IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20241106BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020141514
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2021038384
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019157772
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 維允
(72)【発明者】
【氏名】坪倉 翔
(72)【発明者】
【氏名】東大路 卓司
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203818(JP,A)
【文献】特開2004-050681(JP,A)
【文献】特開2010-090219(JP,A)
【文献】特開2014-152240(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015260(WO,A1)
【文献】特開2002-265665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/22
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片側に2層以上の層を設けた後、当該2層以上の層を除去する用途に用いるポリエステルフィルムであって、フィルム面に平行な方向で最もヤング率が高い方向のヤング率と当該方向と直交する方向のヤング率の平均値が3.5GPa~6.0GPaであるポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの少なくとも片側に、水溶性物質を含むポリエステルフィルムに接する層(層A)を有する、積層フィルム。
【請求項2】
前記層を設ける側のポリエステルフィルムの表面の弾性率が2.0GPa~4.5GPaである、請求項1に記載の積層フィルム
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムがアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第13族から第15族の元素からなる群から少なくとも2種類以上の元素を含有する請求項1または2に記載の積層フィルム
【請求項4】
積層フィルムの層Aの上に離型層を設け、その後当該離型層を有する積層フィルムの離型層に被離型層を設け、その後当該被離型層と離型層を有する積層フィルムから被離型層を離型し、その後被離型層を離型した離型層と層Aを有する積層フィルムから被離型層の残渣および離型層と層Aを除去する用途に用いる、請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム
【請求項5】
積層フィルムの層Aの上に離型層を設け、その後当該離型層を有する積層フィルムの離型層に被離型層を設け、その後当該被離型層と離型層を有する積層フィルムから被離型層を離型し、その後被離型層を離型した離型層と層Aを有する積層フィルムから被離型層の残渣および離型層と層Aを除去し、その後被離型層と離型層および層Aを除去したポリエステルフィルムを溶融した後、フィルムに製膜する用途に用いる、請求項1~4のいずれかに記載の積層フィルム
【請求項6】
前記層Aは、ポリビニルアルコール系樹脂を含む、請求項1~5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度が30~88mol%である、請求項に記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の積層フィルムの層Aの上に1層以上の層を設けた後、層Aと当該層以上の層を除去して得られる回収ポリエステルフィルムであって、前記回収ポリエステルフィルムの重量が、請求項1から5のいずれかに記載の積層フィルムのポリエステルフィルムの重量を100重量部とした際、95~101重量部である回収ポリエステルフィルム。
【請求項9】
回収ポリエステルフィルムの製造方法であって、
請求項1~5のいずれかに記載の積層フィルムの層Aの上に離型層を設ける工程(工程1)と、
前記工程1の後に当該離型層を有する積層フィルムの離型層上に被離型層を設ける工程(工程2)と、
前記工程2の後に当該被離型層と離型層を有する積層フィルムから被離型層を離型する工程(工程3)と、
前記工程3の後に被離型層を離型した離型層と層Aを有する積層フィルムから被離型層の残渣および離型層と層Aを除去する工程(工程4)を含む、
回収ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムに設けられた層を除去することに優れるポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムは様々な工業分野に利用されている。近年、IoT(Internet of Things)の進化により、コンピュータやスマートフォンに搭載されるCPUなどの電子デバイスが急激に増加し、それに伴い、電子デバイスを駆動するために重要な積層セラミックコンデンサー(MLCC)の数も爆発的に増加している。MLCCの一般的な製造方法は、基材であるフィルム上に離型層を設けた離型フィルム上に、セラミックグリーンシートと電極を積層して乾燥して固めた後、該積層体を離型フィルムから剥離し複数層を積層し、焼成するというものである。この工程において、離型フィルムは、工程中で不要物として廃棄されることとなる。
【0003】
すなわち、近年のMLCC数量の爆発的増加で不要物として廃棄される離型フィルムが増えることによる環境への負荷が課題となりつつある。MLCCの製造工程で用いられる離型フィルムに含まれる離型層の成分は、離型性の観点から、一般的にはフィルムを構成する成分とは異なる組成であるため、離型層がついた離型フィルムをそのまま再溶融した場合、離型層の成分が異物として存在するため、再利用ができない。
【0004】
特許文献1では、ワックスをフィルム中に練り込み、離型層を設けずに離型用フィルムとして用いる技術が開示されている。また、特許文献2では、離型層を有する離型用フィルムを金属ブラシを用いて洗浄し、離型層を除去したフィルムを再利用する方法が開示されている。特許文献3では、離型層とポリエステルフィルムの中間に水溶性樹脂の層を設け、水洗することで離型層を除去した後、再利用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/15260号
【文献】特開2012-171276号公報
【文献】特許第4284936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、離型剤としてワックスを用いる場合は、スラリーの塗布性や、スラリーを乾燥したグリーンシートの剥離性が十分でなく、また、フィルムを構成する成分とは異なる物質であるため、再溶融して再利用する時に異物となる課題がある。また、離型用フィルムを金属ブラシを用いて洗浄する場合は、均一に洗浄出来なかったり、離型層の除去性が十分でないという課題がある。また、離型層とポリエステルフィルムの中間に水溶性樹脂の層を設ける方法も、除去性が十分ではないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
[I]ポリエステルフィルムの少なくとも片側に2層以上の層を設けた後、当該2層以上の層を除去する用途に用いるポリエステルフィルムであって、フィルム面に平行な方向で最もヤング率が高い方向のヤング率と当該方向と直交する方向のヤング率の平均値が3.5GPa~6.0GPaであるポリエステルフィルム。
[II]前記樹脂層を設ける側のポリエステルフィルムの表面の弾性率が2.0GPa~4.5GPaである、〔I〕に記載のポリエステルフィルム。
[III]アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第13族から第15族の元素からなる群から少なくとも2種類以上の元素を含有する〔I〕または〔II〕に記載のポリエステルフィルム。
