(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ゴム複合体の製造方法、タイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/50 20060101AFI20241106BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20241106BHJP
B29D 30/38 20060101ALI20241106BHJP
B29C 70/20 20060101ALI20241106BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20241106BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20241106BHJP
B29K 7/00 20060101ALN20241106BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
B29C70/50
B60C9/00 J
B29D30/38
B29C70/20
D07B1/06 A
B29K105:08
B29K7:00
B29L30:00
(21)【出願番号】P 2021080580
(22)【出願日】2021-05-11
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504211429
【氏名又は名称】栃木住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】松岡 映史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】繆 冬
(72)【発明者】
【氏名】御▲崎▼ 桃加
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-278146(JP,A)
【文献】特開平06-071783(JP,A)
【文献】特開2020-066160(JP,A)
【文献】特開2006-007428(JP,A)
【文献】特開2017-035825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B60C 9/00
B29D 30/38
B29C 70/20
D07B 1/06
B29K 105/08
B29K 7/00
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本または3本のスチールコードがそれぞれ巻かれた複数個のリールであるリール群を、スチールコード供給装置に設置するリール設置工程と、
前記スチールコード供給装置により、前記リール群から、前記リールにそれぞれ巻かれた2本または3本の前記スチールコードを引き出す引き出し工程と、
前記リール群から引き出した、複数本の前記スチールコードであるスチールコード群について、前記スチールコードの長手方向と垂直な断面において、前記スチールコード群を構成する前記スチールコードが、一列になるように配列する配列工程と、
前記スチールコード群をゴム中に埋設し、ゴム複合体を製造するゴム複合体製造工程と、
前記引き出し工程と、前記配列工程との間に、前記スチールコードの張力を調整する張力調整工程と、を有し、
前記スチールコードは単線スチールコードであり、
前記配列工程に供給する際の、前記スチールコード群を構成する前記スチールコードにはそれぞれ、前記スチールコード1本当たりの破断荷重に対して6.0%以上9.0%以下の張力が加えられており、
前記張力調整工程では、搬送されている前記スチールコードと接するテンション調整ロールの位置を変化させることで、前記スチールコードの張力を調整するゴム複合体の製造方法。
【請求項2】
前記リールには、2本の前記スチールコードが巻かれている請求項1に記載のゴム複合体の製造方法。
【請求項3】
前記張力調整工程として、少なくとも第1張力調整工程と、第2張力調整工程と、を有する請求項
1または請求項
2に記載のゴム複合体の製造方法。
【請求項4】
前記配列工程に供給する前の前記スチールコードと、前記配列工程で配列後の前記スチールコードとの間の角度である入線角度が40度以上50度以下である請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載のゴム複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のゴム複合体の製造方法により得られたゴム複合体を用いてタイヤを製造するタイヤ製造工程を有するタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴム複合体の製造方法、タイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、断面が円形の単線スチールコードを多数本ゴムに埋設することにより構成したベルトプライを有する乗用車用ラジアルタイヤであって、前記コードの直径dが0.35mmから0.70mmまでの範囲内にあり、かつ、前記コードの長手方向に直角に測定したコード間のゴム厚Dが0.30mmから1.20mmまでの範囲内にあることを特徴とする乗用車用ラジアルタイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実願昭61-113799号(実開昭63-19404号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、タイヤには自動車の燃費向上の観点から、軽量で転がり抵抗が小さいことが要求されている。タイヤの軽量化を達成するために、タイヤの補強層であるゴム複合体に用いるコードとして、撚線のスチールコードに替えて、コード径が小さい単線スチールコードを用い、ゴム複合体を薄くすることが従来から検討されている。
【0005】
しかしながら、撚線のスチールコードに替えて、コード径が小さい単線スチールコードを用いる場合、タイヤの強度を確保するためには、単位幅当たりの単線スチールコードの本数を増やす必要がある。
【0006】
そして、ゴム複合体において単位幅当たりのスチールコードの本数を多くする場合、該ゴム複合体を製造する際に、スチールコードを供給するリールの数を増やす必要が生じる。このため、工場の拡張や、設備の改修が必要になるという問題があった。
【0007】
そこで、本開示はスチールコードを供給するために用いるリールの数を抑制できるゴム複合体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のゴム複合体の製造方法は、2本または3本のスチールコードがそれぞれ巻かれた複数個のリールであるリール群を、スチールコード供給装置に設置するリール設置工程と、
前記スチールコード供給装置により、前記リール群から、前記リールにそれぞれ巻かれた2本または3本の前記スチールコードを引き出す引き出し工程と、
前記リール群から引き出した、複数本の前記スチールコードであるスチールコード群について、前記スチールコードの長手方向と垂直な断面において、前記スチールコード群を構成する前記スチールコードが、一列になるように配列する配列工程と、
前記スチールコード群をゴム中に埋設し、ゴム複合体を製造するゴム複合体製造工程と、を有し、
前記スチールコードは単線スチールコードであり、
前記配列工程に供給する際の、前記スチールコード群を構成する前記スチールコードにはそれぞれ、前記スチールコード1本当たりの破断荷重に対して6.0%以上9.0%以下の張力が加えられている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、スチールコードを供給するために用いるリールの数を抑制できるゴム複合体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本開示の一態様に係るゴム複合体の製造方法を模式的に示した図である。
【
図1B】
図1Bは、本開示の一態様に係るゴム複合体の製造方法の他の構成例を模式的に示した図である。
【
図2】
図2は、従来のゴム複合体の製造方法を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は、本開示の一態様に係るゴム複合体の製造方法で好適に用いることができるリールの説明図である。
【
図4】
図4は、スチールコードの巻きピッチの説明図である。
【
図5】
図5は、スチールコードの断面説明図である。
【
図6A】
図6Aは、配列工程で用いる配列装置が有する複合ロールの説明図である。
【
図6C】
図6Cは、配列装置が有するガイド板の説明図である。
【
図7】
図7は、本開示の一態様に係るゴム複合体の断面図である。
【
図8】
図8は、本開示の一態様に係るタイヤの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0012】
(1) 本開示の一態様に係るゴム複合体の製造方法は、2本または3本のスチールコードがそれぞれ巻かれた複数個のリールであるリール群を、スチールコード供給装置に設置するリール設置工程と、
前記スチールコード供給装置により、前記リール群から、前記リールにそれぞれ巻かれた2本または3本の前記スチールコードを引き出す引き出し工程と、
前記リール群から引き出した、複数本の前記スチールコードであるスチールコード群について、前記スチールコードの長手方向と垂直な断面において、前記スチールコード群を構成する前記スチールコードが、一列になるように配列する配列工程と、
前記スチールコード群をゴム中に埋設し、ゴム複合体を製造するゴム複合体製造工程と、を有し、
前記スチールコードは単線スチールコードであり、
前記配列工程に供給する際の、前記スチールコード群を構成する前記スチールコードにはそれぞれ、前記スチールコード1本当たりの破断荷重に対して6.0%以上9.0%以下の張力が加えられている。
【0013】
