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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ヒドロキノンのフレーク群
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/84 20060101AFI20241106BHJP
   C07C 39/08 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C07C37/84
C07C39/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020107925
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003025
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】畠山 明彦
(72)【発明者】
【氏名】日野 彰
(72)【発明者】
【氏名】溝川 有紀
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】河口 和幸
(72)【発明者】
【氏名】弘津 健二
(72)【発明者】
【氏名】井伊 宏文
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-541467(JP,A)
【文献】国際公開第2020/115078(WO,A1)
【文献】特表2006-503900(JP,A)
【文献】特開2000-302716(JP,A)
【文献】国際公開第2019/182035(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/066385(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/84
C07C 39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキノンのフレーク群であって、
フレークの長さのフレーク群における平均が5.0mm~32.8mmの範囲にあり、
フレークの幅のフレーク群における平均が2.0mm~18.7mmの範囲にあり、
フレークの厚さのフレーク群における平均が1.6mm~3.0mmの範囲にあり、
フレーク群の累積比表面積が13m /g~15m /gの範囲にあり、
フレーク群の累積細孔容積が0.04ml/g以上であり、
フレーク群のHausner比が1.5以下である、
ヒドロキノンのフレーク群。
【請求項2】
フレーク群中の微粉率が1質量%未満である、請求項1に記載のヒドロキノンのフレーク群。
【請求項3】
フレーク群中の微粉率が0.5質量%未満である、請求項2に記載のヒドロキノンのフレーク群。
【請求項4】
フレーク群における最大厚さが2.0mm~4.0mmの範囲にある、請求項1~のいずれか一項に記載のヒドロキノンのフレーク群。
【請求項5】
フレーク群の累積細孔容積が0.05ml/g~0.20ml/gの範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載のヒドロキノンのフレーク群。
【請求項6】
フレーク群の圧縮度が33%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のヒドロキノンのフレーク群。
【請求項7】
フレーク群の圧壊強度が15N以下である、または、凝集しない、請求項1~のいずれか一項に記載のヒドロキノンのフレーク群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキノンのフレーク群に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキノンは、重合禁止剤または酸化防止剤として広く使用されている。
特許文献1には、ヒドロキノンを熱水中で溶解し、その溶液を液滴に細分化し、冷ガスと接触させ、粒径100μm~3000μmのビーズ状に加工することが記載されている。
