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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】加硫金型のナイフブレードの設計方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20241106BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20241106BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20241106BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B29C33/02
G06F30/10
G06F30/23
B29C35/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020198253
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086312
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 一裕
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-320221(JP,A)
【文献】特開平11-034069(JP,A)
【文献】特開2005-246865(JP,A)
【文献】特開2020-142412(JP,A)
【文献】特開2007-331270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/00-35/18
B29C 39/26-39/36
B29C 41/38-41/44
B29C 43/36-43/42
B29C 43/50
B29C 45/26-45/44
B29C 45/64-45/68
B29C 45/73
B29C 49/48-49/56
B29C 49/70
B29C 51/30-51/40
B29C 51/44
G06F 30/00-30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの加硫金型を構成する弧状のセグメントに設けられたナイフブレードの設計方法であって、
前記ナイフブレードに対応するサイピングが形成されたトレッドゴムを、有限個の要素で離散化したサイピングを有するトレッドゴムモデルを、コンピュータに入力する工程と、
前記ナイフブレードが設けられた前記セグメントを、有限個の要素で離散化したナイフブレードモデルを有するセグメントモデルを、前記コンピュータに入力する工程と、
先ず、前記コンピュータが、前記トレッドゴムモデルの前記サイピング内に、前記ナイフブレードモデルを嵌め込み、次に、前記コンピュータが、前記トレッドゴムモデルと前記セグメントモデルとの相対位置を、加硫状態での前記トレッドゴムと前記セグメントとの相対位置に合わせることにより、前記トレッドゴムモデルと前記セグメントモデルとを疑似加硫状態に位置合わせする第1工程と、
前記コンピュータが、前記疑似加硫状態の前記セグメントモデルを、前記トレッドゴムモデルからトレッド半径方向の外側に移動させて疑似離型状態を得る第2工程と、
前記第2工程中に前記ナイフブレードモデルに作用する物理量を計算する工程とを含む、
加硫金型のナイフブレードの設計方法。
【請求項2】
前記物理量は、応力である、請求項1に記載の加硫金型のナイフブレードの設計方法。
【請求項3】
前記コンピュータが、前記物理量を、予め定められた許容値と比較し、前記物理量が前記許容値を超えている場合に、前記ナイフブレードの設計因子を変更する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の加硫金型のナイフブレードの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫金型のナイフブレードの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド面に複数のサイピングが並設された空気入りタイヤが記載されている。このようなサイピングは、タイヤの加硫成形時において、加硫金型にタイヤ周方向に複数設けられたナイフブレードが、未加硫のトレッドゴムに押し込まれることによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4516415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ナイフブレードは、加硫成形後にトレッドゴムから抜き取られる際に、トレッドゴムとの接触及び/又は曲げモーメントを受けて損傷する場合がある。