(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】二次電池電極用バインダー及びその利用
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241106BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241106BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20241106BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20241106BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20241106BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241106BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241106BHJP
C08F 220/06 20060101ALI20241106BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/04 A
H01M4/1395
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/134
C08F220/06
C08F220/26
(21)【出願番号】P 2020553866
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019042064
(87)【国際公開番号】W WO2020090695
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018205228
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西脇 篤史
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 直彦
(72)【発明者】
【氏名】松崎 英男
【審査官】岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-160638(JP,A)
【文献】特開2018-076446(JP,A)
【文献】特開2004-311306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/04
H01M 4/1395
H01M 4/02
H01M 4/13
H01M 4/134
C08F 220/06
C08F 220/26
H01G 11/38
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋重合体又はその塩を有する二次電池
電極用バインダーであって、
前記架橋重合体(ただし、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びテトラヒドロフランのそれぞれ100gに25℃で5g以上溶解するものを除く。)又はその塩は、非架橋構造単位と架橋構造単位とを備え、
前記非架橋構造単位は、遊離の酸及び/又は塩であるカルボキシ基を有するエチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来して遊離の酸及び/又は塩である前記カルボキシ基を有するエチレン性不飽和カルボン酸非架橋構造単位を含み、
前記架橋構造単位は、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体に由来する架橋構造単位を含み、
前記架橋構造単位の量が、前記非架橋構造単位の総量100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下であり、
前記エチレン性不飽和カルボン酸非架橋構造単位を、前記非架橋構造単位の総量に対して30質量%以上100質量%以下含有する、バインダー。
【請求項2】
二次電池電極用組成物であって、
請求項1に記載の二次電池電極用バインダーと、
活物質と、
水と、
を含有する組成物。
【請求項3】
二次電池電極であって、
請求項1に記載の二次電池電極用バインダーと、
活物質と、
を含有する電極。
【請求項4】
さらに、前記活物質は、ケイ素含有物質である、請求項3に記載の電極。
【請求項5】
二次電池電極用バインダーの製造方法であって、
エチレン性不飽和カルボン酸単量体と、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体と、を含有する単量体組成物を重合して架橋重合体(ただし、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びテトラヒドロフランのそれぞれ100gに25℃で5g以上溶解するものを除く。)又はその塩を得る工程、
を備え、
前記架橋重合体又はその塩は、非架橋構造単位と架橋構造単位とを備え、
前記非架橋構造単位は、遊離の酸及び/又は塩であるカルボキシ基を有するエチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来して遊離の酸及び/又は塩である前記カルボキシ基を有するエチレン性不飽和カルボン酸非架橋構造単位を含み、
前記架橋構造単位は、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体に由来する架橋構造単位を含み、
前記架橋構造単位の量が、前記非架橋構造単位の総量100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下であり、
前記エチレン性不飽和カルボン酸非架橋構造単位を、前記非架橋構造単位の総量に対して30質量%以上100質量%以下含有する、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は二次電池電極用バインダー及びその利用に関する。
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年10月31日に出願された日本国特許出願である特願2018-205228の関連出願であり、この日本出願に基づく優先権を主張するものであり、その全内容は、引用により、本明細書に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
二次電池として、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等の様々な蓄電デバイスが実用化されている。これらの二次電池に使用される電極は、活物質及びバインダー等を含む電極合剤層を形成するための組成物を集電体上に塗布・乾燥等することにより作製される。例えばリチウムイオン二次電池では、負極合剤層組成物に用いられるバインダーとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)ラテックス及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む水系のバインダーが使用されている。
【0003】
一方、各種二次電池の用途が拡大するにつれて、エネルギー密度、信頼性及び耐久性向上への要求が強まる傾向にある。例えば、リチウムイオン二次電池の電気容量を高める目的で、負極用活物質としてシリコン系の活物質を用いる仕様が増えてきている。しかしながら、シリコン系活物質は充放電時の体積変化が大きいことが知られており、繰り返し使用するにつれて電極合剤層の剥離又は脱落等が生じ、その結果、電池の容量が低下し、サイクル特性(耐久性)が悪化するという問題があった。このような不具合を抑制するためには、一般的にはバインダーの結着性を高めることが有効であり、耐久性を改善する目的で、バインダーの結着性向上に関する検討が行われている。
【0004】
良好な結着性を有し、耐久性向上への効果を奏するバインダーとして、上記アクリル酸系重合体を利用したバインダーが提案されている。特許文献1では、特定の架橋剤によりポリアクリル酸を架橋したポリマーを結着剤として用いることにより、シリコンを含む活物質を用いた場合であっても電極構造が破壊されることのない電極の提供が可能であることが記載されている。特許文献2には、カルボキシ基を有する架橋重合体又はその塩であって、中和後に塩水中に分散させた際の粒子径が十分小さい重合体を含むバインダーを用いて得られた電極が、優れた結着性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/065407号
【文献】国際公開第2017/073589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
各特許文献に開示されるバインダーは、いずれも良好な結着性を付与し得るものであるが、二次電池の性能向上に伴い、より一層結着性の高い電極合剤層が求められるようになっている。また、結着性を高めるためにバインダーを増量すると、電極合剤層組成物のスラリー粘度が高くなり、塗工性が低下してしまっていた。このため、スラリー粘度の低減が可能なバインダーが求められている。
【0007】