特許文献2には、溶融状態のヒドロキノンを噴霧して、円筒体の上に堆積させて固化し、円筒体を回転させることにより固化したヒドロキノンを落下させることにより、特定の長さ、幅、厚さ及び特定の嵩密度を有するヒドロキノンフレークが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4909515号公報
【文献】特許第5676101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒドロキノンは、重合禁止剤または酸化防止剤と使用される際に、溶媒である水や有機溶媒に溶解させるため、溶解速度が速いことが望まれる。
また、ヒドロキノンは、微粉状であると、帯電して静電気の影響を受けやすくなり、ハンドリングが難しくなるという問題がある。
特許文献1に記載のヒドロキノンビーズは、製造工程において、特別な装置を必要とし、既存の設備を使用できないという問題があった。また、液滴を細分化する際にヒドロキノンの粉塵が発生するという問題があった。さらには、水や有機溶媒への溶解時間を要した。
特許文献2に記載のヒドロキノンフレークは、製造直後の微粉の割合が、十分に低くない上に、厚さが薄いために、運送や貯蔵過程における崩壊によりさらに微粉の割合が増え、粉塵の問題が著しかった。また、ブロッキングし易いという問題があった。
本発明は、微粉率を低く抑えつつ、水への溶解時間が実用的な範囲内であり、さらに、ブロッキングしにくいヒドロキノンのフレーク群を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、たとえば、以下の[1]~[15]である。
[1]ヒドロキノンのフレーク群であって、
フレークの長さのフレーク群における平均が2.0mm~45.0mmの範囲にあり、フレークの幅のフレーク群における平均が2.0mm~30.0mmの範囲にあり、フレークの厚さのフレーク群における平均が1.6mm~3.5mmの範囲にある、ヒドロキノンのフレーク群。
[2]フレーク群中の微粉率が1質量%未満である、[1]のヒドロキノンのフレーク群。
[3]製造直後のフレーク群中の微粉率の含有量が0.5質量%未満である、[2]のヒドロキノンのフレーク群。
[4]フレークの長さのフレーク群における平均が5.0mm~30.0mmの範囲にある、[1]~[3]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[5]フレークの幅のフレーク群における平均が2.0mm~16.0mmの範囲にある、[1]~[4]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[6]フレークの厚さのフレーク群における平均が1.6mm~3.0mmの範囲にある、[1]~[5]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[7]フレーク群における最大厚さが2.0mm~4.0mmの範囲にある、[1]~[6]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[8]フレーク群の累積比表面積が10m/g以上である、[1]~[7]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[9]フレーク群の累積比表面積が13m/g~15m/gの範囲にある、[8]のヒドロキノンのフレーク群。
[10]フレーク群の累積細孔容積が0.04ml/g以上である、[1]~[9]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[11]フレーク群の累積細孔容積が0.05ml/g~0.20ml/gの範囲にある、[10]のヒドロキノンのフレーク群。
[12]フレーク群のHausner比が1.5以下である、[1]~[11]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[13]フレーク群の圧縮度が33%以下である、[1]~[12]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[14]フレーク群の圧壊強度が15N以下である、または、凝集しない、[1]~[13]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群。
