(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】便座装置及び大便器装置
(51)【国際特許分類】
A47K 13/30 20060101AFI20241106BHJP
E03D 9/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A47K13/30 Z
A47K13/30 A
E03D9/00 Z
(21)【出願番号】P 2020061792
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 健
(72)【発明者】
【氏名】木塚 里子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】須山 博友
(72)【発明者】
【氏名】樋口 仁郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直哉
(72)【発明者】
【氏名】松井 春奈
(72)【発明者】
【氏名】大井 亮
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-146244(JP,A)
【文献】特開平09-021779(JP,A)
【文献】特開2007-054456(JP,A)
【文献】特開平08-262014(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106592720(CN,A)
【文献】特開2006-061296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 13/00-17/02
E03D 9/00- 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排泄物を受けるボウル部が形成された大便器の上部に取り付けられる便座装置であって、
使用者が着座する着座面を構成する便座上板と、
前記便座上板と接合され、前記大便器に相対する便座底板と、
前記便座上板と前記便座底板との間に設けられ、前記便座上板を加熱する加熱装置と、を有する便座と、
前記便座に設けられ、前記排泄物を光学的に検知する検知装置と、を備え、
前記検知装置は、前記加熱装置と非接触となるように配置されている
とともに、前記検知装置の一部が前記便座底板から突出するように配置されていることを特徴とする便座装置。
【請求項2】
さらに、前記加熱装置によって発生した熱が前記検知装置に伝わるのを抑制する伝熱抑制手段を備える請求項1に記載の便座装置。
【請求項3】
前記伝熱抑制手段は、断熱性機能を有する発泡系断熱材によって構成され、
前記発泡系断熱材は、前記加熱装置と前記検知装置との間に配置されている請求項2に記載の便座装置。
【請求項4】
大便器のリム部に沿って洗浄水を吐水するリム吐水口を備えた大便器装置であって、
前記大便器と、
排泄物を受けるボウル部が形成された前記大便器の上部に取り付けられ
る便座装置と、
を有
し、
前記便座装置は、
使用者が着座する着座面を構成する便座上板と、
前記便座上板と接合され、前記大便器に相対する便座底板と、
前記便座上板と前記便座底板との間に設けられ、前記便座上板を加熱する加熱装置と、を有する便座と、
前記便座に設けられ、前記排泄物を光学的に検知する検知装置と、を備え、
前記検知装置は、前記加熱装置と非接触となるように配置されているとともに、前記リム吐水口と対向しない位置に配置されていることを特徴とする大便器装置。
【請求項5】
大便器のリム部に沿って洗浄水を吐水するリム吐水口を備えた大便器装置であって、
前記大便器と、
排泄物を受けるボウル部が形成された前記大便器の上部に取り付けられ
る便座装置と、
を有
し、
前記便座装置は、
使用者が着座する着座面を構成する便座上板と、
前記便座上板と接合され、前記大便器に相対する便座底板と、
前記便座上板と前記便座底板との間に設けられ、前記便座上板を加熱する加熱装置と、を有する便座と、
前記便座に設けられ、前記排泄物を光学的に検知する検知装置と、を備え、
前記検知装置は、前記加熱装置と非接触となるように配置されているとともに、前記リム部の内周よりも内側に配置されていることを特徴とする大便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、便座装置及び大便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、便器内に排泄された排泄物を検知可能な検知装置を備えた便座装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の便座装置に用いられる検知装置は、排泄物に対して赤外光を照射可能な発光部と、排泄物からの反射光を受光可能な受光部と、を有している。この検知装置によって検知された排泄物の情報から使用者の健康状態を推定することが可能である。また、検知装置は、使用者に自身の排泄物が検知されていることを意識させないように、便座内に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