本明細書は、結着性の向上と電極合剤層用スラリーの粘度低下とを両立できるバインダー及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、スラリー粘度を増大させることなく結着性を向上させることについて、架橋性単量体に着目して種々検討した結果、ラジカル反応性の高い(メタ)アクリロイル基を2個以上有するとともに水酸基を有する架橋性単量体を用いた架橋重合体によれば、上記課題を解決できるという知見を得た。本明細書によれば、かかる知見に基づき以下の手段が提供される。
【0009】
[1]架橋重合体又はその塩を有する二次電池電極バインダーであって、
前記架橋重合体又はその塩は、非架橋構造単位と架橋構造単位とを備え、
前記非架橋構造単位は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する非架橋構造単位を含み、
前記架橋構造単位は、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体に由来する架橋構造単位を含む、
バインダー。
[2]前記エチレン性不飽和単量体に由来する非架橋構造単位を、前記非架橋構造単位の総量に対して30質量%以上100質量%以下含有する、[1]に記載のバインダー。
[3]二次電池電極用組成物であって、
[1]又は[2]に記載の二次電池電極用バインダーと、
活物質と、
水と、
を含有する組成物。
[4]二次電池電極であって、
[1]又は[2]に記載の二次電池電極用バインダーと、
活物質と、
を含有する電極。
[5]さらに、前記活物質は、ケイ素含有物質である、[4]に記載の電極。
[6]二次電池電極用バインダーの製造方法であって、
エチレン性不飽和カルボン酸単量体と、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体と、を含有する単量体組成物を重合する工程、
を有する、製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される二次電池電極用バインダー(以下、単に、本バインダーともいう。)は、架橋重合体又はその塩(以下、単に、本重合体ともいう。)を含むことができる。本重合体は、非架橋構造単位と架橋構造単位とを備え、前記非架橋構造単位は、エチレン性不飽和単量体に由来する非架橋構造単位を含み、前記架橋構造単位は、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体に由来する架橋構造単位を含むことができる。
【0011】
本重合体は、非架橋構造単位に、カルボン酸を有するため、結着性の良好なバインダーとなる。また、本重合体は、架橋構造単位に、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する架橋性単量体に由来する架橋構造単位を含む。このような架橋性単量体は、ラジカル重合性が比較的高いため、重合体粒子内部から表面部分にわたり比較的均一に架橋構造単位が形成される。換言すると、架橋重合によって得られる本重合体粒子表面の架橋密度が過度に高まることを抑制できると考えられ、その結果、水中での本重合体粒子表面の膨潤度が比較的高く、活物質や集電体との接着面積を確保でき、本重合体粒子を含むバインダーが良好な結着性を示すと考えられる。
【0012】
また、本重合体は、架橋構造単位に、水酸基を有するため、重合体粒子内において水酸基による相互作用(水素結合等)により本重合体粒子の膨潤度を抑制して、スラリー粘度の上昇を抑制することができる。
【0013】
二次電池電極用組成物は、本バインダーを含むため、塗工容易性を備えたものとなる。また、本バインダーを含む二次電池電極は、優れた結着性を示す。また、本バインダーの製造方法、二次電池電極用組成物及び二次電池電極の製造方法によれば、電極用スラリー調製時における粘度上昇を抑制して結着性に優れる電極を提供することができる。
【0014】
本バインダーは、本重合体を含有するものであり、活物質及び水と混合することにより二次電池電極用組成物(電極合剤層組成物、以下、単に、本組成物ともいう。)とすることができる。本組成物は、集電体への塗工が可能なスラリー状態であってもよいし、湿粉状態として調製し、集電体表面へのプレス加工に対応できるようにしてもよい。銅箔又はアルミニウム箔等の集電体表面に本組成物から形成される合剤層を形成することにより、本明細書に開示される二次電池電極(以下、単に、本電極ともいう。)が得られる。
【0015】
以下、本バインダーほか、本組成物、本バインダーの製造方法、本組成物の製造方法及び本電極の製造方法等についての代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴は、さらに改善された「二次電池電極用バインダー及びその利用」を提供するために、他の特徴や開示とは別に、又は共に用いることができる。
【0016】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0017】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0018】
尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0019】
<バインダー>
本バインダーは、本重合体、すなわち、架橋重合体又はその塩を含むことができる。本バインダーは、本重合体のみを含んでいてもよいし、後述するように他のバインダー成分を含んでいてもよい。好ましくは、本重合体をバインダー成分の50質量%以上含有し、また例えば60質量%以上含有し、また例えば70質量%以上含有し、また例えば80質量%以上含有し、また例えば90質量%以上含有し、また例えば95質量%以上含有し、また例えば100質量%含有する。
【0020】
<架橋重合体の構造単位>
<非架橋構造単位>
本重合体は、非架橋構造単位と架橋構造単位とを備えている。非架橋構造単位としては、特に限定しないで、二次電池電極のバインダーとして用いることのできる架橋重合体に用いることができる各種非架橋性単量体に由来する構造単位を非架橋構造単位として備えることができる。
【0021】
非架橋構造単位としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位(以下、「(a)成分」ともいう。)を有することができる。カルボキシ基を構造単位に有することで、集電体への接着性が向上するとともに、リチウムイオンの脱溶媒和効果及びイオン伝導性に優れるため、抵抗が小さく、ハイレート特性に優れた電極が得られる。また、水膨潤性が付与されるため、本組成物中における活物質等の分散安定性を高めることができる。上記構造単位は、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合することにより本重合体に導入することができる。その他にも、(メタ)アクリル酸エステル単量体を(共)重合した後、加水分解することによっても得られる。また、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロニトリル等を重合した後、強アルカリで処理してもよいし、水酸基を有する本重合体に酸無水物を反応させる方法であってもよい。
【0022】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸;(メタ)アクリルアミドヘキサン酸及び(メタ)アクリルアミドドデカン酸等の(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸;コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体またはそれらの(部分)アルカリ中和物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の中でも、重合速度が大きいために一次鎖長の長い重合体が得られ、バインダーの結着力が良好となる点で重合性官能基としてアクリロイル基を有する化合物が好ましく、特に好ましくはアクリル酸である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてアクリル酸を用いた場合、カルボキシ基含有量の高い重合体を得ることができる。
【0023】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体のカルボキシ基に関してフリーであってもよいし少なくとも一部が塩であってもよい。塩の種類としては特に限定しないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩、アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩及び有機アミン塩等が挙げられる。これらの中でも電池特性への悪影響が生じにくい点からアルカリ金属塩及びマグネシウム塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。特に好ましいアルカリ金属塩は、リチウム塩である。
【0024】
本重合体における(a)成分の含有量は、特に限定するものではないが、例えば、本重合体の非架橋構造単位の総量に対して10質量%以上、100質量%以下含むことができる。かかる範囲で(a)成分を含有することで、集電体に対する優れた接着性を容易に確保することができる。下限は、例えば20質量%以上であり、また例えば30質量%以上であり、また例えば40質量%以上である。下限は、50質量%以上であってもよく、例えば、60質量%以上であり、また例えば70質量%以上であり、また例えば80質量%以上である。30質量%以上であると、集電体への接着性を確保でき、良好なリチウムイオンの脱溶媒和効果及びイオン伝導性を備えるため、ハイレート特性に優れた電極が得られる。また、水膨潤性により本組成物中における活物質等の分散安定性を高めることができる。(a)成分の含有量の増大により、こうした効果が向上する傾向がある。
