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特許7581642ポリフェニレン系半透膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ポリフェニレン系半透膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/52 20060101AFI20241106BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20241106BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B01D71/52
B01D71/68
B01D71/82
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020060684
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021159784
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 真史
(72)【発明者】
【氏名】大亀 敬史
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-054452(JP,A)
【文献】特開平06-000350(JP,A)
【文献】特開2018-058040(JP,A)
【文献】特開平02-014725(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレン系樹脂を含む材料から構成された半透膜であって、
前記ポリフェニレン系樹脂は、ポリフェニレンオキサイド樹脂であり、
前記半透膜は、中空糸膜であり、
前記中空糸膜は、外側の第1の表面、および内腔側の第2の表面を有し、
前記第1の表面は、前記ポリフェニレンオキサイド樹脂の少なくとも一部がスルホン化されており、
前記第2の表面は、スルホン化されておらず、かつ硫黄元素比率が0.1atm%未満であり、
前記半透膜の厚み方向の断面に対して、元素分析によりスルホン酸基由来の硫黄元素の濃度分布を測定した際に、下記式で得られるスルホン化層の比率が50%以下である、ポリフェニレン系半透膜。
スルホン化層の比率(%)=スルホン化層厚み/(スルホン化層厚み+非スルホン化層厚み)×100
【請求項2】
前記比率が5%以上40%以下である、請求項1に記載のポリフェニレン系半透膜。
【請求項3】
スルホン化度が0.1×10meq./m~9.0×10meq./mである、請求項1または2に記載のポリフェニレン系半透膜。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレン系半透膜の製造方法であって、
前記ポリフェニレン系樹脂を含む材料から製造された半透膜基材の第1の表面に硫酸を接触させてスルホン化処理を行い、
前記半透膜基材は、中空糸膜であり、
前記硫酸は、濃度が92.5~95wt%であり、
前記第2の表面側を加圧した状態で前記第1の表面に前記硫酸を接触させる、ポリフェニレン系半透膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレン系半透膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノろ過法は、加圧運転する膜分離方法であり、この方法は溶解した分子、重金属イオン及び他の小さな粒子を捕捉することに優れている。ナノろ過法は、逆浸透法に含まれる膜分離技術の一つであるが、逆浸透膜と限外濾過膜の中間程度の溶質の透過性を有する半透膜を用いて逆浸透をおこなう膜分離技術の総称である。
【0003】
現在まで開発された多くのナノろ過膜は、有機膜、又は有機と無機との混合型膜である。特に有機膜において、大部分は複合半透膜であり、多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した分離機能層を有するものと、多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した分離機能層を有するものなどが知られている。なかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い分離膜として広く用いられている。例えば、特許文献1(特開昭55-147106号公報)には、多孔性支持膜の表面に、界面重縮合反応により架橋されたポリアミドの薄膜を形成させたシート状複合物が開示されている。また、高い水透過性及び高いファウリング耐性を示す複合ナノろ過膜として、例えば、特許文献2(国際公開第1997/34686号)に、ポリアミドからなる層を有する支持体材料と、その支持体材料にポリビニルアルコールを塗布した分離層からなるナノろ過膜が開示されている。特許文献1、2のようなポリアミド系の有機膜は、海水淡水化、排水処理用途などに広く用いられている。
