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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】ポンプユニット
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/08 20060101AFI20241105BHJP
   F04B 49/06 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
F02M37/08 D
F04B49/06 321Z
F02M37/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023081471
(22)【出願日】2023-05-17
(62)【分割の表示】P 2021548386の分割
【原出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2023096073
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019172989
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷藤 之彦
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0023833(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00- 37/54
F02M 39/00- 71/04
F04B 49/00- 51/00
B01D 23/00- 35/04
B01D 35/08- 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内に配置されたポンプであって、前記燃料タンク内のディーゼル燃料を昇圧して、フィルタが配置されている燃料経路に前記ディーゼル燃料を吐出する前記ポンプと、
前記ポンプの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ディーゼル燃料の凍結による前記フィルタの詰まりの程度を表す指標であって、前記ポンプが駆動していない間に取得される前記指標を用いて前記ポンプの前記駆動を制御する凍結回避制御を実行し、
前記制御部は、前記凍結回避制御において、前記指標によって表わされる前記フィルタの前記詰まりの前記程度が高いほど、前記ポンプの負荷を高くする、ポンプユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプユニットであって、
前記ポンプと前記フィルタとの間の前記燃料経路の圧力を取得する圧力取得部を、さらに備え、
前記指標は、取得済みの前記燃料経路の前記圧力を含み、
前記制御部は、前記燃料経路の前記圧力が高いほど、前記ポンプの負荷を高くする、前記ポンプユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポンプユニットであって、
前記ディーゼル燃料の燃料温度を取得する温度取得部を、さらに備え、
前記制御部は、取得済みの前記燃料温度が第1閾値よりも低い場合に、前記凍結回避制御を実行する、前記ポンプユニット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のポンプユニットであって、
前記ディーゼル燃料の燃料温度を取得する温度取得部を、さらに備え、
前記指標は、取得済みの前記燃料温度を含み、
前記制御部は、前記燃料温度が低いほど、前記ポンプの負荷を高くする、前記ポンプユニット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のポンプユニットであって、
前記制御部は、前記凍結回避制御の直前に取得される前記指標を用いて前記ポンプの前記駆動を制御する前記凍結回避制御を実行する、前記ポンプユニット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のポンプユニットであって、
前記制御部は、前記ポンプによって吐出される前記ディーゼル燃料によって駆動される内燃機関の始動前に取得される前記指標を用いて前記ポンプの前記駆動を制御する前記凍結回避制御を実行する、前記ポンプユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ポンプとポンプを制御する制御部とを備えるポンプユニットに関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
