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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/72 20060101AFI20241106BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20241106BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20241106BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20241106BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01S13/72
G01S7/02 216
G01S13/34
G01S13/931
G08G1/16 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020209626
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2021099331
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2019230139
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】安野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】車 承佑
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-169506(JP,A)
【文献】特開2000-002760(JP,A)
【文献】特開2015-227782(JP,A)
【文献】特開2010-237129(JP,A)
【文献】特開2009-192359(JP,A)
【文献】特開2008-202979(JP,A)
【文献】特開昭62-159074(JP,A)
【文献】特開2006-112915(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0228239(US,A1)
【文献】特開平08-075858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/51
13/00 - 13/95
17/00 - 17/95
B60R 21/00 - 21/13
21/34 - 21/38
G08G 1/00 - 99/00
H01P 1/10 - 1/195
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるレーダ装置(10)であって、
送信波を送信する送信アンテナ(28)と、
受信波を受信する受信アンテナ(42)と、
複数の送受信モードで前記送信アンテナから送信波を送信させると共に、物標で反射された送信波を前記受信アンテナで受信波として受信させることで、前記車両の周囲に存在する物標に関する物標情報を検出する制御部(60)と、
を備え、
複数の前記送受信モードは、
送信波をそのビーム方向を変化させながら検知角度範囲に前記送信アンテナから発射するビーム走査を行うことで、前記検知角度範囲に基づいて規定される検知領域内に物標が存在することおよびその物標の方位を少なくとも検出する走査モード(S5、S10、S20)と、
前記走査モードで検出された物標に対して個別に、当該物標に向けて送信波を前記送信アンテナから照射することで、物標毎に物標情報を仮検出する仮追跡モード(S25、S30、S35、S40、S50)と、
前記仮追跡モードにおける1回当たりの送信波照射時間よりも長い時間、送信波を物標に向け前記送信アンテナから照射することで、物標毎に物標情報を本検出する本追跡モード(S60、S65、S70)と、を含み、
前記制御部は、前記仮追跡モードで仮検出された物標情報に基づいて、前記本追跡モードにおける前記送信波照射時間を設定する、
レーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、前記走査モードと、前記仮追跡モードと、前記本追跡モードと、を有する物標検出処理を繰り返し実行する
レーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、
前記仮追跡モードでの仮検出結果に基づいて、物標を前記本追跡モードでの本検出の対象とするか否かを判定する本検出要否判定を行い、
前記本追跡モードにおいて、前記本検出の対象と判定されなかった物標に対しては送信波を照射せずに当該物標の物標情報を本検出しない
レーダ装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、前記仮追跡モードでの仮検出結果に基づいて当該物標の追跡優先度を設定(S44)し、
前記本追跡モードにおいて、前記物標の追跡優先度が高いほど長い送信波照射時間、送信波を当該物標に向けて照射することで当該物標の物標情報を本検出する
レーダ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、前記仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる物標への距離および相対速度に基づいて当該物標の追跡優先度を設定する
レーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、前記仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる物標への距離および相対速度に基づくことに加えて、当該物標の種類にも基づいて、当該物標の追跡優先度を設定する
レーダ装置。
【請求項7】
請求項2又は3に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、前記仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる物標への距離および相対速度に基づいて、前記本追跡モードにおける当該物標への送信波照射時間を設定する
レーダ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、前記仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる物標への距離および相対速度に基づくことに加えて、当該物標の種類にも基づいて、前記本追跡モードにおける当該物標への送信波照射時間を設定する
レーダ装置。
【請求項9】
請求項2又は3に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、
前記仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる物標への距離および相対速度に基づいて、当該物標の衝突余裕時間を算出するとともに、当該衝突余裕時間から当該物標の追跡優先度を決定し、
前記追跡優先度と、前記物標との距離及び/又は相対速度と、に基づいて、本追跡モードにおける当該物標への送信波照射時間を設定する
レーダ装置。
【請求項10】
請求項2ないし9の何れか一項に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、前記物標検出処理を繰り返し実行しているときに、
走査モードで物標を検出すると、当該物標が前回物標検出処理の本追跡モードで物標情報を本検出した物標であるかを特定し、
前回物標検出処理の本追跡モードで物標情報を本検出したと判定した物標については、今回物標検出処理の仮追跡モードでの物標情報の仮検出を省略すると共に、今回物標検出処理の本追跡モードで用いる当該物標への送信波照射時間を、前回物標検出処理の前記本追跡モードで検出された物標情報に基づいて設定する
レーダ装置。
【請求項11】
請求項2ないし10の何れか一項に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、前記本追跡モードにおいて、
前記仮追跡モードで仮検出された物標情報に基づいて前記本追跡モードで物標に照射する送信波の送信波照射時間を設定することに加えて、前記本追跡モードで物標に照射する送信波の送信波信号パターンを変更可能に設定して、設定した前記送信波信号パターンの送信波を前記送信波照射時間、物標に向けて送信アンテナから照射することで物標情報を本検出する
レーダ装置。
【請求項12】
請求項2ないし11の何れか一項に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、
自車速が速いほど、前記走査モードにおける最大検知距離を長く設定する
レーダ装置。
【請求項13】
請求項2ないし12の何れか一項に記載のレーダ装置において、
前記制御部は、
自車速が大きいほど、前記検知領域を規定する検知角度範囲を狭く設定して、
前記走査モードにおいて、設定した検知角度範囲により規定される前記検知領域をビーム走査する
レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるレーダ装置として、例えば、特許文献1に記載の走査型レーダ装置が知られている。この装置は、送信波をそのビーム方向を変化させつつ検知角度範囲に順次発射するビーム走査を行うことで物標を検出する。