本開示の一態様に係るゴム複合体の製造方法では、1個のリールには、2本または3本のスチールコードを巻いている。このため、リールの数を、用いるスチールコードの本数の半分または3分の1にできる。従って、スチールコードを供給するために用いるリールの数を抑制でき、工場の拡張や設備の改修を行うことなく、ゴム複合体の単位幅当たりのスチールコードの本数を増やすことができる。
【0014】
各リール11に巻かれた2本または3本のスチールコード12は、同じ長さにすることもできる。この場合、リールの交換時にスチールコードについてロスが生じることを抑制できる。
【0015】
また、本開示の一態様に係るゴム複合体の製造方法によれば、上述のように用いるリールの数を抑制することで、リールを設置する場所の自由度が高くなる。このため、配列工程において、配列装置にスチールコードを挿入する際の入線角度を容易に選択できる。その結果、スチールコードの表面に疵がつくことや、めっき膜が剥離することを抑制できる。また、配列装置に供給するスチールコードの位置がぶれることを抑制し、安定した位置に供給できる。
【0016】
また、配列工程に供給する際の、スチールコードに加える張力を、該スチールコード1本当たりの破断荷重に対して6.0%以上とすることで、配列工程、ゴム複合体製造工程においてスチールコードの位置が安定し、所望の位置に合わせ易くなる。
【0017】
これは、配列工程に供給したスチールコードに適切な張力が加えられるため、スチールコードに外力が加えられた場合でもその位置が変位しにくくなり、安定するためと考えられる。
【0018】
上述のように配列工程や、ゴム複合体製造工程において、スチールコードの位置が安定することで、製造したゴム複合体における、該ゴム複合体の厚さ方向のスチールコードの位置のばらつきを抑制できる。
【0019】
ゴム複合体の厚さは、ゴム複合体の厚さ方向のスチールコードの分布幅に、スチールコードを埋設できるように予め定めたゴム厚さを加えた値となる。このため、ゴム複合体の厚さ方向のスチールコードの位置のばらつきを抑制することで、ゴム複合体の厚さを抑制し、ゴム複合体や、該ゴム複合体を用いたタイヤの軽量化を図ることもできる。
【0020】
また、スチールコードの位置が安定することで、配列工程等において、スチールコードを配列するためにスチールコードに過度な力を加える必要がなくなる。このため、スチールコードの表面に疵が生じることや、めっき膜が剥がれることを抑制できる。
【0021】
ただし、スチールコードの1本当たりの張力を過度に高めると、リールや、スチールコード供給装置等への負担も大きくなり、破損等を生じる恐れもある。このため、スチールコードの1本当たりの張力は、スチールコード1本当たりの破断荷重に対して上述のように9.0%以下であることが好ましい。
【0022】
(2) 前記リールには、2本の前記スチールコードが巻かれていてもよい。
【0023】
リールに巻いたスチールコードの本数を2本とすることで、各スチールコードの長さを十分に長くし、リールを交換する頻度を抑制できる。
【0024】
(3) 前記引き出し工程と、前記配列工程との間に、前記スチールコードの張力を調整する張力調整工程を有していてもよい。
【0025】
張力調整工程を実施することで、配列工程に供給するスチールコードの張力を、容易に所望の範囲に制御できる。
【0026】
(4) 前記張力調整工程では、搬送されている前記スチールコードと接するテンション調整ロールの位置を変化させることで、前記スチールコードの張力を調整してもよい。
【0027】
搬送されているスチールコードと接するテンション調整ロールの位置を変化させることで、容易にスチールコードの張力を制御できる。また、テンション調整ロールを用いることで、スチールコードの表面に疵等が生じることを抑制できる。
【0028】
(5)前記張力調整工程として、少なくとも第1張力調整工程と、第2張力調整工程と、を有していてもよい。
【0029】
張力調整工程として、少なくとも第1張力調整工程と、第2張力調整工程と、を有することで、すなわち張力調整工程を複数の工程で実施することで、スチールコードの張力をより精密に制御することができる。
【0030】
(6) 前記配列工程に供給する前の前記スチールコードと、前記配列工程で配列後の前記スチールコードとの間の角度である入線角度が40度以上50度以下であってもよい。
【0031】
入線角度を50度以下とすることで、スチールコードに疵がつくことや、めっき膜が剥離することを特に抑制できる。また、スチールコードにねじれ等が加わる線くせと言われる現象が生じることを抑制できる。
【0032】
入線角度θを40度以上にすることで、スチールコードを安定して配列装置に供給できる。
【0033】
(7) 本開示の一態様に係るタイヤの製造方法は、(1)から(6)のいずれかに記載のゴム複合体の製造方法により得られたゴム複合体を用いてタイヤを製造するタイヤ製造工程を有する。
【0034】
本開示の一態様に係るタイヤの製造方法によれば、既述のゴム複合体の製造方法により得られたゴム複合体を用いているため、製造するタイヤを軽量化できる。また、既述のゴム複合体の製造方法によれば、ゴム複合体を製造する際にスチールコードの表面に疵がつくことや、めっき膜が剥離することを抑制できる。このため、スチールコードとゴムとの密着性に優れ、該ゴム複合体を用いたタイヤの耐久性も向上できる。
【0035】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係るゴム複合体の製造方法、タイヤの製造方法や、上記製造方法により得られるゴム複合体、タイヤの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0036】
〔ゴム複合体の製造方法〕
本実施形態のゴム複合体の製造方法は、以下のリール設置工程、引き出し工程、配列工程、ゴム複合体製造工程を有することができる。
【0037】
リール設置工程では、複数個のリールであるリール群を、スチールコード供給装置に設置できる。なお、リール群を構成する複数個のリールは、それぞれ2本または3本のスチールコードが巻かれている。また、スチールコードは単線スチールコードである。
【0038】
引き出し工程では、スチールコード供給装置により、リール群から、該リール群を構成するリールにそれぞれ巻かれた2本または3本のスチールコードを引き出せる。
【0039】
配列工程は、リール群から、すなわち複数個のリールから引き出した、複数本のスチールコードであるスチールコード群について、スチールコードの長手方向と垂直な断面において、スチールコード群を構成するスチールコードが一列になるように配列できる。
【0040】
ゴム複合体製造工程は、スチールコード群、すなわち複数本のスチールコードをゴム中に埋設し、ゴム複合体を製造できる。
【0041】
【0042】
図1A、
図1Bは、本実施形態のゴム複合体の製造方法を模式的に示した図になる。
図2は、従来のゴム複合体の製造方法を模式的に示した図になる。
図3は、本実施形態のゴム複合体の製造方法において、好適に用いることができるスチールコードが巻かれたリールの説明図である。
図4は、スチールコードの巻きピッチの説明図である。
図5は、スチールコードの断面説明図である。
図6A~
図6Cは、配列工程で用いる配列装置が有する複合ロールや、ガイド板の一構成例の説明図である。
【0043】
なお、本実施形態のゴム複合体の製造方法により製造するゴム複合体は後で詳述するが、含有するスチールコードの長手方向と垂直な断面が
図7に示した構造を有する。具体的には
図7に示したゴム複合体40のように、スチールコード群2を構成するスチールコード12が、図中のX軸に沿って一列に配列されており、スチールコード群2、すなわち複数本のスチールコード12がゴム41内に埋設された構造を有する。
(1)リール設置工程
図1A、
図1Bに示すように、リール設置工程100では、複数個のリール11であるリール群1Aをスチールコード供給装置10に設置できる。スチールコード供給装置10は、リール11の回転を制御し、各リール11から、該リール11に巻かれたスチールコード12を供給する装置である。スチールコード供給装置10はリールサプライ等と呼ばれることもある。
図1では複数個のリール11を設置できる1台のスチールコード供給装置10を用いた形態を示しているが、係る形態に限定されず、リール11毎に独立した個別のスチールコード供給装置10を用いることもできる。
【0044】
図1A、
図1Bは模式的に示しているため、2個のリール11のみを示しているが、製造するゴム複合体が含有するスチールコード12の本数に応じて、リール設置工程100では、紙面と垂直方向等にさらに複数個のリール11を設置できる。
【0045】
既述のように、タイヤの軽量化を目的として、撚線のスチールコードに替えて、コード径が小さい単線スチールコードが用いられるようになっている。そして、該単線スチールコードを用いる場合、タイヤの強度を確保する観点から、ゴム複合体の単位幅当たりのスチールコードの本数を増やす必要がある。
【0046】
しかしながら、単位幅当たりのスチールコードの本数を増やしたゴム複合体を製造するには、スチールコードを供給するリールの数を増やす必要が生じる。このため、工場の拡張や、設備の改修が必要になるという問題があった。
【0047】
これに対して、本実施形態のゴム複合体の製造方法では、1個のリールには、2本または3本のスチールコードを巻いている。このため、リールの数を、用いるスチールコードの本数の半分または3分の1にできる。従って、スチールコードを供給するために用いるリールの数を抑制でき、工場の拡張や設備の改修を行うことなく、ゴム複合体の単位幅当たりのスチールコードの本数を増やすことができる。
【0048】
また、各リール11に巻かれた2本または3本のスチールコード12は、同じ長さにすることもできる。この場合、リールの交換時にスチールコードについてロスが生じることを抑制できる。
【0049】
各リール11にはスチールコード12として単線スチールコードが巻かれている。単線スチールコードを用いることで、撚線のスチールコードを用いた場合と比較してコード径を抑制できるため、ゴム複合体の厚さを抑制し、軽量化できる。このため、該ゴム複合体を用いたタイヤも軽量化できる。
