schizochytrium)MTCC5890である、プロセスが提供される。
【0016】
本発明の別の実施形態では、前記基質はアセテートである、プロセスが提供される。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態では、前記アセテートは30g~40g/Lの濃度で使用される、プロセスが提供される。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態では、前記栄養培地は改変最小基本培地である、プロセスが提供される。
【0019】
本発明の一実施形態では、前記培地のpH値は硫酸を添加することによって維持される、プロセスが提供される。
【0020】
本発明の別の実施形態では、得られた前記バイオマスおよび脂質生産性は80~90g/L/日および20~30g/L/日の範囲内である、プロセスが提供される。
【0021】
本発明の別の態様では、藻類バイオマスおよび脂質生産性を高めるための栄養培地であって、
30~40g/Lの範囲内の基質としてのアセテート、5~150mMの範囲内のカリウム(K+)イオン、4~10mMの範囲内のマグネシウム(Mg2+)、0.4~0.9mMの範囲内の銅(Cu)イオン、0.3mM~0.9mMの範囲内のカルシウム(Ca2+)イオン、5.6~15mMの範囲内の硫酸塩(SO4)、14mM~40mMの範囲内の尿素、FeCl3、CoCl2、H3BO3、Na2MoO4、ZnCl2、Na2WO4から選ばれた微量元素、およびビオチン、葉酸、ピリドキシン.HCl、チアミン.HCl、リボフラビン、ニコチン酸、B12、チオクト酸から選ばれたビタミンを含む栄養培地が提供される。
【0022】
本発明の一実施形態では、前記培地は改変最小基本培地である、プロセスが提供される。
【0023】
本発明の別の実施形態では、前記培地中のK/N:Mg/N:Cu/Nの比は0.349:0.109:0.02である、プロセスが提供される。
【0024】
本主題のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明を参照してよりよく理解されるであろう。この要約は、概念の選択を簡略化された形で紹介するために提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、添付の図面(図面中、同様の文字はその図面全体で同様の部分を表す)を参照して以下の詳細な説明を読むと、より良く理解されるであろう。
【0026】
【
図1】複合培地(A)、最小BM培地(B)および改変MBM培地におけるシゾキトリウムMTCC5
890の成長および基質消費を示す。
【
図2】4バッチ並列リアクターで改変MBM培地を使用した成長動態および最適残留基質濃度を示す。
【
図3】流加培養における成長および生産性に対する基質の種々の濃度の影響を示す。
【
図4】連続発酵における改変培地(A)および(B)ならびに対照(C)におけるバイオマスおよびアセテート消費速度の変化を示す。対照とは、追加のカリウム、マグネシウム、および銅が補充されていない最小培地を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
便宜上、本開示の更なる説明の前に、本明細書で使用される特定の用語および例をここに集める。これらの定義は、開示の残りの部分を考慮して読まれるべきであり、当業者によって理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、当業者に認識され知られている意味を有するが、便宜上および完全を期すために、特定の用語およびそれらの意味を以下に記載する。
【0028】
定義:
本発明の目的のために、以下の用語は、本明細書で規定された意味を有する。
【0029】
冠詞「a」、「an」、および「the」は、冠詞の文法上の目的語の1つまたは1より多く(つまり、少なくとも1つ)を指すために使用される。
【0030】
用語「含む(comprise)」および「含む(comprising)」は、包括的で開いた意味で使用され、追加の要素が含まれうることを意味する。これは、「のみからなる(consists of only)」と解釈されることを意図したものではない。