【0003】
特許文献1の装置は、走査範囲を検知角度範囲としたビーム走査によって車両から所定距離以内に物標が存在することを検出すると、この物標を中心した狭い角度範囲に送信波を所定時間照射する。これにより、物標までの距離、物標との相対速度などの物標情報を検出する。
【0004】
特許文献1には、ビーム走査によって一の物標の存在を検出すると、送信波の照射領域をこの一の物標に限定して物標情報を検出することは記載されている。しかし特許文献1には、ビーム走査によって複数の物標が存在することが検出された場合に、これら物標の物標情報をどのようにして検出するかは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-127909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、ビーム走査によって複数の物標が存在することが検出された場合に、これら物標の物標情報を検出するためのレーダ装置の構成を検討する。この構成としては、例えばビーム走査によって検出された複数の物標それぞれに対して、個別に送信波を予め定めた固定時間、照射する構成が考えられる。
【0007】
ところで、物標への送信波照射時間(観測時間とも称される)と、この送信波照射によって検出される物標との相対速度などの物標情報の検出精度とは、トレードオフの関係になることがある。即ち物標への送信波照射時間を長くすればするほど、物標情報の検出精度は高くなる場合がある。言い換えると、送信波照射時間を短くすればするほど、物標情報の検出精度は低下する場合がある。
【0008】
複数の検出した物標に対して個別に送信波を照射する構成において、物標情報の検出精度の低下を抑制するために、各物標に照射する送信波の照射時間を、物標情報の検出精度を一律に担保できる所定時間とする構成が考えられる。しかしこの構成では、検出された物標の数に比例した観測時間が必要になるため、複数の物標について物標情報の検出時間が長くなる可能性がある。
【0009】
この明細書における開示の目的の一つは、検知角度範囲内に複数の物標が存在することが検出された場合であっても、これら物標の物標情報を検出するのに要する時間を短縮可能なレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一側面に係るレーダ装置は、車両に搭載されるレーダ装置であって、
送信波を送信する送信アンテナ(28)と、
受信波を受信する受信アンテナ(42)と、
複数の送受信モードで送信アンテナから送信波を送信させると共に、物標で反射された送信波を受信アンテナで受信波として受信させることで、車両の周囲に存在する物標に関する物標情報を検出する制御部(60)と、
を備え、
複数の送受信モードは、
送信波をそのビーム方向を変化させながら検知角度範囲に送信アンテナから発射するビーム走査を行うことで、検知角度範囲に基づいて規定される検知領域内に物標が存在することおよび物標の方位を少なくとも検出する走査モード(S5、S10、S20)と、
走査モードで検出された物標に対して個別に、物標に向けて送信波を送信アンテナから照射することで、物標毎に物標情報を仮検出する仮追跡モード(S25、S30、S35、S40、S50)と、
仮追跡モードにおける1回当たりの送信波照射時間よりも長い時間、送信波を物標に向け送信アンテナから照射することで、物標毎に物標情報を本検出する本追跡モード(S60、S65、S70)と、を含み、
制御部は、仮追跡モードで仮検出された物標情報に基づいて、本追跡モードにおける送信波照射時間を設定する、
レーダ装置である。
【0011】
このレーダ装置では、走査モードで検出された物標について物標情報を本検出する本追跡モードよりも前に、仮追跡モードが設けられる。仮追跡モードでは、走査モードで検出された物標に対して個別に、物標に向けて送信波を送信アンテナから照射することで、物標毎に物標情報を仮検出する。本追跡モードでは、仮追跡モードで仮検出された物標情報に基づいて、送信波照射時間を設定して、送信波を物標に向けて当該送信波照射時間、送信アンテナから照射することで、物標毎に物標情報を本検出する。
【0012】
このレーダ装置によれば、物標情報を本検出するために送信アンテナから照射される送信波の照射時間を、仮追跡モードでの仮検出結果に基づいて最適化できる。したがって、走査モードで検出された複数の物標全てに対して個別に、予め定めた固定時間、送信波を照射して物標情報を検出する構成と比べて、走査モードで検出された物標の物標情報を検出するのに要する時間を短縮可能となる。
【0013】
なお、上記括弧内の参照番号は、理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら技術的範囲を制限することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係るレーダ装置のハードウェア構成を示す図である。
図2】FCM方式での送信信号を説明する説明図である。
図3】ビーム走査を説明する説明図である。
図4】FCM方式における距離および相対速度の検出を説明する説明図である。
図5】送信波照射時間と相対速度検出精度との関係を説明するための説明図である。
図6】仮追跡モードを説明するための説明図である。
図7】本追跡モードを説明するための説明図である。
図8】第1実施形態に係る物標検出処理を示すフローチャートである。
図9】追跡優先度の設定処理を示すフローチャートである。
図10】優先度設定テーブルを示す図である。
図11】仮追跡モードを設けたことによる効果を説明するための説明図である。
図12】第2実施形態に係る物標検出処理を示すフローチャートである。
図13】第3実施形態に係る物標検出処理を示すフローチャートである。
図14】送信波信号パターンを例示する説明図である。
図15】第4実施形態に係る物標検出処理を示すフローチャートである。
図16】第4実施形態に係る検知領域の一例を示す図である。
図17】第4実施形態に係る検知領域の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、レーダ装置の複数の実施形態として、車載システム1の構成要素となっているレーダ装置10を説明する。複数の実施形態の説明において、同一又は対応する部分には同一又は類似する参照符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態の説明において、構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を参照し適用することができる。
【0016】
〔第1実施形態〕
第1実施形態を説明する。以下では、レーダ装置10の構成を先ず説明し、次にFCM(Fast Chirp Modulation)方式における距離及び相対速度の検出方法を説明する。その後、複数の送受信モードと物標検出処理フローを順に説明する。
【0017】
<全体構成>
図1に示すように車載システム1は、レーダ装置10と、運転支援ECU100とを備える。車載システム1は、四輪自動車や、二輪車などの車両に搭載される。
【0018】
レーダ装置10は、送信波を送信して、物体で反射された送信波を受信波として受信し、送信波を反射した物体である物標までの距離、物標との相対速度、物標の方位を、物標情報として検出する。レーダ装置10は、検出した物標情報を出力する。レーダ装置10から出力された物標情報は、例えばCAN(Control Area Network(登録商標))、Ethernet(登録商標)などの車載ネットワークを介して運転支援ECU100に入力される。或いは、レーダ装置10と運転支援ECU100との間の専用通信線を介して、レーダ装置10は、物標情報を運転支援ECU100に出力する構成であってもよい。本実施形態のレーダ装置10は、FCM方式のミリ波レーダである。レーダ装置10は、車両の所定位置、例えば車両前端部に搭載される。
【0019】
運転支援ECU100は、レーダ装置10が出力した各物標の物標情報を取得する。運転支援ECU100は、取得した各物標の物標情報に基づいて、運転者による車両の運転を支援するための各種処理を実行する。ECUは、Electronic control unitの略である。
【0020】
運転支援に関する処理としては、例えば警告処理や衝突回避処理等がある。警告処理は、各物標の物標情報に基づいて、物標との衝突可能性を運転者に警告する処理である。衝突回避処理は、各物標の物標情報に基づいて、ブレーキシステムやステアリングシステム等を制御することにより、物標との衝突を回避するための車両制御を行う処理である。
【0021】
レーダ装置10の構成を説明する。図1に示すようにレーダ装置10は、送信部20と、受信部40と、制御部60と、を備える。
【0022】
送信部20は、送信回路22と、分配器24と、位相調整回路26と、送信アンテナ28と、を備える。
【0023】
送信回路22は、制御部60から入力される送信信号生成指令に従って、送信アンテナ28に供給する送信信号S1を、図2に示すような送信波信号パターンで生成する。送信回路22は、例えば図2に示すような、周波数が変調帯域幅内で、周波数変調時間、連続的に増加するチャープが複数連なる送信信号S1を、FCM方式の送信信号として生成する。送信信号S1は、周波数を縦軸にして時間を横軸にしたとき、複数のチャープからなるノコギリ状の波形を示す。なお送信信号S1の各チャープは、周波数が連続的に減少するものであってもよい。送信回路22は、生成した送信信号S1を分配器24に出力する。
