(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】弁付カテーテル用保護具
(51)【国際特許分類】
A61M 39/08 20060101AFI20241106BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61M39/08
A61M25/00 542
(21)【出願番号】P 2020080954
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 健太
【審査官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-535256(JP,A)
【文献】国際公開第2014/155576(WO,A1)
【文献】特表2015-532874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/08
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルチューブの先端部にスリット状の弁が形成され、前記弁に潤滑剤が塗布された弁付カテーテルに装着される保護具であって、
前記カテーテルチューブの前記先端部を覆う筒状の硬質部材と、
前記カテーテルチューブの前記先端部以外の部分を覆うシート状の軟包材と、
を備え、
前記硬質部材は、前記軟包材を挟持固定する固定部を備え、前記固定部が開くように構成されている、弁付カテーテル用保護具。
【請求項2】
前記軟包材は、前記カテーテルチューブの前記先端部を露出させる開口部を有し、
前記硬質部材は、前記軟包材の前記開口部から延出する前記カテーテルチューブの前記先端部との間に隙間が存在する状態で前記先端部を覆っている、請求項1に記載の弁付カテーテル用保護具。
【請求項3】
前記弁は、前記カテーテルチューブ内が陰圧となることで、内側に変形し開口する吸引用の弁である、請求項1または2に記載の弁付カテーテル用保護具。
【請求項4】
カテーテルチューブの先端部にスリット状の弁が形成され、前記弁に潤滑剤が塗布された弁付カテーテルに装着される保護具であって、
前記カテーテルチューブの前記先端部を覆う筒状の硬質部材と、
前記カテーテルチューブの前記先端部以外の部分を覆うシート状の軟包材と、
を備え、
前記軟包材は、前記カテーテルチューブの前記先端部を露出させる開口部を有し、前記先端部以外の部分を覆い、
前記硬質部材は、前記軟包材を挟持固定する固定部を備え、前記軟包材の前記開口部から延出する前記カテーテルチューブの前記先端部を覆う、弁付カテーテル用保護具。
【請求項5】
前記硬質部材は、前記固定部を含む固定部材と、キャップとを有し、
前記キャップは、前記軟包材の前記開口部から延出する前記カテーテルチューブの前記先端部との間に隙間が存在する状態で前記先端部を覆っている、請求項4に記載の弁付カテーテル用保護具。
【請求項6】
前記キャップには、前記カテーテルチューブの適切な先端位置を示す位置合わせ表示が設けられている、請求項5に記載の弁付カテーテル用保護具。
【請求項7】
カテーテルチューブの先端部にスリット状の弁が形成され、前記弁に潤滑剤が塗布された弁付カテーテルを収容する包装体であって、
形状安定性を有し、前記カテーテルチューブの前記先端部との間に隙間が存在する状態で前記先端部を収容する収容部と、
それぞれが前記収容部と一体形成され、互いに係合することで前記収容部が閉じた状態を維持する
複数の係合部と、
を有し、
前記係合部を外すことで前記収容部が開くように構成されている、弁付カテーテル用包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弁付カテーテル用保護具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患部への薬液の投与や、患部から血液等を吸引採取するために、カテーテルが使用されている。カテーテルは患者の血管に挿入されるが、カテーテルチューブの先端が常時開口していると、血液の流入や凝固の対策が必要になるため、先端の開口を閉じて、代わりに弁を設けた弁付カテーテルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。