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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】光検出器
(51)【国際特許分類】
   H01J 43/04 20060101AFI20241105BHJP
   H01J 40/00 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H01J43/04
H01J40/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023145507
(22)【出願日】2023-09-07
【審査請求日】2024-10-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】松岡 泰正
(72)【発明者】
【氏名】西村 侑記
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 玲皇
(72)【発明者】
【氏名】松平 渉
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-098853(JP,A)
【文献】特開平9-199075(JP,A)
【文献】特開平11-040086(JP,A)
【文献】特開平6-243795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 43/04
H01J 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光に応じて光電子を放出する光電面が形成された入射面板と、
第1方向に沿って前記光電面に対向するように配置され、前記光電面から放出された前記光電子を検出するための半導体素子と、
を備え、
前記半導体素子は、
前記光電面に対向する面であって、前記第1方向に交差する第2方向に沿って互いに離間しつつ配列された複数のチャンネルを含む電子入射面を有する第1部分と、
少なくとも前記第2方向における前記電子入射面の両端側に設けられ、前記電子入射面よりも前記光電面側に突出することで前記第1部分よりも厚く形成された第2部分と、
を有し、
前記第1方向における前記光電面と前記電子入射面との距離を距離bとし、前記第2方向における前記チャンネルの間隔を間隔Δchとし、前記光電面と前記電子入射面との間に印加された電圧を電圧Vとし、前記第2方向の一方側における前記電子入射面の終端から前記第2部分の終端までの距離を距離eとし、前記第2方向の一方側における最外部の前記チャンネルの終端から前記第2部分の始端までの距離を距離wとしたとき、下記式(1)と、下記式(2)又は下記式(3)と、を満たす、
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<14.4×電圧V[kV]+60…(1)
距離b[mm]/4<距離e[mm]<距離b[mm]…(2)
距離b[mm]<距離e[mm]、且つ、距離w[mm]>0.2[mm]…(3)
光検出器。
【請求項2】
下記式(4)を満たす、
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<13.2×電圧V[kV]+55…(4)
請求項1に記載の光検出器。
【請求項3】
下記式(5)を満たす、
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<12.4×電圧V[kV]+51.5…(5)
請求項2に記載の光検出器。
【請求項4】
下記式(6)を満たす、
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<12×電圧V[kV]+50…(6)
請求項3に記載の光検出器。
【請求項5】
前記入射面板により一端が封止された側管と、
前記側管の他端を封止するステムと、
前記ステム上に設けられた絶縁性のベース部材と、
を備え、
前記半導体素子は、前記電子入射面が前記光電面側に臨むように前記ベース部材上に設けられている、
請求項1に記載の光検出器。
【請求項6】
前記半導体素子における少なくとも前記光電面に対向する面上に設けられ、100nm以下の厚さを有する絶縁膜を備える、