【0024】
図1の説明に戻る。分配器24は、送信回路22から入力された送信信号S1を、受信部40の混合器46に供給するローカル信号Lと、送信アンテナ28に供給する送信信号S2と、に分配して出力する回路である。なお送信回路22から出力される送信信号S1と、分配器24から出力される送信信号S2と、は、変調帯域幅、周波数変調時間、及び観測時間により規定される送信波信号パターンが同じである。以後の説明において、送信信号S1と送信信号S2とを区別せずに送信信号Sと称する場合がある。また分配器24から出力されるローカル信号Lも、送信信号S2と同じ送信波信号パターンを有する。
【0025】
位相調整回路26は、送信アンテナ28と共に送信フェーズドアレイアンテナを構成する。位相調整回路26は、送信アンテナ28を構成するアンテナ素子毎に一つずつ接続された位相器の集合を備える。位相調整回路26には、制御部60から、送信フェーズドアレイアンテナのビーム方向(指向性)を指示するビーム方向指令が入力される。
【0026】
位相調整回路26は、ビーム方向指令により指示されたビーム方向を有する送信波が送信アンテナ28から照射されるように、送信信号S2の位相シフト量を位相器を用いて調整して送信アンテナ28の各アンテナ素子に供給する。位相シフト量を調整することにより、送信フェーズドアレイアンテナのビーム方向が、制御部60が指示する任意の方向に調整される。
【0027】
送信アンテナ28は、複数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナである。複数のアンテナ素子の各々は、位相調整回路26の対応する位相器を介して供給された送信信号S2に基づいて電磁波を発射する。これにより送信アンテナ28は、制御部60が指示するビーム方向を有する送信波を車両周囲に照射する。
【0028】
受信アンテナ42は、複数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナである。複数のアンテナ素子の各々は、物標で反射された送信波(すなわち反射波)を受信波として受信する。各アンテナ素子が受信した受信波の受信信号は、位相調整回路44に入力される。
【0029】
位相調整回路44は、受信アンテナ42と共に受信フェーズドアレイアンテナを構成する。位相調整回路44は、受信アンテナ42を構成するアンテナ素子毎に一つずつ接続された位相器の集合を備える。各位相器には、受信アンテナ42の対応アンテナ素子から受信信号が入力される。位相調整回路44には、制御部60から指向性指令が入力される。
【0030】
位相調整回路44は、受信フェーズドアレイアンテナの指向性が指向性指令により指示された方向となるように、各位相器による受信信号の位相シフト量を調整する。ここで制御部60からの指向性指令により指示される受信フェーズドアレイアンテナの指向性の方向は、ビーム方向指令により指示される送信フェーズドアレイアンテナの送信波のビーム方向と同じ方向である。このため位相調整回路44は、受信フェーズドアレイアンテナの指向性の方向が送信フェーズドアレイアンテナのビーム方向と同じ方向になるように位相シフト量を調整することになる。位相調整回路44は、位相シフト量を調整した受信信号を重ね合せて、重ね合せた信号を受信信号Rとして混合器46に出力する。
【0031】
混合器46は、位相調整回路44からの受信信号Rと、送信部20の分配器24からのローカル信号Lと、を混合して、受信信号Rとローカル信号Lとの差分を表すビート信号Bを生成する回路である。混合器46は、ビート信号BをAD変換して、制御部60に入力する。
【0032】
制御部60は、CPU、ROM、RAMの他、FFT(Fast Fourier transform)処理等を実行するコプロセッサを有するマイクロコンピュータを備える制御回路である。
【0033】
制御部60は、上述したように、送信信号生成指令を送信回路22に入力することで、所定の波形を有する送信波を送信アンテナ28から車両周囲に発射させる。制御部60は、送信波の波形および照射時間の指示を送信信号生成指令に含ませる。例えば制御部60は、図2に示すようなFCM方式の波形を指示する送信信号生成指令を、送信回路22に入力する。詳しくは制御部60は、送信信号生成指令に、周波数変調時間、変調帯域幅、および観測時間を含ませる。これにより、送信信号生成指令で指定した周波数変調時間、変調帯域幅、および観測時間を有する送信波が送信アンテナ28から発射される。
【0034】
また制御部60は、特定のビーム方向を有する送信波を送信フェーズドアレイアンテナから発射させるときに、受信フェーズドアレイアンテナの指向性の方向をこの特定のビーム方向に一致させて受信波を受信させる。詳しくは制御部60は、特定のビーム方向を指示するビーム方向指令を送信部20の位相調整回路26に入力するときに、この特定のビーム方向と一致する指向性の方向を指示する指向性指令を受信部40の位相調整回路44に入力する。
【0035】
制御部60は、送信波を送信して受信波を受信した際に混合器46から入力されるビート信号Bを、FFT処理等を用いて解析することで、物標までの距離および物標との相対速度を検出する。
【0036】
<FCM方式での物標情報検出の説明>
ここでFCM方式における物標までの距離および物標との相対速度の検出方法について説明する。
【0037】
FCM方式では、送信信号S(詳しくはローカル信号L)と、受信信号Rと、からビート信号Bを生成して、ビート信号Bに対して2回のFFT処理を行うことにより、物標との距離および相対速度を検出する。
【0038】
詳しくは図4に示すように、ビート信号Bがチャープ毎にFFT処理される。これにより、物標の距離に対応する周波数の位置にピークを示す周波数スペクトルがチャープ毎に得られる。ピーク周波数が何れの周波数ビン(距離ビンとも称される)に位置するかを検出することで、物標との距離が求められる。このように物標との距離を求めるFCM方式レーダの最大検知距離は、送信信号Sの変調帯域幅に依存する。詳しくは送信信号Sの変調帯域幅を小さくするほど、最大検知距離を大きくできる。なお、ビート信号がチャープ毎にFFT処理されるので、N個のチャープに対応するビート信号Bから、これらチャープそれぞれに対応する周波数スペクトルがN個得られる。
【0039】
物標との相対速度がゼロでない場合、各チャープに対応する周波数スペクトルは、同じ距離ビンにピークを示すが、位相は、チャープ間で互いに異なる。このチャープ間の位相差は、レーダ装置10と物標との間の距離の変化に起因する。これを利用してFCM方式では、物標との相対速度が検出される。具体的には2回目のFFT処理として、複数のチャープに対する1回目のFFT処理で得られた距離ビンでの位相を時系列で並べた波形に対してFFT処理を行う。これにより、物標との相対速度に対応する位置にピークを示すスペクトルを得る。このスペクトルのピーク周波数が何れの周波数ビン(速度ビンとも称される)に位置するかを検出することで、物標との相対速度を検出する。なお物標の方位は、ビーム方向に基づいて検出することができる。
【0040】
FCM方式では、上述のようにして相対速度が検出されるため、照射時間(観測時間とも称される)を長くすると、物標との相対速度の検出精度を向上できる。例えば図5に示された3つの送信信号Sでは、上段に図示された送信信号Sが相対速度の検出精度が最も高い。中段に図示された送信信号Sが次に相対速度の検出精度が高い。下段に図示された送信信号Sが最も相対速度の検出精度が低い。
【0041】
<送受信モードの説明>
本実施形態のレーダ装置10は、走査モードと、仮追跡モードと、本追跡モードと、からなる3つの送受信モードで、送信アンテナ28から送信波を発射する共に受信アンテナ42で受信波を受信する。以下、走査モードと、仮追跡モードと、本追跡モードの各々ついて順に説明する。
【0042】
走査モードは、検知角度範囲をビーム走査するモードである。詳しくは図3に示すように、送信波をビーム方向を変化させながら送信アンテナ28から検知角度範囲内に順次発射する。これにより、検知角度範囲と最大検知距離とにより定まる検知領域に物標が存在するか否かが検出されると共に、物標が存在する場合にその物標の方位および距離が検出される。
【0043】
仮追跡モードは、後述の本追跡モードに要する時間を短縮するために、走査モードと、本追跡モードと、の間に設けられたモードである。仮追跡モードでは、図6に示すように、走査モードで検出された物標に対して個別に、ビーム方向が当該物標に向いた送信波を送信アンテナ28から照射させる。これにより物標毎に、物標との相対速度と、物標までの距離と、を仮検出する。換言すれば、仮追跡モードは、物標との相対速度と、物標までの距離とを検出できるように送信波を送信する。本追跡モードでも、物標との相対速度と物標までの距離は検出できる。しかし、仮追跡モードでの送信波の送信時間は、次に説明する追跡優先度を付与できる程度の送信時間に設定されており、本追跡モードでの送信時間よりも短い。
【0044】
仮追跡モードでは、仮検出した相対速度と距離とに基づいて、走査モードで検出された物標のうち本追跡モードで検出対象とする物標を選定すると共に、本追跡モードでの追跡優先度を付与する。本追跡モードの検出対象を選定するための手法、および追跡優先度を付与するための手法としては様々な手法が採用可能である。例えば、仮検出した物標との相対速度および距離などに基づいて算出される物標との衝突恐れの程度を示す指標を利用する後述の手法がある。
