(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】転舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2020134319
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 美雄
(72)【発明者】
【氏名】尾形 俊明
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-045978(JP,A)
【文献】特開2009-292331(JP,A)
【文献】特開2018-052311(JP,A)
【文献】国際公開第2019/224873(WO,A1)
【文献】特開2014-151704(JP,A)
【文献】特開2010-030368(JP,A)
【文献】特開2005-041323(JP,A)
【文献】特開2005-238957(JP,A)
【文献】特開2010-100104(JP,A)
【文献】特開2006-182302(JP,A)
【文献】特開2010-214978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0354548(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0030260(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容され、左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝を有し、且つ、左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝を有し、軸方向に移動することによって左右の転舵輪を転舵する転舵軸と、
前記第一雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第一ナットと、
前記第二雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第二ナットと、
第一駆動力を発生する第一駆動源と、
前記第一駆動源とは独立して作動して第二駆動力を発生する第二駆動源と、
前記ハウジングと前記転舵軸とに跨って設けられ、前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容し、且つ、前記ハウジングに対する前記転舵軸の軸回りにおける相対回転を規制する回転規制部と、を備え、
前記第一駆動源が発生した前記第一駆動力を前記第一ナットに伝達し、前記第一ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第一動力伝達系統と、
前記第二駆動源が発生した前記第二駆動力を前記第二ナットに伝達し、前記第二ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第二動力伝達系統と、を有し、
前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統は、所定の信頼性を有すると共に所定の寿命を有しており、
前記第一動力伝達系統と前記第二動力伝達系統とについて、
前記信頼性及び
前記寿命に関連する仕様を異ならせる仕様差が設けられ
、
前記仕様差は、前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統の一方が前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統の他方に比べて、相対的に脆弱になるように設けられた、転舵装置。
【請求項2】
前記第一動力伝達系統は、前記第一駆動力を伝達する複数の伝達要素を含む第一動力伝達要素群を有し、
前記第二動力伝達系統は、前記第二駆動力を伝達する複数の伝達要素を含む第二動力伝達要素群を有し、
前記第一動力伝達要素群及び前記第二動力伝達要素群において、各々の対応する少なくとも1つの伝達要素について前記仕様差を設けた、請求項1に記載の転舵装置。
【請求項3】
前記第一駆動源が発生する前記第一駆動力及び前記第二駆動源が発生する前記第二駆動力の大きさの変化に基づき、前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統の一方が失陥した状態であるか否かを検知して報知する失陥検知部を備えた、請求項1
又は2に記載の転舵装置。
【請求項4】
前記第一動力伝達要素群及び前記第二動力伝達要素群は、複数の伝達要素として、各々、前記転舵軸と平行に配置された前記第一駆動源及び前記第二駆動源に連結された小径プーリ、前記第一ナット及び前記第二ナットに連結された前記小径プーリよりも大径の大径プーリ、前記小径プーリと前記大径プーリとに巻き付けられたベルト、及び、前記第一ナット及び前記第二ナットに収容されて前記転舵軸の前記軸回りに転動する転動体を有し、
前記仕様差は、前記小径プーリの径、前記大径プーリの径、前記ベルトの幅、前記ベルトの材質、前記転動体の大きさ、
並びに、前記転動体の硬度
のうちの少なくとも一つが、前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統とで異なるように設定される
ことにより前記仕様差が設けられる、請求項2に記載の転舵装置。
【請求項5】
前記仕様差は、前記第一駆動源及び前記第二駆動源について、前記第一駆動力を発生する際の負荷と前記第二駆動力を発生する際の負荷が異なるように設定される、請求項1-
4の何れか一項に記載の転舵装置。
【請求項6】
前記第一駆動源及び前記第二駆動源は、
互いに協働して前記転舵軸を前記軸方向に移動させるように、前記第一駆動力及び前記第二駆動力を前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統を介して前記転舵軸に伝達する、請求項1-
5の何れか一項に記載の転舵装置。
【請求項7】
前記第一動力伝達系統を介して伝達された前記第一駆動力によって前記第一ナットから前記転舵軸に及ぼす第一トルクの絶対値と、前記第二動力伝達系統を介して伝達された前記第二駆動力によって前記第二ナットから前記転舵軸に及ぼす第二トルクの絶対値と、が等しい、請求項1-
6の何れか一項に記載の転舵装置。
【請求項8】
前記第一駆動源及び前記第二駆動源は、
前記転舵軸を前記軸方向に移動させる際に、前記第一トルクの絶対値及び前記第二トルクの絶対値が等しくなるように、前記第一駆動力及び前記第二駆動力を発生させる請求項
7に記載の転舵装置。
【請求項9】
前記第一雄ねじ溝及び前記第二雄ねじ溝は、各々、球状転動体が転動する転動路を有するボールねじ、ローラ状転動体が転動する転動路を有するローラねじ及び滑りねじのうちの何れか一つの雄ねじ溝であり、
前記第一ナット及び前記第二ナットは、各々、前記第一雄ねじ溝及び前記第二雄ねじ溝に対応して、前記球状転動体を収容するボールねじナット、前記ローラ状転動体を収容するローラねじナット及び前記滑りねじと螺合する滑りねじナットのうちの何れか一つである、請求項1-
8のうちの何れか一項に記載の転舵装置。
【請求項10】
前記第一駆動源及び前記第二駆動源は、
前記転舵軸と同軸に配置されて前記第一ナット及び前記第二ナットに前記第一駆動力及び前記第二駆動力を直接的に伝達する、請求項1に記載の転舵装置。
【請求項11】
前記回転規制部は、前記ハウジングと前記転舵軸の一方に設けられた径方向の凸部、及び、前記ハウジングと前記転舵軸の他方に設けられた前記凸部に対して前記軸回りに係合する凹部、により構成される、請求項1-