便座装置が暖房機能を有する場合、便座を加熱するためのヒータなどの加熱装置が便座内に設けられる。しかし、特許文献1に記載の便座装置のように、排泄物を光学的に検知するための検知装置を便座内に配置した場合、加熱装置によって発生した熱が検知装置に悪影響を及ぼすおそれがある。例えば、検知装置として熱に対する耐久性の低い器具を用いる場合には、加熱装置の発熱によって、当該器具の劣化、破損につながってしまう。また、検知装置によって排泄物の有無だけでなく、排泄物の色や形状等、排泄物に関する種々の情報を取得しようとする場合、検知装置が取得する光学的情報には所定の精度が求められる。しかし使用者による適宜の調整などによって加熱装置の発熱の程度が相違する場合、検知装置への熱的影響が必ずしも安定しないため、一回の排泄物検知における精度や、経時的継続的な検知における精度に揺らぎやばらつきが生じるおそれがある。
【0006】
開示の実施形態は、上述した課題を解決するものであり、排泄物を光学的に検知するための検知装置が便座内に設けられた便座装置において、便座を加熱する加熱装置によって発生した熱が検知装置に悪影響を及ぼすおそれを軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係る便座装置は、排泄物を受けるボウル部が形成された大便器の上部に取り付けられる便座装置であって、使用者が着座する着座面を構成する便座上板と、便座上板と接合され、大便器の上面に相対する便座底板と、便座上板と便座底板との間に設けられ、便座上板を加熱する加熱装置と、便座上板と便座底板との間に設けられ、排泄物を光学的に検知する検知装置と、を備え、検知装置は、加熱装置と非接触となるように配置されていることを特徴としている。
実施形態の一態様に係る便座装置によれば、便座上板と便座底板との間に設けられる加熱装置と、便座上板と便座底板との間に設けられる検知装置とが、非接触となるようにそれぞれ配置されている。これにより、加熱装置によって発生した熱が検知装置に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。
【0008】
本実施形態において「非接触」とは、加熱装置の発熱に伴う熱的影響を検知装置に与えるおそれを軽減するために、加熱装置と検知装置とが所定距離を離して配置されることを指す。すなわち、加熱装置の発熱線を、耐熱性樹脂(例えば、硬質ポリ塩化ビニル)等で被膜したとしても、それだけで「検知装置に対して「非接触」となるように配置されている」とするわけではない。
【0009】
実施形態の一態様に係る便座装置において、好ましくは、加熱装置によって発生した熱が検知装置に伝わるのを抑制する伝熱抑制手段を備える。
実施形態の一態様に係る便座装置によれば、加熱装置によって発生した熱が検知装置に伝わるのを抑制する伝熱抑制手段を備えるため、加熱装置によって発生した熱が検知装置に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。
【0010】
実施形態の一態様に係る便座装置において、好ましくは、伝熱抑制手段は、発泡系断熱材によって構成され、この発泡系断熱材は、加熱装置と検知装置との間に配置されている。
実施形態の一態様に係る便座装置によれば、発泡系断熱材が、加熱装置と検知装置との間に配置されているため、加熱装置によって発生した熱が検知装置に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。
【0011】
本実施形態の一態様に係る便座装置において、好ましくは、検知装置は、その一部が便座底板から突出するように配置されている。
実施形態の一態様に係る便座装置によれば、検知装置の一部が、便座底板から突出するように配置されているため、加熱装置と検知装置との距離を十分に離すことが可能となる。これにより、加熱装置によって発生した熱が検知装置に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。
【0012】
また、本実施形態の一態様に係る大便器装置は、大便器のリム部に沿って洗浄水を吐水するリム吐水口を備えた大便器装置であって、大便器と、大便器の上部に取り付けられる便座装置と、を有することを特徴としている。
【0013】
本実施形態の一態様に係る大便器装置において、好ましくは、検知装置は、リム吐水口と対向しない位置に配置されている。
