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特許7581408電解システム及び電解システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】電解システム及び電解システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/08 20060101AFI20241105BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20241105BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20241105BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241105BHJP
【FI】
C25B15/08 302
C25B15/023
C25B1/042
C25B9/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023059553
(22)【出願日】2023-03-31
(65)【公開番号】P2024146570
(43)【公開日】2024-10-15
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田村 憲
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】吉本 俊純
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124772(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0051044(KR,A)
【文献】特開2011-162864(JP,A)
【文献】特開2022-180308(JP,A)
【文献】国際公開第2023/021678(WO,A1)
【文献】特開2018-190649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素極と水素極とを有し、前記水素極に供給された水蒸気を電気分解することで、前記水素極で水素を生成するとともに前記酸素極で酸素を生成する電解モジュールと、
前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給系統と、
前記水素極に供給された前記水蒸気および前記水素極で生成された前記水素を含む水素混合ガスを回収する水素回収系統と、
前記酸素極に空気を供給する空気供給系統と、
前記酸素極に供給された前記空気および前記酸素極で生成された前記酸素を含む酸素混合ガスを回収する酸素回収系統と、
前記水素回収系統から大気中へ前記水素混合ガスを放出する第1放出系統と、
前記酸素回収系統から大気中へ前記酸素混合ガスを放出する第2放出系統と、
前記第1放出系統に配置される第1放出弁と、
前記第2放出系統に配置される第2放出弁と、
前記電解モジュールを停止させる場合に、前記第1放出弁および前記第2放出弁が開状態となるように制御する制御部と、を備え
前記水素回収系統は、前記水素回収系統の前記水素混合ガスの第1圧力と前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの第2圧力との圧力差を検出する差圧検出部を有し、
前記制御部は、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記差圧検出部が検出する前記圧力差が所定範囲となるように、前記第1放出弁の第1開度および前記第2放出弁の第2開度を制御する電解システム。
【請求項2】
複数の前記電解モジュールを備え、
前記空気供給系統は、複数の前記電解モジュールのそれぞれに単位時間あたりに同一の流量の前記空気を供給する流量調整装置を備える請求項1に記載の電解システム。
【請求項3】
前記空気供給系統に接続されるとともに注入部から注入される大気中の前記空気を前記空気供給系統に導く空気注入系統を備え、
前記空気注入系統は、前記電解モジュールよりも下方に配置されており、
前記酸素回収系統に接続された前記第2放出系統が前記酸素混合ガスを大気中へ放出する排空気放出部は、前記電解モジュールよりも上方に配置されている請求項1に記載の電解システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、自然通風により注入された前記空気を前記空気注入系統から前記電解モジュール内を流通した後、前記酸素回収系統を経由して前記第2放出系統から大気へ放出可能とするよう、空気注入流量調整弁、空気注入遮断弁及び前記第2放出弁を操作する請求項に記載の電解システム。
【請求項5】
前記空気注入系統に配置されるブロワと、
前記ブロワに電力を供給する電力供給部と、を備える請求項4に記載の電解システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの圧力が大気圧に到達したことに応じて、前記空気注入系統から前記空気供給系統へ前記空気を供給する前記ブロワを起動する請求項に記載の電解システム。
【請求項7】
電解システムの制御方法であって、
前記電解システムは、
酸素極と水素極とを有し、前記水素極に供給された水蒸気を電気分解することで、前記水素極で水素を生成するとともに前記酸素極で酸素を生成する電解モジュールと、
前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給系統と、
前記水素極に供給された前記水蒸気および前記水素極で生成された前記水素を含む水素混合ガスを回収する水素回収系統と、
前記酸素極に空気を供給する空気供給系統と、
前記酸素極に供給された前記空気および前記酸素極で生成された前記酸素を含む酸素混合ガスを回収する酸素回収系統と、
前記水素回収系統から大気中へ前記水素混合ガスを放出する第1放出系統と、
前記酸素回収系統から大気中へ前記酸素混合ガスを放出する第2放出系統と、
前記第1放出系統に配置される第1放出弁と、
前記第2放出系統に配置される第2放出弁と、を有し、
前記電解モジュールを停止させる場合に、前記第1放出弁および前記第2放出弁が開状態となるように制御する放出工程と、
前記水素回収系統の前記水素混合ガスの第1圧力と前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの第2圧力との圧力差を検出する差圧検出工程を備え
前記放出工程は、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記差圧検出工程が検出する前記圧力差が所定範囲となるように、前記第1放出弁の第1開度および前記第2放出弁の第2開度を制御する電解システムの制御方法。
【請求項8】
前記電解システムは、複数の前記電解モジュールを備え、
前記空気供給系統は、複数の前記電解モジュールのそれぞれに単位時間あたりにほぼ同一の流量の前記空気を供給する請求項に記載の電解システムの制御方法。
【請求項9】
前記電解システムは、前記空気供給系統に接続されるとともに注入部から注入される大気中の前記空気を前記空気供給系統に導く空気注入系統を備え、
前記空気注入系統は、前記電解モジュールよりも下方に配置されており、
前記酸素回収系統に接続された前記第2放出系統が前記酸素混合ガスを大気中へ放出する排空気放出部は、前記電解モジュールよりも上方に配置されている請求項に記載の電解システムの制御方法。
【請求項10】
前記放出工程は、前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、自然通風により注入された前記空気を前記空気注入系統から前記電解モジュール内を流通した後、前記酸素回収系統を経由して前記第2放出系統から大気へ放出可能とするよう、空気注入流量調整弁、空気注入遮断弁及び前記第2放出弁を操作する請求項に記載の電解システムの制御方法。
【請求項11】
前記電解システムは、
前記空気注入系統に配置されるブロワと、
前記ブロワに電力を供給する電力供給部と、を備える請求項10に記載の電解システムの制御方法。
【請求項12】
前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、前記空気注入系統から前記空気供給系統へ前記空気を供給するよう前記ブロワを起動するブロワ起動工程を備える請求項11に記載の電解システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解システム及び電解システムの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水を電気化学的に分解して水素および酸素を製造する電解モジュールは二酸化炭素の排出を伴わない水素製造法であり優れた環境特性を有している。このうち、固体酸化物形電解モジュール(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)は、電解質としてイットリア安定化ジルコニアなどのセラミックスが用いられ、高温の水蒸気を原料とするため他の電解モジュールに比べ高い効率で水素の製造が可能である。また、脱炭素化を目的として二酸化炭素(CO2)を原料とし電解水素を還元剤として利用し、直接一酸化炭素(CO)を製造する共電解も可能である。
【0003】