【0031】
本明細書全体を通して、文脈が別段の要求をしない限り、単語「含む(comprise)」(および「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形)は、述べられた要素またはステップ、または要素またはステップのグループを含むが、他の要素またはステップ、または要素またはステップのグループを除外するものではないことを意味すると理解されたい。
【0032】
用語「含む(including)」は、「含むがこれに限定されない(including but not limited to)」を意味するために使用され、「含む(including)」および「含むがこれに限定されない(including but not limited to)」は交換可能に使用される。
【0033】
本発明は、藻類バイオマスの生産を増強し/富化する方法を、ひいては高脂質生産性を提供する。前記方法は、培養物の栄養利用能力の潜在力を高めるために選択された組成を有する高活性スターターの接種と、従来使用されていたスターター培養物よりも細胞密度/生産性を数倍増加させ、その後、特定の成長速度を維持することで、定常状態の連続発酵における基質利用と生産性を高め、より速く培養物を成長させることにより発酵を継続すること、発酵槽内の残留基質バンド濃度と固有のK/N、Mg/N比を制御すること、を含む。特に、本発明は、栄養素隔離速度を高め、それによって高性能株をもたらすプロセス、およびそのプロセスの生産性向上をもたらすプロセスに関する。
【0034】
したがって、本発明は、スラウストキトリドを培養する従来のプロセスを改善し、培養物からの高価値脂質用バイオマスの効率的な生産を明らかに可能にするように、急速な対数細胞成長期およびオメガ-3脂肪酸の生合成を促進する、プロセスを提供する。従って、この目的を達成するために、シゾキトリウムMTCC5890は、有機窒素源に対するカリウム、マグネシウムの比率および銅濃度が適切かつ最適化され、K/N比が40%以下、好ましくは37%以下、より好ましくは34%以下、かつMg/N比が18%以下、好ましくは14%以下、より好ましくは11%以下の培地で培養され、オメガ3含有脂質が蓄積された藻類細胞を高濃度で得ることができる。この発酵は継続され、前記培養物は、固有の選択された培地組成物にさらされ、基質の残留定常状態濃度の固定バンド(基質濃度14g/L以下、好ましくは10g/L以下、より好ましくは7g/L以下)を維持し、ここでは、高価値脂質またはバイオ燃料製品で強化されたバイオマスを提供する培養の潜在力が、定常状態の連続発酵において培養がこの固有の培地組成および基質残留バンドと接触していないときと比較して上がる。
【0035】
したがって、本発明によれば、高脂質生産性を有する富化藻類バイオマスの生産のための改善されたプロセスが提供され、
前記プロセスは、
i.微細藻類株の活性スターター培養物を準備すること、
ii.10%v/vのステップ(i)の微細藻類株を、発酵槽内のK/N:Mg/N:Cu/Nの比が0.349:0.109:0.023である栄養培地に基質と共に植菌すること、
iii.長期連続運転を通して、ステップ(ii)の前記培地を20~37℃の範囲内の温度、0.75~1v/v/分の通気および溶存酸素を20%に維持するために150から900rpmの範囲内に調節した撹拌で発酵させること、
iv.ステップ(iii)の前記培地のpH値を6.5~9.5の範囲内に、および発酵槽内の残留基質の濃度を4~15g/Lの範囲内に維持すること、
v.定常状態の連続運転で前記培養物を対数期で成長させること、および
vi.前記発酵槽からオメガ-3含有脂質で富化された藻類バイオマスの高生産性を得ること、
を含む。
【0036】
本発明の一実施形態では、微細藻類株がシゾキトリウムMTCC5890であるプロセスが提供される。前記シゾキトリウムMTCC5890は、アラビア海付近の、インドのゴア(S15°29’57.39”、E73°52’6.13”)のズアリ-マンドビ(Zuari-Mandovi)マングローブから単離された。
