(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム、積層体および部材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241106BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20241106BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241106BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241106BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B32B27/00 Z
B32B27/20 Z
B32B27/36
C08J5/18 CFD
F16F15/02 Q
(21)【出願番号】P 2020152693
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019175310
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠山 秀旦
(72)【発明者】
【氏名】松居 久登
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-043137(JP,A)
【文献】特開2011-011529(JP,A)
【文献】特開2017-043768(JP,A)
【文献】特開2018-171901(JP,A)
【文献】特開2017-100289(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133161(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00- 5/02
5/12- 5/22
F16F15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5層以上積層してなる積層構造を有しており、少なくとも1層に粒子を含んでおり、当該粒子の含有量がフィルム全体に対して1重量%以上であり、幅10mm、長さ220mm、厚さ0.8mmのSPCC鋼板に貼り付け、中央加振法にて23℃、2Hz以上12800Hz以下の条件で得られた周波数応答関数の3次以上の反共振ピークから半値幅法にて求められる損失係数の平均値が0.006以上である、熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
示差走査熱量測定(DSC)にて25℃から300℃の温度まで20℃/分で昇温したときに得られるDSC曲線において、50℃以上300℃以下の範囲に観測される吸熱ピークのうち、最もΔH(結晶融解エンタルピー)が大きいピークのピークトップ温度が210℃以下である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記DSC曲線において、50℃以上300℃以下の範囲に観測される吸熱ピークが1つであるか、吸熱ピークが2つ以上有する場合、2番目にΔH(結晶融解エンタルピー)が大きいピークのピークトップ温度が210℃未満である、請求項2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
少なくとも1軸方向に配向してなるフィルムであって、最も強く配向している方向に平行、かつ、フィルム厚み方向に垂直な方向にフィルムを切断し、そのフィルム断面の粒子の形を観察した際、当該粒子のフィルム厚み方向の長さをt1、フィルムが最も強く配向している方向に平行な方向の長さをt2としたとき、t1/t2が0.01以上0.95以下である、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
2軸方向に配向してなるフィルムであって、最も強く配向している方向に垂直、かつ、フィルム厚み方向に垂直な方向にフィルムを切断し、そのフィルム断面の粒子の形を観察した際、当該粒子のフィルム厚み方向の長さをt3、フィルムが最も強く配向している方向に垂直な方向の長さをt4としたとき、t3/t4が0.01以上1.00以下である、請求項4に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
前記粒子の密度が1.0g/cm
3以上5.0g/cm
3以下である、請求項1から5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
前記粒子が層状の構造を有する、請求項1から6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
10Hzにおいて引張動的粘弾性を測定したとき、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比(E”/E’)が-40~60℃の範囲に極大値を2つ以上有する、請求項1から7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
10Hzにおいて引張動的粘弾性を測定したとき、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比(E”/E’)の15~40℃の範囲における最小値が0.15以上である、請求項1から8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
10Hzにおいて引張動的粘弾性を測定したとき、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比(E”/E’)の-25~15℃の範囲における最小値が0.10以上である、請求項1から9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項11】
ポリエステルを主成分としてなる、請求項1から10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項12】
10Hzにおいて引張動的粘弾性を測定したとき、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比(E”/E’)をフィルムの厚み(mm)で割った値の15~40℃の範囲における最小値が0.3(/mm)以上である、請求項1から11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項13】
フィルムの厚みが50μm以上2000μm以下である、請求項1から12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項14】
以下の(1)~(4)に示す成分のうち1種類以上が共重合されてなる樹脂を含む、請求項1から13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
(1)炭素数3以上のアルキル基または/かつアルキレン基を有するジオール。
(2)炭素数3以上のアルキル基または/かつアルキレン基を有するジカルボン酸。
