(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】はんだ膜、光学デバイス用部品、及び光学デバイス
(51)【国際特許分類】
B23K 35/14 20060101AFI20241106BHJP
C22C 5/02 20060101ALI20241106BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20241106BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241106BHJP
H01L 33/58 20100101ALI20241106BHJP
H01L 33/48 20100101ALI20241106BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20241106BHJP
H01L 31/02 20060101ALI20241106BHJP
H01L 31/0232 20140101ALI20241106BHJP
G02B 7/18 20210101ALI20241106BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20241106BHJP
H05K 1/03 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
B23K35/14 A
C22C5/02
B32B15/01 E
C23C14/06 N
H01L33/58
H01L33/48
H01S5/022
H01L31/02 B
H01L31/02 D
G02B7/18 100
B23K35/30 310A
H05K1/03 610B
(21)【出願番号】P 2020125105
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】山口 義正
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩輝
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-110626(JP,A)
【文献】特開2015-138870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/00- 5/10
B23K 35/14
B23K 35/30
B32B 1/00-43/00
C23C 14/00-14/58
H01L 31/00-31/02
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学デバイスにおける部品の固定に用いられるはんだ膜であって、
Au-Sn合金膜を備え、
前記Au-Sn合金膜が、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有
し、
前記Au-Sn合金膜が、対向している第1の主面及び第2の主面を有し、
前記第1の主面が、前記部品が設けられる側の主面であり、
前記第2の主面が、前記部品が設けられる側とは反対側の外側の主面であり、
前記第1の主面及び前記第2の主面を結ぶ方向が、前記厚み方向であり、
前記厚み方向において、前記第1の主面側におけるSnの濃度が、Auの濃度より大きくなっており、前記第2の主面側におけるSnの濃度が、Auの濃度より小さくなっている、はんだ膜。
【請求項2】
光学デバイスにおける部品の固定に用いられるはんだ膜であって、
Au-Sn合金膜を備え、
前記Au-Sn合金膜が、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有し、
表面の算術平均粗さRaが、0.05μm以下である、はんだ膜。
【請求項3】
光学デバイスにおける部品の固定に用いられるはんだ膜であって、
Au-Sn合金膜を備え、
前記Au-Sn合金膜が、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有し、
表面の最大高さRzが、0.25μm以下である、はんだ膜。
【請求項4】
光学デバイスにおける部品の固定に用いられるはんだ膜であって、
Au-Sn合金膜を備え、
前記Au-Sn合金膜が、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有し、
前記はんだ膜全体の厚みが、1μm以上、10μm以下である、はんだ膜。
【請求項5】
前記Au-Sn合金膜が、Au-Sn合金を蒸着源に用いて蒸着された蒸着膜である、請求項1
~4のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項6】
前記Au-Sn合金膜におけるAuの質量の合計をM
Aとし、Snの質量の合計をM
Sとしたときに、Au及びSnの質量の合計に対するAuの質量の比M
A/(M
A+M
S)が、0.60以上、0.90以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項7】
前記Au-Sn合金膜が複数積層された多層膜を備える、請求項1~
6のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項8】
前記多層膜における前記Au-Sn合金膜の積層数が、1層以上、30層以下である、請求項
7に記載のはんだ膜。
【請求項9】
前記部品と前記Au-Sn合金膜の間に設けられる密着膜をさらに備える、請求項1~
8のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項10】
前記密着膜が、
前記部品側に設けられており、Cr、Ti、及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む、第1の層と、
前記第1の層上に設けられており、Ni、Pt、Pd、及びNi-Cr合金からなる群から選択される少なくとも1種を含む、第2の層と、
