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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020156669
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022050201
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-137110(JP,A)
【文献】特表2009-528946(JP,A)
【文献】特開2014-172483(JP,A)
【文献】特開平08-175115(JP,A)
【文献】特開2002-316517(JP,A)
【文献】特開平10-129218(JP,A)
【文献】特開2021-112944(JP,A)
【文献】特開2013-006549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、その接地面で開口する複数のサイプを含み、
前記複数のサイプは、少なくとも1本の変面サイプを含み、
前記変面サイプは、互いに向き合う一対のサイプ壁を有し、
前記一対のサイプ壁の少なくとも一方は、複数の微小突起が形成された第1面と、前記第1面よりも表面粗さが小さい第2面とを含み、
前記第2面は、前記第1面のタイヤ半径方向の外側に形成され、
前記変面サイプは、その底部が隆起したタイバーを含む
タイヤ。
【請求項2】
前記微小突起は、その根元部分を囲む外縁と、前記外縁から離間した頂面と、前記外縁と前記頂面との間の側面とを含む、請求項に記載のタイヤ。
【請求項3】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、その接地面で開口する複数のサイプを含み、
前記複数のサイプは、少なくとも1本の変面サイプを含み、
前記変面サイプは、互いに向き合う一対のサイプ壁を有し、
前記一対のサイプ壁の少なくとも一方は、複数の微小突起が形成された第1面と、前記第1面よりも表面粗さが小さい第2面とを含み、
前記サイプ壁は、前記変面サイプの長さ方向に離れた2つの前記第1面と、前記2つの第1面の間に形成された前記第2面とを含み、
前記微小突起は、その根元部分を囲む外縁と、前記外縁から離間した頂面と、前記外縁と前記頂面との間の側面とを含み、
前記外縁を通る法線に対する前記側面の角度は、タイヤ半径方向に変化している、
タイヤ。
【請求項4】
前記変面サイプは、その底部が隆起したタイバーを含む、請求項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第1面は、1mm2あたり2~10個の前記微小突起を含んでいる、請求項2ないし4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、その接地面で開口する複数のサイプを含み、
前記複数のサイプは、少なくとも1本の変面サイプを含み、
前記変面サイプは、互いに向き合う一対のサイプ壁を有し、
前記一対のサイプ壁の少なくとも一方は、複数の微小突起が形成された第1面と、前記第1面よりも表面粗さが小さい第2面とを含み、
前記第2面は、前記第1面のタイヤ半径方向の内側に形成され、
前記第1面は、1mm 2 あたり2~10個の前記微小突起を含み、
前記微小突起は、その根元部分を囲む外縁と、前記外縁から離間した頂面と、前記外縁と前記頂面との間の側面とを含み、
前記外縁を通る法線に対する前記側面の角度は、タイヤ半径方向に変化している、
タイヤ。
【請求項7】
前記頂面は、円形又は楕円形の端縁で囲まれた平面状である、請求項2ないし6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記側面は、前記頂面と平行となる段差面を含む、請求項に記載のタイヤ。
【請求項9】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、その接地面で開口する複数のサイプを含み、
前記複数のサイプは、少なくとも1本の変面サイプを含み、
前記変面サイプは、互いに向き合う一対のサイプ壁を有し、
前記一対のサイプ壁の少なくとも一方は、複数の微小突起が形成された第1面と、前記第1面よりも表面粗さが小さい第2面とを含み、
前記第1面は、1mm 2 あたり2~10個の前記微小突起を含み、
前記微小突起は、その根元部分を囲む外縁と、前記外縁から離間した頂面と、前記外縁と前記頂面との間の側面とを含み、
前記頂面は、円形又は楕円形の端縁で囲まれた平面状であり、
前記側面は、前記頂面と平行となる段差面を含む、
タイヤ。
【請求項10】
前記外縁を通る法線に対する前記側面の角度は、タイヤ半径方向に変化している、請求項2又は9に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記側面は、前記外縁を通る法線に対する前記側面の角度が最大となる第1部分と、前記外縁を通る法線に対する前記側面の角度が最小となる第2部分とを含み、