(3)一つ以上の炭素又は窒素原子を共有する二環式構造を有するジオール。
(4)一つ以上の炭素又は窒素原子を共有する二環式構造を有するジカルボン酸。
【請求項15】
長手方向及び幅方向の引裂伝播抵抗が5000g/mm以上である、請求項1から14のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項16】
制振部材・防振部材・吸音部材・遮音部材・衝撃吸収部材のいずれかの用途に用いられる、請求項1から15のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項17】
請求項1から16のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムに粘着層を積層してなる、積層体。
【請求項18】
請求項1から16のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム、あるいは請求項17に記載の積層体を含む、自動車用部材。
【請求項19】
請求項1から16のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム、あるいは請求項17に記載の積層体を含む、建築用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子を含み、積層構造を有する熱可塑性樹脂フィルム、積層体および部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の社会生活の高度化、複雑化と自動車、電気電子機器、鉄道車両、建築、航空機等の科学技術の発展に伴い高度化された通信機器、電子機器の微振動対策、EV自動車、AI駆動無人自動車の実用化、高性能船舶における難燃高減衰性材料の要求、宇宙関連機器への適用等振動騒音問題はますます要求度が高まりそこに使用される振動減衰機器及び減衰材料に要求される性能も複雑化してきている。一方、地震国日本における耐震対策は緊急の効果的な振動減衰対策も望まれている。振動減衰材料は温度、振動周波数などそれぞれの用途に合った環境で制振性を発揮することが求められる。
【0003】
高い制振性を持つ素材としては、ゴム、アスファルト、ウレタンフォーム、エラストマー等に粒子や可塑剤を添加したもの(特許文献1、2)が挙げられる。また、高い吸音性を有する素材としては、ポリビニルアセタールに可塑剤を添加したもの(特許文献3)が挙げられる。また、可塑剤を用いない制振性を有する素材としては、フィルム内に板状または針状の粒子を含有させるもの(特許文献4)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-181155号公報
【文献】特開2018-012785号公報
【文献】国際公開2010-095749号
【文献】国際公開2018-079161号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に記載の技術では、十分な制振性を担保するためには制振材料の厚大化、重量化が必要である。そのため、特に小型化が進む電気電子機器や軽量化の進む自動車等へ適用するには課題を有している。
【0006】
また、特許文献3に記載の技術では、透明かつ比較的薄い吸音フィルムが得られるが、多量の可塑剤の添加は本質的にブリードアウトによる劣化や汚染を避けることができない。
【0007】
特許文献4に記載の技術では、制振性が十分ではない(制振性の指標であるtanδは最大でも0.12程度)。また、広い温度域、特に0度以下の領域では制振性が大きく低下するという課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものである。すなわち、5層以上積層してなる積層構造を有しており、少なくとも1層に粒子を含んでおり、当該粒子の含有量がフィルム全体に対して1重量%以上であり、幅10mm、長さ220mm、厚さ0.8mmのSPCC鋼板に貼り付け、中央加振法にて23℃、2Hz以上12800Hz以下の条件で得られた周波数応答関数の3次以上の反共振ピークから半値幅法にて求められる損失係数の平均値が0.006以上である、熱可塑性樹脂フィルムにより上記の課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に依れば、制振性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施の形態に限定して解釈されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ、発明の要旨を逸脱しない範囲においての種々の変更は当然ありうる。
【0011】
本発明は熱可塑性樹脂フィルムに関する。本発明でいう熱可塑性樹脂とは、加熱すると塑性を示す樹脂であり、代表的な樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンα、β-ジカルボキシレート、P-ヘキサヒドロ・キシリレンテレフタレートなどのポリマー、1,4シクロヘキサンジメタノールからなるポリマー、ポリ―P-エチレンオキシベンゾエート、ポリアリレート、ポリカーボネートなど及びそれらの共重合体で代表されるように主鎖にエステル結合を有するポリエステル類、更にナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11、などで代表されるように主鎖にアミド結合を有するポリアミド類、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレンで代表されるように主としてハイドロカーボンのみからなるポリオレフィン類、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリオキシメチレンなどで代表されるポリエーテル類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレンなどで代表されるハロゲン化ポリマー類及びポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホンおよびそれらの共重合体や変性体、ポリイミド(PI)などである。
【0012】
本発明においては、製膜性、耐久性の観点からポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミドを含む熱可塑性樹脂であることが好ましく、その中でもポリエステルがさらに好ましい。
【0013】
また、本発明でいうポリエステルはジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を重縮合してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。
【0014】
かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4‘-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9‘-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸等芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0015】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3-ベンゼンジメタノール,1,4-ベンセンジメタノール、9,9‘-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、芳香族ジオール類等のジオール、上述のジオールが複数個連なったものなどが例としてあげられる。
【0016】
本発明に用いられるポリエステルには、ラウリルアルコールやイソシアン酸フェニル等の単官能化合物が共重合されていてもよいし、トリメリット酸、ピロメリット酸、グリセロール、ペンタエリスリトールおよび2,4-ジオキシ安息香酸等の3官能化合物などが、過度に分枝や架橋をせずポリマーが実質的に線状である範囲内で共重合されていてもよい。さらに酸成分とジオール成分以外に、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸および2,6-ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸、およびp-アミノフェノールやp-アミノ安息香酸などを共重合させることができる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートが好ましく用いられる。また、ポリエステルはこれらの共重合体、変性体でもよい。制振性を向上させる観点から、2種類以上の樹脂の混合物を用いることも好ましい。
【0017】
特に制振性を発現させたい温度域のうち、最低温度から中央の温度までの範囲にガラス転移温度を持つ樹脂と、中央の温度から最高温度までの範囲にガラス転移温度を持つ樹脂を組み合わせることが好ましい。上記観点から、炭素数3以上のアルキル基または/かつ炭素数3以上のアルキレン基を有するジオールと、炭素数3以上のアルキル基または/かつ炭素数3以上のアルキレン基を有するジカルボン酸のうち少なくとも一方を共重合したポリエステル樹脂や、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-グルシトール、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-マンニトール、1,4:3,6-ジアンヒドロ-L-イジトールなどの一つ以上の炭素又は窒素原子を共有する二環式構造を有するジオールまたはジカルボン酸を共重合した熱可塑性樹脂が特に好ましい。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、中央加振法にて測定される23℃、2から21800Hzでの反共振ピークの内、3次以上のモードから半値幅法にて算出される損失係数の平均値が0.006以上であることが必要である。損失係数はフィルムの粘弾性の指標であり、損失係数が高いほどフィルムの粘性が増し、振動エネルギーを効率的に熱エネルギーへと変換することができる。損失係数が0.006未満の場合、制振性が不足する場合がある。損失係数は好ましくは0.007以上、更に好ましくは0.008以上、特に好ましくは0.009以上である。一方、損失係数の上限は特に制限されないが、実現可能性の観点から1以下となる。損失係数を該範囲内とする方法は特に限定されないが、室温域で粘性の低い樹脂を用いる方法、低分子の可塑剤を添加する方法、粒子を添加する方法などが挙げられる。中でも室温域で粘性の低い樹脂を用いる方法、粒子を添加する方法が、可塑剤のブリードアウトによる汚染の懸念が無いため好ましい。また、粘性の低い樹脂や扁平粒子を含む樹脂を5層以上積層することで、界面でのずり摩擦を用いる方法が、振動エネルギーを効率的に吸収できる点から特に好ましい。その場合は後述するように結晶融解エンタルピーが最大となる温度(Tmax)が低い樹脂を用いることが、界面でのエネルギー吸収を一層高めることが出来るため好ましい。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、主成分となる樹脂のTmaxが210℃以下であることが好ましい。なぜなら、後述するように樹脂-粒子界面および樹脂-樹脂界面でずり摩擦が発生する場合、各界面内で樹脂に局所的に応力がかかり、熱エネルギーが発生することになる。この際、主成分となる樹脂のTmaxが210℃以下であることで局所的な粘性の低下が起こり、振動エネルギーの効率的な吸収が可能となるためである。ここでいう主成分となる樹脂のTmaxが210℃以下であるとは、示差走査熱量測定(DSC)によって25℃から20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温を行って得られた1stRUNの示差走査熱量測定チャートにおいて、融解ピークのピーク面積から求められるΔH(結晶融解エンタルピー)が最も大きいピークのピークトップ温度が210℃以下であることを指す。DSCの測定方法は後述する。主成分となる樹脂のTmaxは200℃以下が好ましく、190℃以下がさらに好ましい。一方でTmaxが100℃以下となると加工時の変形や耐久性の低下に繋がる場合がある。
【0020】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、制振性の観点から、示差走査熱量測定(DSC)によって25℃から20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温を行って得られた1stRUNの示差走査熱量測定チャートにおいて、50℃以上300℃以下の範囲に観測される吸熱ピークが1つであるか、吸熱ピークが2つ以上有する場合、2番目にΔHが大きいピークのピークトップ温度が210℃未満である。主成分の次に多く含まれる樹脂についてもTmaxが210℃未満とすることで、制振性を良好にすることができる。2番目にΔHが大きいピークのピークトップ温度は、200℃未満がさらに好ましく、190℃未満が特に好ましい。一方でTmaxが100℃未満となると加工時の変形や耐久性の低下に繋がる場合がある。
【0021】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、広い温度域での制振性を向上させる観点から、ガラス転移温度が異なる2種類以上の樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度付近では樹脂の粘性が低下するため、振動エネルギーの吸収によって制振性が向上する。フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度が1点のみの場合は、制振性はかかる温度付近の制振性は優れるがその他の温度領域での制振性が劣る(制振性の温度依存性が大きくなる)場合がある。その際、フィルムを構成する熱可塑性樹脂にガラス転移温度が異なる2種類以上の樹脂が存在すると、制振性の高くなる温度領域が複数存在し、かつ各ガラス転移温度間でも既に粘性に低下している樹脂(分子)に他の樹脂(分子)が引きずられることで粘性が低下するため、高い制振性を有しつつ、さらに、制振性の温度依存性が抑えられることになる。