【0037】
本発明の別の実施形態では、前記基質はアセテートであるプロセスが提供される。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態では、アセテートは30g~40g/Lの濃度で使用される、プロセスが提供される。
【0039】
本発明のさらに別の実施形態では、前記栄養培地は改変最小基本培地である、プロセスが提供される。
【0040】
本発明の一実施形態では、前記培地のpH値は硫酸を添加することによって維持される、プロセスが提供される。
【0041】
本発明の別の実施形態では、得られた前記バイオマスおよび脂質生産性が、80~90g/L/日および20~30g/L/日の範囲内である、プロセスが提供される。
【0042】
本発明の別の態様では、藻類バイオマスおよび脂質生産性を高めるための栄養培地であって、30~40g/Lの範囲内の基質としてのアセテート、5~150mMの範囲内のカリウム(K+)イオン、4~10mMの範囲内のマグネシウム(Mg2+)、0.4~0.9mMの範囲内の銅(Cu)イオン、0.3mM~0.9mMの範囲内のカルシウム(Ca2+)イオン、5.6~15mMの範囲内のスルフェート(SO4)、14mM~40mMの範囲内の尿素、FeCl3、CoCl2、H3BO3、Na2MoO4、ZnCl2、Na2WO4から選ばれた微量元素、およびビオチン、葉酸、ピリドキシン.HCl、チアミン.HCl、リボフラビン、ニコチン酸、B12、チオクト酸から選ばれたビタミンを含む栄養培地が提供される。
【0043】
本プロセスで使用されるグラムでの培地組成は、アセテート30~40g/L、MgSO4.7H2O:1.22g/L、K2SO4=0.87g/L、CaCl2=0.073g/L、ニトリロ酢酸=0.1g/L、リン酸85%=375マイクロリットル、CuSO4=400マイクロモル、0.1Mストックから加えられた微量金属:FeCl310mL、CoCl21mL、H3BO31mL、Na2MoO40.1ml、ZnCl21mL、Na2WO40.1mL、ビタミンストック:ビオチン20mg、葉酸20mg、ピリドキシン.HCl10mg、チアミン.HCl50mg、リボフラビン50mg、ニコチン酸50mg、B12 50mg、チオクト酸50mgである。
【0044】
本発明の一実施形態では、前記培地は改変最小基本培地である。
【0045】
本発明の別の実施形態において、前記培地中のK/N:Mg/N:Cu/Nの比は0.349:0.109:0.02である。
【0046】
本発明で開示される栄養培地は、安価な方法で高収率にバイオマスおよび脂質を生産するという利点を有する。
【0047】
したがって、本発明で開示されるプロセスは、再生可能燃料としてのバイオディーゼル用の脂質とともに、オメガ-3脂肪酸に富む脂質の持続可能な生産のための、バイオマスおよび脂質の収量の倍増について、特定のイオンの窒素に対する比の最適化戦略の推測される成功した結果を示す。このプロセスには、成長、栄養利用およびバイオマス生産性を高めるための連続発酵において、培地の化学成分の継続的な交換、除去および補充、低コストの最少培地でのスターター培養の適応、および残留基質の濃度の特定のバンドの決定が含まれる。さらに、本発明は、プロセス中の成長速度、収率、および生産性を増加させる残留基質濃度のバンドを特定するために、少なくとも部分的に、連続プロセスを使用することに基づく。我々の既存のプロセスで、バイオマス生産性を30~40g/L/日から75~90g/L/日に向上させると、バイオマスの生産コストが大幅に削減し、油性微生物から生産されるバイオ燃料の経済的実行可能性が高めることができる。さらに、このプロセスは、食品、飼料、栄養補助食品、および医薬品の生産のためのオメガ-3-脂肪酸バイオマスを生産する産業の収益性を大幅に向上させることができる。
【0048】
(実施例)