【0050】
図2に示すように、1個のリール21に1本のスチールコード12を巻いて用いる従来のゴム複合体の製造方法によれば、単位幅当たりのスチールコードの本数を増やしたゴム複合体を製造する場合、1本のスチールコードを巻いたリール21の数は多くなる。すなわちリール群1Bを構成するリールの数が多くなる。このため、リール21を設置する場所の自由度が低くなる。その結果、
図2に示した従来のゴム複合体の製造方法における入線角度θの分布幅は、
図1A、
図1Bに示した本実施形態のゴム複合体の製造方法における入線角度θの分布幅よりも広くなる。このため、一部のスチールコード12は、その表面に疵がつく場合や、めっきが剥離する場合があった。また、ゴム複合体を製造している間、配列装置14に供給したスチールコード12の位置が、ぶれる場合があった。さらに、スチールコード供給装置20についても、増加したリール21の数に対応するため、リール21を設置するポート数を増やす必要があった。
【0051】
これに対して、本実施形態のゴム複合体の製造方法によれば、上述のように用いるリール11の数を抑制することで、リール11を設置する場所の自由度が高くなる。このため、後述する配列工程102において、配列装置14にスチールコード12を挿入する際の入線角度θを容易に選択できる。その結果、スチールコード12の表面に疵がつくことや、めっき膜が剥離することを抑制できる。また、ゴム複合体を製造している間、配列装置14に供給するスチールコード12の位置がぶれることを抑制し、安定した位置に供給できる。
【0052】
上記入線角度θとは、
図1A、
図1B、
図2に示すように、配列工程102に供給する前のスチールコード12と、配列工程102で配列後のスチールコード12との間の角度を意味する。すなわち、入線角度θは、配列装置14に挿入する直前のスチールコード12と、
図1A、
図1Bにおける点線Aとで形成する角度になる。なお、
図2の場合、入線角度θは、ガイドロール13で方向を変更してから、配列装置14に供給する前のスチールコード12と、配列装置14で配列後のスチールコード12との間の角度ということもできる。
【0053】
図1A、
図1B、
図2では紙幅の都合上、配列装置14に挿入するスチールコード12の入線角度θのうち、該入線角度θが最大値になる部分にのみθを示しているが、各スチールコード12について、入線角度θを求められる。
【0054】
上記入線角度θは、例えば50度以下であることが好ましく、48度以下であることがより好ましい。これは、入線角度θを50度以下とすることで、スチールコード12に疵がつくことや、めっき膜が剥離することを特に抑制できるからである。また、スチールコードにねじれ等が加わる線くせと言われる現象が生じることを抑制できるからである。
【0055】
また、上記入線角度θは、40度以上であることが好ましく、42度以上であることがより好ましい。これは、上記入線角度θを40度以上にすることで、スチールコードを安定して配列装置14に供給できるからである。
【0056】
本実施形態のゴム複合体の製造方法で用いるリール11における、スチールコード12の巻き方は特に限定されない。例えば
図3、
図4に示すように、第1スチールコード121と、第2スチールコード122との2本のスチールコード12をまとめて、リール11の軸112に沿って螺旋状に巻き付けることができる。スチールコード12は、リール11の軸112に複数層となるように巻き付けることができる。
図3、
図4では2本のスチールコード12をまとめて、リール11の軸112に巻き付けた例を示したが、スチールコード12が3本の場合でも、同様にまとめて、リール11の軸112に沿って巻き付けることができる。
【0057】
また、
図3では例えばリール11の軸112の両端のみに鍔111を設けているが、リール11の軸112上に複数の鍔111を設け、該鍔111により軸112を、リール11に巻くスチールコードの本数に応じて区画することもできる。この場合、例えば軸112の鍔111で区画された各領域に1本ずつスチールコードを巻くことができる。
【0058】
既述のように、本実施形態のゴム複合体の製造方法で用いるリール11には、2本または3本のスチールコードを巻いておくことができるが、特に、リール11には2本のスチールコードが巻かれていることが好ましい。上述のように、リールに巻いたスチールコードの本数を2本とすることで、各スチールコードの長さを十分に長くし、リールを交換する頻度を抑制できる。
【0059】
リール11の軸112にスチールコード12を巻き付ける際の巻きピッチPは特に限定されず、所望の長さのスチールコード12を巻き付けられるように任意に選択できる。巻きピッチPとは、リール11の軸112にスチールコード12が1回巻かれる際の長さを意味する。上記長さとは、リール11の中心軸CA(
図4を参照)に沿った長さを意味する。
【0060】
スチールコード12のコード径Dは、0.20mm以上0.45mm以下であることが好ましく、0.25mm以上0.40mm以下であることがより好ましい。スチールコード12のコード径Dについて、上記範囲が好ましい理由については後述する。
【0061】
図5に示すように、スチールコード12のコード径Dは、スチールコード12の長手方向と垂直な断面における直径を意味する。スチールコード12のコード径Dは、スチールコード12の長手方向と垂直な3つの断面における測定値の平均値であることが好ましい。スチールコードの長手方向と垂直な3つの断面においてマイクロメーター等でコード径Dを測定し、平均値を算出する場合、スチールコード12の試験片の長さにもよるが、隣接する断面間の距離が1cm以上5cm以下であることが好ましい。
【0062】
スチールコード12の材料は特に限定されないが、スチールコード12は、例えば
図5中に示したように、鋼線31と、鋼線31の表面にめっき膜32を配置した構成を有することができる。鋼線31、およびめっき膜32についても後述する。
(2)引き出し工程
図1A、
図1Bに示すように引き出し工程101では、スチールコード供給装置10により、リール群1A、すなわち複数個のリール11から、各リール11に巻かれている2本または3本のスチールコード12を同時に引き出せる。
【0063】
引き出し工程では、各リール11に巻かれている全てのスチールコード12を同時に引き出せる。すなわち、各リール11に2本のスチールコードが巻かれている場合には、2本のスチールコード12を同時に引き出せる。従って、引き出し工程101では例えば、リール群1Aを構成するリールの数と、各リールに巻かれたスチールコード12の本数とを掛け合わせて求められる本数のスチールコード12を引き出すことができる。
【0064】
引き出し工程で引き出したスチールコード12は、配列工程に供給できる。なお、スチールコード12の搬送方向を調整するため、必要に応じてスチールコード12の搬送経路上に図示しないガイドロールを設けることもできる。
【0065】
本実施形態のゴム複合体の製造方法では、配列工程に供給するスチールコード12には張力を加えておくことが好ましい。例えば配列工程に供給する際の、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード12の1本当たりの張力の割合は、6.0%以上9.0%以下が好ましく、6.0%以上8.5%以下がより好ましく、6.5%以上8.5%以下がさらに好ましい。
【0066】
スチールコード12の1本当たりの張力は、各スチールコード12に加えられている張力を意味し、製造ラインのスチールコードを牽引する装置により、また必要に応じて後述する張力調整工程を実施することで調整できる。
【0067】
配列工程に供給する際のスチールコード12に加える張力をスチールコード1本当たりの破断荷重に対して6.0%以上とすることで、後述する配列工程102、ゴム複合体製造工程103においてスチールコード12の位置が安定し、所望の位置に合わせ易くなる。
【0068】
これは、配列工程に供給したスチールコード12に適切な張力が加えられるため、スチールコード12に外力が加えられた場合でもその位置が変位しにくくなり、安定するためと考えられる。
【0069】
上述のように配列工程102や、ゴム複合体製造工程103において、スチールコード12の位置が安定することで、製造したゴム複合体における、該ゴム複合体の厚さ方向のスチールコードの位置のばらつきを抑制できる。
【0070】
ゴム複合体の厚さは、ゴム複合体の厚さ方向のスチールコード12の分布幅に、スチールコード12を埋設できるように予め定めたゴム厚さを加えた値となる。このため、ゴム複合体の厚さ方向のスチールコードの位置のばらつきを抑制することで、ゴム複合体の厚さを抑制し、ゴム複合体や、該ゴム複合体を用いたタイヤの軽量化を図ることができる。
【0071】
また、スチールコード12の位置が安定することで、配列工程102において、スチールコード12を配列するためにスチールコード12に過度な力を加える必要がなくなる。このため、スチールコード12の表面に疵が生じることや、めっき膜が剥がれることを抑制できる。
【0072】
ただし、スチールコード12の1本当たりの張力を過度に高めると、リール11や、スチールコード供給装置等への負担も大きくなり、破損等を生じる恐れもある。このため、スチールコード12の1本当たりの張力は、スチールコード1本当たりの破断荷重に対して上述のように9.0%以下であることが好ましい。
【0073】
(3)配列工程
引き出し工程101では、既述のように、リール群1Aから、複数本のスチールコード12であるスチールコード群2を引き出すことができる。
【0074】
配列工程102では、引き出し工程101でリール群1Aから引き出したスチールコード群2について、スチールコード12の長手方向と垂直な断面において、スチールコード群2を構成するスチールコード12が一列となるように配列できる。
【0075】
既述のように、例えば
図7に示すように、製造するゴム複合体40では、スチールコード群2を構成するスチールコード12が
