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特許7581887濃度測定用のキット及び濃度を測定するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】濃度測定用のキット及び濃度を測定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20241106BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20241106BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20241106BHJP
   G01N 33/22 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N21/78 Z
G01N31/00 Q
G01N33/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021003248
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108337
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉田 孝男
(72)【発明者】
【氏名】塩永 亮介
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-042013(JP,A)
【文献】特開2001-124790(JP,A)
【文献】特開2007-046922(JP,A)
【文献】特開平11-153467(JP,A)
【文献】特開2011-158437(JP,A)
【文献】特開昭62-091860(JP,A)
【文献】国際公開第2016/073672(WO,A1)
【文献】澤本武博ほか,ドリル削孔粉と硝酸銀溶液を用いた硬化コンクリート中の塩化物イオン量の簡易測定方法に関する研究,コンクリート工学年次論文集,2017年06月15日,Vol.39,Article No.1316
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/24,33/38,
G01N 21/77,21/78
G01N 31/00,31/22,
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる濃度の一組の液体状の試薬と、
前記一組の液体状の試薬を収容する複数のポケットを含む、一体型の一組のシールされた容器と、
前記複数のポケットに対向して配置されかつ各々が所定の容量を有する複数の貫通孔を含む、計量部材と、
を備える、濃度測定用のキット。
【請求項2】
前記複数のポケット及び前記複数の貫通孔を塞ぐ蓋を更に備える、請求項に記載の濃度測定用のキット。
【請求項3】
前記複数のポケットは、同量の試薬を収容し、かつ、前記複数の貫通孔は、同じ容量を有する、請求項に記載の濃度測定用のキット。
【請求項4】
各容器は、当該容器中の試薬によって検出可能な濃度を示すマークを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の濃度測定用のキット。
【請求項5】
前記一組の液体状の試薬は、硝酸銀溶液である、請求項1~のいずれか一項に記載の濃度測定用のキット。
【請求項6】
異なる濃度の複数の液体状の試薬を収容する複数のポケットを含む、一体型の一組のシールされた容器を準備する工程と、
粉状の試料を準備する工程と、
各々が所定の容量を有する複数の貫通孔を含む計量部材を使用して、前記複数の液体状の試薬の各々に規定量の前記粉状の試料を加える工程であって、前記複数の貫通孔は、前記複数のポケットに対向して配置され、前記粉状の試料は、前記複数の貫通孔を通じて、前記複数の液体状の試薬の各々に加えられる、工程と、
前記複数の液体状の試薬の変化に基づいて、前記粉状の試料中の特定の成分の濃度を測定する工程と、