【0045】
本追跡モードは、仮追跡モードよりも高精度に物標の相対速度を検出するためのモードである。具体的には、本追跡モードでは、各物標に向けて、仮追跡モードよりも長い照射時間、送信波を照射することで、仮追跡モードよりも高精度に物標の相対速度を検出する。このときの送信波は、追跡優先度の高い物標ほど長い照射時間が照射される。これにより、各物標について仮追跡モードよりも高精度に物標の相対速度を検出しつつ、さらに追跡優先度の高い物標ほど相対速度を高い精度で検出する。
【0046】
例えば図7の本追跡モードの例では、検知領域に存在する5個の物標のうち仮検出モードで本追跡を要すると判定された3個の物標に対して、仮追跡モードよりも長い照射時間、各物標に向けて送信波を照射している。
【0047】
本追跡モードで物標との相対速度および距離が検出されると、これら相対速度および距離は、走査モードで検出された物標の方位と共に、車載ネットワークに出力される。出力された物標情報に基づいて、警告処理や衝突回避処理の各種処理が運転支援ECU100によって実行される。
【0048】
本実施形態では、以上の走査モード、仮検出モード、および本追跡モードを有する物標検出処理が、車両周囲に存在する物標の物標情報を逐次検出するために繰り返し実行される。以下、物標検出処理の詳細を説明する。
【0049】
<物標検出処理の説明(前半)>
物標検出処理は、制御部60のCPUによってROMなどの非一時的記憶媒体に格納されたプログラムが実行されることで、実行される。物標検出処理は、例えば車両のIGスイッチがオンされると開始され、車両のIGスイッチがオフされると終了する。以下、図8のフローチャートを参照して物標検出処理の詳細を説明する。
【0050】
制御部60は、物標検出処理を開始すると、S10にて、予め定められた検知角度範囲をビーム走査する。具体的には制御部60は、予め定められた検知角度範囲に送信波を順次、そのビーム方向をステップ角毎に変化させながら送信アンテナ28から発射させる。
【0051】
例えば図3に示すように、扇形形状の検知領域を構成する2つの半径のうち一の半径から他の半径に向かう走査方向にビーム走査を行う。これにより制御部60は、検知領域に物標が存在するかを検出すると共に、検出した物標の車両に対する方位および車両までの距離を検出する。
【0052】
S20にて制御部60は、S10のビーム走査で一以上の物標を検出したか否かを判定する。ビーム走査で物標が検出されなかった場合、S10に戻り、検知角度範囲が再度ビーム走査される。ビーム走査で一以上の物標が検出された場合、処理はS30に進む。S10およびS20が上述の走査モードを構成する。
【0053】
S30にて制御部60は、S10のビーム走査で検出された物標を仮追跡する。具体的には制御部60は、図6に示すように、ビーム走査で検出された物標に対して個別に、ビーム方向が当該物標に向いた送信波を、仮追跡照射時間、送信アンテナ28から順次照射させる。このとき制御部60は、例えば、検知領域の端を規定する2つの半径(図3参照)のうちの一の半径に対する物標の相対方位角の昇順といった所定の順番で、物標に対して個別に送信波を、仮追跡照射時間、送信アンテナ28から順次照射させる。これにより制御部60は、ビーム走査で検出された物標毎に、相対速度および距離を仮検出する。なおビーム走査で検出された物標に対して個別に送信波を照射する際に、複数の物標に対して同時に、これら物標の方位をビーム方向とした送信波を照射させる構成であってもよい。
【0054】
仮追跡照射時間は、後述するS70の本追跡において物標毎に照射される送信波の本追跡照射時間と比べて短い時間となるように予め設定されている。言い換えると、仮追跡照射時間は、S30の仮検出での相対速度の検出精度がS70の本追跡での相対速度の検出精度よりも低くなるように設定されていると言える。
【0055】
S40にて制御部60は、S30で仮検出した相対速度および距離に基づいて、物標毎に追跡優先度を付与する追跡優先度設定処理を行う。各物標に付与される追跡優先度には、S70の本追跡での検出対象とするか否か示す本追跡要否が含まれる。本追跡要否を判定するための手法としては様々な手法が採用可能である。後述の例では、本追跡要否を、車両と衝突する恐れがあるかを定量化した指標に基づいて判定する。
【0056】
本追跡要を示す追跡優先度は、さらに、本追跡において物標情報を検出する優先度合いを示す優先度値を有する。優先度値を付与するための手法としては様々な手法が採用可能である。後述の例では、S30で仮検出した物標情報に基づいて定量化した車両と衝突する恐れの大きさを示す指標を用いて、優先度値を付与する。
【0057】
<追跡優先度設定処理の説明>
ここで、追跡優先度設定処理の具体例を、図9および図10を参照して説明する。
【0058】
図9に示すように制御部60は、追跡優先度設定処理を開始すると、S42にて、S30で仮検出した物標との相対速度および距離に基づいて、物標の衝突余裕時間TTCを算出する。本例では衝突余裕時間TTCを、物標との距離を相対速度により除算して得られる時間と定義する。相対速度は、物標が車両に近づいている場合に正の値を持つと定義し、物標が車両から遠ざかっている場合に負の値を持つと定義する。相対速度がゼロの場合、衝突余裕時間TTCは正の無限大を有すると定義する。
【0059】
S44にて制御部60は、物標の衝突余裕時間TTCに基づいて、物標に追跡優先度を付与する。この付与は、追跡優先度と衝突余裕時間TTCとの間の予め定められた関係に基づいて行うことができる。例えば図10に示すような優先度設定テーブルを用いて、各物標に対して追跡優先度を付与することができる。優先度設定テーブルは、制御部60のROM等に予め記憶される。
【0060】
ここで優先度設定テーブルを用いた追跡優先度の付与を説明する。図10に示すように、物標の衝突余裕時間TTCが負の場合(TTC<0)、即ち物標が車両から遠ざかっている場合、その物標に対して本追跡不要を示す追跡優先度が付与される。車両から遠ざかっている物標は、車両と衝突する恐れがないと判断できるからである。
【0061】
また物標の衝突余裕時間TTCが正の場合であっても、即ち物標が車両に近づいている場合であっても、衝突余裕時間TTCが所定の上限時間T_maxよりも大きいときは、その物標に対して本追跡不要の追跡優先度が付与される。上限時間T_maxは、例えば警告処理や衝突回避処理等を実行する必要がない程度長いと見做すことができる衝突余裕時間TTCの値として予め設定される。警告処理や衝突回避処理等の観点から、現時点において本検出モードに進み相対速度等を高精度に検出する必要がないと判断できるからである。
【0062】
物標の衝突余裕時間TTCが0以上であり且つ上限時間T_max以下の場合、その物標に対して本追跡要の追跡優先度が付与される。さらに、本追跡要の追跡優先度が付与された各物標について、その衝突余裕時間TTCが小さいほど、より優先的に本追跡で物標情報を検出すべき物標であることを示す優先度値が付与される。優先度値は、例えば1以上の整数で表すことができる。この場合、小さい優先度値ほど、より優先的に本追跡で物標情報を検出すべきことを示すと定義してもよい。本例では、優先度値を1以上の整数で表し、衝突余裕時間TTCが小さいほど、小さい優先度値、即ちより優先的に本追跡で物標情報を検出すべきことを示す優先度値を物標に付与する。
【0063】
このような追跡優先値の付与のために本例では、図10に示すように、基本時間T_refと、解像度時間Taと、を用いる。基本時間T_refは例えば、車載システム1において物標との衝突の危険が認識されてから危険に対する対応処理が開始されるまでに要する時間以上の値に、予め設定される。
【0064】
詳しくは車載システム1では、後述する本追跡で検出した物標との距離および相対速度が、その物標の方位とともに、運転支援ECU100によって取得される。運転支援ECU100は、取得した物標の距離、相対速度及び方位等に基づいて、物標との衝突の危険があるか否かを判定する。運転支援ECU100は、危険があると判定すると、ディスプレイやスピーカによる乗員への警告情報提示を開始する、及び/又は、衝突回避するためにブレーキシステムやステアリングシステム等による車両状態の制御を開始する。このような危険判定から対応処理の開始までの時間は、車載システム1の構成に依存する。そのため基本時間T_refは、このような時間に基づいて、予め設定される。
【0065】
解像度時間Taは例えば、S42で算出される衝突余裕時間TTCの分解能に相当する時間以上の値として予め設定される。詳しくは衝突余裕時間TTCは、S30の仮追跡で仮検出された距離および相対速度を用いて算出されるため、衝突余裕時間TTCは、距離および相対速度の検出誤差に対応する誤差を有する。距離および相対速度の検出誤差は、例えば、送信波照射時間などの送信波の態様、送信部20および受信部40のハードウェアの公差、制御部60におけるFFT処理等に起因し得る。そのため解像度時間Taとして、衝突余裕時間TTCの誤差、即ち時間分解能以上の値を用いる。
【0066】
