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  • 特許-切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20241106BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20241106BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/36
C23C16/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023562712
(86)(22)【出願日】2023-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2023023096
【審査請求日】2024-07-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】引地 将仁
(72)【発明者】
【氏名】山西 貴翔
(72)【発明者】
【氏名】山川 隆洋
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-177413(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181786(WO,A1)
【文献】特開2008-168365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14, 51/00;
B23C 5/16;
B23P 15/28;
C23C 14/06-14/08,16/30-16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、前記基材上に位置する第1層と、前記第1層上に位置する第2層と、前記第2層上に位置する第3層と、を含み、
前記第1層は、炭窒化チタンからなり、
前記第2層は、酸化アルミニウムからなり、
前記第3層は、炭窒化チタンからなり、
前記第1層の残留応力Xと、前記第2層の残留応力Yと、前記第3層の残留応力Zとは、式1の関係を満たし、
X<Y<Z 式1
前記第1層の前記残留応力Xは、-1.1GPa以上-0.2GPa以下であり、
前記第2層の前記残留応力Yは、-0.6GPa以上0.2GPa以下であり、
前記第3層の前記残留応力Zは、-0.4GPa以上0.5GPa以下であり、
Y-Xは、0.1以上0.6以下であり、
Y-Zは、-0.6以上-0.1以下である、切削工具。
【請求項2】
前記第1層の前記残留応力Xは、-1.0GPa以上-0.3GPa以下である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第2層の前記残留応力Yは、-0.5GPa以上0.1GPa以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第3層の前記残留応力Zは、-0.3GPa以上0.4GPa以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項5】
前記第1層の厚みは、3μm以上15μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項6】
前記第2層の厚みは、3μm以上15μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項7】
前記第3層の厚みは、2μm以上4μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具が、切削加工に用いられている(特許文献1~特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-037150号公報
【文献】特開2020-116645号公報
【文献】国際公開第2009/112116号
【文献】国際公開第2022/244241号
【文献】国際公開第2022/244242号
【文献】国際公開第2022/244243号
【発明の概要】
【0004】
本開示の切削工具は、
基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
該被膜は、該基材上に位置する第1層と、該第1層上に位置する第2層と、該第2層上に位置する第3層と、を含み、
該第1層は、炭窒化チタンからなり、
該第2層は、酸化アルミニウムからなり、
該第3層は、炭窒化チタンからなり、
該第1層の残留応力Xと、該第2層の残留応力Yと、該第3層の残留応力Zとは、式1の関係を満たす。
X<Y<Z 式1
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本開示の切削工具の一態様を例示する模式断面図である。