弁は、チューブの長さ方向に沿ってスリット状に形成されており、未使用時には閉鎖状態が維持され、チューブの内腔を通じて陽圧または陰圧が作用したときに開口する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弁付カテーテルは、弁が形成されたカテーテルの先端部が体内に留置される。それ故、陽圧作用時または陰圧作用時に確実に弁が開くことが求められる。本発明者は、弁の開口不良の発生には弁が変形する際に生じる摩擦力が大きな影響を及ぼすと推測し、弁に潤滑剤を塗布することで弁の開口不良発生を抑制できるか検証を行った。結果は好適なものであったが、検証を進めていく中で、梱包品において潤滑剤による効果が認められないものがあることが新たに判明した。分析の結果、弁付カテーテルの包装後において、弁が形成された部分とシート状の包材が接触することにより、弁に塗布された潤滑剤が減少し、弁の開口不良の発生を助長していることが分かった。
【0005】
本開示の目的は、弁に塗布された潤滑剤の減少を抑制することが可能な保護具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る弁付カテーテル用保護具は、カテーテルチューブの先端部にスリット状の弁が形成され、弁に潤滑剤が塗布された弁付カテーテルに装着される保護具であって、カテーテルチューブの先端部を覆う筒状の硬質部材と、先端部以外の部分を覆うシート状の軟包材とを備えることを特徴とする。
【0007】
カテーテルチューブの先端部がシート状の軟包材に覆われている場合、カテーテルチューブの先端部全体が軟包材と当接した状態で、包材内を相対移動しやすく、このため、弁に塗布された潤滑剤が軟包材に奪われ、弁の開口に支障を来す。一方、上記構成によれば、弁が形成されたカテーテルチューブの先端部が、筒状の硬質部材によって覆われており、このため、弁が包材と広範囲に接触しにくく、潤滑剤が包材に奪われる事態を抑制でき、弁の不具合を生じにくくすることができる。なお、筒状の硬質部材は軟包材に比して硬質であればよい。硬質部材は、可撓性を有していてもよいが、軟包材に比して剛性が高く、形状安定性に優れる。
【0008】
本開示の一態様である弁付カテーテル用保護具において、筒状の硬質部材は、シート状の軟包材の開口部から延出するカテーテルチューブの先端部との間に隙間が存在する状態で先端部を覆うことが好ましい。上記構成によれば、弁と包材が接触する機会を低減させることができ、潤滑剤の減少による弁の開口不良の発生を更に抑制することができる。
【0009】
本開示の一態様である弁付カテーテル用保護具において、弁はカテーテルチューブ内が陰圧となることで、内側に変形し開口する吸引用の弁であることが好ましい。チューブに形成されたスリット状の弁は、陽圧が及ぼされて外方に開く場合に比して、陰圧が及ぼされて内方に開く場合の方が、スリットの対向面に生じる摩擦力が大きく、潤滑剤の不足による影響を受けやすい。吸引用の弁に十分な量の潤滑剤が存在しやすくすると、対向面が滑るようにして弁が変形するため、弁の開口不良が生じにくく、弁の開口不良の発生率を効率的に下げることができる。
【0010】
本開示の一態様である弁付カテーテル用保護具において、軟包材はカテーテルチューブの先端部を露出させる開口部を有し、先端部以外の部分を覆い、カテーテルチューブの先端部を覆う筒状の硬質部材は、軟包材を挟持固定する固定部を備えることを特徴とする。
【0011】
固定部を備える弁付カテーテル用保護具は、軟包材と筒状の硬質部材とを容易に組み付けることができる。
【0012】
本開示の一態様である弁付カテーテル用保護具において、筒状の硬質部材は、固定部を含む固定部材とキャップとを有し、キャップは、シート状の包材の開口部から延出するカテーテルチューブの先端部との間に隙間が存在する状態で先端部を覆うことが好ましい。
【0013】
本開示の一態様である弁付カテーテル用保護具において、キャップには、カテーテルチューブの適切な先端位置を示す位置合わせ表示が設けられていることが好ましい。この場合、弁付カテーテルの適切な位置に保護具を装着することが容易になり、潤滑剤量の減少をより高度に抑制できる。
【0014】
