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特許7581326可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法及び可搬式パルプ解繊装置ユニット
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  • 特許-可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法及び可搬式パルプ解繊装置ユニット 図1
  • 特許-可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法及び可搬式パルプ解繊装置ユニット 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法及び可搬式パルプ解繊装置ユニット
(51)【国際特許分類】
   D21B 1/14 20060101AFI20241105BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20241105BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
D21B1/14
D21H11/20
D21H11/18
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022508338
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010297
(87)【国際公開番号】W WO2021187402
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020048753
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】渡部 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】山口 正人
(72)【発明者】
【氏名】村松 利一
(72)【発明者】
【氏名】杉村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-540861(JP,A)
【文献】特開2005-009062(JP,A)
【文献】特開2001-140180(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002689(WO,A1)
【文献】特開2018-122556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00- 1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00- 9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送車両の荷台内に積載可能なサイズのスキッド又はパレットを用意する工程と、
前記スキッド又はパレット上に、キャビテーターを備える解繊装置を設置し可搬式パルプ解繊装置ユニットを製造する工程と、
前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを前記搬送車両の荷台に積載する工程と、
前記解繊装置によりパルプ原料の解繊を行う場所まで、前記搬送車両により前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを搬送する搬送工程と、
前記パルプ原料を用意する工程と、
前記解繊装置に備えられた前記キャビテーターにより前記パルプ原料の解繊を行う解繊工程と、を含む可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
【請求項2】
前記パルプ原料が変性パルプ原料であることを特徴とする請求項1に記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
【請求項3】
更に前記変性パルプ原料の解繊を行う場所において、前記搬送車両の荷台から前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを降ろして設置する工程を含む請求項2記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
【請求項4】
搬送車両の荷台内に積載可能なサイズのスキッド又はパレットを用意する工程と、
前記スキッド又はパレット上に解繊装置を設置し可搬式パルプ解繊装置ユニットを製造する工程と、
前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを前記搬送車両の荷台に積載する工程と、
前記解繊装置によりパルプ原料の解繊を行う場所まで、前記搬送車両により前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを搬送する搬送工程と、
前記パルプ原料を用意する工程と、
前記解繊装置により前記パルプ原料の解繊を行う解繊工程と、を含み、
前記パルプ原料が変性パルプ原料であり、
前記解繊工程は、前記変性パルプ原料をイオン交換水または軟水に離解し、Na化し、解繊する工程を含む、可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
【請求項5】
搬送車両の荷台内に積載可能なサイズのスキッド又はパレットを用意する工程と、
前記スキッド又はパレット上に解繊装置を設置し可搬式パルプ解繊装置ユニットを製造する工程と、
前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを前記搬送車両の荷台に積載する工程と、
前記解繊装置によりパルプ原料の解繊を行う場所まで、前記搬送車両により前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを搬送する搬送工程と、
前記パルプ原料を用意する工程と、
前記解繊装置により前記パルプ原料の解繊を行う解繊工程と、を含み、
前記パルプ原料が変性パルプ原料であり、
前記搬送工程においては、前記可搬式パルプ解繊装置ユニットの高さが所定の高さを越える場合には、第1原料タンクの上部に設置された第1撹拌機の第1駆動部と、第2原料タンクの上部に設置された第2撹拌機の第2駆動部とが取り外された状態で搬送される、可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
