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特許7581547窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム焼結体、回路基板および接合基板
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  • 特許-窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム焼結体、回路基板および接合基板 図1
  • 特許-窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム焼結体、回路基板および接合基板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム焼結体、回路基板および接合基板
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20241105BHJP
   C04B 35/581 20060101ALI20241105BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20241105BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
C01B21/072 Z
C04B35/581
C04B37/02 B
H05K1/03 610E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024005087
(22)【出願日】2024-01-17
【審査請求日】2024-01-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】内田 靖隆
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/114413(WO,A1)
【文献】特許第7080422(JP,B1)
【文献】特許第7203286(JP,B2)
【文献】特開2017-145182(JP,A)
【文献】特開平01-197306(JP,A)
【文献】特開2003-040674(JP,A)
【文献】特開平09-048669(JP,A)
【文献】NERSISYAN et al.,Combustion Based Synthesis of AlN Nanoparticles Using a Solid Nitrogen Promotion Reaction,J. Am. Ceram. Soc.,米国,2015年12月,Vol.98, No.12,p.3740-3747
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C04B 35/581
C04B 37/02
H05K 1/03
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、
前記窒化アルミニウム粉末の、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有し、
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、波数が1250cm-1以上1450cm-1以下の範囲(C)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iが0.020以下である窒化アルミニウム粉末。
(条件)
レーザー波長:532nm
対物レンズ倍率:20倍
グレーティング:300Gr/mm
スリット幅:50μm
露光時間:1秒間
露光回数:10回
【請求項2】
前記ラマン分光スペクトルにおいて、前記範囲(C)にピークを有さない、請求項1に記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項3】
窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、
前記窒化アルミニウム粉末の、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有し、
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、波数が1500cm-1以上1700cm-1以下の範囲(D)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iが0.020以下である窒化アルミニウム粉末。
(条件)
レーザー波長:532nm
対物レンズ倍率:20倍
グレーティング:300Gr/mm
スリット幅:50μm
露光時間:1秒間
露光回数:10回
【請求項4】
前記ラマン分光スペクトルにおいて、前記範囲(D)にピークを有さない、請求項3に記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項5】
窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、
前記窒化アルミニウム粉末の、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有し、
前記窒化アルミニウム粉末のレーザー回折散乱法による体積基準のメジアン径D50が0.50μm以上5.00μm以下である窒化アルミニウム粉末。
(条件)
レーザー波長:532nm
対物レンズ倍率:20倍
グレーティング:300Gr/mm
スリット幅:50μm
露光時間:1秒間
露光回数:10回
【請求項6】
窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、
前記窒化アルミニウム粉末の、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有し、