このような基本時間T_refと解像度時間Taと衝突余裕時間TTCとを用いて、追跡優先度の優先度値が、図10に示すように設定される。具体的には衝突余裕時間TTCが0以上であり且つ基本時間T_refよりも小さい場合、優先度値として、最も高い優先度を示す1が設定される。衝突余裕時間TTCが基本時間T_ref以上であり且つ基本時間T_refと解像度時間Taとの和よりも小さい場合、優先度値として、2番目に高い優先度を示す2が設定される。衝突余裕時間TTCが、基本時間T_refと解像度時間Taとの和以上であり且つ基本時間T_refと解像度時間Taの2倍との和よりも小さい場合、3番目に高い優先度を示す3が優先度値として設定される。このように、衝突余裕時間TTCが解像度時間Ta毎大きくなるに従って優先度値が1増分されるように、優先度値が設定される。
【0067】
制御部60はS46にて、S10の走査で検出した全ての物標に対して、追跡優先度を付与したか否かを判定する。全ての物標に対する追跡優先度の付与が完了していない場合、処理はS42に戻り、全ての物標に対する追跡優先度の付与を完了するまで、S42~S46のループを繰り返す。全ての物標に対する追跡優先度の付与が完了した場合、処理は図8のフローに戻り、S50が実行される。
【0068】
<物標検出処理の説明(後半)>
S50にて制御部60は、本追跡要の追跡優先度を付与された物標が一以上あるか否かを判定する。本追跡要の追跡優先度が付与された物標が一つ以上ある場合、処理はS60に進む。本追跡要の追跡優先度が付与された物標が存在しない場合、処理はS10に戻る。以上のS30、S40、およびS50が、上述の仮追跡モードを構成している。
【0069】
S60にて制御部60は、S40で設定された優先度値に基づいて、本追跡要の追跡優先度が付与されている物標毎に、本追跡照射時間を設定する。具体的には追跡優先度値が小さい物標ほど、長い本追跡照射時間を設定する。このとき制御部60は、例えば、各優先度値と、これに対応する本追跡照射時間と、の間の関係を予め規定するROM等に格納されたマップ等を参照する。このような優先度値に基づいた本追跡照射時間の設定は、追跡優先度が高い物標ほど相対速度を高精度に検出するために行われている。或いはS60にて制御部60は、S40で設定された優先度値に基づいて、本追跡要の追跡優先度が付与されている物標に対して一律に、本追跡照射時間を設定してもよい。例えばS40で複数の物標に付与された優先度値のうち最も小さい優先度値に対応する本追跡照射時間を、複数の物標に対して一律に設定してもよい。
【0070】
S70にて制御部60は、S60で設定した本追跡照射時間、送信波を個々の物標に向けて、送信アンテナ28から照射させる。詳しくは制御部60は、図7に示すよう本追跡要の物標毎に順次、S60で設定した本追跡照射時間、その物標の方位に対応するビーム方向を有する送信波を、送信アンテナ28から発射させる。このとき制御部60は、例えば、検知領域の端を規定する2つの半径(図3参照)のうちの一の半径に対する物標の相対方位角の昇順といった所定の順番で、物標に対して個別に送信波を送信アンテナ28から順次照射させる。或いは、制御部60は、優先度値の昇順で、物標に対して個別に送信波を送信アンテナ28から順次照射させてもよい。この場合、同じ追跡優先度値が付与された複数物標に対しては、検知領域の端を規定する2つの半径のうちの一の半径に対する物標の相対方位角の昇順で送信波を順次照射させるといった所定のルールを採用する。なお本追跡要の物標に対して個別に送信波を照射する際に、複数の物標に対して同時に、これら物標の方位をビーム方向とした送信波を照射させる構成であってもよい。
【0071】
これにより制御部60は、本追跡要の追跡優先度が付与されている物標までの距離および相対速度を本検出する。制御部60は、このようにして本検出した物標との距離および相対速度を、S10で検出した物標の方位と共に、RAMに物標毎に記憶する共に、車載ネットワークに出力して、S10に戻る。以上のS60およびS70が、上述の本追跡モードを構成している。
【0072】
<第1実施形態のまとめ>
本実施形態のレーダ装置10は、送信波を送信する送信アンテナ28と、受信波を受信する受信アンテナ42と、制御部60と、を備える。制御部60は、複数の送受信モードで送信アンテナ28から送信波を送信させると共に、物標で反射された送信波を受信アンテナ42で受信波として受信させることで、車両周囲に存在する物標の物標情報を検出するように構成されている。複数の送受信モードは、走査モードと、仮追跡モードと、本追跡モードと、を含む。
【0073】
走査モードは、ビーム方向を変化させながら送信アンテナ28から検知角度範囲に送信波を発射させるビーム走査を行うことで、検知領域に物標が存在することおよび物標の方位を少なくとも検出する。
【0074】
仮追跡モードは、走査モードで検出された物標に対して個別に、物標に向けて送信波を送信アンテナ28から照射することで、物標毎に物標情報を仮検出する。
【0075】
本追跡モードは、仮追跡モードで仮検出された物標情報に基づいて物標毎に送信波照射時間を設定して、送信波を物標に向けて当該送信波照射時間、送信アンテナ28から照射することで、物標毎に物標情報を本検出する。
【0076】
このようなレーダ装置10では、物標の物標情報を本検出する本追跡モードよりも前に、物標毎に物標情報を仮検出する仮追跡モードが設けられている。仮追跡モードでは、走査モードで検出された物標に対して個別に物標に向けて送信波を送信アンテナ28から照射することで、物標毎に物標情報を仮検出する。本追跡モードでは、仮追跡モードで仮検出された物標情報に基づいて送信波照射時間を設定して、送信波を物標に向けて当該送信波照射時間、送信アンテナから照射することで、物標毎に物標情報を本検出する。
【0077】
この構成によれば、物標情報を本検出するために送信アンテナから照射される送信波の照射時間を、仮追跡モードでの仮検出結果に基づいて最適化できる。したがって図11に示すように、走査モードで検出された複数の物標全てに対して個別に、予め定めた固定時間、送信波を照射して物標情報を検出する比較例と比べて、短時間で物標の物標情報を検出(本検出)可能になる。なお上述の比較例における固定時間とは、物標情報の検出精度を高精度に担保できる照射時間であり、本実施形態における優先度値1のときに設定される本追跡照射時間に相当する。
【0078】
また本実施形態のレーダ装置10では、制御部60は、走査モードと、仮追跡モードと、本追跡モードと、を有する物標検出処理を繰り返し実行するように構成されている。
【0079】
この構成では、走査モード、仮検出モード、および本追跡モードが、車両周囲に存在する物標の相対速度、距離、方位などの物標情報を検出するための一サイクルの処理として繰り返し実行される。ここで仮追跡モードを設けたことにより一サイクルを実行するのに要する時間が短縮可能となっている。そのため本実施形態によれば、サイクルを短い周期で実行可能となる。したがって、本追跡モードで本検出される物標情報が短い周期で更新可能となると共に、検知領域に新たに侵入した物標の存在を走査モードで迅速に検出可能になる。
【0080】
また本実施形態のレーダ装置10では、制御部60は、仮追跡モードでの仮検出結果に基づいて、当該物標を本追跡モードでの本検出の対象とするか否かを判定する本検出要否判定を行うように構成されている。制御部60は、本追跡モードにおいて、本検出の対象と判定されなかった物標に対しては送信波を照射せずに当該物標の物標情報を本検出しないように構成されている。
【0081】
この構成によれば、本追跡モードに要する時間をさらに短縮できる。走査モードと、仮追跡モードと、本追跡モードと、含む一サイクルを実行するのに要する時間をさらに短縮可能となる。
【0082】
また本実施形態のレーダ装置10では、制御部60は、仮追跡モードでの仮検出結果に基づいて物標の追跡優先度を設定する。制御部60は、本追跡モードにおいて、物標の追跡優先度が高いほど長い送信波照射時間、送信波を当該物標に向けて照射することで物標の物標情報を本検出する。
【0083】
この構成では、本追跡モードで複数物標の物標情報を検出する場合において、複数の物標のうち追跡優先度が高い物標に対しては長い照射時間、送信波を照射することで高精度の物標情報を取得できる。一方、追跡優先度が低い物標に対しては、短い照射時間、送信波を照射することで、短時間で物標情報を本検出できる。複数の物標のうち追跡優先度が高い物標の物標情報を高精度に本検出しつつ、複数物標の物標情報を本検出するのに要する時間、即ち本追跡モードに要する時間を短縮可能となる。
【0084】
第1実施形態では、追跡優先度を設定する手法の一例として、図10に例示のように、物標の衝突余裕時間TTCから追跡優先度を決定する手法を説明した。しかし、この追跡優先度の設定手法は、例示であり、様々に変形可能である。
【0085】
変形例1の制御部60は、図10で例示した衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度を、物標への距離が小さいほど高い追跡優先度に補正する。
【0086】
例えば制御部60は、物標への距離が第1所定距離未満の場合、衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度を1段高い追跡優先度に補正する。これは、優先度値の観点では、優先度値が1だけ低い値に補正されることである。なお、優先度値の下限を1とする場合において、補正後の優先度値が1未満となるときは、補正後の優先度値を1とする。
【0087】