【0025】
また、上限は、100質量%であって、100質量%も好適であり得るが、例えば、99質量%以下であり、また例えば98質量%以下であり、また例えば95質量%以下であり、また例えば90質量%以下である。
【0026】
(a)成分の範囲としては、こうした下限及び上限を適宜組み合わせた範囲とすることができるが、例えば、本重合体の非架橋構造単位の総量に対して10質量%以上、100質量%以下であり、また例えば20質量%以上、100質量%以下であり、また例えば30質量%以上、100質量%以下であり、また例えば50質量%以上、100質量%以下であり、また例えば60質量%以上、100質量%以下であり、また例えば70質量%以上100質量%以下などとすることができる。全構造単位に対する(a)成分の割合が10質量%未満の場合、分散安定性、結着性及び電池としての耐久性が不足する場合があり得る。
【0027】
非架橋構造単位の総量に対する(a)成分の含有量は、例えば、本重合体に用いる非架橋性単量体の総量に対するエチレン性不飽和カルボン酸単量体の含有量としても取得できる。
【0028】
<その他の構造単位>
本重合体は、(a)成分以外に、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「(b)成分」ともいう。)を含むことができる。(b)成分としては、例えば、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシ基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、または非イオン性のエチレン性不飽和単量体等に由来する構造単位が挙げられる。これらの構造単位は、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシ基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、または非イオン性のエチレン性不飽和単量体を含む単量体を共重合することにより導入することができる。これらの内でも、(b)成分としては、耐屈曲性良好な電極が得られる観点から非イオン性のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が好ましく、バインダーの結着性やスラリー粘度が優れる点で(メタ)アクリルアミド及びその誘導体等が好ましい。また、(b)成分として水中への溶解性が1g/100ml以下の疎水性のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を導入した場合、電極材料と強い相互作用を奏することができ、活物質に対して良好な結着性を発揮することができる。これにより、堅固で一体性の良好な電極合剤層を得ることができるため好ましい。特に脂環構造含有エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が好ましい。
【0029】
非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、バインダーの結着性やスラリー粘度が優れる点で(メタ)アクリルアミド及びその誘導体等が好ましい。(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド化合物;ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
(メタ)アクリルアミド及びその誘導体である(b)成分の割合は、非架橋構造単位の総量に対し、例えば0質量%以上、90質量%以下とすることができる。(b)成分の割合は、また例えば1質量%以上、70質量%以下、また例えば2質量%以上、60質量%以下、また例えば5質量%以上、50質量%以下、また例えば10質量%以上、30質量%以下である。また、非架橋構造単位の総量に対して(b)成分を1質量%以上含む場合、電解液への親和性が向上するため、リチウムイオン電導性が向上する効果も期待できる。また、非架橋構造単位の総量に対して70質量%以下含む場合、スラリー粘度の抑制に有用な場合がある。
【0031】
その他に非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル化合物等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。非イオン性のエチレン性不飽和単量体として(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、該(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、本重合体の非架橋構造単位の総量に対し、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは5~30質量%であり、さらに好ましくは10~30質量%である。また、この場合、上記(a)成分の割合は、本重合体の全構造単位に対し、好ましくは70~99質量%であり、より好ましくは70~95質量%であり、さらに好ましくは70~90質量%である。
【0032】
上記の中でも、リチウムイオン伝導性が高く、ハイレート特性がより向上する点から、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル及び(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル類等、エーテル結合を有する化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチルがより好ましい。
【0033】
非イオン性のエチレン性不飽和単量体の中でも、重合速度が速いために一次鎖長の長い重合体が得られ、バインダーの結着力が良好となる点でアクリロイル基を有する化合物が好ましい。また、非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、得られる電極の耐屈曲性が良好となる点でホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が0℃以下の化合物が好ましい。
【0034】
<架橋構造単位>
本重合体は、架橋構造単位として、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体に由来する架橋構造単位(以下、「(c)成分」ともいう。)を備えることができる。
【0035】
(c)成分が有することができる、2個以上の(メタ)アクリロイル基は、2個以上のメタクリロイル基、1個以上のアクリロイル基及び1個以上のメタクリロイル基、2個以上のアクリロイル基などとすることができる。特に限定するものではないが、例えば2個以上6個以下の(メタ)アクリロイル基であり、また例えば2個以上5個以下の(メタ)アクリロイル基、また例えば2個以上4個以下の(メタ)アクリロイル基、また例えば2個以上3個以下の(メタ)アクリロイル基、また例えば2個の(メタ)アクリロイル基を備えことができる。
【0036】
(メタ)アクリロイル基は、本重合体の粒子表面の架橋密度を低くして水中での膨潤度を低減することができる。結着性向上の観点からは、(c)成分が有する(メタ)アクリロイル基は、より好ましくはメタクリロイル基である。このため、(c)成分が(メタ)アクリロイル基を2個有する2官能性化化合物である場合、当該(c)成分は、例えば、結着性向上の観点からは、好ましい順に、ジメタクリロイル基、メタクリロイル基とアクリロイル基、ジアクリロイル基を備える。また、(c)成分が有する(メタ)アクリロイル基は、合剤層組成物(スラリー)の粘度の観点からは、より好ましくは、アクリロイル基である。このため、上記2官能性化合物は、例えば、スラリー粘度抑制の観点からは、好ましい順に、ジアクリロイル基、メタクリロイル基とアクリロイル基、ジメタクリロイル基を備える。二次電池電極用バインダーとして意図する結着性及びスラリー粘度のほか、架橋構造単位量を考慮して、(c)成分における(メタ)アクリロイル基の個数や組合せを適宜選択することができる。
【0037】
(c)成分が有することができる水酸基は、1個以上であればよく、特に限定するものではないが、例えば1個以上3個以下であり、また例えば1個以上2個以下であり、また例えば1個である。水酸基が多いほど、重合体粒子内の相互作用が大きくなる傾向があると考えられる。二次電池電極用バインダーとして意図するスラリー粘度等のほか、架橋構造単位量を考慮して、(c)成分における水酸基の個数を適宜選択することができる。
【0038】
(c)成分としては、特に限定するものではないが、例えば、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート等を用いることができる。(c)成分は、1種のみを用いてもよいが、2種以上を組みあわせて用いることができる。
【0039】
