(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルムの製造方法及びガスバリアフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 37/14 20060101AFI20241106BHJP
B32B 7/02 20190101ALI20241106BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241106BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241106BHJP
B32B 38/00 20060101ALI20241106BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20241106BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B32B37/14 Z
B32B7/02
B32B9/00 A
B32B27/00 Z
B32B38/00
C23C14/08 A
C23C14/24 N
(21)【出願番号】P 2020158631
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山川 郁子
(72)【発明者】
【氏名】多胡 弘紀
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-080934(JP,A)
【文献】特開昭62-103359(JP,A)
【文献】特開2003-291245(JP,A)
【文献】特開2019-155646(JP,A)
【文献】特開2020-044708(JP,A)
【文献】国際公開第2019/182018(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材上に酸化アルミニウム蒸着膜を形成する工程
であって、
前記酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行い、二次イオンAl
+に対する二次イオンAlO
+の強度比率(AlO/Al)×100が、二次イオンAlO
+のカウント数が最大のときに
3.307~3.564であること
と、
二次イオンAl
+に対する二次イオンAlOH
+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンAlO
+のカウント数が最大のときに
4.482~5.123であること
と、を満たす酸化アルミニウム蒸着膜を形成する工程を備える、
ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記酸化アルミニウム蒸着膜を形成するための条件を調整する工程を更に備える、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
樹脂基材と、前記樹脂基材上に酸化アルミニウム蒸着膜と、を備え、
前記酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行ったときに、二次イオンAl
+に対する二次イオンAlO
+の強度比率(AlO/Al)×100が、二次イオンAlO
+のカウント数が最大のときに
3.307~3.564であり、かつ二次イオンAl
+に対する二次イオンAlOH
+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンAlO
+のカウント数が最大のときに
4.482~5.123である、ガスバリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスバリアフィルムの製造方法及びガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
酸素ガス及び水蒸気に対するガスバリア性を向上させるべく、プラスチックフィルムからなる基材に、アルミナ等の無機酸化物蒸着膜を形成することが行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のガスバリアフィルムの製造方法では、フィルムのガスバリア性が不充分な状態で後工程に供される虞がある。また、従来のガスバリアフィルムの製造方法により得られるガスバリアフィルムは、ガスバリア性の観点において改善の余地がある。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、ガスバリア性に優れるガスバリアフィルムの製造方法を提供することを目的とする。また、本開示は、ガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、ガスバリアフィルムの製造方法であって、樹脂基材上に酸化アルミニウム蒸着膜を形成する工程と、酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行い、二次イオンAl+に対する二次イオンAlO+の強度比率(AlO/Al)×100が、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときに2.5~3.6であることを確認する工程と、二次イオンAl+に対する二次イオンAlOH+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときに4.0~7.0であることを確認する工程と、を備える、製造方法を提供する。
【0007】
一態様において、本開示に係る製造方法は、酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行い、二次イオンAl+に対する二次イオンAlOH+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンCH+に対する二次イオンC+の強度比C/CHが1.7~3.0であるときに1.0~3.0であることを確認する工程を更に備えてよい。
【0008】
一態様において、本開示に係る製造方法は、酸化アルミニウム蒸着膜を形成するための条件を調整する工程を更に備えてよい。
