(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】新規創薬スクリーニング方法、新規創薬スクリーニングシステム、及び新規創薬スクリーニング制御装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20241106BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241106BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20241106BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20241106BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241106BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20241106BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/483 C
G01N33/48 M
C12Q1/02
C12Q1/68
(21)【出願番号】P 2019230347
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-10-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】平井 智子
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-020449(JP,A)
【文献】特開2011-239778(JP,A)
【文献】特開2015-019637(JP,A)
【文献】特開2011-030494(JP,A)
【文献】特表2001-514494(JP,A)
【文献】国際公開第2019/178561(WO,A1)
【文献】特開2008-136464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0080171(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0228840(US,A1)
【文献】楠本大 ほか,深層学習を用いた画像認識システムの疾患創薬への応用,第40回日本循環制御医学会総会・学術集会 プログラム・抄録集,2019年,p. 64; O5-6
【文献】立松健司ほか,全自動1細胞解析単離装置-開発経緯と応用事例-1細胞単離ロボットが拓く新しい細胞スクリーニング,化学と生物,日本,2017年,Vol.55, No.10,pp.684-689
【文献】楠本大 ほか,深層学習を用いた画像解析による抗血管老化薬スクリーニングと新規抗老化薬の同定,第23回日本心血管内分泌代謝学会学術総会プログラム・抄録集,2019年12月02日,p. 101; P1-JV-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15,33/48,33/483,33/50,
C12Q 1/02,
C12M 1/34,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料の撮影を行い、
撮影された画像に対して画像処理を行い、
前記画像処理された結果に基づいて、前記細胞サンプルに含まれる細胞の形状に関する形態情報を取得し、前記形態情報に基づいて吸引する1細胞を選択し、選択した前記1細胞又は選択した前記1細胞の細胞成分を吸引させ、
吸引された前記1細胞を解析し、
前記形態情報と解析された結果に基づいて
得られた分子情報とを、解析された前記1細胞毎にデータベースに格納し、前記データベースに格納された前記分子情報と前記形態情報との関係を示す特徴量を抽出し、
前記データベースに格納された前記分子情報と前記形態情報とに関連付けて、抽出した前記特徴量を前記データベースに格納して、前記細胞の形状に関するデータベースを作成し、
細胞サンプルに、スクリーニング対象の候補薬剤が添加された試料であるスクリーニング試料において、前記細胞サンプルを複数個含むように撮影を行い、
撮影された画像に対して画像処理された結果に基づいて取得した前記形態情報を用いて、前記データベースを参照して、前記試料に含まれる前記細胞の状態を推定する、
新規創薬スクリーニング方法。
【請求項2】
前記形態情報は、細胞の位置または核の位置を示す情報を含む、請求項1に記載の新規創薬スクリーニング方法。
【請求項3】
前記形態情報は、細胞面積、核面積、細胞の外周長、核の外周長、細胞の長径、核の長径、細胞の短径、核の短径、細胞の尖率、核の尖率のうち少なくとも1つを含む、請求項1または請求項2に記載の新規創薬スクリーニング方法。
【請求項4】
前記分子情報は、遺伝子情報、蛋白質情報、ペプチド情報、アミノ酸情報、脂質情報、糖質情報、質量情報のうちの少なくとも1つである、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の新規創薬スクリーニング方法。
【請求項5】
前記分子情報は、遺伝子情報であり、
前記特徴量は、前記形態情報と前記遺伝子情報との相関係数である、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の新規創薬スクリーニング方法。
【請求項6】
細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料の撮影を行い、前記細胞サンプルに含まれる細胞の吸引を行う撮影吸引装置と、
撮影吸引装置によって吸引された前記細胞を解析する解析装置と、
前記撮影吸引装置及び前記解析装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記撮影吸引装置が前記試料を撮影して得られた画像の画像処理された結果に基づいて、前記細胞サンプルに含まれる細胞の形状に関する形態情報を取得し、前記形態情報に基づいて吸引する1細胞を選択し、選択した前記1細胞又は選択した前記1細胞の細胞成分を前記撮影吸引装置に吸引させる吸引細胞選択部と、
前記形態情報と前記解析装置が吸引された前記1細胞を解析して
得られた分子情報とを、解析された前記1細胞毎にデータベースに格納し、前記データベースに格納された前記分子情報と前記形態情報との関係を示す特徴量を抽出し、
前記データベースに格納された前記分子情報と前記形態情報とに関連付けて、抽出した前記特徴量を前記データベースに格納して、前記細胞の形状に関するデータベースを作成する特徴量抽出部と、
細胞サンプルに、スクリーニング対象の候補薬剤が添加された試料であるスクリーニング試料において、前記細胞サンプルを複数個含むように前記撮影吸引装置が撮影して得られた画像の画像処理された結果に基づいて取得した前記形態情報を用いて、前記データベースを参照して、前記試料に含まれる前記細胞の状態を推定する推定部と、
を備える、
新規創薬スクリーニングシステム。
【請求項7】
細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料を撮影して得られた画像の画像処理された結果に基づいて、前記細胞サンプルに含まれる細胞の形状に関する形態情報を取得し、前記形態情報に基づいて吸引する1細胞を選択し、選択した前記1細胞又は選択した前記1細胞の細胞成分を吸引させる吸引細胞選択部と、
前記形態情報と吸引された前記1細胞を解析して
得られた分子情報とを、解析された前記1細胞毎にデータベースに格納し、前記データベースに格納された前記分子情報と前記形態情報との関係を示す特徴量を抽出し、
前記データベースに格納された前記分子情報と前記形態情報とに関連付けて、抽出した前記特徴量を前記データベースに格納して、前記細胞の形状に関するデータベースを作成する特徴量抽出部と、
細胞サンプルに、スクリーニング対象の候補薬剤が添加された試料であるスクリーニング試料において、前記細胞サンプルを複数個含むように撮影して得られた画像の画像処理された結果に基づいて取得した前記形態情報を用いて、前記データベースを参照して、前記試料に含まれる前記細胞の状態を推定する推定部と、
を備える新規創薬スクリーニング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規創薬スクリーニング方法、新規創薬スクリーニングシステム、及び新規創薬スクリーニング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生細胞を用いた細胞刺激に対する評価試験においては、標識した既知遺伝子やタンパクの定量や、形状の変化を指標にした細胞状態の予測が行われる。生細胞を用いた細胞刺激に対する評価試験では、例えば刺激によって形態の変化した細胞集団を回収し、細胞内物質の1つである遺伝子の解析を行うことにより、細胞の詳細な状態を確認する。
【0003】
細胞の詳細な状態を確認するため以下のような装置が提案されている。
例えば、画像計測部と該画像計測部に一体として接続されたインキュベータ部から、サンプル(細胞)が収納されているプレートを取出して画像計測部に送り、画像計測部で測定してからインキュベータ部に戻す動作が繰返し行う創薬スクリーニング装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、1細胞単位でその形状と蛍光の発光を画像ベースで認識する機能と、その形状と蛍光の発光の情報に基づいて認識を行って対象細胞を分離精製する機能を有する細胞濃縮精製装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また、細胞照射手段で照射して得られる細胞由来の画像を取り込む画像取り込み、取り込まれた画像に対して2次元フーリエ変換を行ない、画像変換手段で変換された画像の空間周波数分布に基づき目的細胞を検出する細胞検出装置が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-210237号公報
【文献】特開2015-051008号公報
【文献】特開2017-108738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載の技術では、例えば刺激によって形態の変化した浮遊している細胞集団を回収し、回収した細胞集団に対して遺伝子解析等の解析を行っていた。そして、特許文献1~3に記載の技術では、作業者が、例えば細胞の画像を見て、細胞が分化しているか未分化であるか等の細胞の状態の評価を行う必要があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、遺伝子解析等を行わずに細胞の状態を推定することができる新規創薬スクリーニング方法、新規創薬スクリーニングシステム、及び新規創薬スクリーニング制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る新規創薬スクリーニング方法は、細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料の撮影を行い、前記細胞サンプルに含まれる細胞を吸引し、撮影された画像に対して画像処理を行い、前記画像処理された結果に基づいて、前記細胞サンプルに含まれる細胞の形状に関する形態情報を取得し、前記形態情報に基づいて吸引する1細胞を選択し、選択した前記1細胞を吸引させ、吸引された前記1細胞を解析し、解析された結果に基づいて取得された分子情報と前記形態情報との特徴量を抽出し、前記細胞毎に、前記形態情報と前記分子情報と前記特徴量とを関連付けてデータベースに格納して、前記細胞の形状に関するデータベースを作成し、スクリーニング対象の細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料であるスクリーニング試料において、前記細胞サンプルを複数個含むように撮影を行い、撮影された画像に対して画像処理された結果に基づいて取得した前記形態情報を用いて、前記データベースを参照して、前記試料に含まれる前記細胞の状態を推定する。
【0010】
また、本発明の一態様に係る新規創薬スクリーニング方法において、前記形態情報は、細胞の位置または核の位置を示す情報を含み、細胞面積、核面積、細胞の外周長、核の外周長、細胞の長径、核の長径、細胞の短径、核の短径、細胞の尖率、核の尖率等のうち少なくとも1つであるようにしてもよい。
【0011】