制御部60は、物標への距離が第1所定距離以上且つ第2所定距離未満の場合、衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度を維持する。制御部60は、物標への距離が第2所定距離以上の場合、衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度を、1段低い追跡優先度に設定する。これは、優先度値の観点では、優先度値が1だけ高い値に補正されることである。第1所定距離および第2所定距離は、車両から近距離の物標ほど高い追跡優先度が設定されて高精度で物標情報を検出すべき等の観点から、予め定めることができる。
【0088】
制御部60は、このようにして物標への距離で補正した追跡優先度が高いほど、本追跡モードにおける送信波照射時間を長い時間に設定する。
【0089】
なお、上述した本変形例1の追跡優先度手法では、送信波照射時間の設定に用いられる追跡優先度は、衝突余裕時間TTCに依存することに加えて、物標との距離にも依存する。これら依存性のうち、追跡優先度の衝突余裕時間TTCに対する依存性は、物標の衝突余裕時間TTCが小さいほど、高い追跡優先度となる依存性である。
【0090】
変形例1のレーダ装置10は、衝突余裕時間TTCに加えて距離も加味して追跡優先度を設定することで、第1実施形態と比べて、より状況に則した最適な精度で、本追跡モードにおいて物標情報を本検出可能となる。例えば衝突余裕時間TTCが同じ物標のうち、より近距離にある物標に対して高い追跡優先度を設定して、高精度に物標の物標情報を検出することが可能になる。また、車両から遠距離にある物標の衝突余裕時間TTCが車両から近距離にある物標の衝突余裕時間TTCよりも小さい状況においても、近距離にある物標の追跡優先度を、遠距離にある物標の追跡優先度よりも高く設定できる場合がある。
【0091】
なお、第1実施形態および本変形例1でこれまで説明した手法はいずれも、制御部60が、仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる物標への距離および相対速度に基づいて当該物標の追跡優先度を設定する手法の一例である。制御部60が仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる物標への距離および相対速度に基づいて当該物標の追跡優先度を設定する手法は、上述の例に限定されない。例えば、次の手法も採用できる。
【0092】
制御部60は、衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度を、物標への距離による補正に代えて/加えて、物標との相対速度に応じて補正してもよい。この構成であっても、追跡優先度の設定において衝突余裕時間TTCに加えて相対速度も加味したことにより、第1実施形態と比べて、より状況に則した最適な精度で、物標情報を検出可能となる。例えば、衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度を、物標との相対速度が小さいほど、高い追跡優先度に補正してもよい。この構成によれば、仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる距離および相対速度から算出された衝突余裕時間TTCが同一の複数の物標のうち、当該仮追跡モードにおける距離の検出誤差および相対速度の検出誤差に起因する衝突余裕時間TTCの誤差が大きい物標の追跡優先度を、高い追跡優先度に補正でき、その結果、この物標の物標情報を本追跡モードにおいて高精度に検出可能になる。例えば、仮追跡モードでの仮検出結果から定まる衝突余裕時間TTCが同一の複数の物標のうち、警告処理や衝突回避処理を要する可能性がある物標、すなわち衝突余裕時間TTCの誤差が大きい物標について、本追跡モードにおいて高精度に物標情報を検出可能になる。なおここでは、衝突余裕時間TTCの誤差が、第1実施形態で説明した解像度時間Taよりも大きくなり得ることを前提としている。さらに、仮追跡モードにおける距離の検出誤差および相対速度の検出誤差のうち、相対速度の検出誤差が、距離を相対速度で除算することで算出される衝突余裕時間TTCの誤差を決める支配的要因である場合を想定している。このような場合であるか否かは、レーダ装置10が検出する物標との距離の典型的範囲および相対速度の典型的範囲を既知として、仮追跡モードにおける距離の検出誤差の大きさ及び相対速度の検出誤差の大きさに基づいて、特定することができる。FCM方式における距離の検出誤差(分解能)は、送信波の変調帯域幅に基づいて特定できる。FCM方式における相対速度の検出誤差(分解能)は、物標への送信波照射時間(観測時間とも称される)に基づいて特定できる。仮追跡モードでの仮検出結果から定まる衝突余裕時間TTCを物標との相対速度が小さいほど高い追跡優先度に補正する場合は、例えば、仮追跡モードにおける物標との距離の検出誤差が+/-0.1mであり、物標との相対速度の検出誤差が+/-10x10m/hである場合である。この場合、仮検出された距離および相対速度が10mおよび20x10m/hの物標と、仮検出された距離および相対速度が50mおよび100x10m/hの物標と、は、同じ衝突余裕時間TTCが算出されるが、衝突余裕時間TTCの誤差は、相対速度が小さい物標のほうが、相対速度が大きい物標よりも数倍大きい。
【0093】
この追跡優先度手法では、送信波照射時間の設定に用いられる追跡優先度は、衝突余裕時間TTCに依存することに加えて、物標との相対速度にも依存する。これら依存性のうち、追跡優先度の衝突余裕時間TTCに対する依存性は、物標の衝突余裕時間TTCが小さいほど、高い追跡優先度となる依存性である。
【0094】
(第1実施形態の変形例2)
制御部60は、仮追跡モードでの仮検出結果に含まれる物標への距離および相対速度に基づくことに加えて、当該物標の種類にも基づいて、当該物標の追跡優先度を設定してもよい。
【0095】
この構成によれば、物標の種類も加味して追跡優先度を設定する。そのため、例えば4輪自動車の物標情報よりも歩行者の物標情報を高精度に検出するといった、より状況に則した最適な精度で、本追跡モードにおいて物標情報を検出可能となる。
【0096】
このような構成の一例として、制御部60は、衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度を、物標への距離および/又は相対速度による補正に加えて/代えて、物標の種類に応じて補正してもよい。補正する物標の種類および補正の程度は予め設定される。
【0097】
例えば制御部60は、物標の種類が歩行者或いは自転車の場合、この物体の追跡優先度を、高い追跡優先度に補正してもよい。例えば優先度値を1だけ低い値に補正してもよい。これは、歩行者或いは自転車は、交通弱者であるので高い精度の物標情報を検出したほうがよいという観点に基づく補正である。上記、歩行者或いは自転車に対する補正と同様の趣旨として、制御部60は、物標の種類が4輪自動車である場合、この物体の追跡優先度を、低い追跡優先度に補正してもよい。例えば優先度値を1だけ高い値に補正してもよい。
【0098】
追跡優先度の補正に用いる物標の種類は、例えば、車載カメラ(図示なし)が撮像した車両周辺の画像に基づいてカメラECU(図示なし)で認識された物標の種類を利用することができる。
【0099】
(第1実施形態の変形例3)
第1実施形態および変形例1では、制御部60は、仮追跡モードで仮検出された物標情報に含まれる距離および相対速度に基づいて、追跡優先度を物標に設定して、追跡優先度に基づいて本追跡モードにおける送信波照射時間を設定した。
【0100】
これは、制御部60が、仮追跡モードで仮検出された物標情報に含まれる距離および相対速度に基づいて、本追跡モードにおける送信波照射時間を設定する構成の例示である。
【0101】
仮追跡モードで仮検出された物標情報に含まれる距離および相対速度に基づいて本追跡モードにおける送信波照射時間を設定する他の具体的構成として、次の構成も採用できる。
【0102】
制御部60は、物標との距離および相対速度から定まる送信波照射時間を予め規定したROM等に格納されたマップを参照して、本追跡モードにおける送信波照射時間を設定するように構成されてもよい。このようなマップは、様々なものが採用可能であるが、以下、第1マップ、第2マップ、第3マップを例示する。
【0103】
第1マップは、物標の衝突余裕時間TTCが小さいほど、長い送信波照射時間が設定されるように、物標との距離および相対速度から定まる送信波照射時間を予め規定したマップである。
【0104】
第2マップは、物標への距離を一定とすると物標の衝突余裕時間TTCが小さいほど送信波照射時間が長くなり、且つ、衝突余裕時間TTCを一定とすると物標への距離が小さいほど送信波照射時間が長くなるように、物標との距離および相対速度から定まる送信波照射時間を予め規定したマップである
【0105】
第3マップは、第1マップから定まる送信波照射時間が、物標との相対速度が小さいほど長い時間に補正されるように、物標との距離および相対速度から定まる送信波照射時間を予め規定したマップである。
【0106】
なお、第2マップおよび第3マップはいずれも、当該マップで規定される送信波照射時間が衝突余裕時間TTCに依存することに加えて、物標への距離又は相対速度といったパラメタにも依存するように、物標との距離および相対速度から定まる送信波照射時間を予め規定したマップである。このため、第2マップおよび第3マップはいずれも、これら依存性のうち衝突余裕時間TTCに対する送信波照射時間の依存性が、物標の衝突余裕時間TTCが小さいほど、長い送信波照射時間となる依存性となるように、物標との距離および相対速度から定まる送信波照射時間を規定したマップである。この観点において第1マップないし第3マップはいずれも、物標の衝突余裕時間TTCが小さいほど、長い送信波照射時間が設定されるように、物標との距離および相対速度から定まる送信波照射時間を予め規定したマップである。
