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  • -積層体及びそれを用いた包装体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】積層体及びそれを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20241106BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D65/40 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020559972
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047452
(87)【国際公開番号】W WO2020116520
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2018228792
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】早田 智章
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/019694(WO,A1)
【文献】特開2018-001422(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187970(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/150997(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/064445(WO,A1)
【文献】特開2012-097331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも延伸フィルムからなるヒートシール層、耐熱層および無機薄膜層を有する積層体であって、前記無機薄膜層は前記耐熱層の未処理面表面に直接積層されてなり、下記要件(1)~(6)を満たすことを特徴とする積層体。
(1)少なくとも積層体のどちらか一方の最表層にヒートシール層を有しており、該ヒートシール層がエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系樹脂からなり、エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸およびエチレングリコール以外の成分となるジカルボン酸モノマーおよび/又はジオールモノマーの含有量が25モル%以上で、該ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(2)温度40℃、相対湿度90%RH環境下での水蒸気透過度が0.1[g/(m・d)]以上2[g/(m・d)]以下
(3)温度23℃、相対湿度65%RH環境下での酸素透過度が0.3[cc/(m・d・atm)]以上3[cc/(m・d・atm)]以下
(4)光学濃度(OD値)が1以上5以下
(5)98℃温湯中に3分浸漬した後の熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも-5%以上5%以下
(6)前記耐熱層は、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系樹脂からなり、エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸およびエチレングリコール以外の成分となるジカルボン酸モノマーおよび/又はジオールモノマーの含有量が20モル%以下
【請求項2】
幅方向で測定した分子配向角の最大値が0度以上35度以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記無機薄膜層を構成する無機物の主たる成分がアルミニウムであることを特徴とする請求項1または2いずれかに記載の積層体。
【請求項4】
前記ヒートシール層、前記無機薄膜層以外に耐熱層を有しており、該耐熱層がエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系樹脂からなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
折りたたみ保持角度が20度以上70度以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
ヒートシール層を構成するポリエステル系樹脂のモノマー成分中として、エチレングリコール以外のジオール成分、及び/又はテレフタル酸以外の酸成分を含有し、該ジオール成分がネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、及びジエチレングリコールからなる群より選択されてなる1種以上であり、該酸成分はイソフタル酸であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の積層体を少なくとも1層に有していることを特徴とする包装体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の積層体において、無機薄膜層の上にオーバーコート層が積層されていることを特徴とする積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の積層体を少なくとも1層に有していることを特徴とする包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性とヒートシール強度と隠蔽性に優れたポリエステル系樹脂層を有する積層体およびそれを用いた包装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品および工業製品に代表される流通物品の多くに、シーラントフィルムをヒートシール又はラミネートして得られた積層フィルムが、包装体や蓋材等の包装材として用いられている。包装材の最内面(内容物と接する面)には、高いシール強度を示すポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、アイオノマー、EMMA等のコポリマー樹脂からなるシーラント層が設けられている。これらの樹脂は、ヒートシールにより高い密着強度を達成することができることが知られている。
【0003】
しかし特許文献1に記されているようなポリオレフィン系樹脂からなる無延伸のシーラントフィルムは、油脂や香料等の有機化合物からなる成分を吸着しやすいため、内容物の香りや味覚を変化させやすいという欠点を持っている。そのため、化成品、医薬品、食品等の包装にポリオレフィン系樹脂からなるシーラント層を最内層として使用するのは適さないケースが多い。
【0004】
一方、特許文献2に記されているようなアクリロニトリル系樹脂からなるシーラントは、化成品、医薬品、食品等に含まれる有機化合物を吸着しにくいため、包装材の最内層として使用するのに適している。しかし、アクリロニトリル系フィルムは、低温域(150℃以下)におけるヒートシール強度が低いという問題がある。製袋工程において、ヒートシール温度が高温になると、シールバーのメンテナンス頻度が増えてしまうので生産性の観点で好ましくない。また、製袋の歩留まりを向上させるために、製袋ラインの高速化が進んでおり、この要求に対してもシール温度は低温であることが好ましい。アクリロニトリル系樹脂からなるシーラントは、これらの要求を満足できていない。
【0005】
このような問題に鑑みて、特許文献3には有機化合物の非吸着性と低温シール性をもったポリエステル系シーラントが開示されている。しかし、特許文献3のシーラントは、ヒートシールしたときの熱により、熱収縮を起こすだけでなく、シーラントが融けて穴が空いてしまうという問題があった。例えばシーラントを用いた包装体を作製するとき、シーラントが熱収縮すると袋の形が崩れてしまうだけでなく、穴あきが生じると袋としての保存機能を果たすことができないため好ましくない。このように、特許文献3のシーラントには、耐熱性に改善の余地があった。
【0006】