前記窒化アルミニウム粉末のレーザー回折散乱法による体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D10、90%となる粒子径D90、メジアン径D50について、(D90-D10)/D50の値が3.00以下である窒化アルミニウム粉末。
(条件)
レーザー波長:532nm
対物レンズ倍率:20倍
グレーティング:300Gr/mm
スリット幅:50μm
露光時間:1秒間
露光回数:10回
【請求項7】
窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、
前記窒化アルミニウム粉末の、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有し、
前記窒化アルミニウム粉末のISO9277に準拠してBET一点法により測定される比表面積が1.00m/g以上5.00m/g以下である窒化アルミニウム粉末。
(条件)
レーザー波長:532nm
対物レンズ倍率:20倍
グレーティング:300Gr/mm
スリット幅:50μm
露光時間:1秒間
露光回数:10回
【請求項8】
窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、
前記窒化アルミニウム粉末の、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有し、
前記窒化アルミニウム粉末中の酸素/窒素同時分析装置を用いて測定される酸素量が0.50質量%以上0.90質量%以下である窒化アルミニウム粉末。
(条件)
レーザー波長:532nm
対物レンズ倍率:20倍
グレーティング:300Gr/mm
スリット幅:50μm
露光時間:1秒間
露光回数:10回
【請求項9】
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、前記範囲(A)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iが0.020以上0.200以下である、請求項1~のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項10】
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、前記範囲(B)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iが0.030以上0.400以下である、請求項1~のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項11】
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)に2つ以上のピークをさらに有する、請求項1~のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
【請求項12】
下記の方法による熱伝導率が120W/(m・K)以上である、請求項1~のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
(方法)
前記窒化アルミニウム粉末100質量部、酸化イットリウム粉末4質量部、酸化アルミニウム粉末3質量部、セルロースエーテル系バインダー6質量部、グリセリン5質量部、イオン交換水10質量部を混合して成形材料を得る。次いで、前記成形材料をシート状に成形し、空気中において570℃で5時間加熱して脱脂した後、窒素ガス雰囲気下、大気圧、1800℃の条件で4時間加熱して窒化アルミニウム焼結体を得る。次いで、前記窒化アルミニウム焼結体について、JIS R1611:2010に準拠し、23℃の条件でレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定する。
【請求項13】
請求項1~のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末を含む窒化アルミニウム焼結体。
【請求項14】
請求項13に記載の窒化アルミニウム焼結体と、導体部と、を備える回路基板。
【請求項15】
請求項13に記載の窒化アルミニウム焼結体と、金属板と、を備える接合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム焼結体、回路基板および接合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム粉末を含む焼結体は、回路基板や接合基板に用いられることがある。
特許文献1には、従来品よりも極めて低酸素で、放熱部材の充填材として用いたときに優れた高熱伝導率を示す窒化アルミニウム粉末を提供することを目的として、中空の窒化アルミニウム質粒子を、窒素を含む還元雰囲気下、1900℃~2200℃で加熱することによって得られる、酸素量が0.2質量%以下及び平均粒子径が10~50μmである窒化アルミニウム粉末が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-284315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、熱伝導性が向上した窒化アルミニウム粉末を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、前記窒化アルミニウム粉末について、特定の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有する窒化アルミニウム粉末が、熱伝導性を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明によれば、以下に示す窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム焼結体、回路基板および接合基板が提供される。
【0007】
[1]
窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、
前記窒化アルミニウム粉末の、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有する窒化アルミニウム粉末。
(条件)
レーザー波長:532nm
対物レンズ倍率:20倍
グレーティング:300Gr/mm
スリット幅:50μm
露光時間:1秒間
露光回数:10回
[2]
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、波数が1250cm-1以上1450cm-1以下の範囲(C)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iが0.020以下である、[1]に記載の窒化アルミニウム粉末。
[3]
前記ラマン分光スペクトルにおいて、前記範囲(C)にピークを有さない、[2]に記載の窒化アルミニウム粉末。
[4]
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、波数が1500cm-1以上1700cm-1以下の範囲(D)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iが0.020以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[5]
前記ラマン分光スペクトルにおいて、前記範囲(D)にピークを有さない、[4]に記載の窒化アルミニウム粉末。
[6]
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、前記範囲(A)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iが0.020以上0.200以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[7]
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、前記範囲(B)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iが0.030以上0.400以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[8]
前記ラマン分光スペクトルにおいて、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)に2つ以上のピークをさらに有する、[1]~[7]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[9]
前記窒化アルミニウム粉末のレーザー回折散乱法による体積基準のメジアン径D50が0.50μm以上5.00μm以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[10]
前記窒化アルミニウム粉末のレーザー回折散乱法による体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D10、90%となる粒子径D90、メジアン径D50について、(D90-D10)/D50の値が3.00以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[11]
前記窒化アルミニウム粉末のISO9277に準拠してBET一点法により測定される比表面積が1.00m/g以上5.00m/g以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[12]
前記窒化アルミニウム粉末中の酸素/窒素同時分析装置を用いて測定される酸素量が0.50質量%以上0.90質量%以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[13]
六方晶の窒化アルミニウム一次粒子を含む、[1]~[12]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
[14]
下記の方法による熱伝導率が120W/(m・K)以上である、[1]~[13]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末。
(方法)
前記窒化アルミニウム粉末100質量部、酸化イットリウム粉末4質量部、酸化アルミニウム粉末3質量部、セルロースエーテル系バインダー6質量部、グリセリン5質量部、イオン交換水10質量部を混合して成形材料を得る。次いで、前記成形材料をシート状に成形し、空気中において570℃で5時間加熱して脱脂した後、窒素ガス雰囲気下、大気圧、1800℃の条件で4時間加熱して窒化アルミニウム焼結体を得る。次いで、前記窒化アルミニウム焼結体について、JIS R1611:2010に準拠し、23℃の条件でレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定する。
[15]
[1]~[14]のいずれかに記載の窒化アルミニウム粉末を含む窒化アルミニウム焼結体。
[16]
[15]に記載の窒化アルミニウム焼結体と、導体部と、を備える回路基板。
[17]
[15]に記載の窒化アルミニウム焼結体と、金属板と、を備える接合基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱伝導性が向上した窒化アルミニウム粉末を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の接合基板の構造の一例を模式的に示す斜視図である。
図2】本実施形態の回路基板の構造の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。
図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0011】