日本国特開2002-71228号公報に、車両用の空調装置に用いられる冷凍サイクルが開示されている。冷凍サイクルは、冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮機を制御するコントロールユニットと、を備える。コントロールユニットは、圧縮機を駆動させる際に、圧縮機の吐出側の経路の圧力が高い場合に、圧縮機からの吐出量を増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ポンプを利用して流体を圧縮して流体経路に吐出する構成において、流体経路に詰まりが発生する場合がある。ディーゼル燃料を内燃機関に送出するデバイスでは、例えば環境温度が凝固点温度(例えば-10℃~-5℃)等で、ディーゼル燃料が凍結する場合がある。この場合、ディーゼル燃料の粘度が上昇する。この結果、ディーゼル燃料がポンプの吐出側に配置されているフィルタを通過できずに、フィルタに詰まりが発生する。
【0004】
本明細書は、ディーゼル燃料の凍結によって発生するポンプの吐出側に配置されているフィルタの詰まりを低減する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する技術は、ディーゼル燃料に用いられるポンプユニットである。ポンプユニットは、ディーゼル燃料を昇圧して、フィルタが配置されている燃料経路に前記ディーゼル燃料を吐出するポンプと、前記ポンプの駆動を制御する制御部と、を備えていてもよい。前記制御部は、前記ディーゼル燃料の凍結による前記フィルタの詰まりの程度を表す指標を用いて前記ポンプの前記駆動を制御する凍結回避制御を実行してもよい。前記制御部は、前記凍結回避制御において、前記指標によって表わされる前記フィルタの前記詰まりの前記程度が高いほど、前記ポンプの負荷を高くしてもよい。
【0006】
この構成によれば、燃料経路に配置されているフィルタの詰まりの程度が高いと想定される場合に、ポンプの負荷を高くすることによって、フィルタに付着したディーゼル燃料を取り除くことができる。これにより、フィルタの詰まりを低減することができる。
【0007】
ポンプユニットは、前記ポンプと前記フィルタとの間の前記燃料経路の圧力を取得する圧力取得部を、さらに備えていてもよい。前記指標は、取得済みの前記燃料経路の前記圧力を含んでいてもよい。前記制御部は、前記燃料経路の前記圧力が高いほど、前記ポンプの負荷を高くしてもよい。
【0008】
フィルタの詰まりが高いほど、ポンプとフィルタとの間の燃料経路の圧力は高くなる。上記の構成によれば、フィルタの詰まりの程度を表す指標としてポンプとフィルタとの間の燃料経路の圧力を用いることによって、ポンプの負荷を適切に制御することができる。
【0009】
前記制御部は、前記凍結回避制御を実行してから第1所定期間が経過する前に、前記ポンプによって前記ディーゼル燃料を吐出すべき場合に、前記凍結回避制御を実行してから第1所定期間が経過した後に、前記ポンプによって前記ディーゼル燃料を吐出すべき場合と比較して、前記ポンプの負荷を高くしてもよい。
【0010】
凍結回避制御が実行される状況とは、フィルタの詰まりが発生していると想定される状況である。この状況では、凍結回避制御が実行されたとしても、フィルタに付着したディーゼル燃料を完全に除去することができているとは限らない。特に、凍結回避制御からあまり時間が経過していないと、例えば、内燃機関の駆動によって発生する熱によっても、ディーゼル燃料の凍結が解除されていない可能性がある。上記の構成では、このような状況において、ポンプの負荷を通常の負荷よりも高くすることによって、フィルタに残留するディーゼル燃料を除去し得る。
【0011】
ポンプユニットは、前記ディーゼル燃料の燃料温度を取得する温度取得部を、さらに備えていてもよい。前記制御部は、取得済みの前記燃料温度が第1閾値よりも低い場合に、前記凍結回避制御を実行してもよい。
【0012】
この構成によれば、燃料温度がディーゼル燃料の凍結が想定しづらい温度である場合に、凍結回避制御を実行せずに済む。
【0013】
ポンプユニットは、前記ディーゼル燃料の燃料温度を取得する温度取得部を、さらに備えていてもよい。前記指標は、取得済みの前記燃料温度を含んでいてもよい。前記制御部は、前記燃料温度が低いほど、前記ポンプの負荷を高くしてもよい。
【0014】