そこで、特許文献4には耐熱性を向上させたシーラントが開示されている。特許文献4のシーラントは、ヒートシール性を有する層とそれ以外の層を分け、これらの層の原料組成をそれぞれ別々に制御することにより、ヒートシール性と耐熱性を満足させている。しかし、特許文献4に記載のシーラントには、酸素や水蒸気といった気体を遮断する性能(ガスバリア性)がないため、内容物のシェルフライフが短い問題があった。また、上記のようにある程度の耐熱性は有するものの、後述する加熱処理や熱履歴に対する耐熱性は十分ではなかった。
【0007】
従来、フィルムのガスバリア性を向上させる方策としては、蒸着により無機薄膜層を設ける手段がよく知られている。たとえば、特許文献5には、ポリエステルフィルムの基材上に蒸着によって無機酸化物からなるガスバリア層を設け、さらにヒートシール性樹脂フィルムを積層させた蓋材が開示されている。ただし、特許文献5に使用されているヒートシール性樹脂フィルムの素材はポリエチレンであり、内容物に対する非吸着性に問題がある。それに対し、特許文献6にはポリエステル素材からなるシーラントに無機薄膜層を設けてガスバリア性を向上させた積層体が開示されている。ただし、特許文献6に記載の積層体を用いて包装体を作製し、それをボイル処理などの加熱処理を行うと、シーラントの熱収縮によって包装体が変形してしまい外観が悪くなるだけでなく、無機薄膜層にクラックが生じてガスバリア性が低下してしまうという問題があることを本願発明者らは見出した。すなわち、ガスバリア性と耐熱性を有した低吸着シーラントの製膜は、従来の技術レベルでは不可能であった。さらに、特許文献6のシーラントフィルムは透明であるため、包装体としたときに内容物の隠蔽性に劣るという欠点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3817846号公報
【文献】特開平7-132946号公報
【文献】国際公開第2014-175313号
【文献】特開2017-165059号公報
【文献】特開2006-27695号公報
【文献】特開2017-165060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを課題とするものである。すなわち、本発明の課題は、内容物の成分吸着が少なく、低温域で高いヒートシール強度を有し、ガスバリア性、低熱収縮性、耐熱性、及び隠蔽性に優れた積層体を提供することにある。同時に、本発明の課題は、前記の積層体を少なくとも一層として含む包装体を提供するものであり、前記の積層体において、オーバーコート層が積層されている積層体およびこの積層体を少なくとも一層として含む包装体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成よりなる。
1.少なくともヒートシール層と無機薄膜層を有する積層体であって、下記要件(1)~(5)を満たすことを特徴とする積層体。
(1)少なくとも積層体のどちらか一方の最表層にヒートシール層を有しており、該ヒートシール層がエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系成分からなり、該ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(2)温度40℃、相対湿度90%RH環境下での水蒸気透過度が0.1[g/m・d]以上2[g/m2・d]以下
(3)温度23℃、相対湿度65%RH環境下での酸素透度が0.3[cc/(m・d・atm)]以上3[cc/(m・d・atm)]以下
(4)光学濃度(OD値)が1以上5以下
(5)98℃温湯中に3分浸漬した後の熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも-5%以上5%以下
2.幅方向で測定した分子配向角の最大値が0度以上35度以下であることを特徴とする上記1に記載の積層体。
3.前記無機薄膜層を構成する無機物の主たる成分がアルミニウムであることを特徴とする上記1または2のいずれかに記載の積層体。
4.ヒートシール層、無機薄膜層以外に耐熱層を有しており、該耐熱層がエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系樹脂からなることを特徴とする上記1~3のいずれかに記載の積層体。
5.折りたたみ保持角度が20度以上70度以下であることを特徴とする上記1~4のいずれかに記載の積層体。
6.ヒートシール層を構成するポリエステル系樹脂のモノマー成分として、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分、テレフタル酸以外の酸成分を含有し、該ジオールモノマー成分がネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を含有し、該酸成分にイソフタル酸を含有することを特徴とする上記1~5のいずれかに記載の積層体。
7.上記1~6のいずれかに記載の積層体を少なくとも1層に有していることを特徴とする包装体。
8.上記1~7のいずれかに記載の積層体において、無機薄膜層の上にオーバーコート層が積層されていることを特徴とする積層体。
9.上記8に記載の積層体を少なくとも1層に有していることを特徴とする包装体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層体は、内容物の成分吸着が少なく、低温域で高いヒートシール強度を有し、ガスバリア性、低収縮性、耐熱性、及び隠蔽性に優れている。そのため、包装材料として使用すると高いシール強度を発現することができ、内容物の隠蔽が可能であり、加熱処理後も長期にわたって内容物の成分が減少しないだけでなく、劣化をも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】折りたたみ保持角度の測定方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、少なくともヒートシール層と無機薄膜層を有する積層体であって、下記要件(1)~(5)を満たすことを特徴とする積層体である。
(1)少なくとも積層体のどちらか一方の最表層にヒートシール層を有しており、該ヒートシール層がエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系樹脂からなり、該ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(2)温度40℃、相対湿度90%RH環境下での水蒸気透過度が0.1[g/m・d]以上2[g/m2・d]以下
(3)温度23℃、相対湿度65%RH環境下での酸素透過度が0.3[cc/(m・d・atm)]以上3[cc/(m・d・atm)]以下
(4)光学濃度(OD値)が1以上5以下
(5)98℃温湯中に3分浸漬した後の熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも-5%以上5%以下
【0014】
以下、本発明の積層体について説明する。
1.積層体の層構成、厚み、層比率
本発明の積層体は、ヒートシール性とガスバリア性とを両立させるため、ヒートシール層と無機薄膜層の各層を少なくとも一層ずつ有していなければならない。さらに、所定のヒートシール強度を満たすため、ヒートシール層は積層体における最表層のどちらか一方に設けなければならない。無機薄膜層は、積層体の最表層、中間層(3層以上の場合)のいずれに位置しても構わない。
本発明の積層体の層構成は前記の2層に加えて、耐熱層を設けた3層構成であると好ましい。耐熱層はエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル系樹脂から構成されることが好ましく、最表層、中間層のいずれに位置しても構わないが、中間層であることが好ましい。各層に関する構成要件は後述するが、ヒートシール層と耐熱層を含む構成の場合、エチレンテレフタレート成分含有量の最も多い層が耐熱層となる。
【0015】
本発明の積層体の層構成は、いずれか一方の最表層から順に、ヒートシール層/耐熱層/無機物薄膜層で構成されているとより好ましい。
本発明の積層体は、ヒートシール層と反対側の最表層にオーバーコート層を設けることもできる。この場合、ヒートシール層/耐熱層/無機薄膜層/オーバーコート層の順で4層が積層されている構成が好ましい。オーバーコート層を設けることにより、ガスバリア性が向上するだけでなく、他素材と積層するときのラミネート強度が向上する、擦れや屈曲によるクラックの発生が抑制できる等のメリットが生まれる。
【0016】