水を電気化学的に分解して水素を製造するシステムとして、例えば、特許文献1のシステムが知られている。特許文献1には、酸素を含む酸素極入口供給ガスを電気化学セルの酸素極に供給する酸素極入口供給ラインと、製造された酸素を含む酸素極出口ガスを排出する酸素極側出口ラインと、を備えるシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-115430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SOECは、例えば、内部の圧力が大気圧~約3MPa、内部の温度が大気温度~約550℃で運用される。通常運転時にSOECを停止させる場合、通常運転時に電解モジュールに空気および水蒸気を供給するための装置を動作させ、内部の圧力を大気圧に降下させるとともに内部の温度を空気および水蒸気の温度まで低下させる。
【0006】
一方、停電等でSOECへ供給される電力が遮断される場合、通常運転時に電解モジュールに空気および水蒸気を供給するための装置が動作しない状態となり、水素回収系統と空気供給系統の差圧を管理しながら内部の圧力を降下させることや、内部の温度を低下させることができなくなる問題が発生する。この問題を解決するため、電解モジュールに空気および水蒸気を供給するための装置に電力を供給するための非常用電源設備を設けることが考えられる。しかしながら、停電等でSOECへ供給される電力が遮断される場合に備えて非常用電源設備を設けることは設備経済性を悪化させる要因となる。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、設備経済性を悪化させることなく、停電等で電力供給が遮断される場合に水素回収系統と空気供給系統の差圧を管理しながら、電解モジュールの内部の圧力および温度を適切に低下させることが可能な電解システム及び電解システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の電解システム及び電解システムの運転方法は以下の手段を採用する。
本開示の一態様に係る電解システムは、酸素極と水素極とを有し、前記水素極に供給された水蒸気を電気分解することで、前記水素極で水素を生成するとともに前記酸素極で酸素を生成する電解モジュールと、前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給系統と、前記水素極に供給された前記水蒸気および前記水素極で生成された前記水素を含む水素混合ガスを回収する水素回収系統と、前記酸素極に空気を供給する空気供給系統と、前記酸素極に供給された前記空気および前記酸素極で生成された前記酸素を含む酸素混合ガスを回収する酸素回収系統と、前記水素回収系統から大気中へ前記水素混合ガスを放出する第1放出系統と、前記酸素回収系統から大気中へ前記酸素混合ガスを放出する第2放出系統と、前記第1放出系統に配置される第1放出弁と、前記第2放出系統に配置される第2放出弁と、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記第1放出弁および前記第2放出弁が開状態となるように制御する制御部と、を備え、前記水素回収系統は、前記水素回収系統の前記水素混合ガスの第1圧力と前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの第2圧力との圧力差を検出する差圧検出部を有し、前記制御部は、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記差圧検出部が検出する前記圧力差が所定範囲となるように、前記第1放出弁の第1開度および前記第2放出弁の第2開度を制御する。
【0009】
本開示の一態様に係る電解システムの制御方法において、前記電解システムは、酸素極と水素極とを有し、前記水素極に供給された水蒸気を電気分解することで、前記水素極で水素を生成するとともに前記酸素極で酸素を生成する電解モジュールと、前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給系統と、前記水素極に供給された前記水蒸気および前記水素極で生成された前記水素を含む水素混合ガスを回収する水素回収系統と、前記酸素極に空気を供給する空気供給系統と、前記酸素極に供給された前記空気および前記酸素極で生成された前記酸素を含む酸素混合ガスを回収する酸素回収系統と、前記水素回収系統から大気中へ前記水素混合ガスを放出する第1放出系統と、前記酸素回収系統から大気中へ前記酸素混合ガスを放出する第2放出系統と、前記第1放出系統に配置される第1放出弁と、前記第2放出系統に配置される第2放出弁と、を有し、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記第1放出弁および前記第2放出弁が開状態となるように制御する放出工程を備え、前記放出工程は、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記差圧検出工程が検出する前記圧力差が所定範囲となるように、前記第1放出弁の第1開度および前記第2放出弁の第2開度を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、設備経済性を悪化させることなく、停電等で電力供給が遮断される場合に水素回収系統と空気供給系統の差圧を管理しながら、電解モジュールの内部の圧力を大気圧に降下させるとともに内部の温度を適切に低下させることが可能な電解システム及び電解システムの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の第1実施形態に係る電気化学セルスタックの一態様を示す断面図である。
図2】本開示の第1実施形態に係る電気化学セルモジュールの一態様を示す斜視図である。
図3】本開示の第1実施形態に係る電気化学セルカートリッジの一態様を示す断面図である。
図4】本開示の第1実施形態に係る電解システムを示す概略構成図である。
図5】本開示の第1実施形態に係る電解システムの制御方法を示すフローチャートである。
図6】本開示の第2実施形態に係る電解システムを示す概略構成図である。
図7】本開示の第2実施形態に係る電解システムの制御方法を示すフローチャートである。
図8】本開示の第3実施形態に係る電解システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1実施形態〕
以下に、本開示の第1実施形態に係る電解システム及び電解システムの運転方法について、図面を参照して説明する。
まず、本開示の第1実施形態に係る電解システムに設けられる固体酸化物形電解モジュール(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)について、図1から図3を参照して説明する。
【0013】
以下においては、説明の便宜上、紙面を基準として「上」及び「下」の表現を用いて説明した各構成要素の位置関係は、各々鉛直上方側、鉛直下方側を示すものである。また、本実施形態では、上下方向と水平方向で同様な効果を得られるものは、紙面における上下方向が必ずしも鉛直上下方向に限定することなく、例えば鉛直方向に直交する水平方向に対応してもよい。
【0014】
また、以下においては、固体酸化物形電気化学セルのセルスタックとして筒状の円筒形固体酸化物形電解モジュール(SOEC)を例として説明するが、必ずしもこの限りである必要はなく、例えば平板形のセルスタックであってもよい。基体上に電気化学セルを形成するが、基体ではなく電極(水素極109もしくは酸素極113)が厚く形成されて、基体を兼用したものでも良い。
【0015】
まず、図1を参照して本実施形態に係る一例として、基体管を用いる円筒形セルスタックについて説明する。基体管を用いない場合は、例えば水素極109を厚く形成して基体管を兼用してもよく、基体管の使用に限定されることはない。また、本実施形態での基体管は円筒形状を用いたもので説明するが、基体管は筒状であればよく、必ずしも断面が円形に限定されなく、例えば楕円形状でもよい。円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒(Flat
tubular)等のセルスタックでもよい。
【0016】
ここで、図1は、実施形態に係るセルスタックの一態様を示すものである。セルスタック101は、一例として円筒形状の基体管103と、基体管103の外周面に複数形成された電気化学単セル105と、隣り合う電気化学単セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを備える。電気化学単セル105は、水素極109と固体電解質膜111と酸素極113とが積層して形成されている。
【0017】
また、セルスタック101は、基体管103の外周面に形成された複数の電気化学単セル105の内、基体管103の軸方向において最も端の一端に形成された電気化学単セル105の酸素極113に、インターコネクタ107を介して電気的に接続されたリード膜115を備え、最も端の他端に形成された電気化学単セル105の水素極109に電気的に接続されたリード膜115を備える。
【0018】
基体管103は、多孔質材料からなり、例えば、CaO安定化ZrO(CSZ)、CSZと酸化ニッケル(NiO)との混合物(CSZ+NiO)、又はY安定化ZrO(YSZ)、又はMgAlなどを主成分とされる。この基体管103は、電気化学単セル105とインターコネクタ107とリード膜115とを支持すると共に、基体管103の内周面に供給される水蒸気を基体管103の細孔を介して基体管103の外周面に形成される水素極109に拡散させるものである。
【0019】