10のうちの何れか一項に記載の転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に開示された転舵装置が知られている。この従来の転舵装置は、転舵輪に連結されて転舵輪を転舵するための転舵軸が2つに分割された分割転舵軸を備えており、運転者によって操作されるステアリングホイールとの機械的な連結が解除されたステアバイワイヤ式の操舵装置に適用されている。従来の転舵装置は、それぞれの分割転舵軸に左右ねじの関係となるねじ軸部と滑りねじナットから構成される滑りねじ機構を有している。そして、滑りねじ機構には、分割転舵軸の各々に設けられた滑りねじナットに対して、出力伝達機構を介して駆動力を伝達するモータが設けられている。このような滑りねじ機構を備えることによって、従来の転舵装置は、何れか一方のモータの失陥時においても転舵を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の転舵装置においては、転舵軸に対して2つ以上のモータを備え、モータから転舵軸に対して動力を伝達する動力伝達系統が2つ以上設けられる、即ち、転舵装置が機械的な冗長性を有する。この場合、1つの動力伝達系統が失陥した状態に陥っても、他の動力伝達系統によって継続して転舵することができる。しかし、各々の動力伝達系統を構成する各構成部品の仕様が同一の場合、転舵装置の作動に伴って各構成部品が劣化したり寿命を迎えたりすることにより、全ての動力伝達系統が同時に失陥した状態に陥る可能性が高くなる。2つ以上の動力伝達系統を備える、即ち、機械的な冗長性を有する転舵装置においては、転舵を継続するために、少なくとも1つの動力伝達系統は、他の動力伝達系統に比べて失陥した状態に陥りにくくする必要がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためのなされたものであり、複数の動力伝達系統の全てが同時に失陥した状態に陥ることを抑制可能な転舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、中空状のハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容され、左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝を有し、且つ、左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝を有し、軸方向に移動することによって左右の転舵輪を転舵する転舵軸と、
前記第一雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第一ナットと、
前記第二雄ねじ溝に螺合して前記ハウジングの内部に回転可能に支持される第二ナットと、
第一駆動力を発生する第一駆動源と、
前記第一駆動源とは独立して作動して第二駆動力を発生する第二駆動源と、
前記ハウジングと前記転舵軸とに跨って設けられ、前記ハウジングに対する前記転舵軸の前記軸方向における相対移動を許容し、且つ、前記ハウジングに対する前記転舵軸の軸回りにおける相対回転を規制する回転規制部と、を備え、
前記第一駆動源が発生した前記第一駆動力を前記第一ナットに伝達し、前記第一ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第一動力伝達系統と、
前記第二駆動源が発生した前記第二駆動力を前記第二ナットに伝達し、前記第二ナットを回転させて前記転舵軸に軸力を付与する第二動力伝達系統と、を有し、
前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統は、所定の信頼性を有すると共に所定の寿命を有しており、
前記第一動力伝達系統と前記第二動力伝達系統とについて、前記信頼性及び前記寿命に関連する仕様を異ならせる仕様差が設けられ、
前記仕様差は、前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統の一方が前記第一動力伝達系統及び前記第二動力伝達系統の他方に比べて、相対的に脆弱になるように設けられた、転舵装置にある。
【0007】
これによれば、第一動力伝達系統と第二動力伝達系統との間に信頼性及び寿命に関連する仕様差を設けることにより、第一動力伝達系統及び第二動力伝達系統の両方が同時に(一時に)失陥した状態になる可能性を低減することができる。即ち、仕様差を設けることにより、転舵装置に負荷がかかる場合や転舵装置を長期間に渡り作動させた場合には、第一動力伝達系統及び第二動力伝達系統の一方、例えば、第一動力伝達系統を相対的に脆弱にして優先的に失陥させることができる。換言すれば、仕様差を設けることにより、第一動力伝達系統及び第二動力伝達系統の他方である第二動力伝達系統を失陥させることなく作動させることができ、転舵輪の転舵を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】第一トルク及び第二トルクを説明するための図である。
【
図4】
図2に記載の回転規制部のIV-IV矢視断面図である。
【
図5】転舵装置を適用した操舵装置の構成を示す全体図である。
【
図6】第一変形例に係る転舵装置の構成を詳細に示す断面図である。
【
図7】第二変形例に係る転舵装置の構成を詳細に示す断面図である。
【
図8】第三変形例に係る転舵装置の構成を詳細に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1.転舵装置10の構成)
本例の転舵装置10の構成について説明する。転舵装置10は、
図1に示すように、左右前輪FW1,FW2を転舵するための転舵軸11を備えている。転舵軸11は、
図1及び
図2に示すように、両端がボールジョイント12,13に連結されている。そして、転舵軸11は、ボールジョイント12,13に連結されたリンク機構(例えば、タイロッド)を介して左右前輪FW1,FW2に連結されている。
【0010】
又、転舵軸11は、中空状のハウジング14の内部に軸方向への変位可能に収容されている。転舵軸11は、軸方向の第一の領域に左ねじ及び右ねじの一方の巻き方で形成された第一雄ねじ溝である第一ボールねじ溝11a2を有する。又、転舵軸11は、第一の領域とは異なる第二の領域に左ねじ及び右ねじの他方の巻き方で形成された第二雄ねじ溝である第二ボールねじ溝11b2を有する。尚、本例において、第一の領域及び第二の領域は、軸方向における転舵軸11の両端に相当する。転舵軸11は、ハウジング14に対して軸方向に相対移動することで左右前輪FW1,FW2(転舵輪)を転舵する。
【0011】
そして、ハウジング14の内部に回転可能に支持される第一ナットである第一ボールねじナット17が第一ボールねじ溝11a2に螺合される。又、ハウジング14の内部に回転可能に支持される第二ナットである第二ボールねじナット18が第二ボールねじ溝11b2に螺合される。これにより、転舵軸11は、両端のうちの第一の領域に、第一ボールねじ溝11a2及び第一ボールねじナット17によって第一ボールねじ部11aが形成される。又、転舵軸11は、第二の領域に、第二ボールねじ溝11b2及び第二ボールねじナット18によって第二ボールねじ部11bが形成される。
【0012】
第一ボールねじ部11aは、
図2に示すように、球状転動体としてのボール11a1を転動させるための転動路11a3を有している。第二ボールねじ部11bは、球状転動体としてのボール11b1を転動させるための転動路11b3を有している。そして、転動路11a3と転動路11b3とは、左右ねじ(互いに逆ねじ)の関係になっている。尚、転動路11a3及び転動路11b3においては、それぞれ、複数のボール11a1及びボール11b1が循環しながら転動するようになっている。
【0013】
又、転舵装置10は、
図1及び
図2に示すように、第一駆動源としての第一電動モータ15と、第二駆動源としての第二電動モータ16と、を備えている。第一電動モータ15及び第二電動モータ16は、それぞれ、転舵制御装置S1,S2によって作動が独立に制御される。これにより、第一電動モータ15は第一駆動力を発生し、第二電動モータ16は第一電動モータ15とは独立して第二駆動力を発生するようになっている。ここで、第一電動モータ15と第二電動モータ16とは、
図2に示すように、出力軸(より詳しくは、後述する小径プーリ15a及び小径プーリ16a)が互いに対向するように、ハウジング14に固定される。
【0014】
又、転舵装置10は、第一螺合部材としての第一ボールねじナット17と、第二螺合部材としての第二ボールねじナット18とを備えている。第一ボールねじナット17は、転舵軸11に設けられた第一ボールねじ部11aの第一ボールねじ溝11a2と同軸に配置されている。第二ボールねじナット18は、転舵軸11に設けられた第二ボールねじ部11bの第二ボールねじ溝11b2と同軸に配置されている。