また、本発明の一態様に係る新規創薬スクリーニング方法において、前記分子情報は、遺伝子情報、蛋白質情報、ペプチド情報、アミノ酸情報、脂質情報、糖質情報、質量情報等のうちの少なくとも1つであるようにしてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様に係る新規創薬スクリーニング方法において、前記分子情報は、遺伝子情報であり、前記特徴量は、前記形状情報と前記遺伝子情報との相関係数であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遺伝子解析等を行わずに細胞の状態を推定することができる新規創薬スクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る創薬スクリーニングシステムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る撮影吸引部の構成例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る試料全体の画像例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る拡大撮影の画像例を示す図である。
【
図6】第1実施形態に係るDBが格納する情報例を示す図である。
【
図7】第1実施形態に係るDBが格納する情報から算出した相関係数例を示す図である。
【
図8】第1実施形態に係るDBが格納する遺伝子を備える細胞の特徴例を示す図である。
【
図9】第1実施形態に係るDBが格納する形態情報に対する細胞の特徴情報の例を示す図である。
【
図10】第1実施形態に係るDBの作成処理のフローチャートである。
【
図11】第1実施形態に係るDBを用いて試料の評価を行う評価手順のフローチャートである。
【
図12】第2実施形態に係る創薬スクリーニング処理の概略フローチャートである。
【
図13】第2実施形態に係る創薬スクリーニング処理のフローチャートである。
【
図14】第2実施形態に係る創薬スクリーニング処理のフローチャートである。
【
図15】第2実施形態に係る吸引する細胞の選択処理のフローチャートである。
【
図16】第2実施形態に係る形態情報の例を示す図である。
【
図17】第2実施形態の変形例における処理のフローチャートである。
【
図18】第3実施形態に係る創薬スクリーニング処理のフローチャートである。
【
図19】第3実施形態に係る創薬スクリーニング処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
<第1実施形態>
まず、本実施形態の概略を説明する。
本実施形態では、創薬スクリーニングシステムがデータベースを作成する例を説明する。本実施形態では、試料を撮影した画像を画像解析して形態情報を取得し、1細胞を吸引して遺伝子解析を行って遺伝子情報を取得する。そして、本実施形態では、この形態情報と遺伝子情報を関連付けてデータベース(DB)に格納し、DBに格納された情報の特徴量(例えば相関係数)を抽出する。そして、本実施形態では、抽出した特徴量を、DBが格納する情報に関連付けて格納する。
そして、本実施形態では、試料を撮影した画像から抽出した形態情報を用いて、このように作成されたDBを参照して、細胞の状態(例えば分化、未分化)を推定する。すなわち、本実施形態では、試料に含まれる細胞を解析装置で解析することなく、細胞の状態を推定することができる。
【0017】
[創薬スクリーニングシステム1の構成例]
図1は、本実施形態に係る創薬スクリーニングシステム1の構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、創薬スクリーニングシステム1は、制御装置2、撮影吸引装置3(撮影部、吸引部)、解析装置4-1、解析装置4-2、…、およびDB5を備える。以下の説明において、解析装置4-1、解析装置4-2、…のうちの1つを特定しない場合、解析装置4という。なお、創薬スクリーニングシステム1は、少なくとも1つの解析装置4を備えている。
【0018】
制御装置2は、操作部21、表示部22、吸引細胞選択部23、DB作成部24、特徴量抽出部25、推定部26、および制御部27を備えている。
撮影吸引装置3は、制御部31、撮影吸引部32、および画像解析部33を備えている。
なお、制御装置2と撮影吸引装置3とは、有線回線または無線回線で接続されている。また、制御装置2と解析装置4とは、有線回線または無線回線で接続されている。
【0019】
[創薬スクリーニングシステム1の各構成装置の動作、機能]
次に、創薬スクリーニングシステム1の各構成装置の動作、機能について説明する。
【0020】
まず、制御装置2の動作、機能について説明する。
制御装置2は、撮影吸引装置3と解析装置4を制御する。
【0021】
制御部27は、撮影吸引装置3に対して試料の撮影を行う撮影指示を出力し、撮影された画像と撮影された画像に対する画像処理結果を撮影吸引装置3から取得する。なお、画像処理結果には、細胞培養ウェルプレート5(
図2)における細胞または組織の位置を示す位置情報と、細胞または組織の形状に関する形態情報が含まれている。なお、形態情報は、細胞の位置または核の位置を示す情報を含む。また、形態情報は、例えば、細胞面積、核面積、細胞の外周長、核の外周長、細胞の長径、核の長径、細胞の短径、核の短径、細胞の尖率、核の尖率等のうち少なくとも1つの情報を含む。制御部27は、例えば表示部22に撮影された画像と画像処理結果を表示させる。制御部27は、表示された画像に基づいて利用者が操作部21を操作した操作結果に基づいて、解析に用いた細胞が分化しているか未分化であるかを示す情報を取得するようにしてもよい。
【0022】
吸引細胞選択部23は、取得した画像処理結果に基づいて、吸引すべき細胞または組織があるか否かを判別し、吸引すべき細胞または組織があると判別した場合、撮影吸引装置3に、吸引対象の細胞または組織を吸引する吸引指示を出力する。なお、吸引する対象は、細胞または組織に限らず、周囲の化合物や培養液等を含んでいてもよい。
吸引細胞選択部23は、解析装置4に対して吸引された細胞を解析する解析指示を出力する。制御装置2は、解析装置4から解析結果を取得する。なお、解析結果には、解析した細胞または組織に含まれている分子情報が含まれている。なお、分子情報は、例えば遺伝子情報、蛋白質(含む抗体、サイトカイン、酵素等)情報、ペプチド情報、アミノ酸情報、脂質情報、糖質情報、質量情報等のうちの少なくとも1つである。なお、吸引細胞選択部23は、吸引対象の細胞の選択を、表示部22に表示された撮影された画像を見て、利用者が操作部21を操作した操作結果に基づいて選択するようにしてもよい。
【0023】
DB作成部24は、形態情報と遺伝子情報を関連付けて、DB5に格納する。
【0024】
特徴量抽出部25は、形態情報(例えば細胞面積、細胞長)と遺伝子情報(遺伝子A、遺伝子B)それぞれの項目同士の相関係数を算出することで特徴量を求める。特徴量抽出部25は、求めた相関係数を、DB5に格納されている情報に関連付けてDB5に格納する。
特徴量抽出部25は、相関係数とDB5に格納されている情報に基づいて、解析に用いた細胞が分化しているか未分化であるかを示す情報を取得する。
特徴量抽出部25は、分化しているか未分化であるかを示す情報を、DB5に格納されている形態情報に関連付けてDB5に格納する。
【0025】
操作部21は、例えば表示部22上に設けられているタッチパネルセンサ、キーボード、マウス等の内、少なくとも1つである。操作部21は、利用者によって操作された操作結果を取得する。
【0026】
表示部22は、例えば液晶画像表示装置、有機EL(Electro Luminescence)画像表示装置等である。
【0027】
推定部26は、試薬が添付された試料が撮影された画像の形態情報を、DB5が格納する情報を参照して、細胞の状態(例えば分化、未分化)を推定する。推定部26は、推定した推定結果を表示部22上に表示させる。
【0028】
DB5は、データベースである。DB5は、解析した細胞毎に、形態情報と遺伝子情報を関連付けて格納する。DB5は、形態情報と遺伝子情報に、形態情報と遺伝子情報の相関係数を関連付けて格納する。DB5は、分化しているか未分化であるかを示す情報を、形態情報に関連付けて格納する。なお、DB5は、後述するように、遺伝子の名前毎に、その遺伝子を備える細胞の特徴を関連付けて格納する。
【0029】
次に、撮影吸引装置3の動作、機能について説明する。
制御部31は、制御装置2が出力する撮影指示に応じて、セットされた試料を撮影するように撮影吸引部32を制御する。画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理を行って形態情報を取得する。制御部31は、撮影吸引部32が撮影した画像と、画像解析部33が取得した形態情報を含む画像処理結果を制御装置2に出力する。なお、撮影吸引部32の詳細な構成については、
図2を用いて後述する。
【0030】
画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理を行って形態情報を取得する。画像解析部33が行う画像処理は、例えば二値化、エッジ検出、特徴量検出、クラスタリング等の処理である。
【0031】
次に、解析装置4の動作、機能の概略について説明する。
解析装置4は、撮影吸引装置3が吸引した細胞または組織に対して解析を行う。解析装置4は、例えばDNA(DeoxyriboNucleic Acid;デオキシリボ核酸)解析装置、RNA(RiboNucleic Acid;リボ核酸)解析装置、蛋白質解析装置等である。解析装置4は、解析した解析結果を制御装置2に出力する。なお、解析装置4は、例えば、試料を搬送する搬送部、搬送部等を制御する制御部等を備えている。
【0032】
[特徴量の他の例]
なお、特徴量の算出は、上述した相関係数の算出に限らず、例えばクラスタリング解析、主成分分析、多変量解析等の統計的な手法を用いてもよく、機械学習(Deep Learningなど)を用いてもよい。また、特徴量抽出部25は、特徴量を求める前に、細胞種や添加試薬の種類ごとにデータをわけてから特徴量を求めるようにしてもよい。具体的には、細胞腫や試薬の種類毎に、後述する
図6の表を分けて利用するようにしてもよい。このように層別にわけることで、データの特徴が明確になる効果を得ることができる。また、特徴量抽出部25は、DB5が格納する情報に対してクラスタリング解析をおこなってグルーピングしてから、各グループ内での相関係数を求めるようにしてもよい。具体的には、形態情報、遺伝子情報から後述する
図6の表を作成しクラスタリングを行い、グループ内での相関係数を算出することで、グループ間でどこに違いがあるのか明確にすることができる効果を得ることができる。
【0033】
[解析対象、解析方法]
ここで、解析装置4が行う解析の対象例と解析方法例を説明する。まず、解析の対象例を説明する。
解析装置4は、例えば取得した細胞が保有していた、または生産した化合物に対して解析を行う。解析装置4は、例えば取得した周囲の細胞が生産した化合物に対して解析を行う。解析装置4は、例えば取得した細胞の培養上清に添加した化合物に対して解析を行う。解析装置4は、例えば取得した細胞の個体に投与した、または個体が摂取した化合物に対して解析を行う。
【0034】
また、解析対象は、化合物に含まれている有機化合物または無機化合物である。また、解析対象は、有機化合物に含まれている蛋白質(含む抗体、サイトカイン、酵素等)、ペプチド、アミノ酸、脂質、糖質、DNA、RNA(含むmRNA、ncRNA、rRNA、tRNA等)、スクリーニングの対象となる候補化合物等である。なお、ncRNAにはlncRNA、siRNA、miRNA、piRNA等が含まれる。また、解析対象は、無機化合物に含まれている塩、金属イオン等である。
【0035】
解析装置4は、例えば、質量分析、NMR(Nuclear Magnetic Resonance;核磁気共鳴)、液体クロマトグラフィー、ラマン分光法、赤外分光法、電気泳動法、元素分析のうちの少なくとも1つの解析を行うようにしてもよい。なお、質量分析は、例えばイオン化法である。なお、イオン化法には、EI(electron ionization:電子イオン化)法、CI(chemical ionization:化学イオン化)法、FAB(fast atom bombardment:高速原子衝撃)法、ESI(electrospray ionization:エレクトロスプレーイオン化)法、MALDI(matrix-assisted laser desorption ionization:マトリックス支援レーザー脱離イオン化)法等がある。また、質量分析では、質量分析計(MS)を2台直列で結合し、その間に衝突活性化室を持つ装置を用いて分析するようにしてもよい。
【0036】
解析装置4は、DNA、RNAの解析において、例えば、NGS(次世代シーケンサー)、qPCR(定量ポリメラーゼ連鎖反応)、マイクロアレイ、デジタルPCR、シーケンサー等の手法を用いる。なお、RNAの解析では、逆転写の工程があってもよい。また、質量分析の導入法は、直接導入または液体クロマトグラフィーを繋ぐ手法を用いてもよい。
【0037】
[撮影吸引部32の構成例]
次に、撮影吸引部32の構成例を説明する。
図2は、本実施形態に係る撮影吸引部32の構成例を示す図である。