特に実使用温度域での制振性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂フィルムに含有している各成分のうち2種類以上の成分のガラス転移温度がいずれも-40℃から60℃の範囲に存在することが好ましい。また、熱可塑性樹脂フィルムに含有している全ての樹脂成分のガラス転移温度がいずれも-40℃から60℃の範囲に存在することがさらに好ましい。一方で、製膜性、耐久性の観点からは、熱可塑性樹脂フィルムの一部の成分のガラス転移温度を50℃以上とすることも好ましい態様として挙げられる。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、5層以上積層してなる積層構造を有しており、少なくとも1つの層が粒子を含んでおり、その粒子の含有量が本発明のフィルム全体に対して1重量%以上であることが必要である。粒子を1重量%以上含有させることで、粒子を含む熱可塑性樹脂フィルムが振動した際、粒子と樹脂の界面でのずり摩擦が発生し、振動エネルギーを熱エネルギーに変換することにより制振性を向上させることができる。粒子の含有量は、好ましくは1重量%以上60重量%以下である。60重量%以下とすることで後述する製造方法にて熱可塑性樹脂フィルムを製造する際に、破れの発生を抑え良好な製膜性を得ることができる。より好ましくは10重量%以上50重量%以下、更に好ましくは15重量%以上40重量%以下である。ここでいう粒子とは、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、レニウム、バナジウム、オスミウム、コバルト、鉄、亜鉛、ルテニウム、プラセオジウム、クロム、ニッケル、アルミニウム、スズ、亜鉛、チタン、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、インジウム、イットリウム、ランタニウム等の金属、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セシウム、酸化アンチモン、酸化スズ、インジウム・スズ酸化物、酸化イットリウム、酸化ランタニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素等の金属酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、氷晶石等の金属フッ化物、リン酸カルシウム等の金属リン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、硫酸バリウム等の硫酸塩、窒化ホウ素、窒化炭素などの窒化物、タルク、マイカ、カオリンなどのケイ酸塩、その他カーボン、フラーレン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛などの炭素系化合物等挙げられる。またこれらの粒子は2種類以上用いてもよい。
【0023】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムに含有させる粒子としては、アスペクト比(長径/短径)が2以上の非球状粒子(特に針状あるいは板状粒子)であることが好ましい。アスペクト比(長径/短径)が2以上の非球状粒子とすると、本発明の熱可塑性樹脂フィルムを1軸方向あるいは2軸方向に配向させた際、粒子が配向方向に配列するため、粒子と樹脂のずり摩擦による制振性をより向上させることができる。アスペクト比(長径/短径)は、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上である。上限は特に限られるものではないが、10000以下であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムに含有させる粒子としては、層状の構造を有することが好ましい。ここでいう層状の構造とは、扁平形状を有する一次粒子が短径を略平行にして積層した二次粒子として存在する構造を指す。ここで「扁平形状を有する一次粒子」とは、粒子を体積が最小となるように直方体で囲い、最も長い辺を長径、最も短い辺を短径としたときに、短径の長さが長径の半分以下であり、かつ長径と短径に垂直な辺の長さが短径の1.5倍以上長径の長さ未満である粒子をいう。一次粒子を構成する元素は、例えば共有結合や金属結合等で互いに強く結合している。二次粒子を構成する一次粒子同士の積層は、例えばファンデルワールス力や水素結合等により、一次粒子を構成する元素同士に比べて弱い力で引き合っている。粒子がこのような層状の構造を有すると、粒子自身の層間のずり摩擦によって振動エネルギーを熱エネルギーに変換することが可能となるため、制振性を良好にすることができる。
【0025】
なお、粒子が層状の構造を有するか否かの判定は、粉末X線回折法により行うことができる。具体的には、粒子の面間隔d(001)を粉末X線回折にて測定した際に、デバイリングに異方性があり、かつ面間隔d(001))のピークが0.5nm以上50nm以下の範囲に存在すれば、該粒子は層状であると判断することができる。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、5層以上積層してなることが必要となる。好ましくは9層以上、より好ましくは17層以上、さらに好ましくは51層以上となる。積層することにより各層同士のずり摩擦により、制振性を向上させることができる。上限は特に限られるものではないが、生産性の観点からは5000層以下であることが好ましい。各層の厚みは、粒子の厚みより大きいことが好ましい。粒子の厚みとは、粒子が凝集せずに存在している場合(一次粒子として存在している場合)は、粒子の短径であり、粒子が複数凝集して層状の構造を形成している場合は、集合体を体積が最小となるように直方体で囲ったときの最も短い辺である。
【0027】
粒子の厚みより各層が薄い場合は、粒子が各層の界面を乱すことで制振性が低下する場合がある。また、各層の厚みは粒子の厚みの20倍以下であることが好ましい。各層厚みが粒子の厚みの20倍より厚い場合は、粒子の配列が乱れ、ずり摩擦による制振性が低下する場合がある。上記観点から各層の厚みは、好ましくは粒子の厚みの10倍以下、さらに好ましくは粒子の厚みの2倍以下である。なお、粒子の厚みの測定はX線回折法によって行うことが出来る。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは少なくとも1軸方向に延伸することで配向していることが、フィルムの耐久性と制振性の観点から好ましい。フィルムを延伸することで、含有している粒子が延伸方向に配列し、ずり摩擦による制振性がより向上する。より好ましくは2軸方向に配向している2軸配向フィルムである。さらに好ましくは、2方向にいずれも1.5倍以上延伸すること、特に好ましくは2方向いずれにも2.0倍以上延伸することである。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくとも1軸方向に配向している場合において、最も強く配向している方向に平行、かつ、フィルム厚み方向に垂直な方向にフィルムを切断し、そのフィルム断面の粒子の形を観察した際、当該粒子のフィルム厚み方向の長さをt1、フィルムが最も強く配向している方向に平行な方向の長さをt2としたとき、t1/t2が0.01以上0.95以下であることが好ましい。