【0015】
第一ボールねじナット17は、
図2に示すように、第一電動モータ15から小径の小径プーリ15a、無端部材であるベルト15b及び大径の大径プーリ15dを介して第一駆動力が伝達されるようになっている。第一ボールねじナット17は、有底円筒状の大径プーリ15dの中に収容固定されている。第一ボールねじナット17は、第一電動モータ15から小径プーリ15a、ベルト15b及び大径プーリ15dを介して第一駆動力が伝達されると、第一ボールねじ溝11a2に対して相対回転する。
【0016】
これにより、第一ボールねじ部11aの第一ボールねじ溝11a2と第一ボールねじナット17との間に配置されたボール11a1が転動路11a3に沿って転動し、第一電動モータ15の第一駆動力が転舵軸11を軸方向に移動させる力(軸力)即ち左右前輪FW1,FW2を転舵する転舵力に変換される。この場合、第一ボールねじナット17は、第一電動モータ15から伝達された第一駆動力を回転速度を減速して第一ボールねじ部11aの第一ボールねじ溝11a2即ち転舵軸11に伝達し、第一ボールねじ部11aにおいて第一トルクT1を転舵軸11に及ぼす。
【0017】
第二ボールねじナット18は、
図2に示すように、第二電動モータ16から小径の小径プーリ16a、無端部材であるベルト16b及び大径の大径プーリ16dを介して第二駆動力が伝達されるようになっている。第二ボールねじナット18は、有底円筒状の大径プーリ16dの中に収容固定されている。第二ボールねじナット18は、第二電動モータ16から小径プーリ16a、ベルト16b及び大径プーリ16dを介して第二駆動力が伝達されると、第二ボールねじ溝11b2に対して相対回転する。
【0018】
これにより、第二ボールねじ部11bの第二ボールねじ溝11b2と第二ボールねじナット18との間に配置されたボール11b1が転動路11b3に沿って転動し、第二電動モータ16の第二駆動力が転舵軸11を軸方向に移動させる転舵力に変換される。この場合、第二ボールねじナット18は、第二電動モータ16から伝達された第二駆動力を、回転速度を減速して第二ボールねじ部11bの第二ボールねじ溝11b2即ち転舵軸11に伝達し、第二ボールねじ部11bにおいて第二トルクT2を転舵軸11に及ぼす。
【0019】
ここで、第一ボールねじ部11aの第一ボールねじ溝11a2は、上述したように、左ねじ及び右ねじの一方である。又、第二ボールねじ部11bの第二ボールねじ溝11b2は、左ねじ及び右ねじの他方である。即ち、第一ボールねじ溝11a2及び第二ボールねじ溝11b2は、左右ねじ(逆ねじ)の関係を有するように、転舵軸11に設けられる。又、第一電動モータ15及び第二電動モータ16は、互いに対向するようにハウジング14に固定される。
【0020】
そして、
図2においてボールジョイント12側からボールジョイント13側に向かう転舵軸11の軸方向を基準として見た場合、第一電動モータ15及び第二電動モータ16は、互いに逆の回転方向となる第一駆動力及び第二駆動力を第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18に伝達する。従って、
図3に示すように、転舵軸11に作用する第一トルクT1及び第二トルクT2は互いに逆向きとなる。尚、第一電動モータ15及び第二電動モータ16の回転方向を第一電動モータ15及び第二電動モータ16自身を基準として見れば、第一駆動力及び第二駆動力は互いに同一の回転方向である。
【0021】
ところで、第一電動モータ15及び第二電動モータ16が第一駆動力及び第二駆動力を第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18に伝達する場合において、第一トルクT1及び第二トルクT2の絶対値を等しくすることが可能である。これにより、第一トルクT1と第二トルクT2とが完全に相殺することによって転舵軸11に回転を生じさせることなく転舵軸11を軸方向に移動させて、左右前輪FW1,FW2を転舵することができる。
【0022】
転舵装置10は、転舵軸11の中央部分、即ち、転舵軸11の両端に設けられた第一ボールねじ部11aと第二ボールねじ部11bとの間に、転舵軸11とハウジング14とに跨る回転規制部19が設けられる。回転規制部19は、ハウジング14に対する転舵軸11の相対回転を規制するものである。これにより、回転規制部19は、第一トルクT1及び第二トルクT2の一方が発生されない状況であっても、機械的に転舵軸11の回転を防止することができる。その結果、転舵軸11は、軸方向に移動することにより、左右前輪FW1,FW2を転舵することができる。
【0023】
本例の回転規制部19は、
図4に示すように、転舵軸11に設けられる突起21と、ハウジング14に設けられ、突起21の一部と係合する溝23とを備える。これにより、突起21と溝23とが係合する際、突起21の側面と溝23内の側面とが当接することによって係合する。このように、溝23が、突起21と係合することにより、ハウジング14に対する転舵軸11の軸方向における相対移動を許容すると共にハウジング14に対する転舵軸11の軸回りにおける相対回転を規制する。
【0024】
詳細には、突起21は、転舵軸11の外周面11cに内周面が嵌合されて転舵軸11に固定される環状部材22の環状部材外周面22aに突設される。即ち、突起21は、環状部材22の外周面22aから転舵軸11の径方向外方に向かって突設される。そして、環状部材22の内周面が転舵軸11の外周面11cに嵌合されて、転舵軸11に固定される。
【0025】
又、本例においては、突起21の表面には、潤滑性を備えたフッ素樹脂コーティングFCが設けられる。即ち、本例においては、突起21及び溝23の間には、潤滑部であるフッ素樹脂コーティングFCが介在している。これにより、転舵軸11がハウジング14に対して軸方向に移動する際、突起21と溝23との間の摩擦力が低減されるため、転舵軸11はスムーズに移動することができる。
【0026】
尚、本例においては、突起21及び溝23の間に設けられる潤滑部としては、フッ素樹脂コーティングFCを設けるようにした。しかし、潤滑部としては、これに限られず、例えば、突起21及び溝23の間にて二硫化モリブデン及びグラファイト等の固体潤滑剤を介在させたり、粘性の高いグリス等の液状の潤滑剤を介在させたりすることも可能である。
【0027】
ここで、回転規制部19は、第一トルクT1及び第二トルクT2が相殺する運転時においては、転舵軸11の回転を規制することなく且つ転舵軸11の軸方向への移動を阻害しない。従って、回転規制部19には、高い強度及び耐久性は必要ではなく、簡易的な構造を有していれば良い。
【0028】
転舵装置10は、転舵制御装置S1,S2によって作動が統括的に制御される。転舵制御装置S1,S2は、CPU、ROM、RAM等を主要構成部品とするマイクロコンピュータであり、
図1に示すように、左右前輪FW1,FW2を転舵させる目標転舵量を表す電気信号δを入力するようになっている。
【0029】
転舵制御装置S1は、第一電動モータ15に設けられたレゾルバ等の回転角センサ15cから第一電動モータ15の回転角θ1を入力する。又、転舵制御装置S2は、第二電動モータ16に設けられたレゾルバ等の回転角センサ16cから第二電動モータ16の回転角θ2を入力する。ここで、回転角θ1及び回転角θ2は、転舵軸11の軸方向における転舵軸位置即ち転舵量に対応する。
【0030】
転舵制御装置S1,S2は、回転角θ1及び回転角θ2即ち転舵軸11の転舵量(転舵軸位置)をフィードバック制御する。そして、転舵制御装置S1,S2は転舵軸11の転舵量が、電気信号δによって表される目標転舵量(目標転舵軸位置)となるように、図示省略の駆動回路を、例えば、PID制御し、第一電動モータ15に駆動電流I1を供給し第二電動モータ16に駆動電流I2を供給する。これにより、左右前輪FW1,FW2は、電気信号δによって表される目標転舵量と一致する転舵量まで転舵することができる。尚、転舵制御装置S1,S2は、回転角θ1及び回転角θ2をフィードバック制御することに代えて、又は、加えて、駆動電流I1及び駆動電流I2をフィードバック制御することも可能である。