本実施形態の一態様に係る大便器装置によれば、検知装置がリム吐水口と対向しない位置に配置されるため、リム吐水口から吐出された洗浄水が検知装置にかかることにより検知装置に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。
【0014】
本実施形態の一態様に係る大便器装置において、好ましくは、検知装置は、リム部の内周よりも内側に配置されている。
本実施形態の一態様に係る大便器装置によれば、検知装置がリム部の内周よりも内側に配置されているため、検知装置の一部を大便器の上面よりも下方に突出させることが可能となる。すなわち、加熱装置と検知装置との距離を十分に離すことが可能となる。これにより、加熱装置によって発生した熱が検知装置に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
実施形態の一態様によれば、便座を加熱する加熱装置によって発生した熱が、便座内に設けられた排泄物を光学的に検知するための検知装置に悪影響を及ぼすおそれを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る大便器装置の構成の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る大便器装置の構成の一例を示す上面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る便座装置の構成の一例を示す分解斜視図である。
【
図4】
図2のA-A線に沿って見た断面の拡大図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る検知装置の構成の一例を示す図である。
【
図7】排泄物の形状のデータ分析の一例を示す図である。
【
図8】排泄物の色のデータ分析の一例を示す図である。
【
図10】排泄物の色のデータ分析の一例を示す図である。
【
図11】排泄物の色のデータ分析の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する便座装置及び大便器装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
<1.大便器装置の構成>
まず、本発明の一実施形態に係る大便器装置の構成について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る大便器装置の構成の一例を示す斜視図である。
図2は、実施形態に係る大便器装置の構成の一例を示す上面図である。
【0019】
図1に示すように、大便器装置1は、便座装置2と、洋式大便器(以下、「便器」と記載する)7とを備える。
図1に示すように、便器7は、トイレルームRの床面Fに設置される。なお、以下では、床面FからトイレルームRの空間内に臨む向きを上と記載する。
【0020】
便器7は、例えば、陶器製である。便器7には、ボウル部8が形成される。ボウル部8は、下方に凹んだ形状であり、使用者によって排泄される排泄物を受ける部位である。なお、便器7は図示のような床置き式に限られず、壁掛け式であってもよい。また、便器7の後方上部には、洗浄水を貯留する洗浄水タンクが設置されてもよいし、洗浄水タンクが設置されない、いわゆるタンクレス式であってもよい。
【0021】
また、便器7の上縁にはリム部9が形成される。リム部9の上面は、閉じられた状態の便座5の裏面と向き合う。そして、リム部9には、リム吐水口9a(
図2参照)が設けられる。リム吐水口9aは、使用者の排泄物を便器7外へと排出するための洗浄水を、リム部9の内周面に沿ってボウル部8内に吐水する。
【0022】
例えば、トイレルームRに設けられた洗浄用の洗浄操作部(図示省略)が使用者により操作されると、リム吐水口9aからボウル部8内に洗浄水を供給する便器洗浄が実行される。これにより、ボウル部8の表面が洗浄されると共に、使用者の排泄物がボウル部8内から排出される。
【0023】
便座装置2は、便器7の上部に取り付けられ、機能部3と、便蓋4と、便座5とを備える。なお、便座装置2は、便器7に対して着脱可能に取り付けられてもよいし、便器7と一体化するように取り付けられてもよい。
【0024】
便座装置2は、便座5に着座した使用者のおしりを温める暖房機能を実行するための機構と、排泄物検知機能を実行するための機構とを備える。排泄物検知機能とは、便座装置2の便座5に着座した使用者が排泄した排泄物(特に大便)を検知し、その排泄物に関する情報を取得する機能である。排泄物に関する情報とは、排泄物の有無や排泄物の性状(形状や大きさ、固さ、色など)を指す。なお、排泄物検知機能は、排泄物とあわせてトイレットペーパーや異物の存在を検知する機能を備えていても良い。この暖房機能および排泄物検知機能を実行するために、機能部3に設けられる制御装置が実行する処理および便座5に設けられる構成については後述する。