燃料温度が低いほど、ディーゼル燃料が凍結し、フィルタの詰まりの程度が高い可能性がある。上記の構成によれば、フィルタの詰まりの程度を表す指標としてポンプとフィルタとの間の燃料温度を用いることによって、ポンプの負荷を適切に制御することができる。
【0015】
ポンプユニットは、前記ディーゼル燃料の燃料温度を取得する温度取得部を、さらに備えていてもよい。前記制御部は、前記ポンプが駆動している間に、外部から前記ポンプを停止すべき停止要求が取得される場合において、取得済みの前記燃料温度が第2閾値よりも低い場合に、所定期間だけ前記ポンプの負荷を高くして駆動させた後に、前記ポンプを停止してもよい。
【0016】
内燃機関の停止等によって、ポンプの停止要求が、例えばエンジンコントロールユニット等の外部から取得される状況において、燃料温度が低い場合には、ポンプ停止後に、燃料が凍結する可能性がある。上記の構成によれば、燃料温度が低い場合、ポンプを停止させる前に、ポンプの負荷を上昇させることによって、凍結しているディーゼル燃料がフィルタに付着している場合に、ディーゼル燃料をフィルタから除去することができる。これにより、ポンプ停止後にフィルタの詰まりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ポンプユニットの構成を表す図を示す。
図2】第1実施例の凍結回避処理のフローチャートを示す。
図3】電圧と基本デューティ比との関係を表すテーブルを示す。
図4】燃料温度と圧力とデューティ比補正値との関係を表すテーブルを示す。
図5】第1実施例のポンプ駆動処理のフローチャートを示す。
図6】ポンプ停止処理のフローチャートを示す。
図7】第2実施例の凍結回避処理のフローチャートを示す。
図8】第2実施例のポンプ駆動処理のフローチャートを示す。
図9】第3実施例の凍結回避処理のフローチャートを示す。
図10】第3実施例の電圧と圧力と駆動デューティ比との関係を表すテーブルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(ポンプユニットの構成)
図1を参照して、ポンプユニット100を説明する。ポンプユニット100は、ディーゼルエンジンが搭載されている車両に設置される。ポンプユニット100は、燃料タンク300内のディーゼル燃料を、図示省略したディーゼルエンジンに供給する。ポンプユニット100は、ポンプ20と、制御部10と、インバータ50と、電圧センサ40と、ロータ位置検出センサ30と、圧力センサ26と、温度センサ44と、を備える。
【0019】
ポンプ20は、燃料タンク300内に配置される。ポンプ20は、燃料タンク300内のディーゼル燃料を昇圧して、フィルタ24が配置されている燃料経路22に吐出する。フィルタ24は、ディーゼル燃料に含まれている異物を除去する。燃料経路22に吐出されたディーゼル燃料は、図示省略したエンジンに供給される。なお、燃料経路22には、燃料経路22の圧力が高くなり過ぎないように、燃料タンク300と連通するリリーフ弁(図示省略)が配置されている。
【0020】
ポンプ20には、モータが収容されている。モータは、三相交流モータであり、ブラシレスモータである。ポンプ20には、車両に搭載されているバッテリ12から、インバータ50を介して電力が供給される。
【0021】
インバータ50は、ポンプ20のモータに接続され、モータに対して駆動電流を供給する。インバータ50は、直流電力を三相交流電力に変換する。インバータ50は、バッテリ12に対して互いに並列に接続されている3個のスイッチング素子対(U相スイッチング素子対6,V相スイッチング素子対4,W相スイッチング素子対2)を含んでいる。各スイッチング素子対2,4,6は、バッテリ12の高圧側に接続されている上アーム素子(トランジスタUH,VH,WH)と、上アーム素子と直列に接続されており、バッテリ12の低圧側に接続されている下アーム素子(トランジスタUL,VL,WL)を備えている。スイッチング素子対2,4,6のそれぞれは、配線14,16,18のそれぞれを介してポンプ20のモータに接続されている。
【0022】
インバータ50は、制御部10に接続されている。制御部10は、インバータ50をPWM(Pulse Width Modulationの略)制御によって制御することによって、ポンプ20を制御する。制御部10は、CPU、メモリ及びプリドライバを含む。制御部10は、トランジスタ(UH,UL,VH,VL,WH,WL)のオンオフを切り替えることによって、バッテリ12から直流電力を交流電力に変換して、ポンプ20のモータに供給する。制御部10は、エンジンコントロールユニット200(以下「ECU200」と呼ぶ)に接続されている。制御部10は、ECU200から受信される制御信号に基づいて、ポンプ20を制御する。制御部10には、ポンプ20を制御するためのコンピュータプログラム、及び、当該プログラムを実行するための様々な情報が、予め格納されている。制御部10に格納されるコンピュータプログラムは、後述する各処理を実行するためのコンピュータプログラムを含む。