このような損傷を防ぐことが可能なナイフブレードを設計することは困難であった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、損傷を防ぐことが可能なナイフブレードの設計方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤの加硫金型を構成する弧状のセグメントに設けられたナイフブレードの設計方法であって、前記ナイフブレードに対応するサイピングが形成されたトレッドゴムを、有限個の要素で離散化したサイピングを有するトレッドゴムモデルを、コンピュータに入力する工程と、前記ナイフブレードが設けられた前記セグメントを、有限個の要素で離散化したナイフブレードモデルを有するセグメントモデルを、前記コンピュータに入力する工程と、前記コンピュータが、前記トレッドゴムモデルの前記サイピング内に、前記ナイフブレードモデルを嵌め込んで、前記トレッドゴムモデルと前記セグメントモデルとを疑似加硫状態に位置合わせする第1工程と、前記コンピュータが、前記疑似加硫状態の前記セグメントモデルを、前記トレッドゴムモデルからトレッド半径方向の外側に移動させて疑似離型状態を得る第2工程と、前記第2工程中に前記ナイフブレードモデルに作用する物理量を計算する工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記加硫金型のナイフブレードの設計方法において、前記物理量は、応力であってもよい。
【0008】
本発明に係る前記加硫金型のナイフブレードの設計方法において、前記コンピュータが、前記物理量を、予め定められた許容値と比較し、前記物理量が前記許容値を超えている場合に、前記ナイフブレードの設計因子を変更する工程をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加硫金型のナイフブレードの設計方法は、上記の工程を採用することにより、損傷を防ぐことが可能なナイフブレードを設計することできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】加硫金型のナイフブレードの設計方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。
図2】加硫工程の一例を説明する部分断面図である。
図3図2のトレッド成形型の軸心と直交する方向の部分断面図である。
図4】加硫金型のナイフブレードの設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5】トレッドゴムモデル及びセグメントモデルの一例を示す斜視図である。
図6】疑似加硫状態の一例を説明する断面図である。
図7】疑似離型状態の一例を説明する断面図である。
図8】第2工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図9】ナイフブレードモデルの応力の一例を示すコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0012】
[コンピュータ]
本実施形態の加硫金型のナイフブレードの設計方法(以下、単に「設計方法」ということがある。)には、コンピュータ1が用いられる。図1は、加硫金型のナイフブレードの設計方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。
【0013】
コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含む。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられる。なお、記憶装置には、本実施形態の設計方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶される。
【0014】
[加硫金型]
図2は、加硫工程の一例を説明する部分断面図である。タイヤ2は、慣例に従い、未加硫の生タイヤ3が加硫成形されることによって製造される。ここで、未加硫とは、完全な加硫に至っていない全ての態様を含むもので、いわゆる半加硫の状態はこの「未加硫」に含まれる。加硫成形には、加硫金型5が用いられる。
【0015】
本実施形態の加硫金型5は、例えば、トレッド成形面6sを有するトレッド成形型6と、サイドウォール成形面7sを有する一対のサイドウォール成形型7、7とを含んで構成されている。これらのトレッド成形型6及びサイドウォール成形型7、7が嵌め合わされることにより、タイヤ2の外面2sを成形しうる成形面5sが形成される。
【0016】
トレッド成形型6は、タイヤ周方向に分割された複数のセグメント8を含んで構成されている。図3は、図2のトレッド成形型6の軸心(図示省略)と直交する方向の部分断面図である。
【0017】
[セグメント]
各セグメント8は、従来と同様に、弧状(タイヤ半径方向外側に凸となる円弧状)に形成されている。各セグメント8は、タイヤ放射方向内外に移動可能に設けられている。
【0018】
セグメント8の成形面8sには、タイヤ2の溝11を形成するための突起9(図2及び図3に示す)と、サイピング12を形成するためのナイフブレード10(図3に示す)とが設けられている。図3に示されるように、ナイフブレード10は、タイヤ周方向に複数設けられており、セグメント8の成形面8sからタイヤ2(生タイヤ3)に向かって突出している。本実施形態の各ナイフブレード10の突出方向D2は、タイヤ半径方向と平行に設定されているが、交差する方向であってもよい。
【0019】
図2に示されるように、加硫成形時では、加硫金型5の内部に生タイヤ3が挿入された後に、図3に示した各セグメント8(トレッド成形型6)が、タイヤ半径方向の内側に移動される。これにより、セグメント8が環状に連結されたトレッド成形型6が組み立てられ、タイヤ2のトレッド面を成形しうるトレッド成形面6sが形成され、生タイヤ3が加硫成形される(加硫状態)。ナイフブレード10は、未加硫のトレッドゴム4に押し込まれる。これにより、トレッドゴム4には、サイピング12が形成される。