前記第2の層上に設けられており、PtもしくはAuを含む、第3の層と、
を有する、請求項
9に記載のはんだ膜。
【請求項11】
前記Au-Sn合金膜における前記部品側とは反対側の主面上に設けられている、Au膜をさらに備え、前記Au膜が最外層である、請求項1~
10のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項12】
主面を有する部品本体と、
前記部品本体の前記主面上に設けられている、請求項1~
11のいずれか1項に記載のはんだ膜と、
を備える、光学デバイス用部品。
【請求項13】
プリズム、光学素子、前記光学素子を搭載するためのサブマウント、及び前記光学素子を搭載するためのパッケージ用部材からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項
12に記載の光学デバイス用部品。
【請求項14】
プリズムと、
前記プリズムに光を出射する又は前記プリズムからの光を受光する光学素子と、
前記プリズム及び前記光学素子が搭載されている、パッケージと、
前記光学素子及び前記パッケージの間に設けられている、サブマウントと、
を備え、
請求項1~
11のいずれか1項に記載のはんだ膜によって、前記プリズム及び前記パッケージが接合され、前記光学素子及び前記サブマウントが接合され、前記サブマウント及び前記パッケージが接合され、又は前記パッケージを構成する部材同士が接合されている、光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ膜、並びに該はんだ膜を用いた光学デバイス用部品及び光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや、プロジェクタ、あるいは自動車のヘッドランプ等の用途においては、LD(Laser Diode)や、LED(Light Emitting Diode)などの光学素子が搭載された光学デバイスが用いられている。光学デバイスにおいて、光学素子などの部品は、はんだ膜を用いて実装基板に固定されている。はんだ膜としては、例えば、Au及びSnを含むはんだ膜が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、Au層及びSn層を交互に積層したAuSn多層ハンダを用いて、光半導体素子を実装基板上にボンディングする方法が開示されている。特許文献1のAuSn多層ハンダでは、合計で7層のAu層及びSn層が積層されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、Au及びSnを含むはんだ膜を形成する方法として、合金化したAuSnからなる蒸着源を第1の温度で加熱しSnを選択的に蒸発させてSnリッチな第1の層を形成した後に、蒸着源を第1の温度よりも高い第2の温度でさらに加熱しAuリッチな第2の層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-006073号公報
【文献】特開2008-263130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学デバイスにおいては、光学素子に加えて、光学素子を搭載するためのサブマウントや、プリズムなどの部品なども搭載されることがあり、これらの接合においてもはんだ膜が用いられることが多い。しかしながら、特許文献1や特許文献2のようなはんだ膜は、表面の平坦性が十分でなく、上記のような部品を実装基板等に固定する際に、十分に密着性を高められない場合がある。また、はんだ膜の膜応力によって反りが生じることがあり、この点からも密着性を高められない場合がある。この場合、光学素子やプリズムが実装基板から剥離したり、あるいは光学素子やプリズムが高さ方向において位置ずれしたりすることがある。従って、光学デバイスの信頼性を十分に高められないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、表面の平坦性に優れ、反りを抑制することができる、はんだ膜、並びに該はんだ膜を用いた光学デバイス用部品及び光学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るはんだ膜は、光学デバイスにおける部品の固定に用いられるはんだ膜であって、Au-Sn合金膜を備え、前記Au-Sn合金膜が、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有することを特徴とする。
【0009】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜が、対向している第1の主面及び第2の主面を有し、前記第1の主面が、前記部品が設けられる側の主面であり、前記第2の主面が、前記部品が設けられる側とは反対側の外側の主面であり、前記第1の主面及び前記第2の主面を結ぶ方向が、前記厚み方向であり、前記厚み方向において、前記第1の主面側におけるSnの濃度が、Auの濃度より大きくなっており、前記第2の主面側におけるSnの濃度が、Auの濃度より小さくなっていることが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜が、Au-Sn合金を蒸着源に用いて蒸着された蒸着膜であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜におけるAuの質量の合計をMAとし、Snの質量の合計をMSとしたときに、Au及びSnの質量の合計に対するAuの質量の比MA/(MA+MS)が、0.60以上、0.90以下であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜が複数積層された多層膜を備えることが好ましい。前記多層膜における前記Au-Sn合金膜の積層数が、1層以上、30層以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明においては、前記部品と前記Au-Sn合金膜の間に設けられる密着膜をさらに備えることが好ましい。前記密着膜は、前記部品側に設けられており、Cr、Ti、及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む、第1の層と、前記第1の層上に設けられており、Ni、Pt、Pd、及びNi-Cr合金からなる群から選択される少なくとも1種を含む、第2の層と、前記第2の層上に設けられており、PtもしくはAuを含む、第3の層と、を有することがより好ましい。