【0004】
耐アルカリ性、耐塩素性に優れるナノろ過膜として、例えば、特許文献3(特開2013-31836号公報)では、スルホン化ポリアリーレンエーテルスルホンポリマーを用いた分離膜が開示されている。特許文献3では、ナノろ過膜の素材としてスルホン化ポリアリーレンエーテルスルホンポリマーを使用し、この膜の含水状態の束縛水由来のピークトップの位置を特定のケミカルシフト値の領域に制御することによって、膜中のスルホン酸基と束縛水が良好に相互作用して塩除去性と透水性を高いレベルで両立できることを見出している。前記ポリマーの分離膜は、アルカリ系薬液と塩素系薬液の両方に対して強い耐性を有することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-147106号公報
【文献】国際公開第1997/34686号
【文献】特開2013-31836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、工業排水(廃水)の処理や有機溶剤の回収、医薬品の製造等の分野において、膜分離技術を用いることにより低コスト化や生産性の向上をはかる試みがなされてきている。このような用途に膜分離を用いる場合には、分離特性や処理流量だけでなく、薬品に対する耐性や機械的強度も重視されることになる。本発明は、前記したような課題を解決できる分離膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1. ポリフェニレン系樹脂を含む材料から構成された半透膜であって、
前記半透膜は、第1の表面の少なくとも一部がスルホン化されており、
前記半透膜の厚み方向の断面に対して、元素分析によりスルホン酸基由来の硫黄元素の濃度分布を測定した際に、下記式で得られるスルホン化層の比率が50%以下である、ポリフェニレン系半透膜。
スルホン化層の比率(%)=スルホン化層厚み/(スルホン化層厚み+非スルホン化層厚み)×100
2. 前記比率が5%以上40%以下である、1に記載のポリフェニレン系半透膜。
3. 前記半透膜の第2の表面はスルホン化されていない、1または2に記載のポリフェニレン系半透膜。
4. 前記半透膜の第2の表面は、硫黄元素比率が0.1atm%未満である、1~3のいずれかに記載のポリフェニレン系半透膜。
5. スルホン化度が0.1×10meq./m~9.0×10meq./mである、1~4のいずれかに記載のポリフェニレン系半透膜。
6. ポリフェニレン系樹脂を含む材料から製造された半透膜基材の第1の表面に硫酸を接触させてスルホン化処理を行う、1~5のいずれかに記載のポリフェニレン系半透膜の製造方法。
7. 前記硫酸は、濃度が90~98wt%である、6に記載のポリフェニレン系半透膜の製造方法。
8. 第2の表面側を加圧した状態で前記半透膜基材の第1の表面に硫酸を接触させる、6または7に記載のポリフェニレン系半透膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリフェニレン系半透膜基材を特定の条件でスルホン化することにより耐薬品性(耐塩素性、耐酸、耐アルカリ)、膜性能および膜強度を両立する半透膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】スルホン化層と非スルホン化層を表す模式図である。
図2】引張試験における応力-ひずみ曲線より降伏強度を求める方法を示す模式図である。
図3】本発明の半透膜の厚み方向の断面模式図である。
図4】本発明の半透膜の厚み方向の断面SEM画像の一例である。
図5】元素分析による分析結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
半透膜に耐薬品性を付与するためには、原料として用いる樹脂自体が耐薬品性に優れることが望ましい。このような樹脂として、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などのポリフェニレン系樹脂が挙げられる。本発明においては、耐熱性や耐衝撃性、強度、耐薬品性に優れるなどの点からポリフェニレンオキサイド樹脂を含む材料を用いるのが好ましい。しかし、ポリフェニレン系樹脂は疎水性であるため、ポリフェニレン系樹脂単体で製造された膜は、透水性が非常に低いという問題がある。
