(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】評価指標値算出装置、評価指標値算出方法および評価指標値算出プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 16/903 20190101AFI20241106BHJP
【FI】
G06F16/903
(21)【出願番号】P 2020141565
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-07-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元~2年度 総務省研究開発委託「革新的AIネットワーク統合基盤技術の研究開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴志
【審査官】長 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056960(JP,A)
【文献】八鍬 豊 外3名,強化学習を用いたICTシステム設計の自動化における学習収束性の改善,電子情報通信学会技術研究報告,第120巻 第80号,一般社団法人電子情報通信学会,2020年06月22日,pp.39-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 16/00-958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に評価指標が指定されたグラフが入力されると、前記グラフ
を構成する要素のうち前記評価指標が指定される可能性がある
範囲である1つ以上の
指定範囲
候補における
要素に関する前記評価指標の値を、前記評価指標の種類に対応した所定の関数を用いて、当該
指定範囲
候補ごとにそれぞれ算出する算出部と、
算出された1つ以上の前記評価指標の値のうち、前記グラフにおいて前記評価指標が指定された
範囲である指定範囲に対応する前記
指定範囲
候補から算出された値を選択する選択部とを備える
ことを特徴とする評価指標値算出装置。
【請求項2】
選択された前記評価指標の値が変換されたスカラ値を、入力された前記グラフに指定された前記評価指標の総合評価値として出力する出力部を備える
請求項1記載の評価指標値算出装置。
【請求項3】
前記出力部は、選択された複数の前記評価指標の値の線形和を取ることによって、複数の前記評価指標の値を前記スカラ値に変換する
請求項2記載の評価指標値算出装置。
【請求項4】
前記所定の関数は、学習モデルである
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の評価指標値算出装置。
【請求項5】
前記学習モデルは、グラフニューラルネットワークである
請求項4記載の評価指標値算出装置。
【請求項6】
前記グラフは、ICT(Information and Communication Technology)システムを表現するグラフである
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の評価指標値算出装置。
【請求項7】
コンピュータが、
少なくとも一部に評価指標が指定されたグラフが入力されると、前記グラフ
を構成する要素のうち前記評価指標が指定される可能性がある
範囲である1つ以上の
指定範囲
候補における
要素に関する前記評価指標の値を、前記評価指標の種類に対応した所定の関数を用いて、当該
指定範囲
候補ごとにそれぞれ算出し、
算出された1つ以上の前記評価指標の値のうち、前記グラフにおいて前記評価指標が指定された
範囲である指定範囲に対応する前記
指定範囲
候補から算出された値を選択する
ことを特徴とする評価指標値算出方法。
【請求項8】
コンピュータが、
選択された前記評価指標の値が変換されたスカラ値を、入力された前記グラフに指定された前記評価指標の総合評価値として出力する
請求項7記載の評価指標値算出方法。
【請求項9】
コンピュータに、
少なくとも一部に評価指標が指定されたグラフが入力されると、前記グラフ
を構成する要素のうち前記評価指標が指定される可能性がある
範囲である1つ以上の
指定範囲
候補における
要素に関する前記評価指標の値を、前記評価指標の種類に対応した所定の関数を用いて、当該
指定範囲
候補ごとにそれぞれ算出する算出処理、および
算出された1つ以上の前記評価指標の値のうち、前記グラフにおいて前記評価指標が指定された
範囲である指定範囲に対応する前記
指定範囲
候補から算出された値を選択する選択処理
を実行させるための評価指標値算出プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
選択された前記評価指標の値が変換されたスカラ値を、入力された前記グラフに指定された前記評価指標の総合評価値として出力する出力処理を実行させる
請求項9記載の評価指標値算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価指標値算出装置、評価指標値算出方法および評価指標値算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
分子化合物やICT(Information and Communication Technology)システム等に代表される情報を表現するグラフ構造を最適化する問題に対して、機械学習の一分野である多目的強化学習が適用されている。多目的強化学習の主な目的は、複数の評価指標を満たす探索を可能にするコスト関数モデルを学習することである。