を含む、濃度を測定するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濃度測定用のキット及び濃度を測定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、様々な要因によって劣化し得る。例えば、塩化物イオンはコンクリートに侵入し、内部の鉄筋の不動態被膜を破壊し得る。したがって、コンクリート構造物をより良い状態に維持するために、コンクリート中の特定の成分の濃度が測定され得る。例えば、特許文献1は、コンクリート中の塩化物イオン濃度を測定するための方法を開示している。この方法では、硬化コンクリートから粉状の試料が採取され、加熱された蒸留水で一定時間塩化物イオンが溶出される。上澄み水の塩化物イオン濃度が、電量滴定法によって測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-158437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、測定に先立って、コンクリートを含む溶液を準備する必要がある。保守現場でそのような溶液を準備することは、作業者にとって負担になり得る。
【0005】
本開示は、上記のような課題を考慮して、試料を含む溶液を予め準備する必要を省いて作業者の負担を低減することができる、濃度測定用のキット及び濃度を測定するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、異なる濃度の一組の液体状の試薬と、一組の液体状の試薬を収容する複数のポケットを含む、一体型の一組のシールされた容器と、複数のポケットに対向して配置されかつ各々が所定の容量を有する複数の貫通孔を含む、計量部材と、を備える、濃度測定用のキットである。
【0009】
キットは、複数のポケット及び複数の貫通孔を塞ぐ蓋を更に備えてもよい。
【0010】
複数のポケットは、同量の試薬を収容してもよく、かつ、複数の貫通孔は、同じ容量を有してもよい。
【0011】
各容器は、当該容器中の試薬によって検出可能な濃度を示すマークを有してもよい。
【0012】
一組の液体状の試薬は、硝酸銀溶液であってもよい。
【0013】
本開示の他の態様は、異なる濃度の複数の液体状の試薬を収容する複数のポケットを含む、一体型の一組のシールされた容器を準備する工程と、粉状の試料を準備する工程と、各々が所定の容量を有する複数の貫通孔を含む計量部材を使用して、複数の液体状の試薬の各々に規定量の粉状の試料を加える工程であって、複数の貫通孔は、複数のポケットに対向して配置され、粉状の試料は、複数の貫通孔を通じて、複数の液体状の試薬の各々に加えられる、工程と、複数の液体状の試薬の変化に基づいて、粉状の試料中の特定の成分の濃度を測定する工程と、を含む、濃度を測定するための方法である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、試料を含む溶液を予め準備する必要を省いて作業者の負担を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態に係るキットを示す概略的な斜視図である。
図2図2は、図1のキットを示す概略的な分解斜視図である。
図3図3は、図1中のIII-III矢視断面図である。
図4図4は、容器からシール部材をはがすことを示す概略的な斜視図である。
図5図5は、変色した試薬を示す概略的な平面図である。
図6図6は、実施形態に係る方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示される寸法、材料、及び、具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
[キット100]
図1は、実施形態に係るキット100を示す概略的な斜視図である。濃度測定用のキット(本開示において、単に「キット」とも称され得る)100は、粉状の試料S中の特定の成分の濃度を測定するために使用される。例えば、本実施形態では、キット100は、粉状のコンクリート中の塩化物イオンの濃度を測定するために使用される。キット100は、パック1と、計量部材2と、蓋3と、を備える。
【0018】
図2は、図1のキット100を示す概略的な分解斜視図である。パック1は、特定の成分を検出可能な液体状の試薬Lを収容する。本実施形態では、試薬Lは、例えば、硝酸銀溶液である(詳しくは後述)。パック1は、プレート10と、シール部材11と、を有する。