ここで、実施例を用いて開示を説明するが、実施例は開示の実施を説明することを意図しており、本開示の範囲に対する制限を暗示するように限定的に解釈することを意図していない。別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本開示が属する分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料を開示された方法の実施に使用することができるが、例示的な方法、装置および材料が本明細書に記載されている。本開示は、記載された特定の方法及び実験条件に限定されず、そのような方法及び条件は変化し得ることが理解されるべきである。
【0049】
実施例1:最少成長培地における活性スターター培養物の準備
大規模発酵プロセスの経済性は、総生産コストの最大30%を占めことがあるので、培地成分に大きく依存する。酵母抽出物および海塩などの複雑な培地成分は、プロセスに大きな変動を引き起こす。酵母抽出物の正確な組成は、酵母細胞の加水分解方法の変動のため実際には分かっておらず、それらの組成はバッチごとに、また会社ごとに変わる可能性がある。培地中の海塩中のNaClの存在は、発酵槽の腐食および廃液の廃棄という重大な問題を引き起こす。そのため、培養培地中の酵母抽出物および海塩(具体的には塩化物)を、腐食が最小になるレベルまで削減および/または省略し、同時に、最適な成長、培養生物の収量、および一貫した再現性を可能にする条件を提供することが非常に望ましい。従って、スターター培養物の再現性、成長および収量を改善するために最小培地成分の濃度を最適化するため、複合酵母ペプトンアセテート培地(YPM)、ガス発酵廃液からの最小培地(BM)、および改変最小培地(MBM)を含む3つの発酵容器A、B、Cを準備した。MBM培地は、銅、追加量のカリウム、マグネシウムおよび他の微量金属を補充し、塩化物およびアンモニウムでスルフェートおよび尿素のそれぞれを置換した、BM培地の特定の改変の後に、研究において実施された。
【0050】
YPMの培地組成は、アセテート30g/L、酵母抽出物10g/L、ペプトン1g/L、海塩18g/Lである。BMの組成は、アセテート30g/L、K+イオン2.1mM、Mg2+1.9mM、Ca2+0.5mM、Cl-25.61mM、NH4Cl19.98mM、0.1Mストック:FeCl310mL、CoCl21mL、H3BO31mL、Na2MoO40.1ml、ZnCl21mL、Na2WO40.1mLから追加された微量金属、ビタミンストック:ビオチン20mg、葉酸20mg、ピリドキシン.HCl10mg、チアミン.HCl50mg、リボフラビン50mg、ニコチン酸50mg、B1250mg、チオクト酸50mgである。
【0051】
MBM培地の組成は、アセテート30g/L、K/N:Mg/N:Cu/N::それぞれ0.349:0.109:0.023であり、ここで、K+イオン5~150mM、Mg2+4~10mM、Cu:0.4-0.9mMであり、Ca2+0.5mM、SO4-5.6~15mM、尿素39.98mM、微量金属およびビタミンをBM培地と同様に添加した。
【0052】
容器中の培地に、それぞれ、シゾキトリウムMTCC5890を接種し、温度30℃、通気0.75~1v/v/分、攪拌500rpmの条件で発酵を継続させた。前記シゾキトリウムは、アラビア海近くのインドのゴア(S15°29’57.39”、E73°52’6.13”)のズアリ・マンドヴィ・マングローブから単離された。発酵の間、必要に応じて硫酸を添加することにより、培地のpH値を約7に維持した。シゾキトリウムMTCC5890の成長は、UV可視分光光度計(UV-2450、島津、日本)を用いて600nmでの光学密度(OD)を測定することにより監視した。H2SO4を移動相として50℃で操作するAminexHPX-87Hカラムを取り付けた屈折率検出器を備えたHPLC(Waters、米国)によって、残留炭素基質を測定した。異なる濃度の標準を注入することによってHPLCを校正した。すべての標準について得られた校正曲線は、0.998に近いR2値を示した。データは、3回実施された実験の各セットの平均で表され、ここで与えられる結果は、3つの独立したサンプルの平均である。
【0053】
