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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 1/08 20060101AFI20241106BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20241106BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241106BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20241106BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B32B1/08 B
B32B27/34
B32B27/30 D
G03G15/20 515
G03G15/00 551
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021561340
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020042930
(87)【国際公開番号】W WO2021106701
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2019214474
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】グェン ホン フク
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-146835(JP,A)
【文献】特開2017-207642(JP,A)
【文献】特開2017-132832(JP,A)
【文献】特開2019-028184(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042715(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/099810(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G03G 13/20
G03G 15/20
G03G 15/00
B29C 63/00-63/48
F16C 13/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドを主成分とする円筒状の基材層と、
上記基材層の内周面側に積層され、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とする摺動層と、
上記基材層の外周面側に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層と
を備え
上記摺動層が上記成形体の内周表面を構成し、
上記基材層における上記ポリイミドの含有量が70体積%以上100体積%以下であり、
上記摺動層における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が51体積%以上100体積%以下であり、
上記最外層におけるフッ素樹脂の含有量が50体積%以上である成形体。
【請求項2】
上記摺動層の平均厚さが5μm以上100μm以下である請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
上記基材層の外周面側かつ上記最外層の内周面側に積層され、ゴムを主成分とする弾性層をさらに備え
上記弾性層におけるゴムの含有量が70質量%以上100質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
上記基材層における上記ポリイミドの含有量が99.5体積%以上100体積%以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項5】
上記摺動層における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上100体積%以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
上記弾性層におけるゴムの含有量が99質量%以上100質量%以下である請求項3に記載の成形体。
【請求項7】
上記摺動層の平均厚さが10μm以上50μm以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項8】
上記摺動層の内周面の算術平均粗さRaが1.4μm以上3.3μm以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項9】
上記摺動層の内周面の十点平均粗さRzが6.8μm以上11.7μm以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項10】
上記基材層がフィラーを含有し、
上記フィラーが、チタン酸化合物、酸化チタン、カーボンナノチューブ、天然黒鉛、炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイトから選ばれる一種以上である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項11】
上記弾性層が加硫されたゴムを含む請求項3又は請求項のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項12】