図2図2は、本開示の切削工具の製造に用いられるCVD(Chemical Vapor Deposition)装置の一例の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、工具寿命の向上への要求が益々高まっており、特に、黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工において、工具寿命の更なる向上が求められている。黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においての工具寿命の更なる向上に重要な要素として、「耐摩耗性」と「耐欠損性」とが挙げられる。また、耐摩耗性を向上する観点で、黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工において、基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、該被膜は、該基材上に位置する第1層と、該第1層上に位置する第2層と、該第2層上に位置する第3層と、を含み、該第1層は、炭窒化チタンからなり、該第2層は、酸化アルミニウムからなり、該第3層は、炭窒化チタンからなる、切削工具が用いられている。しかしながら、この様な被膜においては、ブラスト処理によって第3層が破壊され易い関係で、第1層へ十分な残留応力を導入し難い為、「耐欠損性」が十分でない場合があった。また、「耐欠損性」が十分でないことに起因して生じる微小な損傷によって、摩耗が生じ易い場合あった(すなわち、「耐摩耗性」が十分でない場合があった)。その為、優れた「耐摩耗性」と優れた「耐欠損性」とを兼備させることにより、特に、黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、工具寿命を延長することが求められている。
【0007】
そこで、本開示は、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能である。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、前記基材上に位置する第1層と、前記第1層上に位置する第2層と、前記第2層上に位置する第3層と、を含み、
前記第1層は、炭窒化チタンからなり、
前記第2層は、酸化アルミニウムからなり、
前記第3層は、炭窒化チタンからなり、
前記第1層の残留応力Xと、前記第2層の残留応力Yと、前記第3層の残留応力Zとは、式1の関係を満たす。
X<Y<Z 式1
【0010】
本開示によれば、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0011】
(2)上記(1)において、前記第1層の前記残留応力Xは、-1.0GPa以上-0.3GPa以下であることが好ましい。これによって、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0012】
(3)上記(1)または(2)において、前記第2層の前記残留応力Yは、-0.5GPa以上0.1GPa以下であることが好ましい。これによって、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記第3層の前記残留応力Zは、-0.3GPa以上0.4GPa以下であることが好ましい。これによって、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記第1層の厚みは、3μm以上15μm以下であることが好ましい。これによって、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0015】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記第2層の厚みは、3μm以上15μm以下であることが好ましい。これによって、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0016】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記第3層の厚みは、2μm以上4μm以下であることが好ましい。これによって、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0018】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0019】
[実施形態1:切削工具]
本開示の一実施形態に係る切削工具について、図1を用いて説明する。
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)は、
基材1と、該基材1上に配置された被膜2と、を備える切削工具10であって、
該被膜2は、該基材1上に位置する第1層3と、該第1層3上に位置する第2層4と、該第2層4上に位置する第3層5と、を含み、
該第1層3は、炭窒化チタンからなり、
該第2層4は、酸化アルミニウムからなり、
該第3層5は、炭窒化チタンからなり、
該第1層3の残留応力Xと、該第2層4の残留応力Yと、該第3層5の残留応力Zとは、式1の関係を満たす。
X<Y<Z 式1
【0020】
本開示によれば、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能である。その理由は、以下の通りと推察される。
【0021】
第1層3の残留応力Xと、第2層4の残留応力Yと、第3層5の残留応力Zとは、式1の関係を満たす。
X<Y<Z 式1
これによって、被膜2の基材1側の残留応力が相対的に低くなる関係で、耐欠損性が向上し得る。また、被膜2の表面側の残留応力が相対的に高くなる関係で、応力導入による膜破壊が低減されることで、膜組織の脱落発生を抑制し易くなる為、耐摩耗性が向上し得る。
【0022】
