(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/06 20060101AFI20241105BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241105BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241105BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H01L29/78 652P
H01L29/06 301F
H01L29/06 301V
H01L29/78 652Q
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 652K
H01L29/78 652M
H01L29/78 653A
H01L29/78 652H
H01L29/78 658H
H01L21/322 K
H01L21/322 L
(21)【出願番号】P 2023198842
(22)【出願日】2023-11-24
(62)【分割の表示】P 2020153263の分割
【原出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100200104
【氏名又は名称】渡邊 実
(72)【発明者】
【氏名】可知 剛
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-504697(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168733(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0097041(US,A1)
【文献】特開2012-129544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0197418(US,A1)
【文献】特開2011-124576(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0133272(US,A1)
【文献】特表2007-512699(JP,A)
【文献】特表2005-528804(JP,A)
【文献】国際公開第2016/120999(WO,A1)
【文献】特開2015-213193(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100997(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/06
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 21/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極に接続された第1導電形の第1半導体層と、
前記第1半導体層上に設けられ、下端から上方向に向かうにつれて不純物濃度が漸減する領域を有し、前記領域において上下方向の前記不純物濃度のプロファイルを示す曲線の接線の傾きの絶対値が第1位置において極小となる、前記第1導電形の第2半導体層と、
前記第2半導体層上に設けられた第2導電形の第3半導体層と、
前記第3半導体層上に設けられた前記第1導電形の第4半導体層と、
前記第3半導体層及び前記第4半導体層に接続された第2電極と、
前記第4半導体層から前記第2半導体層に向かって延び、前記第3半導体層と隣り合うゲート電極と、
前記第4半導体層から前記第2半導体層に向かう方向に延び、前記ゲート電極より下方まで延び、前記第2半導体層と隣り合うフィールドプレート電極と、
前記ゲート電極と前記第3半導体層との間、前記フィールドプレート電極と前記第2半導体層との間、及び前記ゲート電極と前記フィールドプレート電極との間に設けられ、下端が、前記不純物濃度が前記第1位置の前記不純物濃度の半分となる第2位置よりも下方に位置する絶縁膜と、
を備える半導体装置。
【請求項2】
前記絶縁膜の下端から前記フィールドプレート電極の下端までの第1距離が、前記絶縁膜の下端から前記第1半導体層までの第2距離よりも大きい、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1距離は、前記フィールドプレート電極の側面と前記絶縁膜の側面との第3距離よりも大きい、
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記領域において、前記曲線の接線の傾きの絶対値は、少なくとも2つの極大値を有する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記領域において、前記第2位置よりも下方向に再結合中心が設けられる、
