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特許7581709電解コンデンサ及び電解コンデンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】電解コンデンサ及び電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/042 20060101AFI20241106BHJP
   H01G 9/055 20060101ALI20241106BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20241106BHJP
   H01G 9/008 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01G9/042 500
H01G9/055 100
H01G9/00 290D
H01G9/008 303
H01G9/00 290Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020144770
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039636
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】福島 航太
(72)【発明者】
【氏名】田邉 圭祐
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/059609(WO,A1)
【文献】特開2012-069829(JP,A)
【文献】特開2006-080111(JP,A)
【文献】国際公開第2016/174807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/042
H01G 9/055
H01G 9/00
H01G 9/008
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体層が形成された陽極体と、
陰極箔及び当該陰極箔に形成されたカーボン層を有する陰極体と、
前記陽極体と前記陰極体との間に介在する電解質と、
前記陽極体及び前記陰極体と冷間圧接された各極の引出端子と、
を備え、
前記陰極体の前記カーボン層の表面の最大静止摩擦係数は0.6以上であること、
を特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記カーボン層は、当該カーボン層中の全炭素材の合計量に対して無添加を含む18wt%以下の割合で黒鉛を含むこと、
を特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記カーボン層は、前記炭素材として球状炭素を含むこと、
を特徴とする請求項2記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記陰極体と前記引出端子との境界面に冷間圧接領域を有し、
前記冷間圧接領域は、平坦面と、当該平坦面と成す角度が120度以上の傾斜面とを有すること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
表面に誘電体層が形成された陽極体と、陰極体とを電解質を挟んで対向させた電解コンデンサの製造方法であって、
陰極箔上に、表面の最大静止摩擦係数が0.6以上のカーボン層が形成された前記陰極体に引出端子を冷間圧接する冷間圧接工程と、
を含むこと、
を特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記冷間圧接工程では、前記陰極体と前記引出端子とを重ねて押圧部材で押圧し、
前記押圧部材は、平坦面と、当該平坦面との成す角度が120度以上に傾斜した側面とを有すること、
を特徴とする請求項5記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
記カーボン層中の全炭素材の合計量に対して無添加を含む18wt%以下の割合で黒鉛を含める陰極体作製工程を更に含むこと、
を特徴とする請求項5又は6記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記陰極体作製工程では、前記炭素材として前記カーボン層中に球状炭素を含めること、
を特徴とする請求項7記載の電解コンデンサの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ及び電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に誘電体酸化皮膜層を有する。陽極箔と陰極箔の間には電解液が介在する。電解液は、陽極箔の凹凸面に密接し、真の陰極として機能する。この電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜層の誘電分極作用により陽極側容量を得ている。
【0003】