図2に示すように、撮影吸引部32は、画像細胞取得部321、吸引部322、XYZステージ323、吸引チップ324、チップラック325、検体ラック326、および細胞培養ウェルプレート5を備える。
画像細胞取得部321は、撮影部3211、明視野照明3212、XYステージ3213を備える。なお、
図2において、XYZステージ323が移動する面をxy平面とし、xy平面に垂直な方向をz軸方向とする。紙面の左右方向をx軸方向とし、奥行き方向をy軸方向とする。
【0038】
[撮影吸引部32の各構成部の動作、機能]
細胞培養ウェルプレート5には、複数の細胞51のサンプルに候補薬剤が添加された試料が乗っている。なお、試料は、細胞培養液52を含んでいてもよい。
【0039】
撮影吸引部32は、制御部31の撮影指示に応じて、XYステージ3213上に載置された細胞培養ウェルプレート5内の全体の画像または特異領域の画像を撮影し、撮影した画像を画像解析部33に出力する。XYステージ3213に載置するのは、細胞培養容器であればよく、細胞培養ウェルプレート5に限られず、細胞培養ディッシュ、カバーガラスチャンバ、シャーレ等であってもよい。撮影吸引部32は、制御部31の制御に応じて、XYステージ3213と吸引部322を駆動して吸引すべき細胞または組織を吸引する。撮影吸引部32は、制御部31の制御に応じて、XYステージ3213を駆動して吸引した細胞または組織が入っている吸引チップ324を検体ラック326に格納する。
【0040】
なお、撮影部3211は、特開2019-41691号公報に記載と同様に、例えば、顕微光学部、共焦点走査部、撮影部、蛍光用光源、および対物レンズを備えている。また、制御装置2は、特開2019-41691号公報に記載と同様に、例えば、吸引時間設定部と吸引圧力設定部を備えている。これらの構成によって、撮影吸引部32は、特開2019-41691号公報に記載の細胞吸引支援装置と同様に、ストレスをより少なくして試料から細胞または組織を吸引することができる。
【0041】
[吸引対象の細胞判定]
次に、創薬スクリーニングシステム1が行う吸引対象の細胞または組織の判定方法例を説明する。なお、以下の説明では、吸引と解析の対象が細胞の例を説明する。
【0042】
まず、例えば作業者は、細胞培養ウェルプレート5をXYステージ3213上にセットする。そして、撮影吸引部32は、細胞培養ウェルプレート5がXYステージ3213上にセットされたことを示す情報を制御装置2に出力する。
制御装置2は、撮影吸引部32に細胞培養ウェルプレート5がセットされた際、試料全体を撮影する撮影指示を撮影吸引部32に出力する。
【0043】
撮影部3211は、
図3に示すように、撮影制御指示を取得した制御部31の制御に応じて、試料全体を撮影する。
図3は、実施形態に係る試料全体の画像例を示す図である。
図3において、符号g101の領域は、例えば薬剤の効果が現れている状態の細胞(第1状態の細胞)の領域である。符号g111とg112の領域は、例えば薬剤の効果が現れていない状態の細胞(第2状態の細胞)の領域である。また、
図3において、長手方向をx方向、短手方向をy方向とする。
【0044】
画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理を行って例えば細胞の大きさに関する情報を取得する。制御装置2は、例えば細胞面積が所定値より大きい細胞を吸引対象として選択する。制御装置2は、選択した細胞を含む領域(吸引候補)の拡大写真を撮影する指示を撮影吸引装置3に出力する。撮影吸引装置3の制御部31は、選択された細胞を含む領域の拡大写真を撮影する指示を取得する。
【0045】
撮影部3211は、
図4に示すように、制御部31の指示に応じてについて、試料全体を撮影した際の倍率より高い倍率で撮影する。撮影部3211は、試料全体の撮影を行う際の拡大倍率を例えば10倍とし、吸引候補の撮影を行う際の拡大倍率を例えば100倍とする。なお、撮影部3211の撮像素子の解像度が高い場合、撮影部3211は拡大写真を撮影しなくてもよい。この場合、画像解析部33は、吸引候補の領域の画像を全体の画像から抽出して利用するようにしてもよい。
【0046】
図4は、実施形態に係る拡大撮影の画像例を示す図である。
図4において、符号g101の領域と符号g111の領域は、
図3と同様である。また、符号g121は、細胞質(細胞膜基質)の画像を示し、g122は核の画像を示し、符号g123は核の中心を示す。また、
図4において、長手方向をx方向、短手方向をy方向とする。なお、撮影部3211は、制御部31の制御に応じて、
図3の符号g112の領域の撮影も行うようにしてもよい。なお、複数の吸引候補が存在する場合、制御部31は、XYステージ3213をxy平面で移動させて特異領域の撮影を行う。
【0047】
画像解析部33は、撮影された吸引候補の画像に対して画像処理を行う。画像解析部33は、この画像処理によって、細胞の位置(核の中心座標(x1,y1))、xy平面における長辺と短辺の長さ、細胞の面積それぞれの形態情報を得る。また、画像解析部33は、上述した特開2019-41691号公報に記載のように、撮影部3211が有する対物レンズをz方向に移動させて撮影することで、核の高さを取得する。画像解析部33は、
図3の符号g112の領域についても同様の処理を行うようにしてもよい。制御部31は、画像解析部33が取得した形態情報を制御装置2に出力する。
【0048】
制御装置2の吸引細胞選択部23は、形態情報に基づいて、吸引する細胞を選択する。吸引細胞選択部23は、例えば
図3のように吸引候補が2つの場合、いずれか1つの領域から細胞を吸入するように選択してもよく、両方の領域から吸引するように選択してもよい。このように、吸引細胞選択部23は、吸引する細胞を選択する。また、吸引細胞選択部23は、吸引候補が複数の場合、例えば核の形状、核の大きさ(面積)、核の位置、細胞の細胞周期状態等に基づいて、複数の吸引候補から吸引する細胞を選択するようにしてもよい。吸引細胞選択部23は、吸引候補として選択した細胞の情報(核の中心座標、xy平面における長辺と短辺の長さ、z方向の高さ)を撮影吸引装置3に出力する。
【0049】
[吸引処理]
次に、撮影吸引部32が行う吸引処理について説明する。
撮影吸引部32は、制御部31の制御に応じて、チップラック325に格納されている複数の吸引チップ324のうち1つを吸引部322に装着させる。
次に、撮影吸引部32は、制御部31の制御に応じて、吸引部322とXYステージ3213を移動させて、所望の細胞または組織を吸引する。
【0050】
図5は、細胞を吸引する処理例を示す図である。
図5に示す例では、チップ先端324aのz軸方向の底面からの位置がz3である。この場合は、チップ先端324aと細胞51との隙間が少なく、かつチップ先端324aの細胞51へ刺さっていない状態である。また、
図5の状態は、細胞が細胞培養ウェルプレート5の底面5aに接着している状態である。なお、符号324bは、吸引チップ24の壁を示している。
【0051】
制御部31は、
図5のように吸引開始時のチップ先端324aのz軸方向を正確に制御することにより、1細胞吸引を行う際ターゲットへのダメージを軽減することができる。制御部31は、撮影部3211が有する対物レンズのz方向の高さを変えて撮影することで最適な高さを求め、このような吸引開始時のチップ先端324aのz軸方向の制御を行う。
【0052】
次に、撮影吸引部32は、制御部31の制御に応じて、細胞または組織を吸引した吸引チップ324を、検体ラック326の所定の位置に格納する。
次に、制御部31は、細胞または組織を吸引したことを示す情報を制御装置2に出力する。
【0053】
[解析装置4の解析動作]
次に、解析装置4の動作について説明する。
解析装置4は、制御装置2から細胞または組織を吸引したことを示す情報を取得する。解析装置4は、撮影吸引部32が吸引した細胞または組織に対して、例えば遺伝子解析を周知の手法で行う。解析装置4は、解析した遺伝子情報を制御装置2に出力する。
【0054】
[DB5が格納する情報例]
次に、DB5が格納する情報例を説明する。
図6は、本実施形態に係るDB5が格納する情報例を示す図である。
図6に示すように、DB5は、細胞毎に、形態情報(細胞面積[μm
2]と細胞の外周長[μm])と、遺伝子情報(遺伝子A[個]、遺伝子B[個])を関連付けて記憶する。なお、
図6に示した形態情報は一例であり、細胞の長辺の長さ、細胞の短辺の長さ、核の面積、核の外周長、核の長辺の長さ、核の短辺の長さ、細胞の形状における尖率、細胞の質量等であってもよい。また、遺伝子情報は、吸引された細胞に含まれている遺伝子の情報や蛋白質の情報等であってもよい。
【0055】
次に、
図6のDB5が格納する情報から抽出した特徴量の一例として相関係数を例に説明する。
図7は、本実施形態に係るDB5が格納する情報から算出した相関係数例を示す図である。
図7に示すように、制御装置2の特徴量抽出部25は、DB5が格納する形態情報と遺伝子情報それぞれを抽出し、抽出した項目毎の相関係数を算出する。なお、相関係数の算出に用いる値は、それぞれの項目の例えば平均値である。
【0056】
特徴量抽出部25は、例えば相関係数が0~0.2の場合にほとんど相関無しと判別し、相関係数が0.2~0.4の場合に弱い相関ありと判別し、相関係数が0.4~0.7の場合にやや相関ありと判別し、相関係数が0.7~1.0の場合に強い相関ありと判別する。
図7に示す例では、外周長と遺伝子Bとの間に負の強い相関が確認出来た例である。
【0057】
DB5は、
図8のように、遺伝子の名前毎に、その遺伝子を備える細胞の特徴を関連付けて格納する。
図8は、本実施形態に係るDB5が格納する遺伝子を備える細胞の特徴例を示す図である。例えば、遺伝子Bが未分化な細胞でのみ発現が確認される遺伝子である場合、DB5は、遺伝子Bの名前に、特徴として未分化を関連付けて格納する。なお、
図8に示した例では、特徴として分化と未分化の例を示したが、特徴を示す情報は、これに限らない。
【0058】
他の特徴を示す情報は、例えば接着面積等である。接着細胞において、E-cadherinやOccludinなど上皮で発現している遺伝子の発現が減少すると細胞の接着能が低下し、細胞の接着面積が小さくなると考えられる(形態が丸みを帯びると考えられる)。なお、E-cadherinやOccludinの遺伝子発現減少はEMT(上皮間葉転換)の指標とされており、発生や創傷治癒、がん化に関係すると一般的に考えられる。
【0059】
図7のような相関関係が得られた場合、特徴量抽出部25は、外周長の大きな細胞は分化している細胞であると推定する。この結果、DB作成部24は、形態情報において外周長が大きいに対して、分化している細胞であることを示す情報を関連付けて格納する。
図9は、本実施形態に係るDB5が格納する形態情報に対する細胞の特徴情
報の例を示す図である。
図9に示すように、DB作成部24は、形状の特徴(例えば外周長が大きい)に、特徴が分化であることを示す細胞の特徴情報を関連付けて格納する。
【0060】
なお、制御装置2は、
図8に示した遺伝子の特徴や、
図9に示した形状に対する特徴を、例えば教師付の機械学習によって学習して、DB5に格納するようにしてもよい。
また、制御装置2は、DB5に格納されている情報から特徴量を注出する際、相関係数を算出するのではなく、格納されている情報を機械学習させて特徴量を注出するようにしてもよい。
【0061】
[DB5の作成処理手順]
次に、DB5の作成処理手順例を説明する。
図10は、本実施形態に係るDB5の作成処理のフローチャートである。なお、操作者は、吸引目的に応じた吸引チップ324をチップラック325に載置する。例えば、細胞成分の吸引を行なう場合には、ナノスプレーチップを載置し、1個の細胞の吸引を行なう場合には、通常の吸引チップを載置する。
【0062】
(ステップS1)作業者は、細胞サンプル(例えばがん細胞)を作製する。次に、作業者は、試料を細胞培養ウェルプレート5に入れる。次に、作業者は、細胞培養ウェルプレート5を撮影吸引装置3のXYステージ3213上にセットする。撮影吸引装置3は、細胞培養ウェルプレート5がXYステージ3213上にセットされたことを検知する。なお、撮影吸引装置3は、試料がセットされたことを、例えば、作業者が制御装置2の操作部21を操作した結果に基づいて検知してもよく、撮影部3211が撮影した画像によって検知してもよく、撮影吸引部32が有するセンサによって検知してもよい。
【0063】
(ステップS2)作業者は、作製した細胞サンプルに候補化合物試薬)を添加する。なお、作業者は、必要に応じて例えば蛍光染色を行なう。撮影吸引装置3は、試薬が添加されたことを検知する。なお、撮影吸引装置3は、試薬が添加されたことを、例えば、作業者が制御装置2の操作部21を操作した結果に基づいて検知してもよく、撮影吸引部32が有するセンサによって検知してもよい。
【0064】
(ステップS3)撮影吸引装置3は、制御装置2の制御に応じて、試料全体の撮影を行う。