請求項4に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等の半導体装置は、ボディダイオードを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、ボディダイオードの逆回復特性を改善した半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の半導体装置は、第1電極と、前記第1電極に接続された第1導電形の第1半導体層と、前記第1半導体層上に設けられ、下端から上方向に向かうにつれて不純物濃度が漸減する領域を有し、前記領域において上下方向の前記不純物濃度のプロファイルを示す曲線の接線の傾きの絶対値が第1位置において極小となる、前記第1導電形の第2半導体層と、前記第2半導体層上に設けられた第2導電形の第3半導体層と、前記第3半導体層上に設けられた前記第1導電形の第4半導体層と、前記第3半導体層及び前記第4半導体層に接続された第2電極と、前記第4半導体層から前記第2半導体層に向かって延び、前記第3半導体層と隣り合うゲート電極と、前記第4半導体層から前記第2半導体層に向かう方向に延び、前記ゲート電極より下方まで延び、前記第2半導体層と隣り合うフィールドプレート電極と、前記ゲート電極と前記第3半導体層との間、前記フィールドプレート電極と前記第2半導体層との間、及び前記ゲート電極と前記フィールドプレート電極との間に設けられ、下端が、前記不純物濃度が前記第1位置の前記不純物濃度の半分となる第2位置よりも下方に位置する絶縁膜と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1の破線Aで囲まれた領域を拡大して示す上面図である。
【
図6】
図6(a)は、横軸に上下方向における位置をとり、縦軸に対数スケールで不純物濃度をとり、
図3のE-E’線上の不純物濃度分布を示すグラフであり、
図6(b)は、横軸に上下方向における位置を取り、縦軸に
図6(a)に示す曲線の接線の絶対値を取り、
図6(a)に示す曲線の接線の傾きの絶対値の変化を示すグラフである。
【
図7】第1の実施形態に係る半導体装置の利用例を示す回路図である。
【
図8】参考例に係る半導体装置を示す断面図である。
【
図9】
図9(a)は、横軸に時間をとり、第1縦軸に電流をとり、第2縦軸に電圧をとり、第1の実施形態に係る半導体装置及び参考例に係る半導体装置の逆回復特性のシミュレーションを示すグラフであり、
図9(b)は、
図9(a)の一部を拡大して示すグラフである。
【
図10】
図10(a)~
図10(d)は、参考例に係る半導体装置におけるホールの濃度分布のシミュレーション結果を示すマップであり、
図10(e)~
図10(h)は、第1の実施形態に係る半導体装置におけるホールの濃度分布のシミュレーション結果を示すマップである。
【
図11】第2の実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<第1の実施形態>
先ず、第1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
図2は、
図1の破線Aで囲まれた領域を拡大して示す上面図である。
図3は、
図2のB-B’線における断面図である。
図4は、
図2のC-C’線における断面図である。
図5は、
図2のD-D’線における断面図である。
【0008】
本実施形態に係る半導体装置100は、MOSFETである。半導体装置100は、
図3を参照して概説すると、ドレイン電極(第1電極)110と、n
+ドレイン層(第1半導体層)120と、n半導体層(第2半導体層)130と、pベース拡散層(第3半導体層)140と、n
+ソース拡散層(第4半導体層)150と、ソース電極(第2電極)160と、ゲート電極170と、フィールドプレート電極180と、を備える。
【0009】
以下、半導体装置100の各部について詳述する。以下では、説明をわかりやすくするために、XYZ直交座標系を用いる。ドレイン電極110からソース電極160に向かう方向を「Z方向」とする。また、Z方向と直交する一の方向を「X方向」とする。また、Z方向及びX方向と直交する一の方向を「Y方向」とする。また、Z方向を「上方向」といい、Z方向の逆方向を「下方向」という。
【0010】
また、以下において、n+、nの表記は、各導電形における不純物濃度の相対的な高低を表す。具体的には、「+」が付されている表記は、「+」が付されていない表記よりも不純物濃度が相対的に高いことを表す。ここで、「不純物濃度」とは、それぞれの領域にドナーとなる不純物とアクセプターとなる不純物の両方が含まれている場合には、それらの不純物が相殺した後の正味の不純物濃度を表す。
【0011】
ドレイン電極110の形状は、