[IV]ポリエステルフィルムの少なくとも片側に中間層と離型層を設け、その後当該離型層を有するポリエステルフィルムの離型層に被離型層を設け、その後当該被離型層と離型層を有するポリエステルフィルムから被離型層を離型し、その後被離型層を離型した離型層と中間層を有するポリエステルフィルムから被離型層の残渣および離型層と中間層を除去する用途に用いる、〔I〕~〔III〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[V]ポリエステルフィルムの少なくとも片側に中間層と離型層を設け、その後当該離型層を有するポリエステルフィルムの離型層に被離型層を設け、その後当該被離型層と離型層を有するポリエステルフィルムから被離型層を離型し、その後被離型層を離型した離型層と中間層を有するポリエステルフィルムから被離型層の残渣および離型層と中間層を除去し、その後被離型層と離型層および中間層を除去したポリエステルフィルムを溶融した後、フィルムに製膜する用途に用いる、〔I〕~〔IV〕のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[VI]〔I〕~〔V〕のいずれかに記載のポリエステルフィルムの少なくとも片側に2層以上の層を設けた後、当該2層以上の層を除去して得られる回収ポリエステルフィルムであって、前記回収ポリエステルフィルムの重量が、請求項1から5のいずれかに記載のポリエステルフィルムの重量を100重量部とした際、95~101重量部である回収ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリエステルフィルムを粘着テープや離型用フィルムの基材として用いた後、その使用後においてポリエステルフィルム以外の層の除去性に優れたポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に具体例を挙げつつ、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明はポリエステルフィルムの少なくとも片側に2層以上の層を設けた後、当該2層以上の層を除去する用途に用いるポリエステルフィルムに関する。本発明でいうポリエステルは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0011】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環式ジオール類、上述のジオールが複数個連なったものなどが挙げられる。中でも、機械特性、透明性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、およびPETのジカルボン酸成分の一部にイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸を共重合したもの、PETのジオール成分の一部にシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、ジエチレングリコールを共重合したポリエステルが好適に用いられる。
【0012】
本発明のポリエステルフィルムは、当該ポリエステルフィルムの少なくとも片面に2層以上の層を設けた後、当該2層以上の層を除去する用途に用いられる。本発明の当該ポリエステルフィルムの少なくとも片面に接する層(以後、層Aと呼ぶことがある)、およびポリエステルフィルムから最も遠い位置に配される層(以後、層Bと呼ぶことがある)を設け、層Bに離型性や粘着性、遮光性などの機能を持たせることで、離型用フィルムや粘着テープ、遮光性や隠蔽性などの機能を備えた機能性積層フィルムとすることが可能である。また層Aを以下に示す物質を含む構成とし、後述する方法で洗浄することにより、使用後の機能性積層フィルムから層Aおよび層Bが除去された、ポリエステルフィルムのみを取り出すことが可能となる。層Aと層Bの間には別の層が積層されていても良いし、ポリエステルフィルムの両面に層A、層Bが積層されていても良い。
【0013】
層Aを構成するものとしては、水溶性の物質や、特定の波長(例えば赤外光や近赤外光)を吸収し、発熱・気化する物質を含むことが重要である。層Aが水溶性の物質を含む場合、層Aを含む積層フィルムを水洗することにより、層Aが水中に溶け出すことでポリエステルフィルムと層Aの界面で剥離が起こり、ポリエステルフィルムのみを取り出すことができる。層Aが赤外光や近赤外光を吸収する物質を含む場合、例えば当該波長のレーザー光を照射することで層Aを発熱・気化させ、ポリエステルフィルムから剥離することができる。
【0014】
水溶性の物質としては、Al、Cu、Tiなどの水溶性の金属や、水溶性を有するポリエステル系樹脂(化学式(1))、ポリエステルウレタン樹脂(化学式(2))、ポリビニルアルコール系樹脂(化学式(3))、ポリビニルピロリドン系樹脂(化学式(4))、デンプン(化学式(5))を主成分とするものが例示できる。ここでいう水溶性の物質とは、50℃の水に10分間浸漬した際の重量変化量が15重量%以上減少するのものを指す。具体的には、粒径0.1μm以上10mm以下の粒体5.0gを50℃の水1リットルに10分間浸漬したのち、粉体として残存するものを濾過して分離し、80℃で30分間乾燥させた後の重量を測定することで、重量変化量を算出する。
また、水溶性の観点や、水溶性の物質が溶けた状態の水のハンドリング性の観点から、生分解性を有するポリビニルアルコール系樹脂や、ポリビニルピロリドン系樹脂であることが好ましい。
【0015】
【化1】
【0016】
Rは任意の炭化水素基、nは任意の自然数。
【0017】
【化2】
【0018】
化学式(2)、Rはポリエステル結合を含む有機鎖、Rは任意の炭化水素基、nは任意の自然数。
【0019】
【化3】
【0020】
n、mは任意の自然数。
【0021】
【化4】
【0022】
nは任意の自然数。
【0023】
【化5】
【0024】
nは任意の自然数。
赤外光や近赤外光を吸収し、発熱・気化する物質としては、Al、Cu、Au、Ag、Tiなどの金属やカーボンブラックなどの無機物、昇華性を有するフタロシアニン色素などの色素が挙げられる。層Aが赤外光や近赤外光を吸収する物質を含む場合、該物質が赤外光や近赤外光を吸収することで発生する熱エネルギーで気化しやすい物質を層Aに添加しても良い。気化しやすい物質として、例えばニトロセルロースが好適に用いられる。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム面に平行な方向で最もヤング率が高い方向のヤング率と当該方向と直交する方向のヤング率の平均値が3.5GPa~6.0GPaである必要がある。ヤング率の平均値が3.5GPaを下回る場合には、ポリエステルフィルムから層Aおよび層Bを剥離する際に、ポリエステルフィルムが柔らかいため、フィルムに張力をかけながら洗浄する場合、張力下でフィルムにシワが生じる結果、フィルム幅方向にフィルムの平面性、展伸性を担保できず水との接触効率が低下したり、光の照射効率が低下する結果、洗浄効率が下がり、剥離性に劣る場合がある。特に、フィルム搬送時はフィルムの幅方向中央に張力が集中するため、フィルムの幅方向中央部での平面性、展伸性に劣る結果、フィルムの幅方向中央部で層A、層Bの剥離が十分でなくなる傾向がある。
【0026】