【0023】
制御部10は、電圧センサ40、ロータ位置検出センサ30、圧力センサ26、及び温度センサ44に接続されている。電圧センサ40は、バッテリ12の電圧を検出する。ロータ位置検出センサ30は、ポンプ20のモータに配置されるロータの位置を検出する。ロータ位置検出センサ30は、配線14、16、18に接続され、ロータの回転によってロータとステータとの位置変化に起因して発生する誘起電圧を検出することによって、ロータの位置を検出する。圧力センサ26は、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力を検出する。温度センサ44は、燃料タンク300に貯留されるディーゼル燃料の温度を検出する。なお、変形例では、温度センサ44は、燃料タンク300とフィルタ24との間の燃料経路22に配置されていてもよい。この場合、燃料センサ44は、燃料タンク300とフィルタ24との間の燃料経路22内の燃料の温度を検出してもよい。制御部10は、各センサ26、30、40、44の検出結果を取得する。
【0024】
(凍結回避処理)
次いで、図2を参照して、制御部10が実行する凍結回避処理について説明する。例えば、寒冷地等では、ディーゼル燃料が凍結する場合がある。ディーゼル燃料が凍結すると、ディーゼル燃料の粘性が上昇する。この結果、フィルタ24に付着したディーゼル燃料によってフィルタ24に詰まりが発生する。凍結回避処理では、ポンプ20によってディーゼル燃料をエンジンに供給すべき状況において、フィルタ24に詰まりが発生している蓋然性が高い場合に、ポンプユニット100が、フィルタ24の詰まりを低減するための凍結回避制御を実行する。
【0025】
凍結回避処理は、ポンプ20がディーゼル燃料をエンジンに供給する前のタイミングで実行される。即ち、凍結回避処理が開始される時点では、ポンプ20は停止している。ECU200は、エンジンを始動すべき状況が予測される場合に、制御部10に凍結回避処理を実行させるための信号を送信する。ECU200は、例えば、乗車者によってドアが開かれたことが検知される場合、車両のキーがイグニションスイッチに挿入されたことが検知される場合、車両のセンサが車両のキーを検知する場合等に、エンジンを始動すべき状況が予測される場合であると判断する。
【0026】
制御部10は、ECU200から信号を受信すると、S12において、圧力センサ26から、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力を取得する。次いで、S14において、制御部10は、電圧センサ40から、バッテリ12の電圧を取得する。次いで、S16において、制御部10は、温度センサ44から、燃料タンク300内のディーゼル燃料の温度を取得する。S18では、制御部10は、基本デューティ比を特定する。具体的には、図3に示すように、制御部10には、バッテリ12の電圧と、基本デューティ比と、の関係を表すテーブル400が予め格納されている。基本デューティ比は、PWM制御におけるポンプ20に供給される電力を決定するためのデューティ比である。テーブル400は、車両の製造者によって予め制御部10に格納されている。バッテリ12の電圧は、車両に搭載されるバッテリの仕様によって決定される。車両では、通常電圧12Vのバッテリが用いられるが、寒冷地等、車両において使用される電力が比較的高い場合には、電圧24V以上のバッテリが用いられる場合がある。テーブル400では、バッテリ12の電圧によって、ポンプ20の負荷が変動しないように、バッテリ12の電圧に応じた基本デューティ比が設定されている。このため、テーブル400では、電圧E1よりも大きい電圧E2に対して、基本デューティ比D1よりも小さい基本デューティ比D2が対応付けられている。
【0027】
