(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ブレーズド回折格子およびブレーズド回折格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20241106BHJP
G01J 3/18 20060101ALI20241106BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241106BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G02B5/18
G01J3/18
C23C14/06 N
C23C14/14 B
C23C14/06 G
(21)【出願番号】P 2020131790
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】大上 裕紀
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/052748(WO,A1)
【文献】特開平11-160513(JP,A)
【文献】特開2013-092756(JP,A)
【文献】特開2006-295129(JP,A)
【文献】特開2016-204681(JP,A)
【文献】特開2004-358924(JP,A)
【文献】国際公開第2011/121949(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0030627(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が鋸歯状であり、ブレーズ面と段差面が一方向に交互に繰り返し配置された基材と、
前記ブレーズ面および前記段差面の表面を覆うように形成された反射膜と、
前記反射膜の表面を覆うように形成されたコート膜と、
を備え、
前記コート膜の厚さを変更することにより
、前記基材と前記コート膜における前記ブレーズ面と前記段差面のそれぞれ頂部間の前記反射膜と前記コート膜の膜厚の合計が最大となり、
前記基材と前記コート膜における前記ブレーズ面と前記段差面のそれぞれ底部間の膜厚の合計が最小となる、ブレーズド回折格子。
【請求項2】
前記頂部
間における
前記コート膜の厚をt2とし、前記底部
間における
前記コート膜の膜厚をt1としたときに、以下の条件式(1)を満たす、請求項1に記載のブレーズド回折格子。
t2-t1 ≦ 80nm ・・・(1)
【請求項3】
前記コート膜の前記ブレーズ面での膜厚が、前記底部から前記頂部に向かって単調増加している、請求項1又は請求項2に記載のブレーズド回折格子。
【請求項4】
前記コート膜は、フッ化物の蒸着膜である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子。
【請求項5】
前記フッ化物が、フッ化マグネシウムである、請求項4に記載のブレーズド回折格子。
【請求項6】
前記反射膜の膜厚が略一定である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子。
【請求項7】
前記反射膜の膜厚が、40~80nmである、請求項6に記載のブレーズド回折格子。
【請求項8】
前記反射膜は、アルミニウムの蒸着膜である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子。
【請求項9】
ブレーズ波長が120~300nmである、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子。
【請求項10】
断面形状が鋸歯状であり、ブレーズ面と段差面が一方向に交互に繰り返し配置された基材を用意する工程と、
前記ブレーズ面および前記段差面の表面を覆うように反射膜を形成する工程と、
前記反射膜の表面を覆うようにコート膜を形成する工程と、
を含み、
前記コート膜を形成する工程は、前記コート膜の厚さを変更することにより
、前記基材と前記コート膜における前記ブレーズ面と前記段差面のそれぞれ頂部間の前記反射膜と前記コート膜の膜厚の合計が最大となり、前記基材と前記コート膜における前記ブレーズ面と前記段差面のそれぞれ底部間の膜厚の合計が最小となるように前記コート膜を形成する、ブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項11】
前記頂部
間における
前記コート膜の膜厚をt2とし、前記底部
間における
前記コート膜の膜厚をt1としたときに、以下の条件式(1)を満たす、請求項10に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
t2-t1 ≦ 80nm ・・・(1)
【請求項12】
前記コート膜を形成する工程は、前記コート膜の前記ブレーズ面での膜厚が、前記底部から前記頂部に向かって単調増加するように前記コート膜を形成する、請求項10又は請求項11に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項13】