【0014】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜における前記部品側とは反対側の主面上に設けられている、Au膜をさらに備え、前記Au膜が最外層であることが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記はんだ膜における表面の算術平均粗さRaが、0.05μm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記はんだ膜における表面の最大高さRzが、0.25μm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明においては、前記はんだ膜全体の厚みが、1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る光学デバイス用部品は、主面を有する部品本体と、前記部品本体の前記主面上に設けられている、本発明に従って構成されるはんだ膜と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、前記光学デバイス用部品が、プリズム、光学素子、前記光学素子を搭載するためのサブマウント、及び前記光学素子を搭載するためのパッケージ用部材からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る光学デバイスは、プリズムと、前記プリズムに光を出射する又は前記プリズムからの光を受光する光学素子と、前記プリズム及び前記光学素子が搭載されている、パッケージと、前記光学素子及び前記パッケージの間に設けられている、サブマウントと、を備え、本発明に従って構成されるはんだ膜によって、前記プリズム及び前記パッケージが接合され、前記光学素子及び前記サブマウントが接合され、前記サブマウント及び前記パッケージが接合され、又は前記パッケージを構成する部材同士が接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面の平坦性に優れ、反りを抑制することができる、はんだ膜、並びに該はんだ膜を用いた光学デバイス用部品及び光学デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るはんだ膜及び光学デバイス用部品を示す模式的断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
【
図3】Au-Sn合金膜の作製方法を説明するための図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る光学デバイスを示す模式的断面図である。
【
図7】(a)~(c)は、膜付き基板における反りの測定方法を説明するための模式図である。
【
図8】実施例1で得られたはんだ膜の断面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0024】
[はんだ膜及び光学デバイス用部品]
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るはんだ膜及び光学デバイス用部品を示す模式的断面図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
【0025】
プリズム10は、光学デバイスに用いられる光学デバイス用部品である。プリズム10は、プリズム本体11と、はんだ膜1と、反射膜12とを備える。
【0026】
プリズム本体11は、略台形の断面形状を有する。プリズム本体11は、底面11aと、底面11aに接続されている斜面11bと、底面11aに対向し、かつ斜面11bに接続されている上面11cとを有する。なお、プリズム本体11の断面形状は、特に限定されず、略三角形等であってもよい。また、本実施形態において、プリズム本体11は、適宜のガラス材料からなる。
【0027】
プリズム本体11の斜面11b上には、反射膜12が設けられている。反射膜12は、例えば、高屈折率膜及び低屈折率膜が交互に積層された誘電体多層膜からなる。高屈折率膜の材料としては、例えば、TiO2、Ta2O5、ZrO2、又はHfO2が挙げられる。低屈折率膜の材料としては、例えば、SiO2又はMgF2が挙げられる。なお、反射膜12は、単層の金属膜であってもよく、特に限定されない。また、反射膜12は、プリズム本体11の斜面11bの少なくとも一部に設けられていればよく、例えば、斜面11bの全面に設けられていてもよい。斜面11bに反射膜12が設けられることにより、光源から出射された光を好適に反射させることができる。もっとも、反射膜12は、設けられていなくてもよい。反射膜12は、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法等により、各層を積層することによって形成することができる。
【0028】
また、プリズム本体11の底面11a上には、はんだ膜1が設けられている。光学デバイス用部品であるプリズム10は、はんだ膜1により、実装基板やパッケージ等に固定される。なお、はんだ膜1は、プリズム本体11の底面11a全体に設けられていることが好ましいが、プリズム本体11の底面11aの少なくとも一部に設けられていればよい。また、はんだ膜1は、プリズム本体11の側面に回り込んでいてもよい。その場合、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。