(c)成分は、特に限定するものではないが、例えば、非架橋構造単位の全量を100質量部としたとき、0.01質量部以上、20質量部以下である。0.01質量部未満であると、結着性が得られずスラリー粘度が高くなりすぎ、20質量部を超えると、結着性がかえって得られなくなる。(c)成分は、また例えば0.02質量部以上であり、また例えば0.04質量部以上であり、また例えば0.05質量部以上であり、また例えば0.1質量部以上であり、また例えば0.2質量部以上である。(c)成分は、また例えば15質量部以下であり、また例えば12質量部以下であり、また例えば10質量部以下であり、また例えば9質量部以下であり、また例えば7質量部以下であり、また例えば5質量部以下であり、また例えば3質量部以下であり、また例えば2質量部以下であり、又は1質量部以下である。(c)成分の好ましい含有量の範囲は、これらの上限及び下限を適宜組み合わせることができるが、例えば、0.1質量部以上15質量部以下であり、また例えば0.1質量部以上10質量部以下であり、また例えば0.2質量部以上9質量部以下であり、また例えば0.2質量部以上7質量部以下であり、また例えば0.2質量部以上5質量部以下であり、また例えば0.2質量部以上2質量部以下であり、また例えば0.2質量部以上1質量部以下である。
【0040】
本重合体は、(c)成分以外の架橋構造単位を備えることもできる。かかる架橋構造単位は、2個以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性単量体及び加水分解性シリル基等の自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体等に由来する構造単位が挙げられる。多官能重合性単量体は、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基等の重合性官能基を分子内に2つ以上有する化合物であり、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性体のトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート;メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチレンビスアクリルアミド等のビスアミド類等を挙げることができる。
【0042】
多官能アルケニル化合物としては、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース等の多官能アリルエーテル化合物;ジアリルフタレート等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物等を挙げることができる。
【0043】
(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等を挙げることができる。
【0044】
上記自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体の具体的な例としては、加水分解性シリル基含有ビニル単量体、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては、加水分解性シリル基を少なくとも1個有するビニル単量体であれば、特に限定されない。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランン等のビニルシラン類;アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル等のシリル基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸トリエトキシシリルプロピル、メタクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、メタクリル酸ジメチルメトキシシリルプロピル等のシリル基含有メタクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル等のシリル基含有ビニルエーテル類;トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等のシリル基含有ビニルエステル類等を挙げることができる。
【0046】
(c)成分以外の架橋構造単位は、特に限定するものではないが、例えば、非架橋性単量体の総量100質量部に対して、0.1質量部以上、5.0質量部以下、備えることができる。同構造単位は、0.2質量部、3.0質量部以下であってもよく、0.3質量部、2.0質量部以下であってもよく、0.5質量部、1.0質量部以下であってもよい。
【0047】
<中和度>
本重合体は、本組成物中において、中和度が20~100モル%となるように、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来のカルボキシ基等の酸基が中和され、塩の態様として用いることが好ましい。上記中和度は50~100モル%であることがより好ましく、例えば60モル%以上、また例えば65モル%以上、また例えば70モル%以上、また例えば75モル%以上、また例えば80モル%以上、また例えば85モル%以上、また例えば90モル%以上、また例えば95モル%以上である。中和度が50モル%以上の場合、水膨潤性が良好となり分散安定化効果が得やすいという点で好ましい。
【0048】
本明細書では、上記中和度は、カルボキシ基等の酸基を有する単量体及び中和に用いる中和剤の仕込み値から計算により算出することができる。なお、中和度は本重合体を、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理後の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸塩のC=O基由来のピークの強度比より確認することができる。
【0049】
<架橋重合体又はその塩の製造方法/二次電池電極用バインダーの製造方法>
本バインダーのバインダー成分である本重合体は、以下の準備工程(重合工程)により製造することができる。以下に説明する本重合体の製造方法は、本バインダーの製造方法としても実施できる。
【0050】
<準備工程>
準備工程は、本重合体を準備する工程である。本重合体を入手するか又は本重合体を重合により取得する工程(重合工程)である。重合工程は、少なくとも、既述の(a)成分が由来する非架橋性単量体と、(c)成分が由来する架橋性単量体と、を含有する単量体組成物を重合する工程である。
【0051】
<重合工程>
<重合方法>
本重合体は、溶液重合、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を使用することが可能であるが、生産性の点で沈殿重合及び懸濁重合(逆相懸濁重合)が好ましい。結着性等に関してより良好な性能が得られる点で、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合等の不均一系の重合法が好ましく、中でも均一性に優れた小粒子径の重合体微粒子を得易い点で沈殿重合法がより好ましい。沈殿重合は、原料である不飽和単量体を溶解するが、生成する重合体を実質溶解しない溶媒中で重合反応を行うことにより重合体を製造する方法である。重合の進行とともにポリマー粒子は凝集及び成長により大きくなり、数十nm~数百nmの一次粒子が数μm~数十μmに二次凝集したポリマー粒子の分散液が得られる。ポリマーの粒子サイズを制御するために分散安定剤を使用することもできる。尚、分散安定剤や重合溶剤等を選定することにより上記二次凝集を抑制することもできる。一般に、二次凝集を抑制した沈殿重合は、分散重合とも呼ばれる。
【0052】
<重合溶媒>
沈殿重合の場合、重合溶媒は、使用する単量体の種類等を考慮して水及び各種有機溶剤等から選択される溶媒を使用することができる。より一次鎖長の長い重合体を得るためには、連鎖移動定数の小さい溶媒を使用することが好ましい。
【0053】
具体的な重合溶媒としては、メタノール、t-ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びテトラヒドロフラン等の水溶性溶剤の他、ベンゼン、酢酸エチル、ジクロロエタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン及びn-ヘプタン等が挙げられ、これらの1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。又は、これらと水との混合溶媒として用いてもよい。本明細書において水溶性溶剤とは、20℃における水への溶解度が10g/100mlより大きいものを指す。上記の内、粗大粒子の生成や反応器への付着が小さく重合安定性が良好であること、析出した重合体微粒子が二次凝集しにくい(若しくは二次凝集が生じても水媒体中で解れやすい)こと、連鎖移動定数が小さく重合度(一次鎖長)の大きい重合体が得られること、及び後述する工程中和の際に操作が容易であること等の点で、メチルエチルケトン及びアセトニトリルが好ましい。
【0054】
また、同じく工程中和において中和反応を安定かつ速やかに進行させるため、重合溶媒中に高極性溶媒を少量加えておくことが好ましい。係る高極性溶媒としては、好ましくは水及びメタノールが挙げられる。高極性溶媒の使用量は、媒体の全質量に基づいて好ましくは0.05~10.0質量%であり、より好ましくは0.1~5.0質量%、さらに好ましくは0.1~1.0質量%である。高極性溶媒の割合が0.05質量%以上であれば、上記中和反応への効果が認められ、10.0質量%以下であれば重合反応への悪影響も見られない。また、アクリル酸等の親水性の高いエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合では、高極性溶媒を加えた場合には重合速度が向上し、一次鎖長の長い重合体を得やすくなる。高極性溶媒の中でも特に水は上記重合速度を向上させる効果が大きく好ましい。