図1に示すように、略平板状である。ドレイン電極110上には、
図3に示すように、n
+ドレイン層120が設けられている。
【0012】
n+ドレイン層120は、ドレイン電極110に接続されている。n+ドレイン層120は、例えばシリコン基板にドナーとなる不純物を添加することにより形成できる。n+ドレイン層120上には、n半導体層130が設けられている。
【0013】
n半導体層130は、nバッファ領域(第1領域)131と、nバッファ領域131上に設けられたnドリフト領域(第2領域)132と、を有する。nバッファ領域131の不純物濃度は、n+ドレイン層120の不純物濃度よりも低い。nドリフト領域132の不純物濃度は、nバッファ領域131の不純物濃度よりも低い。
【0014】
n半導体層130の上には、pベース拡散層140が設けられている。pベース拡散層140上には、n+ソース拡散層150が設けられている。
【0015】
n半導体層130、pベース拡散層140、及びn
+ソース拡散層150には、複数のトレンチTが設けられている。各トレンチTは、
図2に示すように、Y方向に延びている。複数のトレンチTは、X方向に配列している。
【0016】
各トレンチTは、
図3に示すように、n
+ソース拡散層150の上面150aから下方に向かって延びており、n半導体層130のnバッファ領域131に到達している。ただし、トレンチは、nバッファ領域に到達していなくてもよい。また、各トレンチTの下端は、n
+ドレイン層120から離隔している。ただし、トレンチは、n
+ドレイン層に到達していてもよい。また、各トレンチTの下部は、丸まっている。ただし、各トレンチTの下部は丸まっていなくてもよい。
【0017】
pベース拡散層140及びn+ソース拡散層150は、複数のトレンチTによって複数の領域Sに区画されている。複数の領域Sは、X方向に配列している。
【0018】
各トレンチT内には、ゲート電極170、フィールドプレート電極180、及び絶縁膜191が設けられている。
【0019】
本実施形態にでは、一つのトレンチT内にゲート電極170が2つ設けられている。2つのゲート電極170は、各トレンチTの上端に配置されており、X方向において互いに離隔している。各ゲート電極170は、pベース拡散層140及びn+ソース拡散層150とX方向において隣り合っている。各ゲート電極170は、Y方向に延びている。
【0020】
各トレンチT内において、フィールドプレート電極180の上端部は、2つのゲート電極170の間に配置されている。フィールドプレート電極180の下端は、ゲート電極170の下端よりも下方に位置する。フィールドプレート電極180は、n半導体層130のnドリフト領域132とX方向において隣り合っている。各フィールドプレート電極180は、Y方向に延びている。
【0021】
このように、半導体装置100には、フィールドプレート電極180が設けられている。そのため、n半導体層130内における電界の集中を抑制できる。その結果、半導体装置100の耐圧を向上させることができる。
【0022】
絶縁膜191は、各トレンチT内において、ゲート電極170とpベース拡散層140との間、ゲート電極170とn+ソース拡散層150との間、フィールドプレート電極180とn半導体層130との間、及び第3電極とフィールドプレート電極180との間に設けられている。絶縁膜191は、例えばシリコン酸化物又はシリコン窒化物等の絶縁材料からなる。
【0023】
フィールドプレート電極180の下端と絶縁膜191の下端との第1距離D1は、絶縁膜191とn+ドレイン層120との第2距離D2よりも長い。また、第1距離D1は、フィールドプレート電極180の側面と絶縁膜191の側面との第3距離D3よりも長い。第1距離D1は、第3距離D3の2倍以上であることが好ましい。また、第1距離D1は、隣り合う2つのトレンチT(又は絶縁膜191)同士の第4距離D4よりも長い。
【0024】
また、前述したように、各トレンチT(又は絶縁膜191)の下端は、n半導体層130のnバッファ領域131に達している。そのため、絶縁膜191の下端は、nバッファ領域131の上端よりも下方に位置する。
【0025】
n+ソース拡散層150及び絶縁膜191上には、絶縁膜192が設けられている。絶縁膜192は、例えば絶縁膜191と同様の材料からなる。
【0026】
絶縁膜192上には、
図1及び
図2に示すように、ソース電極パッド161及びゲート電極パッド171が設けられている。ゲート電極パッド171は、上面視でソース電極パッド161を囲むように配置されている。なお、
図1及び
図2では、説明をわかりやすくするために、ソース電極パッド161とゲート電極パッド171が設けられている領域を相互に異なるドットのパターンで示している。
【0027】
絶縁膜192、n
+ソース拡散層150、及びpベース拡散層140には、