この実施形態は、スターター/接種培養物の迅速な成長のための改変最小培地(MBM)における、窒素に対するカリウム、マグネシウム、銅の特定比率の効果を調査する。その生産培地は、主に、すべての成長成分、pH指示薬を含み、また、バイオマスと生産性の向上において、シゾキトリウムの成長を支えるために、銅および特定の比率のカリウム/窒素、マグネシウム/窒素が補充された、基質としてのアセテート(30~40g/L)からなる。
【0054】
図1のA、B、Cを参照すると、細胞成長およびアセテート濃度が培養時間に対してプロットされている。培地中の酵母抽出物、ペプトンおよび海塩の使用を欠くために、培養物を最少培地(BM)で成長させると、培養物の成長は遅いことが分かり、複雑で富化された培地(
図1A)と比較して、誘導期の延長を示している(
図1A)。細胞濃度およびアセテート消費速度は、銅、および窒素に対する適切な比率のカリウムおよびマグネシウムを添加することによるBM培地の改変の後に、有意に改善された。さらに、短い誘導期および速いアセテート消費は、改変MBM培地において細胞成長および急速な対数期の増強を示した。得られた最大比増殖速度(μ/日)はMBMで2.24/日、続いてYPA培地(1.5/日)で0.28日であったのに対し、BM培地では、最小比増殖速度(1.5/日)が観察され、BM培地は、培養のための成長栄養素が十分でないことを示した。この実験における追加した適切な量の必須栄養素の存在下での株の性能に基づき、成長速度は、培地に追加の塩を含まない通常の最小培地(BM)と比較して、最大65%改善された。
【0055】
実施例2:改変最少基本培地における成長動態および最適基質濃度の決定
この実施例は、急速な対数期およびより高い生産性のための連続培地における基質要件の範囲の決定のための、銅、および尿素に対して特定比率のカリウム、マグネシウムを含む改変最小培地組成の効果を示す。栄養培地は、実施例2と比較可能な条件下で主に含まれていた。バッチ実験は、4つの異なる並列バイオリアクター(バイオジェニック エンジニアリング、チェンナイ、インド)で、2Lの改変培地を用いて実施され、最小培地30g/Lアセテート中で成長させた24時間種培養物を10%v/vで接種した。培養物を、30℃に保ち、かつ0.75~1v/v/分の空気を通気し、溶存酸素を20%に保つために撹拌を150~900rpmの範囲で調節した。培地のpH、培養温度、時間および撹拌は、それぞれ6.5~9.5、30℃で120時間であった。
【0056】
成長動態の決定により、菌株の特性が明らかになり、基質の臨界濃度について知ることができた。この実験では、ある特定の時間にあるリアクターから別のリアクターへ継代培養を行い、その遅延期(成長が始まるまでの時間)および培養が停滞期(細胞数が経時的に安定している期間)に入る時間を確認した。成長曲線を用いて、便利で、長い指数期および高い生存細胞収率を与える最適基質濃度を確立した。
【0057】
図2を参照:この実験で得られた結果は、最大基質濃度が26g/L以下、好ましくは22g/L以下、より好ましくは18g/L以下で、急速な対数期を示し、遅延期が減少することを示した。残留基質が8g/L以下、好ましくは4g/L以下、より好ましくは2g/L以下であるときに、培養物は停滞期を示していた。ここで注目すべき点は、いかなる範囲の基質濃度でも培養物の成長は阻害され得なかったということである。
【0058】
実施例3:最適な成長制御戦略の決定
培養における成長および基質利用の両方を説明するために、残留基質制御実験が行われた。この点に関して、シゾキトリウムMTCC5890の成長動態は、異なる基質濃度、すなわち5g/L~20g/Lで開始する4つの流加システムで調査された。流加法を用いて、全てのリアクター中でアセテート濃度を0.9日目に10g/Lから15g/Lの間に維持された。培養の途中でアセテートを流加法で添加したとき、その特定の時間における基質の正確な濃度を知るためにサンプリングを行った。この実験では、基質の消費とバイオマス濃度の増加を時間の関数として観測した。
【0059】
この実施例(
図3)は、実験中の培養における代謝活性変化に対する残留アセテートの効果を示している。より低い初期基質濃度(
