(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】積層シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20241106BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241106BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241106BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
B32B27/32 Z
B32B27/36
B32B27/18 B
(21)【出願番号】P 2020027225
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】大島 野乃花
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-355076(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188841(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/117237(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/096048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機質材料とを含有する原反層と、
前記原反層の第1の面に形成された表面層と、前記原反層の前記第1の面とは反対側の面である第2の面に形成された裏面層とを備え、
前記無機質材料の含有量は、前記原反層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、
前記表面層及び前記裏面層は、顔料とバインダーとを含む表面層形成用インキないし裏面層形成用インキを用いて形成され、
前記原反層は、単層であ
り、
前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリエステルのいずれか1種のみを含有することを特徴とする積層シート。
【請求項2】
前記無機質材料は、三酸化アンチモン、アンチモンソーダ、珪酸ジルコン、酸化ジルコン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、硼砂、ホウ酸亜鉛、三酸化モリブデンあるいはジモリブデン酸アンチモンと水酸化アルミニウムの錯体、三酸化アンチモンとシリカの錯体、三酸化アンチモンと亜鉛華の錯体、ジルコニウムのケイ酸、及びジルコニウム化合物と三酸化アンチモンの錯体、並びにそれらの塩の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項
1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル
のみを含有することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタラート
のみを含有することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の積層シート。
【請求項5】
前記原反層の厚みは、50μm以上250μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項6】
前記原反層の厚みは、150μm以上250μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項7】
熱可塑性樹脂と無機質材料とを含有する原反層と、
前記原反層の第1の面に形成された表面層と、前記原反層の前記第1の面とは反対側の面である第2の面に形成された裏面層とを備え、
前記無機質材料の含有量は、前記原反層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、
前記表面層及び前記裏面層は、顔料とバインダーとを含む表面層形成用インキないし裏面層形成用インキを用いて形成され、
前記原反層は、単層であ
り、
前記無機質材料は、三酸化アンチモン、アンチモンソーダ、珪酸ジルコン、酸化ジルコン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、硼砂、ホウ酸亜鉛、三酸化モリブデンあるいはジモリブデン酸アンチモンと水酸化アルミニウムの錯体、三酸化アンチモンとシリカの錯体、三酸化アンチモンと亜鉛華の錯体、ジルコニウムのケイ酸、及びジルコニウム化合物と三酸化アンチモンの錯体、並びにそれらの塩の少なくとも一種を含有することを特徴とする積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鮮明な印刷を実現し、大量印刷が可能であるパルプ紙や通気性が良好な微多孔性である熱可塑性樹脂シートにおいて、耐水性の低さが指摘されている。