上記最外層が上記成形体の外周表面を構成する請求項1から請求項1のいずれか1項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成形体に関する。本出願は、2019年11月27日出願の日本出願第2019‐214474号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザービームプリンター等の画像形成装置では、印刷及び複写の最終段階では一般に熱定着方式が採用されている。この熱定着方式は、加熱源を内周面に設けた定着ローラと加圧ローラとの間にトナー画像が転写された印刷用紙等の被転写物を通過させることで、未定着のトナーを加熱溶融し、被転写物にトナーを定着させて画像を形成する方式である。
【0003】
上記定着ローラとしては、例えば成型性の観点からポリイミドにより管状の芯体を形成した構造のものが使用されている。このポリイミド管状体は、内周面側に設けられたニッププレートと摺動接触することにより摩耗し、摩耗屑が発生しやすい。さらに、ポリイミドの摩耗屑同士が凝集し合って大きな塊となり、摩耗を促進するおそれがある。また、ポリイミド管状体を使用した場合、初期摩擦係数が高いことにより、トルクが大きくなるおそれもある。これらの課題に対し、潤滑剤を添加したポリイミドを用いた定着装置用フィルム管状体が開示されている(特開2001-56615号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-56615号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る成形体は、ポリイミドを主成分とする円筒状の基材層と、上記基材層の内周面側に積層され、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とする摺動層と、上記基材層の外周面側に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態に係る成形体を示す模式的横断面図である。
図2図2は、第2実施形態に係る成形体を示す模式的横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、オフィス‐オートメーション(OA:office automation)分野においては印刷の高速化及び耐久性のさらなる向上が要求されており、上記公報に記載のように潤滑剤を添加したポリイミドを用いた管状体からなる定着ローラでは、内周面における耐摩耗性の向上や摩擦係数の低減低下に対して改善の余地がある。
【0008】
本開示はこのような事情に基づいてなされたものであり、ポリイミドを主成分とする基材層を用いた場合においても、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる成形体を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の一態様に係る成形体は、ポリイミドを主成分とする基材層を用いた場合においても、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
本開示の一態様に係る成形体は、ポリイミドを主成分とする円筒状の基材層と、上記基材層の内周面側に積層され、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とする摺動層と、上記基材層の外周面側に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層とを備える。
【0012】
当該成形体は、ポリイミドを主成分とする基材層の内周面側に積層され、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とする摺動層を備えるので、成型性が良好なポリイミド基材の特性を維持しながら成形体の摩擦係数を低減し、トルク上昇に対する抑制効果に優れる。さらに、フッ素樹脂を主成分とする最外層を備えるので、離型性を向上できる。従って、本開示の一態様に係る成形体は、加工性が良好なポリイミドを基材層に用いながら、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れ、耐久性を向上できる。
【0013】
上記摺動層の平均厚さが5μm以上100μm以下であることが好ましい。上記摺動層の平均厚さが上記範囲であることで、当該成形体の耐摩耗性をより向上できる。ここで「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。
【0014】
当該成形体は、上記基材層の外周面側かつ上記最外層の内周面側に積層され、ゴムを主成分とする弾性層をさらに備えることが好ましい。上記最外層は、フッ素樹脂を主成分とするため、弾性が比較的低くなり易い。しかし、当該成形体においては、ゴムを主成分とする弾性層が、基材層の外周面側かつフッ素樹脂を主成分とする最外層の内周面側に積層されることで、最外層の弾性が向上する。
【0015】
ここで、「主成分」とは、含有量の最も多い成分であり、例えば含有量が50体積%以上の成分を指す。
【0016】
当該成形体において、上記基材層における上記ポリイミドの含有量が70体積%以上100体積%以下であることが好ましい。この形態によると、上記成形体の柔軟性及び耐熱性が向上する。
【0017】
当該成形体において、上記基材層における上記ポリイミドの含有量が99.5体積%以上100体積%以下であることが好ましい。この形態によると、上記成形体の柔軟性及び耐熱性がさらに向上する。
【0018】
当該成形体において、上記摺動層における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が51体積%以上100体積%以下であることが好ましい。この形態によると、摺動層の耐摩耗性が向上する。
【0019】
当該成形体において、上記摺動層における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上100体積%以下であることが好ましい。この形態によると、摺動層のさらに耐摩耗性が向上する。
【0020】