請求項1~5のいずれか一項に記載の光検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子管が記載されている。この電子管は、側管の一側に設けられて、入射された光に対応して電子を放出する光電面をもった入力面板と、側管の他側に設けられて、入力面板と共に真空領域を規定するステムと、ステムの真空側に固着して、光電面から放出された電子を入射させる電子入射部を有する半導体素子と、を備えている。半導体素子は、表面をステム側に位置させ、裏面を入力面板側に位置させ、電子入射部の外周に配置された周囲部に対して電子入射部を薄板状にしてなる裏面照射型半導体素子として構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-040086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、特許文献1に記載の電子管といった光検出器にあっては、例えば分光器により分光された複数の波長成分を検出する目的から、半導体素子に対して複数のチャンネルを含む電子入射部を構成する要求がある。これに対して、光電面から電子入射部に向かう電子の軌道は一定の拡がりを有するため、チャンネル間のクロストークを抑制するための構成が必要となる。
【0005】
一方、半導体素子において、電子入射部の周囲の相対的に厚い部分(上記の周囲部)が形成されている場合、光電面と電子入射部との間の等電位面には、電子入射部の端部から周囲部にかけて歪みが生じるおそれがある。その場合、等電位面に歪みのある領域のチャンネル(例えば周囲部近傍のチャンネル)の電子の収集効率は、等電位面に歪みのない領域のチャンネル(例えば周囲部近傍のチャンネル以外のチャンネル)の電子の収集効率と比べて低下するおそれがある。したがって、周囲部近傍に等電位面の歪みが生じる場合であっても、周囲部側に位置するチャンネルの電子の収集効率の低下を抑制することが望ましい。
【0006】
そこで、本開示は、チャンネル間のクロストーク及び電子の収集効率の低下を抑制可能な光検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る光検出器は、[1]「入射光に応じて光電子を放出する光電面が形成された入射面板と、第1方向に沿って前記光電面に対向するように配置され、前記光電面から放出された前記光電子を検出するための半導体素子と、を備え、前記半導体素子は、前記光電面に対向する面であって、前記第1方向に交差する第2方向に沿って互いに離間しつつ配列された複数のチャンネルを含む電子入射面を有する第1部分と、少なくとも前記第2方向における前記電子入射面の両端側に設けられ、前記電子入射面よりも前記光電面側に突出することで前記第1部分よりも厚く形成された第2部分と、を有し、前記第1方向における前記光電面と前記電子入射面との距離を距離bとし、前記第2方向における前記チャンネルの間隔を間隔Δchとし、前記光電面と前記電子入射面との間に印加された電圧を電圧Vとし、前記第2方向の一方側における前記電子入射面の終端から前記第2部分の終端までの距離を距離eとし、前記第2方向の一方側における最外部の前記チャンネルの終端から前記第2部分の始端までの距離を距離wとしたとき、下記式(1)と、下記式(2)又は下記式(3)と、を満たす、光検出器」である。
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<14.4×電圧V[kV]+60…(1)
距離b[mm]/4<距離e[mm]<距離b[mm]…(2)
距離b[mm]<距離e[mm]、且つ、距離w[mm]>0.2[mm]…(3)
【0008】
この光検出器では、光電面から放出された光電子を検出するための半導体素子が、互いに離間しつつ配列された複数のチャンネルを含む電子入射面を有する第1部分を有している。そして、この光検出器は、光電面と電子入射面との距離を距離bとし、チャンネルの配列方向(第2方向)におけるチャンネルの間隔を間隔Δchとし、光電面と電子入射面との間に印加された電圧を電圧Vとしたとき、上記式(1)を満たす。これにより、光電面と電子入射面との間の電圧Vと、光電面から電子入射面までの距離bに応じた電子の軌道の拡がりに応じてチャンネル間の間隔Δchが適切に設定されることで、チャンネル間のクロストークが抑制される。
【0009】
また、この光検出器では、半導体素子が、少なくともチャンネルの配列方向における電子入射面の両端側に設けられ、電子入射面よりも光電面側に突出することで第1部分よりも厚く形成された第2部分を有している。そして、この光検出器は、電子入射面の終端から第2部分の終端までの距離を距離eとし、最外部のチャンネルの終端から第2部分の始端までの距離を距離wとしたとき、上記式(2)又は上記式(3)を満たす。これにより、光電面と電子入射面との間の等電位面に対して、電子入射面から第2部分にかけて歪みが生じていても、最外部のチャンネルにおける電子の収集効率の低下が抑制される。以上のように、この光検出器によれば、チャンネル間のクロストーク及び電子の収集効率の低下を抑制可能である。
【0010】