前記コート膜は、フッ化物の蒸着膜である、請求項10から請求項12のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項14】
前記フッ化物が、フッ化マグネシウムである、請求項13に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項15】
前記コート膜を形成する工程は、2nm/sec以上の速度で前記コート膜を成膜する、請求項10から請求項14のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項16】
前記反射膜を形成する工程は、膜厚が略一定となるように前記反射膜を形成する、請求項10から請求項15のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項17】
前記反射膜の膜厚が、40~80nmである、請求項16に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項18】
前記反射膜は、アルミニウムの蒸着膜である、請求項10から請求項17のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項19】
前記反射膜を形成する工程は、10nm/sec以上の速度で前記反射膜を成膜する、請求項10から請求項18のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項20】
ブレーズ波長が120~300nmである、請求項10から請求項19のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【請求項21】
前記基材を用意した後に、前記基材をドーム体の表面に取り付ける工程をさらに含み、
前記反射膜を形成する工程及び前記コート膜を形成する工程は、前記ドーム体を、中心軸を中心に所定の回転数で回転させた状態で、前記反射膜及び前記コート膜を形成する、請求項10から請求項20のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光器や分波器などに用いられる波長分離・選択素子であるブレーズド回折格子およびブレーズド回折格子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子の種類は様々なものがあるが、溝の断面形状が鋸歯状である回折格子はブレーズド回折格子と呼ばれ、紫外から可視光領域の特定の波長の光に対して高い回折効率を示すため、可視・紫外の分光器等によく使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
ブレーズド回折格子の製造方法として、レーザの2光束干渉を利用したホログラフィック露光法により形成したパターンマスクにイオンビームを所定の入射角で入射して基板を削るイオンビームエッチング法やルーリングエンジンにより一本ずつ溝を加工する機械切り法が知られている。ホログラフィック露光は、周期誤差による迷光が極めて少ないため、低迷光を要求される回折格子の作製ではホログラフィック露光法を用いることが多い。
【0004】
図1は、イオンビームエッチング法によるブレーズド回折格子の製造方法を説明する図である。イオンビームエッチング法では、まず、石英、ガラスなどの平板状の基板1の表面にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層2を形成する(
図1(a))。
そして、このフォトレジスト層2に二光束干渉による干渉縞を露光・現像し、
図1(b)に示すように平行線状のレジストパターン3を形成する(ホログラフィック露光)。次いで、このレジストパターン3をマスクとして、基板1に所望のブレーズ角θBが形成されるように斜め上方向からイオンビームによるエッチングを行い、基板1上に断面鋸歯状の格子溝4を形成する(
図1(c)~(e))。その後、
図1(f)に示すように、アルミニウムや金等の金属膜5を格子溝4の表面にコーティングし、ブレーズド回折格子が完成する。
【0005】
通常、上述のエッチング工程では、基板1に対するエッチング速度がレジストパターン3に対するエッチング速度よりも速いような、即ち、選択比(=基板の材料(例えば、ガラス)に対するエッチング速度/フォトレジストに対するエッチング速度)が1よりも大きなエッチングガスを用いてイオンビームエッチングを行う。
【0006】