【0020】
加硫成形終了後には、各セグメント8を、タイヤ半径方向の外側に移動させることにより、加硫金型5が開かれる(離型状態)。これにより、トレッドゴム4からナイフブレード10が抜き取られ、サイピング12が形成されたタイヤ(仕上がりタイヤ)2が取り出される。このとき、ナイフブレード10は、トレッドゴム4との接触(摩擦)及び/又は曲げモーメントを受ける場合がある。
【0021】
本実施形態では、セグメント8の移動方向D1と、ナイフブレード10の突出方向D2との角度(以下、単に「引き抜き角度」ということがある。)θ1が異なる複数のナイフブレード10が含まれている。この引き抜き角度θ1が大きくなるほど、ナイフブレード10とトレッドゴム4との接触(摩擦)及び/又は曲げモーメントが大きくなり、損傷する場合がある。
【0022】
上記のような損傷を防ぎうるナイフブレード10を設計するには、例えば、ナイフブレード10の設計変更(例えば、ナイフブレード10の形状、配置及び材質等を変更)、試作、及び、評価が繰り返し行う必要があり、多くの時間とコストが必要となる。
【0023】
[加硫金型のナイフブレードの設計方法]
本実施形態の設計方法では、上記のような設計に要する時間やコストの増大を抑制するために、コンピュータ1(図1に示す)を用いて、ナイフブレード10が設計される。図4は、加硫金型のナイフブレードの設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図5は、トレッドゴムモデル15及びセグメントモデル19の一例を示す斜視図である。
【0024】
[トレッドゴムモデル入力工程]
本実施形態の設計方法では、先ず、トレッドゴムモデル15が、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(工程S1)。工程S1では、ナイフブレード10に対応するサイピング12が形成されたトレッドゴム4(図3に示す)が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化される。これにより、工程S1では、サイピング16を有するトレッドゴムモデル15が設定される。トレッドゴム4の輪郭等は、例えば、タイヤ2の設計因子(CADデータ)に基づいて特定されうる。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
【0025】
要素F(i)には、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。各要素F(i)は、複数の節点17を有している。各要素F(i)には、要素番号、節点17の番号、及び、節点17の座標値などの数値データが定義される。さらに、各要素F(i)には、図2に示したトレッドゴム4の材料特性(例えば、弾性率、ポアソン比、密度等)などの数値データが定義される。
【0026】
本実施形態のトレッドゴムモデル15では、図2及び図3に示したトレッドゴム4のうち、タイヤ周方向の一部分のみがモデリングされている。これにより、本実施形態の設計方法では、計算対象の要素F(i)の個数を少なくできるため、計算時間の増大を防ぐことができる。なお、トレッドゴムモデル15は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、タイヤ周方向の全周に亘ってモデリングされてもよい。トレッドゴムモデル15は、コンピュータ1に記憶される。
【0027】
[セグメントモデル(ナイフブレードモデル)入力工程]
次に、本実施形態の設計方法では、ナイフブレードモデル18を有するセグメントモデル19が、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(工程S2)。本実施形態の工程S2では、図3に示したナイフブレード10及びセグメント8の設計因子に基づいて、ナイフブレード10が設けられたセグメント8が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化される。これにより、工程S2では、ナイフブレードモデル18を有するセグメントモデル19が設定される。ナイフブレード10及びセグメント8の設計因子は、例えば、CADデータなどで特定されうる。
【0028】
要素G(i)には、例えば、要素F(i)と同様のものが用いられうる。各要素G(i)には、要素番号、節点20の番号、及び、節点20の座標値などの数値データが定義される。さらに、各要素G(i)には、図3に示したセグメント8やナイフブレード10の材料特性(例えば、弾性率、ポアソン比、密度等)などの数値データが定義される。
【0029】
本実施形態では、セグメントモデル19の厚さが小さく(本例では、板状に)設定されている。さらに、本実施形態のセグメントモデル19は、トレッドゴムモデル15に対応するように、タイヤ周方向に配された複数のセグメント8(図5に示す)のうち、タイヤ周方向の一部分のみがモデリングされている。これにより、計算対象の要素G(i)の個数を少なくできるため、計算時間の増大を防ぐことが可能となる。なお、セグメントモデル19は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、実際のセグメント8と同一の厚さに設定されてもよいし、全てのセグメント8がモデリングされてもよい。ナイフブレードモデル18及びセグメントモデル19は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0030】