【0065】
(ステップS4)撮影吸引装置3の画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理を行って、形態情報を取得する。
【0066】
(ステップS5)制御装置2の吸引細胞選択部23は、形態情報に基づいて、吸引対象の細胞または組織があるか否かを判別する。なお、吸引細胞選択部23は、吸引候補の領域を拡大撮影する指示を撮影吸引部32に送信し、撮影吸引部32が拡大撮影して画像処理した結果に含まれる形態情報に基づいて、吸引対象の細胞または組織があるか否かを判別するようにしてもよい。吸引細胞選択部23は、吸引対象の細胞または組織があると判別した場合(ステップS5;YES)、ステップS6の処理に進める。吸引細胞選択部23は、吸引対象の細胞がないと判別した場合(ステップS5;NO)、ステップS1の処理に戻す。
【0067】
(ステップS6)吸引細胞選択部23は、吸引対象の細胞または組織を決定する。続けて、吸引細胞選択部23は、決定した吸引対象の細胞または組織を吸引する吸引指示を撮影吸引装置3に出力する。続けて、撮影吸引装置3は、吸引対象の細胞または組織を吸引する。
【0068】
(ステップS7)制御装置7は、解析装置4に吸引された細胞または組織について解析する解析指示を出力する。続けて、解析装置4は、吸引された細胞または組織に対して、例えば遺伝子解析を行って遺伝子情報を取得する。
【0069】
(ステップS8)DB作成部24は、取得された形態情報に遺伝子情報を関連付けてDBに格納して、DBの情報を更新する。
【0070】
(ステップS9)特徴量抽出部25は、DB5から相関係数を算出して特徴量を注出する。続けて、特徴量抽出部25は、抽出した特徴量をDB5が格納する情報に関連付けて格納する。続けて、特徴量抽出部25は、算出した相関係数に強い相関がある場合、細胞の状態(例えば分化、未分化)を示す細胞の特徴情報を例えばDB5を参照して取得し、取得した細胞の特徴情報を形態情報に関連付けてDB5に格納する。
【0071】
[ES細胞のDB作成例]
ここで、ES細胞(Embryonic Stem Cells;胚性幹細胞)のDB作成例を説明する。
まず、作業者は、試料としてES細胞播種(細胞種1種類)を細胞培養ウェルプレート5にセットする。次に、作業者は、分化誘導試薬添加(試薬複数種)を添加する。
次に、撮影吸引装置3は、ES細胞撮影する。次に、画像解析部33は、画像解析により形態情報を取得する。
【0072】
次に、吸引細胞選択部23は、吸引対象の細胞を選択する。次に、撮影吸引装置3は、選択された1細胞を吸引する。
次に、解析装置4は、遺伝子解析により遺伝子情報を取得する。次に、制御装置2のDB作成部24は、細胞毎の形態情報と遺伝子情報を関連付けてDB5を更新する。
次に、制御装置2の特徴量抽出部25は、形態情報と遺伝子情報の各パラメータについて相関係数を算出し、算出した相関係数を特徴量として、DB5が格納する情報に関連付けて格納する。
【0073】
[試料の評価手順例]
次に、本実施形態のDBを用いて試料の評価を行う評価手順例を説明する。
図11は、本実施形態に係るDBを用いて試料の評価を行う評価手順のフローチャートである。
【0074】
(ステップS101)撮影吸引装置3は、ステップS1(
図10)と同様に、細胞培養ウェルプレート5がXYステージ3213上にセットされたことを検知する。
【0075】
(ステップS102)作業者は、作製した細胞サンプルに候補化合物試薬)を添加する。撮影吸引装置3は、ステップS2(
図10)と同様に、試薬が添加されたことを検知する。
【0076】
(ステップS103)撮影吸引装置3は、制御装置2の制御に応じて、試料全体の撮影を行う。
【0077】
(ステップS104)撮影吸引装置3の画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理を行って、形態情報を取得する。
【0078】
(ステップS105)推定部26は、形態情報を用いて、DB5が格納する情報を参照して、細胞の状態(例えば分化、未分化)を推定する。続けて、推定部26は、推定結果を表示部22上に表示させる。
【0079】
以上のように、本実施形態では、試料を撮影した画像を画像解析して形態情報を取得し、1細胞を吸引して遺伝子解析を行って遺伝子情報を取得するようにした。そして、本実施形態では、この形態情報と遺伝子情報を関連付けてDB5に格納し、DB5に格納された情報の特徴量(例えば相関係数)を抽出するようにした。そして、本実施形態では、抽出した特徴量を、DB5が格納する情報に関連付けて格納するようにした。
【0080】
これにより、本実施形態によれば、試料を撮影した画像から抽出した形態情報を用いて、このように作成されたDB(データベース)を参照して、細胞の状態(例えば分化、未分化)を推定することができる。すなわち、本実施形態によれば、試料に含まれる細胞を解析装置4で遺伝子解析等の解析を行うことなく、撮影された画像に基づいて細胞の状態を推定することができる。また、細胞の評価は、従来技術では、経験者が撮影された画像を見て判断を行うがあった。これに対して、本実施形態によれば、細胞または組織の評価を細胞データベース作成システムが撮影された画像に基づいて細胞の状態を推定するので、経験者による評価を行わずに評価を行うことができる。
【0081】
また、従来技術では例えば刺激によって形態の変化した浮遊している細胞集団を回収していたため、接着状態の1つの細胞の評価が困難であった。これに対して、本実施形態によれば、細胞サンプルを撮影した画像によって、細胞サンプルに含まれている細胞または組織の状態を推定するため、接着状態の1つの細胞の評価を行うことができる。
【0082】
ここで、比較例の評価方法例を説明する。
未分化なES細胞の培養時に未分化性が保たれず、一部の細胞で分化が起こってしまうことが知られている。経験豊富な作業者は、細胞の見た目から分化した細胞を予測し、分化したと思われる細胞を培養器から取り除くことで細胞の未分化状態を保持する。しかし、1細胞レベルでの形態の変化と未分化状態の関係性については明らかにされていない。そのため、分化した細胞を取り除く装置では、経験者が機械学習により装置に分化した細胞の形態を学習させて分化と未分化の分離を行う手法が考えられる。この場合は、経験者が教え込ませた分化と未分化の分類が正しいかどうか判断するのが難しい。
【0083】
これに対して、本実施形態によれば、形態情報と遺伝子情報との関連性を、相関係数を算出して関連付けてDB5に格納し、試料を撮影した画像から取得した形態情報を用いてDBを参照することで、分化した細胞に特異的に確認される形態的特徴を見つけることができる。
【0084】
<付記>
(1)細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料の撮影を行う撮影部と、
前記細胞サンプルに含まれる細胞に関する情報を格納するデータベースと、
前記細胞を吸引する吸引部と、
吸引された前記細胞を解析する解析装置と、
撮影された画像に対して画像処理を行う画像解析部と、
前記画像処理された結果に基づいて、前記細胞サンプルに含まれる細胞の形状に関する形態情報を取得し、前記形態情報に基づいて吸引する1細胞を選択し、選択した前記1細胞を前記吸引部によって吸引させ、吸引された前記1細胞を前記解析装置によって解析させ、解析された結果に基づいて取得された分子情報と前記形態情報との特徴量を抽出し、前記細胞毎に、前記形態情報と前記分子情報と前記特徴量とを関連付けて前記データベースに格納する制御装置と、
を備える細胞データベース作成システム。
(2)前記形態情報は、
細胞の位置または核の位置を示す情報を含み、細胞面積、核面積、細胞の外周長、核の外周長、細胞の長径、核の長径、細胞の短径、核の短径、細胞の尖率、核の尖率等のうち少なくとも1つである、
(1)に記載の細胞データベース作成システム。
(3)前記分子情報は、
遺伝子情報、蛋白質情報、ペプチド情報、アミノ酸情報、脂質情報、糖質情報、質量情報等のうちの少なくとも1つである、
(1)または(2)に記載の細胞データベース作成システム。
(4)前記分子情報は、
遺伝子情報であり、
前記特徴量は、
前記形態情報と前記遺伝子情報との相関係数である、
(1)または(2)に記載の細胞データベース作成システム。
(5)前記制御装置は、
前記試料が撮影され、画像処理された結果に基づいて取得した前記形態情報を用いて、前記データベースを参照して、前記試料に含まれる前記細胞の状態を推定する、
(1)から(4)のいずれか1つに記載の細胞データベース作成システム。
(6)撮影部が、細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料の撮影を行う手順と、
画像解析部が、撮影された画像に対して画像処理を行う手順と、
制御装置が、画像処理された結果に基づいて、前記細胞サンプルに含まれる細胞の形状に関する形態情報を取得し、前記形態情報に基づいて吸引する1細胞を選択する手順と、
吸引部が、選択された前記1細胞を吸引する手順と、
解析装置が、吸引された前記1細胞を解析する手順と、
前記制御装置が、解析された結果に基づいて取得された分子情報と前記形態情報との特徴量を抽出する手順と、
前記制御装置が、前記細胞毎に、前記形態情報と前記分子情報と前記特徴量とを関連付けてデータベースに格納する手順と、
を含む細胞データベース作成方法。
【0085】
<第2実施形態>
第2実施形態では、創薬スクリーニングシステム1が創薬スクリーニングを行う例を説明する。
【0086】
[創薬スクリーニングにおける用語の説明]
まず、創薬の開発評価のスクリーニングにおける用語を説明する。
薬効判定とは、細胞サンプリングに添加した薬剤の効果があるか否かを判定する処理である。形態評価とは、撮影された試料の画像を画像処理し、画像処理した結果に基づいて細胞の形状を評価する処理である。構造修飾とは、添加した薬剤の構造の一部を変更する処理である。動態確認とは、遺伝子解析等に基づいて、理論上、正常細胞に対して悪影響を与えないなど、薬物が細胞に与える影響を確認する処理である。物性評価とは、化合物が分解されて毒性のある物質に変化しやすいなどの物性の問題があるか否かを評価する処理である。毒性評価とは、複数回投与して体内に蓄積されるか否か、すなわち毒性があるか否かを評価する処理である。
また、本実施形態では、例えば薬剤の効果が現れていない状態の細胞または組織がある領域を特異領域という。または、特異領域は、特殊な細胞(例えば多核を有する細胞)を含む領域であってもよい。
【0087】
[第2実施形態の概略]
次に、本実施形態の概略を説明する。
一般的な創薬スクリーニングでは、形態評価、薬効判定、構造修飾、動態確認、物性評価、および毒性評価の順に処理が行われていた。しかしながら、一般的な創薬スクリーニングでは、臨床試験の直前の評価まで、例えば毒性のある化合物が候補に残る可能性があった。毒性評価までの試験には、多くの工数と費用が費やされている。このため、毒性試験で、その化合物を用いた薬の開発が中止、または創薬スクリーニング処理のやり直しになった場合、開発者は大きな損失を受けることになる。
このため、本実施形態では、薬効判定後、創薬スクリーニング処理の途中で、特異な状態の細胞を吸引し、吸引した細胞に対して解析を行うことで、動態と毒性を推定する。これにより、本実施形態では、創薬スクリーニング処理を最後まで行う前に、創薬スクリーニングの処理を進めるか否かを判定することで、創薬スクリーニングの効率を向上させる。
【0088】
[創薬スクリーニングシステム1の概要と各装置の概要]
本実施形態に係る創薬スクリーニングシステム1の構成は、第1実施形態の創薬スクリーニングシステム1(
図1、
図2)と同様である。
創薬スクリーニングシステム1は、細胞サンプルに候補の薬剤が添加された試料に対して、創薬スクリーニングの工程内で画像の撮影、DB5が格納する情報を用いて、撮影した画像の分析、細胞または組織の吸引、吸引した細胞または組織の解析を行う。創薬スクリーニングシステム1は、DB5が格納する情報を用いて、吸引した細胞または組織を解析した結果に基づいて、創薬スクリーニングの処理を進めるか否かを判定する。なお、吸引する対象は、細胞または組織に限らず、周囲の化合物や培養液等を含んでいてもよい。
【0089】
本実施形態では、細胞培養ウェルプレート5には、複数の細胞51のサンプルに候補薬剤が添加された試料が乗っている。なお、試料は、細胞培養液52を含んでいてもよい。また、以下の説明では、試料には、薬剤の効果を確認するための染色剤が添加されているとする。
【0090】
撮影吸引装置3は、制御装置2の撮影指示に応じて、XYステージ3213上に載置された細胞培養ウェルプレート5内の全体の画像または特異領域の画像を撮影する。撮影吸引装置3は、撮影された画像を画像解析し、画像解析した画像解析結果を制御装置2に出力する。撮影吸引装置3は、制御装置2の吸引指示に応じて、吸引すべき細胞を吸引する。なお、画像解析結果には、撮影された画像、画像に含まれている各細胞の形状、大きさ、位置等を示す情報が含まれている。