【0003】
上記の問題の中で、特に探索状態がグラフで表現される問題では、評価指標は、グラフ構造から算出される特徴の種別を表す。評価指標は、グラフの一部または全体に対して指定される可能性がある。
【0004】
一般的に、各評価指標に対して、複数の異なる関数がそれぞれ対応している。換言すると、評価指標の種類ごとに、関数への入力値や関数からの出力値は、それぞれ異なる。
【0005】
図8は、分子化合物を表現するグラフ全体に対して定義される評価指標と、その評価指標に対応する関数の例を示す説明図である。
図8は、評価指標の一例を示す。
図8に示す例では、評価指標としてdruglikenessを表すQED(Quantative Estimate of Druglikeness)が採用されている。
【0006】
図8に示す破線で囲まれたグラフは、分子化合物の一例を表す。また、
図8に示す関数f
QEDは、
図8に示すグラフを入力として受け取り、入力されたグラフに対して数値計算処理を行う。
図8に示す例では、関数f
QEDは、グラフに対する数値計算処理の結果として数値sを出力する。
【0007】
非特許文献1には、
図8に示すような分子化合物を表現するグラフを対象にした多目的強化学習を行い、複数の評価指標を最適化する分子構造を探索する手法が記載されている。非特許文献1に記載されている手法で用いられる評価指標の値は、druglikeness、molecular weight等の分子化合物の構造から算出される値である。各評価指標は、それぞれグラフ構造全体に対する指標として指定されている。
【0008】
また、非特許文献1に記載されている手法では、上記の複数の評価指標の値が変換された単一のスカラ値が教師ラベルとして用いられて、探索用のコスト関数モデルが学習される。
【0009】
図9は、ICTシステムを表現するグラフ全体に対して定義される評価指標と、その評価指標に対応する関数の例を示す説明図である。
図9は、評価指標の一例を示す。
【0010】
図9に示す破線で囲まれたグラフは、ICTシステムの一例を表す。
図9に示すグラフは、システムの機能構成を表現している。
【0011】
具体的には、
図9に示すグラフの各頂点は、アプリケーション、ミドルウェア、サーバ、ルータ、ファイアウォール等のIT/NW(Information Technology/Network)機器をそれぞれ表している。また、
図9に示すグラフの各辺は、HTTP(Hypertext Transfer Protocol)通信、TCP(Transmission Control Protocol)通信、IP(Internet Protocol)通信、Ethernet(登録商標)通信等のIT/NW機器間の接続関係をそれぞれ表している。
【0012】
図9に示す例では、ICTシステムに定義されているコストが評価指標である。
図9に示す関数f
costは、定義されているコストをグラフから算出する関数である。
図9に示す例では、関数f
costは、グラフから算出されたコストsを出力する。
【0013】
図10は、ICTシステムを表現するグラフの一部に対して定義される評価指標と、その評価指標に対応する関数の例を示す説明図である。
図10は、評価指標の一例を示す。
【0014】
図10に示す破線で囲まれたグラフは、ICTシステムの一例を表す。
図10に示すグラフは、
図9に示す破線で囲まれたグラフと同一である。
【0015】
また、
図10に示す関数f
bandwidthは、
図10において破線枠が示すグラフ、および
図10において当該グラフの内側の破線枠が示す指定範囲候補内の辺を入力として受け取り、受け取られた辺の帯域を算出する関数である。
図10に示す指定範囲候補は、評価指標が指定される可能性がある範囲である。
【0016】
すなわち、
図10に示す例では、特定の辺に定義される帯域が評価指標である。また、関数f
bandwidthは、辺に定義される帯域を算出する関数である。
図10に示す例では、関数f
bandwidthは、指定範囲候補内の辺から算出された帯域sを出力する。
【0017】
なお、指定範囲候補は、
図10に示すグラフの辺を囲う範囲以外にも、グラフの頂点を囲う範囲や、部分グラフを囲う範囲よりも広い範囲等でもよい。
【0018】
非特許文献2には、
図9~10に示すようなICTシステムを表現するグラフを対象にした強化学習を行い、評価指標を最適化するようなシステム構成を導出するための手法が記載されている。非特許文献2に記載されている手法において用いられる評価指標は、機能要件である。
【0019】
機能要件は、システムに求められる機能に対する要件である。機能要件として、例えば「カメラで撮影された映像を解析ソフトウェアを用いて分析する」や、「分析された結果を監視する」が挙げられる。
【0020】
非特許文献2に記載されている手法は、評価指標を最適化するようなシステム構成を探索することによって、入力された機能要件を充足するシステム構成を導出する。なお、機能要件の充足の有無は、0または1の数値でそれぞれ表現されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【文献】J. You, B. Liu, R. Ying, V. Pande, and J. Leskovec, “Graph Convolutional Policy Network for Goal-Directed Molecular Graph Generation,” Neural Information Processing Systems, 2018.