【0031】
(2.転舵装置10の作動)
転舵制御装置S1,S2は、目標転舵量に対応する電気信号δを入力すると、第一電動モータ15及び第二電動モータ16のそれぞれに駆動電流I1及び駆動電流I2を供給する。第一電動モータ15は、駆動電流I1が供給されると、小径プーリ15a、ベルト15b及び大径プーリ15dを介して第一ボールねじナット17に第一駆動力を伝達する。又、第二電動モータ16は、駆動電流I2が供給されると、小径プーリ16a、ベルト16b及び大径プーリ16dを介して第二ボールねじナット18に第一駆動力と同一方向に作用する第二駆動力を伝達する。
【0032】
第一ボールねじナット17が第一電動モータ15からの第一駆動力を転舵軸11の第一ボールねじ溝11a2に伝達すると、第一ボールねじ部11aにおいて第一トルクT1が転舵軸11の軸力に変換される。又、第二ボールねじナット18が第二電動モータ16からの第二駆動力を転舵軸11の第二ボールねじ溝11b2に伝達すると、第二ボールねじ部11bにおいて第二トルクT2が転舵軸11の軸力に変換される。
【0033】
ところで、第一電動モータ15及び第二電動モータ16は対向するように配置されている。このため、第一電動モータ15及び第二電動モータ16が自身を基準として見て同一方向となる第一駆動力及び第二駆動力を発生した場合、第一ボールねじナット17と第二ボールねじナット18とは、転舵軸11に対して、互いに逆向きに回転する。ここで、第一ボールねじ部11aの転動路11a3と第二ボールねじ部11bの転動路11b3とは左右ねじ(逆ねじ)の関係を有している。このため、第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18が互いに逆向きに回転することによって、転舵軸11には軸方向にて同一方向の軸力即ち転舵力が発生する。これにより、転舵軸11が軸方向に移動し、左右前輪FW1,FW2を転舵する。
【0034】
この場合、転舵制御装置S1は、第一電動モータ15の回転角センサ15cから出力される回転角θ1に基づいて算出した転舵軸11の軸方向位置をフィードバック制御し、電気信号δによって表される目標転舵量となるように、第一電動モータ15及び第二電動モータ16のそれぞれの駆動電流の指令値を決定する。そして、転舵制御装置S1は、第一電動モータ15の駆動電流の指令値に基づいて、駆動電流I1をPID制御して第一電動モータ15を駆動させる。又、転舵制御装置S2は、第二電動モータ16の駆動電流の指令値に基づいて、駆動電流I2をPID制御して第二電動モータ16を駆動させる。尚、転舵軸11の軸方向位置については、例えば、ハウジング14に転舵軸11の変位量を検出する図示省略の変位センサを設け、変位センサによる検出結果に基づいて軸方向位置を検出することも可能である。
【0035】
ところで、転舵制御装置S1,S2は、転舵軸11を軸方向に移動させる際に、転舵軸11に発生する第一トルクT1と第一トルクT1と逆向きに発生する第二トルクT2との絶対値が等しくなるように、例えば、駆動電流I1と駆動電流I2を制御する。これにより、第一トルクT1と第二トルクT2とが相殺することにより、ハウジング14に対して相対回転させるような回転が転舵軸11に生じることを防止することができる。
【0036】
しかしながら、第一電動モータ15又は第二電動モータ16の何れか一方が失陥した場合には、第一トルクT1と第二トルクT2とのバランスが崩れる。このため、失陥していない方のモータ(第一電動モータ15又は第二電動モータ16)のトルクT(第一トルクT1又は第二トルクT2)によって、転舵軸11がハウジング14に対して軸回りに相対回転する力を受ける。
【0037】
ここで、本例においては、転舵軸11には回転規制部19が設けられる。このため、転舵軸11が軸回りの回転力を受けると、突起21の一方の側面がフッ素樹脂コーティングFC(潤滑部)を介して係合する溝23内の一方の側面に当接することにより、ハウジング14に対する転舵軸11の軸回りにおける相対回転を規制する。これにより、失陥していない方のモータ(第一電動モータ15又は第二電動モータ16)のトルク(第一トルクT1又は第二トルクT2)による転舵軸11の回転が規制され、トルクTが第一ボールねじ部11a又は第二ボールねじ部11bにより軸力に変換されて転舵軸11に印加される。従って、転舵軸11は、ハウジング14に対して軸方向に移動できる。
【0038】
このように、第一電動モータ15又は第二電動モータ16の何れか一方が失陥しても、失陥していない方のモータ(第一電動モータ15又は第二電動モータ16)のトルクT(第一トルクT1又は第二トルクT2)のみによって、車両を安全な場所まで操舵し移動できるため信頼性の向上が図れる。又、回転規制部19では、突起21と溝23との間にフッ素樹脂コーティングFCが介在している。これにより、突起21が溝23内を軸方向に移動(摺動)する際、抵抗少なくスムーズに摺動できる。
【0039】
(3.信頼性及び寿命に関する仕様差について)
上述したように、転舵装置10においては、転舵軸11に第一ボールねじ部11a及び第二ボールねじ溝11b2が形成される。そして、転舵装置10においては、第一ボールねじ部11a及び第二ボールねじ部11bの各々を介して、第一トルクT1及び第二トルクT2を転舵軸11に伝達することにより、転舵軸11を軸方向に移動させることができる。
【0040】
即ち、転舵装置10は、第一ボールねじ部11a(ボール11a1、第一ボールねじ溝11a2、転動路11a3及び第一ボールねじナット17を含む)、大径プーリ15d、ベルト15b、小径プーリ15a、及び、第一電動モータ15を含んで構成される第一動力伝達系統V1を備える。又、転舵装置10は、第二ボールねじ部11b(ボール11b1、第一ボールねじ溝11b2、転動路11b3及び第二ボールねじナット18を含む)、大径プーリ16d、ベルト16b、小径プーリ16a、及び、第二電動モータ16を含んで構成される第二動力伝達系統V2を備える。つまり、転舵装置10は、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2を備えることにより、機械的な冗長性を有する。
【0041】
ところで、転舵装置10が機械的な冗長性を有している場合、例えば、第一動力伝達系統V1に失陥が発生した場合であっても、第二動力伝達系統V2を介して第二トルクT2を転舵軸11に伝達することにより、転舵軸11を軸方向に移動させることが可能である。即ち、転舵装置10においては、例えば、第一動力伝達系統V1に失陥が発生した場合であっても、第二動力伝達系統V2を介して第二トルクT2を伝達することにより、継続して左右前輪FW1,FW2を転舵することができる。
【0042】
従って、転舵装置10においては、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2の両方の動力伝達系統が同時に失陥することがないように、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2について信頼性及び寿命に関する仕様差が設定されている。ここで、信頼性及び寿命とは、転舵装置10が予め実験的又は経験的に想定された想定動作を行った場合において、転舵装置10の作動を保証するために必要となる予め設定された信頼性及び寿命である。そして、信頼性及び寿命の仕様差とは、転舵装置10の作動を保証するための信頼性及び寿命を満足した上で、更に想定動作が行われた場合に、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2の一方を相対的に脆弱にして先に失陥するように設定された仕様差である。尚、本例においては、仮に失陥するとした場合、相対的に脆弱な第一動力伝達系統V1が第二動力伝達系統V2よりも先に失陥する場合を例示して説明する。
【0043】