また、6.0GPaを超える場合には、ポリエステルフィルムから層Aおよび層Bを剥離する場合、フィルムが硬く、フィルムに張力をかけながら洗浄する場合、フィルム幅方向でフィルム表面を充分に展伸できず、水との接触効率が低下したり、光の照射効率が低下する結果、剥離性に劣る場合がある。特に、フィルム搬送時はフィルムの幅方向中央に張力が集中するため、フィルム幅方向端部には充分な張力がかかることがないため、展伸性、平面性に劣り、フィルムの幅方向端部で層A、層Bの剥離が十分でなくなる傾向がある。より好ましくは3.8~6.0GPaであり、さらに好ましくは4.0~5.5GPaである。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、前記層Aを設ける側のフィルム表面の弾性率が2.0GPa~4.5GPaであることが好ましい。2.0GPaを下回る場合、フィルム表面が柔らかいため、ポリエステルフィルムから層Aおよび層Bを剥離する際に、層Aが気化するエネルギーでポリエステルフィルムが傷ついたり、水圧によって表面が変形しやすく、洗浄性に劣る場合がある。4.5GPaを上回る場合、フィルム表面が硬いため、ポリエステルフィルムから層Aおよび層Bを剥離する際に、フィルムが変形しにくく、水洗によって層Aをポリエステルフィルムから剥離する場合、ポリエステルフィルムと層Aの接触面積が変化しにくく、洗浄性に劣る場合がある。より好ましくは2.2~4.5GPaであり、さらに好ましくは3.0~4.5GPaである。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムのヤング率を上述の範囲にするには、フィルムを製造する際の製造方法、とくに延伸倍率が重要となる。ポリエステルフィルムのヤング率を上述の範囲とする方法を以下に説明するが、本発明はこの方法により得られるポリエステルフィルムに限られるものでは無い。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムは、必要に応じて乾燥した原料を押出機内で加熱溶融し、口金から冷却したキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(溶融キャスト法)を使用することができる。該シートは、表面温度20℃以上60℃以下に冷却されたドラム上で静電気により密着冷却固化し、未延伸シートを作製する。キャストドラムの温度は、より好ましくは20℃以上40℃以下、さらに好ましくは20℃以上30℃以下である。
【0030】
次に、未延伸シートを、下記(i)式を満たす温度T1n(℃)にて、フィルムの長手方向(MD)に3.6倍以上、フィルムの幅方向(TD)に3.9倍以上、面積倍率14.0倍以上20.0倍以下に二軸延伸する。
(i)Tg(℃)≦T1n(℃)≦Tg+40(℃)
Tg:ポリエステルフィルムのガラス転移温度(℃)
フィルムの長手方向の延伸方法には、ロール感の速度差を用いる方法が好適に用いられる。この際、フィルムが滑らないようにニップロールでフィルムを固定しながら、複数区間にわけて延伸することも好ましい実施形態である。複数区間に分けて延伸することで、フィルムに応力を効率よく均一に付与し、フィルムに配向を付与せしめやすくなるので、ヤング率をより好ましい範囲とすることができる。
【0031】
次に、二軸延伸フィルムを、下記(ii)式を満足する温度(Th0(℃))で、1秒間以上30秒間以下の熱固定処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却することによって、ポリエステルフィルムを得る。
(ii)Tmf-35(℃)≦Th0(℃)≦Tmf(℃)
Tmf:フィルムの融点(℃)
(ii)を満たす条件によって二軸延伸フィルムを得ることにより、フィルムに適度な配向を付与せしめ、ヤング率を好ましい範囲とすることができる。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムの表面弾性率を上述の範囲とするためには、上述の製造方法に加え、フィルムに粒子を添加するのも好ましい実施形態である。添加する粒子としては、硬度の高い粒子がこのましく、ダイヤモンド粒子、ジルコニア粒子、酸化アルミ粒子が好適に用いられる。特に、硬度とポリエステルへの分散性の観点から、δ晶型の酸化アルミナ粒子が好ましい。
【0033】
次に、本発明のポリエステルフィルムに、層A、層Bを設ける方法について以下に説明する。
【0034】
層Aが金属である場合、一般的な真空蒸着法を好適に用いることができる。層Aが金属である場合、厚みは50nm以上が好ましい。50nmに満たない場合、層Aの機能が充分でなく、剥離性に劣る場合がある。上限は特に設けられないが、生産性やハンドリング性を考慮し、1000nm以下が好ましい。
【0035】
層Aが水溶性の樹脂を含む場合、層Aを形成する樹脂を水に溶解させ、本発明のポリエステルフィルム上にコーティングする方法が好ましく用いられる。コーティング方法としては、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング等の一般的なコーティング方式を利用することが出来る。層Aが水溶性の樹脂である場合、厚みは50nm以上1000nm以下が好ましい。50nmに満たない場合、層Aの機能が充分でなく、剥離性に劣る場合がある。1000nmを超える場合は、ブロッキングが発生し、ハンドリング性が低下する場合がある。層Aが水溶性樹脂で形成される場合、水溶性樹脂としては、生分解性の観点や、水溶性を向上させるヒドロキシル基を多く分子内に含むポリビニルアルコール系樹脂、デンプン、ポリビニルピロリドン系樹脂が好適に用いられるが、除去性の観点から、ポリビニルアルコール系樹脂が特に好適に用いられる。
【0036】
層Aとしてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、平均重合度(化学式(3)におけるnとmの和)は300以上1000以下、より好ましくは300以上800以下、さらに好ましくは400以上600以下である。平均重合度は、平均重合度が1000を超える場合は、ポリビニルアルコールの分子鎖が長くなる結果、分子鎖内でも結晶化のためのパッキングが生じやすく、結晶化度が高くなる場合があるため、除去性に劣る場合がある。平均重合度が200に満たない場合、層Aをポリエステルフィルム上にコーティングによって設ける際、塗布性が悪くなり、積層できない場合や、塗布性が悪くなりフィルム上に偏在して結晶化度が高くなる場合があり、除去性に劣る場合がある。
【0037】
また、層Aとしてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、けん化度は好ましくは30mol%以上88mol%以下、より好ましくは60mol%以上80mol%以下である。ポリビニルアルコールは、側鎖としてヒドロキシル基と酢酸基を有するが、けん化度が高いほど官能基としての嵩が小さいヒドロキシル基の量が多いことを表す。そのため、けん化度が高い場合、分子鎖パッキングによる結晶化が生じ安い傾向にある。けん化度が88mol%を超えると、結晶化度が大きくなりやすく、水への溶出性が低下する場合がある。また、けん化度が30mol%に満たない場合、酢酸基が多いため、水溶性が低下する場合や、有機溶媒に対する耐性が低下する場合がある。
【0038】
また、層Aとして用いるポリビニルアルコール系樹脂の側鎖として、下記化学式(6)のXの位置に、ヒドロキシル基や酢酸基以外の官能基を共重合した共重合ポリビニルアルコールを用いることも好ましい実施形態である。特に、親水性であり、かつ嵩高い官能基、例えば1,2-エタンジオール基(化学式(7))、スルホン酸ナトリウム基(化学式(8))などを導入することが挙げられる。共重合量としては、ポリビニルアルコール樹脂全体に対して3mol%以上20mol%以下、より好ましくは5mol%以上10mol%以下である。共重合量が20mol%を超える場合、層Aをポリエステルフィルム上にコーティングによって設ける際、塗布性が悪くなり、積層するのが困難となる場合がある。
【0039】
【化6】
【0040】
Xはヒドロキシル基や酢酸基以外の官能基、m、n、lは任意の自然数。
【0041】
【化7】
【0042】
【化8】
【0043】
層Aが赤外光や近赤外光を吸収する物質を含む場合、層Aは、赤外光や近赤外光を吸収する物質を高濃度で含有させる観点から、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング、スピンコートなどのコーティングによって設ける方法が好ましい。赤外光や近赤外光を吸収する物質としては、カーボンブラック、酸化鉄、スズ酸化インジウムなどの無機物や、シアニン化合物、フタロシアニン化合物、ジチオール金属錯体、ナフトキノン化合物、ジ インモニ ウム化合物,ア ゾ化合物等などが挙げられるが、中でも昇華性を有するフタロシアニン骨格を有する化合物が好適に用いられる。また、赤外線や近赤外光を吸収する物質と、該物質が赤外光や近赤外光を吸収することで発生する熱エネルギーによって気化しやすい物質、たとえばニトロセルロースなどを併用することも好ましい実施形態である。層Aが赤外光や近赤外光を吸収する物質を含む場合、層Aは、造膜性や耐薬品性、赤外光や近赤外光を吸収する物質の分散性の観点から、ポリエステル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂の群から選ばれる一つ以上の樹脂から構成されることが好ましい。
【0044】