すなわち、本開示によれば、切削工具1が優れた「耐摩耗性」と優れた「耐欠損性」とを兼備することができる為、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0023】
≪切削工具≫
図1に示されるように、本開示の一実施の形態に係る切削工具10は、基材1と、該基材1上に配置された被膜2と、を備える。被膜2は、基材1の全面を被覆することが好ましいが、基材1の一部が該被膜2で被覆されていなかったり、該被膜2の構成が部分的に異なっていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。基材1の一部が該被膜2で被覆されていない場合においては、該被膜2は、基材1の少なくとも切削に関与する部分の表面を覆う様に配置されていることが好ましい。本明細書において、基材1の切削に関与する部分とは、基材1の大きさや形状にもよるが、基材1において、その刃先稜線と、該刃先稜線から基材1側へ、該刃先稜線の接線の垂線に沿う距離が、例えば、5mm、3mm、2mm、1mm、0.5mmのいずれかである仮想の面と、に囲まれる領域を意味する。
【0024】
本実施形態の切削工具10は、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等の切削工具10として好適に使用することができる。
【0025】
≪基材≫
基材1としては、この種の基材1として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、超硬合金(WC基超硬合金、WCおよびCoを含む超硬合金、更にTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金など)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
【0026】
これらの各種基材1の中でも、特にWC基超硬合金、サーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これらの基材1は、特に高温における硬度と強度とのバランスに優れるため、切削工具10の基材1として用いた場合に、該切削工具10の長寿命化に寄与することができる。
【0027】
≪被膜≫
被膜2は、基材1上に位置する第1層3と、該第1層3上に位置する第2層4と、該第2層4上に位置する第3層5と、を含む。被膜2は、基材1を被覆することにより、切削工具10の耐摩耗性や耐チッピング性等の諸特性を向上させ、切削工具10の長寿命化をもたらす作用を有する。なお、被膜2は、本開示の効果を損なわない範囲で、第1層3、第2層4、および第3層5に加えて、後述する「他の層」を含むことができる。
【0028】
被膜2の厚みは、6μm以上30μm以下であることが好ましい。被膜2の厚みが6μm未満であると、被膜2の厚みが薄すぎることに起因して、切削工具10の寿命が短くなり易い傾向がある。一方、被膜2の厚みが30μm超であると、切削初期において被膜2のチッピングが生じ易くなり、切削工具10の寿命が短くなり易い傾向がある。被膜3の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて被膜2の断面を観察することにより測定することができる。具体的には、断面サンプルの観察倍率を5,000~10,000倍とし、観察面積を100~500μmとして、1視野において3箇所の厚み幅を測定し、その平均値を「厚み」とする。後述の各層の厚みについても、特に記載のない限り同様である。
【0029】
<第1層>
<第1層の組成>
第1層3は、炭窒化チタンからなる。ここで「炭窒化チタンからなる」とは、本開示の効果を示す限り、炭窒化チタンに加えて、不可避不純物を含むことができることを意味する。該不可避不純物としては、例えば、塩素原子(Cl)等が挙げられる。第1層3における不可避不純物全体の含有率は、0質量%より大きく、3質量%未満であることが好ましい。
【0030】
第1層3が炭窒化チタンからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。第1層3における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の切削工具10で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0031】
<第1層の構造>
第1層3の厚みは、3μm以上15μm以下であることが好ましい。これによって、より優れた耐摩耗性とより優れた耐欠損性とを両立することができる為、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。第1層3の厚みの下限は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが更に好ましい。第1層3の厚みの上限は、15μm以下であることが好ましく、13μm以下であることがより好ましく、11μm以下であることが更に好ましい。第1層3の厚みは、5μm以上13μm以下であることがより好ましく、7μm以上11μm以下であることが更に好ましい。
【0032】
<第1層の残留応力>