図7中X軸に沿って一列に配列され、ゴム41中に埋設されている。
【0076】
そこで、配列工程102では、ゴム41に埋設する前に、スチールコード群2を構成するスチールコード12を一列に配列できる。配列工程102では、例えば配列装置14によりスチールコード群2を構成する複数本のスチールコード12を一列に配列できる。
【0077】
配列装置14の構成は特に限定されないが、例えばスチールコード12の搬送方向を揃える複合ロール141と、スチールコード12を一列に配列するガイド板142とを有することができる。
【0078】
具体的には例えば
図6A、
図6Bに示すように、井桁状に配置した複合ロール141を用いることができる。
図6Aは複合ロール141の底面図を、
図6Bは複合ロール141の側面図を示している。複合ロール141は、第1層目に配置した第1ロール1411と、第1層目に積層するように第2層目に配置され、第1ロール1411と直交するように配置された第2ロール1412とを有することができる。
【0079】
搬送されてきたスチールコード12は、
図6Aに示すように、第1ロール1411、第2ロール1412の表面に接することでZ軸方向に搬送方向を変え、搬送方向を揃えることができる。
図6A、
図6Bでは1本のスチールコード12のみを示しているが、複数本のスチールコード12を同様に第1ロール1411間に供給し、第2ロール1412によりZ軸方向に搬送方向を変え、かつX軸に沿って複数本のスチールコード12を配列できる。
【0080】
次いで、例えば
図6Cに示すように、例えばスチールコード群2を構成する複数本のスチールコード12をガイド板142に予め刻まれたスリット1421に導入することで配列できる。また、必要に応じて溝付きロール15によりさらに位置を補正し、配列することもできる。
【0081】
本実施形態のゴム複合体の製造方法では、スチールコード12に一定の張力を加えている。このため、配列工程において、スチールコード12の位置合わせを容易に行える。
【0082】
従って、
図6Cに示すように配列工程102で用いるガイド板142に刻んだスリット1421のサイズは、スチールコード12のサイズよりも十分に大きく、スチールコード12が通常はスリット1421の表面に接することがないように選択することが好ましい。溝付きロール15に形成する溝についても同様である。
(4)ゴム複合体製造工程
ゴム複合体製造工程103では、スチールコード群、すなわち複数本のスチールコードをゴム中に埋設し、ゴム複合体を製造できる。
【0083】
具体的には例えば、カレンダーロール17により、ゴム16の間にスチールコード群2、すなわち複数本のスチールコード12を配置し、カレンダー処理を行うことで、ゴム複合体40を製造できる。
(5)張力調整工程
本実施形態のゴム複合体の製造方法は、必要に応じてさらに、引き出し工程101と、配列工程102との間に、スチールコード12の張力を調整する張力調整工程104を有することもできる。
【0084】
このように、張力調整工程を実施することで、配列工程に供給するスチールコードの張力を容易に所望の範囲に制御できる。
【0085】
張力調整工程104では、例えば搬送されているスチールコードと接するテンション調整ロールの位置を変化させることで、スチールコードの張力を調整することが好ましい。
【0086】
搬送されているスチールコード12と接するテンション調整ロールの位置を変化させることで、容易にスチールコード12の張力を制御できる。また、テンション調整ロールを用いることで、スチールコード12の表面に疵等が生じることを抑制できる。
【0087】
例えば
図1Aに示した様に、回転軸1311と、ダンサーアーム1312と、第1テンション調整ロール1313とを有する第1張力調整装置131により、スチールコード12の張力を調整することもできる。
【0088】
第1張力調整装置131は、ダンサーアーム1312、およびダンサーアーム1312に取り付けられた第1テンション調整ロール1313が回転軸1311を軸として両矢印Bに沿って移動できる。このため、リール11から引き出したスチールコード12に、第1テンション調整ロール1313を接触させ、第1テンション調整ロール1313の位置を制御することで、スチールコード12の張力を調整できる。
【0089】
なお、
図1Aでは、スチールコード12毎に第1張力調整装置131を設けた例を示したが、係る形態に限定されない。1つのリール11から引き出した複数本のスチールコードについて、一括して第1張力調整装置131により張力を調整してもよい。
【0090】
張力調整工程は複数の工程を有することもできる。すなわち、
図1Bに示すように、張力調整工程104として、少なくとも第1張力調整工程1041と、第2張力調整工程1042とを有することもできる。
【0091】
図1Bでは、第1張力調整工程1041で、リール11から引き出したスチールコード12を既述の第1張力調整装置131により張力調整している。なお、
図1Bでは複数本のスチールコード12について、1台の第1張力調整装置131により張力の調整を行っているが、係る形態に限定されず、
図1Aの場合と同様に、スチールコード12毎に第1張力調整装置131を設けてもよい。
【0092】
そして、
図1Bではさらに、第2張力調整装置132によりスチールコード12毎に張力の調整を行っている。第2張力調整装置132は、
図1B中に示した第2テンション調整ロールを有しており、第2テンション調整ロールが図中両矢印Cに沿って上下に移動できるように構成されている。このため、第2張力調整装置132は、第2テンション調整ロールの位置を制御することで、スチールコード12の張力を制御できる。
【0093】
このように、張力調整工程104として、少なくとも第1張力調整工程1041と、第2張力調整工程1042とを有することで、すなわち張力調整工程を複数の工程で実施することで、スチールコード12の張力をより精密に制御することができる。
【0094】
図1Bでは、2工程でスチールコード12の張力を調整した例を示したが、係る形態に限定されず、3工程以上でスチールコード12の張力を調整してもよい。
[タイヤの製造方法]
次に本実施形態のタイヤの製造方法について説明する。
【0095】
本実施形態のタイヤの製造方法は、既述のゴム複合体の製造方法で得られたゴム複合体を用いてタイヤを製造するタイヤ製造工程を有する。
【0096】
ゴム複合体は、例えばタイヤのベルト層や、カーカスに用いることができる。このため、既述のゴム複合体の製造方法で製造したゴム複合体を、例えばベルト層や、カーカスの位置に配置し、他の部材と組み合わせることで、タイヤを製造できる。
【0097】
既述のゴム複合体を用いる点以外は、通常のタイヤの製造方法により製造できるため、詳細な説明は省略する。
【0098】
本実施形態のタイヤの製造方法により、後述するタイヤを製造できる。
【0099】
本実施形態に係るタイヤの製造方法によれば、既述のゴム複合体の製造方法により得られたゴム複合体を用いているため、製造するタイヤを軽量化できる。また、既述のゴム複合体の製造方法によれば、ゴム複合体を製造する際にスチールコード12の表面に疵がつくことや、めっき膜が剥離することを抑制できる。このため、スチールコード12とゴム41との密着性に優れ、該ゴム複合体40を用いたタイヤの耐久性も向上できる。
[ゴム複合体]
次に、本実施形態のゴム複合体について説明する。
【0100】
本実施形態のゴム複合体は、既述のゴム複合体の製造方法により製造できる。このため、既に説明した事項については説明を一部省略する。
【0101】
図7に示すように、本実施形態のゴム複合体40は、複数本のスチールコード12であるスチールコード群2と、スチールコード群2を埋設するゴム41とを有する。なお、スチールコード12としては、既述のように単線スチールコードを用いることができる。
【0102】
そして、ゴム複合体40の、スチールコード12の長手方向と垂直な断面において、スチールコード群2を構成するスチールコード12は一列に配列されている。また、上記断面において、ゴム複合体40の厚さ方向における、スチールコードの位置のばらつき幅の平均値を0.016mm以下にできる。
【0103】
以下、本実施形態のゴム複合体が有する各部材について説明する。
(1)ゴム複合体が有する各部材について
(スチールコード)
スチールコード12は既述のように単線スチールコード、すなわち1本のワイヤーである。スチールコード12は、長手方向に沿ってねじり加工が施されていないことが好ましい。すなわち、スチールコード12はストレートスチールコードであることが好ましい。
【0104】
スチールコード12は長手方向と垂直な断面が円形状であることが好ましい。ここでいう円形状とは幾何学的に厳密な意味での円を意味するものではなく、公差の範囲内で円形状とみなすことができるものを含む。
【0105】
スチールコード12は、そのコード径Dは特に限定されないが、0.20mm以上0.45mm以下であることが好ましく、0.25mm以上0.40mm以下であることがより好ましい。
【0106】
スチールコード12のコード径Dを0.45mm以下とすることで、ゴム複合体40の厚さを特に抑制し、ゴム複合体40や、該ゴム複合体40を用いたタイヤを特に軽量化できる。また、スチールコードのコード径を0.45mm以下とすることで、ゴム複合体中に埋設可能なスチールコードの本数を特に多くできる。このため、該ゴム複合体を用いたタイヤを装着した乗用車等の操縦性能や、乗り心地を向上できる。さらに、コード径が大きい撚線のスチールコード等と比較して、リールに巻き取れるスチールコードの長さが長くなるため、ゴム複合体を製造する際にリールを取り換える頻度を下げ、生産性を高めることができる。
【0107】
また、スチールコード12のコード径Dを0.20mm以上とすることで、十分な破断荷重を有することでき、ゴム複合体40や、該ゴム複合体40を用いたタイヤの強度を十分に高められる。
【0108】
スチールコード12の材料は特に限定されないが、スチールコードは、例えば