水素極109は、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成され、例えば、Ni/YSZが用いられる。水素極109の厚さは50μm~250μmであり、水素極109はスラリーをスクリーン印刷して形成されてもよい。この場合、水素極109は、水素極109の成分であるNiが水蒸気に対して触媒作用を備える。この触媒作用は、基体管103を介して供給された水蒸気(HO)を反応させ、水素分子(H)と酸素イオン(O2-)とに電気分解するものである。
【0020】
固体電解質膜111は、ガスを通しにくい気密性と、高温で高い酸素イオン導電性とを備えるセラミックス酸化物(例えばYSZ)が主として用いられる。この固体電解質膜111は、水素極109で生成される酸素イオン(O2-)を酸素極113に移動させるものである。水素極109の表面上に位置する固体電解質膜111の膜厚は10μm~100μmであり固体電解質膜111はスラリーをスクリーン印刷して形成されてもよい。
【0021】
酸素極113は、例えば、LaSrMnO系酸化物、又はLaCoO系酸化物で構成され、酸素極113はスラリーをスクリーン印刷またはディスペンサを用いて塗布される。この酸素極113は、固体電解質膜111との界面付近において、水素極109から固体電解質膜111を通過して移動した酸素イオンが電解反応により電子を放出し、酸素原子が結合して酸素を生成する。
【0022】
酸素極113で生成された酸素は反応室215(図3参照)を流通する酸化性ガス(冷却用流体)と合流し、酸素の向上した酸化性ガスを生成することができる。
酸化性ガスとは、酸素を略15%~30%含むガスであり、代表的には空気が好適であるが、空気以外にも燃焼排ガスと空気の混合ガスや、酸素と空気の混合ガスなどが使用可能である。
【0023】
インターコネクタ107は、SrTiO系などのM1-xTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成され、スラリーをスクリーン印刷する。インターコネクタ107は、水蒸気と酸化性ガスとが混合しないように緻密な膜となっている。
【0024】
また、インターコネクタ107は、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した耐久性と電気導電性を備える。このインターコネクタ107は、隣り合う電気化学単セル105において、一方の電気化学単セル105の酸素極113と他方の電気化学単セル105の水素極109とを電気的に接続し、隣り合う電気化学単セル105同士を直列に接続するものである。
【0025】
リード膜115は、電子伝導性を備えること、及びセルスタック101を構成する他の材料との熱膨張係数が近いことが必要であることから、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材やSrTiO系などのM1-xTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で構成されている。このリード膜115は、インターコネクタ107により直列に接続される複数の電気化学単セル105に電解反応に必要な電力を供給するものである。
【0026】
水素極109、固体電解質膜111及びインターコネクタ107のスラリーの膜が形成された基体管103を、大気中にて共焼結する。焼結温度は、例えば1350℃~1450℃とされる。つぎに、共焼結された基体管103上に、酸素極113のスラリーの膜が形成された基体管103が、大気中にて焼結される。焼結温度は、例えば1100℃~1250℃とされる。ここでの焼結温度は、基体管103~インターコネクタ107を形成した後の共焼結温度よりも低温とされる。
【0027】
次に、図2図3とを参照して本実施形態に係る電気化学セルカートリッジ及び電気化学セルモジュールについて説明する。ここで、図2は、本実施形態に係る固体酸化物形電解モジュール(SOEC)モジュールの一態様を示す斜視図である。また、図3は、本実施形態に係る固体酸化物形電解モジュール(SOEC)カートリッジの一態様を示す断面図である。
【0028】
SOECモジュール(電気化学セルモジュール)201は、図2に示すように、例えば、複数のSOECカートリッジ(電気化学セルカートリッジ)203と、これら複数のSOECカートリッジ203を収納するモジュール容器205とを備える。なお、図2には円筒形のSOECのセルスタック101を例示しているが、必ずしもこの限りである必要はなく、例えば平板形のセルスタックであってもよい。
【0029】
また、SOECモジュール201は、水蒸気供給管207と複数の水蒸気供給枝管207a及び水蒸気排出管209と複数の水蒸気排出枝管209aとを備える。また、SOECモジュール201は、酸化性ガス供給管(不図示)と酸化性ガス供給枝管(不図示)及び酸化性ガス排出管(不図示)と複数の酸化性ガス排出枝管(不図示)とを備える。
【0030】
水蒸気供給管207は、モジュール容器205の内部に設けられ、SOECモジュール201の電解量に対応して所定流量の水蒸気を供給する水蒸気供給部に接続されると共に、複数の水蒸気供給枝管207aに接続されている。この水蒸気供給管207は、上述の水蒸気供給部から供給される所定流量の水蒸気Gを、複数の水蒸気供給枝管207aに分岐して導くものである。
【0031】
また、水蒸気供給枝管207aは、水蒸気供給管207に接続されると共に、複数のSOECカートリッジ203に接続されている。この水蒸気供給枝管207aは、水蒸気供給管207から供給される水蒸気を複数のSOECカートリッジ203に略均等の流量で導き、複数のSOECカートリッジ203の電解性能を略均一化させるものである。
【0032】
水蒸気排出枝管209aは、複数のSOECカートリッジ203に接続されると共に、水蒸気排出管209に接続されている。この水蒸気排出枝管209aは、SOECカートリッジ203から排出される水素が富化された水蒸気(以下、「排水蒸気」と称する。)を水蒸気排出管209に導くものである。
【0033】
また、水蒸気排出管209は、複数の水蒸気排出枝管209aに接続されると共に、一部がモジュール容器205の外部に配置されている。この水蒸気排出管209は、水蒸気排出枝管209aから略均等の流量で導出される排水蒸気をモジュール容器205の外部に導くものである。
【0034】
モジュール容器205は、内部の圧力が大気圧~約3MPa、内部の温度が大気温度~約550℃で運用されるので、耐圧性と酸化性ガス中に含まれる酸素などの酸化剤に対する耐食性を保有する材質が利用される。例えばSUS304などのステンレス系材が好適である。
【0035】
ここで、本実施形態においては、複数のSOECカートリッジ203が集合化されてモジュール容器205に収納される態様について説明しているが、これに限られず例えば、SOECカートリッジ203が集合化されずにモジュール容器205内に収納される態様とすることもできる。
【0036】
SOECカートリッジ203は、図3に示す通り、複数のセルスタック101と、反応室215と、水蒸気供給ヘッダ217と、水蒸気排出ヘッダ219と、酸化性ガス供給ヘッダ(空気供給ヘッダ)221と、酸化性ガス排出ヘッダ223とを備える。また、SOECカートリッジ203は、上部管板225aと、下部管板225bと、上部断熱体227aと、下部断熱体227bとを備える。
【0037】
なお、本実施形態においては、SOECカートリッジ203は、水蒸気供給ヘッダ217と水蒸気排出ヘッダ219と酸化性ガス供給ヘッダ221と酸化性ガス排出ヘッダ223とが図3のように配置されることで、水蒸気と酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れる構造となっているが、必ずしもこの必要はなく、例えば、セルスタック101の内側と外側とを平行して流れる、または酸化性ガスがセルスタック101の長手方向と直交する方向へ流れるようにしても良い。
【0038】
反応室215は、上部断熱体227aと下部断熱体227bとの間に形成された領域である。この反応室215は、セルスタック101の電気化学単セル105が配置された領域であり、水蒸気を電気化学的に反応させて電解を行う領域である。また、この反応室215のセルスタック101長手方向の中央部付近での温度を、温度計測部(温度センサや熱電対など)で監視してもよく、SOECモジュール201の定常運転時に、およそ700℃~1000℃の高温雰囲気となる。
【0039】
水蒸気供給ヘッダ217は、SOECカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aとに囲まれた領域であり、上部ケーシング229aの上部に設けられた水蒸気供給孔231aによって、水蒸気供給枝管207aと連通されている。また、複数のセルスタック101は、上部管板225aとシール部材237aにより接合されており、水蒸気供給ヘッダ217は、水蒸気供給枝管207aから水蒸気供給孔231aを介して供給される水蒸気を、複数のセルスタック101の基体管103の内部に略均一流量で導き、複数のセルスタック101の電解性能を略均一化させるものである。
【0040】
水蒸気排出ヘッダ219は、SOECカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bとに囲まれた領域であり、下部ケーシング229bに備えられた水蒸気排出孔231bによって、図示しない水蒸気排出枝管209aと連通されている。また、複数のセルスタック101は、下部管板225bとシール部材237bにより接合されており、水蒸気排出ヘッダ219は、複数のセルスタック101の基体管103の内部を通過して水蒸気排出ヘッダ219に供給される排水蒸気を集合して、水蒸気排出孔231bを介して水蒸気排出枝管209aに導くものである。