このような工程により、マスターブレーズド回折格子が製造される。このマスター回折格子の格子面に離型剤層を形成し、その上に金属薄膜を形成する。続いてこの金属薄膜上に接着剤を介してガラス基板を接着し、接着剤が硬化した後、ガラス基板をマスター回折格子から剥離させる。これにより、格子溝が形成された金属薄膜が裏返し状態でガラス基板側に移り、レプリカ回折格子が得られる。このレプリカ回折格子を母型として、製品としてのブレーズド回折格子を製造する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなブレーズド回折格子が用いられる分光光度計は、従来、液体試料の吸収測定を主な対象として発達してきたが、近年、半導体・薄膜・ガラス材料・吸収材など固体の反射、吸収測定の用途が急増している。このような用途においては、高精度で高エネルギー(真空紫外領域)の分光器が必要とされるところ、これら性能は回折格子の性能に依るところが大きく、真空紫外、深紫外の領域で高い回折効率を得ることのできる、ブレーズド回折格子が求められていた。
【0009】
このように、真空紫外領域(120~200nm)、深紫外領域(200~300nm)で高い回折効率を得るためには、格子間隔を短くすると共に、基板上にブレーズ角θBの浅い(例えば、高さ100nm以下の)回折格子パターンを形成する必要がある。
また、ピーク波長を数10nm刻み(例えば、120nm、160nm)で作り分けるためには数nm前後の精度で回折格子パターンの高さを制御する必要がある。
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来の製造方法では、ホログラフィック露光により理想的な正弦波状のレジストパターンを基板上に形成し、この上から目標とする角度でイオンビームを照射して回折格子パターンを形成するため、イオンビームの入射角度αおよび拡がり角を厳密に把握して制御しなければならず、エッチング装置の性能上、このような精度を実現することは困難であった。
また、ブレーズ角θBの小さいブレーズド回折格子を製造するためには、イオンビームの入射角度αを大きくする必要があるが、この場合、1つのブレーズ面11と隣接するブレーズ面11との間の段差面12が深くエッチングされる結果、頂角βが丸みを帯びてしまい、高い回折効率を得ることも難しかった。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、既存のものよりも高い精度でブレーズ高さを形成した回折格子パターンを備え、真空紫外、深紫外の領域で高い回折効率を得ることのできる、ブレーズド回折格子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様のブレーズド回折格子は、断面形状が鋸歯状であり、ブレーズ面と段差面が一方向に交互に繰り返し配置された基材と、ブレーズ面および段差面の表面を覆うように形成された反射膜と、反射膜の表面を覆うように形成されたコート膜と、を備え、反射膜とコート膜の膜厚の合計が、ブレーズ面と段差面の頂部において最大となり、底部において最小となるように構成される。
【0012】
本発明の第2の態様のブレーズド回折格子の製造方法は、断面形状が鋸歯状であり、ブレーズ面と段差面が一方向に交互に繰り返し配置された基材を用意する工程と、ブレーズ面および段差面の表面を覆うように反射膜を形成する工程と、反射膜の表面を覆うようにコート膜を形成する工程と、を含み、これらの膜を形成する工程は、コート膜の膜厚がブレーズ面と段差面の頂部において最大となり、底部において最小となるようにコート膜を形成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、既存のものよりも高い精度でブレーズ高さを形成した回折格子パターンを備え、真空紫外、深紫外の領域で高い回折効率を得ることのできる、ブレーズド回折格子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、従来のブレーズド回折格子の製造方法を説明する図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施例に係るブレーズド回折格子の構成を説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施例に係るブレーズド回折格子を製造するために使用する、真空チャンバの概略構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施例に係るブレーズド回折格子の断面形状を測定した結果を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施例に係るブレーズド回折格子の断面形状を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のブレーズド回折格子およびブレーズド回折格子の製造方法を添付図面に示す好適な実施形態(実施例)に基づいて詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施例)
図2は、本発明の第1の実施例に係るブレーズド回折格子20の構成を説明する図であり、
図2(a)はブレーズ形成面を縦方向に見た平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のA-A線で切断したときの断面拡大図である。
図2に示すように、本実施例のブレーズド回折格子20は、基材22と、反射膜24と、コート膜26と、を備えている。