t1/t2は、非球状粒子が、フィルムが最も強く配向している方向にどの程度フィルム配向方向に配列しているかを表す指標である。t1/t2が1の場合は、フィルムに含有する粒子が球状粒子であるか、フィルムに含有する粒子が最も強く配向している方向にまったく配列していないことを表す。t1/t2の値が小さい場合、フィルムに含有する粒子のアスペクト比(長径/短径)が高い粒子が、フィルムが最も強く配向している方向に配列して存在していることを表す。t1/t2の値が大きい(1を超える)場合、フィルムに含有する粒子のアスペクト比(長径/短径)が高い粒子が、フィルム厚み方向に配列して存在していることを表す。t1/t2が0.95以下である場合、粒子が樹脂に触れる面積が大きくなることを表しており、粒子と樹脂の界面でのずり摩擦が大きくなり制振性が向上する。t1/t2が1より大きくても粒子と樹脂の接触面積は大きくなるが、粒子が各層の界面を突き破る場合がある。t1/t2が0.01以下であると粒子が割れやすく、制振性が低下する場合がある。上記観点からt1/t2は、好ましくは0.01以上0.90以下、さらに好ましくは0.01以上0.80以下であり、特に好ましくは0.01以上0.49以下である。
【0030】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、2軸方向に配向している場合において、最も強く配向している方向に垂直、かつ、フィルム厚み方向に垂直な方向にフィルムを切断し、そのフィルム断面の粒子の形を観察した際、当該粒子のフィルム厚み方向の長さをt3、フィルムが最も強く配向している方向に垂直な方向の長さを粒子の短径t4としたとき、t3/t4が0.01以上1.00以下であることが好ましい。t3/t4は、非球状粒子が、フィルムが最も強く配向している方向と垂直な方向にどの程度フィルム配向方向に配列しているかを表す指標である。t3/t4が1の場合は、フィルムに含有する粒子が球状粒子であるか、フィルムに含有する粒子が最も強く配向している方向と垂直な方向にまったく配列していないことを表す。t1/t2の値が小さい場合、フィルムに含有する粒子のアスペクト比(長径/短径)が高い粒子が、フィルムが最も強く配向している方向と垂直な方向に配列して存在していることを表す。t1/t2の値が大きい(1を超える)場合、フィルムに含有する粒子のアスペクト比(長径/短径)が高い粒子が、フィルム厚み方向に配列して存在していることを表す。t3/t4が1.00以下である場合、粒子が樹脂に触れる面積が大きくなることを表しており、粒子と樹脂の界面でのずり摩擦が大きくなり制振性が向上する。t3/t4が0.01以下であると粒子が割れやすく、制振性が低下する場合がある。好ましくは0.01以上0.95以下、より好ましくは0.01以上0.80以下であり、さらに好ましくは0.01以上0.79以下である。
【0031】
t1/t2、t3/t4を上述の範囲とする方法は特に限られるものではないが、フィルムに含有させる粒子として、アスペクト比(長径/短径)の高い粒子を用いつつ、フィルムの延伸条件を制御して、粒子をフィルム配向方向に配列させる方法が挙げられる。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムが含有する粒子の密度は1.0g/cm3以上5.0g/cm3以下であることが好ましい。粒子の密度が1.0g/cm3未満であると粒子の慣性力が小さいため、フィルムを構成する樹脂とのずり摩擦による摩擦エネルギーを十分に得られない場合がある。粒子の密度が5.0g/cm3を超えると粒子の振動が小さくなるため、こちらもフィルムを構成する樹脂とのずり摩擦による摩擦エネルギーを十分に得られない場合がある。また加工時にフィルム裁断のレザー刃等を傷めるなどの問題が発生する場合がある。より好ましくは1.1g/cm3以上4.0g/cm3以下である
また本発明の熱可塑性樹脂フィルムは10Hzにおいて引張動的粘弾性を測定したとき、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比(E”/E’)が-40~60℃の範囲に極大値を2つ以上有することが好ましい。損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’はいずれもフィルム材料の粘弾性の指標であり、その比(E”/E’)が大きくなるほど、粘性が高いことを表す。粘性が高いと外部からの振動を吸収し、熱エネルギーへと変換するのが容易となる結果、制振性が高くなる。しかしながら、-40~60℃の範囲に損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比である(E”/E’)の極大値が一つである場合は、E”/E’の温度依存性が大きくなるため、制振材としての使用温度域が狭くなる場合がある。そのため、E”/E’が-40~60℃の範囲に極大値を2つ以上有することが好ましい。E”/E’は-40~5℃の範囲に少なくとも1つの極大値を有し、5℃~60℃の範囲に少なくとも1つの極大値を有していると、幅広い温度帯域において良好な制振性を有するため好ましい。さらに好ましくは二つの極大値の温度差が10℃以上であり、特に好ましくは二つの極大値間の温度差が80℃未満である。各極大値の温度を該範囲とする方法は特に限定されないが、ガラス転移温度を該範囲に有する樹脂を用いる、可塑剤を使用するなどの手法があげられる。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、10Hzにおいて引張動的粘弾性を測定したとき、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比(E”/E’)の15~40℃の範囲における最小値が0.15以上であることが好ましい。15~40℃の範囲におけるE”/E’の最小値が0.15以上であると、室温域で安定した制振性を有することができる。より好ましくは0.16以上であり、さらに好ましくは0.19以上である。上限は特に限られるものではないが、1.0以下であることが好ましい。E”/E’を該範囲とする方法は特に限定されないが、該温度範囲で粘性の低い樹脂を用いる方法が好ましく用いることが出来る。
【0034】
また本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、10Hzにおいて引張動的粘弾性を測定したとき、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比(E”/E’)の-25~15℃の範囲における最小値が0.10以上であることが好ましい。-25~15℃の範囲におけるE”/E’の最小値が0.10以上であれば、低温域で安定した制振性を有することができる。より好ましくは0.11以上であり、さらに好ましくは0.14以上である。上限は特に限られるものではないが、0.50以下であることが好ましい。
【0035】
