(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】呈味向上剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241106BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20241106BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20241106BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241106BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23G3/34 101
A23L2/38 D
A23L2/38 J
A23L2/38 P
A23L2/52 101
C12C5/02
(21)【出願番号】P 2020130797
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2020099848
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】相沢 健太
(72)【発明者】
【氏名】柳原 和典
(72)【発明者】
【氏名】山根 健司
(72)【発明者】
【氏名】相沢 萌子
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏基
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-124994(JP,A)
【文献】特表2006-518200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0275661(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23G
C12C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有
し、かつ、前記分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1~2個のグルコース残基である、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を有効成分とする呈味向上剤
であって、前記分岐グルカンまたはその還元物を25質量%以上100質量%以下で含有する糖組成物である、呈味向上剤。
【請求項2】
前記糖組成物
のヨード呈色値(ヨード呈色試験における波長660nmの吸光度)が0.05以下であ
る、請求項1に記載の呈味向上剤。
【請求項3】
分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合である、請求項1または2に記載の呈味向上剤。
【請求項4】
α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有
し、かつ、前記分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1~2個のグルコース残基である、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を
25質量%以上100質量%以下で含有する糖組成物を添加してなる飲食品。
【請求項5】
前記糖組成物
のヨード呈色値(ヨード呈色試験における波長660nmの吸光度)が0.05以下であ
る、請求項
4に記載の飲食品。
【請求項6】
前記糖組成物を飲食品全体に対して0.1~30質量%で添加してなる、請求項
4または
5に記載の飲食品。
【請求項7】
飲食品が乳風味飲食品、果汁含有飲食品、ビールテイスト飲料、菓子または調味料である、請求項
4~
6のいずれか一項に記載の飲食品。
【請求項8】
α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有
し、かつ、前記分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1~2個のグルコース残基である、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を
25質量%以上100質量%以下で含有する糖組成物を原材料に添加することを含んでなる、飲食品の製造方法。
【請求項9】
α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有
し、かつ、前記分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1~2個のグルコース残基である、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を
25質量%以上100質量%以下で含有する糖組成物を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品の呈味向上方法。
【請求項10】
前記糖組成物
のヨード呈色値(ヨード呈色試験における波長660nmの吸光度)が0.05以下であ
る、請求項
8または
9に記載の方法。
【請求項11】
飲食品が乳風味飲食品、果汁含有飲食品、ビールテイスト飲料、菓子または調味料である、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有
し、かつ、前記分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1~2個のグルコース残基である、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を含有する糖組成物であって、前記分岐グルカンまたはその還元物の含有量が
25質量%以上100質量%以下であり、かつ、ヨード呈色値(ヨウ素デンプン反応における波長660nmの吸光度)が0.05以下である、糖組成物。
【請求項13】
糖組成物全体に対する重合度1~3の糖質の含有量、重合度4~6の糖質の含有量、重合度7以上の糖質の含有量がそれぞれ、0~60質量%、
25~100質量%、0~50質量%である、請求項