【0055】
<単量体及びその使用量>
本製造方法においては、例えば、非架橋性単量体の総量に対して、(a)成分の由来となるエチレン性不飽和カルボン酸単量体を10質量%以上、100質量%以下、及び(b)成分の由来となる他のエチレン性不飽和単量体を0質量%以上、90質量%以下を含む単量体を、(c)成分の由来となる架橋性単量体を非架橋性単量体100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下含有する単量体組成物を重合する重合工程を備えることが好ましい。上記重合工程により、本重合体には、非架橋構造単位に対して、(a)成分が10質量%以上、100質量%以下導入され、(b)成分が0質量%以上、90質量%以下導入される。(a)成分が由来するエチレン性不飽和カルボン酸単量体及び(b)成分が由来する他のエチレン性不飽和単量体の使用量は、既に説明した、非架橋構造単位に対する含有量に対応するように適宜設定される。また、(c)成分が由来する架橋性単量体の使用量についても、既に説明した(c)成分の含有量に対応するように適宜設定される。
【0056】
なお、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、未中和の状態であってもよいし、また、その少なくとも一部が中和された塩の状態であってもよい。重合速度及び結着性の観点から、エチレン性不飽和カルボン酸単量体の中和度は、例えば10モル%以下であり、また例えば5モル%以下であり、未中和であることが好ましい。
【0057】
なお、本明細書によれば、こうした単量体組成物は、二次電池電極用バインダーを製造するために好適な組成物である。
【0058】
重合工程における単量体の総濃度は、例えば2.0質量%以上、また例えば4.0質量%以上、また例えば10.0質量%以上程度であってもよいが、結着性の観点から好ましくは、例えば10.0質量%以上であり、また例えば13.0質量%以上である。後述するように、塩基化合物の存在下に重合工程を行う場合には、高い単量体濃度であっても重合反応を安定して実施できる。単量体濃度はより好ましくは15.0質量%以上であり、更に好ましくは17.0質量%以上であり、一層好ましくは19.0質量%以上である。単量体濃度はなお好ましくは20.0質量%以上であり、より一層好ましくは22.0質量%以上であり、更に一層好ましくは25.0質量%以上である。一般に、重合時の単量体濃度を高くするほど高分子量化が可能であり、一次鎖長の長い重合体を製造することができる。本重合体は、十分に長い一次鎖長を有する重合体に適度な架橋を施した微架橋重合体であるため、その一次鎖長を直接測定することは、分析的に困難である。一般的には、重合体の一次鎖長は溶液粘度と相関することが知られているが、本重合体の場合にはその架橋度によっても溶液粘度は変動する。よって、上記の方法で得られた本重合体を、本重合体の構造又は特性で規定することは非常に困難である。なお、本明細書において「単量体濃度」とは、重合を開始する時点における反応液中の単量体濃度を示す。
【0059】
単量体濃度の上限値は、使用する単量体及び溶媒の種類、並びに、重合方法及び各種重合条件等により異なるが、重合反応熱の除熱が可能であれば、沈殿重合では概ね40質量%程度、懸濁重合では概ね50質量%程度、乳化重合では概ね70質量%程度である。
【0060】
<塩基化合物の使用>
本製造方法では、塩基化合物の存在下、重合工程を実施してもよい。このようにして得られた本重合体を含むバインダーは高い結着性を発揮することができる。また、塩基化合物の存在下において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体組成物を重合した場合には、重合安定性が向上し、高い単量体濃度であっても本重合体を安定に製造することができる。
【0061】
塩基化合物存在下において重合反応を行うことにより、例えば13.0質量%を超えるような高い単量体濃度条件下であっても、重合反応を安定に実施することができる。このような高い単量体濃度で重合して得られた重合体は、分子量が高いため(一次鎖長が長いため)結着性にも優れる。
【0062】
塩基化合物は、いわゆるアルカリ性化合物であり、無機塩基化合物及び有機塩基化合物のいずれを用いてもよい。無機塩基化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。有機塩基化合物としては、アンモニアの他、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン及びトリドデシルアミン等のN-アルキル置換アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びN,N-ジメチルエタノールアミン等の(アルキル)アルカノールアミン;ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、モルホリン及びジアザビシクロウンデセン(DBU)等の環状アミン;ジエチレントリアミン、N、N-ジメチルベンジルアミンなどの有機アミン化合物が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。これらの内でも、結着性の観点からアンモニアを除く有機アミン化合物が好ましい。
【0063】
重合工程において塩基化合物を用いる場合には、上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体に対し、0.001モル%以上の塩基化合物を用いることが好ましい。0.001モル%以上の塩基化合物存在下で重合反応を行うことにより、重合安定性を向上することができ、高い単量体濃度条件でも円滑に重合反応が進行する。エチレン性不飽和カルボン酸単量体に対する塩基化合物の使用量は、好ましくは0.01モル%以上であり、より好ましくは0.03モル%以上であり、さらに好ましくは0.05モル%以上である。塩基化合物の使用量は、0.3モル%以上であってもよく、0.5モル%以上であってもよい。また、塩基化合物の使用量の上限は、4.0モル%以下であることが好ましい。4.0モル%以下の塩基化合物存在下で重合反応を行うことにより、重合安定性を向上することができ、高い単量体濃度条件でも円滑に重合反応が進行する。エチレン性不飽和カルボン酸単量体に対する塩基化合物の使用量は、好ましくは3.0モル%以下であり、より好ましくは2.0モル%以下であり、さらに好ましくは1.0モル%以下である。尚、本明細書では、塩基化合物の使用量は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に対して用いた塩基化合物のモル濃度を表したものであり、中和度を意味するものではない。すなわち、用いる塩基化合物の価数は考慮しない。
【0064】
<重合開始剤>
重合開始剤は、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等の公知の重合開始剤を用いることができるが、特に限定されるものではない。熱開始、還元剤を併用したレドックス開始、UV開始等、公知の方法で適切なラジカル発生量となるように使用条件を調整することができる。一次鎖長の長い架橋重合体を得るためには、製造時間が許容される範囲内で、ラジカル発生量がより少なくなるように条件を設定することが好ましい。
【0065】
上記アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2-(tert-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0066】
上記有機過酸化物としては、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(日油社製、商品名「パーテトラA」)、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(同「パーヘキサHC」)、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(同「パーヘキサC」)、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート(同「パーヘキサV」)、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン(同「パーヘキサ22」)、t-ブチルハイドロパーオキサイド(同「パーブチルH」)、クメンハイドロパーオキサイド(日油社製、商品名「パークミルH」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(同「パーオクタH」)、t-ブチルクミルパーオキサイド(同「パーブチルC」)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(同「パーブチルD」)、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド(同「パーヘキシルD」)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(同「パーロイル355」)、ジラウロイルパーオキサイド(同「パーロイルL」)、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