【0029】
図2に示すように、はんだ膜1は、Au-Sn合金膜3が複数積層された多層膜2により構成されている。Au-Sn合金膜3は、Au及びSnの合金からなる膜である。
【0030】
Au-Sn合金膜3は、対向している第1の主面3a及び第2の主面3bを有する。第1の主面3aは、プリズム本体11側の主面である。第2の主面3bは、プリズム本体11とは反対側の外側の主面である。なお、第1の主面3a及び第2の主面3bを結ぶ方向は、はんだ膜1の厚み方向とされている。
【0031】
Au-Sn合金膜3では、厚み方向において、第1の主面3a側におけるSnの濃度が、Auの濃度より大きくなっている。また、第2の主面3b側におけるSnの濃度が、Auの濃度より小さくなっている。従って、Au-Sn合金膜3は、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有している。
【0032】
なお、本明細書において、Au-Sn合金膜3の第1の主面3a側におけるAu又はSnの濃度とは、Au-Sn合金膜3のうち第1の主面3aから50%の厚み部分のAu又はSnの濃度をいうものとする。また、Au-Sn合金膜3の第2の主面3b側におけるAu又はSnの濃度とは、Au-Sn合金膜3のうち第2の主面3bから50%の厚み部分のAu又はSnの濃度をいうものとする。また、Au-Sn合金膜3の各主面側におけるAu又はSnの濃度は、例えば、SEM-EDXにより測定することができる。
【0033】
本明細書において、Au-Sn合金膜3がAuの濃度勾配を有するとは、Au-Sn合金膜3のうち第1の主面3a側のAuの濃度(金属全体に対する質量割合)が、第2の主面3b側の濃度(金属全体に対する質量割合)と15%以上異なっている場合をいうものとする。もっとも、Au-Sn合金膜3では、厚み方向において、第1の主面3a側から第2の主面3b側に向かって、Auの濃度が大きくなることが望ましい。
【0034】
また、Au-Sn合金膜3がSnの濃度勾配を有するとは、Au-Sn合金膜3のうち第1の主面3a側のSnの濃度(金属全体に対する質量割合)が、第2の主面3b側のSnの濃度(金属全体に対する質量割合)と10%以上異なっている場合をいうものとする。もっとも、Au-Sn合金膜3では、厚み方向において、第2の主面3b側から第1の主面3a側に向かって、Snの濃度が大きくなることが望ましい。
【0035】
本実施形態のはんだ膜1は、Au及びSnの合金である、Au-Sn合金膜3を備え、しかもAu-Sn合金膜3が、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有している。そのため、はんだ膜1では、表面の平坦性に優れ、反りを抑制することができる。この点については、以下のように説明することができる。
【0036】
従来、Au層及びSn層が交互に積層されてなるはんだ膜では、Sn層が熱エネルギーを受けて結晶成長したり、あるいは酸化の影響を受けて膜表面の粗れが生じたりすることがあった。
【0037】
これに対して、本実施形態のはんだ膜1は、Au-Sn合金膜3を備えているので、熱エネルギーによる結晶成長や酸化の影響を小さくすることができ、その結果、膜表面1aをより平坦にすることができる。また、第2の主面3b側におけるSnの濃度が低められているので、この点からも膜表面1a側を酸化し難くすることができ、その結果、膜表面1aを平坦にすることができる。よって、はんだ膜1では、光学デバイス用部品であるプリズム10をパッケージ等に実装するに際し、接合力を高めることができる。また、膜表面1a側におけるAuの濃度が高められているので、後述する実施形態のように、パッケージ等の表面にAu膜が形成されている場合には、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。
【0038】
また、従来、Au層及びSn層が交互に積層されてなるはんだ膜では、各層の熱膨張係数の差に起因する膜応力により、反りが生じることがあった。これに対して、本実施形態のはんだ膜1は、既に合金化されたAu-Sn合金膜3により構成されているので、Au及びSnの熱膨張係数の差に起因する膜応力が生じ難く、反りが生じ難い。加えて、本実施形態のように、Au-Sn合金膜3の多層膜2により構成されている場合は、各層の厚みを薄くすることができるので、プリズム本体11との界面付近に生じる膜応力も小さくすることができ、反りをより一層抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態のはんだ膜1は、既に合金化されたAu-Sn合金膜3により構成されているので、光学デバイス用部品であるプリズム10をパッケージ等に実装するに際し、短時間で確実に接合することができる。加えて、本実施形態のように、Au-Sn合金膜3の多層膜2により構成されている場合には、各層の厚みを薄くすることができるので、より短時間で確実に接合することができる。
【0040】
本実施形態において、Au-Sn合金膜3は、Au及びSnを95質量%以上含むことが好ましい。なお、AuやSnの精製の度合いにより、Fe、Cr、Ni等の不純物が合金層に混入することがある。この場合においては、Au及びSnの含有量が95質量%以上であれば、本発明の効果を損なわないことが確認されている。
【0041】
本実施形態において、Au-Sn合金膜3の第1の主面3a側におけるAuとSnとの質量比(Au/Sn)は、好ましくは60/40以上、好ましくは70/30以下である。また、Au-Sn合金膜3の第2の主面3b側におけるAuとSnの質量比(Au/Sn)は、好ましくは75/25以上、好ましくは95/5以下である。Au-Sn合金膜3の第1の主面3a側及び第2の主面3b側における質量比(Au/Sn)が上記範囲内にある場合、膜表面1aをより平坦にすることができ、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。