【0017】
基材22は、従来のイオンビームエッチング法等によって形成された、基礎となるレプリカ回折格子であり、矩形板状のガラス母材上に樹脂によって形成された基礎回折格子22aが形成されている。基礎回折格子22aは、断面形状が鋸歯状となるように、基礎ブレーズ面22bと基礎段差面22cが一方向に交互に繰り返し形成されることによって構成されており、本実施例においては、溝本数:1600本、ブレーズ高さ(h1):40nm、ブレーズ波長:120nmのものを使用している。
【0018】
反射膜24は、基礎回折格子22aを覆うように形成された金属の薄膜であり、本実施例においては、厚さ80nmアルミニウム(Al)の膜である。反射膜24は、真空蒸着法やスパッタリング法等を用いて、基礎ブレーズ面22b及び基礎段差面22c上に形成される(詳細は後述)。
【0019】
コート膜26は、真空蒸着法やスパッタリング法等を用いて、反射膜24を覆うように形成された薄膜であり、本実施例においては、反射膜24の表面の酸化を防止するフッ化マグネシウム(MgF2)の膜である。コート膜26が形成されることにより、コート膜26上には、ブレーズ面26bと段差面26cとによって構成される回折格子26aが形成される。なお、本実施例のコート膜26の厚さは一様ではなく、基礎ブレーズ面22b上で一方向に単調変化し、基礎回折格子22aの頂部(凹凸の凸部)での厚さ(
図2(b)のt2)が、基礎回折格子22aの底部(凹凸の凹部)での厚さ(
図2(b)のt1)よりも厚くなっている。その結果、コート膜26上に形成されるコート膜26の溝は基礎回折格子22aの溝より深くなる。
換言すると、本実施例のブレーズド回折格子20は、反射膜24とコート膜26の膜厚の合計が、ブレーズ面26bと段差面26cの頂部において最大となり、底部において最小となるように構成されている。
なお、コート膜26の厚さは、頂部における膜厚を
t2とし、底部における膜厚を
t1としたときに、以下の条件式(1)を満たすことが好ましく、本実施例においては、ブレーズ高さ(h2):60nmとなっている。
t2-t1≦ 80nm ・・・(1)
【0020】
このように、基材22の基礎回折格子22a上に反射膜24及びコート膜26が形成されると、ブレーズ面26b及び段差面26cの傾きは、基礎ブレーズ面22b及び基礎段差面22cの傾きよりも急峻となる。したがって、ブレーズ面26bと段差面26cの間
の角度β2(頂角)は、基礎ブレーズ面22bと基礎段差面22cの間の角度β1よりも小さくなる(つまり、鋭角になる)。このため、ブレーズド回折格子20のブレーズ角θB2は、基礎回折格子22aのブレーズ角θB1よりも大きくなり、その結果、ブレーズ波長は、180nmとなる(つまり、長波長側にシフトする)。
また、ブレーズの頂角が鋭角になったことから、回折効率が高くなった(詳細は後述)。なお、本明細書において、相対回折効率とは、コーティング材質(つまり、コート膜26)の反射率を除いたブレーズド回折格子20単体の効率を示す値をいい、「絶対回折効率/コーティング材質の反射率」で示す値である。
【0021】
(ブレーズド回折格子20の製造方法)
次に、本実施例のブレーズド回折格子20の製造方法について詳述する。
【0022】
(1)基材22の準備
ブレーズド回折格子20の製造にあたっては、先ず、従来のイオンビームエッチング法等によって形成された、基材22(基礎となるレプリカ回折格子)を準備する。
【0023】
(2)基材22の取り付け
次いで、基材22を真空チャンバ100に取り付ける。
図3は、本実施例のブレーズド回折格子20を製造するために使用する、真空チャンバ100の概略構成を示す図である。
図3に示すように、真空チャンバ100は、チャンバ本体101と、真空ポンプ102から構成され、チャンバ本体101には、ドーム体110と、アルミニウムボート120と、フッ化マグネシウムボート130と、アルミニウムボート120用のシャッタ140と、フッ化マグネシウムボート130用のシャッタ150と、を備えている。
ドーム体110は、半径300mmのドーム形状を呈し、水平方向に回転する回転体であり、ドーム体110の上端(接続部)が蒸着源(シャッタ140、150)から約500mm上方に配置されている。ドーム体110の表面は、基材22が載置される載置面となっており、ドーム体110の上端(接続部)から約45mm下方の位置に、ブレーズ方向がドーム体110の内側を向くような姿勢で基材22を取り付ける。
【0024】
(3)真空チャンバ100の準備
次いで、アルミニウムボート120とフッ化マグネシウムボート130のそれぞれに材料を入れ、真空ポンプ102を起動し、チャンバ本体101内を真空引きする。
【0025】
(4)反射膜24の形成
次いで、チャンバ本体101内が成膜真空度に到達したことを確認し、シャッタ140、150を閉めた状態でアルミニウム及びフッ化マグネシウムの溶かし込みを行う。そして、再びチャンバ本体101内が成膜真空度に到達したことを確認した後、ドーム体110を20rpmで回転させて、アルミニウムの気化を開始し、所定の蒸着レート(例えば、10nm/sec以上の所定値)を確認してシャッタ140を開く。