前記第2部分は、前記第1部分よりもタイヤ半径方向の外側に位置している、請求項2ないし10のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、濡れた路面や氷雪路面上を走行する機会の多いオールシーズンタイヤや、スタッドレスタイヤ等では、ブレーキ性能の向上を図るために、トレッド部に多数のサイプが形成されることが多い。一方、前記サイプは、トレッド部の剛性を低下させ、操縦安定性を損ねるおそれがある。
【0003】
このような問題に対し、下記特許文献1は、サイプ壁に略半球状の凸部及び凹部が形成されたサイプを提案している。特許文献1では、制動時や駆動時に凹部と凸部とが噛み合い、、サイプで区画された小陸部が互いに倒れ込みを規制しあい、小陸部の倒れ込み量が少なくなる、と説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-052824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のサイプは、スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤ等のタイヤに適用する場合、氷上性能について、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出なされたもので、トレッド部の剛性低下を抑制しつつ氷上性能を向上させたタイヤを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部は、その接地面で開口する複数のサイプを含み、前記複数のサイプは、少なくとも1本の変面サイプを含み、前記変面サイプは、互いに向き合う一対のサイプ壁を有し、前記一対のサイプ壁の少なくとも一方は、複数の微小突起が形成された第1面と、前記第1面よりも表面粗さが小さい第2面とを含んでいる。
【0008】
本発明のタイヤにおいて、前記サイプ壁は、前記変面サイプの長さ方向に離れた2つの前記第1面と、前記2つの第1面の間に形成された前記第2面とを含むのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記第2面は、前記第1面のタイヤ半径方向の外側に形成されているのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記サイプ型改善サイプは、その底部が隆起したタイバーを含むのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤにおいて、前記第2面は、前記第1面のタイヤ半径方向の内側に形成されているのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記第1面は、1mm2あたり2~10個の前記微小突起を含んでいるのが望ましい。
【0013】
本発明のタイヤにおいて、前記微小突起は、その根元部分を囲む外縁と、前記外縁から離間した頂面と、前記外縁と前記頂面との間の側面とを含むのが望ましい。
【0014】
本発明のタイヤにおいて、前記頂面は、円形又は楕円形の端縁で囲まれた平面状であるのが望ましい。
【0015】
本発明のタイヤにおいて、前記側面は、前記頂面と平行となる段差面を含むのが望ましい。
【0016】
本発明のタイヤにおいて、前記外縁を通る法線に対する前記側面の角度は、タイヤ半径方向に変化しているのが望ましい。
【0017】
本発明のタイヤにおいて、前記側面は、前記外縁を通る法線に対する前記側面の角度が最大となる第1部分と、前記外縁を通る法線に対する前記側面の角度が最小となる第2部分とを含み、前記第2部分は、前記第1部分よりもタイヤ半径方向の外側に位置しているのが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のタイヤは、上記の構成を採用したことによって、トレッド部の剛性低下を抑制しつつ、氷上性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の横断面図である。
図2図1の陸部の拡大平面図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4】他の実施形態の変面サイプのサイプ壁を示す断面図である。
図5】他の実施形態の変面サイプのサイプ壁を示す断面図である。
図6】他の実施形態の変面サイプのサイプ壁を示す断面図である。
図7】他の実施形態の変面サイプのサイプ壁を示す断面図である。
図8】微小突起の一実施形態を示す拡大斜視図である。
図9図8の微小突起の正面図である。
図10図9のB-B線断面図である。
図11】他の実施形態の微小突起の正面図である。
図12図11のC-C線断面図である。
図13】他の実施形態の微小突起の拡大斜視図である。
図14図13の微小突起の断面図である。
図15】微小突起の配置の一実施形態を示す正面図である。
図16】他の実施形態の微小突起の配置を示す正面図である。
図17】他の実施形態の微小突起の配置を示す正面図である。
図18】比較例1のサイプのサイプ壁を示す断面図である。