本開示に係る光検出器は、[2]「下記式(4)を満たす、上記[1]に記載の光検出器」であってもよい。この場合、チャンネル間のクロストークを確実に抑制可能である。
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<13.2×電圧V[kV]+55…(4)
【0011】
本開示に係る光検出器は、[3]「下記式(5)を満たす、上記[2]に記載の光検出器」であってもよい。この場合、チャンネル間のクロストークをより確実に抑制可能である。
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<12.4×電圧V[kV]+51.5…(5)
【0012】
本開示に係る光検出器は、[4]「下記式(6)を満たす、上記[3]に記載の光検出器」であってもよい。この場合、チャンネル間のクロストークをさらに確実に抑制可能である。
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<12×電圧V[kV]+50…(6)
【0013】
本開示に係る光検出器は、[5]「前記入射面板により一端が封止された側管と、前記側管の他端を封止するステムと、前記ステム上に設けられた絶縁性のベース部材と、を備え、前記半導体素子は、前記電子入射面が前記光電面側に臨むように前記ベース部材上に設けられている、上記[1]~[4]のいずれかに記載の光検出器」であってもよい。この場合、側管、入射面板、及び、ベース部材の各部の寸法の設定によって、例えば上記式を満たすような距離bを実現することが可能となる。
【0014】
本開示に係る光検出器は、[6]「前記半導体素子における少なくとも前記光電面に対向する面上に設けられ、100nm以下の厚さを有する絶縁膜を備える、上記[1]~[5]のいずれかに記載の光検出器」であってもよい。この場合、少なくとも半導体素子の表面に形成された絶縁膜によって、半導体素子に光電子が打ち込まれることで発生してイオン化したガスが光電面に戻ること(イオンフィードバック)が抑制される。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、チャンネル間のクロストーク及び電子の収集効率の低下を抑制可能な光検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る光検出器の模式的な断面図である。
図2図1に示された光検出器の一部を示す上面図である。
図3図1に示された光検出器の一部拡大図である。
図4図2に示された半導体素子の一部拡大図である。
図5】チャンネル間のクロストークを0%であるときの電圧Vと距離bとの関係を、チャンネル間の間隔Δchの値ごとに示すグラフである。
図6】チャンネル間の間隔Δchが50μmであるときの電圧Vと距離bとの関係を、クロストークの値ごとに示すグラフである。
図7】チャンネル間の間隔Δchが100μmであるときの電圧Vと距離bとの関係を、クロストークの値ごとに示すグラフである。
図8図8は、距離eにより規格化された距離bと最外部のチャンネルの収集効率との関係を、距離eごとに示すグラフである。
図9】距離eが距離bよりも大きい場合における距離eと収集効率との関係を、距離wの値ごとに示すグラフである。
図10】変形例に係る光検出器の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一実施形態に係る光検出器について、図面を参照して説明を行う。なお、図面の説明において、同一は又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、第1方向D1を規定する軸、第1方向D1に交差する第2方向D2を規定する軸、並びに、第1方向D1及び第2方向D2に交差する第3方向を規定する軸からなる直交座標系を示す場合がある。
【0018】
図1は、本実施形態に係る光検出器の模式的な断面図である。図2は、図1に示された光検出器の一部を示す上面図である。図1においては、ハッチングが省略されている。図1及び図2に示される光検出器1は、例えば、HPD(ハイブリッド・フォトディテクタ)であって、一例として蛍光顕微鏡、フローサイトメータ、時間分解計測装置等に利用され得る。
【0019】
光検出器1は、入射面板2、光電面2s、側管3、ステム4、ベース部材5、ピン6、絶縁膜7、及び、半導体素子10を備えている。入射面板2は、表面2aと表面2aの反対側の裏面2bとを含む。例えばガラス等の光透過性の材料によって構成されており、表面2aから入射された光を裏面2bに向けて透過させる。入射面板2は、例えば円形の平板状(すなわち円板状)に形成されている。入射面板2が平板状であるとは、入射面板2における表面2aから裏面2bに向かう方向(第1方向D1)について、一例として、相対的に厚い部分の厚さが、相対的に薄い部分の厚さの130%程度の範囲内であることを意味する。