図5中に示したように、鋼線31と、鋼線31の表面にめっき膜32を配置した構成を有することができる。
【0109】
鋼線31としては高炭素鋼線を好適に用いることができる。
【0110】
また、めっき膜32としては、例えば金属成分がCu(銅)と、Zn(亜鉛)とのみからなるめっき膜、すなわちブラスめっき膜とすることもできるが、Cuと、Zn以外の金属成分をさらに含有することもできる。めっき膜32は例えば、金属成分としてCo(コバルト)、およびNi(ニッケル)から選択された1種類以上の元素をさらに含むこともできる。
【0111】
すなわち、スチールコードは、表面に例えばCuおよびZnを含むブラスめっき膜を有することができる。また、上記ブラスめっき膜は、さらにCo、およびNiから選択された1種類以上の元素を含有することもできる。なお、ブラスめっき膜は上述のように例えば鋼線の表面に配置することができる。
【0112】
スチールコードが、CuおよびZnを含むブラスめっき膜を有することで、該スチールコードをゴムにより被覆、加硫してゴム複合体や、タイヤとした場合に、スチールコードとゴムとの界面よりもゴム側にCu2Sを含有する接着層を形成できる。なお、ZnはCu2Sの生成を促進する働きを有する。該接着層が形成されることで、スチールコードとゴムとの接着力を高め、特に耐久性に優れたゴム複合体、タイヤとすることができる。
【0113】
また、CoおよびNiは、イオン化傾向がZnより大きい。このため、ブラスめっき膜がCoおよびNiから選択された1種類以上の元素をさらに含有することで、上記CoおよびNiから選択された1種類以上の元素が犠牲防食として機能し、あるいはCuとZnの合成電位を貴にし、ブラスめっき膜の耐食性を高められる。その結果、スチールコードとゴムとの接着力をさらに高め、ゴム複合体やタイヤの耐久性をさらに高めることができる。
(ゴム)
ゴム複合体40のゴム41は、ゴムの組成物を成形し、必要に応じて加硫することで製造できる。
【0114】
ゴムの具体的な組成は本実施形態のゴム複合体を適用するタイヤの用途や、タイヤに要求される特性等に応じて選択することができ、特に限定されない。ゴムは、例えばゴム成分と、硫黄と、加硫促進剤とを含むことができる。
【0115】
ゴム成分は、ゴム成分中、例えば天然ゴム(NR:natural rubber)、およびイソプレンゴム(IR:isoprene rubber)から選択された1種類以上を60質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、100質量%含むことさらに好ましい。
【0116】
これは、ゴム成分中の天然ゴム、およびイソプレンゴムから選択された1種類以上のゴムの割合を、60質量%以上とすることで、ゴム複合体や、タイヤの破断強度を高めることができ、好ましいからである。
【0117】
天然ゴムや、イソプレンゴムと混用して用いるゴム成分としては、例えばスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)から選択された1種類以上を挙げることができる。
【0118】
硫黄としては特に限定されないが、例えばゴム工業において加硫剤として一般的に用いられる硫黄を用いることができる。
【0119】
ゴムの硫黄の含有量は特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して例えば5質量部以上8質量部以下とするのが好ましい。
【0120】
これは、ゴム成分100質量部に対する、硫黄の割合を5質量部以上とすることで、得られるゴムの架橋密度を高め、特にスチールコードとゴムとの接着力を高めることができるからである。また、ゴム成分100質量部に対する、硫黄の割合を8質量部以下とすることで、硫黄をゴム内に特に均一に分散させることができ、またブルーミングが生じることを抑制できるため、好ましいからである。
【0121】
加硫促進剤についても特に限定されないが、例えばN,N′-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系促進剤が好適に用いられる。また、所望により、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系促進剤や、テトラベンジルチラウムジスルフィド、テトラメチルチラウムジスルフィド、テトラエチルチラウムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チラウムジスルフィド、テトラメチルチラウムモノスルフィド等のチラウム系促進剤を用いてもよい。
【0122】
本実施形態のゴム複合体に用いるゴム組成物は、これら各成分を、常法により混練りし、熱入れおよび押し出しすることにより製造することができる。
【0123】
また、本実施形態のゴム複合体のゴムは、コバルト単体、およびコバルトを含有する化合物から選択された1種類以上を含有することが好ましい。
【0124】
コバルトを含有する化合物としては、有機酸コバルトや、無機酸コバルトを挙げることができる。
【0125】
有機酸コバルトとしては例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。なお、有機酸コバルトは有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩でもよい。
【0126】
無機酸コバルトとしては例えば、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、リン酸コバルト、クロム酸コバルトから選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0127】
特に、本実施形態のゴム複合体のゴムは、有機酸コバルトを含有することがより好ましい。これは、有機酸コバルトを含有することで、スチールコードと、ゴムとの初期接着性能を特に向上させることができるからである。なお、初期接着性能とは、ゴム複合体や、タイヤの製造時等に、加硫を行った直後のスチールコードと、ゴムとの接着性能を意味する。
【0128】
また、本発明の発明者の検討によれば、コバルトをゴムに添加することで、接着層中のCu2Sの割合を高めることができ、スチールコードとゴムとの接着力を高めることができる。そして、添加するコバルトとして、有機酸コバルトを用いた場合、その傾向が顕著なものとなる。このため、本実施形態のゴム複合体のゴムは、コバルト、特に有機酸コバルトを含有することが好ましく、それにより特に耐久性に優れたゴム複合体やタイヤとすることができる。
【0129】
また、ゴムは上記ゴム成分や、硫黄、加硫促進剤、コバルト等以外に任意の成分を含むことができる。ゴムは、例えば補強剤(カーボンブラック、シリカ等)、ワックス、老化防止剤などの周知のゴム用の添加剤を含有することもできる。
(2)ゴム複合体の構造について
本実施形態のゴム複合体40は、
図7に示すように、複数本のスチールコード12であるスチールコード群2と、スチールコード群2を埋設するゴム41とを有することができる。
図7中、紙面と垂直なY軸方向がスチールコード12の長手方向である。
図7中、ゴム複合体40の幅方向に当たるX軸方向に沿って一列にスチールコード群2を構成する複数本のスチールコード12が配列されている。
図7中、Z軸方向がゴム複合体40の厚さ方向になる。
【0130】
本実施形態のゴム複合体40は、含有する、スチールコード群2を構成するスチールコード12の、ゴム複合体40の厚さ方向の位置のばらつきを抑制できている。そして、本実施形態のゴム複合体40は、ゴム複合体40の厚さ方向における、スチールコード群2を構成するスチールコード12の位置の、ばらつき幅の平均値が0.016mm以下であることが好ましく、0.015mm以下であることがより好ましい。
【0131】
スチールコード群2を構成する複数本のスチールコード12の、ゴム複合体40の厚さ方向におけるばらつき幅の平均値は、ゴム複合体40のスチールコードの長手方向と垂直な断面、例えば
図7に示す断面において、以下に説明する手順で、測定、算出できる。
【0132】
ゴム複合体40の、スチールコード12の長手方向と垂直な断面のうち、連続して10本のスチールコード12A~12Jが配列された測定領域を選択する。
【0133】
そして、平坦面401上に、上記測定領域を含むゴム複合体40の第1面40Aが該平坦面401と接するように設置する。この際、ゴム複合体40の第1面40Aと反対側に位置する第2面40Bに図示しない重りを設置し、ゴム複合体40を平坦面401に押し付けることが好ましい。重りの重量は特に限定されないが、ゴム複合体40の重りを乗せる面の単位面積当たり、0.05kg/mm2となるように重りを設置することが好ましい。
【0134】
ゴム複合体40のスチールコード12の長手方向と垂直な断面において、幅方向、すなわち
図7中のX軸方向に位置する2つの端部のうちの1つの端部である第1端部40C側に位置するスチールコード12Aの中心O
12Aを通る基準線402を引く。基準線402は、平坦面401と平行になるように引く。
【0135】
次いで、基準となるスチールコード12A以外のスチールコード12B~12Jそれぞれについて、ゴム複合体40の厚さ方向に沿った、位置のばらつき幅を測定する。
【0136】
各スチールコード12のばらつき幅は、ゴム複合体40の厚さ方向、すなわち
図7中のZ軸方向に沿った、基準線402と、各スチールコード12の端部との間の最大長さを測定し、スチールコード12の半径Rを引くことで求められる。なお、Z軸は、平坦面401や、基準線402と垂直になることから、厚さ方向は、基準線402と垂直な方向ということもできる。
【0137】
スチールコード12Bのばらつき幅W12Bの場合、ゴム複合体40の厚さ方向、すなわちZ軸方向に沿った、基準線402とスチールコード12Bの外周との間の距離のうち、最大長さL12Bを測定し、スチールコード12の半径Rを差し引くことで算出する。同様に、各スチールコード12C~12Jについて、最大長さL12C~L12Jと、スチールコード12の半径Rとから、ばらつき幅を算出できる。スチールコード12Aのばらつき幅は0になる。