図19】比較例2のサイプのサイプ壁を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の横断面図が示されている。なお、図1は、タイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含む子午線断面図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、冬用の乗用車用の空気入りタイヤとして好適に用いられる。但し、このような態様に限定されるものではない。
【0021】
「正規状態」とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤや、非空気式タイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。なお、本明細書で説明された各構成は、ゴム成形品に含まれる通常の誤差を許容するものとする。
【0022】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0023】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0024】
図1に示されるように、トレッド部2には、例えば、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝3と、これらに区分された複数の陸部4とが設けられている。
【0025】
図2には、陸部4の拡大平面図が示されている。図2に示されるように、本実施形態の陸部4は、例えば、ブロック6をタイヤ周方向に複数含んだブロック列として構成されている。ブロック6は、陸部4をタイヤ軸方向に横切る複数の横溝5の間に区分されている。本発明の陸部4は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、タイヤ周方向に連続して延びるリブでも良い。
【0026】
陸部4には、複数のサイプ7が設けられている。本明細書において、「サイプ」とは、微小な幅を有する切れ込み要素を含むものである。ここで、前記「微小な幅」とは、トレッド部2に正規荷重相当の接地圧が作用したときに、互いに向き合う2つのサイプ壁が少なくとも一部で接触し、陸部の剛性維持効果が得られる程度の幅を指す。互いに向き合う2つのサイプ壁の間の幅(後述する微小突起を除いた幅である。)は、1.5mm以下であるのが望ましく、より望ましくは0.4~1.0mmである。より好ましくは、サイプ7の接地面側端部の幅が1.5mm以下である。
【0027】
前記「正規荷重」は、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。また、各種の規格が定められていないタイヤや、非空気式タイヤの場合、「正規荷重」は、タイヤの標準装着状態において、1つのタイヤに作用する荷重を指す。前記「標準装着状態」とは、タイヤの使用目的に応じた標準的な車両にタイヤが装着され、かつ、前記車両が走行可能な状態で平坦な路面上に静止している状態を指す。
【0028】
本実施形態の各サイプ7は、ブロック6をタイヤ軸方向に完全に横断するフルオープンサイプとして構成されている。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではない。
【0029】
前記複数のサイプ7は、少なくとも1本の変面サイプ8を含む。変面サイプ8は、互いに向き合う一対のサイプ壁を有し、これらのサイプ壁が従来のものから改善されている。本実施形態の変面サイプ8は、例えば、トレッド平面視において直線状に延び、かつ、その横断面においてもタイヤ半径方向に実質的に直線状に延びている。但し、変面サイプ8は、このような態様に限定されるものではなく、以下で説明される特徴を具えるものであれば、サイプの長さ方向にジグザグ状に延びるものや、サイプの長さ方向及び深さ方向にジグザグ状に延びる3Dサイプとして構成されても良い。
【0030】
図3には、図2のA-A線断面図が示されている。図3に示されるように、変面サイプ8の一対のサイプ壁10の少なくとも一方は、複数の微小突起が形成された第1面11と、前記第1面11よりも表面粗さが小さい第2面12とを含んでいる。本明細書のサイプ壁10を示す各図において、第1面11は着色されている。なお、微小突起の詳細な構成は、後述される。
【0031】
本発明では、上記の構成を採用したことによって、トレッド部2の剛性低下を抑制しつつ、氷上性能を向上させることができる。その理由としては、以下のメカニズムが推察される。
【0032】
トレッド部2に接地圧が作用すると、サイプは、互いに向き合うサイプ壁同士が接触し、トレッド部2の剛性を維持する。変面サイプ8は、第1面11によってサイプ壁間の滑りが小さくなり、サイプによるトレッド部2の剛性低下が抑制される。一方、表面粗さが小さい第2面12では、サイプ壁間の滑りが相対的に大きく、部分的に開く。サイプが部分的に開くと、その付近のトレッド部2の接地性が高まり、大きな摩擦力が発生される。加えて、第2面12が部分的に開くことにより、トレッド部2と接地面の間の水膜が除去され、摩擦力がさらに高まる。このような作用は、氷上性能を効果的に高めることができる。本発明では、このようなメカニズムにより、トレッド部の剛性低下を抑制しつつ、氷上性能を向上させることができる。