本例においては、第一ボールねじ部11aを構成する第一動力伝達要素群としての第一電動モータ15、小径プーリ15a、ベルト15b、大径プーリ15d、ボール11a1について、第二ボールねじ部11bを構成する第二動力伝達要素群としての第二電動モータ16、小径プーリ16a、ベルト16b、大径プーリ16d、ボール11b1と異なる仕様が採用されている。具体的に、本例においては、表1に示すように、第一動力伝達系統V1と第二動力伝達系統V2との間において、第一動力伝達要素群を構成する伝達要素と対応する第二動力伝達要素群の伝達要素について仕様差が設定される。
【0044】
【0045】
プーリ径の仕様差については、表1に示すように、第一動力伝達系統V1の小径プーリ15aは、第二動力伝達系統V2の小径プーリ16aに比べて小径に設定される。換言すれば、第二動力伝達系統V2の小径プーリ16aは、第一動力伝達系統V1の小径プーリ15aに比べて大径に設定される。
【0046】
このように、プーリ径に仕様差を設けた場合、第一動力伝達系統V1のベルト15b及び第二動力伝達系統V2のベルト16bがベルト周長を除いて同一の仕様であっても、ベルト15bに作用する屈曲に起因する負荷は、ベルト16bに作用する負荷よりも大きくなる。即ち、第一動力伝達系統V1の小径プーリ15aは、第二動力伝達系統V2の小径プーリ16aに比べて小径とされる。このため、第一動力伝達系統V1においては、小径プーリ15aに巻き付けられたベルト15bの屈曲径が小さくなり、その結果、ベルト15bに付与される負荷がベルト16bに対して相対的に大きくなる。
【0047】
即ち、表1に示すように、プーリ径に仕様差を設けた場合には、第一動力伝達系統V1のベルト15bの強度に関する信頼性及び寿命が、第二動力伝達系統V2のベルト16bの強度に関する信頼性及び寿命に比べて脆弱になる。但し、第一動力伝達系統V1のベルト15bについては、車両搭載時に要求される信頼性及び寿命を満たすことは言うまでもない。又、第一動力伝達系統V1と第二動力伝達系統V2とでベルト15b及びベルト16bの信頼性及び寿命に差をつけるために、小径プーリ15a,16aよりも効果は弱くなるものの、第一動力伝達系統V1の大径プーリ15dを、第二動力伝達系統V2の大径プーリ16dに比べて小径に設定しても良い。
【0048】
ベルト幅の仕様差については、表1に示すように、第一動力伝達系統V1のベルト15bは、第二動力伝達系統V2のベルト16bに比べて狭く設定される。換言すれば、第二動力伝達系統V2のベルト16bは、第一動力伝達系統V1のベルト15bに比べて広く設定される。
【0049】
このように、ベルト幅に仕様差を設けた場合、第一動力伝達系統V1の小径プーリ15a及び大径プーリ15dと第二動力伝達系統V2の小径プーリ16a及び大径プーリ16dが同一の仕様であっても、ベルト15bに作用する負荷は、ベルト16bに作用する負荷よりも大きくなる。即ち、第一動力伝達系統V1のベルト15bは、第二動力伝達系統V2のベルト16bに比べて幅が狭い。このため、第一動力伝達系統V1においては、ベルト15bが第一電動モータ15に連結された小径プーリ15aから第一ボールねじナット17に連結された大径プーリ15dに伝達する力が相対的に大きくなり、その結果、ベルト15bに付与される負荷がベルト16bに対して相対的に大きくなる。
【0050】
即ち、表1に示すように、ベルト幅に仕様差を設けた場合には、第一動力伝達系統V1のベルト15bの強度に関する信頼性及び寿命が、第二動力伝達系統V2のベルト16bの強度に関する信頼性及び寿命に比べて脆弱になる。但し、第一動力伝達系統V1のベルト15bについては、車両搭載時に要求される信頼性及び寿命を満たすことは言うまでもない。
【0051】
ここで、本例においては、ベルト15b及びベルト16bのベルト幅を仕様差として設定する。但し、ベルト15b及びベルト16bの仕様差については、ベルト幅に限られず、例えば、ベルトの厚みやベルトの材質を仕様差として設定することもできる。
【0052】
ボール径の仕様差については、表1に示すように、第一動力伝達系統V1のボール11a1の径は、第二動力伝達系統V2のボール11b1の径に比べて小径に設定される。換言すれば、第二動力伝達系統V2のボール11b1は、第一動力伝達系統V1のボール11a1に比べて大径に設定される。
【0053】
このように、ボール径に仕様差を設けた場合、第一ボールねじナット17が転舵軸11に伝達する第一トルクT1と第二ボールねじナット18が転舵軸11に伝達する第二トルクT2との絶対値が同一であっても、転動路11a3を転動するボール11a1に作用する負荷は、転動路11b3を転動するボール11b1に作用する負荷よりも大きくなる。即ち、第一動力伝達系統V1のボール11a1は、第二動力伝達系統V2のボール11b1に比べて径が小径とされる。このため、第一動力伝達系統V1においては、ボール11b1がボールねじ溝11a2と接触する際の面圧が相対的に大きくなり、その結果、ボール11a1に付与される負荷がボール11b1に対して相対的に大きくなる。
【0054】
即ち、表1に示すように、ボール径に仕様差を設けた場合には、第一動力伝達系統V1のボール11a1の信頼性及び寿命が、第二動力伝達系統V2のボール11b1の信頼性及び寿命に比べて脆弱になる。但し、第一動力伝達系統V1のボール11a1については、車両搭載時に要求される信頼性及び寿命を満たすことは言うまでもない。
【0055】
モータ負荷の仕様差については、表1に示すように、第一動力伝達系統V1の第一電動モータ15の負荷は、第二動力伝達系統V2の第二電動モータ16に負荷に比べて大きくなるように設定される。換言すれば、第二動力伝達系統V2の第二電動モータ16の負荷は、第一動力伝達系統V1の第一電動モータ15に負荷に比べて小さくなるように設定される。
【0056】
具体的に、第一ボールねじナット17が第一ボールねじ溝11a2に回転速度を減速し直線運動に変換して伝達する減速比を第一減速比G1とし、第二ボールねじナット18が第二ボールねじ溝11b2に回転速度を減速し直線運動に変換して伝達する減速比を第二減速比G2とする。ここで、上述したように、第一動力伝達系統V1の大径プーリ15dの径は、第二動力伝達系統V2の大径プーリ16dの径よりも小径に設定される場合を想定する。
【0057】
この場合、第一動力伝達系統V1における小径プーリ15a、ベルト15b、大径プーリ15d及び第一ボールねじナット17の各間の減速比は、第二動力伝達系統V2における小径プーリ16a、ベルト16b、大径プーリ16d及び第二ボールねじナット18の各間の減速比よりも小さくなる。即ち、第一動力伝達系統V1の第一減速比G1は、第二動力伝達系統V2の第二減速比G2よりも小さくなる。
【0058】
そして、第一電動モータ15及び第二電動モータ16が発生した第一駆動力及び第二駆動力は、第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18を介して第一ボールねじ溝11a2及び第二ボールねじ溝11b2に伝達される。これにより、第一ボールねじ部11aは第一トルクT1を転舵軸11に及ぼし、第二ボールねじ部11bは第二トルクT2を転舵軸11に及ぼす。
【0059】
ところで、第一減速比G1が第二減速比G2よりも小さい場合において、転舵軸11に作用する第一トルクT1及び第二トルクT2の絶対値を等しくためには、第一電動モータ15が発生する第一駆動力は第二電動モータ16が発生する第二駆動力よりも大きくする必要がある。このため、第一電動モータ15の負荷は、第二電動モータ16の負荷よりも大きくなる。
【0060】
そして、第一電動モータ15の負荷が第二電動モータ16の負荷よりも大きい状態、即ち、第一駆動力を第二駆動力よりも大きくすることにより、転舵軸11に作用する第一トルクT1及び第二トルクT2は絶対値が等しく且つ作用方向が逆向きになって互いに相殺する。従って、転舵軸11を軸方向に移動させる際、或いは、転舵軸11を軸方向にて任意の位置に停止させる際に、転舵軸11に回転が生じないようにすることができる。
【0061】