図3に示すように、絶縁膜192の上面から下方に向かって延びた複数のトレンチ192aが設けられている。各トレンチ192a(又は絶縁膜192)は、ソース電極パッド161の直下に配置されている。複数のトレンチ192a(又は絶縁膜192)は、X方向に配列されている。各トレンチ192a(又は絶縁膜192)は、
図2に示すように、Y方向に延びている。
【0028】
各トレンチ192a内には、
図3に示すように、ソース電極160が設けられている。ソース電極160は、pベース拡散層140及びn
+ソース拡散層150に接続されている。
【0029】
また、絶縁膜191、192には、
図4に示すように、複数のフィールドプレート電極180を個別に露出する複数の開口192bが設けられている。各開口192bは、フィールドプレート電極180の直上であって、ソース電極パッド161の直下に位置する。また、複数の開口192bは、X方向に配列している。また、各開口192bは、
図2に示すようにY方向において、トレンチ192aよりも外側に位置する。
【0030】
各開口192b内には、
図4に示すように、導電性の接続部材181が設けられている。導電性の接続部材181は、フィールドプレート電極180及びソース電極パッド161に接続されている。
【0031】
また、絶縁膜191、192には、
図5に示すように、複数のゲート電極170を個別に露出する複数の開口192cが設けられている。各開口192cは、ゲート電極170の直上であって、ゲート電極パッド171の直下に位置する。
【0032】
各開口192b内には、導電性の接続部材172が設けられている。導電性の接続部材172は、ゲート電極170及びゲート電極パッド171に接続されている。
【0033】
半導体装置100において、n半導体層130及びpベース拡散層140は、ボディダイオード100bを構成する。
【0034】
次に、n半導体層130の上下方向の不純物濃度分布について説明する。
図6(a)は、横軸に上下方向における位置をとり、縦軸に対数スケールで不純物濃度をとり、
図3のE-E’線上の不純物濃度分布を示すグラフであり、
図6(b)は、横軸に上下方向における位置を取り、縦軸に
図6(a)に示す曲線の接線の傾きの絶対値を取り、
図6(a)に示す曲線の接線の傾きの絶対値の変化を示すグラフである。
【0035】
n+ドレイン層120の不純物濃度は、概ね一定である。n半導体層130の不純物濃度は、n+ドレイン層120の不純物濃度よりも低い。
【0036】
また、n半導体層130は、本実施形態では、n半導体層130の下端130aから上方向に向かうにつれて不純物濃度が漸減する領域F1と、領域F1上に位置し、上下方向の各位置において不純物濃度が略一定の領域F2と、領域F2上に位置し、上方向に向かうにつれて不純物濃度が漸減する領域F3と、を含む。
【0037】
領域F1では、上方向に向かうにつれて、先ず不純物濃度が急激に減少し、次に不純物濃度の減少が緩やかになり、再び不純物濃度の減少率が高まる。したがって、領域F1の上下方向の不純物濃度のプロファイルを示す曲線Gの接線の傾きの絶対値は、領域F1の上端130bと下端130aとの間の第1位置P1において極小となる。また、第1位置P1の上方に位置する第2位置P2において、不純物濃度N2が第1位置P1の不純物濃度N1の半分となる。すなわち、N2=N1/2である。
【0038】
n半導体層130において、下端130aから第2位置P2までの領域が、nバッファ領域131に相当する。また、n半導体層130において、第2位置P2からn半導体層130の上端130cまでの領域が、nドリフト領域132に相当する。
【0039】
したがって、nバッファ領域131の不純物濃度は、n+ドレイン層120の不純物濃度よりも低く、nドリフト領域132に不純物濃度は、nバッファ領域131の不純物濃度よりも低い。
【0040】
n半導体層130は、例えば、n
+ドレイン層120上にn形の半導体層をエピタキシャル成長させることにより形成される。この際、不純物ガスの濃度を調整することで、
図6(a)に示すような不純物濃度のn半導体層130を形成することができる。ただし、n半導体層130の上下方向における濃度分布は、
図6(a)に示す濃度分布に限定されない。
【0041】
図7は、本実施形態に係る半導体装置の利用例を示す回路図である。
半導体装置100は、例えば誘導性負荷Lに接続され、誘導性負荷Lに流れる電流を制御するために用いられる。この場合、半導体装置100のボディダイオード100bを、還流ダイオードとして用いる場合がある。具体的には、誘導性負荷Lのスイッチを切り替えた際に、誘導性負荷Lの自己誘導作用により、フライバック電圧が発生する場合がある。ボディダイオード100bを還流ダイオードとして用いた場合、自己誘導作用により生じた電流Irをボディダイオード100bに流すことにより、フライバック電圧が誘導性負荷Lの接続先に印加されることを抑制できる。