当該成形体において、上記最外層におけるフッ素樹脂の含有量が50体積%以上であることが好ましい。この形態のよると、最外層の耐摩耗性が向上する。
【0021】
当該成形体において、上記弾性層におけるゴムの含有量が70質量%以上100質量%以下であることが好ましい。このような弾性層が最外層の内周面側に積層されることで、最外層の弾性が向上する。
【0022】
当該成形体において、上記弾性層におけるゴムの含有量が99質量%以上100質量%以下であることが好ましい。このような弾性層が最外層の内周面側に積層されることで、最外層の弾性がより向上する。
【0023】
当該成形体において、上記摺動層の平均厚さが10μm以上50μm以下であることが好ましい。この形態によると、摺動層の成膜性が向上する。
【0024】
当該成形体において、上記摺動層の内周面の算術平均粗さRaが1.4μm以上3.3μm以下であることが好ましい。この形態によると、摺動層の内周面の滑り性が向上する。
【0025】
当該成形体において、上記摺動層の内周面の十点平均粗さRzが6.8μm以上11.7μm以下であることが好ましい。この形態によると、摺動層の内周面の滑り性が向上する。
【0026】
当該成形体において、上記基材層がフィラーを含有し、上記フィラーが、チタン酸化合物、酸化チタン、カーボンナノチューブ、天然黒鉛、炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイトから選ばれる一種以上であることが好ましい。この形態によると、上記成形体の耐摩耗性をより向上できる。
【0027】
当該成形体において、上記弾性層が加硫されたゴムを含むことが好ましい。この形態によると、上記弾性層の弾性をより向上でき、その結果、成形体の弾性がより向上する。
【0028】
当該成形体において、上記摺動層が上記成形体の内周表面を構成する。この形態によると、内周表面にポリエーテルエーテルケトンを主成分とする摺動層を含むので摺動特性に優れる。また、当該成形体において、上記最外層が上記成形体の外周表面を構成する。この形態によると、外周表面にフッ素樹脂を主成分とする最外層を備えるので離型性に優れる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る成形体について図面を参照しつつ詳説する。
【0030】
[第1実施形態]
<成形体>
第1実施形態に係る成形体は、円筒状の基材層と、上記基材層の内周面側に積層される摺動層と、上記基材層の外周面側に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層とを備える。図1は、第1実施形態に係る成形体1を示す模式的断面図である。成形体1は、円筒状の基材層2と、基材層2の内周面に積層される摺動層3と、基材層2の外周面に積層され、フッ素樹脂を主成分とする最外層4とを備える。摺動層3は成形体1の内周表面Aを構成し、最外層4は成形体1の外周表面Bを構成する。成形体1は、円筒形状を有することで、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の定着ユニットにおける定着ローラ、加熱ローラ、現像ユニットにおける現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、他の部分におけるエンドレスベルトを支持するためのローラ、排紙用ローラ、ゴミ取りローラ、搬送ローラ等、種々の回転体(ローラ)に好適に用いることができる。
【0031】
成形体1の平均厚さの下限としては、特に限定されないが、例えば30μmが好ましく、上記平均厚さの上限としては、例えば150μmが好ましい。
【0032】
[基材層]
基材層2の形状は、円筒状であり、画像形成装置の種々の回転体(ローラ)に好適に用いることができる。
【0033】
基材層2は、ポリイミドを主成分とする。上記ポリイミドは、比較的軽量であり、かつ耐熱性及び柔軟性に優れる。基材層2がポリイミドを主成分とすることで、成型性が良好となる。ポリイミドとは、分子内にイミド結合を有する樹脂である。ポリイミドは、例えば酸成分としてのテトラカルボン酸又はその無水物と、アミン成分としてのジアミン化合物とを反応溶媒中で重縮合反応させ、得られたポリイミド前駆体を加熱等により脱水閉環させることにより得ることができる。
【0034】
上記テトラカルボン酸又はその無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物等の脂環式酸無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の複素環誘導体などが挙げられる。上記テトラカルボン酸又はその無水物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記ジアミン化合物としては、例えば2,2-ジ(p-アミノフェニル)-6,6’-ビスベンゾオキサゾール、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、4,4’-ジアミノ-p-テルフェニル、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン、ピペラジン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンなどが挙げられる。上記ジアミン化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
基材層2におけるポリイミドの含有量の下限としては、50体積%が好ましく、70体積%がより好ましく、80体積%がさらに好ましく、90体積%がさらに好ましく、99.5体積%が特に好ましい。
また、上記含有量は100体積%であってもよい。すなわち、基材層2は、ポリイミドのみからなり、バインダー等を含有しないポリイミド層であってもよい。上記含有量が上記下限より小さい場合、成形体1の柔軟性及び耐熱性が不十分となるおそれがある。