尚、転舵軸11を軸方向に移動させる場合(即ち、左右前輪FW1,FW2を転ささせる場合)、例えば、第一電動モータ15が発生する第一駆動力の大きさを第二電動モータ16が発生する第二駆動力の大きさよりも常に大きくすることも可能である。この場合、例えば、第一減速比G1及び第二減速比G2が同一である場合、第一電動モータ15は、常に、第二電動モータ16が発生する第二駆動力に抗して、第一駆動力を発生して転舵軸11を移動させる必要がある。その結果、第一電動モータ15の負荷は、第二電動モータ16の負荷よりも大きくなる。即ち、転舵制御装置S1,S2の各々が第一電動モータ15及び第二電動モータ16を作動させる際の制御内容を異ならせることにより、モータ負荷を異ならせる仕様差を実現することができる。このような仕様差を設けることにより、負荷の大きな第一電動モータ15及び第二電動モータ16の一方が負荷の小さな第一電動モータ15及び第二電動モータ16の他方よりも先に故障することになる。尚、負荷の大きな第一電動モータ15及び第二電動モータ16の一方については、車両搭載時に要求される信頼性及び寿命を満たすことは言うまでもない。
【0062】
ここで、上述した例示においては、プーリ径、ベルト幅、ボール径及びモータ負荷の各々について仕様差を設けるようにした。しかし、仕様差としては、プーリ径、ベルト幅、ボール径及びモータ負荷のうちの少なくとも1つであれば良く、プーリ径、ベルト幅、ボール径及びモータ負荷を適宜組み合わせて設定することも可能である。
【0063】
又、他の仕様差としては、例示したプーリ径、ベルト幅、ボール径及びモータ負荷の他に、例えば、第一ボールねじ部11aにおける転動路11a3(第一ボールねじ溝11a2)のリードと、第二ボールねじ部11bにおける転動路11b3(第二ボールねじ溝11b2)のリードとを異ならせる仕様差を挙げることができる。更に、他の仕様差としては、例えば、第一ボールねじ部11aに塗布する潤滑剤と第二ボールねじ部11bに塗布する潤滑剤の硬度(温度依存性のある硬度)を異ならせたり、ボール11a1、第一ボールねじ溝11a2及び第一ボールねじナット17とボール11b1、第二ボールねじ溝11b2及び第二ボールねじナット18の硬度(焼入れ)を異ならせたりする仕様差を挙げることができる。又、ボールねじ部11a及びボールねじ部11bにおけるボールねじ転動面の寸法諸元の違いにより、仕様差を設定することも可能である。
【0064】
(4.失陥検知部について)
次に、転舵装置10の失陥検知部について説明する。上述したように、本例の転舵装置10は、仮に失陥や故障(以下、まとめて「失陥等」と称呼する。)が生じた場合において第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2の両方が失陥した状態(同時に失陥した状態を含む)になることを抑制するために、例えば、相対的に脆弱な第一動力伝達系統V1が第二動力伝達系統V2に比べて早期に発生した故障の影響が生じ易いように仕様差を設けて構成される。
【0065】
ところで、上述したように仕様差を設けた場合、第一動力伝達系統V1の方が相対的に脆弱であるために早期に劣化が進み、失陥する可能性が高い。そして、劣化が進行するにつれて、第一動力伝達系統V1においては、駆動力伝達時における摩擦が大きくなる傾向、換言すれば、第一電動モータ15が発生する第一駆動力が大きくなるように変化する傾向を有する。そこで、本例においては、失陥した状態(或いは、失陥が予測される状態)であるか否かについて、転舵軸11を回転させる際に第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2において発生する摩擦の大きさの変化に基づいて検知して判別する。
【0066】
より詳しく、本例においては、転舵制御装置S1及び転舵制御装置S2が協働することにより、失陥検知部の機能を発揮する。そして、本例においては、例えば、第二動力伝達系統V2に生じている摩擦を基準とした場合に、第一動力伝達系統V1に生じている摩擦が所定の大きさ以上に大きくなった場合に、第一動力伝達系統V1に失陥等が発生する予兆があることを判定する。
【0067】
このため、本例の転舵制御装置S1及び転舵制御装置S2の各々は、
図1及び
図5に示すように、第一電動モータ15による第一駆動力及び第二電動モータ16による第二駆動力の大きさを検出するために、第一電流センサK1及び第二電流センサK2を有している。第一電流センサK1は、図示省略の電流制御回路と第一電動モータ15との間の給電経路に設けられている。第一電流センサK1は、電流制御回路から第一電動モータ15に供給される電流の値である駆動電流I1を検出する。第二電流センサK2は、図示省略の電流制御回路と第二電動モータ16との間の給電経路に設けられている。第二電流センサK2は、電流制御回路から第二電動モータ16に供給される電流の値である駆動電流I2を検出する。
【0068】
転舵制御装置S1,S2のうち、例えば、転舵制御装置S1は、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2における摩擦の増加を検出する。転舵制御装置S1は、例えば、車両の操舵状態が、所謂、据え切りである場合に異常検出処理を実行する。ここで、据え切りとは、停車状態でステアリングホイールを操作すること、ひいては、停車状態で左右前輪FW1,FW2を転舵させる操舵状態である。据え切りが行われる場合、転舵軸11の軸力(負荷)がより大きくなるため、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2における摩擦(負荷)の増加が第一電動モータ15及び第二電動モータ16の電流値により反映されやすい。
【0069】
このため、転舵制御装置S1は、車両に設けられる図示省略の車速センサから車速を取得すると共に、転舵軸11の転舵量(軸方向位置)に対応する回転角θ1(又は回転角θ2)を取得する。そして、転舵制御装置S1は、例えば、取得した回転角θ1(又は回転角θ2)を時間微分することにより、転舵軸11の移動速度を算出する。これにより、転舵制御装置S1は、車速がゼロであり、且つ、転舵軸11の移動速度がゼロでないとき、据え切りが行われていると判定する。
【0070】
又、転舵制御装置S1は、第一電流センサK1から第一電動モータ15の駆動電流I1を取得すると共に、第二電流センサK2から第二電動モータ16の駆動電流I2を取得する。そして、転舵制御装置S1は、取得した駆動電流I1及び駆動電流I2に基づいて、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2の異常な摩擦増加を検出する。
【0071】
第一動力伝達系統V1におけるベルト15b、ボール11a1、第一電動モータ15等に劣化が生じた場合、第一ボールねじナット17の円滑な動作が阻害されるため、その分だけ第一ボールねじナット17を動作させるために必要な力が増加する。このため、第一電動モータ15が発生すべき第一トルクT1は、第一動力伝達系統V1において生じた劣化の程度に応じて増大する。ここで、第一電動モータ15に流れる駆動電流I1は、第一トルクT1の大きさに比例して大きな値となる。従って、第一電動モータ15に流れる駆動電流I1に基づいて、第一動力伝達系統V1における摩擦の増加、換言すれば、劣化の進行を検出することができる。
【0072】
又、転舵制御装置S1は、第一動力伝達系統V1における劣化の進行を判定した場合、例えば、車両の車室内(具体的には、メータクラスターパネル内)に設けられる報知器(具体的には、インジケーターランプやスピーカ等)を作動させる報知指令信号を生成する。これにより、報知器は、例えば、報知指令信号に基づいてインジケーターランプを点灯させたり、スピーカを介して警告音を発生させたりする。従って、車両の乗員は、転舵装置10において劣化が進行していることを把握することができ、実際に失陥等が発生する前に転舵装置10の修理を行うことが可能となる。
【0073】
ところで、仮に、第一動力伝達系統V1の劣化が進行し、例えば、ベルト15bが破断してしまった場合であっても、転舵装置10は継続して左右前輪FW1,FW2を転舵することができる。即ち、転舵装置10は、転舵軸11に対して第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2の2つの動力伝達系統(冗長系統)を備えている。このため、仮に、第一動力伝達系統V1が失陥して動力伝達が不能となっても、第二動力伝達系統V2が転舵軸11に動力を伝達することにより、継続して左右前輪FW1,FW2を転舵させることができる。