[第1工程]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、トレッドゴムモデル15のサイピング16内に、ナイフブレードモデル18を嵌め込んで、トレッドゴムモデル15とセグメントモデル19とを疑似加硫状態に位置合わせする(第1工程S3)。本実施形態において、「疑似加硫状態に位置合わせする」とは、図3に示した実際の加硫状態でのトレッドゴム4とセグメント8との相対位置に基づいて、トレッドゴムモデル15とセグメントモデル19との位置合わせすることである。本実施形態の第1工程S3では、加硫状態の計算(例えば、ゴム流れなど流動計算等)が省略されるため、計算時間の増大を抑制しうる。図6は、疑似加硫状態の一例を説明する断面図である。図6では、要素F(i)及びG(i)が省略されており、トレッドゴムモデル15の外面側が色付けされている。
【0031】
本実施形態の第1工程S3では、先ず、トレッドゴムモデル15のサイピング16内に、ナイフブレードモデル18が嵌め込まれる。次に、第1工程S3では、トレッドゴムモデル15とセグメントモデル19との相対位置(例えば、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の座標値)が、図3に示した加硫状態でのトレッドゴム4とセグメント8との相対位置に合わせられる。これにより、第1工程S3では、トレッドゴムモデル15とセグメントモデル19とが疑似加硫状態に位置合わせされる。
【0032】
第1工程S3では、ナイフブレードモデル18をサイピング16内に嵌め込むのに先立ち、トレッドゴムモデル15とナイフブレードモデル18とのすり抜けを防ぐ接触条件が、無効に設定されていてもよい。これにより、ナイフブレードモデル18は、トレッドゴムモデル15をすり抜けることができるため、サイピング16内にスムーズに嵌め込まれうる。なお、ナイフブレードモデル18がサイピング16内に嵌め込まれた後は、接触条件が有効に設定される。
【0033】
[第2工程]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1が、疑似加硫状態のセグメントモデル19を、トレッドゴムモデル15からトレッド半径方向の外側に移動させて疑似離型状態を得る(第2工程S4)。本実施形態において、「疑似離型状態を得る」とは、実際の離型状態でのトレッドゴム4とセグメント8との相対位置(図示省略)に基づいて、セグメントモデル19を、トレッドゴムモデル15から移動させた状態を得ることである。したがって、第2工程S4では、実際のセグメント8の移動方向D1(図3に示す)に基づいて、セグメントモデル19の移動が計算される。図7は、疑似離型状態の一例を説明する断面図である。図7では、セグメントモデル19を二点鎖線で示される位置まで移動させた状態が、疑似離型状態として特定される。
【0034】
セグメントモデル19の移動方向D1と、ナイフブレードモデル18の突出方向(即ち、図3に示したナイフブレード10の突出方向D2)とが平行でない場合には、ナイフブレードモデル18が、トレッドゴムモデル15に接触する。このような接触により、第2工程S4では、トレッドゴムモデル15及びナイフブレードモデル18の変形計算が行われる。
【0035】
トレッドゴムモデル15及びナイフブレードモデル18の変形計算は、図5に示した各要素F(i)、G(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)、G(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらが微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))毎に計算される。これにより、トレッドゴムモデル15及びナイフブレードモデル18の変形計算が行われる。
【0036】
トレッドゴムモデル15及びナイフブレードモデル18の変形計算には、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。なお、単位時間T(x)は、求められるシミュレーション精度に応じて、適宜設定される。
【0037】
図8は、第2工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の第2工程S4では、図7に示されるように、セグメントモデル19を移動させる工程S41、ナイフブレードモデル18に作用する物理量を計算する工程S42、及び、疑似離型状態が得られたか否かを判断する工程S43が実施される。これらの工程S41~S43は、単位時間T(x)に実施される。
【0038】
本実施形態の工程S41では、セグメントモデル19の移動方向D1に沿った移動により、トレッドゴムモデル15とナイフブレードモデル18との接触に伴う変形計算が行われる。工程S42では、工程S41での変形計算に基づいて、図5に示したナイフブレードモデル18の各要素G(i)に作用する物理量が計算される。物理量は、ナイフブレード10の損傷を評価可能なものであれば、適宜設定される。本実施形態の物理量は、ナイフブレードモデル18の応力である。図9は、ナイフブレードモデル18の応力の一例を示すコンター図である。ナイフブレードモデル18の応力が大きい箇所において、ナイフブレード10(図3に示す)が損傷しやすいと評価することができる。
【0039】