【0037】
基材層2は、フィラーを含有してもよい。基材層2がフィラーを含有することで、当該成形体の導電性を向上できる。
【0038】
上記フィラーとしては、公知のものを使用でき、例えばチタン酸カリウム、チタン酸アルミニウム等のチタン酸化合物、酸化チタン、カーボンナノチューブ、天然黒鉛、炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイトなどが挙げられる。上記フィラーは複数の種類を用いることができる。
【0039】
フィラーの形状としては、当該成形体の耐摩耗性をより向上できる観点から、針状又は鱗片状が好ましい。ここで、「針状」とは、アスペクト比(フィラーの径と長さの比)が1.5以上、好ましくは2以上である形状を意味する。フィラーの長さ方向に垂直な断面形状は円に限らない。フィラーの上記断面が円でない場合は断面の最大長さを径としてアスペクト比を求める。また、「鱗片状」とは、薄片状、板状も含む。
【0040】
基材層2の平均厚さとしては、十分な強度を維持できれば特に限定されず、例えば5μm以上300μm以下が好ましい。
【0041】
[摺動層]
摺動層3は、基材層2の内周面に積層される。摺動層3は、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とする。摺動層3が、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とすることで、成形体1の耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる。
【0042】
摺動層3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、30μmがさらに好ましい。上記平均厚さが5μm未満の場合、摺動層3の成膜性が低下するおそれがある。逆に、上記平均厚さが100μmを超える場合、成形体1の熱伝導性が低下するおそれがある。なお、上記「平均厚さ」は、摺動層3の長さ方向に垂直な断面における摺動層の厚みを、光学顕微鏡で任意の10か所測定し、その平均値を「平均厚さ」とする。
【0043】
摺動層3におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量の下限としては、50体積%が好ましく、51体積%がより好ましく、70体積%がさらに好ましい。また、摺動層3におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量は、100体積%であってもよい。摺動層3におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量が上記下限未満の場合、摺動層3の耐摩耗性が低下し、成形体1の耐摩耗性が不十分となるおそれがある。
【0044】
摺動層3は、ポリエーテルエーテルケトン以外に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)又はこれらの組合せをさらに含有することが好ましく、これらの中でもポリテトラフルオロエチレンをさらに含有することがより好ましい。摺動層3がポリエーテルエーテルケトンを主成分とするとともに、上記樹脂成分をさらに含有することで、耐摩耗性及び耐熱性をより向上できる。
【0045】
(最外層)
最外層4は、フッ素樹脂を主成分とする。最外層4は、フッ素樹脂を主成分とするため、耐摩耗性に優れる。最外層4において、フッ素樹脂の含有量は好ましくは50体積%以上である。最外層4は、本開示の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有してもよい。
【0046】
上記フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合(ECTFE)、ポリビニルフルオライド(PVF)、フルオロオレフィン-ビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-四フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体等が挙げられる。上記フッ素樹脂としては、これらの中で、PTFE、PFA及びFEPが好ましく、PFA及びPTFEがより好ましく、耐摩耗性、耐薬品性及び耐熱性の観点からPTFEがさらに好ましい。上記フッ素樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
なお、上記フッ素樹脂は、本開示の効果を損なわない範囲において、他の共重合性モノマーに由来する構造単位を含んでいてもよい。例えば、PTFEは、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、(パーフルオロアルキル)エチレン、クロロトリフルオロエチレン等の構造単位を含んでいてもよい。上記他の共重合性モノマーに由来する構造単位の含有量の上限としては、上記フッ素樹脂を構成する全構造単位に対して、例えば3モル%である。
【0048】
最外層4の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。上記平均厚さが5μm未満の場合、成形体1の耐久性低下のおそれがある。逆に、上記平均厚さが50μmを超える場合、成形体1の弾性が低下するおそれがある。
【0049】
[成形体の製造方法]
当該成形体の製造方法は、例えばポリイミドを主成分とする円筒状の基材層の内周面側に、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とする摺動層を積層する工程と、基材層の外周面側に、フッ素樹脂を主成分とする最外層を積層する工程とを備えることが好ましい。当該成形体の製造方法は、上記工程を備えることで、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる成形体を製造できる。