E”/E’を該範囲とする方法は特に限定されないが、ガラス転移温度を該範囲または該範囲に近い温度に有する樹脂を用いる、樹脂混合物を用いる場合は各成分の相溶性を調節する、可塑剤を使用するなどの手法があげられる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、10Hzにおいて引張動的粘弾性を測定したとき、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’の比(E”/E’)をフィルムの厚み(mm)で割った値の15~40℃の範囲における最小値Tminが0.3(/mm)以上であることが好ましい。制振材は小型の電気電子機器の振動抑制に用いられる場合もあるが、Tminを0.3以上とすることで薄膜化と制振性の両立を図ることができるため好ましい。Tminを該範囲にする方法は特に限定されないが、1.1~3.0倍程度の延伸を行うことで調整することが出来る。なお、結晶性の高い樹脂を用いた場合には、延伸による配向結晶化により損失弾性率が低下、E”/E’が低下することでTminが大きく低下する場合があるため、非晶成分を含む樹脂を用いることが好ましい。
【0037】
また本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいては、フィルムの厚みが50μm以上2000μm以下であることが好ましい。50μm以下の場合はフィルムの強度、耐久性が問題となることがある。2000μm以上の場合はフィルムが厚くなることで用途が限定されてしまう場合がある。より好ましくは100μm以上1500μm以下、さらに好ましくは200μm以上1000μm以下である。
【0038】
制振材・吸音材の用途・加工方法によっては耐引裂性が求められる場合がある。特に合わせガラス中間膜に用いる場合には、災害時等でガラスが破壊しても破片が飛散しにくいこと、つまりフィルムの耐引裂性が高く破れが伝播しないことで接着している破片が飛び散らないことが求められる。より具体的には、長手方向及び幅方向の引裂伝播抵抗が5000g/mm以上であることが好ましい。また、上記観点から本発明の熱可塑性樹脂フィルムは9層から501層積層されていることが好ましい。9層から51層積層されていることがより好ましい。9層以上積層することで引裂きが層間で抑止されるため耐引裂性が向上する場合がある。一方で層数を501層以下とすることで、各層の厚みが確保され、耐引裂性の低下を軽減できる。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、粒子、樹脂のずり摩擦による振動エネルギーの減衰を主な目的としたものであり制振・吸音の用途に好適に用いられるが、振動エネルギーの反射効果も加味した防振・遮音・衝撃吸収の用途に用いることも可能である。また、少なくとも片方の面に粘着層を設けることで、簡便に使用可能な粘着制振材として用いることができる。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、その特性を活かして、自動車部材や建築用部材、家電製品部材、家具部材に好適に用いることができる。特に熱可塑性樹脂を用いていることで成型が容易であることから、自動車部材ではフロアやドア、外板ダッシュ、フロアトンネル、排気系パネル、ホイールハウス、ルーフ、ラッゲージ、ルームパーティション、内装材に好適に用いることが出来る。自動車に限らず自動二輪車や船舶、鉄道、航空機の部材にも用いることが出来る。また建築用材料としては、外壁や内壁、屋上、地中連続壁、床面材に加え、特に振動・騒音の大きくなる機械式駐車場、車路、駐輪場、鉄道線路周辺、自動車道周辺、レジャー施設、コンサートホール、工場や、迅速な設営・撤去が望まれる工事現場、イベント会場に用いることが出来る。家電製品としては、テレビ、アンプなどの音響製品、扇風機やエアーコンディショナーなどのファンが内蔵された振動源となる製品、パーソナルコンピュータなどの振動に弱い精密製品、椅子や寝台などの使用者が直接触れる製品に好ましく用いることが出来る。
【実施例】
【0041】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、特性の評価方法は下記のとおりである。
[特性の評価方法]
A.損失係数
電動加振機(ブリュエルケアー社)を用いて、中央加振法(JIS G 0602(1993)準拠)により共振、反共振曲線を測定し(下記1から4項)、半値幅法にて損失係数を算出した(下記5から6項)。測定、算出手順は、以下の通りである。
(1)幅10mm×長さ220mmの制振材サンプルをJIS G 3141(2017)で規定されるSPCC鋼板(厚さ0.8mm×幅10mm×長さ220mm)に接着剤で貼り付ける。
(2)上記サンプル中央を、インピーダンスヘッドを介して電動加振器に取り付ける。
(3)23℃65RH%の条件で30分静置する。
(4)電動加振器よりサンプルに2~12800Hzの正弦振動を与え、加重と加速度を測定し、機械インピーダンスの共振、反共振曲線を得る。
(5)3次以上のモードの反共振周波数におけるピーク周波数f、3dB低下した位置の周波数f1、f2を求める。
(6)下記の式より損失係数eを求める。
【0042】
e=f/(|f1-f2|) 。
【0043】
B.損失弾性率E”、貯蔵弾性率E’
幅10mmの短冊状にフィルムを切り出し、JIS-K 7244(1999年版)に従って、セイコーインスツルメンツ社製の動的粘弾性測定装置“DMS6100”を用いて測定した。引張モード、駆動周波数は10Hz、チャック間距離は20mm、昇温速度は2℃/min、サンプリング間隔は1secの測定条件にて、-40℃から80℃の範囲で損失弾性率E”、貯蔵弾性率E’を測定した。
【0044】
C.吸熱ピークのピークトップ温度、ΔHの温度、ガラス転移温度
示差熱量分析(DSC)を用いて25℃から300℃の温度まで20℃/分で昇温したときに得られるDSC曲線において、50~300℃の範囲で吸熱ピークのピークトップ温度を読み取った。ピークの読み取り、分割は付属の解析ソフトによって行った。また、50~300℃の範囲の結晶融解エンタルピーはJIS-K-7122(2012年)に従って測定・算出した。ガラス転移温度はJIS-K-7121(2012年)に従って測定・算出した。
装置:セイコーインスツルメンツ(株)製“EXSTAR DSC6200”
データ解析ソフト:“MuseStandard Analysisソフトウェア、バージョン6.1U”
サンプル質量:5mg
D.フィルムの厚さ
先端が平坦で直径4mmのダイヤルゲージ厚さ計((株)ミツトヨ製)を用いてフィルムの厚さを測定した。なお、測定は場所を変えて10回実施し、その平均値でもってフィルムの厚さ(μm)とした。
【0045】
E.t1、t2、t3、t4
ミクロトームを用いてフィルムの断面を切り出した。最も強く配向している方向に平行、かつ、フィルム厚み方向に垂直な方向の断面と、最も強く配向している方向に垂直、かつ、フィルム厚み方向に垂直な方向の断面とを切り出した。該断面を白金-パラジウムを蒸着した後、日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)S-800で3000~5000倍の断面写真を撮影した。画像内に少なくとも20点の粒子が写るように撮影し、画像内に20点以上の粒子が写らない場合は2カ所以上撮影して繋げて一つの画像とした。得られた画像から、ソフトウェア(画像処理ソフトImageJ(米国国立衛生研究所, Wayne Rasband))にて画像内の全粒子のt1、t2、t3、t4を読み取った。該測定を、場所を変えて画像5枚分実施し、その平均値を測定値とした。