【0042】
本実施形態において、Au-Sn合金膜3における1層当たりの厚みは、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下である。Au-Sn合金膜3における1層当たりの厚みが上記上限値以下である場合、はんだ膜1の膜表面1aをより一層平坦にすることができ、しかも膜応力による反りをより一層抑制することができる。また、実装に際し、より短時間で確実に接合することができる。一方、Au-Sn合金膜3における1層当たりの厚みの下限値は、特に限定されないが、例えば、30nmとすることができる。Au-Sn合金膜3における1層当たりの厚みが上記下限値より小さいと、各層の形成が困難となるおそれがある。
【0043】
本実施形態において、多層膜2の厚みは、好ましくは10μm以下、より好ましくは6μm以下である。多層膜2の厚みが上記上限値以下である場合、はんだ膜1の膜表面1aをより一層平坦にすることができ、しかも膜応力による反りをより一層抑制することができる。また、実装に際し、より短時間で確実に接合することができる。一方、多層膜2の厚みの下限値は、特に限定されないが、例えば、1μmとすることができる。多層膜2の厚みが上記下限値より小さいと、各層が薄くなりすぎるため、各層の形成が困難となるおそれがある。
【0044】
本実施形態において、多層膜2におけるAu-Sn合金膜3の合計の層数は、好ましくは1層以上、より好ましくは5層以上、好ましくは30層以下、より好ましくは25層以下、さらに好ましくは20層以下である。多層膜2におけるAu-Sn合金膜3の合計の層数が上記下限値以上である場合、膜応力による反りをより一層抑制することができる。また、実装に際し、より短時間で確実に接合することができる。多層膜2におけるAu-Sn合金膜3の合計の層数が上記上限値以下である場合、各層をより一層容易に形成することができ、生産性をより一層向上させることができる。
【0045】
本実施形態において、はんだ膜1の全体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、好ましくは10μm以下、より好ましくは6μm以下である。はんだ膜1の全体の厚みが上記下限値以上である場合、パッケージ等への実装に際し、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。また、はんだ膜1の全体の厚みが上記上限値以下である場合、膜応力による反りをより一層抑制することができる。また、実装に際し、より短時間で確実に接合することができる。また、この場合、プリズム本体11の高さ方向の位置ずれが小さくなるため、光学デバイス用部品であるプリズム10の位置精度もより一層効果的に高めることができる。
【0046】
本実施形態において、はんだ膜1の膜表面1aにおける算術平均粗さRaは、好ましくは0.05μm以下、より好ましくは0.01μm以下である。はんだ膜1の膜表面1aにおける算術平均粗さRaが、上記上限値以下である場合、はんだ膜1とパッケージ等の密着性をより一層高めることができ、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。なお、はんだ膜1の膜表面1aにおける算術平均粗さRaの下限値は、特に限定されないが、例えば、0.005μmとすることができる。また、算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠して測定することができる。
【0047】
本実施形態において、はんだ膜1の膜表面1aにおける最大高さRzは、好ましくは0.25μm以下、より好ましくは0.10μm以下である。はんだ膜1の膜表面1aにおける最大高さRzが、上記上限値以下である場合、はんだ膜1とパッケージ等の密着性をより一層高めることができ、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。なお、はんだ膜1の膜表面1aにおける最大高さRzの下限値は、特に限定されないが、例えば、0.005μmとすることができる。また、最大高さRzは、JIS B 0601:2013に準拠して測定することができる。
【0048】
本実施形態においては、Au-Sn合金膜3におけるAuの質量の合計をMAとし、Snの質量の合計をMSとしたときに、Au及びSnの質量の合計に対するAuの質量の比MA/(MA+MS)が、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.75以上、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.85以下である。この場合には、Au及びSnの融点(共晶温度)を極小値である280℃により近づけることができ、実装に際し、より低温で接合することができる。
【0049】
本実施形態において、はんだ膜1は、例えば、Au-Sn合金を蒸着源として用いて、蒸着法により、各層を積層することによって形成することができる。具体的には、
図3に示す膜付き基板20の製造方法を用いて説明することができる。
【0050】
まず、
図3に示す容器21内にAu-Sn合金を入れ、蒸着源とする。次に、電子銃を用いて、蒸着法により、容器21内の蒸着源の全てを蒸着させて、ガラス基板22上に1層のAu-Sn合金膜3を形成する。加熱温度としては、Au及びSnが蒸発する温度である800℃以上、1000℃以下とすることができる。
【0051】
次に、Au-Sn合金を入れた容器21を入れ替え、再度蒸着することにより、2層目のAu-Sn合金膜3を形成する。この操作を繰り返すことにより、多層膜2を形成することができる。従って、容器21の数だけ、Au-Sn合金膜3を積層させることができる。なお、各層の形成時の加熱温度は、同じ温度とすることが望ましい。また、各層の膜厚は、容器21内に入れるAu-Sn合金の量で調整することができる。