【0019】
図3は、図1中のIII-III矢視断面図である。なお、図3には、シール部材11は示されていない。プレート10は、一組の容器12を含む(本実施形態では、5つの容器12)。言い換えると、本実施形態では、一組の容器12は、一体型のプレート10として形成されている。容器12の数は、5つに限定されず、2つ以上であることができる。プレート10は、例えば、長方形状を有する。プレート10の形状は、これに限定されず、複数のポケット13(後述)を含む任意の形状であることができる。
【0020】
各容器12は、その上面にポケット13を含む。複数のポケット13は、異なる濃度の複数の液体状の試薬Lを収容する(詳しくは後述)。複数のポケット13は、長方形のプレート10の長手方向に沿って、1列に直線状に配置される。複数のポケット13は、等間隔で配置される。複数のポケット13の配置は、これに限定されず、任意の配置であることができる。複数のポケット13は、同じ容量を有し、同量の試薬Lを収容する。各ポケット13の断面形状は、半円形状を有する。各ポケット13の形状は、これに限定されず、液体を収容可能な任意の形状であることができる。図2を参照して、各容器12は、ポケット13の近傍にマーク14を有する。マーク14は、各容器12中の硝酸銀溶液で検出可能な塩化物イオンの濃度を示す(詳しくは後述)。
【0021】
図4は、容器12からシール部材11をはがすことを示す概略的な斜視図である。なお、図4(及び図2)では、より良い理解のために、シール部材11は半透明に描かれているが、シール部材11は不透明であってもよい。各容器12は、シール部材11によって塞がれている。例えば、シール部材11は、プレート10に貼り付けられたフィルムであってもよい。例えば、シール部材11は、プレート10の上面と概ね同様のサイズを有し、全てのポケット13を覆ってもよい。代替的に、シール部材11は、より小さなサイズを有してもよく、各容器12に対して別個に設けられてもよい。
【0022】
図4の上図に示されるように、シール部材11は、測定の前には、複数の容器12を塞ぐ。したがって、測定の前に、試薬Lが容器12からこぼれることを防ぐことができる。測定の際には、容器12は開けられる。例えば、図4の下図に示されるように、シール部材11は、プレート10からはがされてもよい。代替的に、シール部材11は、各ポケット13に沿って破かれてもよい。
【0023】
図2を参照して、計量部材2は、例えば長方形の平板形状を有する。例えば、計量部材2の上面及び下面は、プレート10の上面及び下面と概ね同じサイズを有してもよい。計量部材2の形状は、これに限定されず、複数の貫通孔21(後述)を含む任意の形状であることができる。図3を参照して、計量部材2は、測定の際に、蓋3を介してプレート10の上(すなわち、一組の容器12の上)に配置される。
【0024】
計量部材2は、複数の貫通孔21を含む。複数の貫通孔21は、測定の際に、一組の容器12の複数のポケット13に対向して配置される。複数の貫通孔21は、長方形の計量部材2の長手方向に沿って、1列に直線状に配置される。複数の貫通孔21は、等間隔で配置される。複数の貫通孔21の配置は、これに限定されず、任意の配置であることができる。各貫通孔21は、規定の量の粉状の試料Sを収容するように寸法決めされる。複数の貫通孔21は、同じ容量を有する。例えば、各貫通孔21は、第1の部分22と、第2の部分23と、を含む。第1の部分22は、第2の部分23の上方に位置し、第2の部分よりも大きな容量を有する。第1の部分22及び第2の部分23の各々は、円柱状を有する。各貫通孔21の形状は、これに限定されず、粉末を収容可能な任意の形状であることができる。各貫通孔21は、粉状の試料Sがポケット13へ落下する(詳しくは後述)ことを促進するために、下向きに細くなる形状を有していてもよい(不図示)。
【0025】