第1層3の残留応力Xは、-1.0GPa以上-0.3GPa以下であることが好ましい。これによって、微小な欠損が発生した際に損傷の拡大を抑制し易くなる為、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。第1層3の残留応力Xの下限は、-1.0GPa以上であることが好ましく、-0.9GPa以上であることがより好ましく、-0.8GPa以上であることが更に好ましい。第1層3の残留応力Xの上限は、-0.3GPa以下であることが好ましく、-0.4GPa以下であることがより好ましく、-0.5GPa以下であることが更に好ましい。第1層3の残留応力Xは、-0.9GPa以上-0.4GPa以下であることがより好ましく、-0.8GPa以上-0.5GPa以下であることが更に好ましい。
【0033】
第1層3の残留応力Xは、第1層3に対し、X線残留応力装置を用いてsin2ψ法(「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54~66頁参照)で測定を実行することにより特定できる。なお、該測定において、温度は室温(20℃)である。また、同一の切削工具10で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0034】
<第2層>
<第2層の組成>
第2層4は、酸化アルミニウムからなる。ここで「酸化アルミニウムからなる」とは、本開示の効果を示す限り、酸化アルミニウムに加えて、不可避不純物を含むことができることを意味する。該不可避不純物としては、例えば、塩素原子(Cl)等が挙げられる。第2層4における不可避不純物全体の含有率は、0質量%より大きく、3質量%未満であることが好ましい。
【0035】
第2層4が酸化アルミニウムからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。第2層4において、不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の切削工具10で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0036】
<第2層の構造>
第2層4の厚みは、3μm以上15μm以下であることが好ましい。これによって、より優れた耐摩耗性とより優れた耐欠損性とを両立することが可能である為、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。第2層4の厚みの下限は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが更に好ましい。第2層4の厚みの上限は、15μm以下であることが好ましく、13μm以下であることがより好ましく、11μm以下であることが更に好ましい。第2層4の厚みは、5μm以上13μm以下であることがより好ましく、7μm以上11μm以下であることが更に好ましい。
【0037】
<第2層の残留応力>
第2層4の残留応力Yは、-0.5GPa以上0.1GPa以下であることが好ましい。これによって、適度に残留応力が導入されることで、アルミナの組織が破壊され難い関係で、耐欠損性が向上され得る為、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。第2層4の残留応力Yの下限は、-0.5GPa以上であることが好ましく、-0.4GPa以上であることがより好ましく、-0.3GPa以上であることが更に好ましい。第2層4の残留応力Yの上限は、0.1GPa以下であることが好ましく、0GPa以下であることがより好ましく、-0.1GPa以下であることが更に好ましい。第2層4の残留応力Yは、-0.4GPa以上0GPa以下であることがより好ましく、-0.3GPa以上-0.1GPa以下であることが更に好ましい。
【0038】
第2層4の残留応力Yは、第2層4に対し測定が実行される点を除いては、第1層3の残留応力Xの測定方法と同様の方法により特定することができる。なお、同一の切削工具10で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0039】
<第3層>
<第3層の組成>
第3層5は、炭窒化チタンからなる。ここで「炭窒化チタンからなる」とは、本開示の効果を示す限り、炭窒化チタンに加えて、不可避不純物を含むことができることを意味する。該不可避不純物としては、例えば、塩素原子(Cl)等が挙げられる。第3層5における不可避不純物全体の含有率は、0質量%より大きく、3質量%未満であることが好ましい。
【0040】
第3層5が炭窒化チタンからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。第3層5において、不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の切削工具10で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0041】
<第3層の構造>
第3層5の厚みは、2μm以上4μm以下であることが好ましい。これによって、より優れた耐欠損性とより優れた耐摩耗性との両立が可能である為、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。第3層5の厚みの下限は、2μm以上であることが好ましく、2.5μm以上であることがより好ましい。第3層5の厚みの上限は、4μm以下であることが好ましく、3.5μm以下であることがより好ましい。第3層5の厚みは、2.5μm以上3.5μm以下であることがより好ましい。