【0138】
測定した各スチールコード12A~12Jのばらつき幅の平均値が、ゴム複合体40の厚さ方向におけるスチールコード12の位置のばらつき幅の平均値となる。
【0139】
ゴム複合体40の厚さ方向におけるスチールコード12の位置のばらつき幅の平均値が0.016mm以下の場合、ゴム複合体40の厚さ方向におけるスチールコード12の分布幅を十分に抑制できていることになる。
【0140】
既述のようにゴム複合体40の厚さTは、ゴム複合体40の厚さ方向のスチールコード12の分布幅Wに、スチールコード12を埋設できるように予め定めたゴム厚さを加えた値となる。このため、ゴム複合体40の厚さ方向におけるスチールコード12の位置のばらつき幅の平均値を0.016mm以下とすることで、ゴム複合体40の厚さを抑制し、ゴム複合体40や、該ゴム複合体40を用いたタイヤを軽量化できる。
【0141】
ただし、ゴム複合体40の厚さ方向におけるスチールコード12の位置のばらつき幅の平均値を過度に抑制する場合、生産性が低下する恐れがある。このため、上記ばらつき幅の平均値は0.010mm以上であることが好ましく、0.012mm以上であることがより好ましい。
【0142】
本実施形態のゴム複合体40が有するスチールコード12の本数は特に限定されず、該ゴム複合体40や、該ゴム複合体40を用いるタイヤに要求される性能等に応じて選択できる。ここで、本実施形態のゴム複合体40の、スチールコード12の長手方向と垂直な断面における、ゴム複合体40の5cmの幅あたりに存在するスチールコードの本数をエンズとする。この場合、エンズは、例えば60本/5cm以上100本/5cm以下であることが好ましく、60本/5cm以上95本/5cm以下であることがより好ましい。
【0143】
本実施形態のゴム複合体のエンズを60本/5cm以上とすることで、該ゴム複合体や、該ゴム複合体を用いたタイヤの耐久性を特に高められる。100本/5cm以下とすることでコード間のゴム量を確保でき、該ゴム複合体を用いたタイヤについて乗り心地を向上できる。
【0144】
〔タイヤ〕
次に、本実施形態におけるタイヤについて
図8に基づいて説明する。
【0145】
本実施形態のタイヤは、既述のゴム複合体を含むことができる。
【0146】
図8は、本実施形態のタイヤ50の周方向と垂直な面での断面図を示している。
図8ではCL(センターライン)よりも左側部分のみを示しているが、CLを対称軸として、CLの右側にも連続して同様の構造を有している。
【0147】
図8に示すように、タイヤ50は、トレッド部51と、サイドウォール部52と、ビード部53とを備えている。
【0148】
トレッド部51は、路面と接する部位である。ビード部53は、トレッド部51よりタイヤ50の内径側に設けられている。ビード部53は、車両のホイールのリムに接する部位である。サイドウォール部52は、トレッド部51とビード部53とを接続している。トレッド部51が路面から衝撃を受けると、サイドウォール部52が弾性変形し、衝撃を吸収する。
【0149】
タイヤ50は、インナーライナー54と、カーカス55と、ベルト層56と、ビードワイヤー57とを備えている。
【0150】
インナーライナー54は、ゴムで構成されており、タイヤ50とホイールとの間の空間を密閉する。
【0151】
カーカス55は、タイヤ50の骨格を形成している。カーカス55はポリエステル、ナイロン、レーヨンなどの有機繊維あるいはスチールコードと、ゴムと、により構成されている。カーカス55に既述のゴム複合体40を用いることもできる。
【0152】
ビードワイヤー57は、ビード部53に設けられている。ビードワイヤー57は、カーカスに作用する引っ張り力を受け止める。
【0153】
ベルト層56は、カーカス55を締め付けて、トレッド部51の剛性を高めている。
図8に示した例では、タイヤ50は2層のベルト層56を有している。
【0154】
そして、
図8に示したタイヤ50は、2層のベルト層56を有しており、例えばベルト層56に、
図7に示した既述のゴム複合体40を用いることができる。
【0155】
図8には、2層のベルト層56を有するタイヤ50を示したが、係る形態に限定されず、本実施形態のタイヤは、1層または3層以上のベルト層56を有することもできる。
【0156】
本実施形態に係るタイヤは、既述のゴム複合体40を用いているため、該タイヤを軽量化できる。また、既述のゴム複合体によれば、スチールコードの表面の疵や、めっき膜の剥離が抑制されている。このため、スチールコードとゴムとの密着性に優れ、該ゴム複合体を用いたタイヤの耐久性も向上できる。
【0157】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。
【実施例】
【0158】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実験例において作製したスチールコード、ゴム複合体の評価方法について説明する。
(1)スチールコードのコード径D
スチールコードのコード径は、JIS G 3510(1992)のマイクロメーター法に基づいて測定を行った。
【0159】
具体的には、スチールコードの長手方向と垂直な3つの断面においてマイクロメーターでコード径Dを測定し、平均値を算出した。測定は、スチールコード12の長手方向に沿って、5cm離れた3つの断面で行った。
(2)スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合
(2-1)スチールコード1本当たりの破断荷重
【0160】
オートグラフ(株式会社島津製作所製 型式:AGS-H 10kN)を用いて、スチールコードの長手方向に沿って荷重を加え、破断した際にスチールコードに加えられていた荷重を該スチールコード1本当たりの破断荷重とした。
(2-2)スチールコード1本当たりの張力
【0161】
予め、3点ローラー式メカニカルテンションメーター(株式会社イマダ製 型式:DX2-200)を用いてラインに設置した張力調整装置の運転、制御条件と、配列工程に供給する際のスチールコード12の張力との関係を測定しておいた。すなわち、張力調整装置の運転、制御条件から、配列工程に供給する際のスチールコードに加えられた張力の値を算出できるようにしておいた。そして、各実験例について、スチールコード1本当たりの張力の値が所望の値になるように、張力調整装置の運転、制御条件を設定した。
【0162】
なお、以下の各実験例のゴム複合体の製造前後において、複数回、スチールコード12に加えられている張力の実測値を測定した。その結果、実測値の、上記計算値からのずれは非常に小さいことが確認できた。具体的には、スチールコードの張力について、実測値の上記計算値からのずれは±2.5%以内であることが確認できた。
(2-3)スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合
【0163】
以上のようにして求めた、スチールコード1本当たりの張力と、該スチールコード1本当たりの破断荷重とから、以下の式によりスチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合を算出した。表1、表2中、「スチールコードの破断荷重に対する張力の割合」の欄に結果を示している。
(スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合)
=(スチールコード1本当たりの張力)÷(スチールコード1本当たりの破断荷重)×100
【0164】
(3)ゴム複合体の厚さ方向における、スチールコードの位置のばらつき幅の平均値
図7に示すように、各実験例で作製したゴム複合体40の、スチールコード12の長手方向と垂直な断面のうち、連続して10本のスチールコード12A~12Jが配列された測定領域を選択した。
【0165】
そして、平坦面401上に、上記測定領域を含むゴム複合体40の第1面40Aが該平坦面401と接するように設置した。この際、ゴム複合体40の第1面40Aと反対側に位置する第2面40Bに、単位面積当たり0.05kg/mm2となるように重りを設置し、ゴム複合体40を平坦面401に押し付けた。重りとしては、第2面40Bと対向する面が、第2面40Bと同じ面積の板状の重りを用いた。なお、ゴム複合体の試験体は、10本のスチールコード12A~12Jを含み、第1面40A、および第2面40Bが正方形になるように切断し、試験に供した。
【0166】
ゴム複合体40のスチールコードの長手方向と垂直な断面において、幅方向、すなわち
図7中のX軸方向に位置する2つの端部のうちの1つの端部である第1端部40C側に位置するスチールコード12Aの中心O
12Aを通る基準線402を引いた。基準線402は、平坦面401と平行になるように引いた。
【0167】
次いで、基準となるスチールコード12A以外のスチールコード12B~12Jそれぞれについて、ゴム複合体40の厚さ方向に沿った、ばらつき幅を測定した。
【0168】
各スチールコード12のばらつき幅は、ゴム複合体40の厚さ方向、すなわち図中のZ軸方向に沿った、基準線402と、各スチールコード12の端部との間の最大長さを測定し、スチールコード12の半径Rを引くことで求めた。
【0169】
スチールコード12Bのばらつき幅W12Bの場合、ゴム複合体40の厚さ方向、すなわちZ軸方向に沿った、基準線402とスチールコード12Bの外周との間の距離のうち、最大長さL12Bを測定し、スチールコード12の半径Rを差し引くことで算出した。同様に、各スチールコード12C~12Jについて、最大長さL12C~L12Jと、スチールコード12の半径Rとから、ばらつき幅を算出した。スチールコード12Aのばらつき幅は0になる。なお、半径Rは、既述のコード径Dの半分の値を用いた。
【0170】
測定した各スチールコード12A~12Jの位置のばらつき幅の平均値を、ゴム複合体40の厚さ方向におけるスチールコード12の位置のばらつき幅の平均値とした。表1、表2中、「ゴム複合体の厚さ方向における、スチールコードの位置のばらつき幅」の欄に結果を示している。