【請求項6】
前記解繊装置により解繊を行う場所での前記変性パルプ原料の解繊が終了した後、搬送車両を用いて前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを回収する請求項2~の何れか一項に記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
【請求項7】
前記キャビテーターは、複数の解繊ノズルを備える請求項1~3の何れか一項に記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
【請求項8】
スキッド又はパレットと、前記スキッド又はパレット上に設置された解繊装置を備え、搬送車両の荷台内に積載可能なサイズの可搬式パルプ解繊装置ユニットであって、
前記解繊装置は、
第1原料タンクと、
前記第1原料タンク内に設置され前記第1原料タンク内のパルプ原料の撹拌を行う第1撹拌機と、
前記第1原料タンクの上部に設置され前記第1撹拌機を駆動する第1駆動部と、
第2原料タンクと、
前記第2原料タンク内に設置され前記第2原料タンク内の前記パルプ原料の撹拌を行う第2撹拌機と、
前記第2原料タンクの上部に設置され前記第2撹拌機を駆動する第2駆動部と、
供給された前記パルプ原料を解繊するキャビテーターと、
前記第1原料タンクまたは前記第2原料タンクから交互に前記キャビテーターに前記パルプ原料を送る第1の配管と、
前記キャビテーターから供給側のタンクとは反対のタンクに前記パルプ原料を送る第2の配管とを備える可搬式パルプ解繊装置ユニット。
【請求項9】
前記パルプ原料が変性パルプ原料であることを特徴とする請求項記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
【請求項10】
前記第2の配管に設けられた前記キャビテーターに前記変性パルプ原料を送る少なくとも1台の原料ポンプを備える請求項記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
【請求項11】
前記スキッド又はパレット上には、イオン交換カラム及びNaOHディスペンサーを更に備える請求項または10記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
【請求項12】
所定の高さを越える場合には、前記第1駆動部と、前記第2駆動部とが取り外された状態で前記搬送車両により搬送される請求項9~11の何れか一項に記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
【請求項13】
前記キャビテーターは、前記変性パルプ原料の解繊を行う、原料高圧ポンプ及び解繊ノズルを備える請求項9~12の何れか一項に記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法及び可搬式パルプ解繊装置ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来セルロースナノファイバー(以下、CNFともいう。)は、変性パルプを高圧のホモジナイザーにより解繊することにより、水に安定的に分散させた状態で製造され(例えば、特許文献1参照)、通常は製造された所定濃度のCNF分散液のままユーザーの工場などに搬送され、工業材料あるいは食品や化粧品の添加物材料として各種用途に使用されている。
【0003】
製造された所定濃度のCNF分散液をそのままユーザーの工場などに搬送する場合は、保管、輸送等のコストアップにつながっていた。一方CNF分散液を乾燥させた状態で運搬する場合には、CNF分散液の乾燥に多大な電力を必要とすることからコストアップにつながっていた。またユーザーの工場にCNFの乾燥品を希釈、再分散し、使用に適した濃度に調整する設備の新規設置が必要であった。
【0004】
また特許文献2には、セルロース性原料を離解し半加工品とした後に、輸送費用の削減のため半加工品を濃縮して水分含有量を減少させてから目的地まで輸送し、目的地で半加工品の希釈およびナノフィブリルセルロースまで解繊することが記載されている。
【0005】
また特許文献3には、修飾セルロースパルプを製造した後に、輸送費用の削減のため所定の絶乾率まで脱水してから目的地まで輸送し、目的地で希釈およびナノフィブリルセルロースまで分解することが記載されている。さらに移送コンテナの内部にナノフィブリルセルロースの製造装置を収納して目的地まで運ぶことについても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-44274号公報
【文献】特表2017-527660号公報
【文献】特表2016-540861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1等の従来の方法は、高圧のホモジナイザーを用いて解繊することから、多大な電力を必要とするものであった。また高圧のホモジナイザーは、高価な材質が必要であり、消耗品交換のサイクルが短いため、コストアップにつながっていた。また高圧のホモジナイザーでは解繊処理の程度を微調整することが難しかった。
また特許文献2の方法は、目的地に希釈および解繊に用いる機器を設置する必要があった。
また特許文献3のナノフィブリルセルロースの製造装置は、複数の装置および部品からなるものであり、目的地において組み立て等の作業が必要であった。
本発明の課題は、ユーザー側で簡単に、かつ、新規設備を設置することなく、ユーザーが希望する解繊処理の程度・濃度のCNFを低いエネルギーで製造し、安い価格で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ユニット化した装置を持込んで現地においてパルプ原料の解繊を行うことにより、上記目的を達成できることを見出し本発明を完成させた。
本発明は、以下を提供する。
(1)搬送車両の荷台内に積載可能なサイズのスキッド又はパレットを用意する工程と、前記スキッド又はパレット上に解繊装置を設置し可搬式パルプ解繊装置ユニットを製造する工程と、前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを前記搬送車両の荷台に積載する工程と、前記解繊装置によりパルプ原料の解繊を行う場所まで、前記搬送車両により前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを搬送する搬送工程と、前記パルプ原料を用意する工程と、前記解繊装置により前記パルプ原料の解繊を行う解繊工程と、を含む可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