12に記載の糖組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味向上剤と、呈味が向上した飲食品に関する。呈味が向上した飲食品の製造方法と、飲食品の呈味向上方法に関する。本発明はさらに、重合度4~6の分岐グルカンを含有する糖組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品の呈味を改良することを目的に種々の添加剤を配合する技術が広く用いられており、添加剤の一つとして単糖、オリゴ糖、多糖といった糖質が汎用されている。このようなオリゴ糖の1つとして、澱粉分解物に糖転移酵素を作用させることで得られる分岐オリゴ糖(分岐グルカン)が知られている。例えば、特許文献1には、分岐オリゴ糖とデンプン分解物の両者を少なくとも含有する風味改善効果を有する組成物が記載されている。特許文献2には、分岐構造を有する3~4糖類を用いてカテキン類の苦味・渋味を抑制する技術が記載されている。特許文献3には、重合度5~10の分岐糖類またはその還元物を含んでなる、食品用風味改善剤または製剤用マスキング剤が記載されている。しかし、いずれの文献においても実際に記載されているのは飲食品中の特定風味を抑制・マスキングする技術であり、飲食品自体が有する好ましい風味を低減することなく飲食品にコクや味の厚みなどを付与してその呈味全体を向上するものではない。
【0003】
また、特許文献4には、重合度11~35のグルカンであって少なくとも非還元末端に分岐構造を有するグルカンまたはその還元物による飲食品の風味改善効果が記載されている。特許文献5には、特定の性状を有する2種類の分岐グルカンを一定割合で配合することで飲食品の乳風味を向上する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-135404号公報
【文献】特開2006-280254号公報
【文献】特開2011-83248号公報
【文献】特開2010-95701号公報
【文献】特開2020-18190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、後述の実施例に示す通り、特許文献4の分岐グルカンと特許文献5の分岐グルカンは呈味をマスキングする効果を有するため、飲食品の呈味向上効果の点から改善の余地があった。
【0006】
本発明は新規な呈味向上剤と、呈味が向上した飲食品の提供を目的とする。本発明はまた、呈味が向上した飲食品の製造方法と、飲食品の呈味向上方法の提供を目的とする。本発明はさらに、重合度4~6の分岐グルカンを含有する、新規な糖組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、α-1,4-結合した直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造を有する分岐グルカンのうち、重合度が4~6の分岐グルカンに顕著な呈味向上効果があること、また、該分岐グルカンを糖組成物の形態で提供する場合、該分岐グルカンを20質量%以上含有し、かつ、所定のヨード呈色値を満たす糖組成物が顕著な呈味向上効果を示すことを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を有効成分とする呈味向上剤(以下、「本発明の呈味向上剤」ということがある)。
[2]分岐グルカンまたはその還元物を糖組成物の形態で含んでなり、該糖組成物が分岐グルカンまたはその還元物を20質量%以上含有し、かつ、ヨード呈色値(ヨード呈色試験における波長660nmの吸光度)が0.05以下であるものである、上記[1]に記載の呈味向上剤。
[3]分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合である、上記[1]または[2]に記載の呈味向上剤。
[4]分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1~2個のグルコース残基である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の呈味向上剤。
[5]α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を添加してなる飲食品。
[6]分岐グルカンまたはその還元物を糖組成物の形態で添加してなり、該糖組成物が分岐グルカンまたはその還元物を20質量%以上含有し、かつ、ヨード呈色値(ヨード呈色試験における波長660nmの吸光度)が0.05以下であるものである、上記[5]に記載の飲食品。
[7]前記糖組成物を飲食品全体に対して0.1~30質量%で添加してなる、上記[5]または[6]に記載の飲食品。
[8]飲食品が乳風味飲食品、果汁含有飲食品、ビールテイスト飲料、菓子または調味料である、上記[5]~[7]のいずれかに記載の飲食品。
[9]α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を原材料に添加することを含んでなる、飲食品の製造方法。
[10]α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品の呈味向上方法。
[11]分岐グルカンまたはその還元物を糖組成物の形態で添加してなり、該糖組成物が分岐グルカンまたはその還元物を20質量%以上含有し、かつ、ヨード呈色値(ヨード呈色試験における波長660nmの吸光度)が0.05以下であるものである、上記[10]または[11]に記載の方法。
[12]飲食品が乳風味飲食品、果汁含有飲食品、ビールテイスト飲料、菓子または調味料である、上記[9]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が4~6の分岐グルカンまたはその還元物を含有する糖組成物であって、前記分岐グルカンまたはその還元物の含有量が20質量%以上であり、かつ、ヨード呈色値(ヨウ素デンプン反応における波長660nmの吸光度)が0.05以下である、糖組成物。
[14]糖組成物全体に対する重合度1~3の糖質の含有量、重合度4~6の糖質の含有量、重合度7以上の糖質の含有量がそれぞれ、0~60質量%、20~100質量%、0~50質量%である、上記[13]に記載の糖組成物。
【0009】
本発明の呈味向上剤によれば、飲食品の呈味を低減(マスキング)することなく、呈味全体を効果的に向上することができる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明において「分岐グルカン」とは、α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有するグルカンを意味し、特に、重合度が4~6の分岐グルカンを「本発明の分岐グルカン」という。
【0011】
本発明において、「直鎖状グルカン」とは単一のグルコシド結合によりグルコース分子が結合して構成された直鎖状のグルカンを意味する。