【0042】
ボディダイオード100bを還流ダイオードとして用いた場合、ボディダイオード100bのスイッチング時間及びスイッチングロスは、小さいことが好ましい。ボディダイオード100bのスイッチング時間及びスイッチングロスは、ボディダイオード100bの逆回復特性を改善することで小さくできる。
【0043】
ボディダイオード100bを順方向にバイアスした場合、順方向に電流が流れる。これにより、pベース拡散層140から、n半導体層130に少数キャリア(ホール)が注入される。そのため、この状態からボディダイオード100bを逆方向にバイアスした状態に切り替えた場合、注入されたホールがn半導体層130から排出されるまでの、一定の時間、逆方向に電流が流れる。「逆回復特性」とは、このように順方向から逆方向にバイアスを変化させた際のボディダイオードのリカバリ特性を意味する。ここで、「順方向にバイアスする」とは、ソース電極160の電位がドレイン電極110の電位よりも高くなるようにドレイン電極110及びソース電極160に電圧を印加することを意味する。また、「逆方向にバイアスする」とは、ドレイン電極110の電位がソース電極160の電位よりも高くなるようにドレイン電極110及びソース電極160に電圧を印加することを意味する。
【0044】
図8は、参考例に係る半導体装置を示す断面図である。
以下、参考例に係る半導体装置900の逆回復特性と比較しながら、本実施形態に係る半導体装置100の逆回復特性について説明する。参考例に係る半導体装置900は、第1距離D1が、第2距離D2、第3距離D3、及び第4距離D4よりも短い点で、本実施形態に係る半導体装置100と相違する。以下、参考例に係る半導体装置900おけるn半導体層130及びpベース拡散層140を、「ボディダイオード900b」という。
【0045】
図9(a)は、横軸に時間をとり、第1縦軸に電流をとり、第2縦軸に電圧をとり、本実施形態に係る半導体装置及び参考例に係る半導体装置の逆回復特性のシミュレーションを示すグラフであり、
図9(b)は、
図9(a)の一部を拡大して示すグラフである。
図9(a)及び
図9(b)において、「電流」とは、ドレイン電極110とソース電極160との間を流れる電流を意味し、電圧とは、ドレイン電極110とソース電極160との間の電圧を意味する。また、
図9(a)及び
図9(b)では、順方向の電流、すなわちソース電極160からドレイン電極110に向かって流れる電流を正方向としている。また、
図9(a)では、ドレイン電極110の電位がソース電極160の電位よりも高い場合の電圧を正方向としている。
【0046】
先ず、各半導体装置100、900のボディダイオード100b、900bを順方向にバイアスする。これにより、各ボディダイオード100b、900b内を順方向に電流が流れ、pベース拡散層140から、n半導体層130にホールが注入される。次に、時刻txで、各ボディダイオード100b、900bを逆方向にバイアスする。これにより、
図9(a)に示すように、各ボディダイオード100b、900b内を順方向に流れる電流が徐々に減少し、逆方向に電流が流れ始める。そして、逆方向に流れる電流が徐々に減少し、最終的には電流が流れなくなる。すなわち、電流値がゼロに収束する。また、ドレイン電極110とソース電極160との間の電圧は、ドレイン電極110とソース電極160との間に印加されている電圧Vに収束する。
【0047】
以下では、各ボディダイオード100b、900bに、順方向に電流が流れている時刻を「時刻t1」とする。また、逆方向に電流が流れ始めた時刻を「時刻t2」とする。また、参考例におけるボディダイオード900bにおいて逆方向に流れる電流の絶対値が最大となる時刻を「時刻t31」とし、本実施形態におけるボディダイオード100bにおいて逆方向に流れる電流の絶対値が最大となる時刻を「時刻t32」とする。また、参考例におけるボディダイオード900bにおいて、逆方向に流れる電流の絶対値が時刻t31における電流の絶対値の10%となる時刻を「時刻t41」とし、本実施形態におけるボディダイオード100bにおいてが逆方向に流れる電流の絶対値が時刻t32における電流の絶対値の10%となる時刻を「時刻t42」とする。
【0048】
図10(a)~
図10(d)は、参考例に係る半導体装置におけるホールの濃度分布のシミュレーション結果を示すマップであり、
図10(e)~
図10(h)は、本実施形態に係る半導体装置におけるホールの濃度分布のシミュレーション結果を示すマップである。
【0049】
なお、
図10(a)は、参考例に係る半導体装置900の時刻t1におけるホールの濃度分布を示す。
図10(b)は、参考例に係る半導体装置900の時刻t2におけるホールの濃度分布を示す。
図10(c)は、参考例に係る半導体装置900の時刻t31におけるホールの濃度分布を示す。