本開示に係る弁付カテーテル用包装体は、カテーテルチューブの先端部にスリット状の弁が形成され、弁に潤滑剤が塗布された弁付カテーテルを収容する包装体であって、形状安定性を有し、カテーテルチューブの先端部との間に隙間が存在する状態で先端部を収容する収容部を有する包装体であることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、包材に潤滑剤が奪われにくく、弁の開口不良を低減することができる。なお、包材はシート状部を有していなくともよく、また、キャップ状部を有していなくともよい。例えば、包材は、弁付カテーテルを保持するパネル状の容器の開口にフィルムが形成されたブリスター包装体であってもよく、カテーテルチューブの先端部との間に隙間が存在する状態で弁付カテーテルを収容できればよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示に係る弁付カテーテル用保護具によれば、弁に塗布された潤滑剤の減少を抑制することが可能である。このため、弁付カテーテルにおける弁の開口不良を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態の一例である弁付カテーテル用保護具、および当該保護具が装着された弁付カテーテルを示す平面図である。
【
図2】
図1中のAA線断面図である(軟包材の図示省略)。
【
図3】実施形態の一例である固定部材の斜視図であって、固定部材を閉じた状態を示す。
【
図4】実施形態の一例である固定部材の斜視図であって、固定部材を開いた状態を示す。
【
図5】弁付カテーテルに対する保護具の装着方法を説明するための図である。
【
図6】弁付カテーテルに対する保護具の装着方法を説明するための図である。
【
図7】実施形態の他の一例である弁付カテーテル用保護具の断面図である。
【
図8】実施形態の他の一例である弁付カテーテル用保護具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本開示は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態の各構成要素を選択的に組み合わせることは当初から想定されている。
【0019】
図1および
図2に、実施形態の一例である弁付カテーテル用保護具10(以下、「保護具10」とする)、および保護具10が装着された弁付カテーテル100を示す。
図1および
図2に示すように、保護具10が装着される弁付カテーテル100は、チューブキャップ102によって先端開口が閉じられ、先端部にスリット弁103が形成されたカテーテルチューブ101(以下、「チューブ101」とする)を備える。なお、スリット弁103は、少なくとも、チューブ101内が陰圧となることで、内側に変形し開口する吸引用の弁であればよい。
【0020】
弁付カテーテル100は、患者の血管に挿入されて、患部への薬液の投与や、患部からの血液等の吸引採取に使用され、チューブ101は患者の体内の目的とする場所まで挿入可能な長さを有する。例えば、弁付カテーテル10は鎖骨下静脈、内頚静脈、大腿静脈、上腕等から中心静脈に挿入する長尺のカテーテルである。
【0021】
チューブ101は、例えばポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、シリコーン樹脂等で構成され、適度な可撓性を有する。チューブ101の構成材料は特に限定されないが、好適な一例としてはシリコーン樹脂が挙げられる。チューブ101には、チューブ101の形状を保持するためのスタイレット104が挿入されていてもよく、例えば、チューブ101内には基端から先端の近傍にわたってスタイレット104が存在している。また、チューブ101の基端には、ハブ105が接続されている。
【0022】
チューブ101の先端部には、上記のように、スリット弁103が形成されている。スリット弁103は、チューブ101の長さ方向に沿ってスリット状に形成された切込みであって、チューブ101の内腔を通じて陽圧または陰圧が作用したときに開口する。他方、チューブ101の内外の圧力差がない未使用時には、スリット弁103の閉鎖状態が維持される。弁付カテーテル100には使用時のみに開口するスリット弁103が存在するため、弁付カテーテル100を用いることで、カテーテル内へのエアーの混入や血液の逆流が防止しつつ、薬液の投与、血液等の吸引採取をスムーズに行うことができる。