次に、層Bを設ける方法について説明する。層Bは、層Aを設けたポリエステルフィルムを機能性積層フィルムとして用いるために重要である。層Bを構成する成分としては、本発明のポリエスエルフィルムと層Aからなる積層フィルムに離型性を付与する場合は、アルキッド樹脂系離型剤、ポリオレフィン系離型剤、長鎖アルキル基含有樹脂系離型剤、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤、有機系とシリコーン系の混合もしくは共重合樹脂系離型剤などを層Bに含有させて用いることができる。本発明のポリエスエルフィルムと層Aからなる積層フィルムに粘着性を付与する場合は、一般的なアクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤、ゴム系粘着剤を層Bに含有させて用いることができる。特に、離型性を付与したフィルムは工程用の離型用フィルムとして好適に用いることができる。本発明のポリエステルフィルムに層Aおよび層Bを設けたフィルムを工程用の離型用フィルムとして用いる場合、使用後の工程用の離型用フィルムから層Aおよび層Bを除去して取り出したポリエステルフィルム(以下、回収ポリエステルフィルムと言うことがある)を再利用することができるため、特に好ましい。本発明のポリエステルフィルムを用いた離型用フィルムの被離型物は、特に限定されないが、セラミックグリーンシートが例示できる。
【0045】
本発明のポリエステルフィルムに層Aを設けたフィルムを工程用の離型用フィルムとして用い、使用後の工程用の離型用フィルムから本発明のポリエステルフィルムのみを取り出して再利用する場合、回収ポリエステルフィルムを溶融した後、フィルムに製膜することが好ましい。溶融してフィルムに製膜することで、再び本発明のフィルムとして用いることができるため好ましい実施形態である。
【0046】
本発明のポリエステルフィルムの片側に設ける層Bにシリコーン離型剤、特にジメチルシロキサン結合を含有する離型剤を含む場合、ジメチルシロキサン結合を含む成分はポリエステルフィルムと混合して再溶融すると異物になりやすく、ポリエステルの劣化を促進したり、溶融後に押出成形を困難にすることがある。そのため、本発明の回収ポリエステルフィルムは、ジメチルシロキサンの残留量が回収ポリエステルフィルム全体の重量に対して0.5重量%未満であることが好ましく、0.2重量%未満であることがより好ましく、0.05重量%未満であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明のポリエステルフィルムの少なくとも片側に2層以上の層を設けた後、当該2層以上の層を除去して得られる回収ポリエステルフィルムは、その重量が、2層以上の層を設ける前のポリエスエステルフィルムを100重量部とした際、95~101重量部であることが好ましい。95重量部を下回る場合、回収ポリエステルフィルムが損傷していることを意味し、再溶融した場合に劣化する場合がある。101重量部を超える場合は、層Aや層Bの剥離が十分でなく、再溶融した場合に劣化する場合がある。より好ましくは99~101重量部である。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第13族から第15族の元素からなる群から少なくとも2種類以上の元素を含有することが好ましい。本発明のポリエステルフィルムは、かかる元素を含有することで、層Aおよび層Bを除去した後のポリエステルフィルムを再溶融後、回収ポリエステルフィルムを製膜する際の押出性が良好となる。かかる効果がいかなるメカニズムによるものかは明らかではないが、本発明者らは、上記金属元素は、一般的にポリエステル中で重合触媒としての作用を持つため、層Aおよび層Bを除去した後のポリエステルフィルムを再溶融した場合に、熱によって切断された分子鎖が再び重縮合することが促進されることにより、押出性が良好になっているものと推定している。含有される金属量は、該金属元素を合計して100ppm以上1000ppm以下、より好ましくは100ppm以上500ppm以下である。100ppmに満たない場合は、重合触媒としての作用が十分でない場合がある。1000ppmを超える場合には、逆反応が促進されるためか、溶融時にポリエステルが劣化する場合がある。金属元素としては、価数が多く、触媒としての能力の高い第13族の金属元素や、遷移金属元素が好適に用いられる。
【0049】
次に、層Aと層Bを除去する方法について説明する。層Aが水溶性である場合、水で洗浄することが好ましい実施形態である。例えば、本発明のポリエステルフィルムを含む積層フィルムを、積層フィルムを巻き出す工程と、巻き出した積層フィルム表面に温水を供給し、該積層フィルムから表面積層部を剥離する工程と、剥離後のポリエステルフィルムを巻き取る工程に供することが好ましい。温水の温度は50℃以上120℃以下であることが好ましい。50℃に満たないと洗浄性が充分に得られない場合がある。120℃を超えると、ポリエステルフィルムのガラス転位温度を超え、フィルムが搬送できない場合がある。積層フィルムの表面に水が接する時間は、5秒以上、好ましくは10秒以上、さらに好ましくは30秒以上600秒以下である。巻出した積層フィルム表面に温水を供する工程は、水槽で行い、積層フィルム全体を覆うことが好ましい。積層フィルム全体を温水で覆うことでフィルム流れ方向に水圧が発生し、層Aが溶出した際、層Bもフィルム表面から移動しやすく、洗浄性が向上する。フィルムを搬送する速度は、5m/分以上、好ましくは10m/分以上、より好ましくは20m/分以上100m/分以下である。層Aと層Bを除去する工程において層Aと層Bを設けた積層フィルムを搬送する際、積層フィルムに張力をかけることも重要である。張力をかけることによって該積層フィルムの表面を展伸し、洗浄性を向上させることができる。張力は5N/m以上100N/m以下、より好ましくは20N/m以上80N/m以下、より好ましくは30N/m以上50N/m以下である。5N/mに満たない場合、積層フィルムの表面が展伸されず、洗浄性に劣る場合がある。100N/mを超える場合、フィルムにシワが入り、表面の展伸性に劣り、洗浄性に劣る場合がある。ポリエステルフィルムのヤング率を前述の範囲とすることで、一定の張力をかけつつ、層A、層Bを除去しながら搬送することが可能となる。
【0050】
層Aが赤外光や近赤外光を吸収する物質を含む場合、赤外光や近赤外光に発振波長を有するレーザー光やランプ光を照射することが好ましい実施形態である。例えば、本発明のポリエステルフィルムを含む積層フィルムを、積層フィルムを巻き出す工程と、巻き出した積層フィルム表面に光を照射し、該積層フィルムから表面積層部を剥離する工程と、剥離後のポリエステルフィルムを巻き取る工程に供することが好ましい。赤外光や近赤外光に発振波長を有するレーザー光を用いる場合、パルス波でも、連続波でも構わないが、フィルムに連続的にまんべんなく照射する観点から、連続波であることが好ましい。また、レーザー光の発信強度は、赤外線吸収剤を含有する層の反応性の効率の観点から、5W以上50W以下であることが好ましい。照射時間は特には限定されないが、0.1秒以上照射することが好ましく0.5秒以上100秒以下照射することがより好ましい。フィルムを搬送する速度は、5m/分以上、好ましくは10m/分以上、より好ましくは20m/分以上100m/分以下である。層Aと層Bを除去する工程において層Aと層Bを設けた積層フィルムを搬送する際、積層フィルムに張力をかけることも重要である。張力をかけることによって該積層フィルムの表面を展伸し、洗浄性を向上させることができる。張力は5N/m以上100N/m以下、より好ましくは20N/m以上80N/m以下、より好ましくは30N/m以上50N/m以下である。5N/mに満たない場合、積層フィルムの表面が展伸されず、洗浄性に劣る場合がある。100N/mを超える場合、フィルムにシワが入り、表面の展伸性に劣り、洗浄性に劣る場合がある。ポリエステルフィルムのヤング率を前述の範囲とすることで、一定の張力をかけつつ、層A、層Bを除去しながら搬送することが可能となる。
【0051】