これに対し、シートの表面に樹脂層を設けることにより、高い耐水性を備えつつインキとの密着性を良好にした印刷用シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、表面に樹脂層が設けられた印刷用シートは、印刷を行わない領域に印刷インキが付着することを防ぐために当該領域を湿らせる湿し水を吸収することができない。このため、表面に残った湿し水と油性のインキとが混合し乳化することにより印刷が不鮮明になるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、高い耐水性を保ちつつ、印刷性にも優れた積層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る積層シートは、熱可塑性樹脂と無機質材料とを含有する原反層と、前記原反層の第1の面に形成された表面層と、前記原反層の前記第1の面とは反対側の面である第2の面に形成された裏面層とを備え、前記無機質材料の含有量は、前記原反層の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、高い耐水性を保ちつつ、印刷性にも優れた積層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る積層シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る積層シートについて説明する。ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、及び構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
<第1実施形態>
[積層シートの構成]
本開示の第1実施形態に係る積層シートの基本構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、本開示の第1実施形態に係る積層シートの一構成例を説明するための断面図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層シート15は、最背面側から最表面側に向かって、裏面層5と、原反層1と、表面層2とを備えている。
以下、積層シート15を構成する各層について説明する。
【0011】
(原反層)
原反層1は、積層シート15の基材となる層(シート)であって、熱可塑性樹脂と、無機質材料とを含んだ層である。本実施形態の熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリエステルの少なくとも1種を含んでいれば好ましく、ポリプロピレンを含んでいればより好ましい。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリエステルの少なくとも1種を使用することで、無機質材料の分散性が向上する。また、熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンを使用することで、無機質材料の分散性がさらに向上する。
【0012】
本実施形態の無機質材料は、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含有した粉末である。炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉体は、粉体全体の質量に対して、50質量%以上100質量%以下の範囲内で含むものが好ましい。つまり、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉末の純度は、炭酸カルシウム等が50質量%以上100質量%以下の範囲内であることが好ましい。炭酸カルシウム等の含有量が50質量%以上含む炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉末であれば、原反層1に、十分な不燃性または十分な難燃性を付与することができると共に、十分な機械強度を付与することができる。
【0013】
なお、無機質材料としては、上記炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉末以外に、例えば、シリカ(特に中空シリカ)、アルミナ、三酸化アンチモン、アンチモンソーダ、珪酸ジルコン、酸化ジルコンなどのジルコニウム化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、硼砂、ホウ酸亜鉛、三酸化モリブデンあるいはジモリブデン酸アンチモンと水酸化アルミニウムの錯体など、三酸化アンチモンとシリカの錯体、三酸化アンチモンと亜鉛華の錯体、ジルコニウムのケイ酸、ジルコニウム化合物と三酸化アンチモンの錯体、並びにそれらの塩などの少なくとも一種が挙げられる。また、無機質材料は、例えば、石灰石の粉体、卵殻の焼結粉体、牡蠣や帆立等の貝殻の焼結粉体等であってもよい。上述した無機質材料のうち、特に、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩は製造手法による粒径のコントロールや熱可塑性樹脂との相溶性の制御が容易であり、また、材料コストとしても安価であるため
積層シートの低廉化の観点からも好適である。
【0014】
また、無機質材料は、結晶性を有する粉末材料、所謂結晶粉末であってもよいし、結晶性を有さない粉末材料、所謂アモルファスタイプの粉末材料であってもよい。無機質材料が結晶性を有する粉末材料であれば、粉末自体が均質で等方性を備えるため、粉末自体の機械強度が向上し、積層シートの耐傷性や耐久性が向上する傾向がある。また、無機質材料がアモルファスタイプの粉末材料であれば、粉末自体の電気伝導性や熱伝導性、あるいは光透過率や光吸収率を適宜調整することが可能となるため、触感や艶等のバリエーションが豊富な意匠性を付与することが可能となる。
【0015】
また、本実施形態の無機質材料は、粉末形状(粉体形状)であることが好ましく、その平均粒子径が1μm以上3μm以下の範囲内であり、且つ最大粒子径が50μm以下であることが好ましい。無機質材料の平均粒子径及び最大粒子径が上記数値範囲内であれば、熱可塑性樹脂に対する無機質材料の分散性を向上させつつ、原反層1表面の平坦性を維持することができる。無機質材料の平均粒子径が1μm未満であると、無機質材料同士の凝集力が高まり、後述する熱可塑性樹脂への分散性が低下することがある。また、無機質材料の平均粒子径が3μmを超えると、原反層1表面の平坦性が低下し、後述する第2実施形態の表面層2または裏面層5の厚みが不均一となったり、ムラや欠けが発生したりすることがある。また、無機質材料の最大粒子径が50μmを超えると、原反層1表面の平坦性が低下し、後述する表面層2または裏面層5の厚みが不均一となったり、ムラや欠けが発生したりすることがある。なお、本実施形態において、「平均粒子径」とは、モード径を意味する。
