(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】細繊度ポリテトラフルオロエチレン繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/12 20060101AFI20241106BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20241106BHJP
D01D 10/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
D01F6/12 A
D01D5/06 101
D01D10/02
(21)【出願番号】P 2020196583
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 元樹
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-241606(JP,A)
【文献】特開2014-080714(JP,A)
【文献】特開2010-047859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00- 6/96
9/00- 9/04
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.1dtex以上
0.3dtex以下、含炭率が繊維重量に対して2.0%以上4.0%以下であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法であって、ビスコースとポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を硫酸濃度7%~13%、硫酸ソーダ濃度7%~15%の水溶液の凝固浴中に、吐出孔が40μm以上80μm以下、孔長が40μm以上の紡糸ノズルから引き取り速度/吐出線速度が1.5~4.0で吐出し、焼成ローラー通過時の総繊度/幅が100ktex/m以下であり、焼成ローラー間で1%~5%のリラックスを与えながら、200℃以上320℃以下の温度で半焼成した後、320℃以上350℃以下の温度で焼成を行い、一旦巻き取るか、もしくはそのまま延伸することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細繊度のポリテトラフルオロエチレン繊維とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記載することがある。)繊維に代表されるフッ素樹脂系繊維は、その優れた耐熱性、耐薬品性、電気特性、あるいは摩擦係数が低く摺動性に優れることなどから、産業資材用途を中心に、広く用いられている。
【0003】
例えば、耐熱性、耐薬品性の特徴を活かしてゴミ焼却炉のバグフィルター用途に広く用いられており、具体的にはPTFE繊維とガラス繊維との複合品が利用されている。近年、環境問題への意識が高まっており、この問題の一つである大気汚染の観点から、粒径がより小さなダストの捕集が可能な高捕集効率のバグフィルターが求められている。このような問題を解決するためにはより細いPTFE繊維が必要となり、繊度1.5dtex以下のPTFE繊維が望まれるが、繊度1.5dtex以下のPTFE繊維は得られていない。
【0004】
一般的に、PTFE繊維の製造方法としては、マトリックス物質を利用して紡糸した後に焼成工程を経るマトリックス紡糸法の他に、スプリット剥離法あるいはペースト押出し法が知られている。スプリット剥離法あるいはペースト押出法によって得られるPTFE繊維は、熱に対する収縮率が低く寸法安定性に優れているものの、細かく切り裂いて繊維を製造するために、最終繊維状物の断面は扁平形状かつ不均一となり、しかも、繊度もランダムであって均一性に劣っている。このため、局所的に細い繊度の繊維が偏在することがあり、バグフィルターとした場合にはこの細繊度繊維が偏在した箇所からの破れ、漏れが発生するといったデメリットがある。
【0005】