【0091】
解析装置4は、撮影吸引装置3によって吸引され、検体ラック326に格納された吸引チップ324に入っている細胞または組織に対して遺伝子解析等の解析を行う。なお、解析方法については後述する。解析装置4は、解析した解析結果を制御装置2に出力する。
【0092】
DB5は、第1実施形態と同様に、解析した細胞毎に、形態情報と遺伝子情報を関連付けて格納する。DB5は、形態情報と遺伝子情報に、形態情報と遺伝子情報の相関係数を関連付けて格納する。DB5は、分化しているか未分化であるかを示す情報を、形態情報に関連付けて格納する。なお、DB5は、後述するように、遺伝子の名前毎に、その遺伝子を備える細胞の特徴を関連付けて格納する。
【0093】
制御装置2は、撮影吸引装置3に細胞培養ウェルプレート5がセットされた際、試料全体を撮影するように撮影吸引装置3を制御する。制御装置2は、撮影吸引装置3が試料全体に対する画像処理結果を取得する。制御装置2は、画像解析結果に対してDB5に格納されている情報を参照して、特異領域があるか否か判別する。特異領域がある場合、制御装置2は、創薬スクリーニングを継続することを表示部22に提示する。特異領域がある場合、制御装置2は、その領域の位置に基づいて、吸引すべき細胞または組織の位置を推定する。制御装置2は、決定した細胞または組織の位置に基づいて、吸引する細胞または組織を吸引するように撮影吸引装置3に吸引指示を出力する。
【0094】
[撮影吸引装置3の機能と動作]
次に、撮影吸引装置3の機能と動作について説明する。
まず、例えば作業者は、細胞培養ウェルプレート5をXYステージ3213上にセットする。撮影吸引装置3は、細胞培養ウェルプレート5がセットされたことを示す情報を制御装置2に出力する。
【0095】
次に、撮影吸引部32は、制御装置2からの撮影指示に応じて、細胞培養ウェルプレート5のxy平面における試料全体を撮影する。撮影吸引部32は、撮影した画像を画像解析部33に出力する。画像解析部33は、撮影された画像に対して画像解析を行って、画像に含まれている細胞の形状等を解析する。撮影吸引装置3は、画像解析結果を制御装置2に出力する。なお、画像処理結果には、細胞または細胞の位置の位置情報が含まれている。なお、位置情報は、例えば細胞培養ウェルプレート5の中心を原点としたxy平面におけるxy座標の値である。
【0096】
特異領域が存在する場合、撮影吸引部32は、制御装置2からの撮影指示に応じて、XYステージ3213をxy平面で移動させて特異領域の撮影を行う。なお、撮影吸引部32は、特異領域の撮影を行う際、試料全体の撮影時より高倍率で撮影する。撮影吸引部32は、試料全体の撮影を行う際の拡大倍率を例えば10倍とし、特異領域の撮影を行う際の拡大倍率を例えば100倍とする。画像解析部33は、撮影された画像に対して画像解析を行って、画像に含まれている細胞の形状(細胞質の面積、核の面積、核の真円度等)等を解析する。撮影吸引装置3は、画像解析結果を制御装置2に出力する。
【0097】
吸引すべき細胞や組織が存在する場合、撮影吸引部32は、制御装置2からの吸引指示に応じて、チップラック325に格納されている複数の吸引チップ324のうち1つを吸引部322に装着させる。次に、撮影吸引部32は、制御装置2からの吸引指示に応じて、吸引部322とXYZステージ323を移動させて、所望の細胞または組織を吸引する。
【0098】
次に、撮影吸引部32は、細胞または組織を吸引した吸引チップ324を、検体ラック326の所定の位置に格納する。次に、撮影吸引部32は、細胞または組織を吸引した吸引チップ324を、検体ラック326に格納したことを示す情報を解析装置4に出力する。
【0099】
[画像解析部33の機能と動作]
次に、画像解析部33の機能と動作について説明する。
【0100】
まず、試料全体の画像に対する処理について説明する。
画像解析部33は、撮影吸引部32が出力する試料全体の画像を取得する。続けて、画像解析部33は、取得した試料全体の画像に対して画像処理を行う。画像処理は、例えばエッジ検出処理、特徴量検出処理、クラスタリング処理等を含む。なお、試料全体の画像は、細胞のサンプルに候補薬剤が添加され、その薬剤の効果を確認するために、例えば色素によって染色が行われた試料を撮影した画像である。画像解析部33は、画像処理結果を制御装置2に出力する。
【0101】
次に、特異領域の画像に対する処理について説明する。
画像解析部33は、撮影吸引部32が出力する特異領域の画像を取得する。続けて、画像解析部33は、取得した特異領域の画像に対して画像処理を行う。なお、画像処理結果には、細胞または細胞の位置の位置情報が含まれている。画像解析部33は、特異領域の画像に対する画像処理結果を制御装置2に出力する。画像解析部33は、特異領域が複数有る場合、複数の特異領域の中から少なくとも1つの特異領域を選択し、選択した特異領域における細胞または組織の位置を制御装置2に出力するようにしてもよい。
【0102】
[解析装置4の機能と動作]
次に、解析装置4の機能と動作について説明する。
解析装置4は、細胞または組織毎に、遺伝子情報、成分、質量等の情報を記憶する。
【0103】
解析装置4は、撮影吸引装置3が吸引した細胞または組織に対して例えば遺伝子解析を行う。解析装置4は、遺伝子解析した結果と記憶する情報に基づいて、薬物動態や毒性を推定する。解析装置4は、薬物動態や毒性を推定した結果、添加した薬剤によって動態または毒性に問題があると推定される場合、添加した薬剤(化合物)による創薬スクリーニング処理の中止を促す情報を制御装置2に出力する。解析装置4は、薬物動態や毒性を推定した結果、添加した薬剤によって動態と毒性に問題がないと推定される場合、創薬スクリーニング処理の継続を促す情報を制御装置2に出力する。なお、細胞または組織に対する解析方法については後述する。
【0104】
[制御装置2の機能と動作]
次に、制御装置2の機能と動作について説明する。
操作部21は、作業者が操作した操作結果を検出し、検出した操作結果を制御部27に出力する。操作結果には、例えば、創薬スクリーニング処理の開始、細胞培養ウェルプレート5をXYステージ3213上にセットしたことを示す情報等が含まれている。
【0105】
制御部27は、試料全体の撮影を行うように撮影吸引装置3に撮影指示を出力し、撮影された画像と撮影された画像に対する画像処理結果を取得する。なお、撮影条件(例えば、共焦点、落射蛍光、位相差等の光学系の指定や、波長の設定、撮影間隔・トータル撮影時間等)は、作業者が操作部21を操作して入力してもよく、制御部27が予め記憶していてもよい。
【0106】
制御部27は、吸引細胞選択部23が出力する薬剤の効果が現れていない状態の細胞または細胞の位置を示す情報に基づいて、特異領域の撮影を行うように撮影吸引装置3に撮影指示を出力する。撮影指示には、撮影すべき特異領域の位置を示す情報が含まれている。
【0107】
制御部27は、撮影吸引装置3が出力する吸引する細胞または組織の位置情報に基づいて、所望の細胞または組織を吸引するように撮影吸引装置3に吸引指示を出力する。制御部27は、解析装置4が出力する吸引された細胞または組織に対する解析結果を受け取り、受け取った解析結果を表示部22上に表示させる。
【0108】
吸引細胞選択部23は、試料全体の画像に対する画像処理結果と、DB5が格納する情報に基づいて、試料に、薬剤の効果が現れている状態の細胞または組織(第1状態の細胞)が含まれているか否か、薬剤の効果が現れていない状態の細胞または組織(第2状態の細胞)が含まれているか否か判別する。吸引細胞選択部23は、薬剤の効果が現れていない状態の細胞または細胞の位置を示す情報を制御部27に出力する。なお、薬剤の効果が現れている状態の細胞または組織(第1状態の細胞)と薬剤の効果が現れていない状態の細胞または組織(第2状態の細胞)の判別方法については後述する。
【0109】
吸引細胞選択部23は、特異領域の画像に対する画像処理結果と、DB5が格納する情報に基づいて、吸引すべき細胞や組織があるか否かを判別する。吸引細胞選択部23は、吸引すべき細胞や組織があると判別した場合、吸引する細胞や組織を決定する。吸引細胞選択部23は、決定した吸引する細胞や組織の位置情報を制御部27に出力する。
【0110】
推定部26は、解析装置4が出力する解析結果と、DB5が格納する情報を参照して、添加された化合物の構造修飾した場合に動態や毒性を改善できるか否かを判別する。推定部26は、解析装置4が行った動態確認の結果に基づいて、動態に問題があるか否かを判別する。推定部26は、解析装置4が行った物性判定の結果に基づいて、毒性に問題があるか否かを判別する。
【0111】
[吸引細胞判定]
次に、制御装置2と撮影吸引装置3が行う吸引する細胞または組織の判定方法例を説明する。なお、以下の説明では、吸引と解析の対象が細胞の例を説明する。
【0112】
撮影吸引部32は、制御装置2が出力する撮影指示に応じて、例えば
図3に示すように、試料全体を撮影する。
【0113】
画像解析部33は、撮影された資料全体の画像に対してクラスタリング等の画像処理を行う。画像解析部33は、画像処理結果を制御装置2に出力する。
【0114】
吸引細胞選択部23は、画像処理結果に基づいて、DB5が格納する情報を参照して、薬剤の効果が現れている状態の細胞の領域があるか、薬剤の効果が現れていない状態の細胞の領域があるか判別する。吸引細胞選択部23は、例えば細胞の形状や状態に基づいて、薬剤にとって細胞の分化が止まっている領域を、薬剤の効果が現れている状態の細胞の領域と判別するようにしてもよい。また、吸引細胞選択部23は、例えば細胞の形状や状態に基づいて、薬剤にとって細胞の分化が止まっていない領域を、薬剤の効果が現れていない状態の細胞の領域と判別するようにしてもよい。
【0115】
吸引細胞選択部23は、薬剤の効果が現れている状態の細胞の領域がないと判別された場合、薬剤の効果が得られていないと判別する。または、吸引細胞選択部23は、薬剤の効果が現れている状態の細胞の領域の面積が、試料全体の面積に占める値に対して、しきい値未満の場合、薬剤の効果が得られていないと判別する。あるいは、吸引細胞選択部23は、薬剤の効果が現れている状態の細胞の領域の面積が、試料全体の面積に占める値に対して、しきい値以上の場合、薬剤の効果が得られていると判別する。
【0116】
吸引細胞選択部23は、薬剤の効果が現れている状態の細胞の領域の面積が、試料全体の面積に占める値に対して、しきい値以上の場合に、薬剤の効果が現れていない状態の細胞の領域に含まれる細胞の核の中心位置を制御部27に出力する。なお、吸引細胞選択部23は、薬剤の効果が現れていない状態の細胞の領域が複数の場合、複数の領域について、薬剤の効果が現れていない状態の細胞の領域に含まれる細胞の核の中心位置を制御部27に出力する。なお、薬剤の効果が現れている状態の細胞の領域に存在する細胞が、第1状態の細胞(メジャープロポーションの細胞)である。また、薬剤の効果が現れていない状態の細胞の領域に存在する細胞が、第2状態の細胞(マイナープロポーションの細胞)である。
【0117】
撮影吸引装置3は、制御装置2からの撮影指示に応じて、
図4に示すように、特異領域について、試料全体を撮影した際の倍率より高い倍率で撮影する。なお、撮影吸引装置3は、制御装置2からの撮影指示に応じて、
図3の符号g112の領域の撮影も行う。
【0118】
画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理を行う。画像解析部33は、この画像処理によって、細胞の位置(核の中心座標(x1,y1))、xy平面における長辺と短辺の長さを得る。また、画像解析部33は、上述した特開2019-41691号公報に記載のように、撮影吸引装置3の撮影部3211が有する対物レンズをz方向に移動させて撮影することで、核の高さを取得する。画像解析部33は、
図3の符号g112の領域についても同様の処理を行う。画像解析部33は、薬剤の効果が現れていない状態の細胞の領域に含まれる細胞の情報(核の中心座標、xy平面における長辺と短辺の長さ、z方向の高さ)を含む画像解析結果を制御装置2に出力する。
【0119】
吸引細胞選択部23は、画像解析部33が出力する画像解析結果に基づいて、DB5が格納する情報を参照して、吸引する細胞を選択する。吸引細胞選択部23は、例えば
図3のように特異領域が2つの場合、いずれか1つの領域から細胞を吸入するように選択してもよく、両方の領域から吸引するように選択してもよい。このように、吸引細胞選択部23は、吸引する細胞を少なくとも1つ選択する。また、吸引細胞選択部23は、特異領域が複数の場合、例えば核の形状、核の大きさ(面積)、核の位置、細胞の細胞周期状態等に基づいて、複数の特異領域から吸引する細胞を選択するようにしてもよい。
【0120】
[創薬スクリーニング処理手順]
次に、創薬スクリーニング処理手順例を、
図12~
図14を用いて説明する。