積層体の厚みは特に限定されないが、3μm以上200μm以下が好ましい。積層体の厚みが3μmより薄いとヒートシール強度の不足や印刷等の加工が困難になるおそれがありあまり好ましくない。また積層体の厚みが200μmより厚くても構わないが、積層体の使用重量が増えてコストが高くなるので好ましくない。積層体の厚みは5μm以上160μm以下であるとより好ましく、7μm以上120μm以下であるとさらに好ましい。
【0017】
ヒートシール層の積層体全体の厚みに対する層比率は、20%以上~80%以下であることが好ましい。ヒートシール層の層比率が20%より少ない場合、積層体のヒートシール強度が低下してしまう場合があるため好ましくない。ヒートシール層の層比率が80%よりも高くなると、積層体のヒートシール性は向上するが、耐熱性が低下してしまう場合があるため好ましくない。ヒートシール層の層比率は、30%以上~70%以下がより好ましい。
【0018】
無機薄膜層の厚みについて、無機薄膜層を蒸着金属層とする場合は2nm以上100nm以下であると好ましい(無機薄膜層についての詳細は後述する)。この層の厚みが2nmを下回ると、所定の水蒸気透過度、酸素透過率(ガスバリア性)、光学濃度(隠蔽性)を満足しにくくなるため好ましくない。一方、この層の厚みが100nmを上回っても、それに相当するガスバリア性の向上効果はなく、製造コストが高くなるため好ましくない。無機薄膜層(蒸着金属層)の厚みは、5nm以上97nm以下であるとより好ましく、8nm以上94nm以下であるとさらに好ましい。
無機薄膜層を金属箔とする場合は、金属箔の厚みが3μm以上200μm以下であると好ましい。この層の厚みが3μmを下回ると、所定の水蒸気透過度、酸素透過率(ガスバリア性)光学濃度(隠蔽性)を満足しにくくなるため好ましくない。一方、この層の厚みが200μmを上回っても、それに相当するガスバリア性の向上効果はなく、製造コストが高くなるため好ましくない。無機薄膜層(金属箔)の厚みは、5μm以上197μm以下であるとより好ましく、8μm以上194μm以下であるとさらに好ましい。
【0019】
耐熱層の層比率は、20%以上~80%以下であることが好ましい。耐熱層の層比率が20%より少ない場合、フィルムの耐熱性が低下してしまう場合があるため好ましくない。耐熱層の層比率が80%よりも高くなると、その分だけ積層体のヒートシール層の比率が低下してしまい、ヒートシール性が犠牲となって悪化してしまう場合があるため好ましくない。耐熱層の層比率は、30%以上~70%以下がより好ましい。
【0020】
オーバーコート層を設ける場合、この層の厚みは0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。オーバーコート層の厚みが0.1μmよりも薄いと、所定のガスバリア性を満足しにくくなったり、ラミネート強度が低下したりする恐れがある。一方、この層の厚みが3μmを上回っても、それに相当するガスバリア性やラミネート強度等の向上効果は少なくなり、製造コストが高くなるため好ましくない。
また、本発明の積層体の最表層(ヒートシール層を含む)には、フィルム表面の印刷性や滑り性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることも可能であり、本発明の要件を逸しない範囲で任意に設けることができる。
以下の説明では、ヒートシール層や耐熱層といったポリエステル系樹脂からなる層の総称を「ポリエステル系樹脂層」と記載し、無機薄膜層やオーバーコート層と区別する。
【0021】
2.積層体の特性
2.1.ヒートシール強度
本発明の積層体のヒートシール層同士を温度140℃、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度は、8N/15mm以上30N/15mm以下の必要がある。
ヒートシール強度が8N/15mm未満であると、シール部分がボイル処理等で容易に剥離されるため、包装体として用いることができない。ヒートシール強度は9N/15mm以上が好ましく、10N/15mm以上がより好ましい。ヒートシール強度は大きいことが好ましいが、現状得られる上限は30N/15mm程度である。
【0022】
2.2.水蒸気透過度
本発明の積層体は、温度40℃、相対湿度90%RH環境下で測定した水蒸気透過度が0.1[g/m2・d]以上2g/m以下でなければならない。水蒸気透過度が2[g/m2・d]を超えると、内容物を含む包装体として使用した場合、内容物のシェルフライフが短くなってしまうため好ましくない。一方、水蒸気透過度が0.1[g/m・d]より小さい場合はガスバリア性が高まり、内容物のシェルフライフは長くなるため好ましいが、現状の技術水準では0.1[g/m・d]が下限である。水蒸気透過度の下限が0.15[g/m・d]であっても実用上は十分といえる。水蒸気透過度の上限は1.5[g/m・d]であると好ましく、1[g/m・d]であるとより好ましい。
【0023】
2.3.酸素透過度
本発明の積層体は、温度23℃、相対湿度65%RH環境下での酸素透過度が0.3[cc/(m・d・atm)]以上3[cc/(m・d・atm)]以下でなければならない。酸素透過度が3[cc/(m・d・atm)]を超えると、内容物のシェルフライフが短くなってしまうため好ましくない。一方、酸素透過度が0.3[cc/(m・d・atm)]より小さい場合はガスバリア性が高まり、内容物のシェルフライフは長くなるため好ましいが、現状の技術水準では酸素透過度が0.3[cc/(m・d・atm)]が下限である。酸素透過度の下限が0.35[cc/(m・d・atm)]であっても実用上は十分といえる。酸素透過度の上限は2.5[cc/(m・d・atm)]であると好ましく、2[cc/(m・d・atm)]であるとより好ましい。
【0024】
2.4.光学濃度(OD値)
本発明の積層体は、光学濃度(OD値)が1以上5以下でなければならない。OD値は、後述の方法で測定された光の減衰率を対数表示したものであり、値が大きいほど光の透過量が少ないことを意味する。OD値が1を下回る(光の透過率が10%を超える)と、シーラントの隠蔽性が低下してしまい、包装体としたときに内容物が容易に視認されることになるので好ましくない。一方、OD値が高ければ高いほど隠蔽性は向上して好ましいが、現状の技術水準だとOD値は5が上限である。OD値の上限は4.8であっても実用上は十分といえる。OD値の下限は1.2であると好ましく、1.4であるとより好ましい。
【0025】
2.5.幅方向の分子配向角
本発明の積層体は、幅方向にわたって所定の長さ(全幅を有するフィルムを製膜後、小幅にスリットしたフィルムを含む)で測定したときの分子配向角の最大値が35度以下であると好ましい。分子配向角は、積層体を構成するポリエステル系樹脂からなる層(フィルム)の中の分子鎖が、フィルム全幅にわたってどれだけ真っ直ぐに配列しているかを示す指標である。分子配向角が大きいと、分子鎖が歪んで配列していることを意味する。フィルムは一般的にボーイングとよばれる、分子配向が幅方向にわたって弓形に歪む現象が発生することがあり、端部の分子配向角が大きくなる傾向にある。分子配向角の最大値は、ボーイングの大きさを示す指標であると考えられている。分子配向角が0度であると、ボーイング現象は起きておらず、分子配向角は幅方向にわたって真っ直ぐに配列しているといえる。積層体の分子配向角が30度を超えると、フィルムの歪みによって無機薄膜層の積層(蒸着)ムラが生じやすくなり、水蒸気透過度や酸素透過度が低下するおそれがある。分子配向角の最大値は30度以下であるとより好ましく、25度以下であるとさらに好ましい。分子配向角の最も好ましい下限は、前述のとおり0度である。
【0026】
2.6.熱収縮率
本発明の積層体は、98℃の温湯中で3分間に亘って処理した場合における幅方向、長手方向の温湯熱収縮率がいずれも-5%以上5%以下であると好ましい。温湯熱収縮率が5%を超えると、積層体を用いて作製した袋をレトルト処理などの加熱処理をした場合に、袋の変形が大きくなって元の形状を保てなくなるだけでなく、無機物からなる層にクラックが生じてガスバリア性が低下してしまうため好ましくない。温湯熱収縮率は4%以下であるとより好ましく、3%以下であるとさらに好ましい。一方、温湯熱収縮率が-5%を下回る場合、積層体が伸びることを意味しており、収縮率が高い場合と同様に袋が元の形状を維持できにくくなるため好ましくない。積層体の温湯熱収縮率は-4%以上4%以下であるとより好ましく、-3%以上3%以下であるとさらに好ましい。
【0027】