一方、マトリックス紡糸法によって得られるPTFE繊維は繊維断面が均一で、繊度バラツキが小さいという長所があり、細繊度化に優れていることが知られている(特許文献1参照)。特許文献1の実施例1では、マトリックスにビスコースを用い、ビスコース50重量%と濃度60%のPTFE水分散液50%を混合した後、10Torrの減圧下で脱泡した成形用原液を孔径0.12mmより凝固浴中に吐出し、4%のリラックスを与えながら280℃の温度で半焼成を行ない、次いで350℃に保った焼成ローラを用いて焼成を行い30m/分の速度で引き取り、350℃の温度で熱延伸することで細繊度PTFE繊維を得ていることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2の実施例1では、マトリックスにビスコースを用い、数平均分子量900万の高分子量PTFE水分散液と混合し、紡糸口金を用いて紡出し、焼成工程にて上記のマトリックス材を焼き飛ばし、一旦未延伸糸を巻き取った後、7倍の延伸倍率で延伸することでPTFE繊維を得ていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-207097号公報
【文献】特開2017-82359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は実施例レベルでは繊度は2.2dtexと記載されており、従来よりも粒径がより小さなダストを捕集するための高捕集効率バグフィルター用途には適していない。また、特許文献2は、実施例レベルでは未延伸糸を延伸倍率7倍の条件にて延伸することで繊度3.5dtexを得ており、繊度1.5dtex以下のPTFE繊維は得られていなかった。未延伸糸の延伸倍率を増加させることは、糸切れが発生しやくす、工業的な生産の観点から適切ではない。
【0009】
そこで、本発明の課題は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、あるいは摩擦係数が低く摺動性に優れるというフッ素系繊維の素材としての特性を維持しつつ、紡糸ノズルの吐出、及び焼成プロセスに着目して細繊度化させ、高捕集効率バグフィルター用途に適し、生産性が良好な細繊度ポリテトラフルオロエチレン繊維とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のように構成したものである。
[1]単繊維繊度が0.1dtex以上0.3dtex以下、含炭率が繊維重量に対して2.0%以上4.0%以下であることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維。
【0011】
[2]ポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法であって、ビスコースとポリテトラフルオロエチレンの水分散液との混合液を硫酸濃度7%~13%、硫酸ソーダ濃度7%~15%の水溶液の凝固浴中に、吐出孔が40μm以上80μm以下、孔長が40μm以上の紡糸ノズルから引き取り速度/吐出線速度が1.5~4.0で吐出し、焼成ローラー通過時の総繊度/幅が100ktex/m以下であり、焼成ローラー間で1%~5%のリラックスを与えながら、200℃以上320℃以下の温度で半焼成した後、320℃以上350℃以下の温度で焼成を行い、一旦巻き取るか、もしくはそのまま延伸することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細繊度ポリテトラフルオロエチレン繊維は、高捕集効率バグフィルター用途に適した細繊度化を達成することができる。また、本発明の細繊度ポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法によれば、高捕集効率バグフィルター用途に適した細繊度のポリテトラフルオロエチレン繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ポリテトラフルオロエチレン繊維>
一般にフッ素系樹脂にはPTFEの他に、PTFEの共重合体である4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン重合体(FEP)、4フッ化エチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、4フッ化エチレンオレフィン共重合体(ETFE)などがあり、これらは溶融紡糸により生産されている。しかしながら、本発明では耐熱性や耐薬品性の点から最も優れるPTFE樹脂が用いられる。本発明のPTFEは、ポリテトラフルオロエチレンではあればよく、特に限定はされないが、PTFEの数平均分子量が100万以上であることが好ましく、200万以上1200万未満であることがより好ましい。PTFEの数平均分子量が200万以上をすることで、良好な引っ張り強度を有し、製織工程やカード工程の工程通過性も良好で、品質に優れた織物、編み物、ウェブが得られる。PTFEの数平均分子量が1200万以上の場合、製糸性が著しく悪化し、工業的な生産が困難となる。