制御部10は、テーブル400を用いて、S14で取得済みの電圧に対応する基本デューティ比を特定する。次いで、制御部10は、デューティ比補正値を特定する。具体的には、図4に示すように、制御部10には、燃料タンク300内のディーゼル燃料の温度と、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力と、に対応づけて、基本デューティ比を補正するためのデューティ比補正値が記録されているテーブル410が予め格納されている。テーブル410は、車両の製造者によって予め制御部10に格納されている。燃料温度は、車両の周辺温度や前回の車両の使用後の経過期間等に応じて変動する。ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力は、フィルタ24の詰まりの程度に応じて変動する。例えば、フィルタ24に詰まりの程度が低い場合、ポンプ20が停止されると、ポンプ20によって昇圧された燃料はフィルタ24を通過するため、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力は低下する。フィルタ24に詰まりの程度が高いほど、ポンプ20が停止されても、ポンプ20によって昇圧された燃料がフィルタ24を通過し難くなる。この結果、フィルタ24に詰まりの程度が高いほど、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力は高くなる。
【0028】
テーブル410では、フィルタ24に詰まりが発生していない場合のポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力P1kPaでは、デューティ比補正値として0%が記録されている。また、ディーゼル燃料が凍結することが想定されない温度T3℃では、デューティ比補正値として0%が記録されている。なお、凍結が想定されない閾値TZ0℃以上の温度範囲では、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力に関わらず、デューティ比補正値として0%が記録されている。ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力P1kPaからP2kPaに向かって高くなるほど、デューティ比補正値として高い値が記録される。また、燃料温度がT1℃からT2℃、T3℃に向かって低くなるほど、デューティ比補正値として高い値が記録される。即ち、d1は、d2よりも高い値である。テーブル410は、車両の製造者等によって実行される実験又はシミュレーションに基づいて決定される。
【0029】
制御部10は、S12で取得済みの圧力と、S16で取得済みの燃料温度と、に対応づけて記録されているデューティ比補正値を、テーブル410から特定する。次いで、S22において、制御部10は、S18で特定済みの基本デューティ比に、S20で特定済みのデューティ比補正値を加算することによって、ポンプ20を駆動する際の駆動デューティ比を算出する。例えば、S20で特定済みのデューティ比補正値が0%である場合、駆動デューティ比は、S18で特定済みの基本デューティ比と一致する。駆動デューティ比は、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力が高くなる程高くなり、燃料温度が低くなる程高くなる。
【0030】
次いで、S24では、制御部10は、S22で算出済みの駆動デューティ比を用いて、インバータ50を駆動させる。これにより、ポンプ20に電力が供給され、ポンプ20が駆動する。次いで、S26では、制御部10は、ロータ位置検出センサ30において、ポンプ20に搭載されているロータの位置が検出可能か否かを判断する。モータの誘起電圧を用いてロータの位置を検出する構成では、モータの駆動開始直後では、起電力が小さいために、誘起電圧を検出することができない。このため、ロータの位置を検出することができない。S26では、ポンプ20に搭載されているロータの位置が検出可能か否かを判断することによって、ポンプ20が駆動しているか否かを判断する。制御部10は、ロータ位置検出センサ30からロータの位置を示す信号(即ち誘起電圧)を受信する場合に、ロータの位置が検出可能であると判断する。制御部10は、ロータの位置が検出可能になるまで待機し(S26でNO)、ロータの位置が検出可能である場合に(S26でYES)、S28に進む。
【0031】
S28では、制御部10は、S22で算出済みの駆動デューティ比が、S18で特定済みの基本デューティ比よりも大きいか否かを判断する。駆動デューティ比が基本デューティ比よりも大きい場合(S28でYES)、S30において、制御部10は、制御部10に格納されている高負荷フラグをOFFからONに切り替えて、凍結回避処理を終了する。なお、高負荷フラグは、エンジンが停止されると、OFFにリセットされる。一方、駆動デューティ比が基本デューティ比に等しい場合(S28でNO)、即ち、S20で特定済みのデューティ比補正値が0%である場合、S30をスキップして、凍結回避処理を終了する。