【0042】
<第3層の残留応力>
第3層5の残留応力Zは、-0.3GPa以上0.4GPa以下であることが好ましい。これによって、加工初期の逃げ面摩耗を抑制し易くなる為、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。第3層5の残留応力Zの下限は、-0.3GPa以上であることが好ましく、-0.2GPa以上であることがより好ましく、-0.1GPa以上であることが更に好ましい。第3層5の残留応力Zの上限は、0.4GPa以下であることが好ましく、0.3GPa以下であることがより好ましく、0.2GPa以下であることが更に好ましい。第3層5の残留応力Zは、-0.2GPa以上0.3GPa以下であることがより好ましく、-0.1GPa以上0.2GPa以下であることが更に好ましい。
【0043】
第3層5の残留応力Zは、第3層5に対し測定が実行される点を除いては、第1層3の残留応力Xの測定方法と同様の方法により特定することができる。なお、同一の切削工具10で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0044】
<第1層と第2層と第3層との関係>
第1層3の残留応力Xと、第2層4の残留応力Yと、第3層5の残留応力Zとは、式1の関係を満たす。
X<Y<Z 式1
これによって、切削工具10は、優れた耐摩耗性と優れた耐欠損性とを兼備することができる為、特に黒皮材の合金鋼の軽断続旋削加工においても、長い工具寿命を発揮することが可能である。
【0045】
Y-Xは、0.1以上0.6以下であることが好ましい。これによって、第1層3から第2層4にかけてチッピングがより生じ難くなる為、切削工具は、より優れた耐欠損性を備えることができる。Y-Xは、0.15以上0.55以下であることがより好ましく、0.2以上0.5以下であることが更に好ましい。
【0046】
Y-Zは、-0.6以上-0.1以下であることが好ましい。これによって、第2層4から第3層5にかけてチッピングがより生じ難くなる為、切削工具10は、より優れた耐欠損性を備えることができる。Y-Zは、-0.55以上-0.15以下であることがより好ましく、-0.50以上-0.20以下であることが更に好ましい。
【0047】
<他の層>
他の層としては、例えば、下地層(図示なし)、中間層(図示なし)、および表面層(図示なし)等を挙げることができる。下地層は、基材1と第1層3との間に配置される層である。表面層は、被膜2の表面に位置する層である。中間層は、第1層3と第2層4との間、第2層4と第3層5との間、またはその両方に配置される層である。なお、中間層は、TiCNOなどの薄い密着層である。その為、中間層は、応力分布に影響しない。
【0048】
[実施形態2:切削工具の製造方法]
本実施形態の切削工具の製造方法について図2を用いて説明する。図2は、本実施形態の切削工具の製造に用いられるCVD装置の一例の概略的な断面図である。
【0049】
本実施形態の切削工具の製造方法は、実施形態1に記載の切削工具の製造方法であって、
基材を準備する第1工程と、
該基材上に被膜を形成する第2工程と、
該被膜に対しブラスト処理を行うことで切削工具を得る第3工程と、を備え、
該第2工程は、CVD法により第1層を形成する第2A工程と、CVD法により第2層を形成する第2B工程と、CVD法により第3層を形成する第2C工程と、をこの順で含む。各工程の詳細について、以下に説明する。
【0050】
≪第1工程≫
第1工程では、基材を準備する。基材は、実施形態1に記載の基材を用いることができる。
【0051】
例えば、基材として超硬合金を用いる場合は、市販の基材を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、例えば、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC-Co系超硬合金(焼結体)を得る。次に、該焼結体に対して、ホーニング処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC-Co系超硬合金からなる基材を製造することができる。上記以外の基材であっても、この種の基材として従来公知のものであればいずれも準備可能である。
【0052】
≪第2工程≫
第2工程では、上記基材上に被膜を形成して切削工具を得る。被膜の形成は、例えば図2に示されるCVD装置を用いて行う。CVD装置30は、基材1を保持するための基材セット治具31の複数と、基材セット治具31を覆う耐熱合金鋼製の反応容器32とを備えている。また、反応容器32の周囲には、反応容器32内の温度を制御するための調温装置33が設けられている。反応容器32にはガス導入口34を有するガス導入管35が設けられている。ガス導入管35は、基材セット治具31が配置される反応容器32の内部空間において、鉛直方向に延在し該鉛直方向を軸に回転可能に配置されており、またガスを反応容器32内に噴出するための複数の噴出孔(貫通孔36)が設けられている。このCVD装置30を用いて、次のようにして上記被膜を構成する、第1層、第2層、および第3層を形成することができる。
【0053】
第2工程は、CVD法により第1層を形成する第2A工程と、CVD法により第2層を形成する第2B工程と、CVD法により第3層を形成する第2C工程と、をこの順で含む。被膜が、実施形態1に記載の「他の層」を含む場合は、該「他の層」は従来公知の方法で形成することができる。