2.7.折りたたみ保持角度
本発明の積層体は、後述する方法で測定される折りたたみ保持角度が20度以上70度以下であると好ましい。折りたたみ保持角度が70度を超えると、袋としたときに折り目がつきにくくなるため外観が悪くなってしまい好ましくない。一方、折りたたみ保持角度は小さければ小さいほど好ましいが、本発明のカバーできる範囲は20度が下限であり、折りたたみ保持角度が25度以上であっても、実用上は好ましいものといえる。折りたたみ保持角度の上限は65度であるとより好ましく、60度であるとさらに好ましい。
【0028】
2.8.内容物の種類と吸着量
本発明の積層体は、化成品、医薬品、食品等に含まれる有機化合物を吸着しにくい特徴がある。通常、積層体を包装体として使用する際、ヒートシール層を最内層とするため、本項で記載する、本発明の積層体の吸着量とは、ヒートシール層が内容物を吸着する量を示す。
前記の有機化合物としては、例えばd-リモネン、シトラール、シトロネラール、p-メンタン、ピネン、テルピネン、ミルセン、カレン、ゲラニオール、ネロール、シトロネラール、テルピネオール、l-メントール、ネロリドール、ボルネオール、dl-カンファー、リコピン、カロテン、トランス-2-ヘキセナール、シス-3-ヘキセノール、β-イオノン、セリネン、1-オクテン-3-オール、ベンジルアルコール、オクタールツロブテロール塩酸塩、酢酸トコフェロールなどの香気成分や薬効成分が挙げられる。
積層体への吸着量は、吸着条件(吸着物質の濃度、保管期間、温度等)によって異なるが、後述の実施例に示す方法で1週間保管した場合の吸着量が0μg/cm以上2μg/cmであると好ましい。吸着量0μg/cmは、内容物がシーラントに全く吸着していないことを示す。吸着量は1.8μg/cm以下であるとより好ましく、1.6μg/cm以下であるとさらに好ましい。
本発明の積層体は、ポリエステル系樹脂からなるヒートシール層を有しているため、類似した化学構造をもつ有機化合物に対しては吸着性が高まる恐れがある。具体的には、シーラントを構成するポリエステル系樹脂が構成成分の繰り返し単位中に酸素原子を4つ有するため、有機化合物の化学構造として、酸素原子数が多い(4つに近づく)ほど、シーラントに対する有機化合物の溶解度が増加して吸着性が高まる傾向にある。例えば、酸素原子が2つあるオイゲノールや酸素原子が3つあるサリチル酸メチルを含んだ内容物を包装すると、吸着量が2μg/cmを超えやすくなってしまうため好ましくない。
【0029】
3.積層体の構成原料
3.1.ポリエステル系樹脂層の原料種
本発明の積層体を構成するポリエステル系樹脂層の原料種は、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。ここで、「主たる構成成分とする」とは、全構成成分量を100モル%としたとき、50モル%以上含有することを指す。
また、本発明のポリエステル系樹脂層に使用するポリエステルにエチレンテレフタレート以外の成分を1種以上含むことが好ましい。エチレンテレフタレート以外の成分が存在することによって、ヒートシール層のヒートシール強度が向上するためである。耐熱層においては、エチレンテレフタレート以外の成分は少ない方が好ましいが、エチレンテレフタレート以外の成分を含むことによって、ヒートシール層との収縮率差を少なくすることができ、積層体のカールを小さくする効果がある。各成分の含有量はヒートシール層と耐熱層で異なるため後述する。エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸以外の成分となりうるジカルボン酸モノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸が挙げられる。上記のカルボン酸成分の中でも、イソフタル酸を用いることでヒートシール層同士のヒートシール強度を8N/15mm以上としやすくなるので好ましい。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)はポリエステル中に含有させないことが好ましい。
【0030】
また、エチレンテレフタレートを構成するエチレングリコール以外の成分となりうるジオールモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。ただし、ポリエステルには炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)を含有させないことが好ましい。
さらに、ポリエステルを構成する成分として、ε-カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを含んでいてもよい。ポリエステルエラストマーは、ポリエステル系樹脂層の融点を下げる効果があるため、特にヒートシール層に好適に使用することができる。
【0031】
これらのなかでも、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を用いることでヒートシール層同士のヒートシール強度を8N/15mm以上としやすくなるので好ましい。ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのいずれか1種以上を用いることがより好ましく、ネオペンチルグリコールを用いることが特に好ましい。
【0032】
本発明の積層体を構成するポリエステル系樹脂層の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。また、フィルムのすべり性を良好にする滑剤としての微粒子を、少なくともフィルムの最表層に添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができる。例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどをあげることができ、有機系微粒子としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定したときに0.05~3.0μmの範囲内で必要に応じて適宜選択することができる。
【0033】
本発明の積層体を構成するポリエステル系樹脂層の中に粒子を配合する方法として、例えば、ポリエステル系樹脂(レジン)を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とを混練押出し機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。
【0034】
以下、ヒートシール層と耐熱層に含まれる好ましい成分について説明する。
【0035】
3.2.ヒートシール層に含まれるポリエステル原料の成分量
本発明の積層体の構成するヒートシール層に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸およびエチレングリコール以外の成分となるジカルボン酸モノマーおよび/又はジオールモノマーの含有量が25モル%以上であることが好ましく、27モル%以上がより好ましく、29モル%以上が特に好ましい。また、前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の上限は50モル%である。
ヒートシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが25モル%より低い場合、溶融樹脂をダイから押し出した後に例え急冷固化したとしても、後の延伸および熱固定工程で結晶化してしまうため、ヒートシール強度を8N/15mm以上とすることが困難となってしまうため好ましくない。
一方、ヒートシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが50モル%以上である場合、フィルムのヒートシール強度を高くすることができるものの、ヒートシール層の耐熱性が極端に低くなるため、ヒートシールするときにシール部の周囲がブロッキング(加熱用部材からの熱伝導によって、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)してしまうため、適切なヒートシールが困難となる。エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーの含有量は48モル%以下であるとより好ましく、46%以下であると特に好ましい。
【0036】
3.3.耐熱層に含まれるポリエステル原料の成分量