【0074】
具体的に、転舵制御装置S1は、例えば、ベルト15bの破断に伴って第一電動モータ15に流れる駆動電流I1が小さい、即ち、第一電動モータ15の負荷が小さい場合には、第一動力伝達系統V1が失陥していると判定する。そして、転舵制御装置S1は、第一電動モータ15の駆動を停止させる。又、転舵制御装置S1は、例えば、ボール11a1の一部に異常が発生した場合にも、第一電動モータ15の駆動を停止させる。
【0075】
これにより、転舵制御装置S2が第二電動モータ16を駆動させた場合には、第二動力伝達系統V2が駆動側になると共に第一動力伝達系統V1が従動側となる。その結果、第二電動モータ16の駆動力によって第二ボールねじ部11bにおいて第二トルクT2が発生し、第二トルクT2が第二ボールねじナット18によって軸力に変換されることにより、転舵軸11が軸方向に移動する。従って、転舵軸11に発生する軸力が、例えば、半分程度(50%程度)になるものの、転舵装置10は左右前輪FW1,FW2を転舵することができる。
【0076】
(5.転舵装置10を用いた操舵装置)
上述した転舵装置10は、
図5に示すように、ステアバイワイヤ式の操舵装置1に適用することができる。操作装置1は、運転者によって回動操作されるステアリングホイール2を備えている。ステアリングホイール2は、操舵入力軸3の上端に固定されている。操舵入力軸3には、操舵角センサ4、操舵トルクセンサ5及び反力アクチュエータ6が接続されている。
【0077】
操舵角センサ4は、ステアリングホイール2の操作量即ち操舵入力軸3の回転角を操舵角として検出して操舵制御部7に出力する。操舵トルクセンサ5は、ステアリングホイール2の操作量即ち操舵入力軸3に入力されたトルクを操舵トルクとして検出して操舵制御部7に出力する。反力アクチュエータ6は、電動モータ及び減速機構を備えており、運転者によるステアリングホイール2の回動操作に対して所定の反力を付与する。
【0078】
操舵制御部7は、CPU、ROM、RAM等を主要構成部品とするマイクロコンピュータとモータ制御回路とを備えており、操舵角センサ4及び操舵トルクセンサ5によって検出された操舵角及び操舵トルクを入力して反力アクチュエータ6の作動を制御する。即ち、操舵制御部7は、操舵角及び操舵トルクに応じた反力を生成するように、反力アクチュエータ6の作動を制御する。尚、操舵制御部7による反力アクチュエータ6の制御については、本発明に直接関係しないため、その説明を省略する。
【0079】
又、操舵制御部7は、入力した操舵角及び操舵トルクの少なくとも一方に基づいて、左右前輪FW1,FW2の目標転舵量を算出する。そして、操舵制御部7は、算出した目標転舵量を表す電気信号δを、転舵装置10の転舵制御装置S1,S2に出力する。これにより、転舵制御装置S1,S2は、操舵制御部7から入力した電気信号δに基づき、上述したように、第一駆動源としての第一電動モータ15及び第二駆動源としての第二電動モータ16を駆動させる。従って、転舵装置10をステアバイワイヤ式の操舵装置1に適用することが可能である。
【0080】
又、転舵装置10は、自動運転機能付きの車両、例えば、運転者によって操作されるステアリングホイールを備えない、或いは、通常時はステアリングホイールが格納される車両に適用することも可能である。自動運転機能付きの車両においては、例えば、乗員によって目的地が設定され、車両に搭載された地図データ又は外部センタの地図データベースに蓄積された地図データを用いて目的地までの経路が探索される。
【0081】
そして、自動運転機能付きの車両においては、例えば、探索された経路を表す経路データと、車両の現在位置を表す現在位置データとに基づいて走行して目的地まで移動する。この場合、転舵装置10においては、例えば、進行方向前方に存在するカーブを走行する際に、経路データと現在位置データとから算出可能な左右前輪FW1,FW2の目標転舵量を表す電気信号δを、自動運転を統括する上位の操舵制御部7から入力する。これにより、転舵制御装置S1,S2は、操舵制御部7から入力した電気信号δに基づき、上述したように、第一駆動源としての第一電動モータ15及び第二駆動源としての第二電動モータ16を駆動させる。従って、転舵装置10を自動運転機能付きの車両に適用することも可能である。
【0082】
以上の説明からも理解できるように、第一動力伝達系統V1と第二動力伝達系統V2との間に信頼性及び寿命に関連する仕様差を設けることにより、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2の両方が一時に失陥する可能性を低減することができる。即ち、仕様差を設けることにより、転舵装置10に負荷がかかる場合や転舵装置10を長期間に渡り作動させた場合には、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2の一方、例えば、第一動力伝達系統V1を相対的に脆弱にして優先的に失陥させることができる。換言すれば、仕様差を設けることにより、第一動力伝達系統V1及び第二動力伝達系統V2の他方である第二動力伝達系統V2を失陥させることなく作動させることができ、前輪FW1,FW2の転舵を継続することができる。
【0083】
(6.第一別例)
上記本例においては、第一動力源としての第一電動モータ15と、第一螺合部材である第一ボールねじナット17とが小径の小径プーリ15a、ベルト15b及び大径の大径プーリ15dを介して動力伝達可能に連結されるようにした。又、第二動力源としての第二電動モータ16と、第二螺合部材である第二ボールねじナット18とが小径の小径プーリ16a、ベルト16b及び大径の大径プーリ16dを介して動力伝達可能に連結されるようにした。即ち、上記本例においては、第一電動モータ15の出力軸及び第二電動モータ16の出力軸は、転舵軸11と平行になるように構成した。
【0084】
これに代えて、
図6に示すように、第一電動モータ15及び第二電動モータ16と同様に構成される第一電動モータ25及び第二電動モータ26を転舵軸11と同軸に配置することも可能である。そして、第一駆動力及び第二駆動力を直接的に第一ボールねじナット17及び第二ボールねじナット18に伝達するように構成することが可能である。即ち、第一別例においては、第一電動モータ25のロータ25aと第一ボールねじナット17とが一体に連結され、第二電動モータ26のロータ26aと第二ボールねじナット18とが一体に連結されて構成される。
【0085】
このように、第一電動モータ25及び第二電動モータ26が転舵軸11と同軸に配置された場合であっても、転舵装置10は、上記実施形態と同様に作動する。従って、上記本例と同様に、例えば、ボール径について第一動力伝達系統V1と第二動力伝達系統V2との間に仕様差を設けることにより、例えば、ボール11a1の一部に早期に劣化を生じさせる等の相対的に脆弱な第一ボールねじ部11aに優先的に失陥を生じさせることが可能である。そして、例えば、第一ボールねじ部11aに失陥が生じた場合には、第一電動モータ25の駆動を停止させる一方で第二電動モータ26を駆動させることにより、上記本例と同様の効果が得られる。又、第一別例においては、第一電動モータ25及び第二電動モータ26を転舵軸11と同軸に配置することが可能であるため、特に、転舵軸11の径方向における転舵装置10の更なる小型化が可能となる。
【0086】
(7.第二別例)
上記本例及び上記第一別例においては、第一雄ねじ溝としての第一ボールねじ溝11a2及び第二雄ねじ溝としての第二ボールねじ溝11b2を設けた。又、上記本例及び上記第一別例においては、第一ナットとして第一ボールねじナット17及び第二ナットとして第二ボールねじナット18を設けるようにした。そして、上記本例及び上記第一別例においては、球状転動体であるボール11a1及びボール11b1がボールねじの転動路11a3及び転動路11b3を転動するようにした。
【0087】
これに代えて、