【0023】
スリット弁103には、開口をスムーズにするための潤滑剤が塗布されている。潤滑剤の種類は特に限定されないが、一例としては、シリコーンオイルが挙げられる。スリット弁103は、ハブ105に接続されたシリンジ等の投与または吸引器具によって、チューブ101の内腔を通じて陽圧が作用したときに、スリット弁103の縁部が外側に向かって弾性変形することで開口し、チューブ101の内外の圧力差がなくなると元の形状に戻る。また、チューブ101の内腔を通じて陰圧が作用したときには、スリット弁103の縁部が内側に向かって弾性変形することで開口する。
【0024】
スリット弁103に潤滑剤を塗布することで、スリット弁103の開口がスムーズになるが、包材等に潤滑剤が付着してその量が減少すると、特に陰圧作用時に弁が開かず、血液等の吸引採取が困難となる場合がある。詳しくは後述するが、保護具10は、弁付カテーテル100を包材40に収容して包装したときに、スリット弁103が形成されたチューブ101の先端部を硬質部材11で覆って保護し、スリット弁103に塗布された潤滑剤の減少を抑制する。
【0025】
図1および
図2に示すように、保護具10は、チューブ101の先端部を覆う筒状の硬質部材11と、チューブ101の先端部以外の部分を覆うシート状の軟包材40とを備える。弁付カテーテル100は、硬質部材11および軟包材40によって、その全体が覆われている。軟包材40は、スリット弁103が形成されたチューブ101の先端部を露出させる開口部41を有し、先端部以外の部分を覆う長尺体である。硬質部材11は、軟包材40に比して硬質で、剛性の高い部材であって、軟包材40に比して変形しにくい。
【0026】
硬質部材11は、軟包材40の開口部41から延出するチューブ101の先端部を覆う。スリット弁103が形成されたチューブ101の先端部が筒状の硬質部材11によって覆われることにより、スリット弁103が包材と広範囲に接触しにくく、潤滑剤が包材に奪われる事態を抑制できる。本実施形態において、硬質部材11は、軟包材40に取り付けられる固定部材20と、固定部材20に取り付けられる筒状のキャップ30とを備える。この場合、硬質部材11の軟包材40への取り付けと、チューブ101の先端部を完全に覆うためのキャップ30の固定部材20への取り付けとを分けることができ、チューブ101が収容しやすくなる。
【0027】
固定部材20は、軟包材40の開口部41から延出するチューブ101の先端部が通る部分を残しつつ軟包材40を挟んで開口部41を閉じるように軟包材40に取り付けられる。また、キャップ30は、固定部材20に取り付けられ、軟包材40の開口部41から延出するチューブ101の先端部との間に隙間が存在する状態で先端部を覆うことが好ましい。この場合、スリット弁103とキャップ40が接触する機会を低減させることができ、潤滑剤の減少によるスリット弁103の開口不良の発生を更に抑制できる。
【0028】
軟包材40は、長手方向一端部がシール部42によって閉じられ、他端部が開口した細長い袋状に形成されている。軟包材40は、例えば、シート状の樹脂フィルムが袋状にされ、ハブ105が接続されたチューブ101の基端から先端部の近傍にわたって、チューブ101等に内面が接触した状態で弁付カテーテル100を覆っている。一方、スリット弁103が形成されたチューブ101の先端部は、開口部41から軟包材40の外部に延出し、硬質部材11(固定部材20およびキャップ30)によって覆われている。換言すると、チューブ101の先端部は軟包材40に覆われていない。
【0029】
軟包材40を構成する樹脂フィルムは、特に限定されず、例えばポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン、およびポリアミドから選択される少なくとも1種を含む樹脂フィルムである。軟包材40は、不透明であってもよいが、好ましくは透明である。シール部42は、袋状にされた樹脂フィルムの内面同士を熱溶着または溶剤溶着することで形成されてもよく、接着剤を用いて内面同士を接着することで形成されてもよい。このような軟包材40は変形容易であるため、輸送時または保管時にコンパクトにすることができる。