【0054】
<第2A工程:CVD法により第1層を形成する工程>
第2A工程では、CVD法により第1層を形成する。より具体的には、まず、基材1を基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、第1層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、基材1上に第1層が形成される。
【0055】
第1層用の原料ガスとしては、TiCl、CHCN、CO、N、HCl、およびHの混合ガスが用いられる。
【0056】
混合ガスにおけるTiClの含有率は、8.0体積%以上9.0体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるCHCNの含有率は、0.2体積%以上1.0体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるCOの含有率は、1.3体積%以上2.0体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるNの含有率は、8.0体積%以上12.0体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるHClの含有率は、1.0体積%以上3.0体積%以下であることが好ましい。
【0057】
反応容器32内の温度は800℃以上850℃以下に制御されることが好ましく、反応容器32内の圧力は100hPa以上120hPa以下に制御されることが好ましい。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させることが好ましい。
【0058】
上記製造方法に関し、CVD法の各条件を制御することによって、第1層の態様が変化する。例えば、成膜時間を調整することにより、第1層の厚みが制御される。
【0059】
<第2B工程:CVD法により第2層を形成する工程>
第2B工程では、CVD法により第2層を形成する。より具体的には、まず、基材上に第1層が形成された第1切削工具前駆体を、基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、第2層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、第1層上に第2層が形成される。
【0060】
第2層用の原料ガスとしては、AlCl、CO、HS、およびHの混合ガスが用いられる。
【0061】
混合ガスにおけるAlClの含有率は、2.0体積%以上2.5体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるCOの含有率は、2.5体積%以上3.5体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるHSの含有率は、0.5体積%以上1.0体積%以下であることが好ましい。
【0062】
反応容器32内の温度は980℃以上1015℃以下に制御されることが好ましく、反応容器32内の圧力は60hPa以上75hPa以下に制御されることが好ましい。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させることが好ましい。
【0063】
上記製造方法に関し、CVD法の各条件を制御することによって、第2層の態様が変化する。例えば、成膜時間を調整することにより、第2層の厚みが制御される。
【0064】
<第2C工程:CVD法により第3層を形成する工程>
第2C工程では、CVD法により第3層を形成する。より具体的には、まず、基材上に第1層が形成され、且つ該第1層上に第2層が形成された第2切削工具前駆体を、基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、第3層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、第2層上に第3層が形成される。
【0065】
第3層用の原料ガスとしては、TiCl、CHCN、CO、N、HCl、およびHの混合ガスが用いられる。
【0066】
混合ガスにおけるTiClの含有率は、8.0体積%以上9.0体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるCHCNの含有率は、0.2体積%以上0.8体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるCOの含有率は、1.3体積%以上2.0体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるNの含有率は、8.0体積%以上12.0体積%以下であることが好ましい。混合ガスにおけるHClの含有率は、1.0体積%以上3.0体積%以下であることが好ましい。
【0067】
反応容器32内の温度は950℃以上1000℃以下に制御されることが好ましく、反応容器32内の圧力は80hPa以上100hPa以下に制御されることが好ましい。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させることが好ましい。
【0068】