(同「パーロイルTCP」)、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(同「パーロイルOPP」)、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート(同「パーロイルSBP」)、クミルパーオキシネオデカノエート(同「パークミルND」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(同「パーオクタND」)、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート(同「パーヘキシルND」)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(同「パーブチルND」)、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(同「パーブチルNHP」)、t-ヘキシルパーオキシピバレート(同「パーヘキシルPV」)、t-ブチルパーオキシピバレート(同「パーブチルPV」)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイル)ヘキサン(同「パーヘキサ250」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーオクタO」)、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーヘキシルO」)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーブチルO」)、t-ブチルパーオキシラウレート(同「パーブチルL」)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(同「パーブチル355」)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(同「パーヘキシルI」)、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(同「パーブチルI」)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(同「パーブチルE」)、t-ブチルパーオキシアセテート(同「パーブチルA」)、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート(同「パーヘキシルZ」)及びt-ブチルパーオキシベンゾエート(同「パーブチルZ」)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0067】
上記無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。また、レドックス開始の場合、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、亜硫酸ガス(SO2)、硫酸第一鉄等を還元剤として用いることができる。
【0068】
重合開始剤の好ましい使用量は、用いる単量体の総量を100質量部としたときに、例えば、0.001~2質量部であり、また例えば、0.005~1質量部であり、また例えば、0.01~0.1質量部である。重合開始剤の使用量が0.001質量部以上であれば重合反応を安定的に行うことができ、2質量部以下であれば一次鎖長の長い重合体を得やすい。
【0069】
<重合温度等>
重合温度は、使用する単量体の種類及び濃度等の条件にもよるが、0~100℃が好ましく、20~80℃がより好ましい。重合温度は一定であってもよいし、重合反応の期間において変化するものであってもよい。また、重合時間は1分間~20時間が好ましく、1時間~10時間がより好ましい。
【0070】
<乾燥工程等>
乾燥工程に先立って、未反応単量体又はその塩、開始剤由来の不純物等を除去する目的で、重合工程に引き続き、遠心分離及びろ過等の固液分離工程、水、メタノール、アセトニトリル又は重合溶媒と同一の溶媒等を用いた洗浄工程を備えることが好ましい。上記洗浄工程を備えた場合、本重合体が二次凝集した場合であっても、使用時に解れやすく、さらに残存する未反応単量体が除去されることにより、結着性や電池特性の点でも有利である。
【0071】
<中和工程>
本製造方法では、エチレン性不飽和カルボン酸単量体として未中和又は部分中和塩を用いた場合、重合工程により得られた重合体分散液にアルカリ性化合物を添加して重合体を中和(以下、「工程中和」ともいう)する工程を実施した後、既述の乾燥工程で溶媒を除去して固体状態の本重合体を得てもよい。また、未中和若しくは部分中和塩状態のまま乾燥工程を実施して粉末等の固体状態の本重合体を得た後、電極合剤層スラリーを調製する際に塩を形成するためのアルカリ化合物を添加して、重合体を中和(以下、「後中和」ともいう)する工程を実施してもよい。上記の内、工程中和の方が、二次凝集体が解れやすい傾向にあり好ましい。
【0072】
工程中和などの中和工程において用いることができるアルカリ性化合物は、特に限定されないが、既に説明した、重合工程において用いうる各種のアルカリ性化合物を用いることができる。例えば、LiOH、NaOH、KOH、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。Li塩を用いた場合の電池性能の観点から、本重合体のLi塩が得られる、LiOHが好適である。
【0073】
<二次電池電極用組成物及びその製造方法>
本組成物は、二次電池の電極(合剤層)用の組成物であり、本重合体を含有するバインダー、活物質及び水を含むことができる。本組成物における本重合体の使用量は、活物質の全量に対して、例えば、0.1質量%以上20質量%以下である。上記使用量は、また例えば、0.2質量%以上10質量%以下であり、また例えば0.3質量%以上8質量%以下であり、また例えば0.4質量%以上5質量%以下である。本重合体及びその塩の使用量が0.1質量%未満の場合、十分な結着性が得られないことがある。また、活物質等の分散安定性が不十分となり、形成される合剤層の均一性が低下する場合がある。一方、本重合体及びその塩の使用量が20質量%を超える場合、電極合剤層組成物が高粘度となり集電体への塗工性が低下することがある。その結果、得られた合剤層にブツや凹凸が生じて電極特性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0074】
なお、本明細書によれば、本重合体の準備工程と、本重合体を用いて本組成物を調製する工程と、を備える、二次電池電極用組成物の製造方法も提供される。
【0075】
本重合体及びその塩の使用量が上記範囲内であれば、スラリー粘度が十分に低い本組成物が得られるとともに、集電体への密着性ひいては合剤層の結着性が極めて高い合剤層を得ることができ、結果として電池の耐久性が向上する。さらに、本重合体及びその塩は、活物質に対して少量(例えば5質量%以下)でも十分高い結着性を示し、かつ、カルボキシアニオンを有することから、界面抵抗が小さく、ハイレート特性に優れた電極が得られる。
【0076】
上記活物質の内、正極活物質としては主に遷移金属酸化物のリチウム塩が用いられ、例えば、層状岩塩型及びスピネル型のリチウム含有金属酸化物を使用することができる。層状岩塩型の正極活物質の具体的な化合物としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、並びに、三元系と呼ばれるNCM{Li(Nix,Coy,Mnz)、x+y+z=1}及びNCA{Li(Ni1-a-bCoaAlb)}等が挙げられる。また、スピネル型の正極活物質としてはマンガン酸リチウム等が挙げられる。酸化物以外にもリン酸塩、ケイ酸塩及び硫黄等が使用され、リン酸塩としては、オリビン型のリン酸鉄リチウム等が挙げられる。正極活物質としては、上記のうちの1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて混合物又は複合物として使用してもよい。
【0077】
尚、層状岩塩型のリチウム含有金属酸化物を含む正極活物質を水に分散させた場合、活物質表面のリチウムイオンと水中の水素イオンとが交換されることにより、分散液がアルカリ性を示す。このため、一般的な正極用集電体材料であるアルミ箔(Al)等が腐食される虞がある。このような場合には、バインダーとして未中和又は部分中和された本重合体を用いることにより、活物質から溶出するアルカリ分を中和することが好ましい。また、未中和又は部分中和された本重合体の使用量は、本重合体の中和されていないカルボキシ基量が活物質から溶出するアルカリ量に対して当量以上となるように用いることが好ましい。
【0078】
正極活物質はいずれも電気伝導性が低いため、導電助剤を添加して使用されるのが一般的である。導電助剤としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、黒鉛微粉、炭素繊維等の炭素系材料が挙げられ、これらの内、優れた導電性を得やすい点からカーボンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバー、が好ましい。また、カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。導電助剤は、上記の1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。導電助剤の使用量は、導電性とエネルギー密度を両立するという観点から活物質の全量に対して、例えば、0.2~20質量%とすることができ、また例えば、0.2~10質量%とすることができる。また正極活物質は導電性を有する炭素系材料で表面コーティングしたものを使用してもよい。