本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は、特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0012】
<窒化アルミニウム粉末>
本実施形態の窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトル(S)において、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有する。
(条件)
レーザー波長:532nm
対物レンズ倍率:20倍
グレーティング:300Gr/mm
スリット幅:50μm
露光時間:1秒間
露光回数:10回
【0013】
本発明者の検討によれば、窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末において、窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトルにおける波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲のピークおよび800cm-1以上1000cm-1以下の範囲のピークと、熱伝導性との間に関連性があることを見出した。
【0014】
本発明者が上記知見をもとにさらに検討を重ねた結果、レーザー波長532nm、対物レンズ倍率20倍、グレーティング300Gr/mm、スリット幅50μm、露光時間1秒間、露光回数10回の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有することによって、窒化アルミニウム粉末の熱伝導性を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末は、ラマン分光スペクトル(S)において、好ましくは波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)に1つ以上のピークをさらに有し、より好ましくは範囲(X)に2つ以上のピークをさらに有し、さらに好ましくは範囲(X)に3つ以上のピークをさらに有し、さらに好ましくは範囲(X)に3つのピークをさらに有する。
【0016】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iは、好ましくはラマン分光スペクトル(S)が有するピークのピーク強度の中で最も大きい。
【0017】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)では、各ピークのピーク強度の大きさは、例えば、範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する相対値として評価することができる。
【0018】
本明細書中おいて、ラマン分光スペクトル(S)における波数がP(cm-1)以上Q(cm-1)以下の範囲における最大ピークのピーク強度は、P(cm-1)における散乱強度とQ(cm-1)における散乱強度の平均値をベースラインとしたときの、ベースラインと最大ピークの散乱強度との差分を意味する。
【0019】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iは、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは0.020以上0.200以下、より好ましくは0.025以上0.150以下、さらに好ましくは0.030以上0.100以下、さらに好ましくは0.040以上0.070以下、さらに好ましくは0.045以上0.065以下、さらに好ましくは0.050以上0.060以下である。
【0020】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、波数が800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iは、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは0.030以上0.400以下、より好ましくは0.040以上0.300以下、さらに好ましくは0.050以上0.200以下、さらに好ましくは0.060以上0.150以下、さらに好ましくは0.070以上0.120以下、さらに好ましくは0.080以上0.100以下である。
【0021】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、波数が1250cm-1以上1450cm-1以下の範囲(C)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iは、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは0.020以下、より好ましくは0.015以下、さらに好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.005以下、さらに好ましくは0.001以下である。本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、I/Iの下限値は特に制限されないが、例えば、0.000以上であってもよい。
【0022】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、熱伝導性をより向上できる観点から、波数が1250cm-1以上1450cm-1以下の範囲(C)にピークを有さないことがさらに好ましい。