電解コンデンサは陽極側と陰極側に容量が発現する直列コンデンサと見做すことができる。従って、陽極側容量を効率良く活用するには陰極側容量も非常に重要である。陰極箔もエッチング処理により表面積を増大させているが、陰極箔の厚みの観点から陰極箔の拡面化にも限界がある。
【0004】
そこで、窒化チタン等の金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサが提案されている(特許文献1参照)。窒素ガス環境下で、イオンプレーティング法の一種である真空アーク蒸着法によってチタンを蒸発させ、陰極箔の表面に窒化チタンを堆積させる。金属窒化物は不活性であり、自然酸化皮膜が形成され難い。また蒸着皮膜は微細な凹凸が形成されて陰極の表面積が拡大する。しかしながら、金属窒化物の蒸着プロセスは複雑であり、電解コンデンサのコスト高を招く。
【0005】
そこで、本発明者等は、陰極箔上にカーボン層を形成することを考えた。カーボン層は、陰極体の最外表面に位置する。この電解コンデンサの陰極側容量は、分極性電極と電解質との境界面に形成される電気二重層の蓄電作用により発現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-61109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電解コンデンサからは引出端子が引き出され、この引出端子を介して電解コンデンサが回路と電気的に接続される。引出端子は、例えばアルミニウム製の平坦部を含むタブ形状である。平坦部がコンデンサ素子の陽極体及び陰極体の各極それぞれに対し各種接続方法で接続され、引出端子が電解コンデンサ本体から引き出される。
【0008】
引出端子と陽極体や陰極体との接続方法として冷間圧接が知られている。冷間圧接は、陽極体や陰極体と引出端子の平坦部とを重ね合わせ、非加熱状態で、陽極体や陰極体と引出端子の平坦部とを積層方向に加圧する。これにより、陽極体や陰極体と引出端子の平坦部が相互間で原子結合を引き起こすといわれている。
【0009】
この冷間圧接により、陰極箔上にカーボン層を形成して成る陰極体と引出端子とを接続すると、カーボン層が無形成の陰極体と引出端子とを冷間圧接する場合と比べて接続性が悪いことが確認された。即ち、陰極体と引出端子との物理的な接続強度が低くなり、また陰極体と引出端子との間の電気抵抗が高くなっていることが確認された。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、カーボン層を含む陰極体と引出端子の接続性が改善された電解コンデンサ及びこの電解コンデンサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、実施形態の電解コンデンサは、表面に誘電体層が形成された陽極体と、陰極箔及び当該陰極箔に形成されたカーボン層を有する陰極体と、前記陽極体と前記陰極体との間に介在する電解質と、前記陽極体及び前記陰極体と冷間圧接された各極の引出端子と、を備え、前記陰極体の前記カーボン層の表面の最大静止摩擦係数は0.6以上であること、を特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決すべく、実施形態の電解コンデンサの製造方法は、表面に誘電体層が形成された陽極体と、陰極体とを電解質を挟んで対向させた電解コンデンサの製造方法であって、陰極箔上に、表面の最大静止摩擦係数が0.6以上のカーボン層が形成された前記陰極体に引出端子を冷間圧接する冷間圧接工程と、を含むこと、を特徴とする。
【0013】
引出端子と陰極体とが冷間圧接する際、陰極体の陰極箔はアルミニウム箔等の金属製であるために延伸性に富み、押圧によって容易に引き伸ばされる。一方、カーボン層は、元々陰極箔と比べて延伸性に乏しいが、更に最大静止摩擦係数が0.6以上になると押圧部材に引っ掛かり、冷間圧接の際に陰極箔の延伸に増々追従できなくなる。そうすると、カーボン層に多数のひび割れが生じ易くなり、陰極箔がひび割れから露出する。そのため、引出端子の平坦部と陰極箔の表面とをカーボン層のひび割れを通して圧接することができ、引出端子と陰極体との接続性が改善される。
【0014】
また、カーボン層表面の摩擦力が低いと、冷間圧接の際に押圧部材表面とカーボン層表面とが滑る。冷間圧接の際、カーボン層及び陰極箔には、押圧部材と接して圧力を受ける押圧領域が発生するが、この押圧領域のうちの外側範囲には、押圧部材表面とカーボン層表面とが滑ることにより、押圧領域の外側へ移動しようとする力が働く。そのため、押圧領域のうちの外側範囲は、押圧に応じて薄くはならず、押圧領域は、外側範囲とその他の中心領域の厚さが急激に変化した形状になりやすい。この形状において、厚さが急激に変化する部分は応力が集中しやすく、陰極体と引出端子との接続が不十分となる可能性がある。しかし、カーボン層表面の最大静止摩擦係数を0.6以上とすると、押圧部材はカーボン層表面の表面で滑ることなく、カーボン層及び陰極箔の押圧領域全域が押圧に応じて薄くなる。そのため、応力が集中し難い構造となり、陰極体と引出端子との接続力を向上できる。
【0015】