本発明のポリエステルフィルムは、上記のように、ポリエステルフィルムの少なくとも片側に層Aおよび層Bを設け、工程用の離型用フィルムや他の機能成績層フィルムとして用いた後、層Aおよび層Bを洗浄して除去することで容易に本発明のポリエステルフィルムのみの構成とできる。特に、ポリエステルフィルムの少なくとも片側に前記ポリエステルフィルムに接する層(層A)と離型層を設ける工程(工程1)と、前記工程1の後に当該離型層を有するポリエステルフィルムの離型層上に被離型層を設ける工程(工程2)と、前記工程2の後に当該被離型層と離型層を有するポリエステルフィルムから被離型層を離型する工程(工程3)と、前記工程3の後に被離型層を離型した離型層と層Aを有するポリエステルフィルムから被離型層の残渣および離型層と層Aを除去する工程(工程4)を含む工程にて得られた回収ポリエステルフィルムは、層Aと離型層が除去されているため、該フィルムをそのまま再利用したり、該フィルムを再溶融したのちチップ化し、再生原料としてフィルムの製膜に用い、工程用の離型用フィルムとして再利用することが可能となる。
【0052】
[特性の評価方法]
A.ポリエステルフィルムのヤング率(GPa)
オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA-100”を用いて、幅10mm、長さ150mmに切断したフィルムをチャック間距離50mmの装置にセットして、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重-伸び曲線の立ち上がり部の接線から引張りヤング率を求める。なお、測定は各サンプルについて5回ずつ行い、それらの平均値で評価を行った。
【0053】
なお、ヤング率がフィルム面に平行な方向で最も高くなる方向は、いずれかの方向を0°とし、フィルム面内に-90°から90°まで10°毎に方向を変えて測定することで求める。そして続いて、当該方向と同一の面内で直交する方向(方向a)のヤング率を求め、ヤング率が最も高い方向と当該方向と直交する方向の平均値をヤング率とする。
【0054】
B.ポリエステルフィルムの表面弾性率(GPa)
サンプルを室温23℃湿度65%の雰囲気中において、24時間放置後、その雰囲気下で以下の条件で測定を行う。
装置:Bruker社製走査型プローブ顕微鏡(SPM)NanoScopeV DimensionIcon
探針:Siカンチレバー(バネ定数40N/m程度)
走査モード:タッピングモード、フォースボリューム(コンタクトモード)
走査範囲:5μm四方(走査ライン;512)
得られる各点での表面弾性率を全て平均し、表面弾性率とする。
【0055】
C.各層の厚み(μm)
ポリエステルフィルムが積層フィルムである場合、下記の方法にて、各層の厚みを求めた。フィルム断面を、フィルム幅方向に平行な方向にミクロトームで切り出す。該断面を走査型電子顕微鏡で5000倍の倍率で観察し、積層各層の厚みを測定する。
【0056】
D.固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mlに本発明のポリエステルフィルムを溶解させ(溶液濃度C=1.2g/dl)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定する。また、同様に溶媒の粘度を測定する。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記(a)式により、[η](dl/g)を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とする。
(a)ηsp/C=[η]+K[η]・C
(ここで、ηsp=(溶液粘度(dl/g)/溶媒粘度(dl/g))―1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)。
【0057】
E.金属元素含有率
アルカリ金属元素は、原子吸光分析法(曰立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度計180-80。フレーム:アセチレンー空気)にて定量を行い、それ以外の金属元素は、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて定量する。
【0058】
F.残渣の評価方法
層A、層Bを除去した後のポリエステルフィルムを、以下(F-1)、(F-2)、(F-3)の方法にて評価する。
(F-1)赤外分光法による吸光度測定
以下の装置・条件にて、層A、層Bを除去した後のポリエステルフィルムの吸光度測定を行う。層A、層Bに特徴的な波長の吸光度が少ない場合、層A、層Bが除去されていることを表している。
(株)パーキンエルマー製のFrontier FTIRを用い、UATR IRユニットを使用して、媒質結晶をダイヤモンド/ZnSeとして、減衰全反射法(ATR法)によってスペクトル強度を測定する。分光器の分解能は1cm-1、スペクトルの積算回数は16回として測定する。角波長での吸光度(arb.unit)を求め、以下の通り判定する。
A;吸光度が0.04未満
B;吸光度が0.04以上0.08未満
C;吸光度が0.08以上
(F-2)光電子分光法によるSi元素量測定(atomic%)
以下の装置・条件にて、層A、層Bを除去した後のポリエステルフィルムの元素濃度(atomic%)を求める。層A、層Bに特徴的な元素の濃度が低い場合、層A、層Bが除去されていることを表している。
装置: K-Alpha+(Thermo Scientific社製)
励起X線: Monochromatic Al Kα1,2線(1486.6 eV)
X線径: 400 μm
光電子脱出角度: 90 °(試料表面に対する検出器の傾き)
A;元素濃度が0.5atomic%未満
B;元素濃度が0.5atomic%以上1.0atomic%以下
C;Si元素量が1.0atomic%以上
(F-3)回収ポリエステルフィルムの重量
層A、層Bを設ける前のポリエステルフィルムを10cm四方の大きさに切り出し、100℃にて30分間乾燥した後、室温23℃湿度65%の雰囲気中において、24時間放置後に重さを測定し、W1とする。層A、層Bを設けた後、層A、層Bを除去した後のポリエステルフィルムを10cm四方の大きさに切り出し、100℃にて30分間乾燥した後、室温23℃湿度65%の雰囲気中において、24時間放置後に重さを測定し、W2とする。W1を100重量部としたときのW2の重量部を算出し、以下の通り判定する。
【0059】
A;99.5重量部以上100.5重量部以下
B;99.0重量部以上99.5重量部未満、100.5重量部を超えて101.0重量部以下
C;99.0重量部未満あるいは101.0重量部を超える。
【0060】
G.回収溶融製膜性
層A、層Bを除去した後のポリエステルフィルムを粉砕し、180℃で2時間乾燥した後、押出機に投入し280℃で溶融押出した後、25℃に冷却したキャストドラム上でシート状に成形し、得られたシートを上述のD.の方法によって固有粘度を測定する。その固有粘度IV(R)と、ポリエステルフィルムの固有粘度IV(I)の差(ΔIV)を以下の式(b)により求め、以下のように判定する。
(b)ΔIV=IV(R)-IV(I)
A;固有粘度の差が0.05以下
B;固有粘度の差が0.を超えて0.1未満
C;固有粘度の差が0.1を超える。
【0061】
H.ポリエステルフィルムの融点Tm(℃)
試料を、JIS K 7122(1999)に基づいた方法により、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置“ロボットDSC-RDC220”を、データ解析にはディスクセッション“SSC/5200”を用いて、下記の要領にて、測定を実施する。
サンプルパンに試料を5mg秤量し、試料を25℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱する(1stRUN)。1stRUNの示差走査熱量測定チャート(縦軸を熱エネルギー、横軸を温度とする)を得る。当該1stRunの示差走査熱量測定チャートの、吸熱ピークのピーク温度を求め、Tm(℃)とする。
【0062】
I.ジメチルシロキサンの量(重量%)
試料を20g量り取り、オルトクロロフェノールに溶解させ、不溶物を遠心分離にて分離し、150℃で2時間乾燥させる。得られた不溶物を一定量量り取り、硫酸、硝酸で加圧分解した後に灰分を炭酸ナトリウムとホウ酸で溶解し、希硝酸で溶解して定容し、ICP発光分析法(日立ハイテクサイエンス社製ICP発行分光分析装置PS3520VDDII)にてSi元素濃度を測定し、ジメチルシロキサンに換算し、試料の量に対する100分率で現し、以下のように判定する。
【0063】
A;0.05重量%未満
B;0.05重量%以上0.2重量%未満
C;0.2重量%以上0.5重量%未満
D;0.5重量%以上。