【0023】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、波数が500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)における最大ピークのピーク強度Iに対する、波数が1500cm-1以上1700cm-1以下の範囲(D)における最大ピークのピーク強度Iの比I/Iは、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは0.020以下、より好ましくは0.015以下、さらに好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.005以下、さらに好ましくは0.001以下である。本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、I/Iの下限値は特に制限されないが、例えば、0.000以上であってもよい。
【0024】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトル(S)において、熱伝導性をより向上できる観点から、波数が1500cm-1以上1700cm-1以下の範囲(D)にピークを有さないことがさらに好ましい。
【0025】
本発明者の検討によれば、窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末において、窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトルにおける波数が1250cm-1以上1450cm-1以下の範囲のピークおよび1500cm-1以上1700cm-1以下の範囲のピークと、熱伝導性との間に関連性があることを見出した。
【0026】
本発明者が上記知見をもとにさらに検討を重ねた結果、レーザー波長532nm、対物レンズ倍率20倍、グレーティング300Gr/mm、スリット幅50μm、露光時間1秒間、露光回数10回の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が1250cm-1以上1450cm-1以下の範囲(C)における最大ピークのピーク強度Iが小さいことによって、または波数が1500cm-1以上1700cm-1以下の範囲(D)における最大ピークのピーク強度Iが小さいことによって、窒化アルミニウム粉末の熱伝導性をより向上できることを見出した。
【0027】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末は、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは窒化アルミニウム一次粒子を含み、より好ましくは六方晶の窒化アルミニウム一次粒子を含む。
【0028】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末中の窒化アルミニウム粒子の含有量は、熱伝導性をより向上できる観点から、窒化アルミニウム粉末の全量を100質量%としたとき、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。本実施形態の窒化アルミニウム粉末中の窒化アルミニウム粒子の含有量の上限値は特に制限されないが、例えば、100質量%以下であってもよい。
【0029】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のレーザー回折散乱法による体積基準のメジアン径D50は、焼結性および成形性の性能バランスをより向上できる観点から、好ましくは0.50μm以上5.00μm以下、より好ましくは0.80μm以上4.00μm以下、さらに好ましくは1.00μm以上3.50μm以下、さらに好ましくは1.50μm以上3.00μm以下である。
【0030】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のレーザー回折散乱法による体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D10は、焼結性および成形性の性能バランスをより向上できる観点から、好ましくは0.10μm以上3.00μm以下、より好ましくは0.20μm以上2.00μm以下、さらに好ましくは0.30μm以上1.00μm以下、さらに好ましくは0.35μm以上0.80μm以下、さらに好ましくは0.40μm以上0.60μm以下である。
【0031】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のレーザー回折散乱法による体積頻度粒度分布において、累積値が90%となる粒子径D90は、焼結性および成形性の性能バランスをより向上できる観点から、好ましくは1.00μm以上20.00μm以下、より好ましくは2.00μm以上15.00μm以下、さらに好ましくは2.50μm以上10.00μm以下、さらに好ましくは3.50μm以上8.00μm以下、さらに好ましくは4.50μm以上6.00μm以下である。
【0032】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のレーザー回折散乱法による体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D10、90%となる粒子径D90、メジアン径D50について、(D90-D10)/D50の値は、焼結性および成形性の性能バランスをより向上できる観点から、好ましくは3.00以下、より好ましくは2.70以下、さらに好ましくは2.50以下、さらに好ましくは2.30以下、さらに好ましくは2.10以下、さらに好ましくは2.00以下である。本実施形態の窒化アルミニウム粉末の(D90-D10)/D50の値の下限値は特に限定されないが、例えば、0.10以上であってもよく、0.50以上であってもよく、1.00以上であってもよく、1.30以上であってもよく、1.50以上であってもよく、1.70以上であってもよい。
【0033】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末のISO9277に準拠してBET一点法により測定される比表面積は、焼結性および成形性の性能バランスをより向上できる観点から、好ましくは1.00m/g以上5.00m/g以下、より好ましくは1.30m/g以上4.00m/g以下、さらに好ましくは1.50m/g以上3.00m/g以下、さらに好ましくは1.70m/g以上2.70m/g以下、さらに好ましくは1.80m/g以上2.30m/g以下である。