【0052】
容器21の数は、特に限定されないが、多層膜2におけるAu-Sn合金膜3の合計の層数と一致することから、好ましくは1個以上、より好ましくは5個以上、好ましくは30個以下、より好ましくは25個以下、さらに好ましくは20個以下である。
【0053】
また、蒸着法としては、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング真空蒸着法、又はイオンアシスト真空蒸着法等を用いることができる。
【0054】
以上のようにして、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有するAu-Sn合金膜3が積層された多層膜2を形成することができる。
【0055】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
【0056】
図4に示すように、はんだ膜31は、さらに密着膜33を有する。密着膜33は、プリズム本体11と多層膜2との間に設けられている。従って、はんだ膜31では、密着膜33の上に多層膜2が積層されている。密着膜33を設けることにより、プリズム本体11との密着性を高めることができる。
【0057】
密着膜33は、第1の層33a、第2の層33b、及び第3の層33cを有する。第1の層33aは、プリズム本体11側の層である。この第1の層33a上に、第2の層33bが積層されている。第2の層33b上に、第3の層33cが積層されている。なお、第3の層33cは、多層膜2側の層である。
【0058】
第1の層33aを構成する材料としては、例えば、Ni、Cr、Ti、W、TiW、Mo、又はNi-Cr合金等を用いることができる。なかでも、Ni、Cr、又はTiであることが好ましい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。なお、第1の層33aを構成する材料には、上記例示した材料が95%以上含まれていることが望ましい。もっとも、第1の層33aは、本発明の効果を阻害しない範囲において、不純物や添加物を含んでいてもよい。
【0059】
第1の層33aの厚みは、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上、5μm以下とすることができる。第1の層33aは、めっき、蒸着、スパッタリング等の適宜の方法により形成することができる。
【0060】
第2の層33bを構成する材料としては、例えば、Ni、Pt、Pd、Ni-Cr合金等を用いることができる。なかでも、Ni、Pt、Pd、又はNi-Cr合金であることが好ましい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。なお、第2の層33bを構成する材料には、上記例示した材料が95%以上含まれていることが望ましい。もっとも、第2の層33bは、本発明の効果を阻害しない範囲において、不純物や添加物を含んでいてもよい。
【0061】
第2の層33bの厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上、1μm以下とすることができる。第2の層33bは、めっき、蒸着、スパッタリング等の適宜の方法により形成することができる。なお、密着膜33において、第2の層33bは設けられていなくてもよい。
【0062】
第3の層33cは、拡散防止層としての機能を有していることが望ましい。例えば、多層膜2の成分が、第1の層33a及び第2の層33bへ拡散することを防止するための層であることが望ましい。これにより、はんだ膜31のパッケージ等への接合力をより一層高めることができる。
【0063】
第3の層33cは、特に限定されないが、本実施形態では、Ptである。この場合、多層膜2の成分が、第1の層33a及び第2の層33bへ拡散することをより一層抑制することができる。もっとも、第3の層33cの材料は、Ptには限定されず、Au又はPd等であってもよい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。なお、第3の層33cには、上記例示した材料が95%以上含まれていることが望ましい。もっとも、第3の層33cには、密着性を阻害しない範囲において、不純物や添加物が含まれていてもよい。
【0064】
第3の層33cの厚みは、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上、1.0μm以下とすることができる。
【0065】
また、はんだ膜31は、さらにAu膜34を有する。Au膜34は、Au-Sn合金膜3の第2の主面3b上に積層されている。Au膜34は、はんだ膜31における最外層に設けられている。
【0066】
なお、Au膜34には、Auが95%以上含まれていることが望ましい。もっとも、Au膜34には、密着性を阻害しない範囲において、不純物や添加物が含まれていてもよい。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0067】
第2の実施形態におけるはんだ膜31のように、密着膜33をさらに備えていてもよい。また、最外層にAu膜34が設けられていてもよい。最外層をAu膜34とした場合、実装に際し、パッケージ等に接する最外層を酸化し難くすることができ、はんだ膜31による接合力をより確実に高めることができる。
【0068】
また、第2の実施形態においても、はんだ膜31が、Au-Sn合金膜3を備え、しかも厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有しているので、膜表面31aの平坦性に優れ、反りを抑制することができる。また、光学デバイス用部品であるプリズム30をパッケージ等に実装するに際し、はんだ膜31によって短時間で確実に接合することができる。
【0069】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
【0070】