【0030】
軟包材40の長さは、例えば、弁付カテーテル100の長さよりも短く、ハブ105がシール部42に近接配置される。なお、チューブ101の先端部が軟包材40の開口部41から延出するように配置されていれば、弁付カテーテル100の長さ≦軟包材40の長さとしてもよい。軟包材40は、例えば、ハブ105の直径よりも大きな幅を有し、全長にわたって同じ幅で帯状に形成されている。
【0031】
軟包材40には、長手方向に沿ってミシン目線、ハーフカット線等の開封補助線が形成されていてもよい。特に、チューブ101がシリコーン樹脂製であると、軟包材40との摩擦抵抗が大きくなりやすい。その場合、軟包材40からチューブ101を引き抜くことが容易ではないため、開封補助線により軟包材40を破断して弁付カテーテル100を取り出せるようにすることが好ましい。
【0032】
以下、
図1~
図4を適宜参照しながら、固定部材20およびキャップ30について詳説する。
図3および
図4は、固定部材20の斜視図であって、
図3は固定部材20を閉じた状態を、
図4は固定部材20を開いた状態をそれぞれ示す。以下では、説明の便宜上、固定部材20のベース部23の長手方向に沿った方向を「横方向」、筒状部24が延びる方向を「上下方向(筒状部24の先端側が上)」という場合がある。
【0033】
[固定部材(固定部)]
図1~
図4に示すように、固定部材20は、帯状の包材を挟む板状の固定部を有し、第1部材21Aと、第2部材21Bと、第1部材21Aと第2部材21Bをつなぐ連結部22とを含む。第1部材21Aと第2部材21Bが連結されていることにより、固定部材20の取り扱いが容易になる。第2部材21Bは、軟包材40を介して第1部材21Aと対向配置され、第1部材21Aと共に軟包材40を挟む。これにより、固定部材20は、弁付カテーテル100のチューブ101が通る部分を残して開口部41を閉じるように、開口部41が形成された軟包材40の長手方向他端部に固定される。
【0034】
固定部材20は、軟包材40に比して硬質の樹脂で構成される。固定部材20を構成する樹脂は特に限定されないが、一例としては、ポリオレフィン、ポリエステル、硬質ポリ塩化ビニル、ポリオキシメチレン(POM)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)等が挙げられる。なお、固定部材20は、軟包材40に比して変形しにくく形状安定性が高ければ、可撓性を有していてもよく、軟質ポリ塩化ビニル等で構成されていてもよい(キャップ30についても同様)。また、固定部材20は、例えば、第1部材21A、第2部材21B、および連結部22が射出成形等により一体成形され、第1部材21Aと第2部材21Bは一部を除いて互いに同じ形状、寸法を有する。固定部材20は、チューブ101の先端側のみを収容しており、軟包材40がカテーテルチューブの大半を収容するため、輸送時または保管時にコンパクトにすることができる。
【0035】
第1部材21Aおよび第2部材21Bは、連結部22を回転軸として相対回転可能に構成されていることが好ましい。連結部22は、他の部分より薄肉で剛性が低く、ヒンジとして機能する。固定部材20は、第1部材21Aと第2部材21Bの内面同士が接するように閉じた状態(
図3参照)と、第1部材21Aと第2部材21Bの内面同士が接しない開いた状態(
図4参照)をとることができる。
【0036】
本実施形態では、固定部材20が閉じた状態で、第1部材21Aと第2部材21Bの間に軟包材40が挟まれ、軟包材40に固定部材20が取り付けられる。また、固定部材20を開くことで、軟包材40から固定部材20を取り外すことができる。
図4に示す例では、第1部材21Aと第2部材21Bが直線状に並ぶ状態まで開いているが、固定部材20は、軟包材40に対する固定部材20の着脱に支障がない状態まで開けばよい。
【0037】