【0034】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末の酸素/窒素同時分析装置を用いて測定される酸素量は、熱伝導性をより向上できる観点から、窒化アルミニウム粉末の全量を100質量%としたとき、好ましくは0.50質量%以上0.90質量%以下、より好ましくは0.55質量%以上0.85質量%以下、さらに好ましくは0.60質量%以上0.80質量%以下、さらに好ましくは0.65質量%以上0.75質量%以下である。
【0035】
本実施形態の窒化アルミニウム粉末の下記の方法による熱伝導率は、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは120W/(m・K)以上、より好ましくは130W/(m・K)以上、さらに好ましくは140W/(m・K)以上、さらに好ましくは150W/(m・K)以上、さらに好ましくは155W/(m・K)以上、さらに好ましくは160W/(m・K)以上である。本実施形態の窒化アルミニウム粉末の下記の方法による熱伝導率の上限値は特に制限されないが、例えば、300W/(m・K)以下であってもよく、250W/(m・K)以下であってもよく、200W/(m・K)以下であってもよい。
(方法)
窒化アルミニウム粉末100質量部、酸化イットリウム粉末4質量部、酸化アルミニウム粉末3質量部、セルロースエーテル系バインダー6質量部、グリセリン5質量部、イオン交換水10質量部を混合して成形材料を得る。次いで、成形材料をシート状に成形し、空気中において570℃で5時間加熱して脱脂した後、窒素ガス雰囲気下、大気圧、1800℃の条件で4時間加熱して窒化アルミニウム焼結体を得る。次いで、窒化アルミニウム焼結体について、JIS R1611:2010に準拠し、23℃の条件でレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定する。
【0036】
<窒化アルミニウム粉末の製造方法>
本実施形態の窒化アルミニウム粉末は、原材料の選択、各原材料の使用比率、製造手順・製造条件などを適切に選択することによって得ることができる。具体的には、本実施形態の窒化アルミニウム粉末は、好ましくは、
・原料粉末を準備する準備工程と、
・原料粉末を焼成炉内に導入する導入工程と、
・原料粉末を窒素雰囲気下で焼成して窒化アルミニウム粉末を得る窒化工程と、
・焼成炉内から窒化アルミニウム粉末を回収する回収工程と、
を経ることで製造することができる。また、窒化アルミニウム粉末の製造に際しては、これら以外の追加の工程があってもよい。
【0037】
<準備工程>
本実施形態の準備工程においては、原料粉末を準備する。
本実施形態の原料粉末は、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは金属アルミニウムおよびα-アルミナからなる群より選択される一種または二種を含み、より好ましくは金属アルミニウムを含む。
本実施形態の原料粉末は、α-アルミナを含む場合、好ましくはカーボンブラックをさらに含む。
【0038】
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、原料粉末中の金属アルミニウムの含有量は、熱伝導性をより向上できる観点から、原料粉末の全量を100質量%としたとき、好ましくは95質量%以上100質量%以下、より好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0039】
本実施形態の原料粉末がα-アルミナを含む場合、原料粉末中のα-アルミナの含有量は、熱伝導性をより向上できる観点から、原料粉末の全量を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上65質量%以下、より好ましくは55質量%以上60質量%以下である。
原料粉末中のα-アルミナの含有量を上記範囲内とすることにより、得られる窒化アルミニウム粉末の熱伝導性をより向上させることができる。
【0040】
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、原料粉末は、製造安全性をより向上できる観点から、好ましくは金属アルミニウムのアトマイズ粉を含む。
【0041】
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、原料粉末の平均粒子径は、熱伝導性および製造安全性のバランスをより向上できる観点から、好ましくは17μm以上23μm以下、より好ましくは19μm以上21μm以下である。
原料粉末の平均粒子径を上記上限値以下とすることにより、得られる窒化アルミニウム粉末の熱伝導性をより向上させることができる。
【0042】
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、原料粉末の酸素量は、熱伝導性をより向上できる観点から、原料粉末の全量を100質量%としたとき、好ましくは0.10質量%以上0.25質量%以下、より好ましくは0.20質量%以上0.25質量%以下である。
原料粉末の酸素量を上記上限値以下とすることにより、得られる窒化アルミニウム粉末の熱伝導性をより向上させることができる。
【0043】
本実施形態の原料粉末がα-アルミナを含む場合、原料粉末の平均粒子径は好ましくは0.1μm以上1.5μm以下、より好ましくは0.5μm以上1.0μm以下であり、原料粉末の比表面積は好ましくは2m/g以上8m/g以下、より好ましくは4m/g以上6m/g以下である。
【0044】
本実施形態の準備工程において、原料粉末がα-アルミナおよびカーボンブラックを含む場合、α-アルミナおよびカーボンブラックを混合することが好ましい。
混合する方法としては、公知のブレンダー、ミキサー等の装置による乾式混合や、公知の乾式粉砕機による乾式混合が挙げられる。