図5に示すように、はんだ膜41では、Au-Sn合金膜3の単層膜である、Au-Sn合金単層膜42が設けられている。
【0071】
本実施形態において、Au-Sn単層膜42の厚みは、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。Au-Sn合金単層膜42の厚みが上記上限値以下である場合、はんだ膜41の膜表面41aをより一層平坦にすることができ、しかも膜応力による反りをより一層抑制することができる。また、実装に際し、より短時間で確実に接合することができる。一方、Au-Sn合金単層膜42の厚みの下限値は、特に限定されないが、例えば、30nmとすることができる。Au-Sn合金単層膜42の厚みが上記下限値より小さいと、Au-Sn合金単層膜42の形成が困難となるおそれがある。
【0072】
このように、Au-Sn合金単層膜42は、好ましい厚みが異なること以外は、第1の実施形態及び第2の実施形態のAu-Sn合金膜3と同じものを用いることができる。
【0073】
その他の点は、第2の実施形態と同様である。
【0074】
第3の実施形態におけるはんだ膜41のように、多層膜2の代わりに、Au-Sn合金膜3の単層膜である、Au-Sn合金単層膜42を有していてもよい。この場合、はんだ膜41の生産性をより一層向上させることができる。
【0075】
また、第3の実施形態においても、はんだ膜41が、Au-Sn合金膜3を備え、しかも厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有しているので、膜表面41aの平坦性に優れ、反りを抑制することができる。また、光学デバイス用部品であるプリズム40をパッケージ等に実装するに際し、はんだ膜41によって短時間で確実に接合することができる。
【0076】
なお、第1~第3の実施形態では、光学デバイス用部品としてプリズム10,30,40について説明した。もっとも、本発明において、光学デバイス用部品は、光学素子や、光学素子を搭載するためのサブマウント、あるいは光学素子を搭載するためのパッケージ用部材であってもよい。
【0077】
[光学デバイス]
図6は、本発明の一実施形態に係る光学デバイスを示す模式的断面図である。
図6に示すように、光学デバイス51は、光学素子52と、サブマウント53と、プリズム10と、パッケージ54とを備える。パッケージ54内には、光学素子52、サブマウント53、及びプリズム10が収容されている。
【0078】
より具体的には、パッケージ54は、底部55と、底部55上に配置された側壁部56とを有する容器状の部材である。パッケージ54は、例えば、セラミック材料により構成することができる。セラミック材料としては、例えば、アルミナや窒化アルミニウム等を用いることができる。なかでも、放熱性をより一層高める観点からは、窒化アルミニウムであることが好ましい。
【0079】
底部55は、実装面55aを有する。側壁部56は、内面56aを有する。そして、底部55の実装面55a及び側壁部56の内面56aには、金属膜58が設けられている。
【0080】
本実施形態では、実装面55aにおける金属膜58上に、光学素子52及びプリズム10が配置されている。より具体的には、金属膜58上に、サブマウント53が設けられており、その上に光学素子52が配置されている。この際、サブマウント53の一方側主面53aが、図示しないはんだ膜1により光学素子52に接合されている。また、サブマウント53の他方側主面53bが、図示しないはんだ膜1により金属膜58に接合されている。また、プリズム10も、はんだ膜1により金属膜58に接合されている。
【0081】
パッケージ54は、金属膜58を必ずしも有していなくてもよい。もっとも、パッケージ54は、本実施形態のように金属膜58を有していることが好ましい。このような構成は、特に、サブマウント53やプリズム10と、パッケージ54との熱膨張率差が比較的大きい場合に有効である。
【0082】
金属膜58は、Au膜であることが好ましい。この場合、金属膜58が酸化し難いことから、光学デバイス51の製造に際し、サブマウント53やプリズム10と、パッケージ54との間の接合力をより一層高めることができる。
【0083】
なお、本実施形態では、底部55における実装面55aの全面及び側壁部56の内面56aの全面に、金属膜58が設けられている。もっとも、金属膜58は、少なくともサブマウント53及びプリズム10が配置される部分に設けられていればよい。
【0084】
パッケージ54の側壁部56上には、光学素子52及びプリズム10を封止するように、蓋体57が設けられている。蓋体57は、特に限定されないが、本実施形態ではガラス蓋である。また、蓋体57及び側壁部56は、図示しないはんだ膜1により接合されている。この場合には、接合後においてガスが生じないため、プリズム10の反射膜12に不純物が付着し難く、反射特性の劣化がより生じ難い。
【0085】
本実施形態において、光学素子52は、プリズム10に光を出射する光源である。光源としては、特に限定されないが、例えば、LDやLED等を用いることができる。
図6に示すように、光学素子52から出射した光Aは、プリズム10において反射され、蓋体57を通り、光学デバイス51外に出射される。なお、光学素子52は、プリズム10からの光を受光する受光素子であってもよい。
【0086】
サブマウント53は、光学素子52を搭載するために設けれている。また、サブマウント53は、ヒートシンクを兼ねている。そのため、光学素子52で発生した熱を、サブマウント53を通して、パッケージ54側へ効率よく放熱することができる。
【0087】
光学デバイス51では、はんだ膜1により、プリズム10及びパッケージ54が接合され、光学素子52及びサブマウント53が接合され、サブマウント53及びパッケージ54が接合され、パッケージ54における蓋体57及び側壁部56が接合されている。そのため、光学デバイス51では、各部材における反りが抑制され、接合力が高められている。従って、光学デバイス51では、信頼性が高められている。