【0107】
(第1実施形態の変形例4)
変形例2では、制御部60は、仮追跡モードで仮検出された物標情報に含まれる距離および相対速度に基づくことに加えて、物標の種類にも基づいて、追跡優先度を物標に設定して、追跡優先度に基づいて本追跡モードにおける送信波照射時間を設定した。
【0108】
これは、仮追跡モードで仮検出された物標情報に含まれる距離および相対速度に基づくことに加えて、物標の種類にも基づいて、本追跡モードにおける送信波照射時間を設定する構成の一例である。
【0109】
仮追跡モードで仮検出された物標情報に含まれる距離および相対速度に基づくことに加えて、物標の種類にも基づいて、本追跡モードにおける送信波照射時間を設定する他の構成としては、上述以外にも、様々な構成が採用できる。例えば、変形例3と同様に、マップを用いた次の構成も採用できる。
【0110】
制御部60は、物標との距離および相対速度ならびに物標の種類から定める送信波照射時間を予め規定したROM等に格納されたマップを参照して、本追跡モードにおける送信波照射時間を設定するように構成されてもよい。この場合のマップは、例えば、物標との距離および相対速度が同じであるなら、例えば、物標が歩行者の場合に、物標が4輪自動車の場合と比べて、長い送信波照射時間を規定するものであってもよい。
【0111】
(第1実施形態の変形例5)
変形例1では、制御部60が、仮追跡モードで仮検出された物標情報を用いて算出された衝突余裕時間TTCから追跡優先度を決定し、この追跡優先度を、物標との距離および/又は相対速度で補正する構成を例示した。制御部60は、補正した追跡優先度に基づいて、本追跡モードにおける送信波照射時間を設定した。
【0112】
これに対して、変形例5の制御部60は、仮追跡モードで仮検出された物標情報を用いて算出された衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度と、仮追跡モードで仮検出された物標との距離および/又は相対速度と、に基づいて本追跡モードにおける送信波照射時間を設定する。
【0113】
これによれば、第1実施形態で例示のような追跡優先度に加えて、物標との距離および/又は相対速度も加味して、本追跡モードにおける送信波照射時間を設定するので、第1実施形態と比べ、より状況に則した最適な精度で、本追跡モードにおいて物標情報を検出可能となる。
【0114】
この変形例5の制御部60は、例えば、衝突余裕時間TTCから定まる追跡優先度と、物標との距離および/又は相対速度と、から定まる送信波照射時間を予め規定するマップ等を参照するよう構成されてもよい。マップは、例えば、同衝突余裕時間TTCでは、物標との距離が小さいほど、長い送信波照射時間を規定するものであってもよい。マップは、例えば、同衝突余裕時間TTCでは、相対速度が小さいほど、長い送信波照射時間を規定するものであってもよい。
【0115】
(第1実施形態の変形例6)
レーダ装置10は、第1実施形態および変形例1,2で例示した様々な追跡優先度設定手法を、例えば、ユーザ操作に応じて切替可能に構成されてもよい。例えば、第1実施形態の例示の追跡優先度設定手法を標準動作と呼び、変形例1に例示の追跡優先度設定手法を近距離高精度検出動作と呼び、変形例2に例示の追跡優先度設定手法を歩行者高精度検出動作と呼ぶ。
【0116】
この場合、レーダ装置10は、標準動作、近距離高精度検出動作、および歩行者高精度検出動作を、ユーザ操作に応じて切替可能に構成され、ユーザ操作により指定された動作で追跡優先度を設定するように構成されてもよい。
【0117】
同様に、レーダ装置10は、変形例3,4で例示した様々な送信波照射時間手法を、例えば、ユーザ操作に応じて切替可能に構成され、ユーザ操作により指定された動作で送信波照射時間手法を設定するように構成されてもよい。
【0118】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態の説明を、第1実施形態との相違点を中心に行う。
【0119】
第1実施形態のレーダ装置10は、繰り返し実行される物標検出処理の各サイクルにおいて、走査モードで検出された物標全てについて、仮検出モードで物標情報を仮検出した。
【0120】
これに対して第2実施形態のレーダ装置10は、物標検出処理の各サイクルにおいて、走査モードで検出した物標のうち、前回サイクルの本追跡モードで物標情報を本検出した物標について仮検出モードでの仮検出を省略する。
【0121】
また物標検出処理の各サイクルにおいて、仮検出モードでの仮検出を省略した物標、即ち前回サイクルの本追跡モードで物標情報を本検出した物標に対する追跡優先度の設定を、前回サイクルの本追跡モードで本検出した物標情報を用いて行う。このようにすると、一旦本追跡モードで本検出した物標については、その物標が検知領域から外れるまで或いはその物標に対して本追跡不要の追跡優先度が付与されるまで、仮検出モードでの仮検出が省略される。
【0122】
詳しくは図12に示すように、S25にて制御部60は、今回サイクルのS10で検出された各物標について、前回サイクルのS70で物標情報を本検出した物標であるか否かを特定する。この特定では、制御部60は、RAMに記憶されている前回サイクルで得た物標の方位、相対速度及び距離を参照する。例えば、今回サイクルのS10で検出した物標の方位及び距離が、前回サイクルでRAMに記憶した物標の方位、相対速度及び距離から予想される今回サイクルのS10の時点での物標の方位及び距離と一致するかを判定する。
【0123】
S35にて制御部60は、前回サイクルで物標情報を本検出していないとS25で特定した各物標に対して個別に、送信波を物標にむけて照射して物標情報を仮検出する。換言すると、今回サイクルのS10で検出された物標のうち、前回サイクルのS70で物標情報を本検出した各物標については、物標情報の仮検出を省略する。
【0124】
S40の追跡優先度設定処理にて制御部60は、前回サイクルで物標情報を本検出していないとS25で特定した各物標に対しては、第1実施形態と同様に、今回サイクルで得た仮検出結果に基づいて、追跡優先度を設定する。一方、前回サイクルで物標情報を本検出したとS25で特定した各物標に対しては、前回サイクルで本検出した物標情報に基づいて追跡優先度を設定する。以後の処理S50~S70は、第1実施形態と同様である。
【0125】
以上の第2実施形態のレーダ装置10では、制御部60は、物標検出処理を繰り返し実行しているときに、走査モードで物標を検出すると、当該物標が前回物標検出処理の本追跡モードで物標情報を本検出した物標であるかを特定する。制御部60は、前回物標検出処理の本追跡モードで物標情報を本検出したと判定した物標については、今回物標検出処理の仮追跡モードでの物標情報の仮検出を省略する。さらに制御部60は、今回物標検出処理の本追跡モードで用いる当該物標への送信波照射時間を、前回物標検出処理の本追跡モードで検出した物標情報に基づいて設定する。
【0126】
この構成によれば、仮検出モードに要する時間を短縮できるので、物標検出処理を短い周期で実行することが可能となる。
【0127】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態を説明する。説明は、第1実施形態との相違点を中心に行う。
【0128】
第3実施形態のレーダ装置10は、図8に示す第1実施形態の物標検出処理に対して、図13に示すように送信波の送信波信号パターンを変更可能に設定するS65を付加した物標検出処理を実行する。S65で設定される送信波の送信波信号パターンは、S70にて物標情報を本検出する際に送信アンテナ28から送信される送信波の送信波信号パターンである。
【0129】
この第3実施形態の構成は、物標との相対速度や距離の検出能力が送信波信号パターンに依存することに着目している。ここで言う相対速度や距離の検出能力とは、相対速度や距離の検出精度(分解能)に加えて、最大検知相対速度や最大検知距離を含む。
【0130】
例えば図14に示す3つの送信波信号パターンを比較すると、中段に図示の送信波信号パターンは、上段に図示の送信波信号パターンと比べて変調帯域幅が大きい。FCM方式では、典型的には、変調帯域幅が大きいほど、距離の検出精度(分解能)を高くできる。そのため図14の中段に示す送信波信号パターンは、上段に示す送信波信号パターンと比べて、距離の検出精度が高い送信波信号パターンとなる。
【0131】
また図14の下段に図示の送信波信号パターンは、上段に図示の送信波信号パターンと比べて周波数変調時間が小さい。FCM方式では、典型的には、周波数変調時間が小さいほど、最大検知相対速度を大きくできる。そのため図13の下段に示す送信波信号パターンは、上段に示す送信波信号パターンと比べて、最大検知相対速度が大きい送信波信号パターンとなる。
【0132】
図13の物標検出処理の説明に戻る。S65にて制御部60は、物標毎に送信波信号パターンを、例えば次のように設定する。
【0133】
制御部60は、物標までの距離が小さいほど、変調帯域幅が大きい送信波信号パターンを、S70で当該物標に照射する送信波の送信波信号パターンと設定する。物標との距離が近いときは、衝突警報処理や衝突回避処理などの観点から、高精度に距離を検出することが好適だからである。なお制御部60は、このように物標までの距離に応じて送信波信号パターンを変更可能に設定する際に、例えば、物標までの各距離と、これに対応する送信波信号パターンと、の間の関係を予め規定したROM等に格納されたマップ等を参照すればよい。