【0025】
また、便座装置2は、衛生洗浄機能を実行するための機構を備えてもよい。すなわち、便座装置2は、便座5に着座した使用者のおしりなどに向けて水を噴射する吐水ノズル6を備える構成であっても構わない。また、便座装置2は、温風乾燥機能や脱臭機能を実行するための機構を備えてもよい。すなわち、便座装置2は、便座5に着座した使用者のおしりなどに向けて温風を吹き付ける送風ユニットや、ボウル部8内の空気を吸引する脱臭ユニットを備える構成であっても構わない。
【0026】
便座5は、中央に開口50を有する環状に形成され、リム部9の上面に沿って、ボウル部8の上方に形成された開口の一部を覆うように配置される。すなわち、便座5は、その一部がリム部9の内周よりも内側に張り出すような形状を備えている。また、便座5は、着座した使用者の臀部を支持する着座部として機能する。
【0027】
便蓋4及び便座5は、それぞれの一端部が機能部3に軸支され、機能部3の軸支部分を中心として回動可能(開閉可能)に取り付けられる。便蓋4は、閉じた状態において、便座5の上方を覆うことができる。なお、便蓋4は、便座装置2に必要に応じて取り付けられ、便座装置2は、便蓋4を備えていなくても構わない。
【0028】
<2.便座装置の構成>
次に、本発明の一実施形態に係る便座装置の構成について
図3~
図5を参照して説明する。
図3は、実施形態に係る便座装置の構成の一例を示す分解斜視図である。
図4は、
図2のA-A線に沿って見た断面の拡大図である。
図5は、
図4の部分拡大図である。
【0029】
図3及び
図4に示すように、便座5は、上から順に便座上板11と、加熱装置13と、検知装置15と、便座底板17とを備える。加熱装置13及び検知装置15は、便座上板11と便座底板17との間に形成される空洞部19に配置されている。つまり、便座5は、その内部に暖房機能を実行するための加熱装置13と、排泄物検知機能を実行するための検知装置15とを備える。また、便座5は、加熱装置13と検知装置15の間に伝熱抑制手段21を備えることが好ましい。
【0030】
便座5は、便座上板11と便座底板17を振動融着などの融着方法により接合することによって形成される。なお、便座5は、便座上板11と便座底板17とが互いに嵌合することによって形成されてもよい。また、便座上板11と便座底板17は、例えば、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)やポリポロピレン(PP:polypropylene)等の熱可塑性樹脂によって形成される。
【0031】
図4に示すように、便座上板11は、環状に形成され便器のボウル部8側に向けて斜め下方に傾斜した着座面(便座の上面)を構成する着座部11aと、着座部11aの内縁から下方に延びる内周部11bと、着座部11aの外縁から下方に延びる外周部11cとから形成される。便座上板11は、加熱装置13によって発生した熱を迅速に着座面に伝えるために、着座部11aの厚みが内周部11b及び外周部11cよりも薄くなるように形成されている。
【0032】
また、
図4に示すように、加熱装置13は、空洞部19内において、着座部11aの裏面に配置される。加熱装置13は、機能部3に設けられた制御装置(図示省略)によって制御される通電量に応じて発熱するヒータと、そのヒータからの熱を着座部11aに均一に伝える均熱体(図示略)とを備える。ヒータは、例えば、均熱体を介して着座部11aの裏面の略全域にわたって延設され、便座5を内側から温める。
【0033】
ヒータとしては、いわゆるチュービングヒータや、シーズヒータ、ハロゲンヒータ、カーボンヒータなどを用いてもよい。また、ヒータの形状は、ワイヤ状やシート状、メッシュ状等のいずれの形状であってもよい。
均熱体は、アルミや銅などの熱伝導率の大きい金属の箔等により形成される。
【0034】
本実施形態においては、加熱装置13として抵抗加熱方式を用いた場合について説明したが、加熱装置13は、例えば、電磁誘導によって加熱を行う誘導加熱方式を用いても良い。
【0035】
図4に示すように、検知装置15は、空洞部19内において、加熱装置13と非接触になるように配置されている。これにより、加熱装置15によって発生した熱が検知装置15に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。検知装置15の詳細な構造については、
図6の説明にて詳述する。
【0036】
便座底板17は、便座5の下面を構成する底板である。
図4に示すように、便座底板17には、便座5が閉じた状態において、便器7の上面と接触することで便座5を支持する便座クッション20が取り付けられている。また、