【文献】丸山貴志, 桑原拓也, 八鍬 豊, 黒田貴之, 佐藤陽一, “探索型ネットワーク設計導出方式の強化学習による探索の効率化,” 信学技報, vol. 118, no. 483, ICM2018-71, pp. 123-128, 2019年3月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記の非特許文献1~2に記載されている探索手法で用いられる評価指標の種類は、各探索で変更されない。また、非特許文献1~2に記載されている探索手法で用いられる探索用モデルは、複数の評価指標が統合されたスカラ値を直接出力するように学習される。
【0023】
よって、探索時における最適化対象の評価指標が学習時に教師データの値の算出に利用された評価指標と異なる場合であっても、探索用モデルは、学習時に利用された評価指標が統合されたスカラ値の予測値を探索時に算出する。
【0024】
また、非特許文献1~2に記載されている探索手法で利用される探索用モデルは、探索状態に対して評価指標が指定される範囲である指定範囲がグラフ全体を囲う範囲で固定されていることが前提として利用されるモデルである。
【0025】
すなわち、上記の探索用モデルは、グラフの一部に指定される評価指標を扱うことができない。その理由は、探索用モデルが、グラフの一部を囲う指定範囲が入力されることを許容するように構成されていないからである。
【0026】
以上により、非特許文献1~2に記載されている探索手法は、探索時に指定される評価指標の種類や、グラフの一部を囲う指定範囲に応じた探索をすることが困難である。
【0027】
そこで、本発明は、評価指標が指定される探索状態の範囲や評価指標の種類に応じて総合評価値を出力できる評価指標値算出装置、評価指標値算出方法および評価指標値算出プログラムを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の実施形態において、評価指標値算出装置は、少なくとも一部に評価指標が指定されたグラフが入力されると、グラフを構成する要素のうち評価指標が指定される可能性がある範囲である1つ以上の指定範囲候補における要素に関する評価指標の値を、評価指標の種類に対応した所定の関数を用いて、その指定範囲候補ごとにそれぞれ算出する算出部と、算出された1つ以上の評価指標の値のうち、グラフにおいて評価指標が指定された範囲である指定範囲に対応する指定範囲候補から算出された値を選択する選択部とを備える。
【0029】
本発明の実施形態において、評価指標値算出方法は、少なくとも一部に評価指標が指定されたグラフが入力されると、グラフを構成する要素のうち評価指標が指定される可能性がある範囲である1つ以上の指定範囲候補における要素に関する評価指標の値を、評価指標の種類に対応した所定の関数を用いて、その指定範囲候補ごとにそれぞれ算出し、算出された1つ以上の評価指標の値のうち、グラフにおいて評価指標が指定された範囲である指定範囲に対応する指定範囲候補から算出された値を選択する。
【0030】
本発明の実施形態において、評価指標値算出プログラムは、コンピュータに、少なくとも一部に評価指標が指定されたグラフが入力されると、グラフを構成する要素のうち評価指標が指定される可能性がある範囲である1つ以上の指定範囲候補における要素に関する評価指標の値を、評価指標の種類に対応した所定の関数を用いて、その指定範囲候補ごとにそれぞれ算出する算出処理、および算出された1つ以上の評価指標の値のうち、グラフにおいて評価指標が指定された範囲である指定範囲に対応する指定範囲候補から算出された値を選択する選択処理を実行させる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、評価指標が指定される探索状態の範囲や評価指標の種類に応じて総合評価値を出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態の評価指標値算出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】評価指標値予測部110による算出処理の例を示す説明図である。
【
図3】評価指標値選択部120による選択処理の例を示す説明図である。
【
図4】評価指標値統合部130による変換処理の例を示す説明図である。