【0088】
また、光学デバイス51では、Sn-Ag合金などの融点が低いはんだ膜により、パッケージ54における蓋体57及び側壁部56が接合されていてもよい。この場合、その他の各部材を上記融点が低いはんだ膜より融点の高いはんだ膜1によって接合すれば、光学素子52、サブマウント53、及びプリズム10を実装した後、蓋体57及び側壁部56を上述したはんだ膜によって接合する際の加熱により、光学素子52、サブマウント53、及びプリズム10の高さ方向における位置ずれが生じ難い。そのため、光学デバイス51の信頼性をより一層高めることができる。
【0089】
なお、光学素子52、サブマウント53、及びプリズム10を接合する際の温度は、例えば、290℃~320℃とすることができる。また、蓋体57及び側壁部56を接合する際の温度は、220℃~270℃とすることができる。このような温度範囲で接合させることにより、光学素子52、サブマウント53、及びプリズム10の高さ方向における位置精度をより高めることができる。
【0090】
なお、本発明においては、光学素子52、サブマウント53、プリズム10、及びパッケージ54を構成する部材の接合のうち、少なくとも1つの接合がはんだ膜1によって行わればよく、特に限定はされない。
【0091】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0092】
(実施例1)
まず、Au-Sn合金を入れた容器を蒸着源とし、真空蒸着法によって、
図7(a)に示すガラス基板62(日本電気硝子社製、OA-10G、厚み:0.197mm)上に、Au-Sn合金膜を形成した。なお、蒸着時の加熱温度は、ヒータはOFFで蒸着源の輻射熱で凡そ100℃以下の状態とした。また、Au-Sn合金を入れた容器を合計で18個用いて、同様の条件で同様の操作を行い、Au-Sn合金膜を合計で18層積層することにより、膜付き基板60を得た。なお、このとき、Au-Sn合金膜の1層当たりの厚みをそれぞれ270nmとした。なお、はんだ膜61全体の厚みは、4.9μmとした。
【0093】
図8は、実施例1で得られたはんだ膜61の断面を示すSEM写真である。
図8より、実施例1で得られたはんだ膜61では、Au-Sn合金膜が合計で18層積層されていることを確認することができる。また、各Au-Sn合金膜では、ガラス基板62側の主面側のSnの濃度がAuの濃度より高くなっていた。一方、ガラス基板62とは反対側の主面側のSnの濃度がAuの濃度より低くなっていた。従って、各Au-Sn合金膜は、厚み方向においてAu及びSnの濃度勾配を有していた。
【0094】
(比較例1)
ガラス基板62(日本電気硝子社製、OA-10G、厚み:0.197mm)上に、蒸着によって、Au層及びSn層を交互に合計で180層積層することにより、膜付き基板60を得た。なお、このとき、Au層の1層当たりの厚みをそれぞれ28nmとした。また、Sn層の1層当たりの厚みをそれぞれ28nmとした。なお、はんだ膜61全体の厚みは、5μmとした。
【0095】
[評価]
(反りの評価)
反りの評価において、膜付き基板60の寸法は、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、長さa:100mmとし、幅b:10mmとした。また、Au層及びSn層の成膜は、膜付き基板60の長さ方向における第1の端部60b及び第2の端部60cから長さc:3.5mmの部分には成膜しなかった。
【0096】
反りの評価では、
図7(c)に示すステージ70上に、膜付き基板60を載置し、25℃で1時間放置した後の反り量Lを測定した。なお、膜付き基板60は、膜面60aが上方となるように載置した。そして、第1の端部60b及び第2の端部60cと、膜付き基板60の非膜面60dにおける長さ方向の中心との高さの差を反り量Lとした。反り量Lは、2つの端部60b,60cの反り量Lの平均とした。なお、非膜面60dは、膜面60aと対向する面である。
【0097】
(表面平坦性の評価)
膜付き基板60の膜面60aにおける算術平均粗さRa及び最大高さRzは、JIS B 0601:2013に準拠して測定した。
【0098】
(密着力の評価)
密着力の評価においては、パッケージとして、Auめっきされた部分を有する窒化アルミニウム基板を用意した。次に、膜付き基板60をはんだ膜61側から窒化アルミニウム基板のAuめっきされた部分に貼り付け、窒素雰囲気中で320℃に加熱することにより接合した。
【0099】
次に、引張圧縮試験機(株式会社今田製作所製 SV-201)を用いて膜付き基板60を側面より押すことにより、密着力を評価した。なお、密着力の評価は、接合時間3秒及び接合時間10秒の双方の条件にて行った。
【0100】
結果を下記の表1に示す。
【0101】
【0102】
表1から明らかなように、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有する、Au-Sn合金膜を用いた実施例1のはんだ膜61では、表面の平坦性に優れ、膜応力による反りが抑制されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0103】
1,31,41,61…はんだ膜
1a,31a,41a…膜表面
2…多層膜
3…Au-Sn合金膜
3a…第1の主面
3b…第2の主面
10,30,40…プリズム
11…プリズム本体
11a…底面
11b…斜面
11c…上面
12…反射膜
20,60…膜付き基板
21…容器
22,62…ガラス基板
33…密着膜
33a…第1の層
33b…第2の層
33c…第3の層
34…Au膜
42…Au-Sn合金単層膜
51…光学デバイス
52…光学素子
53…サブマウント
53a…一方側主面
53b…他方側主面
54…パッケージ
55…底部
55a…実装面
56…側壁部
56a…内面
57…蓋体
58…金属膜
60a…膜面
60b…第1の端部
60c…第2の端部
60d…非膜面
70…ステージ