【0016】
本実施形態の無機質材料の含有量は、原反層1の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であればよく、20質量%以上80質量%以下の範囲内であればより好ましく、60質量%以上80質量%以下の範囲内であればさらに好ましい。無機質材料の含有量が原反層1の質量に対して、15質量%未満であると、相対的に熱可塑性樹脂の割合が多くなるため、不燃性または難燃性が得にくい傾向がある。また、原反層1の表面をホフマンスクラッチテスターを用いて引っ掻いた際に、視認できる程度の傷が付く、即ち十分な表面硬度が得られないことがある。一方、無機質材料の含有量が原反層1の質量に対して、90質量%を超えると、相対的に熱可塑性樹脂の割合が少なくなる。このため、原反層1表面にアンカー層塗工もしくは印刷等を行った際に原反層1表面に所謂「粉吹き」が発生することがある。ここで、「粉吹き」とは、原反層1に含まれた無機質材料が原反層1の表面に浮き出ることをいう。
【0017】
また、熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量は、原反層1の質量に対して、90質量%以上100質量%以下の範囲内であることが好ましい。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が上記数値範囲内であれば、十分な不燃性または十分な難燃性を得つつ、印刷適性やラミネート適性を向上させ、且つシートの折り曲げ部に発生する割れを低減することができる。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が原反層1の質量に対して、90質量%未満であると、十分な不燃性または十分な難燃性が得られないことがある。また、印刷適性やラミネート適性が低下したり、シートの折り曲げ部に割れが発生したりすることがある。
【0018】
なお、熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量は、原反層1の質量に対して、100質量%である場合には、熱可塑性樹脂の含有量を10質量%以上85質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を15質量%以上90質量%以下の範囲内とすることが好ましい。また、熱可塑性樹脂の含有量を20質量%以上80質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を20質量%以上80質量%以下の範囲内とすることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂の含有量を20質量%以上40質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を60質量%以上80質量%以下の範囲内とすることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が上記数値範囲内であれば、十分な不燃性または十分な難燃性を確実に得つつ、印刷適性やラミネート適性を確実に向上させ、且つシートの折り曲げ部に発生する割れを確実に低減することができる。
【0019】
また、原反層1の厚みは、50μm以上250μm以下の範囲内であることが好ましく、70μm以上200μm以下の範囲内であることがより好ましい。原反層1の厚みが上記数値範囲内であれば、ラミネート適性を向上させ、且つシートの折り曲げ部に発生する割れを低減することができる。原反層1の厚みが50μm未満であると、ラミネート適性が低下する傾向がある。また、原反層1の厚みが250μmを超えると、シートの折り曲げ部に割れが発生することがある。
また、原反層1は、1軸延伸または2軸延伸の原反層であることが好ましい。原反層1が1軸延伸または2軸延伸の原反層であれば、積層シート15の汎用性を高めることができる。
【0020】
(表面層)
表面層2は、原反層1の表面(第1の面)全体を覆うように形成された層であって、顔料と、バインダーとを含んだ層である。
本実施形態の顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも使用もしくは併用することができる。本実施形態の顔料は、例えば、カオリナイト、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、シリカ、ポリスチレン粒子、ポリメチルメタクリレート粒子等の単独もしくは各変性物の中から適宜選定すればよい。
また、顔料の平均粒子径としては0.01μm以上5μm以下のものであることが好ましい。
本発明の顔料は、平均粒子径1μm以上7μm以下の第1の顔料と平均粒子径0.02μm以上1μm未満の第2の顔料とを混合して使用することが好ましい。このとき、第1の顔料の含有量が、顔料全体の質量に対して、50質量%以上85質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本実施形態のバインダーは、水性塗布することができる水性バインダーであることが好ましい。水性バインダーとしては、スチレン・ブタジエンラテックス、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合体のようなアクリル系のラテックス等の水性分散樹脂、カゼイン、でんぷん、ポリメラクリル酸およびその塩、ポリビニルアルコール、カルボシメチルセルロース等の水溶性接着剤等の単独もしくは各変性物の中から適宜選定すればよい。