【
図5】本実施形態の評価指標値算出装置100による総合評価値出力処理の動作を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態の評価指標値算出装置100が実装されるコンピュータの構成例を示す概略ブロック図である。
【
図7】本発明によるシステム検証プログラム生成装置の概要を示すブロック図である。
【
図8】分子化合物を表現するグラフ全体に対して定義される評価指標と、その評価指標に対応する関数の例を示す説明図である。
【
図9】ICTシステムを表現するグラフ全体に対して定義される評価指標と、その評価指標に対応する関数の例を示す説明図である。
【
図10】ICTシステムを表現するグラフの一部に対して定義される評価指標と、その評価指標に対応する関数の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[構成の説明]
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態の評価指標値算出装置の構成例を示すブロック図である。
【0034】
上述したように、分子化合物やICTシステム等に代表される情報を表現するグラフ構造を、予め学習されたコスト関数モデルを用いて所定の評価指標を充足するように探索的に最適化する手法が存在する。
【0035】
本実施形態の評価指標値算出装置100は、構造を最適化するに際して参照される評価指標がグラフ構造の一部に与えられ、探索ごとに評価指標が変更される可能性がある場合のコスト関数モデル、およびコスト関数モデルの学習手法を扱う。
【0036】
図1に示すように、本実施形態の評価指標値算出装置100は、評価指標値予測部110と、評価指標値選択部120と、評価指標値統合部130とを備えている。
【0037】
また、
図1に示すように、評価指標値予測部110は、グラフ入力装置200と通信可能に接続されている。また、
図1に示すように、評価指標値統合部130は、総合評価指標値出力装置300と通信可能に接続されている。
【0038】
評価指標値予測部110は、グラフ入力装置200から入力されたグラフに対する評価指標の値を予測値として算出する機能を有する。
【0039】
具体的には、評価指標値予測部110は、評価指標が付与されたグラフを入力として受け取る。次いで、評価指標値予測部110は、入力されたグラフを構成する頂点や辺のうち、評価指標が指定される可能性がある範囲である指定範囲候補における頂点や辺に関する評価指標の値を、評価指標の種類ごとに算出する。
【0040】
すなわち、評価指標値予測部110は、入力されたグラフにおける指定範囲候補に対して評価指標の値を算出する。なお、指定範囲候補は、1つのグラフに複数存在する場合がある。
【0041】
図2は、評価指標値予測部110による算出処理の例を示す説明図である。
図2は、評価指標として「遅延」が指定されているグラフに対する算出処理を示す。評価指標値予測部110は、入力されたグラフに対する評価指標の値を算出する。
【0042】
図2に示す破線で囲まれたグラフは、評価指標として「遅延」が指定されたICTシステムを表すグラフである。また、
図2に示す関数f
delayは、「遅延」の評価指標の値を算出する関数である。
【0043】
また、
図2に示す破線で囲まれた評価指標の値s
1、s
2はそれぞれ、入力されたグラフを構成する辺をそれぞれ囲う指定範囲候補A、Bそれぞれから算出された遅延の値である。
【0044】
評価指標値予測部110は、評価指標として「遅延」が指定された
図2に示すグラフを受け取る。次いで、評価指標値予測部110は、評価指標として「遅延」が指定される可能性がある範囲である指定範囲候補A、Bに対する各遅延の値を、関数f
delayを用いてそれぞれ算出する。次いで、評価指標値予測部110は、算出結果として評価指標の値s
1、s
2を出力する。
【0045】
なお、指定範囲候補は、評価指標の種類ごとに予め決められていてもよい。例えば、「帯域」の評価指標の指定範囲候補は、ICTシステムを表現するグラフを構成する辺のうち、IPレイヤに相当する通信を表す辺に対してのみ設定されると予め定義されていてもよい。
【0046】