【0033】
なお、上述の「表面粗さ」は、例えば、JISB0601-2001に定義される算術平均粗さが適用される。
【0034】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。なお、以下で説明される各構成は、本実施形態の具体的態様を示すものである。したがって、本発明は、以下で説明される構成を具えないものであっても、上述の効果を発揮し得るのは言うまでもない。また、上述の特徴を具えた本発明のタイヤに、以下で説明される各構成のいずれか1つが単独で適用されても、各構成に応じた性能の向上は期待できる。さらに、以下で説明される各構成のいくつかが複合して適用された場合、各構成に応じた複合的な性能の向上が期待できる。
【0035】
本実施形態では、一対のサイプ壁10の両方に、第1面11及び第2面12が構成されている。また、一方のサイプ壁10と他方のサイプ壁10とは、面対称となるように第1面11及び第2面12が配されている。すなわち、一方のサイプ壁10の第1面11は、他方のサイプ壁10の第1面11と向き合う。第2面12についても同様の関係で構成される。これにより、上述の作用効果がより確実に発揮される。
【0036】
サイプ壁10は、例えば、変面サイプ8の長さ方向に離れた2つの第1面11と、2つの第1面11の間に形成された第2面12とを含む。本実施形態では、第1面11がそれぞれ変面サイプ8の長さ方向の端部を含んで構成されている。また、2つの第1面11及び1つの第2面12によって、サイプ壁10の全面が構成されている。このような変面サイプ8は、その両端部でサイプ壁10同士が噛み合って陸部の剛性を維持し、その長さ方向の中央部が開いて高い水膜除去効果を発揮する。したがって、ドライ路面での操縦安定性(以下、単に「操縦安定性」という場合がある。)と氷上性能とがバランス良く向上する。
【0037】
陸部4の接地面上における1つの第1面11の長さL1は、例えば、前記接地面における変面サイプ8の長さLtの25%~40%である。陸部4の接地面上における第2面12の長さL2は、例えば、前記接地面における変面サイプ8の長さLtの25%~40%である。これにより、上述の効果が確実に発揮される。
【0038】
2つの第1面11を合わせた面積の合計は、第2面12の面積よりも大きい。2つの第1面11を合わせた面積の合計は、サイプ壁10の全体の面積の60%~80%である。第2面12の面積は、サイプ壁10の全体の面積の20%~40%である。
【0039】
第1面11と第2面12との境界13は、例えば、変面サイプ8の深さ方向に対して10°以下の角度で延びている。より望ましい態様では、前記境界は、前記深さ方向に対して平行に延びている。
【0040】
図4は、本発明の他の実施形態における、変面サイプ8のサイプ壁を示す断面図である。図4に示されるように、この実施形態の変面サイプ8は、その底部が隆起したタイバー15を含む。より望ましい態様では、タイバー15は、変面サイプ8の両端部に設けられている。タイバー15の高さh1は、変面サイプ8の最大の深さd1の30%~50%である。このような変面サイプ8は、陸部の剛性をより確実に確保することができる。
【0041】
この実施形態では、2つのタイバー15の間の領域が、第1面11で構成されており、タイバー及び第1面11のタイヤ半径方向外側に、第2面12が形成されている。このような変面サイプ8は、タイバー15による剛性向上効果を第1面11によってさらに高めることができ、かつ、第2面12が配された領域が大きく開くため、優れた氷上性能が発揮される。
【0042】
図5図7は、さらに他の実施形態における、変面サイプ8のサイプ壁10を示す断面図である。図5及び図6に示される実施形態では、変面サイプ8の深さ方向に、第1面11及び第2面12が並べられている。
【0043】
図5に示される実施形態では、タイバーが設けられておらず、かつ、変面サイプ8の底部分を含む領域に第1面11が形成されており、第2面12は、第1面11のタイヤ半径方向の外側に形成されている。このような変面サイプ8は、図4に示される実施形態と比較して、氷上性能をさらに高めることができる。
【0044】
図6に示される実施形態では、第1面11が変面サイプ8の開口縁側に形成されており、変面サイプ8の底部分を含む領域に第2面12が形成されている。すなわち、第2面12は、第1面11のタイヤ半径方向の内側に形成されている。このような変面サイプ8は、第1面11が配された領域によってサイプ全体の開きが抑制され、図5に示される実施形態と比較して優れた操縦安定性を発揮することができる。
【0045】
図5及び図6に示される実施形態では、第1面11と第2面12との境界13は、変面サイプ8の長さ方向に平行に延びている。変面サイプ8の底から境界13までの距離L3は、変面サイプ8の最大の深さd1の40%~60%である。