そして、膜厚計で所望の膜厚(例えば、約80nm)を確認したところでシャッタ140を閉じる。なお、反射膜24は、必ずしも一様な膜厚である必要はないが、略一様な膜厚であることが好ましい。
【0026】
(5)コート膜26の形成
次いで、フッ化マグネシウムの気化を開始し、所定の蒸着レート(例えば、2nm/sec以上の所定値)を確認してシャッタ150を開く。
そして、膜厚計で所望の膜厚(例えば、20nm)を確認したところでシャッタ150を閉じる。
【0027】
(6)完成品の取り出し
チャンバ本体101を大気開放し、コート膜26が形成された完成品をチャンバ本体101から取り出し、本実施例のブレーズド回折格子20が得られる。
【0028】
図4は、反射膜24及びコート膜26の成膜前の基材22の断面形状(つまり、基礎ブレーズ面22bと基礎段差面22cの断面形状)を測定した結果(
図4(a))と、反射膜24及びコート膜26の成膜後のブレーズド回折格子20の断面形状(つまり、ブレーズ面26bと段差面26cの断面形状)を測定した結果示す図(
図4(b))である。なお、
図4(a)及び
図4(b)において、実線は、本実施例のブレーズド回折格子20のサンプルを左から右方向に測定したときの測定結果であり、破線は、本実施例のブレーズド回折格子20のサンプルを右から左方向に測定したときの測定結果である。
図4(a)と(b)とを比較すると分かるように、本実施例のブレーズド回折格子20は、ブレーズ高さが20nm高くなり、頂角が鋭角になった。その結果、同じブレーズ高さの回折格子よりも高い回折効率(最大相対回折効率:55%)が得られた。
【0029】
以上が本実施例の説明であるが、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において様々な変形が可能である。
【0030】
例えば、本実施例においては、ブレーズ高さ(h1):40nm、ブレーズ波長:120nmの基材22を使用して、ブレーズ高さ(h2):60nm、ブレーズ波長:180nmのブレーズド回折格子20を得たが、コート膜26の成膜条件を変更することにより様々なブレーズ高さ(h2)の回折格子26aを形成することができ、異なるブレーズ波長(例えば、120~300nm)のブレーズド回折格子20を製造することができる。このため、従来のようにブレーズ高さ(h2)に応じたマスター回折格子を製作する(準備する)ことなく、異なるブレーズ波長のブレーズド回折格子20を得ることが可能となる。
【0031】
また、本実施例の反射膜24の膜厚は80nmとしたが、このような構成に限定されるものではなく、40~80nmの範囲で膜厚を設定することができる。
【0032】
(第2の実施例)
図5は、コート膜26の成膜条件を変更して製造したブレーズド回折格子20の断面形状を説明する図である。
図5(a)は、第2の実施例の反射膜24及びコート膜26の成膜前の基材22の断面形状(つまり、基礎ブレーズ面22bと基礎段差面22cの断面形状)を測定した結果であり、
図5(b)は、第2の実施例の反射膜24及びコート膜26の成膜後のブレーズド回折格子20の断面形状(つまり、ブレーズ面26bと段差面26cの断面形状)を測定した結果である。なお、
図5(a)及び
図5(b)において、実線は、本実施例のブレーズド回折格子20のサンプルを左から右方向に測定したときの測定結果であり、破線は、本実施例のブレーズド回折格子20のサンプルを右から左方向に測定したときの測定結果である。
【0033】
本実施例のブレーズド回折格子20は、溝本数:1200本、ブレーズ高さ(h1):45nm、ブレーズ波長:140nmの基材22を使用し、ブレーズ高さ(h2):90nm、ブレーズ波長:220nmとなっている点で第1の実施例のブレーズド回折格子20と異なっている。なお、本実施例のブレーズド回折格子20の製造方法については、第1の実施例のものと同一である。
図5(a)と(b)とを比較すると分かるように、本実施例のブレーズド回折格子20は、ブレーズ高さが40nm高くなり、頂角が鋭角になった。同じブレーズ高さの回折格子よりも高い回折効率(最大相対回折効率:70%)が得られた。
【0034】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0035】
(第1項)一態様に係るブレーズド回折格子(20)は、
断面形状が鋸歯状であり、ブレーズ面(22b)と段差面(22c)が一方向に交互に繰り返し配置された基材(22)と、
前記ブレーズ面(22b)および前記段差面(22c)の表面を覆うように形成された反射膜(24)と、
前記反射膜(24)の表面を覆うように形成されたコート膜(26)と、
を備え、
前記反射膜(24)とコート膜(26)の膜厚の合計が、前記ブレーズ面(22b)と前記段差面(22c)の頂部において最大となり、底部において最小となる、ように構成されている。
【0036】