上記製造方法に関し、CVD法の各条件を制御することによって、第3層の態様が変化する。例えば、成膜時間を調整することにより、第3層の厚みが制御される。
【0069】
<第3工程:被膜に対しブラスト処理を行うことで切削工具を得る工程>
第3工程では、被膜に対しブラスト処理を行うことで切削工具を得る。ここで、「ブラスト処理」とは、鋼鉄または非鉄金属(例えば、セラミックス)等の多数の小さな球体(メディア)を高速で、すくい面等の被膜の表面に衝突させる(投射させる)ことで該表面の残留応力等の諸性質を変化させる処理を意味する。
【0070】
メディアの種類としては、例えば、セラミックス、ジルコニア、アルミナ等が挙げられる。
【0071】
メディアの平均粒径は、100μm以上200μm以下である。
【0072】
投射されるメディアの濃度は、100g/分以上350g/分以下である。投射されるメディアの濃度は、150g/分以上250g/分以下であることが好ましい。
【0073】
メディアを投射する投射部と被膜の表面との距離(以下、「投射距離」とも記す。)は、35mm以上60mm以下である。投射距離は、35mm以上50mm以下であることが好ましい。
【0074】
メディアの投射角度は、被膜の表面に対して75°である。
【0075】
投射する際に上記メディアに加わる圧力(以下、「投射圧」とも記す。)は、0.10MPa以上0.50MPa以下であることが好ましく、0.15MPa以上0.45MPa以下であることがより好ましい。
【0076】
ブラストの処理時間は、20秒以上30秒以下であることが好ましい。
【0077】
上述したブラスト処理の各条件は、上記被膜の構成に合わせて適宜調整することが可能である。
【0078】
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で追加工程を適宜行ってもよい。
【0079】
<本実施形態の切削工具の製造方法の特徴>
上記の製造方法で得られた切削工具は、基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、該被膜は、該基材上に位置する第1層と、該第1層上に位置する第2層と、該第2層上に位置する第3層と、を含み、該第1層は、炭窒化チタンからなり、該第2層は、酸化アルミニウムからなり、該第3層は、炭窒化チタンからなり、該第1層の残留応力Xと、該第2層の残留応力Yと、該第3層の残留応力Zとは、式1の関係を満たす、切削工具を製造することができる。
X<Y<Z 式1
その理由は以下の通りと推察される。
【0080】
本実施形態の切削工具の製造方法は、特に、第2C工程で、第2層上に位置する第3層が形成された上で、第3工程で、平均粒径100~200μmの粗大なメディアを用いて、メディアの濃度を100g/分以上350g/分以下とし、且つメディアの投射角度を被膜の表面に対して75°とし、且つ投射距離を35mm以上60mm以下とすることにより実行されることを特徴とする。粗大なメディアを投射角度75°で投射することで被膜の基材側に応力が導入され易くなる。また、メディアの濃度が薄い為、メディアの投射速度を上げ易いことから、更に被膜の基材側に応力が導入され易くなる。また、投射距離が遠い為、第3層の応力と第2層の応力とに差をつけることが可能となる。以上により、第1層の残留応力Xと、第2層の残留応力Yと、第3層の残留応力Zとは、上記式1の関係を満たすことが可能となる。このことは、本発明者らが鋭意検討の結果、新たに見いだしたものである。
【実施例
【0081】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0082】
≪切削工具の作製≫
以下の様にして、試料1~31、101~104に係る切削工具を作製した。
【0083】
<第1工程>
基材として、TaC(2.0質量%)、Co(11.0質量%)およびWC(残部)からなる組成(ただし不可避不純物を含む)の超硬合金製刃先交換型切削チップ(形状:住友電工ハードメタル株式会社製、SEET13T3AGSN-G)を準備した。
【0084】
<第2工程>
第1層の組成が表3および表4に記載の通りとなる様に、以下の条件で、CVD法により、上記基材上に第1層を形成した(第2A工程)。成膜時間は、第1層が表3および表4に記載の厚みとなる様に適宜調製した。
(第2A工程の条件)
・混合ガスにおけるTiClの含有率:8.0~9.0体積%
・混合ガスにおけるCHCNの含有率:0.2~1.0体積%
・混合ガスにおけるCOの含有率:1.3~2.0体積%
・混合ガスにおけるNの含有率:8.0~12.0体積%
・混合ガスにおけるHClの含有率:1.0~3.0体積%
・混合ガスにおけるHの含有率:残り
・温度:800~850℃
・圧力:100~120hPa
【0085】
次に、第2層の組成が表3および表4に記載の通りとなる様に、以下の条件で、CVD法により、上記第1層上に第2層を形成した(第2B工程)。成膜時間は、第2層が表3および表4に記載の厚みとなる様に適宜調製した。
(第2B工程の条件)
・混合ガスにおけるAlClの含有率:2.0~2.5体積%
・混合ガスにおけるCOの含有率:2.5~3.5体積%
・混合ガスにおけるHSの含有率:0.5~1.0体積%
・混合ガスにおけるHの含有率:残り
・温度:980~1015℃
・圧力:60~75hPa
【0086】