固定部材20は、軟包材40を挟むベース部23と、ベース部23の上端から突出した筒状部24とを有する。ベース部23および筒状部24は、固定部材20を閉じたときに形成される。ベース部23は、第1部材21Aのベース部23Aと第2部材21Bのベース部23Bが重なって形成される。また、筒状部24は、第1部材21Aの凸部24Aと第2部材21Bの凸部24Bが重なって形成される。ベース部23Aは、平面視略半円状の凹部27Aが下部側に形成された板状部分であって、同様の板形状を有するベース部23Bと共に軟包材40を挟む。
【0038】
ベース部23Aの内面には、先端が尖った突起29Aが形成されており、ベース部23Bの内面には、穴29Bが形成されている。突起29Aは、固定部材20が閉じた状態で、軟包材40を貫通して穴29Bに挿入される。これにより、固定部材20と軟包材40の結合力が高まり、軟包材40から固定部材20が外れることが防止される。突起29Aは、後述する溝26Aを挟むように2つ形成されているが、突起29Aの数、配置等は特に限定されない。なお、穴29Bは、ベース部23Bにおいて、固定部材20を閉じた状態で突起29Aと対向する位置に形成されている。
【0039】
ベース部23A,23Bおよび凸部24A,24Bの内面には、弁付カテーテル100のチューブ101との干渉を避けるための溝26A,26Bがそれぞれ形成されている。ベース部23A,23Bは、外面の一部が隆起し、隆起した部分の内側が凹んでいる。この凹んだ部分が、軟包材40の開口部41から延出するチューブ101を通す溝26A,26Bとなる。溝26A,26Bは、凹部27A,27B側から凸部24A,24B側に向かって次第に細くなったテーパー形状を有し、また凸部24A,24Bの根元から先端まで同じ幅で形成されている。
【0040】
ベース部23A,23Bは、連結部22と反対側の横方向端部に形成された係合部28A,28Bをそれぞれ有する。係合部28Aはベース部23Aの上部に、係合部28Bはベース部23Bの下部にそれぞれ形成されている。そして、係合部28Aには下方に突出した突起が、係合部28Bには上方に突出した突起がそれぞれ存在し、固定部材20が閉じた状態で各突起が互いに引っ掛かって係合する。これにより、固定部材20の閉じた状態が維持される。
【0041】
筒状部24は、上記のように、ベース部23の上端から突出し、凸部24A,24Bが重なることで形成される。凸部24A,24Bは、互いに同じ形状、寸法を有し、円筒を軸方向に沿って半分に切断したような形状を呈する。筒状部24の内径はチューブ101の直径よりも大きく、筒状部24の筒内にはチューブ101を挿通可能な空間が形成される。なお、筒状部24がチューブ101のスリット弁103より基端側の一部を保持するようにしてもよい。また、筒状部24は円筒形状に限定されず、断面多角形状であってもよい。
【0042】
本実施形態では、チューブ101のスリット弁103が形成された部分の一部が筒状部24により覆われている。
図4に示すように、筒状部24は、内部がチューブ101の外径より大きく形成されており、軟包材40の開口部41から延出するチューブ101の先端部との間に隙間が存在する状態で先端部を覆う。また、筒状部24は、キャップ30が装着される部分でもある。筒状部24は先端側に縮径部25を有し、根元側の外径よりも先端側の外径が小さくなっている。キャップ30は、この縮径部25を利用して固定部材20に装着される。
【0043】
[キャップ(キャップ部)]
図1および
図2に示すように、キャップ30は、筒状部24に装着される筒状の部材であって、内部がチューブ101の外径より大きく形成されており、筒状部24の先端開口から延出するチューブ101の先端部との間に隙間が存在する状態で先端部を覆う。本実施形態では、筒状部24およびキャップ30によって、スリット弁103が形成されたチューブ101の先端部が覆われて保護されている。ゆえに、潤滑剤が塗布されたスリット弁103とシート状の軟包材40との接触による潤滑剤量の減少を抑制できる。なお、固定部材20は、キャップ30が筒状部24に装着されることで開かないようになる。
【0044】
キャップ30は、例えば、固定部材20と同様の樹脂で構成される。キャップ30は、不透明であってもよいが、キャップ30の外側から筒内に収容されるチューブ101を視認可能な程度の透明性を有することが好ましい。キャップ30は、少なくとも軸方向一端が開口した円筒形状を有する。キャップ30は、固定部材20と同様に、軟包材40に比して変形しにくく、形状安定性を有する。なお、キャップ30は円筒形状に限定されず、断面多角形状であってもよい。