前記カーボン層は、当該カーボン層中の全炭素材の合計量に対して無添加を含む18wt%以下の割合で黒鉛を含むようにしてもよい。黒鉛は滑り性能を有しているため、黒鉛の含有量を無添加又は18wt%以下とすると、カーボン層の表面の最大静止摩擦係数を0.6以上に大きくすることができる。尚、前記カーボン層は、前記炭素材として球状炭素を含むようにしてもよい。
【0016】
前記冷間圧接工程では、前記陰極体と前記引出端子とを重ねて押圧部材で押圧し、前記押圧部材は、平坦面と、当該平坦面との成す角度が120度以上に傾斜した側面とを有するようにしてもよい。また、前記陰極体と前記引出端子との境界面に冷間圧接領域を有し、前記冷間圧接領域は、平坦面と、当該平坦面と成す角度が120度以上の傾斜面とを有するようにしてもよい。
【0017】
側面が120度以上に傾斜した押圧部材で陰極体と引出端子とを押圧すると、陰極体がせん断され難くなり、陰極体と引出端子の接続性が改善される。また、冷間圧接領域が平坦面と120度以上の傾斜面とを有して広域となり、接合面積が大きくなるため、陰極体と引出端子の接続性が改善される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、カーボン層を含む陰極体と引出端子の接続性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電解コンデンサのモデル図である。
図2】陰極体の断面を示す模式図である。
図3】冷間圧接を用いた接続工程を示す模式図である。
図4】120度の傾斜角の側面を有する台形形状の押圧部材で冷間圧接した際の、最大静止摩擦係数ごとの接続強度を示すグラフである。
図5】120度の傾斜角の側面を有する台形形状の押圧部材で冷間圧接した際の、最大静止摩擦係数ごとの接触抵抗を示すグラフである。
図6】150度の傾斜角の側面を有する台形形状の押圧部材で冷間圧接した際の、最大静止摩擦係数ごとの接続強度を示すグラフである。
図7】150度の傾斜角の側面を有する台形形状の押圧部材で冷間圧接した際の、最大静止摩擦係数ごとの接触抵抗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る電極体及びこの電極体を陰極に用いた電解コンデンサについて説明する。本実施形態では、電解液を有する巻回型の電解コンデンサを例示して説明するが、これに限定されるものではない。電解液、導電性ポリマーなどの固体電解質層、ゲル電解質、又は固体電解質層とゲル電解質に対して電解液を併用した電解質等のように、各種電解質を有する電解コンデンサの何れにも適用でき、また例えば積層型の電解コンデンサにも適用できる。
【0021】
(電解コンデンサ概略)
図1は、本実施形態の電解コンデンサのモデル図である。この電解コンデンサ1は、静電容量に応じた電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この電解コンデンサ1は、誘電体酸化皮膜5が表面に形成された陽極体2、陰極箔31の表面にカーボン層32を形成して成る陰極体3、及びセパレータ4を備える。尚、カーボン層32は陰極箔31の両面に形成される。また、陽極体2と陰極体3は帯状であり、セパレータ4を挟んで対向配置され、帯長さ方向が螺旋を描くように巻回される。
【0022】
陽極体2と陰極体3との間には電解液6が満たされる。電解液6は、陽極体2の誘電体酸化皮膜5と密接し、また陰極体3のカーボン層32と密接する。この電解コンデンサ1は、陰極体3のカーボン層32と電解液6との界面に生じる電気二重層作用によって陰極側容量が生じ、また誘電分極作用による陽極側容量が陽極体2に生じる。
【0023】
図2は、陰極体3の断面図である。図2に示すように、陰極体3には引出端子7が冷間圧接により電気的及び機械的に接続されている。陽極体2にも同じように他の引出端子7が冷間圧接により電気的及び機械的に接続されている。この引出端子7を介して、電解コンデンサ1は、電気回路又は電子回路へ実装される。
【0024】
引出端子7は、平坦部71を備える金属部材であり、例えば、アルミニウム製で、平板形状又は平角線形状を有する。平坦部71が陰極体3の片面と面接触するように、引出端子7の一端側を陰極体3に接触させる。また、陰極体3の帯長辺と直交するように、引出端子7を陰極体3からはみ出させる。そして、引出端子7と陰極体3とを冷間圧接により接続する。陽極体2と他の引出端子7との接続方法も同様である。尚、引出端子7は平坦部71を備えていればよく、丸棒部の一方端部をプレス加工によって潰して平坦部71を形成し、丸棒部の他方端部に金属線をアーク溶接等で接続したものであってもよい。
【0025】
(陰極体)
陰極体3は、陰極箔31とカーボン層32の積層構造を有する。陰極箔31は集電体となり、その表面には拡面層が形成されていることが好ましい。カーボン層32は主材として炭素材を含む。このカーボン層32が拡面層と密着することで、陰極箔31とカーボン層32の積層構造となる。カーボン層32は、陰極体3の最外表面に位置する。
【0026】