【0041】
SOECモジュール201の電解量に対応して所定ガス組成と所定流量の酸化性ガスを酸化性ガス供給枝管へと分岐して、複数のSOECカートリッジ203へ供給する。酸化性ガス供給ヘッダ221は、SOECカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bと下部断熱体227bとに囲まれた領域であり、下部ケーシング229bの側面に設けられた酸化性ガス供給孔233aによって、図示しない酸化性ガス供給枝管と連通されている。この酸化性ガス供給ヘッダ221は、図示しない酸化性ガス供給枝管から酸化性ガス供給孔233aを介して供給される所定流量の酸化性ガスを、後述する酸化性ガス供給隙間235aを介して反応室215に導くものである。
【0042】
酸化性ガス排出ヘッダ223は、SOECカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aと上部断熱体227aとに囲まれた領域であり、上部ケーシング229aの側面に設けられた酸化性ガス排出孔233bによって、図示しない酸化性ガス排出枝管と連通されている。この酸化性ガス排出ヘッダ223は、反応室215から、後述する酸化性ガス排出隙間235bを介して酸化性ガス排出ヘッダ223に供給される酸素が富化された酸化性ガス(以下、「排酸化性ガス」と称する。)を、酸化性ガス排出孔233bを介して図示しない酸化性ガス排出枝管に導くものである。
【0043】
上部管板225aは、上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとの間に、上部管板225aと上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとが略平行になるように、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また、上部管板225aは、SOECカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101が夫々挿入されている。この上部管板225aは、複数のセルスタック101の一方の端部をシール部材237a及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、水蒸気供給ヘッダ217と酸化性ガス排出ヘッダ223とを隔離するものである。
【0044】
上部断熱体227aは、上部ケーシング229aの下端部に、上部断熱体227aと上部ケーシング229aの天板と上部管板225aとが略平行になるように配置され、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また、上部断熱体227aには、SOECカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。上部断熱体227aは、この孔の内面と、上部断熱体227aに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス排出隙間235bを備える。
【0045】
この上部断熱体227aは、反応室215と酸化性ガス排出ヘッダ223とを仕切るものであり、上部管板225aの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。また、上部管板225a等が反応室215内の高温に晒されて温度差による上部管板225a等の熱変形を抑制するために、Ni基合金などの高温耐久性のある金属材料を用いてもよい。また、上部断熱体227aは、反応室215を通過して高温に晒された排酸化性ガスを、酸化性ガス排出隙間235bを通過させて酸化性ガス排出ヘッダ223に導くものである。
【0046】
本実施形態によれば、上述したSOECカートリッジ203の構造により、水蒸気と排酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、排酸化性ガスは、基体管103の内部を通って反応室215に供給される水蒸気との間で熱交換がなされ、金属材料から成る上部管板225a等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて酸化性ガス排出ヘッダ223に供給される。また、水蒸気は、反応室215から排出される排酸化性ガスとの熱交換により昇温され、反応室215に供給される。その結果、ヒータ等を用いることなく電解に適した温度に予熱昇温された水蒸気を反応室215に供給することができる。
【0047】
下部管板225bは、下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとの間に、下部管板225bと下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとが略平行になるように下部ケーシング229bの側板に固定されている。また下部管板225bは、SOECカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101が夫々挿入されている。この下部管板225bは、複数のセルスタック101の他方の端部をシール部材237b及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、水蒸気排出ヘッダ219と酸化性ガス供給ヘッダ221とを隔離するものである。
【0048】
下部断熱体227bは、下部ケーシング229bの上端部に、下部断熱体227bと下部ケーシング229bの底板と下部管板225bとが略平行になるように配置され、下部ケーシング229bの側板に固定されている。また、下部断熱体227bには、SOECカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。下部断熱体227bは、この孔の内面と、下部断熱体227bに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス供給隙間235aを備える。
【0049】
この下部断熱体227bは、反応室215と酸化性ガス供給ヘッダ221とを仕切るものであり、下部管板225bの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。下部管板225b等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、下部管板225b等が高温に晒されて下部管板225b等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、下部断熱体227bは、酸化性ガス供給ヘッダ221に供給される酸化性ガスを、酸化性ガス供給隙間235aを通過させて反応室215に導くものである。
【0050】
本実施形態によれば、上述したSOECカートリッジ203の構造により、排水蒸気と酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、基体管103の内部を通って反応室215を通過した排水蒸気は、反応室215に供給される酸化性ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る下部管板225b等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて水蒸気排出ヘッダ219に供給される。また、酸化性ガスは排水蒸気との熱交換により昇温され、反応室215に供給される。
【0051】
反応室215における電解反応に必要な直流電力は、図示しないパワーコンディショナ等の電力変換装置(インバータなど)により電力供給系統から供給される交流電力が直流電力へ変換後にSOECモジュール201へ供給される。SOECモジュール201には複数のSOECカートリッジ203が所定の直列数および並列数となるように電気的に接続されており、セルスタック101の端部に設けられたリード膜115を介して複数の電気化学単セル105へ直流電力を供給することができる。
【0052】
次に、本開示の第1実施形態に係る電解システム100について、図4を用いて説明する。図4は加圧型の電解システムの例を示しているが、これに限定されるものではなく、常圧型のシステムにも適用することができる。
【0053】
図4に示すように、電解システム100は、電解モジュール10と、空気供給系統20と、酸素回収系統30と、水蒸気供給系統40と、水素回収系統50と、水素富化水蒸気放出系統(第1放出系統)60と、排空気放出系統(第2放出系統)70と、空気注入系統80と、非常用電源設備90と、制御装置(制御部)95と、を備える。電解モジュール10は、前述した固体酸化物形電解モジュールである。
【0054】
電解モジュール10は、図1から図3を用いて説明した固体酸化物形電解モジュールであり、水蒸気供給系統40を介して供給された水蒸気を電気分解することで、水素と酸素とを生成する。生成された水素と分解されなかった水蒸気を含む水素富化水蒸気(水素混合ガス)は、水素回収系統50に排出される。
【0055】
図4に示すように、電解モジュール10には、後述する第2空気供給管24を介して空気が供給される。電解モジュール10で生成された酸素と空気を含む排空気(酸素混合ガス)は、後述する第1排空気管31を介して電解モジュール10から排出される。排空気は、酸素が富化された空気(酸素富化空気)である。電解モジュール10から第1排空気管31に排出される排空気の温度は、供給時よりも高温(例えば、550℃~650℃程度)である。