また、評価指標の値は、複数の評価指標それぞれに基づいて算出された複数の値で構成されていてもよい。また、評価指標値予測部110は、少なくともグラフにおける評価指標が指定された範囲から算出された評価指標の値を算出結果に含めていればよい。
【0047】
また、評価指標値予測部110で用いられる関数は、評価指標の値を計算可能であればどのような関数でもよい。例えば、関数は、線形回帰モデルやグラフニューラルネットワークモデル等の機械学習モデルでもよい。
【0048】
関数が機械学習モデルである場合、機械学習モデルは、強化学習や教師あり学習等の手法により学習された、評価指標の値を計算可能なモデルであることが好ましい。また、評価指標値予測部110は、シミュレータや実測定等により評価指標の値を算出してもよい。
【0049】
評価指標値選択部120は、入力されたグラフに指定された評価指標の種類および指定範囲に対応する評価指標の値を、評価指標値予測部110により算出された評価指標の値から選択する機能を有する。
【0050】
具体的には、評価指標値選択部120は、評価指標値予測部110により算出された予測値のうち、評価指標値予測部110に入力されたグラフにおいて、評価指標が指定された範囲である指定範囲に対応する値を選択する。
【0051】
図3は、評価指標値選択部120による選択処理の例を示す説明図である。
図3は、評価指標として「遅延」と「帯域」が指定されているグラフが評価指標値予測部110に入力された場合の選択処理を示す。
【0052】
また、
図3に示す破線で囲まれた評価指標の値s
1、s
2はそれぞれ、評価指標として「遅延」が指定される可能性がある範囲である指定範囲候補C、Dそれぞれから算出された遅延の値である。評価指標値予測部110は、評価指標の種類である「遅延」に対応した関数f
delayを用いて、評価指標の値s
1、s
2をそれぞれ算出する。
【0053】
また、
図3に示す破線で囲まれた評価指標の値t
1、t
2はそれぞれ、評価指標として「帯域」が指定される可能性がある範囲である指定範囲候補E、Fそれぞれから算出された帯域の値である。評価指標値予測部110は、評価指標の種類である「帯域」に対応した関数f
bandwidthを用いて、評価指標の値t
1、t
2をそれぞれ算出する。
【0054】
図3に示す破線で囲まれたグラフは、評価指標として「遅延」と「帯域」がそれぞれ指定されたグラフである。具体的には、指定範囲候補Dが、「遅延」が評価指標として指定された指定範囲である。評価指標の値s
2には、指定範囲候補Dが「遅延」が評価指標として指定された指定範囲であることを示す情報が付加されている。
【0055】
また、指定範囲候補Eが、「帯域」が評価指標として指定された指定範囲である。評価指標の値t1には、指定範囲候補Eが「帯域」が評価指標として指定された指定範囲であることを示す情報が付加されている。
【0056】
評価指標値選択部120は、評価指標値予測部110により算出された評価指標の値に付加されている、評価指標と指定範囲の情報を参照する。次いで、評価指標値選択部120は、評価指標の値s
1、s
2、t
1、t
2のうち、
図3に示すグラフに対して与えられた指定範囲である指定範囲候補D、Eそれぞれに対応する評価指標の値s
2、t
1を選択する。次いで、評価指標値選択部120は、選択された評価指標の値を出力する。
【0057】
上記のように、評価指標値予測部110は、指定範囲候補のうち、少なくとも入力されたグラフに対して与えられた指定範囲に対応する指定範囲候補から評価指標の値を算出すればよい。
【0058】
なお、評価指標値選択部120により選択される評価指標の値は、予め決められていてもよい。例えば、評価指標値選択部120は、所定の条件が付与された指定範囲候補に対応する評価指標の値を選択してもよい。
【0059】
評価指標値統合部130は、評価指標値選択部120により選択された評価指標の値をスカラ値に変換する機能を有する。
【0060】
具体的には、評価指標値統合部130は、評価指標値選択部120により選択された評価指標の予測値を入力として受け取る。次いで、評価指標値統合部130は、評価指標値予測部110に入力されたグラフに対する総合評価値を表す単一のスカラ値を出力する。
【0061】
図4は、評価指標値統合部130による変換処理の例を示す説明図である。