陰極箔31は、弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。陰極箔31としては、例えばJIS規格H0001で規定される調質記号がHであるアルミニウム材、いわゆるH材や、JIS規格H0001で規定される調質記号がOであるアルミニウム材、いわゆるO材を用いてもよい。H材からなる剛性が高い金属箔を用いると、プレス加工による陰極箔31の変形を抑制できる。
【0027】
この陰極箔31は、弁作用金属が延伸された金属箔に拡面処理が施されている。拡面層は、電解エッチングやケミカルエッチング、サンドブラスト等により形成され、又は金属箔に金属粒子等を蒸着若しくは焼結することにより形成される。電解エッチングとしては、直流エッチング又は交流エッチング等の手法が挙げられる。また、ケミカルエッチングでは、金属箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させる。形成された拡面層は、箔表面から箔芯部へ向けて掘り込まれたトンネル状のエッチングピット、又は海綿状のエッチングピットを有する層領域である。尚、エッチングピットは、陰極箔31を貫通するように形成されていてもよい。
【0028】
拡面層には、酸化皮膜が意図的又は自然に形成されていてもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔31が空気中の酸素と反応することにより形成され、化成皮膜は、アジピン酸やホウ酸等の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理によって意図的に形成される酸化皮膜である。金属箔が例えばアルミニウム箔の場合、この手法による酸化皮膜は拡面層が酸化して成る酸化アルミニウムである。
【0029】
カーボン層32は、電気二重層作用を生じさせる炭素材を主材として含有する。このカーボン層32の表面は、最大静止摩擦係数が0.6以上になるように調整されている。カーボン層32の表面の最大静止摩擦係数を0.6以上とすることで、カーボン層32を有する陰極体3と引出端子7との接続性が改善される。次のメカニズムは推測であり、このメカニズムに限定されるわけではないが、次の理由によってカーボン層32を有する陰極体3と引出端子7との接続性が改善されると考えられる。
【0030】
即ち、引出端子7と陰極体3とが冷間圧接により加圧される際、陰極体3の陰極箔31はアルミニウム箔等の金属製であるために延伸性に富み、押圧によって容易に引き伸ばされる。一方、カーボン層32は、元々陰極箔31と比べて延伸性に乏しいが、更に最大静止摩擦係数が0.6以上になると押圧部材に引っ掛かり、冷間圧接の際に陰極箔31の延伸に増々追従できなくなる。そうすると、カーボン層32に多数のひび割れが生じ、陰極箔31がカーボン層32のひび割れから覗くように露出する。そのため、引出端子7の平坦部71と陰極箔31の表面とがカーボン層32のひび割れを通して接合することができ、引出端子7と陰極体3との接続性が改善される。このように、カーボン層32の表面が引出端子7に引っ掛かり易くするために、カーボン層32の表面の最大静止摩擦係数が0.6以上になるように、カーボン層32が調整される。
【0031】
また、カーボン層32の表面の摩擦力が低いと、冷間圧接の際に押圧部材表面とカーボン層32の表面とが滑る。冷間圧接の際、カーボン層32及び陰極箔31には、押圧部材と接して圧力を受ける押圧領域が発生するが、この押圧領域のうちの外側範囲には、押圧部材表面とカーボン層32の表面とが滑ることにより、押圧領域の外側へ移動しようとする力が働く。そのため、押圧領域のうちの外側範囲は、押圧に応じて薄くはならず、押圧領域は、外側範囲とその他の中心領域の厚さが急激に変化した形状になりやすい。この形状において、厚さが急激に変化する部分は応力が集中しやすく、陰極体3と引出端子7との接続が不十分となる可能性がある。しかし、カーボン層32の表面の最大静止摩擦係数を0.6以上とすると、押圧部材はカーボン層32の表面で滑ることなく、カーボン層32及び陰極箔31の押圧領域全域が押圧に応じて薄くなる。そのため、応力が集中し難い構造となり、陰極体3と引出端子7との接続力を向上できる。
【0032】
カーボン層32に含有する炭素材は、繊維状炭素、炭素粉末、又はこれらの混合である。賦活処理や孔を形成する開口処理などの多孔質化処理が施された施繊維状炭素や炭素粉末であってもよい。繊維状炭素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ等である。カーボンナノチューブは、グラフェンシートが1層である単層カーボンナノチューブでも、2層以上のグラフェンシートが同軸状に丸まり、チューブ壁が多層をなす多層カーボンナノチューブ(MWCNT)でもよい。炭素粉末は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、メソポーラス炭素等である。電解質として電解液6を用いる電解コンデンサ1では、炭素材は電気二重層作用を発現させるものが好ましい。
【0033】