【0013】
前記問題点を改善するため、ポリフェニレン系半透膜に対して親水化処理が必要となる。親水化処理には、前記半透膜への親水性基(例えば、スルホン酸基)の導入やアルコールを用いた親水化処理が考えられる。しかし、前記半透膜への親水性基の導入では、膜全体に親水性基が導入されると、機械強度が低くなる欠点がある。そこで、前記半透膜の一部をスルホン化することで、機械強度を維持し、かつ透水性能を向上させることを見出した。
【0014】
本発明の半透膜は、スルホン化層の厚みが膜厚全体の50%以下であることが好ましい。スルホン化層の厚みが膜厚全体の50%を越える場合には、親水化が進行し、透水性能とイオン阻止率のバランスが悪くなることがある。半透膜としての分離機能性を発揮させる理由から、スルホン化層の厚みは膜厚全体の40%以下の範囲であることがより好ましい。一方、スルホン化層の厚みは、5%以上が好ましい。スルホン化層の厚みが薄いと透水性能が低下するなどの問題を生ずることがあるので10%以上がより好ましい。
なお、スルホン化層の厚みは、後述するように、樹脂片に包埋したスルホン化半透膜の断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)によって撮影し、EDSマッピングにより、硫黄元素を検出する方法で行われる。
【0015】
本発明において、半透膜全体のスルホン化度は0.1×10meq./m~9.0×10meq./mであることが好ましい。スルホン化度が小さいとスルホン化層の形成が不十分となり、分離機能(特にイオン阻止率)が低下する傾向にある。また、スルホン化度が大きいと、膜の強度が低くなり、分離性能の安定性が確保できなくなることがある。すなわち、半透膜として、膜の強度を確保しつつ、十分な分離機能も確保するためには、スルホン化度は0.5×10meq./m~4.0×10meq./mの範囲であることがより好ましい。なお、半透膜のスルホン化度は、後述するように滴定法により測定することができる。
【0016】
本発明において、半透膜全体のスルホン化度が前記範囲を満たしていれば、半透膜の両表面がスルホン化されているものであってもよいが、半透膜の第1の表面はスルホン化されており、第2の表面はスルホン化されていないのがより好ましい(図1)。具体的には、第2の表面は硫黄元素比率が0.1atm%未満であるのが好ましい。ここで、硫黄元素比率は、後述するX線光電子分光法にて膜表面から10nm程度までの深さまで測定することができる。硫黄元素比率が高いと、半透膜の強度が低下することがある。
【0017】
上記のような特性を有する半透膜は、透水性能とイオン阻止率のバランスに優れており、かつ高い膜強度(降伏強度)を発現することができる。
【0018】
本発明において、中空糸型半透膜基材の製造は、ポリフェニレン系樹脂を非プロトン性溶媒に溶解させて製膜原液を得る工程(溶解工程)前記製膜原液を温度誘起相分離点以上の温度で紡糸ノズルより中空糸状に吐出する工程(吐出工程)と、中空糸状に吐出された製膜原液を水と有機溶媒からなる混合溶液に接触(浸漬)させて凝固させる工程(凝固工程)、凝固した中空糸状物を温水で洗浄し過剰の溶媒等を除去する工程(洗浄工程)、乾燥させる工程(乾燥工程)とを含む。
【0019】
本発明において、平型半透膜基材の製造は、前記同様の製膜原液を、均一な厚みになるようにアプリケータ等を用いてガラス板等に塗り広げ、ガラス板ごと凝固液に浸漬させた後、ガラス板から半透膜基材を回収する。回収した半透膜基材を洗浄して、必要により乾燥する。
【0020】
得られた半透膜基材は、半透膜基材の第1の表面を硫酸に接触させることにより容易にスルホン化することができる。このとき、硫酸が膜内部に浸透しないように第2の表面側から加圧しておくのが好ましい。加圧は、チッ素ガス等を用いて2MPa以下とするのが好ましい。圧力が高いと、第1の表面から気泡が発生して部分的にスルホン化が不十分になることがある。また、圧力が小さいと、硫酸が膜内部に浸透し、第2の表面までスルホン化されてしまうことがある。半透膜基材のスルホン化度は、用いる硫酸の濃度および接触時間により調整することができる。硫酸の濃度は90~98wt%が好ましく、93~95wt%がより好ましい。また、接触時間は0.5min~60minが好ましく、30minがより好ましい。硫酸の濃度が低いと、所望のスルホン化度を得るために長時間を要するか、または所望のスルホン化度を達成することができない。一方、硫酸の濃度が高いと、スルホン化度を調整するのが難しくなる。また、接触時間が短いと、均一なスルホン化を達成することができないことがある。一方、接触時間が長いと半透膜の内部までスルホン化が進行してしまい、必要な膜強度を得ることができないことがある。