【0020】
光電面2sは、入射面板2の裏面2bに設けられている。光電面2sは、例えばGaAsのような化合物半導体の薄膜からなる光電変換層を含み、入射面板2を透過した入射光に応じて光電子を放出する。
【0021】
側管3は、例えばセラミック等の絶縁材料によって、両端が開放された管状(ここでは円管状)に形成されている。側管3の一端は、入射面板2によって封止されている。ステム4は、例えばセラミック等の絶縁材料によって板状(ここでは円板状)に形成されており、側管3の他端を封止している。これにより、側管3内に真空領域が形成され得る。側管3の一端と入射面板2との間、及び、側管3の他端とステム4との間には、例えばコバール等からなる接続部材を兼ねた金属部材が介在され、当該金属部材を介して両端に、例えば光電面2sに対してステム4側がGND電位となるように(光電面2sには負の電位、ステム4側が接地電位となるように)、電圧が印加され得る。
【0022】
ベース部材5は、側管3内に位置するようにステム4上に設けられている。ベース部材5は、光電面2sと対向する面である頂面5aを有し、例えばセラミック等の絶縁材料によってステム4から光電面2sに向かって凸状に突出するような直方体状のブロック状に形成されている。複数(例えば後述するチャンネルchと同数)のピン6は、それぞれが半導体素子10で検出した電気信号を外部に出力できるように、ベース部材5に貫設されている。例えば、ピン6の一端は、ベース部材5のステム4と反対側の表面(頂面5a)に至っており、ピン6の他端は、ベース部材5のステム4側の表面から側管3の外部に突出している。なお、ベース部材5は、ステム4と一体に形成されていてもよく、ピン6と半導体素子10とは、配線等の他の導電部材を介して電気的に接続されていてもよい。
【0023】
半導体素子10は、光電面2sから放出された光電子を検出するためのものである。半導体素子10は、第1方向D1に沿って光電面2sに対向するように、ベース部材5の頂面5a上に配置されている。より具体的には、半導体素子10は、裏面10rと表面10sとを含み、裏面10r(すなわち後述する電子入射面11s)が光電面2sに臨むように(表面10sがベース部材5の頂面5a側に臨むように)ベース部材5の頂面5a上に設けられている。半導体素子10は、一例としてバンプ接続によりピン6に電気的に接続されている。半導体素子10は、例えば、AD(Avalanche diode)である。この場合、半導体素子10は、光電面2sからの光電子の入射を受け、電子打ち込みによる増倍を生じさせると共に、アバランシェ増倍によるさらなる増倍を生じさせる。なお、半導体素子10としては、PD(Photo diode)やSiPM(Silicon photomultiplier)、SPAD(Single photon avalanche diode)でもよい。また、本実施形態においては、半導体素子10は裏面照射型の半導体素子を用いている。
【0024】
半導体素子10は、第1部分11と第2部分12とを有する。第1部分11は、光電面2sに対向する面である電子入射面11sを有している。電子入射面11sは、第1方向D1に交差する第2方向D2に沿って互いに離間しつつ配列された複数のチャンネルchを含む。換言すれば、電子入射面11sは、半導体素子10における光電子検出面であり、複数のチャンネルchである感度領域と、個々のチャンネルchの周囲を囲む不感領域と、を含む。なお、不感領域には、隣り合うチャンネルchに対する仕切り部(後述する間隔Δchによって示される領域に相当する部分)や、最外部のチャンネルchと後述する第2部分12との間に設けられた領域(後述する距離wによって示される領域に相当する領域)を含む。半導体素子10は、複数のチャンネルchのそれぞれにおいて、光電子を検出する。第2部分12は、少なくとも第2方向D2における電子入射面11sの両端側に設けられている。本実施形態では、第2部分12は、第1方向D1からみて電子入射面11sを囲むように矩形枠状に形成されている。第2部分12は、電子入射面11sよりも光電面2s側に突出することで第1部分11よりも厚く形成されている。光電面2sと電子入射面11sとの間には、光電面2sから放出された光電子が所望の加速度で電子入射面11sに向かうような電位が印加されており、本実施形態においては、電子入射面11s側がGND電位とされるように(光電面2sが負の電位、電子入射面11s側が接地電位となるように)電圧が印加されている。
【0025】