工程S43において、疑似離型状態(図7で二点鎖線で示す)が得られたと判断された場合(工程S43で、「Y」)、第2工程S4の一連の処理が終了する。一方、工程S43において、疑似離型状態が得られていないと判断された場合(工程S43で、「N」)、単位時間を一つ進めて(工程S44)、工程S41~工程S43が再度実施される。このように、本実施形態の第2工程S4では、セグメントモデル19を疑似加硫状態(図6に示す)から疑似離型状態(図7に示す)に移動させて、その移動中に作用するナイフブレードモデル18の物理量を、単位時間T(x)ごとに計算することができる。物理量は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0040】
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、物理量を、予め定められた許容値と比較する(工程S5)。許容値は、例えば、ナイフブレード10(図3に示す)の損傷の有無を評価できるものであれば、適宜設定されうる。本実施形態の許容値は、ナイフブレード10に用いられる材料の許容応力が設定される。
【0041】
本実施形態の工程S5では、ナイフブレードモデル18の各要素G(i)において、疑似加硫状態(図6に示す)から疑似離型状態(図7に示す)へ移動中に計算された最大の応力が、許容値以下であるか否かが判断される。
【0042】
工程S5において、物理量が許容値以下であると判断された場合(工程S5で、「Y」)、ナイフブレード10の設計因子(即ち、ナイフブレードモデル18の形状、配置及び材質等)に基づいて、ナイフブレード10が設計及び製造される(工程S6)。
【0043】
一方、工程S5において、物理量が許容値を超えていると判断された場合(工程S5で、「N」)、ナイフブレード10の設計因子が変更され(工程S7)、工程S1から工程S5が再度実施される。変更される設計因子としては、例えば、ナイフブレード10(ナイフブレードモデル18)の形状、配置及び材質等が含まれる。
【0044】
このように、本実施形態の設計方法では、セグメントモデル19を、疑似加硫状態(図6に示す)から疑似離型状態(図7に示す)に移動させて、ナイフブレードモデル18に作用する物理量が計算されうる。したがって、本実施形態の設計方法は、その物理量に基づいて設計因子を適切に変更できるため、損傷を防ぐことが可能なナイフブレード10を確実に設計することができる。
【0045】
本実施形態の設計方法では、ナイフブレードモデル18に作用する物理量が許容値以下になるまで、ナイフブレード10の設計因子が変更されている。このため、本実施形態の設計方法では、耐久性の高いナイフブレード10を確実に設計することができる。
【0046】
本実施形態の設計方法では、ナイフブレード10を実際に試作する等を繰り返すことなく、ナイフブレードモデル18の設計因子を変更しながら、ナイフブレードモデル18に作用する物理量を、コンピュータ1を用いて計算することができる。したがって、本実施形態の設計方法は、ナイフブレード10を効率よく(即ち、短時間かつ低コストで)設計することができる。
【0047】
さらに、本実施形態の設計方法では、加硫金型5(図2に示す)の全体をモデル化しなくても、ナイフブレードモデル18に作用する物理量を計算することができ、ナイフブレード10の耐久性を評価できる。したがって、本実施形態の設計方法では、計算時間を大幅に短縮することができる。
【0048】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0049】
従来の手順に基づいて(即ち、図4及び図8の手順を用いずに)、ナイフブレードが設計及び製造された(比較例)。
【0050】
一方、図4の手順に基づいて、タイヤの加硫金型を構成する弧状のセグメントに設けられたナイフブレードが設計された(実施例)。実施例では、従来例のナイフブレードの設計因子に基づいて、初期のナイフブレードモデルが設定された。次に、実施例では、図8の手順に基づいて、ナイフブレードモデルに作用する物理量が計算され、物理量が予め定められた許容値以下となるまで、ナイフブレードの設計因子が変更された。そして、物理量が許容値以下となった設計因子に基づいて、ナイフブレードが製造された。
【0051】
そして、実施例及び比較例のナイフブレードを用いて、生タイヤがそれぞれ加硫成形された。そして、それらのナイフブレードに損傷が生じるまでのタイヤの本数、及び、損傷箇所が目視にて確認された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:295/80R22.5
ナイフブレード(比較例)のタイヤ半径方向の長さ:17.5mm
【0052】
比較例では、30本のタイヤを加硫した後に、ナイフブレードに損傷が生じた。そして、比較例のナイフブレードに損傷(割れ)が生じた箇所は、実施例の初期のナイフブレードモデルにおいて、物理量が許容値を超えた箇所と一致した。
【0053】
一方、実施例では、1000本のタイヤを加硫した後でも、ナイフブレードに損傷が生じなかった。したがって、実施例は、比較例に比べて、損傷を防ぐことが可能なナイフブレードを設計することできた。
【符号の説明】
【0054】
S1 トレッドゴムモデルを入力する工程
S2 セグメントモデルを入力する工程
S3 第1工程
S4 第2工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9