【0079】
一方、負極活物質としては、例えば炭素系材料、リチウム金属、リチウム合金及び金属酸化物等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの内でも、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン及びソフトカーボン等の炭素系材料からなる活物質(以下、「炭素系活物質」ともいう)が好ましく、天然黒鉛及び人造黒鉛等の黒鉛、並びにハードカーボンがより好ましい。また、黒鉛の場合、電池性能の面から球形化黒鉛が好適に用いられ、その粒子サイズの好ましい範囲は、例えば、1~20μmであり、また例えば、5~15μmである。また、エネルギー密度を高くするために、ケイ素やスズなどのリチウムを吸蔵できる金属又は金属酸化物等を負極活物質として使用することもできる。その中でも、ケイ素は黒鉛に比べて高容量であり、ケイ素、ケイ素合金及び一酸化ケイ素(SiO)等のケイ素酸化物のようなケイ素系材料からなる活物質(以下、「ケイ素系活物質」ともいう)を用いることができる。しかし、上記ケイ素系活物質は高容量である反面充放電に伴う体積変化が大きい。このため、上記炭素系活物質と併用するのが好ましい。この場合、ケイ素系活物質の配合量が多いと電極材料の崩壊を招き、サイクル特性(耐久性)が大きく低下する場合がある。このような観点から、ケイ素系活物質を併用する場合、その使用量は炭素系活物質に対して、例えば、60質量%以下であり、また例えば、30質量%以下である。
【0080】
本重合体を含むバインダーは、本重合体がエチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位((a)成分)を有する。ここで、(a)成分はケイ素系活物質に対する親和性が高く、良好な結着性を示す。このため、本バインダーはケイ素系活物質を含む高容量タイプの活物質を用いた場合にも優れた結着性を示すことから、得られる電極の耐久性向上に対しても有効であるものと考えられる。
【0081】
炭素系活物質は、それ自身が良好な電気伝導性を有するため、必ずしも導電助剤を添加する必要はない。抵抗をより低減する等の目的で導電助剤を添加する場合、エネルギー密度の観点からその使用量は活物質の総量に対して、例えば、10質量%以下であり、また例えば、5重量%以下である。
【0082】
本組成物がスラリー状態の場合、活物質の使用量は、本組成物全量に対して、例えば、10~75質量%の範囲であり、また例えば、30~65質量%の範囲である。活物質の使用量が10質量%以上であればバインダー等のマイグレーションが抑えられるとともに、媒体の乾燥コストの面でも有利となる。一方、75質量%以下であれば本組成物の流動性及び塗工性を確保することができ、均一な合剤層を形成することができる。
【0083】
また、湿粉状態で本組成物を調製する場合、活物質の使用量は、本組成物全量に対して、例えば、60~97質量%の範囲であり、また例えば、70~90質量%の範囲である。また、エネルギー密度の観点から、バインダーや導電助剤等の活物質以外の不揮発成分は、必要な結着性や導電性が担保される範囲内で出来る限り少ない方がよい。
【0084】
本組成物は、媒体として水を使用する。また、本組成物の性状及び乾燥性等を調整する目的で、メタノール及びエタノール等の低級アルコール類、エチレンカーボネート等のカーボネート類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン等の水溶性有機溶剤との混合溶媒としてもよい。混合媒体中の水の割合は、例えば、50質量%以上であり、また例えば、70質量%以上である。
【0085】
本組成物を塗工可能なスラリー状態とする場合、組成物全体に占める水を含む媒体の含有量は、スラリーの塗工性、および乾燥に必要なエネルギーコスト、生産性の観点から、例えば、25~90質量%の範囲とすることができ、また例えば、35~70質量%とすることができる。また、プレス可能な湿粉状態とする場合、上記媒体の含有量はプレス後の合剤層の均一性の観点から、例えば、3~40質量%の範囲とすることができ、また例えば、10~30質量%の範囲とすることができる。
【0086】
なお、本組成物に含まれるバインダー成分は、本重合体のみからなるものであってもよいが、これ以外にもスチレン/ブタジエン系ラテックス(SBR)、アクリル系ラテックス及びポリフッ化ビニリデン系ラテックス等の他のバインダー成分を併用してもよい。他のバインダー成分を併用する場合、その使用量は、活物質に対して、例えば、0.1~5質量%以下とすることができ、また例えば、0.1~2質量%以下とすることができ、また例えば、0.1~1質量%以下とすることができる。他のバインダー成分の使用量が5質量%を超えると抵抗が増大し、ハイレート特性が不十分なものとなる場合がある。上記の中でも、結着性及び耐屈曲性のバランスに優れる点で、スチレン/ブタジエン系ラテックスが好ましい。
【0087】
本組成物は、上記の活物質、水及びバインダーを必須の構成成分とするものであり、公知の手段を用いて各成分を混合することにより得られる。各成分の混合方法は特段制限されるものではなく、公知の方法を採用することができるが、活物質、導電助剤及びバインダーである本重合体等の粉末成分をドライブレンドした後、水等の分散媒と混合し、分散混練する方法が好ましい。本組成物をスラリー状態で得る場合、分散不良や凝集のないスラリーに仕上げることが好ましい。混合手段としては、プラネタリーミキサー、薄膜旋回式ミキサー及び自公転式ミキサー等の公知のミキサーを使用することができるが、短時間で良好な分散状態が得られる点で薄膜旋回式ミキサーを使用して行うことが好ましい。また、薄膜旋回式ミキサーを用いる場合は、予めディスパー等の攪拌機で予備分散を行うことが好ましい。
【0088】
本組成物のスラリーの粘度は、25℃におけるせん断速度60s-1のずり粘度として、例えば、500~100,000mPa・sの範囲とすることができ、また例えば、1,000~50,000mPa・sの範囲とすることができる。また例えば、本組成物のスラリー粘度は、500~10,000mPa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは、同500~7,000mPa・s、さらに好ましくは、同500~6,000mPa・sとすることができ、なお好ましくは同500~5,000mPa・sとすることが、一層好ましくは同500~4,000mPa・sとすることができ、より一層好ましくは同500~3,000mPa・sとすることができ、さらに一層好ましくは同500~2,000mPa・sとすることができ、なお一層好ましくは同500~1,800mPa・s、また好ましくは、同500~1,700mPa・sとすることができ、また好ましくは同500~1,600mPa・sであり、また好ましくは同500~1,500mPa・sである。
【0089】
一方、本組成物を湿粉状態で得る場合、ヘンシェルミキサー、ブレンダ―、プラネタリーミキサー及び2軸混練機等を用いて、濃度ムラのない均一な状態まで混練することが好ましい。
【0090】
<二次電池電極>
本電極は、銅又はアルミニウム等の集電体表面に本組成物から形成される合剤層を備えてなるものである。合剤層は、集電体の表面に本組成物を塗工した後、水等の媒体を乾燥除去することにより形成される。本組成物を塗工する方法は特に限定されず、ドクターブレード法、ディップ法、ロールコート法、コンマコート法、カーテンコート法、グラビアコート法及びエクストルージョン法などの公知の方法を採用することができる。また、上記乾燥は、温風吹付け、減圧、(遠)赤外線、マイクロ波照射等の公知の方法により行うことができる。通常、乾燥後に得られた合剤層には、金型プレス及びロールプレス等による圧縮処理が施される。圧縮することにより活物質及びバインダーを密着させ、合剤層の強度及び集電体への密着性を向上させることができる。圧縮により合剤層の厚みを、例えば、圧縮前の30~80%程度に調整することができ、圧縮後の合剤層の厚みは4~200μm程度が一般的である。
【0091】
なお、本明細書によれば、本重合体の準備工程と、本重合体を用いて本組成物を調製する工程と、本組成物を用いて二次電池電極を調製する工程と、を備える、二次電池電極の製造方法も提供される。
【0092】
本電極にセパレータ及び非水電解液を備えることにより、二次電池を作製することができる。セパレータは電池の正極及び負極間に配され、両極の接触による短絡の防止や電解液を保持してイオン導電性を確保する役割を担う。セパレータにはフィルム状の絶縁性微多孔膜であって、良好なイオン透過性及び機械的強度を有するものが好ましい。具体的な素材としては、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等を使用することができる。
【0093】