絶縁膜7は、半導体素子10における少なくとも光電面2sに対向する表面上に設けられている。本実施形態では、絶縁膜7は、半導体素子10、ベース部材5、ステム4、及びピン6の表面上に形成されている。絶縁膜7は、例えば、金属酸化物(例えば酸化アルミニウム)によって100nm以下程度の厚さに形成されることが好ましく、本実施形態では30nm以下程度の厚さに形成されている。これにより、絶縁膜7は、電子入射面11sへの光電子の入射、及び、ピン6の電気的な接続に影響を及ぼさない。絶縁膜7は、例えば、半導体素子10、ベース部材5、ステム4、及びピン6からなるユニットに対してALD(Atomic Layer Deposition)による成膜を行うことで形成され得る。
【0026】
引き続いて、光検出器1の各部の関係について説明する。図3は、図1に示された光検出器の一部拡大図である。図4は、図2に示された半導体素子の一部拡大図である。図4の(a)は図2の領域A1の拡大斜視図であり、図4の(b)は、図2の領域A2の模式的な拡大断面図である。なお、図4の(b)には、光電面2sと電子入射面11sとの間に印加される電圧に応じた等電位面Svが示されている。
【0027】
図3及び図4に示されるように、以下の説明では、第1方向D1における光電面2sと電子入射面11sとの距離を距離bとし、第2方向D2におけるチャンネルchの間隔を間隔Δchとする。また、光電面2sと電子入射面11sとの間に印加された電圧を電圧Vとし、第2方向D2の一方側における電子入射面11sの終端(第2方向D2の一方側の端部)から第2部分12の終端(第2方向D2の一方側の端部)までの距離を距離eとし、第2方向D2の一方側における最外部(最端部)のチャンネルchの終端(第2方向D2の一方側の端部)から第2部分12の始端(第1部分11の第2方向D2の一方側に位置する部分の電子入射面11s側の端部)までの距離を距離wとする。
【0028】
なお、距離wは、最外部のチャンネルchの終端(第2方向D2の一方側の端部)から第2部分12の立ち上がり部分までの距離である。また、距離eは、第2部分12の終端よりもさらに外側に、電子入射面11sと同電位(或いはほぼ同電位)の部材(例えば配線等)が設けられている場合には、その終端までの距離とされ得る。さらに、距離e、及び距離wについては、第2方向D2の他方側についても同様に設定されてもよいし、第3方向D3に沿ってチャンネルchが配列される場合には、第3方向D3についても同様に設定されてもよい。また、チャンネルchは、半導体素子10の内部の半導体領域である電子収集部であり、間隔Δchは、当該電子収集部の間の間隔である。間隔Δchは、電子収集部の縁部に別の半導体領域であるガードリングが形成されている場合には、ガードリングの間の距離であってもよい。
【0029】
光検出器1では、以上のように設定される距離b、電圧V、距離e、及び、距離wは、チャンネルch間のクロストークの抑制、及び、最外部のチャンネルchの電子収集効率の低下抑制の観点から、一定の関係を満たしている。
【0030】
図5は、チャンネル間のクロストークを0%であるときの電圧Vと距離bとの関係を、チャンネル間の間隔Δchの値ごとに示すグラフである。図6は、チャンネル間の間隔Δchが50μmであるときの電圧Vと距離bとの関係を、クロストークの値ごとに示すグラフである。さらに、図7は、チャンネル間の間隔Δchが100μmであるときの電圧Vと距離bとの関係を、クロストークの値ごとに示すグラフである。なお、チャンネルch間のクロストークとは、光電面2sにおける第1方向D1に一のチャンネルchに対向する領域から放出された光電子が、当該一のチャンネルchに隣接する別のチャンネルchに入射することを意味する。
【0031】
図5に示されるように、チャンネルch間のクロストークを0%に抑えるに際しては、それぞれの間隔Δchに対して、電圧Vと距離bとの間に一定の関係があることが見いだされた。また、図6及び図7に示されるように、図5に示される電圧Vと距離bとの関係は、許容されるクロストークが0%~20%の各値とした場合であっても、同様の傾向がある。よって、光検出器1では、クロストークを20%程度に抑制する場合には、下記式(1)を満たす。換言すれば、光検出器1では、下記式(1)を満たすことにより、チャンネルch間のクロストークを20%程度に抑制できるのである。
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<14.4×電圧V[kV]+60…(1)
【0032】
一方、図8は、距離eにより規格化された距離bと最外部のチャンネルの収集効率との関係を、距離eごとに示すグラフである。図8に示されるように、収集効率の条件が最も厳しい距離e=1[mm]である場合であっても、距離bが1[mm]~4[mm]程度の範囲において、80%以上の収集効率が得られることが確認された。よって、光検出器1では、最外部のチャンネルchの電子の収集効率を80%以上とする場合であって、距離eが距離bよりも小さい場合、下記式(2)を満たす。換言すれば、光検出器1では、下記式(2)を満たすことにより、最外部のチャンネルchの電子の収集効率が80%以上に確保される。