[15][1]~[14]のいずれかのヒドロキノンのフレーク群を用いた重合防止剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明のヒドロキノンのフレーク群は、微粉率が低く抑えられ、水への溶解時間が実用的な範囲内であり、ブロッキングしにくい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】スチールベルトフレーカーの一例を示す概略図である。
図2】ドラムフレーカーの一例を示す概略図である。
図3】ドラムフレーカーの一例を示す概略図である。
図4】フレークの一例の光学顕微鏡の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、
「フレーク」とは、下記に定義される長さに対する厚さの比(厚さ/長さ)が0.030~1.000の範囲にある粒をいう。
「フレーク」の形状は、特に限定されず、球状、楕円状、直方体、多角形等様々な形状を含む。
「ヒドロキノンのフレーク群」とは、フレーク状のヒドロキノンの集合体をいう。以下、「フレーク群」ともいう。
【0009】
フレークの「長さ」、「幅」、「厚さ」は、それぞれ以下のように定義される。
1個のフレークを平行六面体の内側の各面に1点以上が接するように平行六面体中に収納した場合に、該平行六面体の互いに直交する三方向における辺の中で、最も長い辺を「長さ」、2番目に長い辺を「幅」、最も短い辺を「厚さ」という。辺の値は、ノギス目盛0.01(mm単位)で測定し、小数点以下第二位の値を四捨五入した値である。
【0010】
ヒドロキノンのフレーク群は、フレークの長さ、幅、厚さが分布をもって得られる。
フレークの長さのフレーク群における平均、フレークの幅のフレーク群における平均、フレークの厚さのフレーク群における平均は、それぞれフレーク群中の任意の10個のフレークの長さの平均、フレーク群中の任意の10個のフレークの幅の平均、フレーク群中の任意の10個のフレークの厚さの平均をいう。本明細書では、フレーク群におけるフレーク1個の長さの平均、幅の平均、厚さの平均及び最大厚さの1又は複数を、フレーク寸法ということもある。
【0011】
「最大厚さ」とは、フレーク群中の任意の10個のフレークの厚さの中で、最大の厚さをいう。
本明細書において、「微粉」とは、目開き105μmの篩を通過するフレークの崩壊物をいう。
【0012】
図4にフレーク1個の例を示す。
1個のフレークの長さのフレーク群における平均は、2.0mm~45.0mmの範囲にあり、5.0mm~30.0mmの範囲にあることが好ましく、5.0mm~25.0mmの範囲にあることがより好ましい。
1個のフレークの幅のフレーク群における平均は、2.0mm~30.0mmの範囲にあり、2.0mm~16.0mmの範囲にあることが好ましく、5.0mm~13.0mmの範囲にあることがより好ましい。
1個のフレークの厚さのフレーク群における平均は、1.6mm~3.5mmの範囲にあり、1.6mm~3.0mmの範囲にあることが好ましく、1.6mm~2.5mmの範囲にあることがより好ましい。
フレーク群におけるフレークの最大厚さは、2.0mm~4.0mmの範囲にあり、2.0mm~3.5mmの範囲にあることが好ましく、2.0mm~3.0mmの範囲にあることがより好ましい。
1個のフレークのフレーク群における長さの平均、幅の平均、厚さの平均、最大厚さが上記記載の範囲であれば、水への溶解時間の増加と微粉率の増加を両方抑えることが出来るので好ましい。
【0013】
水銀圧入法により測定したフレーク群の累積比表面積が10m/g以上であることが好ましく、13m/g~15m/gの範囲にあることがより好ましく、13m/g~14m/gの範囲にあることがさらに好ましい。
水銀圧入法により測定したフレーク群の累積細孔容積が0.04ml/g以上であることが好ましく、0.05ml/g~0.20ml/gの範囲にあることがより好ましく、0.06ml/g~0.15ml/gの範囲にあることがさらに好ましい。
累積比表面積と累積細孔容積が上記範囲であれば、推定ではあるが、微粉率の増加を抑えながら、水などの溶媒が含侵できる程度のナノオーダーの細孔を形成し、溶媒への接触面積を高めることができると考えられ、溶解時間を短縮する観点から好ましい。