【0012】
本発明において、「分岐構造」とはα-1,4-グルコシド結合以外のグルコシド結合により直鎖状グルカンに結合した1個以上のグルコース残基からなるグルカン残基を意味する。α-1,4-グルコシド結合以外のグルコシド結合としては、α-1,6-グルコシド結合、α-1,3-グルコシド結合、α-1,2-グルコシド結合が挙げられる。
【0013】
本発明の分岐グルカンにおいて、分岐構造のグルカン残基を構成するグルコース残基の個数は、本発明の分岐グルカンの重合度を満たす限り特に限定されないが、好ましくは1~数個、より好ましくは1~3個、1~2個または1個とすることができる。
【0014】
本発明において、「還元末端」とは還元性を示す糖残基を意味し、「非還元末端」とは還元性を示さない糖残基、すなわち「還元末端」以外の末端糖残基を意味する。
【0015】
本発明において「重合度」(DP)とは、グルカンを構成するグルコース残基の個数を指し、直鎖状グルカンを構成するグルコース残基の個数のみならず、分岐構造を構成するグルコース残基の個数を含む。分岐糖類の重合度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によって測定することができる。
【0016】
本発明において「還元物」とは、糖の還元末端のグルコシル基のアルデヒド基が還元され、水酸基となっているものをいう。糖の還元物を得る方法は当業者に周知であり、使用可能な還元方法を例示すれば、ヒドリド還元剤を用いる方法、プロトン性溶媒中の金属を用いる方法、電解還元方法、接触水素化反応方法等が挙げられる。本発明においては、少量の還元物を調製する場合にはヒドリド還元剤を用いる方法が簡便且つ特殊な装置を必要とせず便利であり、一方で、工業的に大規模に実施する場合には、経済性に優れ、副生成物も少ないという点から、接触水素化反応を用いる方法が好ましい。なお、本明細書において「本発明の分岐グルカン」という場合にはその還元物を含むものとする。
【0017】
本発明において、「ヨード呈色値」とは、ヨード呈色試験、すなわち5.0質量%(固形分濃度)の糖組成物水溶液1mLに0.05Mヨウ素水溶液100μLを加え、よく撹拌した後の波長660nmの吸光度をいう。ヨード呈色値は後述のようにマスキング効果の指標となる値であり、この値が小さいほどマスキング効果が低く、本発明による呈味向上効果がより発揮されることとなる。
【0018】
本発明の分岐グルカンは糖組成物の形態で提供し、使用することができる。この場合、該糖組成物は、本発明の分岐グルカンを20質量%以上含有し、かつ、ヨード呈色値(ヨード呈色試験における波長660nmの吸光度)が0.05以下であるものとすることができる(以下、「本発明の糖組成物」ということがある)。
【0019】
本発明の糖組成物中の重合度4~6の分岐グルカンの含有量は、その下限値(以上または超える)を20質量%、22質量%、25質量%、27質量%または34質量%とすることができ、その上限値(以下または下回る)を100質量%、99質量%、90質量%、80質量%、70質量%または67質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、20~100質量%、25~80質量%または34~67質量%とすることができる。
【0020】
本発明の糖組成物中における重合度4~6の分岐グルカンの含有量は、糖組成物をβ-アミラーゼで処理した後、残存した4糖~6糖の含有量としてHPLC分析で測定することができる。前記糖組成物中の分岐グルカンの具体例としては、α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、その直鎖状グルカンの非還元末端のみに導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度4~6の分岐オリゴ糖が挙げられる。
【0021】
本発明の糖組成物の糖組成は、呈味向上効果を奏する限り特に制限はないが、例えば、重合度1~3の糖質の含有量の下限値(以上または超える)を0質量%、0.5質量%、1質量%、5質量%または10質量%とすることができ、その上限値(以下または下回る)を60質量%、58質量%、55質量%、50質量%または45質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、重合度1~3の糖質の含有量の範囲は、例えば、0~60質量%、0.5~58質量%、1~55質量%、5~50質量%または10~45質量%とすることができる。本発明の糖組成物の糖組成はまた、重合度1の糖質の含有量を20質量%以下(好ましくは18質量%以下、より好ましくは15質量%以下)とすることができ、重合度2の糖質の含有量を25質量%以下(好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下)とすることができ、重合度3の糖質の含有量を25質量%以下(好ましくは20質量%以下、より好ましくは19質量%以下)とすることができる。本発明の糖組成物の糖組成はまた、重合度7以上の糖質の含有量の下限値(以上または超える)を0質量%、0.5質量%、1質量%、5質量%または7質量%とすることができ、その上限値(以下または下回る)を50質量%、48質量%、45質量%、40質量%または35質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、重合度7以上の糖質の含有量の範囲は、例えば、0~50質量%、0.5~48質量%、1~45質量%、5~40質量%、5~35質量%または7~35質量%とすることができる。本発明の糖組成物の糖組成はまた、重合度4~6の糖質の含有量の下限値(以上または超える)を20質量%、25質量%、30質量%または35質量%とすることができ、その上限値(以下または下回る)を100質量%、90質量%、80質量%、70質量%または60質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、重合度4~6の糖質の含有量の範囲は、例えば、20~100質量%、25~90質量%または30~80質量%とすることができる。なお、本発明において糖組成物や呈味向上剤中の糖成分に関して言及する場合は、いずれも固形分当たり(固形分換算)の含有量を意味する。
【0022】