【0032】
凍結回避処理では、S20において、0%よりも大きいデューティ比補正値が特定される場合に、ポンプ20が、基本デューティ比よりも高いデューティ比で駆動される。これにより、凍結されたディーゼル燃料によるフィルタ24の詰まりを低減する凍結回避制御が実行される。
【0033】
凍結回避制御では、ポンプ20の駆動デューティ比が、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力が高くなる程大きくなり、燃料温度が低くなる程大きくなる。駆動デューティ比が高いほど、ポンプ20に印加される電圧が高くなり、ポンプ20の負荷が高くなる。また、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力が高くなるほど、ディーゼル燃料の凍結によってフィルタ24が詰まっている可能性が高くなる。同様に、燃料温度が低くなるほど、ディーゼル燃料の凍結によってフィルタ24が詰まっている可能性が高くなる。即ち、凍結回避処理では、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力と燃料温度とが、フィルタ24の詰まりの程度を表す指標として用いられる。凍結回避処理によれば、フィルタ24の詰まりの程度が高いと想定される場合に、ポンプ20の負荷を高くすることによって、フィルタ24に付着したディーゼル燃料を取り除くことができる。これにより、フィルタ24の詰まりを低減することができる。
【0034】
一方で、テーブル410では、燃料温度が閾値TZ0℃以上の温度範囲において、デューティ比補正値が0%に設定されている。このため、閾値TZ0℃以上の温度範囲では、凍結回避制御が実行されない。言い換えると、ディーゼル燃料の温度が閾値TZ0℃よりも低い場合に、凍結回避制御が実行される。これにより、ディーゼル燃料の凍結が想定されない状況において、凍結回避制御が実行される事態を回避することができる。
【0035】
(ポンプ駆動処理)
次いで、図5を参照して、制御部10が実行するポンプ駆動処理を説明する。ポンプ駆動処理は、イグニションスイッチがオンに切り替えられるタイミング、即ち、ポンプ20を駆動して、ディーゼル燃料をエンジンに供給すべきタイミングで実行される。このため、凍結回避処理が実行されてから、ポンプ駆動処理が実行されるまでの期間は変動する。制御部10は、ECU200から、ポンプ20がディーゼル燃料を吐出する際の吐出圧力を表す指示燃圧を示す信号を取得すると、ポンプ駆動処理を実行する。ポンプ駆動処理は、ポンプ20が駆動している間、繰り返し実行される。
【0036】
ポンプ駆動処理では、まず、S42において、制御部10は、温度センサ44から、燃料温度を取得する。次いで、S44において、制御部10は、高負荷フラグがONであるか否かを判断する。高負荷フラグがONであると判断される場合(S44でYES)、S46に進み、高負荷フラグがONでないと判断される場合(S44でNO)、S50に進む。
【0037】
S46では、制御部10は、ポンプ20の駆動後、即ち、凍結回避処理のS24において、ポンプ20が駆動されてから、所定期間(例えば数μ秒)が経過したか否かを判断する。ポンプ20の駆動後に所定期間が経過していると判断される場合(S46でYES)、S50に進み、所定期間が経過していないと判断される場合(S46でNO)、S48に進む。S46の所定期間は、凍結回避制御によって、凍結したディーゼル燃料がフィルタ24から離脱するまでの期間であってもよい。S46の所定期間は、実験等によって予め決定され、制御部10に格納されている。
【0038】
S48では、制御部10は、駆動デューティ比を、フェールセーフデューティ比(以下「FSデューティ比」と呼ぶ)に設定して、S56に進む。フェールセーフデューティ比は、ディーゼル燃料の凍結によって、ポンプ20からディーゼル燃料が正常に供給されない事態(即ちフェール)を回避するために、高負荷でポンプ20を駆動させるためのデューティ比である。FSデューティ比は、通常の燃料供給のために用いられるデューティ比よりも大きい。FSデューティ比は、例えば、100%であってもよく、ポンプ20等の機器の性能によって許容される最大のデューティ比であってもよい。
【0039】