なお、累積比表面積及び累積細孔容積の具体的な測定方法は、実施例記載の測定方法による。
【0014】
フレーク群の嵩密度は、0.3g/ml~0.7g/mlが好ましく、0.4g/ml~0.6g/mlがより好ましい。
フレーク群のタップ密度は、0.5g/ml~0.8g/mlが好ましく、0.6g/ml~0.7g/mlがより好ましい。
嵩密度及びタップ密度が上記範囲であれば、粉体の流動性が良くなる。すなわち、Hausner比(タップ密度/嵩密度)は、1.5以下であれば、配管などでの輸送効率をよくすることができ、1.3以下であることが好ましく、1.27以下であることがより好ましい。
また、嵩密度及びタップ密度が上記範囲であれば、粉体の圧縮性の指標{(タップ密度-嵩密度)/タップ密度×100}である圧縮度は、33%以下であれば、サイロやホッパーなどの容器への充填効率がよくなる観点で好ましく、25%以下であれば更に好ましく、22%以下であればもっと好ましい。
嵩密度及びタップ密度は、実施例記載の測定方法で測定した値である。
【0015】
フレーク群100質量%中の微粉率は、1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満であることがより好ましく、0.2質量%未満であることがさらに好ましい。微粉率とは、フレーク群を目開き105μmの篩にかけ、篩を通過した微粉の質量のフレーク群全体の質量に対する割合(質量%)を示す。
運送や貯蔵過程でフレークに衝撃が加わると、フレークが崩壊し、微粉が生じることがある。微粉率とは、このような微粉が新たに生成する前の、フレーク群に含まれる微粉の含有量の割合である。具体的には、後述の製造方法でフレークが製造された直後に測定される。
【0016】
ヒドロキノンフレーク群を水に溶解する場合において、ヒドロキノンフレーク群1.44gを純水28.56gに、25℃、回転速度600rpmで完全に溶解するのに要する時間、すなわちヒドロキノン濃度が4.8質量%濃度の水溶液を調製するのに要する溶解時間は、30分以下が好ましく、5分~20分がより好ましく、5分~15分がさらに好ましい。このように、本発明のフレーク群は、従来のヒドロキノンフレーク群に比べ、フレークの寸法が大きいであるにもかかわらず、水に対する溶解時間が適度な範囲である。
【0017】
圧壊強度は、ブロッキングを抑制する観点から、15N以下又は凝集しないことが好ましく、10N以下又は凝集しないことであることがより好ましく、5N以下又は凝集しないことであることがさらに好ましく、凝集しないことが、特に好ましい。ただし、フレークが3粒以上凝集していなければ、凝集しない、と判断する。圧壊強度は、実施例記載の測定方法で測定した値である。
【0018】
<ヒドロキノンの製造方法>
ヒドロキノンは、通常、フェノール又はその水酸基保護化合物を、過酸化物等によって酸化することにより得られる。具体的には、例えば国際公開公報2019/182035記載の製造方法によって得ることができる。
【0019】
<フレークの製造方法>
ヒドロキノンのフレークを製造する方法として、ドラムフレーカー、テーブルフレーカー、スチールベルトフレーカー、ダブルスチールベルトフレーカー等の一般的フレーク装置が選ばれる。特に限定されない。このように本発明のヒドロキノンのフレーク群は、特開2012-82158公報、特許5837755公報などに記載された公知の装置を用いて製造することができる。
【0020】
例えば、スチールベルトフレーカーを用いるのであれば、ヒドロキノンの溶融液を押出機先端のノズルより連続的に押出して、板状または紐状のヒドロキノン溶融液(以下、「溶融液」ともいう)を形成する。送液量は例えば実施例記載の量などが参酌される。ノズルは単一の孔を有するものであってもよく、また複数の孔を有するものであってもよい。また、ノズルの孔の形状は、目的とする溶融液の断面形状に応じて適宜選択され、例えば円形、楕円形、菱形、長方形等、任意の形状とし得る。
【0021】