図4は、評価指標値選択部120により選択された評価指標の値を、評価指標値統合部130がスカラ値に変換する処理を示す。
【0062】
図4に示すように、評価指標値統合部130は、入力として評価指標の値s
2、t
1を受け取る。次いで、評価指標値統合部130は、それぞれの値にスカラ値w
1、w
2を掛け、w
1s
2とw
2t
1を足し合わせる。
【0063】
次いで、評価指標値統合部130は、計算結果の値w1s2+w2t1を総合評価指標値出力装置300に入力する。スカラ値w1s2+w2t1は、s2とt1の線形和を表す。総合評価指標値出力装置300は、入力されたスカラ値をグラフに対する総合評価値として出力する。
【0064】
なお、評価指標値統合部130によるスカラ値への変換処理は、任意の順で評価指標の値が入力されても、評価指標の値が所定のスカラ値に変換される処理であればどのような処理でもよい。評価指標値統合部130による変換処理では、線形和以外にも、積、最大値、最小値、平均値、分散等が用いられてもよい。
【0065】
また、評価指標値統合部130によるスカラ値への変換処理は、評価指標の値が入力される順番が固定されている場合、評価指標の値が任意のスカラ値に変換される処理であればどのような処理でもよい。
【0066】
以上のように、本実施形態の評価指標値予測部110は、少なくとも一部に評価指標が指定されたグラフが入力されると、グラフにおいて評価指標が指定される可能性がある1つ以上の範囲における評価指標の値を、評価指標の種類に対応した所定の関数を用いて、その範囲ごとにそれぞれ算出する。
【0067】
また、本実施形態の評価指標値選択部120は、算出された1つ以上の評価指標の値のうち、グラフにおいて評価指標が指定された範囲に対応する値を選択する。
【0068】
また、本実施形態の評価指標値統合部130は、選択された評価指標の値が変換されたスカラ値を、入力されたグラフに指定された評価指標の総合評価値として出力する。評価指標値統合部130は、例えば選択された複数の評価指標の値の線形和を取ることによって、複数の評価指標の値をスカラ値に変換する。
【0069】
本実施形態の評価指標値予測部110、評価指標値選択部120、および評価指標値統合部130は、例えば、評価指標値算出プログラムに従って動作するコンピュータのCPU(Central Processing Unit )により実現される。
【0070】
上記の場合、CPUは、コンピュータのプログラム記憶装置等のプログラム記録媒体から評価指標値算出プログラムを読み込む。次いで、CPUは、読み込まれた評価指標値算出プログラムに従って、評価指標値予測部110、評価指標値選択部120、および評価指標値統合部130として動作すればよい。
【0071】
[動作の説明]
以下、本実施形態の評価指標値算出装置100の動作を
図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態の評価指標値算出装置100による総合評価値出力処理の動作を示すフローチャートである。
【0072】
図5は、評価指標値算出装置100が、評価指標が付与されたグラフから評価指標の総合評価値を出力する処理を示す。なお、以下の説明では、既に説明した事項の説明を適宜省略する。
【0073】
最初に、評価指標値算出装置100の評価指標値予測部110に、グラフ入力装置200から評価指標が付与されたグラフが入力される(ステップS101)。
【0074】
次いで、評価指標値予測部110は、入力されたグラフに付与された評価指標の種類ごとに、入力されたグラフにおける指定範囲候補の評価指標の値を予測値として算出する(ステップS102)。評価指標値予測部110は、算出された予測値を評価指標値選択部120に入力する。
【0075】
次いで、評価指標値選択部120は、ステップS102で算出された予測値のうち、ステップS101で入力されたグラフにおける指定範囲に対応する予測値を選択する(ステップS103)。評価指標値選択部120は、選択された予測値を評価指標値統合部130に入力する。
【0076】
次いで、評価指標値統合部130は、ステップS103で選択された予測値をスカラ値に変換する(ステップS104)。次いで、評価指標値統合部130は、ステップS104で変換されて得られたスカラ値を総合評価値として出力する(ステップS105)。総合評価値を出力した後、評価指標値算出装置100は、総合評価値出力処理を終了する。