【0050】
(摺動層を積層する工程)
本工程では、ポリイミドを主成分とする円筒状の基材層の内周面側に摺動層を積層する。始めにポリエーテルエーテルケトンを主成分とする摺動層用樹脂組成物を調製する。次に、上記摺動層用樹脂組成物を用いて塗工、押出成形、又は射出成型等を行った後に焼成することにより、摺動層が形成される。塗工手段としては、特に限定されず、スプレーコーター、静電塗布装置、フローコーター、ディップコーター等、種々の方法を用いることができる。また、焼成温度としては、例えば100℃以上500℃以下とすることができる。
【0051】
(最外層を積層する工程)
本工程では、上記摺動層積層工程後の基材層の外周面側にフッ素樹脂を主成分とする最外層を積層する。上記最外層を積層する方法としては、例えばフッ素樹脂を主成分とする最外層用樹脂組成物の塗工、又はPFA熱収縮チューブによる被覆等が挙げられる。基材層の外周面に上記最外層用樹脂組成物の塗工を行う場合、上記最外層用樹脂組成物を溶剤に分散、又は溶解させた塗料を基材層の外周面に塗工する。この溶剤としては、フッ素樹脂を効率よく分散できる水と乳化剤、水とアルコール、水とアセトン、水とアルコールとアセトン等の混合液を用いることができる。次に、この塗料を塗工した基材層を加熱炉に入れ加熱し、上記塗料中の溶剤を飛ばすとともにフッ素樹脂を焼成する。フッ素樹脂の焼成温度としては、例えば300℃以上400℃以下とすることができる。その後、基材層の外周面を冷却することで最外層を基材層の外周面に形成する。
【0052】
第1実施形態に係る成形体によれば、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れる。
【0053】
[第2実施形態]
<成形体>
第2実施形態に係る成形体は、上記基材層の外周面側かつ上記最外層の内周面側に積層され、ゴムを主成分とする弾性層をさらに備える。
【0054】
図2は、第2実施形態に係る成形体10を示す模式的横断面図である。図2の成形体10は、円筒状の基材層2と、基材層2の内周面に積層される摺動層3と、上記基材層2の外周面に積層される弾性層5と、弾性層5の外周面に積層される最外層4とを備える。なお、基材層2、摺動層3及び最外層4は、第1実施形態と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
【0055】
(弾性層)
上記弾性層5は、基材層2の外周面に積層される。弾性層5は、ゴムを主成分とする。
従って、弾性層5は、十分な弾性を有する。フッ素樹脂を主成分とする最外層4の弾性が比較的低くなり易いが、当該成形体10においては、ゴムを主成分とする弾性層が、フッ素樹脂を主成分とする最外層の内周面に積層されることで、最外層4の弾性を向上できる。また、弾性層5が最外層4の内周面に積層されることで、弾性層5と最外層4との層間接着力をより向上できる。また、上記ゴムは、加硫されていることが好ましい。上記ゴムが加硫されていることで、弾性層5の弾性をより向上でき、その結果、成形体10の弾性がより向上する。
【0056】
上記ゴムとしては、特に限定されないが、例えば天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多流化ゴム等を用いることができる。上記ゴムは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
弾性層5におけるゴムの含有量の下限としては、70質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましい。また、弾性層5におけるゴムの含有量は、100質量%であってもよい。弾性層5におけるゴムの含有量が上記下限より小さい場合、弾性層5の弾性が低下し、成形体1の弾性が不十分となるおそれがある。
【0058】
弾性層5は、ゴム以外の成分として添加剤を含有してもよい。上記添加剤としては、例えば可塑剤、安定剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、充填材等が挙げられる。このように、弾性層5が上記添加剤を含有することで、弾性層5に所望の特性を付与できる。弾性層5における上記添加剤の含有量の上限としては、特に限定されないが、例えば30質量%が好ましい。
【0059】
弾性層5の平均厚みとしては、特に限定されず用途に応じて適宜変更可能であるが、例えば0.1mm以上50mm以下とすることができる。
【0060】
<第2実施形態の成形体の製造方法>
当該第2実施形態の成形体の製造方法としては、例えば上記第1実施形態の成形体の製造方法の上記摺動層積層工程後の基材層の外周面に弾性層を積層する工程をさらに備える方法が挙げられる。上記弾性層を積層する工程では、始めに、ゴムを主成分とする摺動層用樹脂組成物を調製する。次に、上記摺動層用樹脂組成物を用いて上記摺動層積層工程後の基材層の外周面に塗工、押出成形、又は射出成型等を行った後に固化することにより、弾性層が形成される。なお、弾性層のゴムの加硫は、成形体の製造における任意の時点に行うことができる。
【0061】
第2実施形態に係る成形体によれば、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れるとともに、最外層の弾性を向上できる。第2実施形態に係る成形体は、第1実施形態に係る成形体と同様に円筒形状を有することで、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の定着ユニットにおける定着ローラ、加熱ローラ、現像ユニットにおける現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、他の部分におけるエンドレスベルトを支持するためのローラ、排紙用ローラ、ゴミ取りローラ、搬送ローラ等の種々の回転体(ローラ)に好適に用いることができる。