【実施例
【0064】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0065】
[PET-1の製造]テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム・四水塩を触媒として、常法により重合を行い、溶融重合PETを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は20eq./tであった。
【0066】
[PET-2の製造]PET-1の重合時に、粒径0.1μmのδ晶型アルミナ粒子の含有量が0.1%となるように加えた以外はPET-1と同様にして溶融重合PETを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は20eq./tであった。
【0067】
[PET-3の製造]テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム・四水塩、酢酸アルミニウムを触媒として、常法により重合を行い、溶融重合PETを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は22eq./tであった。
【0068】
[PET-4の製造]テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム・四水塩、テトラブチルチタネートを触媒として、常法により重合を行い、溶融重合PETを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は18eq./tであった。
【0069】
[PET-5の製造]PET-1の重合時に、シクロへキシレンジメタノールの共重合量が、ジオール成分に対して20mol%となるように下以外は、PET-1と同様にして溶融重合PETを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は77℃、融点は250℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は23eq./tであった。
【0070】
[PET-6の製造]テレフタル酸およびエチレングリコールから、三酸化アンチモン、を触媒として、常法により重合を行い、溶融重合PETを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は20eq./tであった。
【0071】
[PENの製造]2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルおよびエチレングリコールから、酢酸マンガンを触媒として、エステル交換反応を実施した。エステル交換反応終了後、三酸化アンチモンを触媒として常法によりPENを得た。得られたPENのガラス転移温度は124℃、融点は265℃、固有粘度は0.62、末端カルボキシル基濃度は25eq./tであった。
【0072】
[塗剤Aの作製]付加反応型シリコーン樹脂離型剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名LTC750A)100重量部、白金触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名SRX212)2重量部を、トルエンを溶媒として固形分5重量%となるように調整し、塗剤Aを得た。
【0073】
[塗剤Bの作製]クラレ(株)製のポリビニルアルコール「ポバール5-74」(平均重合度500、けん化度74mol%)を、4重量%となるように水に溶解し、塗剤Bを得た。
【0074】
[塗剤Cの作製]n-ブチルアクリレート:97.98部と、アクリル酸:2部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート:0.02部とを、アゾビスイソブチロニトリル:0.2部を重合開始剤として、酢酸エチル溶液中で、80℃で8時間溶液重合を行って、重量平均分子量:90万のアクリル系ポリマーを得た。該アクリル系ポリマー:100部に、重合ロジンエステル(商品名「D-135」荒川化学社製):5部と、不均化ロジンエステル(商品名「KE-100」荒川化学社製):20部、スチレン系樹脂(商品名「FTR6100」:25部)、テルペンフェノール樹脂(商品名「YP90LL」:三井化学社製):1部を加えて、酢酸エチルを加え、固形分40%の粘着剤溶液を調整した。さらにイソシアネート系架橋剤(商品名「NC40」DIC社製):0.8部を加えて、均一になるように撹拌して混合することにより、粘着剤である塗剤Cを得た。
【0075】
[塗剤Dの作製]カーボンブラックとニトロセルロースを含有するカラーチップとして太平化学製品(株)製878B60部、エポキシ樹脂として三菱ケミカル(株)製エピコート828 20部、硬化剤としてメラミン樹脂(三井化学(株)製ユーバン2061)19部と触媒(共栄化学(株)製ライトエステルPM)1部を、固形分濃度が10%となるように溶媒(メチルイソブチルケトン90部、ジメチルホルムアミド10部)に溶解し、塗剤Dを得た。
【0076】
[塗剤Eの作製]三菱ケミカル(株)製のポリビニルアルコール「OKS-8089」(けん化度88mol%、平均重合度450、1,2-エタンジオールの共重合量6mol%)を、4.0重量%となるように水に溶解し、塗剤Eを得た。
【0077】
[塗剤Fの作製]日本酢ビ・ポバール(株)製のポリビニルアルコール「ASP-05」(けん化度88mol%、平均重合度500、スルホン酸ナトリウム3mol%共重合)を、4.0重量%となるように水に溶解し、塗剤Gを得た。
【0078】
[塗剤Gの作製]日本酢ビ・ポバール(株)製のポリビニルアルコール「JP-15」(平均重合度1700、けん化度88mol%)を、4.0重量%となるように水に溶解し、塗剤Gを得た。
【0079】
[誘電体ペーストの作製]チタン酸バリウム(富士チタン工業(株)製商品名HPBT-1)100重量部、ポリビニルブチラール(積水化学(株)製商品名BL-1)10重量部、フタル酸ジブチル5重量部とトルエン-エタノール(重量比30:30)60重量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合・分散させた後、濾過してペースト状の誘電体ペーストを作製した。
【0080】
(実施例1)
PET-1を、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。続いて該シートを加熱したロール群で予熱した後、90℃の温度で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸を行った後、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムのフィルム両端をクリップで把持しながらテンター内の100℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向(TD方向)に4.0倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで230℃の温度で10秒間の熱固定を施した。次いで、冷却ゾーンで均一に徐冷後、巻き取って、厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの特性は表に記載のとおりであった。
【0081】
得られたポリエステルフィルムの片面に、10Pa以下の減圧雰囲気下にて、層Aとしてアルミニウムを厚みが0.1μmとなるように蒸着した。さらに、層A側に、層Bとして塗剤Aを乾燥後の塗布厚みが1.0μmとなるようにグラビアコート法にて塗布し、工程用の離型用フィルムロールを得た。得られた工程用の離型用フィルムに、被離型物として、誘電体ペーストをダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布した。その後、得られた積層体から、誘電体を離型するとともに、被離型物を剥離した工程用の離型用フィルムロールを得た。該フィルムロールを、巻出しと巻き取り装置のある水洗装置に導入し、30N/mの張力下で、100℃の水に2分間洗浄し、層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムを回収した。
【0082】