【0056】
空気供給系統20は、電解モジュール10の酸素極113に空気を供給する系統である。空気供給系統20は、空気供給部21と、空気供給部21から供給された空気を圧縮する圧縮機(昇圧部)22と、空気供給部21から圧縮機22へ空気を導く第1空気供給管23と、圧縮機22で圧縮された空気を電解モジュール10へ導く第2空気供給管24と、を有する。第2空気供給管24は、圧縮機22と電解モジュール10とを接続している。
【0057】
圧縮機22は、モータ22aと接続されており、モータ22aの駆動力によって駆動する。圧縮機22は、空気供給部21から第1空気供給管23を介して供給された空気を圧縮する。圧縮機22は、圧縮した空気を第2空気供給管24に吐出する。圧縮機22は、後述するタービン32と回転軸22bにより連結されている。圧縮機22は、空気を昇圧(例えば0.2MPa程度)する。圧縮機22は、空気を1MPa以上に昇圧してもよい。第1空気供給管23は、空気供給部21と圧縮機22とを接続している。
【0058】
第2空気供給管24には、供給空気流量調整弁25が設けられている。供給空気流量調整弁25は、流量計測部25aが計測する空気の流量が目標流量となるように開度を調整することで第2空気供給管24内を流通する空気の流量を調整する。供給空気流量調整弁25は、制御装置95によって開度を制御される。
【0059】
酸素回収系統30は、電解モジュール10から排出される酸素および空気を含む排空気を回収する系統である。酸素回収系統30は、電解モジュール10から排出された排空気が流通する第1排空気管31と、第1排空気管31の下流端が接続されるタービン32と、タービン32から排出された排空気が流通する第2排空気管33と、第2排空気管33を流通した排空気が系外に排出される排空気排出部34と、第2排空気管33に配置される排空気冷却器35と、第1排空気管31に配置される排空気流量調整弁36と、を有する。第1排空気管31は、電解モジュール10とタービン32とを接続している。
【0060】
タービン32は、供給された排空気により回転する。タービン32が回転することで、タービン32に接続されている回転軸22bも回転する。回転軸22bが回転することで、回転軸22bが接続する圧縮機22が回転する。このようにタービン32は、供給された排空気によって圧縮機22を駆動し、空気を圧縮する動力を低減することができる。第2排空気管33は、タービン32と排空気排出部34とを接続している。
【0061】
排空気冷却器35は、冷却媒体と熱交換することで、第2排空気管33を流通する排空気を冷却する装置である。排空気冷却器35は、排空気に含まれる水蒸気を凝縮させて排空気から除去する。
圧力検出部37は、電解モジュール10の酸素極113から酸素回収系統30の第1排空気管31に供給される排空気の圧力を検出する。
【0062】
水蒸気供給系統40は、水素極109に水蒸気を供給する系統である。水蒸気供給系統40は、水蒸気供給部41と、水蒸気供給部41から供給された水蒸気を過熱する過熱器42と、水蒸気供給部41から電解モジュール10の水素極109へ水蒸気を導く水蒸気供給管43と、水蒸気流量調整弁44と、流量計測部44aと、を有する。水蒸気流量調整弁44は、流量計測部44aが計測する水蒸気の流量が目標流量となるように開度を調整することで水蒸気供給管43内を流通する水蒸気の流量を調整する。水蒸気流量調整弁44は、制御装置95によって開度を制御される。水蒸気供給部41は、水蒸気供給管207(図2参照)に接続されている。
【0063】
水素回収系統50は、水素極109に供給された水蒸気および水素極109で生成された水素を含む水素富化水蒸気を回収する系統である。水素回収系統50は、電解モジュール10の水素極109から排出された水素富化水蒸気が流通する水素富化水蒸気管51と、水素富化水蒸気管51を流通する水素富化水蒸気が系外に排出される水素富化水蒸気回収部52と、水素富化水蒸気流量調整弁53と、差圧検出部54と、を備える。
【0064】
電解モジュール10が水蒸気を電気分解して水素極109で水素を生成する通常運転時において、制御装置95は、水素富化水蒸気回収部52へ所定の流量の水素富化水蒸気が供給されるよう水素富化水蒸気流量調整弁53の開度を制御する。水素富化水蒸気回収部52は、水蒸気排出管209(図2参照)に接続されている。
【0065】
差圧検出部54は、水素回収系統50を流通する水素富化水蒸気の圧力と、電解モジュール10の酸素極113側の空気の圧力との差圧を検出する。電解モジュール10の酸素極113側の空気の圧力は、酸素回収系統30の排空気の圧力とほぼ等しい。差圧検出部54が検出する圧力差は、水素回収系統50を流通する水素富化水蒸気の圧力(第1圧力)と酸素回収系統30の排空気の圧力(第2圧力)との圧力差であってもよい。
【0066】
水素富化水蒸気放出系統60は、水素回収系統50の水素富化水蒸気管51に接続されるとともに水素回収系統50から大気中へ水素富化水蒸気を放出する系統である。水素富化水蒸気放出系統60は、水素富化水蒸気管51から流入する水素富化水蒸気が流通する放出管61と、放出管61を流通する水素富化水蒸気を大気中へ放出する水素富化水蒸気放出部62と、を有する。放出管61には、水素富化水蒸気放出弁(第1放出弁)63が配置される。
【0067】
排空気放出系統70は、酸素回収系統30の第1排空気管31に接続されるとともに酸素回収系統30から大気中へ排空気を放出する系統である。排空気放出系統70は、第1排空気管31から流入する排空気が流通する放出管71と、放出管71を流通する排空気を大気中へ放出する排空気放出部72と、を有する。放出管71には、排空気放出弁(第2放出弁)73が配置される。
【0068】
空気注入系統80は、空気供給系統20の第2空気供給管24に接続されるとともに注入部81から注入される大気中の空気を空気供給系統20に導く系統である。空気注入系統80は、注入部81と、注入部81から注入される空気が流通する空気注入管82と、を備える。空気注入管82には、空気注入流量調整弁83が配置される。空気注入流量調整弁83の開度は、制御装置95により制御される。
【0069】
空気注入系統80が大気中から空気を取り込む注入部81は、電解モジュール10よりも鉛直方向の下方に配置されている。また、排空気放出系統70が排空気を大気中へ放出する排空気放出部(酸素放出部)72は、電解モジュール10よりも上方に配置されている。
【0070】
以上のように、鉛直方向の下方から上方に向けて、注入部81、電解モジュール10、排空気放出部72の順に配置されている。そのため、電解モジュール10の内部の圧力が大気圧近傍で、かつ電解モジュール10の内部の温度が大気の温度よりも高い場合、注入部81、電解モジュール10、排空気放出部72の順に流通する流路が連通すると、これらの順に注入部81から注入される空気が鉛直方向の下方から上方に向けて流れる自然通風が生じる。
【0071】
制御装置95は、水素富化水蒸気放出弁63および排空気放出弁73を含む電解システム100の各部を制御する装置である。制御装置95(Controller)は、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、主記憶装置(Main Memory)、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)等を備えている。更に、制御装置95は、他の装置と情報の送受信を行うための通信部を備えていてもよい。
【0072】
非常用電源設備90は、停電等で商用電源から電解システム100への電力供給が遮断される場合に、電解システム100に電力を供給する設備である。図4に示すように、非常用電源設備90は、商用電源から電解システム100への電力供給が遮断される場合に、水素富化水蒸気放出弁63と、排空気放出弁73と、空気注入流量調整弁83と、差圧検出部54と、制御装置95とを含む電解システム100の一部に電力を供給する。非常用電源設備90は、商用電源から電解システム100への電力供給が遮断される場合に、商用電源から電力が供給される電解モジュール10およびモータ22aを含む電解システム100の他の一部には電力を供給しない。
【0073】
次に、本実施形態に係る電解システム100の制御方法について説明する。図5は、本開示の第1実施形態に係る電解システム100の制御方法を示すフローチャートである。制御装置95が制御プログラムを実行することにより、図5に示す各処理が実行される。図5に示す処理は、電解システム100の定常運転時に開始される処理である。
【0074】
ステップS101で、制御装置95は、電解システム100を緊急停止させる緊急停止条件が成立したかどうかを判断し、YESであればステップS102に処理を進め、NOであればステップS101の判断を繰り返す。制御装置95は、商用電源(図示略)からの電力供給状態を監視し、商用電源からの電力供給が遮断される場合に、緊急停止条件が成立したと判断する。
【0075】
ステップS101で、緊急停止条件が成立したら、制御装置95は、非常用電源設備90から水素富化水蒸気放出弁63と、排空気放出弁73と、空気注入流量調整弁83と、差圧検出部54と、制御装置95とを含む電解システム100の一部への電力供給を開始するように非常用電源設備90を起動する。(ステップS102)
【0076】
加圧システムでは定常運転中の電解システム100を緊急停止させる場合、電解モジュール10の内部の圧力が大気圧よりも高く、かつ電解モジュール10の内部の温度が大気の温度よりも高い。そのため大気から圧縮機を用いずに直接冷却用空気を系内に取り込むためにはまず水素回収系統50および水蒸気供給系統40と空気供給系統20の差圧を所定値範囲内に制御しながら内圧を低下させ大気圧にまで圧力を低下させる必要がある。