本発明の積層体を構成しうる耐熱層に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸およびエチレングリコール以外の成分となるジカルボン酸モノマーおよび/又はジオールモノマーの含有量が9モル%以上であることが好ましく、10モル%以上がより好ましく、11モル%以上が特に好ましい。また、前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の上限は20モル%である。
耐熱層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーの含有量が9モル%より低い場合、ヒートシール層との熱収縮率差が大きくなり、積層体のカールが大きくなってしまうため好ましくない。耐熱層とヒートシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の差が大きくなると、熱固定中の各層における熱収縮率差が大きくなってしまい、たとえ熱固定後の冷却を強化してもヒートシール層側への収縮が大きくなり、カールが大きくなってしまう。
一方、耐熱層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーの含有量が20モル%以上である場合、ヒートシールの際にかかる熱によって穴あきが生じるといったように、シーラントの耐熱性が低下してしまうため好ましくない。前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーの含有量は19モル%以下であるとより好ましく、18%以下であると特に好ましい。
また、カールを制御するための前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量は、上記の各層単体での量に加えて、ヒートシール層と耐熱層との差が20モル%以上35モル%以下であるとより好ましく、21モル%以上34モル%以下であるとさらに好ましい。
【0037】
3.4.無機薄膜層の原料種、組成
本発明の積層体を構成する無機薄膜層の原料種は、従来から公知の材料を使用することができ、所望のガスバリア性等を満たすために目的に合わせて適宜選択することができる。無機薄膜層の原料種としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛、鉄、マンガン等の金属、これら金属の1種以上を含む無機化合物があり、該当する無機化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物等が挙げられる。これらの無機物または無機化合物は単体で用いてもよいし、複数で用いてもよい。これらの中でも特に、アルミニウムを使用することにより、積層体のOD値を向上させることができるため好ましい。
無機薄膜層とする金属材料は、後述の方法でフィルムへ蒸着してもよいし、金属箔をフィルムへラミネートしてもよい。
【0038】
3.5.オーバーコート層の種類
本発明の積層体を構成しうるオーバーコート層の種類は特に限定されないが、ウレタン系樹脂とシランカップリング剤からなる組成物、有機ケイ素およびその加水分解物からなる化合物、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を有する水溶性高分子等、従来から公知の材料を使用することができ、所望のガスバリア性等を満たすために目的に合わせて適宜選択することができる。これらの中でも、ウレタン系樹脂とシランカップリング剤からなる組成物は、積層体の柔軟性を維持しながらガスバリア性を向上させることができるため好ましい。
また、オーバーコート層は、本発明の目的を損なわない範囲で、帯電防止性、紫外線吸収性、着色、熱安定性、滑り性等を付与する目的で、各種添加剤が1種類以上添加されていてもよく、各種添加剤の種類や添加量は、所望の目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
4.積層体の製造条件
4.1.ポリエステル系樹脂層の製膜条件
4.1.1.溶融押し出し
本発明の積層体を構成するポリエステル系樹脂層(以下、単にフィルムと記載することがある)は、上記3.1.「ポリエステル系樹脂層の原料種」で記載したポリエステル原料を、押し出し機により溶融押し出しして未延伸の積層フィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により延伸することによって得ることができる。なお、フィルムがヒートシール層と耐熱層、またはそれ以外の層を含む場合、各層を積層させるタイミングは延伸の前後いずれであっても構わない。延伸前に積層させる場合、各層の原料となる樹脂をそれぞれ別々の押し出し機によって溶融押し出しし、樹脂流路の途中でフィードブロック等を用いて接合させる方法を採用するのが好ましい。延伸後に積層させる場合、それぞれ別々に製膜したフィルムを接着剤によって貼りあわせるラミネート、単独または積層させたフィルムの表層に溶融させたポリエステル樹脂を流して積層させる押出ラミネートを採用するのが好ましい。これらの中でも、延伸前に各層を積層させる方法が好ましい。
【0040】
ポリエステル樹脂は、前記のように、エチレンテレフタレート以外の成分となり得るモノマーを適量含有するように、ジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合してポリエステル系樹脂層の原料として使用することもできる。
原料樹脂を溶融押し出しするとき、各層のポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのように各層のポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して200~300℃の温度で溶融して積層フィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0041】
その後、押し出しで溶融されたフィルムを急冷することにより、未延伸のフィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0042】
フィルムは、無延伸、一軸延伸(縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか少なくとも一方向への延伸)、二軸延伸いずれの方式で製膜されてもよい。本発明の積層体の機械強度や生産性の観点からは、一軸延伸であることが好ましく、二軸延伸であるとより好ましい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法
について説明するが、順番を逆にする横延伸-縦延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また、同時二軸延伸法でも構わない。
【0043】
4.1.2.縦延伸
縦方向(長手方向)の延伸は、未延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~90℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また90℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、ロールへのフィルムの巻き付きや連続生産によるロールの汚れやすくなるため好ましくない。
フィルム温度が65℃~90℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。また縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるだけでなく、分子配向角(ボーイング)が大きくなってしまうので、5倍以下であると好ましい。
【0044】