層Aと層Bを除去し、回収したポリエステルフィルムの表面を、層Aの残渣としてXPSにより層Aの主成分であるAl元素の濃度(atomic%)を測定し、層Bの残渣としてXPSにより層Bの主成分であるSi元素の濃度(atomic%)を測定した。層A、層Bともに残渣が少なく、またポリエステルフィルムの重量変化も小さいことから、層A、層Bの除去性に優れたフィルムであった。また、層A、層Bを除去したフィルムを2cm四方の大きさに裁断したのち、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。作製した未延伸シートの固有粘度は、溶融製膜フィルムとして問題ない範囲であった。
【0083】
(実施例2)
実施例1と同様にして得たポリエステルフィルムの片面に層Aとしてアルミニウムの層を設けた積層フィルムの層Aに、層Bとして塗剤Cを用いて乾燥後の塗布厚みが1.0μmとなるようにグラビアコート法にて塗布し、粘着フィルムを得た。得られた粘着フィルムを実施例1と同様に水洗し、層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムを回収した。
【0084】
層Aと層Bを除去し、回収したポリエステルフィルムの表面を、層Aの残渣としてXPSにより層Aの主成分であるAl元素の濃度(atomic%)を測定し、層Bの残渣としてIRにより層Bの主成分であるアクリル酸の吸収帯である1040cm-1の吸光度を測定した。層A、層Bともに残渣が少なく、またポリエステルフィルムの重量変化も小さいことから、層A、層Bの除去性に優れたフィルムであった。また、層A、層Bを除去したフィルムを2cm四方の大きさに裁断したのち、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。作製した未延伸シートの固有粘度は、溶融製膜フィルムとして問題ない範囲であった。
【0085】
(実施例3)
実施例1と同様にして得たポリエステルフィルムの片面に、層Aとして塗剤Bを用い、塗布後の厚みが0.1μmとなるようにグラビアコート法により塗布し、積層ポリエステルフィルムを得た。さらに、層A側に、層Bとして塗剤Aを乾燥後の塗布厚みが1.0μmとなるようにグラビアコート法にて塗布し、工程用の離型用フィルムロールを得た。得られた工程用の離型用フィルムに、被離型物として、誘電体ペーストをダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布した。その後、得られた積層体から、誘電体を離型するとともに、被離型物を剥離した工程用の離型用フィルムロールを得た。該フィルムロールを、巻出しと巻き取り装置のある水洗装置に導入し、30N/mの張力下で、100℃の水に2分間浸漬しながら洗浄し、層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムを回収した。
【0086】
層Aと層Bを除去し、回収したポリエステルフィルムの表面を、層Aの残渣としてIRにより層Aの主成分であるポリビニルアルコールの水酸基の吸収帯である3400cm-1の吸光度を測定し、層Bの残渣としてXPSにより層Bの主成分であるSi元素の濃度(atomic%)を測定した。層A、層Bともに残渣が少なく、またポリエステルフィルムの重量変化も小さいことから、層A、層Bの除去性に優れたフィルムであった。また、層A、層Bを除去したフィルムを2cm四方の大きさに裁断したのち、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。作製した未延伸シートの固有粘度は、溶融製膜フィルムとして問題ない範囲であった。
【0087】
(実施例4~7)
構成成分、製膜条件を表に記載の通りに変えた以外は、実施例3と同様にして層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムを得た。実施例7では、PET-1とPET-2を50重量部ずつ使用した。
【0088】
実施例4では、ポリエステルフィルムの延伸において、縦延伸工程を3区間に分けて実施し、ポリエステルフィルムのヤング率をより好ましい範囲とすることができたため、層A、層Bの除去性に優れるフィルムであった。
【0089】
実施例5では、ポリエステルフィルムのヤング率がやや低く、層A、層Bの残渣が多少見られたが、層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムは、溶融製膜には耐えるものであった。
【0090】
実施例6、7では、ポリエステルフィルムにアルミナ粒子を添加してフィルム表面の弾性率を好ましい範囲とすることができ、層A、層Bの除去性に優れるフィルムであった。
【0091】
(実施例8)
実施例1と同様にしたポリエステルフィルムの片面に、層Aとして、塗剤Dを用い、塗布後の厚みが0.1μmとなるようにグラビアコート法により塗布し、積層ポリエステルフィルムを得た。さらに、層A側に、層Bとして塗剤Aを乾燥後の塗布厚みが1.0μmとなるようにグラビアコート法にて塗布し、工程用の離型用フィルムロールを得た。得られた工程用の離型用フィルムに、被離型物として、誘電体ペーストをダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布した。その後、得られた積層体から、誘電体を離型するとともに、被離型物を剥離した工程用の離型用フィルムロールを得た。該フィルムロールを、巻出しと巻き取り装置のある装置に導入し、30N/mの張力下でフィルムを展伸しながら、フィジカルフォトン(株)社製の半導体レーザーPLM-20M(波長1064nm)を用いて強度10W、周波数300kHzにてレーザー光を照射し、層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムを回収した。
【0092】
層Aと層Bを除去し、回収したポリエステルフィルムの表面を、層Aの残渣としてIRにより層Aの主成分であるニトロセルロースの吸収帯である850cm-1の吸光度を測定し、層Bの残渣としてXPSにより層Bの主成分であるSi元素の濃度(atomic%)を測定した。層A、層Bともに残渣が少なく、またポリエステルフィルムの重量変化も小さいことから、層A、層Bの除去性に優れたフィルムであった。また、層A、層Bを除去したフィルムを2cm四方の大きさに裁断したのち、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。作製した未延伸シートの固有粘度は、溶融製膜フィルムとして問題ない範囲であった。
【0093】
(実施例9、10)
ポリエステルフィルムの製膜条件を表に記載の通りに変えた以外は、実施例8と同様にして層A、層Bを設け、工程用の離型用フィルムとして利用した後、層A、層Bを除去してポリエステルフィルムを得た。
【0094】
実施例9では、ポリエステルフィルムのヤング率がやや低く、層A、層Bの残渣が多少見られたが、層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムは、溶融製膜には耐えるものであった。
【0095】
実施例10では、ポリエステルフィルムの延伸において、縦延伸工程を3区間に分けて実施し、ポリエステルフィルムのヤング率をより好ましい範囲とすることができたため、層A、層Bの除去性に優れるフィルムであった。
【0096】
(実施例11~13)
構成成分を表に記載の通りに変えた以外は、実施例11、12では実施例3と同様に、実施例13では実施例8と同様にして層A、層Bを設け、工程用の離型用フィルムとして利用した後、層A、層Bを除去してポリエステルフィルムを回収した。
【0097】
実施例11では、溶融状態のポリエステル中で触媒として作用するアルミニウムを添加したため、回収したポリエステルフィルムを用いて溶融製膜した未延伸シートの固有粘度が高いことがわかった。実施例12、13でも、溶融状態のポリエスエル中で触媒として作用するチタンを添加したため、実施例11と同様に回収したポリエステルフィルムを用いて溶融製膜した未延伸シートの固有粘度が高いことがわかった。
【0098】
(実施例14、15、17)
層Aとして用いる塗剤を、実施例14では塗剤E、実施例15では塗剤F、実施例17では塗剤Gとした以外は、実施例3と同様にして層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムを得た。
【0099】