炭素材としては、特に球状炭素が好ましい。1種又は2種以上の球状炭素を炭素材としてカーボン層32に含めることが好ましい。球状炭素は粒子径が小径であり、陰極箔31に形成した拡面層のより深部に入り込みやすく、カーボン層32が陰極箔31と密着する。球状炭素としては例えばカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック及びサーマルブラック等が挙げられ、好ましくは一次粒子径が平均100nm以下であり、また好ましくはBET理論により計算される比表面積(以下、BET比表面積という)が200m/g以下である。BET比表面積が200m/g以下のカーボンブラックは例えばアセチレンブラックである。
【0034】
炭素材として、他の炭素材と共に黒鉛をカーボン層32に加えてもよい。黒鉛と共に加える他の炭素材としては球状炭素が好ましい。黒鉛としては、鱗片状又は鱗状で、短径と長径とのアスペクト比が1:5~1:100の範囲であることが好ましい。この組み合わせの炭素材を含有するカーボン層32を陰極箔31に積層した場合、球状炭素は、黒鉛によって拡面層の細孔に擦り込まれ易い。黒鉛は、拡面層の凹凸面に沿って変形し易く、凹凸面上に積み重なり易い。そして、黒鉛は、押圧蓋になって細孔に擦り込まれた球状炭素を押し留める。そのため、カーボン層32と陰極箔31との密着性及び定着性がより高まる。
【0035】
ここで、黒鉛は滑り性能が高いため、黒鉛の含有量を調整することでカーボン層32の表面の最大静止摩擦係数を調整することができる。黒鉛は、カーボン層32に対して無添加、又はカーボン層32に含有する全炭素材の合計量に対して少なくとも18wt%以下の含有量とする。これにより、カーボン層32の表面の最大静止摩擦係数は0.6以上になる。
【0036】
このような陰極体3は、陰極体作製工程によって作製される。陰極体作製工程では、カーボン層32の材料が含まれるスラリーを作製し、また陰極箔31に拡面層を形成しておき、拡面層にスラリーを塗布して乾燥及びプレスをすればよい。カーボン層32に関しては、炭素材を溶媒中で分散させ、バインダーを加えてスラリーを作製する。このスラリー作製前に炭素材の平均粒径をビーズミルやボールミル等の粉砕手段にて粉砕することで調整しておいてもよい。溶媒は、メタノール、エタノールや2-プロパノールなどのアルコール、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)やN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド系溶媒、水及びこれらの混合物などである。分散方法としては、ミキサー、ジェットミキシング(噴流衝合)、または、超遠心処理、その他超音波処理などを使用する。分散工程では、混合溶液中の黒鉛と球状炭素とバインダーが細分化及び均一化し、溶液中に分散する。バインダーとしては、例えばスチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、又はポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0037】
スラリーは、スラリーキャスト法、ドクターブレード法又はスプレー噴霧法等によって陰極箔31に塗布される。塗布した後は乾燥により溶媒を揮発させる。または、カーボン層32をシート状に抄紙成型して陰極箔31に載置する。抄紙成型シートは、カーボン層32に含有させる炭素材を分散溶媒中で分散させ、必要に応じてバインダーを加えた後、減圧濾過及び乾燥の後、堆積物を濾紙から剥離して作製される。
【0038】
その他、カーボン層32の陰極箔31への形成方法としては、真空蒸着、スパッタ法、イオンプレーティング、CVD法、電解めっき、無電解めっき等が挙げられる。蒸着法による場合、真空中で炭素材を通電加熱することで蒸発させ、又は真空中で炭素材に電子ビームを当てて蒸発させ、陰極箔上に炭素材を成膜する。また、スパッタ法による場合、炭素材により成るターゲットと陰極箔とを真空容器に配置し、真空容器内に不活性ガスを導入して電圧印加することによって、プラズマ化した不活性ガスをターゲットに衝突させ、ターゲットから叩き出された炭素材の粒子を陰極箔に堆積させる。
【0039】
陰極箔31上にカーボン層32が形成された後、所定プレス圧力で陰極箔31とカーボン層32とを圧着させる。プレス加工では、例えばカーボン層32と陰極箔31とにより成る陰極体3をプレスローラで挟んで、プレス線圧を加える。プレス圧力は0.01~100t/cm2程度が望ましい。このプレスにより、カーボン層32の炭素材が黒鉛及び球状炭素であると、黒鉛及び球状炭素は敷き詰めて整列する。また、プレスすることで、カーボン層32の黒鉛が拡面層の凹凸面に沿うように変形する。また、プレスすることで、拡面層の凹凸面に沿って変形した黒鉛に圧接の応力が加わり、黒鉛と拡面層との間の球状炭素が細孔内に押し込まれる。これにより、カーボン層32と陰極箔31の密着性が高まる。
【0040】
得られた陰極体3は冷間圧接工程を経て引出端子7と接続される。図3は、得られた陰極体3と引出端子7との冷間圧接を示す模式図である。図3に示すように、得られた陰極体3を引出端子7の平坦部71に重ね合わせる。そして、非加熱状態で、陰極体3と引出端子7の平坦部71に対して、陰極体3側から押圧部材200を押し付け、陰極体3と引出端子7の平坦部71とを押圧部材200で積層方向に加圧する。
【0041】