第1項に記載のブレーズド回折格子によれば、ブレーズの頂角が鋭角になるため、従来のブレーズド回折格子に比較して高い回折効率が得られる。また、コート膜(26)によってブレーズ面(22b)、段差面(22c)とは異なる新たなブレーズ面、段差面が形成されるため、任意のブレーズ波長のブレーズド回折格子が得られる。
【0037】
(第2項)第1項に記載のブレーズド回折格子(20)において、
前記コート膜(26)は、前記頂部における膜厚をt2とし、前記底部における膜厚をt1としたときに、以下の条件式(1)を満たすように構成されている。
t2-t1 ≦ 80nm ・・・(1)
【0038】
第2項に記載のブレーズド回折格子によれば、条件式(1)を満たすt1及びt2を適宜選択することにより、真空紫外、深紫外の領域の特定の波長において、高い回折効率を得ることができる。
【0039】
(第3項)第1項又は第2項に記載のブレーズド回折格子(20)において、
前記コート膜(26)の前記ブレーズ面(22b)での膜厚が、前記底部から前記頂部に向かって単調増加するように構成されている。
【0040】
第3項に記載のブレーズド回折格子によれば、光のロスが低減されるため、回折効率をより高めることができる。
【0041】
(第4項)第1項から第3項のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子(20)において、
前記コート膜(26)は、フッ化物の蒸着膜である。
【0042】
第4項に記載のブレーズド回折格子によれば、容易かつ安価に製造することが可能となる。
【0043】
(第5項)第4項に記載のブレーズド回折格子(20)において、
前記フッ化物が、フッ化マグネシウムである。
【0044】
第5項に記載のブレーズド回折格子によれば、容易かつ安価に製造することが可能となる。
【0045】
(第6項)第1項から第5項のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子(20)において、
前記反射膜の膜厚が略一定である。
【0046】
第6項に記載のブレーズド回折格子によれば、回折効率が一定となる。
【0047】
(第7項)第6項に記載のブレーズド回折格子(20)において、
前記反射膜の膜厚が、40~80nmである。
【0048】
第7項に記載のブレーズド回折格子によれば、回折効率が一定となる。
【0049】
(第8項)第1項から第7項に記載のブレーズド回折格子(20)において、
前記反射膜は、アルミニウムの蒸着膜である。
【0050】
第8項に記載のブレーズド回折格子によれば、容易かつ安価に製造することが可能となる。
【0051】
(第9項)第1項から第8項に記載のブレーズド回折格子(20)において、
ブレーズ波長が120~300nmである。
【0052】
第9項に記載のブレーズド回折格子によれば、真空紫外、深紫外の領域で高い回折効率を得ることができる。
【0053】
(第10項)一態様に係るブレーズド回折格子(20)の製造方法は、
断面形状が鋸歯状であり、ブレーズ面(22b)と段差面(22c)が一方向に交互に繰り返し配置された基材(22)を用意する工程と、
前記ブレーズ面(22b)および前記段差面(22c)の表面を覆うように反射膜(24)を形成する工程と、
前記反射膜(24)の表面を覆うようにコート膜(26)を形成する工程と、
を含み、
前記コート膜(26)を形成する工程は、前記コート膜(26)の膜厚が前記ブレーズ面(22b)と前記段差面(22c)の頂部において最大となり、底部において最小となるように前記コート膜(26)を形成する。
【0054】
第10項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、ブレーズの頂角が鋭角になるため、従来のブレーズド回折格子に比較して高い回折効率のブレーズド回折格子が得られる。また、コート膜(26)によってブレーズ面(22b)、段差面(22c)とは異なる新たなブレーズ面、段差面が形成されるため、任意のブレーズ波長のブレーズド回折格子を得ることができる。
【0055】
(第11項)第10項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記コート膜(26)は、前記頂部における膜厚をt2とし、前記底部における膜厚をt1としたときに、以下の条件式(1)を満たすように構成されている。
t2-t1 ≦ 80nm ・・・(1)
【0056】
第11項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、真空紫外、深紫外の領域で高い回折効率を有するブレーズド回折格子を得ることができる。
【0057】
(第12項)第10項又は第11項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記コート膜(26)を形成する工程は、前記コート膜(26)の前記ブレーズ面(22b)での膜厚が、前記底部から前記頂部に向かって単調増加するように前記コート膜(26)を形成する。
【0058】