非水電解液は、二次電池に一般的に使用される公知のものを用いることができる。具体的な溶媒としては、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネート等の高誘電率で電解質の溶解能力の高い環状カーボネート、並びに、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の粘性の低い鎖状カーボネート等が挙げられ、これらを単独で又は混合溶媒として使用することができる。非水電解液は、これらの溶媒にLiPF6、LiSbF6、LiBF4、LiClO4、LiAlO4等のリチウム塩を溶解して使用される。二次電池は、セパレータで仕切られた正極板及び負極板を渦巻き状又は積層構造にしてケース等に収納することにより得られる。
【0094】
以上説明したように、本明細書に開示される二次電池電極用バインダーは、優れた結着性と合剤層スラリーの粘度低下とを両立することができる。上記バインダーを使用して得られた電極を備えた二次電池は、良好な一体性を確保でき、充放電を繰り返しても良好な耐久性(サイクル特性)を示すと予想され、例えば、車載用二次電池等に好適である。
【実施例】
【0095】
以下、本明細書に開示される本重合体の製造及び使用について具体的に例示して説明するが、本明細書の開示は、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下において、特に断りの無い限り、「部」及び「%」は、特に断りの無い限り、質量部及び質量%を意味するものとする。
【0096】
<本重合体の製造例>
<製造例1:架橋重合体塩R-1の製造>
重合には、攪拌翼、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応器を用いた。反応器内にアセトニトリル567部、イオン交換水2.20部、アクリル酸(以下、「AA」という)100部、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(共栄社化学社製、ライトエステルG-201P)0.20部及び上記AAに対して1.0モル%に相当するトリエチルアミンを仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後、加温して内温を55℃まで昇温した。内温が55℃で安定したことを確認した後、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名「V-65」)0.040部を添加したところ、反応液に白濁が認められたため、この点を重合開始点とした。単量体濃度は15.0%と算出された。
【0097】
外温(水バス温度)を調整して内温を55℃に維持しながら重合反応を継続し、重合開始点から6時間経過した時点で内温を65℃まで昇温した。内温を65℃で維持し、反応開始点から12時間経過した時点で反応液の冷却を開始し、内温が25℃まで低下した後、水酸化リチウム・一水和物(以下、「LiOH・H2O」という)の粉末52.5部を添加した。添加後室温下12時間撹拌を継続して、架橋重合体塩R-1(Li塩、中和度90モル%)の粒子が媒体に分散したスラリー状の重合反応液を得た。
【0098】
得られた重合反応液を遠心分離して重合体粒子を沈降させた後、上澄みを除去した。その後、重合反応液と同重量のアセトニトリルに沈降物を再分散させた後、遠心分離により重合体粒子を沈降させて上澄みを除去する操作を2回繰り返した。沈降物を回収し、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理を行い、揮発分を除去することにより、架橋重合体塩R-1の粉末を得た。架橋重合体塩R-1は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-1の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。
【0099】
<製造例2~15:架橋重合体塩R-2~R-15の製造>
各原料の仕込み量を表1に記載の通りとした以外は製造例1と同様の操作を行い、架橋重合体塩R-2~R-15を含む重合反応液を得た。次いで、各重合反応液について製造例1と同様の操作を行い、粉末状の架橋重合体塩R-2~R-15を得た。各架橋重合体塩は、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。尚、製造例9では、LiOH・H2Oの粉末の代わりにNaOHを用いることにより、架橋重合体Na塩(中和度90モル%)を得た。
【0100】
【0101】
以下に、表1に示す表記について説明する。
AA:アクリル酸
DMAA:ジメチルアクリルアミド
HAPMA:2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(ライトエステルG-201P、共栄社化学)
GDMA:グリセリンジメタクリレート(ライトエステルG-101P、共栄社化学)
EGDMA:二メタクリル酸エチレン(富士フィルム和光純薬)
T-20:トリメチロールプロパンジアリルエーテル(大阪ソーダ)
TEA:トリエチルアミン
AcCN:アセトニトリル
V-65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製)
【0102】
<実施例>
<実施例1>
天然黒鉛100部に粉末状の架橋重合体Li塩R-1を3.2部秤量し、予めよく混合した後、イオン交換水160部を加えてディスパーで予備分散を行った後、薄膜旋回式ミキサー(プライミクス社製、FM-56-30)を用いて周速度20m/秒の条件で本分散を15秒間行うことにより、スラリー状の負極合剤層組成物を得た。スラリー濃度(固形分)は、39.2%と算出された。
【0103】
<電極スラリーの粘度測定>
上記で得られた負極合剤層組成物(スラリー)について、アントンパール社製レオメーター(Physica MCR301)を用い、CP25-5のコーンプレート(直径25mm、コーン角度5°)にて、25℃におけるせん断速度60s-1のスラリー粘度を測定した。
【0104】
<90°剥離強度(結着性)>
可変式アプリケーターを用いて、厚さ20μmの銅箔(日本製箔社製)上に上記合剤層組成物を塗布し、通風乾燥機内で100℃×15分間の乾燥を行うことにより合剤層を形成した。その後、合剤層の厚みが70±5μm、充填密度が1.70±0.20g/cm3になるよう圧延し、負極電極を作製した。上記で得られた負極電極を25mm幅の短冊状に裁断した後、水平面に固定された両面テープに上記試料の合剤層面を貼付け、剥離試験用試料を作成した。試験用試料を60℃、1晩減圧条件下で乾燥させた後、引張速度50mm/分における90°剥離を行い、合剤層と銅箔間の剥離強度を測定した。剥離強度は15.8N/mと高く、良好であった。
【0105】
<実施例2~15、比較例1~3>
活物質及びバインダーとして使用する架橋重合体塩を表2に記載の通り用いた以外は実施例1と同様の操作により負極合剤層組成物を調製した。なお、実施例3及び実施例4では、天然黒鉛及びケイ素粒子を、遊星ボールミル(FRITSCH社製、P-5)を用いて400rpmで1時間撹拌し、得られた混合物に粉末状の架橋重合体Li塩R-2を3.2部秤量し、予めよく混合した後、実施例1と同様の操作を行うことにより合剤層組成物を調製した。各合剤層組成物についてスラリー粘度及び90°剥離強度を評価した。結果を表2に示す。
【0106】
【0107】
表2に示すように、2個以上の(メタ)アクリロイル基と水酸基とを有する架橋性単量体を用いた架橋重合体R-1~R-13を用いた実施例1~15は、合剤層スラリーの粘度が330~1800mPa・sであり、極めて良好な粘性を示した。また、これらの実施例1~15の剥離強度は、14.4~19.1N/mであり、十分な電極結着性を示した。これに対して、架橋していない製造例14の重合体を用いた比較例1では、粘度が高い一方結着性が低く、アクリロイル基を2個有するが水酸基を有しない架橋性単量体を用いた製造例15の架橋重合体を用いた比較例2では、結着性は良好であったが、スラリー粘度が依然として相当高く、アリル基を2個有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体を用いた製造例16の架橋重合体を用いた比較例3では、結着性が低いほか、スラリー粘度も依然高かった。
【0108】
以上のことから、エチレン性不飽和カルボン酸単量体と(メタ)アクリロイル基を2個有し、かつ水酸基を有する架橋性単量体とを重合して、かかる架橋性単量体に由来する架橋構造を備えることで、良好な結着性とスラリー粘度を両立できることがわかった。
【0109】
また、実施例1~2、5~7によれば、架橋性単量体の使用量が非架橋性単量体100部に対して0.1部~10部程度で結着性の良好な架橋重合体を得ることができ、0.2部~9部、0.2部~5部、0.2部~2部、0.2部~1部程度でより結着性の良好な架橋重合体を得られることがわかった。また、架橋性単量体の使用量が、0.1~10部程度で、十分に低いスラリー粘度の架橋重合体を得られることがわかった。
【0110】
また、実施例3~4によれば、活物質としてケイ素粒子を含有しても、安定した結着性とスラリー粘度を両立できることがわかった。さらに、実施例8によれば、製造例1~5とは構造の異なる架橋性単量体を用いた製造例6の架橋重合体を用いても、優れた結着性とスラリー粘度が得られることがわかった。
【0111】
さらにまた、実施例9~12によれば、塩の中和度(85%、70%及び90%)や中和する塩の種類(Li,Na,K)によらず、安定した結着性とスラリー粘度を確保できることがわかった。さらに、実施例13~15によれば、非架橋性単量体としてジメチルアクリルアミドを用いることでも、優れた結着性とスラリー粘度を確保できることがわかった。なお、ジメチルアクリルアミドを用いることで、スラリー粘度が低くなる傾向もあった。