【0062】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0063】
当該成形体は、摺動層と基材層との間、最外層と基材層との間、最外層と弾性層との間等に他の層を備えてもよい。上記他の層としては、例えばプライマー層等が挙げられる。
【0064】
また、最外層の内周面に対してはその密着性を向上するために、表面処理を行ってもよい。上記表面処理としては、例えばプラズマ処理、液体アンモニア処理、コロナ処理、テトラエッチ処理、レザーエッチング処理等による粗面化などが挙げられる。
【0065】
また、最外層4に電離放射線を照射してフッ素樹脂を架橋することで、最外層4の耐摩耗性を向上させてもよい。
【実施例
【0066】
以下、実施例によって本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
<フィルムNo.1からNo.9>
成形体の基材層及び摺動層を形成するための基材層用樹脂組成物及び摺動層用樹脂組成物を用いて以下の手順で基材層を備えるフィルムNo.1からNo.3及び基材層及び摺動層を備える2層のフィルムNo.4からNo.9を作製した。上記フィルムNo.1からNo.9を構成する基材層用樹脂組成物及び摺動層用樹脂組成物の組成(体積%)及び摺動層の平均厚さを表1に示す。なお、表1中の「-」は、該当する成分を用いなかったことを示す。
【0068】
(基材層用樹脂組成物)
基材層用樹脂組成物に含有される主成分以外の成分としてフィラーが含まれる。フィラーとしては、針状酸化チタン、鱗片状黒鉛、及びカーボンナノチューブを用いた。
【0069】
(摺動層用樹脂組成物)
摺動層用樹脂組成物の材料としてポリエーテルエーテルケトンを用いた。
【0070】
(フィルムの作成)
表1に記載の組成からなる基材層用樹脂組成物をフィルム状に塗工した。次に、420℃まで焼成することによりフィルムNo.1からNo.3を作成した。また、表1に記載の組成からなる基材層用樹脂組成物をフィルム状に塗工することにより形成された塗工層の表面に、ポリエーテルエーテルケトンからなる摺動層用樹脂組成物を塗工することにより積層した。次に、400℃まで焼成することによりフィルムNo.4からNo.9を作成した。基材層の平均厚さは70μmとした。摺動層の平均厚さは表1に示す。
【0071】
[評価]
次に、フィルムNo.1からNo.9について、摩耗性、摩擦性及び表面粗度を評価した。
【0072】
(ピンオンディスク型摩擦摩耗試験による回転摩擦摩耗評価)
ピンオンディスク型摩擦摩耗試験とは、例えば圧子である金属製のピンの先端を試験対象部材の摺動面に垂直に押圧しながら摺動面を回転させることにより、公転摺動させる試験を意味する。摩擦摩耗試験機として、株式会社エーアンド・ディ製の「EFM-3-EN」を用いてピンオンディスク型摩擦摩耗試験を行った。具体的には、フィルムNo.1からNo.9の表面に対し、180℃の加熱下で、回転軸を中心とする1つの円周上に配置された直径17.4mmのステンレス製の2本のピンを押圧荷重0.14MPa、回転速度210rpmで2000秒間摺動させるピンオンディスク型摩擦摩耗試験を行い、その摩耗領域の摩耗深さ[μm]を測定した。なお、上記ピンの先端は平面状とした。摩耗試験前の8点の測定による平均厚さと摩擦摩耗試験後の8点の測定による平均厚さとの差を求めて摩耗深さとした。併せて初期における最大摩擦係数(以下、初期最大摩擦係数という。)と、摩擦係数が安定になった時点の摩擦係数(安定時摩擦係数と定義)を測定し、下記に示す初期摩擦上昇量[%]を求めた。
初期摩擦上昇量[%]=(初期最大摩擦係数-安定時摩擦係数)×100/安定時摩擦係数
【0073】
(摩擦試験)
(1)静摩擦係数
株式会社島津製作所製「AUTOGRAPH」を用い、ASTM-D(1894)に準拠して室温で測定した。
(2)動摩擦係数
株式会社RHESCA製「FPR-2100」において、荷重500g、圧子である直径3/16インチのステンレス製のピンを用い、200℃環境下において往復モードで測定した。
(3)静摩擦上昇量
得られた静摩擦係数及び動摩擦係数の値から下記に示す静摩擦上昇量[%]を算出した。
静摩擦上昇量[%]=(静摩擦係数-動摩擦係数)×100/動摩擦係数
【0074】
(表面粗度)
株式会社東京精密製表面粗さ測定器「サーフコム 408A」を用い、JIS-B-0601(1994)に準拠して算術平均粗さ(Ra)及び十点平均粗さ(Rz)を求めた。Ra及びRzは3点で測定し、平均値を求めた。
【0075】
表1に、No.1からNo.9の2層フィルムにおける摩擦摩耗試験、摩擦試験及び表面粗度の評価結果を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、ポリエーテルエーテルケトンからなる摺動層を有するフィルムNo.4からNo.9は、ピンオンディスク型摩耗試験における摩耗量及び初期摩擦上昇量が小さく、摺動中において、摺動層が変形しにくいことがわかる。一方、ポリエーテルエーテルケトンからなる摺動層を有さず、ポリイミドを主成分とする基材層のみからなるフィルムNo.1からNo.3は、摩耗量が大きいとともに、初期摩擦上昇量及び静摩擦上昇量が高く、必要なトルクが大きいと考えられる。また、ポリエーテルエーテルケトンからなる摺動層を有するフィルムNo.4からNo.9は、基材層のみからなるフィルムNo.1からNo.3と比較して表面粗度が非常に大きい。このことから、ポリエーテルエーテルケトンからなる摺動層を有するフィルムNo.4からNo.9は、表面粗度が非常に大きいことで摩耗圧子との接触面が小さくなったことから、滑り性が向上したと推測される。
【0078】
以上の結果、当該成形体は、耐摩耗性が高く、摺動特性に優れることが示された。
【符号の説明】
【0079】
1、10 成形体
2 基材層
3 摺動層
4 最外層
5 弾性層
A 成形体の内周表面
B 成形体の外周表面
図1
図2