距離b[mm]/4<距離e[mm]<距離b[mm]…(2)
【0033】
他方、図9は、距離eが距離bよりも大きい場合における距離eと収集効率との関係を、距離wの値ごとに示すグラフである。図9では、距離W=0[mm]、0.2[mm]、0.4[mm]、0.5[mm]、0.6[mm]、0.8[mm]、1[mm]のそれぞれの場合が図示されている。図9に示されるように、光検出器1では、距離eが距離bよりも大きい場合、距離wが0.2[mm]以上であると、各距離eに対して95%以上の収集効率が得られている。したがって、光検出器1では、下記式(3)を満たすことで、電子の収集効率の低下が抑制される。
距離b[mm]<距離e[mm]、且つ、距離w[mm]>0.2[mm]…(3)
【0034】
なお、上記式(1)は、チャンネルch間のクロストークを20%程度に抑制するために要求されるものである。したがって、光検出器1では、チャンネルch間のクロストークをより低く抑制するためには、下記式(4)~(6)を満たすことができる。光検出器1では、下記式(4)を満たすことで、クロストークを10%程度に抑制することができ、下記式(5)を満たすことで、クロストークを3%程度に抑制することができ、下記式(6)を満たすことで、クロストークを0%程度に抑制することができる。
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<13.2×電圧V[kV]+55…(4)
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<12.4×電圧V[kV]+51.5…(5)
距離b[mm]/間隔Δch[mm]<12×電圧V[kV]+50…(6)
【0035】
なお、距離bは、一例として、0[mm]~20[mm]とすることができる。距離bは、0.5[mm]~10[mm]であることが好ましく、1[mm]~6[mm]であることがより好ましい。電圧Vは、一例として、0.1[kV]~8[kV]とすることができる。電圧Vは、1[kV]~7[kV]であることが好ましく、2[kV]~6[kV]であることがより好ましい。間隔Δchは、一例として、0.01[mm]~0.5[mm]とすることができる。間隔Δchは、0.01[mm]~0.3[mm]であることが好ましく、0.03[mm]~0.2[mm]であることがより好ましい。
【0036】
距離eは、一例として、0.1[mm]~10[mm]とすることができる。距離eは、1[mm]~5[mm]であることが望ましく、1[mm]~3[mm]であることがより好ましい。距離wは、一例として、0[mm]~10[mm]とすることができる。距離wは、0[mm]~1[mm]であることが望ましく、0[mm]~0.3[mm]であることがより好ましい。クロストークは、20%程度とすることができ、10%程度であることが好ましく、3%程度、或いは0%程度であることがより好ましい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る光検出器1では、光電面2sから放出された光電子を検出するための半導体素子10が、互いに離間しつつ配列された複数のチャンネルchを含む電子入射面11sを有する第1部分11を有している。そして、光検出器1では、光電面2sと電子入射面11sとの距離b、チャンネルchの配列方向(第2方向)におけるチャンネルchの間隔Δch、光電面2sと電子入射面11sとの間に印加された電圧Vが、上記式(1)を満たす。これにより、光電面2sと電子入射面11sとの間の電圧Vと、光電面2sから電子入射面11sまでの距離bに応じた電子の軌道の拡がりに応じてチャンネルch間の間隔Δchが適切に設定されることで、チャンネルch間のクロストークが抑制される。
【0038】
また、光検出器1では、半導体素子10が、少なくともチャンネルchの配列方向における電子入射面11sの両端側に設けられ、電子入射面11sよりも光電面2s側に突出することで第1部分11よりも厚く形成された第2部分12を有している。そして、光検出器1では、電子入射面11sの終端から第2部分12の終端までの距離e、最外部のチャンネルchの終端から第2部分12の始端までの距離wが、上記式(2)又は上記式(3)を満たす。これにより、光電面2sと電子入射面11sとの間の等電位面Svに対して、電子入射面11sから第2部分12にかけて歪みが生じていても、最外部のチャンネルchにおける電子の収集効率の低下が抑制される。以上のように、光検出器1によれば、チャンネルch間のクロストーク及び電子の収集効率の低下を抑制可能である。