【0046】
図7に示される実施形態では、第1面11が変面サイプ8の長さ方向の一方側に形成されており、第2面12が変面サイプ8の長さ方向の他方側に形成されている。より望ましい態様では、第1面11と第2面12とが変面サイプ8を長さ方向に2等分する中心線に対して線対称に形成されている。このような変面サイプ8は、陸部の剛性分布を変面サイプ8の長さ方向に変化させることができる。
【0047】
上述の第1面11は、いずれも、複数の微小突起を含むことにより、第2面12よりも大きい表面粗さを有している。第1面11の算術平均粗さは、例えば、0.3~0.8mmである。このような第1面11の表面粗さは、例えば、以下で説明される微小突起の高さ、幅、密度(単位面積当たりの個数)などを変えることにより得られる。第2面12の算術平均粗さは、例えば、0.3mmよりも小さく、本実施形態では微小突起を具えていない平面状である。
【0048】
図8図14には、微小突起9を説明する図が記載されている。なお、以下で説明される微小突起9は、上述のいずれの変面サイプ8の第1面11に適用されても良い。
【0049】
図8には、微小突起9の一実施形態を示す拡大斜視図が示されている。図9には、図8の微小突起9の正面図が示されている。図10には、図9のB-B線断面図が示されている。図8図10に示されるように、この実施形態の微小突起9は、その根元部分を囲む外縁20と、前記外縁20から離間した頂面21と、前記外縁20と前記頂面21との間の側面22とを含む。頂面21は、例えば、円形又は楕円形の端縁で囲まれた平面状である。本実施形態の微小突起9は、外縁20及び頂面21が円形となる円錐台状に構成されている。このような微小突起9は、サイプ壁間の滑りを効果的に抑制することができる。
【0050】
図9に示されるように、微小突起9の最大幅L4は、例えば、0.30~0.70mmであり、望ましくは0.40~0.60mmである。図10に示されるように、微小突起9の最大高さh2は、例えば、0.15~0.50mmであり、望ましくは0.30~0.40mmである。また、第1面11(図3図7に示される)は、例えば、1mm2あたり2~10個の微小突起9を含んでいる。このような変面サイプ8は、直線状であっても、従来のジグザグ状のサイプや3Dサイプと同様の剛性向上効果を発揮できる。したがって、複数の変面サイプ8を従来のものよりも近接させて配置することができ、氷上性能を向上させることができる。なお、これらの寸法は、後述する各微小突起9の寸法に適用することができる。
【0051】
第1面11同士が接触したときの滑りをさらに抑制するために、微小突起9の高さ方向に対する、微小突起9の側面22の角度θ1は、例えば、10~20°である。
【0052】
図8図10に示されるように、本明細書の各図では、微小突起9の外縁20が明確なエッジとして示されている。一方、実際には、サイプ壁10の基準面と微小突起9とが曲面で連なり、外縁20が不明確となる場合がある。この場合、前記曲面の幅方向の中心位置を通る仮想線が、外縁20と擬制されて、上述の寸法が特定される。
【0053】
図11には、さらに他の実施形態の微小突起9の正面図が示されている。図12には、図11のC-C線断面図が示されている。図11及び図12に示されるように、微小突起9は、外縁20で囲まれる仮想底面及び頂面21が楕円形であるものでも良い。
【0054】
この微小突起9は、例えば、その長手方向がサイプ壁改善方向の深さ方向と平行になるように配置されるのが望ましい。これにより、加硫成形時、サイプを形成するサイプブレードの離型性が向上し、加硫成形不良が抑制される。
【0055】
この微小突起9の外縁20の短径L6は、例えば、外縁20の長径L5の40%~60%である。これにより、微小突起9の長手方向及び短手方向の剛性が適正に確保される。
【0056】
この微小突起9の頂面21の図心は、外縁20で囲まれた仮想底面の図心に対して位置ずれしている。具体的には、前記頂面21の図心が、前記仮想底面の図心よりもタイヤ半径方向の外側に位置している。これにより離型性がより一層向上する。
【0057】
この微小突起9において、外縁20を通る法線に対する側面22の角度は、タイヤ半径方向に変化している。具体的には、側面22は、外縁20を通る法線に対する側面22の角度が最大となる第1部分26と、外縁20を通る法線に対する側面22の角度が最小となる第2部分27とを含む。第2部分27は、第1部分26よりもタイヤ半径方向の外側に位置している。第1部分26の前記角度θ2は、例えば、30~50°である。第2部分27の前記角度θ3は、例えば、10~20°である。これにより、第1面11が配された領域が雪等を噛んだとき、微小突起9の変形によって雪等がサイプ外方に排出され易くなる。
【0058】
図13には、さらに他の実施形態の微小突起9の拡大斜視図が示されている。図14には、図13の微小突起9の断面図が示されている。図13及び図14に示されるように、この実施形態の側面22は、頂面21と平行となる段差面28を含む。段差面28は、例えば、円環状に延びている。このような段差面28を有する微小突起9は、図8で示される実施形態と比較して、第1面11が配された領域の水膜除去効果を向上させることができ、氷上性能を高めることができる。