【0045】
<導入工程>
本実施形態の導入工程においては、原料粉末を焼成炉内に導入する。
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、原料粉末は窒素ガスと共にノズルから噴霧されることにより焼成炉内に導入されることが好ましい。原料粉末および窒素ガスが焼成炉内に噴霧される速度は、好ましくは12m/s以上18m/s以下、より好ましくは14m/s以上16m/s以下である。
原料粉末および窒素ガスが焼成炉内に噴霧される速度を上記範囲内とすることにより、得られる窒化アルミニウム粉末の熱伝導性をより向上させることができる。
【0046】
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、焼成炉内に導入される原料粉末の時間当たりの質量は、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは12kg以上18kg以下、より好ましくは14kg以上16kg以下である。
【0047】
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、焼成炉内に導入される窒素ガスの時間当たりの体積は、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは15m以上25m以下、より好ましくは18m以上22m以下である。
【0048】
<窒化工程>
本実施形態の窒化工程においては、原料粉末を窒素雰囲気下で焼成して窒化アルミニウム粉末を得る。本実施形態の窒化工程においては、焼成炉内を窒素ガスが流れる雰囲気下で原料粉末を焼成することが好ましい。
【0049】
本実施形態の窒化工程の焼成温度は、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは1500℃以上2000℃以下、より好ましくは1900℃以上2000℃以下である。
窒化工程の焼成温度を上記範囲内とすることにより、得られる窒化アルミニウム粉末の熱伝導性をより向上させることができる。
【0050】
本実施形態の窒化工程に用いられる窒素ガスの純度は、熱伝導性をより向上できる観点から、好ましくは99体積%以上100体積%以下、より好ましくは99.9体積%以上100体積%以下である。
【0051】
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、窒化工程に用いられる焼成炉の内径は、熱伝導性および生産性のバランスをより向上できる観点から、好ましくは350mm以上450mm以下、より好ましくは380mm以上420mm以下である。
【0052】
本実施形態の原料粉末がα-アルミナを含む場合、本実施形態の窒化工程の後に、空気雰囲気下において、650℃以上750℃以下、10時間以上14時間以下の条件で酸化処理を行うことが好ましい。
【0053】
<回収工程>
本実施形態の回収工程においては、焼成炉内から窒化アルミニウム粉末を回収する。
本実施形態の原料粉末が金属アルミニウムを含む場合、回収工程は、生成した窒化アルミニウム粉末を焼成炉の炉底部からブロワーにより吸引し、バグフィルターで捕集することにより行うことが好ましい。
【0054】
<窒化アルミニウム焼結体>
本実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、本実施形態の窒化アルミニウム粉末を含む。
本実施形態の窒化アルミニウム粉末は熱伝導性が向上しているため、本実施形態の窒化アルミニウム焼結体も熱伝導性が向上しており、回路基板や接合基板に好適に用いることができる。
【0055】
<接合基板>
本実施形態の接合基板は、本実施形態の窒化アルミニウム焼結体と、金属板と、を備える。
以下、本実施形態の接合基板を、本実施形態の接合基板の構造の一例を模式的に示す斜視図である図1を用いて説明する。
【0056】
接合基板200は、互いに対向するように配置された一対の金属板110と、一対の金属板110の間に板状の窒化アルミニウム焼結体100を備える。金属板110としては、銅板が挙げられる。窒化アルミニウム焼結体100と、金属板110の形状及びサイズは同じであってもよいし、異なっていてもよい。金属板110と窒化アルミニウム焼結体100の主面同士は、例えば、ろう材によって接合されていてもよい。
【0057】
接合基板200は、金属板110と窒化アルミニウム焼結体100の間の異物の噛み込みを十分に抑制することができる。また、窒化アルミニウム焼結体100は熱伝導性が向上しているため、接合基板200は熱伝導性に優れる。
【0058】
接合基板200は、一対の金属板110の一方を放熱材とし、他方を導体部に加工してもよい。導体部は、レジストを用いて金属板110をエッチングして形成してもよい。これによって、熱伝導性に優れるとともに漏れ電流等を十分に抑制することが可能な回路基板を形成することができる。
【0059】
<回路基板>
本実施形態の回路基板は、本実施形態の窒化アルミニウム焼結体と、導体部と、を備える。
以下、本実施形態の回路基板を、本実施形態の回路基板の構造の一例を模式的に示す斜視図である図2を用いて説明する。
【0060】
回路基板300は、板状の窒化アルミニウム焼結体100と、一方の主面100A上に導体部20と、他方の主面上に金属板110を備える。導体部20と窒化アルミニウム焼結体100の主面100Aは、例えば、ろう材によって接合されていてもよい。回路基板300を例えばパワーモジュール等の製品に用いた場合に、導体部20は回路の一部を構成し、金属板110は放熱材として機能してもよい。また、回路基板300は、金属板110に代えて冷却フィンを有していてもよい。
【0061】
回路基板300は、導体部20および金属板110と窒化アルミニウム焼結体100の間の異物の噛み込みを十分に抑制することができる。また、窒化アルミニウム焼結体100は熱伝導性が向上しているため、回路基板300は熱伝導性に優れる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