【0134】
S65で用いる物標までの距離は、S10の走査又はS30の仮検出で検出した距離であってもよいし、前回サイクルのS70でこの物標の物標情報が本検出されている場合、前回サイクルで本検出した距離を用いてもよい。
【0135】
また制御部60は、自車速が大きいほど、周波数変調時間が小さい送信波信号パターンを、S70で当該物標に照射する送信波の送信波信号パターンと設定してもよい。自車速が大きいほど大きな相対速度が物標との間に発生し得るため、自車速が大きいほど最大検知相対速度を大きくすることが好適だからである。なお制御部60は、このように自車速に応じて送信波信号パターンを変更可能に設定する際に、例えば、各自車速と、これに対応する送信波信号パターンと、の間の関係を予め規定したROM等に格納されたマップ等を参照すればよい。
【0136】
以上では、物標情報に基づいて送信波信号パターンのうち周波数変調時間と変調帯域幅とを設定する例を示したが、送信信号Sの位相を設定してもよい。
【0137】
以上の第3実施形態のレーダ装置10では、制御部60は、仮追跡モードで仮検出された物標情報に基づいて本追跡モードで物標に照射する送信波の送信波照射時間を設定することに加えて、本追跡モードで物標に照射する送信波の送信波信号パターンを、物標毎に、変更可能に設定する。制御部60は、本追跡モードにおいて、設定した送信波信号パターンの送信波を送信波照射時間、物標に向けて送信アンテナから照射することで物標情報を本検出する。
【0138】
この構成によれば、本検出のために物標に照射する送信波の送信波信号パターンとして一律に所定の送信波信号パターンを用いる場合と比べて、本検出モードでの物標情報の検出能力を状況に適したものとすることができる。
【0139】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態の説明を、第1実施形態との相違点を中心に行う。
【0140】
第1実施形態のレーダ装置10は、物標検出処理において、検知領域は予め定められており、その検知領域を規定する検知角度範囲をS10にてビーム走査した。
【0141】
これに対して第4実施形態のレーダ装置10は、物標検出処理において、図15に示すように、S10よりも前に行うS5にて、レーダ装置10を搭載した車両(自車両と呼ぶ)の車速に応じて、検知領域を設定する。S10では、S5で設定した検知領域を規定する検知角度範囲をビーム走査する。S30以降の処理では、S5で設定した検知領域内に検出された物標について、物標情報を仮検出し本検出する。
【0142】
具体的には制御部60はS5にて、自車速に応じて可変な、自車両と衝突する可能性がある物標が存在し得る領域を、検知領域として設定する。その理由は、本実施形態のレーダ装置10は、運転支援ECU100による衝突警報処理や衝突回避処理で用いられる物標との距離、相対速度、方位など検出するからである。
【0143】
例えば図16および図17に示すように、検知領域を規定する最大検知距離と検知角度範囲とのうち、最大検知距離を自車速が大きいほど大きくなるように設定する。この設定は、自車両と物標との相対速度が自車速程度と仮定すれば、自車両と衝突する可能性がある物標が存在し得る領域が、自車速が大きいほど、自車から遠い位置まで延伸することに着眼してなされている。
【0144】
このような最大検知距離の設定方法の具体例としては、第1距離以上であり且つ第2距離以下の距離範囲に、最大検知距離を設定する手法がある。第1距離は、自車速と、衝突余裕時間TTCの基本時間T_refと、の積で得られる距離である。第2距離は、自車速と、衝突余裕時間TTCの上限時間T_maxと、の積で得られる距離である。
【0145】
最大検知距離は、上述したように、送信信号Sの変調帯域幅を小さくすることで大きくできる。このため制御部60は、自車速が大きいほど小さい変調帯域幅を有するFCM方式送信信号Sの生成を指示する送信信号生成指令を、送信回路22に入力すればよい。このとき制御部60は、例えば、各自車速に対応する送信波信号パターンを予め規定したROM等に格納されたマップ等を参照すればよい。
【0146】
また一般に自車速が大きいほど、単位時間あたりの物標との相対位置の変化が大きくなり得る。ここで図15に示す物標検出処理は、衝突警報処理などに用いる物標情報を検出するために繰り返し実行される処理である。そのため、自車速が大きいほど短い周期で物標検出処理を実行可能とするために、自車速が大きいほど短時間で走査モードを完了する態様にて、検知角度範囲をビーム走査すると好適である。
【0147】
そこでS5において、検知領域を規定する検知角度範囲を、自車速が大きいほど狭い角度範囲に設定してもよい。これに代えて、あるいは、これに加えて、走査モードで送信アンテナ28から発射する送信波のビーム幅とステップ角とを、自車速が大きいほど大きくしてもよい。このような態様も、自車速が大きいほど短時間で検知角度範囲をビーム走査する態様である。ビーム幅は、送信アンテナ28を構成する複数のアンテナ素子のうち電磁波を放射させるアンテナ素子を制御部60が制御することで、調整できる。ステップ角は、走査モードにおいて制御部60が順次、位相調整回路26入力するビーム方向指示指令により指示するビーム方向を調整することで、制御できる。なお制御部60は、自車速が大きいほど短時間で検知角度範囲をビーム走査する際に、例えば各自車速と、これに対応する検知角度範囲、ビーム幅、及びステップ角と、の間の関係を予め規定したROM等に格納されたマップ等を参照する。
【0148】
以上説明した第4実施形態では、制御部60は、自車速が速いほど、最大検知距離を長く設定してビーム走査する。この構成によれば、自車速が速くなっても、自車両との衝突が回避できる時間的余裕を持って物標を検出できる可能性を高くすることができる。
【0149】
また第4実施形態では、制御部60は、自車速が大きいほど、検知領域を規定する検知角度範囲を狭く設定して、走査モードにおいて、設定した検知角度範囲により規定される検知領域をビーム走査する。この構成によれば、自車速が大きいときに走査モードに要する時間を短縮可能となるために、自車速が大きいときに短い周期で、走査モードと追跡モードと本追跡モードとを有する物標検出処理を繰り返し実行可能になる。
【0150】
(他の実施形態)
以上、複数の実施形態を例示したが、開示した技術は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も開示した範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また本明細書中に示される複数の実施形態及び変形例は、可能な範囲で組み合わせて実施できる。
【0151】
例えば上記実施形態では、レーダ装置10としてミリ波レーダを例示したが、レーダ装置10は、ミリ波以外の周波数帯の電磁波を送受信して物標情報を検出する構成であってもよい。例えば、光の周波数帯の電磁波を送受信して物標を検出する構成であってもよい。
【0152】
上記実施形態では、FCM方式のレーダ装置10を例示したが、レーダ装置10はFCM方式のものに限定されない。例えばFCM方式以外の方式のレーダ装置10であってもよいし、FCMやFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)などの複数の方式を併用するレーダ装置10であってもよい。
【0153】
上記実施形態では、送信フェイズドアレイアンテナの送信波のビーム方向及び受信フェイズドアレイアンテナの指向性の方向を制御可能なレーダ装置10の構成として図1に例示の構成を示したが、これら方向を制御するためのレーダ装置10の構成は、他の構成であってよい。
【0154】
レーダ装置10の制御部60は、上述の複数の実施形態で例示した物標検出処理を組み合わせて得られる物標検出処理を実行するように構成されてもよい。例えば図8に示す物標検出処理に対して、図12に示すS25及びS35と、図15に示すS5と、を付加した物標検出処理をレーダ装置10の制御部60が実行するように構成してもよい。
【0155】
上記実施形態の制御部60は、CPUが物標検出処理を実施し、専用回路としてのコプロセッサがFFT処理を実施した。しかしこの構成は例示である。例えばCPUがROMに記憶されたプログラムを実行することでFFT処理を実施してもよい。また制御部60は、IC等の専用回路を用いて物標検出処理を実施してもよい。即ち制御部60によって実行される各種処理は、プログラムを実行するCPUによって実施されてもよいし、プログラムを実行するCPUと専用回路との多様な組み合わせによって実施されてもよいし、専用回路によって実施されてもよい。また制御部60によって実行される各種処理は、複数のマイクロコンピュータ等による分散処理によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0156】
10 レーダ装置、 28 送信アンテナ、 42 受信アンテナ、 60 制御部、 S10、S20 走査モード、 S25、S30、S35、S40 仮追跡モード、 S44 設定、 S5 走査モード、 S50 仮追跡モード、 S60、S65、S70 本追跡モード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17