【0045】
キャップ30は、小径部31と大径部32を含み、軸方向一端側(開口部側)が他端側よりも拡径した形状を有する。大径部32は、内径が固定部材20の縮径部25の外径と同一、またはやや大きく、縮径部25に対して外嵌される。本実施形態では、チューブ101のスリット弁103が大径部32の筒内に配置され、チューブキャップ102が装着されたチューブ101の先端が小径部31の筒内に配置されている。この場合、チューブ101の先端の移動が内径の小さな小径部31によって狭い範囲に限定されるので、大径部32や筒状部24の内面へのスリット弁103の接触が高度に抑制される。
【0046】
また、キャップ30には、チューブ101の適切な先端位置を示す位置合わせ表示33が設けられていることが好ましい。位置合わせ表示33は、例えば、小径部31の周方向に沿ってライン状に形成され、この表示に合わせてチューブ101の先端を配置したときに、スリット弁103が大径部32の筒内に配置されるように形成されている。位置合わせ表示33を設けることで、弁付カテーテル100に対して保護具10を適切な状態で装着することが容易になる。
【0047】
図5および
図6は、弁付カテーテル100に対する保護具10の装着方法を説明するための図である。
図5に示すように、まず、弁付カテーテル100のチューブ101を基端側から軟包材40内に挿入し、スリット弁103が形成されたチューブ101の先端部が開口部41から軟包材40の外部に延出した状態とする。次に、固定部材20の第2部材21Bの内面が軟包材40の一方側の面と接するように固定部材20を配置する。このとき、軟包材40から延出したチューブ101の先端部が、第2部材21Bの内面に形成された溝26Bに沿うように位置合わせを行う。
【0048】
続いて、
図7に示すように、第1部材21Aと第2部材21Bの内面同士が軟包材40を介して対向するように第1部材21Aを閉じて軟包材40を挟み、開口部41を閉じるように軟包材40の長手方向一端部に固定部材20を取り付ける。このとき、第1部材21Aの突起29Aが軟包材40を貫通して第2部材21Bの穴29Bに挿入されると共に、第1部材21Aの係合部28Aが第2部材21Bの係合部28Bに引っ掛かって係合する。これにより、固定部材20が軟包材40に対して結合され、固定部材20の閉じた状態が維持される。本実施形態では、チューブ101の先端部が溝26A,26Bによって形成された固定部材20の内部空間に配置されると共に、チューブ101の先端部の一部は筒状部24の先端から延出する。
【0049】
最後に、筒状部24の縮径部25にキャップ30を装着して、筒状部24の先端から延出したチューブ101の先端部を覆う。これにより、軟包材40の開口部41から延出したチューブ101の先端部の全体が、固定部材20とキャップ30によって覆われる。
【0050】
固定部材20とキャップ30は硬質の筒状部材であるため、内部に挿入されるチューブ101が固定部材20とキャップ30に対して大きく動くことがなく、チューブ101全体がシート状のフィルムで覆われている場合に比して、スリット弁103に塗布された潤滑剤が流出してしまう事態を防止できる。また、固定部材20およびキャップ30の内部はチューブ101の先端部に比して大きく形成されており、チューブ101が多少曲がった状態で固定部材20およびキャップ30に収容されてもチューブ101の先端部と、固定部材20およびキャップ30の内面との間には少なくとも一部に隙間が存在する。このため、チューブ101の先端部に形成されたスリット弁103が固定部材20やキャップ30の内面に当接する事態が低減され、弁に塗布された潤滑剤が流出してしまう事態を更に低減できる。
【0051】
以上のように、上記構成を備えた保護具10によれば、チューブ101の先端部が、軟包材40と別の硬質部材11(固定部材20およびキャップ30)によって先端部との間に隙間が存在する状態で覆われる。このため、潤滑剤が塗布されたスリット弁103と軟包材40を含む包材との接触を防止でき、潤滑剤が包材に奪われて減少することを抑制できる。ゆえに、保護具10が装着された弁付カテーテル100は、陰圧作用時におけるスリット弁103の開口がスムーズである。