図4に示すように、便座底板17には、検知装置15の一部が便座底板17から下方に突出可能な様に凹部17aが形成されている。この凹部17aは、外部から便座5内への水気の侵入を防止するために、パッキンなどでシールされている。
【0037】
また、この凹部17aにより、使用者が便座5に着座した際に発生する荷重によって便座底板17が変形することを抑制することができる。つまり、凹部17aにより検知装置15周りを補強することが出来るため、便座底板17の変形に伴い、検知装置15の破損や、検知装置15の位置ズレによる検知精度の低下などの悪影響が生じるおそれを抑制することが可能となる。
【0038】
図4に示すように、伝熱抑制手段21は、空洞部19内において、加熱装置13と検知装置15の間に設けられる。伝熱抑制手段21は、周囲を真空状態とすることで、気体による熱伝導を低減する真空断熱材や、物理・化学的物性により熱伝導を低減する繊維系断熱材(グラスウールやロックウールなど)、発泡系断熱材(ウレタンフォームやポリスチレンフォームなど)によって形成される。そのため、伝熱抑制手段21は、加熱装置13によって発生した熱が検知装置15に悪影響を及ぼすおそれを軽減することができる。
【0039】
発泡系断熱材により形成された伝熱抑制手段21は、安価である反面、加熱装置13であるヒータの断線などで生じる異常発熱が発生した場合、燃えてしまうおそれがある。そのため、伝熱抑制手段21は、加熱装置13に対して非接触となるように、所定距離を離して配置されていることが好ましい。
【0040】
さらに、伝熱抑制手段21は、便座底板17の裏面と接触するように配置されていることが好ましい。これにより、加熱装置13によって発生した熱が便座底板17側へと放熱することを抑制することができるため、加熱装置13によって発生した熱が着座部11aに伝達されるまでの時間を短縮し、省エネを図ることができる。
【0041】
<3.検知装置の構成>
次に、検知装置の構成について、
図6を参照して説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る検知装置の構成の一例を示す図である。
【0042】
図6に示すように、検知装置15は、機能部3に設けられた制御装置(図示省略)によって制御される電気信号に応じて発光する発光部23と、発光部23により照射された光に対する使用者の排泄物からの反射光を受光する受光部25と、発光部23及び受光部25を支えるための筐体27とを備える。検知装置15は、使用者が排泄した排泄物(特に大便)を検知し、その排泄物に関するデータを取得する。検知装置15は、例えば、排泄物の有無や排泄物の性状(形状や大きさ、固さ、色など)に関するデータを検知する。この検知装置15によって検知されたデータについて、機能部3が実行する処理については後述する。
【0043】
発光部23は、例えば、LED(Light Emitting Diode)等の発光素子(図示略)を備える。なお、発光部23が備える発光素子は、LEDに限らず種々の素子が用いられてもよい。また、発光部23から照射される光は、可視光線の波長を均等に有する白色光に限られず、特定の波長のみを有する有色光や、赤外線といった不可視光であっても構わない。
【0044】
受光部25は、レンズ26と、受光素子(図示略)とを備える。受光素子は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)センサ、またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサが並べられたラインセンサやエリアセンサによって形成される。また、受光部は、分光フィルタ等の分光機能を有する構成であってもよい。
【0045】
本実施形態においては、発光部23及び受光部25が、同一の筐体27によって支えられる態様、言い換えると、発光部23及び受光部25が一体となった検知装置15の態様について説明したが、発光部23及び受光部25は、それぞれ異なる筐体27によって支えられる態様、言い換えると、発光部23及び受光部25が別体として配置され、それぞれが備える機能により、検知装置15の機能が実行される態様であってもよい。
【0046】
発光部23および受光部25は、加熱装置13の発熱によって悪影響をうけるおそれがある。具体的には、発光部23は、周囲温度が高くなった環境下で使用されると、電源基板部に設けられるコンデンサー等の部品が破損したり、発光素子の寿命が短くなり照度がバラつくことで検知精度が低下したりするおそれがある。また、受光部25は、加熱装置13の発熱の程度が使用者によって適宜調整されることにより、受光素子による検知感度が異なってしまうおそれがある。これにより、一回の排泄物検知における精度や、経時的継続的な排泄物検知における精度に揺らぎやバラつきが生じるおそれがある。