【0022】
水性分散樹脂のバインダー量は、顔料の質量に対してスチレン-ブタジエンラテックス等の水性分散樹脂の含有量が20質量部以上であればよく、25質量部以上であればより好ましく、30質量部以上であればさらに好ましい。水性分散樹脂のバインダー量が30質量部以上になると、表面層2と原反層1との接着が強固となり、本発明の印刷強度を高め、吸水度を好ましい範囲に調整することが容易になり、耐水性が大幅に改善される。
【0023】
また、水性分散樹脂の含有量が顔料の質量に対して20質量部を超えた場合、塗布した表面層及び裏面層形成用インキを乾燥する際にマイグレーションが発生し、シート表面に樹脂膜が形成されて、印刷性を劣化させる原因となるが、本発明の原反層1ではそのマイグレーションの発生が抑制される。
【0024】
本発明の表面層2は、顔料とバインダーを含有する表面層及び裏面層形成用インキを調製後、その表面層及び裏面層形成用インキを通常の塗工コーター、乾燥装置を使用して原反層1上に設けることができる。表面層及び裏面層形成用インキには、本発明の顔料とバインダー以外に、通常塗布液に使用される顔料分散剤、粘度調整剤、発泡防止剤等の添加剤を適宜使用することができる。
【0025】
表面層及び裏面層形成用インキの濃度は、固形分として一般に20質量%以上75質量%以下であり、所望の表面層2の厚み、粘度、コーターの種類等により適宜調整、選択することができる。この表面層2は乾燥後の塗布量として、0.5g/m2以上30g/m2以下、好ましくは1g/m2以上20g/m2以下、乾燥後の塗布膜厚として1μm以上20μm以下であることが好ましい。
本発明の表面層2を形成する前に、原反層1上にコロナ放電等の処理を行うことが好ましく、あるいは0.1μm以上0.5μm以下のラテックス等の水性バインダーによる下引き層を設けてもよい。
【0026】
本発明の表面層2を有する面の、JISP8140のクレム法に規定する吸水度は、40mm以上150mm以下の範囲内であることが好ましく、80mm以上120mm以下の範囲内であることがより好ましい。その吸水度は、表面層2を有する面が平均直径0.1μm以上3.0μm以下の孔を有し、孔の単位面積当たりの総面積が該単位面積の1.0%以上10.0%以下とすることによって達成される。
【0027】
本発明の孔の大きさの測定には、走査電子顕微鏡観察時に金蒸着を併用して、サブミクロンの大きさの孔の大きさを測定する技術を考案し、平均直径および孔の面積の総和を求めた。電子顕微鏡としては、キーエンス製超深度マルチアングル顕微鏡DVHX-5000およびその付属画像処理ソフトを使用した。
孔の平均直径、面積の総和は、主に表面層2で併用する顔料の種類および量によって調整することができるほか、乾燥条件、原反層1の樹脂の種類によっても調整することができる。
【0028】
(裏面層)
裏面層5は、原反層1の裏面(第2の面)全体を覆うように形成された層であって、顔料と、バインダーとを含んだ層である。
裏面層5の顔料としては、特に限定されるものではないが、例えば表面層2と同様の材料を用いることができる。また、顔料の平均粒子径としては0.01μm以上5μm以下のものであることが好ましい。
裏面層5の顔料は、平均粒子径1μm以上7μm以下の第1の顔料と平均粒子径0.02μm以上1μm未満の第2の顔料とを混合して使用することが好ましい。このとき、第1の顔料の含有量が、顔料全体の質量に対して、50質量%以上85質量%以下であることが好ましい。
【0029】
本実施形態のバインダーは、水性塗布することができる水性バインダーであることが好ましい。水性バインダーとしては、特に限定されるものではないが、例えば表面層2と同様の材料を用いることができる。
【0030】
水性分散樹脂のバインダー量は、顔料の質量に対してスチレン-ブタジエンラテックス等の水性分散樹脂の含有量が20質量部以上であればよく、25質量部以上であればより好ましく、30質量部以上であればさらに好ましい。水性分散樹脂のバインダー量が30質量部以上になると、裏面層5と原反層1との接着が強固となり、本発明の印刷強度を高め、吸水度を好ましい範囲に調整することが容易になり、耐水性が大幅に改善される。
【0031】
また、水性分散樹脂の含有量が顔料の質量に対して20質量部を超えた場合、塗布した表面層及び裏面層形成用インキを乾燥する際にマイグレーションが発生し、シート表面に樹脂膜が形成されて、印刷性を劣化させる原因となるが、本発明の原反層1ではそのマイグレーションの発生が抑制される。
【0032】
本発明の裏面層5は、顔料とバインダーを含有する表面層及び裏面層形成用インキを調製後、その表面層及び裏面層形成用インキを通常の塗工コーター、乾燥装置を使用して原反層1上に設けることができる。表面層及び裏面層形成用インキには、本発明の顔料とバインダー以外に、通常塗布液に使用される顔料分散剤、粘度調整剤、発泡防止剤等の添加剤を適宜使用することができる。
【0033】
表面層及び裏面層形成用インキの濃度は、固形分として一般に20質量%以上75質量%以下であり、所望の裏面層5の厚み、粘度、コーターの種類等により適宜調整、選択することができる。この裏面層5は乾燥後の塗布量として、0.5g/m2以上30g/m2以下、好ましくは1g/m2以上20g/m2以下、乾燥後の塗布膜厚として1μm以上20μm以下であることが好ましい。
本発明の裏面層5を形成する前に、原反層1上にコロナ放電等の処理を行うことが好ましく、あるいは0.1μm以上0.5μm以下のラテックス等の水性バインダーによる下引き層を設けてもよい。
【0034】
本発明の裏面層5を有する面の、JISP8140のクレム法に規定する吸水度は、40mm以上150mm以下の範囲内であることが好ましく、80mm以上120mm以下の範囲内であることがより好ましい。その吸水度は、裏面層5を有する面が平均直径0.1μm以上3.0μm以下の孔を有し、孔の単位面積当たりの総面積が該単位面積の1.0%以上10.0%以下とすることによって達成される。