第12項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、光のロスが低減された、回折効率の高いブレーズド回折格子が得られる。
【0059】
(第13項)第10項から第12項のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記コート膜(26)は、フッ化物の蒸着膜である。
【0060】
第13項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、容易かつ安価なブレーズド回折格子が得られる。
【0061】
(第14項)第13項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記フッ化物が、フッ化マグネシウムである。
【0062】
第14項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、容易かつ安価なブレーズド回折格子が得られる。
【0063】
(第15項)第10項から第14項のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記コート膜を形成する工程は、2nm/sec以上の速度で前記コート膜を成膜する。
【0064】
第15項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、安定した膜厚のコート膜を形成することができ、回折効率が一定のブレーズド回折格子が得られる。
【0065】
(第16項)第10項から第15項のいずれか一項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記反射膜(24)を形成する工程は、膜厚が略一定となるように前記反射膜(24)を形成する。
【0066】
第16項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、回折効率が一定のブレーズド回折格子が得られる。
【0067】
(第17項)第16項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記反射膜の膜厚が、40~80nmである。
【0068】
第17項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、回折効率が一定のブレーズド回折格子が得られる。
【0069】
(第18項)第10項から第17項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記反射膜は、アルミニウムの蒸着膜である。
【0070】
第18項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、容易かつ安価なブレーズド回折格子が得られる。
【0071】
(第19項)第10項から第18項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記反射膜を形成する工程は、10nm/sec以上の速度で前記反射膜を成膜する。
【0072】
第19項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、安定した膜厚の反射膜を形成することができ、回折効率が一定のブレーズド回折格子が得られる。
【0073】
(第20項)第10項から第19項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
ブレーズ波長が120~300nmである。
【0074】
第20項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、真空紫外、深紫外の領域で高い回折効率を有するブレーズド回折格子が得られる。
【0075】
(第21項)第10項から第20項に記載のブレーズド回折格子(20)の製造方法において、
前記基材を用意した後に、前記基板をドーム体の表面に取り付ける工程をさらに含み、
前記反射膜を形成する工程及び前記コート膜を形成する工程は、前記ドーム体を、中心軸を中心に所定の回転数で回転させた状態で、前記反射膜及び前記コート膜を形成する。
【0076】
第21項に記載のブレーズド回折格子の製造方法によれば、遠心力を利用して安定した膜厚のコート膜を形成することができ、回折効率が一定のブレーズド回折格子が得られる。
【符号の説明】
【0077】
1 :基板
2 :フォトレジスト層
3 :レジストパターン
4 :格子溝
5 :金属膜
11 :ブレーズ面
12 :段差面
20 :ブレーズド回折格子
22 :基材
22a :基礎回折格子
22b :基礎ブレーズ面
22c :基礎段差面
24 :反射膜
26 :コート膜
26a :回折格子
26b :ブレーズ面
26c :段差面
100 :真空チャンバ
101 :チャンバ本体
102 :真空ポンプ
110 :ドーム体
120 :アルミニウムボート
130 :フッ化マグネシウムボート
140 :シャッタ
150 :シャッタ