【実施例
【0021】
以下、本発明を実施例にてさらに詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
(滴定法によるスルホン化度測定)
実施例および比較例の半透膜全体のスルホン化度は、滴定法により測定を行った。
測定前処理:試料量として、乾燥重量で1.0g用意し、試料を3cm各に切断した。硫酸処理した半透膜を、80℃の純水で洗浄して、pH変化(残渣硫酸)がなくなるまで行い、110℃、5時間で真空乾燥を行った。その後、試料を2.0MのNaCl水溶液に24時間浸漬させて、スルホン酸基の対イオンであるHをNaに置換した。
滴定実験:前記NaCl水溶液を、自動滴定装置(平沼産業株式会社 COM-1700)を用いて、0.010MのNaOHで滴定することで、イオン交換容量(IEC)を測定した。また、スルホン化度は以下の式より算出した。
IEC[meq./g]=水酸化ナトリウム濃度[M]×滴定量[ml]/試料量[g]
スルホン化度[meq./m]=水酸化ナトリウム濃度[M]×滴定量[ml]/膜体積[m
【0023】
(半透膜の機械強度の評価)
実施例および比較例の半透膜の機械強度の評価は、作製された半透膜を引張り試験装置((株)島津製作所 EZ-SX)によって測定した。測定試料の前処理として、25wt%エタノールに30min浸漬させた後、純水に24時間浸漬させた。引張り試験は、ロードセル50N、両端で50mmの初期ゲージ長さ及び20mm/分の試験速度でクランプした。10回測定の平均値を降伏強度の測定値とした。なお、降伏強度は、応力-ひずみ曲線において、明確な降伏点が存在する場合には、その値を採用する。明確な降伏点ピークがない場合は、応力-ひずみ曲線での初期弾性率を求める際の直線と降伏後の線形領域(伸度:10~30%)における直線(接線)との交点の値を降伏強度の値とした(図2)。
【0024】
(膜断面におけるスルホン化領域の比率評価)
実施例および比較例の半透膜の膜断面におけるスルホン化領域の比率評価は、SEM-EDS測定(SEM:日立ハイテクノロジーズ社製S4800、検出器:BRUKER社製エネルギー分散型X線分析)により行った。
試料をエポキシ樹脂(ナカライテスク ルベアック812)に包埋し、ガラスナイフを装着したミクロトームを用いて断面を作製した。試料を試料台に固定し、オスミウム蒸着を行い、前記顕微鏡を加速電圧10kVで使用し、元素分析を行った。
SEM-EDS測定を行い、膜断面に対して、硫黄元素でのライン分析を行った(図3-5)。ベースラインを相対カウント数(カウント数/全カウント数の合計)で0.01以下とし、スルホン化領域の比率を下記式より算出した。
スルホン化層の比率[%]=スルホン化層の厚み[μm]/(スルホン化層の厚み(Ts)[μm]+非スルホン化層の厚み(Tb)[μm])×100
【0025】
(膜表面における硫黄元素比率の算出)
XPS測定(Thermo Fisher Scientific社製 K-Alpha+)による半透膜の硫黄元素を分析することにより、硫黄元素比率を算出した。中空糸型半透膜の場合、外表面側はそのまま測定し、内表面側は中空糸膜をナイフで開腹して内表面側を露出させて測定を行った。
なお、XPSでは、表面から深さ10nm程度までの硫黄元素比率を測定することができる。
測定条件
励起X線:モノクロ化Al Kα線
X線出力:12kV 2.5mA
光電子脱出角度:90°
スポットサイズ:約200μmφ
パスエネルギー:50eV
ステップ:0.1eV
【0026】
(膜性能評価)
実施例および比較例の半透膜(中空糸型半透膜)400本をループ状にし、ループの先端を2液性エポキシ樹脂で接着し、中空糸型半透膜の開口端側を5cmのポリカーボネート製スリーブに挿入した後、2液性エポキシ樹脂をスリーブに注入し、硬化させ封止した。熱硬化性樹脂で硬化させた中空糸型半透膜の端部を切断し、中空糸型半透膜の開口面を得ることで、評価用モジュールを作製した。
膜性能評価は、中空糸用透水試験装置に評価用モジュールを装着し、1500ppmのNaCl水溶液を用いて、0.5MPaの操作圧力で行った。