【0077】
[効果の説明]
本実施形態の評価指標値算出装置100は、評価指標が指定される探索状態の範囲や評価指標の種類に応じた総合評価値を算出する装置である。
【0078】
評価指標値算出装置100は、評価指標が付与されたグラフが入力されると、グラフにおける評価指標が指定される可能性がある範囲の評価指標の値を、評価指標の種類ごとに学習モデル等により算出する評価指標値予測部110を備える。
【0079】
また、評価指標値算出装置100は、グラフに対して指定された評価指標に従って算出された予測値を選択する評価指標値選択部120を備える。
【0080】
また、評価指標値算出装置100は、選択された評価指標の値をスカラ値に変換することによって、入力されたグラフに指定された評価指標の総合評価値を出力する評価指標値統合部130を備える。
【0081】
本実施形態の評価指標値算出装置100は、入力されるグラフに付与される評価指標の種類や指定範囲に応じた総合評価値を出力できる。その理由は、評価指標値予測部110が入力されたグラフに指定された評価指標の種類に応じて予測値を算出し、評価指標値選択部120が算出された予測値のうち評価指標が指定された範囲に対応する予測値を選択できるからである。
【0082】
本実施形態の評価指標値算出装置100は、分子化合物やICTシステム等を表すグラフに対して指定される評価指標の範囲または評価指標の種類が探索の開始時に変更された場合であっても、変更された評価指標の値を算出できる。
【0083】
評価指標値算出装置100が使用された場合、特に分子化合物やICTシステム等を表現するグラフの構造を探索的に求めるような問題において、探索時に参照される評価指標が変更された場合であっても、変更された評価指標に基づいた解が導出される。
【0084】
以下、本実施形態の産業上の応用例を説明する。本実施形態の評価指標値算出装置100は、創薬業における分子化合物の構造の最適化に利用可能である。具体的には、評価指標が付与された分子化合物を表現するグラフが評価指標値算出装置100に入力される。
【0085】
また、評価指標値予測部110が評価指標の値を算出する関数としてグラフニューラルネットワークを利用し、評価指標値統合部130がスカラ値への変換処理に線形和を利用することによって、評価指標値算出装置100が分子化合物の構造の最適化に利用される。
【0086】
特に、非特許文献1に記載されている創薬分野における化合物の生成を行う問題に対しても、本実施形態の評価指標値算出装置100は、適用可能である。
【0087】
また、本実施形態の評価指標値算出装置100は、ICTシステムを表すグラフの構造を最適化する課題に対しても利用可能である。具体的には、評価指標が付与されたICTシステムを表現するグラフが評価指標値算出装置100に入力される。
【0088】
また、評価指標値予測部110が評価指標の値を算出する関数としてグラフニューラルネットワークを利用し、評価指標値統合部130がスカラ値への変換処理に線形和を利用することによって、評価指標値算出装置100がICTシステムを表すグラフの構造の最適化に利用される。
【0089】
特に、非特許文献2に記載されている探索問題において、機能要件以外に複数の性能要件が評価指標として扱われるような場合の探索に対して、本実施形態の評価指標値算出装置100は、応用可能である。
【0090】
図6は、本実施形態の評価指標値算出装置100が実装されるコンピュータの構成例を示す概略ブロック図である。
図6に示すコンピュータ10は、CPU11と、主記憶装置12と、補助記憶装置13と、インタフェース14と、入力デバイス15と、出力デバイス16とを備える。
【0091】
本実施形態の評価指標値算出装置100は、コンピュータ10に実装される。評価指標値算出装置100の動作を実現する評価指標値算出プログラムは、補助記憶装置13に記憶されている。
【0092】
CPU11は、評価指標値算出プログラムを補助記憶装置13から読み出して主記憶装置12に展開し、展開された評価指標値算出プログラムに従って、上記の実施形態で説明した処理を実行する。主記憶装置12は、例えばRAM(Random Access Memory)である。