また、縦延伸後にフィルムを長手方向へ弛緩すること(長手方向へのリラックス)により、縦延伸で生じたフィルム長手方向の収縮率を低減することができる。さらに、長手方向へのリラックスにより、テンター内で起こるボーイング現象(歪み)を低減することができる。後工程の横延伸や最終熱処理ではフィルム幅方向の両端が把持された状態で加熱されるため、フィルムの中央部だけが長手方向へ収縮するためである。長手方向へのリラックス率は0%以上70%以下(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)であることが好ましい。長手方向へのリラックス率の上限は、使用する原料や縦延伸条件よって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系シーラントにおいては、長手方向へのリラックス率は70%が上限である。長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65℃~100℃以下の温度で加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる。加熱手段はロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いる事ができる。また、長手方向へのリラックスは縦延伸直後でなくとも、例えば横延伸(予熱ゾーン含む)や最終熱処理でも長手方向のクリップ間隔を狭めることで実施することができ(この場合はフィルム幅方向の両端も長手方向へリラックスされるため、ボーイング歪みは減少する)、任意のタイミングで実施できる。
長手方向へのリラックス(リラックスを行わない場合は縦延伸)の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。
【0045】
4.1.3.横延伸
縦延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向(長手方向と直交する方向)の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃~110℃で3~5倍程度の延伸倍率で横延伸を行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75℃~120℃になるまで行うとよい。
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み精度が悪化するだけでなく、ヒートシール強度や収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0046】
4.1.4.最終熱処理
中間ゾーンの通過後は最終熱処理ゾーンにて、180℃を超えて250℃以下で熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度が180℃以下であると、積層体の98℃温湯収縮率が5%よりも高くなってしまうため好ましくない。熱処理温度が高くなるほどフィルムの収縮率は低下するが、250℃よりも高くなるとフィルムのヘイズが15%よりも高くなる、フィルムの分子配向角が30℃を超える、最終熱処理工程中にフィルムが融けてテンター内に落下するといった問題が生じやすくなるため好ましくない。
最終熱処理の際、テンターの幅方向におけるクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向へのリラックス)によって幅方向の収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上10%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うことが好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの幅方向への収縮率)の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系シーラントにおいては、幅方向へのリラックス率は10%が上限である。
さらに、最終熱処理の際に、テンターの長手方向におけるクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(長手方向へのリラックス)によって長手方向の収縮率を低減させることができるだけでなく、分子配向角も低減することができる。そのため、最終熱処理時における長手方向へのリラックスは好ましい態様である。長手方向へのリラックス率が高いほど長手方向の収縮率が下がったり、分子配向角が低下したりするものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの長手方向への収縮率)の上限は使用する原料や長手方向への延伸・リラックス条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のポリエステル系シーラントにおいては、長手方向へのリラックス率は10%が上限である。
【0047】
また、最終熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
【0048】
4.1.5.冷却
最終熱処理通過後は冷却ゾーンにて、10℃以上30℃以下の冷却風でフィルムを冷却することが好ましい。このとき、テンター出口のフィルムの実温度が、ヒートシール層もしくは耐熱層いずれか低い方のガラス転移温度より低い温度になるよう、冷却風の温度を下げたり風速を上げたりして冷却効率を向上させることが好ましい。なお実温度とは、非接触の放射温度計で測定したフィルム表面温度のことである。テンター出口のフィルムの実温度がガラス転移温度を上回ると、クリップで把持していたフィルム両端部が解放されたときにフィルムが熱収縮してしまう。このとき、フィルムは熱収縮率の大きいヒートシール層へカールしてしまうため好ましくない。
冷却ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度がガラス転移温度に到達しないまま冷却ゾーンを通過してしまうため、曲率半径が小さくなってしまう。通過時間は長ければ長いほど冷却効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、フィルムロールが得られる。
【0049】
4.2.無機薄膜層の積層方法
本発明の積層体における無機薄膜層の積層方法は特に限定されず、本発明の目的を損なわない限り公知の製造方法を採用することができる。例えば金属材料を真空蒸着法、スパッター法、イオンブレーティングなどのPVD法(物理蒸着法)、あるいは、CVD法(化学蒸着法)などで蒸着する方法が挙げられる。さらに、アルミ箔等の金属箔をフィルムにラミネートする方法を採用してもよい。これらの中でも、特に生産の速度や安定性の観点から真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法における加熱方式としては、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱等を用いることができる。また、反応性ガスとして、酸素、窒素、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を用いたりしてもよい。また、基板にバイアス等を加える、基板温度を上昇あるいは冷却する等、本発明の目的を損なわない限りは条件を変更してもよい。
【0050】
4.3.オーバーコート層の成膜方法
本発明の積層体におけるオーバーコートを積層する方法は特に限定されず、グラビアコート法、リバースコート法、ディッピング法、ローコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法、ダイコート法、バーコート法等、従来公知のコーティング方法が使用でき、所望の目的に応じて適宜選択することができる。
乾燥方法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射など、熱をかける方法を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。乾燥方法において、加熱温度は、60℃以上200℃以下程度の範囲内が好ましく、80℃以上180℃以下程度の範囲内がより好ましい。乾燥温度が60℃以上であると、所望のバリア性が発現され良好である。乾燥温度が180℃以下であると、蒸着短時間であれば、基材の変形や蒸着膜にクラックが発生することがないため好ましい。
【0051】
5.包装体の構成、製袋方法