一方、S50では、制御部10は、S42で取得済みの燃料温度が閾値TZ1未満であるか否かを判断する。閾値TZ1は、ディーゼル燃料が凍結する可能性がある温度(例えば-10℃)である。あるいは、閾値TZ1は、ディーゼル燃料が凍結する可能性がある温度よりも高くてもよいし、低くてもよい。燃料温度が閾値TZ1未満であると判断される場合(S50でYES)、S52において、制御部10は、ポンプ20から吐出されるディーゼル燃料の目標の圧力である目標燃圧を、ECU200から取得される目標燃圧よりもαkPaだけ大きく設定して、S56に進む。一方、燃料温度が閾値TZ1未満でないと判断される場合(S50でNO)、S54において、制御部10は、目標燃圧を、ECU200から取得される目標燃圧に設定して、S56に進む。
【0040】
S56では、制御部10は、ポンプ20を制御する。具体的には、S48においてFSデューティ比が特定される場合、S56において、制御部10は、特定済みのFSデューティ比でポンプ20を制御する。一方、S52又はS54において目標燃圧が特定される場合、S56において、制御部10は、圧力センサ26から現在のディーゼル燃料の圧力を取得する。次いで、制御部10は、取得済みの燃料圧力と目標燃圧とを比較して、目標燃圧が取得済みの燃料圧力よりも大きい場合、デューティ比を予め決められた値だけ下げる。また、制御部10は、目標燃圧が取得済みの燃料圧力よりも小さい場合、デューティ比を予め決められた値だけ上げる。これにより、ポンプ駆動処理が繰り返し実行されることによって、燃料圧力が目標燃圧に近似する。
【0041】
ポンプ駆動処理は、凍結回避処理の後に実行される。凍結回避処理において、高負荷フラグがONに設定される状況とは、フィルタ24の詰まりが発生していると想定される状況である。この状況では、ポンプ20の負荷を高くして、凍結回避制御が実行されたとしても、フィルタ24に付着したディーゼル燃料を完全に除去することができているとは限らない。特に、凍結回避制御が実行されてからあまり時間が経過していないと、例えば、エンジンの駆動によって発生する熱によっても、ディーゼル燃料の凍結が解除されていない可能性がある。ポンプ駆動処理では、このような状況、即ちS44でYESであり、S46でNOの状況において、S48において、駆動デューティ比を、FSデューティ比に設定して、ポンプ20の負荷を通常の負荷よりも高くすることによって、フィルタ24に残留するディーゼル燃料を除去することができる。
【0042】
また、凍結回避制御が実行されてから時間が経過していたとしても、ディーゼル燃料の温度が低いと、ディーゼル燃料の凍結が発生する可能性がある。ポンプ駆動処理では、このような状況、即ち、S46及びS50でYESである状況において、S52において、目標燃圧を指示燃圧よりも高くして、ポンプ20の負荷を通常の負荷よりも高くすることによって、ディーゼル燃料が凍結することを回避することができる。
【0043】
(ポンプ停止処理)
続いて、図6を参照して、制御部10が実行するポンプ停止処理を説明する。ポンプ停止処理は、例えば、イグニションスイッチをONからOFFに切り替える場合やアイドリングを停止する場合等、エンジンが停止されるタイミングで実行される。具体的には、制御部10は、ECU200からポンプ20の停止要求を取得すると、ポンプ停止処理を実行する。
【0044】
ポンプ停止処理では、まず、S62において、制御部10は、温度センサ44から燃料温度を取得する。次いで、S64において、制御部10は、S62で取得済みの燃料温度が閾値TZ2未満であるか否かを判断する。閾値TZ2は、閾値TZ1と同様に、閾値TZ1は、ディーゼル燃料が凍結する可能性がある温度(例えば-10℃)である。あるいは、閾値TZ2は、ディーゼル燃料が凍結する可能性がある温度よりも高くてもよいし、低くてもよい。閾値TZ2は、閾値TZ1と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0045】
燃料温度が閾値TZ2未満でない場合(S64でNO)、S72に進む。一方、燃料温度が閾値TZ2未満である場合(S64でYES)、S66において、制御部10は、S48と同様に、FSデューティ比を特定する。次いで、S68において、制御部10は、S66で特定済みのFSデューティ比で、ポンプ20を制御する。次いで、S70では、S68でポンプ20を制御してから所定期間が経過するまで待機する。S70の所定期間とは、例えば、凍結してフィルタ24に詰まっているディーゼル燃料を除去することができる期間である。S70の所定期間は、例えば、実験によって決定される。
【0046】
S70において、所定期間が経過すると(S70でYES)、S72に進む。S72では、制御部10は、ポンプ20を停止して、ポンプ停止処理を実行する。
【0047】