【0077】
このため、水素回収系統50および水蒸気供給系統40においては、電解モジュール10から水蒸気供給部41への水蒸気の逆流や水素富化水蒸気回収部52から電解モジュール10への水素・水蒸気の逆流を防ぐために、ステップS103で水蒸気流量調整弁44を全閉とし、ステップS104で水素富化水蒸気流量調整弁53を全閉とする。
【0078】
また空気供給系統20および酸素回収系統30においても、空気供給部26から空気供給系統20への逆流や酸素供給部38から酸素回収系統30への排空気の放出を防ぐために、ステップS105で供給空気流量調整弁25を全閉とし、ステップS106で排空気流量調整弁36を全閉とする。
【0079】
また、水素富化水蒸気放出弁(第1放出弁)63および排空気放出弁(第2放出弁)73はいずれも運転時の全閉状態を維持される。これにより電解システムは一旦封じ込め状態となり、水素富化水蒸気放出弁(第1放出弁)63および排空気放出弁(第2放出弁)73による圧力制御が可能となる。
【0080】
なお、空気注入管82からの空気の逆流は逆止弁により防止できるが、逆止弁を用いずに封止のための空気注入遮断弁(不図示)または空気注入流量調整弁83を用いてもよく、ステップS104ではいずれもの弁も運転時の全閉の状態を維持しておく。
【0081】
次にステップS107で系内容積が大きく圧力の低下速度が遅い空気供給系統20および酸素回収系統30の圧力を低下させるため、排空気放出弁(第2放出弁)73を徐々に開とする。この操作過程では同時に、ステップS108において差圧検出部54で水素回収系統50および水蒸気供給系統40と、空気供給系統20および酸素回収系統30との差圧を計測し、差圧が許容値(例えば1.0kPa、望ましくは0.5kPa)以上に拡大しないよう水素富化水蒸気放出弁(第1放出弁)63の開度を制御する。
【0082】
上記操作によりステップS109で、制御装置95は、圧力検出部37が検出する排空気の圧力が大気圧近傍(例えば、大気圧との差が1kPa程度)に到達したかどうかを判断し、YESであればステップS110に処理を進め、NOであればステップS108の操作を継続し、ステップS109の判断を繰り返す。なお、常圧システムにおいてはステップS107からステップS109の操作を省略することが可能である。
【0083】
ステップS110で、制御装置95は、差圧制御のため開状態となっていた水素富化水蒸気放出弁(第1放出弁)63を一旦閉状態とする。水素富化水蒸気放出弁63を閉状態とするのは、電解モジュール10の内部に水素が残存する状態を維持して還元雰囲気とすることで、水素極109が酸化して損傷することを防止するためである。
【0084】
ステップS111で、制御装置95は、外部からの空気の受け入れに備えて、排空気放出弁73を全開状態とする。ステップS111で排空気放出弁73を全開状態とできるのは、差圧検出部54が検出する差圧が所定範囲となっており、電解モジュール10が水素富化水蒸気の圧力と排空気の圧力との圧力差で損傷する恐れがないためである。
また、ステップS112で空気注入遮断弁(不図示)もしくは空気注入流量調整弁83を全開状態として、空気の流通経路を確立し、自然通風により電解モジュール10内に滞留している空気の排出を促進する。
【0085】
水素回収系統50および水蒸気供給系統40は系内温度の低下に伴い、ガス容積の縮小及び水蒸気のドレン化により負圧(大気圧以下)となるため、ステップS113で差圧が許容値以内(例えば1.0kPa、望ましくは0.5kPa以内)となるよう水素富化水蒸気放出弁(第1放出弁)63の開度を制御する。電解モジュール10の水素極109が空気の混入により酸化の恐れがある温度以下で、かつ系内の水蒸気がドレン化する恐れのある温度以上で(例えば150~200℃)に系内を窒素等の不活性ガスまたは空気でパージすることが望ましい。制御装置95は、ステップS114において電解モジュールの温度が常温付近(例えば50℃程度)まで降下したことを検出したことに応じて、本フローチャートの処理を終了させる。
【0086】
以上で説明した本実施形態の電解システム100によれば、以下の作用および効果を奏する。
本実施形態係る電解システム100によれば、水素極109で生成された水素を含む水素富化水蒸気を回収する水素回収系統50に水素富化水蒸気放出系統60が接続され、酸素極113で生成された酸素を含む排空気を回収する酸素回収系統30に排空気放出系統70が接続される。制御装置95は、電解システム100を緊急停止させる場合に、まず水素回収系統50および水蒸気供給系統40と、酸素回収系統30の差圧を許容値内に制御しながら内圧を低下させるため、一旦、水素回収系統50および水蒸気供給系統40の流量調整弁と空気供給系統20および酸素回収系統30の流量調整弁を全閉とする。その後、排空気放出弁73を開状態とし、内圧を徐々に低下させる。この際、水素富化水蒸気放出弁63により水素回収系統50および水蒸気供給系統40と、酸素回収系統30の差圧を許容値内に制御する。大気圧近傍まで圧力が低下した後、排空気放出弁73及び空気注入流量調整弁83を全開状態として、系内に自然通風による電解モジュール冷却用空気の導入を行う。
【0087】
上述の操作において、水素富化水蒸気放出弁63および排空気放出弁73を動作させるのに必要な最小限の非常用電源設備90を設ける必要があるものの、水蒸気供給系統40から水素極109に水蒸気を供給し、かつ空気供給系統20から酸素極113に空気を供給する装置を動作させるのに必要な非常用電源設備は不要である。したがって、本実施形態の電解システム100によれば、設備経済性を悪化させることなく、停電等で電力供給が遮断される場合に電解モジュール10の内部の圧力を大気圧に降下させるとともに内部の温度を適切に低下させることができる。
【0088】
また、本実施形態の電解システム100によれば、制御装置95は、差圧検出部54により検出される水素富化水蒸気の圧力(第1圧力)と排空気の圧力(第2圧力)との圧力差が所定範囲となるように水素富化水蒸気放出弁63の開度(第1開度)および排空気放出弁73の開度(第2開度)を制御する。水素富化水蒸気の圧力と排空気の圧力との圧力差が所定範囲となるため、この圧力差が所定範囲を超えて電解モジュール10に損傷が発生することを適切に防止することができる。
【0089】
本実施形態の電解システム100によれば、排空気放出弁73を開状態とすることにより、大気よりも高温の排空気が排空気放出部72から放出され、さらに大気圧近傍まで圧力が低下後は注入部81から空気注入系統80に注入される空気の自然通風の流路が形成される。自然通風により、注入部81から空気注入系統80に注入された空気が注入部81より上方に配置される空気供給部26から電解モジュール10に供給され、電解モジュール10内に滞留している高温の空気がパージされる。
【0090】
さらに、自然通風により電解モジュール内に流入した空気は第1排空気管31に排出され排空気が電解モジュール10よりも上方に配置される排空気放出部72から大気中に排出される。自然通風によって注入部81から注入される空気を電解モジュール10に供給して排出することにより、空気を供給する動力を用いることなく、電解モジュール10の降温に要する時間を短縮することができる。
【0091】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係る電解システム100Aについて、図面を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態の変形例であり、以下で特に説明する場合を除き、第1実施形態と同様であるものとし、以下での説明を省略する。図6は、本開示の第2実施形態に係る電解システム100Aを示す概略構成図である。図7は、本開示の第2実施形態に係る電解システム100Aの制御方法を示すフローチャートである。
【0092】
第2実施形態の電解システム100Aは、空気注入系統80に配置されるブロワ84を備える点で第1実施形態の電解システム100と異なる。図6に示すように、空気注入系統80の空気注入管82に圧縮機に比べ消費動力の少ない低昇圧(例えば50kPa程度)のブロワ84が配置されている。
【0093】
図7に示すフローチャートのステップS201-S212は、それぞれ図5に示すフローチャートのステップS101-S112と同様であるため、以下での説明を省略する。以下では、ステップS213-S216について説明する。
【0094】
ステップS211、S212で、制御装置95は、排空気放出弁73、空気注入遮断弁(不図示)または空気注入流量調整弁83を開とした後、ステップS213でブロワ84を起動する。
【0095】
ステップS214で、制御装置95は、差圧検出部54で水素回収系統50および水蒸気供給系統40と、空気供給系統20および酸素回収系統30との差圧を計測し、差圧が許容値(例えば1.0kPa、望ましくは0.5kPa)以上に拡大しないようブロワ84の回転数を制御する。制御装置95は、ステップS214を実行した後、ステップS215で電解モジュール10の内部温度が常温付近まで低下したかどうかを判断する。制御装置95は、YESであればステップS216に処理を進め、NOであればステップS214に処理を進める。ステップS216で、制御装置95は、ブロワ84を停止させ、本フローチャートの処理を終了させる。
【0096】