上記ノズルより押し出された溶融液を、金属ベルトクーラとして機能する金属ベルト上に供給し、金属ベルトにより冷却して固化させる。金属ベルトの材質、ベルト長、ベルト幅などは例えば実施例記載の内容が参酌される。金属ベルトクーラは、金属性のエンドレス搬送ベルト(金属ベルト)を有し、このエンドレス搬送ベルトが、内周側に設けられる冷却機構によって冷却される装置であり、このエンドレス搬送ベルトの外周側に被冷却物を供給して、被冷却物の冷却を行う。冷却温度は5~50℃が好ましく、10~30℃がより好ましい。冷却温度は、冷却水等の冷却媒体の温度又はエンドレス搬送ベルトの温度である。
【0022】
金属ベルトクーラの種類は特に制限はなく、例えば図1に示すように、溶融押出機のノズル1から押し出した溶融液2を、二枚の金属ベルト3,4の間に挟持し、ベルト終端まで搬送するものとできる。二枚の金属ベルト3,4は、冷却機構5,6から冷却水が噴射されて冷却される。金属ベルトクーラでは、冷却水が溶融液2と接触せず、溶融液2を金属ベルト3、4を介して冷却するため、溶融液2の冷却時に、溶融液2が吸湿するおそれがない。
なお、金属ベルトクーラには、図1に示すように、溶融液2を圧延するためのプレスローラ11等を設けてもよい。
【0023】
また金属ベルトクーラは、図1に示すものに限定されるものではなく、例えば1枚の金属ベルトにより溶融液の冷却を行うシングルベルトクーラを用いること等も可能である。ただし、2方向から溶融液を挟持し、冷却を行うダブルクーラ方式であることが、冷却効率等の面から好ましい。
【0024】
前述の溶融液固化工程により得られた板状または紐状のヒドロキノンの固化物(以下、「固化物」ともいう)を、目的とするヒドロキノンフレークの長さとなるように切断、もしくは固化物を破砕機21で破砕し、断片化する。なお、図1には、固化物を破砕機21で破砕し、ヒドロキノンフレーク22とする例を示す。
【0025】
固化物の切断を行う場合には、固化物の長さ方向に対して通常、直交するように切断する。
【0026】
固化物の切断に用いる装置としては、固化物を切断するためのカッターを備えるものであればよく、例えば板状または紐状の固化物をベルト端部に刃を接地させて剥がし取るスクレーパーブレード、回転刃と固定刃とでカットするペレタイザー等が挙げられる。
【0027】
ドラムフレーカーを図2及び図3に示す。
供給タンク35および42に溶融ヒドロキノンが備えられる。供給タンク35および42は、温度調節装置を備え、ヒドロキノンを溶融状態に保つ。溶融状態のヒドロキノンの温度は、通常172℃~220℃である。図2において、供給タンク35には、図2に示すように冷却ドラム30の一部が浸漬している。冷却ドラム30の供給タンク35への浸漬深さは、通常1mm~5mmである。冷却ドラム30は回転し、回転により、その表面に溶融したヒドロキノンを付着させ、薄膜36を形成する。あるいは、図3のように、溶融したヒドロキノンを供給タンク42からポンプ43を用いて給液ノズル45に移送し、給液ノズル45から冷却ドラム40外表面へ供給し、冷却ドラムの外表面に溶融したヒドロキノンを付着させ、回転により、薄膜46を形成する。冷却ドラムは例えば、縦型あるいは横型の金属製耐圧容器はもちろん、汎用の金属製ドラム缶や樹脂製ドラムであってもよい。冷却ドラムは、熱伝導材料からなるか、熱伝導材料により被覆されていることが好ましい。冷却ドラムの寸法は特に制限されないが、0.5m~1.0m程度である。
【0028】
冷却ドラム30及び40を冷却させることで、ヒドロキノンを固化させる。冷却方法は特に限定されないが、水をジャケットに循環させる方法や冷却ドラム30及び40に冷却水噴霧口34及び44から冷却ドラム30及び40の内側面に水、水蒸気、冷媒を噴霧する方法などが挙げられる。冷却温度は5℃~50℃が好ましい。
【0029】
固化したヒドロキノンが、任意の知られている手段によって、例えば、重力によって、固化した薄膜36及び46を冷却ドラム30及び40から剥離させるスクレーパーブレード37及び47を使用して、フレーク38及び48の状態で回収される。回収されたヒドロキノンフレーク38及び48は、コンベア32等によりチャンバー31及び41の外に取り出される。
フレークの厚さは、薄膜36及び46の厚さの制御、すなわち冷却ドラム30及び40へのヒドロキノンの供給速度、冷却ドラムの回転速度、冷却温度を制御することによって決定される。
【0030】
<用途>
本発明のヒドロキノンのフレーク群は、有機合成中間体又は製造原料として有用であり、還元剤、ゴム薬、染料、医薬、農薬、重合防止剤、酸化抑制剤などの分野に利用され、好ましくは重合防止剤として使用される。