図12は、本実施形態に係る創薬スクリーニング処理の概略フローチャートである。
図13と
図14は、本実施形態に係る創薬スクリーニング処理のフローチャートである。なお、スクリーニングに際して、作業者は、吸引目的に応じた吸引チップ324をチップラック325に載置する。例えば、細胞成分の吸引を行なう場合には、ナノスプレーチップを載置し、1個の細胞の吸引を行なう場合には、通常の吸引チップを載置する。なお、細胞の大きさが不明な場合は、予め複数のサイズの吸引チップ324をチップラック325に載置するようにしてもよい。そして、画像処理された結果に基づいて、制御装置2の制御に応じて、撮影吸引装置3が吸引チップ324を選択するようにしてもよい。また、評価対象の細胞サンプルは、例えばがん細胞である。
【0121】
(ステップS101~S105)創薬スクリーニングシステム1は、
図11のステップS101~S105の処理を行う。
(ステップS200)創薬スクリーニングシステム1は、スクリーニング処理(
図12、
図13のステップS201~S217)を行う。
【0122】
(ステップS201)吸引細胞選択部23は、細胞の状態に基づいて薬効判定を行う。吸引細胞選択部23は、薬効判定の結果、効果ありと判定された場合(ステップS201;効果あり)、ステップS203の処理に進める。吸引細胞選択部23は、薬効判定の結果、効果なしと判定された場合(ステップS201;効果なし)、ステップS202の処理に進める。
【0123】
(ステップS202)制御部27は、問題ありと判定された化合物を除外することを示す情報を表示部22上に表示させる。続けて、制御部27は、処理をステップS101に戻す。
【0124】
(ステップS203)吸引細胞選択部23は、試料全体の画像に対する画像処理結果に基づいて、DB5が格納する情報を参照して、試料に薬剤の効果が現れている状態の細胞または組織が含まれているか否か、薬剤の効果が現れていない状態の細胞または組織が含まれているか否か、を判別する。続けて、吸引細胞選択部23は、全ての細胞が同様の形態を示すと判別した場合、ステップS210(
図14)の処理に進める。吸引細胞選択部23は、薬剤の効果が現れていない状態の細胞または組織が含まれているが存在すると判別した場合、すなわち一部形態が異なる細胞が存在していると判別した場合、ステップS204の処理に進める。
【0125】
(ステップS204)撮影吸引部32は、制御装置2からの撮影指示に応じて、特異領域の画像を撮影する。
【0126】
(ステップS205)画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理を行い、画像解析結果を制御装置2に出力する。
【0127】
(ステップS206)吸引細胞選択部23は、画像処理結果に基づいて、DB5が格納する情報に基づいて、吸引する細胞または組織を決定する。続けて、制御部27は、吸引細胞選択部23によって決定された吸引する細胞または組織に基づいて吸引指示を生成し、生成した吸引指示を撮影吸引装置3に出力する。
【0128】
(ステップS207)撮影吸引部32は、制御装置2からの吸引指示に応じて、所望の細胞または組織を吸引する。
【0129】
(ステップS208)解析装置4は、吸引された細胞または組織に対して、解析(例えば遺伝子解析)を行う。解析装置4は、解析した解析結果を制御装置2に出力する。
【0130】
(ステップS209)推定部26は、解析装置4が出力する解析結果と、DB5が格納する情報を参照して、添加された化合物の構造修飾した場合に動態や毒性を改善できるか否かを判別する。推定部26は、構造修飾によって動態や毒性を改善できると判別した場合(ステップS209;改善可能)、ステップS210の処理に進める。推定部26は、構造修飾によって動態や毒性を改善できないと判別した場合(ステップS209;改善不可)、ステップS202(
図13)の処理に進める。
【0131】
(ステップS210)作業者は、ステップS101で使用した化合物に対して構造修飾を行う。続けて、作業者は、構造修飾を行った化合物を、ステップS101で作製した細胞サンプルに添加する。次に、作業者は、試料を細胞培養ウェルプレート5に入れる。なお、作業者は、必要に応じて例えば蛍光染色を行なう。次に、作業者は、撮影吸引装置3のXYステージ3213上からステップS101~S105、S201~S209で使用した細胞培養ウェルプレート5を取り外す。次に、作業者は、構造修飾した化合物を添加した細胞サンプルの試料を乗せた細胞培養ウェルプレート5を、撮影吸引装置3のXYステージ3213上にセットする。撮影吸引装置3は、細胞培養ウェルプレート5が撮影吸引装置3のXYステージ3213上にセットされたことを検知する。
【0132】
(ステップS211)解析装置4は、試料に含まれる細胞に対して、例えば遺伝子解析を行うことで動態確認を行う。なお、動態確認の際、制御装置2は、撮影吸引装置3を制御して、試料から細胞または組織を吸引する。
【0133】
(ステップS212)推定部26は、解析装置4が行った動態確認の結果に基づいて、動態に問題があるか否かを判別する。推定部26は、動態に問題がないと判別した場合(ステップS212;問題なし)、ステップS213の処理に進める。推定部26は、動態に問題がありと判別した場合(ステップS212;問題あり)、ステップS202(
図13)の処理に進める。
【0134】
(ステップS213)解析装置4は、添加した化合物の物性評価を行う。
【0135】
(ステップS214)推定部26は、解析装置4が行った物性評価の結果に基づいて、物性に問題があるか否かを判別する。推定部26は、物性に問題がないと判別した場合(ステップS214;問題なし)、ステップS215の処理に進める。推定部26は、物性に問題がありと判別した場合(ステップS214;問題あり)、ステップS202(
図13)の処理に進める。
【0136】
(ステップS215)解析装置4は、毒性評価を行う。
【0137】
(ステップS216)推定部26は、解析装置4が行った物性判定の結果に基づいて、毒性に問題があるか否かを判別する。推定部26は、毒性に問題がないと判別した場合(ステップS216;問題なし)、ステップS217の処理に進める。推定部26は、毒性に問題がありと判別した場合(ステップS216;問題あり)、ステップS202(
図13)の処理に進める。
【0138】
(ステップS217)制御部27は、スクリーニング処理において問題が無かったことを示す情報を表示部22上に表示させる。これを受けて、薬剤(化合物)用いてヒトに対する臨床試験を行う。処理後、創薬スクリーニング処理を終了する。
【0139】
なお、ステップS209の一例として、遺伝子解析による毒性評価により、毒性が毒性を抑制する薬剤との併用などの方法により緩和できる場合は、ステップS210の構造修飾に移る。例えば、炎症を誘発する効果がある場合は、抗炎症作用のある薬を併用する。そして、毒性を緩和する方法がない場合は、候補薬剤から外すようにしてもよい。
【0140】
[吸引する細胞の選択方法]
次に、特異領域が複数の場合における吸引する細胞の選択方法例を説明する。
図15は、本実施形態に係る吸引する細胞の選択処理のフローチャートである。
【0141】
(ステップS301)吸引細胞選択部23は、各特異領域の細胞の形態情報をリスト化してDB5に記憶させる。
【0142】
(ステップS302)吸引細胞選択部23は、形態情報の複数の項目の中から少なくとも1つを選択する。
【0143】
(ステップS303)吸引細胞選択部23は、選択した項目について形態情報のリストをソートする。
【0144】
(ステップS304)吸引細胞選択部23は、ソートした結果に基づいて、所定個数の細胞を選択する。
【0145】
図16は、本実施形態に係る形態情報の例を示す図である。形態情報は、例えば、細胞質の面積、核の面積、細胞質の真円度、細胞質の尖度等である。
図16に示すように、DB5は、番号に、形態情報を関連付けて格納する。なお、
図16に示した例は一例であり、形態情報は、これに限らない。
【0146】
また、吸引細胞選択部23は、以下のIからIIIのいずれかのように吸引する細胞や組織を選択してもよい。
I.吸引する細胞のパラメータが1つ決まっている場合
吸引細胞選択部23は、項目(パラメータ)のうち、例えば核面積を選択する。そして、吸引細胞選択部23は、核面積で形態情報のリストをソートし、例えば上位10個の細胞を選択する。
【0147】
II.吸引する細胞のパラメータが2つ決まっている場合
吸引細胞選択部23は、項目(パラメータ)のうち、例えば細胞質真円度と核面積を選択する。そして、吸引細胞選択部23は、細胞質真円度が0.8以下の細胞を選択し、選択した細胞を核面積で形態情報のリストをソートし、例えば上位10個の細胞を選択する。
【0148】
III.吸引する細胞のパラメータが不明の場合
吸引細胞選択部23は、項目(パラメータ)のうち、例えば核面積を選択する。そして、吸引細胞選択部23は、核面積で形態情報のリストをソートし、例えば1位、10位、20位、…の細胞を選択する。これにより、細胞の選択にランダム性を持たせる。なお、吸引細胞選択部23は、細胞をランダムに10個選択するようにしてもよい。
このようにランダムに細胞または組織を吸引して解析することで、既知のパラメータによらず、想定外の反応を検出することができる可能性がある。
【0149】
[解析対象、解析方法]
ここで、解析装置4が行う解析の対象例と解析方法例を説明する。まず、解析の対象例を説明する。
解析装置4は、例えば取得した細胞が保有していた、または生産した化合物に対して解析を行う。解析装置4は、例えば取得した周囲の細胞が生産した化合物に対して解析を行う。解析装置4は、例えば取得した細胞の培養上清に添加した化合物に対して解析を行う。解析装置4は、例えば取得した細胞の個体に投与した、または個体が摂取した化合物に対して解析を行う。
【0150】
また、解析対象は、化合物に含まれている有機化合物または無機化合物である。また、解析対象は、有機化合物に含まれているタンパク質(含む抗体、サイトカイン、酵素等)、ペプチド、アミノ酸、脂質、糖質、DNA、RNA(含むmRNA、ncRNA、rRNA、tRNA等)、スクリーニングの対象となる候補化合物等である。なお、ncRNAにはlncRNA、siRNA、miRNA、piRNA等が含まれる。また、解析対象は、無機化合物に含まれている塩、金属イオン等である。
【0151】
次に、解析方法例を説明する。なお、制御部27は、解析の種類に応じて、解析装置4-1、解析装置4-2、…から解析に適した装置を選択する。
解析装置4は、例えば、質量分析、NMR(Nuclear Magnetic Resonance;核磁気共鳴)、液体クロマトグラフィー、ラマン分光法、赤外分光法、電気泳動法、元素分析のうちの少なくとも1つの解析を行う。なお、質量分析には、イオン化法がある。なお、イオン化法には、EI(electron ionization:電子イオン化)法、CI(chemical ionization:化学イオン化)法、FAB(fast atom bombardment:高速原子衝撃)法、ESI(electrospray ionization:エレクトロスプレーイオン化)法、MALDI(matrix-assisted laser desorption ionization:マトリックス支援レーザー脱離イオン化)法等がある。また、質量分析では、質量分析計(MS)を2台直列で結合し、その間に衝突活性化室を持つ装置を用いて分析するようにしてもよい。
【0152】
また、解析装置4は、DNA、RNAの解析において、例えば、NGS(次世代シーケンサー)、qPCR(定量ポリメラーゼ連鎖反応)、マイクロアレイ、デジタルPCR、シーケンサー等の手法を用いる。なお、RNAの解析では、逆転写の工程があってもよい。また、質量分析の導入法は、直接導入または液体クロマトグラフィーを繋ぐ手法を用いてもよい。
【0153】
ここで、従来技術では、複数の評価や確認の処理が順に行われるため、例えば毒性試験で問題が発見された場合に、工数と費用の損失が大きかった。また、従来技術では、複数の細胞の平均で評価(例えば細胞をすりつぶして評価)していたため、薬剤に対して一部の効果の無い細胞が、患者の予後に大きな影響を与える可能性が残っていた。
【0154】
これに対して、本実施形態では、創薬スクリーニング過程の途中、薬効判定を行った後に、特異な細胞(第2状態の細胞、マイナーポピュレーションの細胞)を吸引して解析するようにした。
【0155】