(4)めっき表面の疵
【0171】
各実験例で作製したゴム複合体から任意の1本のスチールコードを5cm分取出し、スチールコードの外観を光学顕微鏡で100倍に拡大して確認した。スチールコードのめっき膜に擦れた形態の疵がある場合には、「有り」と評価した。上記疵がない場合には「無し」と評価した。
(5)重量指数
【0172】
各実験例で作製したゴム複合体の重量を測定し、実験例1では実験例1-6を、実験例2では実験例2-4のゴム複合体の重量を100として、各実験例で作製したゴム複合体の重量を指数で表した。なお、各実験例のゴム複合体の重量は、ゴム複合体の幅、および奥行きがそれぞれ50mmとなるように各実験例のゴム複合体の試験片を作製し、測定した。ゴム複合体の幅とは
図7中のX軸方向の長さであり複数本のスチールコードが配列されている方向を意味する。また、ゴム複合体の奥行きとは、
図7中のY軸方向の長さであり、スチールコードの長手方向の長さに当たる。各実験例のゴム複合体の試験片の中にはエンズに応じた本数のスチールコードが含まれている。
(実験例について)
以下、実験条件について説明する。
[実験例1]
以下の手順によりゴム複合体を製造した。実験例1-1~実験例1-3が実施例、実験例1-4~実験例1-6が比較例になる。
[実験例1-1]
(スチールコード、リールの準備工程)
断面の形状が円形状である加工前スチールコードを用意した。加工前スチールコードは、高炭素鋼線の表面に、金属成分がCuとZnとからなるブラスめっき膜が配置された構成を有している。
【0173】
そして、加工前スチールコードを圧延装置に供給し、コード径が0.30mmであり、長手方向と垂直な断面が
図5に示した円形状となるように加工した。得られたスチールコードについて、既述の手順によりコード径Dを測定したところ、0.30mmであった。得られたスチールコードは、
図5に示すように高炭素鋼線である鋼線31と、鋼線31を覆うCuとZnとからなるブラスめっき膜であるめっき膜32とを有していた。
【0174】
得られた単線スチールコードであるスチールコード2本を1個のリールに巻き取り、ゴム複合体の製造に用いるリールを用意した。なお、各リールにおけるスチールコードの巻きピッチは0.6mmであった。
【0175】
巻きピッチPの測定は以下の手順に従って実施した。
図3に示すように、リール11の鍔111の第1内側面111A、第2内側面111Bからの距離L111、L112が10cmの範囲を除いた測定領域123内で、第1スチールコード121の10巻き分を写真で撮影した。
【0176】
そして、リール11の中心軸CA(
図4を参照)に沿った第1スチールコード121の10巻き分の長さを測定し、10で割ることで巻きピッチPを算出した。以下の他の実験例でも同様にして測定した。
【0177】
(リール設置工程)
実験例1-1では、
図1Bに示したゴム複合体の製造方法の手順に従い、ゴム複合体を製造した。そして、リール設置工程では、用意した40個のリール11であるリール群1Aを、スチールコード供給装置10に設置した。
(引き出し工程)
図1Bに示すように引き出し工程101では、スチールコード供給装置10により、用意した40個のリール11であるリール群1Aから、リール11に巻かれていた合計80本のスチールコード12を同時に引き出し、後述する配列工程102へと搬送、供給した。
【0178】
用いたリールの数が、後述する実験例1-5と比較して少なかったため、リールを設置する場所の自由度が高く、配列工程に供給する前後のスチールコードの間の角度である入線角度θが42度以上48度以下となるように設置できた。なお、表1、表2中、入線角度の欄において「42-48」のように表記している場合、「-」を挟んで記載した数値は入線角度の下限値と上限値とを意味している。そして、入線角度は該下限値と上限値とを含む範囲内に分布することを意味する。従って、上記「42-48」は入線角度が42度以上48度以下であることを意味する。
(張力調整工程)
配列工程102に供給する際、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、該スチールコード12の張力が表1に示した値となるように、
図1Bに示した第1張力調整装置131、第2張力調整装置132により、調整した。すなわち、引き出し工程101と配列工程102との間で、第1張力調整工程1041、第2張力調整工程1042を有する張力調整工程104を実施した。第1張力調整装置131、第2張力調整装置132については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
(配列工程)
配列工程102では、引き出し工程101でリール11から引き出した80本のスチールコード12を、スチールコード12の長手方向と垂直な断面において一列となるように配列した。
【0179】
具体的には、配列工程102では、80本のスチールコード12であるスチールコード群2を、
図6A、
図6Bに示す複合ロール141により所定の方向に引き揃えた。そして、
図6Cに示すガイド板142に予め刻まれたスリット1421に導入することで配列した。また、スチールコード12の搬送方向下流側に配置した溝付きロール15によりさらにスチールコード12の位置を補正し、配列を行った。
【0180】
配列工程102で用いたガイド板142に刻んだスリット1421や、溝付きロール15に形成する溝のサイズは、スチールコード12のサイズよりも十分に大きく、スチールコード12が通常はスリット1421や、溝の表面に接することがないように選択した。
(ゴム複合体製造工程)
ゴム複合体製造工程103では、80本のスチールコードであるスチールコード群2をゴム中に埋設し、ゴム複合体を製造した。
【0181】
具体的には、カレンダーロール17により、ゴム16の間に80本のスチールコード12であるスチールコード群2を配置し、カレンダー処理を行うことで、ゴム複合体40を製造した。
【0182】
上記ゴム16は、ゴム成分と、添加剤とを含むゴム組成物により製造した。ゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴムを100質量部含む。そして、ゴム組成物は添加剤として、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを60質量部、硫黄を6質量部、加硫促進剤を1質量部、酸化亜鉛10質量部、有機酸コバルトとしてステアリン酸コバルトを1質量部の割合で含有する。
【0183】
ゴム複合体のスチールコードの長手方向と垂直な断面における、ゴム複合体の5cmの幅あたりに存在するスチールコードの本数をエンズとした場合に、表1に示すように、エンズが80本/5cmとなるように、スチールコードを配置した。ゴム複合体の厚さTは、ゴム複合体内に配置した複数本のスチールコードの厚さ方向の分布幅Wに、スチールコードを埋設できるように予め設定しておいたゴム厚さを加えた値とした。
【0184】
評価結果を表1に示す。
[実験例1-2、実験例1-3]
配列工程に供給する際の、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合が、表1に示した値となるように張力調整装置の設定を行った。以上の点以外は、実験例1-1と同様にしてゴム複合体を製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-4]
配列工程に供給する際の、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合が、表1に示した値となるように張力調整装置の設定を行った。以上の点以外は、実験例1-1と同様にしてゴム複合体を製造し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-5]
各リールには1本のスチールコードを巻いた。なお、各リールにおけるスチールコードの巻きピッチは0.6mmであった。
【0185】
実験例1-5では、
図2に示したゴム複合体の製造方法の手順に従い、ゴム複合体を製造した。そして、配列工程に供給する際の、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合が、表1に示した値となるようにスチールコード供給装置の設定を行った。
【0186】
他の実験例と同じ本数のスチールコードを供給できるように、80個の上記リールであるリール群を、スチールコード供給装置に設置した。
【0187】
なお、80個のリールを設置できるように、
図2に示したスチールコード供給装置20の様に予めポートの数を増やす改修しておいた。
【0188】
以上の点以外は、実験例1-1と同様にしてゴム複合体を製造した。そして、得られたゴム複合体について評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実験例1-6]
単線スチールコードに替えて、実験例1-1で用いたスチールコードを2本撚り合わせた1×2構造を有する撚線のスチールコードを用いた。また、各リールには1本のスチールコードを巻いた。なお、各リールにおけるスチールコードの巻きピッチは1.2mmであった。
【0189】
そして、配列工程に供給する際の、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合が、表1に示した値となるように張力調整装置の設定を行った。
製造するゴム複合体のエンズを40本/5cmとした。
【0190】
以上の点以外は、実験例1-1と同様にしてゴム複合体を製造した。そして、得られたゴム複合体について評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0191】
【表1】
実験例1-1~実験例1-3では、80本のスチールコードを製造工程に供給したが、実験例1-5と比較してスチールコードを供給するために用いるリールの数を抑制できることを確認できた。
【0192】