図10(d)は、参考例に係る半導体装置900の時刻t41におけるホールの濃度分布を示す。また、
図10(e)は、本実施形態に係る半導体装置100の時刻t1におけるホールの濃度分布を示す。
図10(f)は、本実施形態に係る半導体装置100の時刻t2におけるホールの濃度分布を示す。
図10(g)は、本実施形態に係る半導体装置100の時刻t32におけるホールの濃度分布を示す。
図10(h)は、本実施形態に係る半導体装置100の時刻t42におけるホールの濃度分布を示す。
【0050】
時刻t1では、
図10(a)に示すように、順方向に電流が流れ、pベース拡散層140から、n半導体層130にホールが注入される。次に、時刻txで、ボディダイオード900bが逆方向にバイアスされる。これにより、ボディダイオード900b内を順方向に流れる電流が徐々に減少し、逆方向に電流が流れ始める。
【0051】
時刻t2、t31、t41では、ボディダイオード900b内を逆方向に電流が流れている。そのため、
図10(b)~
図10(d)に示すように、n半導体層130内のホールの濃度は徐々に減少する。特に、電流は、上方向に流れているため、ソース電極160に近いn半導体層130の上部においてホールが減少し易い。そのため、
図10(d)に示すように、n半導体層130の上部のホールの濃度は、n半導体層130の下部のホールの濃度、特に、絶縁膜191とn
+ドレイン層120との間の部分のホールの濃度よりも低くなる。このように、n半導体層130の下部では、ホールが減少し難い。
【0052】
これに対して、本実施形態に係る半導体装置100の第1距離D1は、参考例に係る半導体装置900の第1距離D1よりも長い。このため、n半導体層130の下部の体積を減少させることができる。
【0053】
その結果、
図10(a)及び
図10(e)に示すように、本実施形態に係る半導体装置100において時刻t1にn半導体層130内に発生するホールの量は、参考例に係る半導体装置900において時刻t1にn半導体層130内に発生するホールの量よりも少ない。
【0054】
また、本実施形態に係る半導体装置100においては、n半導体層130の下部、すなわち、n半導体層130においてホールが減少し難い部分の体積を減少させている。そのため、
図10(b)~
図10(d)及び
図10(f)~
図10(h)に示すように、本実施形態に係る半導体装置100におけるホールの減少速度は、参考例に係る半導体装置900におけるホールの減少速度よりも早い。
【0055】
また、前述したように、本実施形態に係る半導体装置100において発生するホールの総量は、参考例に係る半導体装置900において発生するホールの総量よりも少ない。そのため、
図9(b)に示すように本実施形態に係る半導体装置100において時刻t32に流れる電流の絶対値は、参考例に係る半導体装置100において時刻t31に流れる電流の絶対値よりも小さくなる。
【0056】
また、本実施形態に係る半導体装置100において、時刻t2から時刻t42までの間に流れる電流の総量Q1は、参考例に係る半導体装置900において時刻t2から時刻t41までの間に流れる電流の総量Q2よりも小さくなる。電流の総量Q1、Q2は、「逆回復電荷」とも呼ばれる。逆回復電荷に電圧を掛け合わせた値が電力のロスに相当するため、逆回復電荷を小さくすることで、ボディダイオード100bのスイッチロスを低減することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る半導体装置100において、時刻t2から時刻t42までの時間Δt2は、参考例に係る半導体装置900において、時刻t2から時刻t41までの時間Δt1よりも短くできる。時間Δt1、Δt2は、「逆回復時間」とも呼ばれる。逆回復時間を短くすることで、ボディダイオード100bのスイッチ時間を短くすることができる。
【0058】
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態に係る半導体装置100において、フィールドプレート電極180の下端と絶縁膜191の下端との第1距離D1は、絶縁膜191とn+ドレイン層120との第2距離D2よりも長い。これにより、n半導体層130の下部の体積を減少させることができる。そのため、n半導体層130において、順方向にバイアスされた際にn半導体層130内に発生するキャリアの総量を低減できる。そのため、逆回復特性を改善した半導体装置100を提供できる。
【0059】
n半導体層130においてトレンチT(又は絶縁膜191の下端)とn+ドレイン層120との間の部分は、半導体装置100をトランジスタとして機能させた際にオン電流が流れ難い部分である。そのため、この部分の体積を低減させたとしても、半導体装置100をトランジスタとして機能させた際のオン抵抗への影響は小さい。その結果、オン抵抗が増加することを抑制しつつ、逆回復特性を改善できる。