押圧部材200は、台形状の先端を有することが好ましい。即ち、押圧部材200の先端は、平坦面210と側面220とで画成される。側面220は、当該平坦面210に繋がり、押圧部材200の外方に倒れ、当該平坦面210との成す角度αが120度以上に傾斜していることが好ましい。側面220が120度以上に傾斜していると、この押圧部材200が押し付けられている冷間圧接領域33に対するせん断応力を低減する。即ち、陰極体3が、冷間圧接領域33とその周囲との間で一部又は全部に亘って断裂することはなく、陰極体3と引出端子7との接続性を良好に保つことができる。
【0042】
尚、冷間圧接領域33は、陰極体3と引出端子7との境界のうち、冷間圧接により接合されている領域であり、陰極体3と引出端子7との境界に押圧部材200が投影された領域である。
【0043】
この冷間圧接領域33は、傾斜角が120度以上の台形形状を有する押圧部材200によって、平坦面33aと傾斜面33bとを有する。平坦面33aは押圧部材200の平坦面210が当たってできた領域であり、傾斜面33bは押圧部材200の側面220が当たってできた領域である。そのため、傾斜面33bは、外方に倒れ、平坦面33aとの成す角度が、押圧部材200と同じ120度以上の角度αになっている。そのため、冷間圧接領域33の面積は広くなり、陰極体3と引出端子7との接続性が更に改善される。
【0044】
(陽極体2)
次に、陽極体2は、弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。純度は、陽極体2に関して99.9%程度以上が望ましい。この陽極体2は、延伸された箔にエッチング処理を施して成り、または弁作用金属の粉体を焼結して成り、または金属粒子等の皮膜を箔に蒸着させて皮膜を施して成る。陽極体2は、エッチング層又は多孔質構造層を表面に有する。
【0045】
陽極体2に形成される誘電体酸化皮膜5は、典型的には、陽極体2の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極体2がアルミニウム製であれば、多孔質構造領域を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体酸化皮膜5は、硼酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム等の酸あるいはこれらの酸の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理により形成される。
【0046】
(セパレータ)
セパレータ4は、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができ、またセルロースと混合して用いることができる。
【0047】
(電解液)
電解液6は、溶媒に対して溶質を溶解し、また必要に応じて添加剤が添加された混合液である。溶媒はプロトン性の極性溶媒又は非プロトン性の極性溶媒の何れでもよい。プロトン性の極性溶媒として、一価アルコール類、及び多価アルコール類、オキシアルコール化合物類、水などが代表として挙げられる。非プロトン性の極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、オキシド系などが代表として挙げられる。
【0048】
電解液6に含まれる溶質は、アニオン及びカチオンの成分が含まれ、典型的には、有機酸若しくはその塩、無機酸若しくはその塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物若しくはそのイオン解離性のある塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を溶質成分として別々に電解液に添加してもよい。
【0049】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノールなど)、リン酸エステル、コロイダルシリカなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
以上、電解液6を用いた電解コンデンサを説明したが、固体電解質を用いた場合は、カーボン層32によって固体電解質と導通することとなり、誘電分極作用による陽極側容量によって電解コンデンサの静電容量が構成される。また、固体電解質を用いる場合は、ポリエチレンジオキシチオフェンなどのポリチオフェンや、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーが挙げられる。
【実施例
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1及び2)
(陰極体の作製)
次のようにして比較例1乃至3並びに実施例1及び2の電解コンデンサ1用の陰極体3を作製した。まず、カーボン層32に含める炭素材は、黒鉛及び球状炭素の1種であるカーボンブラックの混合、又はカーボンブラックのみとした。黒鉛の粉末、カーボンブラック及びバインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)を、分散剤含有水溶液であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)水溶液に添加し、混練することでスラリーを作製した。炭素材とバインダーと分散剤含有水溶液の配合比は、重量比で84:10:6とした。