図3a)では、0.5日目に定常期に達し、その間、それ以上の成長は起こらず、培養物は深い基質欠乏状態にさらされたことが観察された。0.9日目に、リアクターに10g/Lのアセテートを供給したとき、培養物は成長を回復するのにより多くの時間を要し、短期の飢餓細胞と比較して長期の飢餓細胞では延長された遅滞期を示した。培養物は、残留基質の存在下で、急速な対数期とより速い成長を示した。長時間の炭素源の欠乏は、一部の細胞が溶解する可能性を高め、死滅期を示したと推定された。我々は、長期の飢餓細胞が、遅延期と倍加時間を延ばしたものの、成長し、そして分裂していることを示した。ただし、連続培養では、希釈速度が最大比増殖速度を超えたとき、長期の飢餓細胞は発酵槽から洗い流される。したがって、安定した環境成長条件を維持することによって、培養物が設定された希釈速度で成長できるようにする、残留基質の平衡濃度が要求される。したがって、
図3は、連続培養に使用できる、より正確で再現性のあるデータを示している。結果は、定常状態の連続培養における残留基質の制御されたバンドは、最大成長速度と生産性を達成するために、14g/L以下、好ましくは10g/L以下、より好ましくは7g/L以下の範囲に維持できることを示した。
【0060】
実施例4:富化藻類バイオマスを得るためのプロセス
最適な生産性のために、発酵は、最大の生産性を調節するために、連続発酵における残留基質の適切なバンドの下で改変培地を用いて実施される。これらのデータは、一貫性のために培養物の成長速度を監視し、培養物が常に最適な残留基質濃度で供給されることを保証する。
【0061】
特に、シゾキトリウムの接種材料を、実施例1で論じたように改変培地で準備し、30℃、200rpmで培養した。10%の24歳の接種材料を、改変生産培地で半分満たされた2Lまたは5Ltまたは10Ltリアクターに添加した。補充された培地を含まない発酵槽を対照として保持した。2本のステンレス鋼チューブを、ペリスタルティックポンプによる連続的培地供給および連続的培養採取(オーバーフローチューブを介して)のために2Lのバイオリアクターに設置した。バイオリアクターを600~1200mld-1の開始供給速度で、滅菌培地で連続的に満たした。培養液が洗い流され始めて最大の希釈速度と成長速度を達成するまで、非滅菌培地を使用して供給速度を徐々に上げた。次の60日間、より高い希釈速度で供給を続け、培養期間中、培地レベルを維持した。
【0062】
マイクロスパージャーまたは通常のドリルパイプスパージャーで培養物を通気した。培養物は、ラッシュトンまたはピッチブレードまたはマリン・インペラーを用いて100~900rpmで撹拌し、空気と酸素の供給を組み合わせてDOを10%~50%以上に維持した。サンプルを、6時間から12時間の間隔で定期的に採取し、栄養素の隔離、バイオマス生産、および脂質生産を測定した。流出する液体流を、屈折率検出器(RID)検出器を備えたHPLCによって測定した。成長をOD600および重量測定によって監視した。出典が米国特許US9,890,402号明細書である脂質抽出手順の修正版を用い、ガスクロマトグラフィー-炎イオン化検出器(GCFID)を用いて総脂質を定量化した。
【0063】
図4は、銅および特定比のK/N、Mg/Nを添加し、制御残留基質濃度が発酵の間中維持された改変培地におけるバイオマスおよび脂質生産性を示す。この実験では、長期連続発酵中の残留基質の特定のバンドの調節が、アセテート消費速度およびバイオマス生産性を高めた。
図4aを参照すると、培養物は、発酵槽内の残留基質濃度の変動に応じてジグザグパターンの成長を示した。比増殖速度が希釈速度を下回ったとき、細胞は流出し始めた。我々は、これが炭素基質の飢餓によるものである可能性があり、培養物が洗い流され始め、供給が増加するときに、培養物は延長された遅滞期で成長を回復し始めたと仮定した。ジグザグパターンの調整に成功した残留基質制御戦略を、定常状態で比増殖速度を希釈速度に等しく維持することで確立した。特定の割合の栄養素および特定のバンドの残留基質の存在下での選択された分離株の性能に基づいて、バイオマス生産性およびアセテート消費速度は、改変培地が与えられず残留基質濃度の制御戦略を行なわなかった場合の対照の通常発酵条件と比較して最大で2~3倍改善された。
【0064】