【0093】
補助記憶装置13は、例えば一時的でない有形の媒体である。一時的でない有形の媒体として、インタフェース14を介して接続される磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory )、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory )、半導体メモリ等が挙げられる。
【0094】
入力デバイス15は、データや処理命令を入力する機能を有する。入力デバイス15は、例えばキーボードやマウスである。
【0095】
出力デバイス16は、データを出力する機能を有する。出力デバイス16は、例えば液晶ディスプレイ装置等の表示装置、またはプリンタ等の印刷装置である。
【0096】
また、評価指標値算出プログラムが通信回線を介してコンピュータ10に配信される場合、コンピュータ10が、配信されたプログラムを主記憶装置12に展開し、上記の処理を実行してもよい。
【0097】
また、各構成要素の一部または全部は、汎用または専用の回路(circuitry )、プロセッサやこれらの組み合わせによって実現されてもよい。これらは、単一のチップによって構成されてもよいし、バスを介して接続される複数のチップによって構成されてもよい。各構成要素の一部または全部は、上述した回路等とプログラムとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0098】
各構成要素の一部または全部が複数の情報処理装置や回路等により実現される場合には、複数の情報処理装置や回路等は集中配置されてもよいし、分散配置されてもよい。例えば、情報処理装置や回路等は、クライアントアンドサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム等、各々が通信ネットワークを介して接続される形態として実現されてもよい。
【0099】
次に、本発明の概要を説明する。
図7は、本発明によるシステム検証プログラム生成装置の概要を示すブロック図である。本発明による評価指標値算出装置20は、少なくとも一部に評価指標が指定されたグラフが入力されると、グラフにおいて評価指標が指定される可能性がある1つ以上の範囲(例えば、指定範囲候補)における評価指標の値を、評価指標の種類に対応した所定の関数を用いて、その範囲ごとにそれぞれ算出する算出部21(例えば、評価指標値予測部110)と、算出された1つ以上の評価指標の値のうち、グラフにおいて評価指標が指定された範囲(例えば、指定範囲)に対応する値を選択する選択部22(例えば、評価指標値選択部120)とを備える。
【0100】
そのような構成により、評価指標値算出装置は、評価指標が指定される探索状態の範囲や評価指標の種類に応じて総合評価値を出力できる。
【0101】
また、評価指標値算出装置20は、選択された評価指標の値が変換されたスカラ値を、入力されたグラフに指定された評価指標の総合評価値として出力する出力部(例えば、評価指標値統合部130)を備えてもよい。
【0102】
また、出力部は、選択された複数の評価指標の値の線形和を取ることによって、複数の評価指標の値をスカラ値に変換してもよい。
【0103】
そのような構成により、評価指標値算出装置は、評価指標の値が変換されたスカラ値を総合評価値として出力できる。
【0104】
また、所定の関数は、学習モデルでもよい。また、学習モデルは、グラフニューラルネットワークでもよい。
【0105】
そのような構成により、評価指標値算出装置は、評価指標の値を計算できるように学習されたモデルを用いて評価指標の値を算出できる。
【0106】
また、グラフは、ICTシステムを表現するグラフでもよい。
【0107】
そのような構成により、評価指標値算出装置は、ICTシステムを表すグラフの構造を最適化する課題に利用される。
【符号の説明】
【0108】
10 コンピュータ
11 CPU
12 主記憶装置
13 補助記憶装置
14 インタフェース
15 入力デバイス
16 出力デバイス
20、100 評価指標値算出装置
21 算出部
22 選択部
110 評価指標値予測部
120 評価指標値選択部
130 評価指標値統合部
200 グラフ入力装置
300 総合評価指標値出力装置