(2)前記パルプ原料が変性パルプ原料であることを特徴とする(1)記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
(3)更に前記変性パルプ原料の解繊を行う場所において、前記搬送車両の荷台から前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを降ろして設置する工程を含む(2)記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
(4)前記解繊工程は、前記変性パルプ原料をイオン交換水または軟水に離解し、Na化し、解繊する工程を含む(2)または(3)に記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
(5)前記搬送工程においては、前記可搬式パルプ解繊装置ユニットの高さが所定の高さを越える場合には、第1原料タンクの上部に設置された第1撹拌機の第1駆動部と、第2原料タンクの上部に設置された第2撹拌機の第2駆動部とが取り外された状態で搬送される(2)~(4)の何れかに記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
(6)前記解繊装置により解繊を行う場所での前記変性パルプ原料の解繊が終了した後、搬送車両を用いて前記可搬式パルプ解繊装置ユニットを回収する(2)~(5)の何れかに記載の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法。
(7)スキッド又はパレットと、前記スキッド又はパレット上に設置された解繊装置を備え、搬送車両の荷台内に積載可能なサイズの可搬式パルプ解繊装置ユニットであって、前記解繊装置は、第1原料タンクと、前記第1原料タンク内に設置され前記第1原料タンク内のパルプ原料の撹拌を行う第1撹拌機と、前記第1原料タンクの上部に設置され前記第1撹拌機を駆動する第1駆動部と、第2原料タンクと、前記第2原料タンク内に設置され前記第2原料タンク内の前記パルプ原料の撹拌を行う第2撹拌機と、前記第2原料タンクの上部に設置され前記第2撹拌機を駆動する第2駆動部と、供給された前記パルプ原料を解繊するキャビテーターと、前記第1原料タンクまたは前記第2原料タンクから交互に前記キャビテーターに前記パルプ原料を送る第1の配管と、前記キャビテーターから供給側のタンクとは反対のタンクに前記パルプ原料を送る第2の配管とを備える可搬式パルプ解繊装置ユニット。
(8)前記パルプ原料が変性パルプ原料であることを特徴とする(7)記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
(9)前記第2の配管に設けられた前記キャビテーターに前記変性パルプ原料を送る少なくとも1台の原料ポンプを備える(8)記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
(10)前記スキッド又はパレット上には、イオン交換カラム及びNaOHディスペンサーを更に備える(8)または(9)記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
(11)所定の高さを越える場合には、前記第1駆動部と、前記第2駆動部とが取り外された状態で前記搬送車両により搬送される(8)~(10)の何れかに記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
(12)前記キャビテーターは、前記変性パルプ原料の解繊を行う、原料高圧ポンプ及び解繊ノズルを備える(8)~(11)の何れかに記載の可搬式パルプ解繊装置ユニット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーザー側で簡単に、かつ、新規設備を設置することなく、ユーザーが希望する解繊処理の程度・濃度のCNFを低いエネルギーで製造し、安い価格で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る可搬式変性パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法の工程を示す図である。
図2】実施の形態に係る可搬式変性パルプ解繊装置ユニットの基本構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の説明を行う。図1は実施の形態に係る可搬式変性パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法の工程を示す図であり、図2は実施の形態に係る可搬式変性パルプ解繊装置ユニットの基本構成を示す図である。
【0012】
この可搬式変性パルプ解繊装置ユニット(可搬式パルプ解繊装置ユニット)100を用いた現地解繊方法においては、まず搬送車両の荷台内に積載可能なサイズのスキッド(又はパレット)2を用意する(ステップS1)。ここで搬送車両の荷台内に積載可能なサイズとは、例えば4tトラックであれば、幅2150mm×長さ6235mm内のサイズであり、10tトラックであれば、幅2350mm×長さ9200mm内のサイズであり、JRコンテナであれば、幅2275mm×長さ3525mm内のサイズである。
次にスキッド2上に解繊装置4を設置し可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100を製造する(ステップS2)。
【0013】
解繊装置4は、第1原料タンク10と、第1原料タンク10内に設置され第1原料タンク10内の変性パルプ原料の撹拌を行う第1撹拌機12と、第1原料タンク10の上部に設置され第1撹拌機12を駆動する第1駆動部14と、第2原料タンク16と、第2原料タンク16内に設置され第2原料タンク16内の変性パルプ原料の撹拌を行う第2撹拌機18と、第2原料タンク16の上部に設置され第2撹拌機18を駆動する第2駆動部20と、供給された変性パルプ原料を解繊するキャビテーター22とを備えている。
【0014】
なお本明細書においては、第1撹拌機12および第2撹拌機18による変性パルプ原料の短繊維への解繊を離解といい、キャビテーター22による変性パルプ原料のナノ解繊を解繊というものとする。
【0015】