蓋3は、例えば長方形の平板形状を有する。例えば、蓋3の上面及び下面は、プレート10の上面及び下面以上のサイズを有していてもよい。蓋3の上面及び下面は、複数のポケット13及び複数の貫通孔21を同時に塞ぐことができる限りにおいて、プレート10の上面及び下面よりも小さくてもよい。蓋3の形状は、これに限定されず、複数のポケット13及び複数の貫通孔21を同時に塞ぐ任意の形状であることができる。蓋3は、測定の際にプレート10と計量部材2との間に配置される。プレート10(容器12)、シール部材11、計量部材2および蓋3の各々は、酸(硝酸)およびアルカリ(コンクリート)に対して耐性を有する材料で作成されることができ、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデンまたはポリプロピレン等のプラスチックで作成されることができる。
【0026】
[試薬L]
以下にて、試薬Lについて詳細に説明する。
【0027】
上記のように、本実施形態では、キット100は、試薬Lとして硝酸銀溶液を用いて、粉状のコンクリート中の塩化物イオンの濃度を測定する。一般的に、コンクリートは、塩化物イオンCl及び水酸化物イオンOHを含み得る。硝酸銀溶液AgNOに粉状のコンクリートが加えられると、コンクリート中の塩化物イオンCl及び水酸化物イオンOHに起因して、以下の式(1)及び式(2)で示される反応が起こる。
AgNO+Cl → AgCl+NO ・・・(1)
2AgNO+2OH → AgO+HO+2NO ・・・(2)
【0028】
塩化銀AgClは白色であり、酸化銀AgOは褐色である。反応(1)は、反応(2)よりも優先される。したがって、試料S中の全ての塩化物イオンClが反応(1)で使用されるまで、反応(2)は生じない。言い換えると、褐色の酸化銀AgOが生じた場合、それは、全ての塩化物イオンClが反応(1)で使用されたことを意味する。したがって、塩化物イオンClの濃度は、一組の容器12中の硝酸銀溶液の色の変化に基づいて推定することができる。
【0029】
図5は、変色した試薬Lを示す概略的な平面図である。本実施形態では、各容器12のポケット13は、5mL(=5×10-3(L))の硝酸銀溶液を収容し、各容器12のポケット13に対して、1(mL)(=1(cm)=1×10-6(m))の粉状のコンクリートが加えられる(すなわち、計量部材2の各貫通孔21が、1(mL)の容量を有する)。なお、これらの数値は例示に過ぎず、適宜変更可能である。
【0030】
先ず、図5において最も右側の容器12a中の試薬Lによって検出可能な塩化物イオンの濃度について説明する。上記の式(1)に示されるように、1モルの塩化物イオンClに対して、1モルの銀イオンAgが反応する。塩化物イオンの分子量は、35.5である。例えば、容器12a中の試薬Lが、0.01(mol/L)の硝酸銀の濃度を有する場合、容器12a中の試薬Lは、以下の式(3)で示される重さの塩化物イオンを検出することができる。
0.01(mol/L)×5×10-3(L)×35.5=1.8×10-3(g)
=1.8×10-6(kg)
・・・(3)
【0031】
上記のように、各容器12のポケット13に対して1(mL)(=1(cm)=1×10-6(m))の粉状のコンクリートが加えられるため、容器12a中の試薬Lによって検出可能な塩化物イオンの濃度は、以下の式(4)で示される。
1.8×10-6(kg)/1×10-6(m)=1.8(kg/m
・・・(4)
【0032】
容器12aは、ポケット13aの近傍に、上記の式(4)から算出される、容器12a中の試薬Lによって検出可能な塩化物イオンの濃度を示すマーク14aを有する(例えば、1.8)。
【0033】
他の容器12b,12,12c,12d,12e中の試薬Lによって検出可能な塩化物イオンの濃度についても、同様に説明する。例えば、容器12b,12c,12d,12e中の試薬Lが、それぞれ、0.02,0.03,0.04,0.05(mol/L)の硝酸銀の濃度を有する場合、容器12b,12c,12d,12e中の試薬Lによって検出可能な塩化物イオンの濃度は、上記の式(3)及び式(4)から、それぞれ、3.6,5.3,7.1,8.9(kg/m)と算出される。容器12b,12c,12d,12eは、それぞれポケット13b,13c,13d,13eの近傍に、それぞれ容器12b,12c,12d,12e中の硝酸銀溶液によって検出可能な塩化物イオンの濃度を示すマーク14b,14c,14d,14eを有する(例えば、3.6,5.3,7.1,8.9)。
【0034】
マーク14a,14b,14c,14d,14eは、例えば、数値であることができる。代替的に、マーク14a,14b,14c,14d,14eは、数値が予め割り当てられた記号であってもよい。