本発明の糖組成物のヨード呈色値は、0.04以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましく、0.02以下であることが特に好ましい。ヨウ素は直鎖状のグルカン鎖のらせん構造内に包接されることで呈色を示す。以下の理論に拘束されるものではないが、ヨード呈色値が0.05を上回る糖組成物は、高分子成分が多いなどの理由によりグルカン鎖の包接能が高く、飲食品中の風味成分を包接し、マスキングしてしまうため呈味向上効果に劣ると考えられる。すなわち、本発明においてヨード呈色値はマスキング効果の指標として用いることができる。
【0023】
本発明の分岐グルカンおよびそれを含む糖組成物は、その製造方法に特に制限はないが、澱粉分解物に糖転移酵素を作用させることで安価かつ効率的に製造可能である。具体的には、澱粉分解物の5~50%溶液に糖転移酵素を添加し、使用酵素に応じた好適なpH、温度で反応させる。反応は通常、pH4~9の範囲で実施することができ、好適な反応pHはpH5~7の範囲である。反応は通常、70℃付近までの温度範囲で実施することができ、好適な反応温度は40~60℃の範囲である。酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており、目的とする酵素反応の進行により適宜反応時間を調節することができ、通常は15~96時間程度反応させる。目的組成物の生成を確認後、必要に応じてろ過、脱塩、脱色等の精製を行い、製品形態に応じて濃縮または粉末化してもよい。
【0024】
ここで、糖転移作用を有する酵素は、例えば、α-グルコシダーゼ、6-α-グルコシルトランスフェラーゼ、デキストリンデキストラナーゼおよび環状マルトシルマルトース生成酵素から選択することができる。α-グルコシダーゼは、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus
niger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremonium
sp.)由来のもの
を使用することができる。
【0025】
糖転移作用を有する酵素としてα-グルコシダーゼを使用する場合、前記酵素反応に用いられるα-グルコシダーゼの添加量は、反応効率および製造コストの観点から、対基質(固形)1g当たり0.01~30単位とすることができる。ここで、α-グルコシダーゼ1単位とは後述するα-グルコシダーゼの活性測定方法の条件下において、1分間に1μmolのマルトースを加水分解するのに必要な酵素量をいう。
【0026】
本発明の分岐グルカンおよびそれを含む糖組成物はまた、アミラーゼと糖転移作用を有する酵素とを組み合わせてデンプン分解物に作用させることによってより効率的に製造することができる。前記アミラーゼとしては、例えば、シクロデキストリン生成酵素やα-アミラーゼが挙げられる。
【0027】
ここで、シクロデキストリン生成酵素は、パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus
sp.)、バチルス・コアギュランス(Bacillus
coagulans)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus
stearothermophilus)、およびバチルス・マゼランス(Bacillus
macelans)由来のものから選択することができる。また、α-アミラーゼは、市販のα-アミラーゼ
であるクライスターゼL-1およびクライスターゼT-5(いずれも天野エンザイム社)から選択することができる。
【0028】
アミラーゼとしてシクロデキストリン生成酵素を使用する場合、前記酵素反応に用いられるシクロデキストリン生成酵素の添加量は、反応効率および製造コストの観点から、対基質(固形)1g当たり0.1~10単位とすることができる。ここで、シクロデキストリン生成酵素1単位とは後述するシクロデキストリン生成酵素の活性測定方法の条件下において、1分間に1mgのβ-シクロデキストリンを生成するのに必要な酵素量をいう。
【0029】
アミラーゼとしてα-アミラーゼを使用する場合、前記酵素反応に用いられるα-アミラーゼの添加量は、反応性および製造コストの観点から、対基質(固形)当たり0.0005~0.1質量%とすることができる。
【0030】
本発明の分岐グルカンおよびそれを含む糖組成物はさらに、アミラーゼと糖転移作用を有する酵素に加えて、枝切り酵素をさらに組み合わせてデンプン分解物作用させることによって製造することができる。枝切り酵素は、アミラーゼおよび糖転移作用を有する酵素と一緒に、デンプン分解物に作用させることが好ましい。
【0031】
ここで、枝切り酵素は、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、およびこれらの組み合わせからなる群から選択して使用することができ、より好ましい態様では、マイロイデス・オドラータス(Myroides
odoratus)由来イソアミラーゼ、シュードモナス・アミロデラモサ(Pseudomonas
amyloderamosa)由来イソアミラーゼ、およびクレブシエラ・プネウモニアエ(Klebsiella
pneumoniae)由来プルラナーゼ、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0032】
枝切り酵素としてイソアミラーゼを使用する場合、前記酵素反応に用いられるイソアミラーゼの添加量は、反応効率および製造コストの観点から、対基質(固形)1g当たり10~1000単位とすることができる。前記製造方法の酵素反応に用いられる枝切り酵素のうちプルラナーゼの添加量は、反応性および製造コストの観点から、対基質(固形)当たり0.001~0.1質量%とすることができる。ここで、イソアミラーゼ1単位とは、後述するイソアミラーゼの活性測定方法の条件下において610nmの吸光度を0.01増加させる酵素力価である。
【0033】
本発明の分岐グルカンを糖組成物の形態で得る場合には、必要に応じて生成物の必要画分を分画することで糖組成物中の重合度4~6の分岐グルカン含有量を20質量%以上とすることができる。また、生成物の高重合度の画分を除去することで糖組成物の前記ヨード呈色値を0.05以下とすることができる。除去方法としては分画、あるいは酵素で分解する方法が挙げられる。前記の分画を行う方法に特に制限は無く、膜分画、クロマト分画、沈殿分画等を例示することができる。酵素で分解する際に使用する酵素にも特に制限は無く、α-アミラーゼ等を例示することができる。
【0034】