【0035】
本発明の孔の大きさの測定には、走査電子顕微鏡観察時に金蒸着を併用して、サブミクロンの大きさの孔の大きさを測定する技術を考案し、平均直径および孔の面積の総和を求めた。電子顕微鏡としては、キーエンス製超深度マルチアングル顕微鏡DVHX-5000およびその付属画像処理ソフトを使用した。
孔の平均直径、面積の総和は、主に表面層2で併用する顔料の種類および量によって調整することができるほか、乾燥条件、原反層1の樹脂の種類によっても調整することができる。
【0036】
ここで、建築基準法施工令に規定の不燃材料の技術的基準においては、ISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験において下記の要件を満たしている必要がある(建築基準法施工令第108条の2第1号および第2号)。本実施形態の積層シート15が不燃材料として認定されるためには、50kW/m2の輻射熱による加熱にて20分間の加熱時間において下記の1~3の要求項目をすべて満たす必要がある。
1.総発熱量が8MJ/m2以下
2.最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない
3.防炎上有害な裏面まで貫通する亀裂および穴が生じない
【0037】
そして、前述の原反層1を具備する本実施形態の積層シート15は、ISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験において、前述の施工令第108条の2第1号および第2号に記載の要件をともに満たす不燃材料を実現している。
【0038】
[積層シートの製造方法]
積層シート15の製造方法の一例について、簡単に説明する。
まず、原反層1の一方の面である表面に、表面層2を形成するための表面層及び裏面層形成用インキを塗工して、表面層2を形成する。
次に、原反層1の他方の面である裏面に、裏面層5を形成するための表面層及び裏面層形成用インキを塗工して、裏面層5を形成する。
なお、裏面層5は、表面層2と同時に形成してもよい。
こうして、本実施形態に係る積層シート15を製造する。
【0039】
<第1実施形態の効果>
本実施形態に係る積層シート15は、以下の効果を有する。
(1)本実施形態の積層シート15は、原反層1が熱可塑性樹脂と無機質材料とを含有し、表面層2及び裏面層5が顔料と、バインダーとを含有している。
この構成によれば、より高い耐水性を実現することができる。
【0040】
(2)本実施形態の積層シート15は、表面層及び裏面層を有する面のJISP8141クレム法による吸水度が、40mm以上150mm以下である。
この構成によれば、より高い印刷性を実現することができる。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
まず、無機質材料と、熱可塑性樹脂とで構成される原反層を形成した。無機質材料として、平均粒子径が10μm且つ最大粒子径が50μmである酸化チタンを使用し、酸化チタンの含有量が原反層の質量に対して90質量%となるようにした。また、熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタラートを使用した。無機質材料と熱可塑性樹脂との合計含有量が、原反層の質量に対して88質量%となるように調節した。無機質材料及び熱可塑性樹脂に滑材、帯電防止剤等の添加剤を加えた原材料を、同方向回転式二軸押出機で押出成形した後に、ロール延伸により1.5倍延伸し、本発明の原反層を形成した。原反層の厚みは、48μmとなるようにした。なお、炭酸カルシウム粉は、炭酸カルシウムが90質量%のものを使用した。
【0042】
次に、表面層2及び裏面層5を形成するための表面層及び裏面層形成用インキを作製した。顔料として、カオリンクレー70質量部、軽質炭酸カルシウム30質量部を使用し、無機材料の均一なスラリーを調製した。さらに、水性バインダーとして、含有量が20質量%部となるようなスチレン・ブタジエンラテックスを使用し、前述のスラリーに投入してミキサーで撹拌して均一な表面層及び裏面層形成用インキを調製した。
【0043】
次に、原反層に表面層及び裏面層形成用インキを塗装した。コロナ放電をかけながら、調製した表面層及び裏面層形成用インキを塗布し、乾燥して表面層及び裏面層を形成した。
以上により、実施例1の積層シート15を作製した。また、積層シート15の表面層及び裏面層を有する面のJISP8141クレム法による吸水度が40mmとなった。
【0044】
[実施例2]
原反層の無機質材料として、酸化チタンの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。また、原反層の無機質材料として、酸化チタンの平均粒子径が1μm且つ最大粒子径が50μmとなるようにした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例2の積層シート15を作製した。
【0045】
[実施例3]
原反層の無機質材料として、酸化チタンの平均粒子径が3μm且つ最大粒子径が50μmとなるようにした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例3の積層シート15を作製した。
【0046】
[実施例4]
原反層の無機質材料として酸化アンチモンを使用し、酸化アンチモンの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例4の積層シート15を作製した。
【0047】
[実施例5]
原反層の無機質材料として炭酸カルシウムを使用し、炭酸カルシウムの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例5の積層シート15を作製した。