図4bとcを参照すると、オメガ3脂肪酸が豊富な脂質の比生産性は、培地を補充せずかつ戦略を適用しない対照発酵槽で達成されたものの約2~4倍である。一方、定常状態において特定のバンドの残留基質濃度に切り替えることにより、はるかに高い細胞密度を支援することができる。得られた最大アセテート消費速度、バイオマスおよび脂質生産性は、それぞれ130~140g/L/日、80~90g/L/日および20~30g/L/日であった。上記収量はまた、先行文献研究で報告された通常の発酵で生物によって得られた収量よりも良好であった。
【0065】
したがって、本発明は、選択された組成物中で細胞を培養し、より速く成長させることによって、費用対効果が高く持続可能な、高バイオマスおよび脂質生産性を生み出すプロセスを提供し、それによって、培養物が組成物と接触していないときと比較して、バイオ燃料製品および他の高価値副産物を提供する培養物の潜在力を高める。非生産的時間が最小限に抑えられ、また、プロセス自動化の導入が容易にできるように、より速い希釈速度で長期間(数週間または数か月)にわたる連続的な定常状態の発酵プロセスが確立された。このプロセスは、脂質富化されたバイオマスの生産コストに対処し削減することについて有益であり、バイオ燃料生産の経済的実行可能性を高め、さまざまな栄養補助食品および製薬産業の収益性を高めることもできる。
【0066】
(付記)
(付記1)
高脂質生産性を有する富化藻類バイオマスの生産のための改善されたプロセスであって、
i.微細藻類株の活性スターター培養物を準備すること、
ii.10%v/vのステップ(i)の微細藻類株を、発酵槽内のK/N:Mg/N:Cu/Nの比が0.349:0.109:0.023である栄養培地に基質と共に植菌すること、
iii.長期連続運転を通して、ステップ(ii)の前記培地を20~37℃の範囲内の温度、0.75~1v/v/分の通気および溶存酸素を20%に維持するために150から900rpmの範囲内に調節した撹拌で発酵させること、
iv.ステップ(iii)の前記培地のpH値を6.5~9.5の範囲内に、および発酵槽内の残留基質の濃度を4~15g/Lの範囲内に維持すること、
v.定常状態の連続運転で前記培養物を対数期で成長させること、および
vi.前記発酵槽からオメガ-3含有脂質で富化された藻類バイオマスの高生産性を得ること、
を含むプロセス。
【0067】
(付記2)
前記微細藻類株はシゾキトリウム(Schizochytrium)MTCC5890である、付記1に記載のプロセス。
【0068】
(付記3)
前記基質はアセテートである、請求項1に記載のプロセス。
【0069】
(付記4)
前記アセテートは30g~40g/Lの濃度で使用される、付記1~3のいずれか1つに記載のプロセス。
【0070】
(付記5)
前記栄養培地は改変最小基本培地である、付記1に記載のプロセス。
【0071】
(付記6)
前記培地のpH値は硫酸を添加することによって維持される、付記1に記載のプロセス。
【0072】
(付記7)
得られた前記バイオマスおよび脂質生産性は80~90g/L/日および20~30g/L/日の範囲内である、付記1に記載のプロセス。
【0073】
(付記8)
藻類バイオマスおよび脂質の生産性を高めるための栄養培地であって、
30~40g/Lの範囲内の基質としてのアセテート、5~150mMの範囲内のカリウム(K+)イオン、4~10mMの範囲内のマグネシウム(Mg2+)、0.4~0.9mMの範囲内の銅(Cu)イオン、0.3mM~0.9mMの範囲内のカルシウム(Ca2+)イオン、5.6~15mMの範囲内のスルフェート(SO4)、14mM~40mMの範囲内の尿素、FeCl3、CoCl2、H3BO3、Na2MoO4、ZnCl2、Na2WO4から選ばれた微量元素、およびビオチン、葉酸、ピリドキシン.HCl、チアミン.HCl、リボフラビン、ニコチン酸、B12、チオクト酸から選ばれたビタミンを含む、
栄養培地。
【0074】
(付記9)
前記培地は改変最小基本培地である、付記8に記載の栄養培地。
【0075】
(付記10)
前記培地中のK/N:Mg/N:Cu/Nの比は0.349:0.109:0.02である、付記8に記載の栄養培地。