本発明の呈味向上剤は、主として飲食品の呈味向上を目的として使用することができる。ここで「呈味」とは、飲食品を摂取した場合に感じられる味覚をいい、より具体的にはコク、味の厚み、素材の風味、ボディ感を意味する。また「呈味向上」とは飲食品の呈味がより強く感じられるようにすることをいう。例えば、添加対象飲食品が乳風味飲食品であるときは、本発明の呈味向上剤は乳風味向上剤ということができる。添加対象飲食品が果汁含有飲食品であるときは、本発明の呈味向上剤は果汁感向上剤ということができる。添加対象飲食品がコクを訴求する飲食品であるときは、本発明の呈味向上剤はコク味向上剤ということができる。
【0035】
本発明において「呈味」は飲食品の摂取後に味が感じられるタイミングに応じて3つに分けることができ、これらは時系列順に先味、中味、後味と呼ばれる。本発明において、先味とは飲食物を口に入れた直後に感じる呈味を意味し、中味とは先味の後から飲食物を飲み込むまでに感じる呈味を意味し、後味とは飲食物を飲み込んだ後に残る呈味を意味する。
【0036】
後記実施例に示される通り、重合度4~6の分岐グルカンは、呈味全体(先味、中味、後味)をまんべんなく向上させる効果を有する。これに対し、前記分岐構造を有する分岐グルカンであっても、重合度が小さすぎる(重合度1~3)と先味は向上するが中味および後味の向上効果は弱くなり、逆に重合度が大きすぎる(重合度7以上)と後味は向上するが先味および中味の向上効果は弱くなる。また、直鎖状のグルカンは重合度が4~6であっても呈味向上効果の点で劣る。このように本発明の呈味向上剤は呈味全体を向上させることができるため、違和感なく自然に飲食品の呈味(コク、味の厚み、素材の風味、ボディ感など)を増強できる点で有利である。
【0037】
本発明の呈味向上剤は、その効果を阻害しない範囲で、本発明の分岐グルカンに加えて他の食品素材、例えば、糖質、油脂類、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、乳化剤、増粘剤、有機酸、食物繊維、保存料、着色料、香料、無機塩類等を配合してもよい。また本発明の呈味向上剤の性状も特に制限はなく、水溶液(シラップ)状であっても、粉末状であってもよい。
【0038】
本発明の呈味向上剤は、本発明の分岐グルカンを含有していればよく、その含有量に制限はないが、本発明の分岐グルカンにより発揮される効果と製造コストを考慮すると、本発明の呈味向上剤中の本発明の分岐グルカンの含有量は、その下限値(以上または超える)を20質量%、22質量%、25質量%、27質量%または34質量%とすることができ、その上限値(以下または下回る)を100質量%、99質量%、90質量%、80質量%、70質量%または67質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、20~100質量%、25~80質量%または34~67質量%とすることができる。
【0039】
本発明の呈味向上剤は、乳風味飲食品をはじめとする各種飲食品に添加し、該飲食品の呈味を向上させることができる。このため本発明の呈味向上剤は食品添加剤として提供することができる。本発明の呈味向上剤を添加する飲食品(本発明の飲食品)に特に制限はないが、本発明の呈味向上剤の効果を考慮すると、本発明の呈味向上剤は乳風味飲食品に添加するのが好ましい。
【0040】
本発明の「乳風味飲食品」とは乳風味を有する飲食品であり、乳製品などの乳成分(例えば牛乳)を含む飲食品に加え、例えば乳成分の替わりに香料などにより乳風味が付与された飲食品、すなわち、乳成分を含まない飲食品も含む。「乳風味」とは、乳より得られる甘み等の呈味やコクのことをいう。乳風味飲食品としては、例えば、乳飲料、乳性飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料、カフェオレ、カフェラテ、ココア、豆乳飲料、アーモンドミルク、ライスミルク、ココナッツミルク、ホイップクリーム、プリン、杏仁豆腐、練乳、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、ホワイトソース、ヨーグルト、バター、チーズ、ミルクティー、抹茶オレ、ドレッシングなどが例示される。本発明の効果の点から、乳風味飲食品は、動物性乳を含有する飲食品であることが好ましく、また乳風味飲料であることが好ましい。
【0041】
本発明の呈味向上剤を添加する飲食品は、例えば、下記が挙げられる。
・ノンアルコール飲料(果汁含有飲料、果汁ジュース、野菜ジュース、炭酸飲料、アイソトニック飲料、アミノ酸飲料、スポーツ飲料、コーヒー、カフェオレ、ココア飲料、茶系飲料、栄養ドリンク、ノンアルコールビール、ノンアルコールチューハイ、ノンアルコールカクテル、ニアウォーター、フレーバーウォーターなど)やアルコール飲料(ビール、発泡酒、リキュール、チューハイ、清酒、ワイン、果実酒、カクテル、蒸留酒など)などの飲料類
・アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、かき氷、フラッペ、フローズンヨーグルト、ゼリー 、プリン、ババロア、水羊羹などの冷菓類
・水飴、果実のシロップ漬、氷みつ、チョコレートシロップ、カラメルシロップなどのシロップ類
・フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、バタークリーム、カスタードクリームなどのペースト類
・マーマレード、フルーツソース、ブルーベリージャム、苺ジャムなどのジャム類
・食パン、ロールパン、ブリオッシュ、蒸しパン、あんパン、クリームパンなどのパン類
・ビスケット、クラッカー、クッキー、ワッフル、マフィン、スポンジケーキ、パイなどの焼菓子類
・シュークリーム、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディなどの洋菓子類
・せんべい、あられ、おこし、求肥、餅類、まんじゅう、大福、ういろう、餡類、錦玉、カステラ、飴玉などの和菓子類
・醤油、魚醤、味噌、ひしお、マヨネーズ、ドレッシング、三杯酢、天つゆ、麺つゆ、ウスターソース、オイスターソース、ケチャップ、焼き鳥のタレ、焼き肉のタレ、漬け込みタレ、甘味料、粉飴、食酢、すし酢、カレールウ、中華の素、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルソルト、テーブルシュガーなどの各種調味料類
・パスタソース、ミートソース、トマトソース、ホワイトソース、デミグラスソース、カレーソース、ハヤシソース、グレービーソース、ハンバーグソース、サルサソース、ステーキソースなどのソース類
・糠漬け、粕漬け、味噌漬け、福神漬け、べったら漬、奈良漬け、千枚漬、梅干しなどの漬物類
・たくわん漬の素、白菜漬の素、キムチの素などの漬物の素
・ハム、ベーコン、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの畜肉製品類
・魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、干物などの魚肉製品類
・塩ウニ、カラスミ、塩辛、なれずし、酢コンブ、さきするめ、田麩などの各種珍味類
・海苔、山菜、するめ、小魚、貝などで製造される佃煮類
・煮豆、煮魚、ポテトサラダ、コンブ巻などの惣菜食品
・乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜などの瓶詰類や缶詰類
・天ぷら、トンカツ、フリッター、唐揚げ、竜田揚げなどの揚げ物用衣類
・うどん、そば、中華麺、パスタ、春雨、ビーフン、餃子の皮、シューマイの皮などの麺類
・プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席コーヒー、即席汁粉、即席スープなどの即席食品類
【0042】
本発明の呈味向上剤の飲食品への添加量は、向上させる呈味に応じて適宜調整することができるが、飲食品に対する本発明の呈味向上剤の添加量は、その下限値を0.1質量%、0.5質量%、1質量%または2質量%とすることができ、その上限値(以下または下回る)を30質量%または15質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記添加量の範囲は、例えば、0.1~30質量%または0.5~15質量%とすることができる。なお、本発明において呈味向上剤や分岐グルカンまたは糖組成物の飲食品への添加量について言及する場合、呈味向上剤や分岐グルカンまたは糖組成物の固形分の質量に基づき算出される値を意味する。
【0043】
本発明の呈味向上剤の飲食品への添加量は、本発明の呈味向上剤に含まれる本発明の分岐グルカンの、飲食品に対する添加量を基準に定めることができ、その場合、本発明の分岐グルカンの添加量の下限値を0.02質量%、0.1質量%または1質量%とすることができ、その上限値(以下または下回る)を30質量%、15質量%または5質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記添加量の範囲は、例えば、0.02~30質量%または0.1~5質量%とすることができる。
【0044】
本発明の呈味向上剤の飲食品への添加時期は特に制限はなく、製造時に原料として添加してもよく、製造中に添加してもよく、製造後に添加してもよい。
【0045】
本発明の別の側面によると、本発明の分岐グルカンまたはそれを含有する糖組成物を添加してなる飲食品が提供される。本発明の飲食品としては、本発明の呈味向上剤の添加対象である飲食品が挙げられ、本発明の呈味向上剤に関する記載に従って実施することができる。
【0046】
本発明の別の側面によるとまた、本発明の分岐グルカンまたはそれを含有する糖組成物を添加する工程を含んでなる、呈味が向上した飲食品の製造方法が提供される。本発明の製造方法により製造される飲食品としては、本発明の呈味向上剤の添加対象である飲食品が挙げられ、本発明の製造方法は、本発明の呈味向上剤に関する記載に従って実施することができる。
【0047】
本発明の別の側面によるとさらに、本発明の分岐グルカンまたはそれを含有する糖組成物を添加する工程を含んでなる、飲食品の呈味向上方法が提供される。本発明の呈味向上方法により呈味を向上させる飲食品としては、本発明の呈味向上剤の添加対象である飲食品が挙げられ、本発明の呈味向上方法は、本発明の呈味向上剤に関する記載に従って実施することができる。
【実施例】
【0048】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において「固形分」当たりの割合や「固形分」の含有割合に言及した場合には、固形成分の質量に基づいて定められた割合を意味するものとする。
【0049】
糖組成分析
糖組成分析は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して行った。分析カラムはMCI GEL CK04S(三菱ケミカル社)を用い、超純水を溶離液として流速0.4mL/分、カラム温度70℃で分析を行った。検出には示差屈折率検出器(RID-10A、島津製作所社)を使用し、分析時間は35分とした。得られるクロマトグラムのピーク面積より各重合度成分の含有量を求めた。
【0050】
分岐グルカンの定量
分岐グルカンの含有量を次の方法で確認した。5質量%に調整した糖液1mLに1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に溶解した10mg/mL β-アミラーゼ#1500(ナガセケムテックス社)50μLを添加し、55℃にて1時間作用させ、煮沸失活させた。これをアンバーライトMB4(オルガノ社)にて脱塩した後、0.45μmフィルターにてろ過したものを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。酵素処理後に残存する重合度4以上の糖質を分岐グルカンとした。
【0051】
β-シクロデキストリン生成酵素の活性測定
酵素反応は、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に溶解した1%可溶性デンプン(ナカライテスク社)0.9mlに適宜水で希釈した酵素溶液0.1mlを添加し、40℃に10分間保持した。これに40mM水酸化ナトリウム水溶液を2.5ml添加して反応を停止した。生成したβ-シクロデキストリンをフェノールフタレイン法により測定した。具体的には、0.1mg/mlフェノールフタレインおよび2.5mM炭酸ナトリウムからなる溶液0.3mlを前記溶液に添加し、攪拌後550nmの吸光度を測定した。0~0.1mg/mlの範囲で作成したβ-シクロデキストリンの標準曲線に基づき生成したβ-シクロデキストリン量を求めた。
【0052】
α-グルコシダーゼの活性測定
酵素反応は、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.2)に溶解した0.25%マルトース80μlに0.05%トリトンX-100を含む10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.2)で適宜希釈した酵素溶液20μlを添加し、37℃に10分間保持した。反応10分で反応液50μlを抜き出し、2Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)100μlと混合して反応を停止した。これにグルコースCII-テストワコー(和光純薬社)を40μl添加した後、室温に1時間保持して発色させ、490nmの吸光度を測定した。生成したグルコース量は0~0.01%の範囲で作成したグルコースの標準曲線に基づき算出した。