【0014】
本発明のポリテトラフルオロエチレン繊維の単繊維繊度は、単繊維繊度が0.1dtex以上1.5dtex以下であることが好ましい。単繊維繊度が0.1dtex未満だと、紡糸性が著しく悪化し、工業的な生産が困難となる。また、1.5dtexを超えると、細繊度化の効果が低くなり高捕集効率バグフィルター用途に適なさい。
【0015】
本発明のポリテトラフルオロエチレン繊維は、含炭率が繊維重量に対して2.0%以上4.0%以下であることが好ましい。含炭率が2.0%未満だと、特に細繊度化した場合に繊維間接着が発生してしまい、製織工程での織物欠点やカード工程でのネップが発生しやすくなり、生産性が著しく低下する。含炭率が4.0%を超えると、ポリテトラフルオロエチレン繊維中の異物が増え、引っ張り強度が低下し、延伸工程、高次加工である製織工程、カード工程での糸切れが発生しやすくなり、生産性が著しく低下する。
【0016】
また、引っ張り強度は0.8cN/dtex以上3.0cN/dtex以下であることが好ましい。さらには1.0cN/dtex以上2.8cN/dtex以下であることがより好ましい。0.8cN/dtex未満であれば、引っ張り強度が弱くなり過ぎ、高次加工時に繊維切れが頻発し高次加工性が劣り、さらには構造体としての強力も低くなり一般にその構造体の寿命が短くなる。また、繊維引張強度が3.0cN/dtexを超えるものは焼成温度を高くすることにより製造できるが、焼成温度を高くすることにより単繊維間の融着を発生させることになり、製織工程での織物欠点やカード工程でのネップが発生しやすくなり、生産性に影響を及ぼす。さらに、繊維引張伸度は10%以上50%以下であることが好ましい。さらには20%以上40%以下であることがより好ましい。10%未満であれば、延伸倍率を高くする必要があり延伸切れによる工程トラブルが頻発し生産性が劣り収率が悪化する。50%を超えると繊維が伸び易くなり加工性が劣る。また、製品は荷重に対して伸び易くなり寸法安定性に劣る方向となる。
【0017】
<ポリテトラフルオロエチレン繊維の製造方法>
本発明の細繊度PTFE繊維は、フッ素樹脂のひとつであるPTFE樹脂からなり、マトリックス物質を利用して紡糸した後に焼成工程を経るマトリックス紡糸法により製造されることが好ましい。
【0018】
マトリックス物質は、通常のレーヨンの製造に用いられるビスコースであれば特に限定されない。すなわち、セルロース濃度5.0~11.0wt%、アルカリ濃度4.0~10.0wt%、二硫化炭素27.0~32.0wt%(セルロースに対し)であるビスコースを使用することが好ましく例示される。
【0019】
本発明で紡糸原液を調製する際に用いるPTFE樹脂分散液は、PTFE濃度が50.0~70.0wt%であり、かつ、安定剤として非イオン活性剤またはアニオン活性剤をPTFEポリマーに対して3.0~10.0wt%含有するものが好ましい。また、PTFE樹脂分散液の分散粒子の大きさは0.5μm以下であるものが好ましく、より好ましくは0.3μm以下のものである。
【0020】
これら紡糸原液は、脱泡された後に紡糸工程に供されるが、脱泡時の温度が高過ぎるとビスコースが凝固してしまう懸念があり、また、水分が蒸発しPTFEが凝集してしまう懸念がある。そのため、脱泡時は15℃以下の低温に制御することが好ましい。その際の真空度は約10Torr以下が好ましい。
【0021】
次に、これら紡糸原液は、凝固浴中に浸漬した口金より吐出され、凝固浴中で凝固される。
【0022】
凝固浴としては、無機鉱酸または無機塩の水溶液が用いられるが、本発明では硫酸と硫酸ソーダとを含有する混合水溶液を用いるのが好ましい。
【0023】
このとき硫酸濃度は7.0~13.0wt%が好ましい。硫酸濃度が7.0wt%未満であると凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に遅くなるため、製造能力の低下または浸漬ラインを長くする必要があり好ましくない。一方、硫酸濃度が13.0wt%を越えると繊維表面に付着した硫酸が脱酸されにくく焼成工程で糸切れが多発する。
【0024】