実験例1-1~実験例1-3では、表1に示すように、配列工程に供給する際の、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合を6.0%以上9.0%以下としてゴム複合体を製造している。
【0193】
そして、上記実験例1-1~実験例1-3で得られたゴム複合体は、上記規定を充足しないリールを用いた実験例1-4のゴム複合体と比較して、ゴム複合体の厚さ方向における、スチールコードの位置のばらつき幅を抑制できていることを確認できた。その結果、実験例1-1~実験例1-3で得られたゴム複合体は、重量指数についても、実験例1-4で得られたゴム複合体よりも抑制できていることを確認できた。
【0194】
また、実験例1-5では、用いるリールの数が実験例1-1~実験例1-3と比較して多かったため、リールを設置できる場所の自由度が下がり、入線角度の分布が大きくなることを確認できた。その結果、得られたゴム複合体が有するスチールコードのめっきに疵が生じていることを確認できた。
【0195】
実験例1-6では、スチールコードとして1×2構造の撚線を用いているため、リールの数を抑制できたものの、スチールコード自体のコード径が大きくなるため、重量指数が大きくなることを確認できた。
【0196】
[実験例2]
以下の手順によりゴム複合体を製造した。実験例2-1~実験例2-3が実施例、実験例2-4、実験例2-5が比較例になる。
[実験例2-1]
(スチールコード、リールの準備工程)
断面の形状が円形状である加工前スチールコードを用意した。加工前スチールコードは、高炭素鋼線の表面に、金属成分がCuとZnとからなるブラスめっき膜が配置された構成を有している。
【0197】
そして、加工前スチールコードを圧延装置に供給し、コード径が0.40mmであり、長手方向と垂直な断面が
図5に示した円形状となるように加工した。得られたスチールコードについて、既述の手順によりコード径Dを測定したところ、0.40mmであった。得られたスチールコードは、
図5に示すように高炭素鋼線である鋼線31と、鋼線31を覆うCuとZnとからなるブラスめっき膜であるめっき膜32とを有していた。
【0198】
得られた単線スチールコードであるスチールコード2本を1個のリールに巻き取り、ゴム複合体の製造に用いるリールを用意した。なお、各リールにおけるスチールコードの巻きピッチは1.2mmであった。
【0199】
得られたリールについて既述の評価を行った。評価結果を表2に示す。
(リール設置工程)
実験例2-1では、
図1Bに示したゴム複合体の製造方法の手順に従い、ゴム複合体を製造した。そして、リール設置工程では、用意した40個のリール11であるリール群1Aを、スチールコード供給装置10に設置した。
(引き出し工程)
図1Bに示すように引き出し工程101では、スチールコード供給装置10により、用意した40個のリール11であるリール群1Aから、リール11に巻かれていた合計80本のスチールコード12を同時に引き出し、後述する配列工程102へと搬送、供給した。
【0200】
用いたリールの数が、後述する実験例2-4と比較して少なかったため、リールを設置する場所の自由度が高く、配列工程に供給する前後のスチールコードの間の角度である入線角度θが42度以上48度以下となるように設置できた。
(張力調整工程)
配列工程102に供給する際、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、該スチールコード12の張力が表1に示した値となるように、
図1Bに示した第1張力調整装置131、第2張力調整装置132により、調整した。すなわち、引き出し工程101と配列工程102との間で、第1張力調整工程1041、第2張力調整工程1042を有する張力調整工程104を実施した。第1張力調整装置131、第2張力調整装置132については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
(配列工程)
配列工程102では、引き出し工程101でリール11から引き出した80本のスチールコード12を、スチールコード12の長手方向と垂直な断面において一列となるように配列した。
【0201】
具体的には、配列工程102では、80本のスチールコード12であるスチールコード群2を、
図6A、
図6Bに示す複合ロール141により所定の方向に引き揃えた。そして、
図6Cに示すガイド板142に予め刻まれたスリット1421に導入することで配列した。また、スチールコード12の搬送方向下流側に配置した溝付きロール15によりさらにスチールコード12の位置を補正し、配列を行った。
【0202】
配列工程102で用いたガイド板142に刻んだスリット1421や、溝付きロール15に形成する溝のサイズは、スチールコード12のサイズよりも十分に大きく、スチールコード12が通常はスリット1421や、溝の表面に接することがないように選択した。
(ゴム複合体製造工程)
ゴム複合体製造工程103では、80本のスチールコードであるスチールコード群2をゴム中に埋設し、ゴム複合体を製造した。
【0203】
具体的には、カレンダーロール17により、ゴム16の間に80本のスチールコード12であるスチールコード群2を配置し、カレンダー処理を行うことで、ゴム複合体40を製造した。
【0204】
上記ゴム16は、実験例1-1と同じものを用いた。
【0205】
本実験例ではエンズが60本/5cmとなるように、スチールコードを配置した。ゴム複合体の厚さTは、ゴム複合体内に配置した複数本のスチールコードの厚さ方向の分布幅Wに、スチールコードを埋設できるように予め設定しておいたゴム厚さを加えた値とした。
【0206】
評価結果を表2に示す。
[実験例2-2、実験例2-3]
配列工程に供給する際の、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合が、表1に示した値となるように張力調整装置の設定を行った。以上の点以外は、実験例2-1と同様にしてゴム複合体を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
[実験例2-4]
リール設置工程に供給するリールとして、各リールに1本のスチールコードを巻いたリールを用いた。なお、各リールにおけるスチールコードの巻きピッチは1.2mmであった。
【0207】
実験例2-4では、
図2に示したゴム複合体の製造方法の手順に従い、ゴム複合体を製造した。そして、他の実験例と同じ本数のスチールコードを供給できるように、80個の上記リールであるリール群を、スチールコード供給装置に設置した。
【0208】
なお、80個のリールを設置できるように、
図2に示したスチールコード供給装置20の様に予めポートの数を増やす改修しておいた。
【0209】
以上の点以外は、実験例2-1と同様にしてゴム複合体を製造した。そして、得られたゴム複合体について評価を行った。評価結果を表2に示す。
[実験例2-5]
スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合が、表2に示した値となるように張力調整装置の設定を行った点以外は、実験例2-1と同様にしてゴム複合体を製造し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0210】
【表2】
実験例2-1~実験例2-3では、80本のスチールコードを製造工程に供給したが、例えば実験例2-4と比較してスチールコードを供給するために用いるリールの数を抑制できることを確認できた。
【0211】
実験例2-1~実験例2-3では、表2に示すように配列工程に供給する際の、スチールコード1本当たりの破断荷重に対する、スチールコード1本当たりの張力の割合が6.0%以上9.0%以下である。
【0212】
そして、上記実験例2-1~実験例2-3で得られたゴム複合体は、上記規定を充足していなかった実験例2-5のゴム複合体と比較して、ゴム複合体の厚さ方向における、スチールコードの位置のばらつき幅を抑制できていることを確認できた。その結果、実験例2-1~実験例2-3で得られたゴム複合体は、重量指数についても、実験例2-5で得られたゴム複合体よりも抑制できていることを確認できた。
【0213】
また、実験例2-4では、用いるリールの数が実験例2-1~実験例2-3と比較して多かったため、リールを設置できる場所の自由度が下がり、入線角度の分布が大きくなることを確認できた。その結果、得られたゴム複合体が有するスチールコードのめっきに疵が生じていることを確認できた。
【符号の説明】
【0214】
100 リール設置工程
101 引き出し工程
102 配列工程
103 ゴム複合体製造工程
104 張力調整工程
1041 第1張力調整工程
1042 第2張力調整工程
10、20 スチールコード供給装置
1A、1B リール群
11、21 リール
A 点線
θ 入線角度
111 鍔
111A 第1内側面
111B 第2内側面
112 軸
2 スチールコード群
12、12A~12J スチールコード
121 第1スチールコード
122 第2スチールコード
L111、L112 距離
123 測定領域
CA 中心軸
P 巻きピッチ
13 ガイドロール
131 第1張力調整装置
1311 回転軸
1312 ダンサーアーム
1313 第1テンション調整ロール
B 両矢印
132 第2張力調整装置
C 両矢印
14 配列装置
141 複合ロール
1411 第1ロール
1412 第2ロール
142 ガイド板
1421 スリット
15 溝付きロール
16 ゴム
17 カレンダーロール
31 鋼線
32 めっき膜
D コード径
40 ゴム複合体
40A 第1面
40B 第2面
40C 第1端部
41 ゴム
401 平坦面
402 基準線
O12A 中心
L12B~L12I 最大長さ
W12B ばらつき幅
R 半径
T 厚さ
W 分布幅
X X軸(幅方向)
Y Y軸(長手方向)
Z Z軸(厚さ方向)
50 タイヤ
51 トレッド部
52 サイドウォール部
53 ビード部
54 インナーライナー
55 カーカス(ゴム複合体)
56 ベルト層(ゴム複合体)
57 ビードワイヤー
CL センターライン