これにより、本実施形態によれば、創薬スクリーニング過程の途中で細胞を吸引して例えば遺伝子解析を行うことで、例えば毒性が毒性を抑制する薬剤との併用などの構造修飾により緩和できるか否かを判別することができる。本実施形態では、このように効果があった薬剤に対して、構造修飾や動態確認や物性評価や毒性評価を行う前に、吸引した細胞によって構造修飾によって改善できないことを推定することができる。そして、本実施形態では、このように構造修飾によって改善できないと推定された場合に、その薬剤(化合物)を除外し、以降の創薬スクリーニング過程をその化合物で行わないようにした。これにより、本実施形態によれば、創薬スクリーニング期間の低減することができる。また、本実施形態によれば、創薬スクリーニング過程の途中で、個別の細胞を吸引して解析することができるので、複数の細胞サンプルが混合された状態であっても、創薬スクリーニングを行うことができる。また、本実施形態によれば、創薬スクリーニング過程の途中で、個別の細胞を吸引して解析することができるので、細胞や組織の希少な反応を見逃さずに、早期に動態や毒性の問題を発見することができる。また、本実施形態によれば、従来の創薬スクリーニング過程の途中で、個別の細胞を吸引して解析するため、従来の創薬スクリーニング過程を大幅に変更せずに対応することができる。また、本実施形態によれば、第2状態の細胞(マイナープロポーションの細胞)に対して画像処理や吸引や解析等の処理と並行して、例えば構造修飾の処理等を進めることができるので、創薬スクリーニング期間の低減することができる。
【0156】
なお、上述した例では、
図14のステップS208の分子解析で遺伝子解析を行う例を説明したが、これに限らない。分子解析は、例えば質量解析、ウェスタンブロッティング(Western Blotting)等の解析手法であってもよい。
【0157】
また、
図14のステップS207で細胞を取得した後、検体を解析するだけではなく、1細胞から培養を行って、細胞増殖後に再度試験を行うようにしてもよい。
【0158】
また、化合物(薬剤)を添加する対象として細胞の例を説明したが、化合物を添加する対象は、スフェロイド(spheroid;細胞凝集塊)、組織、微生物、植物等であってもよい。
【0159】
また、本実施形態の手法は、薬効を評価するスクリーニング以外にも、幹細胞の培養や分化誘導を行った際に、第2状態の細胞(マイナーポピュレーションの細胞)の除去や想定した分化誘導が生じない原因の究明や寝室の確認にも利用することができる。
【0160】
また、スクリーニングの評価対象は化合物(薬剤)に限らず、光などの刺激であってもよい。
【0161】
また、
図14のステップS207で吸引する対象は、特異な(マイナーな)細胞や組織に限らず、ポジティブコントロールとして、メジャーな細胞(第1状態の細胞)も吸引して解析するようにしてもよい。
【0162】
<変形例>
以下に、実施形態の変形例を説明する。以下の変形例では、形態(画像)情報と遺伝子情報の複合解析を行う例を説明する。
図17は、本実施形態に係る変形例における処理のフローチャートである。なお、以下の処理は、例えば
図14のステップS208の分子解析の処理において行われる。
【0163】
(ステップS401)画像解析部33は、試料を撮影した画像に対して画像解析を行う。
【0164】
(ステップS402)吸引細胞選択部23は、画像解析結果に基づいて、第1の細胞(第1状態の細胞、メジャープロポーションの細胞)を選択する。続いて、撮影吸引装置3は、制御装置2からの吸引指示に応じて、第1の細胞を吸引する。
【0165】
(ステップS403)吸引細胞選択部23は、画像解析結果に基づいて、第2の細胞(第2状態の細胞、マイナープロポーションの細胞)を選択する。続いて、撮影吸引装置3は、制御装置2からの吸引指示に応じて、第2の細胞を吸引する。
【0166】
(ステップS404)解析装置4は、第1の細胞と第2の細胞それぞれに対して遺伝子解析を行う。
【0167】
(ステップS405)推定部26は、遺伝子解析した結果を比較する。
【0168】
(ステップS406)推定部26は、解析結果を表示部22上に表示させる。
【0169】
<第3実施形態>
上述した実施形態では、DB5に格納されている情報に基づいて、推定する例を説明したが、これに限らない。創薬スクリーニングシステム1は、DB5に格納されている情報に基づく推定に加えて、以下のような情報を用いて処理するようにしてもよい。
【0170】
[創薬スクリーニングシステム1の構成例]
図1は、本実施形態に係る創薬スクリーニングシステム1の構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、創薬スクリーニングシステム1は、制御装置2、撮影吸引装置3(撮影部、吸引部)、解析装置4-1、解析装置4-2、…、およびDB5を備える。以下の説明において、解析装置4-1、解析装置4-2、…のうちの1つを特定しない場合、解析装置4という。なお、創薬スクリーニングシステム1は、少なくとも1つの解析装置4を備えている。
【0171】
制御装置2は、操作部21、表示部22、吸引細胞選択部23(判別部)、DB作成部24、特徴量抽出部25、推定部26、および制御部27を備えている。
撮影吸引装置3は、制御部31、撮影吸引部32、および画像解析部33を備えている。
なお、制御装置2と撮影吸引装置3とは、有線回線または無線回線で接続されている。また、制御装置2と解析装置4とは、有線回線または無線回線で接続されている。
【0172】
本実施形態では、DB5は、第1実施形態のデータベースに加え、細胞または細胞の種類毎に、例えば、形状、大きさ、色素によって染色された際の薬剤の効果が現れている状態の細胞の色、色素によって染色された際の薬剤の効果が現れていない状態の細胞の色等、細胞又は組織の画像の特徴を格納する。
【0173】
[創薬スクリーニング処理手順]
次に、創薬スクリーニング処理手順例を、
図18と
図19を用いて説明する。
図18と
図19は、本実施形態に係る創薬スクリーニング処理のフローチャートである。なお、スクリーニングに際して、作業者は、吸引目的に応じた吸引チップ324をチップラック325に載置する。例えば、細胞成分の吸引を行なう場合には、ナノスプレーチップを載置し、1個の細胞の吸引を行なう場合には、通常の吸引チップを載置する。なお、細胞の大きさが不明な場合は、予め複数のサイズの吸引チップ324をチップラック325に載置するようにしてもよい。そして、画像処理された結果に基づいて、制御装置2の制御に応じて、撮影吸引装置3が吸引チップ324を選択するようにしてもよい。
【0174】
(ステップS501)作業者は、細胞サンプル(例えばがん細胞)を作製する。次に、作業者は、作製した細胞サンプルに候補化合物を添加した試料を作製する。次に、作業者は、試料を細胞培養ウェルプレート5に入れる。なお、作業者は、必要に応じて例えば蛍光染色を行なう。次に、作業者は、細胞培養ウェルプレート5を撮影吸引部32のXYステージ3213上にセットする。制御部27は、細胞培養ウェルプレート5がXYステージ3213上にセットされたことを検知する。なお、制御部27は、作業者が制御装置2の操作部21を操作した結果に基づいて検知してもよく、撮影部3211が撮影した画像によって検知してもよく、撮影吸引部32が有するセンサによって検知してもよい。
【0175】
(ステップS502)撮影吸引部32は、制御装置2からの撮影指示に応じて、試料全体の撮影を行う。続けて、画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理によって形状等を解析する。続けて、画像解析部33は、画像処理結果を制御装置2に出力する。続けて、吸引細胞選択部23は、画像解析部33が出力する画像解析結果に基づいて、DB5が格納する情報を参照して、形態評価を行う。
【0176】
(ステップS503)吸引細胞選択部23は、形態評価を行った結果に基づいて薬効判定を行う。吸引細胞選択部23は、薬効判定の結果、効果ありと判定された場合(ステップS503;効果あり)、ステップS505の処理に進める。吸引細胞選択部23は、薬効判定の結果、効果なしと判定された場合(ステップS503;効果なし)、ステップS504の処理に進める。
【0177】
(ステップS504)制御部27は、問題ありと判定された化合物を除外することを示す情報を表示部22上に表示させる。続けて、制御部27は、処理をステップS501に戻す。
【0178】
(ステップS505)吸引細胞選択部23は、試料全体の画像に対する画像処理結果に基づいて、DB5が格納する情報を参照して、試料に薬剤の効果が現れている状態の細胞または組織が含まれているか否か、薬剤の効果が現れていない状態の細胞または組織が含まれているか否か、を判別する。続けて、吸引細胞選択部23は、全ての細胞が同様の形態を示すと判別した場合、ステップS512(
図19)の処理に進める。吸引細胞選択部23は、薬剤の効果が現れていない状態の細胞または組織が含まれているが存在すると判別した場合、すなわち一部形態が異なる細胞が存在していると判別した場合、ステップS506の処理に進める。
【0179】
(ステップS506)撮影吸引部32は、制御装置2からの撮影指示に応じて、特異領域の画像を撮影する。
【0180】
(ステップS507)画像解析部33は、撮影された画像に対して画像処理を行い、画像解析結果を制御装置2に出力する。
【0181】
(ステップS508)吸引細胞選択部23は、画像処理結果に基づいて、DB5が格納する情報に基づいて、吸引する細胞または組織を決定する。続けて、制御部27は、吸引細胞選択部23によって決定された吸引する細胞または組織に基づいて吸引指示を生成し、生成した吸引指示を撮影吸引装置3に出力する。
【0182】
(ステップS509)撮影吸引部32は、制御装置2からの吸引指示に応じて、所望の細胞または組織を吸引する。
【0183】
(ステップS510)解析装置4は、吸引された細胞または組織に対して、解析(例えば遺伝子解析)を行う。解析装置4は、解析した解析結果を制御装置2に出力する。
【0184】
(ステップS511)推定部26は、解析装置4が出力する解析結果と、DB5が格納する情報を参照して、添加された化合物の構造修飾した場合に動態や毒性を改善できるか否かを判別する。推定部26は、構造修飾によって動態や毒性を改善できると判別した場合(ステップS511;改善可能)、ステップS512(
図19)の処理に進める。推定部26は、構造修飾によって動態や毒性を改善できないと判別した場合(ステップS511;改善不可)、ステップS504の処理に進める。
【0185】
(ステップS512)作業者は、ステップS501で使用した化合物に対して構造修飾を行う。続けて、作業者は、構造修飾を行った化合物を、ステップS501で作製した細胞サンプルに添加する。次に、作業者は、試料を細胞培養ウェルプレート5に入れる。なお、作業者は、必要に応じて例えば蛍光染色を行なう。次に、作業者は、撮影吸引装置3のXYステージ3213上からステップS501~S511で使用した細胞培養ウェルプレート5を取り外す。次に、作業者は、構造修飾した化合物を添加した細胞サンプルの試料を乗せた細胞培養ウェルプレート5を、撮影吸引装置3のXYステージ3213上にセットする。撮影吸引装置3は、細胞培養ウェルプレート5が撮影吸引装置3のXYステージ3213上にセットされたことを検知する。
【0186】
(ステップS513)解析装置4は、試料に含まれる細胞に対して、例えば遺伝子解析を行うことで動態確認を行う。なお、動態確認の際、制御装置2は、撮影吸引装置3を制御して、試料から細胞または組織を吸引する。
【0187】
(ステップS514)推定部26は、解析装置4が行った動態確認の結果に基づいて、動態に問題があるか否かを判別する。推定部26は、動態に問題がないと判別した場合(ステップS514;問題なし)、ステップS515の処理に進める。推定部26は、動態に問題がありと判別した場合(ステップS515;問題あり)、ステップS504(
図18)の処理に進める。
【0188】
(ステップS515)解析装置4は、添加した化合物の物性評価を行う。
【0189】
(ステップS516)推定部26は、解析装置4が行った物性評価の結果に基づいて、物性に問題があるか否かを判別する。推定部26は、物性に問題がないと判別した場合(ステップS516;問題なし)、ステップS517の処理に進める。推定部26は、物性に問題がありと判別した場合(ステップS516;問題あり)、ステップS504(
図18)の処理に進める。
【0190】
(ステップS517)解析装置4は、毒性評価を行う。
【0191】
(ステップS518)推定部26は、解析装置4が行った物性判定の結果に基づいて、毒性に問題があるか否かを判別する。推定部26は、毒性に問題がないと判別した場合(ステップS518;問題なし)、ステップS519の処理に進める。推定部26は、毒性に問題がありと判別した場合(ステップS216;問題あり)、ステップS504(
図18)の処理に進める。
【0192】
(ステップS519)制御部17は、スクリーニング処理において問題が無かったことを示す情報を表示部22上に表示させる。これを受けて、薬剤(化合物)用いてヒトに対する臨床試験を行う。処理後、創薬スクリーニング処理を終了する。
【0193】
[第1実施例]
本実施例では、形態情報(細胞周期)と遺伝子情報(網羅的解析)を用いる例を説明する。本実施例では、具体例としてがん細胞の細胞周期止めて異常増殖を抑制する薬剤を用いた場合について説明する。