硫酸ソーダ濃度は7.0~15.0wt%に調整することが好ましい。硫酸ソーダはセルロースの急激な凝固を抑制する。硫酸ソーダ濃度が7.0wt%未満の場合、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に速くなり、繊維断面のコントロールが困難となるので好ましくない。一方、硫酸ソーダ濃度が15.0wt%を越えると、凝固浴中で糸条が凝固する速度が非常に遅くなるため、繊維断面のコントロールが困難となるので好ましくない。凝固浴として、上記した硫酸濃度および硫酸ソーダ濃度の両方を上記した特定の範囲内で含有する混合水溶液を用いることは、均一なPETF繊維を製造するために効果的である。
【0025】
使用する口金吐出孔の孔径は40μm以上80μm以下、孔長は40μm以上であることが好ましい。口金吐出孔の孔径がこの範囲にあることで適正な吐出線速度が得られ、良好な延伸性が付与される。また、孔長がこの範囲にあることで口金の背面圧を確保することができ、口金の各孔に紡糸原液が均等に分配されることが細繊度ポリテトラフルオロエチレン繊維の安定生産性に繋がる。
【0026】
紡糸ノズルから紡糸原液を吐出する際の引き取り速度/吐出線速度は、細繊度化の観点から、1.5以上4.0以下であることが好ましい。この値が1.5以上であることで紡糸糸条が適度な張力を保ち、隣接する単糸同士が接着せずに紡糸することが可能であり、4.0以下であることで過剰な張力による単糸切れを抑制することが可能である。
【0027】
凝固された繊維は、次いで、精練工程にて洗浄された後、半焼成、焼成が行われる。
【0028】
精練としては、アルカリ塩を含有するアルカリ水溶液による洗浄を行うことが好ましい。かかるアルカリ洗浄浴には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩から選ばれた化合物の水溶液が用いられるが、一般にはアルカリ金属塩の水溶液、中でも苛性ソーダ水溶液が好適に用いられる。これらアルカリ塩の濃度は0.08wt%以上0.18wt%以下が好ましい。より好ましくは、0.10wt%以上0.16wt%以下である。0.08wt%未満であると焼成時にセルロースが分解しにくく、その結果、焼成後の繊維に分解しきれないセルロース分が多く残存し、その後の延伸がしにくくなり、延伸工程で糸切れが頻発する傾向となる。一方、0.18wt%を超えるとアルカリ洗浄時にセルロースが溶けだし、アルカリ浴中やガイドにカスが溜まりやすくなる。また、半焼成・焼成工程に入る際の未延伸糸強度が低くなり、糸切れによる工程通過トラブルが発生しやすくなるので好ましくない。
【0029】
更にアルカリ浴の温度は20℃以下が好ましい。より好ましくは15℃以下である。アルカリ浴温度が20℃を超えた場合もアルカリ濃度が高すぎる場合と同様にアルカリ洗浄にセルロースが溶け出し、アルカリ浴中やガイドにカスが溜まりやすくなる他、半焼成・焼成工程に入る際の未延伸糸強度が低くなり、工程通過トラブルが発生しやすくなるので好ましくない。
【0030】
精練に次いで、半焼成を行う。半焼成には接触タイプの焼成ローラーまたは非接触タイプの焼成ヒーターを用いることができるが、好ましくは、接触タイプの焼成ローラーを用いる。
【0031】
精練浴やアルカリ浴から導出された未延伸糸をそのまま、もしくはニップローラなどで絞った後、焼成ローラー間で1.0%以上~5.0%以下のリラックスを与えながら200℃以上320℃以下の温度に保った接触タイプの半焼成工程を通過させることにより半焼成を行うことでよい。200℃以上320℃以下の温度に保った接触タイプの半焼成工程においてローラーに導かれた未延伸糸はローラー上で急速に収縮し張力を増す。リラックス率が1%未満であれば張力が高くなりすぎて均一な繊維断面を保つことが困難となり、また、収縮による糸切れが多発しやすい。リラックス率が5%を超えると糸が弛み工程通過性に問題が生じやすい。ただし、そのリラックスは、半焼成に入った直後のローラー間に1回だけ与えるのでもよいし、さらに、半焼成工程のローラー間や焼成工程のローラー間においても与えることでもよい。半焼成工程は、次いで行う焼成工程に入る前に行われる。半焼成工程のローラー温度が200℃より低い場合は、次いで行う焼成工程で一気に繊維に熱がかかるため繊維断面が変形もしくは単糸間で融着が発生する。一方、320℃より高い場合は、半焼成工程で一気に繊維に熱がかかるため、繊維断面が変形もしくは単糸間での融着が発生しやすい。従って、半焼成工程のローラーは200℃以上320℃以下の温度、より好ましくは250℃以上320℃以下である。このとき、各ローラー温度は単独で変更してもよい。また、焼成ローラーの温度は上記範囲内で個々に異なることでよい。
【0032】