【0053】
別途、アルミニウム箔を陰極箔31として用意し、この陰極箔31にスラリーを均一に塗布した。アルミニウム箔には、予め、塩酸中で電圧を印加することで、拡面層を形成しておいた。拡面層によって陰極箔31の表面積は22倍に拡面された。拡面層の深さは片面において4μm、両面合計で8μmとなり、拡面層が形成されなかった箔芯部は12μmの厚さで残った。尚、拡面層の深さは、陰極箔31の表面からエッチングピット最深部までの深さの平均である。箔芯部の厚みは、エッチングピットが届いていない層の厚みの平均である。
【0054】
この陰極箔31に対し、黒鉛及びカーボンブラックを含むスラリー、又はカーボンブラックのみのスラリーを塗布した。スラリーは陰極箔31の拡面層に塗布された。スラリーを乾燥させた後に、150kNcm-2の圧力で垂直プレスをかけ、カーボン層32を陰極箔31上に定着させた。
【0055】
比較例1乃至3並びに実施例1及び2の陰極体3は、黒鉛とカーボンブラックの混合比率が下表1のように異なる。尚、比較例1乃至3並びに実施例1及び2のカーボン層32に含有の炭素材は、黒鉛とカーボンブラックのみであり、下表1の黒鉛に係る数値は、カーボン層32に含まれる全炭素材を基準にした重量割合と言い換えることができる。
【0056】
(表1)
【0057】
(最大摩擦係数の計測)
比較例1乃至3並びに実施例1及び2の陰極体3の各カーボン層32の表面の最大静止摩擦係数μを次のようにして測定した。即ち、JIS規格P-8147「紙及び板紙の摩擦係数試験方法」に準拠し、水平直線往復摺動方式にて、最大静止摩擦係数μを測定した。具体的には、各陰極体3の上に溶剤紡糸レーヨン(ニッポン高度紙工業製;TEF(厚さ40μm及び密度0.40g/cm))、フェルト、200gの錘を順番に載せ、溶剤紡糸レーヨンを100mm/minの速度で引っ張った。牽引力を徐々に増加させ、溶剤紡糸レーヨンが動いた瞬間の力を最大静止摩擦力(N)として、ロードセル(株式会社共和電業; 型番LUX-B)により検出した。錘により溶剤紡糸レーヨンが陰極体3から受ける垂直抗力(N)で、最大静止摩擦力(N)を除すことで、各陰極体3のカーボン層32の表面の最大静止摩擦係数を算出した。
【0058】
比較例1乃至3並びに実施例1及び2の陰極体3の各カーボン層32の表面の最大静止摩擦係数μを下表2に示す。
(表2)
【0059】
上表2に示すように、実施例1及び実施例2の最大静止摩擦係数μは0.6以上になっている。実施例1において黒鉛の含有量は、黒鉛とカーボンブラックの合計、即ち全炭素材を基準に18.75wt%であり、実施例2において黒鉛は無添加である。従って、黒鉛のカーボン層32に対する含有量を全炭素材を基準に18wt%以下とすれば、カーボン層32の表面の最大静止摩擦係数μを0.6以上にできることが確認できた。
【0060】
(冷間圧接)
次に、比較例1乃至3並びに実施例1及び2の陰極体3に対して、冷間圧接にて引出端子7を接続した。陰極体3と引出端子7の平坦部71とを重ね合わせにし、押圧部材200で陰極体3側から積層方向に加圧した。押圧部材200は、先端が台形形状を有し、平坦面210と側面220との成す角度が120度である。
【0061】
(接続強度試験)
引出端子7を上側にし、陰極体3を固定し、引出端子7のうちの陰極体3からはみ出した先端側を引っ張り上げた。そして、引出端子7の平坦部71が各陰極体3から引き剥がされるまでに生じた最大引張応力を接続強度としてロードセル(株式会社共和電業;型番LUX-B)にて測定した。尚、力点の位置は全て共通である。
【0062】
この接続強度試験の結果を下表3に示す。また、下表3の平均値の結果を図4のグラフに示す。尚、各陰極体3は3個ずつ作製され、各々に対して接続強度試験を行い、3回の平均値も算出した。下表3においてxマークは、接続できなかったことを示す。
【0063】
(表3)
【0064】
まず、最大静止摩擦係数が0.33の比較例1の陰極体3は、120度で傾斜する側面220を有する押圧部材200による冷間圧接の際、陰極体3が完全にせん断されてしまい、引出端子7と接続できなかった。最大静止摩擦係数が0.41の比較例2の陰極体3においては、3個中1個だけがせん断せずに引出端子7と接続できた。
【0065】
そして、上表3及び図4に示すように、最大静止摩擦係数が0.51以下の比較例1乃至3と、最大静止摩擦係数が0.6以上の実施例1及び実施例2とでは、接続強度が全く異なること確認された。最大静止摩擦係数が少なくとも0.51以下では、最大静止摩擦係数を上げても接続強度の向上は見られないが、最大静止摩擦係数が少なくとも0.6以上では、最大静止摩擦係数が少なくとも0.51以下の場合と比べて接続強度が大きく改善されている。
【0066】
(接触抵抗試験)