ここで第1原料タンク10の上部には、変性パルプ原料を投入する投入口、イオン交換水を投入する投入口、NaOHを投入する投入口が設けられており、第1原料タンク10及び第2原料タンク16の下部には、第1原料タンク10または第2原料タンク16から弁28を切り替えることにより、交互に原料ポンプ30、原料クーラー32を介してキャビテーター22に変性パルプ原料を送る第1の配管24が接続されている。またキャビテーター22には、キャビテーター22から弁34を切り替えることにより、供給側のタンクとは反対のタンクに変性パルプ原料を送る第2の配管26が接続されている。キャビテーター22は、原料高圧ポンプ22a及びノズルヘッダー22bを備えており、ノズルヘッダー22bには複数の解繊ノズルが設けられている。
【0016】
なお原料ポンプ30は、高粘度の変性パルプ原料を、吸入力が弱い原料高圧ポンプ22aに送り込む役割を果たすものであり、第1原料タンク10および第2原料タンク16の出口にそれぞれ1台ずつ設置されていてもよい。
【0017】
なおキャビテーター22は、上流圧と下流圧を調整する調整機構、及び複数の解繊ノズルの中で、消耗又は閉塞した解繊ノズルを切り離して運転を継続する機構を備えている。またスキッド2上には、イオン交換カラム36及びNaOHディスペンサー38も備えている。
【0018】
次に可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100を低床式セミトレーラーまたはトラックで搬入しクレーンおよびフォークリフトなどで吊降ろすことにより、搬送車両の荷台に積載する(ステップS3)。ここで可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100の高さが搬送車両の荷台内に積載可能な所定の高さを越える場合には、第1原料タンク10の上部に設置された第1撹拌機12の第1駆動部14と、第2原料タンク16の上部に設置された第2撹拌機18の第2駆動部20とを取り外して、搬送車両の荷台内に積載する。なお搬送車両の荷台内に積載可能な所定の高さとは、スキッド及びパレットの高さを含んで、例えば4tトラックであれば2150mmであり、10tトラックであれば2470mmであり、JRコンテナであれば2158mmである。
【0019】
次に解繊装置4により変性パルプ原料の解繊を行う場所まで、搬送車両により可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100を搬送する(ステップS4)。変性パルプ原料の解繊を行う場所とは、製品の製造にCNFを使用するユーザーの工場や、変性パルプ原料を製造するパルプ工場である。
【0020】
次に、解繊を行う変性パルプ原料を用意する(ステップS5)。なお変性パルプ原料については後述する。ここで変性パルプ原料の解繊を行う場所がユーザーの工場である場合には、パルプ工場において製造した変性パルプ原料を搬送することにより用意する。また変性パルプ原料の解繊を行う場所がパルプ工場である場合には、変性パルプの製造を行うことにより用意する。
変性パルプ原料は必要に応じてNa化するなどして、或いはNa化せずに、適当な濃度で可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100に乗せて輸送しても良い。
【0021】
次に変性パルプ原料の解繊を行う場所において、搬送車両の荷台から可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100を降ろし、可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100を設置する(ステップS6)。即ち可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100を所定の位置に設置すると共に工業用水供給管、冷却水供給管への接続、電源への接続を行う。
【0022】
なお搬送車両の荷台から可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100を降ろすことなく、解繊装置4により変性パルプ原料の解繊を行う場合には、搬送車両の荷台に積載されている可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100に工業用水供給管、冷却水供給管を接続し、電源を接続する。
【0023】
次に可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100の解繊装置4により変性パルプ原料の解繊を行う(ステップS7)。なお変性パルプ原料の解繊については後に詳述する。
なお可搬式変性パルプ解繊装置ユニット100は、解繊装置4により解繊を行う場所での変性パルプ原料の解繊が終了した後、搬送車両を用いて回収する。
【0024】
(変性パルプ原料)
次に本発明の実施の形態で用いる変性パルプ原料について説明する。変性パルプ原料は、セルロース原料を化学変性したものである。
セルロース原料は、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性を行うことが可能である。本発明では、化学変性がなされたセルロース原料およびなされていないセルロース原料のいずれも使用できる。しかしながら、化学変性されたセルロース原料を用いると繊維の微細化が十分に進んで均一な繊維長および繊維径のセルロースナノファイバーが得られるので化学変性がなされたセルロース原料が好ましい。化学変性としては、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、亜リン酸化、エステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化などが挙げられ、エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。中でも、酸化(カルボキシル化)、エーテル化、カチオン化、エステル化が好ましい。
【0025】
(セルロース原料)
本発明において、セルロース原料とは、セルロースを主体とした様々な形態の材料をいい、パルプ(晒又は未晒木材パルプ、晒又は未晒非木材パルプ、精製リンター、ジュート、マニラ麻、ケナフ等の草本由来のパルプなど)、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に紡糸された再生セルロース、及び上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロースなどが例示される。
【0026】
(酸化パルプ)