【0046】
F.粒子の密度
フィルムを基材の樹脂が溶解できる溶媒に溶解し、抽出・分離した粒子を200℃で8時間乾燥したのち、JIS R 1620(1995)に従いピクノメータ法にて真密度を測定した。
【0047】
G.加工性
JIS-L-1096(2010)に準拠した45゜カンチレバー法により剛軟度を測定した。剛軟度が高すぎる場合には、制振部材として加工時の凹凸、曲面に対する追従性が低い。
A:20mm未満
B:20mm以上40mm未満
C:50mm以上
試験片が移動した長さがAまたはBの場合、加工性が良好であり、Aの場合が最も優れている。
【0048】
H.耐久性
MIT耐折度試験機(マイズ社製試験機No.702)を用い、JIS-P8115(2001)に準じて、長さ110mm(試験方向)、幅15mmサイズに、長手方向、幅方向にそれぞれ切り出したサンプルを荷重1000g、屈曲角度左右135°(R:+135°、L:-135°)、屈曲速度175回/分、チャック先端R:0.38mmで屈曲試験を長手方向、幅方向にそれぞれ行い、フィルムが破断されたときの屈曲回数をMIT屈曲破断回数とした。なお、試験は3回実施し、その平均値を採用した。
A:20万回以上
B:10万回以上20万回未満
C:10万回未満
屈曲回数がAまたはBの場合、加工性が良好であり、Aの場合が最も優れている。屈曲回数がCの場合にもあまり屈曲しない用途であれば十分使用可能である。
【0049】
I.引裂伝播抵抗
東洋精機製作所(株)製の軽荷重エレメンドルフ引き裂き試験機を用いる。サンプルフィルムを縦63.5mm、横50.8mmの長方形にサンプリングし、横方向に沿う両つかみの中央で直角に縦に12.7mmの切れ目を作り、残りの50.8mmに対する引き裂きの力(g)を求める。この力をフィルムの厚みで除して引裂伝播抵抗(g/mm)とした。該測定をフィルム長手方向と幅方向の両方向に対して行った。
A:縦方向、幅方向共に10000g/mm以上
B:縦方向、幅方向共に10000g/mm未満かつ5000g/mm以上
C:縦方向、幅方向共に5000g/mm未満
引裂伝播抵抗がAまたはBの場合、耐引裂性が良好であり、Aの場合が最も優れている。引裂伝播抵抗がCの場合にも耐引裂性が求められない用途であれば使用可能である。
【0050】
J.粒子の層状構造の判定
マトリクスの樹脂を適当な溶媒で溶解し、粒子を抽出した。得られた粒子の面間隔d(001)を粉末X線回折にて測定した。デバイリングに異方性があり、かつ面間隔d(001))のピークが0.5nm以上50nm以下の範囲に見られた場合、該粒子は層状であると判断した。
【0051】
K.樹脂の粘性
各樹脂を適切な条件で乾燥し、110~280℃で厚み50μmのシート状に成型した。各シートを幅10mmの短冊状に切り出し、JIS-K 7244(1999年版)に従って、セイコーインスツルメンツ社製の動的粘弾性測定装置“DMS6100”を用いて測定した。引張モード、駆動周波数は10Hz、チャック間距離は20mm、昇温速度は2℃/min、サンプリング間隔は1secの測定条件にて、25℃での損失弾性率E”、貯蔵弾性率E’を測定した。E“/E’が大きいほど室温での粘性が高いと判断した。
【0052】
[フィルムの製造に用いた成分]
樹脂A:PET/ダイマー酸共重合体(ガラス転移温度(Tg):20℃、融点(Tm):188℃ ダイマー酸はオレイン酸を二量化することによって得られた炭素数36のジカルボン酸化合物を用いた。)
樹脂B:1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール共重合PET(Tg:-30℃、Tm:115℃)
樹脂C:ポリエチレンテレフタレート(IV:0.65、Tg:85℃、Tm:260℃)
樹脂D:エチレンプロピレン共重合体(Tm:210℃)
樹脂E:ポリアミドポリエーテル共重合体(Tg:30℃、Tm:174℃)
樹脂F:イソフタル酸共重合PET(Tg:75℃、Tm:220℃)
樹脂G:イソフタル酸共重合PBT(Tg:70℃、Tm:195℃)
樹脂Hジカルボン酸成分がテレフタル酸60mol%、セバシン酸40mol%、ジオール成分がエチレングリコール100mol%からなるポリエステル(Tg:70、Tm:220)
樹脂I:ポリブチレンアジペートテレフタレート(Tg:-35℃、Tm:110℃)
樹脂J:セバシン酸アジピン酸共重合PET(Tg:50℃、Tm:180)
樹脂K:ポリエチレンプロピレンテレフタレート(Tg:60℃。Tm:200)
なお、室温での粘性はJ<A<I<E<B<G<K<H<F<D<Cの順に大きくなる。
粒子A:扁平層状マイカ粒子(密度:2.5g/cm3、アスペクト比:30~50、中心厚み:0.1μm、平均粒子径:4μm)
粒子B:球状シリカ粒子(密度:1.9g/cm3、アスペクト比:1、平均粒子径:0.1μm)
粒子C:針状チタン粒子(密度:4.2g/cm3、アスペクト比:10~20、平均粒子径:0.2μm、平均長:2.9μm)
粒子D:板状酸化亜鉛粒子(密度:5.6g/cm3、アスペクト比:4、平均厚さ:0.08μm、平均粒子径:0.3μm)。
【0053】
(実施例1)
樹脂A(50質量部)、樹脂B(50質量部)、及び粒子A(20質量部)を二軸押出機にて混錬し成形してペレットAを得た。次に樹脂A(100質量部)と粒子A(20質量部)を二軸押出機にて混錬し成形してペレットBを得た。ペレットAおよびペレットBを、それぞれ、押出機にて260℃で溶融させ、ギアポンプにて吐出比(積層比)がペレットA/ペレットB=1/1となり、かつ二軸延伸後のフィルム厚みが500μmとなるように計量しながら、51層フィードブロック(A層が26層、B層が25層)にて交互に合流させた。次いで、Tダイに供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、未延伸多層積層フィルムを得た。この未延伸フィルムに逐次二軸延伸を実施した。まず70℃で“テフロン”(登録商標)ロールにて搬送した後に、長手方向に、出力を500Wとした赤外線ヒーターで加熱しながら、75℃で2倍延伸して一軸延伸フィルムを得た。この一軸延伸フィルムをテンター内で幅方向に80℃で2倍延伸し、続いて120℃で熱固定し、その際幅方向に1.7%弛緩した。その後、搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後に巻き取り、フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に優れ、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0054】
(実施例2)
樹脂Aの代わりに樹脂Cを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0055】
(実施例3)
樹脂Bの代わりに樹脂Cを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温での制振性に優れ、室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0056】