引出端子7のうちの陰極体3からはみ出している部分と陰極体3に抵抗計の各極端子を接続した。引出端子7を上側にし、陰極体3を固定し、引出端子7を0.8mm持ち上げた状態と、引出端子7を0.0mm持ち上げた状態、即ち引出端子7を持ち上げなかった状態のそれぞれにおいて、接触抵抗を測定した。抵抗計として、日置電機株式会社製の型番RM3545を用いた。測定結果は、陰極体3の抵抗値と引出端子7の抵抗値と接続抵抗の合計値を示す。陰極体3の抵抗値と引出端子7の抵抗値は、比較例1乃至3並びに実施例1及び2において同じ値である。
【0067】
この接触抵抗試験の結果を下表4に示す。また、下表4の平均値の結果を図5のグラフに示す。尚、各陰極体3は3個ずつ作製され、各々に対して0.0mm持ち上げた状態と0.8mm持ち上げた状態で接触抵抗試験を行い、3回の平均値も算出した。下表3においてxマークは、せん断により接続できずに測定できなかったことを示し、各数値は試験で得られた抵抗値(mΩ)である。
【0068】
(表4)
【0069】
陰極体3の抵抗値と引出端子7の抵抗値は、比較例1乃至3並びに実施例1及び2において同じ値であるから、表4及び図5に示す測定結果の差は、接触抵抗の差である。表4及び図5に示すように、最大静止摩擦係数が0.51以下の比較例3までは、0.0mm持ち上げた状態と0.8mm持ち上げた状態とで接続抵抗の差が大きい。しかし、最大静止摩擦係数が0.6以上になると、0.8mm持ち上げた状態のときの接触抵抗が下がり、0.0mm持ち上げた状態での接触抵抗との差が小さくなることが確認された。このように、カーボン層3の表面の最大静止摩擦係数が0.6以上になると、最大静止摩擦係数が少なくとも0.51以下の場合と比べて接触抵抗が大きく改善されている。
【0070】
(押圧部材の変形例)
比較例1乃至3並びに実施例1及び2の電解コンデンサ用1の陰極体3を、側面220の傾斜角が異なる押圧部材200を用いて引出端子7と冷間圧接により接続した。陰極体3と引出端子7の平坦部71とを重ね合わせにし、平坦面210と側面220との成す角度が150度の台形形状の押圧部材200で陰極体3側から積層方向に加圧した。
【0071】
この150度で傾斜する側面220を有する押圧部材200で冷間圧接することで、陰極体3と引出端子7とを接続した後、接続強度試験と接触抵抗試験を行った。接続強度試験と接触抵抗試験の方法及び条件は、120度で傾斜する側面220を有する押圧部材200で冷間圧接した際と同一である。接続強度試験の結果を下表5に示し、接触抵抗試験の平均値の結果を下表6に示す。また、下表5の平均値の結果を図6のグラフに示し、下表6の結果を図7のグラフに示す。下表5及び下表6においてxマークは、せん断により接続できずに測定できなかったことを示し、下表6において各数値は試験で得られた抵抗値(mΩ)である。
【0072】
(表5)
【0073】
(表6)
【0074】
120度で傾斜する側面220を有する押圧部材200で冷間圧接した際には、一部個体の陰極体3がせん断してしまった比較例2では、3個中3個の個体でせん断が生じることなく、陰極体3と引出端子7とが接続できた。また、120度で傾斜する側面220を有する押圧部材200で冷間圧接した際には、全個体の陰極体3がせん断してしまった比較例1では、3個中2個の個体でせん断が生じることなく、陰極体3と引出端子7とが接続できた。
【0075】
一方、比較例1乃至3並びに実施例1及び2の陰極体3に対して、側面220と平坦面210の成す角度が90度である押圧部材200を用いた冷間圧接により、引出端子7を接続しようと試みた。しかし、比較例1乃至3並びに実施例1及び2の各3個体とも、陰極体3がせん断してしまい、陰極体3と引出端子7が接続できなかった。
【0076】
即ち、120度以上で傾斜する側面220を有する押圧部材200で冷間圧接することにより、カーボン層32の表面の最大静止摩擦係数が0.6以上の陰極体3はせん断することなく、引出端子7と接続されることが確認された。
【0077】
そして、表5及び図6に示すように、150度で傾斜する側面220を有する押圧部材200を用いると、最大静止摩擦係数が0.51以下の比較例1乃至3についても接続強度が改善されている。また、最大静止摩擦係数が0.6以上の実施例1及び実施例2は、120度で傾斜する側面220を有する押圧部材200を用いた場合と比べ、更に接続強度が向上している。
【0078】
表5及び図7に示すように、150度で傾斜する側面220を有する押圧部材200を用いると、最大静止摩擦係数が上がるほど、0.0mm持ち上げた状態と0.8mm持ち上げた状態とで接続抵抗の差が小さくなることが確認できる。そして、150度で傾斜する側面220を有する押圧部材200を用い、最大静止摩擦係数が0.6以上になると、0.0mm持ち上げた状態と0.8mm持ち上げた状態とで接続抵抗の差がほとんどなくなる。
【符号の説明】
【0079】
1 電解コンデンサ
2 陽極体
3 陰極体
31 陰極箔
32 カーボン層
33 冷間圧接領域
33a 平坦面
33b 傾斜面
4 セパレータ
5 誘電体酸化皮膜
6 電解液
7 引出端子
71 平坦部
200 押圧部材
210 平坦面
220 側面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7