【実施例
【0031】
本発明を実施例と比較例を挙げて具体的に説明する。
【0032】
実施例及び比較例で得られたフレークについての表1における寸法、測定値は、以下の測定方法で測定した。
<フレーク寸法の測定>
無作為にフレークを10個取り出し、ノギス(目盛0.01mm単位)を用いて、長さ、幅、厚さを測定した。10個の平均の長さ、幅、厚さをそれぞれ求めた(以下「平均長さ」、「平均幅」、「平均厚さ」ともいう)。該10個のフレークの厚さの中で、最大の厚さを最大厚さとした。
【0033】
<微粉率の測定>
フレーク群を目開き105μmの篩にかけ、篩を通過した微粉の質量のフレーク群全体の質量に対する割合(質量%)を求めた。
運送や貯蔵過程でフレークに衝撃が加わると、フレークが崩壊し、微粉が生じることがある。本明細書における微粉の含有量とは、このような微粉が新たに生成する前の、フレーク群に含まれる微粉の含有量である。具体的には、フレークが製造された直後に測定した。
【0034】
<嵩密度の測定>
フレーク群100gを250mlメスシリンダーに静かに入れ、目盛りを読み取って体積当たりの質量を算出した。
【0035】
<タップ密度の測定>
フレーク群100gを250mlメスシリンダーに静かに入れ、メスシリンダーを5cm程度浮かし、作業台に自重で落とし振動を与える操作を100回行った後、目盛りを読み取って体積当たりの質量を算出した。
【0036】
<溶解時間の測定>
50mlのガラス容器にフレーク群を1.44g、純水28.56gを入れ、25℃の温度条件下において、マグネットスターラーで600rpmで攪拌し、目視で溶解し終えた時間を計測した。計測された時間は、ヒドロキノンの4.8質量%水溶液を調製するのに要する時間である。
【0037】
<累積比表面積と累積細孔容積の測定>
累積比表面積と累積細孔容積の測定は、水銀圧入法(JIS R1655)による水銀ポロシメータで測定した。測定装置は、Quantachrome Instruments社製の全自動細孔分布測定装置PORE MASTER 60-GTを用いた。具体的には、フレーク群を試料容器に入れ、2.67Pa以下の圧力で30分間脱気し、次いで、水銀を試料容器内に導入し、加圧を徐々にしながら水銀を試料の細孔へ圧入した。細孔直径が400μmに相当する圧力0.53psia(約3.68kPa)から、細孔直径が3.6nmに相当する圧力60000psia(約413MPa)まで水銀を多孔質樹脂体に圧入し、総水銀圧入量(mL)を試料重量(g)で除することにより累積細孔容積(mL/g)を求めた。累積比表面積は全ての細孔を円筒形と仮定し、総水銀注入量から平均細孔径を除して求めた。
【0038】
<圧壊強度の測定>
フレーク群に水を均一に噴霧して10%含水させた状態で、0.18kg/cmの荷重をフレーク群に掛け、9時間の50℃加温と15時間の25℃冷却サイクルを合計5日間行いフレークの凝集体(固結物)を作成した。得られたフレークの凝集体を、(株)イマダ製ZTS-500Nで凝集体崩壊時の最大抵抗値を測定し、圧壊強度とした。ただし、フレークが3粒以上凝集していなければ、凝集せず、と判断する。圧壊強度が高いほど、凝集体は崩壊され難く、ブロッキングし易いと判断する。フレークの寸法や表面状態の影響を受けるためである。
【0039】
[実施例1]
180から200℃に溶融したヒドロキノンを供給ノズルより320kg/hrで送液し、ヒドロキノンの溶融液を、一対の1650SMベルトクーラ(上部ベルト:ベルト幅650mm、ベルト長3m、下部ベルト:ベルト幅600mm、ベルト長6m)の下部ベルト上に押出し、15℃の冷却水をベルト裏面より噴霧し、溶融液をベルトクーラで接触固化させた。固化したヒドロキノンを、一対のベルトクーラの端部に配置したスクレーパーブレードによりカットしたところ、平均長さ17.7mm、平均幅12.0mm、平均厚さ1.6mmのヒドロキノンのフレーク群を得た。
【0040】
[実施例2]
冷却水温度を17℃に変えた以外は実施例1と同様の方法で、固化したヒドロキノンを得た。固化したフレークを、実施例1と同様にスクレーパーブレードによりカットしたところ、平均長さ11.4mm、平均幅6.2mm、平均厚さ2.0mmのヒドロキノンのフレーク群を得た。