【0053】
イソアミラーゼの活性測定
酵素反応は、20mM塩化カルシウムを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)100μlに5mg/mlワキシーコーンスターチ(日本食品化工社)350μlを添加し、45℃に5分間保持したものに同緩衝液にて適宜希釈した酵素溶液100μl添加して45℃に15分間保持した。これに反応失活用ヨウ素液(6.35mg/mlヨウ素および83mg/mlヨウ化カリウムからなる溶液2mlと0.1N塩酸8mlを混合したもの)500μlを添加して反応を停止した。この反応停止液を室温に15分間保持し、これに純水10ml添加したものの610nmの吸光度を測定した。
【0054】
ヨード呈色試験
固形分濃度5.0%の糖組成物水溶液1mLに0.05Mヨウ素水溶液100μLを加え、よく撹拌した後に1cm石英セルにいれ、660nmの吸光度を分光光度計(U-2900、日立ハイテクサイエンス社)で測定した。得られた吸光度から、超純水を試験溶液として同様に測定して得た吸光度を減じたものを、その糖組成物のヨード呈色値とした。
【0055】
製造例1:糖組成物1の製造
30%(w/w)DE6.5コーンスターチ液化液を温度53℃、pH6.0に調整し、これにパエニバシルス・エスピーのシクロデキストリン生成酵素を対固形分1g当たり0.3単位、マイロイデス・オドラータスのイソアミラーゼを対固形分1g当たり200単位、プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム社)を対固形分1g当たり0.2mg、トランスグルコシダーゼL「アマノ」(天野エンザイム社)を対固形分1g当たり3.75単位、クライスターゼL-1(天野エンザイム社)を対固形分1g当たり0.06mg添加して50時間糖化した。これを80℃に加温し、クライスターゼL-1を対固形分1g当たり0.15mg添加して1時間作用させた。続いて、定法に従い精製、濃縮した。得られた糖組成物(糖組成物1)中のDP4~6の分岐グルカン含有量を測定したところ、33.7%であった。なお、パエニバシルス・エスピーのシクロデキストリン生成酵素はAgr. Biol. Chem., 40(9), 1785-1791(1976)の記載に従って調製し、マイロイデス・オドラータスのイソアミラーゼは特開平5-227959号公報に従って調製した。
【0056】
製造例2:糖組成物2の製造
製造例1で製造した糖組成物をゲルろ過クロマトグラフィー(Toyopearl HW-40S、東ソー社、以下同様)に供し、重合度1~3が主成分となるように分画した。得られた糖組成物(糖組成物2)中のDP4~6の分岐グルカン含有量を測定したところ、12.1%であった。
【0057】
製造例3:糖組成物3の製造
製造例1で製造した糖組成物をゲルろ過クロマトグラフィーに供し、重合度4~6が主成分となるように分画した。得られた糖組成物(糖組成物3)中のDP4~6の分岐グルカン含有量を測定したところ、67.6%であった。
【0058】
製造例4:糖組成物4の製造
製造例1で製造した糖組成物をゲルろ過クロマトグラフィーに供し、重合度7以上が主成分となるように分画した。得られた糖組成物(糖組成物4)中のDP4~6の分岐グルカン含有量を測定したところ、19.9%であった。
【0059】
製造例5:糖組成物5の製造
デキストリン(パインデックス#4、松谷化学工業社)をゲルろ過クロマトグラフィーに供し、重合度4~6が主成分となるように分画した。得られた糖組成物(糖組成物5)中のDP4~6の分岐グルカン含有量を測定したところ、9.5%であった。なお、当該分岐グルカンは、非還元末端ではなく直鎖状グルカンの内部に原料澱粉由来の分岐構造を有する分岐グルカンと推定される。
【0060】
実施例1:分岐グルカンの重合度と呈味の関係
上記製造例で調製した糖組成物2~4を用いて乳飲料を調製し、呈味向上効果を評価した。使用した糖組成物の糖組成、DP4~6の分岐グルカン含有量およびヨード呈色値を表1に示した。また、乳飲料は表2の配合(質量%)で調製した。牛乳には「みなさまのお墨付き 牛乳 成分無調整(西友社)」を使用した(以下、同様)。
【0061】
【0062】
【0063】
試験サンプルの先味、中味および後味の呈味(乳風味の強さ)を乳30%サンプルを0点、乳35%サンプルを4点として7名のパネラーで官能評価を実施した。先味、中味および後味とは、以下に定義される。
先味:飲食物を口に入れた直後に感じる呈味
中味:先味の後から飲食物を飲み込むまでに感じる呈味
後味:飲食物を飲み込んだ後に残る呈味
【0064】
評価結果(評価点の平均値)を表3に示した。
【表3】
【0065】
DP1~3を主成分とし、DP4~6の分岐グルカンを12.1%含む糖組成物2を添加した比較例1は、先味の評価は高いものの、中味および後味の評価が低かった。DP7以上を主成分としDP4~6の分岐グルカンを19.9%含む糖組成物4を添加した比較例2は、後味の評価は高いものの、先味および中味の評価が低かった。それに比べて、DP4~6を主成分とし、DP4~6の分岐グルカンを67.6%含有する糖組成物3を添加した実施例3は、先味、中味および後味すべてで良好な評価が得られた。この結果からDP4~6の分岐グルカンが乳飲料の呈味向上剤として有用であることが示された。
【0066】
実施例2:糖組成物の分岐の有無と呈味の関係
上記製造例で調製した糖組成物3および5を用いて乳飲料を調製し、呈味向上効果を評価した。使用した糖組成物の糖組成、DP4~6の分岐グルカン含有量およびヨード呈色値を表4に示した。また、乳飲料は表5の配合(質量%)で調製した。
【0067】
【0068】
【0069】
実施例1と同様の官能評価を実施した結果を表6に示した。
【表6】
【0070】
先味、中味および後味の全ての評価において糖組成物5を添加した比較例3よりも糖組成物3を添加した実施例2の評価が良好であった。この結果から、DP4~6の糖質の中でも、直鎖グルカンよりも分岐グルカンのほうが効果的に乳飲料の呈味を向上することが示された。
【0071】
実施例3:他の分岐グルカンとの比較
上記製造例で調製した糖組成物1と各種分岐オリゴ糖を用いて乳飲料を調製し、呈味向上効果を評価した。使用した試験に用いた糖組成物の糖組成、DP4~6の分岐グルカン含有量およびヨード呈色値を表7に示した。また、乳飲料は表8の配合(質量%)で乳飲料を調製した。
【0072】
【0073】
【0074】