(実施例4)
長手方向、幅方向の延伸倍率をいずれも1.5倍とする以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に優れ、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0057】
(実施例5)
粒子Aの代わりに粒子Bを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0058】
(実施例6)
粒子Aの代わりに粒子Cを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0059】
(実施例7)
粒子Aの代わりに粒子Dを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0060】
(実施例8)
樹脂Aの代わりに樹脂Dを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。広い低温域での制振性に優れ、室温域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0061】
(実施例9)
樹脂Bの代わりに樹脂Eを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。広い室温域での制振性に優れ、低温域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0062】
(実施例10)
実施例1と同様にキャスティング、冷却固化まで行い未延伸のフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に優れ、加工性が良好であり、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0063】
(実施例11)
延伸後のフィルム厚みが100μmとなるように押出量を調節する以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性に優れ、耐久性が良好なフィルムが得られた。
【0064】
(実施例12)
延伸後のフィルム厚みが50μmとなるように押出量を調節する以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性に優れ、耐久性が実用可能レベルのフィルムが得られた。
【0065】
(実施例13)
51層フィードブロックの代わりに9層フィードブロック(A層が5層、B層が4層)を用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に優れ、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0066】
(実施例14)
51層フィードブロックの代わりに201層フィードブロック(A層が101層、B層が100層)を用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に優れ、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0067】
(実施例15)
樹脂Aの代わりに樹脂Fを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0068】
(実施例16)
樹脂Aの代わりに樹脂Gを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0069】
(実施例17)
51層フィードブロックの代わりに17層フィードブロック(A層が9層、B層が8層)を用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に優れ、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0070】
(実施例18)
51層フィードブロックの代わりに501層フィードブロック(A層が251層、B層が250層)を用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に優れ、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0071】
(実施例19)
樹脂Bの代わりに樹脂Iを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0072】
(実施例20)
樹脂Aの代わりに樹脂Jを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0073】
(実施例21)
樹脂Bの代わりに樹脂Gを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0074】
(実施例22)
樹脂Bの代わりに樹脂Kを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性が良好で、加工性、耐久性に優れたフィルムが得られた。
【0075】
(比較例1)
粒子Aを添加しない以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に劣るフィルムとなった。
【0076】
(比較例2)
ペレットAのみを押出機にて260℃で溶融させ、積層フィードブロックを用いず、二軸延伸後のフィルム厚みが500μmとなるように計量しながら、Tダイに供給し、シート状に成形した。以降は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に劣るフィルムとなった。
【0077】
(比較例3)
樹脂Bの代わりに樹脂Aを用いること以外は比較例2と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に劣るフィルムとなった。
【0078】
(比較例4)
樹脂Bの代わりに樹脂Cを用いること以外は比較例2と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に劣るフィルムとなった。
【0079】
(比較例5)
幅方向の延伸倍率を1.05倍とする以外は比較例4と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に劣るフィルムとなった。
【0080】
(比較例6)
ペレットAの代わりに樹脂Cのペレットを用いて、ペレットBの代わりに樹脂Hを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に劣るフィルムとなった。
【0081】
(比較例7)
樹脂Bの代わりに樹脂Aを用いる以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。室温から低温まで広い温度域での制振性に劣るフィルムとなった。
【0082】
【0083】
比較例7のフィルムは51層フィードブロックを使用して得られたものであるが、各押出機から送られる樹脂組成物の組成が同じであるため、層数は1とした。