上記特性を有する積層体は、包装体として好適に使用することができる。本発明の積層体は単独で袋にすることもできるが、他の材料を積層してもよい。積層体を構成する他の層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを構成成分に含む無延伸フィルム、他の非晶性ポリエステルを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ナイロンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ポリプロピレンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。包装体に積層体を用いる方法は特に限定されず、塗布形成法、ラミネート法、ヒートシール法といった従来公知の製造方法を採用することができる。
包装体は、少なくとも一部が本発明に係る積層体で構成されていてもよいが、包装体の全部に上述の積層体が存在している構成が、包装体のガスバリア性が向上するため好ましい。また、包装体は、本発明の積層体がどの層にきてもよいが、内容物に対する非吸着性、袋を製袋するときのシール強度を考慮すると、本発明の積層体のヒートシール層が袋の最内層となる構成が好ましい。
本発明の積層体を有する包装体を製袋する方法は特に限定されず、ヒートバー(ヒートジョー)を用いたヒートシール、ホットメルトを用いた接着、溶剤によるセンターシール等の従来公知の製造方法を採用することができる。
本発明の積層体を有する包装体は、食品、医薬品、工業製品等の様々な物品の包装材料として好適に使用することができる。
【実施例
【0052】
次に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
積層体の評価方法は以下の通りである。なお、積層体の面積が小さいなどの理由で長手方向と幅方向が直ちに特定できない場合は、仮に長手方向と幅方向を定めて測定すればよく、仮に定めた長手方向と幅方向が真の方向に対して90度違っているからといって、とくに問題を生ずることはない。
【0053】
<積層体の評価方法>
[無機薄膜層の厚み]
1mm×10mmに切り出したサンプルを電子顕微鏡用のエポキシ樹脂に包理した後、ウルトラミクロトームの試料ホルダに固定し、包理したサンプル片の短辺に平行な断面薄切片を作製した。次いで、この切片薄膜の著しく損傷のない部位において、透過型電子顕微鏡(日本電子製、JEM2010)を用いて観測した。加速電圧は200kV、2000
0倍で観測後、各層の膜厚を100点計測し、その平均を膜厚とした。
[ヒートシール強度]
ヒートシール強度はJIS Z1707に準拠して測定した。具体的な手順を示す。ヒー
トシーラーにて、サンプルのヒートシール面同士を接着した。ヒートシール条件は、上バー温度140℃、下バー温度30℃、圧力0.2MPa、時間2秒とした。接着サンプルは、シール幅が15mmとなるように切り出した。剥離強度は、万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で測定した。剥離強度は、15mmあたりの強度(N/15mm)で示す。
【0054】
[水蒸気透過度]
水蒸気透過度はJIS K7126 B法に準じて測定した。水蒸気透過度測定装置(PERMATRAN-W3/33MG MOCON社製)を用いて、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気下において、積層体のヒートシール層側から無機薄膜層側に調湿ガスが透過する方向で水蒸気透過度を測定した。なお、測定前には湿度65%RH環境下で、サンプルを4時間放置して調湿した。
【0055】
[酸素透過度]
酸素透過度はJIS K7126-2法に準じて測定した。酸素透過量測定装置(OX-TRAN 2/20 MOCOM社製)を用いて、温度23度、湿度65%RHの雰囲気下において、積層体のヒートシール層側から無機薄膜層側に酸素が透過する方向で酸素透過度を測定した。なお、測定前には湿度65%RH環境下で、サンプルを4時間放置して調湿した。
【0056】
[光学濃度(OD値)]
白黒透過濃度計(伊原電子工業製、Ihac-T5)を用いて、白色光での光学濃度(OD値)を測定した。測定は外光が遮光された暗室内で実施した。測定サンプルの任意の5箇所より切り取った50mm四方のサンプル5枚について、サンプルに入射する投射光と透過後の透過光との比を常用対数で表し、下式1にしたがってOD値を算出した。なお、測定は5回行い、その平均値を求めてOD値とした。

OD値= l o g( 投射光/ 透過光) = l o g( 1 / 透過率) 式1
【0057】
[分子配向角]
分子配向角測定装置(王子計測器株式会社製MOA-6004)を用いて、積層体の幅方向に対する分子配向角を測定した。サンプルは、積層体(幅1000mm)の両端部(L端、R端)から10cm×10cmの正方形に切り出した。L端、R端の分子配向角をそれぞれ2回ずつ長手方向にわたって測定し、いずれか大きい方の測定結果を積層体の分子配向角として採用した。
【0058】
[温湯熱収縮率]
サンプルを10cm×10cmの正方形に裁断し、98±0.5℃の温水中に無荷重状態で3分間浸漬して収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から出した。その後、サンプルの縦および横方向の寸法を測定し、下式2にしたがって各方向の熱収縮率を求めた。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。

収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式2

縦および横方向の熱収縮率を以下の基準で評価した。判定基準は以下の通りである。

判定○ 熱収縮率 5%以下
判定× 熱収縮率 5%以上
【0059】
[折りたたみ保持角度]
28℃50%RH環境の恒温室でサンプルを24時間放置した。その後直ちに、サンプルを20℃65%RH環境で10cm×10cmの正方形に裁断し、4つ折にした(5cm×5cmの正方形)。サンプルを折りたたむ際は、最初の2つ折りで出来た長方形の短辺が長手方向になるようにし、ヒートシール層が山折りとなるようにした。その後、大きさが10cm×15cmで厚みが2mmであるガラス2枚に4つ折りのサンプルを挟み、5kgのおもりをガラスの上に置いて10秒間プレスした。4つ折りのサンプルからおもりを外した後、最後にできた折目を基点としてサンプルが開いた角度を図1のようにして測定した。なお、サンプルが完全に折畳まれた状態は0度、完全に開いた角度は180度である。
【0060】
[耐熱性評価]
サンプルのヒートシール層(面)と未延伸のポリエチレンテレフタレートシート(200μm、コーティング処理やコロナ処理等の表面処理は行っていない)とが向かい合うようにし、ヒートシーラーのバーで熱シールした。ヒートシール条件は、上バー温度230℃、下バー温度30℃、圧力0.6MPa、時間1秒とした。接着したサンプルのシール線から目視で耐熱性を評価した。耐熱性は、サンプルの穴あきの有無で評価した。判定基準は以下の通りである。
判定○ 穴あきなし
判定× 穴あきあり
【0061】
[吸着性]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、ヒートシール面を内側にした状態で2枚を重ね、フィルムの端部より1cmの位置をヒートシールして袋を作成した。袋に内容物0.5mlの入ったアルミカップを入れ、フィルム端部より1cmの位置をヒートシールして袋を閉じて密閉した。前記内容物にはD-リモネン(東京化成工業株式会社製)、L-メントール(ナカライテスク株式会社製)を使用した。30℃環境下で20時間保持
した後、フィルム袋のアルミカップの口部に接する面より5cm×5cmの正方形を切り取り、切り取ったフィルムを抽出溶媒4mlに浸した状態で、超音波で30分間抽出した。抽出溶媒には99.8%エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。島津製作所社製のガスクロマトグラフ「GC-14B」を用いて抽出溶液中の内容物の濃度を定量した。ガスクロマトグラフは、カラムに「GC-14A Glass I.D.2.6φx1.1m PET-HT 5% Uniport HP 80/100(ジーエルサイエンス社製)」、検出器にFID,キャリアガスにNを用い、キャリアガス流量35ml/分、注入量1μlにて面積百分率法で定量した。吸着量はヒートシール面1cmあたりの吸着量(μg/cm)で示し、低吸着性を以下のように判定した。
判定○ 0μg/cm以上、2μg/cm未満
判定× 2μg/cm以上
【0062】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル(A)の組成を表1に示す。