次に、第3層の組成が表3および表4に記載の通りとなる様に、以下の条件で、CVD法により、上記第2層上に第3層を形成した(第2C工程)。成膜時間は、第3層が表3および表4に記載の厚みとなる様に適宜調製した。
(第2C工程の条件)
・混合ガスにおけるTiClの含有率:8.0~9.0体積%
・混合ガスにおけるCHCNの含有率:0.2~0.8体積%
・混合ガスにおけるCOの含有率:1.3~2.0体積%
・混合ガスにおけるNの含有率:8.0~12.0体積%
・混合ガスにおけるHClの含有率:1.0~3.0体積%
・混合ガスにおけるHの含有率:残り
・温度:950~1000℃
・圧力:80~100hPa
【0087】
<第3工程>
第1層、第2層、および第3層が形成された切削工具(言い換えれば、被膜が形成された切削工具)の表面に対し、表1および表2に記載の条件でブラスト処理を実行した。
【0088】
以上の手順によって、試料1~31、101~104に係る切削工具を作製した。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
≪切削工具の特性評価≫
<第1層の組成>
各試料に係る切削工具について、第1層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表3および表4の「第1層」の欄の「組成」の欄に記す。表3および表4の「第1層」の欄の「組成」の欄に、「TiCN」と記載されている場合、第1層は、炭窒化チタンからなることを意味する。
【0094】
<第1層の残留応力X>
各試料に係る切削工具について、第1層の残留応力Xを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表3および表4の「X[GPa]」の欄に記す。
【0095】
<第2層の組成>
各試料に係る切削工具について、第2層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表3および表4の「第2層」の欄の「組成」の欄に記す。表3および表4の「第2層」の欄の「組成」の欄に、「Al」と記載されている場合、第2層は、酸化アルミニウムからなることを意味する。
【0096】
<第2層の残留応力Y>
各試料に係る切削工具について、第2層の残留応力Yを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表3および表4の「Y[GPa]」の欄に記す。
【0097】
<第3層の組成>
各試料に係る切削工具について、第3層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表3および表4の「第3層」の欄の「組成」の欄に記す。表3および表4の「第3層」の欄の「組成」の欄に、「TiCN」と記載されている場合、第3層は、炭窒化チタンからなることを意味する。
【0098】
<第3層の残留応力Z>
各試料に係る切削工具について、第3層の残留応力Zを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表3および表4の「Z[GPa]」の欄に記す。
【0099】
<被膜の厚み>
各試料に係る切削工具について、被膜の厚みを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表3および表4の「被膜」の欄の「厚み[μm]」の欄に記す。
【0100】
<切削試験>
各試料に係る切削工具を用いて、以下の切削条件により、切削試験を実行した。摩耗と軽微な欠損が複合して損傷が進行し、逃げ面摩耗量Vb[mm]が0.3mmを超えた時間を工具寿命として測定した。得られた結果を、表3および表4の「工具寿命[分]」の欄に記す。
(切削条件)
被削材:SCM440(溝付き丸棒)
加工:溝付き丸棒外径旋削
切削速度:250m/分
送り量:0.3mm/rev
切り込み量:2.0mm
切削液:水溶性切削油
上記の切削条件は、黒皮材の合金鋼の軽断続旋削の切削条件に該当する。
【0101】
試料1~31に係る切削工具は実施例に該当する。試料101~104に係る切削工具は比較例に該当する。表3および表4の結果から、試料1~31に係る切削工具は、試料101~104に係る切削工具に比して、黒皮材の合金鋼の軽断続旋削においても、長い工具寿命を有することが分かった。
【0102】
以上により、試料1~31に係る切削工具は、黒皮材の合金鋼の軽断続旋削においても、長い工具寿命を有することが分かった。
【0103】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0104】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
1 基材、2 被膜、3 第1層、4 第2層、5 第3層、10 切削工具、30 CVD装置、 31 基材セット治具、 32 反応容器、 33 調温装置、 34 ガス導入口、 35 ガス導入管、 36 貫通孔
【要約】
切削工具は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、前記被膜は、前記基材上に位置する第1層と、前記第1層上に位置する第2層と、前記第2層上に位置する第3層と、を含み、前記第1層は、炭窒化チタンからなり、前記第2層は、酸化アルミニウムからなり、前記第3層は、炭窒化チタンからなり、前記第1層の残留応力Xと、前記第2層の残留応力Yと、前記第3層の残留応力Zとは、式1の関係を満たす、切削工具。
図1
図2