【0009】
本開示は、樹脂基材と、樹脂基材上に酸化アルミニウム蒸着膜と、を備え、酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行ったときに、二次イオンAl+に対する二次イオンAlO+の強度比率(AlO/Al)×100が、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときに2.5~3.6であり、二次イオンAl+に対する二次イオンAlOH+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときに4.0~7.0である、ガスバリアフィルムを提供する。
【0010】
一態様において、本開示に係るガスバリアフィルムの酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行ったときに、二次イオンAl+に対する二次イオンAlOH+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンCH+に対する二次イオンC+の強度比C/CHが1.7~3.0であるときに1.0~3.0であってよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ガスバリア性に優れるガスバリアフィルムの製造方法を提供することができる。また、本開示によれば、ガスバリア性に優れるガスバリアフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るガスバリアフィルムの模式図である。
【
図2】
図2は、各例における強度比率(AlO/Al)×100の測定結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、各例における強度比率(AlOH/Al)×100の測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、各例における強度比C/CH及び強度比率(AlOH/Al)×100の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ガスバリアフィルムの製造方法>
ガスバリアフィルムの製造方法は、概して膜形成工程、酸化度確認工程及び第一の水酸化度確認工程を備え、さらに第二の水酸化度確認工程及び調整工程を備えていてよい。
【0014】
[膜形成工程]
膜形成工程は、樹脂基材上に酸化アルミニウム蒸着膜を形成する工程である。
【0015】
(樹脂基材)
樹脂基材としては特に制限されず、公知の樹脂フィルム(又はシート)を使用することができる。樹脂基材の材質としては、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂6、ポリアミド樹脂66、ポリアミド樹脂610、ポリアミド樹脂612、ポリアミド樹脂11、ポリアミド樹脂12等のポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のα-オレフィンの重合体や共重合体などのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0016】
樹脂基材は単層であってもよく、複層であってもよい。また、樹脂基材が複層である場合、各層の材質は同一であってもよく異なっていてもよい。樹脂基材は、例えば上記の樹脂を用いて、押し出し法、インフレーション法等の製膜化法を用いて、樹脂を単独で製膜化する方法、あるいは、2種以上の樹脂を使用して多層共押し出し製膜化法を用いて、樹脂を組み合わせて製膜化する方法により得ることができる。
【0017】
樹脂基材を構成する樹脂フィルムは、所望により、テンター方式やチューブラー方式等を利用して、1軸又は2軸方向に延伸されていてもよい。
【0018】
樹脂基材の表面は、酸化アルミニウム蒸着膜との密着性向上のため、プラズマ処理が施されていてよい。プラズマ処理は、例えばホローアノードプラズマ処理器を用いて行うことができる(特許第4433794号参照)。
【0019】
樹脂基材の厚さは、ガスバリア性、加工性等を考慮すると、実用的には3~200μmとすることができ、6~30μmであってよい。
【0020】
(酸化アルミニウム蒸着膜)
酸化アルミニウム蒸着膜(以下、アルミナ蒸着膜という場合がある)は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法:PVD法)を用いて形成することができる。PVD法では、アルミニウム原料を減圧下で加熱し、そこに酸素を導入してアルミニウムを酸化させ、樹脂基材上にアルミナが蒸着される。
【0021】
アルミナ蒸着膜の厚さは、膜の均一性、柔軟性等の観点から、5~300nmとすることができ、10~150nmであってよい。
【0022】
アルミナ蒸着膜の形成条件は、優れたガスバリア性を得る観点から適切に調整される。アルミナ蒸着膜の所望の酸化度及び水酸化度を得るための条件は以下のとおりである。アルミナ蒸着膜の形成は、酸素導入量とアルミニウム蒸発量のどちらか、又はその両方を任意に変更し、酸素とアルミニウムの比率を調整可能な成膜装置を用いて行う。酸素とアルミニウムの比率に応じて膜の光線透過率が変化するため、成膜装置はフィルムの光線透過率を測定できる機構を備えることが望ましい。成膜時の真空度は、膜の均一性、不純物低減等の観点から、0.1Pa以下とすることができ、0.01Pa以下であることが望ましい。成膜中の雰囲気はアルゴン等の不活性ガス又は乾燥空気とすることで、酸素以外のガスがアルミニウムと反応することを防ぐことができる。特に水蒸気はアルミニウムと反応して水酸化度を高めるため、水蒸気分圧は0.001Pa以下であることが望ましい。
【0023】
[酸化度確認工程]
酸化度確認工程は、酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行い、二次イオンAl+に対する二次イオンAlO+の強度比率(AlO/Al)×100が、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときに2.5~3.6であることを確認する工程である。強度比率(AlO/Al)×100が2.5以上であることで優れた水蒸気バリア性及び透明性を得ることができ、3.6以下であることで優れた酸素バリア性を得ることができる。この観点から、強度比率(AlO/Al)×100は、2.9~3.6であってよい。