【0059】
図14に示されるように、段差面28の外径L8は、微小突起9の最大幅L4の85%~95%である。段差面28の高さh3は、微小突起9の最大高さh2の40%~60%である。このような段差面28を有する微小突起9は、操縦安定性と氷上性能とをバランス良く向上させることができる。
【0060】
図15図17には、複数の微小突起9の配置を示す第1面11の拡大正面図が示されている。なお、図15図17に示される微小突起9の配置は、図3図7に示されるいずれの第1面11にも適用され得る。また、図15図17に示される配置には、図8図14のいずれの微小突起9が適用されても良い。なお、図15図17は、微小突起9の配置の特徴を示すために、12個の微小突起9の正面図を拡大して示しているが、実際の第1面11には、さらに多くの微小突起9が含まれるのは言うまでもない。
【0061】
図15及び図16に示される配置では、各微小突起9が、変面サイプ8の長さ方向及び深さ方向に整列している。また、これらの配置では、前記長さ方向に並ぶ複数の微小突起9の頂面21の図心を結んだ仮想直線が、前記長さ方向に平行に延びている。また、前記深さ方向に並ぶ複数の微小突起9の頂面21の図心を結んだ仮想直線が、前記深さ方向に平行に延びている。但し、微小突起9の配置は、このような態様に限定されるものではない。
【0062】
図15に示される配置では、微小突起9の間に間隙30が設けられている。2つの微小突起9の外縁20間の距離L9は、例えば、微小突起9の最大幅L4の30%~45%である。このような配置は、互いに向き合う2つの第1面11が接触したときに、一方の第1面11の微小突起9が他方の第1面11の間隙30に入り込み、サイプ壁10の滑りが効果的に抑制される。
【0063】
図16に示される配置では、微小突起9の外縁20同士が接触するように微小突起9が配されている。このような配置は、より多くの微小突起9を配することができ、サイプ壁10の滑りがより一層抑制される。
【0064】
上述の効果をさらに高めるために、図17に示される配置では、円形の外縁20を有する複数の微小突起9が、最密構造となるように配置されている。これにより、サイプ壁10の滑りがさらに抑制される。
【0065】
なお、上述された変面サイプ8は、例えば、従来のタイヤ製造で用いられる加硫金型のサイプ形成用のブレードの外面に、微小突起形成用の凹部が配されることにより、製造することができる。
【0066】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例
【0067】
上述したサイプ壁を有するサイズ215/55R17の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例1として、図18に示されるように、各サイプのサイプ壁aの全面が平面状である空気入りタイヤが試作された。比較例2として、図19に示されるように、各サイプのサイプ壁bの全面が、複数の微小突起が配された凹凸面(本発明の第1面に相当する面)である空気入りタイヤが試作された。各テストタイヤは、上述のサイプ壁の構成を除いて、実質的に同じ構成を具えている。各テストタイヤのドライ路面での操縦安定性及び氷上性能がテストされた。テストタイヤの共通仕様及びテスト方法は、以下の通りである。
装着リム:17×7.5J
タイヤ内圧:240kPa
テスト車両:排気量1600cc、前輪駆動車
タイヤ装着位置:全輪
【0068】
<ドライ路面での操縦安定性>
上記テスト車両でドライ路面を走行したときの操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1の前記操縦安定性を100とする評点であり、数値が大きい程、ドライ路面での操縦安定性が優れていることを示す。
【0069】
<氷上性能>
上記テスト車両で氷路面を走行したときの氷上性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1の前記氷上性能を100とする評点であり、数値が大きい程、氷上性能が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0070】
【表1】
【0071】
テストの結果、各実施例のタイヤは、比較例1よりもドライ路面での操縦安定性が優れていることが確認でき、かつ、比較例2よりも氷上性能が優れていることが確認できた。これらの結果から、各実施例のタイヤは、トレッド部の剛性低下を抑制しつつ氷上性能を向上させていることが確認できた。
【符号の説明】
【0072】
2 トレッド部
7 サイプ
8 変面サイプ
9 微小突起
10 サイプ壁
11 第1面
12 第2面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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