透水試験で採取した膜透過水と、供給水溶液について、電気伝導率計((株)堀場製作所DS-70)を用いて導電率を測定し、イオン阻止率を下記式より算出した。
イオン阻止率[%]=(1-ろ過液の導電率[μS/cm]/供給水溶液の導電率[μS/cm])×100
また、純水を用いて、0.5MPaの操作圧力で、純水Fluxの測定を行った。
純水Fluxは下記式より算出した。
純水Flux[L/(m・day)]=透過水量[L]/膜面積[m]/採取時間[日]
【0027】
(実施例1)
ポリフェニレンオキサイド(SABICイノベーティブプラスチックス社、PPO646)に対して、N-メチル-2-ピロリドン(ナカライテスク社、Extra Pure Reagent)を加え、30wt%とし、混練して均一な懸濁液を作製した後、100℃の温度で混練しながら加熱することで均一な紡糸原液を得た。得られた紡糸原液を二重円筒管ノズルのスリット部より定量押出しした。二重円筒管ノズルの内孔からは、内液として、RO水を定量吐出させ、中空状に押出された紡糸原液の内層部分に相分離を誘起させつつ、エアギャップで、紡糸原液表層部の乾燥処理を行い、その後、凝固浴中で、完全に相分離を進行させた。固化した中空糸状物を十分水洗した後、水を含んだ状態のまま、巻き取った。
【0028】
得られた中空糸状物を100cmの長さにカットし、60℃の純水で浸漬洗浄を行い、一晩風乾させた。得られた半透膜基材を用いて評価用モジュールを作製した。
【0029】
前記モジュールの中空糸膜内腔側をチッ素ガスで加圧(1.5MPa)しながら、中空糸膜外側に92.5%の硫酸溶液を30分接触させ、実施例1の半透膜を得た。半透膜の内径は240μmであった。
【0030】
(実施例2)
93.5%の硫酸溶液を30分接触させた以外は、実施例1と同様にして実施例2の半透膜を得た。半透膜の内径は240μmであった。
【0031】
(実施例3)
94.5%の硫酸溶液を30分接触させた以外は、実施例1と同様にして実施例3の半透膜を得た。半透膜の内径は240μmであった。
【0032】
(実施例4)
94.5%の硫酸溶液を1分接触させた以外は、実施例1と同様にして実施例4の半透膜を得た。半透膜の内径は240μmであった。
【0033】
(実施例5)
94.5%の硫酸溶液を5分接触させた以外は、実施例1と同様にして実施例5の半透膜を得た。半透膜の内径は240μmであった。
【0034】
(実施例6)
94.5%の硫酸溶液を10分接触させた以外は、実施例1と同様にして実施例6の半透膜を得た。半透膜の内径は240μmであった。
【0035】
(比較例1)
硫酸溶液を接触させていない以外は、実施例1と同様にして比較例1の半透膜を得た。
【0036】
(比較例2)
95.5%の硫酸溶液を30分接触させた以外は、実施例1と同様にして比較例2の半透膜を得た。
【0037】
(比較例3)
96.5%の硫酸溶液を30分接触させた以外は、実施例1と同様にして比較例3の半透膜を得た。
【0038】
(比較例4)
原料段階でスルホン化処理を施したPPOを用いて製膜を行い、製膜後のスルホン化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして比較例4の半透膜を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、実施例1~6の半透膜は、スルホン化領域の比率が適正であり、したがって透水性、分離特性および機械的強度のバランスが優れていることがわかった。これに対し、比較例1の半透膜は、スルホン化処理を行っていないため機械的強度は高いが、塩除去率が5%しかなく分離膜としての機能が低いことが分かる。また、比較例2~3の半透膜は、膜全体がスルホン化されているため機械的強度が低く、透水性と分離性のバランスが良くない結果であった。また、比較例4の半透膜は、透水性能は非常に高いが、イオン阻止率とのバランスがよくなく、機械的強度も非常に低いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上詳しく説明したように本発明によればポリフェニレン系多孔質基材膜を特定の条件でスルホン化することにより、膜の一部分のみがスルホン化されることで耐薬品性(耐塩素性、耐酸、耐アルカリ)、膜性能および膜強度を両立させることが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・スルホン化層
2・・・非スルホン化層
図1
図2
図3
図4
図5