【0041】
[実施例3]
冷却水温度を19℃に変えた以外は実施例1と同様の方法で、固化したヒドロキノンを得た。固化したフレークを、実施例1と同様にスクレーパーブレードによりカットしたところ、平均長さ14.3mm、平均幅7.0mm、平均厚さ2.2mmのヒドロキノンのフレーク群を得た。
【0042】
[実施例4]
冷却水温度を25℃に変えた以外は実施例1と同様の方法で、固化したヒドロキノンを得た。固化したフレークを、実施例1と同様にスクレーパーブレードによりカットしたところ、平均長さ24.3mm、平均幅15.2mm、平均厚さ2.4mmのヒドロキノンのフレーク群を得た。
【0043】
[実施例5]
冷却水温度を30℃に変えた以外は実施例1と同様の方法で、固化したヒドロキノンを得た。固化したフレークを、実施例1と同様にスクレーパーブレードによりカットしたところ、平均長さ32.8mm、平均幅18.7mm、平均厚さ2.7mmのヒドロキノンのフレーク群を得た。
【0044】
[比較例1]
187℃に溶融したヒドロキノンを冷却ドラム(ドラム直径0.63m、ドラム幅0.3m、ドラム円周1.98m、ドラム回転数10.3rpm)の下部にて1mm程度浸漬させ、飽和蒸気の冷媒153℃をヒドロキノンに2秒間当てて固化後、スクレーパーブレードにて剥離してヒドロキノンのフレーク群を得た。フレーク群は、平均長さ7.3mm、平均幅5.5mm、平均厚さ0.5mmであった。
【0045】
【表1】
【0046】
表1中の各値は、以下により求めた。以下の値は、フレーク1粒あたりの値である。
見かけ体積(A):(A)=平均長さ×平均幅×最大厚さ(ml)
見かけ重量(B):(B)=(A)×1.33(g)
(ヒドロキノンの密度1.33g/ml(20℃))
実質体積(C):(C)=(A)-(B)×累積細孔容積(ml)
実質重量(D):(D)=(C)×1.33(g)
(ヒドロキノンの密度1.33g/ml(20℃))
実質表面積(E):(E)=(D)×累積比表面積(m
見かけ体積比(F):(F)=(A)/0.04
(各実施例の(A)の値を比較例1の(A)の値で除した)
実質表面積比(G):(G)=(E)/0.35
(各実施例の(E)の値を比較例1の(E)の値で除した)
(G)/(F):フレーク寸法に対する接触面積の増加効果を指す。(G)/(F)が大 きいほど、フレーク寸法に対する溶媒への接触面積が増加している。比 較例を基準として、1.0より大きいほど、フレーク寸法に対する溶解 時間の短縮効果が大きいことを示す。
【0047】
溶解時間は、見かけ体積に表されるフレーク寸法に準じた値になると推測されるところ、実施例1~5は、比較例1と比べて、見かけ体積が4.1倍~50.9倍であるが、溶解時間は同程度か多くても3倍程度の増加にとどまっている。その理由としては、実施例1~5は、(G)/(F)の値が1.5倍~1.6倍であるため、フレーク寸法が比較例よりも大きいにも関わらず、適度な溶解時間とすることができたと考えられる。
実施例1~5は、比較例1と比べて、Hausner比、圧縮度がいずれも低いため、流動性や充填効率に優れており、運送や貯蔵に好適である。
実施例1、2、5は、比較例1に比べて圧壊強度が低いか、凝集しないため、比較例1よりもブロッキングがしにくいことがわかる。
実施例1~5は、比較例1と比べて、微粉率も低いため、フレークが崩壊しにくいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のヒドロキノンのフレーク群は、種々の有機合成中間体又は製造原料として有用であり、還元剤、ゴム薬、染料、医薬、農薬、重合防止剤、酸化抑制剤などの分野に利用される。
【符号の説明】
【0049】
1 ノズル
2 溶融液
3,4 金属ベルト
5,6 冷却機構
11 プレスローラ
21 破砕機
22 ヒドロキノンフレーク
30 冷却ドラム
31 チャンバー
32 窒素
33 ガス処理装置
34 冷却水噴霧口
35 供給タンク
36 薄膜
37 スクレーパーブレード
38 ヒドロキノンフレーク
39 コンベア
40 冷却ドラム
41 チャンバー
42 供給タンク
43 ポンプ
44 冷却水噴霧口ノズル
45 給液ノズル
46 薄膜
47 スクレーパーブレード
48 ヒドロキノンフレーク
図1
図2
図3
図4