【0060】
また、このような半導体装置100においては、n半導体層130の下部の体積を減少させつつ、フィールドプレート電極180がn+ドレイン層120に接近することを抑制できる。そのため、n半導体層130において、トレンチTとn+ドレイン層120との間の部分に電界が集中し、半導体装置100の耐圧が低下することを抑制できる。
【0061】
また、トレンチT(又は絶縁膜191の下端)はnバッファ領域131に到達している。これにより、n半導体層130の下部の体積を減少させることができる。そのため、n半導体層130において、順方向にバイアスされた際にn半導体層130内に発生するキャリアの総量を低減できる。
【0062】
また、第1距離D1は、フィールドプレート電極180の側面と絶縁膜191の側面との第3距離D3よりも長い。これにより、n半導体層130の下部の体積を減少させることができる。そのため、n半導体層130において、順方向にバイアスされた際にn半導体層130内に発生するキャリアの総量を低減できる。
【0063】
また、第1距離D1は、第3距離D3の2倍以上である。これにより、n半導体層130の下部の体積を減少させることができる。そのため、n半導体層130において、順方向にバイアスされた際にn半導体層130内に発生するキャリアの総量を低減できる。
【0064】
また、第1距離D1は、隣り合うトレンチT(又は絶縁膜191)同士の第4距離D4よりも長い。そのため、n半導体層130において、順方向にバイアスされた際にn半導体層130内に発生するキャリアの総量を低減できる。
【0065】
また、本実施形態に係る半導体装置100において、絶縁膜191の下端は、第2位置P2よりも下方に位置する。これにより、n半導体層130の下部の体積を減少させることができる。そのため、n半導体層130において、順方向にバイアスされた際にn半導体層130内に発生するキャリアの総量を低減できる。そのため、逆回復特性を改善した半導体装置100を提供できる。
【0066】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
図11は、本実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
なお、以下の説明においては、原則として、第1の実施形態との相違点のみを説明する。以下に説明する事項以外は、第1の実施形態と同様である。
【0067】
本実施形態に係る半導体装置200において、n半導体層130には、再結合中心230が設けられている。再結合中心230は、例えば、結晶欠陥、又は、不純物元素からなる。結晶欠陥は、例えば、H+又はHe+等のイオンをn半導体層130に注入することにより形成できる。不純物元素は、例えば、チタン(Ti)、白金(Pt)、又は金(Au)等の再結合中心としての機能を有する元素である。再結合中心230は、例えばnバッファ領域131及びnドリフト領域132の両方に設けられている。ただし、再結合中心は、例えばnバッファ領域に設けられ、nドレイン領域には設けられていなくてもよい。
【0068】
以上、本実施形態に係る半導体装置200においては、n半導体層130には、結晶欠陥又は不純物元素が設けられている。そのため、n半導体層130内に発生したホールと電子の再結合が促進される。そのため、逆回復特性を改善した半導体装置200を提供できる。
【0069】
なお、上記実施形態では、第1導電形がn形であり、第2導電形がp形である形態を説明した。ただし、第1導電形がp形であり、第2導電形がn形であってもよい。
【0070】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
100、200:半導体装置
100b、900b:ボディダイオード
110 :ドレイン電極
120 :n+ドレイン層
130 :n半導体層
130a :下端
130b :上端
130c :上端
131 :nバッファ領域
132 :nドリフト領域
140 :pベース拡散層
150 :ソース拡散層
150a :上面
160 :ソース電極
161 :ソース電極パッド
170 :ゲート電極
171 :ゲート電極パッド
172 :接続部材
180 :フィールドプレート電極
181 :接続部材
191 :絶縁膜
192 :絶縁膜
192a :トレンチ
192b :開口
192c :開口
230 :再結合中心
900 :半導体装置
900b :ボディダイオード
D1 :第1距離
D2 :第2距離
D3 :第3距離
D4 :第4距離
F1 :領域
F2 :領域
F3 :領域
Ir :電流
L :誘導性負荷
N1 :不純物濃度
N2 :不純物濃度
P1 :第1位置
P2 :第2位置
Q1 :電流の総量
Q2 :電流の総量
S :領域
T :トレンチ
V :電圧