ポンプ20を停止すべき状況において、燃料温度が低い場合には、ポンプ20の停止後に、ディーゼル燃料が凍結する可能性がある。ポンプ停止処理では、燃料温度が低い場合、ポンプ20を停止させる前に、駆動デューティ比をFSデューティ比に設定して、ポンプ20の負荷を上昇させることによって、凍結しているディーゼル燃料をフィルタから除去することができる。これにより、ポンプ20の停止後にフィルタ24の詰まりを抑制することができる。この結果、次に、エンジンを駆動すべき際に、凍結によるフィルタ24の詰まりを低減し得る。
【0048】
(第2実施例)
第1実施例と異なる点を説明する。本実施例では、凍結回避処理及びポンプ駆動処理のそれぞれが、第1実施例の回避処理及びポンプ駆動処理のそれぞれと異なる。図7に示すように、凍結回避処理では、S12~S26の処理が実行され、処理が終了する。第1実施例と異なり、S28~S30の処理は実行されない。制御部10は、高負荷フラグを格納していなくてもよい。
【0049】
図8に示すように、ポンプ駆動処理では、S42の処理の後、S50の処理が実行される。S50でYESの場合にS52の処理が実行され、S50でNOの場合にS54の処理が実行される。S52又はS54の処理の後、S56において、ポンプ20が制御される。
【0050】
(第3実施例)
第1実施例と異なる点を説明する。本実施例では、凍結回避処理及びポンプ駆動処理のそれぞれが、第1実施例の回避処理及びポンプ駆動処理のそれぞれと異なる。本実施例のポンプ駆動処理は、第2実施例のポンプ駆動処理と同様である。
【0051】
図9に示すように、凍結回避処理では、S12~S14の処理が実行された後、S122において、制御部10は、図10に示すテーブル500を用いて、駆動デューティ比を特定する。テーブル500は、バッテリ12の電圧と、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力と、駆動デューティ比と、が対応付けて記録されている。テーブル500は、車両の製造者等によって実行される実験又はシミュレーションに基づいて決定され、制御部10に予め格納されている。次いで、S24~S26の処理が実行され、凍結回避処理が終了する。
【0052】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0053】
(変形例)
(1)上記した各実施例における凍結回避処理、ポンプ駆動処理、ポンプ停止処理のそれぞれにおいて実行される処理のステップの順序は、上記した実施例の順序に限られない。例えば、図2に示す第1実施例の凍結回避処理では、S20の処理とS22の処理との間に、S28とS30の処理を実行してもよい。あるいは、図5に示す第1実施例のポンプ駆動処理において、S46でYESの場合に、S42の処理を実行してもよい。
【0054】
(2)上記した各実施例では、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力と燃料温度とが、フィルタ24の詰まりの程度を表す指標として用いられる。しかしながら、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力と燃料温度とのいずれか一方が、フィルタ24の詰まりの程度を表す指標として用いられてもよい。この場合、指標によって表わされるフィルタ24の詰まりの程度が高い、即ち、ポンプ20とフィルタ24との間の燃料経路22の圧力が高いほど、あるいは、燃料温度が低いほど、駆動デューティ比が高くなるようなテーブルが制御部10に格納されていてもよい。
【0055】
(3)上記した各実施例では、ポンプ駆動処理及びポンプ停止処理を実行しなくてもよい。この場合、制御部10は、ポンプ20を駆動すべき場合に、ポンプ20から吐出される燃料の圧力が指示燃圧になるように、駆動デューティ比を決定してもよい。あるいは、制御部10は、ポンプ20を停止すべき場合に、直ちにポンプ20を停止してもよい。
【0056】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0057】
10:制御部
12:バッテリ
20:ポンプ
22:燃料経路
24:フィルタ
26:圧力センサ
30:ロータ位置検出センサ
40:電圧センサ
44:温度センサ
50:インバータ
100:ポンプユニット
200:エンジンコントロールユニット
300:燃料タンク
図1
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図3
図4
図5
図6
図7
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図10