酸化によりセルロース原料を変性して得られる酸化パルプの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、0.5mmol/g以上、好ましくは0.8mmol/g以上、より好ましくは1.0mmol/g以上である。上限は、3.0mmol/g以下、好ましくは2.5mmol/g以下、より好ましくは2.0mmol/g以下である。すなわち、本発明に用いる酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシル基の量が0.5mmol/g~3.0mmol/gであり、0.8mmol/g~2.5mmol/gが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gがより好ましい。
【0027】
本発明においては、酸化する方法として、N-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0028】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0029】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N-オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.02~0.5mmolがさらに好ましい。
【0030】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、臭化ナトリウム等の、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0031】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩を使用する事が好ましく、次亜塩素酸又はその塩を使用する事がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムを使用する事が更に好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~25mmolが最も好ましい。N-オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましい。上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0032】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4~40℃が好ましく、15~30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8~12、より好ましくは10~11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0033】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5~6時間、例えば0.5~4時間程度である。
【0034】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化パルプを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0035】
(変性パルプ原料の解繊)
まず解繊装置4の第1原料タンク10に固形分濃度20~30%の変性パルプ原料を入れ、軟水またはイオン交換カラム36を通過させた工業用水により1.0~2.5%に離解する。その後NaOHディスペンサー38から苛性ソーダを添加してpH調整を行う。
【0036】
次に第1の配管24の弁28を切り替えることにより、第1原料タンク10から変性パルプ原料を原料ポンプ30、原料クーラー32を介してキャビテーター22に送り、原料高圧ポンプ22aによりノズルヘッダー22bに備えられている複数の解繊ノズルから噴出させ変性パルプ原料の解繊を行う。複数の解繊ノズルにより解繊された変性パルプ原料は、第2の配管26の弁34を切り替えることにより、第2原料タンク16に送られる。
【0037】
第1原料タンク10が空になると、第1の配管24の弁28を切り替えることにより、第2原料タンク16から変性パルプ原料を原料ポンプ30、原料クーラー32を介してキャビテーター22に送り、原料高圧ポンプ22aによりノズルヘッダー22bに備えられている複数の解繊ノズルにより変性パルプ原料の解繊を行う。複数の解繊ノズルにより解繊された変性パルプ原料は、第2の配管26の弁34を切り替えることにより、第1原料タンク10に送られる。第1原料タンク10または第2原料タンク16からキャビテーター22に変性パルプ原料を送る処理を複数回繰り返すことにより、変性パルプ原料を解繊してCNFを製造する。
弁28を切り替えた後、弁34を切り替えるまでの時間として、配管内の原料が入れ替わるための時間を空ける事が好ましい。
【0038】
(CNF)
本発明において、変性パルプ原料を解繊して得られたCNFは、繊維径が1μm未満である。CNFの平均繊維径は、特に限定されないが、長さ加重平均繊維径は、通常2~980nm程度であり、好ましくは2~100nmである。CNFの平均繊維長は、特に限定されないが、長さ加重平均繊維長は、好ましくは50~2000nmである。長さ加重平均繊維径および長さ加重平均繊維長(以下、単に「平均繊維径」、「平均繊維長」ともいう)は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察して求められる。CNFの平均アスペクト比は、10以上である。上限は特に限定されないが、1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出できる。
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0039】
本実施の形態によれば、解繊の前処理と解繊に必要な全ての機器を含む、可搬式変性パルプ解繊装置ユニットを持込んで用いるため、ユーザー側で新規設備を設置する必要がなく、変性パルプ原料をキャビテーターにより解繊するため解繊処理の程度を微調整可能であり、CNFの製造に必要なエネルギーを低減させることができ、現地においてCNFを製造するため輸送コストの発生を抑制することができ、CNFの提供価格を安くすることができる。
なお上述の実施の形態によれば、可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法により変性パルプ原料の現地解繊を行っているが、変性されていないパルプ原料を上述の実施の形態の可搬式パルプ解繊装置ユニットを用いた現地解繊方法により現地解繊してもよい。

図1
図2