【0194】
まず、試料に対して細胞周期を確認するための蛍光色素を用いて染色を行う。その後、吸引細胞選択部23は、蛍光情報からG1周期の細胞であるかG1期以外の細胞であるかを判別する。
次に、吸引細胞選択部23は、コントロールサンプルとしてG1期の細胞(第1状態の細胞)を1細胞吸引するように制御する。なお、撮影吸引装置3は、G1期の細胞を特異領域から吸引する。
また、吸引細胞選択部23は、ターゲットサンプルとしてG1期以外の細胞(第2状態の細胞)を1細胞吸引するように制御する。解析装置4は、吸引された細胞についてDNAとRNAの同時抽出を行いそれぞれの遺伝子量を定量する。
さらに、解析装置4は、コントロールサンプルとターゲットサンプルの遺伝子発現の違いや、DNA配列の違いを確認する。
これにより、本実施例によれば、一部の細胞で薬効が得られなかった原因を推定できる。また、本実施例によれば、細胞周期の違いによる薬剤への応答の違いを確認できる。
【0195】
細胞サンプルを作製する際、同一ウェル内に複数種類の細胞(リソースの異なる細胞など)を播種することで試験の効率化を図ることができる。従来のスクリーニング法では、同一ウェル内に複数細胞を播種すると、細胞種の分離が困難となるため細胞種毎に別のウェルで試験する必要があった。
これに対して、本実施例では、1個の細胞の分離が可能でありかつ細胞のDNAを分析することで細胞の由来も確認することができるため混合サンプルでの解析が可能となる。
【0196】
また、例えば肺がんを治療する薬のスクリーニングを行う場合は、例えば肺がん細胞に薬剤を添加して試験を行う。この場合は、1ウェルに播種する細胞は1種類のみ、すなわち1ウェルで試験できるのはA国、B歳、Cの病歴とDの投薬履歴を持つ男女どちらかという限定された条件のサンプルのみとなる。何十万の化合物のスクリーニングを行う際に、数百種類の細胞で薬効評価を行うのは効率的ではない。しかし偏ったサンプルで評価を行えば、薬効や毒性の見落としが生じる。
これに対して、本実施例によれば、複数サンプルの最小スケールでの薬効評価を実現することができる。
【0197】
[第2実施例]
第2実施例では、形態情報(細胞の位置情報)と遺伝子情報(網羅的解析)を用いる例を説明する。本実施例では、具体例としてがん細胞を排除する正常細胞の排除機構を確認する場合を説明する。
【0198】
まず、吸引細胞選択部23は、画像処理された結果に基づいて、個々の細胞の位置情報を取得して、がん細胞と接しているか否か判別する。
次に、吸引細胞選択部23は、コントロールサンプルとしてがん細胞と接していない細胞を1細胞吸引するように吸引指示を撮影吸引装置3に出力する。
【0199】
撮影吸引装置3は、ターゲットサンプルとしてがん細胞と接している細胞を1細胞吸引する。
解析装置4は、吸引された細胞に対してRNA-seqを行い、遺伝子量の定量を行う。
解析装置4は、コントロールサンプルとターゲットサンプルの遺伝子発現の違いを確認する。
【0200】
これにより、本実施例によれば、がん細胞と接している正常細胞にて特異的に増減している遺伝子を確認することができ、正常細胞によるがん細胞の認識と排除の機構を推定することができる。また、本実施例によれば、特定の細胞種と接することで生じる遺伝子発現の変化を確認できる。
【0201】
なお、このようにがん細胞と接している細胞を採取する理由は、がんの進展に、がん細胞自体だけでなく、がん細胞の周りの正常細胞がつくる環境(微小環境)も影響を与えていると考えられているためである。
【0202】
細胞サンプルを作製する際、同一ウェル内に複数種の細胞(上皮細胞と間葉系の細胞など)を播種することでより生体内に近い環境で試験を行うことができる。従来のスクリーニング法では、同一ウェル内に複数細胞を播種すると、細胞種の分離が困難となるため基本的に単一の細胞種を用いて試験がおこなわれてきた。
これに対して本実施例では、1個の細胞の分離が可能でありかつ形態での細胞の判別やDNAを分析することで、由来の確認ができるため混合サンプルでの解析が可能となる。
【0203】
[第3実施例]
本実施例では、形態情報(細胞の移動距離)と遺伝子情報(網羅的解析)を用いる例を説明する。本実施例では、具体例としてコラーゲンゲル内を移動するがん細胞の発現遺伝子を確認する場合を説明する。
【0204】
制御部27は、タイムラプス撮影を行い個々の細胞の移動距離を記録するように撮影指示を撮影吸引装置3に出力する。
吸引細胞選択部23は、画像処理結果に基づいて、移動距離が第1しきい値以下の細胞と、移動距離が第2しきい値以上の細胞を選択する。なお、第2しきい値は、第1しきい値より大きい。
吸引細胞選択部23は、コントロールサンプルとして移動距離が第1しきい値以下の1細胞吸引するように吸引指示を撮影吸引装置3に出力する。
【0205】
また、撮影吸引装置3は、ターゲットサンプルとして移動距離が第2しきい値以上の細胞を1細胞吸引する。
解析装置4は、吸引された細胞についてRNA-seqを行い遺伝子量の定量を行う。
【0206】
これにより、本実施例によれば、移動性の高いがん細胞(悪性度の高い細胞)で特異的に増減している遺伝子を確認することができ、より悪性度の高い細胞に効果的な薬剤を推定することができる。また、本実施例によれば、細胞の移動と遺伝子発現の関係を確認できる。
なお、このように移動距離が大きいさ細胞を吸引する理由は、がん分野において移動度の大きな細胞は浸潤や転移などを起こしやすい悪性度の高い細胞であると考えられているためである。
【0207】
[第4実施例]
第4実施例では、形態情報(細胞集団の形態)と遺伝子情報(網羅的解析)を用いる場合例を説明する。本実施例では、具体例として未分化細胞培養時に未分化性を確認する場合を説明する。
【0208】
まず、画像解析部33は、未分化細胞が形成するコロニーの細胞密度と輪郭形状の滑らかさを画像解析により数値化して形態情報としてDB5に記憶させる。
吸引細胞選択部23は、画像解析結果に基づいて、細胞密度が高く輪郭形状の滑らかなコロニーの中心部に位置する細胞を選択する。また、吸引細胞選択部23は、細胞密度が低く輪郭形状が滑らかでないコロニーの輪郭部に位置する細胞を選択する。さらに、吸引細胞選択部23は、コロニーから外れ単独で生存する細胞を選択する。
【0209】
吸引細胞選択部23は、コントロールサンプルCとして細胞密度が高く輪郭形状の滑らかなコロニーの中心部に位置する細胞を1細胞吸引するように吸引指示を撮影吸引装置3に出力する。また、吸引細胞選択部23は、ターゲットサンプルAとして細胞密度が低く輪郭形状が滑らかでないコロニーの輪郭部に位置する細胞を1細胞吸引するように吸引指示を撮影吸引装置3に出力する。吸引細胞選択部23は、ターゲットサンプルBとしてコロニーから外れ単独で生存する細胞を1細胞吸引するように吸引指示を撮影吸引装置3に出力する。
【0210】
解析装置4は、吸引された細胞についてRT-qPCR(リアルタイムqPCR)を行い未分化マーカー遺伝子量の定量を行う。なおRNA-seq(シーケンス)を用いてもよい。
解析装置4は、サンプルA、B、Cの遺伝子発現の違いを確認する。
【0211】
これにより、本実施例によれば、A,B,Cを含むウェル全体が未分化性を維持しているか確認できる。また、本実施例によれば、遺伝子発現の違いによる細胞集団の形態の変化を確認できる。
【0212】
なお、未分化性の確認は画像情報により概略を推測が可能である。そして、正確に評価するには遺伝子解析が必要となる。このため、本実施例では、画像解析結果を基に任意のパラメータで細胞を分類し、分類の異なる細胞をそれぞれ1細胞吸引し網羅的な遺伝子解析をおこなうようにした。
【0213】
なお、本実施例において、形態情報と遺伝子情報に相関が確認されれば、形態情報のみから未分化性の確認を行えるようになる。
【0214】
なお、
図14のステップS208の分子解析で遺伝子解析を行う例を説明したが、遺伝子解析結果と形態情報に対して多変数解析を行うようにしてもよい。これにより、本実施形態によれば、形態と遺伝子発現の新たな相関を発見できる可能性もある。
【0215】
<付記>
(1)撮影部が、細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料において、前記細胞サンプルを複数個含むように撮影を行い、
判別部が、撮影された画像に対して画像処理を行い、画像処理した結果に基づいて、複数の前記細胞サンプルに、第1状態の細胞が存在するか否か、第2状態の細胞が存在するか否かを判別し、
前記撮影部が、第2状態の細胞が存在する場合に前記第2状態の細胞が存在する領域の撮影を行い、
吸引部が、前記第2状態の細胞を吸引し、
解析部が、吸引された前記第2状態の細胞の成分を解析し、
制御部が、解析された結果に基づいて、創薬スクリーニングの処理を進めるか否かを判定する、
創薬スクリーニング方法。
(2)前記第1状態の細胞は、前記試料において前記候補薬剤の効果が現れている細胞または組織であり、
前記第2状態の細胞は、前記試料において前記候補薬剤の効果が現れていない細胞または組織である、(1)に記載の創薬スクリーニング方法。
(3)前記判別部は、撮影した画像に基づいて複数の前記細胞に対して形態を解析し、形態を解析した結果に基づいて添加した前記候補薬剤の効果が現れているか否かを判定し、添加した前記候補薬剤の効果が現れている場合に、複数の前記細胞に、第1状態の細胞が存在するか否か、第2状態の細胞が存在するか否かを判別する、(1)または(2)に記載の創薬スクリーニング方法。
(4)前記解析部が解析する成分は、吸引された前記細胞が保有していた化合物、吸引された前記細胞が生産した化合物、吸引された周囲の前記細胞が生産した化合物、吸引された前記細胞の培養上清に添加した化合物、吸引された前記細胞の個体に投与した化合物、吸引された前記細胞が摂取した化合物のうち少なくとも1つである、(1)から(3)のいずれか1つに記載の創薬スクリーニング方法。
(5)前記撮影部は、染色が行われた前記試料に対して、前記細胞サンプルを複数個含むように撮影を行う、(1)から(4)のいずれか1項に記載の創薬スクリーニング方法。
(6)前記判別部は、前記細胞の細胞質の面積、前記細胞の核の面積、前記細胞の細胞質の真円度、および前記細胞の細胞質の尖度のうち少なくとも1つの形態を解析する、(3)に記載の創薬スクリーニング方法。
(7)前記吸引部は、前記第1状態の細胞も吸引し、前記解析部は、吸引された前記第2状態の細胞の成分を解析し、前記第1状態の細胞に対する解析結果と前記第2状態の細胞に対する解析結果とを比較する、(1)から(6)のいずれか1つに記載の創薬スクリーニング方法。
(8)撮影部と、吸引装置と、画像処理装置と、制御装置と、解析装置と、を備える創薬スクリーニングシステムであって、
前記制御装置は、前記撮影部の撮影を制御し、前記吸引装置の吸引動作を前記画像処理装置が画像処理した結果に基づいて制御し、前記解析装置によって解析された結果に基づいて、創薬スクリーニングの処理を進めるか否かを判定し、
前記撮影部は、前記制御装置の制御に応じて、細胞サンプルに候補薬剤が添加された試料において、前記細胞サンプルを複数個含むように撮影を行い、第1状態の細胞とは異なる第2状態の細胞が存在する場合に前記第2状態の細胞が存在する領域の撮影を行い、
前記画像処理装置は、撮影された画像に対して画像処理を行い、画像処理した結果に基づいて、複数の前記細胞サンプルに、前記第1状態の細胞が存在するか否か、前記第2状態の細胞が存在するか否かを判別し、
前記吸引装置は、第2状態の細胞が存在する場合に、前記制御装置の制御に応じて、前記第2状態の細胞を吸引し、
前記解析装置は、吸引された前記第2状態の細胞の成分を解析する、
創薬スクリーニングシステム。
【0216】
なお、本発明における制御装置2または撮影吸引装置3の機能の全てまたは一部を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより制御装置2または撮影吸引装置3が行う処理の全てまたは一部を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0217】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0218】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0219】
1…創薬スクリーニングシステム、
2…制御装置、
3…撮影吸引装置、
4-1,4-2,4…解析装置、
5…細胞培養ウェルプレート、
21…操作部、
22…表示部、
23…吸引細胞選択部、
24…DB作成部、
25…特徴量抽出部、
26…推定部、
27…制御部、
31…制御部、
32…撮影吸引部、
33…画像解析部、
321…画像細胞取得部、
322…吸引部、
323…XYZステージ、
324…吸引チップ、
325…チップラック、
326…検体ラック、
3211…撮影部、
3212…明視野照明、
3213…XYステージ