【0024】
なお、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときは、エッチング後であり、飛行時間型二次イオン質量分析で大気由来の炭化水素系イオン等が除去された状態である。したがって、清浄な酸化アルミニウム膜の成分が検出されるため、AlO+のカウント数が最大のときの強度比率を規定する。
【0025】
[第一の水酸化度確認工程]
第一の水酸化度確認工程は、酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行い、二次イオンAl+に対する二次イオンAlOH+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときに4.0~7.0であることを確認する工程である。強度比率(AlOH/Al)×100がこの範囲であることで、優れた酸素バリア性を得ることができる。この観点から、第一の水酸化度確認工程における強度比率(AlOH/Al)×100は、4.0~6.5であってよく、4.0~6.0であってよい。
【0026】
[第二の水酸化度確認工程]
第二の水酸化度確認工程は、酸化アルミニウム蒸着膜に対して飛行時間型二次イオン質量分析を行い、二次イオンAl+に対する二次イオンAlOH+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンCH+に対する二次イオンC+の強度比C/CHが1.7~3.0であるときに1.0~3.0であることを確認する工程である。強度比率(AlOH/Al)×100が1.0以上であることで優れた水蒸気バリア性及び透明性を得易く、3.0以下であることで優れた酸素バリア性を得易い。この観点から、強度比C/CHが1.7~3.0のときに、強度比率(AlOH/Al)×100は1.1~2.5であってよい。
【0027】
酸化アルミニウム蒸着膜のエッチング後に強度比C/CHが1.7~3.0となる状態では、大気にさらすことで生じる自然酸化膜、及びAlO+が最大のときより基材側の膜内部であり、バリア性能が反映されやすい深さで強度比率を取得している。強度比C/CHが3.0以下であることで、エッチングによるダメージや基材の成分の混入等を抑制でき、酸化アルミニウム蒸着膜由来でない成分の割合を低く抑えることができる。
【0028】
飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)は、サンプルの極表層(約1nm深さ)の定性を行う表面分析装置である。一次イオン(パルス)をサンプルに照射すると、そのエネルギーでサンプル表層が若干破壊され二次イオン化する。その二次イオンを正イオン、負イオンに分けて検出する。分子量と飛行時間が比例することを利用し、検出されるまでの飛行時間を測定することで精密質量を求め、精密質量からイオンの構造を帰属、検出された複数のイオン群から成分定性することになる。TOF-SIMS測定条件は以下のとおりである。
一次イオン:Bi3++
加速電圧:30kV
電流:1.6nA(直流)
中和銃:電子(正負)、Arイオン(正のみ)
エッチング銃:Bi
装置名:nanoTOF(アルバック・ファイ株式会社製)
測定面積:100~600μm□
エッチング面積:400~2400μm□(エッチング面積は測定面積よりも大きくなるよう設定する。)
【0029】
[調整工程]
調整工程は、酸化アルミニウム蒸着膜を形成するための条件を調整する工程である。具体的には、調整工程は、上記酸化度確認工程や、第一及び第二の水酸化度確認工程にて、アルミナ蒸着膜が所期の強度比率を有しない場合、膜形成工程にフィードバックする工程であると言える。調整工程により、優れたガスバリア性を有するガスバリア膜をより効率的に製造することができる。
【0030】
[その他の工程]
ガスバリアフィルムの製造方法は、その他の工程として、アンカーコート層を形成するアンカーコート層形成工程と、バリアコート層を形成するバリアコート層形成工程とを備えていてよい。アンカーコート層形成工程は、膜形成工程に先立ち実施することができ、バリアコート層形成工程は、膜形成工程後に実施することができる。
【0031】
(アンカーコート層)
樹脂基材上に、酸化アルミニウム蒸着膜との密着性向上のため、アンカーコート層が設けられていてよい。アンカーコート層の材質としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。アンカーコート層は、これらの樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を用いて形成することができる。アンカーコート層として、例えば、特許第4205806号記載のプライマー層を用いてもよい。
【0032】
アンカーコート層の厚さは、層の均一性、柔軟性等の観点から、0.01~2μmとすることができ、0.05~0.5μmであってよい。
【0033】
(バリアコート層)
アルミナ蒸着膜上に、さらなるガスバリア性向上のため、バリアコート層が設けられていてよい。バリアコート層としては、たとえば、金属アルコキシド、その加水分解物、及びその重合物から選択されたいずれか1つの化合物と、水酸基含有高分子化合物とを含むガスバリア性被膜層を用いることができる(特許第2790054号、特許第4200972号等参照)。
【0034】
バリアコート層の厚さは、ガスバリア性、柔軟性等の観点から0.01~50μmとすることができる。
【0035】
<ガスバリアフィルム>
図1は、本開示の一実施形態に係るガスバリアフィルムの模式図である。同図に示されるように、ガスバリアフィルム10は、少なくとも樹脂基材1と、樹脂基材1上に酸化アルミニウム蒸着膜2と、を備える。
【0036】