【0035】
上記のように、塩化物イオンの濃度は、一組の容器12中の硝酸銀溶液の色の変化に基づいて推定することができる。図5の例では、容器12e,12d,12c中の試薬Lが褐色に変化している(すなわち、試薬Lが酸化銀AgOを含む)。これらのうち、最も低い硝酸銀の濃度の試薬Lを有する容器12は、容器12cである。容器12b,12a中の試薬Lは褐色に変化していない(すなわち、試薬Lが酸化銀AgOを含んでいない)。これらのうち、最も高い硝酸銀の濃度の試薬Lを有する容器12は、容器12bである。
【0036】
容器12c中の試薬Lは褐色に変化していることから、容器12c中の試薬Lでは、全ての塩化物イオンClが反応(1)で使用されている一方で、容器12b中の試薬Lは褐色に変化していないことから、容器12b中の試薬Lでは、一部の塩化物イオンClが反応(1)で使用されていない。したがって、試料S中の塩化物イオンの濃度は、マーク14cが示す「5.3(kg/m)」と、マーク14bが示す「3.6(kg/m)」と、の間の値である。しかしながら、コンクリートの劣化を評価する場合には、塩化物イオンの濃度を高めに見積もる方がより安全である。したがって、図5の例では、塩化物イオンの濃度は、5.3(kg/m)と測定されてもよい。このように、複数の試薬Lが、褐色に変化した1つ又は複数の試薬Lと、褐色に変化しなかった1つ又は複数の試薬Lと、の双方を含む場合、塩化物イオンの濃度は、褐色に変化した1つ又は複数の試薬Lのうち、最も低い濃度の試薬Lによって検出可能な濃度と測定されてもよい。
【0037】
全ての試薬Lが褐色に変化する場合、塩化物イオンの濃度は、最も低い濃度の試薬Lを有する容器12aによって検出可能な濃度以下である(図5の例では、1.8(kg/m)以下の値)。したがって、この場合、塩化物イオンの濃度は、1.8(kg/m)以下と測定されてもよい。全ての試薬Lが褐色に変化しない場合、塩化物イオンの濃度は、最も高い濃度の試薬Lを有する容器12eによって検出可能な濃度よりも高い(図5の例では、8.9(kg/m)よりも高い値)。したがって、この場合、塩化物イオンの濃度は、8.9(kg/m)超と測定されてもよい。
【0038】
[濃度測定方法]
以下にて、濃度測定方法について詳細に説明する。
【0039】
図6は、実施形態に係る方法を示すフローチャートである。先ず、異なる濃度の複数の液体状の試薬Lを準備する(ステップS100)。本実施形態では、上記のキット100を準備する。
【0040】
続いて、粉状の試料Sを準備する(ステップS102)。例えば、粉状のコンクリートは、保守ターゲットのコンクリート構造物からグラインダ又はドリル等の工具によって入手可能である。例えば、コンクリート構造物の表面からの試料Sは、グラインダによって入手可能である。また、コンクリート構造物の内部からの試料Sは、ドリルによって入手可能である。計量部材2の全ての貫通孔21を充填するのに十分な量のコンクリートを得てもよい。代替的に、例えば、コンクリート中の塩化物イオンの濃度が事前に予測可能である場合には、少なくとも2つの貫通孔21を充填するのに十分な量のコンクリートを得てもよい。グラインダ又はドリルによって粉状のコンクリートを入手する場合、コンクリート構造物から除去されるコンクリートの量はコアよりも少ない(例えば、ドリル孔の直径は1cm程度、コアの直径は10cm程度)。したがって、グラインダ又はドリルによって粉状のコンクリートを入手することは、コンクリート構造物からコアを入手することに比較して、コンクリート構造物を傷つけない。粉状のコンクリートは、例えば、1μm~100μm程度のサイズを有するが、これらに限定されない。
【0041】
続いて、容器12を開ける(ステップS104)。試料Sを全ての試薬Lに加える場合、全ての容器12を開ける。代替的に、試料Sをいくつかの試薬Lのみに加える場合、該当する容器12(少なくとも2つの容器12)のみを開けてもよい。
【0042】