本実施形態の電解システム100Aによれば、降圧後、非常用電源設備90からブロワ84に電力を供給してブロワ84を動作させることにより、自然通風では不足する空気を補って電解モジュール10の温度を確実に低下させることができる。圧力検出部37が検出する排空気の圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、低昇圧のブロワ84により空気注入系統80から空気供給系統20へ強制的に空気を供給することにより、過剰な非常用電源設備を必要とせず電解モジュール10の内部の温度を短時間で確実に低下させることができる。
【0097】
〔第3実施形態〕
次に、本開示の第3実施形態に係る電解システム100Bについて、図面を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態の変形例であり、以下で特に説明する場合を除き、第1実施形態と同様であるものとし、以下での説明を省略する。図8は、本開示の第3実施形態に係る電解システム100Bを示す概略構成図である。
【0098】
図8に示す電解システム100Bは、電解モジュール10を複数備える点で第1実施形態の電解システム100と異なる。図8では、図1に示す電解システム100における空気供給系統20、排空気放出系統70、および空気注入系統80を除く他の構成の図示を省略している。図8に示すように、電解システム100Bにおいては、第2空気供給管24から複数の電解モジュール10のそれぞれに空気が供給される。また、複数の電解モジュール10から排出される排空気は、酸素回収系統30の第1排空気管31に供給される。
【0099】
図8に示すように、第2空気供給管24から複数の電解モジュール10のそれぞれに分岐する分岐管24aには、流量調整装置27が配置されている。複数の流量調整装置27は、空気供給系統20が複数の電解モジュール10のそれぞれに単位時間あたりにほぼ同一の流量の空気を供給するように第2空気供給管24から分岐管24aに導かれる空気の流量を調整する装置である。流量調整装置27は流量調整オリフィスであるいは流量調整用のバルブであってもよい。
【0100】
本実施形態の電解システム100Bによれば、空気供給系統20から複数の電解モジュール10のそれぞれに単位時間あたりにほぼ同一の流量の空気が供給される。そのため、停電等で電解システム100を緊急に停止させる場合に、電解モジュール10の内部の圧力および温度を低下させるのに必要な時間の各電解モジュール10間のばらつきを抑制することができる。
【0101】
以上説明した各実施形態に記載の電解システム及び電解システムの運転方法は、例えば以下のように把握される。
本開示の第1態様に係る電解システムは、酸素極と水素極とを有し、前記水素極に供給された水蒸気を電気分解することで、前記水素極で水素を生成するとともに前記酸素極で酸素を生成する電解モジュール(11)と、前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給系統(40)と、前記水素極に供給された前記水蒸気および前記水素極で生成された前記水素を含む水素混合ガスを回収する水素回収系統(50)と、前記酸素極に空気を供給する空気供給系統(20)と、前記酸素極に供給された前記空気および前記酸素極で生成された前記酸素を含む酸素混合ガスを回収する酸素回収系統(30)と、前記水素回収系統から大気中へ前記水素混合ガスを放出する第1放出系統(60)と、前記酸素回収系統から大気中へ前記酸素混合ガスを放出する第2放出系統(70)と、前記第1放出系統に配置される第1放出弁(63)と、前記第2放出系統に配置される第2放出弁(73)と、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記第1放出弁および前記第2放出弁の開度が調整可能となるように制御する制御部(90)と、を備える。
【0102】
本開示の第1態様に係る電解システムによれば、水素極で生成された水素を含む水素混合ガスを回収する水蒸気回収系統に第1放出系統が接続され、酸素極で生成された酸素を含む酸素混合ガスを回収する酸素回収系統に第2放出系統が接続される。制御部は、電解モジュールを停止させる場合に、第1放出弁および第2放出弁の開度が調整可能となるになるように第1放出弁および第2放出弁を制御する。第1放出弁から水素混合ガスが放出されて電解モジュールの水素極側の圧力および温度が低下し、第2放出弁から酸素混合ガスが放出されて電解モジュールの酸素極側の圧力および温度が低下する。
【0103】
この際、第1放出弁および第2放出弁を動作させるのに必要な非常用電源設備を設ける必要があるものの、水蒸気供給系統から水素極に水蒸気を供給し、かつ空気供給系統から酸素極に空気を供給する装置を動作させるのに必要な非常用電源設備は不要である。したがって、本開示の第1態様に係る電解システムによれば、設備経済性を悪化させることなく、停電等で電力供給が遮断される場合に電解モジュールの内部の圧力を大気圧に降下させるとともに内部の温度を適切に低下させることができる。
【0104】
本開示の第2態様に係る電解システムは、第1態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記水素回収系統は、前記水素回収系統の前記水素混合ガスの第1圧力と前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの第2圧力との圧力差を検出する差圧検出部(54)を有し、前記制御部は、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記差圧検出部が検出する前記圧力差が所定範囲となるように、前記第1放出弁の第1開度および前記第2放出弁の第2開度を制御する。
【0105】
本開示の第2態様に係る電解システムによれば、制御部は、差圧検出部により検出される水素混合ガスの第1圧力と酸素混合ガスの第2圧力との圧力差が所定範囲となるように第1放出弁の第1開度および第2放出弁の第2開度を制御する。水素混合ガスの第1圧力と酸素混合ガスの第2圧力との圧力差が所定範囲となるため、この圧力差が所定範囲を超えて電解モジュールに損傷が発生することを適切に防止することができる。
【0106】
本開示の第3態様に係る電解システムは、第1態様または第2態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、複数の前記電解モジュールを備え、前記空気供給系統は、複数の前記電解モジュールのそれぞれに単位時間あたりにほぼ同一の流量の前記空気を供給する流量調整装置を備える。
【0107】
本開示の第3態様に係る電解システムによれば、空気供給系統から複数の電解モジュールのそれぞれに単位時間あたりにほぼ同一の流量の空気が供給される。そのため、停電等で電解システムを緊急に停止させる場合に、電解モジュールの内部の圧力および温度を低下させるのに必要な時間の各電解モジュール間のばらつきを抑制することができる。
【0108】
本開示の第4態様に係る電解システムは、第1態様から第3態様のいずれかにおいて、更に以下の構成を備える。すなわち、前記空気供給系統に接続されるとともに注入部(81)から注入される大気中の前記空気を前記空気供給系統に導く空気注入系統(80)を備え、前記空気注入系統(80)は、前記電解モジュール(10)よりも下方に配置されており、第1排空気管(31)に接続された前記第2放出系統(70)が前記酸素混合ガスを大気中へ放出する排空気放出部(72)は、前記電解モジュール(10)よりも上方に配置されている。
【0109】
本開示の第4態様に係る電解システムによれば、大気圧近傍まで内部圧力が低下後に、第2放出弁を開状態とし、空気流入遮断弁および空気流入流量調整弁を開状態とすることにより、注入部から空気注入系統に注入される空気の自然通風が発生する。自然通風により、注入部から空気注入系統に注入された空気が注入部より上方に配置される空気供給部から電解モジュールに供給され、電解モジュール内に滞留した空気を含む酸素混合ガスを電解モジュール外へパージし、さらに電解モジュールよりも上方に配置される排空気放出部から大気中に排出される。自然通風によって注入部から注入される空気を電解モジュールに供給して排出することにより、空気を供給する動力を用いることなく、電解モジュール内部に滞留した高温の空気を速やかに排出でき、電解モジュールの降温に要する時間を短縮することができる。また、酸素放出部にハイベント方式を採用することで自然通風が促進され、より効果的に電解モジュールの冷却を行うことができる。
【0110】
本開示の第5態様に係る電解システムは、第4態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、自然通風により注入された空気を前記空気注入系統から前記電解モジュール内を流通した後、前記酸素回収系統を経由して前記第2放出系統から大気へ放出可能とするよう、空気注入流量調整弁(83)、空気注入遮断弁及び第2放出弁(73)を操作する。
【0111】
本開示の第6態様に係る電解システムは、第4態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記空気注入系統に配置される圧縮機に比べ消費動力の少ない低昇圧(例えば50kPa程度)のブロワ(84)と、前記ブロワに電力を供給する電力供給部(95)と、を備える。
【0112】
本開示の第6態様に係る電解システムによれば、電力供給部からブロワに電力を供給してブロワを動作させることにより、自然通風では十分な流量が得られない場合でも不足する空気を補って電解モジュールの内部の温度を確実に低下させることができる。
【0113】