【0052】
なお、運搬時の振動等により、スリット弁103が固定部材20やキャップ30の内面に接触したとしても、これらの部材は軟包材40のようなシート体ではなく、スリット弁103の開口に致命的支障を及ぼすレベルまで潤滑剤が失われることは通常想定されない。よって、スリット弁103全体が固定部材20やキャップ30に当接していてもよいが、スリット弁103の少なくとも一部が固定部材20やキャップ30から離間しているのが好ましい。例えば、スリット弁103の一部が固定部材20またはキャップ30と接触するように固定部材20またはキャップ30の内部の一部がチューブ101の外径と同じ径を有するように設計することもできる。
【0053】
上記実施形態は、本開示の目的を損なわない範囲で適宜設計変更できる。例えば、上記実施形態では、チューブ101の長さ方向に沿った直線状のスリット弁103を例示したが、弁の形状はこれに限定されず、例えばU字形状、C字形状等であってもよい。また、スリット弁が複数形成されてもよい。なお、スリット弁が陰圧用と陽圧用と別で形成される場合、陰圧用スリット弁の方が陽圧用に比して開きにくいことが想定されるため、陰圧用スリット弁と包装体との当接をなるべく避ける構成とするのが好ましい。
【0054】
また、上記実施形態では、スリット弁103が固定部材20の筒状部24およびキャップ30によって覆われているが、
図7に示すように、スリット弁103はキャップ30のみによって覆われてもよい。
図7に例示する保護具10Xでは、筒状部24X(縮径部25X)の長さが保護具10の場合よりも短く、スリット弁103の全体が筒状部24Xから延出している。
【0055】
この場合、縮径部25Xに大径部32を外嵌し、固定部材20Xにキャップ30を装着したときに、スリット弁103は大径部32の筒内のみに配置される。大径部32の内径は縮径部25Xの内径よりも大きいため、スリット弁103と保護具10Xの隙間を、保護具10を用いた場合よりも大きくすることができる。
【0056】
また、
図8に例示する保護具10Yは、軟包材40を挟んで開口部41を閉じるように取り付けられ、チューブ101の先端部を覆う硬質部材11Yが1つの部材で構成されている点で、硬質部材11が2つの部材で構成された保護具10と異なる。保護具10の場合と同様に、硬質部材11Yは互いに連結された第1部材50Aと第2部材50Bを含む。また、チューブ101の先端部を覆う筒状部は、互いに同じ形状、寸法を有し、円筒を軸方向に沿って半分に切断したような形状を呈する凸部51A,51Bが重なることで形成される。保護具10Yによれば、部品点数が減るため、例えば、生産性、取り扱い性が向上する。なお、固定部はヒンジで連結されていなくともよく、複数部材を組み付けることで固定部が形成されてもよい。
【0057】
なお、固定部と包材との固定方法は固定部による挟持固定に限らず、例えば、接着剤等によって固着してもよい。また、固定部の形状は板状に限るものではなく、固定部と包材とを同じ硬さの部材としてもよい。包材はシート状部を有していなくともよく、例えば、包材は、弁付カテーテルを輪っか状にまとめた状態で保持するパネル状の容器の開口にフィルムが形成されたブリスター包装体であってもよい。また、包材、固定部及びキャップを一体としてもよく、例えばブリスター包装体の場合、弁付カテーテルの弁が位置する部分のパネル底面に凹部を設け、弁と離間させるパネル底面とすることにより、弁と包装体とが接触しない包装体を実現してもよい。包装体は、形状安定性を有し、カテーテルチューブの先端部との間に隙間が存在する状態でチューブの先端部を収容する収容部を有していればよい。
【符号の説明】
【0058】
10 弁付カテーテル用保護具、11 硬質部材、20 固定部材、21A 第1部材、21B 第2部材、22 連結部、23,23A,23B ベース部、24 筒状部、24A,24B 凸部、25 縮径部、26A,26B 溝、27A,27B 凹部、28A,28B 係合部、29A 突起、29B 穴、30 キャップ、31 小径部、32 大径部、33 位置合わせ表示、40 軟包材、41 開口部、42 シール部、100 弁付カテーテル、101 チューブ、102 チューブキャップ、103 スリット弁、104 スタイレット、105 ハブ