次いで、半焼成された糸は320℃以上350℃以下の温度で焼成される。この段階でセルロースの大部分は分解されて気化飛散するので、セルロース中に分散していたPTFE粒子は熱融着して繊維状となりPTFE未延伸糸が得られる。焼成温度が320℃より低いと繊維内のPTFE粒子同士の融着が不十分で、焼成後の延伸時に糸切れが頻発し、繊維強度も低くなり、好ましくない。一方、焼成温度が380℃を超えると繊維断面形状が変形し、均一な断面形状が得られないし、繊維間接着が発生してしまい、製織工程での織物欠点やカード工程でのネップが発生しやすくなり、生産性が著しく低下する。さらには、PTFEが熱分解し、焼成後の延伸時に糸切れが頻発し、繊維強度も低くなり好ましくない。焼成時の各ローラ温度は単独で変更してもよい。また、上記範囲内であれば特に限定なく設定できる。
【0033】
なお、細繊度のPTFE繊維を製造するという観点から、精練浴やアルカリ浴から導出された未延伸糸の糸条が焼成工程を通過する際、単一の、あるいは複数に分割された個々の糸条束の総繊度/幅が100ktex/m以下であることが好ましい。100ktex/mを超えてしまうと、糸条束内で単糸が密になり繊維間接着が発生してしまい、製織工程での織物欠点やカード工程でのネップが発生しやすくなり、生産性が著しく低下する。
【0034】
焼成して得られるPTFE未延伸糸は、いったん巻き取った後に延伸してもよいし、また、巻き取ることなく続けて延伸してもよい。
【0035】
延伸は300℃以上380℃以下の温度での熱延伸することが好ましい。さらに好ましくは、310℃以上370℃以下である。300℃未満であれば延伸切れが頻発し、工程とトラブルによる収率悪化に繋がる。380℃を超えるとPTFEが分解することで繊維引張強度の低下に繋がる。
【0036】
本発明の製造方法で得られる繊維は、必要に応じ、通常の捲縮付与方法、例えばスタッフィングボックスで捲縮付与され、その後、所望の長さに切断されPTFE短繊維を製造することができる。
【0037】
本発明のポリテトラフルオロエチレン繊維は、フィラメント、ステープル、いずれの態様であってもよく、また、布帛、織編物、不織布、フェルト、あるいはマットなどの高次加工品の態様であってもよい。
【実施例】
【0038】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0039】
[測定・評価方法]
(1)単繊維繊度
初荷重(繊度の6%荷重(g))をかけて正確に長さ1mのマルチフィラメント状の試料を採取し、該試料の質量を10,000分の1gまで測定し、次式
単繊維繊度(dtex)=試料の質量/(試料の長さ×紡糸ノズルのホール数)×10,000
によって算出し、3回の平均値を単繊維繊度(dtex)とした。
【0040】
(2)含炭率
PTFE繊維3gを、空気雰囲気下で300℃の温度で72時間加熱処理後、繊維質量変化を測定し、次式
含炭率(%)=(加熱処理前の繊維質量-加熱処理後の繊維質量)/加熱処理前の繊維質量×100
で含炭率(%)を算出した。
【0041】
(3)生産安定性
PTFE繊維100kg生産あたりの紡糸・延伸の各工程における糸条束切れ発生回数の平均値が、10回未満/100kg生産の場合を「◎」、10回以上30回未満/100kg生産の場合を「○」、30回以上/100kg生産の場合を「×」とし、◎または○の場合に生産安定性に優れるものと判定した。
【0042】
(4)単糸接着性
熱延伸後に得られたPTFE繊維を6mmにカットし、分散剤としてウーポール(松本油脂製薬社)を用い、分散剤濃度0.05%、繊維量1g/L条件にて繊維の水分散液200mLを作製後、500rpm、3分の攪拌条件で攪拌した。得られた繊維の水分散液を118g/m2のろ紙を用いて吸引ろ過し、吸引ろ過後のPTFE繊維の形態において、繊維が一本ずつに分離できていない松葉状やチップ状の繊維束の個数が、5個未満/gの場合を「◎」、5個以上15個未満/gの場合を「○」、15個以上/gの場合を「×」と目視にて計測し、◎または○の場合に単糸接着性に優れるものと判定した。
【0043】
[実施例1]