本開示の第7態様に係る電解システムは、第6態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、前記空気注入系統から前記空気供給系統へ前記空気を供給するよう前記ブロワを起動する。
【0114】
本開示の第7態様に係る電解システムによれば、第2圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、低昇圧(例えば50kPa程度)のブロワを起動させて空気注入系統から空気供給系統へ強制的に空気を供給することにより、圧縮機より少ない動力で電解モジュールの内部の温度を確実に低下させることができる。
【0115】
本開示の第8態様に係る電解システムの制御方法において、前記電解システムは、酸素極と水素極とを有し、前記水素極に供給された水蒸気を電気分解することで、前記水素極で水素を生成するとともに前記酸素極で酸素を生成する電解モジュールと、前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給系統と、前記水素極に供給された前記水蒸気および前記水素極で生成された前記水素を含む水素混合ガスを回収する水素回収系統と、前記酸素極に空気を供給する空気供給系統と、前記酸素極に供給された前記空気および前記酸素極で生成された前記酸素を含む酸素混合ガスを回収する酸素回収系統と、前記水素回収系統から大気中へ前記水素混合ガスを放出する第1放出系統と、前記酸素回収系統から大気中へ前記酸素混合ガスを放出する第2放出系統と、前記第1放出系統に配置される第1放出弁と、前記第2放出系統に配置される第2放出弁と、を有し、前記電解モジュールを停止させる場合に、前記第1放出弁および前記第2放出弁の開度が調整可能となるように制御する放出工程(S103~S108)を備える。
【0116】
本開示の第8態様に係る電解システムの制御方法によれば、水素極で生成された水素を含む水素混合ガスを回収する水蒸気回収系統に第1放出系統が接続され、酸素極で生成された酸素を含む酸素混合ガスを回収する酸素回収系統に第2放出系統が接続される。放出工程は、電解モジュールを停止させる場合に、第1放出弁および第2放出弁の開度が調整可能となるように第1放出弁および第2放出弁を制御する。第1放出弁から水素混合ガスが放出されて電解モジュールの水素極側の圧力および温度が低下し、第2放出弁から酸素混合ガスが放出されて電解モジュールの酸素極側の圧力および温度が低下する。
【0117】
この際、第1放出弁および第2放出弁を動作させるのに必要な非常用電源設備を設ける必要があるものの、水蒸気系統から水素極に水蒸気を供給し、かつ空気供給系統から酸素極に空気を供給する装置を動作させるのに必要な非常用電源設備は不要である。したがって、本開示の第7態様に係る電解システムの制御方法によれば、設備経済性を悪化させることなく、停電等で電力供給が遮断される場合に電解モジュールの内部の圧力を大気圧に降下させるとともに内部の温度を適切に低下させることができる。
【0118】
本開示の第9態様に係る電解システムの制御方法は、第8態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記水素回収系統の前記水素混合ガスの第1圧力と前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの第2圧力との圧力差を検出する差圧検出工程(S109)を備え、前記放出工程は、前記差圧検出工程が検出する前記圧力差が所定範囲となるように、前記第1放出弁の第1開度および前記第2放出弁の第2開度を制御する。
【0119】
本開示の第9態様に係る電解システムの制御方法によれば、電解モジュールを停止させる場合に、差圧検出工程により検出される水素混合ガスの第1圧力と酸素混合ガスの第2圧力との圧力差が所定範囲となるように、放出工程により第1放出弁の第1開度および第2放出弁の第2開度が制御される。水素混合ガスの第1圧力と酸素混合ガスの第2圧力との圧力差が所定範囲となるため、この圧力差が所定範囲を超えて電解モジュールに損傷が発生することを適切に防止することができる。
【0120】
本開示の第10態様に係る電解システムの制御方法は、第8態様または第9態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、複数の前記電解モジュールを備え、前記空気供給系統は、複数の前記電解モジュールのそれぞれに単位時間あたりにほぼ同一の流量の前記空気を供給する。
【0121】
本開示の第10態様に係る電解システムの制御方法によれば、空気供給系統から複数の電解モジュールのそれぞれに単位時間あたりにほぼ同一の流量の空気が供給される。そのため、停電等で電解システムを緊急に停止させる場合に、電解モジュールの内部の圧力および温度を低下させるのに必要な時間の各電解モジュール間のばらつきを抑制することができる。
【0122】
本開示の第11態様に係る電解システムの制御方法は、第8態様または第9態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記空気供給系統に接続されるとともに注入部(81)から注入される大気中の前記空気を前記空気供給系統に導く空気注入系統(80)を備え、前記空気注入系統(80)は、前記電解モジュール(10)よりも下方に配置されており、第1排空気管(31)に接続された前記第2放出系統(70)が前記酸素混合ガスを大気中へ放出する排空気放出部(72)は、前記電解モジュール(10)よりも上方に配置されている。
【0123】
本開示の第11態様に係る電解システムの制御方法によれば、第2放出弁を開状態とし、内部圧力が大気圧近傍まで低下後に空気注入遮断弁(不図示)及び空気注入流量調整弁(83)を開状態とすることにより、注入部から空気注入系統に空気の自然通風が発生する。自然通風により、注入部から空気注入系統に注入された空気が注入部より上方に配置される空気供給部から電解モジュールに供給され、電解モジュール内に滞留した空気を含む酸素混合ガスを電解モジュール外へパージされ、さらに電解モジュールよりも上方に配置される排空気放出部から大気中に排出される。自然通風によって注入部から注入される空気を電解モジュールに供給して排出することにより、空気を供給する動力を用いることなく、電解モジュールの内部の温度を適切に低下させることができる。
【0124】
本開示の第12態様に係る電解システムの制御方法は、第11態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記放出工程は、前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、自然通風により注入された空気を前記空気注入系統から前記電解モジュール内を流通した後、前記酸素回収系統を経由して前記第2放出系統から大気へ放出可能とするよう、空気注入流量調整弁(83)、空気注入遮断弁及び第2放出弁(73)を操作する。
【0125】
本開示の第13態様に係る電解システムの制御方法は、第11態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記空気注入系統に配置される低昇圧のブロワと、前記ブロワに電力を供給する電力供給部と、を備える。
【0126】
本開示の第13態様に係る電解システムの制御方法によれば、電力供給部からブロワに電力を供給してブロワを動作させることにより、自然通風では不足する空気を補って電解モジュールの内部の温度を確実に低下させることができる。
【0127】
本開示の第14態様に係る電解システムの制御方法は、第13態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記第2圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、前記空気注入系統から前記空気供給系統へ前記空気を供給するよう前記ブロワを起動するブロワ起動工程を備える。
【0128】
本開示の第14態様に係る電解システムの制御方法によれば、前記酸素回収系統の前記酸素混合ガスの圧力が大気圧近傍に到達したことに応じて、低昇圧のブロワを起動させて空気注入系統から空気供給系統へ強制的に空気を供給することにより、自然通風では十分な流量が得られない場合でも不足する空気を補ってより少ない動力で電解モジュールの内部の温度を確実に低下させることができる。
【符号の説明】
【0129】
10 電解モジュール
20 空気供給系統
21 空気供給部
22 圧縮機
23 第1空気供給管
24 第2空気供給管
25 供給空気流量調整弁
25a 流量計測部
26 空気供給部
27 流量調整装置
30 酸素回収系統
31 第1排空気管
32 タービン
33 第2排空気管
34 排空気排出部
35 排空気冷却器
37 圧力検出部
38 酸素供給部
40 水蒸気供給系統
41 水蒸気供給部
42 過熱器
43 水蒸気供給管
44 水蒸気流量調整弁
44a 流量計測部
50 水素回収系統
51 水素富化水蒸気管
52 水素富化水蒸気回収部
53 水素富化水蒸気流量調整弁
54 差圧検出部
60 水素富化水蒸気放出系統(第1放出系統)
61 放出管
62 水素富化水蒸気放出部
63 水素富化水蒸気放出弁(第1放出弁)
70 排空気放出系統(第2放出系統)
71 放出管
72 排空気放出部
73 排空気放出弁(第2放出弁)
80 空気注入系統
81 注入部
82 空気注入管
83 空気注入流量調整弁
84 ブロワ
90 非常用電源設備(電力供給部)
95 制御装置
100,100A,100B 電解システム
109 水素極
113 酸素極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8