図7にて上記本例の場合を例示して示すように、第一雄ねじ溝として第一ローラねじ溝31a2を有する第一ローラねじ部31a及び第二雄ねじ溝として第二ローラねじ溝31b2を有する第二ローラねじ部31bを設けることが可能である。この場合、第一ナット(第一螺合部材)として第一ローラねじナット37及び第二ナット(第二螺合部材)として第二ローラねじナット38を設けることが可能である。そして、第二別例においては、ローラ状転動体であるローラ31a1及びローラ31b1がローラねじの転動路31a3及び転動路31b3を転動する。
【0088】
このように、ローラ31a1及びローラ31b1が転動する場合であっても、転舵装置10は、上記実施形態と同様に作動する。従って、上記本例と同様に、第一動力伝達系統V1と第二動力伝達系統V2との間に仕様差を設けることにより、例えば、ローラ31a1の一部に早期に劣化を生じさせる等の相対的に脆弱な第一ローラねじ部31aに優先的に失陥を生じさせることが可能である。そして、例えば、第一ローラねじ部31aに失陥が生じた場合でも、ローラ31a1が第一ローラねじ溝31a2を循環しながら転動することができるため、第一電動モータ15の駆動を停止させる一方で第二電動モータ16を駆動させることにより、上記本例と同様の効果が得られる。
【0089】
(8.第三別例)
上記本例及び上記第一別例においては、第一雄ねじ溝としての第一ボールねじ溝11a2及び第二雄ねじ溝としての第二ボールねじ溝11b2を設けた。又、上記本例及び上記第一別例においては、第一ナット(第一螺合部材)として第一ボールねじナット17及び第二ナット(第二螺合部材)として第二ボールねじナット18を設けるようにした。そして、上記本例及び上記第一別例においては、球状転動体であるボール11a1及びボール11b1がボールねじの転動路11a3及び転動路11b3を転動するようにした。
【0090】
又、上記第二別例においては、第一雄ねじ溝として第一ローラねじ溝31a2及び第二雄ねじ溝として第二ローラねじ溝31b2を設けた。又、上記第二別例においては、第一ナット(第一螺合部材)として第一ローラねじナット37及び第二ナット(第二螺合部材)として第二ローラねじナット38を設けるように構成した。そして、第二別例においては、ローラ状転動体であるローラ31a1及びローラ31b1がローラねじの転動路31a3及び転動路31b3を転動するように構成した。
【0091】
これに代えて、
図8にて上記本例の場合を例示して示すように、第一雄ねじ溝として台形状ねじ溝41a2を有する第一滑りねじ部41a及び第二雄ねじ溝として台形状ねじ溝41b2を有する第二滑りねじ部41bを設けることが可能である。この場合、第一ナット(第一螺合部材)として第一滑りねじナット47及び第二ナット(第二螺合部材)として第二滑りねじナット48を設けることが可能である。そして、第三別例においては、第一滑りねじナット47及び第二滑りねじナット48は、回転に伴って第一滑りねじ部41aの台形状ねじ溝41a2及び第二滑りねじ部41bの台形状ねじ溝41b2を滑りながら相対的に移動する。
【0092】
このように、第一滑りねじナット47及び第二滑りねじナット48が滑りながら移動する場合であっても、転舵装置10は、上記実施形態と同様に作動する。そして、第三別例においても、第一動力伝達系統V1と第二動力伝達系統V2との間に仕様差を設けることができる。仕様差として、例えば、第一滑りねじ部41aの台形状ねじ溝41a2のピッチを第二滑りねじ部41bの台形状ねじ溝41b2のピッチよりも小さくすると共に第一電動モータ15による第一トルクT1を第二電動モータ16による第二トルクT2よりも大きくする仕様差(負荷差)を設ける。
【0093】
これにより、例えば、台形状ねじ溝41a2に早期に劣化を生じさせる等の相対的に脆弱な第一滑りねじ部41aに優先的に失陥を生じさせることが可能である。そして、例えば、第一滑りねじ部41aに失陥が生じた場合でも、第二滑りねじ部41bを介して第二電動モータ16が第二トルクT2を転舵軸11に伝達することができる。従って、第三別例においても、第一電動モータ15の駆動を停止させる一方で第二電動モータ16を駆動させることにより、上記本例と同様の効果が得られる。
【0094】
(9.その他の別例)
上述した本例及び上述した各別例においては、第一電動モータ15及び第二電動モータ16(第一電動モータ25及び第二電動モータ26)の出力軸が互いに対向するようにハウジング14等に固定されるようにした。これに代えて、第一電動モータ15及び第二電動モータ16(第一電動モータ25及び第二電動モータ26)の出力軸が転舵軸11等の左右方向にて同一方向となるように配置することも可能である。又、第一電動モータ15及び第二電動モータ16(第一電動モータ25及び第二電動モータ26)をハウジング14等の周方向及び径方向の少なくとも一方をずらして配置することも可能である。このように、第一電動モータ15及び第二電動モータ16(第一電動モータ25及び第二電動モータ26)がハウジング14等に固定されて第一駆動力及び第二駆動力を発生するように構成することが可能である。
【0095】
この場合においても、転舵軸11等に設けられる第一ボールねじ部11a及び第二ボールねじ部11b等の第一送りねじ部及び第二送りねじ部が左右ねじ(逆ねじ)である。従って、転舵軸11等を軸方向に移動させる場合、第二電動モータ16は第一電動モータ15が発生する第一駆動力に対して第一駆動力とは逆向きとなる第二駆動力を発生させる。
【0096】
これにより、第一ボールねじ部11aにて発生する第一トルクT1と第二ボールねじ部11bにて発生する第二トルクT2とは、絶対値が等しく且つ逆向きとなり、その結果、転舵軸11等の相対回転を防止することができる。従って、この場合には、上記本例及び上記各別例と同様の効果が得られると共に、例えば、転舵装置10を車両に組み付ける際の搭載上の自由度を確保することができる。
【0097】
尚、転舵装置は、運転者の操舵トルク及び操舵角を機械的なリンク機構を介して伝達し、モータにより運転者の操舵動作をアシストする電動パワーステアリングに適用しても良い。この場合、転舵装置の転舵軸にラック歯を形成すると共にラック歯に噛み合うピニオンを設け、ピニオンとコラム軸を中間シャフトで接続することにより、運転者の操舵動作を転舵装置に伝達する。
【符号の説明】
【0098】
1…操舵装置、2…ステアリングホイール、3…操舵入力軸、4…操舵角センサ、5…操舵トルクセンサ、6…反力アクチュエータ、7…操舵制御部、10…転舵装置、11…転舵軸、11a…第一ボールねじ部、11a1…ボール(球状転動体)、11a2…第一ボールねじ溝(第一雄ねじ溝)、11a3…転動路、11b…第二ボールねじ部、11b1…ボール(球状転動体)、11b2…第二ボールねじ溝(第二雄ねじ溝)、11b3…転動路、12,13…ボールジョイント、14…ハウジング、15…第一電動モータ(第一駆動源)、15a…小径プーリ(第一動力伝達部)、15b…ベルト(第一動力伝達部(無端部材))、15c…回転角センサ、15d…大径プーリ(第一動力伝達部)、16…第二電動モータ(第二駆動源)、16a…小径プーリ(第二動力伝達部)、16b…ベルト(第二動力伝達部(無端部材))、16c…回転角センサ、16d…大径プーリ(第二動力伝達部)、17…第一ボールねじナット(第一ナット)、18…第二ボールねじナット(第二ナット)、19…回転規制部、21…突起、22…環状部材、22a…環状部材外周面、23…溝、25…第一電動モータ(第一動力源)、25a…ロータ、26…第二電動モータ(第二動力源)、26a…ロータ、31a…第一ローラねじ部、31a1…ローラ(ローラ状転動体)、31a2…第一ローラねじ溝(第一雄ねじ溝)、31a3…転動路、31b…第二ローラねじ部、31b1…ローラ(ローラ状転動体)、31b2…第二ローラねじ溝(第二雄ねじ溝)、31b3…転動路、37…第一ローラねじナット(第一ナット)、38…第二ローラねじナット(第二ナット)、41a…第一滑りねじ部、41a2…台形状ねじ溝(第一雄ねじ溝)、41b…第二滑りねじ部、41b2…台形状ねじ溝(第二雄ねじ溝)、47…第一滑りねじナット(第一ナット)、48…第二滑りねじナット(第二ナット)、FW1,FW2…左右前輪(転舵輪)、I1…駆動電流、I2…駆動電流、S1,S2…転舵制御装置、T1…第一トルク、T2…第二トルク、δ…電気信号、θ1…回転角、θ2…回転角、V1…第一動力伝達系統、V2…第二動力伝達系統