【0048】
[実施例6]
原反層の無機質材料としてホウ酸亜鉛を使用し、ホウ酸亜鉛の含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例6の積層シート15を作製した。
【0049】
[実施例7]
原反層の無機質材料として、酸化チタンの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。また、原反層の熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンを使用した。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例7の積層シート15を作製した。
【0050】
[実施例8]
原反層の無機質材料として、酸化チタンの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。また、原反層の熱可塑性樹脂として、ポリエチレンを使用した。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例8の積層シート15を作製した。
【0051】
[実施例9]
原反層の無機質材料として、酸化チタンの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。また、原反層の熱可塑性樹脂として、ポリエステルを使用した。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例9の積層シート15を作製した。
【0052】
[実施例10]
原反層の無機質材料として、酸化チタンの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。また、無機質材料と熱可塑性樹脂との合計含有量が、原反層の質量に対して90質量%となるようにした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例10の積層シート15を作製した。
【0053】
[実施例11]
無機質材料と熱可塑性樹脂との合計含有量が、原反層の質量に対して100質量%となるようにした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例11の積層シート15を作製した。
【0054】
[実施例12]
原反層の無機質材料として、酸化チタンの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。また、原反層の厚みを50μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例12の積層シート15を作製した。
【0055】
[実施例13]
原反層の厚みを250μmとした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例13の積層シート15を作製した。
【0056】
[実施例14]
原反層の無機質材料として、酸化チタンの含有量を原反層の質量に対して15質量%とした。また、積層シートがISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を高水準で満たすようにした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で実施例14の積層シート15を作製した。
【0057】
[実施例15]
原反層の無機質材料として、平均粒子径が4μm且つ最大粒子径が50μmである炭酸カルシウムを使用し、炭酸カルシウムの含有量が原反層の質量に対して60質量%となるようにした。また、原反層の熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを使用した。そして、無機質材料と熱可塑性樹脂との合計含有量が、原反層の質量に対して98質量%となるように調整した。なお、原反層の厚みは150μmとなるようにした。また、積層シートがISO5660-1に準拠する発熱性試験にて不燃認定取得可能要件を高水準で満たすようにした。
以上により、実施例15の積層シート15を作製した。
【0058】
[比較例1]
原反層の無機質材料として、炭酸カルシウムの含有量が原反層の質量に対して14質量%となるようにした。それ以外は実施例1と同じ材料・手順で比較例1の積層シート15を作製した。
【0059】
(評価)
上記の方法により得られた実施例1~15及び比較例1の積層シート15について、耐水性評価、印刷性の評価を行った。
【0060】
[耐水性評価]
各シートを25℃の水に浸漬し、3日間放置後の状態を目視で観察した。
◎:剥がれが生じておらず、爪でひっかいても剥がれない。
〇:剥がれが生じていない。
△:端部がめくれ上がっている。
×:半分以上剥がれている
【0061】
[印刷性の評価]
印刷面を肉眼で観察し、印刷ムラ、印刷濃度、印刷面の平滑性等を見て判定し、印刷良のものを◎とし、全く不良なものは×とし、その間の評価を〇、△として表示した。
【0062】
(評価結果)
以下の表1に、各実施例及び比較例の積層シートの構成と、各実施例及び比較例の耐水性及び印刷適性の評価結果を示す。
【0063】
【0064】
表1中に表されるように、実施例1~15、比較例1の評価結果から、実施例1~15のように無機質材料の含有量が原反層1の質量に対して15質量%以上90質量%以下の範囲内である場合には、比較例1のように無機質材料の含有量が15質量%以下である場合と比べて高い耐水性を有することがわかった。
なお、本発明の積層シートは、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…原反層
2…表面層
5…裏面層
15…積層シート