実施例1と同様の評価を実施した結果を表9に示した。
【表9】
【0075】
高重合度の分岐グルカンを主成分としDP4~6の分岐グルカンが29.0%、ヨード呈色値が0.118の日食ブランチオリゴ(日本食品化工社)を添加した比較例4は、先味の評価が低かった。低重合度の分岐グルカンを主成分とし、DP4~6の分岐グルカンが12.5%、ヨード呈色値が0.016の日食パノリッチ(日本食品化工社)を添加した比較例5は、先味の評価は比較的高かったが、中味および後味の評価は低かった。特許文献5(特開2020-18190号公報)に開示された分岐グルカン組成物(日食ブランチオリゴと日食パノリッチの混合糖液(固形分換算で1:1)、DP4~6の分岐グルカンが20.5%、ヨード呈色値が0.064)を添加した比較例6は、先味および中味の評価は比較的高かったものの、後味の評価は低かった。DP4~6の分岐グルカンが33.7%、ヨード呈色値が0.011の糖組成物1を添加した実施例3は、全体的に良好な評価であった。従って、DP4~6の分岐グルカンを20%以上含有していても、ヨード呈色値が0.05以上であると呈味向上の作用が弱くなることが示された。これは、飲食品中の呈味成分を特定の分岐グルカンが包接することで呈味がマスキングされてしまうためと考えられる。
【0076】
実施例4:リンゴ果汁飲料での試験
市販のリンゴ果汁飲料(トロピカーナ、キリンビバレッジ社)に各糖組成物を表10の配合(質量%)で添加した。試験サンプルの先味、中味および後味の呈味(果汁感)の向上を、比較例7を0点として最大4点で4名のパネラーで評価した。
【0077】
【0078】
評価結果(評価点の平均点)を表11に示した。
【表11】
【0079】
高重合度のグルカンを主成分としDP4~6の分岐グルカンが29.0%、ヨード呈色値が0.118のブランチオリゴを添加した比較例8は、先味の評価が低かった。低重合度のグルカンを主成分とし、DP4~6の分岐グルカンが12.5%、ヨード呈色値が0.016のパノリッチを添加した比較例9は、先味の評価は比較的高かったが、中味および後味の評価は低かった。DP4~6の分岐グルカンが33.7%、ヨード呈色値が0.011の糖組成物1を添加した実施例4は、全体的に良好な評価であった。本実施例の結果から、本発明の糖組成物が果汁飲料の呈味を向上(増強)させることが示された。
【0080】
実施例5:豆乳飲料での試験
市販の豆乳飲料(豆腐もできます有機豆乳、スジャータめいらく社)に各糖組成物を表12の配合(質量%)で添加した。各サンプルの味質を5名のパネラーで評価した。糖組成物無添加の比較例10と比較して、高重合度のグルカンを主成分としDP4~6の分岐グルカンが29.0%、ヨード呈色値が0.118のブランチオリゴを添加した比較例11は全体的に平坦でのっぺりした印象なのに対して、DP4~6の分岐グルカンが33.7%、ヨード呈色値が0.011の糖組成物1を添加した実施例5は豆乳の味の厚みを自然に上げているとの評価であった。
【0081】
【0082】
実施例6:乳性飲料での試験
市販の乳性飲料(カルピスウォーター、アサヒ飲料社)に各糖組成物を表13の配合(質量%)で添加した。各サンプルの味質を4名のパネラーで評価した。糖組成物無添加の比較例12と比較して、高重合度のグルカンを主成分としDP4~6の分岐グルカンが29.0%、ヨード呈色値が0.118のブランチオリゴを添加した比較例13は平坦な味になるのに対して、DP4~6の分岐グルカンが33.7%、ヨード呈色値が0.011の糖組成物1を添加した実施例6は中味および後味の厚みやコクを向上させ、飲みごたえに寄与していた。
【0083】
【0084】
実施例7:ピーチ果汁飲料での試験
市販のピーチ果汁飲料(GOKURI ふんわりピーチ、サントリー社)に糖組成物1を表14の配合(質量%)で添加した。サンプルの味質を5名のパネラーで評価した。糖組成物無添加の比較例14と比較して、DP4~6の分岐グルカンが33.7%、ヨード呈色値が0.011の製造例1の糖液を添加した実施例7は中味および後味の果汁感およびコクを向上させていた。
【0085】
【0086】
実施例8:ノンアルコールビールでの試験
ノンアルコールビールを表15の配合(質量%)で調製した。サンプルの味質を5名のパネラーで評価した。高重合度のグルカンを主成分としDP4~6の分岐グルカンが29.0%、ヨード呈色値が0.118のブランチオリゴを添加した比較例15と比較して、DP4~6の分岐グルカンが33.7%、ヨード呈色値が0.011の糖組成物1を添加した実施例8は前半から中盤にかけて厚みと甘味を感じ、それが落差となりキレを感じた。また、実施例8はビール香料の香りを強く感じ、マスキングの有無の差が確認された。
【0087】
【0088】
実施例9:発泡酒での試験
発泡酒を次の方法で醸造した。表16の分量(g)の原材料を鍋に計量後、沸騰するまで加熱した。沸騰したのち、チェコ産ザーツホップを6.6g添加し、ケトルホッピングした。1時間の煮沸後、ワールプールを実施し、30分後麦冷し、麦汁3500mlを醗酵容器に移した。saflagerW34/70下面醗酵酵母(Fermentis社)を10.5g添加し、20分間のエアレーションの後、1週間から2週間程度主醗酵(12℃)を行った。主醗酵終了後、500ml瓶に移し、瓶内二次発酵を室温下で1週間行った。サンプル評価まで4℃で保存した。サンプルの味質を6名のパネラーで評価した。比較例16のボディ感を0点として±3点の範囲で点数化したところ、実施例9は1.8点の評価であった。DP4~6の分岐グルカンが33.7%、ヨード呈色値が0.011の糖組成物1を配合した実施例9は無添加の比較例16と比較して先味から中味のボディ感が付与され、飲みごたえが向上した。
【0089】
【0090】
実施例10:キャンディでの試験
キャンディを次の方法で調製した。表17の分量(質量部)の原材料を坊主鍋に入れ、緩くゴムへらで攪拌しながら120℃まで達温させた。120℃に達温後、鍋肌を攪拌しながら150℃まで昇温させてテフロン(登録商標)シート上に飴を流し入れ、飴を均一に練った。適当な大きさの飴を作製し、デシケーター内で放冷した。上述の方法で調製したベース飴20gを電子レンジにて570Wで1分間、市販ミルクキャンディ(ミルキー、不二家社)40gを570Wで10秒間加熱して、しっかりと均一に混ぜ合わせた。約4gずつ測り取り、スタンピングを行った。サンプルの味質を8名のパネラーで評価した。DP4~6の分岐グルカンが33.7%、ヨード呈色値が0.011の糖組成物1を配合した実施例10は、一般的な配合の比較例17と比較して後半に乳味、味の厚み、コクを感じ、フレーバーリリースが良いという評価であった。
【0091】