続いて、液体状の試薬Lの各々に規定量の試料Sを加える(ステップS106)。図3を参照して、本実施形態では、先ず、プレート10の上に蓋3を配置し、蓋3の上に計量部材2を配置する。複数の貫通孔21が複数のポケット13に対向するように、計量部材2をプレート10に対して位置決めする。計量部材2をプレート10に対して容易に位置決めできるように、計量部材2を位置決めするための溝が蓋3の上面に設けられてもよく、プレート10を位置決めするための溝が蓋3の下面に設けられてもよい(不図示)。続いて、開けられた容器12のポケット13に対向する貫通孔21に試料Sを入れる。例えば、試料Sは、スプーン4によって貫通孔21に入れられてもよく、試料Sの上面が計量部材2の上面と面一になるように、余剰の試料Sがスプーン4によって除去されてもよい。このような作業によって、規定量の試料Sを貫通孔21に入れることができる。続いて、蓋3をプレート10と計量部材2との間から取り除く。試料Sが各ポケット13の中に落下する。上記のように、蓋3の上面及び下面に位置決めのための溝を設ける場合、蓋3をプレート10と計量部材2との間からスライド式に取り除けるように、溝は側方に開口していてもよい。以上の作業によって、液体状の試薬Lの各々に規定量の試料Sが加えられる。
【0043】
図6を参照して、続いて、試薬Lを振る(ステップS108)。本実施形態では、蓋3でプレート10を閉じて、プレート10を振る。続いて、試料Sが加えられた容器12中の試薬Lの変化に基づいて、試料S中の成分の濃度を測定する(ステップS110)。本実施形態では、上記のように、粉状のコンクリートが加えられた容器12中の硝酸銀溶液の色の変化に基づいて、粉状のコンクリート中の塩化物イオンの濃度を測定する。
【0044】
以上のような実施形態に係るキット100は、異なる濃度の一組の液体状の試薬Lと、一組の液体状の試薬Lを収容する一組のシールされた容器12と、を備える。また、上記の実施形態の方法は、異なる濃度の複数の液体状の試薬Lを準備する工程と、粉状の試料Sを準備する工程と、複数の液体状の試薬Lの各々に規定量の粉状の試料Sを加える工程と、複数の液体状の試薬Lの変化に基づいて、粉状の試料S中の特定の成分の濃度を測定する工程と、を含む。これらのキット100及び方法によれば、試料Sを含む溶液を予め準備することなく、粉状の試料Sを試薬Lに加えるだけで、試料S中の特定の成分の濃度を測定することが可能である。したがって、試料Sを含む溶液を予め準備する必要を省いて作業者の負担を低減することができる。また、キット100では、容器12はシール部材11によって塞がれる。したがって、使用前に試薬Lが容器12からこぼれることを防ぐことができる。よって、キット100は、優れた携帯性を有する。
【0045】
上記の実施形態のキット100では、一組のシールされた容器12は、一体型である(プレート10)。したがって、キット100は、優れた携帯性を有する。
【0046】
上記の実施形態のキット100は、一組のシールされた容器12の複数のポケット13に対向して配置され、各々が所定の容量を有する複数の貫通孔21を含む、計量部材2を備える。したがって、単に貫通孔21に試料Sを入れるだけで、規定量の試料Sを容易に準備することができる。
【0047】
上記の実施形態のキット100は、複数のポケット13及び複数の貫通孔21を塞ぐ蓋3を備える。したがって、計量部材2の貫通孔21に試料Sを入れる際に、規定量の試料Sが貫通孔21に溜まる前に、試料Sが貫通孔21から落下することを蓋3で防ぐことができる。よって、規定量の試料Sを正確に準備することができる。また、試薬Lを振る際に、蓋3で容器12を閉じることができる。
【0048】
上記の実施形態のキット100では、複数のポケット13は、同量の試薬Lを収容し、かつ、複数の貫通孔21は、同じ容量を有する。複数のポケット13が異なる量の試薬Lを収容し、複数の貫通孔21が異なる容量を有する場合、ポケット13及び貫通孔21の組み合わせを間違えると、規定量と異なる量の試料Sが試薬Lに誤って加えられる。上記の実施形態では、複数のポケット13は同量の試薬Lを収容し、複数の貫通孔21は同じ容量を有するため、ポケット13及び貫通孔21の組み合わせを間違えても、規定量と異なる量の試料Sを試薬Lに誤って加えることを防ぐことができる。
【0049】
上記の実施形態のキット100では、各容器12は、当該容器12中の試薬Lによって検出可能な濃度を示すマーク14を有する。したがって、測定された大凡の濃度を容易に知ることができる。