実施例14、15では、ポリビニルアルコール系樹脂の側鎖に嵩高い官能基を導入したため、層A、層Bの除去性に優れるフィルムであった。特に、平均重合度とけん化度が好ましい範囲であり、さらにイオン性の官能基を導入した実施例15において、層A、層Bの優れた除去性を示した。
【0100】
実施例17では、ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が大きいため層A、層Bの除去性にやや劣るものの、実用に耐える範囲であった。
【0101】
(実施例16)
実施例1と同様にして得たポリエステルフィルムの片面に、層Aとして塗剤Fを用い、塗布後の厚みが0.1μmとなるようにグラビアコート法により塗布し、積層ポリエステルフィルムを得た。さらに、層A側に、層Bとして塗剤Aを乾燥後の塗布厚みが1.0μmとなるようにグラビアコート法にて塗布し、工程用の離型用フィルムロールを得た。得られた工程用の離型用フィルムに、被離型物として、塗剤Cからなる粘着層をダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布した。その後、得られた積層体を、トリアセチルセルロースとポリビニルアルコールからなる偏光板に貼り合わせ、塗剤Cからなる粘着層を離型するとともに、被離型物を剥離した工程用の離型用フィルムロールを得た。該フィルムロールを、巻出しと巻き取り装置のある水洗装置に導入し、30N/mの張力下で、100℃の水に2分間浸漬しながら洗浄し、層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムを回収した。
【0102】
層Aと層Bを除去し、回収したポリエステルフィルムの表面を、層Aの残渣としてIRにより層Aの主成分であるポリビニルアルコールの水酸基の吸収帯である3400cm-1の吸光度を測定し、層Bの残渣としてXPSにより層Bの主成分であるSi元素の濃度(atomic%)を測定した。層A、層Bともに残渣が少なく、またポリエステルフィルムの重量変化も小さいことから、層A、層Bの除去性に優れたフィルムであった。また、層A、層Bを除去したフィルムを2cm四方の大きさに裁断したのち、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。作製した未延伸シートの固有粘度は、溶融製膜フィルムとして優れた特性を示すものであった。
【0103】
(実施例18)
ポリエステルフィルムの構成成分としてPET-6とした以外は、実施例3と同様にして層Aと層Bを除去したポリエステルフィルムを得た。層Aと層Bの除去性には優れたフィルムであり、回収溶融製膜性にやや劣るものであったが、実用には耐えうるものであった
(比較例1)
PET-1を、表に記載の通りの延伸条件にて製膜し、ポリエステルフィルムを得た以外は、実施例3と同様にして層A、層Bを設け、工程用の離型用フィルムとして利用した後、層A、層Bを除去してポリエステルフィルムを回収した。
ポリエステルフィルムのヤング率が低く、フィルム搬送中に張力によってフィルム中央部の平面性が悪化し、展伸性が劣った結果、層A、層Bの除去性が十分でない回収ポリエステルフィルムであった。さらに、得られた回収ポリエステルフィルムを実施例3と同様にして溶融製膜して未延伸シートを作製した。層A、層Bの除去が十分でなく、溶融時にポリエステルが劣化し、未延伸シートの固有粘度が低く、実用に耐えられないものであった。
【0104】
(比較例2)
PENを、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、300℃で溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製し、表に記載の通りの延伸条件にて製膜し、ポリエステルフィルムを得た以外は、実施例3と同様にして層A、層Bを設け、工程用の離型用フィルムとして利用した後、層A、層Bを除去してポリエステルフィルムを回収した。
ポリエステルフィルムのヤング率が高く、フィルム搬送中に張力によってフィルム端部の平面性が悪化し、展伸性が劣った結果、層A、層Bの除去性が十分でない回収ポリエステルフィルムであった。さらに、得られた回収ポリエステルフィルムを実施例3と同様にして溶融製膜して未延伸シートを作製した。層A、層Bの除去が十分でなく、溶融時にポリエステルが劣化し、未延伸シートの固有粘度が低く、実用に耐えられないものであった。
【0105】
(比較例3)
実施例1と同様にして得たポリエステルフィルムに、層Aを設けることなく、ポリエステルフィルムの片面に層Bを設け、工程用の離型用フィルムを得た。実施例1と同様に被離型物として誘電体ペーストをダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布した。その後、得られた積層体から、誘電体を離型するとともに、被離型物を剥離した工程用の離型用フィルムロールを得た。該フィルムロールを、巻出しと巻き取り装置のある水洗装置に導入し、30N/mの張力下で、100℃の水に2分間洗浄し、ポリエステルフィルムを回収した。
【0106】
回収したポリエステルフィルムの表面を、層Bの残渣としてXPSにより層Bの主成分であるSi元素の濃度(atomic%)を測定した。層Bの残渣が多く、またポリエステルフィルムの重量変化も大きく、層A、層Bの除去性に劣ることがわかった。また、回収したポリエスエルフィルムを2cm四方の大きさに裁断したのち、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通したところ、異物が多量に発生し、未延伸シートを作製することができなかった。
【0107】
(比較例4)
実施例2と同様にして得たポリエステルフィルムに、層Aを設けることなく、ポリエステルフィルムの片面に層Bを設け、粘着フィルムを得た。実施例2と同様に、巻出しと巻き取り装置のある水洗装置に導入し、30N/mの張力下で、100℃の水に2分間洗浄し、ポリエステルフィルムを回収した。
【0108】
回収したポリエステルフィルムの表面を、層Bの残渣としてIRにより層Bの主成分であるを測定した。層Bの残渣が多く、またポリエステルフィルムの重量変化も大きく、層A、層Bの除去性に劣ることがわかった。また、回収したポリエスエルフィルムを2cm四方の大きさに裁断したのち、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通したところ、異物が多量に発生し、未延伸シートを作製することができなかった。
【0109】
(比較例5)
比較例3で得た被離型物を剥離した工程用の離型用フィルムロールを、フィルム送り出し装置と巻き取り装置、およびその中間に設けられた洗浄用ブラシを用いて、速度15m/minで繰り出しながら離型層を剥離した。中間に設けられた洗浄用ブラシは、線径0.1mm、毛足長さ15mm、のステンレス線を、外径180mmに仕上げたものを用いた。ブラシがフィルムに接触する際のバックアップロールには、ハードクロムメッキのフリーロールを用いた。層Bの残渣としてXPSにより層Bの主成分であるSi元素の濃度(atomic%)を測定した。層Bの残渣が多く、またポリエステルフィルムの重量変化も大きく、層A、層Bの除去性に劣ることがわかった。また、回収したポリエスエルフィルムを2cm四方の大きさに裁断したのち、160℃で2時間真空乾燥した後押出機に投入し、280℃で溶融させ、ダイを通したところ、異物が多量に発生し、未延伸シートを作製することができなかった。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
【表6】
【0116】
【表7】
【0117】
【表8】
【0118】
【表9】
【0119】
【表10】
【0120】
【表11】
【0121】
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のポリエステルフィルムは、層Aと層Bを設けた後に層Aと層Bの除去性に優れる。そのため、特に層Bを離型性などの機能性を付与し、機能性フィルムとして使用できる。特に離型性を付与した場合、誘電体ペーストを被離型物とした積層セラミックコンデンサー(MLCC)の製造工程用の離型用フィルムとして好適に使用出来る。また、MLCC製造工程で使用した後の離型用フィルムからポリエステルフィルムを容易に回収できるため、ポリエステルフィルムを溶融製膜用の原料として容易に再利用することができる。