【0063】
[合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(G)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(G)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。ポリエステル(B)~(G)の組成を表1に示す。なお、各ポリエステルの固有粘度は(B)0.73dl/g、(C)0.72dl/g、(D)0.73dl/g、(E)0.8dl/g、(F)0.7dl/g、(G)0.75dl/gであった。
【0064】
【表1】
【0065】
[フィルム1]
ヒートシール層の原料としてポリエステルBとポリエステルEとポリエステルGを質量比67:24:8で混合し、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルEとポリエステルGを質量比48:38:6:8で混合した。
ヒートシール層及び耐熱層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270℃で溶融させた。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムは片側がヒートシール層、もう片側が耐熱層(ヒートシール層/耐熱層の2種2層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、ヒートシール層と耐熱層の厚み比率が50/50となるように吐出量を調整した。
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が78℃になるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸した。縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで100℃に設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0066】
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が105℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、190℃で5秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを30℃の冷却風で5秒間冷却した。このとき、テンター出口のフィルム実温度は45℃であった。両縁部を裁断除去して幅5000mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。この幅5000mmのフィルムロール(ミルロール)から、幅1000mmにスリットしたフィルムロールを5つ得た。スリットした5つのフィルムロールのうち、ミルロールを製造するときの流れ方向に向かって右端(R端)に該当するロールをフィルムサンプルとした。得られたフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件を表2示す。
【0067】
[フィルム2]
ヒートシール層の原料としてポリエステルBとポリエステルCとポリエステルGを質量比40:42:8で混合し、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルCとポリエステルDとポリエステルGを質量比64:8:22:6で混合した。
ヒートシール層及び耐熱層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、上記のフィルム1と同様の方法で溶融・積層させて吐出し、冷却固化させて未延伸の積層フィルムを得た。
この未延伸の積層フィルムを同時二軸延伸機に導いて表面温度が100℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、長手方向(縦方向)に3.5倍、幅方向(横方向)に4.0倍となるよう同時に二軸延伸した。同時二軸延伸した後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、200℃で10秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム長手方向のクリップ間隔と幅方向のクリップ間隔を同時に狭めることにより、長手方向に15%、幅方向に3%のリラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを30℃の冷却風で5秒間冷却した。このとき、テンター出口のフィルム実温度は45℃であった。両縁部を裁断除去して幅5000mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムは、フィルム1と同様の方法で幅1000mmにスリットした。このフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件を表2示す。
【0068】
[フィルム3~6]
フィルム3~6もフィルム1またはフィルム2と同様にして、原料の配合比率、層構成、縦延伸、長手方向へのリラックス、横延伸、最終熱処理、冷却条件を種々変更したポリエステル系フィルムを製膜した。各フィルムの製造条件を表2に示す。なお、フィルム3はフィルム1と同様の積層フィルムで逐次二軸延伸方式、フィルム4、5はヒートシール層もしくは耐熱層の単層フィルムで同時二軸延伸方式、フィルム6は耐熱層の両側にヒートシール層を有する2種3層で逐次二軸延伸方式を採用したフィルムである。
[フィルム7]
フィルム7は、東洋紡株式会社製リックスフィルム(登録商標)L4102-25μmを使用した。フィルム1~6と併せて表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
[実施例1]
フィルム1の耐熱層側に、蒸着源としてアルミニウムを用いて、真空蒸着法でアルミニウム(AL)薄膜を成膜して積層体を作製した。
得られた積層体の特性は上記の方法によって評価した。層構成と評価結果を表3に示す。
【0071】
[実施例2~4、比較例1~5]
実施例1と同様の方法で、フィルムを変更して積層体を作製した。
得られた積層体の特性は上記の方法によって評価した。層構成と評価結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
[フィルムの評価結果]
表3より、実施例1から4までの積層体はいずれも、ヒートシール強度、水蒸気透過度、酸素透過度、光学濃度、熱収縮率、折りたたみ保持角度、耐熱性、非吸着性に優れており、良好な評価結果が得られた。
一方、比較例1の積層体は、ヒートシール強度、熱収縮率、折りたたみ保持角度、耐熱性、吸着性には優れるものの、金属薄膜層がないため、水蒸気透過度、酸素透過度が所定の範囲よりも高く、光学濃度が低くなった。
比較例2のシーラントはヒートシール強度、水蒸気透過度、酸素透過度、光学濃度、折りたたみ保持角度、非吸着性には優れるが、最終熱処理温度が100℃であるフィルム4を単体で使用したため、熱収縮率が大きく、耐熱性評価が×となった。
比較例3のシーラントは、熱収縮率、耐熱性、非吸着性には優れるものの、ヒートシール強度、水蒸気透過度、酸素透過度、光学濃度、折りたたみ保持角度に劣っていた。
比較例4のシーラントは、ヒートシール強度、水蒸気透過度、酸素透過度、光学濃度、折りたたみ保持角度、非吸着性には優れるが、最終熱処理温度が115℃であるフィルム6を単体で使用したため、熱収縮率が大きく、耐熱性評価が×となった。
比較例5のシーラントは、ヒートシール強度、水蒸気透過度、酸素透過度、光学濃度、熱収縮率、耐熱性には優れるが、折りたたみ保持角度が70度を超えており、また、ヒートシール層にオレフィン系素材を使用したため非吸着性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は内容物の成分を吸着が少なく、低温域でのヒートシール強度、ガスバリア性、隠蔽性に優れた積層体に関するものであり、ヒートシールによる穴あきがなく、折れ性に優れているため、包装材料として好適に使用できる。また、本発明の積層体を少なくとも1層として他のフィルムと積層体とすることもでき、該積層体から包装体を提供することができる。
図1