【0047】
<4.検知装置の配置位置>
続いて、検知装置の配置位置について、
図2乃至
図5を参照して説明する。
【0048】
検知装置15は、リム吐水口9aと対向しない位置に配置される。例えば、
図2に示すように、リム吐水口9aが便器7の左右方向において左側に設けられている場合において、検知装置15は便器7の左右方向において右側に配置される。そのため、リム吐水口9aから吐出された洗浄水が検知装置15にかかることを防止することができる。
【0049】
仮に、検知装置15のレンズ26に水滴が付着すると、排泄物からの反射光がその水滴を通過する際に、光が乱反射したり、光の強度が減衰したりすることや、その水滴が乾燥することで析出する水垢によって、検知装置15による排泄物の検知精度が低下するおそれがある。上述した配置位置によれば、リム吐水口9aから吐出された洗浄水により検知装置15の感度に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。
【0050】
なお、検知装置15の配置位置は、リム吐水口9aから吐出された洗浄水がかからない位置であれば、上述した配置例に限られない。そのため、例えば、
図3に示すように、便器7の左右方向において右側に設けられたリム吐水口9aが洗浄水を便器後方に向けて吐水する場合において、検知装置15は、便器7の左右方向の右側において、そのリム吐水口9aよりも便器前方に配置されてもよい。
【0051】
図5に示すように、検知装置15が備える発光部23及び受光部25は、便座底板17に設けられた凹部17aを介して、便座底板17から突出するように配置される。これにより、加熱装置13と発光部23及び受光部25との距離を十分に離すことが可能となる。そのため、加熱装置13によって発生した熱が発光部23及び受光部25に悪影響を及ぼすおそれを軽減することが可能となる。
【0052】
また、
図4に示すように、検知装置15は、リム部9の内周よりも内側に配置される。より具体的には、検知装置15は、便座上板11の内周部11bに沿うように配置される。便座5はその一部がリム部9の内周よりも内側に張り出すような形状を備えているため、検知装置15を便座上板11の内周部11bに沿うように配置することで、検知装置15が備える発光部23および受光部25をリム部9の上面よりも下方に突出するように配置させることができる。これにより、加熱装置13と発光部23及び受光部25との距離をより十分に離すことが可能となる。また、検知装置15がリム部9の内周面よりも内側に配置されることで、リム部9内周面に沿って旋回する洗浄水にかかりにくくすることができる。そのため、加熱装置13によって発生した熱が発光部23及び受光部25に悪影響を及ぼすおそれをさらに軽減することが可能となる。
【0053】
また、
図5に示すように、検知装置15は、凹部17aの内周面に形成されたリム部17bに掛かり止めされる。具体的には、検知装置15は、リム部17bに対して、その一部を引っ掛けることにより掛り止めされる。これにより、検知装置15はリム部17bに対して脱着可能な様に構成される。なお、検知装置15をリム部17bに装着させない場合に、凹部17aを目隠し可能なカバーをリム部17bに対して掛かり止め可能な構成とすることで、検知装置15の有無に関わらず便座底板17を共通化することができる。
【0054】
<5.データ分析>
ここから、
図7及び
図8を用いて、検知装置によって検知された排泄物(大便)の形状や色等の性状に関するデータ分析について説明する。以下では、機能部3に設けられた制御装置が排泄物(大便)の形状や色に関するデータ分析の処理を実行する場合を一例として説明する。なお、このデータ分析は、便座装置2または検知装置15と有線または無線で接続される外部装置(図示略)によって行われても構わない。
【0055】
<5-1.排泄物の形状>
まず、排泄物の形状に関するデータ分析について
図7を参照して説明する。
図7は、排泄物の形状のデータ分析の一例を示す図である。
【0056】
図7中の対象物OB1は、検知対象とする排泄物(大便)を模式的に示し、対象物OB1を一例として、どのように排泄物の形状が測定されるかの概要を説明する。なお、以下の説明では、対象物OB1の長手方向を上下方向とし、長手方向と直交する方向(短手方向)を横方向として説明する。このような対象物OB1は、上下方向に沿う方向に落下する。
【0057】
各測定結果RS1~RS3は、受光素子が備える各画素が検出した排泄物からの反射光の反射率を示すグラフである。各測定結果RS1~RS3は、対象物OB1の上下方向の各位置に対応する測定結果を示す。測定結果RS1は、対象物OB1の上端部に対応する測定結果を示す。測定結果RS2は、対象物OB1の上下方向における中央部に対応する測定結果を示す。測定結果RS3は、対象物OB1の下端部に対応する測定結果を示す。