例えば、本実施形態の接合基板および回路基板の形状および構造は、図1および図2のものに限定されない。例えば、回路基板は、窒化アルミニウム焼結体100の両方の主面に、導体部が取り付けられていてもよい。導体部20は、金属板110をエッチングして形成することに代えて、金属粉末を溶射し熱処理することによって形成してもよい。
【実施例
【0063】
本発明の実施態様を、実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例のみに限定されない。
【0064】
(実施例1)
内径400mm、全長3000mmの窒化ホウ素製焼成炉の1820℃の炉内に、ノズルにより時間当たり15kgの金属アルミニウム粉末(アトマイズ粉、平均粒子径19.8μm、酸素量0.25質量%)および時間当たり20.9m(Normal)の窒素ガスを15m/sの速度で噴霧した。反応中の炉内温度は、窒化反応の反応熱により1950℃に保たれていた。生成した窒化アルミニウム粉末を炉底部からブロワーにより吸引し、バグフィルターで捕集し、実施例1の窒化アルミニウム粉末を得た。
【0065】
(実施例2)
α-アルミナ(平均粒子径0.8μm、比表面積5.0m/g)200kgと、カーボンブラック(比表面積110m/g)150kgを、撹拌羽根を有した混合装置で0.5時間混合した。得られた混合物をバッチ式回転ボールミルにて2時間混合後、窒素雰囲気下において、焼成温度1600℃、焼成時間10時間の条件で窒化後、空気雰囲気下において、700℃で12時間、酸化処理を行って実施例2の窒化アルミニウム粉末を140kg得た。
【0066】
<ラマン分光スペクトル>
ラマン分光分析装置(堀場製作所社製、ラマン顕微鏡XploRA)を用い、レーザー波長532nm、対物レンズ倍率20倍、グレーティング300Gr/mm、スリット幅50μm、露光時間1秒間、露光回数10回の条件で、各実施例の窒化アルミニウム粉末のラマン分光スペクトルを測定した。
【0067】
<ピーク強度>
得られたラマン分光スペクトルから、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)、800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)、1250cm-1以上1450cm-1以下の範囲(C)、1500cm-1以上1700cm-1以下の範囲(D)および500cm-1以上750cm-1以下の範囲(X)それぞれに存在する散乱強度の各最大ピークを特定し、その最大ピークのピーク位置(波数)およびピーク強度を測定した。
そして、範囲(A)における最大ピークのピーク強度をI、範囲(B)における最大ピークのピーク強度をI、範囲(C)における最大ピークのピーク強度をI、範囲(D)における最大ピークのピーク強度をI、範囲(X)における最大ピークのピーク強度をIとしたときの、I/I、I/I、I/IおよびI/Iの値をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。
なお、範囲(C)または範囲(D)における散乱強度が全体的に低く、最大ピークを特定できなかった場合については、ピーク位置およびI/I、I/Iの値を記載していない。
【0068】
<粒径>
粒子径分布測定装置(日機装社製、MT3000II)を用い、JIS R1629:1997に準拠したレーザー回折散乱法により、各実施例の窒化アルミニウム粉末の体積頻度粒度分布を測定した。得られた体積頻度粒度分布から、メジアン径D50、累積値が10%となる粒子径D10、累積値が90%となる粒子径D90および(D90-D10)/D50を求めた。結果を表1に示す。
【0069】
<比表面積>
比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、MONOSORB)を用い、ISO9277に準拠してBET一点法により、各実施例の窒化アルミニウム粉末の比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
<酸素量>
酸素/窒素同時分析装置(堀場製作所社製、EMGA920)を用い、各実施例の窒化アルミニウム粉末の酸素量(質量%)を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
<熱伝導率>
各実施例の窒化アルミニウム粉末について、窒化アルミニウム粉末100質量部、酸化イットリウム粉末4質量部、酸化アルミニウム粉末3質量部、セルロースエーテル系バインダー6質量部、グリセリン5質量部、イオン交換水10質量部を混合して成形材料を得た。次いで、成形材料をシート状に成形し、空気中において570℃で5時間加熱して脱脂した後、窒素ガス雰囲気下、大気圧、1800℃の条件で4時間加熱して窒化アルミニウム焼結体を得た。次いで、窒化アルミニウム焼結体について、JIS R1611:2010に準拠し、23℃の条件でレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【符号の説明】
【0073】
20 導体部
100 窒化アルミニウム焼結体
110 金属板
200 接合基板
300 回路基板
【要約】
【課題】熱伝導性が向上した窒化アルミニウム粉末を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム粒子を含む窒化アルミニウム粉末であって、前記窒化アルミニウム粉末の、下記の条件で測定されるラマン分光スペクトルにおいて、波数が150cm-1以上350cm-1以下の範囲(A)および800cm-1以上1000cm-1以下の範囲(B)にそれぞれピークを有する窒化アルミニウム粉末。(条件)レーザー波長:532nm 対物レンズ倍率:20倍 グレーティング:300Gr/mm スリット幅:50μm 露光時間:1秒間 露光回数:10回
【選択図】なし
図1
図2