【0039】
また、光検出器1は上記式(4)~(6)を満たすことができる。この場合、チャンネル間のクロストークを確実に抑制可能である。
【0040】
また、光検出器1は、入射面板2により一端が封止された側管3と、側管3の他端を封止するステム4と、ステム4上に設けられた絶縁性のベース部材5と、を備えている。そして、半導体素子10は、電子入射面11sが光電面2s側に臨むようにベース部材5上に設けられている。このため、側管3、入射面板2、及び、ベース部材5の各部の寸法の設定によって、例えば上記式を満たすような距離bを実現することが可能となる。
【0041】
さらに、光検出器1は、半導体素子10における少なくとも光電面2sに対向する面上に設けられ、100nm以下の厚さを有する絶縁膜7を備える。このため、少なくとも半導体素子10の表面に形成された絶縁膜7によって、半導体素子10に光電子が打ち込まれることで発生してイオン化したガスが光電面2sに戻ること(イオンフィードバック)が抑制される。
【0042】
以上の実施形態は、本発明に係る光検出器の一側面を説明したものである。したがって、本発明に係る光検出器は、上記実施形態に限定されず、任意に変形され得る。
【0043】
例えば、上記実施形態では、入射面板2が平板状である場合について例示した。しかし、光検出器は、図10に示されるように、平板状ではなく、光電面2sの形成領域が半導体素子10に向かって突出する凸部となるような形状の入射面板2Aを備える光検出器1Aであってもよい。光検出器1Aは、上記実施形態に係る光検出器1と比較して、入射面板2に代えて入射面板2Aを備える点において相違しており、他の点で一致している。
【0044】
入射面板2Aは、平板状の第1部分21と、第1部分21から突出した第2部分22と、を含む。第1部分21は、表面2aと裏面2bとを有し、例えば、上記実施形態に係る入射面板2と同様に円形の平板状に形成されている。第2部分22は、裏面2bから第1方向D1に(すなわち半導体素子10側に向かって)突出しており、例えば円錐台状に形成されている。光電面2sは、第2部分22における電子入射面11sに臨む面上に設けられている。
【0045】
入射面板2Aにおいては、第1方向D1からみたとき、第1部分21と第2部分22とが重複する部分が相対的に厚い部分であり、第1部分21における第2部分22から露出した部分が相対的に薄い部分となる。そして、相対的に厚い部分の第1方向D1に沿っての厚さは、相対的に薄い部分の第1方向D1の厚さの130%よりも厚い。このように、入射面板2Aが平板状でない場合であっても、上記の各式を満たすことで、チャンネルch間のクロストーク及び電子の収集効率の低下を抑制可能である。なお、光検出器1,1Aは、絶縁膜7を有していなくてもよい。
【0046】
また、本実施形態においては、光電面2sとして、化合物半導体の薄膜からなる光電変換層を含むものを例示したが、光電面2sは、アルカリ金属を含む光電変換層を含んでもよい。また、本実施形態においては、ベース部材5として、例えばセラミック等の絶縁材料によってステム4から光電面2sに向かって凸状に突出するような直方体状のブロック状に形成されているものを例示したが、ベース部材5は、例えばセラミック等の絶縁材料によって形成された板状部材であってもよい。この場合、ベース部材5を所望の位置に固定するための固定部がステム4に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1,1A…光検出器、2…入射面板、3…側管、4…ステム、5…ベース部材、7…絶縁膜、10…半導体素子、11…第1部分、11s…電子入射面、12…第2部分、b,e,w…距離、ch…チャンネル、V…電圧。
【要約】
【課題】チャンネル間のクロストーク及び電子の収集効率の低下を抑制可能な光検出器を提供する。
【解決手段】光検出器1は、入射光に応じて光電子を放出する光電面2sが形成された入射面板2と、光電面2sに対向するように配置され、光電面2sから放出された光電子を検出するための半導体素子10と、を備える。半導体素子10は、光電面2sに対向すると共に、互いに離間しつつ配列された複数のチャンネルchを含む電子入射面11sを有する第1部分11を有する。光電面2sと電子入射面11sとの距離b、チャンネルchの間隔Δchし、光電面2sと電子入射面11sとの間に印加された電圧Vが、下記式(1)を満たす。距離b[mm]/間隔Δch[mm]<14.4×電圧V[kV]+60…(1)。
【選択図】図3
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図10