【0058】
機能部3に設けられた制御装置は、受光素子が受光した各画素の反射率の有無を検知する。制御装置は、反射があった画素の中からピーク値を求める。各測定結果RS1~RS3では、中央部分がピーク値となる。例えば、制御装置は、測定結果RS2では、画素X0がピーク値を有する画像であると特定する。
【0059】
制御装置は、ピーク値を有する画素と隣り合う画素の反射率の差分を比較して所定値以上または所定値以下の反射率が確認された場合、排泄物からの反射光であると推定する。なお、制御装置は、色についても同様に処理する。
【0060】
制御装置は、排泄物からの反射光であると確認された場合、さらにその画素に対して隣り合う画素に同様の処理を行う。これによって、制御装置は、排泄物の端を見極め、排泄物の幅を推定する。例えば、制御装置は、測定結果RS2では、画素X1から画像X2までの範囲が排泄物であると推定する。制御装置は、測定結果RS1では、測定結果RS2中の画素X1から画像X2までの範囲よりも狭い幅Lを排泄物の幅であると推定する。制御装置は、各測定結果RS1~RS3等を積層することで、排泄物の形状を分析する。
図7の例では、制御装置は、測定結果RS2に対応する部分(中央部)が最も幅が広く、測定結果RS1に対応する部分(上端部)や、測定結果RS3に対応する部分(下端部)に向かうにつれて幅が狭くなる形状であると分析する。
【0061】
上述した処理により、便座装置2は、使用者から便器7のボウル部8に向けて落下する対象物OB1を検知する。例えば、落下中の排泄物である対象物OB1は、発光部23や受光部25が臨む前方を下端部、中央部、上端部の順に通過することにより、下から上の順に検知される。具体的には、落下中の排泄物である対象物OB1は、測定結果RS3、測定結果RS2、測定結果RS1の順に検知される。これにより、便座装置2は、使用者から落下する排泄物(大便)を検知することができる。なお、便座装置2は、落下中の排泄物に限らず、ボウル部8内の封水に水没後の排泄物を対象に検知を行ってもよい。
【0062】
<5-2.排泄物の色>
まず、排泄物の色に関するデータ分析について
図8を参照して説明する。
図8は、排泄物の色のデータ分析の一例を示す図である。なお、
図7と同様の点については、同じ符号を付すこと等により、適宜説明を省略する。
【0063】
図8中の対象物OB2は、仮想的な排泄物(大便)を示し、対象物OB2には中央部に血領域BDが含まれる点で、
図7中の対象物OB1と相違する。
図8に示す測定結果RS1~RS3は、血領域BDがない
図7中の対象物OB1の測定結果RS1~RS3に対応する。
【0064】
制御装置は、排泄物である対象物OB2に対して照射された光のうち、血に対して特徴的な反射率を有する波長の光に対するピーク値を有する画素を特定する。例えば、制御装置は、排泄物である対象物OB2に対して照射された光のうち、血に対して特徴的な反射率を有する670nmの波長を含む光に対するピーク値を有する画素を特定する。
【0065】
その後、制御装置は、ピーク値を有する画素が検出した他の波長の光に対する反射率を算出する。制御装置は、同画素が検出した670nmを含むその他の波長に対する反射率の比から色を推定する。
図8に示す測定結果RS4が、対象物OB2のように血領域BDが含まれる箇所に対する測定結果を示す。例えば、
図8に示す測定結果RS4が、670nmを含まない光を、対象物OB2の血領域BDを含む部分に照射した場合の測定結果を示す。
【0066】
なお、血に対して特徴的な反射率を有する波長は、670nmのみに限られず、600nm~800nmの範囲であっても良い。なぜなら、この波長帯域においては、便に血が付着していた場合、便の色よりも血の色に対する反射率が顕著に検出されるからである。
【0067】
ここで、排泄物と血との関係について、
図9を参照して説明する。
図9は、排泄物と血との関係の一例を示す図である。
図9に示すグラフGR1は、各波長に対する便の反射と便に付着した血の反射との関係を示す図である。
【0068】
図9のグラフGR1中の線FL1は、排泄物(大便)に対する各波長(約600nm~約870nm)の反射率を示す。
図9中の線FL1に示すように、排泄物(大便)の場合、波長が長くなるにつれて反射率が上昇する。
図9中の線FL1に示すように、排泄物(大便)の場合、600nm付近の反射率が最も低く、870nm付近の反射率が最も高くなる。また、
図9のグラフGR1中の線BD1は、大便に付着した血に対する各波長(約600nm~約870nm)の反射率を示す。