ビスコース(セルロース濃度9.0wt%、アルカリ濃度6.0wt%)46質量%と濃度60%のPTFE水分散液54%を混合した後、10Torrの減圧下で脱泡して、混合液中のセルロース/PTFEの比率が12.8%である紡糸混合液を得た。前記の紡糸原液を孔径50μm、孔長50μmの丸孔口金を用い、硫酸濃度9.0%、硫酸ソーダ濃度10.0%、温度15℃の紡糸浴液に、紡糸引取速度/吐出線速度が3.8となるよう湿式紡糸した。次いで凝固した未焼成糸を温度70℃の温水で洗浄した後、濃度0.12%の苛性ソーダ水溶液を入れたアルカリ浴中に導いて精錬し、酸成分を完全に除去した。その後、アルカリ浴から導かれた未焼成糸をニップローラで絞った後、各糸条の総繊度/幅を30ktex/mとして、2%のリラックスを与えながら320℃の温度で半焼成し、次いで、345℃の温度で焼成を行った。いったん巻き取った後、温度340℃で倍率7.6倍の熱延伸を行い、PTFE繊維を得た。得られたPTFE繊維は、単繊維繊度0.29dtex、含炭率2.9%であった。また、PTFE繊維の生産時における紡糸・延伸の各工程における糸条束切れ発生回数の平均値は、6回/100kg生産であり、このPTFE繊維の単糸接着性を評価した結果、3個/gであった。
【0044】
[実施例2]
熱延伸の延伸倍率を11.0倍に変更する以外、実施例1と同様の手法にて、PTFE繊維を得た。得られたPTFE繊維は、単繊維繊度0.18dtex、含炭率2.9%であった。また、PTFE繊維の生産時における紡糸・延伸の各工程における糸条束切れ発生回数の平均値は、9回/100kg生産であり、このPTFE繊維の単糸接着性を評価した結果、4個/gであった。
【0045】
[参考例1]
紡糸口金の吐出孔の孔径を70μm、孔長を70μm、紡糸引取速度/ 吐出線速度を1.3、焼成工程での各糸条の総繊度/幅を90ktex/m、熱延伸の延伸倍率を8.0倍に変更した以外、実施例1 と同様の手法にて、PTFE繊維を得た。得られたPTFE繊維は、単繊維繊度1.5dtex、含炭率3.5%であった。また、PTFE繊維の生産時における紡糸・延伸の各工程における糸条束切れ発生回数の平均値は、3回/100kg生産であり、このPTFE繊維の単糸接着性を評価した結果、4個/gであった。
【0046】
[比較例1]
焼成温度を375℃に変更した以外、実施例1と同様の手法にて、PTFE繊維を得た。得られたPTFE繊維は、単繊維繊度0.29dtex、含炭率1.8%であった。また、PTFE繊維の生産時における紡糸・延伸の各工程における糸条束切れ発生回数の平均値は、3回/100kg生産であり、このPTFE繊維の単糸接着性を評価した結果、28個/gであった。
【0047】
[比較例2]
半焼成温度を280℃、焼成温度を310℃に変更した以外、実施例1と同様の手法にて、PTFE繊維を得た。得られたPTFE繊維は、単繊維繊度0.30dtex、含炭率6.2%であった。また、PTFE繊維の生産時における紡糸・延伸の各工程における糸条束切れ発生回数の平均値は、36回/100kg生産であり、このPTFE繊維の単糸接着性を評価した結果、2個/gであった。
【0048】
[比較例3]
紡糸口金の吐出孔の孔径を100μm、孔長を100μm、紡糸引取速度/吐出線速度を2.1、焼成工程での各糸条の総繊度/幅を100ktex/mに変更した以外、実施例1と同様の手法にて、PTFE繊維を得た。得られたPTFE繊維は、単繊維繊度2.11dtex、含炭率3.2%であり、高捕集効率バグフィルター用途に適さない。また、PTFE繊維の生産時における紡糸・延伸の各工程における糸条束切れ発生回数の平均値は、21回/100kg生産であり、このPTFE繊維の単糸接着性を評価した結果、3個/gであった。
【0049】
[比較例4]
紡糸口金の吐出孔の孔長を30μm、紡糸引取速度/吐出線速度を1.3、焼成工程での各糸条の総繊度/幅を100ktex/mに変更した以外、実施例1と同様の手法にて、PTFE繊維を得た。得られたPTFE繊維は、単繊維繊度3.29dtex、含炭率3.4%であり、高捕集効率バグフィルター用途に適さない。また、PTFE繊維の生産時における紡糸・延伸の各工程における糸条束切れ発生回数の平均値は、11回/100kg生産であり、このPTFE繊維の単糸接着性を評価した結果、2個/gであった。
【0050】
【0051】
実施例1~3、および比較例1~6で作製したPTFE繊維については、上述の(1)単繊維繊度、(2)含炭率、(3)生産安定性、(4)単糸接着性の評価を行い、結果を表1に示した。その結果、本発明におけるPTFE繊維は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、あるいは摩擦係数が低く摺動性に優れるというフッ素系繊維の素材としての特性を維持しつつ細繊度化でき、高捕集効率バグフィルター用途に適すとともに、生産性が良好な細繊度PTFE繊維の製造方法を提供できることが明確であった。