【0050】
上記の実施形態のキット100では、複数の液体状の試薬Lは、硝酸銀溶液である。したがって、試料S中の塩化物イオンの濃度を測定することができる。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範囲において、様々な変更又は修正を想到し得ることは明らかであり、それらについても本開示の技術的範囲に属すると理解される。また、上記実施形態の方法の工程は、上記の順番で実施されなくてもよく、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、異なる順番で実施されてもよい。
【0052】
例えば、上記の実施形態のキット100は、コンクリート中の塩化物イオンの濃度を測定するとして説明されている。しかしながら、キット100は、コンクリート以外の他の試料中の塩化物イオンの濃度を測定するために使用されてもよい。
【0053】
上記の実施形態のキット100は、塩化物イオンの濃度を測定するために、試薬Lとして硝酸銀溶液を含む。代替的に、キット100は、塩化物イオン以外の他の成分の濃度を測定するように構成されていてもよい。例えば、キット100は、試薬Lとして、異なる濃度の複数の酸塩基指示薬(例えば、フェノールフタレイン溶液)を含んでもよい。この場合、例えば、キット100は、コンクリート中の水酸化カルシウムの濃度を測定することができる。言い換えると、キット100は、コンクリートの中性化の程度を判定することができる。例えば、フェノールフタレイン溶液は、pHが8以下であると透明であり、pHが8程度であるとピンクに変わり、pHが9程度であると赤に変わり、pHが10程度以上であると赤紫に変わる。したがって、キット100は、コンクリートの中性化の程度を測定するために、例えば、1%、0.1%、0.01%および0.001%のように、桁違いの異なる濃度を有する一組のフェノールフタレイン溶液を試薬Lとして含んでもよい。
【0054】
上記の実施形態のキット100では、一組のシールされた容器12は、一体型である。しかしながら、一組のシールされた容器12は、別個の部材であってもよい。この場合、各容器12に対して、シール部材11が設けられる。この場合、例えば、一部の試薬Lのみを使用するときに、残りの試薬Lを取っておくことができるので、便利である。
【0055】
上記の実施形態のキット100は、計量部材2を備える。しかしながら、キット100は、計量部材2を備えてなくてもよい。この場合、粉状のコンクリートは、例えば、計量スプーン等の量器によって、各容器12に個別に加えられてもよい。
【0056】
上記の実施形態のキット100は、蓋3を備える。しかしながら、キット100は、蓋3を備えてなくてもよい。この場合、作業者は、例えば、蓋3に代えて、平板を別途準備してもよい。
【0057】
上記の実施形態のキット100では、複数のポケット13は、同量の試薬Lを収容する。しかしながら、複数のポケット13は、予め定められた異なる量の試薬Lを収容してもよい。この場合、各ポケット13に加えるべき試料Sの量を予め算出し、算出した量の試料Sを対応するポケット13に加えることによって、上記の実施形態と同様の測定を行うことができる。例えば、計量部材2の各貫通孔21が、対応するポケット13に応じた容量を有していてもよい。
【0058】
上記の実施形態のキット100では、各容器12は、マーク14を有する。しかしながら、各容器12は、マーク14を有していなくてもよい。この場合、キット100は、各容器12中の試薬Lによって検出可能な成分の濃度を示す説明書を備えてもよい。
【0059】
上記の実施形態の方法では、ステップS100において、キット100を準備する。代替的に、ステップS100において、キット100とは別に、異なる濃度の複数の液体状の試薬Lを準備してもよい。例えば、予め規定された濃度を有する試薬Lを、量器に注いでもよい。この場合、例えば、ステップS104は必須ではない。
【符号の説明】
【0060】
2 計量部材
3 蓋
12,12a~12e 容器
13,13a~13e ポケット
14,14a~14e マーク
21 貫通孔
100 キット
L 試薬
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6