図9中の線BD1に示すように、便に付着した血の場合、670nm付近の反射率は線FL1との差が最も小さくなり、670nmから離れるにつれて反射率は線FL1との差が大きくなる。
【0069】
図9中のグラフGR1は、大便の反射率に対する大便に付着した血の反射率の比が、670nm付近で最も大きくなり、670nmから離れるにつれて小さくなる。このように、
図9に示すグラフGR1は、670nmの波長においては大便便の反射率に対する大便に付着した血の反射率の比が大きく、870nmの波長においては大便の反射率に対する血の反射率の比が小さい。
【0070】
そのため、便座装置2は、上述のような各波長の反射率の比を基に、排泄物(大便)に付着した血を検知することができる。また、便座装置2は、上述のような各波長の反射率の比を基に、排泄物の色を分析することができる。この点について、
図10及び
図11を用いて説明する。
図10及び
図11は、排泄物の色のデータ分析の一例を示す図である。
【0071】
図10に示す測定結果RS11~RS13は、各々異なる色の排泄物(大便)を測定対象とした場合の測定結果を示す。例えば、測定結果RS11、RS12、RS13の順に測定対象となる排泄物(大便)の色が濃くなってもよい。例えば、測定結果RS11が黄土色の排泄物(大便)の測定結果であり、測定結果RS12が茶色の排泄物(大便)の測定結果であり、測定結果RS13が焦げ茶色の排泄物(大便)の測定結果であってもよい。
【0072】
また、
図10の測定結果RS11~RS13の各々示すLED#1、LED#2、及びLED#3の各々は、光を照射する発光素子であり、LED#1、LED#2、及びLED#3の各々の曲線は、画素と反射率との関係を示す。なお、LED#1、LED#2、及びLED#3の各々は、どのような波長領域の光を照射する発光素子であってもよい。
【0073】
例えば、大便の色が濃い程、各波長に対する反射率が小さくなる。
図10の例では、測定結果RS11~RS13のうち、排泄物(大便)の色が最も濃い測定結果RS13における各波長に対する反射率が小さくなり、それぞれの反射率の比が大きくなる。
【0074】
一方で、例えば、大便の色が薄い程、各波長に対する反射率が大きくなる。
図10の例では、測定結果RS11~RS13のうち、排泄物(大便)の色が最も薄い測定結果RS11における各波長に対する反射率が大きくなり、それぞれの反射率の比が小さくなる。例えば、薄い色に近づくほど、各波長の光が強く反射されるため、各波長の反射率の差が小さくなる。
【0075】
そのため、便座装置2は、上述のような波長と反射率との関係性を基に分析することにより、排泄物(大便)の色を分類することができる。例えば、便座装置2は、
図11に示す分類結果RS21のように、LED#1、LED#2、及びLED#3の各々に対する反射率の比を基に、測定結果RS11~RS13を分類することにより、各測定における排泄物(大便)の色を分類する。
【0076】
例えば、便座装置2は、LED#1の反射率とLED#2の反射率との比や、LED#3の反射率とLED#2の反射率との比を用いて、各測定結果RS11~RS13の排泄物(大便)の色を分類する。例えば、便座装置2は、「LED#1の反射率/LED#2の反射率」をX軸とし、「LED#3の反射率/LED#2の反射率」をY軸とし、各測定結果RS11~RS13の位置に応じて各測定における排泄物(大便)の色を分類する。例えば、便座装置2は、X軸方向にX1未満かつY軸方向にY1未満である場合、その測定における排泄物(大便)の色を「黄土色」に分類する。例えば、便座装置2は、X軸方向にX1以上X2未満かつY軸方向にY1以上Y2未満である場合、その測定における排泄物(大便)の色を「茶色」に分類する。例えば、便座装置は、X軸方向にX2以上かつY軸方向にY2以上である場合、その測定における排泄物(大便)の色を「焦げ茶色」に分類する。なお、上記は一例であり、便座装置2は、どのような方法により、各測定における排泄物(大便)の色を分類してもよい。
【0077】
なお、上述してきた各実施形態及び変形例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0078】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上の様に表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・・大便器装置
2・・・・便座装置
3・・・・機能部
4・・・・便蓋
5・・・・便座
6・・・・吐水ノズル
7・・・・便器
8・・・・ボウル部
9・・・・リム部
9a・・・リム吐水口
11・・・便座上板
13・・・加熱装置
15・・・検知装置
17・・・便座底板
17a・・凹部
17b・・リム部
19・・・空洞部
21・・・伝熱抑制手段
23・・・発光部
25・・・受光部