当該ガスバリアフィルムの酸化アルミニウム蒸着膜は、飛行時間型二次イオン質量分析を行ったときに、二次イオンAl+に対する二次イオンAlO+の強度比率(AlO/Al)×100が、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときに2.5~3.6である。また、当該ガスバリアフィルムの酸化アルミニウム蒸着膜は、飛行時間型二次イオン質量分析を行ったときに、二次イオンAl+に対する二次イオンAlOH+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンAlO+のカウント数が最大のときに4.0~7.0である。また、当該ガスバリアフィルムの酸化アルミニウム蒸着膜は、飛行時間型二次イオン質量分析を行ったときに、二次イオンAl+に対する二次イオンAlOH+の強度比率(AlOH/Al)×100が、二次イオンCH+に対する二次イオンC+の強度比C/CHが1.7~3.0であるときに1.0~3.0であってよい。
【0037】
ガスバリアフィルムは、必要に応じて、印刷層やコーティング層(例えば、上記アンカーコート層やバリアコート層)が形成され、他の樹脂フィルムと積層された後、包装材料、光学材料、封止材料等として利用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本開示を実施例を用いて詳細に説明するが、本開示は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
<バリアフィルムの作製>
以下の実験例1~4に従い、バリアフィルムを作製した。
【0040】
実験例1:
透明の樹脂基材として、厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、その片面に印加電力8kW、処理時間を0.05sec、処理ガスをアルゴンと酸素の混合ガス、処理ユニット圧力を0.5Paとした、ホローアノードプラズマ処理を施した。
続いて、樹脂基材のプラズマ処理面の上に、電子線加熱方式を用いてアルミナ蒸着膜を設けた。この時、酸素は導入せず、アルミナ蒸着膜の厚さは10nmとした。以上の方法で実験例1のガスバリアフィルムを得た。
【0041】
実験例2:
実験例1と同様にして樹脂基材にプラズマ処理を行い、樹脂基材のプラズマ処理面の上に電子線加熱方式を用いてアルミナ蒸着膜を設けた。成膜時の酸素導入量は20000sccmとした。成膜前の樹脂基材の光線透過率を100%とした場合の成膜後の光線透過率が75%となるように、アルミニウム蒸発量の調整を行った。光線透過率の測定波長は366nmであった。以上の方法で実験例2のガスバリアフィルムを得た。
【0042】
実験例3:
成膜時の酸素導入量を22500sccmとし、光線透過率が88%となるように、アルミニウム蒸発量の調整を行ったこと以外は、実験例2と同様の方法にて、実験例3のガスバリアフィルムを得た。
【0043】
実験例4:
成膜時の酸素導入量を50000sccmとし、光線透過率が98%となるように、アルミニウム蒸発量の調整を行ったこと以外は、実験例3と同様の方法にて、実験例4のガスバリアフィルムを得た。
【0044】
各例で得られたガスバリアフィルムの酸化アルミニウム蒸着膜に対して、以下の条件で飛行時間型二次イオン質量分析を行った。
二次イオンAlO
+のカウント数が最大のときの、二次イオンAl
+に対する二次イオンAlO
+の強度比率(AlO/Al)×100を求めた。結果を表1(酸化度)に示す。そして、当該強度比率(AlO/Al)×100が、2.5~3.6であるか否かを確認した。
二次イオンAlO
+のカウント数が最大のときの、二次イオンAl
+に対する二次イオンAlOH
+の強度比率(AlOH/Al)×100を求めた。結果を表1(水酸化度1)に示す。そして、当該強度比率(AlOH/Al)×100が、4.0~7.0であるか否かを確認した。
図2は、各例における強度比率(AlO/Al)×100の測定結果を示すグラフである。また、
図3は、各例における強度比率(AlOH/Al)×100の測定結果を示すグラフである。
一次イオン:Bi3
++
加速電圧:30kV
電流:1.6nA(直流)
中和銃:電子(正負)、Arイオン(正のみ)
測定面積:150μm□(エッチング前)、100μm□(エッチング後)
エッチング銃:Bi
エッチング面積:400μm□
装置名:nanoTOF(アルバック・ファイ株式会社製)
【0045】
酸化度確認工程と同様にして、飛行時間型二次イオン質量分析を行った。二次イオンCH
+に対する二次イオンC
+の強度比C/CHが1.7~3.0であるときの、二次イオンAl
+に対する二次イオンAlOH
+の強度比率(AlOH/Al)×100を求めた。結果を表1(水酸化度2)に示す。そして、当該強度比率が1.0~3.0であるか否かを確認した。
図4は、各例における強度比C/CH及び強度比率(AlOH/Al)×100の測定結果を示すグラフである。
【0046】
<各種評価>
各例で得られたバリアフィルムに対して各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
(酸素バリア性評価)
各例で作製したガスバリアフィルムについて、酸素透過率測定装置(MOCON社製 OXTRAN 2/22)を使用して、酸素透過量を、温度30℃、湿度70%の条件下で測定した。
【0048】
(水蒸気バリア性評価)
各例で作製したガスバリアフィルムについて、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製 PERMATRAN-W 3/34)を使用して、水蒸気透過量を、温度40℃、湿度90%の条件下で測定した。
【0049】
(透明性評価)
各例で作製したガスバリアフィルムについて、分光光度計(日本分光製 紫外可視分光光度計 V-650)を使用して、光線透過度を、測定波長366nmの条件下で測定した。
【0050】
【0051】
以上の実験によれば、アルミナ蒸着膜の形成後に、強度比率(AlO/Al)×100及び(AlOH/Al)×100が所望の範囲にあることを確認することで、実験例2及び3に示されるような優れたガスバリアフィルムを得られることが分かった。
【符号の説明】
【0052】
1…樹脂基材、2…酸化アルミニウム蒸着膜、10…ガスバリアフィルム。